説明

変速機の潤滑装置

【課題】車両の急加速走行時や急坂登坂路走行時においても、前方室内に所定量の潤滑油が貯えられるように構成して、前方室内での潤滑油不足を解消すること。
【解決手段】この変速機の潤滑装置では、ケーシング90内が縦壁91によって前方室Raと後方室Rbに区画されている。前方室Raには変速ギヤと潤滑油が収容され、後方室Rbに変速ギヤと潤滑油が収容されている。前方室Raの底部には、前端にて前方室Raの前方下部に連通し、後端にて連通孔91aに連通する導通路Paが設けられている。縦壁91の底部では、縦壁91の連通孔91aと導通路Paを通して前方室Ra内の潤滑油と後方室Rb内の潤滑油が流通可能であり、縦壁91の連通孔91a以外は前方室Ra内の潤滑油と後方室Rb内の潤滑油が流通不能である。導通路Pa上では、前方室Raの後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に適用される変速機の潤滑装置に関し、特に、変速機のケーシング内が縦壁によって前方室と後方室に区画されていて、前記前方室に変速ギヤと潤滑油(前記前方室内の変速ギヤにより掻き上げられて同変速ギヤの噛合部を少なくとも潤滑するもの)が収容されるとともに、前記後方室に変速ギヤと潤滑油(前記後方室内の変速ギヤにより掻き上げられて同変速ギヤの噛合部を少なくとも潤滑するもの)が収容されている変速機の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の変速機の潤滑装置は、例えば、下記特許文献1に記載されていて、前記縦壁の底部に形成した連通孔を通して、前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油が流通可能に構成されている。なお、特許文献1に記載されている変速機においては、アウトプットシャフトに回転可能に組付けられている変速ギヤの軸支部がオイルポンプから供給される潤滑油にて潤滑されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−294565号公報
【発明の概要】
【0004】
上記特許文献1に記載されている変速機においては、車両の急加速走行時や急坂登坂路走行時に、縦壁の底部に形成した連通孔を通して、前方室内の潤滑油が後方室内に流れて移動し、前方室内の潤滑油が不十分となることがある。
【0005】
本発明の目的は、車両の急加速走行時や急坂登坂路走行時においても、前方室内に所定量の潤滑油が貯えられるように構成して、前方室内での潤滑油不足を解消することにある。かかる目的を達成するために、本発明では、変速機のケーシング内が縦壁によって前方室と後方室に区画されていて、前記前方室に変速ギヤと潤滑油が収容されるとともに、前記後方室に変速ギヤと潤滑油が収容されており、前記縦壁の底部に形成した連通孔を通して前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油が流通可能に構成されている変速機の潤滑装置において、前記前方室の底部に、前端にて前記前方室の前方下部に連通し、後端にて前記連通孔に連通する導通路を設けて、前記縦壁の底部では、前記縦壁の前記連通孔と前記導通路を通して前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油を流通可能とし、かつ、前記縦壁の前記連通孔以外は前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油を流通不能として、前記導通路上にて前記前方室の後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能に構成した。
【0006】
本発明による変速機の潤滑装置では、前方室の底部に設けた導通路上にて、前方室の後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能に構成したため、車両の急加速走行時や急坂登坂路走行時においても、前方室内に所定量の潤滑油が貯えられる。このため、前方室内での潤滑油不足を解消することが可能である。なお、前方室内に貯えられる所定量の潤滑油は、前方室内の変速ギヤにより掻き上げられて、同変速ギヤの噛合部を少なくとも潤滑することが可能である。
【0007】
上記した本発明の実施に際して、前記導通路は、後端部にて前記縦壁に固定されるパイプによって構成されていることも可能である。この場合には、ケーシング自体に導通路を形成する場合に比して、安価に製作することが可能である。また、本発明の実施に際して、前記縦壁の上部に、前記後方室内の変速ギヤにより掻き上げられる潤滑油に一部を、前記後方室の上部から前記前方室の上部に還流させるための還流路が設けられていることも可能である。この場合には、ケーシング内の潤滑油を前方室と後方室間にて循環させることができて、潤滑油を循環させない場合に比して、特に、収容量が少ない室内の潤滑油の温度上昇を効果的に抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による変速機の潤滑装置の一実施形態を概略的に示した模式図である。
【図2】図1に示した装置を装備した車両が急坂登坂路走行しているときの作動説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による変速機の潤滑装置の一実施形態を概略的に示したものであり、図1に示した変速機100では、車両の前後方向に沿って延びるインプットシャフト10とアウトプットシャフト20が同軸的かつ相対回転可能に配置され、これらのシャフト10,20に対してカウンタシャフト30が平行に配置されている。また、これらのシャフト10,20,30を回転可能に支持するケーシング90が縦壁91を備えていて、この縦壁91によってケーシング90内が前方室Raと後方室Rbに区画されている。
【0010】
また、図1に示した変速機100では、インプットギヤ対Gi、第1速ギヤ対G1、第2速ギヤ対G2、第3速ギヤ対G3と、1−2変速機構C1、3−4変速機構C2が前方室Raに収容されるとともに、所要量の潤滑油Oaが前方室Raに収容されている。一方、第5速ギヤ対G5、リバースギヤ列Grと、5−R変速機構C3が後方室Rbに収容されるとともに、所要量の潤滑油Obが後方室Rbに収容されている。また、前方室Ra内の潤滑油Oaと後方室Rb内の潤滑油Obが、縦壁91の底部に形成した連通孔91aを通して、流通可能に構成されている。
【0011】
ところで、この実施形態においては、前方室Raの底部に導通路Paが設けられている。導通路Paは、後端部にて縦壁91の連通孔91aに液密的に嵌合固定されて略水平に配置されるパイプ92によって構成されていて、前端にて前方室Raの前方下部に連通し、後端にて連通孔91aに連通している。なお、上記したパイプ92の連通孔91aに対する液密的嵌合は、前方室Ra内の潤滑油Oaと後方室Rb内の潤滑油Obが流通しないようにするための構成ではあるが、導通路Pa上にて前方室Raの後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能であればよく、潤滑油の流通を完全に遮断しない構成(潤滑油の流通を制限する構成)でも実施可能である。
【0012】
このため、縦壁91の底部では、縦壁91の連通孔91aと導通路Pa(パイプ92)を通して前方室Ra内の潤滑油Oaと後方室Rb内の潤滑油Obが流通可能であり、かつ、縦壁91の連通孔91a以外は前方室Ra内の潤滑油Oaと後方室Rb内の潤滑油Obが流通不能であって、導通路Pa上にて前方室Raの後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能に構成されている。
【0013】
また、この実施形態においては、縦壁91の上部に還流路Pbが設けられている。還流路Pbは、中間部にて縦壁91に嵌合固定されて前方に向けて下降傾斜するように配置されるパイプ93によって構成されていて、前端にて前方室Raの後方上部に連通し、後部に形成した樋状のオイル受け部93aにて後方室Rb内の変速ギヤG5、Grにより掻き上げられる潤滑油に一部を回収可能である。かかる構成では、後方室Rb内の変速ギヤG5、Grにより掻き上げられる潤滑油に一部を、後方室Rbの上部から前方室Raの上部に還流させること(後方室Rb内の潤滑油の一部を前方室Ra内に戻すこと)が可能である。
【0014】
上記のように構成したこの実施形態では、前方室Raの底部に設けた導通路Pa上にて、前方室Raの後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能に構成したため、車両の急加速走行時や急坂登坂路走行時においても、図2にて車両が急坂登坂路走行しているときを誇張して例示したように、前方室Ra内に所定量の潤滑油Oa1が貯えられる。このため、前方室Ra内での潤滑油不足を解消することが可能である。なお、前方室Ra内に貯えられる所定量の潤滑油Oa1は、前方室Ra内の各変速ギヤ対Gi、G1、G2、G3により掻き上げられて、同変速ギヤ対Gi、G1、G2、G3の噛合部を少なくとも潤滑することが可能である。
【0015】
また、この実施形態では、導通路Paが、後端部にて縦壁91に嵌合固定されるパイプ92によって構成されている。このため、ケーシング90自体に導通路(Pa)を形成する場合に比して、安価に製作することが可能である。また、この実施形態では、縦壁91の上部に、後方室Rb内の変速ギヤG5、Grにより掻き上げられる潤滑油に一部を、後方室Rbの上部から前方室Raの上部に還流させるための還流路Pbが設けられている。このため、ケーシング90内の潤滑油を前方室Raと後方室Rb間にて循環させることができて、潤滑油を循環させない場合に比して、特に、収容量が少ない室内(この実施形態では、後方室Rb内)の潤滑油の温度上昇を効果的に抑えることが可能である。
【0016】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、導通路Paをパイプ92によって構成したが、ケーシング90自体に導通路を形成して実施することも可能である。また、上記実施形態では、パイプ92を縦壁91の連通孔91aに嵌合固定するように構成して実施したが、パイプ(92)を縦壁91の連通孔91aに一致させて縦壁91に接合固定するように構成して実施することも可能である。
【0017】
また、上記実施形態では、縦壁91の上部にパイプ93を設けて実施したが、これを無くして実施することも可能である。また、上記実施形態では、アウトプットシャフト20に回転可能に組付けられている各変速ギヤの軸支部の潤滑については説明を省略したが、上記特許文献1(特開平11−294565号公報)に記載されている変速機と同様に、オイルポンプから供給される潤滑油にて潤滑されるように構成して実施することも可能である。
【0018】
また、上記実施形態では、前進5速・後退1速の変速機に本発明を実施したが、本発明は、変速機のケーシング内が縦壁によって前方室と後方室に区画されていて、前記前方室に変速ギヤと潤滑油が収容されるとともに、前記後方室に変速ギヤと潤滑油が収容されており、前記縦壁の底部に形成した連通孔を通して前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油が流通可能に構成されている変速機であれば実施可能であり、例えば、前進6速・後退1速の変速機にも同様にまたは適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0019】
10…インプットシャフト、20…アウトプットシャフト、30…カウンタシャフト、90…ケーシング、91…縦壁、91a…連通孔、Ra…前方室、Rb…後方室、Pa…導通路(パイプ92)、Pb…還流路(パイプ93)、Gi…インプットギヤ対、G1…第1速ギヤ対、G2…第2速ギヤ対、G3…第3速ギヤ対と、G5…第5速ギヤ対、Gr…リバースギヤ列、C1…1−2変速機構、C2…3−4変速機構、C3…5−R変速機構、100…変速機、Oa…前方室内の潤滑油、Ob…後方室内の潤滑油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機のケーシング内が縦壁によって前方室と後方室に区画されていて、前記前方室に変速ギヤと潤滑油が収容されるとともに、前記後方室に変速ギヤと潤滑油が収容されており、前記縦壁の底部に形成した連通孔を通して前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油が流通可能に構成されている変速機の潤滑装置であって、
前記前方室の底部に、前端にて前記前方室の前方下部に連通し、後端にて前記連通孔に連通する導通路を設けて、
前記縦壁の底部では、前記縦壁の前記連通孔と前記導通路を通して前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油を流通可能とし、かつ、前記縦壁の前記連通孔以外は前記前方室内の潤滑油と前記後方室内の潤滑油を流通不能として、
前記導通路上にて前記前方室の後方下部に所定量の潤滑油を貯留可能に構成した変速機の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機の潤滑装置であって、
前記導通路は、後端部にて前記縦壁に固定されるパイプによって構成されている変速機の潤滑装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速機の潤滑装置であって、
前記縦壁の上部に、前記後方室内の変速ギヤにより掻き上げられる潤滑油に一部を、前記後方室の上部から前記前方室の上部に還流させるための還流路が設けられている変速機の潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−29128(P2013−29128A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164249(P2011−164249)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】