説明

壁部材用接続金具及び地中連続壁構築方法

【課題】簡単で小規模な作業により地中上側に位置しているH形鋼の上部回収作業を効率よく行えるようする。
【解決手段】壁部材1を構成している上下段のH形鋼3,4同士を分離可能に連結するもので、H形鋼の一方フランジに設けられた取付孔10から他方フランジに設けられた取付孔10に向けて操作されるボルト等の取付用棒材と共に用いられ、上下段のH形鋼同士を突き合わせる上下端部に亘って配置され、取付用棒材を介してH形鋼同士を連結する接続金具である。この接続金具6は、H形鋼の両フランジ及びウエブで区画している凹部3cや4cに配置される大きさの鋼材からなり、前記上下端部のうち、一方端部の凹部3cに固定された状態で他方端部の凹部4cに配置される差込部6aと、該差込部に設けられて他方端部の凹部4cを区画している両フランジ4aに設けられている取付孔10に一致する取付用棒材を通す挿通孔8とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下段のH形鋼(この下段は複数のH形鋼からなる構成を含む。要は分離される上段のH形鋼を除く鋼部分の意味である。以下、同じ)に対して上段のH形鋼をボルト等の取付用棒材と共に分離可能に連結する接続金具、及び該接続金具を有した壁部材をソイルセメント等の固化体中に順に建込むようにする地中連続壁構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中連続壁構築方法は、壁部材同士が互いに剛連結されるか否かで次の2通りに分類される。第1方法では、特許文献1や2に開示されているごとく、壁構築部に沿って地盤掘削と共にソイルセメント等の固化体を形成し、地盤改良体の固化前に先行壁部材に対し後続の壁部材を互いの継手を介して連結しながら建込むようにする。第2方法では、例えば特許文献3に開示されているごとく、壁構築部に沿って地盤掘削と共にソイルセメント等の固化体を形成する点で第1方法と同じであるが、各壁部材を地盤改良体中に所定間隔を保って建込むようにする。
【0003】
第1方法に用いられる壁部材は「NS−BOX」と称されている。この壁部材は、複数のH形鋼同士が設計長さに一体化される。同時に、各H形鋼のフランジ端部に沿って設けられた雄又は雌形の継手を有し、隣接配置されるH形鋼同士が前記継手を介し水平方向に連結される。このため、構築された地中連続壁は、各壁部材がH形の対向したフランジの両側を互いの継手を介して嵌合した状態で建込まれるため二重の継手構造となり、加えて地盤改良体中に建込まれている関係で優れた耐久性及び止水性が得られる。
【0004】
第2方法に用いられる壁部材は、上記「NS−BOX」タイプの壁部材に対し、H形鋼同士が設計長さに連結される点で同じであるが、各H形鋼のフランジ端部に継手を有していない。従って、構築された地中連続壁は、各壁部材が地盤改良体を介して一体物となり、第1方法で構築される地中連続壁に比べ耐久性及び止水性共に欠けるが、鋼材総量及び施工費が大幅に低減できるため広範囲に採用されている。また、第2方法では、特許文献3や4に開示されるごとく、例えば鋼材総量及び施工費の削減を図るため建込まれた各壁部材を構成している上段のH形鋼を引き抜いて回収する構成も公知である。
【0005】
詳述すると、特許文献3において、この接続構造は、例えば、上下段のH形鋼(芯材)同士を突き合わせた状態で該突合せ部の外周を囲む外殻部材と、外殻部材と一方のH形鋼を接合する接合手段(仮ボルト)と、外枠部材と他方のH形鋼を接合する破断ボルトとを有し、どちらか一方のH形鋼に所定の引張り力以上の力を加えたときに、破断ボルトが破断して、上段のH形鋼を分離するものである。そして、地中壁構築方法としては、前記壁部材を地盤改良体中に建込み、仮ボルトが地中に埋没する手前で壁部材の建込みを中断する。仮ボルトを外殻部材から取り外し、再び、壁部材を建込んで所定の位置まで埋設する。壁部材としての供用を終えた後に、前記突合せ部より上方のH形鋼に引張り力を加えて破断ボルトを破断し上段のH形鋼を引き抜く。
【0006】
特許文献4において、この接続構造は、上下段のH形鋼同士を突き合わせた状態で、上下段の地山側及び開削部側フランジの上下両外側面に亘って配置される接合板を有し、上下段フランジと接合板とをボルト・ナットで螺着して上下段のH形鋼同士を連結する。地中壁構築方法としては、上下段のH形鋼同士を接合板及びボルトを介して連結した状態で、地中に形成した地盤改良体(立柱列連続壁)に建込む。その後、開削部側を掘削した状態で、開削部側フランジに頭部を配したボルトを地山側フランジに接合板を介して設けられたナットから螺脱し、該ボルトを開削部側へ抜去して上下段のH形鋼の接合を分離し、上段のH形鋼を引き抜く。その後、開削部を土砂で埋め戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−288738号公報
【特許文献2】特開2003−55960号公報
【特許文献3】特開2004−238998号公報
【特許文献4】特許第3404315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図12(a),(b)は上記第1方法により所定間隔を保って造成され地中連続壁90同士の間を開削すると共に、地中連続壁90同士の間に地下構造物60を築造した一例を示している。この施工手順は、本発明例である図8及び図9に示したように、両側の地中連続壁を構築した後、地中連続壁同士の間を開削し、開削した箇所に地下構造物60を地中連続壁を仮設兼用本体壁として築造する。その後、地下構造物60の上部を土砂65で埋め戻す。各地中連続壁は、隣接配置された各壁部材91が互いの継手(一方壁部材の雄形継手と他方壁部材の雌形継手)を介し連結されており、地下構造物60の仮設兼用本体壁として利用される。符号92は固化した固化体である。
【0009】
以上の地中連続壁90において、地下構造物60の天版64から地表面GLまでの間は土圧が順次低減するため箇所Fより小さな強度剛性でよい場合が多く、しかも埋め殺したままでは却って障害物となることもある。また、特にトンネル、共同溝等の施工区間が長く、大深度位置に構築される地下構造物の場合は、その施工区間分に応じて相当量の鋼材が無駄となり、資源の有効利用の面からも得策でない。
【0010】
この対策として、本出願人らは、先に、原地盤等の地盤条件に応じて、最適で無駄のない環境にも優しい地中連続壁構築方法などを開発し出願した(特願2008−204907号等)。この要部は、壁部材が少なくとも上段部分を相対的に小さくし、その場合にも隣接配置されるもの同士が互いの継手を介して連結可能にする構成にある。このため、先願では、地中連続壁として使用鋼材の総量を低減できるが、上段のH形鋼は埋め殺したままであり、障害物対策及び資材の有効活用としては未だ満足できない。そこで、更なる対策としては、特許文献3や4のごとく壁部材の上段のH形鋼を分離可能に連結しておき、後で分離し回収することも考えられる。
【0011】
しかし、実施工では、本設工事が完了し、埋め戻しを行った後には地盤を締め固めて少なくとも数ヶ月から1年程度は地盤の養生が必要であり、少なくとも養生初期までは上段のH形鋼にも支持力が期待される関係で養生期間中は回収ないしは撤去工事に着手できない。そのような事情から、特許文献4の上部回収構造では、上下段のH形鋼同士が突き合わされた状態で互いのフランジの上下両外側面に亘って接合板を単に配置しているだけなので、接合板を介した連結用のボルトを外すと、上段側が下段側に対して非拘束状態となってずれ易くなるという不具合がある。一方、特許文献3の上部回収構造では、上下段のH形鋼同士が突き合わせた状態で外枠部材により該突合せ部の外周を囲むことから、地中連続壁構築方法として各壁部材が互いの継手を介して連結される第1方法には採用不可能である。また、従来構造では、壁部材の全寸が長くなると、上段側H形鋼を吊り上げた状態で建込み途中の下段側H形鋼の上端に接続したいこともあるが、接続操作時は上段側H形鋼が動き易く、しかも下段H形鋼側の取付孔に対する上段側の取付孔を位置だしし難いため位置だし操作を多少なりとも容易にしたい。なお、これら回収工事は時期的にも工事完了してから大分時を経ている上に、経済的にも不採算となる可能性があるため、H形鋼回収のためだけに時間をかけた大々的な再掘削、埋め戻しなどの作業は現実的でない。
【0012】
本発明は以上の課題を解決するものである。その目的は、地中に建込まれる壁部材用接続金具として、更に例えば、地下構造物の天版上の開削部を埋め戻すと共に締め固めた後で、かつ所定の養生期間を経てからでも、建込み作業や構造物構築作業を損なわず、簡単で小規模な作業により地中上側に位置しているH形鋼の上部回収作業を効率よく行える接続金具及びそれを有した壁部材を用いた地中連続壁構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、地中に建込まれる壁部材を構成している上下段のH形鋼同士を分離可能に連結するもので、H形鋼の一方フランジに設けられた取付孔から他方フランジに設けられた取付孔に向けて操作されるボルト等の取付用棒材と共に用いられ、前記上下段のH形鋼同士を突き合わせる上下端部に亘って配置され、前記取付用棒材を介して前記H形鋼同士を連結する接続金具であって、前記H形鋼の両フランジ及びウエブで区画している凹部に配置される大きさの鋼材からなり、前記上下端部のうち、一方端部の前記凹部に固定された状態で他方端部の前記凹部に配置される差込部と、前記差込部に設けられて他方端部の前記凹部を区画している両フランジに設けられている前記取付孔に一致する取付用棒材を通す挿通孔とを有していることを特徴としている。なお、以上の「ボルト等の取付用棒材」は、市販のボルト以外にも、例えば鋼製取付用ないしは連結用シャフト又はピン部材等を部材間(両フランジの取付孔及び差込部の挿通孔)に串差し状に配置し、かつ抜け止め処理する構成を含む意味で使用している。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1において、2個を組として用い、前記一方端部を構成している前記H形鋼の両フランジ及びウエブで区画される各凹部にそれぞれ配置されると共に、前記各凹部に対して溶接により固定するか、前記ウエブに設けられて前記凹部同士を貫通している挿通孔を利用して各接続金具を共通のボルトを介して固定するかの何れかであることを特徴としている。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記接続金具のうち、前記差込部が前記凹部内に収まり、かつ前記凹部の両フランジ間にほぼ隙間なく配置されるよう形成されていることを特徴としている。これに対し、請求項4の発明は、請求項1から3の何れかにおいて、前記差込部は前記挿通孔を壁厚方向に貫通形成していることを特徴としている。
【0016】
請求項5の発明は、各壁部材を経時的に固化するソイルセメント等の固化体中に順に建込む地中連続壁構築方法において、前記壁部材として請求項1から4の何れかに記載の接続金具を有したものを使用し、前記各壁部材を前記取付用棒材の頭部が地山側と反対の開削部側となるようにして、前記固化体中に順に建込んで地中連続壁を造成する建込み工程と、前記地中連続壁の開削部側を前記固化した固化体の一部と共に開削してその開削部に地下構造物を築造する構造物築造工程と、前記地下構造物上の開削部を埋め戻す過程で前記取付用棒材を外し、かつ埋め戻しを完了した後、前記各壁部材を構成している前記上段のH形鋼を引き抜く上部回収工程とを経ることを特徴としている。
【0017】
請求項6の発明は、請求項5において、前記建込み工程では、前記壁部材を構成している前記下段のH形鋼の両フランジにおける上部外面に仮受用プレートをそれぞれ固定し、かつ前記上下段のH形鋼同士を連結しない態様で、前記下段のH形鋼をその上部を除いて前記固化前の固化体中に建込むと共に、地表側に設置された仮受治具に対し前記仮受用プレートを介して吊り下げ状態に支持した後、前記上段のH形鋼を前記下段のH形鋼に突き合わせて前記接続金具及び取付用棒材を介して連結することを特徴としている。
【0018】
請求項7の発明は、請求項5において、前記上部回収工程では、回動式ボーリングロッドを有した貫入ロッド手段を用いて、地表側から前記接続金具付近まで貫入して前記上段のH形鋼に付着している固化体を掻き落とし、又は/及び、前記上段のH形鋼の引き抜きに伴って形成される間隙に流動化土を注入充填することを特徴としている。この流動化土は、上部回収工程に伴う地盤陥没の虞を有効に防ぐため流動化処理土に各種の強度促進剤(例えば地盤隙間に充填した後、数時間で固化可能にする促進剤)を入れた構成も含む。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明では、壁部材用接続金具として、上下段のH形鋼同士が取付用棒材の抜き操作により分離可能となる点で特許文献3〜4と同じ。加えて、本発明の接続金具は、それらの従来技術に比べ、H形鋼の両フランジ及びウエブで区画している凹部に配置されるため小型で凹部に対し位置出しし易く取扱性に優れ、同時に小型に係わらず取付用棒材を外した状態で上下段のH形鋼同士の拘束性に優れている。換言すると、本発明の接続金具は、特許文献4のごとくH形鋼同士の各フランジの上下両外側面に亘って接合板を配置する構造に比べ、接続金具の差込部を相手側凹部に差し込むため、孔同士を一致させ易く良好な連結操作性及び引き抜き性が実現され、しかも上下段のH形鋼同士が取付用棒材を抜き去った状態でも差込部と凹部との嵌合力に比例した一体物としての剛性を保つ点で優れている。なお、特許文献3のごとく外枠部材や連結部材を破断する構造に比べ、不用意な破断がなく安全性及び信頼性に優れていると共に、隣接配置されるもの同士が互いの継手を介し連結する構造に適用できる。
【0020】
請求項2の発明では、図1〜図5より推察されるごとく、2個の接続金具が下段又は上段のH形鋼を形成している各凹部に固定された状態で、相手側のH形鋼に対し、各接続金具の差込部をH形鋼の各凹部に嵌合するときの位置出しと、各接続金具の差込部同士の間の隙間にH形鋼のウエブを嵌合するときの位置出しとの相乗作用により、H形鋼のフランジ側取付孔と接続金具の差込部側挿通孔とが確実かつ高精度に位置出しされる。加えて、各接続金具を対応する凹部にそれぞれ溶接により固定する構造、又は、各接続金具を対応する凹部に共通のボルトを介して固定する構造では、従来のごとくボルト固定に比べて、H形鋼のうちフランジ外面、特に掘削側のフランジ外面にボルト頭部等に起因した突起物をなくすことができる。この点は、例えば、後工程で地下構造物を構築する仕様だと、該地下構造物の側壁を前記掘削側のフランジ外面に結合一体化するような場合に好適となる。
【0021】
請求項3の発明では、上下段のH形鋼同士が一方端部の凹部に接続金具の対応部を固定した状態で、他方端部の凹部にほぼ隙間なく差し込まれた差込部の存在により、差込部と他方端部とを固定している取付用棒材を抜き去った状態でも接続金具の差込部と凹部との嵌合力に比例した一体物としての剛性を確実に維持できる。
【0022】
請求項4の発明では、接続金具の差込部が前記ボルト用挿通孔を壁厚方向(板状の肉厚内を孔状に形成していること)に貫通形成しているため、上記保護材を必要とせずに取付用棒材に加わる荷重を分散したり、棒材への付着物を減らして棒材の抜き操作性を良好に維持できる。
【0023】
請求項5の発明では、各壁部材を固化体中に建込む地中連続壁構築方法として、従来に比べ、壁部材として請求項1から4の何れかに記載の接続金具を有した壁部材を使用する点、地下構造物を築造した後、該地下構造物上の開削部を埋め戻す過程で取付用棒材を外し、埋め戻しを完了した後に各壁部材の上段のH形鋼を引き抜く点が相違している。そして、本発明の地中連続壁構築方法では、埋め戻し及び締め固めを完了しかつ課題で述べた養生後、簡単な作業により各壁部材の上段のH形鋼を順次引き抜いて転用、或いは鋼材として回収できるので、省資源化及び障害物除去構成として優れている。
【0024】
請求項6の発明では、例えば、仮受用プレートを下段のH形鋼側に固定した状態で、該下段のH形鋼をその上部を除いて固化体中に建込むと共に、地表側の仮受治具に対し仮受用プレートを介して吊り下げた状態で、上段のH形鋼を突き合わせて接続金具及び取付用棒材を介して連結するので、使用壁部材が長くなっても、上段のH形鋼を建込み途中にある下段のH形鋼に対し相対的に動かしながら簡単に位置出しでき、それにより連結作業性を向上できる。
【0025】
請求項7の発明では、上部回収工程において、貫入ロッド手段により地表側から接続金具付近まで貫入して上段のH形鋼に付着している固化体を掻き落とすことで該H形鋼を固化体から縁切りして引き抜きに要する動力を軽減できるようにする。また、貫入ロッド手段により上段のH形鋼の引き抜きに伴って形成される間隙に流動化土を注入充填して引き抜きに伴う不具合を簡単に解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1形態の壁部材と接続金具を上段H形鋼の分離状態で示す斜視図である。
【図2】(a)は上記壁部材を上段H形鋼の連結状態で示す斜視図、(b)は(a)のA−A線に対応した側断面図、(c)は変形例を(b)のA1−A1線に対応した断面で示す構成図である。
【図3】第2形態の壁部材と接続金具を上段H形鋼の分離しかつ一部破断した状態で示す斜視図である。
【図4】(a)は上記壁部材を上段H形鋼の連結状態で示す斜視図、(b)は(a)のA2−A2線に対応した側断面図、(c)は変形例を(b)のA3−A3線に対応した断面で示す構成図である。
【図5】(a)と(b)は第3形態の壁部材と接続金具を上段H形鋼の分割状態と、上段H形鋼の連結状態で示す斜視図である。
【図6】(a)と(b)は第1形態の壁部材を用いて建込み途中で上段H形鋼を下段H形鋼に連結するときの構成を連結前と連結後の状態で示す説明用斜視図である。
【図7】(a)と(b)は第3形態の壁部材を用いて建込み途中で上段H形鋼を下段H形鋼に連結するときの構成を連結前と連結後の状態で示す説明用斜視図である。
【図8】(a),(b)は上記壁部材を建込んだ造成完了状態と、開削工程とを示す断面説明図である。
【図9】(a),(b)は本設地下構造物の完成状態と、埋め戻し工程を示す断面説明図である。
【図10】(a),(b)は上部回収工程で行われるはつり作業を示す模式図と、引き抜きと間隙ないしは空洞充填作業を示す模式図である。
【図11】築造された地下構造物及び本発明方法で作られた地中連続壁の完成状態を示す断面説明図である。
【図12】従来例を説明するため図であり、(a)は地中連続壁間に地下構造物を築造した状態を示し、(b)は(a)のD−D線断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の壁部材用接続金具の形態として、図1及び図2に示す第1形態、図3及び図4に示す第2形態、図5に示す第3形態を説明した後、図6〜図11に示した地中連続壁構築方法、地中連続壁及びその架設兼用本体壁としての利用例について言及する。
【0028】
(第1形態)図1及び図2において、第1形態の壁部材1は、下から上に向かって、根入れ部としての最下段のH形鋼2と、H形鋼2の上端に接合一体化されている下段のH形鋼3と、該H形鋼3の上端に接続金具6及び取付用棒材であるボルトB並びに取付板7を介して分離可能に連結される上段のH形鋼4とで構成されている。なお、このボルトBは、H形鋼のフランジ同士の間隔に応じたロングボルトであり、複数本が使用される。
【0029】
ここで、下段のH形鋼3と上段のH形鋼4は「NS−BOX」と同様な断面形状からなる。H形鋼3とH形鋼4は、同形状のH形ウエブ3bとウエブ4b、同形状のH形各フランジ3a,3aと各フランジ4a,4とが上下端部で突き合わせられる。そして、H形鋼3とH形鋼4は、その上下端部に亘って配置される本発明の接続金具6、及びH形鋼の一方フランジ4a(この形態では上段のH形鋼4のフランジ4a)に設けられた取付孔10から他方フランジ4aに設けられた取付孔10に向けて操作される取付用棒材であるボルトBを介して連結されると共に、各H形鋼3,4のフランジ3a,4aの各端部に沿って設けられた雌形継手5を有し、図示を省いたが、隣接配置されるH形鋼同士が互いの前記雌形継手5と相手側雄形継手を介して連結される。取付孔10は、ボルトBを挿通可能な孔であり、ボルトBに応じた数だけ設けられる。この形態では、取付孔10は単純な孔であるが、ボルトBに応じた雌ねじの構成でもよい。
【0030】
下段のH形鋼3は、作図上、1本であるが、実際は設計長さに応じて本数のH形鋼が接合一体化される。上段のH形鋼4は、両側フランジ4aの上部に設けられた複数の吊り下げ用取付孔12を有している。この取付孔12は、従来と同じく吊上げ用治具に連結するための孔である。なお、この取付孔12は、前記ボルトB用の取付孔10と同一数、同位置とすることによって、上段のH形鋼4が天地逆であっても下段側と連結可能となり、作業性を改善できる。これに対し、最下段のH形鋼2は、断面がH形鋼3や4より小さく、例えば地下深部の不透水層、地盤内における止水性が不要な箇所に建て込まれる。すなわち、このH形鋼2は、長手方向と交差する断面が下段のH形鋼3の断面と比較して、H形鋼3のウエブ3bに接合するウエブ2bと、H形フランジ3a,3aの一部に接合する短いフランジ2a,2aを有した形状である。勿論、最下段のH形鋼2は省略可能である。
【0031】
この接続金具6は次の要件(1)〜(4)を有していることが好ましい。(1)接続金具は、上下段のH形鋼3,4の上下端部に亘って配置される長さ(好ましくは100mm以上の)寸法である。(2)接続金具は、図1〜図4のごとくH形鋼3(又は4)の両フランジ3a,3a(4a,4a)及びウエブ3b(4b)で区画されている各凹部3c,3c(4c,4c)に配置された状態で、上下段のH形鋼同士の拘束性を良好に保つことが可能な大きさの鋼材である。(3)接続金具は、上下段のH形鋼3,4の上下端部のうち、一方端部の凹部3c又は4cに固定された状態で他方端部の凹部4c又は3cに配置される突出部分である差込部6aを有している。この差込部6aは前記凹部内に収まり、該凹部の両フランジ間にほぼ隙間なく配置される。(4)接続金具は、その差込部6aに設けられて他方端部の前記凹部を区画している両フランジの前記取付孔10に一致する挿通孔8を有している。ここで、以上の接続金具6は、図2(b)に例示されるごとく下段のH形鋼3の上端部の凹部3c、又は、上段のH形鋼4の下端部の凹部4cに溶接で固定される。この溶接以外の固定構造としては、図2(c)の変形例に例示されるごとく下段のH形鋼3の上端部のウエブ3b、又は、上段のH形鋼4の下端部のウエブ4bに対し凹部同士を貫通した複数の挿通孔と、各凹部3c又は各凹部4cに配置される各接続金具6の対応部にも貫通した複数の挿通孔とを形成しておき、それら各挿通孔に挿通される共通のボルトB及びナットNを介し固定する構成でもよい。これらの構造では、従来のボルト固定構造に比べ、特にH形鋼を構成している掘削側のフランジ外面にボルト頭部等に起因した突起物をなくすことができる。
【0032】
詳述すると、以上の接続金具6は、図1の拡大図のごとく断面がウエブ3bや4bに沿って配置される本体壁aと、該本体壁aに両側に立設されている両側壁bと、該両側壁bのうち本体壁aから離れた側に連結されている上補強壁c及び下補強壁dとから構成されている。このため、接続金具6の差込部6aは、本体壁a及び両側壁bを構成している上側部分と上補強壁cで構成されるか、或いは、本体壁a及び両側壁bの下側部分と下補強壁dで構成される。その差込部6には、対のボルト等の取付用棒材を通す挿通孔8が両側壁bに対し同軸線上に設けられている。
【0033】
また、差込部6aは、両端が差込部6aを構成している両側壁bの内面に接合固定されて各挿通孔8を筒部により連通している保護材9を有している。この保護材9は、ボルトB等の取付用棒材の軸部を筒内に挿通することで地盤側から受ける荷重を分散すると共に、取付用棒材への付着物を減らして棒材の抜き操作性を良好に維持できるようにする。また、取付板7は、ナットNと同軸の孔又は雌ねじを有し、例えば、図1及び図2のごとく接続金具6が下段のH形鋼3に固定される構成だと、H形鋼3のフランジ3aの上端側外面に固定される。これに対し、取付板7は、接続金具6が上段のH形鋼4に固定される構成だと、H形鋼4のフランジ4aの下端側外面に固定されることになる。なお、ナットNとしては、例えば、ボルトBの締め付け状態で螺合部への付着物、それに起因してボルトBが外れ難くなる虞を避けるため螺合部を覆うような袋ナットが好ましい。
【0034】
(第2形態)図3及び図4において、第2形態の壁部材1Aは、下段のH形鋼3Aと上段のH形鋼4Aとが同形状で、かつ第1形態のような継手を有していない特許文献3や4と同様な鋼構成である。また、下段のH形鋼3と上段のH形鋼4は、ウエブ3bとウエブ4b、各フランジ3a,3aと各フランジ4a,4aとが上下端部で突き合わせられて、本発明の接続金具6A、及びH形鋼の一方フランジ3a(この形態では下段のH形鋼3のフランジ3a)に設けられた取付孔10から他方フランジ3aに設けられた取付孔10に向けて操作されるボルトB等の取付用棒材を介して連結される。なお、以上の各壁部材1Aは、隣接配置されるH形鋼同士が継手を有していないため剛連結されないタイプである。取付孔10は第1形態と同じである。
【0035】
この接続金具6Aは第1形態で記載した要件(1)〜(4)を備えている。加えて、接続金具6Aは、図1に一部を破断して示したごとく単純な厚板状となっており、挿通孔8aが差込部6aの板幅方向に貫通形成されている。従って、第2形態では、接続金具6Aの差込部6aが挿通孔8aを肉厚内に形成しているため、第1形態のような保護材9を必要としない。また、ナットNは、ボルトBの使用本数に応じて、前記他方フランジ3aの外面に対し複数が取付孔10と同軸線上に溶着等で固定されている。但し、このナツトNは第1形態の取付板7に装着した状態で前記した他方フランジに対し溶接固定される構成でもよい。更に、構造的には、この例のごとくボルトBをナットNに螺合させる構成以外に、取付孔10に形成した雌ねじ及びナットNに締め付ける構成、取付孔10に形成した雌ねじに締め付ける構成の何れでもよい。また、以上の接続金具6は、図4(b)に例示されるごとく上段のH形鋼4の下端部の凹部4c、又は、下段のH形鋼3の上端部の凹部3cに溶接で固定される。この溶接以外の固定構造としては、図4(c)の変形例に例示されるごとく上段のH形鋼4の下端部のウエブ4b、又は、下段のH形鋼3の上端部のウエブ3bに対し凹部同士を貫通した複数の挿通孔と、各凹部4c又は各凹部4cに配置される各接続金具6の対応部にも貫通した複数の挿通孔とを形成しておき、それら各挿通孔に挿通される共通のボルトB及びナットNを介して固定する構成でもよい。これらの構造では、従来のボルト固定構造に比べ、特にH形鋼を構成している掘削側のフランジ外面にボルト頭部等に起因した突起物をなくすことができる。これらは第1形態と同様である。
【0036】
(第3形態)図5において、第3形態の壁部材1Bは特願2008−204907号に記載されているものと同じく、下から上に向かって、根入れ部としての最下段のH形鋼2と、H形鋼2の上端に接合一体化されている下段のH形鋼3と、H形鋼2とほぼ同形状に形成されてH形鋼3の上端に本発明の接続金具6及びボルトB等の取付用棒材を介して分離可能に連結される上段のH形鋼4とで構成されている。
【0037】
ここで、最下段のH形鋼2及び下段のH形鋼3は第1形態と同じ。上段のH形鋼11は、H形鋼2と同様に長手方向と交差する断面が下段のH形鋼3の断面と比較して、H形鋼3のウエブ3bに接合するウエブ11bと、H形フランジ3a,3aの一部に接合する短いフランジ11a,11aを有した形状であり、例えば地盤内における止水性が不要な箇所に建て込まれる。また、H形鋼3とH形鋼11は、その上下端部に亘って配置される本発明の接続金具6B、及びH形鋼の一方フランジ(この形態では下段のH形鋼3のフランジ3a)に設けられた取付孔10から他方フランジ3aに設けられた取付孔10に向けて操作される取付用棒材であるボルトBを介して連結される。取付孔10とボルトB及びナットNは第2形態と同じ。ナットNは、第1形態のごとく取付板7を介して複数を一体物としてH形鋼3又はH形鋼11の対応側フランジ(3a又は11a)に固定してもよい。
【0038】
接続金具6Bは上記した第1形態の要件(1)〜(4)を備えている。加えて、この接続金具6Bは、第1形態に比べて、断面がウエブ3bや11bに沿って配置される本体壁と、前記本体壁の両側に立設されている両側壁と、前記本体壁と略平行に配置された状態で前記両側壁間を連結している上連結片(又は下連結片)と、前記本体壁の内下端(又は内上端)に沿って突設された状態で前記両側壁間を連結している下連結片(又は上連結片)とを一体的に形成している。このため、接続金具6Bの差込部6aは、図5のごとく前記本体壁及び両側壁の下側部分と下連結片で構成されるか、或いは、前記本体壁及び両側壁を構成している上側部分と上連結片で構成される。その差込部6には、対の挿通孔8aが前記両側壁に対し同軸線上に設けられている。
【0039】
(地中連続壁構築方法)図6〜図10は請求項5に対応した地中連続壁構築方法のうち、建込み工程で造成された地中連続壁50と、構造物築造工程と、上部回収工程との詳細を示している。ここでは、地中連続壁構築方法として、各壁部材1(又は1B)を経時的に固化するソイルセメント等の固化体中に順に建込むときに先行壁部材1(又は1B)に対し後続の壁部材1(又は1B)を互いの継手(雌形継手と雄形継手)5を介して連結する構成の例で説明する。但し、対象の地中連続壁構築方法は、各壁部材1Aを経時的に固化するソイルセメント等の固化体中に順に建込むときに所定間隔を保って建込む構成でもよい。また、壁部材1Bを使用する場合は、特願2008−204907号に記載されている地中連続壁構築方法により建込まれると共に、上段のH形鋼11が本発明の上部回収工程により撤去されることになる。
【0040】
換言すると、地中連続壁構築方法では、上記した壁部材1(1A又は1B)を使用することを前提とし、各壁部材を固化前の固化体中に順に建込んで地中連続壁50を造成する建込み工程と、地中連続壁50の開削部側を前記固化した固化体51の一部と共に開削してその開削部に地下構造物60を築造する構造物築造工程と、地下構造物60上の開削部を埋め戻す過程で取付用棒材であるボルトBを外し、かつ埋め戻しを完了した後、各壁部材1を構成している上段のH形鋼4を引き抜く上部回収工程とを経る。
【0041】
建込み工程では次のことが重要となる。壁部材1又は1Bを用いる場合は先行壁部材1又1Bに対し後続の壁部材1又は1Bを互いの継手5(雌形継手と雄形継手)を介して連結しながら建込む操作において、壁部材1Aを用いる場合は所定間隔に建込む操作において、各壁部材1が取付用棒材であるボルトBの頭部を地山側と反対の開削部側となるように配置される。また、上記壁部材1、1A、1Bが通常よりかなり長くなると、上段側H形鋼4、4A、11を吊り上げた状態で建込み途中の下段側H形鋼3、3A、3の上端に接続することもある。図6及び図7はその場合の連結要領を示している。なお、図6は第1形態の壁部材1及び接続金具6を使用し、又、接続金具6を下段のH形鋼3側に固定した状態で建込む例である。また、この例では、取付板7を省いて、ナットN及び取付孔10を上段のH形鋼4側に設けた構成となっている。これに対し、図7は第3形態の壁部材1B及び接続金具6Bを使用し、又、接続金具6Bを上段のH形鋼11側に固定した状態で建込む例である。
【0042】
図6と図7において、各要部は、下段のH形鋼3の両フランジ3aにおける上部外面に対の仮受用プレート23をそれぞれ固定する。その後は、下段のH形鋼3をその上部を除いて固化前の固化体51中に建込むと共に、地表側に設置された仮受治具28に対し各仮受用プレート23を介して吊り下げ状態に支持する。その状態から、図6(b)の上段のH形鋼4又は図7(b)の上段のH形鋼11を、前記下段のH形鋼3の上端部に突き合わせて接続金具6又は6B、及び複数のボルトBを介して連結する。
【0043】
まず、建込みに際してはカッター装置により所定幅及び深さの溝が掘削される。この作業では、例えば、掘削溝26内に掘削液を注入して地盤を軟化させつつ、カッター装置を掘削出発位置から壁構築予定部に沿って移動させながら、地盤を掘削し、設計深さ及び施工長さに到達したなら固化体51としてセメントミルク等を供給して、前記溝内をソイルセメント等により満たす。また、各下段のH形鋼3には、建込み作業に先立ち、両側フランジ3aの上端外面に複数の仮受用プレート23を溶着しておく。
【0044】
建込み作業では、例えば、不図示の施工用重機による壁部材3の吊り降ろし段階で、1対のガイドトレンチ24により画成される掘削溝26の上部地表面に交叉してH型鋼の組合せからなる井桁状の仮受用治具28を設置する。具体的には図6(a)のごとく建込み途中の壁部材3の前後において、両側のガイドレンチ24に掛け渡されたH形鋼等の2本の鋼材28aと、該壁部材3の両側において各鋼材28aに掛け渡された2本の鋼材28bとで仮受用治具28を作る。そして、下段H形鋼3は更に吊り降ろされると、仮受用プレート22が仮受用治具28上に設置され、その全荷重が仮受用治具28上に預けられる。
【0045】
その後は、図6(b)や図7(b)のごとく、上段のH形鋼4や11が吊り降ろされ、上記した接続金具6又は6Bを介して下段のH形鋼3に対し位置出しされた後、上記したボルトBの締め付け操作により連結される。この操作要領は、図6のごとく対の接続金具6が下段側H形鋼3の各凹部3cに固定され、該各凹部3cから上向きに突出している各差込部6aを上段側H形鋼4の対応凹部4cに嵌合した状態で、上段側及び下段側を共に微動しながら、上記した一方フランジ4a側の取付孔10と、差込部6aのボルト挿通孔8と、他方フランジ4aのナットNとを一致させる。図7の場合は、対の接続金具6が上段側H形鋼11の各凹部11cに固定され、該各凹部11cから下向き突出している各差込部6aを下段側H形鋼3の対応凹部3cに嵌合した状態で、上段側及び下段側を共に微動しながら、上記した一方フランジ3a側の取付孔10と、差込部6aのボルト挿通孔8と、他方フランジ4aのナットNとを一致させる。すなわち、この構成では、何れの態様でも、各差込部6aが相手側凹部に嵌合されること、差込部6a同士の間に相手側ウエブ4b又は3bが嵌合されること、上段側及び下段側を共に微動しながら位置合わせ可能なため足場が悪く、長尺なH形鋼であっても複数の孔同士を容易かつ確実に位置出しできる。
【0046】
上記したボルトBで上下段のH形鋼3と4、又は、H形鋼3と11を連結した後は、仮受プレート23をあえて撤去する場合(この仮受プレート23は撤去せず、壁部材の補強材として残すこともある)は壁部材1又は1Bを吊り上げて仮受用治具28から浮かせた状態で、仮受プレート22を溶断する。また、その間に仮受用治具28を撤去した後、各壁部材を引き続き吊り降ろすことにより、互いの継手を介して精度よく鉛直度を保ちつつ、掘削溝26内に上端のみを残して建込むことになる。
【0047】
図8(a)は以上の建込み工程で造成された地中連続壁50を模式的に示している。この例では、第1形態の壁部材1が使用され、地中連続壁50が地下構造物に応じた幅を保って2列設けられている。各地中連続壁50は、各壁部材1を構成している上段のH形鋼4が地上面GLより少し突出している。これは、後述するごとく上部回収工程でH形鋼4を引き抜き易くするためである。また、各壁部材1は、図8(a)の拡大図に示されるごとく前記した上端を除き、接続金具6と共に固化した固化体51に埋設されている。
【0048】
構造物築造工程では、地中連続壁50と地中連続壁50との間を固化体51の一部と共に開削してその開削部に地下構造物60を従来と同様な手順で築造する。すなわち、この作業では、図8(b)のごとく地中連続壁50同士の間の地盤が地表から所定深度まで開削される。この場合、開削設計は、計画に応じて各壁部材1の下段のH形鋼3(この下段は複数のH形鋼からなる構成を含む)の下端部よりやや上部とし、この部分を地下構造物60の支持地盤面とする。また、地中連続壁50同士の対向面のうち、壁部材1を構成しているH形鋼3,4の内側フランジはソイルセメント等の固化体51が付着しているが、それらの付着物は除去される。
【0049】
なお、開削作業では、開削深度が深くなるにしたがって、必要に応じて腹起し、切梁などからなる仮設支保工52を地中連続壁50間の上側に張架される。ところで、この開削による土圧Pの分布は、各壁部材1の高さ方向中間位置近傍で最大となるが、上記地中連続壁50の壁構造において、壁部材1を構成している下段のH形鋼3の剛性及びその外側の固化体51により土圧Pに充分抗することができる。また、地盤E内に地下水があったとしても、事前調査等によって下段のH形鋼3の位置を地下水位より高い位置に設定すれば、内外2重の継手構造及びその外側の固化体51により止水性も満足できる。
【0050】
開削作業の終了後は、図9(a)のごとく、地中連続壁50の構築方向に沿って支持地盤上に地下構造物60の底版61、側壁62、隔壁63及び天版64を適宜な型枠工法により築造する。その際は、底版61の両側、両側壁62並びに天版64の両側と壁部材1の対応部との間を鉄筋などを介して接合した状態で必要に応じてコンクリートを打設する。これにより、地下構造物60は、両側壁62が各壁部材1を構成している下段のH形鋼3と結合一体化し、側壁62が薄壁であっても、地中連続壁50及び壁部材外側の固化体51により十分な剛性と止水性に優れた構造物となる。
【0051】
上部回収工程では、地下構造物60の築造完了後、仮設支保工52を盛替えつつ、天版64の上面を埋め戻し用土砂65で埋め戻す。この埋め戻し過程では、壁部材1に使用されているボルトBを外す。この場合は図9(b)の拡大図に示されるごとく、接続金具6を取り外すと、下段のH形鋼3と上段のH形鋼4とは切り離されるが、H形鋼4は支保工52の支持力、上下段のH形鋼同士3,4が接続金具の差込部6aと凹部4c又は3cとの嵌合力に比例した一体物としての保持力、埋め戻し用土砂65の土圧により周囲の地盤Eの土圧に抗して自立性を保つ。そして、地下構造物60は、地表部GLまで埋め戻しと敷き均しを繰り返すことによって、図9(b)に示すように完全に埋設されることになる。
【0052】
埋め戻された地盤は重機で締め固められる。その後、少なくとも数ヶ月から1年間程度を目安として埋め戻し用土砂65を養生させ、圧密化を図る。そして、内部地盤の圧密化を確認した後は図10と図11に示すように、各壁部材1を構成している上段のH形鋼4を不図示の回収用治具装置を用いて引き抜き作業が行われる。作業に際しては、まず、貫入ロッド手段71を用いて、地表側から接続金具6付近まで貫入しながら上段のH形鋼4に付着している固化体51などを掻き落とす(以下、これを、はつり作業と言う)。
【0053】
すなわち、貫入ロッド手段71は、図10に示されるごとく先端を傾斜部に形成した回動式ボーリングロッド72と、ボーリングロッド72の上部に設けられて給水部として水道水及び流動化処理土製造プラント74とにホース等を介してそれぞれ接続されるスイベル73と、図10(a)の左側拡大図に示すごとく先端側に設けられている水用吐出部72a及び流動化土用吐出部(メクラ蓋付きの吐出部)72bと、ボーリングロッド72内に設けられてスイベル73の各導入部と各吐出部72a,72bを連通している二重管状の供給通路とを有した構成である。
【0054】
以上の貫入ロッド手段71は作業用重機70に保持された状態で使用される。作業用重機70は、バックホウ等の常用されるものであり、駆動部がテレスコピック式アームに付け変えられ、該アームに対し貫入ロッド手段71を構成しているボーリングロッド72が回転可能に装着保持される。そして、はつり作業時にはポンプPを停止した状態で行う。要領は、例えば、重機70側アームを延ばしつつボーリングロッド72を回転しながら貫入し、かつ水道水を吐出部72aより噴出することによりはつり作業がなされる。この作業箇所としては、図10(a)の上側模式図に示すごとく地山側フランジ4aの外側部、ウエブ4bの両側つまり上記した凹部4cである。この作業をそれぞれ所定深度(接続金具6の付近)まで行うと、H形鋼4の引き抜きが可能となる。
【0055】
その後は、水道を止め、ボーリングロッド72を一旦地表部に引き上げて上記したメクラ蓋を取り去った後、再びはつり取った空洞内部に差し込む。充填作業時には、流動化処理土製造プラント74のポンプPを駆動すると、流動化土がスイベル73及び中心側供給通路を通って吐出部72bから吐出される。この充填作業に際しては、不図示の回収用治具装置(吊り金具、吊り上げ用ワイヤ等)によりH形鋼4の引き抜き作業が行われる。この引き抜き作業では、上記した充填作業が行われ、ボーリングロッド72の吐出部72bより流動化土が吐出されて引き抜き後の間隙や空洞に充填される。この充填作業は、H形鋼4の引き抜き速度と連動して行うことにより、地盤沈下を生じたり、流動化土の地表面からの溢出を防止できる。
【0056】
以後は、同一作業を繰り替えすことにより、各H形鋼4が順次引き抜かれる。回収されたH形鋼4は他の工事に転用するか、或いは鋼材として有効利用される。特に地下構造物が、トンネルや共同溝等のような構造物である場合には回収される鋼材量は膨大となり、省資源化を達成できるものとなる。図11は、以上のようにして構築された地下構造物60及び地下構造物50の両側に設けられている地中連続壁50を模式的に示している。地中連続壁50は、壁部材1同士が互いの継手5を介して剛接合されていると共に、上段のH形鋼4が撤去されている。この例では、下段側H形鋼3の上端に接続金具6が突出されている。
【0057】
以上のように本発明は各請求項で特定される構成を実質的に備えておればよく、細部は形態の説明を参考にして変更可能なものである。一例としては、施工設計において、上段のH形鋼が通常よりも短くなる仕様もある。そのような仕様では、本発明に係る接続金具の差込部と、上下段のH形鋼のうち、該差込部が配置される他方端部の凹部との間の連結力はあまり強くなくてもよいこともある。このため、本発明の「ボルト等の取付用棒材」としては、丸鋼、角鋼などの連結ないしは取付用棒材、つまりボルトと類似するものを用い、差込部が他方端部の凹部に配置された状態で、該凹部を区画している一方フランジ側の取付孔、差込部の挿通孔、他方フランジ側の取付孔に挿入又は圧入する構成も含む。その場合、その棒材の頭部を必要に応じて掘削側から仮溶接しておくとよい。
【符号の説明】
【0058】
1、1A、1B…壁部材
3、3A…下段のH形鋼(3aはフランジ、3bはウエブ、3cは凹部)
4、4A…上段のH形鋼(4aはフランジ、4bはウエブ、4cは凹部)
11…上段のH形鋼(11aはフランジ、11bはウエブ、11cは凹部)
6、6B…接続金具(6aは差込部、8は挿通孔、9は保護材)
6A…接続金具(6aは差込部、8aは挿通孔)
10、12…取付孔
23…仮受用プレート
28…仮受用治具
50…地中連続壁
51…固化体
52…仮設支保工
60…地下構造物(62は側版、64は天版)
71…貫入ロッド手段(72はボーリングロッド、73はスイベル)
B…ボルト(取付用棒材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に建込まれる壁部材を構成している上下段のH形鋼同士を分離可能に連結するもので、H形鋼の一方フランジに設けられた取付孔から他方フランジに設けられた取付孔に向けて操作されるボルト等の取付用棒材と共に用いられ、前記上下段のH形鋼同士を突き合わせる上下端部に亘って配置され、前記取付用棒材を介して前記H形鋼同士を連結する接続金具であって、
前記H形鋼の両フランジ及びウエブで区画している凹部に配置される大きさの鋼材からなり、前記上下端部のうち、一方端部の前記凹部に固定された状態で他方端部の前記凹部に配置される差込部と、前記差込部に設けられて他方端部の前記凹部を区画している両フランジに設けられている前記取付孔に一致する取付用棒材を通す挿通孔とを有していることを特徴とする壁部材用接続金具。
【請求項2】
2個を組として用い、前記一方端部を構成している前記H形鋼の両フランジ及びウエブで区画される各凹部にそれぞれ配置されると共に、前記各凹部に対して溶接により固定するか、前記ウエブに設けられて前記凹部同士を貫通している挿通孔を利用して各接続金具を共通のボルトを介して固定するかの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の壁部材用接続金具。
【請求項3】
前記接続金具のうち、前記差込部が前記凹部内に収まり、かつ前記凹部の両フランジ間にほぼ隙間なく配置されるよう形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の壁部材用接続金具。
【請求項4】
前記差込部は、前記挿通孔を壁厚方向に貫通形成していることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の壁部材用接続金具。
【請求項5】
各壁部材を経時的に固化するソイルセメント等の固化体中に順に建込む地中連続壁構築方法において、
前記壁部材として請求項1から4の何れかに記載の接続金具を有したものを使用し、
前記各壁部材を前記取付用棒材の頭部が地山側と反対の開削部側となるようにして、前記固化体中に順に建込んで地中連続壁を造成する建込み工程と、
前記地中連続壁の開削部側を前記固化した固化体の一部と共に開削してその開削部に地下構造物を築造する構造物築造工程と、
前記地下構造物上の開削部を埋め戻す過程で前記取付用棒材を外し、かつ埋め戻しを完了した後、前記各壁部材を構成している前記上段のH形鋼を引き抜く上部回収工程
とを経ることを特徴とする地中連続壁構築方法。
【請求項6】
前記建込み工程では、前記壁部材を構成している前記下段のH形鋼の両フランジにおける上部外面に仮受用プレートをそれぞれ固定し、かつ前記上下段のH形鋼同士を連結しない態様で、前記下段のH形鋼をその上部を除いて前記固化前の固化体中に建込むと共に、地表側に設置された仮受治具に対し前記仮受用プレートを介して吊り下げ状態に支持した後、前記上段のH形鋼を前記下段のH形鋼に突き合わせて前記接続金具及び前記取付用棒材を介して連結することを特徴とする請求項5に記載の地中連続壁構築方法。
【請求項7】
前記上部回収工程では、回動式ボーリングロッドを有した貫入ロッド手段を用いて、地表側から前記接続金具付近まで貫入して前記上段のH形鋼に付着している固化体を掻き落とし、又は/及び、前記上段のH形鋼の引き抜きに伴って形成される間隙に流動化土を注入充填することを特徴とする請求項5に記載の地中連続壁構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−222943(P2010−222943A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74483(P2009−74483)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000133881)株式会社テノックス (62)
【出願人】(503364146)本間技建株式会社 (6)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【Fターム(参考)】