説明

壁の遮音構造

【課題】支持材を介して取り付けられた内装ボードを有する壁の内装ボードに生じる屈曲波の伝搬を阻害せず、遮音性能が確保される壁の遮音構造を提供する。
【解決手段】コンクリート壁体2に取り付けられた支持材5に内装ボード6が支持される壁1の遮音構造であって、支持材5は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、支持材5による支持位置における内装ボード6の面外変位を許容するために、支持材5の一方の側端部がコンクリート壁体2に固定され、他方の側端部が内装ボード6に固定されて内装ボード6が支持材5を介してコンクリート壁体2に支持されると共に、複数本の支持材5が、コンクリート壁体2に所定間隔で並設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート壁などの下地に支持材を介して取り付けられた内装ボードを有する壁の遮音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートやALC等の下地壁に仕上げを施すために、下地壁面に接着材で石膏ボートなどの内装ボードを貼り付けて仕上げ面を形成する直貼り工法が用いられることがある。直貼り工法では、下地壁面に大まかなピッチで団子状に接着材を塗布し、その各接着材に内装ボードを圧着し、内装ボードを接着材と面接着して、下地壁面に内装ボードを取り付けている。直貼り工法で構築された壁は、下地壁面と内装ボードとの間に隙間が存在し、内装ボードは振動可能な状態で取り付けられる。このため、壁の遮音性能を確保するためには、この内装ボードの振動を考慮する必要がある。一般に壁の遮音性能を考える上で、低中音域(オクターブバンド250Hz帯域近辺)での共鳴、高音域(オクターブバンドで2000Hzから4000Hz帯域近辺)でのコインシデンス効果による内装ボードの振動が問題となり、従来の直貼り工法による壁に対する遮音性を向上させるための技術は、共鳴やコインシデンス効果による、低中音域、高音域での遮音性の低下を改善することに主眼がおかれている。特許文献1には、連続線分形状配置した線分接着部により内装ボードと躯体壁を貼着することで内装ボードの振動を抑制して高音域の遮音性の低下を防止しするとともに、接着材を合成樹脂を含む弾性接着材とすることにより低音域で内装ボードへの振動の伝搬を遮断し、遮音性の低下を防止する技術が示されている。
【特許文献1】特開2002−121879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一方、コインシデンス周波数以下の周波数帯域では、内装ボードに生じる屈曲波の伝搬速度は、空気中の音速よりも遅いため図1の模式図に示すように、理論的には、それぞれ隣り合う波が干渉されることにより音の放射は生じないが、波に対する拘束部材があると干渉すべき波が存在しなくなり、この部分からの音が放射される。図1において20は内装ボード、21は拘束部材、22は干渉により音が生じない波部分を示し、23は音が放射する波部分を模式的に示している。
【0004】
一般的に、内装ボードは有限の大きさであり、壁の周囲には拘束部材が存在する。また、壁としての形態を保持するためには、支持材により内装ボードを支持する必要がある。このため、内装ボードの支持状況によっては屈曲波の伝搬が阻害され、前述の干渉による音の放射を防止する効果が得られなくなり、放射により音が発生してしまう。特に、拘束力の高い支持材の場合には、1次モードの定在波が生じやすく、音が放射しやすい状況となり遮音性能が低下することが多い。
【0005】
したがって、直貼り工法のように下地壁と内装ボードとが強固に面で連結し、内装ボードの面外方向の自由度が拘束されるような壁については、この影響が大きく現れることになり、その壁のコインシデンス周波数以下の周波数の音に対しても遮音性能が確保されないことが多い。これは、接着材による内装ボードの固定度が強く、接着面により島状、帯び状に内装ボードの面外方向の変位の自由度が拘束するため、屈曲波の伝搬が支持間隔を基本としたモードの形態となり、遮音性能が向上しないためと考えられる。
【0006】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、支持材を介して取り付けられた内装ボードを有する壁の内装ボードに生じる屈曲波の伝搬を阻害せず遮音性能が確保される壁の遮音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる壁の遮音構造は、コンクリート壁体に取り付けられた支持材に内装ボードが支持される壁の遮音構造であって、上記支持材は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、上記支持材による支持位置における上記内装ボードの面外変位を許容するために、該支持材の一方の側端部が上記コンクリート壁体に固定され、他方の側端部が該内装ボードに固定されて当該内装ボードが該支持材を介して該コンクリート壁体に支持されると共に、複数本の上記支持材が、上記コンクリート壁体に所定間隔で並設されることを特徴とする。
【0008】
コンクリート壁体に接着材により下地ボードが直貼り工法で貼着され、該下地ボードに取り付けられた支持材に内装ボードが支持される壁の遮音構造であって、上記支持材は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、上記支持材による支持位置における上記内装ボードの面外変位を許容するために、該支持材の一方の側端部が上記下地ボードに固定され、他方の側端部が該内装ボードに固定されて当該内装ボードが該支持材を介して該下地ボードに支持されると共に、複数本の上記支持材が、上記下地ボードに所定間隔で並設されることを特徴とする。
【0009】
前記下地ボードに補助材が取り付けられ、前記支持材は、その一方の側端部が該補助材に固定されて、該下地ボードに間接的に取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる壁の遮音構造にあっては、支持材を介して取り付けられた内装ボードを有する壁の内装ボードに生じる屈曲波の伝搬を阻害せず、遮音性能を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる壁の遮音構造の好適な第一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の壁の遮音構造は、図2から図5に示すように、コンクリート壁体2に接着材3により下地ボード4が直貼り工法で貼着され、下地ボード4に取り付けられた支持材5に内装ボード6が支持される壁1の遮音構造であって、支持材5は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、支持材5による支持位置における内装ボード6の面外変位を許容するために、支持材5の一方の側端部が下地ボード4に固定され、他方の側端部が内装ボード6に固定されて内装ボード6が支持材5を介して下地ボード4に支持されると共に、複数本の支持材5が、下地ボード4に所定間隔で並設される。さらに、下地ボード4に補助材7が取り付けられ、支持材5は、その一方の側端部が補助材7に固定されて、下地ボード4に間接的に取り付けられる。
【0012】
本実施形態における、コンクリート壁体2は厚さ115mmの鉄筋コンクリート製の壁(以下「RC壁」)である。コンクリート壁体2はコンクリート材料で構築された、建築物の壁を意味し、RC壁に限定されるものではなく、ALC壁やコンクリートブロック壁等であっても良い。コンクリート壁体2の一方側の面には、下地ボード4が直貼り工法で貼着されている。本実施形態における直貼り工法は、コンクリートなどの下地壁面に接着材により板材を直接貼り付ける工法を意味する。本実施形態における下地ボード4は厚さ9.5mm程度の石膏ボードが複数配置されて構成される。下地ボード4は、石膏ボードに限定されるものではなく、直貼り工法に適用されるものであれば良い。下地ボード4は、コンクリート壁体2の表面に200mmから300mm間隔で厚さ20mm程度の団子状に塗布された接着材3に押しつけて接着し、コンクリート壁体2に取り付けられている。接着材3は、下地ボード4とコンクリート壁体2を接着する機能を有し、細骨材と水を練り混ぜた広義のモルタルや、一般にモルタルと言われるセメントモルタルのほか、石膏系接着材なども含む。本実施形態における接着材3はセメントモルタルで構成されている。本実施形態において接着材3は、コンクリート壁体2に団子状に塗布したが、複数の分割された線分状に塗布したり、連続した線状に塗布してもよい。接着材3と接着していない下地ボード4の部分とコンクリート壁体2の面との間には空気層が形成される。
【0013】
下地ボード4には、補助材7が取り付けられる。補助材7を取り付ける下地ボード4の面には塗装や壁紙等が施されていてもよい。本実施形態における補助材7は厚さ12mm程度の、長方形断面を有する木製の棒状部材であり、上下方向に適宜間隔を設けてほぼ水平に複数本取り付けられる。補助材7は、下地ボード4の接着材3と接着している部分で、その表面から固定ビス10を接着材3まで貫通させて下地ボード4に複数固定される。固定方法は固定ビス10には限定されず、接着材等を用いても良い。補助材7は、接着材3部分で下地ボード4に固定されることにより、コンクリート壁体2と連続的に形成され、補助材7の取付が安定し強度も確保される。
【0014】
本実施形態の各補助材7には、支持材5が取り付けられている。支持材5は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げられて形成された帯状の弾性部材である。本実施形態の支持材5は細長長方形の鋼板が折り曲げ加工されて帯状に成形される。具体的には、支持材5の長さ方向の両側端部は、細長長方形の鋼板材の各長辺方向端面から一定幅の短冊状部分が、互いに逆方向へ平行に折り曲げられて形成される。本実施形態において、一方の側端部、すなわち鋼板材の両短冊状部分の一方を第一取付部5aといい、他方を第二取付部5bという。本実施形態において「逆方向に折り曲げられ」は、支持材5両側の短冊状部分が平行となるよう、それぞれ90°以外の等しい折り曲げ角度で加工された状態をいう。本実施形態における、支持材5の長さ方向の両側端部それぞれの折り曲げ加工の角度は90°より小さく、かつ等しく設定され、第一、第二取付部5a、5bに挟まれた鋼板材中央の平板部分は、第一、第二取付部5a、5bの端部同士と斜め方向で連結する部分(以下「連結部5c」という)を形成する。したがって、本実施形態における支持材5の短辺方向の断面形状は、斜め向きの連結部5cの両端から反対側へ第一、第二取付部5a、5bを延出させた形態に形成される。本実施形態における連結部5cは屈曲部のない平板であるため、第一取付部5aの長辺側端面と第二取付部5bの長辺側端面は逆方向を向く。
【0015】
連結部5cの各端部が第一、第二取付部5bの端部と斜め方向で連結(連続)する形状であるため、支持材5の第一又は第二取付部5bの面に垂直な力が加わると、連結部5cに曲げモーメントが働いて連結部5cが弾性変形する。また、第一、第二取付部5a、5bは、その一方の端が自由端であり、他方は折り曲げ部となって連結部5cへ連結されるため、折り曲げ部を中心とした回転方向の変形が可能となっている。このように連結部5cが弾性変形可能であることで、支持材5は弾性部材として形成される。
【0016】
本実施形態において、第一取付部5aより第二取付部5bの方が幅広に形成され、第一取付部5aは連結部5cより幅広に形成されている。連結部5cには、弾性変形を容易にし、支持材5の軽量化を図るために、等間隔で開口部5dが設けられている。支持材5の幅、すなわち第一取付部5aと第二取付部5bとの外側の距離は12mm程度に設定されている。本実施形態における、支持材5は、上記形態に限定されるものではない。第一取付部5aと第二取付部5bを、それぞれ90°よりも大きい曲げ角度で相互に平行に加工して、支持材5の短辺方向の断面形状を略Z字状に形成してもよい(図6(a)参照)。また連結部5cに屈曲部を設けてバネを形成し、、第一取付部5aと第二取付部5bと対向位置で連結する形態でも良い。この場合、第一取付部5aと連結部5cの連結角度及び第二取付部5bと連結部5cの連結角度を90°としてもよい。第一取付部5aの長辺側端面と第二取付部5bの長辺側端面は同一方向を向く(図6(b)参照)。これらの形状の支持材5における第一取付部5a、第二取付部5b、連結部5cの作用は前述の支持材5の場合と同様である。
【0017】
支持材5は、一方の側端部が下地ボード4に固定され、他方の側端部が内装ボード6に固定される。支持材5は第一取付部5aの面全体で下地ボード4に密着して固定することが好ましい。本実施形態における支持材5は、下地ボード4に固定された補助材7を介して下地ボード4に間接的に固定され、第一取付部5aに設けた第一取付ビス11により、第一取付部5aの面全体が補助材7に固定される(図3の5xは第一取付ビス11の位置を示す)。なお、取り付け方法は取付ビスに限定されず、第一取付部5aをその面全体で補助材7に固定できるものであれば、接着材等を用いても良い。支持材5が、補助材7に取り付けられることより、下地ボード4下に接着材3が存在しない下地ボード4の部分にも支持材5を堅固に固定することが可能となる。本実施形態の支持材5は第二取付部5bを第一取付部5aより上側に位置させて補助材7に取り付けられる。補助材7の取り付け位置や間隔は、支持材5の取り付け位置、間隔により設定される。補助材7を用いることにより、支持材5を、下地ボード4下の接着材3の位置に合わせなくても強固に固定することが可能となり、支持材5の取り付け間隔を自由に設定できる。
【0018】
支持材5の第二取付部5bには内装ボード6が取り付けられる。これにより、内装ボード6が支持材5を介して下地ボード4に支持される。支持材5は、第二取付部5bの面全体で内装ボード6に密着して固定されてることが好ましい。本実施形態では、第二取付部5bに設けられた第二取付ビス12により、第二取付部5bの面全体で内装ボード6に固定されている(図3の5yは第二取付ビス12の位置を示す)。本実施形態における内装ボード6は複数の厚さ9.5mmの石膏ボードが配置されて構成され、その表面から第二取付ビス12により第二取付部5bに固定されている。また、本実施形態では第二取付部5bは第一取付部5aより幅広であるため広い面で、第二取付部5bと内装ボード6を固定できる。ただし、取り付け方法は取付ビスに限定されず、第二取付部5bがその面全体で内装ボード6に固定できるものであれば、接着材等を用いても良い。内装ボード6の表面には最終的に室内の仕上げ、例えば壁紙やクロス下地や塗装等が施される。第二取付部5bは幅広に形成されているため、二枚の石膏ボードの両接続端面を載置して、それぞれを第二取付ビス12により一つの第二取付部5bに取り付けることができ、石膏ボードを接続端部でも容易に弾性支持できる。内装ボード6を構成するものは、石膏ボードに限定されるものではなく、支持材5に支持されて壁面を形成すればよく、仕上げ材の有無や、材質、厚さ等も限定されない。例えば、化粧合板や化粧石膏ボード、板材、合板などでもよい。また、支持材5は12mmの幅があるため、コンクリート壁体2に貼着された下地ボード4と内装ボード6との間には、12mmの空気層が形成される。空気層の部分には吸音材8を充填してもよい。具体例として、吸音材8として25mmのグラスウール(42K)を圧縮して充填した壁1の断面図を図7に示す。
【0019】
第二取付部5bは、その幅広面全体で内装ボード6に接して固定されるため、比較的脆弱な内装支持板6に対しても十分な強度を確保して支持でき、その変位を確実に受けて連結部5cに伝えることが出来る。これにより内装ボード6の変位は、支持材5の第二取付部5bから連結部5cを介して連結部5cへ伝達され、連結部5cが変形し、その変位を可能に支持材5に取り付けられる。
【0020】
支持材5は、下地ボード4に所定間隔で複数本が並設される。「並設」は帯状の支持材5を一定方向に並べて配置することであり、本実施形態における支持材5は、下地ボード4に対して上下方向に所定間隔で水平に取り付けられる。支持材5を上下方向に所定間隔で水平方向に設けることにより、内装ボード6を確実に支持することが出来る。また、本実施形態では、コンクリート壁体2の下地ボード4は石膏ボードを縦長に貼り付けて形成するため、下地ボード4には上下方向の曲げ変形が発生し易い。これに加えて、支持材5が上下方向で平行に複数本配置することで、内装ボード6の横方向のねじれはより確実に拘束され、内装ボード6の曲げ変形(屈曲波)は内装ボード6の上下方向で、より発生しやすくなり、支持材5の並設方向及び支持材5の弾性変形の方向に一致し、支持材5の弾性支持の効果を確実に発揮される。また、補助材7を用いることで、下地ボード4に対する支持材5の所定間隔や設置本数を、接着材3の位置に制約されずに決めることが出来、支持材5の弾性支持の効果を確実に発揮させることができる。本実施形態では、支持材5を上下方向に所定間隔で水平方向に取り付けたが、内装ボード6に生じる屈曲波の方向を考慮して取り付ければよく、支持材5を並設する方向は上下方向に限定されるものではない。
【0021】
以上説明した本実施形態にかかる壁1の遮音構造の作用について説明する。まず本実施形態の壁1の施工について説明する。コンクリート壁体2を、コンクリートを打設してRC壁として構築し、その表面に適宜間隔で接着材3を塗布する。接着材3が固化する前に、下地ボード4(石膏ボート)の板材を接着材3に押しつけて接着し、コンクリート壁体2に下地ボード4を貼着する。接着材3の固化後、下地ボード4に対し上下方向に所定間隔で、ほぼ水平に補助材7を取り付ける。その後、補助材7の表面に、第一取付ビス11により第一取付部5aを固定して支持材5を取り付ける。下地ボード4に間接的に取り付けられた支持材5の第二取付部5bに密着させて、内装ボード6を、その表面から第二取付部5bへ貫通させた第二取付ビス12により支持材5に固定する。
【0022】
次に、本実施形態にかかる壁1の遮音構造の機能について説明する。本実施形態の遮音構造を有する壁に音が入射した場合、内装ボード6には屈曲波が生じる。入射する音の周波数がコインシデンス周波数や共鳴が発生する周波数の場合、内装仕上げ面は大きく振動し遮音性が減少する。ここで、コインシデンス周波数は下記の数1の式で予め予測される。
【0023】

【数1】

【0024】
数1の式において、fcはコインシデンス周波数(Hz)、cは空気中の音速(m/s)、tは板厚(m)、CL=(E/ρ)1/2、CLは縦波伝搬速度(m/S)、Eはヤング率(N/m2)、ρは密度(kg/m3)を表す。この式において、内装ボード6に厚さ9.5mmの石膏ボードを用いた場合のコインシデンス周波数は4460Hzとなる。
【0025】
また、共鳴透過を生じる周波数は下記の数2の式で予め予測できる。
【0026】

【数2】

【0027】
数2の式において、frmdは共鳴透過が生じる周波数(Hz)、m1は壁面1の単位面積あたりの質量(kg/m2)、m2は壁面2の単位面積あたりの質量(kg/m2)、ρは空気密度(kg/m3)、cは空気中の音速(m/s)、dは壁面1と壁面2の間隔(m)を表す。この式において、本実施形態における壁すなわち、RC壁に直貼り石膏ボートと支持材5支持した内装ボード6(石膏ボード)を施した壁の、共鳴透過現象が生じる周波数は196Hzとなる。
【0028】
コインシデンス周波数より小さい場合には、内装ボード6には屈曲波が発生し伝搬する。本実施形態における内装ボード6に発生した屈曲波は、支持材5による支持位置においても伝搬が阻害されない。すなわち、連結部5cの第二取付部5bとの接続位置(折り曲げ加工位置)を中心に回転するように連結部5cが弾性変形するため、内装ボード6は面外変位が許容される。すなわち、内装ボード6は第二取付部5bの折り曲げ加工位置を挟んで逆位相の変位を許容され、支持材5に弾性支持された内装ボード6に発生した屈曲波は阻害されることなく伝搬され、隣り合う波同士の干渉により音の放射が確実に抑制される。また、内装ボード6の支持材5による支持位置において、内装ボード6は、支持材5の変形により壁1面の前後方向でも変位可能であるため、多様な周波数の屈曲波に対してもその伝搬を阻害することが少なくなる。これらの作用により、内装ボード6に生じる屈曲波は、内装ボード6全面にわたり、定在波の発生が抑制されて、それぞれ隣り合う波が干渉され、音の放射が減少し壁1の遮音性能が確保される。
【0029】
本実施形態における壁1の音響透過損失の実測結果を図9に示す。図9において「RC115mm」は、厚さ115mmのRC壁で形成された単独の壁を示し、その実測値は黒丸印で表示する。「RC115+GL」は、厚さ115mmのRC壁の片側のみに接着材3で9.5mmの石膏ボード(下地ボード4)を貼着した壁を示し、その実測値は白菱形印で表示する。「RC115+GL+対策壁」は、本実施形態における壁を示し、前記「RC115+GL」に、「対策壁」すなわち補助材7に取り付けた支持材5に内装ボード6として厚さ9.5mmの石膏ボードを付加した壁を示し、その実測値は白三角印で表示する。「RC115+GL+対策壁(GW充填)」は、「RC115+GL+対策壁」の壁にさらに、内装ボード6と下地ボード4との間に吸音材8として厚さ25mmのグラスウール(48K)を圧縮して充填した壁(図7参照)を示し、その実測値は×印で表示する。
【0030】
図9において、コンクリート壁体2(RC壁)に接着材3により下地ボード4が直貼り工法で貼着された壁(「RC115+GL」「RC115+GL+対策壁」「RC115+GL+対策壁(GW充填)」)は、いずれもコインシデンス周波数付近の周波数及び低周波数帯域での低下が著しい。これに本実施形態における壁すなわち、「RC115+GL+対策壁」(上下シール無し)の結果は、中高音域の性能が大きく改善されており、コインシデンス周波数以下の周波数帯域での音の放射が低下したことを示している。「RC115+GL+対策壁(GW充填)」の壁では、同様にコインシデンス周波数以下の周波数帯で更なる遮音性の改善が見られる。
【0031】
また、本実施形態におけるコンクリート壁体2を厚さ100mm厚のALC壁とした場合の、音響透過損失の実測結果を図10に示す。図10において「ALC100mm」は、厚さ100mmのALC壁を示し、その実測値は黒丸印で表示する。「ALC100+GL」、「ALC100+GL+対策壁」、「ALC100+GL+対策壁(GW充填)」、は「ALC100mm」に対する、前述の図9における実施形態の場合と同様の付加壁の構造を示し、それぞれの実測値は順に、白菱形印、白三角印、×印で表示する。
【0032】
図10において、「ALC100+GL+対策壁」に、「対策壁」すなわち補助材7に取り付けた支持材5に内装ボード6として厚さ9.5mmの石膏ボードを付加したことによる改善効果が見られた。「ALC100+GL+対策壁(GW充填)」の壁ではコインシデンス周波数以下の周波数帯で更なる遮音性の改善が見られた。
【0033】
以上説明したように、本実施形態にかかる壁1の遮音構造にあっては、コンクリート壁体2に接着材3により下地ボード4が直貼り工法で貼着され、下地ボード4に取り付けられた支持材5に内装ボード6が支持され、支持材5は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、支持材5による支持位置における内装ボード6の面外変位を許容するために、支持材5の一方の側端部が下地ボード4に固定され、他方の側端部が内装ボード6に固定されて内装ボード6が支持材5を介して下地ボード4に支持されると共に、複数本の支持材5が、下地ボード4に所定間隔で並設されたため、支持材5の支持位置における内装ボード6の屈曲波の伝搬が妨げられることが減少して、音の放射を減少させ壁1の遮音性能を向上させることができる。また、既に下地ボード4を施工した壁に対し、新たに内装ボード6を支持材5で支持して設けることで、遮音性の向上を容易に行うことができ、さらに、水を使用せずに支持材5で内装ボード6を取り付ける乾式工法であるため、接着材3等を使用する工法に比べ室内を汚すことが少なく、既存建物の遮音性向上工事が容易である。さらに、複数本の支持材5が、下地ボード4に所定間隔で並設されることにより、支持材5の弾性支持機能を有効に機能さて、遮音性能を確実に向上させることが出来る。
【0034】
本実施形態における壁1の遮音構造においては、下地ボード4に補助材7が取り付けられ、支持材5は、その一方の側端部を補助材7に固定して、下地ボード4に間接的に取り付けられるため、接着材3が不規則に取り付けられた下地ボード4の壁面に対して、支持材5を所定一に確実に固定して取り付けることが出来、支持材5の弾性変形性能を十分に発揮させて、壁1の遮音性能を確実に向上させることが出来る。
【0035】
なお、補助材7を設けることなく、下地ボード4に直接、支持材5を取り付けても良い。この場合、複数の支持材5が、下地ボード4の接着材3と接着している部分に、第一取付部5aから接着材3に達する長さのビス等により取り付けられる。下地ボード4の接着材3と接着している部分に、支持材5を取り付けることにより、支持材5が接着材3を介してコンクリート壁体2に堅固に取り付けることが出来る。また、壁1において、下地ボード4の接着固定位置が、支持材5による内装ボード6の支持位置となり、下地ボード4では、屈曲波の伝搬が妨げられて音の放射が生じていた位置が、内装ボード6では、屈曲波の伝搬が妨げられなくなり音の放射が少ない位置に変更され、その分、内装ボード6と支持材5により遮音性が向上される。
【0036】
本実施形態にかかる壁1の遮音構造にあっては、コンクリート壁体2に接着材3により下地ボード4が直貼り工法で貼着され、下地ボード4に取り付けられた支持材5に内装ボード6が支持したが、図8に示すように、コンクリート壁体2に取り付けられた支持材5に内装ボード6が支持される壁100の遮音構造であって、支持材5は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、支持材5による支持位置における内装ボード6の面外変位を許容するために、支持材5の一方の側端部がコンクリート壁体2に固定され、他方の側端部が内装ボード6に固定されて内装ボード6が支持材5を介してコンクリート壁体2に支持されると共に、複数本の支持材5が、コンクリート壁体2に所定間隔で並設される壁としてもよい。
【0037】
この形態の壁100における、支持材5は、接着材等によりコンクリート壁体2に直に取り付けられるため、安定して固定される。その他の構成は前述の実施形態の場合と同様である。この形状の壁であっても、前述の実施形態と同様に、内装ボード6を支持材5により支持することにより、内装ボード6に発生する屈曲波による音の放射を低減することが出来、壁厚を大きくすることなく壁100の遮音性能を確保することができる。この場合においても、コンクリート壁体2と支持材5の間に補助材7を挿入しても良い。補助材7を挿入することにより、コンクリート製の壁であっても支持材5を所定位置にビス等で容易に固定できる。その他の構成による作用効果は、前述の実施形態の場合と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】屈曲波による音の放射を説明するための模式図である。
【図2】本発明に係る壁の遮音構造の好適な一実施形態における壁の縦断面図である。
【図3】図2に示す支持材の斜視図である。
【図4】図2に示す支持材の短辺方向の断面図である。
【図5】図2に示す補助材の取り付け状況を説明する図2AーA方向の壁部分の立面図である。
【図6】図2に示す支持材の変形形態を示す短辺方向の断面図である。
【図7】図2に示す壁の変形形態の縦断面図である。
【図8】本発明に係る壁の遮音構造を示す変形例における壁の縦断面図である。
【図9】図2に示す壁とその他の壁の音響透過損失を比較するための実測値のグラフ図である。
【図10】図2に示す壁のコンクリート壁体をALC壁とした場合とその他の壁の音響透過損失を比較するための実測値のグラフ図である。
【符号の説明】
【0039】
1 壁
2 コンクリート壁体
3 接着材
4 下地ボード
5 支持材
6 内装ボード
7 補助材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート壁体に取り付けられた支持材に内装ボードが支持される壁の遮音構造であって、
上記支持材は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、
上記支持材による支持位置における上記内装ボードの面外変位を許容するために、該支持材の一方の側端部が上記コンクリート壁体に固定され、他方の側端部が該内装ボードに固定されて当該内装ボードが該支持材を介して該コンクリート壁体に支持されると共に、
複数本の上記支持材が、上記コンクリート壁体に所定間隔で並設されることを特徴とする壁の遮音構造。
【請求項2】
コンクリート壁体に接着材により下地ボードが直貼り工法で貼着され、該下地ボードに取り付けられた支持材に内装ボードが支持される壁の遮音構造であって、
上記支持材は、長さ方向の両側端部が互いに逆方向に折り曲げて形成された帯状の弾性部材から成り、
上記支持材による支持位置における上記内装ボードの面外変位を許容するために、該支持材の一方の側端部が上記下地ボードに固定され、他方の側端部が該内装ボードに固定されて当該内装ボードが該支持材を介して該下地ボードに支持されると共に、
複数本の上記支持材が、上記下地ボードに所定間隔で並設されることを特徴とする壁の遮音構造。
【請求項3】
前記下地ボードに補助材が取り付けられ、前記支持材は、その一方の側端部が該補助材に固定されて、該下地ボードに間接的に取り付けられることを特徴とする請求項2に記載の壁の遮音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−144356(P2009−144356A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320598(P2007−320598)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人 日本音響学会 刊行物名 日本音響学会2007年秋季研究発表会講演論文集 講演要旨・講演論文CD−ROM 発行年月日 平成19年9月12日
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000173728)財団法人小林理学研究所 (15)
【Fターム(参考)】