説明

変速制御装置

【課題】偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置を提供すること。
【解決手段】四節リンク機構式の無段変速機における変速比を制御する変速制御装置は、動力源への要求出力を導出する要求出力導出部と、要求出力及び動力源の回転数に応じた、動力源の出力トルクを導出する出力トルク導出部と、動力源への要求出力に応じた、無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、実変速比と目標変速比の差に応じたフィードバック制御を行うことによって、偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部とを備える。フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記偏心量が大きいほど大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御する変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの出力軸の回転運動を揺動運動に変換し、更に揺動運動を回転運動に変換して変速機の出力軸から出力する方式のIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機が知られている。当該方式の変速機では、クラッチを使用せずに変速比を無段階に変更できると共に、変速比の最大値を無限大に設定することができる。なお、当該変速機において、変速比が無限大に設定されたときの出力回転数はゼロである。
【0003】
図6は、IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図である。図6に示す無段変速機は、内燃機関等の動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線O1の周りを回転する入力軸101と、入力軸101と一体回転する偏心ディスク104と、入力側と出力側を結ぶ連結部材130と、出力側に設けられたワンウェイクラッチ120とを備える。
【0004】
偏心ディスク104は、第1支点O3を中心とした円形形状に形成されている。第1支点O3は、入力中心軸線O1に対して変更可能な偏心量r1を保ちつつ、入力中心軸線O1の周りに入力軸101と共に回転するように設定されている。したがって、偏心ディスク104は、偏心量r1を保った状態で、入力中心軸線O1の周りを入力軸101が回転するに伴って偏心回転するように設けられている。
【0005】
偏心ディスク104は、図6に示すように、外周側円板105と、入力軸101に一体形成された内周側円板108とで構成されている。内周側円板108は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1に対して一定の偏心距離だけ中心を偏倚させた肉厚円板として形成されている。外周側円板105は、第1支点O3を中心にした肉厚円板として形成されており、その中心(第1支点O3)を外れた位置に中心を持つ第1円形孔106を有している。そして、この第1円形孔106の内周に回転可能に内周側円板108の外周が嵌っている。
【0006】
また、内周側円板108には、入力中心軸線O1を中心とすると共に周方向の一部が内周側円板108の外周に開口した第2円形孔109が設けられており、その第2円形孔109の内部にピニオン110が回転自在に収容されている。ピニオン110の歯は、第2円形孔109の外周の開口を通して、外周側円板105の第1円形孔106の内周に形成した内歯歯車107に噛み合っている。
【0007】
このピニオン110は、入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1と同軸に回転するように設けられている。即ち、ピニオン110の回転中心と入力軸101の中心軸線である入力中心軸線O1とが一致している。ピニオン110は、図示しないアクチュエータにより、第2円形孔109の内部で回転させられる。通常時は、入力軸101の回転と同期させてピニオン110を回転させ、同期する回転数を基準として、ピニオン110に入力軸101の回転数を上回るか下回るかする回転数を与えることにより、ピニオン110を入力軸101に対して相対回転させる。例えば、ピニオン110およびアクチュエータの出力軸が互いに連結されるように配置し、アクチュエータの回転が入力軸101の回転に対して回転差が生じる場合には、その回転差に減速比をかけた分だけ入力軸101とピニオン110の相対角度が変化する減速機構(例えば遊星歯車)を用いることで実現できる。この際、アクチュエータと入力軸101の回転差がなく同期している場合には偏心量r1は変化しない。
【0008】
従って、ピニオン110を回すことにより、ピニオン110の歯が噛合している内歯歯車107つまり外周側円板105が内周側円板108に対して相対回転し、それにより、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)と外周側円板105の中心(第1支点O3)との間の距離(つまり偏心ディスク104の偏心量r1)が変化する。
【0009】
この場合、ピニオン110の回転によって、ピニオン110の中心(入力中心軸線O1)に外周側円板105の中心(第1支点O3)を一致させることができるように設定されており、両中心を一致させることにより、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」に設定できる。
【0010】
また、ワンウェイクラッチ120は、入力中心軸線O1から離れた出力中心軸線O2の周りを回転する出力部材(クラッチインナー)121と、外部から回転方向の動力を受けることで出力中心軸線O2の周りを揺動するリング状の入力部材(クラッチアウター)122と、入力部材122および出力部材121を互いにロック状態または非ロック状態にするために入力部材122と出力部材121の間に挿入された複数のローラ(係合部材)123とを有する。なお、ワンウェイクラッチ120には、出力部材121の断面における辺数と同数のローラ123が設けられている。
【0011】
ワンウェイクラッチ120の入力部材122から出力部材121への動力(トルク)の伝達は、入力部材122の正方向(図6中矢印RD1方向)の回転速度が出力部材121の正方向の回転速度を超えた条件でのみ行われる。つまり、ワンウェイクラッチ120では、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より高くなったときに初めてローラ123を介しての噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。
【0012】
入力部材122の周方向の1箇所には張り出し部124が設けられており、その張り出し部124に、出力中心軸線O2から離間した第2支点O4が設けられている。そして、入力部材122の第2支点O4上にピン125が配置され、このピン125によって、連結部材130の先端(他端部)132が入力部材122に回転自在に連結されている。
【0013】
連結部材130は、一端側にリング部131を有し、そのリング部131の円形開口133の内周が、ベアリング140を介して、偏心ディスク104の外周に回転自在に嵌合されている。従って、このように連結部材130の一端が偏心ディスク104の外周に回転自在に連結されると共に、連結部材130の他端が、ワンウェイクラッチ120の入力部材122上に設けられた第2支点O4に回動自在に連結されることにより、図7に示すように、入力中心軸線O1、第1支点O3、出力中心軸線O2、第2支点O4の4つの節を回動点とする四節リンク機構が構成される。
【0014】
図7は、四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図である。この四節リンク機構では、入力軸101から偏心ディスク104に与えられる回転運動が、連結部材130を介して、ワンウェイクラッチ120の入力部材122に対して該入力部材122の揺動運動として伝えられ、その入力部材122の揺動運動が出力部材121の回転運動に変換される。偏心ディスク104を回転させる入力軸101が1回転すると、ワンウェイクラッチ120の入力部材122は1往復揺動する。図7に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1の値に関係なく、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動周期は常に一定である。入力部材122の角速度ω2は、偏心ディスク104(入力軸101)の回転角速度ω1と偏心量r1によって決まる。
【0015】
その際、ピニオン110、ピニオン110を収容する第2円形孔109を備えた内周側円板108、内周側円板108を回転可能に収容する第1円形孔106を備えた外周側円板105、アクチュエータなどにより構成された変速比可変機構112の前記ピニオン110をアクチュエータで動かすことにより、偏心ディスク104の偏心量r1を変化させることができる。そして、偏心量r1を変更することで、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を変更することができ、それにより、入力軸101の回転数に対する出力部材121の回転数の比(変速比:レシオi)を変えることができる。即ち、入力中心軸線O1に対する第1支点O3の偏心量r1を調節することで、偏心ディスク104からワンウェイクラッチ120の入力部材122に伝えられる揺動運動の揺動角度θ2を変更し、それにより、入力軸101に入力される回転動力が、偏心ディスク104および連結部材130を介してワンウェイクラッチ120の出力部材121に回転動力として伝達される際の変速比を変更することができる。
【0016】
図8(a)〜(d)及び図9(a)〜(c)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図である。図8及び図9に示すように、変速比可変機構112のピニオン110を回転させて、内周側円板108に対して外周側円板105を回転させることにより、偏心ディスク104の入力中心軸線O1(ピニオン110の回転中心)に対する偏心量r1を調節することができる。
【0017】
例えば、図8(a)及び図9(a)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「大」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を大きくすることができるので、小さな変速比iを実現することができる。また、図8(b)及び図9(b)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「中」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「中」にすることができるので、中くらいの変速比iを実現することができる。また、図8(c)及び図9(c)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「小」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を小さくすることができるので、大きな変速比iを実現することができる。また、図8(d)に示すように、偏心ディスク104の偏心量r1を「ゼロ」にした場合は、ワンウェイクラッチ120の入力部材122の揺動角度θ2を「ゼロ」にすることができるので、変速比iを「無限大(∞)」にすることができる。
【0018】
図10は、ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図である。また、図11(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図である。図10及び図11(a)〜(c)に示すように、出力部材121のローラ123と接する面は、入力部材122の揺動運動に応じてその揺動方向にローラ123が移動可能な窪みを有する。但し、当該窪みの深さは、入力部材122が図10に示す空転方向の位置とトルク伝達方向の位置とで異なり、空転方向の位置の深さはトルク伝達方向の位置の深さよりも深い。
【0019】
入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123も空転方向に移動する。空転方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干広い。このため、当該位置に移動したローラ123は空転する。一方、入力部材122が相対的に出力部材121よりもトルク伝達方向に振れると、ローラ123もトルク伝達方向に移動する。トルク伝達方向の位置における入力部材122から出力部材121までの空間はローラ123の大きさよりも若干狭い。このため、当該位置に移動したローラ123は、図11(a)に示すように、入力部材122と出力部材121とによって挟まれ、それぞれから対向する方向に圧力を受ける。このとき、ローラ123を介した入力部材122と出力部材121の噛み合い(ロック)が発生し、入力部材122の揺動動力が出力部材121の回転運動に変換される。この後、入力部材122の回転速度が出力部材121の回転速度より低下して、入力部材122が相対的に出力部材121よりも空転方向に振れると、ローラ123を介したロックが解除されて、図11(c)に示したように、ワンウェイクラッチ120はフリーな状態(空転状態)に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特表2005−502543号公報
【特許文献2】独国特許第102009039993号明細書
【特許文献3】特開昭61−105353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
特許文献3で説明されているように、無段変速機の変速比を制御する変速制御装置は、車速とスロットル開度に応じて変速比を制御する。すなわち、当該変速制御装置は、車速とスロットル開度に応じた変速比又は間接的に変速比を表す物理量を算出して、この算出結果を目標値に設定し、実際の変速比又は上記物理量が目標値に追従するようフィードバック制御する。
【0022】
上記説明した無段変速機のワンウェイクラッチ120を構成するローラ123は、一般的には高い剛性を有する金属等の物質によって形成されてはいるが、トーション(ねじれ)特性を有する。なお、このトーション特性は、入力部材122及び出力部材121に対するローラ123の滑りによる特性と、入力部材122及び出力部材121からの圧力による弾性変形による特性とを合わせた特性である。
【0023】
このようなトーション特性を有するローラ123を備えた無段変速機は四節リンクを用いた機構であるが、当該機構においては、偏心量r1に対する変速比の特性が幾何学的に非線形である。図12は、図6に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比の特性を異なる入力トルク毎に示したグラフである。図12に示すように、偏心量r1に対する変速比の特性は入力トルクに応じて異なる。
【0024】
したがって、動力源から無段変速機に入力されるトルクが増加すると、偏心量r1を一定に保っていても変速比が上がる。このように変速比が意図せずして上がると動力源の回転数が上がってしまい、運転性が悪化する。また、このようにして動力源の回転数が上がると目標回転数との相異が生じるため、上記説明した変速制御装置が変速比のフィードバック制御を行っても、動力源を運転効率の良い状態に過渡的に追従させることができない。その結果、燃費性能等が低下する。
【0025】
本発明の目的は、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御可能な変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の変速制御装置は、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータ(例えば、実施の形態でのアクチュエータ)を有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部(例えば、実施の形態での内燃機関要求出力導出部201)と、前記要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記動力源の出力トルクを導出する出力トルク導出部(例えば、実施の形態での出力トルク算出部203)と、前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部(例えば、実施の形態での目標BD入力回転数導出部205)と、前記無段変速機における実際の入力回転数に対する実際の出力回転数の比である実変速比と、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比の差に応じたフィードバック制御を行うことによって、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部(例えば、実施の形態での偏心量制御部207)と、を備え、前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記偏心量が大きいほど大きいことを特徴としている。
【0027】
さらに、請求項2に記載の発明の変速制御装置では、前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記動力源の出力トルクが小さいほど大きいことを特徴としている。
【0028】
さらに、請求項3に記載の発明の変速制御装置では、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関)からの回転動力を受けることで入力中心軸線(例えば、実施の形態での入力中心軸線O1)の周りを回転する入力軸(例えば、実施の形態での入力軸101)と、前記入力中心軸線に対する偏心量(例えば、実施の形態での偏心量r1)を変更可能な第1支点(例えば、実施の形態での第1支点O3)をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスク(例えば、実施の形態での偏心ディスク104)と、前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線(例えば、実施の形態での出力中心軸線O2)の周りを回転する出力部材(例えば、実施の形態での出力部材121)と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材(例えば、実施の形態での入力部材122)と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材(例えば、実施の形態でのローラ123)と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチ(例えば、実施の形態でのワンウェイクラッチ120)と、一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点(例えば、実施の形態での第2支点O4)に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材(例えば、実施の形態での連結部材130)と、前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータ(例えば、実施の形態でのアクチュエータ)を有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構(例えば、実施の形態での変速比可変機構112)と、を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部(例えば、実施の形態での内燃機関要求出力導出部201)と、前記要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記動力源の出力トルクを導出する出力トルク導出部(例えば、実施の形態での出力トルク算出部203)と、前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部(例えば、実施の形態での目標BD入力回転数導出部205)と、前記無段変速機における実際の入力回転数に対する実際の出力回転数の比である実変速比と、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比の差に応じたフィードバック制御を行うことによって、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部(例えば、実施の形態での偏心量制御部207)と、を備え、前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記動力源の出力トルクが小さいほど大きいことを特徴としている。
【発明の効果】
【0029】
請求項1〜3に記載の発明の変速制御装置によれば、偏心量に対する変速比の特性が幾何学的に非線形な無段変速機における変速比を適正に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図
【図2】内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフ
【図3】偏心量制御部207の内部構成を示すブロック図
【図4】偏心量r1及び出力トルクToutとフィードバックゲインとの関係を示すグラフ
【図5】図1に示した変速制御装置の動作を示すフローチャート
【図6】IVTと呼ばれる無段変速機の一部の構成を軸線方向から見た側断面図
【図7】四節リンク機構として構成された無段変速機の駆動力伝達原理の説明図
【図8】(a)〜(d)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図9】(a)〜(c)は、図6に示した無段変速機における変速比可変機構112による変速原理の説明図
【図10】ワンウェイクラッチ120の断面図及びその一部拡大図
【図11】(a)〜(c)は、ワンウェイクラッチ120の各状態における一部拡大図
【図12】図6に示した無段変速機における偏心量r1に対する変速比の特性を異なる入力トルク毎に示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本発明に係る変速制御装置は、上記説明したIVT(Infinity Variable Transmission)と呼ばれる無段変速機(以下「BD」とも表記する)における変速比が適正値となるよう偏心量r1を制御する。また、以下の説明では、IVTの入力側の動力源を、車両の駆動源である内燃機関として説明する。本実施形態では、内燃機関のクランク軸が無段変速機の入力軸に直結されている。したがって、内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。
【0032】
図1は、一実施形態の変速制御装置の内部構成を示すブロック図である。図1に示す変速制御装置は、内燃機関要求出力導出部201と、出力トルク算出部203と、目標BD入力回転数導出部205と、偏心量制御部207とを備える。
【0033】
内燃機関要求出力導出部201は、車両の走行速度(車速)及びアクセルペダル開度(AP開度)に基づいて、図示しない内燃機関に要求する出力(内燃機関要求出力)を導出する。
【0034】
出力トルク算出部203は、内燃機関要求出力導出部201が導出した内燃機関要求出力を内燃機関の回転数(内燃機関回転数)で除算して得られるトルクを内燃機関の出力トルクToutとして算出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、内燃機関の出力トルクToutは、無段変速機の入力トルク(BD入力トルク)でもある。
【0035】
目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関要求出力に応じた無段変速機(BD)における目標入力回転数(目標BD入力回転数)を導出する。上述したように、本実施形態では内燃機関の出力がそのまま無段変速機に入力される。したがって、目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関の効率を優先させる場合において、内燃機関の燃料消費率が最も良い運転点に対応する内燃機関の回転数を目標BD入力回転数として出力する。
【0036】
図2は、内燃機関の熱効率に関する特性を示すグラフである。当該グラフの縦軸は内燃機関のトルクを示し、横軸は内燃機関の回転数を示す。図2中の太い実線は、燃料消費率が最も良い内燃機関の運転点を結んだ線(BSFCボトムライン)であり、一点鎖線は等出力ラインである。目標BD入力回転数導出部205は、入力された内燃機関要求出力に対応する等出力ラインがBSFCボトムラインと交差する運転点に対応した回転数を目標BD入力回転数として導出する。
【0037】
偏心量制御部207は、(0)実偏心量r1と、(1)内燃機関の出力トルク(BD入力トルク)Toutと、(2)目標BD入力回転数と、(3)無段変速機(BD)における実際の入力回転数(実BD入力回転数)に等しい内燃機関回転数と、(4)無段変速機(BD)における実際の出力回転数(実BD出力回転数)とに基づいて、当該無段変速機における偏心量r1を制御するための偏心量制御項を導出する。なお、偏心量r1とは、図6に示した偏心ディスク104の中心である第1支点O3とピニオン110の中心である入力中心軸線O1の間の距離である。また、偏心量制御部207が導出した偏心量制御項を示す信号は、上記説明した無段変速機(BD)のピニオン110を回転させる図示しないアクチュエータに駆動信号として入力される。アクチュエータによってピニオン110が回転すると、偏心量r1が変化する。実偏心量r1は、アクチュエータの回転数を積算することで得られる。
【0038】
以下、偏心量制御部207の動作及び内部構成の詳細について説明する。図3は、偏心量制御部207の内部構成を示すブロック図である。図3に示すように、偏心量制御部207は、目標レシオ算出部211と、実レシオ算出部213と、レシオ差分算出部215と、フィードバック制御部(FB制御部)217とを有する。
【0039】
目標レシオ算出部211は、(2)目標BD入力回転数と(4)実BD出力回転数とに基づいて、無段変速機(BD)における変速比の目標値(目標レシオ)を算出する。すなわち、目標レシオ算出部211は、(4)実BD出力回転数に対する(2)目標BD入力回転数の比(=目標BD入力回転数/実BD出力回転数)を算出する。
【0040】
実レシオ算出部213は、(3)実BD入力回転数と(4)実BD出力回転数とに基づいて、無段変速機(BD)における変速比の実値(実レシオ)を算出する。すなわち、実レシオ算出部213は、(3)実BD入力回転数に対する(4)実BD出力回転数の比(=実BD出力回転数/実BD入力回転数)を算出する。
【0041】
レシオ差分算出部215は、目標レシオ算出部211が算出した目標レシオと実レシオ算出部213が算出した実レシオの差(レシオ差Δi=目標レシオ−実レシオ)を算出する。
【0042】
フィードバック制御部(FB制御部)217は、レシオ差分算出部215が算出したレシオ差Δiに応じたPI制御又はPID制御を行うことによって、偏心量r1のフィードバック制御項(FB制御項)として偏心量制御項を導出する。なお、本実施形態のFB制御部217は、偏心量制御項の導出時に、実偏心量r1及び出力トルクToutに基づいて、フィードバックゲインをスケジューリングする。
【0043】
図4は、偏心量r1及び出力トルクToutとフィードバックゲインとの関係を示すグラフである。図4に示すように、フィードバックゲインは、偏心量r1及び出力トルクToutと略反比例の関係を有し、偏心量r1が大きいほど大きく、出力トルクToutが小さいほど大きい。FB制御部217は、実偏心量r1及び出力トルクToutに基づいてフィードバックゲインを導出し、そのゲインを用いてレシオ差Δiに応じたPI制御又はPID制御を行う。
【0044】
図5は、図1に示した変速制御装置の動作を示すフローチャートである。図5に示すように、変速制御装置の内燃機関要求出力導出部201は、車速及びAP開度に基づいて内燃機関要求出力を導出する(ステップS101)。次に、目標BD入力回転数導出部205は、内燃機関要求出力に応じた無段変速機(BD)における目標BD入力回転数を導出する(ステップS103)。次に、出力トルク算出部203は、ステップS101で導出した内燃機関要求出力と内燃機関回転数から内燃機関の出力トルクToutを算出する(ステップS105)。
【0045】
次に、偏心量制御部207は、目標レシオと実レシオの差(レシオ差Δi)を算出する(ステップS107)。次に、偏心量制御部207は、ステップS107で算出したレシオ差Δiに応じたPI制御又はPID制御を行うことによって偏心量制御項を導出する(ステップS109)。最後に、変速制御装置は、ステップS109で導出した偏心量制御項を用いて無段変速機(BD)の変速比を制御する(ステップS111)。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の変速制御装置は、無段変速機(BD)における変速比が適正値となるよう、偏心量制御項の導出時に、実偏心量r1及び出力トルクToutに基づくフィードバックゲインをスケジューリングする。こうして導出された偏心量制御項に応じて偏心量r1を制御することで、当該無段変速機の変速比は適正に制御される。
【符号の説明】
【0047】
101 入力軸
104 偏心ディスク
110 ピニオン
112 変速比可変機構
120 ワンウェイクラッチ
121 出力部材
122 入力部材
123 ローラ(係合部材)
130 連結部材
131 一端部(リング部)
132 他端部
133 円形開口
140 ベアリング
201 内燃機関要求出力導出部
203 出力トルク算出部
205 目標BD入力回転数導出部
207 偏心量制御部
211 目標レシオ算出部
213 実レシオ算出部
215 レシオ差分算出部
217 フィードバック制御部(FB制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、
前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部と、
前記要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記動力源の出力トルクを導出する出力トルク導出部と、
前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、
前記無段変速機における実際の入力回転数に対する実際の出力回転数の比である実変速比と、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比の差に応じたフィードバック制御を行うことによって、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部と、を備え、
前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記偏心量が大きいほど大きいことを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置であって、
前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記動力源の出力トルクが小さいほど大きいことを特徴とする変速制御装置。
【請求項3】
動力源からの回転動力を受けることで入力中心軸線の周りを回転する入力軸と、
前記入力中心軸線に対する偏心量を変更可能な第1支点をそれぞれの中心に有して、該偏心量を保ちつつ前記入力中心軸線の周りを前記入力軸と共に回転する偏心ディスクと、
前記入力中心軸線から離れた出力中心軸線の周りを回転する出力部材と、外部から回転方向の動力を受けることで前記出力中心軸線の周りを揺動する入力部材と、前記入力部材及び前記出力部材を互いにロック状態又は非ロック状態にする係合部材と、を有し、前記入力部材の正方向の回転速度が前記出力部材の正方向の回転速度を上回ったとき、前記入力部材に入力された回転動力を前記出力部材に伝達し、それにより前記入力部材の揺動運動を前記出力部材の回転運動に変換するワンウェイクラッチと、
一端が前記偏心ディスクの外周に前記第1支点を中心に回転自在に連結され、他端が前記ワンウェイクラッチの前記入力部材上の前記出力中心軸線から離間した位置に設けられた第2支点に回動自在に連結されることで、前記入力軸から前記偏心ディスクに与えられる回転運動を、前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に対し当該入力部材の揺動運動として伝える連結部材と、
前記入力中心軸線に対する前記第1支点の偏心量を調節することで、前記偏心ディスクから前記ワンウェイクラッチの前記入力部材に伝えられる揺動運動の揺動角度を変更するアクチュエータを有し、それにより、前記入力軸に入力される回転動力が前記偏心ディスク及び前記連結部材を介して前記ワンウェイクラッチの出力部材に回転動力として伝達される際の変速比を変更すると共に、前記偏心量がゼロに設定可能とされることで前記変速比を無限大に設定する変速比可変機構と、
を備えた四節リンク機構式の無段変速機における前記変速比を制御する変速制御装置であって、
前記動力源への要求出力を導出する要求出力導出部と、
前記要求出力及び前記動力源の回転数に応じた、前記動力源の出力トルクを導出する出力トルク導出部と、
前記動力源への要求出力に応じた、前記無段変速機における目標入力回転数を導出する目標入力回転数導出部と、
前記無段変速機における実際の入力回転数に対する実際の出力回転数の比である実変速比と、前記目標入力回転数に対する前記実際の出力回転数の比である目標変速比の差に応じたフィードバック制御を行うことによって、前記偏心量を制御するための偏心量制御項を導出する偏心量制御部と、を備え、
前記フィードバック制御のフィードバックゲインは、前記動力源の出力トルクが小さいほど大きいことを特徴とする変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−68312(P2013−68312A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209293(P2011−209293)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】