説明

変位測定方法及び装置

【課題】温度変化の大きい測定条件下でも、金型の距離の変位を精度よく測定することができる変位測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】対向する固定型20及び可動型21を有する金型2の距離Dの変位を測定する変位測定方法であって、可動型21に渦流センサ13を配置するとともに、固定型20に被測定部14を設けて、渦流センサ13により被測定部14に渦電流を誘起し、被測定部14に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出工程と、渦流センサ13及び被測定部14のそれぞれの温度T・tを検出する温度検出工程と、出力電圧検出部10にて検出された出力電圧、及び温度検出部11にて検出された温度T・tから、固定型20と可動型21との距離Dを測定する距離測定工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位測定方法及び装置の技術に関し、より詳細には、対向する金型の距離の変位を測定する変位測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、渦流センサを用いた変位測定方法として、渦流センサによって、対象物(被測定部)に高周波を付与して渦電流を誘起させ、被測定部に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出コイルによって検出し、検出コイルによって検出された出力電圧の変化から被測定部の変位を測定する方法が公知である。
【0003】
このような変位測定方法に関し、渦流センサによる測定環境に応じて出力電圧の温度特性を補正等することで、変位測定の精度を向上させる方法が提案されている。
具体的には、特許文献1には、渦流センサの検出コイルに接続される変換器の内部或いは周辺部に温度センサを設け、その温度センサの検出温度に基づいて 、演算部にて変換器の温度特性を補正するようにした変位測定方法が開示されている(特許文献1参照)。
また、当該特許文献1には、渦流センサに複数の検出コイルを設け、その内一の検出コイルを渦流センサの温度測定用として、このコイル線の温度変化による抵抗変化を利用して温度計測及び温度補正を行うようにした変位測定方法が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−249506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1に開示される従来の変位測定方法では、周辺温度の温度変化に応じて変換器の温度センサの検出値から出力電圧と変位との関係を補正するものであったため、渦流センサ自身の温度を測定するものではなく、渦流センサの温度変化が大きい場合に変位測定の精度に劣るといった問題があった。
【0005】
また、上述した特許文献1に開示されるように、渦流センサに複数の検出コイルを設け、その内一の検出コイルを渦流センサの温度測定用として用いる場合であっても、被測定部の温度変化が大きい場合に、正確な変位を測定することができないという問題があった。
すなわち、被測定部は、通常、温度変化によって透磁率及び導電率が変化し、その結果、誘起される渦電流の発生量が変化するという温度特性を有する。しかし、上述した従来の変位測定方法では、被測定部の温度を測定するものではなかったため、かかる被測定部の温度特性を出力電圧と変位との関係に反映させることができなかったのである。
【0006】
特に、ダイカスト用金型のように高温条件下で使用される金型は、その金型温度が常温〜約500度まで変化するため、熱膨張によって反り等が生じて対向する金型の距離(クリアランス)が変位してしまう場合があった。このような金型の距離の変位を測定する際に、上述したような従来の変位測定方法では、その測定精度に劣っていた。
【0007】
そこで、本発明では、変位測定方法及び装置に関し、前記従来の課題を解決するもので、温度変化の大きい測定条件下でも、金型の距離の変位を精度よく測定することができる変位測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、対向する一対の金型間の距離の変位を測定する変位測定方法において、一方の金型に渦流センサを配置するとともに、他方の金型に被測定部を設けて、渦流センサにより該被測定部に渦電流を誘起し、該被測定部に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出工程と、前記渦流センサ及び被測定部のそれぞれの温度を検出する温度検出工程と、前記出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された検出温度から、金型の距離を測定する距離測定工程とを有するものである。
【0010】
請求項2においては、前記距離測定工程では、予め、渦流センサ及び被測定部の温度ごとの出力電圧と金型の距離との関係を基準値として求め、前記出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された検出温度の実測値と前記基準値とを対比して金型の距離を求めるものである。
【0011】
請求項3においては、前記温度検出工程では、前記渦流センサを構成する検出コイル又は検出コイルの近傍位置の温度を検出するものである。
【0012】
請求項4においては、前記被測定部は、非磁性体より形成されるものである。
【0013】
請求項5においては、対向する一対の金型間の距離の変位を測定する変位測定装置において、一方の金型に渦流センサが配置されるとともに、他方の金型に被測定部が設けられ、渦流センサにより被測定部に渦電流を誘起し、該被測定部に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出部と、前記渦流センサ及び被測定部のそれぞれの温度を検出する温度検出部と、前記出力電圧検出部にて検出された出力電圧、及び温度検出部にて検出された検出温度から、金型の距離を測定する距離測定部とを有するものである。
【0014】
請求項6においては、前記距離測定部は、予め、渦流センサ及び被測定部の温度ごとの出力電圧と金型の距離との関係を基準値として求め、前記出力電圧検出部にて検出された出力電圧、及び温度検出部にて検出された検出温度の実測値と前記基準値とを対比して金型の距離を求めるものである。
【0015】
請求項7においては、前記温度検出部は、前記渦流センサを構成する検出コイルの近傍位置に設けられる温度センサを有するものである。
【0016】
請求項8においては、前記被測定部は、非磁性体より形成されるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0018】
請求項1に示す構成としたので、渦流センサにて出力電圧を検出することに加えて、渦流センサ及び被測定部の温度を検出して、渦流センサにより検出される出力電圧を渦流センサ及び被測定部の温度に基づいて補正するものであるため、温度変化の大きい測定条件下でも、金型の距離変位を精度よく測定することができる。
【0019】
請求項2に示す構成としたので、距離の測定が容易であり、また、細かな測定条件の変化に応じて複数の基準値を用いることで、変位測定の精度をより向上できる。
【0020】
請求項3に示す構成としたので、渦流センサの温度変化を直接的に精度よく測定することができる。
【0021】
請求項4に示す構成としたので、被測定部の温度が上昇しても、非磁性体の比透磁率がほぼ1のため、その温度変化を無視することができ、距離変位の測定精度をより向上できる。
【0022】
請求項5に示す構成としたので、渦流センサにて出力電圧を検出することに加えて、渦流センサ及び被測定部の温度を検出して、渦流センサにより検出される出力電圧を渦流センサ及び被測定部の温度に基づいて補正するものであるため、温度変化の大きい測定条件下でも、金型の距離変位を精度よく測定することができる。
【0023】
請求項6に示す構成としたので、距離の測定が容易であり、また、細かな測定条件の変化に応じて複数の基準値を用いることで、変位測定の精度をより向上できる。
【0024】
請求項7に示す構成としたので、渦流センサの温度変化を直接的に精度よく測定することができる。
【0025】
請求項8に示す構成としたので、被測定部の温度が上昇しても、非磁性体の比透磁率がほぼ1のため、その温度変化を無視することができ、距離変位の測定精度をより向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は本発明の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図、図2は変位測定装置の全体的な構成を示した機能ブロック図、図3は図1の金型の一部拡大断面図、図4は渦流センサの斜視図、図5は本実施例の距離変位測定方法を示したフローチャート、図6は演算テーブルの内容を示した図、図7は別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図、図8は別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図、図9は別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図である。
【0027】
図1及び図2に示すように、本実施例の変位測定装置1は、対向する一対の金型(固定型20及び可動型21)を有する金型2の距離Dの変位を測定する装置であって、具体的には、渦流センサ13により被測定部14に渦電流を誘起させ、被測定部14に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出部10と、渦流センサ13及び被測定部14のそれぞれの温度T・tを検出する温度検出部11と、出力電圧検出部10にて検出された出力電圧、及び温度検出部11にて検出された温度T・tから、固定型20と可動型21との距離Dを測定する距離測定部12等とで構成されている。
【0028】
まず、本実施例で用いられる金型2について、以下に概説する。
図1に示すように、本実施例で用いられる金型2は、ダイカスト鋳造法によりアルミニウム合金製の鋳造品を鋳造するダイカスト用金型であって、固定型20と、固定型20に対して直線方向に移動可能(図1における矢印方向)に配置された可動型21とが設けられている。ただし、可動型21の移動方向は、特に限定されず、例えば、固定型20に対して垂直面20a・21aの離間を保った状態で水平方向に移動可能に配置されてもよい。
【0029】
固定型20及び可動型21は、固定型20の垂直面20aと、可動型21の垂直面21aとが略平行に対向され、かつ所定距離(距離D)だけ離れた状態で配置(停止)される。なお、以下の実施例において、「距離D」とは、固定型20と可動型21と離間、すなわち固定型20の垂直面20aと可動型21の垂直面21aとの距離をいうものとする。
【0030】
金型2が型開きされた状態では、固定型20に対して可動型21が離間されて停止される。型締めが開始されると、可動型21は、固定型20に対してそれぞれの垂直面20a・21aが略平行に対向する状態を保持したままで、直線方向(固定型20との距離が近づく方向)に相対移動される。そして、固定型20と可動型21とが距離Dとなる状態で停止されて、型締めが完了される。なお、固定型20と可動型21との間にはキャビティ(図略)が構成されており、このキャビティ内に溶湯が注湯され、溶湯が凝固することで鋳造品が鋳造される。
【0031】
次に、変位測定装置1の出力電圧検出部10について、以下に説明する。
図1乃至図4に示すように、出力電圧検出部10は、可動型21に配置された渦流センサ13及び、固定型20に別途配置された被測定部14等とで構成されている。
【0032】
渦流センサ13は、渦流プローブとして構成されており、具体的には、渦電流を被測定部14に誘導し、渦電流に基づく出力電圧を検出する検出手段としての検出コイル13aや、その他、所定値の電流を供給する図示せぬ発振回路(図略)や、検出コイル13aからの信号を受信する図示せぬ検出回路(図略)等とで構成されている。
検出コイル13aは、空芯状に形成されており、その他発信回路等と共に断面略円形の筒状に形成されたプローブ筐体13b内に収納されている。なお、プローブ筐体13bには、後述する温度センサ15が検出コイル13aの略軸中心位置に設けられている。
【0033】
本実施例の渦流センサ13は、金型2を構成する一方の金型である可動型21に配置されている。具体的には、渦流センサ13は、可動型21の垂直面21aに開口するように穿設された挿入孔21bに挿入されており、挿入孔21bに挿入された状態で、ボルト22によって位置決め固定される。特に、本実施例では、渦流センサ13は、プローブ筐体13bの先端面13cが垂直面21aと略同一平面上に位置するように位置決めして固定される。
【0034】
プローブ筐体13bの外周部には、セラミック等からなる絶縁体層13dが被覆されている(図4参照)。渦流センサ13が挿入孔21bに固定された状態で、プローブ筐体13bの外周部と挿入孔21bの内壁とが絶縁体層13dより離隔される。このように、本実施例の渦流センサ13は、絶縁体層13dによって可動型21(挿入孔21bの内壁)と離隔され、可動型21(挿入孔21bの内壁)に直接当接しないように配置されるため、金型2(可動型21)による磁場の影響を低減して、出力電圧検出部10における出力電圧の検出精度が向上されている。
【0035】
被測定部14は、断面略円形の筒状に形成され、金型2を構成する他方の金型である固定型20に配置されている。具体的には、被測定部14は、固定型20の垂直面20aに開口するように穿設された挿入孔20bに挿入されており、挿入孔20bに挿入された状態で、ボルト23によって位置決め固定される。本実施例では、被測定部14は、上述した渦流センサ13と対向する位置に配置される。また、この被測定部14も、渦流センサ13と同様に、先端面14cが垂直面20aと略同一平面上に位置するように位置決めして固定される。なお、被測定部14の内部には、後述する温度センサ16が設けられている。
【0036】
本実施例の被測定部14は、銅合金や、アルミニウム合金や、ステンレス鋼等の非磁性体より形成される。特に、非磁性体の素材としては、熱膨張係数が金型素材(鋼材)と近く、導電率の高いもの(例えば、銅など)が好ましく用いられる。このように、被測定部14が非磁性体より形成されることで、被測定部14の温度が上昇しても、非磁性体の比透磁率はほぼ1のため、その温度変化を無視することができる。被測定部14において、非磁性体の替わりに鉄等の強磁性体より形成した場合には、被測定部14の温度が上昇すると比透磁率が複雑に変化してしまうため、距離測定部12における出力電圧の温度補正の誤差が大きくなり、好ましくない。
【0037】
出力電圧検出部10では、まず、渦流センサ13の検出コイル13aに電流が供給されると、印加磁界(磁束)が発生される。かかる状態で、渦流センサ13の磁界中に被測定部14が進入すると、被測定部14にこの磁界を打ち消す方向に渦電流が誘起され、この渦電流に基づく電圧(出力電圧)が渦流センサ13の検出コイル13aによって検出される。本実施例では、渦流センサ13及び被測定部14は、固定型20及び可動型21の対抗する垂直面20a・21aにそれぞれ設けられており、渦流センサ13が可動型21に連動して移動され、渦流センサ13の磁界中に被測定部14が進入する際に、被測定部14に渦電流が誘起され、この渦電流に基づく出力電圧が渦流センサ13にて検出される。
【0038】
なお、本実施例の出力電圧検出部10は、被測定部14が固定型20に、渦流センサ13が可動型21にそれぞれ設けられているが、例えば、固定型20に渦流センサ13を、可動型21に被測定部14をそれぞれ設けるような構成としてもよい。
【0039】
次に、変位測定装置1の温度検出部11について、以下に説明する。
図1乃至図3に示すように、温度検出部11は、渦流センサ13の温度Tを検出するための温度センサ15と、被測定部14の温度tを検出する温度センサ16等とで構成されている。
【0040】
温度センサ15は、上述した渦流センサ13のプローブ筐体13b内に収納されており、具体的には、プローブ筐体13bの内部であって、検出コイル13aの軸中心部に位置するようにして配置される(図4参照)。このように、渦流センサ13内であって検出コイル13aの近傍位置に温度センサ15が配置されることで、渦流センサ13の温度Tの変化を直接的に精度よく測定することができる。
一方、温度センサ16は、上述した被測定部14の内部に埋設されており、具体的には、被測定部14に穿設された図示せぬ埋設孔に挿入された状態で固定される。このように、被測定部14の内部に温度センサ16が設けられることで、被測定部14の温度tの変化を直接的に測定することができる。ただし、この温度センサ16の取付構造はこれに限定されない(例えば、図8及び図9参照)。
本実施例の温度センサ15・16としては、例えば、熱電対等が用いられる。
【0041】
次に、本実施例の変位測定装置1の距離測定部12について、以下に説明する。
図2に示すように、距離測定部12は、各種処理が実行されるCPU33と、各種処理プログラム等が格納されるメモリ34と、CPU33に対する操作入力手段としての入力部35と、CRT若しくは液晶ディスプレイなどで構成される表示部36と、外部機器との出力インターフェースとしての出力部37等とにより構成されている。
【0042】
本実施例の距離測定部12では、出力電圧及び温度T・tから固定型20と可動型21との距離Dを測定するものであって、具体的には、予め、渦流センサ13及び被測定部14の温度T・tごとの出力電圧と金型2の距離Dの関係が基準値として求められ、この基準値が演算テーブルCに格納されている。そして、出力電圧検出部10にて検出された出力電圧の実測値と、温度検出部11にて検出された検出温度T・tの実測値とが、演算テーブルCに格納された基準値と対比されることで、金型2の距離D(実測値)が求められる。
【0043】
距離測定部12は、出力電圧検出部10の渦流センサ13と、温度検出部11の温度センサ15・16とが、それぞれ配線30・31・32を介して接続されており、渦流センサ13に設けられた検出コイル13aからの信号、及び温度センサ15・16からの信号をそれぞれ受信可能に構成されている。
【0044】
CPU33は、渦流センサ13(検出コイル13a)からの信号等が、図示せぬA/D変換回路によってデジタル化されて入力され、各種処理が実行されるように構成されている。具体的には、CPU33では、メモリ34に格納された演算テーブルCに基づいて、入力された出力電圧及び温度T・tから、固定型20と可動型21との距離Dが測定される。
【0045】
メモリ34は、EEPROMのような不揮発性のメモリが用いられ、CPU33の処理に必要なプログラムや各種設定データの他、渦流センサ13及び被測定部14の温度T・tごとの出力電圧と距離Dとの関係を示す演算テーブルCが格納されている。この演算テーブルの詳細は、後述する(図6参照)。
【0046】
入力部35は、キーボード等の複数の操作キーを有する部材により構成され、上述した演算テーブルCの作成処理の開始を指定する操作や、測定処理の終了操作などが行われる。
表示部36では、上述したCPU33に入力された出力電圧波形の他に、演算テーブルCや距離D等の値が表示可能とされる。
また、出力部37では、演算テーブルCや距離D等の値が図示しせぬ外部機器に出力される。なお、出力部37には、アナログ変換後の検出距離を増幅するための増幅回路や、外部出力のためのインターフェース回路などが含まれる。
【0047】
次に、本実施例の変位測定装置1を用いた金型2の変位測定方法について、以下に詳述する。
図5及び図6に示すように、本実施例は、以上のように構成された変位測定装置1を用いて金型2の距離Dの変位を測定する方法であって、可動型21に渦流センサ13を配置するとともに、固定型20に被測定部14を設けて、被測定部14に渦流センサ13により渦電流を誘起して、被測定部14に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出工程と、渦流センサ13及び被測定部14のそれぞれの温度T・tを温度センサ15・16により検出する温度検出工程と、出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された検出温度T・tから、固定型20と可動型21との距離Dを測定する距離測定工程と、距離測定工程によって測定された距離Dの変位を算出する変位測定工程等とを有する。
【0048】
出力電圧検出工程では、金型2の鋳造工程に連動して、渦流センサ13が可動型21に連動して移動されて渦流センサ13の磁界中に被測定部14が進入する際に、渦流センサ13にて被測定部14に渦電流が誘起され、渦流センサ13にて渦電流に基づく出力電圧が実測値として検出される(S100)。出力電圧検出部10にて検出された出力電圧は、実測値として距離測定部12に送られる。
【0049】
温度検出工程では、出力電圧検出部10による出力電圧の検出(S100)と略同時に、温度検出部11にて、渦流センサ13の温度Tが温度センサ15によって実測値として検出され、被測定部14の温度tが温度センサ16によって実測値として検出される(S110)。温度検出部11にて検出された温度T・tは、実測値として距離測定部12に送られる。
【0050】
距離測定工程では、まず、予め演算テーブルCが作成されて、メモリ34に記憶される。図6に演算テーブルCの一例を示す。
ここで、出力電圧検出部10(渦流センサ13)にて検出される出力電圧は、渦流センサ13と被測定部14との相対距離が近づくにつれ渦電流が大きくなって発振の振幅が小さくなるという特性を有している(減衰特性)。そして、本実施例では、渦流センサ13及び被測定部14は、上述したように固定型20及び可動型21の対抗する垂直面20a・21aにそれぞれ設けられているため、渦流センサ13と被測定部14との距離は、固定型20と可動型21との距離Dと略同じである。つまり、このような減衰特性より、固定型20と可動型21との距離Dが近づくにつれて出力電圧は減少していくという特定を有している。
また、出力電圧検出部10(渦流センサ13)にて検出される出力電圧は、渦流センサ13の温度Tや被測定部14の温度tの変化によって増減するという特性を有している(温度特性)。
【0051】
本実施例では、まず、被測定部14の温度tを一定にして、渦流センサ13の温度Tを変えながら(T1・T2・T3・・・)、出力電圧と距離Dの関係が測定され、それぞれの値が基準値として演算テーブルC1・C2・・・に格納される。次いで、渦流センサ13の温度Tを一定にして、被測定部14の温度tを変えながら(t1・t2・t3・・・)、出力電圧と距離Dの関係が測定され、基準値として各演算テーブルC1・C2・・・に格納される。このように、本実施例の演算テーブルCは、複数の演算テーブルC1・C2・・・に分けられて格納される。
【0052】
なお、演算テーブルCは、上述した構成に限定されず、また、渦流センサ13の検出コイル13aの形状、印加する電圧の周波数、被測定部14までの距離、被測定部の素材(比透磁率や導電率)等によって変化するため、渦流センサ13の設置環境や計測の目的に応じて適宜再作成されて、メモリ34に上書きして格納される。
【0053】
そして、距離測定工程では、距離測定部12に入力された実測値としての出力電圧及び温度T・tが、演算テーブルCと対比され(S120)、具体的には、演算テーブルCに格納された基準値としての各温度T・tのごとの出力電圧と距離Dとの関係と対比されて、実測値としての距離Dが測定される(S130)。測定された距離Dは、それぞれメモリ34に格納される。
【0054】
変位測定工程では、上記距離測定工程で測定された距離Dに基づいて、所定時間(又は回数)当たりの測定距離が対比されて、離間Dの変位が求められる(S140)。なお、この変位測定工程では、測定された距離Dが所定の基準値の範囲内にあるか否かが判定されて、出力部37より出力されるように構成されてもよい。
【0055】
以上のようにして金型2の距離Dの変位を測定することで、ダイカスト鋳造で用いられる金型2のように温度変化の大きい測定条件下でも、金型2の距離Dの変位を精度よく測定することができる。すなわち、本実施例の金型2は、鋳造工程(鋳込み)が繰り返されることで、金型2(固定型20及び可動型21)の温度が上昇する。そして、金型2の温度上昇に伴って、渦流センサ13及び被測定部14の温度も上昇する。このような場合であっても、本実施例の測定方法によれば、渦流センサ13にて出力電圧を検出することに加えて、渦流センサ13及び被測定部14の温度T・tを検出し、渦流センサ13により検出される出力電を渦流センサ13及び被測定部14の温度T・tに基づいて補正するものであるため、渦流センサ13及び被測定部14の測定環境(温度)が変化しても、金型2の距離変位を精度よく測定することができるのである。
【0056】
また、本実施例の測定方法によれば、固定型20に配置された被測定部14に対して、可動型21に配置された渦流センサ13によって渦電流を誘起させて、渦流センサ13と被測定部14との距離Dを測定するため、金型2を用いた鋳造作業中に、金型2(固定型20及び可動型21)の距離D(の変位)をリアルタイムで測定することができる。
【0057】
特に、本実施例の測定方法によれば、距離測定工程において、予め、渦流センサ13及び被測定部14の温度T・tごとの出力電圧と金型2の距離Dとの関係を基準値として求め、出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された温度T・tの実測値と基準値とを対比して金型2の距離Dを求めるものであるため、距離Dの測定が容易であり、また、細かな測定条件の変化に応じて複数の基準値を用いることで、変位測定の精度をより向上できる。
【0058】
なお、金型2の変位測定方法及び変位測定装置1の構成としては、上述した実施例に限定されない。以下に示す実施例において、上述した実施例と同一の符号を用いた部材は略同一の構成・機能を有するものであって、詳細な説明は省略する。
【0059】
上述した実施例の変位測定装置1では、出力電圧検出部10の被測定部14は、固定型20に穿設された挿入孔20bに挿入されて配置されているが(図1等参照)、被測定部14の取り付け構造としては、これに限定されない。
例えば、図7に示す実施例のように、固定型20の垂直面20aに凹設された凹部20cに被測定部14を焼きばめにより固定して取り付けてもよい。かかる実施例の場合、固定型20には、別途小径孔20dが穿設されて、温度センサ16の配線32が小径孔20d内に配置される。
本実施例の被測定部14としては、金型材よりも熱膨張が大きい素材(例えば、銅やアルミなど)が好ましく用いられる。
【0060】
このような構成とすることで、例えば、金型2の構造によって上述した挿入孔20b(図2参照)を穿設することができない場合であっても、被測定部14や温度センサ16等を配置することができる。
【0061】
また、上述した実施例の変位測定装置1では、出力電圧検出部10として、固定型20に別部材としての被測定部14が設けられるが(図1等参照)、必ずしも別部材としての被測定部14を設ける必要はなく、例えば、金型2の一部(固定型20の一部)を被測定部として用いてもよい。
例えば、図8に示す実施例にように、固定型20の垂直面20a近傍の所定領域を被測定部として、渦流センサ13により渦電流が固定型20に直接誘起されるように構成されてもよい。すなわち、この固定型20の所定領域が、上述した実施例の被測定部14(図1等参照)に相当する。そして、渦流センサ13(検出コイル13a)により、固定型20の所定領域に誘起された渦電流に基づく出力電圧が検出される。
本実施例の場合、温度センサ16は、固定型20に穿設された小径孔20dを介して、固定型20の垂直面20aの表面近傍位置に配置される。そして、温度センサ16により、渦電流が誘起される固定型20の所定領域の温度tが検出される。
【0062】
このような構成とすることで、金型2の構造によっては、上述した別部材として被測定部14を設けることができない場合であっても、固定型20の所定領域を渦流センサ13の対象物とすることで、固定型20と可動型21との距離Dを測定することができる。
【0063】
また、上述した実施例の変位測定装置1では、温度検出部11として、渦流センサ13及び被測定部14に温度センサ15・16がそれぞれ設けられているが(図1等参照)、温度検出部11の構成は、これに限定されない。
例えば、図9に示す実施例のように、金型2(固定型20及び可動型21)の外側位置に放射温度計115・116が設けられ、各放射温度計115・116によって、渦流センサ13の先端面13c、及び(被測定部としての)固定型20の垂直面20aの表面温度が検出されるように構成されてもよい。
本実施例の場合には、渦流センサ13の先端面13cや固定型20の垂直面20aは黒体とされるのが好ましい。また、放射温度計115・116の替わりに赤外線サーモグラフィを用いてもよい。
【0064】
このような構成とすることで、金型2の構造によっては、上述した温度センサ15・16を設けることができない場合であっても、渦流センサ13及び(被測定部としての)固定型20の温度T・tを検出することができ、渦流センサ13により検出される出力電圧の温度特性を補正して、金型2の距離変位を測定することができる。
【0065】
以上の実施例において、変位測定装置1により測定される金型の種類としては、ダイカスト用の金型2に限定されず、射出成形用金型等、高温条件下で用いられて温度変化の大きい金型を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図。
【図2】変位測定装置の全体的な構成を示した機能ブロック図。
【図3】図1の金型の一部拡大断面図。
【図4】渦流センサの斜視図。
【図5】本実施例の距離変位測定方法を示したフローチャート。
【図6】演算テーブルの内容を示した図。
【図7】別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図。
【図8】別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図。
【図9】別実施例の出力電圧検出部及び温度検出部が配置された金型の断面図。
【符号の説明】
【0067】
1 変位測定装置
2 金型
10 出力電圧検出部
11 温度検出部
12 距離測定部
13 渦流センサ
13a 検出コイル
14 被測定部
15 温度センサ
16 温度センサ
20 固定型(一方の金型)
21 可動型(他方の金型)
D 距離
T 温度
t 温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の金型間の距離の変位を測定する変位測定方法において、
一方の金型に渦流センサを配置するとともに、他方の金型に被測定部を設けて、渦流センサにより該被測定部に渦電流を誘起し、該被測定部に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出工程と、
前記渦流センサ及び被測定部のそれぞれの温度を検出する温度検出工程と、
前記出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された検出温度から、金型の距離を測定する距離測定工程とを有することを特徴とする変位測定方法。
【請求項2】
前記距離測定工程では、予め、渦流センサ及び被測定部の温度ごとの出力電圧と金型の距離との関係を基準値として求め、前記出力電圧検出工程にて検出された出力電圧、及び温度検出工程にて検出された検出温度の実測値と前記基準値とを対比して金型の距離を求めることを特徴とする請求項1に記載の変位測定方法。
【請求項3】
前記温度検出工程では、前記渦流センサを構成する検出コイル又は検出コイルの近傍位置の温度を検出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の変位測定方法。
【請求項4】
前記被測定部は、非磁性体より形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の変位測定方法。
【請求項5】
対向する一対の金型間の距離の変位を測定する変位測定装置において、
一方の金型に渦流センサが配置されるとともに、他方の金型に被測定部が設けられ、渦流センサにより被測定部に渦電流を誘起し、該被測定部に誘起された渦電流に基づく出力電圧を検出する出力電圧検出部と、
前記渦流センサ及び被測定部のそれぞれの温度を検出する温度検出部と、
前記出力電圧検出部にて検出された出力電圧、及び温度検出部にて検出された検出温度から、金型の距離を測定する距離測定部とを有することを特徴とする変位測定装置。
【請求項6】
前記距離測定部は、予め、渦流センサ及び被測定部の温度ごとの出力電圧と金型の距離との関係を基準値として求め、前記出力電圧検出部にて検出された出力電圧、及び温度検出部にて検出された検出温度の実測値と前記基準値とを対比して金型の距離を求めることを特徴とする請求項5に記載の変位測定装置。
【請求項7】
前記温度検出部は、前記渦流センサを構成する検出コイルの近傍位置に設けられる温度センサを有することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の変位測定装置。
【請求項8】
前記被測定部は、非磁性体より形成されることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の変位測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−164518(P2008−164518A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356435(P2006−356435)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】