説明

変速機の変速操作装置

【課題】構成が簡単で、かつ、コンパクトな変速機を提供する。
【解決手段】フォークシャフト25の正移動D時にシフトフォーク32を押動して正移動Dさせる押動体48を設ける。シフトフォーク32に貫通孔51を形成し、係合凹部52をフォークシャフト25に形成する。貫通孔51に嵌入され、係合凹部52に嵌脱可能とされる係合体54を設ける。フォークシャフト25が中立位置Cよりも正移動D側で移動するとき、係合体54の係合凹部52からの離脱を阻止するストッパ58を他のシフトフォーク31に形成する。フォークシャフト25が中立位置Cから逆移動Eし始めるとき、シフトフォーク32が変速機ケース2に当接してその逆移動Eが阻止されるようにする。この後のフォークシャフト25の逆移動Eに伴い係合凹部52の内面が係合凹部52内から係合体54を押し出して、フォークシャフト25がシフトフォーク32を擦り抜けるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークシャフトを、その軸方向で中立位置から正、逆移動させることにより、前、後進変速段が得られるようにした変速機の変速操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記変速機の変速操作装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、軸方向に移動可能となるよう変速機ケースに支持され、前、後進変速段用の複数のシフトフォークを支持するフォークシャフトが設けられている。そして、このフォークシャフトをその軸方向における中立位置から正移動させたとき、前進変速段が得られる一方、上記フォークシャフトを中立位置から逆移動させたとき、後進変速段が得られることとされている。
【0003】
より具体的には、上記フォークシャフトは、その軸心上に位置して上記変速機ケースに固定される固定軸と、この固定軸に外嵌されて、上記正、逆移動が可能とされるパイプ形状の可動軸とを備え、この可動軸に上記各シフトフォークが支持されている。また、これら各シフトフォークのうち、後進変速段用のリバースシフトフォークは上記可動軸に対し軸方向に相対移動可能とされており、これらリバースシフトフォークと可動軸とを互いに係脱可能に係合させる係合体(特許文献1における特に図3−6中、符号50のもの)が設けられている。
【0004】
そして、前進変速段を得ようとして、上記フォークシャフトの可動軸を正移動させたとき(図4でみて右方)には、上記固定軸の働きにより、上記可動軸とリバースシフトフォークとの上記係合体による係合が解除されて、上記可動軸が上記リバースシフトフォークを(図4でみて右方へ)擦り抜けることとされ、つまり「擦り抜け構造」が採用されている。
【0005】
このため、上記のように、前進変速段を得ようとして、上記フォークシャフトの可動軸を正移動させたとき、この可動軸と共に上記リバースシフトフォークが無用に正移動する、ということが防止される。よって、上記「擦り抜け構造」の採用により、上記リバースシフトフォークの無用な正移動が防止される分、このリバースシフトフォークの占有空間を小さくでき、これにより、変速機の大型化が防止されている。
【0006】
また、上記フォークシャフトにはスナップリング(特許文献1における特に図3−6中、符号48のもの)が取り付けられている。そして、後進変速段を得ようとして、上記フォークシャフトの可動軸を、上記正移動位置から中立位置を越えて逆移動させると、上記スナップリングが上記リバースシフトフォークを押動して逆移動させ、もって、後進変速段が得られるようになっている(特許文献1の図6)。
【0007】
また、上記フォークシャフトの可動軸が上記中立位置から逆移動するとき、上記固定軸の働きにより、上記係合体が上記可動軸とリバースシフトフォークとを結合してこれを保持する。このため、次に、上記可動軸を逆移動位置から中立位置にまで正移動させるとき、この正移動に上記リバースシフトフォークが連動し、このリバースシフトフォークは上記中立位置まで正移動させられ、元の位置に戻される。
【0008】
上記の場合、スナップリングは上記可動軸と共に正、逆移動する。このため、特に、正移動時のスナップリングが上記変速機ケースに接触しないよう、このスナップリングの移動軌跡分として、上記変速機ケース内に空間が確保されている(特許文献1の図3における符号45の引き出し線位置)。
【特許文献1】特開2005−195151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記従来の技術では、フォークシャフトの中立位置からの正、逆移動により前、後進変速段が得られるようにする場合に、上記「擦り抜け構造」の採用により変速機の大型化が防止されているが、これの達成のために上記フォークシャフトは、固定軸とこれに外嵌される可動軸とを備えた2重軸構造とされている。このため、変速機の部品点数が多くなって、その構成が複雑になりがちである。
【0010】
また、前記したように、後進変速段を得るためにフォークシャフトに取り付けたスナップリングの移動軌跡分として、変速機ケース内に空間が確保されているが、このために、この変速機ケースが大型になって、変速機のコンパクト化が阻害されるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、構成が簡単で、かつ、コンパクトな変速機を提供することである。
【0012】
請求項1の発明は、軸方向に移動可能となるよう変速機ケース2に支持され、複数のシフトフォーク30−33を支持するフォークシャフト25を設け、このフォークシャフト25をその軸方向における中立位置Cから正移動Dさせたとき、前進変速段が得られるようにする一方、上記フォークシャフト25を中立位置Cから逆移動Eさせたとき、後進変速段が得られるようにした変速機の変速操作装置において、
上記前進変速段用の一つのシフトフォーク32を上記フォークシャフト25に対し軸方向に移動可能となるよう支持させ、このフォークシャフト25に取り付けられ、このフォークシャフト25の正移動D時に上記シフトフォーク32を押動して正移動Dさせる押動体48を設け、上記フォークシャフト25に対する上記シフトフォーク32の被支持部35に貫通孔51を形成すると共に、この貫通孔51に向かって開口する係合凹部52を上記フォークシャフト25に形成し、上記貫通孔51にその軸方向に移動可能に嵌入されると共に、その軸方向の一端部55が上記係合凹部52に嵌脱可能に嵌入される係合体54を設け、上記フォークシャフト25が上記中立位置Cよりも正移動D側で移動するとき、上記係合体54の他端部56を摺接させてこの係合体54の上記係合凹部52からの離脱を阻止するストッパ58を他のシフトフォーク31に形成し、上記フォークシャフト25が中立位置Cから逆移動Eし始めるとき、上記シフトフォーク32が上記変速機ケース2に当接してその逆移動Eが阻止されるようにし、この後の上記フォークシャフト25の逆移動Eに伴い上記係合凹部52の内面がこの係合凹部52内から上記係合体54を押し出して、上記フォークシャフト25が上記シフトフォーク32を擦り抜けるようにしたことを特徴とする変速機の変速操作装置である。
【0013】
請求項2の発明は、上記フォークシャフト25の軸心24上で、上記変速機ケース2に支持孔28を形成し、この支持孔28に上記フォークシャフト25の端部を軸方向に摺動可能となるよう嵌入して支持させ、上記押動体48を上記フォークシャフト25の周方向の一部から径方向外方に突出する突出体49とし、上記フォークシャフト25が逆移動Eしたとき、上記突出体49を挿抜可能に挿入させる切り欠き60を上記支持孔28の開口縁部に形成したことを特徴とする請求項1に記載の変速機の変速操作装置である。
【0014】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明による効果は、次の如くである。
【0016】
請求項1の発明は、軸方向に移動可能となるよう変速機ケースに支持され、複数のシフトフォークを支持するフォークシャフトを設け、このフォークシャフトをその軸方向における中立位置から正移動させたとき、前進変速段が得られるようにする一方、上記フォークシャフトを中立位置から逆移動させたとき、後進変速段が得られるようにした変速機の変速操作装置において、
上記前進変速段用の一つのシフトフォークを上記フォークシャフトに対し軸方向に移動可能となるよう支持させ、このフォークシャフトに取り付けられ、このフォークシャフトの正移動時に上記シフトフォークを押動して正移動させる押動体を設け、上記フォークシャフトに対する上記シフトフォークの被支持部に貫通孔を形成すると共に、この貫通孔に向かって開口する係合凹部を上記フォークシャフトに形成し、上記貫通孔にその軸方向に移動可能に嵌入されると共に、その軸方向の一端部が上記係合凹部に嵌脱可能に嵌入される係合体を設け、上記フォークシャフトが上記中立位置よりも正移動側で移動するとき、上記係合体の他端部を摺接させてこの係合体の上記係合凹部からの離脱を阻止するストッパを他のシフトフォークに形成し、上記フォークシャフトが中立位置から逆移動し始めるとき、上記シフトフォークが上記変速機ケースに当接してその逆移動が阻止されるようにし、この後の上記フォークシャフトの逆移動に伴い上記係合凹部の内面がこの係合凹部内から上記係合体を押し出して、上記フォークシャフトが上記シフトフォークを擦り抜けるようにしている。
【0017】
このため、上記フォークシャフトを中立位置から正、逆移動して前、後進変速段を得るようにする場合に、上記したフォークシャフトの擦り抜けにより、上記シフトフォークの無用な移動を防止して変速機の大型化を防止しているが、これの達成のために、従来技術のように、上記フォークシャフトを2重軸構造にする、ということは不要である。しかも、前進変速段を得る際に、フォークシャフトとシフトフォークとの互いの結合を可能にする上記係合体のためのストッパとして、他のシフトフォークが利用されており、更に、後進変速段を得る際に、上記フォークシャフトの逆移動に連動しようとする上記シフトフォークの逆移動を阻止するストッパとして、変速機ケースが利用されている。
【0018】
よって、上記変速機の部品点数の増加が抑制されることから、この変速機の構成を簡単にできる。
【0019】
請求項2の発明は、上記フォークシャフトの軸心上で、上記変速機ケースに支持孔を形成し、この支持孔に上記フォークシャフトの端部を軸方向に摺動可能となるよう嵌入して支持させ、上記押動体を上記フォークシャフトの周方向の一部から径方向外方に突出する突出体とし、上記フォークシャフトが逆移動したとき、上記突出体を挿抜可能に挿入させる切り欠きを上記支持孔の開口縁部に形成している。
【0020】
このため、上記突出体の移動軌跡は上記切り欠き内に位置して、この切り欠き以外の上記支持孔の内周面により上記フォークシャフトの端部が支持されることとなる。よって、上記突出体の移動軌跡を確保するために、この突出体と変速機ケースとを上記フォークシャフトの軸方向で離間させる、ということは不要であり、この結果、変速機ケースの大型化が防止されて、変速機をよりコンパクトにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の変速機の変速操作装置に関し、構成が簡単で、かつ、コンパクトな変速機を提供する、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0022】
即ち、軸方向に移動可能となるよう変速機ケースに支持され、前、後進変速段用の複数のシフトフォークを支持するフォークシャフトが設けられる。変速操作力により、このフォークシャフトをその軸方向における中立位置から正移動させたとき、前進変速段が得られる一方、上記フォークシャフトを中立位置から逆移動させたとき、後進変速段が得られることとされている。
【0023】
上記前進変速段用の少なくとも一つのシフトフォークが上記フォークシャフトに対し軸方向に移動可能となるよう支持されている。このフォークシャフトに取り付けられ、このフォークシャフトの正移動時に上記シフトフォークを押動して正移動させる押動体が設けられる。上記フォークシャフトに対する上記シフトフォークの被支持部に貫通孔が形成されると共に、この貫通孔に向かって開口する係合凹部が上記フォークシャフトの外周面に形成される。上記貫通孔にその軸方向に移動可能に嵌入されると共に、その軸方向の一端部が上記係合凹部に嵌脱可能に嵌入される係合体が設けられる。
【0024】
上記フォークシャフトが上記中立位置よりも正移動側で移動するとき、上記係合体の他端部を摺接させてこの係合部の上記係合凹部からの離脱を阻止するストッパが前進変速段用の他のシフトフォークに形成される。上記フォークシャフトが中立位置から逆移動し始めるとき、上記シフトフォークが上記変速機ケースに当接してその逆移動が阻止される。この後の上記フォークシャフトの逆移動に伴い上記係合凹部の内面がこの係合凹部内から上記係合体を押し出して、上記フォークシャフトが上記シフトフォークを擦り抜けることとされている。
【実施例】
【0025】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0026】
図1において、符号1は、車両に搭載される変速機であり、これはエンジンの駆動力を変速して、駆動車輪に伝達可能とする。なお、下記する左右とは、図1に向かっての方向をいうものとする。
【0027】
上記変速機1は、その外殻を構成して車体に支持される変速機ケース2を備えている。この変速機ケース2内で、左右に延びる軸心3回りに回転可能となるよう変速軸4が上記変速機ケース2に軸受5により両端支持されている。
【0028】
上記変速軸4には、その軸心3回りに遊転可能となるよう第1−第5歯車8−12が支持されると共に、上記変速軸4と共に回転するリバース歯車13が支持されている。また、上記変速軸4と共に回転するよう複数のハブ14−16が支持されている。また、上記各歯車8−12と各ハブ14−16とのうち、所望の前進変速段を得る上で、目的の歯車とハブとを同期装置を介し係脱可能とさせるスリーブ18−20が設けられている。
【0029】
上記リバース歯車13は上記スリーブ18に一体的に形成されている。また、上記変速軸4の軸心3と平行な不図示の他の軸心を有するリバースアイドル軸が上記変速機ケース2に支持されている。そして、上記他の軸心回りに回転可能、かつ、その軸方向に移動可能となるようリバースアイドル歯車22が上記アイドル軸に支持されている。上記リバース歯車13に対する上記リバースアイドル歯車22の噛合により後進変速段が得られることとされている。
【0030】
運転者の手動による変速操作力の入力により、上記前、後進変速段のうち、所望の変速段が得られるようにする変速操作装置23が設けられている。以下、この変速操作装置23につき説明する。
【0031】
上記変速軸4の軸心3と平行な軸心24を有する単一本のフォークシャフト25が上記変速機ケース2に両端支持されている。上記フォークシャフト25の軸心24上で、このフォークシャフト25の各端部を嵌入させるよう上記変速機ケース2に左右一対の支持孔27,28が形成されている。上記フォークシャフト25が上記軸心24の軸方向に往復移動が可能となるよう、上記フォークシャフト25の各端部が上記各支持孔27,28に嵌入されて、変速機ケース2に支持されている。
【0032】
上記フォークシャフト25に支持され、上記各スリーブ18−20とリバースアイドル歯車22とに係合して全ての変速段に対応するシフトフォーク、即ち、第1、2速シフトフォーク30、第3、4速シフトフォーク31、第5速シフトフォーク32、およびリバースシフトフォーク33が設けられている。これら各シフトフォーク30−33は、それぞれ上記フォークシャフト25に外嵌されて支持される円筒形状の被支持部35と、これら被支持部35から延出して、上記各スリーブ18−20とリバースアイドル歯車22とに係合するシフトフォーク本体36と、上記各被支持部35に連結され、上記変速操作力の入力部である第1、2速ヘッド部38、第3、4速ヘッド部39、および共通ヘッド部40とを備えている。
【0033】
具体的には、上記第1、2速シフトフォーク30、第3、4速シフトフォーク31、および第5速シフトフォーク32の各被支持部35は、上記フォークシャフト25に軸方向に摺動可能に外嵌されている。一方、上記リバースシフトフォーク33の被支持部35は連結ピン42により上記フォークシャフト25に固定されている。
【0034】
上記第1、2速ヘッド部38は上記第1、2速シフトフォーク30の被支持部35に溶接により一体的に形成されている。また、上記第3、4速ヘッド部39は上記第3、4速シフトフォーク31の被支持部35に溶接により一体的に形成されている。上記共通ヘッド部40は上記リバースシフトフォーク33の被支持部35に一体形成され、上記第5速シフトフォーク32に兼用されている。上記第1、2速ヘッド部38、第3、4速ヘッド部39、および共通ヘッド部40は、一カ所に集合配置され、この順序で、上、中、下段となるよう互いに近接配置されている。
【0035】
なお、上記各シフトフォーク30−33は必ずしも分岐構造のものでなくてもよく、要するに、上記各ヘッド部38−40側と各歯車8−12,22側とを連動させるシフト部材であればよい。
【0036】
運転者からの変速操作力を上記各ヘッド部38−40に伝えるインナレバー44が設けられている。このインナレバー44は縦向きの軸心45の軸方向に移動A(セレクト動作)可能とされており、また、上記軸心45回り、かつ、上記軸心24に沿う方向で左右揺動B(シフト動作)可能とされている。そして、この移動Aと揺動Bとにより、このインナレバー44が上記各ヘッド部38−40に択一選択的に係合可能とされ(図例では、インナレバー44が共通ヘッド部40に係合)、かつ、このように係合されたシフトフォーク30−33が上記フォークシャフト25の軸方向に移動させられる。
【0037】
また、上記インナレバー44と共に上記軸心45の軸方向にのみ移動A可能とされ、この移動Aにより、上記インナレバー44が係合していない他のヘッド部38−40(図例では、第1、2速ヘッド部38、および第3、4速ヘッド部39)の全てに係合して、これら他のヘッド部38−40を有するシフトフォーク30−33が上記フォークシャフト25の軸方向に移動することを阻止する移動阻止体46が設けられている。
【0038】
図1中、実線で示すように、上記インナレバー44を左右揺動Bにおける中立位置に位置させた「中立状態」では、上記フォークシャフト25は、その軸方向における中立位置Cに位置し、上記各スリーブ18−20およびリバースアイドル歯車22は、第1−第5歯車8−12のいずれにも噛合しない「中立状態」とされる。
【0039】
上記「中立状態」から、上記インナレバー44を移動Aさせて上記第1、2速ヘッド部38に係合させ、この第1、2速ヘッド部38を有する第1、2速シフトフォーク30を左方(もしくは右方)に移動させると、この第1、2速シフトフォーク30に係合する上記スリーブ18により第1歯車8とハブ14(もしくは第2歯車9とハブ14)とが連結されて、前進変速段である第1−第5変速段のうち、第1変速段(もしくは第2変速段)が得られる。
【0040】
また、上記「中立状態」から、上記インナレバー44を移動させて上記第3、4速ヘッド部39に係合させ、この第3、4速ヘッド部39を有する第3、4速シフトフォーク31を左方(もしくは右方)に移動させると、この第3、4速シフトフォーク31に係合する上記スリーブ19により第3歯車10とハブ15(もしくは第4歯車11とハブ15)とが連結されて、第3変速段(もしくは第4変速段)が得られる。
【0041】
また、上記「中立状態」から、上記インナレバー44を移動Aさせて上記共通ヘッド部40に係合させ(図1)、この共通ヘッド部40を有する第5速シフトフォーク32とリバースシフトフォーク33とをフォークシャフト25の軸方向に移動させると、第5変速段もしくは後進変速段が得られる。これにつき、以下、詳しく説明する。
【0042】
図1−3において、上記フォークシャフト25は上記中立位置Cから左方である正移動Dと、右方である逆移動Eとが可能とされている。また、前進変速段用である第5速シフトフォーク32は、前記したようにフォークシャフト25に対し軸方向に移動可能となるよう支持されている。
【0043】
上記フォークシャフト25に取り付けられ、このフォークシャフト25の正移動D時に上記第5速シフトフォーク32を押動して、この第5速シフトフォーク32を上記フォークシャフト25と共に正移動Dさせる押動体48が設けられている。この押動体48は、上記フォークシャフト25の周方向の一部から径方向外方に突出する突出体49とされている。この突出体49は、具体的には、上記フォークシャフト25をその径方向に貫通して取り付けられる円形の軸体であり、この軸体の各端部が上記フォークシャフト25から径方向外方に突出している。
【0044】
上記フォークシャフト25に対する上記第5速シフトフォーク32の被支持部35に、上記フォークシャフト25の軸心24に直交する孔軸50を有する貫通孔51が形成されている。また、上記貫通孔51に向かって開口する係合凹部52が形成されている。上記貫通孔51は円形孔で、上記被支持部35の上部に形成され、その孔軸50は縦向きとされている。また、上記係合凹部52は、上記フォークシャフト25の外周面の上面に形成され、このフォークシャフト25の側面視(図1)で、V字形状の溝とされている。
【0045】
上記貫通孔51にその軸方向に移動可能に嵌入される係合体54が設けられている。この係合体54は全体として円形の軸形状をなし、その軸方向の一端部55と他端部56とはそれぞれ半球形状をなしている。そして、上記係合体54はその一端部55が上記係合凹部52に嵌脱可能に嵌入されている。
【0046】
図3において、上記フォークシャフト25が上記中立位置Cよりも左方の正移動D側で移動する時、上記係合体54の他端部56を摺接させて上記係合凹部52からの離脱を阻止するストッパ58が設けられている。このストッパ58は、上記第3、4速シフトフォーク31の第3、4速ヘッド部39に一体的に形成されている。
【0047】
前記変速操作力により、上記インナレバー44を共通ヘッド部40に係合させて揺動Bさせ、この共通ヘッド部40を有するリバースシフトフォーク33の被支持部35を左方に移動させる。すると、この被支持部35に連結されているフォークシャフト25が中立位置Cから正移動Dする。このため、このフォークシャフト25に取り付けられている押動体48が上記第5速シフトフォーク32の被支持部35を左方に押動して、この第5速シフトフォーク32が左方に移動させられる。すると、この第5速シフトフォーク32に係合する上記スリーブ20により第5歯車12とハブ16とが連結されて、第5変速段が得られる(図3)。
【0048】
また、上記第5変速段の状態から、上記インナレバー44を揺動Bさせ、共通ヘッド部40を右方に移動させる。すると、この共通ヘッド部40に連結されているフォークシャフト25が中立位置Cに向かって逆移動Eする。ここで、上記フォークシャフト25には、上記係合体54とストッパ58との働きにより、上記第5速シフトフォーク32が連結されている。このため、上記フォークシャフト25と共に第5速シフトフォーク32が中立位置Cに向かって逆移動Eさせられる。そして、上記フォークシャフト25と共に第5速シフトフォーク32が中立位置Cに到達すると、上記「中立状態」に戻り、上記係合体54の他端部56はストッパ58から解放される(図1)。
【0049】
図4において、上記フォークシャフト25が中立位置Cから逆移動Eをし始めようとするとき、上記第5速シフトフォーク32の被支持部35が上記変速機ケース2に当接して、その逆移動Eが阻止されるようになっている。また、この後に更に上記フォークシャフト25が逆移動Eすると、これに伴い上記係合凹部52の内面が、この係合凹部52内から上記係合体54を押し出すこととされている。これにより、上記フォークシャフト25と第5速シフトフォーク32との係合体54による連結が解除されて、上記フォークシャフト25は上記第5速シフトフォーク32の被支持部35を擦り抜けて逆移動Eすることとされる。
【0050】
上記フォークシャフト25が逆移動Eしたとき、上記突出体49を挿抜可能に挿入させる切り欠き60が上記第5速シフトフォーク32側のフォークシャフト25の端部を支持する支持孔28の開口縁部に形成されている。
【0051】
前記変速操作力により、上記インナレバー44を共通ヘッド部40に係合させて揺動Bさせ、この共通ヘッド部40を有するリバースシフトフォーク33の被支持部35を右方に移動させる。すると、この被支持部35に連結ピン42により連結されているフォークシャフト25が中立位置Cから逆移動Eする。この場合、上記第5速シフトフォーク32の逆移動Eは変速機ケース2により阻止され、上記フォークシャフト25は第5速シフトフォーク32を擦り抜けて逆移動Eする。すると、上記フォークシャフト25の逆移動Eに連動する上記リバースシフトフォーク33がリバースアイドル歯車22をリバース歯車13に噛合させ、後進変速段が得られる(図4)。また、この場合、上記切り欠き60に突出体49が挿入される。
【0052】
また、上記後進変速段の状態から、上記インナレバー44を揺動Bさせ、共通ヘッド部40を左方に移動させる。すると、この共通ヘッド部40に連結されているフォークシャフト25が中立位置Cに向かって正移動Dする。この場合、このフォークシャフト25と共に第5速シフトフォーク32が正移動Dすることは、上記係合凹部52から押し出されている係合体54の他端部56側が上記ストッパ58に当接することにより防止される。そして、上記フォークシャフト25を中立位置Cにまで正移動Dさせれば、上記係合体54はその自重により、その一端部55が係合凹部52に嵌入し、これにより、上記「中立状態」に戻る。
【0053】
このため、上記構成によれば、フォークシャフト25を中立位置Cから正、逆移動D,Eして前、後進変速段を得るようにする場合に、上記したフォークシャフト25の擦り抜けにより、上記第5速シフトフォーク32の無用な移動を防止して変速機1の大型化を防止しているが、これの達成のために、従来技術のように、上記フォークシャフト25を2重軸構造にする、ということは不要である。しかも、前進変速段を得る際に、フォークシャフト25と第5速シフトフォーク32との互いの結合を可能にする上記係合体54のためのストッパ58として、他の第3、4速シフトフォーク31が利用されており、かつ、後進変速段を得る際に、上記フォークシャフト25の逆移動Eに連動しようとする上記第5速シフトフォーク32の逆移動Eを阻止するストッパとして、変速機ケース2が利用されている。
【0054】
よって、上記変速機1の部品点数の増加が抑制されることから、この変速機1の構成を簡単にできる。
【0055】
また、前記したように、フォークシャフト25の軸心24上で、上記変速機ケース2に支持孔28を形成し、この支持孔28に上記フォークシャフト25の端部を軸方向に摺動可能となるよう嵌入して支持させ、上記押動体48を上記フォークシャフト25の周方向の一部から径方向外方に突出する突出体49とし、上記フォークシャフト25が逆移動Eしたとき、上記突出体49を挿抜可能に挿入させる切り欠き60を上記支持孔28の開口縁部に形成している。
【0056】
このため、上記突出体49の移動軌跡は上記切り欠き60内に位置して、この切り欠き60以外の上記支持孔28の内周面により上記フォークシャフト25の端部が支持されることとなる。よって、上記突出体49の移動軌跡を確保するために、この突出体49と変速機ケース2とを上記フォークシャフト25の軸方向で離間させる、ということは不要であり、この結果、変速機ケース2の大型化が防止されて、変速機1をよりコンパクトにできる。
【0057】
なお、以上は図示の例によるが、上記係合凹部52は平面視で有底の円形孔であってもよい。また、上記係合体54は球体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】変速操作装置の「中立状態」を示す正面図である。
【図2】図1の部分平面断面図である。
【図3】図1に相当する図で、第5変速段状態図である。
【図4】図1に相当する図で、後進変速段状態図である。
【符号の説明】
【0059】
1 変速機
2 変速機ケース
3 軸心
4 変速軸
23 変速操作装置
24 軸心
25 フォークシャフト
28 支持孔
30 第1、2速シフトフォーク
31 第3、4速シフトフォーク
32 第5速シフトフォーク
33 リバースシフトフォーク
35 被支持部
38 第1、2速ヘッド部
39 第3、4速ヘッド部
40 共通ヘッド部
48 押動体
49 突出体
50 孔軸
51 貫通孔
52 係合凹部
54 係合体
55 一端部
56 他端部
58 ストッパ
60 切り欠き
A 移動
B 揺動
C 中立位置
D 正移動
E 逆移動

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に移動可能となるよう変速機ケースに支持され、複数のシフトフォークを支持するフォークシャフトを設け、このフォークシャフトをその軸方向における中立位置から正移動させたとき、前進変速段が得られるようにする一方、上記フォークシャフトを中立位置から逆移動させたとき、後進変速段が得られるようにした変速機の変速操作装置において、
上記前進変速段用の一つのシフトフォークを上記フォークシャフトに対し軸方向に移動可能となるよう支持させ、このフォークシャフトに取り付けられ、このフォークシャフトの正移動時に上記シフトフォークを押動して正移動させる押動体を設け、上記フォークシャフトに対する上記シフトフォークの被支持部に貫通孔を形成すると共に、この貫通孔に向かって開口する係合凹部を上記フォークシャフトに形成し、上記貫通孔にその軸方向に移動可能に嵌入されると共に、その軸方向の一端部が上記係合凹部に嵌脱可能に嵌入される係合体を設け、上記フォークシャフトが上記中立位置よりも正移動側で移動するとき、上記係合体の他端部を摺接させてこの係合体の上記係合凹部からの離脱を阻止するストッパを他のシフトフォークに形成し、上記フォークシャフトが中立位置から逆移動し始めるとき、上記シフトフォークが上記変速機ケースに当接してその逆移動が阻止されるようにし、この後の上記フォークシャフトの逆移動に伴い上記係合凹部の内面がこの係合凹部内から上記係合体を押し出して、上記フォークシャフトが上記シフトフォークを擦り抜けるようにしたことを特徴とする変速機の変速操作装置。
【請求項2】
上記フォークシャフトの軸心上で、上記変速機ケースに支持孔を形成し、この支持孔に上記フォークシャフトの端部を軸方向に摺動可能となるよう嵌入して支持させ、上記押動体を上記フォークシャフトの周方向の一部から径方向外方に突出する突出体とし、上記フォークシャフトが逆移動したとき、上記突出体を挿抜可能に挿入させる切り欠きを上記支持孔の開口縁部に形成したことを特徴とする請求項1に記載の変速機の変速操作装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−232265(P2008−232265A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72584(P2007−72584)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】