説明

変速装置

【課題】変速操作によりチェーンがテンションプーリから外れた場合にも、外れたチェーンがテンションプーリとの係合状態に復帰するのを容易にして、変速スプロケットが停止している場合を含む変速スプロケットが正回転していない回転状態においても変速操作が可能な変速装置を提供する。
【解決手段】変速装置のディレイラは、テンションプーリを支持すると共に変速操作により軸方向に移動するアームを備える。アームには、テンションプーリの軌道面から外れたチェーンCの離脱部C12,C14をテンションプーリに係合させる係合復帰案内部110 ,130 が設けられる。係合復帰案内部110 ,130 は、離脱部C12,C14全体をテンションプーリの回転軌跡よりも径方向で外方に位置させると共に、離脱部C12,C14がチェーンの張力により軌道面に向けて移動した後にテンションプーリと係合するように案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の変速スプロケットの間でチェーンを掛け換えることにより変速が行われるチェーン式の変速装置に関し、該変速装置は例えば自転車に備えられる。
【背景技術】
【0002】
この種の変速装置として、例えば特許文献1に開示された自転車用の変速装置は、クランク軸に一方向クラッチを介して駆動連結される駆動スプロケットと、後輪を駆動する出力軸に結合される複数の変速スプロケットからなるスプロケット群と、駆動スプロケットと変速スプロケットに巻き掛けられるチェーンと、変速切換機構とを備える。変速切換機構は、選択された変速スプロケットにチェーンを案内するガイドプーリを回転可能に支持するディレイラアームと、チェーンに張力を付与するテンションプーリを回転可能に支持するアームとを備え、ガイドプーリおよびテンションプーリがディレイラ軸の中心軸線方向に移動することにより、スプロケット群の中でチェーンが掛け換えられて変速が行われる。
【特許文献1】特開2004−155280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、運転者が降車した状態での自転車の後進時や自転車の停車時などにも変速操作を可能として、クランク軸の正回転により速やかに所望の変速が実行されることは、自転車のいかなる走行状態でも変速操作が可能になることから、自転車の運転性能の向上に寄与するものである。特に、時間を競う自転車レースなどでは、変速操作が可能な機会を増やすことがレース成績の向上につながる。
【0004】
しかしながら、自転車の停車時などで、変速スプロケットの停止時に変速操作が行われて、ガイドプーリおよびテンションプーリが中心軸線方向(以下、「軸方向」という。)に移動すると、テンションプーリでのチェーンの巻入れ側では、チェーンの巻掛け部がテンションプーリと共に軸方向へ移動するのに対して、駆動スプロケットでのチェーンの巻掛け部は軸方向に殆ど移動せず、しかもチェーンが停止状態にあることから、テンションプーリの巻入れ側でテンションプーリからチェーンが外れることがあった。このような状態でクランク軸が正回転させられて駆動スプロケットおよび変速スプロケットが正回転すると、チェーンのこの外れた部分である離脱部が、テンションプーリとアームとの間に噛み込まれたり、テンションプーリの側方でテンションプーリの最外周端よりも径方向内方に位置するなどして、離脱部がテンションプーリに再度係合することが困難になる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1〜4記載の発明は、変速操作によりチェーンがテンションプーリから外れた場合にも、外れたチェーンがテンションプーリとの係合状態に復帰するのを容易にして、変速スプロケットが停止している場合を含む変速スプロケットが正回転していない回転状態においても変速操作が可能な変速装置を提供することを目的とする。そして、請求項2記載の発明は、さらに、アームの剛性を高めると共に、離脱部のテンションプーリへの係合状態への復帰の確実性を向上させることを目的とし、請求項3記載の発明は、さらに、離脱部のテンションプーリへの係合状態への復帰の確実性を向上させると共に、アームの軽量化を図ることを目的とし、請求項4記載の発明は、さらに、変速操作を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、軸方向に配列された複数の変速スプロケットと、変速操作に応じて前記複数の変速スプロケットの間でチェーンを掛け換える掛換え機構とを備え、前記掛換え機構には、前記チェーンに張力を付与するテンションプーリを回転可能に支持するアームが備えられ、変速操作により前記アームが軸方向に移動する変速装置において、前記アームには、前記テンションプーリにおける前記チェーンの巻入れ側に、前記テンションプーリの軌道面から外れた前記チェーンの離脱部を前記テンションプーリに係合させる係合復帰案内部が設けられ、前記係合復帰案内部は、前記離脱部全体を前記テンションプーリの最外周端の回転軌跡よりも径方向で外方に位置させると共に、前記離脱部が前記チェーンの張力により前記軌道面に向けて移動した後に前記テンションプーリと係合するように案内する変速装置である。
【0007】
これによれば、変速スプロケットの停止時などに、変速操作によりテンションプーリが軸方向に移動することに起因して、チェーンが軌道面から外れたとしても、係合復帰案内部により、チェーンの離脱部は、係合復帰案内部に案内されて、テンションプーリとの係合状態に復帰するので、離脱部がテンションプーリとアームとの間に噛み込まれることなどが防止されて、チェーンの走行が可能になる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の変速装置において、前記掛換え機構は、前記複数の変速スプロケットの中から選択された1つの作動スプロケットに巻き掛けられる前記チェーンを案内するガイドプーリと、前記ガイドプーリを回転可能に支持すると共に前記アームと共に軸方向に移動可能なホルダとを備え、前記アームは、軸方向で前記テンションプーリおよび前記ガイドプーリの両側方に配置される1対のアーム部を備え、前記各アーム部には、前記テンションプーリにおける前記チェーンの巻掛け部の外れを防止するテンションプーリ側ガイド部と、前記ホルダに支持される被支持部とが形成され、前記両被支持部間の軸方向での間隔は、前記両テンションプーリ側ガイド部間の軸方向での間隔よりも大きいものである。
【0009】
これによれば、アームを軸方向へ移動させる力が掛換え機構から作用する部分である被支持部における曲げ剛性を高めることができる。また、アームにおいてテンションプーリ側ガイド部の軸方向での間隔を小さくすることで、テンションプーリ側ガイド部をテンションプーリに接近させて配置することができるので、係合復帰案内部に案内される離脱部を、確実にテンションプーリとの係合状態に復帰させることができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の変速装置において、前記係合復帰案内部の周方向での形成範囲は、前記テンションプーリの回転中心線および前記ガイドプーリの回転中心線を含む中心平面に対して、側面視で前記テンションプーリの回転中心線を中心とした前記テンションプーリの正回転方向および逆回転方向でほぼ同一の角度になる範囲であるものである。
【0011】
これによれば、中心平面を中心に係合復帰案内部の周方向での形成範囲を十分に確保できるので、離脱部がテンションプーリとの係合状態への復帰が容易になる。また、係合復帰案内部に接触する離脱部が係合復帰案内部に作用させる力の作用点が中心平面の近くになるようにできることから、該力により各アーム部に作用するトルクを低減できるので、各アーム部の捩り剛性を高めるために、各アーム部を大きくして、その重量を増加させる必要がない。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の変速装置において、前記アームは、軸方向で前記テンションプーリの両側方に配置されると共に前記係合復帰案内部が形成された1対のアーム部を備え、前記各係合復帰案内部は、前記離脱部が接触すると共に前記軌道面から離れる方向で軸方向に延びる案内面を有し、前記案内面において軸方向で最も前記テンションプーリに近い端部は、前記テンションプーリと係合している前記チェーンの内周縁とほぼ同じ位置であるものである。
【0013】
これによれば、離脱部は案内面に容易に乗り上げるため、離脱部の開始部が、係合復帰案内部においてテンションプーリの正回転方向寄りの位置になるので、テンションプーリの軸方向での移動によるチェーンの捩れの程度が緩和され、変速操作の際のチェーンからの抵抗力が低減する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、次の効果が奏される。すなわち、変速スプロケットの停止時などに、変速操作によりテンションプーリの軌道面から外れた離脱部は係合復帰案内部により案内されてテンションプーリと再度係合して、チェーンの走行が可能となるので、離脱部がテンションプーリとの係合状態に復帰するのが容易になり、変速スプロケットの停止状態を含む変速スプロケットが正回転していない回転状態においても変速操作が可能となり、その変速操作に基づいて変速を実行できる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、アームを軸方向に移動させる掛換え機構からの力が作用する被支持部の剛性が高められるので、軽量化が可能になる。また、離脱部を確実にテンションプーリとの係合状態に復帰させることができるので、離脱部の該係合状態への復帰の確実性が向上する。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、係合復帰案内部の周方向での形成範囲を十分に確保できるので、離脱部のテンションプーリとの係合状態への復帰の確実性が向上する。また、離脱部が係合復帰案内部に作用させる力により各アーム部に作用するトルクを低減できるので、各アーム部の軽量化が可能になる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、引用された請求項記載の発明の効果に加えて、次の効果が奏される。すなわち、変速操作の際に、チェーンの捩れに起因するチェーンからの抵抗力が低減するので、変速操作が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図1ないし図12を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明が適用された変速装置Tを備える自転車Bは、車体フレームFと、ペダル式のクランク軸12と、変速装置T、変速後の動力で回転駆動される出力軸15および駆動力伝達機構を含む伝動装置と、を備える。
【0019】
車体フレームFは、下端部で前輪Wfを軸支すると共に上端部にハンドル7が取り付けられたフロントフォーク6を操舵可能に支持するヘッドパイプ1と、ヘッドパイプ1から後方斜め下方に延びる左右1対のメインフレーム2と、両メインフレーム2の前端部から後方斜め下方に延びるダウンチューブ3と、両メインフレーム2の後端部とダウンチューブ3の後端部とを連結する左右1対のアンダチューブ4と、各メインフレーム2から延びてサドル8を支持するサドルフレーム5とを備える。両メインフレーム2およびダウンチューブ3は別体に成形され、溶接により結合された部材である。
【0020】
なお、明細書または特許請求の範囲において、上下、前後および左右は、それぞれ自転車Bの上下、前後および左右と一致する。また、軸方向とは、変速スプロケット41〜47の回転中心線L3の方向を意味し、側面視とは軸方向から見ることを意味する。
【0021】
両メインフレーム2の後部2aに設けられたピボット軸9(図3も参照)には、後端部に取り付けられた車軸を介して後輪Wrを軸支する左右1対のスイングアーム10の前端部が揺動可能に支持される。そして、両スイングアーム10は、リヤサスペンション11を介して両メインフレーム2に連結されることで、後輪Wrと共にピボット軸9を中心に上下方向に揺動可能である。
【0022】
車体フレームFの下部であって、両メインフレーム2の後部2aと両アンダチューブ4との間に形成される空間に、変速装置Tと、変速装置Tに回転可能に支持されるクランク軸12の主軸12aおよび出力軸15とが配置される。そして、車体フレームFの右方には、前記駆動力伝達機構が配置される。ここで、自転車Bの車幅方向(左右方向と一致する。)または軸方向での一側方を左方とするとき、右方は車幅方向または軸方向での他側方である。
【0023】
図2を併せて参照すると、変速装置Tは、周縁部に形成された2つのボス21a,22aにおいてボルトB1(図5参照)により結合される左右1対の第1,第2ケース部21,22から構成される金属製のケース20を備える。そして、ケース20は、各ケース部21,22の周縁部に形成された1対の取付部(図2には、第1ケース部21の取付部21bが示されている。)においてボルトB2により両メインフレーム2および両アンダチューブ4にそれぞれ固定される。板材により形成される第1,第2ケース部21,22は、削り出し、鋳造またはプレス加工により成形される。
【0024】
図3を併せて参照すると、クランク軸12は、ケース20の下部を左右方向に貫通して配置される主軸12aと、ケース20の外側に突出した主軸12aの左右の両端部にそれぞれ結合される1対のクランクアーム12bとを備える。クランク軸12は1対の軸受14を介して第1,第2ケース部21,22に回転可能に支持される。また、各クランクアーム12bには、ペダル13(図1参照)が回転可能に取り付けられる。
【0025】
主軸12aの前方斜め上方には出力軸15が、また主軸12aのほぼ真上にはピボット軸9が、出力軸15の回転中心線L2およびスイングアーム10の揺動中心線が互いに平行に、かつクランク軸12の回転中心線L1に平行になるように、しかもクランクアーム12bの回転軌跡内に収まるように配置される。メインフレーム2に固定されるピボット軸9は、第1,第2ケース部21,22に形成されたボス21c,22cの貫通孔に挿通され、第1,第2ケース部21,22を支持する。
【0026】
図4を参照すると、ケース20内に収容された出力軸15は、第2ケース部22から右方に突出した端部15aを有し、端部15aに出力用駆動回転体としての出力用駆動スプロケット17が結合される。図1を併せて参照すると、駆動スプロケット17と後輪Wrに駆動連結された出力用被動回転体としての出力用被動スプロケット18とには可撓性の出力用無端伝動帯としての出力用チェーン19が掛け渡される。そして、駆動スプロケット17、チェーン19および被動スプロケット18は、駆動輪としての後輪Wrを駆動する前記駆動力伝達機構を構成する。
【0027】
以下、変速装置Tを中心にさらに説明する。
図2〜図4を参照すると、変速装置Tは、ケース20と、チェーン式の変速機構M1と、変速機構M1を変速操作に応じて所望の変速位置へ切り換える変速切換機構M2とを備える。変速機構M1および変速切換機構M2の構成要素である後述するディレイラ70は、ケース20内に収容される。
【0028】
変速機構M1は、一方向クラッチ30、スライド機構としてのボールスプライン31、駆動スプロケット32、被動スプロケットとしての複数の変速スプロケット41〜47、無端の変速用チェーンCおよびチェーン案内部材50とを備える。
【0029】
運転者により回転駆動されて駆動トルクが入力される入力軸としてのクランク軸12の主軸12aには、共通スプロケットとしての駆動スプロケット32が同軸に配置される。駆動スプロケット32は、一方向クラッチ30を介して主軸12aに駆動連結される。一方向クラッチ30は、主軸12aの一部からなるクラッチインナ30aと、ラチェット歯が内周に形成されたクラッチアウタ30bと、クラッチインナ30aおよびクラッチアウタ30bの間に配置されて前記ラチェット歯と係合する爪からなるクラッチ素子30cとを備え、クランク軸12の正回転方向A0(以下、クランク軸12が正回転方向A0に回転するときの各種の軸およびスプロケットの正回転方向を符号A0で示す。)の回転のみを駆動スプロケット32に伝達する。
【0030】
一方向クラッチ30と駆動スプロケット32との間には、駆動スプロケット32を、主軸12aに対して回転中心線L1の方向A1(軸方向でもある。)に移動可能にすると共に一方向クラッチ30のクラッチアウタ30bと一体に回転させるボールスプライン31が設けられる。ボールスプライン31は、連結ピン33によりクラッチアウタ30bと一体に結合されると共に主軸12aの外周に軸受34を介して回転可能に支持される内筒31aと、内筒31aの径方向外方に内筒31aと同軸に配置されると共に駆動スプロケット32と一体に結合される外筒31bと、内筒31aと外筒31bとの間に配置されて、内筒31aおよび外筒31bに回転中心線L1に平行に延びて形成された1対の収容溝に跨って転動可能に収容される複数のボール31cとを備える。前記1対の収容溝は、複数組、この実施形態では3組設けられる。それゆえ、外筒31bおよび駆動スプロケット32は、ボール31cを介して内筒31aと一体に回転する一方で、主軸12aおよび回転中心線方向A1に移動不能な内筒31に対して回転中心線方向A1に移動可能である。
【0031】
両ケース部21,22にそれぞれ保持される1対の軸受35を介してケース20に回転可能に支持される出力軸15には、外径(すなわち歯先円径)および歯数が異なる複数の、この実施形態では7つの変速スプロケット41〜47からなるスプロケット群40が、出力軸15と一体に回転するように、かつ出力軸15と同軸に配置されるように、スプラインにより結合される。それゆえ、各変速スプロケット41〜47の回転中心線L3は、クランク軸12の回転中心線L1に平行な出力軸15の回転中心線L2と一致する。そして、すべての変速スプロケット41〜47は、最低速の1速用の変速スプロケット41から最高速の7速用の変速スプロケット47まで、順次高速になるよう軸方向に並んで配列され、この実施形態では、7つの変速スプロケット41〜47は、左方に向かって順次大径となるように配列される。
【0032】
駆動スプロケット32と、スプロケット群40の中から変速切換機構M2により選択される一つの変速スプロケット41〜47である作動スプロケット(以下、単に「作動スプロケット」という。図2〜図4では、変速スプロケット41または変速スプロケット47が作動スプロケットとなる状態が例示されている。)との間には、チェーンCが掛け渡される。それゆえ、出力軸15は、駆動スプロケット32とチェーンCを介して駆動連結された作動スプロケットとにより決定される変速比で、クランク軸12により回転駆動される。
【0033】
図2,図5を参照すると、チェーン案内部材50は、駆動スプロケット32とスプロケット群40との間であって、正回転するクランク軸12により駆動されるチェーンCの張り側に配置されて、該張り側に張力低下による撓みが発生したときに、撓んだチェーンCが駆動スプロケット32とケース20との間に噛み込まれることを防止するチェーン噛込み防止手段を構成する。
【0034】
チェーン案内部材50は、スプロケット群40の軸方向での幅よりもやや大きな軸方向での幅を有する開口52を形成する案内部51と、各変速スプロケット41〜47から巻き出されるチェーンCがチェーン軌道の内側に移動するのを規制する規制部53とを備える。各変速スプロケット41〜47から開口52に進入するチェーンCを案内する案内部51は、開口52に対してチェーン軌道の内側寄りに配置される内側案内部51aと、開口52に対してチェーン軌道の外側寄りに配置される外側案内部51bと、開口52に対して軸方向での両側方にそれぞれ配置される側部案内部51c,51dとから構成される。そして、外側案内部51bは、内側案内部51aおよび両側部案内部51c,51dと共同して開口52を形成する第1部分51b1と、第1部分51b1よりもスプロケット群40寄りに位置して開口52にチェーンCを案内する第2部分としてのローラ51b2とからなる。また、側面視で各変速スプロケット41〜47と重なる位置に配置される規制部53は、内側案内部51aから各変速スプロケット41〜47に向かって延びており、各変速スプロケット41〜47の歯が個別に通過する溝53bが変速スプロケット41〜47と同数形成された先端部53aを有する。
【0035】
内側案内部51a、第1部分51b1、規制部53および左側の側部案内部51cは、合成樹脂製の単一の第1部材により構成され、右側の側部案内部51dは合成樹脂製の第2部材により構成される。そして、前記第1,第2部材が1対のボルトB3により第1ケース部21に結合されることにより、チェーン案内部材50がケース20に固定される。一方、ローラ51b2は、左側で側部案内部51cおよび第1ケース部21に、右側で側部案内部51dおよび第2ケース部22に、それぞれ両端部が支持される支持軸54に回転可能に支持される。
【0036】
それゆえ、例えば路面の起伏などに起因して自転車Bが短時間のうちの激しい上下運動をする場合に、チェーンCの張り側に上下方向での振動またはチェーン軌道に対しての内外方向での振動が発生したとても、チェーンCが開口52を通過する際に内側案内部51aおよび外側案内部51bと接触してその振幅が規制されることで、チェーンCの振動が抑制されて、自転車Bの円滑な走行が可能になる。
【0037】
また、チェーンCの張り側に張力低下による撓みが発生するようなチェーンCの走行時、例えばクランク軸12が停止または逆回転する状態で自転車Bが前進する惰性走行時には、駆動スプロケット32が、後輪Wrから前記駆動力伝達機構および出力軸15介してスプロケット群40に伝達されるトルクにより、チェーンCを通じて正回転方向A0に回転駆動される。このとき、張り側の張力が低下して、張り側に撓みが発生することがあり、特に正回転していたクランク軸12が急に停止または逆回転した状態で自転車Bが前進走行する場合には、チェーンCが著しく撓んで、駆動スプロケット32の手前で折れ重なり、この折れ重なった部分が駆動スプロケット32とケース20との間に噛み込まれることがある。
【0038】
しかしながら、チェーン案内部材50が設けられることにより、張り側に撓み部分が発生したとしても、チェーンCが、開口52を通過する際に内側案内部51aまたは外側案内部51bに接触してその撓み量が規制されることで、チェーンCの撓みが減少する。
【0039】
また、張り側が著しく撓んだ場合には、撓んだ部分は、チェーン案内部材50の規制部53により規制されて、変速スプロケット41〜47に巻き込まれることが防止されると共に、規制部53に沿って案内部51に向かって案内され、一時的に、駆動スプロケット32および開口52よりもスプロケット群40寄りで案内部51とスプロケット群40との間に滞留する滞留部C2(図6にはチェーンCが滞留したときの一形態が示されている。)を形成する。このようにして、チェーン案内部材50は、張り側に形成されるチェーンCの撓み部分が、駆動スプロケット32とケース20との間に噛み込まれることを防止する。そして、内側案内部51aの案内面およびローラ51b1は、滞留部C2が順次一直線状に整列した状態で開口52を通過するようにチェーンCを案内することから、チェーン案内部材50は、滞留部C2を整列させるチェーン整列手段でもある。
【0040】
また、スプロケット群40により得られる変速位置を低速側位置と高速側位置とに二分したとき、チェーンCの張り側において、内側案内部51aは、高速側位置での作動スプロケットである変速スプロケット44〜47に巻き掛けられるチェーンCに接触し、ローラ51b1は、低速側位置での作動スプロケットである変速スプロケット41〜43に巻き掛けられるチェーンCに接触する。
【0041】
図2,図4,図6〜図9を参照すると、スプロケット群40の中で軸方向での端部に位置する端部スプロケットであって、軸方向でケース20に隣接する隣接スプロケットでもある両変速スプロケット41,47のうち、ケース20に軸方向でより近い変速スプロケット41に対しては、軸方向に移動するディレイラ70による該変速スプロケット41へのチェーンCの掛換え時に、変速スプロケット41を越えてチェーンCが軸方向に移動することを防止する規制部としての突出部56が、ケース20を利用して、変速装置Tに備えられる。
【0042】
具体的には、ケース20の一部である第1ケース部21には、側面視で、変速スプロケット41におけるチェーンCの巻掛け部C1と重なる位置に、スプロケット群40の中でのチェーンCの掛換え時に、変速スプロケット41を越えて第1ケース部21に近づく方向でのチェーンCの軸方向の移動を規制する突出部56が、連続して設けられる。突出部56は、軸方向での頂部56cに、軸方向での移動を規制する規制面としての頂面56dを有する。そして、チェーンCが、変速スプロケット41を越えて軸方向に移動しようとするとき、頂面56dと接触して、チェーンCが変速スプロケット41から外れることを防止する。
【0043】
突出部56は、側面視で巻掛け部C1と重なる第1部分56aと、第1部分56aに連続すると共に変速スプロケット41の巻出し側で第1部分56aよりも正回転方向A0に延びる第2部分56bとを有する。第2部分56bは、第1部分56aからチェーン案内部材50の規制部53に向かって延びていて、クランク軸12が正回転していないときなどに、チェーン案内部材50によりチェーンCに滞留部C2が形成されている状態での変速操作により、ガイドプーリ72が変速スプロケット41に向かって軸方向に移動したとき、滞留部C2が変速スプロケット41を越えて軸方向で第1ケース部21に近づくことを防止する。
【0044】
さらに、第1ケース部21には、突出部56から変速スプロケット41の径方向に延びる補強リブが一体成形により設けられる。該補強リブは、突出部56から径方向で外方に延びると共に周方向で間隔をおいて設けられる複数の内側リブ57と、突出部56に周方向で間隔をおいて設けられる複数の外側リブ58とからなる。内側リブ57は、突出部56と同じ方向に軸方向に突出して設けられ、内側リブ57の軸方向での頂面57aは、頂面56dとほぼ同じ位置にある。また、外側リブ58は、側面視で、回転中心線L3を中心として内側リブ57と同じ角度位置に、内側リブ57と同数設けられる。
【0045】
図1〜図3を参照すると、変速切換機構M2は、変速操作機構60と、変速操作機構60による変速操作に応じてスプロケット群40の中でチェーンCを掛け換える掛換え機構としてのディレイラ70とを備える。チェーンCは、駆動スプロケット32と、作動スプロケットと、さらに正回転するクランク軸12により駆動されるチェーンCの弛み側にいずれも配置されるガイドプーリ72およびテンションプーリ82とに掛け渡される。
【0046】
ケース20内でディレイラ70に連結される変速操作機構60は、運転者により操作される変速レバーなどで構成される変速操作部材61と、変速操作部材61の動作をディレイラ70に伝達するために変速操作部材61とディレイラ70とを作動連結する操作力伝達部材としての操作ケーブル62とを備える。操作ケーブル62は、車体フレームFに保持される管状のアウタケーブル62aと、アウタケーブル62aの内側に挿入されたインナケーブル62bとから構成される。インナケーブル62bは、一端部で変速操作部材61に結合され、他端部でディレイラ70に結合される。
【0047】
図2〜図5,図9を参照すると、クランク軸12の主軸12aの上方に配置されるディレイラ70は、両ケース部21,22に固定されて保持されると共にアウタケーブル62aの保持部71aが設けられる円筒状の基部71と、変速スプロケット41〜47の間でのチェーンCの掛換え時に作動スプロケットに巻き掛けられるようにチェーンCを案内するガイド部材としてのガイドプーリ72と、ガイドプーリ72を回転可能に支持するホルダHと、基部71とホルダHとを連結して、変速操作機構60による変速操作に応じてホルダHおよびガイドプーリ72を軸方向および回転中心線L3の径方向に移動させる作動機構としての1対のリンク73a,73bを有する平行リンク機構73と、チェーンCの張力を与えるテンショナ74とを備える。
【0048】
ホルダHは、回転中心線L3と平行な回転中心線L4を有するガイドプーリ72に対して軸方向での両側方である左方および右方にそれぞれ配置されて1対のリベット75a,75bにより連結される第1,第2ホルダ部76,77と、ガイドプーリ72を回転可能に支持する支持部78とから構成される。支持部78は、第1,第2ホルダ部76,77の連結部としてのリベット75aに外嵌されて第1,第2ホルダ部76,77の軸方向での間隔を規定するカラー78aと、カラー78aに外嵌されてガイドプーリ72を支持する軸受78bとから構成される。カラー78aに揺動可能に支持される軸受78bのインナ78b1は、後述する1対の第1,第2アーム部100 ,120 の軸方向での間隔を規定すると共に圧入により結合された両アーム部100 ,120 と共に一体的に揺動する。
【0049】
第1ホルダ部76は、ガイドプーリ72に対して左方に配置されて、板状の部材から構成される。第2ホルダ部77は、ガイドプーリ72の径方向外方に配置されて1対のリンク73a,73bが枢着により連結される連結部79と、ガイドプーリ72に対して右方に配置されてテンションバネ83を収容するバネ収容部80とを備える。そして、平行リンク機構73の両リンク73a,73bは、基部71に設けられる1対の支持軸81を介して基部71に枢着され、一方のリンク73bの連結部73b1に係止されるインナケーブル62bにより操作されると、各支持軸81により規定される1対の揺動中心線を中心に揺動し、各変速スプロケット41〜47の歯先円により構成される歯先円群に沿ってガイドプーリ72を案内する。
【0050】
図11を併せて参照すると、バネ収容部80は、後述する第1延出部106 に対して、軸方向でガイドプーリ72の軌道面P1の右方に配置される第2延出部を構成する周壁80aを有する。具体的には、後述する第2アーム部120 に軸方向で隣接する位置に設けられるバネ収容部80は、第2アーム部120 よりも右方に、軌道面P1の右方に軌道面P1から離れる方向で軸方向に平行に延びる周壁80aを有し、周壁80aは、円柱面からなる外周面の部分を案内面80bとして有する。そして、第2アーム部120 とバネ収容部80との軸方向での間隔は、チェーンCの軸方向での幅W4よりも大幅に小さく、後述するように、離脱部C13が周壁80の案内面80b上を摺動してガイドプーリ72との係合状態に復帰する際の移動の障害にならない程度に設定される。
【0051】
ここで、ガイドプーリ72の軌道面P1とは、ガイドプーリ72におけるチェーンCとの係合部である多数の歯72a(図9,図10参照)と交差すると共に回転中心線L4に直交する平面である。(図11には、歯72aと交差する軌道面の一つが示されている。)
図2,図4を参照すると、テンショナ74は、駆動スプロケット32とガイドプーリ72との間でチェーンCを押圧してチェーンCに張力を付与するテンションプーリ82と、軸方向で第1,第2ホルダ部76,77の間に配置されてホルダHの支持部78に圧入により一体に結合されると共にテンションプーリ82を回転可能に支持するアームRと、テンションバネ83とを備える。そして、ホルダHおよびアームRは、ディレイラ70におけるホルダ部材を構成する。
【0052】
アームRは、軸方向でテンションプーリ82の両側方である左方および右方にそれぞれ配置されると共に軸方向で第1,第2ホルダ部76,77の間に配置される1対の第1,第2アーム部100 ,120 と、テンションプーリ82を回転可能に支持する支持部84とから構成される。
【0053】
第1,第2アーム部100 ,120 は、それぞれ、ガイドプーリ72からチェーンCが外れるのを防止すると共に支持部78に支持される被支持部としてのガイドプーリ側ガイド部101 ,121 と、支持部84を支持すると共にテンションプーリ82からチェーンCが外れるのを防止するテンションプーリ側ガイド部102 ,122 とを備える。また、支持部84は、第1,第2アーム部100 ,120 の連結部としてのリベット84aと、リベット84aに外嵌されてテンションプーリ82を支持する軸受84bとから構成される。
【0054】
そして、軸受78bのインナ78b1により規定される両ガイドプーリ側ガイド部101 ,121 の間の軸方向での間隔W1は、軸受84bのインナ84b1により規定される両テンションプーリ側ガイド部102 ,122 の間の軸方向での間隔W2よりも大きく設定される。また、ガイドプーリ72の軸方向での幅は、テンションプーリ82の軸方向での幅よりも大きい。
【0055】
テンションバネ83は、径が異なる2つの捩りコイルバネからなるバネ83a,83bにより構成され、両バネ83a,83bはバネ収容部80内に同心に配置される。各バネ83a,83bは、一端部がバネ収容部80に係止され、他端部が第2アーム部120 の係止部120a,120b(図10参照)に係止されて、その弾発力により、回転中心線L4を中心にアームRおよびテンションプーリ82を図2において時計方向に付勢し、テンションプーリ82をチェーンCに押し付ける。そして、アームRと共にテンションプーリ82が揺動することにより、チェーンCの張力が各バネ83a,83bの弾発力に応じて調整される。
【0056】
図9,図10を参照すると、第1アーム部100 は、ガイドプーリ72におけるチェーンCの巻掛け部C3を含む周方向範囲に形成された扇形状のガイドプーリ側ガイド部101 と、テンションプーリ82におけるチェーンCの巻掛け部C4を含む周方向範囲に形成された扇形状のテンションプーリ側ガイド部102 と、両ガイド部101 ,102 を連結する連結部103 とが一体成形された板状の部材である。
【0057】
ガイドプーリ側ガイド部101 は、ガイドプーリ72でのチェーンCの巻入れ側に設けられる大径外周縁部104 と、大径外周縁部104 に連続すると共にガイドプーリ72におけるチェーンCの巻出し側に設けられる小径外周縁部105 とを有する。大径外周縁部104 は、側面視で巻掛け部C3と重なる位置にあり、小径外周縁部105 は、大径外周縁部104 および巻掛け部C3よりも、径方向で内方であって、回転中心線L4寄りに位置する。そして、小径外周縁部105 は、後述する中心平面P3と交差する位置に周方向での端部105aを有する。また、連結部103 は、ガイドプーリ72でのチェーンCの巻入れ側で、チェーンCがガイドプーリ72から左方に外れるのを防止する外れ防止部を構成する。
【0058】
図11を併せて参照すると、両外周縁部104 ,105 には、軸方向でガイドプーリ72の軌道面P1の左方に軌道面P1から離れる方向で軸方向に平行に延びる第1延出部106 が設けられる。軸方向でガイドプーリ72の軌道面P1の左方に配置される延出部106 は、両外周縁部104 ,105 に渡って連続して延びており、さらにガイドプーリ72でのチェーンCの巻入れ側で連結部103 の縁部103aにも、軸方向でテンションプーリ82と重なる位置まで連続して延びている。また、延出部106 は、両外周縁部104 ,105 においては円弧状に形成され、連結部103 の縁部103aにおいては直線状に形成されている。そして、延出部106 は、ガイドプーリ側ガイド部101 および連結部103 が軸方向にほぼ平行に折り曲げられて形成され、ガイドプーリ側ガイド部101 および連結部103 に、ひいては第1アーム部100 に一体成形される。
【0059】
延出部106 の外周面により構成される案内面107 は、軌道面P1から離れる方向、ここでは左方に向かって、軸方向にほぼ平行に延びており、両外周縁部104 ,105 においてガイドプーリ72に対向する面104b,105bに滑らかに連続する。さらに、軸方向での延出部106 または案内面107 の幅W3は、チェーンCの軸方向での幅W4およびスプロケット群40の軸方向で隣接する2つの変速スプロケット41〜47が占有する軸方向での幅W5(図9では、両変速スプロケット45,46が占有する幅が代表して示されている。)にほぼ等しい。そして、軸方向でのバネ収容部80の周壁80aまたは案内面80bの幅W6は、延出部106 または案内面107 の幅W3よりも大きく設定されている。
【0060】
また、小径外周縁部105 での延出部106 および案内面107 は、側面視で巻掛け部C3と重なる位置にある大径外周縁部104 での延出部106 および案内面107 およびガイドプーリ72の最外周端の回転軌跡72cよりも、回転中心線L4に近い位置にある。そして、小径外周縁部105 が大径外周縁部104 寄りの位置から端部105aに近づくにつれて、小径外周縁部105 における延出部106 および案内面107 と回転中心線L4との距離が連続的に小さくなり、延出部106 および案内面107 は回転中心線L4に徐々に近づく。
【0061】
図4,図10,図12を参照すると、テンションプーリ側ガイド部102 は、テンションプーリ82でのチェーンCの巻入れ側に、周方向での形成範囲に渡って設けられる外周縁部により構成される第1の係合復帰案内部110 と、係合復帰案内部110 よりもテンションプーリ82の正回転方向A0側に設けられてテンションプーリ82からのチェーンCの外れを防止する外れ防止部111 とを有する。
【0062】
テンションプーリ82の軌道面P2から軸方向に外れたチェーンCの部分である後述する離脱部C12をテンションプーリ82に係合させる第1の係合復帰案内部110 は、テンションプーリ側ガイド部102 の外周縁部がテンションプーリ82の径方向で外方に向かうにつれて軌道面P2から軸方向で左方に離れる方向で傾斜して折り曲げられることにより形成され、テンションプーリ側ガイド部102 において軸方向でテンションプーリ82に対向する部分よりも左方に延出した延出部である。そして、係合復帰案内部110 は、径方向で外方を向いた円錐面からなる傾斜面、換言すれば、径方向外方に向かうにつれて軌道面P2から左方に離れる方向に傾斜する傾斜面からなる案内面112 を有する。また、案内面112 において軸方向で最もテンションプーリ82に近い端部112aは、径方向で案内面112 の最内方に位置し、テンションプーリ82と係合しているチェーンCの部分の、径方向での内縁部、すなわち径方向での巻掛け部C4の内縁部C4aとほぼ同じ位置である。
【0063】
ここで、テンションプーリ82の軌道面P2とは、テンションプーリ82におけるチェーンCとの係合部である多数の歯82a(図10参照)と交差すると共に回転中心線L5に直交する平面である。(図12には、歯82aと交差する軌道面の一つが示されている。)
係合復帰案内部110 は、その軸方向での幅W7がチェーンCの幅W4にほぼ等しい。また、前記形成範囲は、ガイドプーリ72の回転中心線L4およびテンションプーリ82の回転中心線L5を含む中心平面P3に対して、側面視で、回転中心線L5を中心とした正回転方向A0での角度θ1と逆回転方向での角度θ2がほぼ等しくなる範囲に設定され、全体としては、回転中心線L5を中心とした角度が鈍角となる範囲に設定される。また、外れ防止部111 は、係合復帰案内部110 よりも径方向で外方まで延びており、巻掛け部C4よりも径方向外方で、第2アーム部120 におけるテンションプーリ側ガイド部122 の外れ防止部131 と、連結部としてのリベット85により連結されている。
【0064】
図9,図10,図11を参照すると、第2アーム部120 は、ガイドプーリ72におけるチェーンCの巻掛け部C3を含む周方向範囲に形成された扇形状のガイドプーリ側ガイド部121 と、テンションプーリ82におけるチェーンCの巻掛け部C4を含む周方向範囲に形成された扇形状のテンションプーリ側ガイド部122 と、両ガイド部121 ,122 を連結する連結部123 とが一体成形された板状の部材である。
【0065】
ガイドプーリ側ガイド部121 は、ガイドプーリ72でのチェーンCの巻入れ側から巻出し側に至る範囲に設けられる外周縁部124 を有する。側面視で巻掛け部C3のほぼ全体と重なる位置にある外周縁部124 には、ガイドプーリ72の最外周端の回転軌跡82cよりも径方向外方の位置に、径方向外方に向かうにつれて軌道面P1から軸方向で右方に離れる方向に傾斜する傾斜面125 が形成され、さらに傾斜面125 は、さらにガイドプーリ72でのチェーンCの巻入れ側で連結部123 の縁部123aにも、平面視でテンションプーリ82と重なる位置まで連続して形成されている。
【0066】
そして、外周縁部124 は、第1アーム部100 の大径外周縁部104 よりも大径であり、傾斜面125 に連なる径方向での最先端124aは、バネ収容部80の周壁80aの案内面80bと同じ径を有する円柱面からなり、径方向でバネ収容部80の案内面80bと同じ位置にある。したがって、回転中心線L4から案内面80bおよび最先端124aまでの距離d2は等しく、回転中心線L4から案内面107 までの距離d1は、距離d2よりも小さい。また、連結部123 は、チェーンCがガイドプーリ72およびテンションプーリ82から右方に外れるのを防止する外れ防止部を構成する。
【0067】
図4,図10,図12を参照すると、テンションプーリ側ガイド部122 は、第1アーム部100 のテンションプーリ側ガイド部102 に対して、回転中心線L5に直交する平面を対称面として有するように、面対称に形成され、係合復帰案内部110 と同様に、テンションプーリ82でのチェーンCの巻入れ側に、周方向での形成範囲に渡って設けられる外周縁部により構成される第2の係合復帰案内部130 と、外れ防止部111 と同様の外れ防止部131 とを有する。
【0068】
テンションプーリ82の軌道面P2から軸方向に外れたチェーンCの部分である離脱部C14をテンションプーリ82に係合させる第2の係合復帰案内部130 は、テンションプーリ側ガイド部122 の外周縁部がテンションプーリ82の径方向で外方に向かうにつれて軌道面P2から軸方向で右方に離れる方向で傾斜して折り曲げられることにより形成され、テンションプーリ側ガイド部122 において軸方向でテンションプーリ82に対向する部分よりも右方に延出した延出部である。そして、係合復帰案内部130 は、径方向で外方を向いた円錐面からなる傾斜面、換言すれば、径方向外方に向かうにつれて軌道面P2から軸方向で右方に離れる方向に傾斜する傾斜面からなる案内面132 を有する。また、案内面132 において軸方向で最もテンションプーリ82に近い端部132aは、径方向で案内面132 の最内方に位置し、テンションプーリ82と係合している巻掛け部C4の内縁部C4aとほぼ同じ位置である。
【0069】
係合復帰案内部130 は、その軸方向での幅W8がチェーンCの幅W4にほぼ等しい。また、前記形成範囲は、係合復帰案内部110 と同様である。また、外れ防止部131 は、係合復帰案内部130 よりも径方向で外方まで延びている。
【0070】
また、各係合復帰案内部110 ,130 は、軸方向での両係合復帰案内部110 ,130 の間隔が、正回転方向A0で外れ防止部111 ,131 に向かって徐々に小さくなるように、先細案内部110a,130aを有する。
【0071】
次に、例えば自転車Bが後進状態や停車状態にあって、変速スプロケット41〜47の逆回転時や停止時に、すなわち変速スプロケット41〜47が正回転していないときに変速操作が行われる際になされる延出部106 、バネ収容部80の周壁80aおよび1対の係合復帰案内部110 ,130 のチェーンCの案内機能について説明する。
【0072】
図3,図4,図10〜図12を参照すると、変速スプロケット41〜47が正回転していないときに変速操作機構60が操作されて、より高速の変速位置への変速操作が行われると、ディレイラ70の平行リンク機構73の作動によりガイドプーリ72およびテンションプーリ82がホルダHおよびアームRと共に右方に移動して、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82におけるチェーンCの巻掛け部C3,C4がガイドプーリ72およびテンションプーリ82と共に右方に移動するのに対して、変速スプロケット41〜47におけるチェーンCの巻掛け部は右方に移動せず、駆動スプロケット32におけるチェーンCの巻掛け部もガイドプーリ72およびテンションプーリ82に対応した位置に移動しないことから、巻掛け部C3,C4が、連結部103 または外れ防止部111 により左方への移動が阻止される部分から左方に移動して、連結部103 または外れ防止部111 の付近から、軌道面P1,P2から外れる、換言すればガイドプーリ72またはテンションプーリ82から外れることがある。
【0073】
このとき、連結部103 ,123 または外れ防止部111 ,131 の付近を開始部C11a,C12aとして、チェーンCのこの外れた部分である離脱部のうち、ガイドプーリ72については、例えば図11に二点鎖線で示されるように離脱部C11が延出部106 または案内面107 に乗り上げ、テンションプーリ82については、例えば図12に二点鎖線で示されるように離脱部C12が係合復帰案内部110 または案内面112 に乗り上げる。
【0074】
この状態で、延出部106 は、離脱部C11のうちガイドプーリ72の巻入れ側寄りの部分をガイドプーリ72の回転軌跡72cよりも径方向外方に位置させると共に、運転者がクランク軸12を正回転方向A0に駆動するなどして変速スプロケット41〜47が正回転するとき、そのときのチェーンCの張力により、延出部106 に乗り上げた離脱部C11が、案内面107 を摺動して軌道面P1に向けて移動すると共にその後にガイドプーリ72と係合するように案内する。
【0075】
また、延出部106 のうち小径外周縁部105 の延出部106 は、より高速の変速位置への変速操作において、複数段に渡って変速操作が行われるときなど、変速後の変速スプロケットの外径と変速前の変速スプロケットの外径との差が大きい場合にも、図10に一点鎖線で示されるように、離脱部C11が延出部106 に乗り上げる状態を確保するのに寄与する。このため、延出部106 により、この部分における回転中心線L4からの距離が大径外周縁106 における延出部106 と同じである場合に比べて、離脱部C11が延出部106 から外れることなく、離脱部C11がより確実に延出部106 に乗り上げている状態を実現できる。
【0076】
一方、係合復帰案内部110 ,130 は、離脱部C12全体をテンションプーリ82の回転軌跡82cよりも径方向で外方に位置させると共に、運転者がクランク軸12を正回転方向A0に駆動することなどにより、変速スプロケット41〜47が正回転したとき、チェーンCの張力により、離脱部C12が、軌道面P2に向けて移動すると共にその後にテンションプーリ82と係合するように案内する。
【0077】
また、変速スプロケット41〜47が正回転していないときに変速操作機構60が操作されて、より低速の変速位置への変速操作が行われると、平行リンク機構73の作動によりガイドプーリ72およびテンションプーリ82が左方に移動して、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82におけるチェーンCの巻掛け部C3,C4がガイドプーリ72およびテンションプーリ82と共に左方に移動するのに対して、変速スプロケット41〜47におけるチェーンCの巻掛け部は左方に移動せず、駆動スプロケット32におけるチェーンCの巻掛け部もガイドプーリ72およびテンションプーリ82に対応した位置に移動しないことから、巻掛け部C3,C4が、連結部123 または外れ防止部131 により右方への移動が阻止される部分から右方に移動して、連結部123 または外れ防止部131 の付近から、軌道面P2から外れることがある。
【0078】
このとき、離脱部のうち、ガイドプーリ72については、例えば図11に二点鎖線で示されるように離脱部C13がバネ収容部80の周壁80aまたは案内面80bに乗り上げ、テンションプーリ82については、例えば図12に二点鎖線で示されるように離脱部C14が係合復帰案内部130 または案内面132 に乗り上げる。
【0079】
この状態で、周壁80aは、離脱部C13のうちガイドプーリ72の巻入れ側寄りの部分をガイドプーリ72の回転軌跡72cよりも径方向外方に位置させると共に、クランク軸12の正回転によるチェーンCの張力により、周壁80aに乗り上げた離脱部C13が、案内面80bを摺動して軌道面P1に向けて移動すると共にその後にガイドプーリ72と係合するように案内する。また、周壁80aの幅W6が、延出部106 の幅W3よりも大きいことにより、周壁80aは、より低速の変速位置への変速操作において、複数段に渡って変速操作が行われるときなど、変速後の変速スプロケットの外径と変速前の変速スプロケットの外径との差が大きい場合にも、離脱部C13が周壁80aに乗り上げる状態を確保するのに寄与する。このため、離脱部C13が周壁80aから外れることなく、より確実に周壁80aに乗り上げている状態を実現できる。
【0080】
一方、係合復帰案内部130 は、離脱部C14全体をテンションプーリ82の回転軌跡82cよりも径方向で外方に位置させると共に、クランク軸12の正回転によるチェーンCの張力により、離脱部C14が、軌道面P2に向けて移動すると共にその後にテンションプーリ82と係合するように案内する。
【0081】
このように、変速操作に応じてガイドプーリ72およびテンションプーリ82が軸方向でいずれの側方に移動するときにも、両離脱部C11,C12は、それぞれ、延出部106 および係合復帰案内部110 に案内されて、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82との係合状態に復帰し、両離脱部C13,C14は、それぞれ、周壁80aおよび係合復帰案内部130 に案内されて、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82との係合状態に復帰する。それゆえ、延出部106 およびバネ収容部80の周壁80aは、ガイドプーリ72の軌道面P1から外れた離脱部C11,C13をガイドプーリ72に係合させる係合復帰手段を構成する。
【0082】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
運転者によりクランク軸12が正回転方向A0に駆動されているとき、またはクランク軸12が逆回転または停止している状態で自転車Bが前進しているとき、変速操作部材61の操作により、ディレイラ70のホルダH、ガイドプーリ72、アームRおよびテンションプーリ82が図2〜図4に実線で示される基本位置としての7速位置を占めて、スプロケット群40の中で作動スプロケットとして変速スプロケット47が選択され、チェーンCは、図3,図4に実線で示される位置の駆動スプロケット32と変速スプロケット47とに掛け渡される。運転者がペダルを漕ぐことにより正回転方向A0に回転するクランク軸12は、一方向クラッチ30を介して駆動スプロケット32を回転駆動し、駆動スプロケット32はチェーンCを介して変速スプロケット47、出力軸15および駆動スプロケット17を、両スプロケット32,47により決定される変速比で回転駆動する。そして、駆動スプロケット17は、チェーン19を介して被動スプロケット18および後輪Wrを回転駆動する。
【0083】
前記基本位置にある状態から、変速位置を切り換えるために、作動スプロケットとして、より低速の変速スプロケット41〜46、例えば変速スプロケット41を選択するように変速操作部材61が操作されると、インナケーブル62bによりディレイラ70の平行リンク機構73が操作されて、平行リンク機構73によりホルダH、ガイドプーリ72、アームR、テンションプーリ82が軸方向での左方および回転中心線L3に対して径方向外方に移動して、図2〜図4に二点鎖線で示される変速位置である1速位置を占める。そして、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82と共に左方に移動するチェーンCの張力が、駆動スプロケット32をクランク軸12の主軸12aに対して軸方向で左方に移動させ、駆動スプロケット32が図3,図4に二点鎖線で示される位置を占める。このとき、チェーンCは変速スプロケット41に掛け渡されて、チェーンCを介して駆動スプロケット32と駆動連結される。
【0084】
また、この1速位置に対してより高速の変速位置の変速スプロケット42〜47を選択するように変速操作部材61が操作されると、インナケーブル62bによりディレイラ70の平行リンク機構73が操作されて、平行リンク機構73によりホルダH、ガイドプーリ72、アームR、テンションプーリ82が軸方向での右方および回転中心線L3に対して径方向内方に移動し、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82と共に右方に移動するチェーンCの張力が、駆動スプロケット32を主軸12aに対して右方に移動させると同時にチェーンCは選択された変速スプロケット42〜47に巻掛けられる。
【0085】
このようにして、変速操作機構60による変速操作に応じて作動するディレイラ70により、変速スプロケット41〜47の間でチェーンCが掛け換えられて、チェーンCが掛け渡される選択された作動スプロケットと駆動スプロケット32とにより決定される変速比で自転車Bが走行する。
【0086】
そして、例えば自転車Bが後進状態や停車状態にあって、変速スプロケット41〜47の逆回転時や停止時に、すなわち変速スプロケット41〜47が正回転していないときに変速操作機構60による変速操作が行われたとき、チェーンCがガイドプーリ72の軌道面P1またはテンションプーリ82の軌道面P2から外れて、離脱部C11,C12,C13,C14が形成されることがある。
【0087】
このような場合に、ガイドプーリ72の軌道面P1から外れたチェーンCの離脱部C11,C13をガイドプーリ72に係合させる係合復帰手段が、軸方向でガイドプーリ72の軌道面P1の左方および右方にそれぞれ配置されて軌道面P1から離れる方向で軸方向に延びる延出部106 およびバネ収容部80の周壁80aから構成され、延出部106 および周壁80aは、延出部106 および周壁80aに乗り上げた離脱部C11,C13が、変速スプロケット41〜47が正回転するときのチェーンCの張力により、延出部106 および周壁80aをそれぞれ摺動して軌道面P1に向けて移動した後にガイドプーリ72と係合するように案内する。
【0088】
これにより、変速スプロケット41〜47の逆回転時や停止時などに、変速操作によりガイドプーリ72およびテンションプーリ82が軸方向に移動することに起因して、チェーンCが軌道面P1から外れたとしても、係合復帰手段を構成する延出部106 または周壁80aにより、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82が軸方向のいずれの側方に移動する場合にも、離脱部C11,C13は、延出部106 または周壁80aの案内面107 ,80b上を摺動し、その後ガイドプーリ72と再度係合するように、延出部106 または周壁80aにより案内されるので、変速スプロケット41〜47が正回転するときに、離脱部C11,C13が、ガイドプーリ72と第1,第2アーム部100 ,120 との間に噛み込まれることやガイドプーリ72の側方でガイドプーリ72の回転軌跡72cよりも径方向内方に位置することなどが防止されて、チェーンCの走行が可能になる。したがって、例えば自転車Bが後進していて変速スプロケット41〜47が逆回転しているときに変速操作が行われたとしても、変速スプロケット41〜47とガイドプーリ72との間でチューブ詰まり(すなわち、チューブCの滞留)が発生することはなく、変速スプロケット41〜47が正回転するときに、チェーンCがガイドプーリ72との係合状態に確実に復帰する。
この結果、離脱部C11,C13がガイドプーリ72との係合状態に復帰するのが容易になり、変速スプロケット41〜47が逆回転しているときなど変速スプロケット41〜47が正回転していない場合を含めて、変速スプロケット41〜47のいかなる回転状態においても変速操作が可能となり、その変速操作に基づいて変速を実行できる。
【0089】
前記ホルダ部材は、支持部78を介してガイドプーリ72を回転可能に支持する第1,第2ホルダ部76,77と、ホルダHの支持部78に支持されてチェーンCに張力を付与するテンションプーリ82を支持部84を介して回転可能に支持する第1,第2アーム部100 ,120 とを備え、延出部106 は第1アーム部100 に一体成形され、周壁80aは、テンションプーリ82をチェーンCに押し付ける弾発力を発生するテンションバネ83を収容するバネ収容部80の周壁80aであることにより、延出部106 および周壁80aは、それぞれ、テンションプーリ82を支持する部材である第1アーム部100 およびバネ収容部80を利用して設けられるので、延出部106 および周壁80aを構成する専用の部材を用意する必要がないので、係合復帰手段を備える変速装置Tの部品点数の増加が抑制され、変速装置Tのコストが削減される。
【0090】
また、折り曲げられて形成された延出部106 は、両外周縁部104 ,105 においてガイドプーリ72に対向する面104b,105bに滑らかに連続する案内面107 を有するように形成されることにより、離脱部C11は、案内面107 上を円滑に移動して、ガイドプーリ72との係合状態に復帰することができるので、離脱部C11の該係合状態への復帰の迅速性および確実性が向上し、ひいては変速の実行の迅速性および確実性が向上する。
【0091】
変速スプロケット41〜47は、外径が軸方向での左方に順次大きくなるように配列され、延出部106 および周壁80aは、軌道面P1に対して左方側および右方側にそれぞれ配置され、延出部106 において離脱部C11が乗り上げ得る案内面107 は、周壁80aにおいて離脱部C13が乗り上げ得る案内面80bに比べて、ガイドプーリ72の回転中心線L4からの距離d1が小さい位置にあることにより、ガイドプーリ72が左方に移動するときに、延出部106 と変速スプロケット41〜47との干渉が排除されるので、変速操作の確実性が確保され、そのうえ、変速スプロケット41〜47とガイドプーリ72を近接して配置することができるので、変速装置Tを小型化することができ、しかも変速操作の確実性が向上すると共にスムーズな変速を可能となる。
【0092】
延出部106 は、ガイドプーリ側ガイド部101 から、連結部103 において側面視でテンションプーリ82と重なる位置まで連続して設けられており、延出部106 の軸方向での幅W3は、チェーンCの軸方向での幅W4にほぼ等しいことにより、延出部106 は第1アーム部100 の補強リブとして機能するので、テンションプーリ82を支持する第1アーム部100 の剛性が高められ、また離脱部C11をガイドプーリ72との係合状態に復帰させるための案内機能が確保されたうえで、第1延出部106 の軸方向での幅を小さくすることができるので、軸方向で延出部106 を小型化することができて、スプロケット群40とガイドプーリ72とを軸方向で近接して配置することができ、軸方向で変速装置Tを小型化することができる。
【0093】
アームRは、ガイドプーリ72およびテンションプーリ82の軌道面P1,P2の軸方向での両側方にそれぞれ配置される第1アーム部100 と第2アーム部120 とからなり、第1アーム部100 に延出部106 が設けられ、第2アーム部120 に軸方向で隣接してバネ収容部80の周壁80aが設けられ、軸方向でガイドプーリ72と周壁80aとの間に配置される第2アーム部120 の、径方向での最先端124aは、周壁80aの案内面80bに比べて、ガイドプーリ72の回転中心線L4からの距離d2が同じであることにより、離脱部C13は、第2アーム部120 により妨げられることなく、周壁80aに案内されて案内面80b上を円滑に移動して、ガイドプーリ72との係合状態に復帰することができるので、離脱部C13の該係合状態への復帰の迅速性および確実性が向上し、ひいては変速の実行の迅速性および確実性が向上する。さらに、第2アーム部120 のガイドプーリ側ガイド部121 の外周縁部124 に傾斜面125 が形成されていることにより、案内面80b上を移動してきた離脱部C13がガイドプーリ72と係合することが一層容易になる。
【0094】
延出部106 の幅W3は、軸方向で隣接する2つの変速スプロケットが軸方向で占有する幅W5にほぼ等しく、周壁80aの軸方向での幅W8は、延出部106 の幅W3よりも大きいことにより、延出部106 および周壁80aにより、離脱部C11,C13をガイドプーリ72との係合状態に復帰させるための案内機能が確保されたうえで、第1延出部106 の軸方向での幅W3を小さくすることができるので、軸方向で延出部106 を小型化することができて、変速スプロケット41〜47群とガイドプーリ72とを軸方向で近接して配置することができるので、軸方向で変速装置Tを小型化することができる。また、周壁80aにおいては、離脱部C13の軸方向への移動幅が大きい場合にも、離脱部C13が周壁80aに確実に乗り上げるようにして、離脱部C13をガイドプーリ72との係合状態に復帰させることができるので、離脱部C13の係合状態への復帰の確実性が向上し、ひいては変速の実行の確実性が向上する。
【0095】
小径外周縁部105 の延出部106 は、大径外周縁部104の延出部106 よりも、径方向で内方であって、回転中心線L4寄りに位置することにより、より高速の変速位置への変速操作において、変速後の変速スプロケットの外径と変速前の変速スプロケットの外径との差が大きい場合にも、離脱部C11が延出部106 から外れることなく、離脱部C11が確実に延出部106 に乗り上げるようにして、離脱部C11をガイドプーリ72との係合状態に復帰させることができるので、離脱部C13の係合状態への復帰の確実性が向上し、ひいては変速の実行の確実性が向上する。
【0096】
第1,第2アーム部100 ,120 には、テンションプーリ82におけるチェーンCの巻入れ側に、テンションプーリ82の軌道面P2から外れたチェーンCの離脱部C12,C14をテンションプーリ82に係合させる係合復帰案内部110 ,130 が設けられ、係合復帰案内部110 ,130 は、離脱部C12,C14全体をテンションプーリ82の回転軌跡82cよりも径方向で外方に位置させると共に、離脱部C12,C14がチェーンCの張力により軌道面P2に向けて移動した後にテンションプーリ82と係合するように案内する。
【0097】
これにより、変速スプロケット41〜47の停止時など、変速スプロケット41〜47が正回転していないとき、特に変速スプロケット41〜47が停止しているときに、変速操作によりテンションプーリ82が軸方向に移動することに起因して、チェーンCが軌道面P2から外れたとしても、係合復帰案内部110 ,130 により、チェーンCの離脱部C12,C14は、係合復帰案内部110 ,130 に案内されて、テンションプーリ82との係合状態に復帰するので、離脱部C12,C14がテンションプーリ82と第1,第2アーム部100 ,120 との間に噛み込まれることやテンションプーリ82の側方でテンションプーリ82の回転軌跡82cよりも径方向内方に位置することなどが防止されて、チェーンCの走行が可能になる。この結果、変速操作によりテンションプーリ82の軌道面P2から外れた離脱部C12,C14は係合復帰案内部110 ,130 により案内されてテンションプーリ82と再度係合して、チェーンCの走行が可能となるので、離脱部C12,C14がテンションプーリ82との係合状態に復帰するのが容易になり、変速スプロケット41〜47の停止状態を含む変速スプロケットが正回転していない回転状態においても変速操作が可能となり、その変速操作に基づいて変速を実行できる。
【0098】
ディレイラ70は、変速スプロケット41〜47の中から選択された1つの作動スプロケットに巻き掛けられるチェーンCを案内するガイドプーリ72と、ガイドプーリ72を回転可能に支持すると共にアームRと共に軸方向に移動可能なホルダHとを備え、アームRは、軸方向でテンションプーリ82およびガイドプーリ72の両側方に配置される1対のアーム部100 ,120 を備え、各アーム部100 ,120 には、テンションプーリ82におけるチェーンCの巻掛け部の外れを防止するテンションプーリ側ガイド部102 ,122 と、ホルダHに支持される被支持部であるガイドプーリ側ガイド部101 ,121 とが形成され、両ガイドプーリ側ガイド部101 ,121 間の軸方向での間隔W1は、両テンションプーリ側ガイド部102 ,122 間の軸方向での間隔W2よりも大きい。
【0099】
これにより、アームRを軸方向へ移動させる力がディレイラ70から作用する部分であるガイドプーリ側ガイド部101 ,121 における曲げ剛性を高めることができるので、軽量化が可能になる。また、アームRにおいてテンションプーリ側ガイド部102 ,122 の軸方向での間隔を小さくすることで、テンションプーリ側ガイド部102 ,122 をテンションプーリ82に接近させて配置することができるので、係合復帰案内部110 ,130 に案内される離脱部C12,C14を、確実にテンションプーリ82との係合状態に復帰させることができて、離脱部C12,C14の該係合状態への復帰の確実性が向上する。
【0100】
係合復帰案内部110 ,130 の周方向での形成範囲は、中心平面P3に対して、側面視でテンションプーリ82の回転中心線を中心としたテンションプーリ82の正回転方向A0および逆回転方向でほぼ同一の角度θ1,θ2になる範囲であることにより、中心平面P3を中心に係合復帰案内部110 ,130 の周方向での形成範囲を十分に確保できるので、離脱部C12,C14のテンションプーリ82との係合状態への復帰が容易になり、離脱部C12,C14のテンションプーリ82との係合状態への復帰の確実性が向上する。また、係合復帰案内部110 ,130 に接触する離脱部C12,C14が係合復帰案内部110 ,130 に作用させる力の作用点が中心平面P3の近くになるようにできることから、該力により各アーム部100 ,120 に作用するトルクを低減できるので、各アーム部100 ,120 の捩り剛性を高めるために、各アーム部100 ,120 を大きくして、その重量を増加させる必要がなく、各アーム部100 ,120 の軽量化が可能になる。
【0101】
アームRは、軸方向でテンションプーリ82の両側方に配置されると共に係合復帰案内部110 ,130 が形成された1対のアーム部100 ,120 を備え、各係合復帰案内部110 ,130 は、離脱部C12,C14が接触すると共に軌道面P2から離れる方向で軸方向に延びる案内面112 ,132 を有し、案内面112 ,132 において軸方向で最もテンションプーリ82に近い端部112a,132aは、テンションプーリ82と係合しているチェーンCの内周縁C4aとほぼ同じ位置であることにより、離脱部C12,C14は案内面112 ,132 に容易に乗り上げるため、離脱部C12,C14の開始部C12a,C14aが、係合復帰案内部110 ,130 においてテンションプーリ82の正回転方向A0寄りの位置であって外れ防止部111 ,131 の付近になるので、駆動スプロケット32の巻出し側から極力離れた部位に開始部C12a,C14aが位置するようにできて、テンションプーリ82の軸方向での移動によるチェーンCの捩れの程度が緩和され、変速操作の際のチェーンCからの抵抗力が低減する。この結果、チェーンCの捩れに起因するチェーンCからの抵抗力が低減するので、変速操作が容易になる。
【0102】
変速装置Tの第1ケース部21には、変速スプロケット41〜47の中でケース20に軸方向で隣接する隣接スプロケットである変速スプロケット41に係合するチェーンCの巻掛け部C1と、側面視で重なる位置に、第1ケース部21に近づく方向でのチェーンCの軸方向の移動を規制する突出部56が設けられ、突出部56は、チェーンCとの接触により変速スプロケット41からチェーンCが外れるのを防止することにより、変速スプロケット41への変速操作時に、チェーンCが変速スプロケット41を越えて軸方向に移動することが突出部56により防止されて、チェーンCが変速スプロケット41から外れることがないことから、チェーンCの外れ防止のために、変速操作に基づく変速位置に対応したチェーンCまたはガイドプーリ72の、軸方向での位置設定を高精度に行う必要がなく、簡単な構造で、急激な変速操作によりチェーンCが変速スプロケット41から外れるのが防止される。
【0103】
突出部56は、軸方向で巻掛け部C1に向かって突出するように第1ケース部21に一体成形されることにより、突出部56を構成する専用の部材を用意する必要がないので、変速装置Tの部品点数およびコストが削減され、さらに変速装置Tが軽量化される。
【0104】
第1ケース部21には、突出部56から変速スプロケット41の径方向で外方に延びる内側リブ57が、軸方向に突出して設けられ、内側リブ57の軸方向での頂面57aは、突出部56においてチェーンCとの接触によりその軸方向での移動を規制する頂面56dとほぼ同じ位置にあることにより、内側リブ57により第1ケース部21の剛性が一層高められると共に、突出部56よりも径方向外方に膨らんだ場合にも、該膨らんだ部分が突出部56を越えて軸方向に移動することが防止されるので、チェーン外れ防止効果が一層向上する。
【0105】
板材からなる第1ケース部21には、突出部56、内側リブ57および外側リブ58が一体形成されるため、第1ケース部21の剛性が向上する。
【0106】
また、突出部56には、第2部分56bが設けられることにより、チェーンCに滞留部C2が形成されている状態での、変速スプロケット41への変速操作時にも、チェーンCが変速スプロケット41を越えて軸方向に移動することが突出部56により防止されて、チェーンCが変速スプロケット41から外れることがない。
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
変速装置Tのケースは、合成樹脂製であってもよい。ケースは、変速機構M1、ディレイラ70およびテンショナ74が収容される密閉された収容室を形成するものであったが、例えばスプロケット群40の軸方向での少なくとの左方を覆うケースであってもよいなど、外気に開放した収容室を形成するものであってもよい。
【0107】
延出部106 または案内面107 は、径方向で外方に向かうにつれて軌道面P1から離れる方向で軸方向に延びるように傾斜していてもよい。また、延出部106 は、第1アーム部100 に削り出しや鋳造により一体成形されてもよく、各係合復帰案内部110 ,130 は、第1アーム部100 または第2アーム部120 に削り出しや鋳造により一体成形されてもよい。係合復帰案内部110 ,130 または案内面112 ,132 は、回転中心線L5に平行に延びていてもよい。
【0108】
第2アーム部120 の外周縁部124 最先端124aは、回転中心線L4からの距離が距離d2よりも小さい位置にあってもよい。
突出部は、周方向または径方向に部分的に形成されていてもよい。
前記実施形態では、共通スプロケットが駆動スプロケット32により構成され、変速スプロケット41〜47が被動スプロケットにより構成されたが、複数の変速スプロケットが複数の駆動スプロケットにより構成され、該変速スプロケットとの間に変速用チェーンが掛け渡される共通スプロケットが被動スプロケットにより構成されてもよい。
スプロケット群が後輪の回転中心線と同軸に設けられる出力軸に設けられて、該スプロケット群が出力用被動スプロケットにより構成されてもよい。変速装置Tは、自転車以外の機械に備えられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施形態を示し、本発明が適用された変速装置を備える自転車の概略の左側面図である。
【図2】図1の変速装置の第2ケース部を外した状態での、図3のII矢視および一部を断面で示す図である。また、実線は最高速の変速位置でのアームを示し、二点鎖線は最低速の変速位置でのアームを示す。
【図3】図2のIII−III線断面図であり、ディレイラの一部については断面を示す図である。また、実線は最高速の変速位置でのアームを示し、二点鎖線は最低速の変速位置でのアームを示す。
【図4】図2のIV−IV線断面図であり、ディレイラの一部については、IVa線での断面図である。また、実線は最高速の変速位置でのアームを示し、二点鎖線は最低速の変速位置でのアームを示す。
【図5】図2のV−V線断面図である。
【図6】図1の変速装置のケースの要部側面図であり、図4のVI矢視図である。
【図7】図1の変速装置のケースの要部側面図であり、図4のVII矢視図である。
【図8】図6のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図4の要部拡大図である。また、実線は最高速の変速位置でのアームを示し、二点鎖線は最低速の変速位置でのアームを示す。
【図10】(A)、(B)は、図1の変速装置のディレイラに備えられる1対のアームのそれぞれの側面図であり、図9のX矢視図である。また、実線は最高速の変速位置でのアームを示し、二点鎖線は最低速の変速位置でのアームを示す。
【図11】図10のXI矢視でのディレイラに備えられるホルダおよびアームの概略図である。
【図12】図10のXII矢視でのディレイラに備えられるアームの概略図である。
【符号の説明】
【0110】
12…クランク軸、15…出力軸、20…ケース、32…駆動スプロケット、41〜47…変速スプロケット、56…突出部、57,58…リブ、60…変速操作機構、70…ディレイラ、72…ガイドプーリ、76,77…ホルダ部、80…バネ収容部、80a…周壁、82…テンションプーリ、100 ,120 …アーム部、104 ,105 ,124 …外周縁部、106 …延出部、107 …案内面、110 ,130 …係合復帰案内部、112 ,132 …案内面、
B…自転車、T…変速装置、F…車体フレーム、M1…変速機構、M2…変速切換機構、C…チェーン、C11,C12,C13,C14…離脱部P1,P2…軌道面、P3…中心平面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に配列された複数の変速スプロケットと、変速操作に応じて前記複数の変速スプロケットの間でチェーンを掛け換える掛換え機構とを備え、前記掛換え機構には、前記チェーンに張力を付与するテンションプーリを回転可能に支持するアームが備えられ、変速操作により前記アームが軸方向に移動する変速装置において、
前記アームには、前記テンションプーリにおける前記チェーンの巻入れ側に、前記テンションプーリの軌道面から外れた前記チェーンの離脱部を前記テンションプーリに係合させる係合復帰案内部が設けられ、前記係合復帰案内部は、前記離脱部全体を前記テンションプーリの最外周端の回転軌跡よりも径方向で外方に位置させると共に、前記離脱部が前記チェーンの張力により前記軌道面に向けて移動した後に前記テンションプーリと係合するように案内することを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記掛換え機構は、前記複数の変速スプロケットの中から選択された1つの作動スプロケットに巻き掛けられる前記チェーンを案内するガイドプーリと、前記ガイドプーリを回転可能に支持すると共に前記アームと共に軸方向に移動可能なホルダとを備え、前記アームは、軸方向で前記テンションプーリおよび前記ガイドプーリの両側方に配置される1対のアーム部を備え、前記各アーム部には、前記テンションプーリにおける前記チェーンの巻掛け部の外れを防止するテンションプーリ側ガイド部と、前記ホルダに支持される被支持部とが形成され、前記両被支持部間の軸方向での間隔は、前記両テンションプーリ側ガイド部間の軸方向での間隔よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の変速装置。
【請求項3】
前記係合復帰案内部の周方向での形成範囲は、前記テンションプーリの回転中心線および前記ガイドプーリの回転中心線を含む中心平面に対して、側面視で前記テンションプーリの回転中心線を中心とした前記テンションプーリの正回転方向および逆回転方向でほぼ同一の角度になる範囲であることを特徴とする請求項2記載の変速装置。
【請求項4】
前記アームは、軸方向で前記テンションプーリの両側方に配置されると共に前記係合復帰案内部が形成された1対のアーム部を備え、前記各係合復帰案内部は、前記離脱部が接触すると共に前記軌道面から離れる方向で軸方向に延びる案内面を有し、前記案内面において軸方向で最も前記テンションプーリに近い端部は、前記テンションプーリと係合している前記チェーンの内周縁とほぼ同じ位置であることを特徴とする請求項1記載の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−62577(P2006−62577A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249312(P2004−249312)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】