説明

変色抑制絶縁被覆用コンパウンド、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドを用いた被覆電線及び変色抑制絶縁被覆用コンパウンドの製造方法

【課題】変色を抑制すること。
【解決手段】変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、被覆電線の被覆部を形成するための化合物である。変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、(a)オレフィン系樹脂100重量部、(b)金属水酸化物70〜160重量部、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部、を含み、(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が添加されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電線における導体芯線の絶縁被覆技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境対策を考慮して、自動車用電線における導体芯線の絶縁被覆として、ハロゲンフリーの樹脂材料が用いられる傾向にある。特許文献1では、難燃性を保持しながら耐摩耗性を向上させたハロゲンフリーのオレフィン系樹脂組成物が開示されている。このオレフィン系樹脂組成物は、オレフィン系ポリマー、低密度ポリエチレン及び金属水酸化物を含んでなる。また、特許文献1では、オレフィン系樹脂組成物には、オレフィン系樹脂に通常配合される配合剤として酸化防止剤、銅害防止剤等を添加してもよいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−189792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、オレフィン系樹脂に配合される酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤が用いられることがある。しかしながら、特許文献1のオレフィン系樹脂組成物において、フェノール系酸化防止剤が用いられると、各材料の混合、混練時に、フェノール系酸化防止剤と金属水酸化物とが反応して変色が生じることがある。
【0005】
そこで、本発明は、変色を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、(a)オレフィン系樹脂100重量部、(b)金属水酸化物70〜160重量部、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部、を含み、(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が添加されてなる。
【0007】
第2の態様は、第1の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドであって、前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.7〜2.0重量部が添加されてなる。
【0008】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドであって、前記オレフィン系樹脂(a)と、前記金属水酸化物(b)と、前記フェノール系酸化防止剤(c)との混合後に、前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部が添加されてなる。
【0009】
第4の態様は、導体芯線と、第1〜第3のいずれか一態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが前記導体芯線の外周部を覆う形状に形成されている被覆部と、を備える。
【0010】
第5の態様は、(A)(a)オレフィン系樹脂100重量部と、(b)金属水酸化物70〜160重量部と、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部とを混合する工程と、(B)工程(A)の混合物に、(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を添加する工程と、を備える。
【0011】
第6の態様は、工程(B)では、前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部を添加して混合する。
【発明の効果】
【0012】
第1の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、(a)オレフィン系樹脂100重量部、(b)金属水酸化物70〜160重量部、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部を含み、(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が添加されてなるため、各材料の混合時に金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤とが反応することによって生じる変色を抑制することができる。
【0013】
第2の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.7〜2.0重量部が添加されてなるため、より確実に変色を抑制することができる。
【0014】
第3の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、オレフィン系樹脂(a)と、金属水酸化物(b)と、フェノール系酸化防止剤(c)との混合後に、銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部が添加されてなるため、より効果的に変色を抑制することができる。
【0015】
第4の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドを用いた被覆電線によると、導体芯線と、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが導体芯線の外周部を覆う形状に成形されて構成されている被覆部とを備えるため、変色が抑制された被覆部を得ることができ、色相が安定した被覆電線を得ることができる。
【0016】
第5の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドの製造方法によると、(A)(a)オレフィン系樹脂100重量部と、(b)金属水酸化物70〜160重量部と、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部とを混合する工程と、(B)工程(A)の混合物に(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を添加して混合する工程を備えるため、効果的に変色を抑制した変色抑制絶縁被覆用コンパウンドを得ることができる。
【0017】
第6の態様に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドの製造方法によると、銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部を添加して混合するため、より確実かつ効果的に変色を抑制した変色抑制絶縁被覆用コンパウンドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<変色抑制絶縁被覆用コンパウンド>
以下、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドについて説明する。この変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、被覆電線の被覆部を形成するための化合物である。
【0020】
変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、フェノール系酸化防止剤と、銅害防止剤とを含んでなる。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等である。また、金属水酸化物は、例えば、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムである。フェノール系酸化防止剤は、オレフィン系樹脂の酸化による変質等を防ぐための添加剤である。このフェノール系酸化防止剤は、例えば、2,6‐ジーオーブチル‐4‐メチルフェノール、n‐オクタデシル‐3‐(3’,5’‐ジ‐t‐ブチル‐4’‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン‐3‐(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5‐ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4'‐ブチリデンビス‐(3‐メチル‐6‐t‐ブチルフェノール,トリエチレングリコール‐ビス[3‐(3‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシ‐5‐メチルフェニル) プロピオネート]等である。銅害防止剤は、被覆電線において、銅(又は銅合金)製の導体芯線の影響によって被覆部が劣化することを防止するための添加剤である。
【0021】
コンパウンドは、材料の混合時(混合後の反応が進む時間も含む)に、金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤との反応によって、ピンク色又は黄色に変色することがある。そして、被覆電線は線種及び品番管理のために被覆部が色分けされることがあるが、この色分けのためにコンパウンドが着色される際に、もとのコンパウンド自体がピンク色又は黄色に変色していると所望の色相の被覆部が得られない恐れがある。また、この変色は、金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤との量、混合時間又は混合温度等によりばらつく恐れもあるため、このコンパウンドで被覆電線の被覆部を形成する場合、被覆電線の製造ロット毎に被覆部の色相がばらついてしまう恐れもある。
【0022】
そこで、本変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、添加する銅害防止剤を選定することにより、各材料の混合時に後述する金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤との反応によって生じる変色を抑制するものである。すなわち、出願人は、被覆部の劣化を防止するために添加する銅害防止剤の中に、変色抑制作用を発揮し得るものがあることを見出し、これを選定した。
【0023】
ここでは、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(ADEKA社製のCDA−1)、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](ADEKA社製のCDA−10又はBASF社製のIRGANOX−1024)を選定している。銅害防止剤として上記2材料のいずれかを選定して添加することにより、コンパウンドの変色を抑制(色相を白色に還元)することができる。
【0024】
上記各材料は、2軸押出型、バンバリー型等の混合設備により混合される。2軸押出型とは、各材料を2軸のスクリューが回転する混合路を通じて順次混練しつつ送出する混合設備であり、バンバリー型とは、各材料を混合室で所定の時間混練する混合設備である。
【0025】
第1実施形態に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、オレフィン系樹脂100重量部、金属水酸化物70〜160重量部、フェノール系酸化防止剤1〜3重量部を含み、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.7〜2.0重量部が添加されてなる。
【0026】
好ましくは、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールが0.5〜2.0重量部添加されるとよい。ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が採用される場合には、1.0〜2.0重量部添加されるとよい。
【0027】
但し、上記配合比率の範囲において、オレフィン系樹脂100重量部、水酸化マグネシウム80重量部、フェノール系酸化防止剤3重量部に対して、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールが1重量部添加されたコンパウンド、オレフィン系樹脂100重量部、水酸化マグネシウム120重量部、フェノール系酸化防止剤1重量部に対して、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールが0.5重量部添加されたコンパウンド、及び、オレフィン系樹脂100重量部、水酸化マグネシウム100重量部、フェノール系酸化防止剤2重量部に対して、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールが0.5重量部添加されたコンパウンドは除くとよい。
【0028】
第1実施形態に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、オレフィン系樹脂100重量部、金属水酸化物70〜160重量部、フェノール系酸化防止剤1〜3重量部を含み、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又はペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が添加されてなるため、各材料の混合時に金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤とが反応することによって生じる変色を抑制することができる。これにより、コンパウンド自体の変色による被覆部の色相の変化を抑制することができ、ロット製造される被覆電線において、製造ロット毎の色相のばらつきを抑制してすることができる。
【0029】
また、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.7〜2.0重量部が添加されてなる変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、より確実に変色を抑制することができる。
【0030】
第2実施形態に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、オレフィン系樹脂100重量部、金属水酸化物70〜160重量部、フェノール系酸化防止剤1〜3重量部の混合後に、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.2〜2.0重量部が添加されてなる。ここで、混合後とは、金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤とが反応し得る(変色が生じ得る)程度に混合された状態を言い、全体的に完全に混合されていることまでは要しない。すなわち、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、フェノール系酸化防止剤とを混合して、金属水酸化物とフェノール系酸化防止剤との反応が進んでいる或いは終わった混合物に上記銅害防止剤を添加して、さらに混合されて製造される。例えば、バンバリー型の混合設備を使用する場合、全混合時間の途中で上記銅害防止剤を添加してさらに混合するとよい。
【0031】
他材料の混合後に銅害防止剤を添加することにより、銅害防止剤が変色箇所に対して未反応のまま他材料中に取り込まれる(介在する)ことが抑制され、変色箇所に対して効果的に作用すると考えられる。
【0032】
好ましくは、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール0.5〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.5〜2.0重量部が添加されるとよい。
【0033】
第2実施形態に係る変色抑制絶縁被覆用コンパウンドによると、オレフィン系樹脂と、金属水酸化物と、フェノール系酸化防止剤との混合後に、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]0.2〜2.0重量部が添加されてなるため、より効果的に変色を抑制することができる。
【0034】
<被覆電線>
被覆電線は、導体芯線と、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが導体芯線の外周部を覆う形状に形成されている被覆部とを備える。この被覆電線は、押出機により製造される。
【0035】
一般的に、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドは、ペレット状(粒状)に成形された状態で押出機に供給され、溶融されて押し出される。
【0036】
より具体的には、ポイント治具の芯線挿通路を通じて導体芯線が引き出されると共に、ポイント治具の外周側の位置に設けられたダイスの内周部とポイント治具の外周部との隙間を通じて溶融した変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが押し出されることにより、導体芯線の外周部を変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが被覆した被覆電線が形成される。
【0037】
この被覆電線によると、導体芯線と、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが導体芯線の外周部を覆う形状に成形されて構成されている被覆部とを備えるため、変色が抑制された被覆部を得ることができ、色相が安定した被覆電線を得ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、図1を参照しつつ、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドについてより具体的に説明する。図1は、銅害防止剤の添加による変色抑制実験の結果を示す図である。
【0039】
本実験では、ポリプロピレン樹脂100重量部、水酸化マグネシウム70〜160重量部、フェノール系酸化防止剤を3重量部、銅害防止剤として図1に示される材料及び量を混合した。ここでは、バンバリー型の混合設備を使用して、混練時間を20分に設定すると共に、混練温度を200〜280℃に設定して混合した。また、銅害防止剤を他材料の混合後に添加する実験では、他材料を10分間混練した後に銅害防止剤を添加し、さらに10分間混練した。
【0040】
また、本実験では、上記材料を混合して得られたコンパウンドの色を目視で確認し、変色抑制効果の有無を判断している。ここで、コンパウンドは、変色がない場合は白色であり、変色がある場合は全体的にピンク色又は黄色味を帯びる。そして、変色度合いを、○:全く変色なし、△:若干変色あり、×:変色あり、の3段階で判定し、○と△とを変色抑制効果有りと判断する。なお、×は、変色抑制作用のある銅害防止剤を添加しない場合の変色度合いと同様(ほぼ同様)の変色が生じた状態を指し、△は、若干変色が生じているものの、×の状態より変色が抑制されて変色度合いが低い状態を指すものとする。
【0041】
図1では、水酸化マグネシウムの配合量を70〜160重量部の間で変化させて実験を行った結果を示しているが、水酸化マグネシウムの配合量によって若干の変色度合いが変わることもあるが、○、△、×の判断に影響が出るほどのばらつきは見られなかったため、以下では、銅害防止剤に着目して説明する。
【0042】
図1から分かるように、銅害防止剤を添加しないと、コンパウンドに変色が生じた。
【0043】
また、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールを0.5重量部添加すると、コンパウンドに変色がなく、結果は○であった。この銅害防止剤を0.5重量部添加することにより、変色を防止できることが分かったため、銅害防止剤を0.5重量部より多く添加しても変色を防止できると推測される。もっとも、銅害防止剤の添加量は、変色抑制作用が十分であること、材料費の増加を避ける観点及びコンパウンド全体の物性の変化を避ける観点から、上限として2.0重量部までが妥当であると考えられる。特に材料費の増加を避ける観点からは、1.0重量部までが好ましいと考えられる。また、銅害防止剤を0.5重量部より少なく添加しても、少なくとも変色を抑制する効果は得られると推測される。すなわち、変色を抑制する観点から言うと、下限として、銅害防止剤を0.2重両部以上添加すれば、変色を抑制できると考えられる。
【0044】
結論としては、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールを添加することにより、コンパウンドの変色を抑制することができ、その添加量は0.2〜2.0重量部に設定されるとよく、好ましくは0.5〜2.0重量部、材料費の増加を避ける観点からは上限は1.0重量部である。
【0045】
また、銅害防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.5重量部添加しても、コンパウンドに変色が生じ、結果は×であった。一方、上記銅害防止剤を1.0又は1.5重量部添加すると、コンパウンドに僅かな変色が生じているものの、変色を抑制することはでき、結果は△であった。この銅害防止剤についても、1.5重量部より多く添加しても変色を抑制できると推測される。もっとも、銅害防止剤の添加量は、材料費の増加を避ける観点及びコンパウンド全体の物性の変化を避ける観点から、上限として2.0重量部までが妥当であると考えられる。特に材料費の増加を避ける観点からは、1.5重量部までが好ましいと考えられる。また、銅害防止剤を1.0重量部より少なく添加しても、変色を抑制する効果は得られると推測される。すなわち、変色を抑制する観点から言うと、下限として、銅害防止剤を0.7重両部以上添加すれば、変色を抑制できると考えられる。より安定して変色抑制効果を得るためには、銅害防止剤を0.8重両部以上添加するとよいと考えられる。
【0046】
結論としては、銅害防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.7〜2.0重量部添加することにより、コンパウンドの変色を抑制することができ、好ましくは1.0〜2.0重量部添加するとよく、材料費の増加を避ける観点からは上限は1.5重量部である。
【0047】
また、ポリプロピレン樹脂、水酸化マグネシウム及びフェノール系酸化防止剤を混合後に、銅害防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.5、1.0又は1.5重量部添加すると、コンパウンドに僅かな変色が生じているものの、変色を抑制することはでき、結果は△であった。上記他材料の混合後に上記銅害防止剤を添加する場合にも、銅害防止剤を1.5重量部より多く添加しても変色を抑制できると推測される。もっとも、銅害防止剤の添加量は、上述したように、材料費の増加を避ける観点及びコンパウンド全体の物性の変化を避ける観点から、上限として2.0重量部までが妥当であると考えられる。特に材料費の増加を避ける観点からは、1.0重量部までが好ましいと考えられる。また、銅害防止剤を0.5重量部より少なく添加しても、変色を抑制する効果は得られると推測される。すなわち、変色を抑制する観点から言うと、下限として、銅害防止剤を0.2重両部以上添加すれば、変色を抑制できると考えられる。より安定して変色抑制効果を得るためには、銅害防止剤を0.3重両部以上添加するとよいと考えられる。
【0048】
結論としては、他材料の混合後に、銅害防止剤として、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を添加する場合、銅害防止剤の添加量は0.2〜2.0重量部に設定されるとよく、好ましくは0.5〜2.0重量部、材料費の増加を避ける観点からは上限は1.0重量部添加するとよい。
【0049】
また、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールを採用する場合、添加量が0.5重量部で変色を防止できたため、他材料の混合後に添加しても変色を防止できると推測される。よって、他材料の混合後に、銅害防止剤として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾールを添加する場合、銅害防止剤の添加量は0.2〜2.0重量部に設定されるとよく、好ましくは0.5〜2.0重量部、材料費の増加を避ける観点からは上限は1.0重量部である。
【0050】
なお、ここでは、フェノール系酸化防止剤を3重量部配合して実験を行ったが、フェノール系酸化防止剤の配合量を減らすと、金属水酸化物との反応量が少なくなる傾向にあると考えられるため、フェノール系酸化防止剤が3重量部より少ない場合でも、上記変色抑制効果が得られるものと推測できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)オレフィン系樹脂100重量部、
(b)金属水酸化物70〜160重量部、
(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部、
を含み、
(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
が添加されてなる、変色抑制絶縁被覆用コンパウンド。
【請求項2】
請求項1に記載の変色抑制絶縁被覆用コンパウンドであって、
前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.7〜2.0重量部が添加されてなる、変色抑制絶縁被覆用コンパウンド。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の変色抑制絶縁被覆用コンパウンドであって、
前記オレフィン系樹脂(a)と、前記金属水酸化物(b)と、前記フェノール系酸化防止剤(c)との混合後に、
前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部が添加されてなる、変色抑制絶縁被覆用コンパウンド。
【請求項4】
導体芯線と、
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の変色抑制絶縁被覆用コンパウンドが前記導体芯線の外周部を覆う形状に形成されている被覆部と、
を備える、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドを用いた被覆電線。
【請求項5】
(A)(a)オレフィン系樹脂100重量部と、(b)金属水酸化物70〜160重量部と、(c)フェノール系酸化防止剤1〜3重量部とを混合する工程と、
(B)工程(A)の混合物に、(d)銅害防止剤として、(d1)3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール、又は(d2)ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を添加して混合する工程と、
を備える、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドの製造方法。
【請求項6】
工程(B)では、前記銅害防止剤(d)として、3‐(N‐サリチロイル)アミノ‐1,2,4‐トリアゾール(d1)0.2〜2.0重量部、又は、ペンタエリスリトールテトラキス[3‐(3,5,ジ‐t‐ブチル‐4‐ヒドロキシフェニル)プロピオネート](d2)0.2〜2.0重量部を添加して混合する、変色抑制絶縁被覆用コンパウンドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−114902(P2013−114902A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260011(P2011−260011)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】