説明

壁用部材の製造方法および外壁

【課題】出角部分に使用する壁用部材を既存のサイディングパネルから製造する方法およびこの壁用部材を使用した外壁を提供すること。
【解決手段】壁用部材の製造方法は、既存の壁用部材の水平方向の端面の少なくとも一方の近傍において合いじゃくり用の凹部をなくす端部加工工程、既存の壁用部材の端部加工した端面を曲面状あるいは多面状に切削する切削工程、切削工程において切削した面を表面と同様の意匠となるように塗装する塗装工程を含む。切削工程においては、水平断面が半径がサイディングパネルの厚さ以下の長さである円弧状であるように端面を切削してもよく、かつサイディングパネルの表面に形成された目地溝と対応した溝を端面に形成する。既存のサイディングパネルから製造でき、既存の壁用部材および製造設備を有効利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁用部材の製造方法およびこの壁用部材を使用した外壁に関するものであり、特に、サイディング構造の壁の出角部分に使用できる壁用部材の製造方法およびこの壁用部材を使用した外壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建築物の外壁として周知のサイディングパネルが使用されている。サイディングパネルは、主としてセメント質原料やガラス繊維などの繊維質原料を練って型に詰めて成型し、硬化させた板状部材である。そして、壁の出角部分には、長尺のサイディングパネルから切り出した2枚のパネルをL字型に接着したコーナー用の部材が使用されていた。しかし、従来のL字状部材においては、製造に手間がかかり高価になってしまうという問題点があった。また、保管、運搬中に破損し易いので慎重に取り扱う必要があるという問題点もあった。
【0003】
そこで、本発明者は、出角部分に使用でき、製造や運搬、保管が容易な壁用部材およびこの壁用部材を使用した外壁を発明し、出願した。下記の特許文献1には、この壁用部材およびこの壁用部材を使用した外壁が開示されている。壁用部材は、長方形の板状であり、対向する2つの側面にも表面と同じ意匠が施されている。出角部分に使用する場合には壁用部材を切断し、上下方向に角が揃うように出角の一方の壁と他方の壁に交互に配置する。壁用部材は従来のサイディングパネルと同様の製造方法によって製造でき、平板状であるので運搬や保管も容易で破損し難い。また、外壁は角の部分につなぎ目が無いので見栄えが良く、施工も簡単である。
【特許文献1】特開2006−169746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来の壁用部材においては、見栄え良くかつ容易に施工できるが、既存の長尺のサイディングパネルの製造設備を使用してそのまま製造することはできず、型枠の変更、切削、塗装工程の変更など製造設備の大幅な改造が必要である。従って、出隅用として多品種のサイディングパネルを製造することが困難であるという問題点があった。
本発明は、上記した課題を解決し、出角部分に使用でき、製造や運搬、保管が容易な壁用部材を既存の任意のサイディングパネルから製造する方法およびこの壁用部材を使用した外壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の壁用部材の製造方法は、既存の壁用部材の水平方向の端面の少なくとも一方の近傍において合いじゃくり用の凹部をなくす端部加工工程、既存の壁用部材の前記端部加工した端面を曲面状あるいは多面状に切削する切削工程、前記切削工程において切削した面を表面と同様の意匠となるように塗装する塗装工程を含むことを主要な特徴とする。
【0006】
また、前記した壁用部材の製造方法において、前記既存の壁用部材は長尺のサイディングパネルであり、前記切削工程においては、水平断面が半径がサイディングパネルの厚さ以下の長さである円弧状であるように前記端面を切削し、かつサイディングパネルの表面に形成された目地溝と対応した溝を前記端面に形成する点にも特徴がある。
【0007】
また、前記した壁用部材の製造方法において、前記端部加工工程において、凹部には同じ材質のスペーサを接着する点にも特徴がある。また、前記した壁用部材の製造方法において、前記スペーサの施工時の上下方向の幅は、前記凹部の上下方向の幅よりもわずかに狭い点にも特徴がある。また、前記した壁用部材の製造方法において、前記端部加工工程において、合いじゃくり用の凹部を形成する前の壁用部材を用い、切削によって水平方向の端面近傍以外の部分にのみ合いじゃくり用の凹部を形成する点にも特徴がある。
【0008】
本発明の外壁は、前記した壁用部材の製造方法において製造した壁用部材を上下方向に加工した端部が揃うように出角の一方の壁に複数枚並べて配置したことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の壁用部材の製造方法は上記のような特徴によって、以下のような効果を奏する。
(1)既存の任意の壁用部材あるいは既存の任意の壁用部材の製造工程における中間製品から製造でき、既存の壁用部材およびその製造設備を有効利用可能であるので出隅用の壁用部材を安価に製造可能である。
【0010】
(2)端面を曲面状などに切削し、パネル表面に意匠として設けられている目地溝を端面にも形成し、同じ塗装を施すことにより、端部表面の細部は表面側の意匠とは異なるが、端面が表面と連続しているように感じられ、既存の任意の壁用部材に適用しても違和感はほとんど無くなる。
【0011】
(3)本発明の壁用部材の製造方法により、長尺を含む任意の長さの一端あるいは両端が加工された出隅用外壁部材を得ることができ、角の部分につなぎ目が無くなると共に不自然な位置につなぎ目が生じなくなり、出隅の一方の面に本発明の外壁部材を上下に並べて配置することにより、より見栄えが良くなる。
(4)コーナー用のL字壁用部材を使用する場合より施工が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して実施例について説明する。なお、実施例においては、長尺の壁用部材の長手方向が水平になるように外壁に配置する例について説明し、以下においては、本発明の加工が施される壁用部材の長手方向の端部側面を「端面」、合いじゃくり用の凹部、凸部が形成される上下の側面を「側面」と記す。また、以下の実施例においては壁用部材の右側端面に本発明の加工を施す例を開示する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の壁用部材の元となる既存のサイディングパネルの構成を示す平面図および端面図である。なお、図1左側の端面図は壁用部材10を図示したA方向から見た端面を示している(以下同様)。既存の壁用部材(サイディングパネル)10は表面に例えばタイルおよび目地溝の意匠が施され、目地溝11の内部は表面とは別の塗装が施されている。切断された端面は平面であり、下側面には合いじゃくり用の凹部13が設けられ、上側面にはやはり合いじゃくり用の凸部12が設けられている。
【0014】
図9は、本発明の壁用部材の製造方法を示すフローチャートである。なお、S10〜S13は既存の壁用部材の製造工程を示している。S10においては、主としてセメント質原料やガラス繊維などの繊維質原料を練って型に詰めて成型し、硬化させることによって長い板状の壁用部材10が製造される。できた壁用部材10は、裏面は全体が平面であり、合いじゃくり用の凹部13等は形成されていない。
【0015】
S11においては、壁用部材10の表面を塗装する。塗装は例えば含浸シーラーを全表面に塗布する工程、防水シーラーを全表面に塗布する工程、リシン塗装によって1色あるいは複数色を塗り分けるエナメル塗装工程、横目地溝11内のみを塗装する工程、全体に細かい砂などの粒子を含む塗料を吹き付けるスパッタ塗装工程を含んでいてもよい。
【0016】
S12においては、長い板状の壁用部材10を所定の長さに切断する。S13においては、ルーター等の工作機械を使用して下側面の合いじゃくり用の凹部13の切削、上側面の凸部の裏面側の角の面取り切削が行われる。以上の工程によって図1に示すような既存の壁用部材10が完成する。
【0017】
図2は、本発明の製造方法の端部加工工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。図9のS15の端部加工工程においては、上側面の凸部の端部(端面近傍)を所定の長さだけ切り取り、切り欠き23を形成する。切り取る長さは例えば壁用部材10の厚さの数倍程度であってもよい。また、切り取る時にわずか(例えば1〜数ミリメートル程度)だけ凸部を残して切り取る。これは、対向する壁用部材10と組み合わせた場合に端部においてわずかではあるが合いじゃくりの効果を残すためのものである。
【0018】
図3は、本発明の製造方法の端部加工工程において使用するスペーサの構造を示す斜視図である。図9のS15においては、下側面の凹部の端(端面近傍)にスペーサ20を接着剤によって接着する。スペーサ20は壁用部材10と同じ材質であり、長さは例えば壁用部材10の厚さの数倍程度である。
【0019】
スペーサ20の断面は合いじゃくり用の凹部13の断面とほぼ同じ形状であるが、幅(上下方向の長さ)は合いじゃくり用の凹部13の幅よりもわずか(例えば1〜数ミリメートル程度)に狭く(短く)なっている。これは、前記した、端部において残した上側面の凸部が嵌合するための凹部を形成するためである。従って、図2に示すように、接着したスペーサ20の底部21は壁用部材10の底面22よりもわずかに凹み、垂直位置が高くなっている。
【0020】
図9のS16においては、端部加工した端面を曲面状あるいは多面状に切削する。また、壁用部材10の表面に意匠として形成された目地溝と対応した溝も端面に形成する。
【0021】
図4は、本発明の製造方法の切削工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。この実施例では、水平断面が半径が壁用部材10の厚さ以下の長さである円弧状であるように端面を切削し、かつサイディングパネルの表面に形成された目地溝と対応した溝を端面に形成している。
【0022】
切削方法は、例えば図4右端に示すような、目地溝形成用の切り刃30および端面切削用の切り刃31を備えた切り刃の軸32を回転させながら、図4(a)に示すように軸を円弧状に移動させることにより曲面と溝を同時に切削する。あるいは、図4(b)に示すように、まず曲線状の切り刃37を回転させながら端面に押しつけ、端面と並行に移動させることにより端面を曲面に切削する。次に目地溝形成用の切り刃30のみを備えた軸をを回転させながら、図4(a)に示すように軸を円弧状に移動させることにより溝を切削する。
【0023】
図9のS17においては、表面と同様の意匠となるように切削部分35を塗装する。また、S18においては、切削部分の溝36の内側を塗装する。塗装の工程は既存の壁用部材の工程と同様に、例えば含浸シーラーを切削面全体に塗布する工程、防水シーラーを切削面全体に塗布する工程、リシン塗装によって溝を除く切削面に1色あるいは複数色を塗り分けるエナメル塗装工程、横目地溝11内のみを塗装する工程、切削面全体に細かい砂などの粒子を含む塗料を吹き付けるスパッタ塗装工程を含んでいてもよい。
【0024】
図5は、本発明の製造方法の塗装工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。溝を除く切削面35を塗装する場合には、溝部分をマスク板41によってマスクしておき、スプレーガン40によって塗料を吹き付ける。溝部分の切削面36はスプレーガンを近づけて溝内のみに塗料を吹き付ける。
【0025】
図6は、本発明の壁用部材を組み合わせて配置した構成を示す平面図および端面図である。また、図7は、本発明の壁用部材を使用した出角部分の壁構造を示す一部切り欠き斜視図である。発明者が本発明の壁用部材を試作して実験した結果、上下方向に加工した端部が揃うように壁用部材10を出角の一方の壁に複数枚上下に並べて配置すると見栄えが良く、かつ施工も簡単であることが判明した。
【0026】
壁用部材10は柱52に固着した図示しない金具を使用して固定される。図6に示すように、上下に組み合わされた本発明の壁用部材10は端部においてもわずかではあるが合いじゃくり構造が維持され、防水性が向上する。また、表面からは上下の壁用部材10の隙間は見えず、見栄えも良い。更に、他方の面には端面が平面である既存の壁用部材51が使用され、本発明の壁用部材10の端部裏面と既存の壁用部材51の端面の間にはシーリング剤50が充填されるが、この継ぎ目は一方の面にのみ存在するので、目立たない方の面に継ぎ目を設けることにより、更に見栄えが良くなる。
【0027】
図8は、壁用部材の端部の他の実施例の形状を示す断面図である。図4に示す実施例においては、端部の水平断面が、半径が壁用部材10の厚さと等しい円弧状である例を開示したが、端部の形状はこれ以外の形状でもよい。図8(a)の例は端部の水平断面が、半径が壁用部材10の厚さの半分である円弧状である例であり、図8(b)の例は端部全体を斜めの平面にした例である。図8(c)の例は端部の一部のみを斜めの平面にした例であり、図8(d)の例は端部を階段状の複数の平面で構成した例であり、図8(e)の例は端部を2つの凹曲面で構成した例である。
【実施例2】
【0028】
実施例1においては、図9のS13からS15へ移行し、完成した既存の壁用部材から出隅用の壁用部材を製造する方法を開示した。しかし、実施例1においては、側面の凹部を切削により設け、次に凹部の端部をスペーサによって埋めている。そこで、実施例2においては、S12の工程の後の中間製品である、合いじゃくり用の凹部を形成する前の壁用部材を用い、S14において端面近傍以外の側面にのみ合いじゃくり用の凹部を切削によって形成することにより、出隅用の壁用部材を製造する。このようにすれば、スペーサを接着して凹部を埋める必要が無く、工程が単純になると共に接着による継ぎ目が無くなり、見栄えが良くなる。
【0029】
なお、図9に示すフローチャートでは、塗装工程がS11とS17、18の2カ所あるが、出隅用の壁用部材を製造する場合には、S11の工程をとばし、S17、18の工程で表面および端面双方の塗装を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の壁用部材の元となる既存のサイディングパネルの構成を示す平面図および端面図である。
【図2】本発明の製造方法の端部加工工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。
【図3】本発明の製造方法の端部加工工程において使用するスペーサの構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の製造方法の切削工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。
【図5】本発明の製造方法の塗装工程における壁用部材の構成を示す平面図および端面図である。
【図6】本発明の壁用部材を組み合わせて配置した構成を示す平面図および端面図である。
【図7】本発明の壁用部材を使用した出角部分の壁構造を示す一部切り欠き斜視図である。
【図8】壁用部材の端部の他の実施例の形状を示す断面図である。
【図9】本発明の壁用部材の製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0031】
10…壁用部材
12…合いじゃくり用凸部
20…スペーサ
23…凸部の切り欠き
30…目地溝形成用切り刃
31…端面切削用切り刃
35、36…切削面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の壁用部材の水平方向の端面の少なくとも一方の近傍において合いじゃくり用の凹部をなくす端部加工工程、
既存の壁用部材の前記端部加工した端面を曲面状あるいは多面状に切削する切削工程、
前記切削工程において切削した面を表面と同様の意匠となるように塗装する塗装工程
を含むことを特徴とする壁用部材の製造方法。
【請求項2】
前記既存の壁用部材は長尺のサイディングパネルであり、
前記切削工程においては、水平断面が半径がサイディングパネルの厚さ以下の長さである円弧状であるように前記端面を切削し、かつサイディングパネルの表面に形成された目地溝と対応した溝を前記端面に形成することを特徴とする請求項1に記載の壁用部材の製造方法。
【請求項3】
前記端部加工工程において、凹部には同じ材質のスペーサを接着することを特徴とする請求項1に記載の壁用部材の製造方法。
【請求項4】
前記スペーサの施工時の上下方向の幅は、前記凹部の上下方向の幅よりもわずかに狭いことを特徴とする請求項1に記載の壁用部材の製造方法。
【請求項5】
前記端部加工工程において、合いじゃくり用の凹部を形成する前の壁用部材を用い、切削によって水平方向の端面近傍以外の部分にのみ合いじゃくり用の凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載の壁用部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された壁用部材を上下方向に加工した端部が揃うように出角の一方の壁に複数枚並べて配置したことを特徴とする外壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−57807(P2009−57807A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228427(P2007−228427)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(502384989)日本ウォール建設株式会社 (5)
【Fターム(参考)】