説明

壁面緑化システム

【課題】 培地の容積が限られる壁面緑化に用いても、植栽の生育及び保全が容易に行える培地と灌水システムからなる壁面緑化システムを提供すること。
【解決手段】 粒状のゼオライトとバーミキュライトとその他の成分を含む培地を成形して、フレームに収納した培地ユニット1を、必要な個数だけ水受けトレー2の上に積み上げて組み立てる。水受けトレー2には水受けトレー2の水位の変化に伴って自動的に給水を行う間歇型補水器4を設置し、毛細管現象により、培地ユニット1の土壌の適切な湿潤状態を継続的に維持する。この培地ユニットに施された植栽3は、根への水と空気の供給状態が適切に維持されるので、過度に根が成長することがなく、限られた体積の培地でも、健常な状態を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は平板状に成形した培地と、該培地を垂直に保持した状態で施された植栽と、該培地に間歇的に水を供給する間歇型補水器を主な構成要素とする壁面緑化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化の対策として、大気中の二酸化炭素量減少が必要であり、そのためには、化石燃料の使用量抑制の他に、森林の面積減少抑制と植物の育成が有効であるとされ、具体化に向け様々な方策が策定されている。一方で、都市部におけるヒートアイランド現象の抑制策として、建築物の屋上や壁面に植栽を施すことの有効性が認められ、全国的に注目を集めている。
【0003】
これらの植栽を施す培地に要求される課題として、可能な限り薄型かつ軽量であることが挙げられる。特に平板状の培地を垂直に保持して植栽を施す壁面緑化システムにおいては、これらの要求条件が厳しくなるのは当然である。
【0004】
一方で、植物の生育に必要不可欠の要素には、太陽光と、水と、空気がある。まず太陽光であるが、植物は、一部の寄生植物を除き、太陽光をエネルギー源として光合成を行い、植物自体を構成する材料を得るとともに生命活動のエネルギー源としているので、太陽光がなければ育つことはない。
【0005】
そして、植物は、その長い歴史の中で、環境に対応し順応した結果、多種多様な進化を経て、適地適木により、現在の繁栄状態を獲得し群落を形成している。さらに言えば、地球上の植物以外の生物は、直接間接に生命維持のエネルギーを植物に依存し、現在使用されている化石燃料や、プラスチック材料の原料もまた、直接間接に植物の光合成による炭水化物に由来するので、植物は太陽光のエネルギーを有用な物質に変換する機能を果たしてきたことになる。
【0006】
水について言えば、植物が水を取り込み、茎葉を通して蒸散を行うことそのものが、植物の生命維持に繋がることになるので重要である。また、植物においても、空気中の酸素は生命維持のための必須成分であり、土壌中の隙間に存在する空気から根を経由して取り入れられていて、湿地では土の中の空気が不足しているので、マングローブのように湿地で生活する植物では地上部の根(気根)を発達させている。
【0007】
また、根に共生する夥しい量の微生物は、有機物を分解しつつ植物が容易に吸収できる化合物の形にしているが、その微生物も土壌中に存在する。従って、水と酸素の取り込み機能をも考慮すると、植物の育成の上で、根と土壌には不可分の関係があり、土壌の組成は重要な要素である。
【0008】
土壌の組成は三相構造によって成り立っていて、三相構造を無視した植栽土壌はあり得ない。この三相構造の構成要素は、『固相』『液相』『気相』の三つであり、これらを最適な状態に維持保全することは、植物の育成に重要であり、壁面緑化植栽の場合においても同様である。
【0009】
固相が岩石、礫などの鉱物によって構成される場合、鉱物は経年変化が少ないため、植物の根系の肥大、伸長の障害となる締め付け作用を発現する。これに対し、自然界の土壌は、一見、礫質、岩石質であっても、中にはその他の物質として腐植有機物などが十分に含まれていることや、土壌の容積に制限がないので、植物の根系の発達に伴い、縦横にいくらでも伸長できるため、締め付けは少ない。垂直な壁面に植栽を施す場合においては、限られた容積の培地を用いることになるが、ここでも土壌を構成する固相を前記のような自然界に近い状態にすることが重要である。
【0010】
植物の根は、養分、水分の豊富な処へ集中して伸長する性質を持っている一方で、養分の乏しい所へ伸長した根は生育が鈍化し、やがて枯死に至るものがある。ところが、植物の水の要求度は極めて気まぐれである。
【0011】
第一に、植物は千差万別の性質を個々に持っていて、水の要求度、つまり一定面積の葉から蒸散する性質も全くばらばらで、これに伴い水分の消費量も一定ではない。さらに植物の生長過程における、幼苗期、生育期、繁茂期、成熟期、開花期、結実期、落葉期、冬眠期などの変化に伴い、蒸散量が全く異なる。
【0012】
第二に気候の変化による外的条件が異なる場合の対応を余儀なくされている植物は、待ったなしの対応をすかさず行わざるを得ない。例えば、低温で雨に曝され、全体の葉の表裏にある気孔が閉じているときに、雲間から太陽が顔を出して、強烈な日射が葉に照りつければ、湿潤だった葉の表面からたちまち水分がなくなり、さらに葉の表面温度の上昇に対応しなければならない。
【0013】
時々刻々、目まぐるしく大幅な変化の起こる気象条件に対応するため、水分の供給源の確保は植物にとって死活問題である。鉢などの人工的な環境での栽培による植物の場合は、水分供給のタイミングが合わないために、水源の確保、水分の貯留がないまま対応できず、『水ストレス』に陥ることが多い。
【0014】
壁面緑化システムにおいては、限られた容積の土壌に水分を維持し、前記第一、第二の条件下に、植物の順調な生育と生長繁茂を確実に行っていくことは容易ではなく、自然界生態系で行われている植物生長のメカニズムとは、あまりにも条件が違うため植物生育の常識は参考にならない。
【0015】
植物の水に対する執着は、他者からは異常とも見え、水を求めて自ら体を張って、その獲得に狂奔しているとも映る。例えば小さな鉢植えのパンジーの根を見てみると、鉢の内壁に根がびっしりと張り付いている。パンジーの生産者は、自動給水システムを導入し、温室の中で一定の条件下で、同じ品種、同じ大きさ、同じ月齢の植物を大量に生産している。
【0016】
給水には、実際に鉢植えに用いているのと同条件の土壌に、乾湿計や温度計を設置して測定値を電気的な信号に変換し、これらデータをコンピュータに入力し、コンピュータ制御で作動する給水装置を用いる方法がとられている例がある。しかし、この方法によっても、個々の鉢について見た場合適切な処置を施すのは困難で、植物に水や空気の過不足に起因する水ストレスが起きている。
【0017】
タイマーなどによって給水を行っている間でも、水や空気が過不足な状態が生じた途端に根茎は伸長し始め、根冠にある根毛を伸長させて、水を求め、水が充満して空気との接触が断たれると空気を求め、根は鉢の中を伸長し続け、白根がびっしりした状態を引き起こす。
【0018】
これらの根は伸びるだけで縮まることがなく、やがてアレロパシーの発生によって活力を失い、根酸の発生とともに根づまりを引き起こし、植物全体の生命にまで及ぶ程の障害にもなる。このような植物の命取りともなる根茎の伸長が、水と空気の過不足に起因するよって起こるとすると、それは植物の生理的欲求の結果である。
【0019】
前記のような自動化された植物管理方法は、一見いかにも良さそうに見えて、植物にとっては迷惑な話であり、そもそも人間が植物を管理するという発想そのものが、必ずしも植物の生理生態を徹底的に究明した上でのことではないので、無理がある。
【0020】
自然の森林に目を向けると、必要な手当をした樹木が永々と命を継いできたとは言えない。例えば屋久島の縄文杉は7000年の年月を、何ら人間とは関係を持たずに生きているという現実がある。つまり樹木が生きるための基本的なメカニズムすら、人間の叡智の遠く及ばないところである。
【0021】
しかしながら、現状で把握できている限りにおいても、植物を順調に生育できる基本的な条件として、(1)根に水が潤沢に供給されていること、(2)根に空気が継続的に供給され根が拡がること、が挙げられ、これらの単純とも言えることが間断なく行われることに尽きる。
【0022】
このような観点から、壁面緑化の培地について考えると、毛細管現象により絶えず土壌に水が供給されることで全体が湿った状態で、しかも土壌を構成する粒子の間に通気用の適当な間隙があることが必要である。つまり、土壌を構成する成分として、水が容易に浸透する空隙を備えた多孔質の鉱物が含まれることが必要である、さらに言えば、前記の締め付け作用を抑制するために、根の伸長に応じて容易に変形し得る成分が含まれていることが望ましい。
【0023】
このような観点から、灌水システムについて見ると、例えば特許文献1には、水分などのセンサーを設置して、無線で伝送される測定情報に基づいて灌水などの必要な処置を施すことを特徴とした全自動植物栽培制御装置が開示されている。しかしながらここに開示されている装置は、多数の部品を要するとともに、電力を消費することから、イニシャルコスト、ランニングコストが多額になる。しかも、個々の植物について運転条件を整合させていないので、必ずしも十分な効果が得られるとは限らない。
【0024】
また、特許文献2には、保水性に優れた土壌を用い、給水や施肥を高効率で行える植物栽培用培地が開示されている。しかしながら、ここに開示されている技術においては、灌水などの時機を制御する手段が開示されていないため、必ずしも十分な効果が期待できない。
【0025】
【特許文献1】 特開2005−117999号公報
【特許文献2】 特開平5−176643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、本発明の課題は、培地の容積が限られる壁面緑化に用いても、植栽の生育及び保全が容易に行える培地と灌水システムからなる壁面緑化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、前記の課題に鑑み、培地に用いる成分の再検討を行い、さらに、本発明者らが先に特開2006−271207として出願した間歇型補水器を適用することを見当した結果、本発明をなすに至ったものである。
【0028】
即ち本発明は、間歇型補水器と、前記間歇型補水器から供給される水を貯留する水受け器と、前記水受け器に底部を接触させた状態で保持された培地を有することを特徴とする壁面緑化システムである。
【0029】
また、本発明は、前記間歇型補水器が、下側に設けられた開口部、一方の端部の上側に設けられた第一の通気孔、及び他方の端部の下側に延在する板状部材に設けられた給水口を有する箱状の気密ケースと、前記気密ケースの外部に設けられ前記通気孔を開閉する塞栓を有する第一浮き部と、前記吸水口を開閉する第二浮き部を有し、前記気密ケースは、内部が隔壁により大容量の浮き室と小容量の気室に区画され、前記浮き室を形成する側壁の前記隔壁と対向する側の下辺、及び前記隔壁の下辺を、前記気密ケースの下辺より上部に形成することにより形成された第一及び第二の通気溝、及び前記気室を形成する側壁の前記隔壁と対向する側の下辺を前記気密ケースの下辺より上部に形成することにより形成された前記第一及び第二の通気溝よりも幅の狭い第三の通気溝、及び気室外壁に第一浮き部を回動自在に保持する第一の嵌合軸、前記板状部材の先端に前記第二浮き部を回動自在に保持する第二の嵌合軸を有し、前記通気口が前記浮き室と前記気室を連通する位置に設けられ、前記第一浮き部は、前記第一の嵌合軸に回動自在に支持された連結部、前記気密ケースの上面を覆い、前記第一の嵌合軸に回動自在に支持され、前記塞栓が前記通気孔に対向する位置に設けられ、前記板状部材の上部まで延在する外竿部、前記外竿部の前記板状部材側に位置する側の端部における幅方向の両端に設けられた二つの浮力体収納部と、前記収納部に収納された浮力体を有し、前記第二浮き部は、前記第二の嵌合軸に可動自在に支持された連結部、前記気密ケースの浮き室内に延在する内竿部、前記内竿部の前記給水口に対向する位置に設けられた給水塞栓、前記内竿部の先端及びほぼ中央の幅方向の両端に設けられた保持部と、前記保持部に保持された浮力体を有することを特徴とする、前記の壁面緑化システムである。
【0030】
また、本発明は、前記間歇型補水器が、前記の間歇型補水器、モータ駆動のポンプ、サイホンを用いて給水を行う貯水槽、電磁弁を備えた貯水槽、ボールタップの少なくともいずれかであることする、前記の壁面緑化システムである。
【0031】
また、本発明は、前記培地が、粒状のゼオライトと粒状のバーミキュライトを含む混和物を成形してなることを特徴とする、前記の壁面緑化システムである。
【0032】
また、本発明は、前記培地、一定の大きさの培地ユニットに形成され、複数の前記培地ユニットを縦横の少なくともいずれかの方向に密接した状態で並べられて構成されることを特徴とする、前記の壁面緑化システムである。
【0033】
また、本発明は、前記培地ユニットの表面の少なくとも一部が、植物が植設される部分を除き、高分子材料からなるフィルム、または高分子材料と金属からなるラミネートフィルムで覆われていることを特徴とする、前記の壁面緑化システムである。
【発明の効果】
【0034】
土壌から植物の根を通して吸収される水分が茎葉に移動する速度は、前述の如くばらばらであり、全くとらえどころがなく、確実に言えることは、急激な気象などの変化によって急激に必要度も変化することである。そのときに土壌が的確に対応できる条件を備えていなければ、植物は、たちまち『水ストレス』を起こし、根の伸長が始まる。
【0035】
つまり、水分や空気との接触状態と根の伸長との関係を考えると、根の伸長は茎葉の欲する水分の確保のために起こり、自発的に始まることはない。茎葉は、気象条件を主とした外的条件が駆動力となって水分を要求し、要求の度合いが強くとも、対応可能な水分が存在すれば、敢えて根系の伸長させることはない。自然は必要以上の要求は決してしないのである。
【0036】
従って、壁面緑化システムのような培地の容積が有限である場合、緊急の水分要求に耐えるだけの余裕を常時備えていることが、植栽の育成維持に必要なことである。それには、垂直な壁面において、植物が取り込める水分を、重力に逆らって如何に貯留するかということに掛かっている。
【0037】
ここで、植物が取り込める水と、取り込めない水について言及すると、取り込めない水とは、(1)壁面の外気と接触する位置にあって、蒸発してしまう水、(2)前記の三層構造における液相の中の重力によって移動する水、(3)固相に結晶水などの形で取り込まれている水、である。外部から供給する水に肥料などの成分が溶解していれば、蒸発する水が多い場合、土壌の中で肥料成分が濃縮され逆の根に様々な障害がおこし、重力によって移動する水が多い場合、それが余剰水として排出され、下水の汚染や河川や海の富栄養化に繋がる。培地に対して上から灌漑を行うことは、前記の事項に照らし、培地に過不足なく給水するには不十分である。
【0038】
このような観点から、植物が取り込める水とは、液相に含まれる吸着水である。培地に吸着水を貯留するには土壌を構成する成分が、毛細管現象により水分を保持することが必要になる。そこで、培地の下面を水に浸して水分を吸い上げる速度を調べたところ、実験に用いた素材の中では、ゼオライト、パーライト、ビーナスライトの順に大きくなるという結果が得られた。
【0039】
ゼオライトは、多孔質の鉱物の代表例であり、主に二酸化ケイ素からなる結晶で、均一な分子レベルの細孔が規則正しく分布していて、一部のケイ素がアルミニウムに置き換わることによって結晶格子全体が負に帯電している。そのため微細孔内に陽イオンが配置され、全体の電荷のバランスを保持している。このような構造のため、その微細孔に水や微生物を吸着し、植物の生長に必要なミネラル分を適度に溶出して、植栽の維持に寄与する。
【0040】
また、ゼオライトは、土壌に老廃物が蓄積され、土壌に含まれる水が硬水化しようとする際に、イオン交換作用軟水化する機能を有する。このイオン交換機能は、アンモニア系化合物形態の窒素の除去が可能で、水質の浄化にも有用である。その他に、ゼオライトは耐熱性が大きいので、壁面緑化システムが設置された建物における万一の火災発生に際して延焼の防止に有用であり、加熱により脱水されても結晶構造が損なわれることなく、水分を取り込んだ微細孔がそのまま空隙として残るので、再び水分やガスを吸着できるという特徴がある。
【0041】
一方、バーミキュライトは片麻岩などの結晶片岩に含まれ、雲母に類似した性状を有する鉱物であり、焼成により結晶水が除かれ、層間に空気を含む多層構造を呈する。従って、ゼオライトと同様に保水性がある他、層間に空気をふくむので、植物の根に酸素も供給する。さらに、薄い層が積層された構造なので、全体が雲母のような可撓性を示し、外力によって容易に変形する。
【0042】
つまり、バーミキュライトは、空気も水も貯留することができる、いわばスポンジ状の貯水槽であり、水を自重の2.5倍以上貯留できる。しかも、スポンジ状で外力が加わると容易に変形するので、培地全体を軽量化するとともに土壌を柔軟にして、根の伸長を妨げないという効果を奏する。このために、多孔性の鉱物のみを用いた場合に見られる根に対する締め付け作用が大幅に緩和される。
【0043】
以上に説明したように、本発明に用いる培地は毛細管現象で水を吸い上げるという方法で培地に水を供給し、給水には先に本発明者らが出願した間歇型補水器を用いるので、電気的なセンサーなどで構成される大掛かりな給水装置を用いなくとも、培地には毛細管現象により適度な水分が補給されるとともに、水の供給が培地の水の要求度に応じて間歇的に行われることから空気も間断なく供給されることになり、植栽を最適な状態に維持することができる。
【0044】
また、培地を適当な大きさの培地ユニットに形成することで、システムを構成する壁面の、形状や面積に対応することが容易になる。さらに本発明に用いる培地の表面は、隣接する培地ユニットとの接触面や、植物を植設する部分を除き、フィルムで覆われているので、培地表面からの不要な水の蒸散が起こらず、水の無駄使いや肥料分などの必要以上の濃縮が起こらないという効果を奏する。
【0045】
培地ユニットを構成するには、所要の大きさの枠に不織布、網もしくはフィルムを張り、それによって形成される空間に、培地を構成する成分を充填するという方法を用いることができる。培地自体に保形性を付与するには、熱可塑性の高分子材料からなる繊維を適当に培地の成分として混合し、適当な圧力で成形した後、当該高分子材料の軟化温度以上の温度に加熱して、繊維の接点を熱融着させることで、繊維の三次元的なネットワークを形性するという方法が考えられる。つまり、繊維のネットワークを培地の結合材として機能させるのである。
【発明を実施するために最良の形態】
【0046】
次に本発明を実施するための最良の形態について説明する。本発明においては、培地の必須成分として、ゼオライトとバーミキュライトを用いるのが特徴であり、他の成分として、従来用いられている素材を併用することが可能である。他の成分の例として、赤玉土、パーミライト、ピートモスなどが挙げられる。成分は前記のものに限定されないが、それらの組成は植栽の種類などの条件により、適宜設定される。
【0047】
培地ユニットの形成にあたっては、培地を構成する成分に熱可塑性の高分子材料からなる繊維を加えて結合材に用いることができるのは前記の通りである。繊維を構成する素材の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体やポリエチレンテレフタレートなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではないことは、培地の成分の場合と同様である。また、繊維の形状は、混合工程や結合材として機能させることを考慮すると、径が0.5mm以下、長さが1〜10mm程度が好ましい。
【0048】
また、培地ユニットの大きさについても特に限定されるものではないが、運搬や壁緑化システムを組み立てる際の作業性などを考慮すると、その重さが20kg以下、縦横の寸法が50cm以下、厚さが10cm以下であることが望ましい。
【実施例】
【0049】
次に図を参照しながら、本発明の実施例について説明する。図1は本発明の実施例に係る壁面緑化システムの概略を示す斜視図である。図1において1は培地ユニット、2は水受けトレー、3は植栽、4は間歇型補水器、5は吸水管である。
【0050】
ここで用いた培地ユニット1の筐体は、ポリプロピレン製で、図における裏側には開口部がなく、ポリプロピレンの板で全面が覆われている。その他の面は、図に示したように組み立てて使用する場合の植物の植設や、水の導通を図るため、開口部が形成されていて、金属製のメッシュや親水性の材質からなる不織布で覆われている。
【0051】
培地には、容量比で10%のゼオライト、20%のバーミキュライト、65%ピートモス、5%結合材用の繊維を混合し、成形したものを用いた。ここでは繊維として、平均径が0.1mm、平均長さが6mmの、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体からなる繊維を用いた。
【0052】
そして、植栽3には、維持管理の多くの工数を必要とせず、冬季においても緑色を維持するという特長を有することから、壁面緑化に適していると考えられるリュウノヒゲを用いた。なお、図1は植栽を概念的に表現していて、必ずしもリュウノヒゲを示しているものではない。
【0053】
また、前記のように、植栽が過度に生長することなく、かつ枯れることなく維持するためには、植物の根が間断なく水と空気に触れることが必要不可欠であり、本発明の構成要素として、間歇型補水器が重要な位置を占める。これには、土壌の水分の含有状態をフィードバックして作動するという条件が要求される。
【0054】
この条件に対応するには、前記のように、モータ駆動のポンプ、サイホンを用いて給水を行う貯水槽、電磁弁を備えた貯水槽、ボールタップなどを適宜組み合わせることにより、給水槽の水位や培地の含水量と連動して、培地に給水可能な装置を構成することができる。ここでは、極めて構造が簡略で、しかもそれ自体の動作に電力などをまったく使用しないという特徴を有する、特開2006−271207公報に開示されている間歇型補水器を用いた例について説明する。
【0055】
図2は本実施例に用いられる間歇型補水器を示す図で、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図である。図1に示す間歇型補水器50は、気密ケース60と、該気密ケース60の外部に設けられ気密ケース60の通気孔66を開閉する第一浮き部70と、該気密ケース60の内部に設けられ給水口62aを開閉する第2浮き部80とから構成されている。
【0056】
前記気密ケース60は、箱の下面が開口し、上面及び側面が気密的に閉じ、内部が大容積の浮き室60aと、小容積の気室60bの2室に隔壁64で区画されている。また、気密ケース60の浮き室60aの一方の外側面壁63及び浮き室60aとの区画隔壁64が、下面から所定寸法短く下面に通気溝60cが形成され、気室60bの一方の外側面壁65が区画隔壁64よりさらに僅かに短く下面に通気溝60dが形成されている。
【0057】
ここでは、通気溝60cは、下面から5ミリの高さとなるように外側面壁63と区画隔壁64が形成され、通気溝60dは下面から6ミリの高さの溝となるように外側面壁65が形成されている。また、浮き室60aの外側面壁63の下端には、外部に延びた水平板61が設けられ、水平板61には下向きに設けた給水パイプ接続部62が設けられている。
【0058】
給水パイプ接続部62は、潅水用のタンク(図示省略)から落差などによる一定の水圧で供給される潅水を、給水パイプを接続して受ける部材で、パイプ受口を有し、逆L字形に曲げられて、水平板61から立ち上がる形に形成されている。給水パイプ接続部の下端は、水平板61の底部に開口した給水口62aとなっている。
【0059】
さらに、水平板61の先端部には、第二浮き部80を回動自在に保持する第二の嵌合軸67が設けられている。嵌合軸67には、第二浮き部80の連結部81の連結孔が嵌められ、第二浮き部80が水位の上下により第二の嵌合軸67を軸として上下に回動する。
【0060】
一方、反対側の左右の気室外壁に第一浮き部70を回動自在に保持する第一の嵌合軸68が設けられている。第一の嵌合軸68には、第一浮き部70の連結部71の連結孔が嵌められ、第一浮き部70が水位の上下により第一の嵌合軸68を軸として上下に回動する。
【0061】
気密ケース60の上面(天井部分)には、前記区画隔壁64の上面に当たる位置に、浮き室60aと気室60bの2室に跨るように開口した通気孔66が設けられている。即ち、通気孔66の中心は、区画隔壁64の中心線上とされ、孔の直径は、区画隔壁64の幅より大きく形成され、浮き室60aと気室60bの両方の室に連通する構造とされている。ここでは、区画隔壁64の幅は1mm、通気孔66の直径は2mmとされている。
【0062】
前記気密ケース60は、前記第2浮き部80が浮力により浮き上がったときに回動する所定角度にあわせ後方が高く形成されている。ここでは、前方の高さ25mmに対し後方が5mm高く形成されている。また、前記第一浮き部70も該気密ケース60の高さに合わせてその連結部71から延びる外竿部72が気密ケース60上面と平行になるように所定角度前方に向かい低く形成されている。
【0063】
次に、前記第一浮き部70について説明する。第1浮き部70は、前記気室外壁の第一の嵌合軸68に回動自在に支持される左右の連結部71と、連結部71の承安に設けられ前記気密ケース60の上面に被さり反対側の水平板61上部まで延びる外竿部72とから構成される。
【0064】
外竿部72には、の前記通気孔66に対向する位置に通気塞栓73が設けられ、さらに外竿部72の先端部の左右には、下向きに二つの浮力体の収納部74が設けられて、収納部74には浮力体75が収容されて浮きとされている。前記通気塞栓73は、耐候性を有する弾性部材からなる円柱形の栓を前記外竿部に設けた取付け孔に嵌合している。
【0065】
この第一浮き部70は、潅水が開始されて、この間歇型補水器が設置されている水受けトレー2の底部水位が上昇したとき、水中に浮かんだ浮力体75の浮力により外竿部72が持ち上げられ、第一の嵌合軸68を軸として上方に回動し、通気孔66に対向する位置に設けられ、通気孔66を塞いでいた通気塞栓73が上に移動し、通気孔66を開き、気密ケース60の浮き室60aと気室60b内の空気を上部(外部)に排出可能とするものである。
【0066】
この動きは、第一浮き部70の重量と、水中の浮力体75が収納された収納部74の体積のバランスによるため、一定の水位となるまでは通気孔66を開かない。通気孔66が閉じられている間は、第二浮き部80は浮き室60a内の空気圧に妨げられて、浮力による上昇が規制される。
【0067】
次に、第二浮き部80について説明する。第2浮き部80は、気密ケース60の前方に延びた水平板61の先端部の第二の嵌合軸67に回動自在に支持される連結部81と、気密ケース60の浮き室60a内に延びる内竿部82とからなり、内竿部82には水平板61の底面に開く前記給水口62aに対向する位置に給水塞栓83が設けられている。前記給水塞栓83は、耐候性を有する弾性部材からなる円柱形の栓を前記内竿部設けた取付け孔に嵌合している。
【0068】
前記浮き室60a内に延びる、内竿部82には浮力体85を保持するため下方に延びた保持部84が前方と左右に設けられている。ここでは合成樹脂発泡体からなる浮力体85を保持するため、保持部84には突起84aを設けている、また、浮力体85の上面が当接する内竿部82の下面に浮力体に突き刺して保持する突起84bを設けている。
【0069】
なお、図2(a)に示すように、第二浮き部80の内竿部82は、浮力体85が底面についている際には、連結部81を軸とした内竿部の先端が下向きとなる角度に形成されており、給水口62aに対向する位置の給水塞栓83が給水口62aから下方に離れ、給水口62aを開いた状態となるように形成されている。このため、浮き室60aに延びる内竿部は、角度を有して立ち上げられている。浮力体85を保持する内竿部の上面は、潅水水位が上昇したとき、浮き室60aの天井に平行となるまで回動する。
【0070】
図2(b)は、本実施例に用いられる間歇型補水器の平面図である。この図では、気密ケース60の上部に第一浮き部70が配設されている状態であり、気密ケース60は、前方に設けられた水平板61とそこから立ち上がる給水パイプ接続部62、水平板61の先端左右に設けられた第二の嵌合軸67が示され、後方は気室60bの外側面壁65が示されている。
【0071】
第一浮き部70は、第一の嵌合軸68に連結された連結部71の上端から角度を有して気密ケース60の上面に並行するように延びる外竿部72と、外竿部72の先端の左右に下向きに設けられた中空の二つの収納部74と、収納部74内に挿入された浮力体75が示されている。
【0072】
図3は、本実施例で用いられる間歇型補水器50の動作状態を示す図で、図3(a)は給水開始状態の動作を示す断面図、図3(b)は給水停止状態の動作を示す断面図である。
【0073】
図3(a)は、潅水された水位がW3の状態まで下がった場合を示す。すなわち、水位W3が通気溝60cと同じ高さとなった状態で、このとき、通気溝60dから気室60b内に閉じ込められていた水を排出し、外気が矢印Aのように流入し、通気孔66の間隙から浮き室60aにも流入し、浮き室60a内の閉じ込められた水をも下部から排出する。このため、浮き室内の水位がW3まで下がり、第2浮き部80が下がり、給水塞栓83が給水口62aから離れ、水圧がかかった給水が給水パイプ接続部62から流れ込む。
【0074】
図3(b)は、潅水された水位がW2の状態まで上がった場合を示す。このとき、第一浮き部70の浮力体74が浮き上がり通気塞栓73を通気孔66から離して、浮き室60a、空気室60b内の空気を矢印Bのように通気孔66から外部に流出させ、空気で遮られていた水が浮き室60a、空気室60bに流入して外部の水位W2と同じ高さまで満たす。このため、第二浮き部80の浮力体85が浮き上がり、内竿部82の先端に設けられた給水塞栓83が給水口62aを塞ぎ、給水を停止させる。
【0075】
このように、ここに示した間歇型補水器50は、水受けトレー2の水位の変化により、自律的に作動するので、水受けトレー2に水が存在する時間帯においては、培地に毛細管現象により給水され、水受けトレー2に水がない時間帯においては、培地に空気が供給され、培地の含水状態を適正に制御することができる。つまり、植栽3の根に必要な水と空気を、間断なく供給することができる。
【0076】
このため、本発明の壁面緑化システムにおける植栽の根は、培地ユニットの範囲以上に伸長する必要がなく、植栽全体を維持するに十分な機能を発現することができる。従って、設置できる空間が制約される壁面緑化システムの普及に対して、本発明が寄与するところは極めて大きいと言える。
【0077】
なお、本発明は、前記具体例に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】 本発明の実施例に係る壁面緑化システムの概略を示す斜視図
【図2】 実施例に用いられる間歇型補水器を示す図で、図2(a)は正面図、図2(b)は平面図。
【図3】 実施例で用いられる間歇型補水器の動作状態を示す図で、図3(a)は給水開始状態の動作を示す断面図、図3(b)は給水停止状態の動作を示す断面図。
【符号の説明】
【0079】
1 培地ユニット
2 水受けトレー
3 植栽
4 間歇型補水器
5 給水管
W2 第2水位
W3 潅水開始水位
50 間歇型補水器
60 気密ケース
60a 浮き室
60b 気室
60c 通気溝
60d 通気溝
61 水平板
62 給水パイプ接続部
62a 給水口
63 外側面壁
64 区画隔壁
65 外側面壁
66 通気孔
67 第二の嵌合軸
68 第一の嵌合軸
70 第1浮き部
71 連結部
72 外竿部
73 通気塞栓
74 収納部
75 浮力体
80 第2浮き部
81 連結部
82 内竿部
83 給水塞栓
84 保持部
84a 突起
84b 突起
85 浮力体
A,B 空気の流れを示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間歇型補水器と、前記間歇型補水器から供給される水を貯留する水受け器と、前記水受け器に底部を接触させた状態で、保持された培地を有することを特徴とする、壁面緑化システム。
【請求項2】
前記間歇型補水器は、下側に設けられた開口部、一方の端部の上側に設けられた第一の通気孔、及び他方の端部の下側に延在する板状部材に設けられた給水口を有する箱状の気密ケースと、前記気密ケースの外部に設けられ前記通気孔を開閉する塞栓を有する第一浮き部と、前記吸水口を開閉する第二浮き部を有し、前記気密ケースは、内部が隔壁により大容量の浮き室と小容量の気室に区画され、前記浮き室を形成する側壁の前記隔壁と対向する側の下辺、及び前記隔壁の下辺を、前記気密ケースの下辺より上部に形成することにより形成された第一及び第二の通気溝、及び前記気室を形成する側壁の前記隔壁と対向する側の下辺を前記気密ケースの下辺より上部に形成することにより形成された前記第一及び第二の通気溝よりも幅の狭い第三の通気溝、及び気室外壁に第一浮き部を回動自在に保持する第一の嵌合軸、前記板状部材の先端に前記第二浮き部を回動自在に保持する第二の嵌合軸を有し、前記通気口が前記浮き室と前記気室を連通する位置に設けられ、前記第一浮き部は、前記第一の嵌合軸に回動自在に支持された連結部、前記気密ケースの上面を覆い、前記第一の嵌合軸に回動自在に支持され、前記塞栓が前記通気孔に対向する位置に設けられ、前記板状部材の上部まで延在する外竿部、前記外竿部の前記板状部材側に位置する側の端部における幅方向の両端に設けられた二つの浮力体収納部と、前記収納部に収納された浮力体を有し、前記第二浮き部は、前記第二の嵌合軸に可動自在に支持された連結部、前記気密ケースの浮き室内に延在する内竿部、前記内竿部の前記給水口に対向する位置に設けられた給水塞栓、前記内竿部の先端及びほぼ中央の幅方向の両端に設けられた保持部と、前記保持部に保持された浮力体を有することを特徴とする、請求項1に記載の壁面緑化システム。
【請求項3】
前記間歇型補水器は、請求項2に記載の間歇型補水器、モータ駆動のポンプ、サイホンを用いて給水を行う貯水槽、電磁弁を備えた貯水槽、ボールタップの少なくともいずれかであることする、請求項1に記載の壁面緑化システム。
【請求項4】
前記培地は、粒状のゼオライトと粒状のバーミキュライトを含む混和物を成形してなることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の壁面緑化システム。
【請求項5】
前記培地は、一定の大きさの培地ユニットに形成され、複数の前記培地ユニットを縦横の少なくともいずれかの方向に密接した状態で並べられて構成されることを特徴とする、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の壁面緑化システム。
【請求項6】
前記培地ユニットの表面の少なくとも一部は、植物が植設される部分を除き、高分子材料からなる板ないしフィルム、または高分子材料と金属からなるラミネートフィルムで覆われていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の壁面緑化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−171939(P2009−171939A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39391(P2008−39391)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(500549261)株式会社ガーデン二賀地 (11)
【Fターム(参考)】