説明

変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体

本発明は、アルカリシリケートを含むコーティングゾルを支持体に塗布することにより、次いで、このように得られた層の、2段階熱処理方法に従う熱的圧縮により得られ得る変形可能なガラス質のコーティングを含有する金属性支持体に関する。熱処理は、第一段階で、(A)酸素含有雰囲気において、または(B)減圧(≦15mbarの残圧を有する)において、次いで、第二段階で、第一層が十分に圧縮されガラス質層が形成されるまで、酸素欠乏雰囲気において行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形可能な、特に低温変形可能な(cold−deformable)、ガラス質コーティングを有する金属性支持体、それらの製造プロセス、及び、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スチールまたはアルミニウムのような金属性支持体上のガラス質コーティングは、一般的に、エナメル加工処理によって製造される。この目的のために、粒状組成物は、あらかじめ塗布された粘着層に塗布され、加熱時に溶融してガラスを与える。しかし、連続的な、不浸透性の層を得るために、層厚は一般的に>50μmでなければならない。この結果、該層は柔軟性を欠き、そしてもろくなるにもかかわらず、それらは、曲げ、ショック、衝撃に敏感であり、そして、剥がれ落ちる。サーマルインジェクションプロセスもまた変形可能な層を製造することができない。
【0003】
ゾル−ゲルプロセスによるスチール表面への薄い無機層の塗布についての様々な研究が既に行われている。例えば、耐食性を改善するために、二酸化ジルコニウム層をステンレススチールに塗布する試みがなされている。ホウケイ酸ガラス層もまた、研究されている。しかし、耐火性システム(ZrOのような高温溶解酸化物)は、これらの技術によっても不浸透性の層を導かないということ、及び、該ホウケイ酸ガラス層は、わずか1μm以下の層厚においてのみ塗布され得るということが分かっており、このため、十分な機械的及び化学的保護が保証されない。従って、これらのプロセスは、工業的な重要性を獲得していない。
【0004】
低μm範囲の層厚を有する透明で、クラックフリーで、そしてまた、一次元でフレキシブルなガラス質層が、特定のアルカリ金属イオン含有SiOコーティングゾル(これは、コロイド状SiO粒子を含む;DE 19714949 A1及びDE 10059487 A1を参照)により金属表面上に作製され得ることもまた知られている。そこで使用されているコーティングゾルに存在するナノ粒子は、外部の供給源から該ゾルに添加され得るか、このほか、in situで生じ得る。該層は従来技術を用いて塗布され、そして、500℃までの温度での乾燥工程後、熱的に高密度化される。熱的な高密度化は、空気中か、または代わりに、酸素フリーな窒素雰囲気中で効果的であり得る。このように製造されるコーティングは、制限された加水分解安定性及び非感湿の耐磨耗性が要求され、そして、外見はたいした役割を果たさない工業的な応用にのみ適している。
【0005】
例えば、空気下、500℃で高密度化されたステンレススチール上の層は、良好な耐引掻性を有する(20N及びタングステンカーバイドチップ、半径1mmを使用したIECテストにおいて<150μm)が、より厳密に観察すると、それらは、多少均一あるいは不均一に生じ得る、すなわちしみ状の、様々なグレーからブラウン色調の容易に認識可能な変色を示すことが見出された。さらに、水道水中で約1時間煮沸した後、耐引掻性は著しく低下し(20N及びタングステンカーバイドチップ、半径1mmを使用したIECテストにおいて≧230μm)、該層はその外見を変化させ、そして、該支持体から部分的に剥がれ得るということが分かっている。
【0006】
一方、N雰囲気下、500℃で高密度化された層は、上述のような僅かな変色も示さないが、非常に乏しい化学的安定性を有することが分かっている。
【0007】
両者において、例えば、ステンレススチールシート上での、該コーティングの低温変形(cold deformation)は可能ではない。該層は、<5mmの曲げ半径(二次元)でさえ壊れる(burst)。
【0008】
該コーティングのこれらの不十分な特性は、該層の不均一な、不適当な及び再生不可能な微小構造に基づいているということは明らかである。該層はガラス質であり、このためX線アモルファスであるため、正確な分析ができない。構造単位は低nm範囲内にあり、そして、それらの化学組成(アルカリ金属シリケート)のために、超高分解能透過型電子顕微鏡法においてさえ、コントラストが非常に低い。
【0009】
これらの不十分な特性のために、コートされた金属性支持体の後の加工において、深刻な不都合が生じる。例えば、任意の熱成形様再整形(thermoforming−like reshaping)プロセスを行うことは不可能である。同様に、熱水性媒体中での使用は限定された範囲でのみ可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ゆえに、改良された機械的及び化学的特性を備えた変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、変形可能なガラス質コーティングを備え、アルカリ金属シリケート含有コーティングゾルを該支持体に塗布し、次いで、このようにして得られた層を2段階熱処理プロセスにおいて熱的に高密度化することにより得られ得る金属性支持体を提供するものであり、該熱処理は、第1段階において(A)酸素含有雰囲気または(B)≦15mbarの残圧での減圧下のいずれか、そして、第2段階においてガラス質層の形成を伴う十分な高密度化まで低酸素雰囲気において行われる。
【0012】
第1の熱処理段階において、構造形成、そして層特性およびステムを乱す有機残基または成分、例えば不完全に加水分解された前駆体またはコーティング添加剤(例えば界面活性剤、レベリング剤または溶剤)は、熱的に完全に除去されるか、または、望ましく非常に低い残量まで低減される。本発明に従うと、これは、バリアントAで、例えば15〜90容量%、好ましくは、19〜20容量%の酸素含有量を有する酸素含有雰囲気において、約400℃の最終温度まで、または代わりに、バリアントBで、≦15mbar、好ましくは≦5mbar、さらに好ましくは≦2.5mbarの残圧での減圧において、約500℃の最終温度まで、好ましくは約200℃まで、さらに好ましくは約120℃までで行われる。
【0013】
第2の熱処理段階において、さらなる高密度化がガラス質層を形成するために行われる。該第2の熱処理段階は、400〜600℃、好ましくは500〜600℃、さらに好ましくは540〜560℃の最終温度まで低酸素雰囲気において行われる。低酸素雰囲気は、酸素フリー雰囲気または非常に低い酸素含有量(≦0.5容量%)しか有さない雰囲気を意味すると理解される。使用される低酸素雰囲気は、好ましくは、窒素またはアルゴンのような不活性ガス、あるいは、≦10mbarの空気圧を有する減圧である。
【0014】
最高温度での持続時間は、一般的に5〜75分、好ましくは20〜60分、さらに好ましくは45〜60分である。
【0015】
約400〜500℃に下げる冷却期は、低酸素雰囲気(例えば窒素のような不活性ガス下)か、酸素含有雰囲気(例えば圧縮空気を吹き込むことによる)のいずれにおいて行われる。これは、第一に、冷却速度を制御することを可能にし、そして、第二に、酸素を使用して行った加熱期の間に完全に酸化されなかった特定量の疎水性有機基を、該表面上で、残す制御された方法において、該コーティングの親水性または疎水性特性を調整することを可能にする。該冷却速度は、一般的に、1〜10K/min、好ましくは2〜7K/minである。
【0016】
この方法において、熱的高密度化の両バリアントにより初めて、金属上に低温変形可能なガラス質層を製造することが可能である。この特性は、例えばディスプレー技術から知られる薄厚ガラスでは観察することができないため、単に層厚によるものではあり得ない。DE19714949 A1及びDE10059487 A1に記載されるプロセスにより高密度化された類似した化学組成のコーティングゾルを使用しても達成可能ではない。特定の理論に拘束されることを望むことなく、この新しい層材料の可能な構造モデルは、互いに容易に「移動可能な(shiftable)」比較的無配向性の様式で、アルカリ金属イオンを介して互いに結合されるナノスケールSiO構造単位であると推測され、その結果ガラス質の硬さを有するにもかかわらず、制限内で可塑的に及び3次元で変形可能な層材料を構成する。有機基(例えば、メチルまたはフェニル基)がまだ残存している場合、さらなる分裂(division)部分が生じ得、そして、フレキシビリティーの増加に寄与し得る。一方では視覚可能な外見を、ならびに、もう一方では耐引掻性及び加水分解安定性を、互いに独立して、調整することもまた可能である。
【0017】
使用するアルカリ金属シリケート含有コーティングゾルは、好ましくは、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物あるいはアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物ならびに必要に応じてナノスケールSiO粒子の存在下で、少なくとも一つの有機的に修飾された加水分解可能なシランの加水分解及び重縮合により得られるコーティング組成物である。
【0018】
このようなコーティング組成物は、例えば、
a)アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物の群からの少なくとも一つの化合物、ならびに、必要に応じて、
b)添加されたナノスケールSiO粒子
の存在下で、
一般式(I)
SiX4−n (I)
(ここで、X基は互いに同一または異なり、加水分解性基またはヒドロキシル基であり、R基は互いに同一または異なり、水素、4までの炭素原子を有するアルキル、アルケニル及びアルキニル基、ならびに、6から10の炭素原子を有するアリール、アラルキル及びアルカリール基であり、そして、nは0、1または2、(ただし、n=1または2である少なくとも一つのシラン、あるいは、それから誘導されるオリゴマーが使用される))
の1以上のシランの加水分解及び重縮合により得られ得る。
【0019】
これは、例えば、乾燥工程で及び高密度化工程中で生じるクラック形成のない金属表面において得られる厚みが10μmまでのガラス質層を許容する可能にする。塗布されたコーティング組成物は、例えば、比較的低温(一般的に400℃から)であってもステンレススチールまたはスチール表面上で不浸透性のSiOフィルムに変わり得る。本発明に従い製造された層は、一般的に、1〜6μm、好ましくは1.5〜5μm、特に2.5〜4.5μmの厚みを有する。これらは、比較的高温であっても金属表面への酸素の侵入を阻止し、または劇的に減少させ、ならびに、顕著な腐食保護を確実にする密封層を形成する。生じた層は、耐磨耗性があり、そしてフレキシブルであるため、該表面における湾曲または偏り(deviations)は、該層のいかなるクラックまたは損傷も全く導かない。
【0020】
本発明に従いコートされる好適な金属表面は、金属または金属合金からなる、あるいは、これらを含有する半−完成品または完成品の全ての表面である。金属の表面の例は、亜鉛めっきされた、クロムめっきされた、または、エナメル処理された表面を含む、アルミニウム、スズ、亜鉛、銅、クロムまたはニッケルの表面を含む。金属合金の例は、特に、スチールまたはステンレススチール、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ならびに、真鍮及び青銅のような銅合金である。特に好ましくは、スチール、ステンレススチール、亜鉛めっきされた、クロムめっきされた、または、エナメル処理されたスチールの金属表面を使用することが挙げられる。
【0021】
該コーティング組成物の塗布前に、該金属性表面は、好ましくは、完全にきれいにされ、そして、特に油や塵のないようにする。該コーティング前に、例えば、コロナ放電による表面処理もまた行われ得る。
【0022】
金属性表面または金属性支持体は、平らなまたは構造化表面を有し得る。該金属性表面は、好ましくは構造化表面を有する。それは、微細構造化表面、または、より高次元(dimensions)の構造であり得る。該構造は、例えばエンボス加工より得られるように規則正しくあり得、または、例えばラフニングにより得られるように不規則であり得る。
【0023】
該構造化金属性表面は、誤差限界内で平らな表面を有する通常の金属性支持体を処理することにより得られ得る。該金属性表面は、例えば、ラフニング、エッチング、レーザー光照射(レーザー加工)またはエンボス加工により構造化され得る。該金属性表面のラフニングは、例えば、サンドブラスティング、ガラスビーズブラスティングまたはブラッシングにより実施され得る。金属性表面を構造化するプロセスは当業者に知られている。該構造化は、例えば、装飾効果を達成し得る。
【0024】
本発明は、特に、建築物及びそれらの部品;移動及び輸送の手段ならびにその部品;商業的または工業的な目的及び研究のための設備、装置及び機械、ならびに、それらの部品;家庭用アイテム及び家庭用設備、ならびに、それらの部品;ゲーム、スポーツ及びレジャーのための設備、デバイス及び補助器具、ならびに、それらの部品;そして、医療目的及び肢体不自由者のためのデバイス、補助器具及び装置上へのガラス質表面層の作製に適する。
【0025】
支持体としてコート可能な材料またはアイテムの特定の例を、以下に明記する。コートされる表面は、好ましくはスチールまたはステンレススチールの表面である。
【0026】
建築構造物(特に建築物)及びそれらの部品:
建物の内部及び外部の表面、床及び階段、エスカレーター、エレベーター、例えばそれらの壁、欄干(banisters)、調度品(furniture)、パネル、備品(fittings)、扉、ハンドル(特に抗指紋仕上げを伴う、例えば扉のハンドル)、外壁のための金属薄板(sheetmetal)、フロアカバー、窓(特に、窓枠、窓の敷居、及び、ウインドウハンドル)、ブラインド、台所、浴室及びトイレの備品(fittings)、シャワー室(shower cubicles)、サニタリー室(sanitary cubicles)、化粧室(toilet cubicles)、サニタリー部分の一般的なもの(例えば、トイレット、洗面台、備品(fittings)、アクセサリー)、パイプ(及び、特に排水管)、ラジエーター、ライトスイッチ、電灯、照明具、レターボックス、現金自動支払機、インフォメーションターミナル(information terminal)、築港の仕上げのための耐海水性コーティング、ひさし、のき(gutters)、アンテナ(aerials)、衛星放送用受信アンテナ(satellite dish)、欄干及びエスカレーターの手すり(handrails)、オーブン、風力タービン、特にローターブレード、モニュメント、彫刻物、及び、一般的に金属性表面を有する美術品、特に屋外に展示されたもの。
【0027】
移動及び輸送手段(例えば、旅客運搬車(passenger vehicle)、大型輸送車(heavy good vehicle)、バス、モーターバイク、モペッド、自転車、鉄道、路面電車、船及び飛行機)及びこれらの部品:
自転車及びモーターバイクの泥よけ、モーターバイクの計器(instruments)、扉の取っ手、ハンドル、タイヤのリム、排気装置及びパイプ、熱的にストレスのかかる部品(エンジン部品、ライニング(lining)、バルブ及びバルブライニング)、備品(fittings)、潜熱交換器、クーラー、金属性表面を有する内装部品(例えば、耐スクラッチ性コーティング)、燃料ノズル、荷台、旅客運搬車のルーフコンテナ、表示計器、例えばミルク、オイルまたは酸のタンカー、ならびに、一般的な全てのシャシー(chassis)部品、ならびに、船及びボートの仕上げのための耐海水性コーティング。
【0028】
(例えばプラント建築物(化学産業、食品産業及び発電所)及びエネルギーテクノロジーからの)商業的または工業的な目的及び研究のための設備、デバイス及び機械ならびに、これらの部品:
熱交換器、圧縮機ホイール、ギャップヘリカル交換器、工業用加熱のための銅エレメント、型枠(例えば、特に金属の鋳型)、荒石シュート(rubble chutes)、フィリング設備、押出機、水車、ローラー、コンベヤーベルト、印刷機、スクリーン印刷テンプレート、フィリング機、(機械)ケーシング、ドリルヘッド、タービン、パイプ(特に液体及び気体輸送のための内部及び外部のもの)、攪拌器、攪拌タンク、超音波浴、クリーニング浴、コンテナ、オーブン内での輸送デバイス、高温、酸化、腐食及び酸保護のためのオーブンの内部ライニング、ガスボトル、ポンプ、反応器、バイオリアクター、タンク(例えば燃料タンク)、熱交換器(例えば食品加工技術における、または、(バイオマス)燃料タンクのための)、排気ユニット、のこ刃、カバー(例えば天秤のため)、キーボード、スイッチ、つまみ、ボールベアリング、シャフト、スクリュー、太陽電池、ソーラーユニット、工具、工具の柄、液体コンテナ、絶縁体、キャピラリー、実験設備(例えばクロマトグラフィーカラム及び換気フード)、ならびに、蓄電器(electrical accumulators)及びバッテリーの部品。
【0029】
家庭用アイテム及び家庭用設備、ならびに、それらの部品:
ゴミ箱、(例えばステンレススチールの)食器類、カトラリー(例えばナイフ)、トレイ、パン(pans)、ポット、焼型(baking tins)、調理用品(例えばすりおろし器具、ガーリックプレス及びホルダー)、吊り下げ用デバイス、冷蔵庫、調理部分のフレーム、調理コンロ、ホットプレート、加熱表面、ベーキングオーブン(内部及び外部)、エッグボイラー、電子レンジユニット、やかん、焼き網、スチーマー、オーブン、作業表面、台所部分の備品(fittings)、ダストエクストラクターフード、花瓶、テレビ設備及びステレオユニットのケーシング、(電化)家庭用具のケーシング、クリスマスツリーの飾り、家具、ステンレススチール製の家具表面、シンク、電灯及び照明。
【0030】
ゲーム、スポーツ及びレジャーのための設備、デバイス及び補助器具:
庭用調度品、庭設備、工具、遊び場の設備(例えば滑り台)、スノーボード、スクーター、ゴルフクラブ、ダンベル、ウェート、トレーニング設備、備品(fittings)、公園の座るもの(sitting opportunity)、遊び場、スイミングプールの備品(fittings)アイテム及び設備など。
【0031】
医療目的及び肢体不自由者のための設備、補助器具及びデバイス:
手術用具、カニューレ、医療容器、シリンジ、インプラント、歯科医療設備、歯列矯正器、眼鏡フレーム、医療器具(例えば手術及び歯の治療)、医療ミラーのような金属製ミラー(例えばステンレススチール)、医療技術分野からの一般的なアイテム(例えばパイプ、装置、容器)及び車椅子、そしてまた、衛生を改善することを目的とする非常に一般的な病院設備。
【0032】
絶縁を要求されるアイテム、例えば太陽電池及びキャパシタ。本発明に従う組成物は、絶縁層の形態で絶縁材料としてここで供され得る。
【0033】
上記アイテムに加えて、もちろん、有利に、上記表面層を有する他のアイテム及びそれらの部品、例えば、玩具、ジュエリー、コイン、化粧用ミラーまたは交通ミラーのような金属製のミラー(例えばステンレススチール)、壺(urns)、標識(例えば交通標識)、交通信号、郵便ポスト、電話ボックス、公共輸送のための待合室、保護ゴーグル、保護ヘルメット、ロケット、ステンレススチール製の一般的な全てのアイテム、時計の外装、時計のバンド、時計の文字盤、金属製、特にステンレススチール製の筆記用具、表示装置(ナノメーター、サーモメーター)、ならびに、電気及び電子スイッチ及び部品(例えば集積回路または回路ボード及びそれらの部品)を提供することもまた可能である。
【0034】
本発明に従うと、特別な利点が、その後に低温変形される金属性の半完成品または完成品のコーティングにおいて達成される。
【0035】
該コーティング組成物及びその成分は以下に記載する。
【0036】
一般式(I)の上記シランのうち、少なくとも1つはシランは一般式のnが1または2の値のものである。一般的に、一般式(I)の少なくとも2つのシランは、組み合わせて使用される。この場合、これらのシランは、好ましくは、nの平均値(分子ベースで)が0.2〜1.5、好ましくは0.5〜1.0のような割合で使用される。特に好ましくは、0.6〜0.8の範囲にあるnの平均値が挙げられる。
【0037】
一般式(I)において、X基は互いに同じでも異なってもよく、加水分解性基またはヒドロキシル基である。加水分解可能なX基の具体例は、ハロゲン原子(特に塩素または臭素)、6までの炭素原子を有するアルコキシ基及びアシルオキシ基である。特に好ましくは、
アルコキシ基、特に、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ及びi−プロポキシのようなC1−4アルコキシ基が挙げられる。一つのシランにおけるX基は、好ましくは同一であり、特に好ましくは、メトキシまたはエトキシ基を使用することが挙げられる。
【0038】
n=2の場合、同じでも異なってもよい一般式(I)のR基は、水素、4までの炭素原子を有するアルキル、アルケニル及びアルキニル基、ならびに、6〜10の炭素原子を有するアリール、アラルキル及びアルカリール基である。このような基の特定の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル、ビニル、アリル及びプロパルギル、フェニル、トリル及びベンジルである。該基は、通常の置換基を有し得るが、このような基は、好ましくは、置換基を有さない。好ましいR基は、1〜4の炭素原子を有するアルキル基、特にメチル及びエチル、そしてまたフェニルである。
【0039】
一般式(I)の少なくとも2つのシランが使用される場合、一方がn=0であり、他方がn=1であることが、本発明に従うと好ましい。このようなシラン混合物は、例えば、少なくとも一つのアルキルトリアルコキシシラン(例えば、(m)エチルトリ(m)エトキシシラン)、及び、少なくとも一つのテトラアルコキシシラン(例えば、テトラ(m)エトキシシラン)(これは、nの平均値が上記の特定の好ましい範囲内にあるような比において好ましく使用される)を含む。一般式(I)の開始シランの特に好ましい組み合わせは、メチルトリ(m)エトキシシラン及びテトラ(m)エトキシシランである。
【0040】
一般式(I)のシランの加水分解及び重縮合は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物の群からの少なくとも一つの化合物の存在下で行われる。これらの酸化物及び水酸化物は、好ましくは、Li,Na,K、Mg、Ca及び/またはBaのものである。好ましくは、アルカリ金属、特にNa及び/またはKを使用することが挙げられる。アルカリ金属酸化物または水酸化物が使用される時、好ましくは、Si:アルカリ金属原子比が20:1から7:1、特に15:1から10:1の範囲にあるような量で使用される。それぞれの場合、アルカリ金属/アルカリ土類金属に対するケイ素の原子比が(十分な大きさであるように)選択されるため、生じたコーティングは(例えば水ガラスの場合のように)水に可溶性ではない。
【0041】
一般式(I)の加水分解可能なシランにさらに使用される任意のナノスケールSiO粒子は、好ましくは、ナノスケールSiO粒子中の全てのケイ素原子に対する、一般式(I)のシラン中の全てのケイ素原子の比が、5:1から1:2、特に3:1から1:1の範囲にあるような量で使用される。
【0042】
ナノスケールSiO粒子は、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下、そして、特に30nm以下の平均粒子サイズ(または平均粒子直径)を有するSiO粒子を意味すると理解される。この目的において、例えば、市販のシリカ製品、例えばLevasils(登録商標)のようなシリカゾル、Bayer AGからのシリカゾル、または、発熱性シリカ、例えばDegussaからのAerosil製品を使用することもまた可能である。
【0043】
粒状の材料もまた、粉末及びゾルの形態で添加され得る。しかし、これらは、シランの加水分解物及び重縮合において、in situでもまた形成され得る。
【0044】
シランの加水分解及び重縮合は、有機溶剤非存在下または存在下で行われ得る。好ましくは、有機溶剤は存在しない。有機溶剤が使用される場合、開始成分は、好ましくは、反応メディウム(一般的に水を含む)に可溶性である。適した有機溶剤は、特に水混和性溶剤、例えば、モノ−または多価脂肪族アルコール(例えばメタノール、エタノール)、エーテル(例えばジエーテル)、エステル(例えば酢酸エチル)、ケトン、アミド、スルホキシド及びスルホンである。さもなければ、加水分解及び重縮合は、当業者技術に知られた様式に従い行われ得る。
【0045】
本発明に従い使用されるコーティング組成物は、コーティング産業において通常の添加剤、例えば、レオロジー及び乾燥挙動を制御する添加剤、湿潤及び均展剤、消泡剤、溶剤、染料及び顔料を含み得る。好適な溶剤は、例えばアルコール及び/またはグリコール、例えばエタノール、イソプロパノール及びブチルグリコールの混合物である。市販の艶消剤、例えばミクロスケールSiOまたはセラミックパウダーもまた、抗指紋特性を有する艶消層を達成するために添加され得る。使用する場合、シランの加水分解及び重縮合は、艶消剤、例えばミクロスケールSiOまたはセラミックパウダー存在下で実施され得る。しかし、これらはまた、後の段階でのコーティング組成物にも添加され得る。
【0046】
本発明に従い使用されるコーティング組成物は、従来のコーティング方法により金属性表面に塗布され得る。使用可能な技術は、例えば、浸漬、キャスティング、フローコーティング、スピンコーティング、噴霧、スプレッディングまたはスクリーン印刷である。特に好ましくは、フラット噴霧のような自動コーティングプロセス、スプレーロボット及び機械管理された回転(rotating)またはスイベル支持体を備えた自動噴霧器の使用が挙げられる。希釈に関して、従来の溶剤が使用され得、これはコーティング産業において一般的である。
【0047】
金属性表面に塗布されるコーティング組成物は、ガラス質の層を熱的に高密度化する前に、室温でまたは僅かに上昇させた温度(例えば、100℃までの、特に80℃までの温度)で通常乾燥される。熱的な高密度化は、必要に応じて、IRまたはレーザー照射により実施され得る。
【0048】
望ましい場合には、少なくとも1つの更なる(ガラス質の)層が、このように作製された(一般的に透明及び無色の)ガラス質の層に塗布され得、そして、例えば、国際特許出願PCT/EP94/03423(EP−A−729442に対応)またはDE−A−19645043に記載される機能的なガラス質層が挙げられる。この機能的なガラス質層は、例えば有色層であり得る。このような有色のガラス質層は、例えば、金属コロイドの前駆体を含有するコーティング組成物の助けを借りて製造され得るため、このように、該金属性表面が、金属コロイド前駆体の反応を損なわないように、または、影響を与えないようにするなどもまた可能であり、これは、金属性表面と有色ガラス質層の間が直接接触しないためである。このような有色ガラス質層は、本発明に従う金属性表面上に備えられたコーティングを提供することにより本発明に従い作製されたガラス質層上に提供され得、その後、有色ガラス質層のためのコーティング組成物とともに(そして、好ましくはそれが室温または高温で乾燥された後に)熱的に高密度化され、次いで2つのコーティングを一緒に熱的に高密度化する。
【0049】
本発明に従うと、該金属性表面は、特に、例えば、指紋、水、オイル、油、界面活性剤及び塵による汚損を防止することも助ける、耐候性、腐食防止、スクラッチ非感受性及び薬品耐性コーティングを得る。
【0050】
次の実施例は、制限することなく本発明を説明する。
【実施例】
【0051】
実施例1
a)コーティングゾルの調製
使用した化学薬品:
20mlのメチルトリエトキシシラン
6mlのテトラエトキシシラン
15gのBayer300シリカゾル、30重量%(45重量%に濃縮された)
0.3mlのHCl(濃塩酸)
5mlのプロパノール
シランを最初に充填し、次いで、シリカゾルを激しく攪拌しながら添加する。エマルジョンを形成させた後(約20秒)、加水分解の開始時に塩酸を添加する。混合物は、さらに20−60秒間不透明のままであり、次に、急に最初に粘性を帯び、そして、粘性が低下し、そして、透明になる。反応中、該ゾルを約40℃に加熱する。室温まで冷却した後、孔径0.8μmを有するフィルター(孔径5μmを有するプレフィルターを備えている)を通してろ過する。そして、製造したゾルを、エタノールで望ましい粘度に調整し得、そして、少なくとも6時間、コーティングに利用可能である。
【0052】
b)ステンレススチールシートのコーティング
セクションa)で得たコーティングゾルを、吹き付けプロセスにおいて、パンチされた(punched)ステンレススチールシートに塗布する。室温で乾燥させた後、該コートされたシートを、次のように強制空気炉(forced−air oven)中で熱的に高密度化する:
第1段階:乾燥圧縮空気を送風しながら、加熱速度5K/minで350℃まで(該炉中の酸素部分は≧19%)。
【0053】
第2段階:窒素雰囲気中、酸素含有量<0.5%で、加熱速度5K/minで560℃まで。
【0054】
60分間の維持した後、該炉を、この雰囲気中、約1K/minで、350℃に下げ、そして、該炉からの移動まで圧縮空気雰囲気中に置く。
【0055】
このように、製造されたコーティングは、非常に均一なスチールグレーカラーを有する。これらは非常に耐引掻性(20N及びタングステンカーバイドチップ、半径1mmを用いたIECテストにおいて<150μm、)及び耐磨耗性(研磨用メディウムを伴うスコッチブライト(Scotch Brite)を使用したクロックメーターテスト、負荷1kg、500サイクル、視覚的に認識可能な表面損傷なし)である。これらの特性は、10時間、水中で煮沸させた後でさえ保持される。該層は、二次元半径5mmまで低温変形可能(cold−deformable)である。
【0056】
実施例2
アルカリ金属シリケートコーティングゾルを実施例1に従い調製し、そして、吹き付けプロセスにおいて、パンチされた(punched)ステンレススチールシートに塗布する。室温で乾燥させた後、該コートされたシートを、次のように真空炉(vacuum oven)中で熱的に高密度化する:
第1段階:圧力<2.5mbarにまで下げる排気で、加熱速度5K/minで120℃まで。
【0057】
第2段階:窒素雰囲気中、加熱速度5K/minで560℃まで。
【0058】
60分間の維持後、該炉から取り出すまで、該炉を、この雰囲気中、約10K/minで温度を下げる。
【0059】
このように製造されたコーティングは、完全に無色及び透明である。これらは非常に耐引掻性(20N及びタングステンカーバイドチップ、半径1mmを用いたIECテストにおいて<150μm)及び耐磨耗性(研磨用メディウムを伴うスコッチブライト(Scotch Brite)を使用したクロックメーターテスト、負荷1kg、500サイクル、視覚的に認知可能な表面損傷なし)である。これらの特性は、10時間、水中で煮沸させた後でさえ保持される。該層は、二次元半径5mmまで低温変形可能(cold−deformable)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属シリケート含有コーティングゾルを支持体に塗布し、次いで、このようにして得られた層を2段階熱処理プロセスにおいて熱的に高密度化することにより得られ得、
該熱処理は、第1段階において(A)酸素含有雰囲気または(B)≦15mbarの残圧での減圧下のいずれか、そして、第2段階においてガラス質層の形成を伴う十分な高密度化まで低酸素雰囲気において行われる、変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項2】
該第1熱処理段階が、バリアント(A)において約400℃までの最終温度で、及び、バリアント(B)において約500℃までの最終温度で行われることを特徴とする、請求項1に記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属支持体。
【請求項3】
該第2熱処理段階が、400〜600℃の範囲の最終温度で行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属支持体。
【請求項4】
該第2熱処理段階が、不活性ガス雰囲気において行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項5】
熱処理された支持体の冷却期が、酸素含有または低酸素雰囲気において行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項6】
a)アルカリ金属及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物の群からの少なくとも一つの化合物、ならびに、必要に応じて、
b)添加されたナノスケールSiO粒子
の存在下で、
一般式(I)
SiX4−n (I)
(ここで、X基は互いに同一または異なり、加水分解性基またはヒドロキシル基であり、R基は互いに同一または異なり、水素、4までの炭素原子を有するアルキル、アルケニル及びアルキニル基、ならびに、6から10の炭素原子を有するアリール、アラルキル及びアルカリール基であり、そして、nは0、1または2、(ただし、n=1または2である少なくとも一つのシラン、あるいは、それから誘導されるオリゴマーが使用される))
の1以上のシランの加水分解及び重縮合を含むプロセスにより、アルカリ金属シリケート含有コーティングゾルが得られ得ることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項7】
アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物またはアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物が、Si:アルカリ金属またはアルカリ土類金属原子比が20:1から7:1、特に15:1から10:1の範囲であるような量で使用されることを特徴とする、請求項6に記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項8】
一般式(I)の開始シランにおけるnの平均値が0.2〜1.5、特に0.5〜1.0であることを特徴とする、請求項6に記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項9】
該コーティングが、1〜6μm、好ましくは1.5〜5μm、特に2.5〜4.5μmの層厚を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。
【請求項10】
低温変形(cold deformation)に供されたことを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載の変形可能なガラス質コーティングを有する金属性支持体。

【公表番号】特表2007−521984(P2007−521984A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546188(P2006−546188)
【出願日】平成17年1月4日(2005.1.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000024
【国際公開番号】WO2005/066388
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(506227688)イーピージー(エンジニアード ナノプロダクツ ジャーマニー) ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】