壁面緑化装置
【課題】壁面の植栽された植物の生育を向上させる
【解決手段】表板100の棚部110の開口部112に植栽された植物20は、地面に対して垂直な鉛直方向(重力と逆方向)に生育するので、地面に対し略平行に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。断熱材で構成された表板100と裏板300とで保水基盤200が挟まれており、しかも表板100は棚部110の開口部112以外は開口されていないので、保水基盤200の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、この結果、水分の蒸発が抑制される。更に表板100及び裏板300は、非透水性材で構成されているので、より水分の蒸発が抑制される。したがって、植物20の根22の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物20の生育が良好となる。
【解決手段】表板100の棚部110の開口部112に植栽された植物20は、地面に対して垂直な鉛直方向(重力と逆方向)に生育するので、地面に対し略平行に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。断熱材で構成された表板100と裏板300とで保水基盤200が挟まれており、しかも表板100は棚部110の開口部112以外は開口されていないので、保水基盤200の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、この結果、水分の蒸発が抑制される。更に表板100及び裏板300は、非透水性材で構成されているので、より水分の蒸発が抑制される。したがって、植物20の根22の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物20の生育が良好となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面を緑化する壁面緑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェルトや不織布からなる植栽基盤(保水基盤)を壁面(鉛直面)に固定又は貼り付けて、この植栽基盤(保水基盤)に植物の苗を植え込むことで、地面に垂直な壁面の緑化を行う方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、植栽基盤(保水基盤)の上下に水槽を設けると共に、下側の水槽から上側の水槽へとポンプで水を汲み上げて、水を循環させる機構を有する壁面緑化装置が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−254559号公報
【特許文献2】特開2007−195481号公報
【特許文献3】実用新案登録3129176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、壁面(地面に対して垂直な鉛直面)の緑化は、地面に対して略平行(重力方向に対して直交する方向)に生育(成長)させることになる。しかし、地面に対して略平行に生育(成長)させると、地面に対して垂直に生育(成長)させる場合よりも生育(成長)が著しく劣るなどの生育不良が発生することが判っている。
【0006】
更に、植物が根を張る植栽基盤(保水基盤)は、露出面積が大きいので、温度変動が大きくなりやすく、また、乾燥しやすい。そして、このような観点からも生育不良が発生することがある。
【0007】
よって、鉛直又は略鉛直に配置された壁面の緑化において、従来よりも植物の生育を向上させることが求められている。
【0008】
本発明は、上記を考慮し、壁面に植栽された植物の生育を向上させる壁面緑化装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、断熱材で構成され、鉛直又は略鉛直に配置された表面が緑化対象の壁面を構成する表板と、断熱材で構成され、前記表板と平行に配置された裏板と、前記表板と前記裏板との間に挟まれた保水基盤と、前記保水基盤に給水する給水機構と、前記表板の表面に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部と、前記表板の表面に設けられた前記棚部に形成された開口部から斜め下方に向かって形成され、前記表板の裏面に開口した貫通孔と、前記棚部の前記開口部に植栽された植物と、を備える。
【0010】
請求項1に記載の発明では、緑化対象の壁面を構成する表板の表面(意匠面)に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部の開口部に植物が植栽される。よって、植物は、地面に対して垂直な鉛直方向(重力と逆方向)に生育するので、地面に対し略平行に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。
【0011】
また、植栽された植物の根は表板の裏面の開口から出て、保水基盤全域に亘って張ることが可能である。
【0012】
また、断熱材で構成された表板と裏板とで保水基盤が挟まれており、しかも表板は棚部の開口部以外は開口されていないので、保水基盤の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、保水基盤からの水分の蒸発が抑制される。
【0013】
したがって、植物の根の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物の生育が良好となる。つまり、本発明が適用されていない壁面緑化装置と比較し、壁面に植栽された植物の生育が向上する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記表板及び前記裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されている。
【0015】
請求項2に記載の発明では、表板及び裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されているので、水分の蒸発が更に抑制される。よって、植物の生育が更に向上する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記表板の裏面には、溝が形成されている。
【0017】
請求項3に記載の発明では、表板の裏面の形成された溝に沿って、植物は根を張ることができる。よって、保水基盤の広範囲に容易に根を張ることができるので、植物の生育が更に向上する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の上端部から給水し、前記保水基盤の下端部から排水して掛け流す。
【0019】
請求項4に記載の発明では、保水基盤の上端部から給水し、保水基盤の下端部から排水して掛け流している。よって、水を循環させる方式と比較し、根酸による保水基盤中の水分の酸化が抑制され、その結果、植物の生育が向上する。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の上端部の上に長手方向に沿って配設されたホースと、前記ホースに長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記ホースに流れる水を水滴として落とす水滴機構と、を有する。
【0021】
請求項5に記載の発明では、ホースに水を流すことによって、ホースに設けられた水滴機構から水滴を落として、保水基基盤に給水する(潅水する)。よって、容易に保水基盤の上端部から給水して掛け流せる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記給水機構は、水が貯留され、前記保水基盤の上端部の長手向全域が前記水に浸水した給水ケースを有する。
【0023】
請求項6に記載の発明では、給水ケースに水を補給することで、容易に保水基盤の長手方向全域に略均等に給水できる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の下端部から排水された水を貯留する排水ケースと、を有する。
【0025】
請求項7に記載の発明は、保水基盤の下端部から排水された水は排水ケースで一旦端貯留し、貯留した水を廃棄するので、排水の処理が容易である。
【0026】
請求項8に記載の発明は、少なくとも、前記表板、前記裏板、及び前記保水基盤が一体化されることによって植栽容器が構成されている。
【0027】
請求項8に記載の発明では、植栽容器を壁に取り付けたり(壁にかけたり)、イーゼル等に載せたりすることで、絵画を飾るように所望の壁面を容易に緑化することができる。なお、給水機構を植栽容器と一体化してもよい。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記表板の表面が、建物内壁又は建物外壁の一部又は全部を構成する。
【0029】
請求項9に記載の発明では、表板と裏板とが断熱材で構成されているので、建物内壁又は建物外壁の断熱効果が向上する。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、植物の根の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、壁面に植栽された植物の生育を向上させることができる。
【0031】
請求項2に記載の発明によれば、水分の蒸発が更に抑制されるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0032】
請求項3に記載の発明によれば、溝に沿って広範囲に容易に植物は根を張ることができるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0033】
請求項4に記載の発明によれば、根酸による保水基盤中の水分の酸化が抑制又は防止されるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0034】
請求項5に記載の発明によれば、ホースに水を流し水滴を落とすことで、容易に保水基盤の上端部から給水して掛け流すことができる。
【0035】
請求項6に記載の発明によれば、給水ケースに水を補給することで、容易に保水基盤の長手方向全域に略均等に給水することできる。
【0036】
請求項7に記載の発明によれば、容易に排水を処理することができる。
【0037】
請求項8に記載の発明によれば、絵画を飾るように、所望の壁を容易に緑化することができる。
【0038】
請求項9に記載の発明によれば、建物内壁又は建物外壁を緑化すると共に、断熱効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置を示す幅方向に沿った縦断面図である。
【図2】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置を斜め前方から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の表板の表面を示す正面図である。
【図4】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の表板の裏面を示す斜め後方側から見た斜視図である。
【図5】図4の表板の裏面に保水基盤(植栽基盤)を重ねた状態を示す斜め後方から見た斜視図である。
【図6】図5の保水基盤の裏面に裏板を重ねた状態を示す斜め後方から見た斜視図である。
【図7】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の給水機構を斜め前方から見た斜視図である。
【図8】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の給水機構を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【図9】変形例の給水機構を斜め前方から見た斜視図である。
【図10】変形例の給水機構を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【図11】建物内壁又は建物外壁の全面を緑化した状態を示す正面図である。
【図12】本発明の実施家形態に係る植栽容器(壁面緑化装置)をイーゼルに載せて飾った状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1〜図8を用いて、本発明の実施形態に係る壁面緑化装置について説明する。
【0041】
図1に示すように、壁面緑化装置10は、表面100Aが鉛直(地面に対して垂直)に配置された正面視四角形状の表板(表面化粧板)10を有している。表板100の裏面100Bには保水基盤(植栽基盤)200が設けられ(図5も参照)、保水基盤200の裏側には裏板300が設けられている(図6参照)。更に、裏板300の裏には、裏蓋400が設けている。そして、表板100と裏蓋400とがボルト50とナット60とで結合されることによって、表板100と裏板300との間に保水基盤200が挟まれて一体化されたサンドイッチ構造を構成している。
【0042】
そして、図1と図2とに示すように、これらの周囲が枠体500で囲まれ、植栽容器12を構成している。なお、本実施形態では、後述する給水機構600も植栽容器12と一体化されている。よって、壁面緑化装置10と植栽容器12とは同じものを指すことになる。なお、以下では、壁面緑化装置10と植栽容器12とを適宜使い分けて記載している。
【0043】
図1と図2に示すように、前述したように、壁面緑化装置10の意匠面を構成する鉛直に配置される表板(表面化粧板)100の表面100Aには、凹凸が形成されることによって複数の棚部110が設けられている(図3も参照)。なお、本実施形態では、表板100の表面100Aは、岩肌風に凹凸(棚部110)が形成されると共に、岩肌風に着色されている。つまり、表板100の表面100Aは岩肌風に意匠加工されている。そして、これらの棚部110に形成された開口部112(図3も参照)に植物20が植栽され、図1に示すように、壁面緑化装置10を部屋の壁90に取り付けつけることによって、言い換えると、植栽容器12を壁90に取り付けることによって、絵画を飾るように部屋の壁90を緑化する。
【0044】
なお、壁面緑化装置10(植栽容器12)を壁90に取り付ける方法は、どのような方法であってもよい。ピクチャーレール等にワイヤーで吊りさげてもよいし、壁90にフックなどを固定し、このフックにかけるようにしてもよい。或いは、壁90にボルトとナットで固定してよい。また、ボルトとナットで固定してもよい。また、表板100と裏蓋400とを結合するボルト50とナット60を利用して壁90に固定してもよい。更にこの場合、裏蓋400を設けずに壁90に裏板300が当る構成であってもよい(壁90が裏蓋400を兼ねる構造であってもよい)。
【0045】
また、別途生産圃場で予め生産(育てられた)植物20(の苗)を棚部110の開口部112に植栽する。また、各図及び本説明では、各植物には同一の符号20を付しているが、各棚部110の開口部112に異なる種類の植物を植栽してもよい。
【0046】
また、このように壁面緑化装置10(植栽容器12)を壁90に取り付けた状態における鉛直方向上方側が各図の矢印Z方向であり、水平方向正面側(表面100A側)が矢印X方向であり、水平方向左側が矢印Y方向である。また、X方向が幅方向、Y方向が長手方向とする。
【0047】
図1と図3に示すように、表板100の棚部110に開口部112が形成され、図1と図4とに示すように、開口部112から斜め下方に向かって貫通孔114が形成され、裏面100Bに開口されている(図8も参照)。また、図4に示すように、表板100の裏面100Bには、格子状(上下左右)に溝118(表面100A側(X方向)に向けて凹となった凹溝)が形成されている。
【0048】
図1に示すように、本実施形態では、表板100の裏面100Bの上端部には、裏側に向けて突出する断面L字状の上受部102が形成されている。また、表板100の裏面100Bの下端部には、裏側に向けて突出する断面L字状の下受部103が形成されている。
【0049】
なお、本実施形態では、表板100は、厚みが約50mm〜150mm程度のボード(意匠加工される前のボード)に、前述した凹凸、棚部110、開口部112、貫通孔114を形成し、表面100Aを岩肌風に着色したものとされている。なお、凹凸、棚部110、開口部112、及び貫通孔114の形成方法は特に限定されない。例えば、型成形によって、凹凸、棚部110、開口部112、及び貫通孔114が形成された表板100を成形してもよい。
【0050】
表板100(ボード)の素材としては、発泡ウレタンなどの軽量で断熱性と非透水性がある素材に繊維補強等で強化した材料とされている。また、表板100の表面100Aの着色は耐候性塗料で行なわれている。なお、表板100(ボード)の素材としては、断熱性があるものであれば特に限定されない。例えば、木材や石膏ボードなどであってもよい。また、非透水性である方が望ましい。しかし、表板100の構成する素材自体が非透水性でなくても、表板100に非透水性の塗装やコーティングをすることで、非透水性能を確保してもよい。
【0051】
また、表板100の意匠加工後の厚み(図1参照)は、強度と植物20の生育性能が確保される範囲において薄い方が好ましい。
【0052】
保水基盤(植栽基盤)200は、植物20が根を張ることが可能な保水性の高い素材、例えば、フェルト、不織布、ウレタンスポンジ、ヤシ繊維、導水シートなどで構成されている。なお、これらの素材に熱感応性ゲルや保水ゲルを混入し、保水性能を高くしてもよい。
【0053】
裏板300は、表板100と同様に断熱性と非透水性がある素材、例えば、コンパネ、塩ビボード、スレート板、金属板、木材、発泡ウレタンなどで構成されている。なお、裏板300の素材としては、断熱性があるものであれば特に限定されない。また、非透水性である方が望ましい。しかし、裏板300を構成する素材自体が非透水性でなくても、非透水性の塗装やコーティングをすることで、非透水性能を確保してもよい。
【0054】
また、裏蓋400は、壁に固定可能な強度を有する素材、例えば、コンパネ、塩ビボード、スレート板、金属板、木材などで構成されている。
【0055】
枠体500は、壁に固定可能な強度を有する素材、鋼鉄、アルミ、樹脂などで構成されている。また、額縁のように枠体500の表面(意匠面)に、飾りや着色などが施されていでもよい。
【0056】
なお、本実施形態では、裏板300と裏蓋400とは別部材構成とされているが、裏板300が裏蓋400を兼ねる構成であってもよい。
【0057】
つぎに、保水基盤(植栽基盤)200に給水(潅水)する給水機構600について、説明する。
【0058】
図7に示すように、給水機構600は、複数の滴下ニップル等のドリップ装置620が設けられた給水ホース610と、排水ケース650と、を有している。
【0059】
給水ホース610は、図1に示すように、壁面緑化装置10(植栽容器12)の中の上部における保水基盤200の上端200Uの上方に、長手方向(Y方向)に沿って配設されている(図1に示すように、給水ホース610は表板100の上受部102の下側に配設されている)。図7に示すように、給水ホース610には長手方向に間隔をあけてドリップ装置620が複数設けられている。
【0060】
図8に示すように、ドリップ装置620は、給水ホース610に水を流すと水滴Sが落ちる機構を有する。なお、ドリップ装置620は、従来と同様の構成(市販品)であるので、説明を省略する。
【0061】
なお、本実施形態では、ドリップ装置620は、長手方向に沿って約10cm〜15cm間隔で設けられている。また、本実施形態では、水滴Sは約3リットル/時間の吐出量のものを用いている。
【0062】
図1に示すように、排水ケース650は、壁面緑化装置10(植栽容器12)の中の下部における保水基盤200の下に、長手方向に沿って配設されている(図1に示すように、排水ケース650は下受部103に設けられている)。そして、図1と図7とに示すように、保水基盤200の下端部220が排水ケース650の中に入れられている。
【0063】
なお、図2に示すように、壁面緑化装置10(植栽容器12)の側面における上部には、給水ホース610に給水するための給水口630が設けられている、また、壁面緑化装置10(植栽容器12)の側面における下部には、排水ケース650に溜まった水を排水するための排水口660が設けられている。
【0064】
そして、給水口630から給水することで、各ドリップ装置620から水滴S(図8参照)が保水基盤200に落ちて給水(潅水)する。給水された水は、保水基盤200の毛管力によって保水基盤200の全体に浸透する。給水(潅水)された水は保水基盤200の全体に浸透したのち、余剰水となって排水ケース650に貯められる。排水ケース650に貯留された余剰水は排水口660から抜くことができる。
【0065】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0066】
図1に示すように、表板100の棚部110の開口部112に植栽された植物20は、地面に対して垂直な鉛直方向に(重力方向に沿って)生育するので、地面に対し略平行(重力方向と直交する方向)に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。
【0067】
また、植栽された植物20の根22は表板100の裏面100Bの貫通孔114の開口から出て、保水基盤200の全域に亘って根を張ることできる。更に、表板100の裏面100Bに形成された溝118(図4参照)に沿って、植物20は根22を張ることができる。よって、植物20は、保水基盤200の広範囲に容易に根22を張ることができる。これにより、植物20の生育が更に向上する。
【0068】
また、断熱材で構成された表板100と裏板300とで保水基盤200が挟まれており、しかも表板100は棚部110の開口部112以外は開口されていないので、保水基盤200の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、保水基盤200からの水分の蒸発が抑制される。更に表板100及び裏板300は、非透水性材で構成されているので、更に水分の蒸発が抑制される。
【0069】
したがって、植物20の根22の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物20の生育が良好となる。
【0070】
また、給水機構600は、保水基盤200の上端200Uから給水し、保水基盤200の下端部220から排水して掛け流している。よって、下端部220から排水された余剰水をポンプなどに汲み上げて、保水基盤200に再度給水する方式、つまり水を循環させる循環方式と比較し、根酸による保水基盤200中の水の酸化が抑制される。よって、植物20の生育が向上する。
【0071】
ここで、本発明者が、本構成で水を長期に亘って循環させた場合、生育(成長)が劣るなどの生育不良が発生した。この原因を本発明者が調査及び分析すると、循環させている循環水(保水基盤200中の水)のPHが低下し酸化していることが判った。よって、生育不良の原因は循環水の酸化によるものと考えられる。そして、この循環水の酸化は、水を循環させることによって、植物20の根22が分泌する根酸(有機酸)の循環水中の濃度が上がることによって引き起こされる現象と考える。なお、このような循環方式のデメリット(循環水の酸化による植物の生育不良)は、本発明者が初めて発見したことである。
【0072】
また、本実施形態では、給水ホース610に設けられたドリップ装置620から水滴Sを落として、保水基盤200に全体に給水する(潅水する)つまり、給水ホース610に水を流すことで、容易に保水基盤200に給水することができる(掛け流すことができる)。
【0073】
また、保水基盤200の下端部220から排水された余剰水は排水ケース650で一旦端貯留し、貯留した水を排水するので、余剰水の処理が容易である。
【0074】
また、表板100、裏板300、保水基盤200、及び給水機構600が一体化された植栽容器12(壁面緑化装置10)を部屋の壁90に取り付けることで、絵画を壁90に飾るように、容易に部屋の壁90が緑化される。
【0075】
つぎに、給水機構の変形例について、図9と図10とを用いて説明する。図9は変形例の給水機構700を斜め前方から見た斜視図であり、図10は図9の変形例の給水機構700を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【0076】
変形底の給水機構700は、図9に示すように、給水ケース710と、排水ケース650と、を有している。
【0077】
給水ケース710は、植栽容器12の中の上部に、長手方向に沿って配設されている。そして、保水基盤200の上端部210が曲げられ、給水ケース710に貯留されている水の中に浸されている。
【0078】
そして、図10に示すように、給水口630から給水し給ケース710に水を貯留することで、保水基盤200の毛管力によって保水基盤200の全体に浸透する。余剰水は、同様に排水ケース650に貯められ、貯められた余剰水は排水口660から抜くことができる。
【0079】
なお、本変形例のように、保水基盤200の上端部210の長手方向全域が、給水ケース710に貯留されている水に浸されているので、保水基盤200の長手方向全域に、より均一に給水(浸透)させることができる。
【0080】
ここで、植栽容器12(壁面緑化装置10)は、必ずしも、壁に取り付けて飾らなくてもよい。例えば、図12に示すように、イーゼル800に載せて飾ってもよい。なお、この場合の壁面の緑化とは、部屋の空間内の緑化したい任意の壁面を指すことになる。つまり、表板100の表面100Aが緑化したい壁面である。なお、このような場合、表板100は、鉛直に配置されていなくてもよい。略鉛直であってもよい(多少角度があってもよい)。
【0081】
なお、略鉛直とは、本発明が適用された植栽容器(壁面緑化装置)を鉛直に配置した場合よりも生育(成長)が著しく劣るなどの生育不良が発生しない角度範囲であり、植物によっても異なるが、地面に対して、60°〜90°である。
【0082】
また、本実施形態では、植栽容器12を壁90に取り付けたが、図1に示す二点破線(想像線)の壁90が示すように、壁90の中に壁面緑化装置10(植栽容器12)が埋め込まれた構成となっていてもよい。
【0083】
具体的には、図11に示すように、壁90全面(又は略全面)が表板100(の表面100A)で構成される。なお、図11では、複数の表板100(複数の壁面緑化装置10)を並べて、壁90を構成しているが、一枚の表板(一つの壁面緑化装置)で壁90全面(また略全面)を構成してもよい。或いは、壁90の一部のみが表板100(の表面100A)で構成されていてもよい。
【0084】
また、このような構成の場合、排水口660を建物の内の排水パイプ(排水官)に連結して余剰水を排水するようにしてもよい。
【0085】
更に、植栽容器12を部屋の壁90でなく、建物外壁に取り付けてもよい。或いは、外壁の一部又は全部を表板100が構成してもよい。言い換えると、建物外壁の中に壁面緑化装置10(植栽容器12)が埋め込まれた構成となっていてもよい(図1、図11の壁90が外壁となった構造であってもよい)。なお、建物内壁と建物外壁の両方を緑化してもよい。
【0086】
また、建物外壁に本発明を適用する場合、排水ケース650を設けずに、余剰水を土壌や下水溝に直接排水するようにしてもよい。また、雨水を利用して給水するようにしてもよい。
【0087】
また、建物外壁や建物内壁(壁90)に本発明を適用した場合、壁面緑化装置10の断熱材で構成された表板100及び裏板300と水を含んだ保水基盤200とによって、気温緩和効果(夏期には建物(構造物)の温度上昇抑制、冬期には建物(構造物)の断熱効果)や防音効果が得られる。
【0088】
特に、建物外壁の緑化は、外張り断熱効果、耐暴風効果、防火的効用や火災延焼防止効果(植物20及び給水された保水基盤200による効果)等が得られる。また、植物による景観の向上や温暖化防止効果(CO2吸収効果)も得られる。
【0089】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0090】
例えば、上記実施形態では、保水基盤200への給水は、掛け流し方式であったが、これに限定されない。排水ケース650の余剰水をポンプなどで汲み上げ保水基盤200に給水する循環方式であってもよい。但し、長期間に亘って循環させると、前述したように根酸の濃度が上がり植物20の生育に影響が出るので、影響が出る前に循環させている水を交換するようにすればよい。言い換えると、植物の生育に影響が出ない期間内で、水を循環させるようにすればよい。
【0091】
また、例えば、上記実施形態では、建物外壁、建物内壁、部屋の中の緑化が対象であってあったがこれに限定されない。例えば、部屋の中のパーテンションや屋外の柵や塀などを緑化対象としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 壁面緑化装置
12 植栽容器
20 植物
22 根
100 表板
110 棚部
112 開口部
114 貫通孔
118 溝
200 保水基盤
300 裏板
600 給水機構
610 ホース
620 ドリップ装置(水滴機構)
650 排水ケース
700 給水機構
710 給水ケース
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁面を緑化する壁面緑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェルトや不織布からなる植栽基盤(保水基盤)を壁面(鉛直面)に固定又は貼り付けて、この植栽基盤(保水基盤)に植物の苗を植え込むことで、地面に垂直な壁面の緑化を行う方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、植栽基盤(保水基盤)の上下に水槽を設けると共に、下側の水槽から上側の水槽へとポンプで水を汲み上げて、水を循環させる機構を有する壁面緑化装置が提案されている(例えば、特許文献2、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−254559号公報
【特許文献2】特開2007−195481号公報
【特許文献3】実用新案登録3129176号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、壁面(地面に対して垂直な鉛直面)の緑化は、地面に対して略平行(重力方向に対して直交する方向)に生育(成長)させることになる。しかし、地面に対して略平行に生育(成長)させると、地面に対して垂直に生育(成長)させる場合よりも生育(成長)が著しく劣るなどの生育不良が発生することが判っている。
【0006】
更に、植物が根を張る植栽基盤(保水基盤)は、露出面積が大きいので、温度変動が大きくなりやすく、また、乾燥しやすい。そして、このような観点からも生育不良が発生することがある。
【0007】
よって、鉛直又は略鉛直に配置された壁面の緑化において、従来よりも植物の生育を向上させることが求められている。
【0008】
本発明は、上記を考慮し、壁面に植栽された植物の生育を向上させる壁面緑化装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、断熱材で構成され、鉛直又は略鉛直に配置された表面が緑化対象の壁面を構成する表板と、断熱材で構成され、前記表板と平行に配置された裏板と、前記表板と前記裏板との間に挟まれた保水基盤と、前記保水基盤に給水する給水機構と、前記表板の表面に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部と、前記表板の表面に設けられた前記棚部に形成された開口部から斜め下方に向かって形成され、前記表板の裏面に開口した貫通孔と、前記棚部の前記開口部に植栽された植物と、を備える。
【0010】
請求項1に記載の発明では、緑化対象の壁面を構成する表板の表面(意匠面)に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部の開口部に植物が植栽される。よって、植物は、地面に対して垂直な鉛直方向(重力と逆方向)に生育するので、地面に対し略平行に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。
【0011】
また、植栽された植物の根は表板の裏面の開口から出て、保水基盤全域に亘って張ることが可能である。
【0012】
また、断熱材で構成された表板と裏板とで保水基盤が挟まれており、しかも表板は棚部の開口部以外は開口されていないので、保水基盤の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、保水基盤からの水分の蒸発が抑制される。
【0013】
したがって、植物の根の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物の生育が良好となる。つまり、本発明が適用されていない壁面緑化装置と比較し、壁面に植栽された植物の生育が向上する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記表板及び前記裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されている。
【0015】
請求項2に記載の発明では、表板及び裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されているので、水分の蒸発が更に抑制される。よって、植物の生育が更に向上する。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記表板の裏面には、溝が形成されている。
【0017】
請求項3に記載の発明では、表板の裏面の形成された溝に沿って、植物は根を張ることができる。よって、保水基盤の広範囲に容易に根を張ることができるので、植物の生育が更に向上する。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の上端部から給水し、前記保水基盤の下端部から排水して掛け流す。
【0019】
請求項4に記載の発明では、保水基盤の上端部から給水し、保水基盤の下端部から排水して掛け流している。よって、水を循環させる方式と比較し、根酸による保水基盤中の水分の酸化が抑制され、その結果、植物の生育が向上する。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の上端部の上に長手方向に沿って配設されたホースと、前記ホースに長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記ホースに流れる水を水滴として落とす水滴機構と、を有する。
【0021】
請求項5に記載の発明では、ホースに水を流すことによって、ホースに設けられた水滴機構から水滴を落として、保水基基盤に給水する(潅水する)。よって、容易に保水基盤の上端部から給水して掛け流せる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記給水機構は、水が貯留され、前記保水基盤の上端部の長手向全域が前記水に浸水した給水ケースを有する。
【0023】
請求項6に記載の発明では、給水ケースに水を補給することで、容易に保水基盤の長手方向全域に略均等に給水できる。
【0024】
請求項7に記載の発明は、前記給水機構は、前記保水基盤の下端部から排水された水を貯留する排水ケースと、を有する。
【0025】
請求項7に記載の発明は、保水基盤の下端部から排水された水は排水ケースで一旦端貯留し、貯留した水を廃棄するので、排水の処理が容易である。
【0026】
請求項8に記載の発明は、少なくとも、前記表板、前記裏板、及び前記保水基盤が一体化されることによって植栽容器が構成されている。
【0027】
請求項8に記載の発明では、植栽容器を壁に取り付けたり(壁にかけたり)、イーゼル等に載せたりすることで、絵画を飾るように所望の壁面を容易に緑化することができる。なお、給水機構を植栽容器と一体化してもよい。
【0028】
請求項9に記載の発明は、前記表板の表面が、建物内壁又は建物外壁の一部又は全部を構成する。
【0029】
請求項9に記載の発明では、表板と裏板とが断熱材で構成されているので、建物内壁又は建物外壁の断熱効果が向上する。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、植物の根の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、壁面に植栽された植物の生育を向上させることができる。
【0031】
請求項2に記載の発明によれば、水分の蒸発が更に抑制されるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0032】
請求項3に記載の発明によれば、溝に沿って広範囲に容易に植物は根を張ることができるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0033】
請求項4に記載の発明によれば、根酸による保水基盤中の水分の酸化が抑制又は防止されるので、植物の生育を更に向上させることができる。
【0034】
請求項5に記載の発明によれば、ホースに水を流し水滴を落とすことで、容易に保水基盤の上端部から給水して掛け流すことができる。
【0035】
請求項6に記載の発明によれば、給水ケースに水を補給することで、容易に保水基盤の長手方向全域に略均等に給水することできる。
【0036】
請求項7に記載の発明によれば、容易に排水を処理することができる。
【0037】
請求項8に記載の発明によれば、絵画を飾るように、所望の壁を容易に緑化することができる。
【0038】
請求項9に記載の発明によれば、建物内壁又は建物外壁を緑化すると共に、断熱効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置を示す幅方向に沿った縦断面図である。
【図2】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置を斜め前方から見た斜視図である。
【図3】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の表板の表面を示す正面図である。
【図4】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の表板の裏面を示す斜め後方側から見た斜視図である。
【図5】図4の表板の裏面に保水基盤(植栽基盤)を重ねた状態を示す斜め後方から見た斜視図である。
【図6】図5の保水基盤の裏面に裏板を重ねた状態を示す斜め後方から見た斜視図である。
【図7】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の給水機構を斜め前方から見た斜視図である。
【図8】本発明の実施家形態に係る壁面緑化装置の給水機構を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【図9】変形例の給水機構を斜め前方から見た斜視図である。
【図10】変形例の給水機構を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【図11】建物内壁又は建物外壁の全面を緑化した状態を示す正面図である。
【図12】本発明の実施家形態に係る植栽容器(壁面緑化装置)をイーゼルに載せて飾った状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1〜図8を用いて、本発明の実施形態に係る壁面緑化装置について説明する。
【0041】
図1に示すように、壁面緑化装置10は、表面100Aが鉛直(地面に対して垂直)に配置された正面視四角形状の表板(表面化粧板)10を有している。表板100の裏面100Bには保水基盤(植栽基盤)200が設けられ(図5も参照)、保水基盤200の裏側には裏板300が設けられている(図6参照)。更に、裏板300の裏には、裏蓋400が設けている。そして、表板100と裏蓋400とがボルト50とナット60とで結合されることによって、表板100と裏板300との間に保水基盤200が挟まれて一体化されたサンドイッチ構造を構成している。
【0042】
そして、図1と図2とに示すように、これらの周囲が枠体500で囲まれ、植栽容器12を構成している。なお、本実施形態では、後述する給水機構600も植栽容器12と一体化されている。よって、壁面緑化装置10と植栽容器12とは同じものを指すことになる。なお、以下では、壁面緑化装置10と植栽容器12とを適宜使い分けて記載している。
【0043】
図1と図2に示すように、前述したように、壁面緑化装置10の意匠面を構成する鉛直に配置される表板(表面化粧板)100の表面100Aには、凹凸が形成されることによって複数の棚部110が設けられている(図3も参照)。なお、本実施形態では、表板100の表面100Aは、岩肌風に凹凸(棚部110)が形成されると共に、岩肌風に着色されている。つまり、表板100の表面100Aは岩肌風に意匠加工されている。そして、これらの棚部110に形成された開口部112(図3も参照)に植物20が植栽され、図1に示すように、壁面緑化装置10を部屋の壁90に取り付けつけることによって、言い換えると、植栽容器12を壁90に取り付けることによって、絵画を飾るように部屋の壁90を緑化する。
【0044】
なお、壁面緑化装置10(植栽容器12)を壁90に取り付ける方法は、どのような方法であってもよい。ピクチャーレール等にワイヤーで吊りさげてもよいし、壁90にフックなどを固定し、このフックにかけるようにしてもよい。或いは、壁90にボルトとナットで固定してよい。また、ボルトとナットで固定してもよい。また、表板100と裏蓋400とを結合するボルト50とナット60を利用して壁90に固定してもよい。更にこの場合、裏蓋400を設けずに壁90に裏板300が当る構成であってもよい(壁90が裏蓋400を兼ねる構造であってもよい)。
【0045】
また、別途生産圃場で予め生産(育てられた)植物20(の苗)を棚部110の開口部112に植栽する。また、各図及び本説明では、各植物には同一の符号20を付しているが、各棚部110の開口部112に異なる種類の植物を植栽してもよい。
【0046】
また、このように壁面緑化装置10(植栽容器12)を壁90に取り付けた状態における鉛直方向上方側が各図の矢印Z方向であり、水平方向正面側(表面100A側)が矢印X方向であり、水平方向左側が矢印Y方向である。また、X方向が幅方向、Y方向が長手方向とする。
【0047】
図1と図3に示すように、表板100の棚部110に開口部112が形成され、図1と図4とに示すように、開口部112から斜め下方に向かって貫通孔114が形成され、裏面100Bに開口されている(図8も参照)。また、図4に示すように、表板100の裏面100Bには、格子状(上下左右)に溝118(表面100A側(X方向)に向けて凹となった凹溝)が形成されている。
【0048】
図1に示すように、本実施形態では、表板100の裏面100Bの上端部には、裏側に向けて突出する断面L字状の上受部102が形成されている。また、表板100の裏面100Bの下端部には、裏側に向けて突出する断面L字状の下受部103が形成されている。
【0049】
なお、本実施形態では、表板100は、厚みが約50mm〜150mm程度のボード(意匠加工される前のボード)に、前述した凹凸、棚部110、開口部112、貫通孔114を形成し、表面100Aを岩肌風に着色したものとされている。なお、凹凸、棚部110、開口部112、及び貫通孔114の形成方法は特に限定されない。例えば、型成形によって、凹凸、棚部110、開口部112、及び貫通孔114が形成された表板100を成形してもよい。
【0050】
表板100(ボード)の素材としては、発泡ウレタンなどの軽量で断熱性と非透水性がある素材に繊維補強等で強化した材料とされている。また、表板100の表面100Aの着色は耐候性塗料で行なわれている。なお、表板100(ボード)の素材としては、断熱性があるものであれば特に限定されない。例えば、木材や石膏ボードなどであってもよい。また、非透水性である方が望ましい。しかし、表板100の構成する素材自体が非透水性でなくても、表板100に非透水性の塗装やコーティングをすることで、非透水性能を確保してもよい。
【0051】
また、表板100の意匠加工後の厚み(図1参照)は、強度と植物20の生育性能が確保される範囲において薄い方が好ましい。
【0052】
保水基盤(植栽基盤)200は、植物20が根を張ることが可能な保水性の高い素材、例えば、フェルト、不織布、ウレタンスポンジ、ヤシ繊維、導水シートなどで構成されている。なお、これらの素材に熱感応性ゲルや保水ゲルを混入し、保水性能を高くしてもよい。
【0053】
裏板300は、表板100と同様に断熱性と非透水性がある素材、例えば、コンパネ、塩ビボード、スレート板、金属板、木材、発泡ウレタンなどで構成されている。なお、裏板300の素材としては、断熱性があるものであれば特に限定されない。また、非透水性である方が望ましい。しかし、裏板300を構成する素材自体が非透水性でなくても、非透水性の塗装やコーティングをすることで、非透水性能を確保してもよい。
【0054】
また、裏蓋400は、壁に固定可能な強度を有する素材、例えば、コンパネ、塩ビボード、スレート板、金属板、木材などで構成されている。
【0055】
枠体500は、壁に固定可能な強度を有する素材、鋼鉄、アルミ、樹脂などで構成されている。また、額縁のように枠体500の表面(意匠面)に、飾りや着色などが施されていでもよい。
【0056】
なお、本実施形態では、裏板300と裏蓋400とは別部材構成とされているが、裏板300が裏蓋400を兼ねる構成であってもよい。
【0057】
つぎに、保水基盤(植栽基盤)200に給水(潅水)する給水機構600について、説明する。
【0058】
図7に示すように、給水機構600は、複数の滴下ニップル等のドリップ装置620が設けられた給水ホース610と、排水ケース650と、を有している。
【0059】
給水ホース610は、図1に示すように、壁面緑化装置10(植栽容器12)の中の上部における保水基盤200の上端200Uの上方に、長手方向(Y方向)に沿って配設されている(図1に示すように、給水ホース610は表板100の上受部102の下側に配設されている)。図7に示すように、給水ホース610には長手方向に間隔をあけてドリップ装置620が複数設けられている。
【0060】
図8に示すように、ドリップ装置620は、給水ホース610に水を流すと水滴Sが落ちる機構を有する。なお、ドリップ装置620は、従来と同様の構成(市販品)であるので、説明を省略する。
【0061】
なお、本実施形態では、ドリップ装置620は、長手方向に沿って約10cm〜15cm間隔で設けられている。また、本実施形態では、水滴Sは約3リットル/時間の吐出量のものを用いている。
【0062】
図1に示すように、排水ケース650は、壁面緑化装置10(植栽容器12)の中の下部における保水基盤200の下に、長手方向に沿って配設されている(図1に示すように、排水ケース650は下受部103に設けられている)。そして、図1と図7とに示すように、保水基盤200の下端部220が排水ケース650の中に入れられている。
【0063】
なお、図2に示すように、壁面緑化装置10(植栽容器12)の側面における上部には、給水ホース610に給水するための給水口630が設けられている、また、壁面緑化装置10(植栽容器12)の側面における下部には、排水ケース650に溜まった水を排水するための排水口660が設けられている。
【0064】
そして、給水口630から給水することで、各ドリップ装置620から水滴S(図8参照)が保水基盤200に落ちて給水(潅水)する。給水された水は、保水基盤200の毛管力によって保水基盤200の全体に浸透する。給水(潅水)された水は保水基盤200の全体に浸透したのち、余剰水となって排水ケース650に貯められる。排水ケース650に貯留された余剰水は排水口660から抜くことができる。
【0065】
つぎに、本実施形態の作用について説明する。
【0066】
図1に示すように、表板100の棚部110の開口部112に植栽された植物20は、地面に対して垂直な鉛直方向に(重力方向に沿って)生育するので、地面に対し略平行(重力方向と直交する方向)に生育(成長)させる場合と比較し、生育が向上ずる。
【0067】
また、植栽された植物20の根22は表板100の裏面100Bの貫通孔114の開口から出て、保水基盤200の全域に亘って根を張ることできる。更に、表板100の裏面100Bに形成された溝118(図4参照)に沿って、植物20は根22を張ることができる。よって、植物20は、保水基盤200の広範囲に容易に根22を張ることができる。これにより、植物20の生育が更に向上する。
【0068】
また、断熱材で構成された表板100と裏板300とで保水基盤200が挟まれており、しかも表板100は棚部110の開口部112以外は開口されていないので、保水基盤200の温度上昇又は温度低下が抑制される。また、保水基盤200からの水分の蒸発が抑制される。更に表板100及び裏板300は、非透水性材で構成されているので、更に水分の蒸発が抑制される。
【0069】
したがって、植物20の根22の温度が安定し、且つ乾燥が抑制されるので、植物20の生育が良好となる。
【0070】
また、給水機構600は、保水基盤200の上端200Uから給水し、保水基盤200の下端部220から排水して掛け流している。よって、下端部220から排水された余剰水をポンプなどに汲み上げて、保水基盤200に再度給水する方式、つまり水を循環させる循環方式と比較し、根酸による保水基盤200中の水の酸化が抑制される。よって、植物20の生育が向上する。
【0071】
ここで、本発明者が、本構成で水を長期に亘って循環させた場合、生育(成長)が劣るなどの生育不良が発生した。この原因を本発明者が調査及び分析すると、循環させている循環水(保水基盤200中の水)のPHが低下し酸化していることが判った。よって、生育不良の原因は循環水の酸化によるものと考えられる。そして、この循環水の酸化は、水を循環させることによって、植物20の根22が分泌する根酸(有機酸)の循環水中の濃度が上がることによって引き起こされる現象と考える。なお、このような循環方式のデメリット(循環水の酸化による植物の生育不良)は、本発明者が初めて発見したことである。
【0072】
また、本実施形態では、給水ホース610に設けられたドリップ装置620から水滴Sを落として、保水基盤200に全体に給水する(潅水する)つまり、給水ホース610に水を流すことで、容易に保水基盤200に給水することができる(掛け流すことができる)。
【0073】
また、保水基盤200の下端部220から排水された余剰水は排水ケース650で一旦端貯留し、貯留した水を排水するので、余剰水の処理が容易である。
【0074】
また、表板100、裏板300、保水基盤200、及び給水機構600が一体化された植栽容器12(壁面緑化装置10)を部屋の壁90に取り付けることで、絵画を壁90に飾るように、容易に部屋の壁90が緑化される。
【0075】
つぎに、給水機構の変形例について、図9と図10とを用いて説明する。図9は変形例の給水機構700を斜め前方から見た斜視図であり、図10は図9の変形例の給水機構700を斜め後方から見た部分拡大斜視図である。
【0076】
変形底の給水機構700は、図9に示すように、給水ケース710と、排水ケース650と、を有している。
【0077】
給水ケース710は、植栽容器12の中の上部に、長手方向に沿って配設されている。そして、保水基盤200の上端部210が曲げられ、給水ケース710に貯留されている水の中に浸されている。
【0078】
そして、図10に示すように、給水口630から給水し給ケース710に水を貯留することで、保水基盤200の毛管力によって保水基盤200の全体に浸透する。余剰水は、同様に排水ケース650に貯められ、貯められた余剰水は排水口660から抜くことができる。
【0079】
なお、本変形例のように、保水基盤200の上端部210の長手方向全域が、給水ケース710に貯留されている水に浸されているので、保水基盤200の長手方向全域に、より均一に給水(浸透)させることができる。
【0080】
ここで、植栽容器12(壁面緑化装置10)は、必ずしも、壁に取り付けて飾らなくてもよい。例えば、図12に示すように、イーゼル800に載せて飾ってもよい。なお、この場合の壁面の緑化とは、部屋の空間内の緑化したい任意の壁面を指すことになる。つまり、表板100の表面100Aが緑化したい壁面である。なお、このような場合、表板100は、鉛直に配置されていなくてもよい。略鉛直であってもよい(多少角度があってもよい)。
【0081】
なお、略鉛直とは、本発明が適用された植栽容器(壁面緑化装置)を鉛直に配置した場合よりも生育(成長)が著しく劣るなどの生育不良が発生しない角度範囲であり、植物によっても異なるが、地面に対して、60°〜90°である。
【0082】
また、本実施形態では、植栽容器12を壁90に取り付けたが、図1に示す二点破線(想像線)の壁90が示すように、壁90の中に壁面緑化装置10(植栽容器12)が埋め込まれた構成となっていてもよい。
【0083】
具体的には、図11に示すように、壁90全面(又は略全面)が表板100(の表面100A)で構成される。なお、図11では、複数の表板100(複数の壁面緑化装置10)を並べて、壁90を構成しているが、一枚の表板(一つの壁面緑化装置)で壁90全面(また略全面)を構成してもよい。或いは、壁90の一部のみが表板100(の表面100A)で構成されていてもよい。
【0084】
また、このような構成の場合、排水口660を建物の内の排水パイプ(排水官)に連結して余剰水を排水するようにしてもよい。
【0085】
更に、植栽容器12を部屋の壁90でなく、建物外壁に取り付けてもよい。或いは、外壁の一部又は全部を表板100が構成してもよい。言い換えると、建物外壁の中に壁面緑化装置10(植栽容器12)が埋め込まれた構成となっていてもよい(図1、図11の壁90が外壁となった構造であってもよい)。なお、建物内壁と建物外壁の両方を緑化してもよい。
【0086】
また、建物外壁に本発明を適用する場合、排水ケース650を設けずに、余剰水を土壌や下水溝に直接排水するようにしてもよい。また、雨水を利用して給水するようにしてもよい。
【0087】
また、建物外壁や建物内壁(壁90)に本発明を適用した場合、壁面緑化装置10の断熱材で構成された表板100及び裏板300と水を含んだ保水基盤200とによって、気温緩和効果(夏期には建物(構造物)の温度上昇抑制、冬期には建物(構造物)の断熱効果)や防音効果が得られる。
【0088】
特に、建物外壁の緑化は、外張り断熱効果、耐暴風効果、防火的効用や火災延焼防止効果(植物20及び給水された保水基盤200による効果)等が得られる。また、植物による景観の向上や温暖化防止効果(CO2吸収効果)も得られる。
【0089】
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0090】
例えば、上記実施形態では、保水基盤200への給水は、掛け流し方式であったが、これに限定されない。排水ケース650の余剰水をポンプなどで汲み上げ保水基盤200に給水する循環方式であってもよい。但し、長期間に亘って循環させると、前述したように根酸の濃度が上がり植物20の生育に影響が出るので、影響が出る前に循環させている水を交換するようにすればよい。言い換えると、植物の生育に影響が出ない期間内で、水を循環させるようにすればよい。
【0091】
また、例えば、上記実施形態では、建物外壁、建物内壁、部屋の中の緑化が対象であってあったがこれに限定されない。例えば、部屋の中のパーテンションや屋外の柵や塀などを緑化対象としてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 壁面緑化装置
12 植栽容器
20 植物
22 根
100 表板
110 棚部
112 開口部
114 貫通孔
118 溝
200 保水基盤
300 裏板
600 給水機構
610 ホース
620 ドリップ装置(水滴機構)
650 排水ケース
700 給水機構
710 給水ケース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱材で構成され、鉛直又は略鉛直に配置された表面が緑化対象の壁面を構成する表板と、
断熱材で構成され、前記表板と平行に配置された裏板と、
前記表板と前記裏板との間に挟まれた保水基盤と、
前記保水基盤に給水する給水機構と、
前記表板の表面に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部と、
前記表板の表面に設けられた前記棚部に形成された開口部から斜め下方に向かって形成され、前記表板の裏面に開口した貫通孔と、
前記棚部の前記開口部に植栽された植物と、
を備える壁面緑化装置。
【請求項2】
前記表板及び前記裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されている請求項1に記載の壁面緑化装置。
【請求項3】
前記表板の裏面には、溝が形成されている請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化装置。
【請求項4】
前記給水機構は、
前記保水基盤の上端部から給水し、前記保水基盤の下端部から排水して掛け流す、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項5】
前記給水機構は、
前記保水基盤の上端部の上に長手方向に沿って配設されたホースと、
前記ホースに長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記ホースに流れる水を水滴として落とす水滴機構と、
を有する、
請求項4に記載の壁面緑化装置。
【請求項6】
前記給水機構は、
水が貯留され、前記保水基盤の上端部の長手向全域が前記水に浸水した給水ケースを有する、
請求項4に記載の壁面緑化装置。
【請求項7】
前記給水機構は、
前記保水基盤の下端部から排水された水を貯留する排水ケースを有する、
請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項8】
少なくとも、前記表板、前記裏板、及び前記保水基盤が一体化されることによって植栽容器が構成されている請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項9】
前記表板が、建物内壁又は建物外壁の一部又は全部を構成する請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項1】
断熱材で構成され、鉛直又は略鉛直に配置された表面が緑化対象の壁面を構成する表板と、
断熱材で構成され、前記表板と平行に配置された裏板と、
前記表板と前記裏板との間に挟まれた保水基盤と、
前記保水基盤に給水する給水機構と、
前記表板の表面に凹凸が形成されることによって設けられた一つ又は複数の棚部と、
前記表板の表面に設けられた前記棚部に形成された開口部から斜め下方に向かって形成され、前記表板の裏面に開口した貫通孔と、
前記棚部の前記開口部に植栽された植物と、
を備える壁面緑化装置。
【請求項2】
前記表板及び前記裏板のいずれか一方又は両方が、非透水性材で構成されている請求項1に記載の壁面緑化装置。
【請求項3】
前記表板の裏面には、溝が形成されている請求項1又は請求項2に記載の壁面緑化装置。
【請求項4】
前記給水機構は、
前記保水基盤の上端部から給水し、前記保水基盤の下端部から排水して掛け流す、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項5】
前記給水機構は、
前記保水基盤の上端部の上に長手方向に沿って配設されたホースと、
前記ホースに長手方向に間隔をあけて複数設けられ、前記ホースに流れる水を水滴として落とす水滴機構と、
を有する、
請求項4に記載の壁面緑化装置。
【請求項6】
前記給水機構は、
水が貯留され、前記保水基盤の上端部の長手向全域が前記水に浸水した給水ケースを有する、
請求項4に記載の壁面緑化装置。
【請求項7】
前記給水機構は、
前記保水基盤の下端部から排水された水を貯留する排水ケースを有する、
請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項8】
少なくとも、前記表板、前記裏板、及び前記保水基盤が一体化されることによって植栽容器が構成されている請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【請求項9】
前記表板が、建物内壁又は建物外壁の一部又は全部を構成する請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の壁面緑化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−239878(P2010−239878A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89989(P2009−89989)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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