変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム
【課題】変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び設計変数最適化プログラムに関し、品質工学の手法を用いて効率的に各設計パラメータの最適化を図る。
【解決手段】品質工学における基本機能の入力に変速機の油温をとり出力に従動軸角加速度変動の実効値をとり目標特性を設定するステップA10と、油温を信号因子,変速機に関連する複数の設計変数を制御因子,制御因子の微小変化を誤差因子として演算を実行し設計変数の第1標準SN比を算出するステップA40と、第1標準SN比の要因効果図を用いて目標特性に対する1次チューニングを施すステップA80と、ステップA40の演算での信号因子の全水準範囲のうち所望の水準範囲に対応する設計変数の第2標準SN比,一次係数を算出するステップA100と、第2標準SN比,一次係数の要因効果図を用いて目標特性に対する2次チューニングを施すステップA120とを備える。
【解決手段】品質工学における基本機能の入力に変速機の油温をとり出力に従動軸角加速度変動の実効値をとり目標特性を設定するステップA10と、油温を信号因子,変速機に関連する複数の設計変数を制御因子,制御因子の微小変化を誤差因子として演算を実行し設計変数の第1標準SN比を算出するステップA40と、第1標準SN比の要因効果図を用いて目標特性に対する1次チューニングを施すステップA80と、ステップA40の演算での信号因子の全水準範囲のうち所望の水準範囲に対応する設計変数の第2標準SN比,一次係数を算出するステップA100と、第2標準SN比,一次係数の要因効果図を用いて目標特性に対する2次チューニングを施すステップA120とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法及びその最適な設計変数をコンピュータを用いて求めるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機から発生するアイドル騒音を低減させることを目的とした変速機自身の設計の手法として、パラメータスタディが実施されている。パラメータスタディとは、コンピュータを利用した実験,シミュレーションによって試験的に個々のパラメータ(設計変数)を変更し、その変更に由来する影響の大きさを推算する手法である。
【0003】
例えば、変速機のアイドル騒音を測定対象としたパラメータスタディとしては、非特許文献1や非特許文献2に示すような技術がある。この技術では、変速機内部の各歯車の角速度変動や歯打力等をパラメータとして、アイドル騒音の推算がなされている。
ところで近年、一般的な工業製品の設計,開発業務における設計変数の最適化方法の一つとして、品質工学(タグチメソッド)が注目されている。品質工学とは、実験のパラメータである各制御因子及び制御因子の値(以下、水準という)を直交表に割り付け、直交表に基づく各制御因子の値の組み合わせを用いて実験を複数回数繰り返し、SN比や出力感度の高い条件を選択することにより、ロバスト性が高く効率的な設計変数の条件を探る方法である。なお、品質工学に関しては、例えば非特許文献3や非特許文献4に記載されている。
【非特許文献1】八幡重太郎,木塚智昭,梅本修「手動変速機のアイドル騒音の計算予測(第1報)遊転歯車と油温の影響」自動車技術会論文集Vol.34,No.1,p.95-100,2003年1月
【非特許文献2】八幡重太郎,梅本修「部分構造合成法による手動変速機のアイドル騒音の計算予測」自動車技術会論文集Vol.36,No.3,p.75-82,2005年5月
【非特許文献3】田口玄一,矢野宏「品質工学応用講座 コンピュータによる情報設計の技術開発」日本規格協会,2004年6月17日
【非特許文献4】矢野宏「品質工学入門」日本規格協会,1995年6月15日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、品質工学は様々な分野に応用されているものの、変速機に関するパラメータの選択に適用した例はない。特に、変速機のパラメータ設計においては、多数の遊転歯車を如何にして忠実にモデル化するかという難解な課題が付きまとううえ、アイドル騒音に影響を与えると考えられる制御因子の発見も容易ではないため、品質工学の適用自体が困難である。
【0005】
また、発明者らの鋭意努力の結果、変速機のアイドル騒音低減にかかる設計変数に対する品質工学の適用の可能性が見いだされたものの、必ずしも設計変数の最適化にまでは至らないことが明らかとなった。すなわち、品質工学の手法を用いることによって、入力信号の各水準における出力信号のばらつきを小さくすることができる反面、騒音レベル自体を低減させることが困難であることが判明した。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、品質工学の手法を用いて変速機における多数の設計パラメータとアイドル騒音との関係を把握し、効率的に各設計パラメータの最適化を図ることができるようにした、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法であって、品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップとを備えたことを特徴としている。
【0008】
また、請求項2記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1記載の構成に加え、該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出することを特徴としている。
また、請求項3記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1又は2記載の構成に加え、該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施すことを特徴としている。
【0009】
ここで、予め設定された所定の設定範囲内とは、各設計変数の設定のし易さを考慮して規定された設定範囲のことである。つまり、機能的な要請やコスト上の制約によって、各設計変数を調節することのできる範囲を定めておくことができる。
また、請求項4記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の構成に加え、該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とすることを特徴としている。
【0010】
また、請求項5記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成に加え、該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施すことを特徴としている。
また、請求項6記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜5の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに備えたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項7記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜6の何れか1項に記載の構成に加え、該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに備えたことを特徴としている。
【0012】
また、請求項8記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜7の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いることを特徴としている。
また、請求項9記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜8の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いることを特徴としている。
【0013】
請求項10記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、コンピュータを用いて、変速機のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるためのプログラムであって、該コンピュータに、品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップとを実行させることを特徴としている。
【0014】
また、請求項11記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10記載の構成に加え、該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出することを特徴としている。
また、請求項12記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10又は11記載の構成に加え、該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施すことを特徴としている。
【0015】
また、請求項13記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜12の何れか1項に記載の構成に加え、該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とすることを特徴としている。
また、請求項14記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜13の何れか1項に記載の構成に加え、該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施すことを特徴としている。
【0016】
また、請求項15記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜14の何れか1項に記載の構成に加え、該コンピュータに、該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに実行させることを特徴としている。
【0017】
また、請求項16記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜15の何れか1項に記載の構成に加え、該コンピュータに、該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに実行させることを特徴としている。
【0018】
また、請求項17記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜16の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いることを特徴としている。
また、請求項18記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜17の何れか1項に記載の構成に加え、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項1,10)によれば、信号因子の水準範囲を部分的に抽出することによって得られる第2標準SN比及び一次係数を参照することで、目標特性に対するチューニングを二段階に分けて実施することができる。これにより、1次チューニングにおいて目標特性との差異が大きい油温の範囲のみに関して、さらに2次チューニングを施し、従動軸角加速度変動の実効値のばらつきに影響を与えやすい制御因子を特定することが可能となり、良好な設計変数の組み合わせを求めることができる。したがって、目標特性を満足する設計変数を得ることができ、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0020】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項2,11)によれば、タグチメソッドを利用した数値演算プログラムを用いて、高速かつ容易に設計変数を最適化することができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項3,12)によれば、変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきへの影響力のみならず、設定のし易さを考慮して設計変数の設定範囲を定めることができる。
【0021】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項4,13)によれば、所定の温度以上の油温範囲における変速機の従動軸角加速度変動の実効値を目標特性に近づけることができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項5,14)によれば、一次係数が1に近い水準を選択することにより、特性値の目標曲線への近似の度合いを考慮して、設計変数を設定することができる。
【0022】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項6,15)によれば、第2ステップにおけるシミュレーション結果と第7ステップにおけるシミュレーション結果とを比較することで、設計変数のロバストの度合いを確認することができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項7,16)によれば、1次チューニングまでの過程で得られる設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とすることで、その設計変数を得るまでに演算された直積実験の特性値y,標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2等の計算が精度よく行われているかどうかを確認することができる。
【0023】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項8,17)によれば、該変速機の油温の中高温時におけるアイドル騒音を効果的に低減させることができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項9,18)によれば、該変速機の全ての温度範囲において、アイドル騒音を効果的に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデル(実験モデル)の構成を示す模式図、図2は本発明の一実施形態に係る数値シミュレーション用計算機の構成を示すブロック図、図3は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルを示す模式図である。なお、実験モデルの詳細については、前述の非特許文献1,非特許文献2に記載されている。
【0025】
また、図4は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとアイドル騒音レベルLとの関係を示すグラフ、(b)は変速機の油温とアイドル騒音レベルLとの関係を示すグラフ、図5は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は低油温時(20℃)におけるフライホイール31の角速度変動比の時刻歴応答、(b)は低油温時(20℃)における従動軸の角速度変動比の時刻歴応答、(c)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の時刻歴応答、(d)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答、図6は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの機能構成を説明するための全体構成図である。
【0026】
また、図7は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける目標曲線の設定例を示すグラフであり、(a)は変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとの関係における目標曲線を示すグラフ、(b)は変速機の油温とアイドル騒音レベルLとの関係における目標曲線を示すグラフ、図8は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける数値シミュレーションの出力例を示す模式図、図9は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を説明するためのフローチャートである。
【0027】
また、図10は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図11は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、1次チューニングでの従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを示すグラフであり、(a)は最適条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、(b)は現行条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0028】
また、図12は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた試算から得られた変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図13は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図である。
【0029】
また、図14は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1を示す要因効果図、図15は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、2次チューニングでの変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図16は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、実機の変速機に2次チューニングを施した場合の変速機の油温とアイドル騒音レベルLのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0030】
また、図17は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図18は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図19は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時において、信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図である。
【0031】
また、図20は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における、2次チューニング後の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図21は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2において、実機の変速機に2次チューニングを施した場合の変速機の油温とアイドル騒音レベルLのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0032】
[構成]
〔1.変速機モデル構成〕
まず、本発明に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデル構成について説明する。この変速機モデル(実験モデル)は、上記の設計変数最適化方法及び設計変数最適化方法プログラムにおける解析やその条件設定,解析された結果の確認等に用いられるほか、アイドル騒音やこれに関連する各種データの実測採取に供される。なお、本発明に係る設計変数最適化方法及び設計変数最適化プログラムの適用対象は、このような変速機モデルに限定されないことを付記しておく。
【0033】
図1に示すように、本変速機モデル(以下単に、変速機ともいう)20は、ケーシング21の内部に入力軸22,従動軸23及び出力軸24を回転自在に軸支された構成を備えてクラッチ30に接続されている。
入力軸22は、クラッチ30を介してエンジンの出力軸に接続される軸であり、駆動軸歯車22aを介して回転運動を従動軸23へ伝達するものである。従動軸23及び出力軸24は、変速機20の各変速段に対応する減速比を実現するための複数の歯車を有する軸である。一般的な変速機では、歯車の組み合わせを変えることにより、入力軸の回転数に対する出力軸の回転数を変化させることができるようになっている。なお、本変速機モデル20では、出力軸24上の歯車のうちの一つの遊転歯車24aを除いた他の全ての歯車が取り外され、代わりとなる錘25が取り付けられている。錘25は、取り外した歯車と等価の慣性モーメントを生じさせる質量及び大きさに設定されている。
【0034】
遊転歯車24aは、出力軸24に対して係脱可能に設けられており、手動又は自動で係脱するように構成されている。例えば、エンジンがアイドル状態にあり、変速段のセレクト位置がニュートラルであるような場合には、遊転歯車24aが出力軸24から脱離されて遊転するものとする。
また、従動軸23には複数の従動軸歯車23a〜23dが固設されている。これらの歯車のうち駆動軸歯車22aと噛合する従動軸歯車23aには、バックラッシ(backlash)除去機構26が設けられている。バックラッシ除去機構26とは、駆動軸歯車22aと従動軸歯車23aとの間隙(ガタ)を詰めるための機構である。これにより、歯車間の歯打ちに伴う騒音が防止されている。なお、ケーシング21の内部には、作動油が貯留されている。
【0035】
入力軸22,従動軸23及び出力軸24の各軸には、回転角を検出するためのロータリーエンコーダ27a〜27cが装着されている。
本変速機20の入力軸22に接続されるクラッチ30は、複数のスプリングから構成された緩衝機構を備えている。緩衝機構は、多段階のねじり特性,すなわちクラッチ特性を有する多段緩衝機構として構成されており、エンジントルクの変動にかかわらず、クラッチの接続が衝突なくスムーズに実行されるようになっている。クラッチの接続時には、エンジンの駆動力がフライホイール31及びクラッチハブ32を介して変速機の入力軸へと伝達されるようになっている。
【0036】
なお、本変速機20の側方の所定位置には、騒音の大きさ(ガラ音,騒音レベルL)を検出する騒音計28が取り付けられている。
図1中に示された計算機40は、本変速機モデルにおける実験データの収集及び分析を実施するコンピュータである。この計算機40には、ロータリーエンコーダ27a〜27cで検出された各回転角速度及び騒音計28で検出された騒音の大きさ等が入力されるようになっている。
【0037】
〔2.計算機システム構成〕
次に、本設計変数最適化プログラムを実行する計算機の全体構成の一例を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る計算機の構成を示すブロック図である。この計算機1は、上述の計算機40で収集,分析された実験データに基づいて数値シミュレーションを実施する、数値シミュレーション用のPC(パーソナルコンピュータ)であって、その要部に着目すると、計算機本体2,ディスプレイ(表示装置)3A,プリンタ(印刷装置)3B,キーボードやマウス等の入力装置3C等を備えて構成されている。計算機本体2には、さらに、CPU(Central Processing Unit)4,メモリ(主記憶部)5,ハードディスク(二次記憶装置)6,記録媒体ドライブ7Aおよびネットワークカード7B等のコンポーネントが備えられている。これらの各コンポーネントは、内部バス8を介して相互にデータ通信可能に接続されている。
【0038】
入力装置3Cは、計算機1で計算(演算)させたい事項に応じて必要なデータを入力するために使用されるものであり、ディスプレイ3Aは、計算機1による演算結果を表示するためのものであり、プリンタ3Bは、前記の演算結果を必要に応じて所望の形式で印刷するためのものである。つまり、これらのディスプレイ3Aやプリンタ3Bは、計算機1(CPU4)による演算結果(データ)を出力するデータ出力手段としての機能を果たすものである。
【0039】
CPU(演算手段)4は、計算機1としての動作(ディスプレイ3Aの表示制御やプリンタ3Bの印刷制御等も含む)を統括制御するためのもので、例えば、メモリ5やハードディスク6に内部バス8経由でアクセスして必要なソフトウェア(アプリケーション)プログラム(以下、単に「プログラム」ともいう)やアプリケーションデータ等を読み込んで動作し、電子計算機としての機能を発揮する。
【0040】
ハードディスク6は、上記のプログラムやアプリケーションデータ等(以下単に、各種データともいう)を予め、あるいは、インストール等によって記憶しておくためのものである。ここに記憶されている各種データは、適宜メモリ5に読み出されて、CPU4によるプログラムの実行が行われるようになっている。なお、メモリ5は、一般にハードディスク6に比してCPU4からのアクセス速度が高速なRAM等によって実現され、これにより、CPU4による上記プログラムの実行が高速に行われる。
【0041】
さらに、記録媒体ドライブ7Aは、FDやCD−ROM,DVD−ROM,光磁気ディスク(MO)等の所要の記録媒体9に記録されている各種データをCPU4の制御のもとに読み出してハードディスク6に記憶することによって、各種データのインストールを可能にする機能を提供するものである。例えば、本発明に係る設計変数最適化プログラム10が記録された記録媒体9を本ドライブ7に装填して、その記録媒体9からデータ解析プログラム10をインストールする(ハードディスク6に記憶する)ことによって、計算機1(CPU4)を変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化装置として機能させることが可能である。
【0042】
なお、上記の設計変数最適化プログラム10(以下単に、解析プログラム10ともいう)がハードディスク6あるいはメモリ5に記憶された時点で、その解析プログラム10を保持したハードディスク6あるいはメモリ5が、上記解析プログラム10を記録した記録媒体となることは言うまでもない。
また、この解析プログラム10は、このような記録媒体9からのインストールだけでなく、例えば、計算機1上でプログラミングしたものを用いてもよいし、ネットワークカード7Bを通じて、インターネットやLAN(Local Area Network)等の所望の通信回線(伝送媒体;有線,無線を問わない)を介したオンラインでのインストールも可能である。つまり、解析プログラム10は、FDやCD−ROM,DVD−ROM,MO等の記録媒体9や、インターネット等の所望の通信回線を介して提供されてもよい。
【0043】
〔3.計算モデル〕
上述の変速機モデル20に基づく本解析プログラム10の計算モデルを図3に示す。この計算モデルは、従動軸23を多自由度化した場合のモデルである。この図3中において、kはばね定数,cは減衰係数を示す。また、TE,TE0をエンジントルクの変動分と定常分、TCLをクラッチトルク、θCLをクラッチ作動角、TCL0をクラッチトルクの初期値、TDを駆動軸での変速機の回転抵抗(撹拌抵抗)トルク、FS,FS0,kSをそれぞれバックラッシ除去機構のばね力,初期ばね力及び弾性係数、FG,FGAを歯車噛合部の歯打力、TCTO, TFTOを従動軸歯車と遊転歯車との回転抵抗トルク、γ,δを従動軸歯車と遊転歯車との回転抵抗の割合として記述する。なお、Iは慣性モーメントを示す。
【0044】
フライホイール31の回転角をθFWとし、クラッチハブ32の回転角をθCHとすると、クラッチの作動角θCLは以下の式1で与えられる。
【0045】
【数1】
【0046】
このねじれ角θCLとクラッチ30を介して伝達されるトルクTCLとの関係を示すクラッチ30のねじり特性を以下の式2〜式9に記述する。なお、このねじり特性をグラフ化したものを、図3中に示す。
【0047】
【数2】
【0048】
【数3】
【0049】
図3に示す計算モデルでは、駆動軸歯車22aと従動軸歯車23aとの間において、バックラッシ及びバックラッシ除去機構26に係る歯打力が考慮されている。また、全ての従動軸歯車のうち入力軸側から動力が伝達される従動軸歯車23aにおいて、回転抵抗TDが作用するものとしている。さらに、全ての従動軸歯車のうち出力軸側へ動力を伝達する従動軸歯車23dと遊転歯車24aとの間にもバックラッシに係る歯打力が考慮され、遊転歯車24aにおいて回転抵抗TDが作用するものとしている。
【0050】
また、従動軸歯車23dと遊転歯車24aとのピッチ円上の相対変異yGAを以下の式10の通りに設定し、従動軸歯車23dと遊転歯車24aとの歯車噛合部の歯打力FGAを以下の式11,式12の通りに記述する。
【0051】
【数4】
【0052】
続いて、上記のような計算モデルに基づく運動方程式を以下に列記する。
〔3−1.フライホイール31〕
【0053】
【数5】
【0054】
〔3−2.クラッチハブ32〕
【0055】
【数6】
【0056】
〔3−3.駆動軸歯車22a〕
【0057】
【数7】
【0058】
〔3−4.従動軸歯車23a〜23d〕
・駆動軸歯車22aとの噛合部(従動軸歯車23a)
【0059】
【数8】
【0060】
・遊転歯車24aとの噛合部(従動軸歯車23d)
【0061】
【数9】
【0062】
・従動軸23の内部自由度
【0063】
【数10】
【0064】
〔3−5.遊転歯車24a〕
【0065】
【数11】
【0066】
なおここに、
【0067】
【数12】
【0068】
【数13】
【0069】
【数14】
【0070】
上記の計算モデルでは、変速機20の回転抵抗TDが従動軸23に作用するトルクTCTA0,TCTF0及び遊転歯車24aに作用するトルクTFT0の和であると仮定している。変速機20内の油温の影響は、各歯車の回転抵抗の違いとして考慮されるようになっている。また、フライホイール31の慣性モーメントは、クラッチハブ32,駆動軸歯車22a,従動軸歯車23a〜23d及び遊転歯車24aの慣性モーメントに比較して十分大きいので、式13に係るフライホイール31の回転速度を式38に示すような加振入力と仮定する。
【0071】
【数15】
【0072】
このような計算モデルにより、式38で与えられる加振入力に対して、フライホイール31,クラッチハブ32,駆動軸歯車22a,従動軸歯車23a〜23d及び遊転歯車24aの各歯車がどのような挙動を示すかを把握できることになる。
なお、以下の本実施形態では、歯車噛合部の等価減衰係数cG,cGAを、演算の簡略化のため無視することとする。また、γ,δはその対象となる歯車の数の比等から、γ=0.7,δ=0.3とし、λ=1.0,μ=0.0として演算する。
【0073】
〔4.計算モデルを用いた騒音レベルの推定〕
ここで上記の計算モデルを用いて、本解析プログラム10における演算の前提となる、騒音レベルの推定式を求めておく。従動軸角加速度変動の実効値(CTrms)と騒音レベルLとの関係を調べると、図4(a)に示すような結果が得られる。
この図4(a)では、横軸に20log|CTrms/CTrms0|をとり、縦軸に騒音レベルL(実験値)をとっている。この実験結果を直線に近似すると、以下の式39に示す近似式が得られる。なお、式39中のL0は予め設定された騒音レベルの基準値である。
【0074】
【数16】
【0075】
さらに、上記の実験結果に基づいて上記の式39における係数a,bを求め、騒音レベルLと変速機の油温との関係を推定したものを、図4(b)に実線で示す。なお、供試モデルを用いて騒音レベルLと変速機の油温との関係を実測した実験データの結果を図4(b)中に破線で重ねて示す。実線で示されるグラフは破線で示されるグラフに酷似した形状となっており、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを用いて式39から推定される騒音レベルLは、実験結果と略一致することがわかる。したがって、式39に示す相関関係を用いて、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsから騒音レベルLを推定することとする。
【0076】
なお、低油温時(20℃)におけるフライホイール31の角速度変動比,従動軸の角速度変動比,従動軸角加速度変動及び従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答を、図5に示す。
【0077】
〔5.解析プログラム10〕
次に、前述の解析プログラム10を実行することで計算機1が発揮する主要機能について説明する。図6に示すように、計算機1(CPU4)は、上記の解析プログラム10をCPU4が読み取って動作することによって、目標特性設定手段11,シミュレーション条件設定手段12,数値シミュレーション手段13及び騒音レベル算出手段14としての機能をそれぞれ発揮するようになっている。
【0078】
〔5−1.目標特性設定手段11〕
目標特性設定手段11は、変速機20のアイドル騒音に係る設計変数(パラメータ)を最適化するための目標となる目標特性を設定するものである。前述の通り、変速機20における騒音レベルLと従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとの間には、式39に示す関係が認められるため、ここでは、品質工学における基本機能の入力に変速機20の油温をとり、基本機能の出力に従動軸23の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsをとって、目標特性を設定する。
【0079】
なお、目標特性設定手段11で設定される具体的な目標特性は、例えば図7に示すような目標曲線として与えられる。このような具体例については、後述する。
【0080】
〔5−2.シミュレーション条件設定手段12〕
シミュレーション条件設定手段12は、本解析プログラム10で実施される数値シミュレーションの演算条件を設定するための手段である。本実施形態では、この数値シミュレーションとして品質工学(タグチメソッド)を利用し、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数に関する機能性を評価する。つまり、設計変数によって従動軸角加速度変動の実効値CTrmsへ与えられる影響のばらつきや大きさを評価して、最適な設計変数の組み合わせを求める。シミュレーション条件設定手段12で設定される演算条件とは、このような最適な設計変数の組み合わせを求めるための初期条件である。ここでは、信号因子,制御因子及び誤差因子の各条件のパターンが複数種類設定されている。
【0081】
なお、本解析プログラム10では、計算機1の入力装置3Cからの情報入力等によって、このシミュレーション条件設定手段12における演算の初期条件を選択できるようになっている。例えば、計算機1のユーザ操作によって初期条件に係る情報が入力されると、初期条件の異なる数値シミュレーションを実施できるようになっている。
シミュレーション条件設定手段12で設定される制御因子とその水準の一例を以下の表1に示す。なおここでは、従来の手法で最適化した結果との比較のために、制御因子の種類としてクラッチ特性を主に選択している。
【0082】
【表1】
【0083】
以下にL18直交表を用いた場合の制御因子の組み合わせを示す。L18直交表では、2水準の因子を最大1個、3水準の因子を最大7個配置することができる。直交表内に記載された数字は、各列番に配置される因子の水準を示している。
【0084】
【表2】
【0085】
また、シミュレーション条件設定手段12に設定されている信号因子は、変速機20の油温の条件である。誤差因子は、基本機能の出力、すなわち、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsへ影響を与えうる複数の因子の条件である。誤差は制御因子の水準値の微小変化で代用できるものと考え、表1の全ての制御因子の各水準値に対して、-1%,+1%の2水準を誤差因子とする。誤差因子の組み合わせはL12直交表を構成し誤差条件となる。なお、制御因子の各水準値に誤差を含まない条件のことを、標準条件と呼ぶ。
【0086】
L12直交表では、2水準の因子を最大11個配置することができる。以下にL12直交表を示す。
【0087】
【表3】
【0088】
〔5−3.数値シミュレーション手段13〕
数値シミュレーション手段13は、実質的な品質工学の数値シミュレーションを実施するものである。ここでは、信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験(数値シミュレーション)が実施されるようになっている。すなわち、前述の計算モデルを用いて、数値シミュレーションが複数回数繰り返されるようになっている。例えば、信号因子が3水準設定され、制御因子がL18直交表に配置され、誤差条件がL12直交表に配置された場合には、3x18x(1+12)=702となり、合計702回の数値シミュレーションが繰り返される。この数値シミュレーションの出力例を、図8に示す。
【0089】
数値シミュレーション手段13では、図8において、出力yに対し各標準条件の出力〔図7のy0,j(j=1〜3)〕を入力信号に用いて、以下の式40〜式50に基づき標準SN比ηが演算される。なお、fは品質工学の自由度を示している。
【0090】
【数17】
【0091】
【数18】
【0092】
【数19】
【0093】
また、数値シミュレーション手段13は、上記の式47〜式49に基づいて算出される標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2を用いて、要因効果図を作成するようになっている。なお、ここで作図される要因効果図は、計算機1のディスプレイ3Aやプリンタ3B等の出力装置へと出力されるようになっている。
ここで、一次係数β1及び二次係数β2について詳述する。品質工学の手法では一般的に、設計変数最適化の対象物の性能を発現させる本質的な機能(基本機能)のことを特性値yとし、特性値yと線形関係にある因子を信号因子Mとして、これらの関係を基本機能と呼ぶ。
【0094】
基本機能は、以下の式51に示すような原点を通る線形関係を満たすことが望ましいとされている。その理由は、特性値yと信号因子Mとが線形関係にあれば、その係数βは特性値yに対する効果の大小を表す指標となりうるからである。なお、品質工学ではこの係数βのことを出力感度(感度)と呼ぶ。
【0095】
【数20】
【0096】
一方、本解析においては、図4(a)に示すように、特性値yと信号因子Mとが非線形の関係となっている。そのため、一般的な品質工学における出力感度βを用いた評価が難しいことになる。そこで本解析では、各標準条件の出力に対して目標曲線での直交展開から式48〜式50で一次係数β1及び二次係数β2を計算する。一次係数β1が1に近く、二次係数β2が0に近いほど、特性値yと信号因子Mとの入出力関係は目標曲線に近い特性となる。本解析においては、出力のばらつきの度合いの指標となる標準SN比ηだけでなく、β1=1,β2=0を性能評価の目標値(指標)の一つとして取り入れている。
【0097】
〔5−4.騒音レベル算出手段14〕
騒音レベル算出手段14は、数値シミュレーション手段13でのシミュレーションを通して得られた最適な制御因子の組み合わせを確認するための演算を実施するものである。すなわち、最適な制御因子の組み合わせが、必ずしも直交表の中に含まれていた組み合わせとは限らないため、得られた組み合わせが実際に最適であるか否かの判断材料として、上記の計算モデルに基づく騒音レベルLを推算するようになっている。
【0098】
[設計変数の最適化手順]
図9に示すフローチャートは、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を示すものである。このフローチャートは、上述の本解析プログラム10を利用して実施される。
【0099】
〔1.1次チューニング〕
まず、ステップA10(第1ステップ)では、目標特性設定手段11において、目標特性が設定される。ここでは例えば、品質工学の基本性能の入力に変速機20の油温をとり、出力に従動軸角加速度変動の実効値CTrmsをとって、図7(a)に実線で示すような目標特性が設定される。つまりここでは、品質工学における特性値yとして従動軸角加速度変動の実効値CTrmsが設定されるとともに、信号因子Mとして変速機20の油温が設定される。
【0100】
次にステップA20(第2ステップのひとつ)では、シミュレーション条件設定手段12において、数値シミュレーションの初期条件が設定される。ここでは、変速機20に関連する複数の設計変数として、例えば前述の表1に記載された各水準のパラメータが制御因子に設定され、20℃,30℃及び50℃の3水準の変速機20の油温が信号因子に設定されるとともに、制御因子の水準値の微小変化が誤差因子に設定される。ここで設定された制御因子,信号因子及び誤差因子は直交表に割り当てられ、シミュレーション条件の組み合わせ及び複数の誤差条件が設定される。
【0101】
さらにステップA30(第2ステップのひとつ)では、数値シミュレーション手段13において、ステップA20で設定された初期条件に基づいて、信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験が実施される。つまりこのステップでは、品質工学を利用した数値シミュレーションにより、信号因子,制御因子及び誤差因子を変化させた場合における特性値yとして、それぞれの変速機20の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsが演算される。なお、ここで演算された各特性値yのデータは、例えば図8に示すように膨大な数のデータとなる。例えば、信号因子が3水準設定され、制御因子がL18直交表に配置され、誤差条件がL12直交表に配置された場合には、3x18x(1+12)=702となり、合計702回の数値シミュレーションが繰り返される。
【0102】
続くステップA40(第2ステップのひとつ)では、ステップA30における演算結果に基づき、数値シミュレーション手段13において、各制御因子の標準SN比(第1標準SN比)ηが算出される。つまりここでは、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきの度合いが算出されることになる。また、ステップA50(第3ステップのひとつ)では、ステップA40で算出された標準SN比ηに基づいて、要因効果図(第1要因効果図)が作成され、ディスプレイ3Aに出力される。なお、このステップにおいて、各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を算出しておいてもよい。
【0103】
そして、ステップA60(第3ステップのひとつ)では、ステップA50で得られた標準SN比ηの要因効果図に基づいて最適条件が求められる。このステップで得られる要因効果図の一例を図10(a)に示す。この図10(a)中においては、横軸の各制御因子で選択した最適水準が○印で示され、現行水準(すなわち、1次チューニングを施す前の水準)が↑印で示されている。なお、このステップにおいて、標準SN比ηの高い水準を選択した方が、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきは小さくなるが、設計変数の設定のし易さ等も考慮して各制御因子の最適水準の組み合わせ(最適条件)が設定される。
【0104】
なお、このステップにおける制御因子の水準選択は、ディスプレイ3A上に標示された要因効果図に基づいて、計算機1のユーザが行うものとしてもよいし、数値シミュレーション手段13が自動的に行うものとしてもよい。
ステップA70(第8ステップ及び第9ステップ)では、騒音レベル算出手段14において、ステップA30で演算された特性値y,ステップA40で算出された標準SN比η(さらに、一次係数β1及び二次係数β2等)の計算が精度良く行われているかどうかの指標を得るための確認実験が実施される。ここでは、ステップA60で設定された各制御因子の最適水準及び現行水準の値が直接与えられて、数値シミュレーションが実施される。
【0105】
ステップA70で最適条件が確認されると、続くステップA80(第3ステップのひとつ)において、目標特性に対するチューニング(1次チューニング)が実施される。なお、ステップA70での確認実験を通じて特性値y,標準SN比ηの十分な計算精度が確認できなかった場合には、初期条件を変更してステップA20以降の制御内容を再試行してもよい。
【0106】
〔2.2次チューニング〕
さらに、本発明に係る制御では、特性値yを目標特性に近づけることのできる制御因子の組み合わせを求めるべく、ステップA90以降のフローにおいて第2チューニングが施される。
【0107】
ステップA90(第4ステップのひとつ)では、シミュレーション条件設定手段12において、ステップA20で設定された初期条件とは異なる初期条件が再設定される。具体的には、変速機20の油温の水準範囲が、所望の温度以上の油温範囲の水準に限定される(つまり、2種類の範囲に分割される)。ここでは、油温の範囲が1次チューニングにおいて目標曲線との乖離が大きい油温の水準範囲と、小さい油温の水準範囲とに分割される。
【0108】
続くステップA100(第4ステップのひとつ)では、数値シミュレーション手段13において、ステップA90で分割された信号因子のそれぞれの範囲について、標準SN比(第2標準SN比)η,一次係数β1及び二次係数β2が算出される。そして、ステップA110(第5ステップのひとつ)では、ステップA100で算出された標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2に基づいて、ステップA50で作成された要因効果図とは異なる新たな要因効果図(第2要因効果図)が作成され、ディスプレイ3Aに出力される。
【0109】
その後、ステップA120(第5ステップのひとつ)では、ステップA110で得られた要因効果図に基づいて、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となり、かつ、目標曲線への近似の度合いが大きい制御因子の組み合わせが選択され、目標特性に対するチューニング(2次チューニング)が施される。ここでは、例えば一次係数β1が1に近い水準や二次係数β2が0に近い水準が選択される。
【0110】
つまり、本解析プログラム10は、計算機1を用いて変速機20のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるべく、ステップA10に示される手順(第1ステップ)と、ステップA20〜A40に示される手順(第2ステップ)と、ステップA50〜A60に示される手順(第3ステップ)と、ステップA80〜A100に示される手順(第4ステップ)と、ステップA110〜120に示される手順(第5ステップ)とを、計算機1に実行させている。
【0111】
加えて、本解析プログラム10は、ステップA70に示される手順(第8ステップ及び第9ステップ)をさらに計算機1に実行させている。
このような制御内容により、二段階にチューニングが施されることになり、ロバスト性が高いだけでなく、より目標特性に近い出力が期待できる設計変数の組み合わせが得られることになる。
【0112】
[実施例1]
次に、本発明に係る数値シミュレーションの一実施例についてさらに具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施例はあくまでも一例であって、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
〔1.初期条件〕
本実施例1では、目標特性設定手段11で設定される目標特性を、図7(a),(b)に実線で示す特性とした。
図7(a),(b)中に破線で示されたグラフは、前述の実測した実験データ及び計算モデルを用いた騒音レベルLの推定実験から得られた結果をプロットしたものである。この図7(a),(b)に示された例では、目標特性が、破線で示された従来の油温・騒音の最適特性に対して、さらに0.5dBA低減させた特性を目標曲線として設定されている。
【0114】
次に、シミュレーション条件設定手段12に設定される数値シミュレーションの初期設定としては、前述の表1に記載された制御因子の各水準を用いた。
また、信号因子については、低油温(20℃),中油温(30℃)及び高油温(50℃)の3水準の信号因子とした。誤差については、制御因子の水準値の微小変化で代用できるものと考え、前述の表1に記載の全ての制御因子の各水準値に対して、±1%分の変動を与えて誤差因子とした。誤差因子は、L12直交表に配置して12通りの誤差条件を設定した。
【0115】
〔2.1次チューニング〕
本実施例1において1次チューニングまでの過程で得られた要因効果図を図10(a)に示す。標準SN比ηに着目すると、横軸方向に並べられた各制御因子において、標準SN比ηの値が大きい水準を選択することで、特性値yのばらつきが小さい制御因子の組み合わせが得られることになるが、ここでは、設計変数の設定の容易性等を考慮して、図中に○印を付した水準を選択するものとした。
【0116】
こうして得られた最適水準及び現行水準の標準SN比ηから推定される最適条件及び現行条件の標準SN比ηを、以下の表4の上段に示す。さらに、各制御因子で最適水準及び現行水準の値を直接与えて計算した確認実験(数値シミュレーション)の結果を表4の下段に示す。この表4から、標準SN比ηの利得は良好な再現性が得られているものと判断できる。
【0117】
【表4】
【0118】
上記の結果から、各制御因子の値を図10(a)に○印で示された最適水準とすることとし、1次チューニングを実施した。
【0119】
〔3.最適条件と現行条件との比較〕
図11(a),(b)は、1次チューニングによって選択された最適条件と現行条件(1次チューニングを施す前の条件)とについて、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを比較した結果を示すものである。最適条件は、現行条件に比較して、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが小さく、レベル(変動の大きさ)も油温が30℃〜50℃の範囲において低減していることがわかる。しかし目標曲線と比較すると2倍近くの大きさがあり、さらに低減させる必要があることがわかる。つまり、ここまでのチューニングでは、特性値yのばらつきを抑制することはできても、設計変数の最適化にまでは至らないといえる。
【0120】
なお、図11(a),(b)中では、視覚的にばらつきの度合いが明瞭となるように、標準条件での出力を実線で示すとともに誤差条件での出力を破線で示している。このように、誤差因子の値に応じて表現方法を変更することにより、ばらつきを的確に把握することができるようになっている。以下、図12,図15,図16,図20及び図21においても同様に、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを破線で示すものとする。
【0121】
〔4.従来の品質工学における2段階設計の検討〕
ここで、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた分析を検討した。例えば、1次チューニング時における数値シミュレーションから得られた一次係数β1及び二次係数β2を用いて要因効果図を作成すると、図10(b)に示すグラフが得られる。この図10(b)のグラフによれば、従動軸慣性モーメントICTを大きく、クラッチ30の2段目ヒステリシスH2を小さく、フライホイール31の慣性モーメントIFWを大きくすれば、一次係数β1が目標値である1に近づくものと推定される。この中で、特性値yへの影響度(勾配)が大きく変更しやすい従動軸慣性モーメントICTについてのチューニングを検討した。なお、二次係数β2は目標値である0に十分近いものと判断した。
【0122】
上記の1次チューニングでは、前述の表1における第3水準、すなわちICT/ICT0=1.5が最適条件として選択されている。そこで、この制御因子をICT/ICT0=2.0にした場合における従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを試算した。
図12にその試算の結果を示す。1次チューニング時における最適条件よりも従動軸慣性モーメントICTを増加させると、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsは全体的に低減している。しかしながらそのレベルは、油温が30℃〜50℃の範囲において目標曲線の1.1〜1.3倍の大きさとなっている。このように、従来の2段階設計の手法を用いたとしても、実用的な設計変数の変更範囲内で目標値を満足する(すなわち、目標曲線を下回る)特性値yは得られないものと考えられる。
【0123】
〔5.2次チューニング〕
ここで、本実施例1に係る2次チューニングを実施した。
まず、2次チューニングのための試算として、信号因子の水準範囲を1次チューニング時における信号因子の全水準範囲のうちの30℃及び50℃の油温の水準範囲に限定した場合における要因効果図(第2要因効果図)を作成した。つまり、信号因子は、1次チューニングにおいて目標曲線を満足する特性値yが得られなかった30℃〜50℃の油温の範囲を2次チューニングするべく、中油温(30℃)及び高油温(50℃)の2水準の信号因子とした。この2水準の信号因子の場合についての標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2を算出した。
【0124】
このようにして得られた標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2の要因効果図を図13(a),(b)に示す。一次係数β1に着目すると、従動軸慣性モーメントICT及びクラッチ30の1段目ばね係数k1が水準の変動に対して影響度(傾き)が大きいことがわかる。また、一次係数β1をβ1=1に近づけるためには、従動軸慣性モーメントICTを大きく、1段目ばね係数k1を小さくすればよいことがわかる。ただし、1段目ばね係数k1を小さくすると、標準SN比ηが低下する(つまり、特性値yのばらつきが大きくなる)ことが示されている。
【0125】
一方、信号因子を20℃のみの1水準とした場合における標準SN比η及び一次係数β1の要因効果図を図14(a),(b)に示す。油温が20℃の場合には、従動軸慣性モーメントICTを大きくしても、あるいは1段目ばね係数k1を小さくしても、標準SN比ηが低下することがわかる。また、一次係数β1に着目すれば、従動軸慣性モーメントICTの増加よる一次係数β1の減少分と、1段目ばね係数k1の減少による一次係数β1の増加分とが重畳され、効果が相殺されるものと推定される。つまり結果として、特性値yのばらつきが大きくなることがわかる。
【0126】
以上の考察に基づいて、前述の表1における制御因子のうち、1段目ばね係数k1に係る制御因子をk1/k10=0.4とし、従動軸慣性モーメントICTに係る制御因子をICT/ICT0=1.3とする2次チューニングを施すこととした。なお、2次チューニングにおける信号因子,誤差因子の設定内容は、1次チューニングにおけるそれらと同一設定とした。2次チューニングにおける従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを演算した結果を図15に示す。
【0127】
この図15に示すように、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきは、1次チューニング時におけるばらつきよりも僅かに大きくなっている一方、標準条件での従動軸角加速度変動の実効値CTrmsは目標曲線を下回っており、ほぼ目標が満たされていることがわかる。
なお、信号因子が1因子の場合、上記の式45においてVeの分母が0(すなわち、自由度が0)となり、式47で標準SN比ηを演算することができないため、以下に示す式52を用いて標準SN比ηを演算した。
【0128】
【数21】
【0129】
〔6.実機の変速機でのチューニング〕
上述の本実施例1における1次チューニング及び2次チューニングは、実験用の変速機モデル20における騒音レベルLを対象とした解析であったが、ここでは実際の車両に搭載されている変速機の騒音レベルLを対象とした解析結果を説明する。
実機での変速機を解析するにあたり、入力の信号因子として30℃,40℃,50℃,60℃及び70℃の5水準の油温を設定した。また、制御因子は、変速機モデルを用いて行った2次チューニングの値に設定し、誤差条件(誤差因子)は各制御因子の-1%,+1%を与えて12通りの組み合わせとした。
【0130】
図16は、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを適用し、1段目ばね係数k1及び従動軸慣性モーメントICTを調節したものについて、油温と騒音レベルLとの関係を試算及び実測した結果を示すグラフである。この図16に示すように、従来の特性(k1/k10=0.4, ICT/ICT0=1.0)に対して、k1/k10=0.4, ICT/ICT0=1.3とするチューニングを施した場合には、油温が40℃〜70℃の中高温時に、ばらつきを考慮しても0.5dBA程度の騒音低減効果があるものと推定される。なお、図16における縦軸の騒音レベルLは、前述の式39に基づき、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsから算出したものである。
【0131】
また、実験モデルでは騒音レベルLが最小値をとる油温が30℃であったが、図16によれば、実機の変速機では60℃となっていることがわかる。これは、実機の変速機における内部の回転抵抗(作動油の撹拌抵抗)が変速機モデル20の回転抵抗に比較して大きいためと考えられる。
【0132】
[実施例2]
〔1.初期条件〕
本実施例2では、実施例1と同様に、目標特性設定手段11で設定される目標特性を、図7(a),(b)に実線で示す特性とした。
【0133】
また、シミュレーション条件設定手段12で設定される数値シミュレーションの初期条件として、以下の表5に記載された13種類の制御因子を用いることとし、L36直交表を構成した。なお、信号因子に関しては、実施例1と同様の設定とした。
【0134】
【表5】
【0135】
また、誤差因子については、表5に示された全ての制御因子の各水準値に対して、-1%,+1%の2水準の変動値を設定した。なお、誤差因子の組み合わせはL16直交表を用いて16通りの誤差条件を設定した。
以下にL16直交表を用いた場合の誤差因子の組み合わせを示す。L16直交表では、2水準の因子を最大15個配置することができる。
【0136】
【表6】
【0137】
〔2.変速機モデルでのチューニング〕
上記のような初期条件により、まず1次チューニングとして、信号因子の全水準範囲についての要因効果図(第1要因効果図)を作成し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを抑えるのに有効な設計変数の選択を行った。ここで作成した要因効果図を、図17(a),(b)に示す。
【0138】
さらに、2次チューニングとして、実施例1と同様に、30℃及び50℃の油温の水準範囲に限定した場合における要因効果図(第2要因効果図)を作成し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性に近づけるのに有効な設計変数を選択した。ここで作成した要因効果図を、図18(a),(b)に示す。なお、信号因子を20℃のみの1水準とし、その他の制御因子及び誤差因子の組み合わせを1次チューニングにおける設定内容と同一設定とした場合における要因効果図を図19に示す。これらの要因効果図に基づいて選択した設計変数は、クラッチ30の1段目ばね係数k1(k1/k10=0.4),従動軸慣性モーメントICT(ICT/ICT0=1.3),遊転歯車24aの慣性モーメントIFT(IFT/IFT0=0.8)及び従動軸歯車〜遊転歯車バックラッシεCTF(εCTF/εCTF0=0.5)であった。
【0139】
なお、実施例1と同様に、信号因子を20℃のみの1水準とした場合には、式47の代わりに以下に示す式53を用いて標準SN比ηを演算した。
【0140】
【数22】
【0141】
2次チューニングにおける従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを演算した結果を図20に示す。この図20に示すように、本実施例2においては、標準条件及び誤差条件の何れの条件においても、ばらつきを含めて目標曲線を下回る特性が得られた。
【0142】
〔3.実機の変速機でのチューニング〕
さらに、上記の1次チューニング及び2次チューニングを実機の変速機に適用した場合における、油温と騒音レベルLとの関係を試算及び実測した結果を図21に示す。
【0143】
実施例1における結果を示す図16と比較すると、実施例1では油温が40℃〜70℃の中高温時において騒音低減効果が認められ、油温が30℃の場合には僅かに目標曲線を上回っていた。一方、本実施例2では、油温の全ての温度範囲(30℃〜70℃)において、ばらつきを含めて目標曲線を下回っており、安定した騒音低減効果が認められる。
したがって、クラッチ30の1段目ばね係数k1の低減及び従動軸慣性モーメントICTの増加は、油温が40℃〜70℃の範囲における騒音レベルLの低減に効果があるのに対して、遊転歯車24aの慣性モーメントIFTの低減及び従動軸歯車〜遊転歯車バックラッシεCTFの低減は、より広範囲の油温範囲(30℃〜70℃)における騒音レベルLの低減に効果があると考えられる。
【0144】
このように、設計変数を13因子まで増加させて1次チューニング及び2次チューニングを施すことにより、実施例1のような7因子の設計変数を用いた場合と比較して、さらに大きなアイドル騒音の低減効果を得られた。
【0145】
[効果]
以上詳述したように、本発明によれば、次のような利点が得られる。
(1)非線形性が非常に高い変速機のアイドル騒音に係るパラメータ設計において、変速機の油温を基本機能の入力信号とし、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを出力信号とすることにより、品質工学の手法を適用することができる。
【0146】
すなわち、一般的な品質工学の手法において、温度,湿度等の環境条件は誤差因子(設計者がコントロールできない因子であって目的への影響が大きい因子)と見なされている。一方、本発明においては、変速機の油温を信号因子として割り付けることにより、アイドル騒音との機能性を評価することが可能となり、騒音レベルの低い変速機のロバスト設計を実現することができる。
【0147】
(2)1次チューニングにより、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となるパラメータの組み合わせを求めた後、さらに信号因子の水準範囲を限定した2次チューニングを施して、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性に近づけることにより、目標特性に対するチューニングを二段階に分けて実施することができる。
【0148】
すなわち、一般的な品質工学の手法における2段階設計の手法では、実用的な設計変数の変更範囲内で目標値を満足する結果が得られない場合があるが、本発明によれば、信号因子の水準範囲を部分的に抽出することによって、抽出した部分の信号因子に対応するパラメータのロバスト性を把握することができる。これにより、1次チューニングにおいて目標特性との差異が大きい油温の範囲のみに関して、さらに2次チューニングを施し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきに影響を与えやすい制御因子を特定することが可能となり、良好な設計変数の組み合わせを求めることができる。したがって、目標特性を満足する設計変数を得ることができ、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0149】
(3)タグチメソッドを利用することにより、数値シミュレーションの試行回数を大幅に削減することができる。すなわち、直交表を用いて試行条件の組み合わせを求めることで、各条件をバランスさせることができ、効率的な実験が可能となる。特に、膨大な数の設計変数が想定される変速機のパラメータ設計において、高速かつ容易に設計変数を最適化することができる。
【0150】
(4)1次チューニングでは、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となる制御因子の組み合わせが選択されるため、基本機能の特性値yへの影響力のみならず、設定のし易さを考慮して設計変数の設定範囲を定めることができる。
【0151】
(5)1次チューニングまでの過程で得られる設計変数の値を新たな制御因子とした確認実験を実施することにより、その設計変数を得るまでに演算された直積実験の特性値y,標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2等の計算が精度よく行われているかどうかを確認することができる。
【0152】
(6)2次チューニングで分割される油温範囲のうちの一方は、1次チューニングにおいて目標曲線との乖離が大きい油温の水準となっており、例えば実施例1では、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのレベルが目標曲線の1.1〜1.3倍の大きさとなっている30℃〜50℃の油温の水準範囲に限定されるため、1次チューニングにおいて目標曲線を満足する特性値yが得られなかった部分の特性値yを2次チューニングで改善することができる。つまり2次チューニングでは、1次チューニングからさらに変速機の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性へと近づけることができる。また、2次チューニングにおいて、第2要因効果図に基づいて一次係数β1が1に近い水準が選択されるようになっているため、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきの度合いだけでなく、特性値の目標曲線への近似の度合いを考慮することができる。
【0153】
(7)実施例1に示すように、クラッチ30の1段目ばね係数k1を低減させるとともに、従動軸慣性モーメントICTを増加させることで、変速機20のアイドル騒音を低減させることができる。また、実施例2に示すように、遊転歯車24aの慣性モーメントIFTを低減させるとともに従動軸歯車・遊転歯車間のバックラッシεCTFを低減させることによって、さらに騒音レベルLを低減させることができる。
【0154】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態における確認実験では、例えば表4に示すように、標準SN比ηの利得の大きさに基づいて再現性の確認を行っているが、標準SN比ηの代わりに一次係数β1や二次係数β2を用いて確認することも考えられる。つまり、一次係数β1が1に近く、二次係数β2が0に近いほど、特性値yと信号因子Mとの入出力関係は目標曲線に近い特性となることを利用して、確認実験で得られる一次係数β1,二次係数β2がβ1≒1,β2≒0であることを以て、制御因子の水準の組み合わせの妥当性を判断してもよい。
【0155】
なお、以下の表7は、上記の実験例1における確認実験時に算出した一次係数β1及び二次係数β2を示すものである。
【0156】
【表7】
【0157】
このように、実施例1の確認実験において算出された一次係数β1は1に近い値をとり、また、二次係数β2はほぼ0となっていることがわかる。
また、上述の実施形態では、1次チューニングの過程で確認実験が実施されるようになっているが、同様の確認実験を2次チューニングの後に実施することも考えられる。これにより、選択された設計変数の信頼性を高め、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0158】
なお、図22は2次チューニング後に実施した確認実験の結果を示すグラフである。図22(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図であり、図22(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図である。この図22に示すように、2次チューニング後には、一次係数β1及び二次係数β2は、β1≒1,β2≒0となっていることがわかる。特に、一次係数β1に着目すると、1次チューニング後の値と比較してさらに1に近い値となっており、特性値yと信号因子Mとの入出力関係が目標曲線により近い特性へチューニングされたことがわかる。
【0159】
また、上述の実施形態における1次チューニング,確認実験及び2次チューニングのそれぞれの数値シミュレーションにおいて選択される、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となる制御因子の組み合わせに関して、その組み合わせのロバストの度合いを確認するステップを追加することも考えられる。
【0160】
例えば、図9に示すフローチャートのステップA20で設定される初期設定としての誤差因子とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定するステップ(第6ステップ)を、ステップA120以降に追加するとともに、この新たに追加されたステップで設定された誤差因子とステップA20で設定された信号因子及び制御因子とを用いて、数値シミュレーション手段13における信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験を実施するステップ(第7ステップ)を追加する。この場合、新たな誤差因子の値としては、例えば±0.5%や±3.0%とする。これらの構成を本解析プログラム10に追加して、計算機1に演算を実行させるものとしてもよい。
【0161】
このように、誤差因子の変動幅を変化させた場合における標準SN比ηや一次係数β1,二次係数β2の要因効果図にほとんど変化がないことを確認することによって、ロバストの度合いを確認することができる。
誤差因子の変動幅を±0.5%に変化させた場合の標準SN比ηを図23(a)に示し、一次係数β1及び二次係数β2を図23(b)に示す。また、誤差因子の変動幅を±3.0%に変化させた場合の標準SN比ηを図24(a)に示し、一次係数β1及び二次係数β2を図24(b)に示す。なお、誤差因子の変動幅が±1.0%の場合の要因効果図は、前述の通り図10(a),(b)である。これらの要因効果図を照合すると、略同様の形状となっていることがわかる。このように、誤差因子の変動幅を変化させることにより、誤差変動に対するロバスト性を確認することができる。また、このような照合によって、シミュレーション条件設定手段12で設定されている誤差因子の変動幅が適切であることを確認することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデルの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る数値シミュレーション用計算機の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルを示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は従動軸角加速度変動の実効値と騒音レベルとの関係を示すグラフ、(b)は変速機の油温と騒音レベルとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は低油温時(20℃)におけるフライホイールの角速度変動比の時刻歴応答、(b)は低油温時(20℃)における従動軸の角速度変動比の時刻歴応答、(c)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の時刻歴応答、(d)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答である。
【図6】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの機能構成を説明するための全体構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける目標曲線の設定例を示すグラフであり、(a)は変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値との関係における目標曲線を示すグラフ、(b)は変速機の油温と騒音レベルLとの関係における目標曲線を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける数値シミュレーションの出力例を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、1次チューニングでの従動軸角加速度変動の実効値のばらつきを示すグラフであり、(a)は最適条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフ、(b)は現行条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた試算から得られた変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図13】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の一次係数を示す要因効果図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、2次チューニングでの変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図16】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを施した場合の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図17】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図18】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図19】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2の2次チューニング時において、信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図である。
【図20】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における、1次チューニング及び2次チューニング後の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図21】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2において、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを施した場合の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図22】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、2次チューニング後に確認実験を行った場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図23】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、誤差因子の変動幅を±0.5%に変化させた場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図24】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、誤差因子の変動幅を±3.0%に変化させた場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【符号の説明】
【0163】
1 数値シミュレーション用計算機
10 設計変数最適化プログラム(解析プログラム)
11 目標特性設定手段
12 シミュレーション条件設定手段
13 数値シミュレーション手段
14 騒音レベル算出手段
20 変速機モデル(変速機)
22a 駆動軸歯車
23a〜23d 従動軸歯車
24a 遊転歯車
26 バックラッシ除去機構
30 クラッチ
40 実験データの収集及び分析用計算機
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法及びその最適な設計変数をコンピュータを用いて求めるためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される変速機から発生するアイドル騒音を低減させることを目的とした変速機自身の設計の手法として、パラメータスタディが実施されている。パラメータスタディとは、コンピュータを利用した実験,シミュレーションによって試験的に個々のパラメータ(設計変数)を変更し、その変更に由来する影響の大きさを推算する手法である。
【0003】
例えば、変速機のアイドル騒音を測定対象としたパラメータスタディとしては、非特許文献1や非特許文献2に示すような技術がある。この技術では、変速機内部の各歯車の角速度変動や歯打力等をパラメータとして、アイドル騒音の推算がなされている。
ところで近年、一般的な工業製品の設計,開発業務における設計変数の最適化方法の一つとして、品質工学(タグチメソッド)が注目されている。品質工学とは、実験のパラメータである各制御因子及び制御因子の値(以下、水準という)を直交表に割り付け、直交表に基づく各制御因子の値の組み合わせを用いて実験を複数回数繰り返し、SN比や出力感度の高い条件を選択することにより、ロバスト性が高く効率的な設計変数の条件を探る方法である。なお、品質工学に関しては、例えば非特許文献3や非特許文献4に記載されている。
【非特許文献1】八幡重太郎,木塚智昭,梅本修「手動変速機のアイドル騒音の計算予測(第1報)遊転歯車と油温の影響」自動車技術会論文集Vol.34,No.1,p.95-100,2003年1月
【非特許文献2】八幡重太郎,梅本修「部分構造合成法による手動変速機のアイドル騒音の計算予測」自動車技術会論文集Vol.36,No.3,p.75-82,2005年5月
【非特許文献3】田口玄一,矢野宏「品質工学応用講座 コンピュータによる情報設計の技術開発」日本規格協会,2004年6月17日
【非特許文献4】矢野宏「品質工学入門」日本規格協会,1995年6月15日
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、品質工学は様々な分野に応用されているものの、変速機に関するパラメータの選択に適用した例はない。特に、変速機のパラメータ設計においては、多数の遊転歯車を如何にして忠実にモデル化するかという難解な課題が付きまとううえ、アイドル騒音に影響を与えると考えられる制御因子の発見も容易ではないため、品質工学の適用自体が困難である。
【0005】
また、発明者らの鋭意努力の結果、変速機のアイドル騒音低減にかかる設計変数に対する品質工学の適用の可能性が見いだされたものの、必ずしも設計変数の最適化にまでは至らないことが明らかとなった。すなわち、品質工学の手法を用いることによって、入力信号の各水準における出力信号のばらつきを小さくすることができる反面、騒音レベル自体を低減させることが困難であることが判明した。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、品質工学の手法を用いて変速機における多数の設計パラメータとアイドル騒音との関係を把握し、効率的に各設計パラメータの最適化を図ることができるようにした、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法であって、品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップとを備えたことを特徴としている。
【0008】
また、請求項2記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1記載の構成に加え、該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出することを特徴としている。
また、請求項3記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1又は2記載の構成に加え、該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施すことを特徴としている。
【0009】
ここで、予め設定された所定の設定範囲内とは、各設計変数の設定のし易さを考慮して規定された設定範囲のことである。つまり、機能的な要請やコスト上の制約によって、各設計変数を調節することのできる範囲を定めておくことができる。
また、請求項4記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜3の何れか1項に記載の構成に加え、該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とすることを特徴としている。
【0010】
また、請求項5記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜4の何れか1項に記載の構成に加え、該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施すことを特徴としている。
また、請求項6記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜5の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに備えたことを特徴としている。
【0011】
また、請求項7記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜6の何れか1項に記載の構成に加え、該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに備えたことを特徴としている。
【0012】
また、請求項8記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜7の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いることを特徴としている。
また、請求項9記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法は、請求項1〜8の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いることを特徴としている。
【0013】
請求項10記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、コンピュータを用いて、変速機のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるためのプログラムであって、該コンピュータに、品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップとを実行させることを特徴としている。
【0014】
また、請求項11記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10記載の構成に加え、該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出することを特徴としている。
また、請求項12記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10又は11記載の構成に加え、該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施すことを特徴としている。
【0015】
また、請求項13記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜12の何れか1項に記載の構成に加え、該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とすることを特徴としている。
また、請求項14記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜13の何れか1項に記載の構成に加え、該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施すことを特徴としている。
【0016】
また、請求項15記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求項10〜14の何れか1項に記載の構成に加え、該コンピュータに、該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに実行させることを特徴としている。
【0017】
また、請求項16記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜15の何れか1項に記載の構成に加え、該コンピュータに、該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに実行させることを特徴としている。
【0018】
また、請求項17記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜16の何れか1項に記載の構成に加え、該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いることを特徴としている。
また、請求項18記載の本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムは、請求10〜17の何れか1項に記載の構成に加え、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項1,10)によれば、信号因子の水準範囲を部分的に抽出することによって得られる第2標準SN比及び一次係数を参照することで、目標特性に対するチューニングを二段階に分けて実施することができる。これにより、1次チューニングにおいて目標特性との差異が大きい油温の範囲のみに関して、さらに2次チューニングを施し、従動軸角加速度変動の実効値のばらつきに影響を与えやすい制御因子を特定することが可能となり、良好な設計変数の組み合わせを求めることができる。したがって、目標特性を満足する設計変数を得ることができ、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0020】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項2,11)によれば、タグチメソッドを利用した数値演算プログラムを用いて、高速かつ容易に設計変数を最適化することができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項3,12)によれば、変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきへの影響力のみならず、設定のし易さを考慮して設計変数の設定範囲を定めることができる。
【0021】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項4,13)によれば、所定の温度以上の油温範囲における変速機の従動軸角加速度変動の実効値を目標特性に近づけることができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項5,14)によれば、一次係数が1に近い水準を選択することにより、特性値の目標曲線への近似の度合いを考慮して、設計変数を設定することができる。
【0022】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項6,15)によれば、第2ステップにおけるシミュレーション結果と第7ステップにおけるシミュレーション結果とを比較することで、設計変数のロバストの度合いを確認することができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項7,16)によれば、1次チューニングまでの過程で得られる設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とすることで、その設計変数を得るまでに演算された直積実験の特性値y,標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2等の計算が精度よく行われているかどうかを確認することができる。
【0023】
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項8,17)によれば、該変速機の油温の中高温時におけるアイドル騒音を効果的に低減させることができる。
また、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法及び変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム(請求項9,18)によれば、該変速機の全ての温度範囲において、アイドル騒音を効果的に低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデル(実験モデル)の構成を示す模式図、図2は本発明の一実施形態に係る数値シミュレーション用計算機の構成を示すブロック図、図3は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルを示す模式図である。なお、実験モデルの詳細については、前述の非特許文献1,非特許文献2に記載されている。
【0025】
また、図4は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとアイドル騒音レベルLとの関係を示すグラフ、(b)は変速機の油温とアイドル騒音レベルLとの関係を示すグラフ、図5は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は低油温時(20℃)におけるフライホイール31の角速度変動比の時刻歴応答、(b)は低油温時(20℃)における従動軸の角速度変動比の時刻歴応答、(c)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の時刻歴応答、(d)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答、図6は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの機能構成を説明するための全体構成図である。
【0026】
また、図7は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける目標曲線の設定例を示すグラフであり、(a)は変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとの関係における目標曲線を示すグラフ、(b)は変速機の油温とアイドル騒音レベルLとの関係における目標曲線を示すグラフ、図8は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける数値シミュレーションの出力例を示す模式図、図9は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を説明するためのフローチャートである。
【0027】
また、図10は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図11は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、1次チューニングでの従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを示すグラフであり、(a)は最適条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、(b)は現行条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0028】
また、図12は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた試算から得られた変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図13は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図である。
【0029】
また、図14は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1を示す要因効果図、図15は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、2次チューニングでの変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図16は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、実機の変速機に2次チューニングを施した場合の変速機の油温とアイドル騒音レベルLのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0030】
また、図17は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図18は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図、図19は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時において、信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図である。
【0031】
また、図20は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における、2次チューニング後の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきとの関係を示すグラフ、図21は本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2において、実機の変速機に2次チューニングを施した場合の変速機の油温とアイドル騒音レベルLのばらつきとの関係を示すグラフである。
【0032】
[構成]
〔1.変速機モデル構成〕
まず、本発明に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデル構成について説明する。この変速機モデル(実験モデル)は、上記の設計変数最適化方法及び設計変数最適化方法プログラムにおける解析やその条件設定,解析された結果の確認等に用いられるほか、アイドル騒音やこれに関連する各種データの実測採取に供される。なお、本発明に係る設計変数最適化方法及び設計変数最適化プログラムの適用対象は、このような変速機モデルに限定されないことを付記しておく。
【0033】
図1に示すように、本変速機モデル(以下単に、変速機ともいう)20は、ケーシング21の内部に入力軸22,従動軸23及び出力軸24を回転自在に軸支された構成を備えてクラッチ30に接続されている。
入力軸22は、クラッチ30を介してエンジンの出力軸に接続される軸であり、駆動軸歯車22aを介して回転運動を従動軸23へ伝達するものである。従動軸23及び出力軸24は、変速機20の各変速段に対応する減速比を実現するための複数の歯車を有する軸である。一般的な変速機では、歯車の組み合わせを変えることにより、入力軸の回転数に対する出力軸の回転数を変化させることができるようになっている。なお、本変速機モデル20では、出力軸24上の歯車のうちの一つの遊転歯車24aを除いた他の全ての歯車が取り外され、代わりとなる錘25が取り付けられている。錘25は、取り外した歯車と等価の慣性モーメントを生じさせる質量及び大きさに設定されている。
【0034】
遊転歯車24aは、出力軸24に対して係脱可能に設けられており、手動又は自動で係脱するように構成されている。例えば、エンジンがアイドル状態にあり、変速段のセレクト位置がニュートラルであるような場合には、遊転歯車24aが出力軸24から脱離されて遊転するものとする。
また、従動軸23には複数の従動軸歯車23a〜23dが固設されている。これらの歯車のうち駆動軸歯車22aと噛合する従動軸歯車23aには、バックラッシ(backlash)除去機構26が設けられている。バックラッシ除去機構26とは、駆動軸歯車22aと従動軸歯車23aとの間隙(ガタ)を詰めるための機構である。これにより、歯車間の歯打ちに伴う騒音が防止されている。なお、ケーシング21の内部には、作動油が貯留されている。
【0035】
入力軸22,従動軸23及び出力軸24の各軸には、回転角を検出するためのロータリーエンコーダ27a〜27cが装着されている。
本変速機20の入力軸22に接続されるクラッチ30は、複数のスプリングから構成された緩衝機構を備えている。緩衝機構は、多段階のねじり特性,すなわちクラッチ特性を有する多段緩衝機構として構成されており、エンジントルクの変動にかかわらず、クラッチの接続が衝突なくスムーズに実行されるようになっている。クラッチの接続時には、エンジンの駆動力がフライホイール31及びクラッチハブ32を介して変速機の入力軸へと伝達されるようになっている。
【0036】
なお、本変速機20の側方の所定位置には、騒音の大きさ(ガラ音,騒音レベルL)を検出する騒音計28が取り付けられている。
図1中に示された計算機40は、本変速機モデルにおける実験データの収集及び分析を実施するコンピュータである。この計算機40には、ロータリーエンコーダ27a〜27cで検出された各回転角速度及び騒音計28で検出された騒音の大きさ等が入力されるようになっている。
【0037】
〔2.計算機システム構成〕
次に、本設計変数最適化プログラムを実行する計算機の全体構成の一例を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る計算機の構成を示すブロック図である。この計算機1は、上述の計算機40で収集,分析された実験データに基づいて数値シミュレーションを実施する、数値シミュレーション用のPC(パーソナルコンピュータ)であって、その要部に着目すると、計算機本体2,ディスプレイ(表示装置)3A,プリンタ(印刷装置)3B,キーボードやマウス等の入力装置3C等を備えて構成されている。計算機本体2には、さらに、CPU(Central Processing Unit)4,メモリ(主記憶部)5,ハードディスク(二次記憶装置)6,記録媒体ドライブ7Aおよびネットワークカード7B等のコンポーネントが備えられている。これらの各コンポーネントは、内部バス8を介して相互にデータ通信可能に接続されている。
【0038】
入力装置3Cは、計算機1で計算(演算)させたい事項に応じて必要なデータを入力するために使用されるものであり、ディスプレイ3Aは、計算機1による演算結果を表示するためのものであり、プリンタ3Bは、前記の演算結果を必要に応じて所望の形式で印刷するためのものである。つまり、これらのディスプレイ3Aやプリンタ3Bは、計算機1(CPU4)による演算結果(データ)を出力するデータ出力手段としての機能を果たすものである。
【0039】
CPU(演算手段)4は、計算機1としての動作(ディスプレイ3Aの表示制御やプリンタ3Bの印刷制御等も含む)を統括制御するためのもので、例えば、メモリ5やハードディスク6に内部バス8経由でアクセスして必要なソフトウェア(アプリケーション)プログラム(以下、単に「プログラム」ともいう)やアプリケーションデータ等を読み込んで動作し、電子計算機としての機能を発揮する。
【0040】
ハードディスク6は、上記のプログラムやアプリケーションデータ等(以下単に、各種データともいう)を予め、あるいは、インストール等によって記憶しておくためのものである。ここに記憶されている各種データは、適宜メモリ5に読み出されて、CPU4によるプログラムの実行が行われるようになっている。なお、メモリ5は、一般にハードディスク6に比してCPU4からのアクセス速度が高速なRAM等によって実現され、これにより、CPU4による上記プログラムの実行が高速に行われる。
【0041】
さらに、記録媒体ドライブ7Aは、FDやCD−ROM,DVD−ROM,光磁気ディスク(MO)等の所要の記録媒体9に記録されている各種データをCPU4の制御のもとに読み出してハードディスク6に記憶することによって、各種データのインストールを可能にする機能を提供するものである。例えば、本発明に係る設計変数最適化プログラム10が記録された記録媒体9を本ドライブ7に装填して、その記録媒体9からデータ解析プログラム10をインストールする(ハードディスク6に記憶する)ことによって、計算機1(CPU4)を変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化装置として機能させることが可能である。
【0042】
なお、上記の設計変数最適化プログラム10(以下単に、解析プログラム10ともいう)がハードディスク6あるいはメモリ5に記憶された時点で、その解析プログラム10を保持したハードディスク6あるいはメモリ5が、上記解析プログラム10を記録した記録媒体となることは言うまでもない。
また、この解析プログラム10は、このような記録媒体9からのインストールだけでなく、例えば、計算機1上でプログラミングしたものを用いてもよいし、ネットワークカード7Bを通じて、インターネットやLAN(Local Area Network)等の所望の通信回線(伝送媒体;有線,無線を問わない)を介したオンラインでのインストールも可能である。つまり、解析プログラム10は、FDやCD−ROM,DVD−ROM,MO等の記録媒体9や、インターネット等の所望の通信回線を介して提供されてもよい。
【0043】
〔3.計算モデル〕
上述の変速機モデル20に基づく本解析プログラム10の計算モデルを図3に示す。この計算モデルは、従動軸23を多自由度化した場合のモデルである。この図3中において、kはばね定数,cは減衰係数を示す。また、TE,TE0をエンジントルクの変動分と定常分、TCLをクラッチトルク、θCLをクラッチ作動角、TCL0をクラッチトルクの初期値、TDを駆動軸での変速機の回転抵抗(撹拌抵抗)トルク、FS,FS0,kSをそれぞれバックラッシ除去機構のばね力,初期ばね力及び弾性係数、FG,FGAを歯車噛合部の歯打力、TCTO, TFTOを従動軸歯車と遊転歯車との回転抵抗トルク、γ,δを従動軸歯車と遊転歯車との回転抵抗の割合として記述する。なお、Iは慣性モーメントを示す。
【0044】
フライホイール31の回転角をθFWとし、クラッチハブ32の回転角をθCHとすると、クラッチの作動角θCLは以下の式1で与えられる。
【0045】
【数1】
【0046】
このねじれ角θCLとクラッチ30を介して伝達されるトルクTCLとの関係を示すクラッチ30のねじり特性を以下の式2〜式9に記述する。なお、このねじり特性をグラフ化したものを、図3中に示す。
【0047】
【数2】
【0048】
【数3】
【0049】
図3に示す計算モデルでは、駆動軸歯車22aと従動軸歯車23aとの間において、バックラッシ及びバックラッシ除去機構26に係る歯打力が考慮されている。また、全ての従動軸歯車のうち入力軸側から動力が伝達される従動軸歯車23aにおいて、回転抵抗TDが作用するものとしている。さらに、全ての従動軸歯車のうち出力軸側へ動力を伝達する従動軸歯車23dと遊転歯車24aとの間にもバックラッシに係る歯打力が考慮され、遊転歯車24aにおいて回転抵抗TDが作用するものとしている。
【0050】
また、従動軸歯車23dと遊転歯車24aとのピッチ円上の相対変異yGAを以下の式10の通りに設定し、従動軸歯車23dと遊転歯車24aとの歯車噛合部の歯打力FGAを以下の式11,式12の通りに記述する。
【0051】
【数4】
【0052】
続いて、上記のような計算モデルに基づく運動方程式を以下に列記する。
〔3−1.フライホイール31〕
【0053】
【数5】
【0054】
〔3−2.クラッチハブ32〕
【0055】
【数6】
【0056】
〔3−3.駆動軸歯車22a〕
【0057】
【数7】
【0058】
〔3−4.従動軸歯車23a〜23d〕
・駆動軸歯車22aとの噛合部(従動軸歯車23a)
【0059】
【数8】
【0060】
・遊転歯車24aとの噛合部(従動軸歯車23d)
【0061】
【数9】
【0062】
・従動軸23の内部自由度
【0063】
【数10】
【0064】
〔3−5.遊転歯車24a〕
【0065】
【数11】
【0066】
なおここに、
【0067】
【数12】
【0068】
【数13】
【0069】
【数14】
【0070】
上記の計算モデルでは、変速機20の回転抵抗TDが従動軸23に作用するトルクTCTA0,TCTF0及び遊転歯車24aに作用するトルクTFT0の和であると仮定している。変速機20内の油温の影響は、各歯車の回転抵抗の違いとして考慮されるようになっている。また、フライホイール31の慣性モーメントは、クラッチハブ32,駆動軸歯車22a,従動軸歯車23a〜23d及び遊転歯車24aの慣性モーメントに比較して十分大きいので、式13に係るフライホイール31の回転速度を式38に示すような加振入力と仮定する。
【0071】
【数15】
【0072】
このような計算モデルにより、式38で与えられる加振入力に対して、フライホイール31,クラッチハブ32,駆動軸歯車22a,従動軸歯車23a〜23d及び遊転歯車24aの各歯車がどのような挙動を示すかを把握できることになる。
なお、以下の本実施形態では、歯車噛合部の等価減衰係数cG,cGAを、演算の簡略化のため無視することとする。また、γ,δはその対象となる歯車の数の比等から、γ=0.7,δ=0.3とし、λ=1.0,μ=0.0として演算する。
【0073】
〔4.計算モデルを用いた騒音レベルの推定〕
ここで上記の計算モデルを用いて、本解析プログラム10における演算の前提となる、騒音レベルの推定式を求めておく。従動軸角加速度変動の実効値(CTrms)と騒音レベルLとの関係を調べると、図4(a)に示すような結果が得られる。
この図4(a)では、横軸に20log|CTrms/CTrms0|をとり、縦軸に騒音レベルL(実験値)をとっている。この実験結果を直線に近似すると、以下の式39に示す近似式が得られる。なお、式39中のL0は予め設定された騒音レベルの基準値である。
【0074】
【数16】
【0075】
さらに、上記の実験結果に基づいて上記の式39における係数a,bを求め、騒音レベルLと変速機の油温との関係を推定したものを、図4(b)に実線で示す。なお、供試モデルを用いて騒音レベルLと変速機の油温との関係を実測した実験データの結果を図4(b)中に破線で重ねて示す。実線で示されるグラフは破線で示されるグラフに酷似した形状となっており、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを用いて式39から推定される騒音レベルLは、実験結果と略一致することがわかる。したがって、式39に示す相関関係を用いて、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsから騒音レベルLを推定することとする。
【0076】
なお、低油温時(20℃)におけるフライホイール31の角速度変動比,従動軸の角速度変動比,従動軸角加速度変動及び従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答を、図5に示す。
【0077】
〔5.解析プログラム10〕
次に、前述の解析プログラム10を実行することで計算機1が発揮する主要機能について説明する。図6に示すように、計算機1(CPU4)は、上記の解析プログラム10をCPU4が読み取って動作することによって、目標特性設定手段11,シミュレーション条件設定手段12,数値シミュレーション手段13及び騒音レベル算出手段14としての機能をそれぞれ発揮するようになっている。
【0078】
〔5−1.目標特性設定手段11〕
目標特性設定手段11は、変速機20のアイドル騒音に係る設計変数(パラメータ)を最適化するための目標となる目標特性を設定するものである。前述の通り、変速機20における騒音レベルLと従動軸角加速度変動の実効値CTrmsとの間には、式39に示す関係が認められるため、ここでは、品質工学における基本機能の入力に変速機20の油温をとり、基本機能の出力に従動軸23の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsをとって、目標特性を設定する。
【0079】
なお、目標特性設定手段11で設定される具体的な目標特性は、例えば図7に示すような目標曲線として与えられる。このような具体例については、後述する。
【0080】
〔5−2.シミュレーション条件設定手段12〕
シミュレーション条件設定手段12は、本解析プログラム10で実施される数値シミュレーションの演算条件を設定するための手段である。本実施形態では、この数値シミュレーションとして品質工学(タグチメソッド)を利用し、変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数に関する機能性を評価する。つまり、設計変数によって従動軸角加速度変動の実効値CTrmsへ与えられる影響のばらつきや大きさを評価して、最適な設計変数の組み合わせを求める。シミュレーション条件設定手段12で設定される演算条件とは、このような最適な設計変数の組み合わせを求めるための初期条件である。ここでは、信号因子,制御因子及び誤差因子の各条件のパターンが複数種類設定されている。
【0081】
なお、本解析プログラム10では、計算機1の入力装置3Cからの情報入力等によって、このシミュレーション条件設定手段12における演算の初期条件を選択できるようになっている。例えば、計算機1のユーザ操作によって初期条件に係る情報が入力されると、初期条件の異なる数値シミュレーションを実施できるようになっている。
シミュレーション条件設定手段12で設定される制御因子とその水準の一例を以下の表1に示す。なおここでは、従来の手法で最適化した結果との比較のために、制御因子の種類としてクラッチ特性を主に選択している。
【0082】
【表1】
【0083】
以下にL18直交表を用いた場合の制御因子の組み合わせを示す。L18直交表では、2水準の因子を最大1個、3水準の因子を最大7個配置することができる。直交表内に記載された数字は、各列番に配置される因子の水準を示している。
【0084】
【表2】
【0085】
また、シミュレーション条件設定手段12に設定されている信号因子は、変速機20の油温の条件である。誤差因子は、基本機能の出力、すなわち、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsへ影響を与えうる複数の因子の条件である。誤差は制御因子の水準値の微小変化で代用できるものと考え、表1の全ての制御因子の各水準値に対して、-1%,+1%の2水準を誤差因子とする。誤差因子の組み合わせはL12直交表を構成し誤差条件となる。なお、制御因子の各水準値に誤差を含まない条件のことを、標準条件と呼ぶ。
【0086】
L12直交表では、2水準の因子を最大11個配置することができる。以下にL12直交表を示す。
【0087】
【表3】
【0088】
〔5−3.数値シミュレーション手段13〕
数値シミュレーション手段13は、実質的な品質工学の数値シミュレーションを実施するものである。ここでは、信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験(数値シミュレーション)が実施されるようになっている。すなわち、前述の計算モデルを用いて、数値シミュレーションが複数回数繰り返されるようになっている。例えば、信号因子が3水準設定され、制御因子がL18直交表に配置され、誤差条件がL12直交表に配置された場合には、3x18x(1+12)=702となり、合計702回の数値シミュレーションが繰り返される。この数値シミュレーションの出力例を、図8に示す。
【0089】
数値シミュレーション手段13では、図8において、出力yに対し各標準条件の出力〔図7のy0,j(j=1〜3)〕を入力信号に用いて、以下の式40〜式50に基づき標準SN比ηが演算される。なお、fは品質工学の自由度を示している。
【0090】
【数17】
【0091】
【数18】
【0092】
【数19】
【0093】
また、数値シミュレーション手段13は、上記の式47〜式49に基づいて算出される標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2を用いて、要因効果図を作成するようになっている。なお、ここで作図される要因効果図は、計算機1のディスプレイ3Aやプリンタ3B等の出力装置へと出力されるようになっている。
ここで、一次係数β1及び二次係数β2について詳述する。品質工学の手法では一般的に、設計変数最適化の対象物の性能を発現させる本質的な機能(基本機能)のことを特性値yとし、特性値yと線形関係にある因子を信号因子Mとして、これらの関係を基本機能と呼ぶ。
【0094】
基本機能は、以下の式51に示すような原点を通る線形関係を満たすことが望ましいとされている。その理由は、特性値yと信号因子Mとが線形関係にあれば、その係数βは特性値yに対する効果の大小を表す指標となりうるからである。なお、品質工学ではこの係数βのことを出力感度(感度)と呼ぶ。
【0095】
【数20】
【0096】
一方、本解析においては、図4(a)に示すように、特性値yと信号因子Mとが非線形の関係となっている。そのため、一般的な品質工学における出力感度βを用いた評価が難しいことになる。そこで本解析では、各標準条件の出力に対して目標曲線での直交展開から式48〜式50で一次係数β1及び二次係数β2を計算する。一次係数β1が1に近く、二次係数β2が0に近いほど、特性値yと信号因子Mとの入出力関係は目標曲線に近い特性となる。本解析においては、出力のばらつきの度合いの指標となる標準SN比ηだけでなく、β1=1,β2=0を性能評価の目標値(指標)の一つとして取り入れている。
【0097】
〔5−4.騒音レベル算出手段14〕
騒音レベル算出手段14は、数値シミュレーション手段13でのシミュレーションを通して得られた最適な制御因子の組み合わせを確認するための演算を実施するものである。すなわち、最適な制御因子の組み合わせが、必ずしも直交表の中に含まれていた組み合わせとは限らないため、得られた組み合わせが実際に最適であるか否かの判断材料として、上記の計算モデルに基づく騒音レベルLを推算するようになっている。
【0098】
[設計変数の最適化手順]
図9に示すフローチャートは、本発明の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を示すものである。このフローチャートは、上述の本解析プログラム10を利用して実施される。
【0099】
〔1.1次チューニング〕
まず、ステップA10(第1ステップ)では、目標特性設定手段11において、目標特性が設定される。ここでは例えば、品質工学の基本性能の入力に変速機20の油温をとり、出力に従動軸角加速度変動の実効値CTrmsをとって、図7(a)に実線で示すような目標特性が設定される。つまりここでは、品質工学における特性値yとして従動軸角加速度変動の実効値CTrmsが設定されるとともに、信号因子Mとして変速機20の油温が設定される。
【0100】
次にステップA20(第2ステップのひとつ)では、シミュレーション条件設定手段12において、数値シミュレーションの初期条件が設定される。ここでは、変速機20に関連する複数の設計変数として、例えば前述の表1に記載された各水準のパラメータが制御因子に設定され、20℃,30℃及び50℃の3水準の変速機20の油温が信号因子に設定されるとともに、制御因子の水準値の微小変化が誤差因子に設定される。ここで設定された制御因子,信号因子及び誤差因子は直交表に割り当てられ、シミュレーション条件の組み合わせ及び複数の誤差条件が設定される。
【0101】
さらにステップA30(第2ステップのひとつ)では、数値シミュレーション手段13において、ステップA20で設定された初期条件に基づいて、信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験が実施される。つまりこのステップでは、品質工学を利用した数値シミュレーションにより、信号因子,制御因子及び誤差因子を変化させた場合における特性値yとして、それぞれの変速機20の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsが演算される。なお、ここで演算された各特性値yのデータは、例えば図8に示すように膨大な数のデータとなる。例えば、信号因子が3水準設定され、制御因子がL18直交表に配置され、誤差条件がL12直交表に配置された場合には、3x18x(1+12)=702となり、合計702回の数値シミュレーションが繰り返される。
【0102】
続くステップA40(第2ステップのひとつ)では、ステップA30における演算結果に基づき、数値シミュレーション手段13において、各制御因子の標準SN比(第1標準SN比)ηが算出される。つまりここでは、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきの度合いが算出されることになる。また、ステップA50(第3ステップのひとつ)では、ステップA40で算出された標準SN比ηに基づいて、要因効果図(第1要因効果図)が作成され、ディスプレイ3Aに出力される。なお、このステップにおいて、各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を算出しておいてもよい。
【0103】
そして、ステップA60(第3ステップのひとつ)では、ステップA50で得られた標準SN比ηの要因効果図に基づいて最適条件が求められる。このステップで得られる要因効果図の一例を図10(a)に示す。この図10(a)中においては、横軸の各制御因子で選択した最適水準が○印で示され、現行水準(すなわち、1次チューニングを施す前の水準)が↑印で示されている。なお、このステップにおいて、標準SN比ηの高い水準を選択した方が、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきは小さくなるが、設計変数の設定のし易さ等も考慮して各制御因子の最適水準の組み合わせ(最適条件)が設定される。
【0104】
なお、このステップにおける制御因子の水準選択は、ディスプレイ3A上に標示された要因効果図に基づいて、計算機1のユーザが行うものとしてもよいし、数値シミュレーション手段13が自動的に行うものとしてもよい。
ステップA70(第8ステップ及び第9ステップ)では、騒音レベル算出手段14において、ステップA30で演算された特性値y,ステップA40で算出された標準SN比η(さらに、一次係数β1及び二次係数β2等)の計算が精度良く行われているかどうかの指標を得るための確認実験が実施される。ここでは、ステップA60で設定された各制御因子の最適水準及び現行水準の値が直接与えられて、数値シミュレーションが実施される。
【0105】
ステップA70で最適条件が確認されると、続くステップA80(第3ステップのひとつ)において、目標特性に対するチューニング(1次チューニング)が実施される。なお、ステップA70での確認実験を通じて特性値y,標準SN比ηの十分な計算精度が確認できなかった場合には、初期条件を変更してステップA20以降の制御内容を再試行してもよい。
【0106】
〔2.2次チューニング〕
さらに、本発明に係る制御では、特性値yを目標特性に近づけることのできる制御因子の組み合わせを求めるべく、ステップA90以降のフローにおいて第2チューニングが施される。
【0107】
ステップA90(第4ステップのひとつ)では、シミュレーション条件設定手段12において、ステップA20で設定された初期条件とは異なる初期条件が再設定される。具体的には、変速機20の油温の水準範囲が、所望の温度以上の油温範囲の水準に限定される(つまり、2種類の範囲に分割される)。ここでは、油温の範囲が1次チューニングにおいて目標曲線との乖離が大きい油温の水準範囲と、小さい油温の水準範囲とに分割される。
【0108】
続くステップA100(第4ステップのひとつ)では、数値シミュレーション手段13において、ステップA90で分割された信号因子のそれぞれの範囲について、標準SN比(第2標準SN比)η,一次係数β1及び二次係数β2が算出される。そして、ステップA110(第5ステップのひとつ)では、ステップA100で算出された標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2に基づいて、ステップA50で作成された要因効果図とは異なる新たな要因効果図(第2要因効果図)が作成され、ディスプレイ3Aに出力される。
【0109】
その後、ステップA120(第5ステップのひとつ)では、ステップA110で得られた要因効果図に基づいて、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となり、かつ、目標曲線への近似の度合いが大きい制御因子の組み合わせが選択され、目標特性に対するチューニング(2次チューニング)が施される。ここでは、例えば一次係数β1が1に近い水準や二次係数β2が0に近い水準が選択される。
【0110】
つまり、本解析プログラム10は、計算機1を用いて変速機20のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるべく、ステップA10に示される手順(第1ステップ)と、ステップA20〜A40に示される手順(第2ステップ)と、ステップA50〜A60に示される手順(第3ステップ)と、ステップA80〜A100に示される手順(第4ステップ)と、ステップA110〜120に示される手順(第5ステップ)とを、計算機1に実行させている。
【0111】
加えて、本解析プログラム10は、ステップA70に示される手順(第8ステップ及び第9ステップ)をさらに計算機1に実行させている。
このような制御内容により、二段階にチューニングが施されることになり、ロバスト性が高いだけでなく、より目標特性に近い出力が期待できる設計変数の組み合わせが得られることになる。
【0112】
[実施例1]
次に、本発明に係る数値シミュレーションの一実施例についてさらに具体的に説明する。ただし、以下に説明する実施例はあくまでも一例であって、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0113】
〔1.初期条件〕
本実施例1では、目標特性設定手段11で設定される目標特性を、図7(a),(b)に実線で示す特性とした。
図7(a),(b)中に破線で示されたグラフは、前述の実測した実験データ及び計算モデルを用いた騒音レベルLの推定実験から得られた結果をプロットしたものである。この図7(a),(b)に示された例では、目標特性が、破線で示された従来の油温・騒音の最適特性に対して、さらに0.5dBA低減させた特性を目標曲線として設定されている。
【0114】
次に、シミュレーション条件設定手段12に設定される数値シミュレーションの初期設定としては、前述の表1に記載された制御因子の各水準を用いた。
また、信号因子については、低油温(20℃),中油温(30℃)及び高油温(50℃)の3水準の信号因子とした。誤差については、制御因子の水準値の微小変化で代用できるものと考え、前述の表1に記載の全ての制御因子の各水準値に対して、±1%分の変動を与えて誤差因子とした。誤差因子は、L12直交表に配置して12通りの誤差条件を設定した。
【0115】
〔2.1次チューニング〕
本実施例1において1次チューニングまでの過程で得られた要因効果図を図10(a)に示す。標準SN比ηに着目すると、横軸方向に並べられた各制御因子において、標準SN比ηの値が大きい水準を選択することで、特性値yのばらつきが小さい制御因子の組み合わせが得られることになるが、ここでは、設計変数の設定の容易性等を考慮して、図中に○印を付した水準を選択するものとした。
【0116】
こうして得られた最適水準及び現行水準の標準SN比ηから推定される最適条件及び現行条件の標準SN比ηを、以下の表4の上段に示す。さらに、各制御因子で最適水準及び現行水準の値を直接与えて計算した確認実験(数値シミュレーション)の結果を表4の下段に示す。この表4から、標準SN比ηの利得は良好な再現性が得られているものと判断できる。
【0117】
【表4】
【0118】
上記の結果から、各制御因子の値を図10(a)に○印で示された最適水準とすることとし、1次チューニングを実施した。
【0119】
〔3.最適条件と現行条件との比較〕
図11(a),(b)は、1次チューニングによって選択された最適条件と現行条件(1次チューニングを施す前の条件)とについて、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを比較した結果を示すものである。最適条件は、現行条件に比較して、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが小さく、レベル(変動の大きさ)も油温が30℃〜50℃の範囲において低減していることがわかる。しかし目標曲線と比較すると2倍近くの大きさがあり、さらに低減させる必要があることがわかる。つまり、ここまでのチューニングでは、特性値yのばらつきを抑制することはできても、設計変数の最適化にまでは至らないといえる。
【0120】
なお、図11(a),(b)中では、視覚的にばらつきの度合いが明瞭となるように、標準条件での出力を実線で示すとともに誤差条件での出力を破線で示している。このように、誤差因子の値に応じて表現方法を変更することにより、ばらつきを的確に把握することができるようになっている。以下、図12,図15,図16,図20及び図21においても同様に、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを破線で示すものとする。
【0121】
〔4.従来の品質工学における2段階設計の検討〕
ここで、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた分析を検討した。例えば、1次チューニング時における数値シミュレーションから得られた一次係数β1及び二次係数β2を用いて要因効果図を作成すると、図10(b)に示すグラフが得られる。この図10(b)のグラフによれば、従動軸慣性モーメントICTを大きく、クラッチ30の2段目ヒステリシスH2を小さく、フライホイール31の慣性モーメントIFWを大きくすれば、一次係数β1が目標値である1に近づくものと推定される。この中で、特性値yへの影響度(勾配)が大きく変更しやすい従動軸慣性モーメントICTについてのチューニングを検討した。なお、二次係数β2は目標値である0に十分近いものと判断した。
【0122】
上記の1次チューニングでは、前述の表1における第3水準、すなわちICT/ICT0=1.5が最適条件として選択されている。そこで、この制御因子をICT/ICT0=2.0にした場合における従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを試算した。
図12にその試算の結果を示す。1次チューニング時における最適条件よりも従動軸慣性モーメントICTを増加させると、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsは全体的に低減している。しかしながらそのレベルは、油温が30℃〜50℃の範囲において目標曲線の1.1〜1.3倍の大きさとなっている。このように、従来の2段階設計の手法を用いたとしても、実用的な設計変数の変更範囲内で目標値を満足する(すなわち、目標曲線を下回る)特性値yは得られないものと考えられる。
【0123】
〔5.2次チューニング〕
ここで、本実施例1に係る2次チューニングを実施した。
まず、2次チューニングのための試算として、信号因子の水準範囲を1次チューニング時における信号因子の全水準範囲のうちの30℃及び50℃の油温の水準範囲に限定した場合における要因効果図(第2要因効果図)を作成した。つまり、信号因子は、1次チューニングにおいて目標曲線を満足する特性値yが得られなかった30℃〜50℃の油温の範囲を2次チューニングするべく、中油温(30℃)及び高油温(50℃)の2水準の信号因子とした。この2水準の信号因子の場合についての標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2を算出した。
【0124】
このようにして得られた標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2の要因効果図を図13(a),(b)に示す。一次係数β1に着目すると、従動軸慣性モーメントICT及びクラッチ30の1段目ばね係数k1が水準の変動に対して影響度(傾き)が大きいことがわかる。また、一次係数β1をβ1=1に近づけるためには、従動軸慣性モーメントICTを大きく、1段目ばね係数k1を小さくすればよいことがわかる。ただし、1段目ばね係数k1を小さくすると、標準SN比ηが低下する(つまり、特性値yのばらつきが大きくなる)ことが示されている。
【0125】
一方、信号因子を20℃のみの1水準とした場合における標準SN比η及び一次係数β1の要因効果図を図14(a),(b)に示す。油温が20℃の場合には、従動軸慣性モーメントICTを大きくしても、あるいは1段目ばね係数k1を小さくしても、標準SN比ηが低下することがわかる。また、一次係数β1に着目すれば、従動軸慣性モーメントICTの増加よる一次係数β1の減少分と、1段目ばね係数k1の減少による一次係数β1の増加分とが重畳され、効果が相殺されるものと推定される。つまり結果として、特性値yのばらつきが大きくなることがわかる。
【0126】
以上の考察に基づいて、前述の表1における制御因子のうち、1段目ばね係数k1に係る制御因子をk1/k10=0.4とし、従動軸慣性モーメントICTに係る制御因子をICT/ICT0=1.3とする2次チューニングを施すこととした。なお、2次チューニングにおける信号因子,誤差因子の設定内容は、1次チューニングにおけるそれらと同一設定とした。2次チューニングにおける従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを演算した結果を図15に示す。
【0127】
この図15に示すように、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきは、1次チューニング時におけるばらつきよりも僅かに大きくなっている一方、標準条件での従動軸角加速度変動の実効値CTrmsは目標曲線を下回っており、ほぼ目標が満たされていることがわかる。
なお、信号因子が1因子の場合、上記の式45においてVeの分母が0(すなわち、自由度が0)となり、式47で標準SN比ηを演算することができないため、以下に示す式52を用いて標準SN比ηを演算した。
【0128】
【数21】
【0129】
〔6.実機の変速機でのチューニング〕
上述の本実施例1における1次チューニング及び2次チューニングは、実験用の変速機モデル20における騒音レベルLを対象とした解析であったが、ここでは実際の車両に搭載されている変速機の騒音レベルLを対象とした解析結果を説明する。
実機での変速機を解析するにあたり、入力の信号因子として30℃,40℃,50℃,60℃及び70℃の5水準の油温を設定した。また、制御因子は、変速機モデルを用いて行った2次チューニングの値に設定し、誤差条件(誤差因子)は各制御因子の-1%,+1%を与えて12通りの組み合わせとした。
【0130】
図16は、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを適用し、1段目ばね係数k1及び従動軸慣性モーメントICTを調節したものについて、油温と騒音レベルLとの関係を試算及び実測した結果を示すグラフである。この図16に示すように、従来の特性(k1/k10=0.4, ICT/ICT0=1.0)に対して、k1/k10=0.4, ICT/ICT0=1.3とするチューニングを施した場合には、油温が40℃〜70℃の中高温時に、ばらつきを考慮しても0.5dBA程度の騒音低減効果があるものと推定される。なお、図16における縦軸の騒音レベルLは、前述の式39に基づき、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsから算出したものである。
【0131】
また、実験モデルでは騒音レベルLが最小値をとる油温が30℃であったが、図16によれば、実機の変速機では60℃となっていることがわかる。これは、実機の変速機における内部の回転抵抗(作動油の撹拌抵抗)が変速機モデル20の回転抵抗に比較して大きいためと考えられる。
【0132】
[実施例2]
〔1.初期条件〕
本実施例2では、実施例1と同様に、目標特性設定手段11で設定される目標特性を、図7(a),(b)に実線で示す特性とした。
【0133】
また、シミュレーション条件設定手段12で設定される数値シミュレーションの初期条件として、以下の表5に記載された13種類の制御因子を用いることとし、L36直交表を構成した。なお、信号因子に関しては、実施例1と同様の設定とした。
【0134】
【表5】
【0135】
また、誤差因子については、表5に示された全ての制御因子の各水準値に対して、-1%,+1%の2水準の変動値を設定した。なお、誤差因子の組み合わせはL16直交表を用いて16通りの誤差条件を設定した。
以下にL16直交表を用いた場合の誤差因子の組み合わせを示す。L16直交表では、2水準の因子を最大15個配置することができる。
【0136】
【表6】
【0137】
〔2.変速機モデルでのチューニング〕
上記のような初期条件により、まず1次チューニングとして、信号因子の全水準範囲についての要因効果図(第1要因効果図)を作成し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを抑えるのに有効な設計変数の選択を行った。ここで作成した要因効果図を、図17(a),(b)に示す。
【0138】
さらに、2次チューニングとして、実施例1と同様に、30℃及び50℃の油温の水準範囲に限定した場合における要因効果図(第2要因効果図)を作成し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性に近づけるのに有効な設計変数を選択した。ここで作成した要因効果図を、図18(a),(b)に示す。なお、信号因子を20℃のみの1水準とし、その他の制御因子及び誤差因子の組み合わせを1次チューニングにおける設定内容と同一設定とした場合における要因効果図を図19に示す。これらの要因効果図に基づいて選択した設計変数は、クラッチ30の1段目ばね係数k1(k1/k10=0.4),従動軸慣性モーメントICT(ICT/ICT0=1.3),遊転歯車24aの慣性モーメントIFT(IFT/IFT0=0.8)及び従動軸歯車〜遊転歯車バックラッシεCTF(εCTF/εCTF0=0.5)であった。
【0139】
なお、実施例1と同様に、信号因子を20℃のみの1水準とした場合には、式47の代わりに以下に示す式53を用いて標準SN比ηを演算した。
【0140】
【数22】
【0141】
2次チューニングにおける従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきを演算した結果を図20に示す。この図20に示すように、本実施例2においては、標準条件及び誤差条件の何れの条件においても、ばらつきを含めて目標曲線を下回る特性が得られた。
【0142】
〔3.実機の変速機でのチューニング〕
さらに、上記の1次チューニング及び2次チューニングを実機の変速機に適用した場合における、油温と騒音レベルLとの関係を試算及び実測した結果を図21に示す。
【0143】
実施例1における結果を示す図16と比較すると、実施例1では油温が40℃〜70℃の中高温時において騒音低減効果が認められ、油温が30℃の場合には僅かに目標曲線を上回っていた。一方、本実施例2では、油温の全ての温度範囲(30℃〜70℃)において、ばらつきを含めて目標曲線を下回っており、安定した騒音低減効果が認められる。
したがって、クラッチ30の1段目ばね係数k1の低減及び従動軸慣性モーメントICTの増加は、油温が40℃〜70℃の範囲における騒音レベルLの低減に効果があるのに対して、遊転歯車24aの慣性モーメントIFTの低減及び従動軸歯車〜遊転歯車バックラッシεCTFの低減は、より広範囲の油温範囲(30℃〜70℃)における騒音レベルLの低減に効果があると考えられる。
【0144】
このように、設計変数を13因子まで増加させて1次チューニング及び2次チューニングを施すことにより、実施例1のような7因子の設計変数を用いた場合と比較して、さらに大きなアイドル騒音の低減効果を得られた。
【0145】
[効果]
以上詳述したように、本発明によれば、次のような利点が得られる。
(1)非線形性が非常に高い変速機のアイドル騒音に係るパラメータ設計において、変速機の油温を基本機能の入力信号とし、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを出力信号とすることにより、品質工学の手法を適用することができる。
【0146】
すなわち、一般的な品質工学の手法において、温度,湿度等の環境条件は誤差因子(設計者がコントロールできない因子であって目的への影響が大きい因子)と見なされている。一方、本発明においては、変速機の油温を信号因子として割り付けることにより、アイドル騒音との機能性を評価することが可能となり、騒音レベルの低い変速機のロバスト設計を実現することができる。
【0147】
(2)1次チューニングにより、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となるパラメータの組み合わせを求めた後、さらに信号因子の水準範囲を限定した2次チューニングを施して、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性に近づけることにより、目標特性に対するチューニングを二段階に分けて実施することができる。
【0148】
すなわち、一般的な品質工学の手法における2段階設計の手法では、実用的な設計変数の変更範囲内で目標値を満足する結果が得られない場合があるが、本発明によれば、信号因子の水準範囲を部分的に抽出することによって、抽出した部分の信号因子に対応するパラメータのロバスト性を把握することができる。これにより、1次チューニングにおいて目標特性との差異が大きい油温の範囲のみに関して、さらに2次チューニングを施し、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきに影響を与えやすい制御因子を特定することが可能となり、良好な設計変数の組み合わせを求めることができる。したがって、目標特性を満足する設計変数を得ることができ、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0149】
(3)タグチメソッドを利用することにより、数値シミュレーションの試行回数を大幅に削減することができる。すなわち、直交表を用いて試行条件の組み合わせを求めることで、各条件をバランスさせることができ、効率的な実験が可能となる。特に、膨大な数の設計変数が想定される変速機のパラメータ設計において、高速かつ容易に設計変数を最適化することができる。
【0150】
(4)1次チューニングでは、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となる制御因子の組み合わせが選択されるため、基本機能の特性値yへの影響力のみならず、設定のし易さを考慮して設計変数の設定範囲を定めることができる。
【0151】
(5)1次チューニングまでの過程で得られる設計変数の値を新たな制御因子とした確認実験を実施することにより、その設計変数を得るまでに演算された直積実験の特性値y,標準SN比η,一次係数β1及び二次係数β2等の計算が精度よく行われているかどうかを確認することができる。
【0152】
(6)2次チューニングで分割される油温範囲のうちの一方は、1次チューニングにおいて目標曲線との乖離が大きい油温の水準となっており、例えば実施例1では、従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのレベルが目標曲線の1.1〜1.3倍の大きさとなっている30℃〜50℃の油温の水準範囲に限定されるため、1次チューニングにおいて目標曲線を満足する特性値yが得られなかった部分の特性値yを2次チューニングで改善することができる。つまり2次チューニングでは、1次チューニングからさらに変速機の従動軸角加速度変動の実効値CTrmsを目標特性へと近づけることができる。また、2次チューニングにおいて、第2要因効果図に基づいて一次係数β1が1に近い水準が選択されるようになっているため、各制御因子が従動軸角加速度変動の実効値CTrmsに与える影響のばらつきの度合いだけでなく、特性値の目標曲線への近似の度合いを考慮することができる。
【0153】
(7)実施例1に示すように、クラッチ30の1段目ばね係数k1を低減させるとともに、従動軸慣性モーメントICTを増加させることで、変速機20のアイドル騒音を低減させることができる。また、実施例2に示すように、遊転歯車24aの慣性モーメントIFTを低減させるとともに従動軸歯車・遊転歯車間のバックラッシεCTFを低減させることによって、さらに騒音レベルLを低減させることができる。
【0154】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、上述の実施形態における確認実験では、例えば表4に示すように、標準SN比ηの利得の大きさに基づいて再現性の確認を行っているが、標準SN比ηの代わりに一次係数β1や二次係数β2を用いて確認することも考えられる。つまり、一次係数β1が1に近く、二次係数β2が0に近いほど、特性値yと信号因子Mとの入出力関係は目標曲線に近い特性となることを利用して、確認実験で得られる一次係数β1,二次係数β2がβ1≒1,β2≒0であることを以て、制御因子の水準の組み合わせの妥当性を判断してもよい。
【0155】
なお、以下の表7は、上記の実験例1における確認実験時に算出した一次係数β1及び二次係数β2を示すものである。
【0156】
【表7】
【0157】
このように、実施例1の確認実験において算出された一次係数β1は1に近い値をとり、また、二次係数β2はほぼ0となっていることがわかる。
また、上述の実施形態では、1次チューニングの過程で確認実験が実施されるようになっているが、同様の確認実験を2次チューニングの後に実施することも考えられる。これにより、選択された設計変数の信頼性を高め、変速機におけるアイドル騒音の低減効果を高めることができる。
【0158】
なお、図22は2次チューニング後に実施した確認実験の結果を示すグラフである。図22(a)は各制御因子の標準SN比ηを示す要因効果図であり、図22(b)は各制御因子の一次係数β1及び二次係数β2を示す要因効果図である。この図22に示すように、2次チューニング後には、一次係数β1及び二次係数β2は、β1≒1,β2≒0となっていることがわかる。特に、一次係数β1に着目すると、1次チューニング後の値と比較してさらに1に近い値となっており、特性値yと信号因子Mとの入出力関係が目標曲線により近い特性へチューニングされたことがわかる。
【0159】
また、上述の実施形態における1次チューニング,確認実験及び2次チューニングのそれぞれの数値シミュレーションにおいて選択される、誤差条件に対し従動軸角加速度変動の実効値CTrmsのばらつきが最小となる制御因子の組み合わせに関して、その組み合わせのロバストの度合いを確認するステップを追加することも考えられる。
【0160】
例えば、図9に示すフローチャートのステップA20で設定される初期設定としての誤差因子とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定するステップ(第6ステップ)を、ステップA120以降に追加するとともに、この新たに追加されたステップで設定された誤差因子とステップA20で設定された信号因子及び制御因子とを用いて、数値シミュレーション手段13における信号因子×制御因子×{標準条件+誤差条件}の直積実験を実施するステップ(第7ステップ)を追加する。この場合、新たな誤差因子の値としては、例えば±0.5%や±3.0%とする。これらの構成を本解析プログラム10に追加して、計算機1に演算を実行させるものとしてもよい。
【0161】
このように、誤差因子の変動幅を変化させた場合における標準SN比ηや一次係数β1,二次係数β2の要因効果図にほとんど変化がないことを確認することによって、ロバストの度合いを確認することができる。
誤差因子の変動幅を±0.5%に変化させた場合の標準SN比ηを図23(a)に示し、一次係数β1及び二次係数β2を図23(b)に示す。また、誤差因子の変動幅を±3.0%に変化させた場合の標準SN比ηを図24(a)に示し、一次係数β1及び二次係数β2を図24(b)に示す。なお、誤差因子の変動幅が±1.0%の場合の要因効果図は、前述の通り図10(a),(b)である。これらの要因効果図を照合すると、略同様の形状となっていることがわかる。このように、誤差因子の変動幅を変化させることにより、誤差変動に対するロバスト性を確認することができる。また、このような照合によって、シミュレーション条件設定手段12で設定されている誤差因子の変動幅が適切であることを確認することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法が適用される、あるいは本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの解析対象となる変速機モデルの構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る数値シミュレーション用計算機の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルを示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は従動軸角加速度変動の実効値と騒音レベルとの関係を示すグラフ、(b)は変速機の油温と騒音レベルとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの計算モデルから得られるグラフであり、(a)は低油温時(20℃)におけるフライホイールの角速度変動比の時刻歴応答、(b)は低油温時(20℃)における従動軸の角速度変動比の時刻歴応答、(c)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の時刻歴応答、(d)は低油温時(20℃)における従動軸角加速度変動の実効値の時刻歴応答である。
【図6】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムの機能構成を説明するための全体構成図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける目標曲線の設定例を示すグラフであり、(a)は変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値との関係における目標曲線を示すグラフ、(b)は変速機の油温と騒音レベルLとの関係における目標曲線を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラムにおける数値シミュレーションの出力例を示す模式図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図11】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、1次チューニングでの従動軸角加速度変動の実効値のばらつきを示すグラフであり、(a)は最適条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフ、(b)は現行条件による変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図12】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、従来の品質工学における2段階設計の手法を用いた試算から得られた変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図13】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図14】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の一次係数を示す要因効果図である。
【図15】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1における、2次チューニングでの変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図16】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを施した場合の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図17】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における1次チューニング時の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図18】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における2次チューニング時の要因効果図であり、(a)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は信号因子の水準範囲を30℃〜50℃に限定した場合の各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図19】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2の2次チューニング時において、信号因子の水準範囲を20℃に限定した場合の各制御因子の標準SN比を示す要因効果図である。
【図20】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2における、1次チューニング及び2次チューニング後の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図21】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例2において、実機の変速機に1次チューニング及び2次チューニングを施した場合の変速機の油温と従動軸角加速度変動の実効値のばらつきとの関係を示すグラフである。
【図22】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、2次チューニング後に確認実験を行った場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図23】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、誤差因子の変動幅を±0.5%に変化させた場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【図24】本発明の一実施形態に係る変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法を用いた実施例1において、誤差因子の変動幅を±3.0%に変化させた場合の要因効果図であり、(a)は各制御因子の標準SN比を示す要因効果図、(b)は各制御因子の一次係数及び二次係数を示す要因効果図である。
【符号の説明】
【0163】
1 数値シミュレーション用計算機
10 設計変数最適化プログラム(解析プログラム)
11 目標特性設定手段
12 シミュレーション条件設定手段
13 数値シミュレーション手段
14 騒音レベル算出手段
20 変速機モデル(変速機)
22a 駆動軸歯車
23a〜23d 従動軸歯車
24a 遊転歯車
26 バックラッシ除去機構
30 クラッチ
40 実験データの収集及び分析用計算機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法であって、
品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、
該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、
該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、
該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、
該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップと
を備えたことを特徴とする、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項2】
該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項3】
該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項4】
該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とする
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項5】
該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項6】
該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、
該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項7】
該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、
該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項8】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項9】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項10】
コンピュータを用いて、変速機のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるためのプログラムであって、
該コンピュータに、
品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、
該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、
該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、
該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、
該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップと
を実行させることを特徴とする、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項11】
該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出する
ことを特徴とする、請求項10記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項12】
該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項10又は11記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項13】
該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とする
ことを特徴とする、請求項10〜12の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項14】
該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項10〜13の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項15】
該コンピュータに、
該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、
該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、
をさらに実行させることを特徴とする、請求項10〜14の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項16】
該コンピュータに、
該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、
該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、
をさらに実行させることを特徴とする、請求項10〜15の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項17】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項10〜16の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項18】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項10〜17の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項1】
変速機のアイドル騒音を低減させるための設計変数の最適化方法であって、
品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、
該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、
該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、
該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、
該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップと
を備えたことを特徴とする、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項2】
該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出する
ことを特徴とする、請求項1記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項3】
該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項4】
該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とする
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項5】
該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項6】
該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、
該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項7】
該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、
該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、をさらに備えた
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項8】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項9】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化方法。
【請求項10】
コンピュータを用いて、変速機のアイドル騒音低減のための最適な設計変数を求めるためのプログラムであって、
該コンピュータに、
品質工学における基本機能の入力に該変速機の油温をとり、該基本機能の出力に該変速機のアイドル騒音と相関性のある該変速機の従動軸角加速度変動の実効値をとって、該変速機の油温及び従動軸角加速度変動の実効値についての目標特性を設定する第1ステップと、
該変速機の油温を信号因子とし、該変速機に関連する複数の設計変数を制御因子とし、該制御因子の微小変化を誤差因子として、これらの信号因子,制御因子及び誤差因子を用いて数値シミュレーションを実行し、該変速機に関連する複数の設計変数のそれぞれについての第1標準SN比を算出する第2ステップと、
該第1標準SN比に基づいて生成された第1要因効果図から、該誤差条件に対し該変速機の従動軸角加速度変動の実効値のばらつきが最小となる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する1次チューニングを施す第3ステップと、
該第2ステップの該数値シミュレーションにおける該信号因子の全水準範囲のうちの所望の水準範囲に対応する、該複数の設計変数のそれぞれについての第2標準SN比及び一次係数を算出する第4ステップと、
該第2標準SN比及び該一次係数に基づいて生成される第2要因効果図から、該従動軸角加速度変動の実効値を該目標特性に近づけることのできる該設計変数の組み合わせを求めて、該目標特性に対する2次チューニングを施す第5ステップと
を実行させることを特徴とする、変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項11】
該第2ステップにおける該数値シミュレーションとして、タグチメソッドを用いて複数の該信号因子,複数の該制御因子及び複数の該誤差因子の各組み合わせにおける直積を算出する
ことを特徴とする、請求項10記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項12】
該第3ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、最も該第1標準SN比の大きい水準を選択して、該1次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項10又は11記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項13】
該第4ステップにおいて、該所定の水準範囲を、予め設定された所定の温度以上の油温範囲とする
ことを特徴とする、請求項10〜12の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項14】
該第5ステップにおいて、各設計変数について予め設定された所定の設定範囲内において、該一次係数が1に近い水準を選択して、該2次チューニングを施す
ことを特徴とする、請求項10〜13の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項15】
該コンピュータに、
該第2ステップにおける設定とは異なる大きさで微小変化する新たな誤差因子を設定する第6ステップと、
該第2ステップで設定された信号因子及び制御因子と、該第6ステップで設定された該誤差因子とを用いて数値シミュレーションを実行する第7ステップと、
をさらに実行させることを特徴とする、請求項10〜14の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項16】
該コンピュータに、
該第3ステップにおける該1次チューニングまでの過程で得られる該設計変数の値を新たな制御因子の第2水準とし、該第2水準の値を所定の割合で増加させた値を該制御因子の第1水準とし、該第2水準の値を該所定の割合で減少させた値を該制御因子の第3水準として設定する第8ステップと、
該第8ステップで設定された該制御因子の微小変化を誤差因子として、該誤差因子,該第2ステップで設定された該信号因子及び該第8ステップで設定された該制御因子を用いて数値シミュレーションを実行する第9ステップと、
をさらに実行させることを特徴とする、請求項10〜15の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項17】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車の慣性モーメント及び該変速機への動力伝達を断接するクラッチの弾性係数を該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項10〜16の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【請求項18】
該第2ステップにおいて、該変速機を構成する歯車間のバックラッシを該制御因子として用いる
ことを特徴とする、請求項10〜17の何れか1項に記載の変速機のアイドル騒音低減のための設計変数最適化プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2008−75810(P2008−75810A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257492(P2006−257492)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]