説明

変速機

【課題】変速機のギア抜けを防止する。
【解決手段】シフトフォークに固定されるアームシフタ53の係合部53aには、アームシフタ53の進行方向に対して傾斜する傾斜面53bが形成される。アームシフタ53の係合部53aには、チェンジレバーに連動するシフトアーム56の先端部56aが収容される。シフトアーム56を回動させることにより、アームシフタ53を作動させることができ、所望の変速歯車列を動力伝達状態に切り換えることが可能となる。このようにアームシフタ53を回動させたときには、アームシフタ53の傾斜面53bにシフトアーム56の先端部56aが接触した状態となる。これにより、アームシフタ53に抜け力が作用した場合であっても、この抜け力はアームシフタ53からシフトアーム56の軸方向に伝達されるため、シフトアーム56の回動を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変速歯車列のいずれかを動力伝達状態に切り換えて変速する変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機や平行軸式の自動変速機には、複数の駆動歯車を備える入力軸が設けられるとともに、複数の従動歯車を備える出力軸が設けられている。駆動歯車と従動歯車とは互いに噛み合って複数の変速歯車列を構成しており、これらの変速歯車列はシンクロメッシュ機構によって動力伝達状態に切り換えられている。シンクロメッシュ機構は、入力軸または出力軸に固定されるシンクロハブと、シンクロハブに噛み合うシンクロスリーブとを備えている。また、シンクロメッシュ機構に隣接する駆動歯車や従動歯車にはスプラインが設けられており、シンクロスリーブを軸方向に移動させてスプラインに噛み合わせることにより、所望の変速歯車列を動力伝達状態に切り換えることが可能となっている。
【0003】
このように、隣接する駆動歯車や従動歯車に向けてシンクロスリーブを移動させるため、シンクロスリーブはシフトフォークによって保持され、このシフトフォークはチェンジレバーに連動するシフトアームによって操作される。シフトフォークには凹部を備えたアームシフタが固定され、このアームシフタの凹部にはシフトアームの先端部が収容される。そして、チェンジレバーを操作してシフトアームを回動させることにより、シンクロスリーブを移動させてスプラインに噛み合わせることが可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−14117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載される変速機のように、シフトアームの先端部を収容するアームシフタの凹部には、アームシフタの移動方向に対して直交する接触面が形成されている。このため、シンクロスリーブに対してスプラインから離れる方向の外力が作用した場合には、この外力がシフトフォークおよびアームシフタを介してシフトアームに伝達され、シフトアームを回動させてしまうおそれがあった。このように、外力によってシフトアームが回動してしまった場合には、シンクロスリーブとスプラインとの噛み合いが解除され、いわゆるギア抜けが発生することになっていた。
【0005】
本発明の目的は、ギア抜けを防止することが可能な変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の変速機は、複数の歯車を備える入力軸と、前記歯車に噛み合って複数の変速歯車列を形成する複数の歯車を備える出力軸とを有し、前記変速歯車列のいずれかを動力伝達状態に切り換えて変速する変速機であって、前記入力軸または前記出力軸に設けられ、前記変速歯車列を動力伝達状態に切り換える締結位置と、前記変速歯車列を動力切断状態に切り換える中立位置とに移動するスリーブ部材と、前記スリーブ部材を保持するシフトフォークに固定され、凹状の係合部を備える操作力伝達部材と、前記係合部に収容される先端部を備え、前記スリーブ部材の締結位置に対応する位置と、前記スリーブ部材の中立位置に対応する位置とに回動するシフトアームとを有し、前記操作力伝達部材の移動方向に対して傾斜する傾斜面を前記係合部に形成し、前記シフトアームを回動させて前記スリーブ部材を締結位置に移動させたときに、前記シフトアームの先端部と前記操作力伝達部材の傾斜面とを接触させることを特徴とする。
【0007】
本発明の変速機は、前記シフトアームの先端部には、回動する前記シフトアームの移動軌跡の接線方向に対して傾斜する傾斜面が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、操作力伝達部材の移動方向に対して傾斜する傾斜面を係合部に形成し、シフトアームを回動させてスリーブ部材を締結位置に移動させたときに、シフトアームの先端部と操作力伝達部材の傾斜面とを接触させるようにしたので、操作力伝達部材からシフトアームに力が作用する場合であっても、シフトアームの回動を防止することが可能となる。これにより、ギア抜けを防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態である変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、変速機10は、入力軸11とこれに平行となる出力軸12とを備えている。入力軸11には入力クラッチ13を介してエンジン14が連結され、出力軸12にはデファレンシャル機構15を介して図示しない駆動輪が連結されている。
【0010】
入力軸11には複数の駆動歯車(歯車)21a〜26aが固定されており、出力軸12には複数の従動歯車(歯車)21b〜26bが回転自在に設けられている。駆動歯車21aとこれに噛み合う従動歯車21bとによって第1速の変速歯車列21が構成され、駆動歯車22aとこれに噛み合う従動歯車22bとによって第2速の変速歯車列22が構成されている。また、駆動歯車23aとこれに噛み合う従動歯車23bとによって第3速の変速歯車列23が構成され、駆動歯車24aとこれに噛み合う従動歯車24bとによって第4速の変速歯車列24が構成されている。さらに、駆動歯車25aとこれに噛み合う従動歯車25bとによって第5速の変速歯車列25が構成され、駆動歯車26aとこれに噛み合う従動歯車26bとによってエクストラローの変速歯車列26が構成されている。
【0011】
出力軸12には、シンクロメッシュ機構からなる4つの切換機構31〜34が設けられている。切換機構31を用いて第1速または第2速の変速歯車列21,22を動力伝達状態に切り換えることができ、切換機構32を用いて第3速または第4速の変速歯車列23,24を動力伝達状態に切り換えることができる。また、切換機構33を用いて第5速の変速歯車列25を動力伝達状態に切り換えることができ、切換機構34を用いてエクストラローの変速歯車列26を動力伝達状態に切り換えることができる。
【0012】
切換機構31は、従動歯車21b,22bの間に配置されるとともに出力軸12に固定されるシンクロハブ31aと、これに噛み合うシンクロスリーブ31bとを有している。また、従動歯車21bにはスプライン21cが固定されており、従動歯車22bにはスプライン22cが固定されている。そして、シンクロスリーブ31bを従動歯車21b側の締結位置に移動させ、シンクロスリーブ31bとスプライン21cとを噛み合わせることにより、第1速の変速歯車列21が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、第1速の変速歯車列21を介してエンジン動力が伝達されることになる。一方、シンクロスリーブ31bを従動歯車22b側の締結位置に移動させ、シンクロスリーブ31bとスプライン22cとを噛み合わせることにより、第2速の変速歯車列22が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、第2速の変速歯車列22を介してエンジン動力が伝達されることになる。なお、シンクロスリーブ31bをいずれのスプライン21c,22cにも噛み合わない中立位置に移動させることにより、第1速と第2速の変速歯車列21,22はエンジン動力を伝達しない動力切断状態に切り換えられることになる。
【0013】
同様に、切換機構32は、従動歯車23b,24bの間に配置されるとともに出力軸12に固定されるシンクロハブ32aと、これに噛み合うシンクロスリーブ32bとを有している。また、従動歯車23bにはスプライン23cが固定されており、従動歯車24bにはスプライン24cが固定されている。そして、シンクロスリーブ32bを従動歯車23b側の締結位置に移動させ、シンクロスリーブ32bとスプライン23cとを噛み合わせることにより、第3速の変速歯車列23が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、第3速の変速歯車列23を介してエンジン動力が伝達されることになる。一方、シンクロスリーブ32bを従動歯車24b側の締結位置に移動させ、シンクロスリーブ32bとスプライン24cとを噛み合わせることにより、第4速の変速歯車列24が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、第4速の変速歯車列24を介してエンジン動力が伝達されることになる。なお、シンクロスリーブ32bをいずれのスプライン23c,24cにも噛み合わない中立位置に移動させることにより、第3速と第4速の変速歯車列23,24はエンジン動力を伝達しない動力切断状態に切り換えられることになる。
【0014】
同様に、切換機構33は、従動歯車25bに隣接するとともに出力軸12に固定されるシンクロハブ33aと、これに噛み合うシンクロスリーブ33bとを有している。また、従動歯車25bにはスプライン25cが固定されている。そして、シンクロスリーブ33bを従動歯車25b側の締結位置に移動させ、シンクロスリーブ33bとスプライン25cとを噛み合わせることにより、第5速の変速歯車列25が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、第5速の変速歯車列25を介してエンジン動力が伝達されることになる。なお、シンクロスリーブ33bをスプライン25cに噛み合わない中立位置に移動させることにより、第5速の変速歯車列25はエンジン動力を伝達しない動力切断状態に切り換えられることになる。
【0015】
切換機構34は、従動歯車26bに固定されるシンクロハブ34aと、これに噛み合うシンクロスリーブ34bとを有している。また、出力軸12にはスプライン26cが固定されている。そして、シンクロスリーブ34bを従動歯車26bから離れる締結位置に移動させ、シンクロスリーブ34bとスプライン26cとを噛み合わせることにより、エクストラローの変速歯車列26が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、エクストラローの変速歯車列26を介してエンジン動力が伝達されることになる。なお、シンクロスリーブ34bをスプライン26cに噛み合わない中立位置に移動させることにより、エクストラローの変速歯車列26はエンジン動力を伝達しない動力切断状態に切り換えられることになる。
【0016】
また、切換機構33のシンクロスリーブ(スリーブ部材)33bには後退用の従動歯車(歯車)27bが固定されている。さらに、入力軸11と出力軸12とに対して平行にアイドラ軸40が設けられており、このアイドラ軸40には後退用の複合歯車28が回転自在に設けられている。この複合歯車28は、駆動歯車26aに噛み合う伝達歯車28aと、従動歯車27bに噛み合う伝達歯車28bとを有している。したがって、切換機構33のシンクロスリーブ33bを伝達歯車28b側の締結位置に移動させ、伝達歯車28bと従動歯車27bとを噛み合わせることにより、駆動歯車26a、伝達歯車28a,28b、従動歯車27bからなる後退用の変速歯車列27が動力伝達状態に切り換えられる。これにより、入力軸11から出力軸12には、後退用の変速歯車列27を介して逆転されたエンジン動力が伝達されることになる。なお、シンクロスリーブ33bを伝達歯車28bと従動歯車27bとの噛み合いを解放する中立位置に移動させることにより、後退用の変速歯車列27は動力を伝達しない動力切断状態に切り換えられることになる。
【0017】
これら切換機構31〜34のシンクロスリーブ31b〜34bを移動させるため、それぞれのシンクロスリーブ31b〜34bにはシフトフォーク41〜44が組み付けられている。これらのシフトフォーク41〜44は、操作ユニット45を介して図示しないチェンジレバーに連結されており、乗員のチェンジレバー操作によって所望の変速歯車列21〜27を動力伝達状態に切り換えることが可能となっている。ここで、図2は変速機10が備える操作ユニット45を示す平面図である。また、図3は操作ユニット45を部分的に分解して示す分解斜視図であり、図4は図2の矢印A方向から操作ユニット45を部分的に示す側面図である。
【0018】
図2および図3に示すように、各シフトフォーク41〜44を作動させるため、操作ユニット45には3本のフォークロッド46〜48が設けられている。フォークロッド46には、切換機構31を操作するシフトフォーク41が固定されており、切換機構32を操作するシフトフォーク42が軸方向に移動自在に設けられている。シフトフォーク41,42にはそれぞれ凹状の係合部51a,52aを備えるアームシフタ51,52が固定されている。また、フォークロッド47には切換機構33を操作するシフトフォーク43が固定されており、フォークロッド48には切換機構34を操作するシフトフォーク44が固定されている。シフトフォーク43が固定されるフォークロッド47には凹状の係合部53aを備える操作力伝達部材としてのアームシフタ53が固定されており、シフトフォーク44が固定されるフォークロッド48には凹状の係合部54aを備えるアームシフタ53が固定されている。
【0019】
図2および図4に示すように、各アームシフタ51〜54の係合部51a〜54aは、互いに重なるように設置されている。また、各アームシフタ51〜54の係合部51a〜54aには、シフトユニット55が備えるシフトアーム56の先端部56aが収容されている。さらに、シフトユニット55にはシフトレバー57およびセレクトレバー58が設けられており、これらのシフトレバー57やセレクトレバー58は図示しないケーブル等を介してチェンジレバーに連結されている。乗員がチェンジレバーをセレクト操作することにより、セレクトレバー58が回動してシフトアーム56を上下方向に移動させることができ、シフトアーム56の操作対象となるアームシフタ51〜54を選択することが可能となる。そして、乗員がチェンジレバーをシフト操作することにより、シフトレバー57が回動してシフトアーム56を左右に回動させることが可能となる。これにより、アームシフタ51〜54およびシフトフォーク41〜44を介してシンクロスリーブ31b〜34bを移動させることができ、所望の変速歯車列21〜27を動力伝達状態に切り換えることが可能となっている。
【0020】
ここで、図5(A)〜(E)はシフトアーム56によるアームシフタ51〜54の操作状況を示す説明図である。なお、図5においては図2のB−B線に沿ってシフトアーム56およびアームシフタ51〜54が示されている。図5(A)に示すように、乗員によってチェンジレバーが操作されていない状況では、シフトアーム56が左右に回動することはなく、全てのアームシフタ51〜54は中立位置に保持された状態となる。これにより、全ての変速歯車列21〜27は動力切断状態に保持されることになる。また、図5(B)に示すように、チェンジレバー操作によってエクストラローが選択された場合には、シフトアーム56がアームシフタ54の係合部54aの内側に移動した後に、シフトアーム56がシンクロスリーブ34bの締結位置に対応する位置まで回動する。また、図5(C)に示すように、チェンジレバー操作によって第1速が選択された場合には、シフトアーム56がアームシフタ51の係合部51aの内側に移動した後に、シフトアーム56がシンクロスリーブ31bの締結位置に対応する位置まで回動する。なお、チェンジレバー操作によって第2速が選択された場合には、図示する方向と逆向きにシフトアーム56が回動される。また、図5(D)に示すように、チェンジレバー操作によって第3速が選択された場合には、シフトアーム56がアームシフタ52の係合部52aの内側に移動した後に、シフトアーム56がシンクロスリーブ32bの締結位置に対応する位置まで回動する。なお、チェンジレバー操作によって第4速が選択された場合には、図示する方向と逆向きにシフトアーム56が回動される。また、図5(E)に示すように、チェンジレバー操作によって第5速が選択された場合には、シフトアーム56がアームシフタ53の係合部53aの内側に移動した後に、シフトアーム56がシンクロスリーブ33bの締結位置に対応する位置まで回動する。なお、チェンジレバー操作によって後退が選択された場合には、図示する方向と逆向きにシフトアーム56が回動される。
【0021】
なお、シフトユニット55には、シフトアーム56の先端部56aを上下方向から挟み込むインタロックプレート59が設けられている。このインタロックプレート59を設けることにより、シフトアーム56によって選択されなかったアームシフタ51〜54の係合部51a〜54aには、アームシフタ51〜54の動作を禁止するインタロックプレート59が収容されるため、2つ以上の変速歯車列21〜27が同時に動力伝達状態に切り換えられることはない。
【0022】
ところで、図1に示すように、切換機構33のシンクロスリーブ33bには後退用の従動歯車27bが固定されている。ここで、後退用の変速歯車列27におけるギア反力の関係から、エンジン側からトルクが伝達されるドライブ時にはシンクロスリーブ33bにギア入り方向の力が作用する一方、車輪側からトルクが伝達されるコースト時にはシンクロスリーブ33bにギア抜け方向の力が作用することになる。例えば、変速歯車列27を動力伝達状態に切り換えて急勾配の坂道を後退させる際には、アクセルペダルを踏み込まずに車両を後退させることも想定されるが、このようなコースト状態においてはシンクロスリーブ33bに抜け力が作用することから、シンクロスリーブ33bが中立位置に向けて移動するおそれがあった。このように、抜け力によってシンクロスリーブ33bが中立位置に移動してしまった場合には、後退用の変速歯車列27が動力切断状態に切り換えられるため、後退走行中にいわゆるギア抜けを発生させてしまうことになる。このようなギア抜けの発生は車両品質を低下させる要因となっていた。
【0023】
そこで、本発明の変速機10に組み込まれる操作ユニット45には、ギア抜けを防止するための構造が採用されている。以下、操作ユニット45が備えるギア抜け防止構造について説明する。ここで、図6はアームシフタ53の係合部53aとシフトアーム56の先端部56aとを示す拡大図であり、図6にはシンクロスリーブ33bを中立位置まで移動させたときの状態が示されている。また、図7(A)〜(D)はアームシフタ53およびシフトアーム56の作動状態を示す説明図である。さらに、図8はアームシフタ53の係合部53aとシフトアーム56の先端部56aとを示す拡大図であり、図8にはシンクロスリーブ33bを締結位置まで移動させたときの状態が示されている。
【0024】
まず、図6に示すように、アームシフタ53の係合部53aには、アームシフタ53の移動方向に対して傾斜する傾斜面53bが形成されている。これにより、図7(A)〜(D)の順に示すように、後退用の変速歯車列27を動力伝達状態に切り換えるため、シンクロスリーブ33bの締結位置に対応する位置までシフトアーム56を回動させたときには、シフトアーム56の先端部56aがアームシフタ53の傾斜面53bに接触するようになっている。このように、シフトアーム56の先端部56aとアームシフタ53の傾斜面53bとを接触させるようにしたので、図8に示すように、アームシフタ53からシフトアーム56に対して抜け力が作用する場合であっても、この抜け力はシフトアーム56の軸方向に伝達されるため、抜け力によるシフトアーム56の回動を防止することが可能となる。これにより、急勾配の坂道を後退させる場合であっても、ギア抜けを防止することができるため、車両品質を向上させることが可能となる。しかも、アームシフタ53の係合部53aに傾斜面53bを形成するという極めて簡単な構成によってギア抜けを防止することができるため、ギア抜け防止機能を備えた変速機10の高コスト化や大型化を回避することが可能となる。なお、アームシフタ53からの抜け力をシフトアーム56の軸方向に伝達するため、アームシフタ53に形成される傾斜面53bの傾斜角αは45°以下であることが好ましい。
【0025】
また、図6に示すように、シフトアーム56の先端部56aには、シフトアーム56の移動軌跡の接線方向に対して傾斜する傾斜面56bが形成されている。これにより、図8に示すように、アームシフタ53に傾斜面53bを形成した場合であっても、回動するシフトアーム56とこれに押し込まれるアームシフタ53との間に所定のクリアランスを設けることができ、シフトアーム56を滑らかに回動させることが可能となる。すなわち、シフトアーム56の先端部56aに傾斜面56bを形成しない場合には、所定の回動角までシフトアーム56を回動させたときに、シフトアーム56と先端部56aとアームシフタ53の傾斜面53bとが面で密着してしまうため、シフトアーム56の回動運動を阻害する要因となるが、先端部56aに傾斜面56bを形成することにより、この問題を解消することができるのである。
【0026】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。たとえば、前述の説明では、後退用の変速歯車列27を切り換えるアームシフタ53に対して傾斜面53bを形成しているが、これに限られることはなく、他の変速歯車列21〜26を切り換えるアームシフタ51〜54に対して傾斜面を形成しても良い。また、前述の説明では、乗員のチェンジレバー操作によって直接的に切換機構31〜34を操作する手動変速機に対して本発明を適用しているが、これに限られることはなく、アクチュエータによって切換機構31〜34を操作する平行軸式の自動変速機に対して本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施の形態である変速機を示すスケルトン図である。
【図2】変速機が備える操作ユニットを示す平面図である。
【図3】操作ユニットを部分的に分解して示す分解斜視図である。
【図4】図2の矢印A方向から操作ユニットを部分的に示す側面図である。
【図5】(A)〜(E)はシフトアームによるアームシフタの操作状況を示す説明図である。
【図6】アームシフタの係合部とシフトアームの先端部とを示す拡大図である。
【図7】(A)〜(D)はアームシフタおよびシフトアームの作動状態を示す説明図である。
【図8】アームシフタの係合部とシフトアームの先端部とを示す拡大図である。
【符号の説明】
【0028】
10 変速機
11 入力軸
12 出力軸
21〜27 変速歯車列
21a〜26a 駆動歯車(歯車)
21b〜27b 従動歯車(歯車)
33b シンクロスリーブ(スリーブ部材)
53 アームシフタ(操作力伝達部材)
53a 係合部
53b 傾斜面
56 シフトアーム
56a 先端部
56b 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の歯車を備える入力軸と、前記歯車に噛み合って複数の変速歯車列を形成する複数の歯車を備える出力軸とを有し、前記変速歯車列のいずれかを動力伝達状態に切り換えて変速する変速機であって、
前記入力軸または前記出力軸に設けられ、前記変速歯車列を動力伝達状態に切り換える締結位置と、前記変速歯車列を動力切断状態に切り換える中立位置とに移動するスリーブ部材と、
前記スリーブ部材を保持するシフトフォークに固定され、凹状の係合部を備える操作力伝達部材と、
前記係合部に収容される先端部を備え、前記スリーブ部材の締結位置に対応する位置と、前記スリーブ部材の中立位置に対応する位置とに回動するシフトアームとを有し、
前記操作力伝達部材の移動方向に対して傾斜する傾斜面を前記係合部に形成し、前記シフトアームを回動させて前記スリーブ部材を締結位置に移動させたときに、前記シフトアームの先端部と前記操作力伝達部材の傾斜面とを接触させることを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1記載の変速機において、
前記シフトアームの先端部には、回動する前記シフトアームの移動軌跡の接線方向に対して傾斜する傾斜面が形成されることを特徴とする変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−107011(P2010−107011A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282065(P2008−282065)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】