説明

変速機のオイル供給装置

【課題】低速走行時におけるオイル貯留量を確保することにより、低速走行時から高速走行時の広い運転領域における燃費の改善を図ることが可能な変速機のオイル供給装置を提供する。
【解決手段】貯留部材30は、変速機構4の出力軸13の上方に配置され、かつ該出力軸13に設けられた変速ギヤ13a,13cによる掻き揚げオイルbを貯留部Aに通す開口30m,30nを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を複数の前進段又は後進段の何れかの変速段に切り換えて出力する変速機構を備えた変速機のオイル供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のオイル供給装置として、本件出願人は、先に、デファレンシャル機構のリングギヤによる掻き揚げオイルを貯留する貯留部と、該貯留部に貯留したオイルをインプット軸等の回転部材に供給するオイル供給部とを有する貯留部材を備えたものを提案している(例えば、特許文献1参照)。このオイル供給装置では、車両走行時におけるオイル攪拌抵抗等のメカロスを低減でき、燃費の改善を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−185332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記装置では、主に高速走行時における燃費の改善効果は大きいものの、低速走行時における燃費の向上を図るうえで改善の余地がある。即ち、低速走行時ではリングギヤの回転が比較的低いことから、リングギヤによる掻き揚げオイルだけではオイル貯留量が十分に確保できない場合があり、この点での改善が要望されている。
【0005】
本発明は、前記従来の実情に鑑みてなされたもので、低速走行時におけるオイル貯留量を確保することにより、低速走行時から高速走行時の全運転領域における燃費の改善を図ることが可能な変速機のオイル供給装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、エンジン動力を何れかの変速段に切り換えて出力する変速機構を備え、ギヤの回転により掻き揚げられたオイルを貯留する貯留部と、該貯留部のオイルを前記変速機構の回転部材に供給するオイル供給路とを有する貯留部材を備えた変速機のオイル供給装置であって、前記貯留部材は、前記変速機構の出力軸の上方に配置され、かつ該出力軸に設けられた何れかの変速ギヤによる掻き揚げオイルを前記貯留部に通す開口を有することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の変速機のオイル供給装置において、前記変速機構からの出力を車輪に伝達するデファレンシャル機構を備え、前記貯留部は、前記変速ギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第1貯留部と、該第1貯留部とは独立して設けられ、前記デファレンシャル機構のリングギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第2貯留部とを有し、前記オイル供給路は、前記第1,第2貯留部に貯留されたオイルをそれぞれ独立したルートで前記回転部材に供給する第1,第2供給路を有することを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の変速機のオイル供給装置において、前記変速機構の出力軸に設けられたリバースギヤの上方には、リバースシフト部材が配設され、該リバースシフト部材には、前記リバースギヤにより掻き揚げられたオイルを前記何れかの変速ギヤに案内するガイド部が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明に係るオイル供給装置によれば、変速機構の出力軸の上方に配置された貯留部材に、何れかの変速ギヤによる掻き揚げオイルを貯留部に通す開口を形成したので、低速走行時における必要なオイル貯留量を確保することができ、低速走行時におけるオイル攪拌抵抗によるメカロスを低減でき、燃費の改善を図ることができる。
【0010】
即ち、貯留部材を、出力軸の変速ギヤ,例えば1,2速ギヤの上方に配置し、該貯留部材に開口を設けたので、前記変速ギヤから掻き揚げられたオイルを確実に貯留部に導くことができる。そして前記1,2速ギヤは、リングギヤに比べて回転が高いことから、オイルの掻き揚げ量を増やすことができ、それに伴ってオイル貯留量を増加できる。
【0011】
請求項2の発明では、貯留部を、変速ギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第1貯留部と、これとは独立して設けられ、リングギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第2貯留部とを有するものとし、オイル供給路を、第1,第2貯留部に貯留されたオイルをそれぞれ独立したルートで回転部材に供給する第1,第2供給路を有するものとした。
【0012】
このように構成したので、同じ面積の貯留部材において貯留部の容積を大きくすることができ、広い運転域においてオイル貯留量を増加してオイル撹拌によるメカロスを低減できる。
【0013】
また低速時に多量に掻き揚げられるオイルと、高速時に多量に掻き揚げられるオイルとをそれぞれ運転域に応じて独立して回転部材に供給することができ、オイルの貯留及び回転部材へのオイル供給の確実性を高めることができる。例えば、何らかの理由により、一方の貯留部,供給路に詰まり等のトラブルが発生しても、他方の貯留部,供給路によりオイルを貯留し,供給することができる。
【0014】
請求項3の発明では、リバースシフト部材にリバースギヤにより掻き揚げられたオイルを何れかの変速ギヤに案内するガイド部を形成したので、リバースギヤより掻き揚げられたオイルを無駄にすることなく、変速ギヤを介して貯留部に貯留することができる。即ち、リバースギヤの上方にはリバースシフト部材が位置していることから、リバースギヤで掻き揚げられたオイルはリバースシフト部材により遮蔽され、そのまま貯留部に通すことは困難である。本発明では、リバーシフト部材のガイド部がオイルを変速ギヤに案内するので、該変速ギヤにより貯留部へのオイル量を増やすことができ、メカロスの向上及び燃費の改善をより確実に図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1による自動車の変速機の模式図である。
【図2】前記変速機の一部断面図(図3のII-II線断面図)である。
【図3】前記変速機の軸方向に見た側面図である。
【図4】前記変速機のオイル供給装置の構成図である。
【図5】前記オイル供給装置のオイルレシーバの平面図である。
【図6】前記オイルレシーバの断面図(図5のVI-VI線断面図)である。
【図7】前記オイルレシーバの断面図(図5のVII-VII線断面図)である。
【図8】前記オイルレシーバの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1ないし図8は、本発明の実施例1による変速機のオイル供給装置を説明するための図である。
【0018】
図において、1は自動車に搭載されるエンジンユニットを示している。このエンジンユニット1は、エンジン本体2と、該エンジン本体2に一体的に接続されたマニュアル式の変速機3とを備えている。
【0019】
この変速機3は、ミッションケース5内に収容され、エンジン動力を前進5段,後進1段の何れかの変速段に切り換えて出力する変速機構4と、前記ミッションケース5に接続されたデフケース7内に収容され、前記変速機構4からの出力を左,右の車輪9,9に伝達するデファレンシャル機構6とを備えている。
【0020】
このデファレンシャル機構6には、左,右の駆動軸8,8が連結されており、該左,右の駆動軸8に連結された車軸9a,9aに前記車輪9,9が取り付けられている。
【0021】
前記ミッションケース5には、前記変速機構4へのエンジン動力を遮断又は接続するクラッチ機構10が収容されたクラッチハウジング11が接続されている。このクラッチ機構10には、前記エンジン本体2のクランク軸2aが連結されている。
【0022】
前記変速機構4は、前記クラッチ機構10を介してエンジン動力が伝達されるインプット軸12と、該インプット軸12と平行に配置されたアウトプット軸13と、該アウトプット軸13と前記インプット軸12とに配置され、該インプット軸12の回転を所定の変速回転数でもって前記アウトプット軸13に伝達する前進5段,後進1段の変速ギヤ列とを有し、詳細には以下の構造となっている。
【0023】
前記アウトプット軸13のデファレンシャル機構6側端部には、出力ギヤ13gが一体に形成されており、該出力ギヤ13gには、前記デファレンシャル機構6のリングギヤ6aが噛合している。
【0024】
前記インプット軸12には、クラッチ機構10側から順に、1速ドライブギヤ12a,リバースドライブギヤ12b及び2速ドライブギヤ12cが一体に形成され、さらに3速ドライブギヤ12d,4速ドライブギヤ12e及び5速ドライブギヤ12fがそれぞれ回転自在に装着されている。
【0025】
一方、前記アウトプット軸13には、前記1速ドライブギヤ12aに噛合する1速ギヤ13a,前記リバースドライブギヤ12bにリバース中間ギヤ14を介在させて噛合するリバースギヤ13b,前記2速ドライブギヤ12cに噛合する2速ギヤ13cがそれぞれ回転自在に装着され、さらに前記3速ドライブギヤ12dに噛合する3速ギヤ13d,4速ドライブギヤ12eに噛合する4速ギヤ13e及び前記5速ドライブギヤ12fに噛合する5速ギヤ13fがそれぞれスプライン結合されている。
【0026】
前記インプット軸12の3速ドライブギヤ12dと4速ドライブギヤ12eとの間には、シンクロナイザリング16を介在させてスリーブ17が軸方向に移動可能に装着され、また前記インプット軸12の5速ドライブギヤ12fの外側には、シンクロナイザリング18を介在させてスリーブ19が軸方向に移動可能に装着されている。
【0027】
前記アウトプット軸13の1速ギヤ13aと2速ギヤ13cとの間には、シンクロナイザリング20を介在させて前記リバースギヤ13bが形成されたスリーブ21が軸方向に移動可能に装着されている。このリバースギヤ13b及び上記リバースドライブギヤ12bにリバース中間ギヤ14が軸方向移動して噛合することにより後進段に切り換わる。
【0028】
前記各スリーブ17,19及びリバースギヤ13bのスリーブ21には、それぞれ1速−2速,3速−4速,5速−リバース用シフトフォーク軸23〜25に装着されたシフトフォーク23a,24a及びリバースシフトフォーク(リバースシフト部材)25aが係合している。
【0029】
シフトレバー(不図示)に連結されたシフト・セレクト軸26のシフト動作により前記各シフトフォーク23a〜25aを介して前進5段,後退1段の何れかの変速段に切り換えるように構成されている。
【0030】
前記各シフトフォーク軸23〜25は、それぞれインプット軸12及びアウトプット軸13と平行に、かつ両軸12,13の間の上方に位置するよう配置されている。
【0031】
前記変速機3は、前記ミッションケース5及びデフケース7内に充填されたオイルaを変速機構4の回転部材、例えばインプット軸12の軸芯に形成されたオイル通路12g,各変速ギヤ12a〜12f,13a〜13fの歯合部,軸受部及びシンクロナイザリング16,18等に供給するオイル供給装置を構成するオイルレシーバ(貯留部材)30を備えている。
【0032】
このオイルレシーバ30は、樹脂製であり、底壁30aの外周縁に側壁30bを起立形成した大略皿形状をなしており、前記インプット軸12,アウトプット軸13及び各シフトフォーク軸23〜25の上方に、かつ各変速ギヤ12a〜12f,13a〜13fを大略覆うように配置されている。
【0033】
前記オイルレシーバ30は、後述する所定ギヤの回転により掻き揚げられたオイルを貯留する大略矩形状の貯留部30cと、該貯留部30cのオイルを前記インプット軸12のオイル通路12gに供給する大略樋状のオイル供給路30dとを有し、詳細には以下の構造を有する。
【0034】
前記貯留部30cは、前記アウトプット軸13の1速ギヤ13a及び2速ギヤ13cが回転することにより掻き揚げられたオイルbを貯留する第1貯留部Aと、該第1貯留部Aとは独立して設けられ、前記デファレンシャル機構6のリングギヤ6aが回転することにより掻き揚げられたオイルcを貯留する第2貯留部Bとを有する。
【0035】
前記オイルレシーバ30の前記リングギヤ6aに望む手前部分には、該リングギヤ6aによる掻き揚げオイルcを第2貯留部Bに通すオイル開口30eが前記側壁30bの一部を切り欠くことにより形成されている。
【0036】
前記オイルレシーバ30の底壁30aには、前記第2貯留部Bを、前記オイル開口30eから遠い部位B1と、前記オイル開口30eに近い部位B2とに仕切るリブ形状の仕切壁30fが立設されている。この仕切壁30fは、前記オイル開口30eから前記オイル供給路30dに向かって前記底壁30aを斜めに横切るように延びている。
【0037】
前記第2貯留部Bの遠い部位B1は、底壁30aを下方に大きく膨出形成してなる底の深い部位となっており、前記近い部位B2は深い部位B1より底が浅く形成されている。
【0038】
前記底の深い部位B1及び底の浅い部位B2の底壁30aには、それぞれ掻き揚げオイルを前記インプット軸12及びアウトプット軸13の各ギヤ,シンクロナイザリング等に滴下する複数のオイル孔30gが形成されている。
【0039】
前記第1貯留部Aは、前記オイル開口30eから遠い奥側の側壁30b′に沿って形成されている。詳細には、側壁30b′と、該側壁30b′に対向するよう形成された隔壁30hとにより断面略U字形の樋状をなしており、前記アウトプット軸13の軸芯方向に沿って延びている。
【0040】
前記オイル供給路30dは、前記第1,第2貯留部A,Bに貯留されたオイルをそれぞれ独立したルートで前記インプット軸12に供給する第1,第2供給路C,Dを有する。詳細には、横断面略U字形の樋状をなす通路を分離壁30iで第1,第2供給路C,Dに分離した構造を有し、その外端部は前記インプット軸12の外端部まで延びている。
【0041】
前記第1供給路Cは、前記第1貯留部Aに連通接続され、第2供給路Dは、前記第2貯留部Bの浅い部位B2に連通接続されている。
【0042】
前記オイル供給路30dの外端部30d′には、第1,第2供給路C,D共通のオイル供給部材31が接続されており、該オイル供給部材31の下流端部は前記インプット軸12のオイル通路12gに接続されている(図3参照)。
【0043】
このオイル供給部材31は、前記ミッションケース5の反クラッチ側に着脱可能に装着されたミッションカバー5aの底壁内面に接続され、該ミッションカバー5aとで前記オイル供給路30dとインプット軸12のオイル通路12gとを連通する連通路を形成している。
【0044】
前記オイルレシーバ30の底壁30aには、前記アウトプット軸13の1速ギヤ13a及び2速ギヤ13cが回転することにより掻き揚げたオイルb,bを前記第1貯留部Aに通す第1,第2開口30m.30nが形成されている。
【0045】
前記第1,第2開口30m,30nは、上方から見たとき、概ねインプット軸12の上方に位置し、かつアウトプット軸13の軸芯を通る垂直線より1,2速ギヤ13a,13cの回転方向下流側に変位するように形成されている。
【0046】
前記第1開口30mは、第2貯留部Bの深い部位B1の内側コーナー部に該部位B1とは独立して設けられ、側壁30bと縦壁30pとで囲むことにより上下方向に貫通する空間をなしている。
【0047】
前記第2開口30nは、前記深い部位B1の外側コーナー部に該部位B1とは独立して設けられ、隔壁30hと縦壁30qとで囲むことにより上下方向に貫通する空間をなしている。これにより深い部位B1は各縦壁30p,30qにより3つの部分に画成されている。
【0048】
前記オイルレシーバ30の底壁30aの下面には、リブ形状の堰部30rが下方に突出形成されている。この堰部30rは、前記2速ギヤ13cの略上方に位置し、かつ該2速ギヤ13cの回転方向に沿って延びており、奥側から手前側に近づくほど突出高さが徐々に小さくなるよう形成されている。また前記1速ギヤ13a側の底壁30aは、堰部30rに向かって下るように僅かに傾斜している。これにより、底壁30aに付着した掻き揚げオイルは、該底壁30aを伝って堰部30rに流れ、該堰部30rから2速ギヤ13c上に滴下される。
【0049】
前記シフトフォーク軸25に挿通支持されたリバースシフトフォーク25aのボス部25a′には、前記リバースギヤ13bにより掻き揚げられたオイルdを前記アウトプット軸13の2速ギヤ13cに案内するガイド部25bが一体に形成されている(図3,図4参照)。
【0050】
このガイド部25bは、これの先端部が前記2速ギヤ13cの上方に位置するよう斜め下方に延びている。そしてリバースギヤ13bにより掻き揚げられたオイルdは、その大部分がリバースシフトフォーク25aのボス部25a′及びアーム部25cに当たるとともに、その一部がガイド部25bを伝ってインプット軸12の2速ドライブギヤ12c上に滴下し、ここからアウトプット軸13の2速ギヤ13c上に戻され、該2速ギヤ13cにより撥ね上げられて掻き揚げオイルと共に前記第1開口30mを通って第1貯留部A及び第2貯留部Bの深い部位B1に貯留される。
【0051】
ここで、前記ガイド部25bは、リバースギヤ13bの掻き揚げオイルを1速ギヤ13a側に案内するよう反対側に設けてもよく、又は1速,2速ギヤ13a,13cの両方に案内するよう一対設けてもよい。
【0052】
また前記リバースシフトフォーク25aのアーム部25cのボス部25a′近傍部分には、下方に突出する凸部25dが形成されている(図5,図8参照)。この凸部25dは、アウトプット軸13のリバースギヤ13bの掻き揚げオイルをインプット軸12のリバースドライブギヤ12bに案内するものであり、該リバースドライブギヤ12bに滴下したオイルは、リバースギヤ13bにより再度掻き揚げられることとなる。
【0053】
本実施例変速機では、1速ギヤ13a,2速ギヤ13cはインプット軸12が回転している間は常時回転しており、1速,2速にシフトするとそれぞれ1速ギヤ13a,2速ギヤ13cの回転がアウトプット軸13に伝達され、デファレンシャル機構6を介して駆動輪9が駆動される。
【0054】
低速走行時には、主として、1速ギヤ13a,2速ギヤ13cの回転に伴って掻き揚げられたオイルaの一部が、第1,第2開口30m,30nを通って第1貯留部Aに貯留される。
【0055】
またリバースギヤ13bにより掻き揚げられたオイルdの一部は、ガイド部25bを伝って2速ギヤ13c上に滴下し、該2速ギヤ13cの回転により撥ね上げられて掻き揚げオイルと共に前記第1開口30mを通って第1貯留部Aに貯留される。
【0056】
そして第1貯留部Aに貯留されたオイルは、第1供給路Cからオイル供給部材31を介してインプット軸12のオイル通路12g内に供給され、ここから各軸受部,摺動部に供給され、これを潤滑する。
【0057】
一方、高速走行時には、主として、デファレンシャル機構6のリングギヤ6aの回転に伴って掻き揚げられた前記オイルcの一部が、オイル開口30eから第2貯留部Bに貯留される。この場合、低・中走行時ではオイルの大部分が浅い部位B2に貯留され、高速走行時では深い部位B1にも貯留される。この第2貯留部Bに貯留されたオイルは、第2供給路Dからオイル供給部材31を介してインプット軸12のオイル通路12g内に供給される。
【0058】
このように本実施例では、低速域から高速域の広い運転領域に渡ってオイルの大部分が第1,第2貯留部A,Bに貯留され、よってミッションケース5,デフケース7内のオイルaのオイルレベルが低下し、各ギヤによるオイルの撹拌抵抗が小さくなり、それだけメカロスを低減でき、燃費が改善される。ちなみに、通常速度で走行した場合のデフケース7内のオイルレベルは、停止時レベルに対して30mm程度低下した状態となる。
【0059】
また本実施例によれば、オイルレシーバ30を変速機構4のインプット軸12,アウトプット軸13の各変速ギヤ12a〜12f,13a〜13fの上方を覆うように配置し、該オイルレシーバ30に、前記アウトプット軸13に設けられた1,2速ギヤ13a,13cによる掻き揚げオイルbを第1貯留部Aに通す第1,第2開口30m,30nを形成した。
【0060】
このように構成したので、低速走行時においてオイル貯留量を十分に確保することができ、低速走行時におけるオイル攪拌抵抗によるメカロスを低減でき、燃費の改善を図ることができる。即ち、アウトプット軸13の1,2速ギヤ13a,13cは、リングギヤ6aに比べて回転数が高いことから、低速走行時においてもオイルの掻き揚げ量を増やすことができ、それに伴ってオイル貯留量を増やすことができる。
【0061】
本実施例では、オイルレシーバ30の貯留部30cを、1,2速ギヤ13a,13cによる掻き揚げオイルbを貯留する第1貯留部Aと、該第1貯留部Aとは独立して設けられ、デファレンシャル機構6のリングギヤ6aによる掻き揚げオイルcを貯留する第2貯留部Bとを有するものとし、さらにオイル供給路30dを、前記第1,第2貯留部A,Bに貯留されたオイルをそれぞれ独立したルートでインプット軸12に供給する第1,第2供給路C,Dを有するものとした。
【0062】
このように構成したので、同じ面積のオイルレシーバ30において貯留部の容積を大きくすることができ、広い運転域においてオイル貯留量を増加してオイル撹拌によるメカロスを低減できる。
【0063】
また、低速時に多量に掻き揚げられるオイルbと、高速時に多量に掻き揚げられるオイルcとをそれぞれ運転領域に応じて独立してインプット軸12に供給することができ、インプット軸12の潤滑部へのオイル供給の確実性を高めることができる。例えば、貯留部,供給路を1つのみ設けた場合は、何らかのトラブルが生じた場合、オイル貯留,オイル供給の確実性が低下する。しかし、本実施例では独立した2組の貯留部,供給路を設けたので、仮に一方にトラブルが生じても他方が機能するので、前記確実性を高めることができる。
【0064】
本実施例では、リバースギヤ13bの上方に配置されたリバースシフトフォーク25aに、前記リバースギヤ13bにより掻き揚げられたオイルdを2速ギヤ13cに案内するガイド部25bを形成したので、前記リバースギヤ13bにより掻き揚げられたオイルdを無駄にすることなく、2速ギヤ13cを介して第1貯留部Aに貯留することができ、第1貯留部Aへのオイル量を増やすことができ、メカロスの向上及び燃費の改善をより確実に図ることができる。即ち、リバースギヤ13cで掻き揚げられたオイルdは、リバースシフトフォーク25aにより遮蔽され易いことから第1貯留部Aに通すことが困難となる。本実施例では、リバースシフトフォーク25aのガイド部25bがオイルdを2速ギヤ13cに案内し、該2速ギヤ13cにより撥ね上げられたオイルを貯留部に貯留するので、リバースギヤ13cの掻き揚げオイルの無駄をなくすことができる。
【0065】
なお、前記実施例では、アウトプット軸13の1速,3速ギヤの掻き揚げオイルを通す第1,第2開口を形成したが、本発明では、何れか1つの開口を形成すれば良い。
【符号の説明】
【0066】
3 変速機
4 変速機構
6 デファレンシャル機構
6a リングギヤ
9 車輪
12 インプット軸(回転部材)
13 アウトプット軸(出力軸)
13a 1速ギヤ(変速ギヤ)
13b リバースギヤ(変速ギヤ)
13c 2速ギヤ(変速ギヤ)
25a リバースシフトフォーク(リバースシフト部材)
25b ガイド部
30 オイルレシーバ(貯留部材)
30c 貯留部
30d オイル供給路
30m,30n 開口
A 第1貯留部
B 第2貯留部
C 第1供給路
D 第2供給路
b〜d 掻き揚げオイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン動力を何れかの変速段に切り換えて出力する変速機構を備え、
ギヤの回転により掻き揚げられたオイルを貯留する貯留部と、該貯留部のオイルを前記変速機構の回転部材に供給するオイル供給路とを有する貯留部材を備えた変速機のオイル供給装置であって、
前記貯留部材は、前記変速機構の出力軸の上方に配置され、かつ該出力軸に設けられた何れかの変速ギヤによる掻き揚げオイルを前記貯留部に通す開口を有する
ことを特徴とする変速機のオイル供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機のオイル供給装置において、
前記変速機構からの出力を車輪に伝達するデファレンシャル機構を備え、
前記貯留部は、前記変速ギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第1貯留部と、
該第1貯留部とは独立して設けられ、前記デファレンシャル機構のリングギヤによる掻き揚げオイルを貯留する第2貯留部とを有し、
前記オイル供給路は、前記第1,第2貯留部に貯留されたオイルをそれぞれ独立したルートで前記回転部材に供給する第1,第2供給路を有する
ことを特徴とする変速機のオイル供給装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の変速機のオイル供給装置において、
前記変速機構の出力軸に設けられたリバースギヤの上方には、リバースシフト部材が配設され、
該リバースシフト部材には、前記リバースギヤにより掻き揚げられたオイルを前記何れかの変速ギヤに案内するガイド部が形成されている
ことを特徴とする変速機のオイル供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−92230(P2013−92230A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235789(P2011−235789)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】