説明

変位方向検出装置

【課題】粘弾性部材を用いて、移動部材20が固定部材11、12に対して少なくとも直交2軸方向へ相対変位する場合に、移動部材20の相対変位方向を検出することができる変位方向検出装置を提供する。
【解決手段】上側固定部材11と移動部材20との間に第1粘弾性部材31を配置し、下側固定部材12と移動部材20との間に第2粘弾性部材32を配置する。そして、第1粘弾性部材31のインピーダンスZ1と第2粘弾性部材32のインピーダンスZ2との差に基づき、移動部材20が上下方向へ変位したのか、それとも、左右方向へ変位したのかを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも直交2軸方向へ相対変位する2部材の相対変位方向を検出する変位方向検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
相対変位する2部材の相対変位を検出する装置としては、例えば、ひずみゲージを用いたものがある(例えば、特許文献1参照)。ここで、ひずみゲージは、異方性を有している。従って、検出したい方向の相対変位を検出できるように、ひずみゲージを配置することで、所定の方向の相対変位を検出することができる。
【0003】
ところで、従来から、ゴム中に金属粉末等の導電性粒子を分散させたゴムセンサが知られている(例えば、特許文献2参照)。このゴムセンサが圧縮された場合には、分散された導電性粒子が近接するので、ゴムセンサの抵抗値が小さくなる。一方、ゴムセンサが引張られた場合には、導電性粒子が離れるので、ゴムセンサの抵抗値は大きくなる。このように、ゴムセンサの状態に応じてゴムセンサの抵抗値が異なることを利用することで、ゴムセンサが取り付けられた部材の物理量を検出することができるとされている。
【特許文献1】特開2005−134220号公報
【特許文献2】特開平4−283602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ゴムセンサなどの粘弾性部材は、ひずみゲージとは異なり、異方性を有していない。つまり、ゴムセンサが例えば圧縮変形又は引張変形をする場合において、どの方向に圧縮変形又は引張変形をしたのかを判断することができない。従って、2部材が複数方向へ相対変位する場合に、従来のゴムセンサでは、2部材の相対変位方向を検出することはできない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、ゴムセンサなどの粘弾性部材を用いて、少なくとも直交2軸方向へ相対変位する2部材の相対変位方向を検出することができる変位方向検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の変位方向検出装置は、第1部材に対して第2部材が基準位置から少なくとも直交2軸方向へ相対変位する場合において、第1部材に対する第2部材の基準位置からの相対変位方向を検出する変位方向検出装置である。例えば、本発明の変位方向検出装置は、第1部材と第2部材との基準位置からの相対変位方向が、直交2軸方向の何れであるかを検出する装置である。
【0007】
そして、本発明の変位方向検出装置は、第1の粘弾性部材と、第2の粘弾性部材と、検出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、第1の粘弾性部材は、第1部材と第2部材とに連結され、変形に応じてインピーダンスが変化する粘弾性材からなる部材である。この粘弾性材とは、例えば、ゴム、シリコン、エラストマー、ゲルなどである。なお、ゴムなどの粘弾性材は、導電性を有していないものであっても、導電性を有していないものであってもよい。導電性を有していない粘弾性材を用いる場合であっても、粘弾性材のインピーダンスは変化する。この場合、例えばインダクタやキャパシタが変化することに伴い、インピーダンスが変化する。
【0009】
第2の粘弾性部材は、第1部材と第2部材とに連結され、変形に応じてインピーダンスが変化する粘弾性材からなる部材である。さらに、第2の粘弾性部材は、第1の粘弾性部材とにより第2部材を挟むように、第1の粘弾性部材に対して所定軸方向に対向配置されている。つまり、第1の粘弾性部材の一端側と第2の粘弾性部材の一端側との間に、第2部材が配置されることになる。そして、第1の粘弾性部材の他端側及び第2の粘弾性部材の他端側が、第1部材に連結されている。さらに、第1の粘弾性部材と第2の粘弾性部材とを結ぶ直線が、所定軸方向となるようにされている。例えば、第1部材と第2部材とが直交2軸方向に相対変位可能な場合には、所定軸方向とは、直交2軸方向の何れか一方の方向となる。
【0010】
検出部は、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差に基づき、第1部材に対する第2部材の基準位置から少なくとも直交2軸の相対変位方向を検出する。つまり、検出部は、第1部材と第2部材とが基準位置から例えば直交2軸の一方方向へ相対変位したのか、それとも、直交2軸の他方方向へ相対変位したのかを検出する。
【0011】
上述したように構成される変位方向検出装置は、以下のように動作する。まず、第1部材と第2部材とが相対変位することにより、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材が、引張変形又は圧縮変形をする。特に、第1部材に対して第2部材が所定軸方向へ相対変位した場合には、第1の粘弾性部材と第2の粘弾性部材の一方が引張変形し、他方が圧縮変形する。つまり、この場合には、引張変形をする粘弾性部材のインピーダンスは大きくなる。一方、圧縮変形をする粘弾性部材のインピーダンスは小さくなる。つまり、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は大きくなる。
【0012】
そして、例えば、第1部材に対して第2部材が所定軸方向へ相対的に振動する場合には、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は変化する。
【0013】
一方、第1部材に対して第2部材が所定軸に直交する方向へ相対変位する場合には、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材が同じ変形をする。従って、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は変化しない。第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は、ほとんど零である。例えば、第1部材に対して第2部材が所定軸に直交する方向へ相対的に振動する場合にも、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差はほとんど零となる。
【0014】
このように、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差の挙動は、第1部材と第2部材とが所定軸方向へ相対変位する場合と所定軸に直交する方向へ相対変位する場合とで異なる。つまり、第1の粘弾性部材と第2の粘弾性部材との間に第2部材を配置するようにすることで、第1部材と第2部材とが所定軸方向へ相対変位したのか、それとも、所定軸に直交する方向へ変位したのかを判断することができる。
【0015】
また、第1部材に対して第2部材が基準位置に位置している場合において、第2の粘弾性部材のインピーダンスは、第1の粘弾性部材のインピーダンスと略同一とするとよい。このとき、第1部材に対して第2部材が基準位置に位置している場合には、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は、確実に零となる。これにより、検出部により検出する相対変位方向の基準位置をより正確にすることができる。つまり、第1部材に対する第2部材の基準位置からの相対変位方向をより正確に検出することができる。
【0016】
また、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、所定軸方向にプリテンションをかけられた状態で第1部材と第2部材とに連結されるようにするとよい。プリテンションとは、圧縮又は引張の双方を含む意味である。従って、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、圧縮変形された状態若しくは引張変形された状態で、第1部材と第2部材との間に配置されることになる。ここで、例えばゴムなどの粘弾性材は、プリテンションをかけられていない状態では、変位量とインピーダンスとの関係が線形性とならない場合がある。これに対して、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、プリテンションをかけられた状態とすることで、変位量とインピーダンスとの関係がほぼ線形性となる領域とすることができる。これにより、より正確に、第1部材に対する第2部材の基準位置からの相対変位方向を検出することができる。
【0017】
また、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、導電性材料からなるようにしてもよい。この場合の第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、例えば、ゴムなどの粘弾性部材の中に金属粉末等の導電性粒子が分散されたものなどである。これにより、第1の粘弾性部材のインピーダンス及び第2の粘弾性部材のインピーダンスは、それぞれの抵抗値を用いることができる。そして、抵抗値を用いることができるので、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材に印加する電圧は直流電圧とすることができる。つまり、直流電源を用いることができるので、回路構成が非常に容易となり、安価とすることができる。例えば、交流電源における発振回路などが不要となる。
【0018】
また、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、略同一変形をしたときに略同一のインピーダンスとなるようにするとよい。ここで、第1部材と第2部材とが所定軸に直交する方向へ相対変位した場合に、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材が同じ変形をする。そして、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材が略同一変形をしたときに略同一のインピーダンスとなるので、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は、確実にほぼ零となる。
【0019】
これにより、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差の挙動は、第1部材と第2部材とが所定軸方向へ相対変位する場合と所定軸に直交する方向へ相対変位する場合とで明確に異なる。従って、例えば、ノイズなどが含まれる場合であっても、確実に、第1部材に対する第2部材の基準位置からの相対変位方向を検出することができる。
【0020】
また、第2の粘弾性部材は、第1の粘弾性部材と略同一材質であり、所定軸方向に垂直な面に対して第1の粘弾性部材と略面対称な形状からなるようにするとよい。つまり、第1の粘弾性部材と第2の粘弾性部材とは、略同一材質からなり、第2部材を挟んで略面対称な形状となっている。これにより、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材が略同一変形をしたときに略同一のインピーダンスとなるようにすることができる。
【0021】
また、所定軸方向は、複数軸方向であり、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材は、それぞれ複数個からなるようにしてもよい。例えば、第1の粘弾性部材及び第2の粘弾性部材を直交2軸方向に2個ずつ配置した場合には、第1部材と第2部材とが直交3軸方向に相対変位する場合の相対変位方向を検出することができる。もちろん、直交方向以外にも、種々の相対変位方向を検出することができるようにもなる。
【0022】
また、検出部は、さらに、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差に基づき、第1部材に対する第2部材の基準位置から所定軸方向への相対変位量を検出するようにしてもよい。上述したように、第1部材と第2部材とが基準位置から所定軸方向へ相対変位した場合には、第1の粘弾性部材のインピーダンスと第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差は変化する。ここで、これらのインピーダンスの差の変化量は、第1部材に対する第2部材の基準位置から所定軸方向への相対変位量に対応する。そこで、これらのインピーダンスの差の変化量を利用して、第1部材に対する第2部材の基準位置から所定軸方向への相対変位量を検出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の変位方向検出装置によれば、粘弾性部材を用いて、少なくとも直交2軸方向へ相対変位する2部材の相対変位方向を検出することができる。さらに、第1部材に対する第2部材の基準位置からの所定軸方向の変位量を検出することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。本実施形態の変位方向検出装置30は、固定部材11、12に対して移動部材20が基準位置から直交2軸の変位方向を検出する装置である。本実施形態の変位方向検出装置30の構成について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、変位方向検出装置30の機械構成部分を示す図である。図2及び図3は、変位方向検出装置30の機械構成部分の動作を示す図である。図4は、変位方向検出装置30の回路構成を含むブロック構成を示す図である。
【0025】
まず、固定部材11、12及び移動部材20について、図1を参照して説明する。図1に示すように、固定部材11、12(本発明における第1部材)は、上側固定部材11と、下側固定部材12とからなる。これら固定部材11、12は、他の部材などに固定されている。移動部材20(本発明における第2部材)は、略直方体形状からなり、上側固定部材11と下側固定部材12との間に配置されている。ここで、固定部材11、12に対して移動部材20が図1の状態に存在する位置が、固定部材11、12に対する移動部材20の基準位置とする。また、移動部材20は、固定部材11、12の間において、固定部材11、12に対して図1の上下方向及び左右方向の直交2軸方向へ相対変位可能とされている。
【0026】
次に、本実施形態の変位方向検出装置30の機械構成部分について、図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、変位方向検出装置30の機械構成部分は、第1粘弾性部材31と、第2粘弾性部材32と、第1電極33と、第2電極34と、第3電極35と、第4電極36とから構成される。
【0027】
この第1粘弾性部材31は、略円柱状であって、ゴム又はシリコンなどの粘弾性材からなる。そして、この第1粘弾性部材31の柱方向(図1の上下方向)の長さは、移動部材20が基準位置に位置する場合において、上側固定部材11と移動部材20の図1の上側面との離間距離にほぼ等しい長さとしている。
【0028】
この第1粘弾性部材31の上端面には、略円盤状の第1電極33が固定されている。そして、第1電極33は、上側固定部材11に固定されている。つまり、第1粘弾性部材31の上端面は、第1電極33を介して、上側固定部材11に連結固定されている。また、第1粘弾性部材31の下端面には、略円盤状の第2電極34が固定されている。そして、第2電極34は、移動部材20の図1の上側面の左右方向ほぼ中央に固定されている。つまり、第1粘弾性部材31の下端面は、第2電極34を介して、移動部材20の図1の上側面に連結固定されている。従って、移動部材20が基準位置に位置している場合には、第1粘弾性部材31は、図1の上下方向に向かって延伸するように、上側固定部材11と移動部材20の間に配置されている。
【0029】
そして、第1粘弾性部材31は、移動部材20が基準位置から変位することに伴って変形する。つまり、第1粘弾性部材31は、移動部材20の基準位置からの変位方向に応じて、圧縮変形をしたり、引張変形をしたりする。ここで、移動部材20が基準位置に位置する場合における第1粘弾性部材31の状態を第1粘弾性部材31の基準状態という。
【0030】
また、第1粘弾性部材31のうち第1電極33と第2電極34との間のインピーダンスZ1(以下、「第1インピーダンスZ1」という)は、第1粘弾性部材31の変形に応じて異なる。具体的には、第1粘弾性部材31が基準状態から圧縮変形をする場合には、当該第1インピーダンスZ1は小さくなる。一方、第1粘弾性部材31が基準状態から引張変形をする場合には、当該第1インピーダンスZ1は大きくなる。
【0031】
ここで、移動部材20が基準位置に位置している場合において、第1粘弾性部材31は、図1の上下方向に僅かに圧縮した状態にて、上側固定部材11と移動部材20の間に配置されている。従って、移動部材20が基準位置から変位する場合に、第1粘弾性部材31は、圧縮された状態を基準として変形する。そして、第1粘弾性部材31が引張圧縮変形する範囲内において、第1粘弾性部材31の変位量と第1インピーダンスZ1との関係がほぼ線形性となるようにしている。
【0032】
第2粘弾性部材32は、第1粘弾性部材31と略同一形状の略円柱状からなる。さらに、第2粘弾性部材32は、第1粘弾性部材31と略同一材質の粘弾性材からなる。そして、この第2粘弾性部材32の柱方向(図1の上下方向)の長さは、移動部材20が基準位置に位置する場合において、下側固定部材12と移動部材20の図1の下側面との離間距離にほぼ等しい長さとしている。
【0033】
この第2粘弾性部材32の下端面には、略円盤状の第3電極35が固定されている。そして、第3電極35は、下側固定部材12に固定されている。つまり、第2粘弾性部材32の下端面は、第3電極35を介して、下側固定部材12に連結固定されている。なお、第3電極35は、下側固定部材12のうち、第1電極33が固定されている上側固定部材11の部分に対向する位置に固定されている。また、第2粘弾性部材32の上端面には、略円盤状の第4電極36が固定されている。そして、第4電極36は、移動部材20の図1の下側面の左右方向ほぼ中央に固定されている。つまり、第2粘弾性部材32の上端面は、第4電極36を介して、移動部材20の図1の下側面に連結固定されている。従って、移動部材20が基準位置に位置している場合には、第2粘弾性部材32は、図1の上下方向に向かって延伸するように、下側固定部材12と移動部材20との間に配置されている。
【0034】
さらに、第2粘弾性部材32は、第1粘弾性部材31とにより移動部材20を挟むように、第1粘弾性部材31に対して図1の上下方向に対向配置されている。つまり、第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32との間に移動部材20が配置され、且つ、第1粘弾性部材31、移動部材20、及び第2粘弾性部材32が、図1の上下方向に直線上に配置されている。さらには、第2粘弾性部材32は、図1の上下方向に垂直な面に対して、第1粘弾性部材31と略面対称な形状となるようにされている。
【0035】
そして、第2粘弾性部材32は、移動部材20が基準位置から変位することに伴って変形する。つまり、第2粘弾性部材32は、移動部材20の基準位置からの変位方向に応じて、圧縮変形をしたり、引張変形をしたりする。ここで、移動部材20が基準位置に位置する場合における第2粘弾性部材32の状態を第2粘弾性部材32の基準状態という。
【0036】
また、第2粘弾性部材32のうち第3電極35と第4電極36との間のインピーダンスZ2(以下、「第2インピーダンスZ2」という)は、第2粘弾性部材32の変形に応じて異なる。具体的には、第2粘弾性部材32が基準状態から圧縮変形をする場合には、当該第2インピーダンスZ2は小さくなる。一方、第2粘弾性部材32が基準状態から引張変形をする場合には、当該第2インピーダンスZ2が大きくなる。
【0037】
ここで、移動部材20が基準位置に位置している場合において、第2粘弾性部材32は、図1の上下方向に僅かに圧縮した状態にて、下側固定部材12と移動部材20の間に配置されている。従って、移動部材20が基準位置から変位する場合に、第2粘弾性部材32は、圧縮された状態を基準として変形する。そして、第2粘弾性部材32が引張圧縮変形する範囲内において、第2粘弾性部材32の変位量と第2インピーダンスZ2との関係がほぼ線形性となるようにしている。
【0038】
さらに、第2粘弾性部材32は、上述したように、第1粘弾性部材31と略同一形状及び略同一材質からなる。さらには、移動部材20が基準位置に位置している場合において、第1粘弾性部材31が予め圧縮変形している変位量と、第2粘弾性部材32が予め圧縮変形している変位量は略同一である。従って、移動部材20が基準位置に位置している場合において、第1粘弾性部材31の第1インピーダンスZ1と第2粘弾性部材32の第2インピーダンスZ2とは略同一のインピーダンスとなる。さらに、第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32とが略同一変形をしたときには、第1インピーダンスZ1と第2インピーダンスZ2とは、略同一のインピーダンスとなる。
【0039】
このような構成からなる変位方向検出装置30の機械構成部分は、移動部材20が変位した場合に、以下のようになる。まず、移動部材20が基準位置から図1の上下方向へ変位する場合について、図2を参照して説明する。図2に示すように、移動部材20が図1の上側へ変位する場合には、第1粘弾性部材31は圧縮変形をし、第2粘弾性部材32は引張変形をする。この場合、第1インピーダンスZ1が小さくなるのに対して、第2インピーダンスZ2は大きくなる。さらに、移動部材20の基準位置から図1の上側への変位量が大きくなるほど、第1インピーダンスZ1はさらに小さくなり、第2インピーダンスZ2はさらに大きくなる。
【0040】
一方、移動部材20が図1の下側へ変位する場合には、第1粘弾性部材31は引張変形をし、第2粘弾性部材32は圧縮変形をする。この場合、第1インピーダンスZ1は大きくなるのに対して、第2インピーダンスZ2は小さくなる。さらに、移動部材20の基準位置から図1の下側への変位量が大きくなるほど、第1インピーダンスZ1はさらに大きくなり、第2インピーダンスZ2はさらに小さくなる。
【0041】
つまり、移動部材20が図1の上下方向へ変位する場合には、第2粘弾性部材32は、第1粘弾性部材31の引張圧縮変形とは逆対称の引張圧縮変形をする。そして、移動部材20の図1の上下方向への変位量が大きいほど、第1インピーダンスZ1及び第2インピーダンスZ2は、より大きく又はより小さくなる。従って、移動部材20の図1の上下方向への変位量が大きいほど、第1インピーダンスZ1と第2インピーダンスZ2との差が大きくなる。
【0042】
次に、移動部材20が図1の左右方向へ変位する場合について、図3を参照して説明する。図3に示すように、移動部材20が図1の左側へ変位する場合には、第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32は、共に引張変形をする。具体的には、この場合、第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32は、変形前も変形後も、図1の上下方向に垂直な面に対して面対称となる形状を維持する。つまり、第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32とは、同じ引張変形をしていることになる。このとき、第1インピーダンスZ1と第2インピーダンスZ2とは、共に小さくなる。そして、第1インピーダンスZ1と第2インピーダンスZ2は、同じインピーダンスとなる。
【0043】
そして、移動部材20が図1の右側へ変位する場合にも、移動部材20が図1の左側へ変位する場合と同じように、第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32は、共に引張変形をする。従って、この場合の第1インピーダンスZ1及び第2インピーダンスZ2は、共に小さくなり、同じ抵抗となる。
【0044】
次に、変位方向検出装置30のブロック構成について、図4を参照して説明する。図4に示すように、変位方向検出装置30のブロック構成は、上記機械構成部分に加えて、交流電圧発生器41と、第1可変抵抗42と、第1増幅器43と、第1検波器44と、第1フィルタ45と、第1インピーダンス変化分算出部46と、第2可変抵抗47と、第2増幅器48と、第2検波器49と、第2フィルタ50と、第2インピーダンス変化分算出部51と、差分値算出部52と、変位方向判定部53とから構成される。
【0045】
交流電圧発生器41は、交流電圧を発生する装置である。この交流電圧発生器41は、発振回路を備えている。この交流電圧発生器41の出力側には、第1電極33及び第3電極35が接続されている。つまり、第1粘弾性部材31には、第1電極33側から交流電圧が印加される。また、第2粘弾性部材32には、第3電極35側から交流電圧が印加される。
【0046】
そして、第1粘弾性部材31の出力側に配置されている第2電極34は、第1可変抵抗42の一端側に接続されている。この第1可変抵抗42の他端側は、負の所定電圧(−Ve[V])とされている。この第1可変抵抗42は、第2電極34の電圧が負の所定電圧により頭打ちされないようにするためのものである。つまり、第2電極34の電圧は、負の所定電圧よりも大きな電圧となるようにされている。
【0047】
第1増幅器43は、第2電極34に接続されている。すなわち、第1増幅器43は、第2電極34の電圧を増幅している。第1検波器44は、第1増幅器43の出力電圧を入力している。そして、第1検波器44は、第1増幅器43の出力電圧の正の電圧のみを抽出する。
【0048】
第1フィルタ45は、第1検波器44の出力電圧を入力する。そして、第1フィルタ45は、第1検波器44の出力電圧に対してフィルタリング処理を施す。例えば、移動部材20を所定量だけ変位させた状態で固定した場合には、このフィルタリング処理が施された出力電圧は、一定値となる。
【0049】
第1インピーダンス変化分算出部46は、予め、移動部材20が基準位置に位置している場合における第1インピーダンスZ1(以下、「基準第1インピーダンス」という)を記憶しておく。そして、第1インピーダンス変化分算出部46は、第1フィルタ45の出力電圧を入力する。そして、第1インピーダンス変化分算出部46は、第1フィルタ45の出力電圧から基準第1インピーダンスを差し引いた第1電圧V1を算出する。この第1電圧V1は、移動部材20の基準位置からの変位に伴って、第1インピーダンスZ1が変化した分に相当する電圧である。
【0050】
そして、第2粘弾性部材32の出力側に配置されている第4電極36は、第2可変抵抗47の一端側に接続されている。この第2可変抵抗47の他端側は、負の所定電圧(−Ve[V])とされている。この第2可変抵抗47は、第4電極36の電圧が負の所定電圧により頭打ちされないようにするためのものである。つまり、第4電極36の電圧は、負の所定電圧よりも大きな電圧となるようにされている。
【0051】
第2増幅器48は、第4電極36に接続されている。すなわち、第2増幅器48は、第4電極36の電圧を増幅している。第2検波器49は、第2増幅器48の出力電圧を入力している。そして、第2検波器49は、第2増幅器48の出力電圧の正の電圧のみを抽出する。
【0052】
第2フィルタ50は、第2検波器49の出力電圧を入力する。そして、第2フィルタ50は、第2検波器49の出力電圧に対してフィルタリング処理を施す。例えば、移動部材20を所定量だけ変位させた状態で固定した場合には、このフィルタリング処理が施された出力電圧は、一定値となる。
【0053】
第2インピーダンス変化分算出部51は、予め、移動部材20が基準位置に位置している場合における第2インピーダンスZ2(以下、「基準第2インピーダンス」という)を記憶しておく。ここで、基準第2インピーダンスは、基準第1インピーダンスと同一である。そして、第2インピーダンス変化分算出部51は、第2フィルタ50の出力電圧を入力する。そして、第2インピーダンス変化分算出部51は、第2フィルタ50の出力電圧から基準第2インピーダンスを差し引いた第2電圧V2を算出する。この第2電圧V2は、移動部材20の基準位置からの変位に伴って、第2インピーダンスZ2が変化した分に相当する電圧である。
【0054】
差分値算出部52は、第1インピーダンス変化分算出部46により算出された第1電圧V1と、第2インピーダンス変化分算出部51により算出された第2電圧V2とを入力する。そして、差分値算出部52は、第1電圧V1から第2電圧V2を差し引いた差分電圧V3を算出する。この差分電圧V3は、第1インピーダンスZ1から第2インピーダンスZ2を差し引いた電圧と同一である。
【0055】
変位方向判定部53は、差分値算出部52により算出された差分電圧V3に基づき、移動部材20が基準位置から図1の上下方向へ変位したのか、それとも、図1の左右方向へ変位したのかを判定する。
【0056】
ここで、変位方向判定部53による判定について、図5及び図6を参照して説明する。図5は、移動部材20が図1の上下方向に振動した場合における電圧V1、V2、V3を示す図である。具体的には、図5(a)が経過時間tに対する第1電圧V1を示し、図5(b)が経過時間tに対する第2電圧V2を示し、図5(c)が経過時間tに対する差分電圧V3を示す。また、図6は、移動部材20が図1の左右方向に振動した場合における電圧V1、V2、V3を示す図である。具体的には、図6(a)が経過時間tに対する第1電圧V1を示し、図6(b)が経過時間tに対する第2電圧V2を示し、図6(c)が経過時間tに対する差分電圧V3を示す。
【0057】
図5(a)に示すように、第1電圧V1は、移動部材20が上下方向へ変位した直後には第1電圧V1が大きくなるような正弦波を描くように変化する。図5(b)に示すように、第2電圧V2は、移動部材20が上下方向へ変位した直後には第2電圧V2が小さくなるような正弦波を描くように変化する。つまり、この場合の第2電圧V2は、第1電圧V1と略逆位相かつ略同振幅の正弦波となる。従って、図5(c)に示すように、移動部材20が図1の上下方向へ変位する場合における差分電圧V3は、第1電圧V1と略同位相であって、第1電圧V1に対して振幅が約2倍となる正弦波を描くように変化する。
【0058】
一方、図6(a)に示すように、第1電圧V1は、移動部材20が左右方向へ変位した直後には第1電圧V1が大きくなるような正弦波を描くように変化する。図6(b)に示すように、第2電圧V2は、移動部材20が上下方向へ変位した直後には第2電圧V2が大きくなるような正弦波を描くように変化する。つまり、この場合の第2電圧V2は、第1電圧V1と略同位相かつ略同振幅の正弦波となる。従って、図6(c)に示すように、移動部材20が図1の左右方向へ変位する場合における差分電圧V3は、ほとんど零となる。ここで、差分電圧V3にノイズが含まれる場合には、そのノイズ分が出力されることになる。ただし、このノイズによる振幅は、移動部材20が図1の上下方向へ変位する場合における差分電圧V3の振幅に比べると、非常に小さい。
【0059】
このように、差分電圧V3は、移動部材20が図1の上下方向へ変位する場合と、図1の左右方向へ変位する場合とで、全く異なる挙動を示す。つまり、変位方向判定部53は、差分電圧V3の振幅が大きい場合には、移動部材20が図1の上下方向へ変位したと判定する。一方、差分電圧V3の振幅がほとんど零の場合、若しくは、ノイズ程度の振幅の場合には、変位方向判定部53は、移動部材20が図1の左右方向へ変位したと判定する。
【0060】
以上より、本実施形態の変位方向検出部30によれば、確実に、移動部材20が直交2軸方向の何れの方向へ変位したのかを判断することができる。
【0061】
なお、上記実施形態における第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32は、導電性を有するものとしてもよい。この場合、第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32は、例えばゴム又はシリコン中に金属粉末等の導電性粒子が分散されたものなどとする。これにより、第1インピーダンスZ1及び第2インピーダンスZ2は、それぞれ抵抗成分のみを用いることができる。このように、抵抗成分のみを用いる場合には、上述した交流電圧発生器41は、単なる直流電圧を発生するものに置換することができる。従って、交流電圧発生器41に含まれる発振回路などが不要となり、さらには、第1、第2検波器44、49も不要となる。その結果、回路構成が非常に容易となり、安価となる。
【0062】
また、上記実施形態においては、第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32とが、図1の上下方向に1個ずつ対向配置するようにした。これに対して、第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32をそれぞれ複数配置するようにしてもよい。例えば、第1粘弾性部材31及び第2粘弾性部材32を2個ずつ配置する場合には、一方の第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材との対向方向と、他方の第1粘弾性部材31と第2粘弾性部材32との対向方向とが、それぞれ直交する方向となるようにする。この場合、移動部材20が直交3軸方向の何れの方向へ変位したのかを判断することができる。
【0063】
また、上記実施形態においては、移動部材20の変位方向を判断した。これに加えて、移動部材20の図1の上下方向の変位量を検出するようにしてもよい。図5(c)に示すように、移動部材20が図1の上下方向へ振動した場合には、差分電圧V3は、大きな振幅の正弦波となる。この差分電圧V3の振幅は、移動部材20の基準位置から図1の上下方向への変位量に対応する。そこで、変位方向判定部53は、移動部材20が基準位置から図1の上下方向へ変位したと判定した場合に、さらに差分電圧V3の振幅を用いて移動部材20の基準位置からの変位量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】変位方向検出装置30の機械構成部分を示す図である。
【図2】変位方向検出装置30の機械構成部分の動作を示す図である。
【図3】変位方向検出装置30の機械構成部分の動作を示す図である。
【図4】変位方向検出装置30の回路構成を含むブロック構成を示す図である。
【図5】移動部材20が図1の上下方向に振動した場合における電圧V1、V2、V3を示す図である。
【図6】移動部材20が図1の左右方向に振動した場合における電圧V1、V2、V3を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
11:上側固定部材(本発明における第1部材)、
12:下側固定部材(本発明における第1部材)、
20:移動部材(本発明における第2部材)、
30:変位方向検出装置、 31:第1粘弾性部材、 32:第2粘弾性部材、
33:第1電極、 34:第2電極、 35:第3電極、 36:第4電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材に対して第2部材が基準位置から少なくとも直交2軸方向へ相対変位する場合において、前記第1部材に対する前記第2部材の前記基準位置からの相対変位方向を検出する変位方向検出装置であって、
前記第1部材と前記第2部材とに連結され、変形に応じてインピーダンスが変化する粘弾性材からなる第1の粘弾性部材と、
前記第1部材と前記第2部材とに連結され、前記第1の粘弾性部材とにより前記第2部材を挟むように前記第1の粘弾性部材に対して所定軸方向に対向配置され、且つ、変形に応じてインピーダンスが変化する粘弾性材からなる第2の粘弾性部材と、
前記第1の粘弾性部材のインピーダンスと前記第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差に基づき、前記第1部材に対する前記第2部材の基準位置から少なくとも直交2軸の相対変位方向を検出する検出部と、
を備えることを特徴とする変位方向検出装置。
【請求項2】
前記第1部材に対して前記第2部材が前記基準位置に位置している場合において、前記第2の粘弾性部材のインピーダンスは、前記第1の粘弾性部材のインピーダンスと略同一である請求項1記載の変位方向検出装置。
【請求項3】
前記第1の粘弾性部材及び前記第2の粘弾性部材は、前記所定軸方向にプリテンションをかけられた状態で前記第1部材と前記第2部材とに連結される請求項1又は2に記載の変位方向検出装置。
【請求項4】
前記第1の粘弾性部材及び前記第2の粘弾性部材は、導電性材料からなる請求項1〜3の何れか一項に記載の変位方向検出装置。
【請求項5】
前記第1の粘弾性部材及び前記第2の粘弾性部材は、略同一変形をしたときに略同一のインピーダンスとなる請求項1〜4の何れか一項に記載の変位方向検出装置。
【請求項6】
前記第2の粘弾性部材は、前記第1の粘弾性部材と略同一材質であり、前記所定軸方向に垂直な面に対して前記第1の粘弾性部材と略面対称な形状からなる請求項5記載の変位方向検出装置。
【請求項7】
前記所定軸方向は、複数軸方向であり、
前記第1の粘弾性部材及び前記第2の粘弾性部材は、それぞれ複数個からなる請求項1〜6の何れか一項に記載の変位方向検出装置。
【請求項8】
前記検出部は、さらに、前記第1の粘弾性部材のインピーダンスと前記第2の粘弾性部材のインピーダンスとの差に基づき、前記第1部材に対する前記第2部材の基準位置から前記所定軸方向への相対変位量を検出する請求項1〜7の何れか一項に記載の変位方向検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−121157(P2007−121157A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315244(P2005−315244)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】