説明

変速装置

【課題】シフトフィンガの位置の検出精度を維持する。
【解決手段】シフトフィンガ57、56をセレクト方向及びシフト方向に移動させ、柱部41a〜41dをシフト方向に押圧することでシフトラグを選択的にシフト方向に移動させて変速を行う変速装置において、シフトフィンガ57のセレクト方向の移動を規制するセレクト方向ストッパと、セレクト方向ストッパにより移動が規制されるセレクト位置においてシフトフィンガ57のシフト方向の移動を規制する第1のシフト方向ストッパ91と、を備え、セレクト方向ストッパにより移動が規制された状態で第1のセンサにより検出されたシフトフィンガ57のセレクト位置に基づいて第1のセンサの基準位置を補正するとともに、第1のシフト方向ストッパ91により移動が規制された状態で第2のセンサにより検出されたシフトフィンガ57のシフト位置に基づいて第2のセンサの基準位置を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械式の自動変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の変速装置として、トルクコンバータを使用しない機械式の自動変速装置が知られている。この機械式の自動変速装置では、手動変速装置における変速機の操作(セレクト及びシフト)及びクラッチの断接をアクチュエータにより作動させることで、トルクコンバータを不要とした自動変速を可能としている。上記変速装置は、例えばセレクト方向及びシフト方向にスライドや回転により移動可能なシャフトと、セレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、該シフトラグとシフトフォークとを夫々連結するシフトレールとを備えている。更に、シャフトには外方に突出してシフトフィンガが設けられているとともに、各シフトラグには柱部が設けられている。そして、例えば電動モータによりシャフトをセレクト方向及びシフト方向に移動させることで、シフトフィンガによりシフトラグの柱部を選択的に押しシフト方向に移動させて、シフトフォークを選択的にシフト作動させるように構成されている(特許文献1)。
【0003】
一方、手動変速装置では、複数のシフトラグをセレクト方向に近接して配置し、操作性の向上を図っている。そして、シフトフィンガにより隣り合うシフトラグを同時にシフト作動させないように、シフト作動させようとするもの以外のシフトラグの移動を規制するインタロック防止用プレートが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4285580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のような自動変速装置では、シフトフィンガを所望のシフト位置及びセレクト位置に移動させるべく、シフトフィンガのシフト方向及びセレクト方向の位置を検出するためのセンサが夫々備えられている。ただし、それぞれの位置を絶対位置として検出可能なセンサは高価であるので、コスト大幅低減のためにセンサは、例えば電動モータに内蔵された回転角を検出するセンサのように、比較的安価な相対角センサが用いられている場合がある。
【0006】
しかしながら、このような相対角センサでは、電源を投入する毎に基準位置にずれを生じる虞がある。また、変速は車両の走行により頻繁に行われるので、基準位置に少しずつ誤差が生じる可能性がある。そして、この基準位置の誤差が蓄積されると、シフトフィンガの位置を正確に把握できなくなる虞がある。例えばシフト方向に誤差が生じると、シフトフィンガがシフト位置あるいはニュートラル位置に正確に移動できなくなる虞がある。また、セレクト方向に誤差が生じると、所望のシフトラグのセレクト位置に一致せずに、シフト作動が不能となったり、誤ったシフトラグをシフト作動させてしまったりする虞がある。
【0007】
そこで、上記手動変速装置のようにインタロック防止用プレートを採用すれば、少なくとも2つのシフトラグを同時にシフトさせることを防止することが可能となる。しかし、近年開発の進んでいるデュアルクラッチ式変速装置に用いられる機械式の自動変速装置では、変速中に2つのシフトラグを同時にシフトさせる機会があるため、このようなインタロック防止用プレートを採用することが困難である。したがって、誤作動を防止するためにセンサの基準位置を定期的あるいは誤作動時に確認し補正しなければならず、メンテナンスの工数が増加してしまうといった問題点がある。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、高価な絶対位置検出センサを用いることなく、センサの基準位置補正を容易に可能とすることで、シフト部材(シフトフィンガ)の位置を常に正確に把握しシフトラグの誤作動を防止する、デュアルクラッチ式変速装置にも採用可能な機械式の自動変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、アクチュエータによりセレクト方向及びシフト方向に移動可能なシフト部材と、シフト部材に押圧される押圧部を有しセレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、シフトレールを介してシフトラグと連結され変速段のシフト作動を行うシフトフォークと、基準位置に対するシフト部材のセレクト方向の移動量を検出するセレクト方向移動量検出手段と、基準位置に対するシフト部材のシフト方向の移動量を検出するシフト方向移動量検出手段と、セレクト方向移動量検出手段により検出したセレクト方向の移動量、及びシフト方向移動量検出手段により検出したシフト方向の移動量に基づいてアクチュエータを作動制御して、シフト部材をセレクト方向及びシフト方向に移動させ、押圧部をシフト方向に押圧することでシフトラグを選択的にシフト方向に移動させ、シフトレールを介してシフトフォークをシフト作動させて変速を行う変速装置において、変速時に移動し得るシフト部材のセレクト方向の移動範囲より外方で、シフト部材の更なる外方へのセレクト方向の移動を規制するセレクト方向移動規制手段と、セレクト方向移動規制手段により移動が規制されるセレクト方向の位置において、シフト部材のシフト方向の移動を規制する第1のシフト方向移動規制手段と、セレクト方向移動規制手段によりセレクト方向への移動が規制された位置に基づいて、セレクト方向移動量検出手段の基準位置を補正するセレクト方向基準位置補正手段と、第1のシフト方向移動規制手段によりシフト方向への移動が規制された位置に基づいて、シフト方向移動量検出手段の基準位置を補正する第1のシフト方向基準位置補正手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1において、変速時に移動し得るシフト部材のセレクト方向の移動範囲において、シフト部材のシフト方向の移動範囲より外方で、シフト部材の更なる外方へのシフト方向の移動を規制する第2のシフト方向移動規制手段と、変速時に移動し得るシフト部材のセレクト方向の移動範囲において、第2のシフト方向移動規制手段によりシフト方向への移動が規制された位置に基づいて、シフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正する第2のシフト方向基準位置補正手段と、を更に備え、第2のシフト方向基準位置補正手段によりシフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正した後に、セレクト方向基準位置補正手段によるセレクト方向移動量検出手段の基準位置の補正、及び第1のシフト方向基準位置補正手段によるシフト方向移動量検出手段の基準位置の補正を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または2において、隣り合う前記押圧部のセレクト方向の間隔は、シフト部材がシフト方向に通過可能に設定されていることを特徴とする。 また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、シフト部材は、セレクト方向及びシフト方向に同時に移動するように複数設けられ、複数のシフト部材のうちいずれか一つのシフト部材が押圧部とセレクト方向の位置が一致しているときに、他のシフト部材がいずれの押圧部ともセレクト方向の位置が一致しないように、シフトラグが配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の変速装置によれば、シフト部材をセレクト方向に移動させ、セレクト方向移動規制手段により移動が規制された位置に基づいて、セレクト方向移動量検出手段の基準位置が補正されるので、セレクト方向移動量検出手段の基準位置のずれを容易に解消させることができる。
また、シフト部材をシフト方向に移動させ、第1のシフト方向規制手段により移動が規制された位置に基づいて、シフト方向移動量検出手段の基準位置が補正されるので、シフト方向移動量検出手段の基準位置のずれを容易に解消させることができる。
【0013】
このように、セレクト方向移動規制手段及び第1のシフト方向移動規制手段を備えることで、セレクト方向基準位置補正手段及び第1のシフト方向基準位置補正手段によって、セレクト方向移動量検出手段及びシフト方向移動量検出手段の基準位置の誤差を容易に補正できるので、例えば電源投入時にこれらの基準位置の補正を自動的に実施させることで、セレクト方向移動量検出手段及びシフト方向移動量検出手段の検出精度を維持し、シフト部材の正確な作動を可能とし、シフトラグの誤作動を防止することができる。
【0014】
また、本発明の請求項2の変速装置によれば、シフト方向移動量検出手段の基準位置が大幅に誤差を生じてしまった場合でも、第2のシフト方向基準位置補正手段により、シフト方向移動量検出手段の基準位置が仮補正されるので、その後のセレクト方向基準位置補正手段による補正時に、シフト部材をセレクト方向に移動させる際に、シフト部材をシフトラグと干渉することなく確実にセレクト方向規制手段によって移動が規制される位置まで移動させることができる。したがって、セレクト方向基準位置補正手段によるセレクト方向移動量検出手段の基準位置を確実に補正することができる。その後、第1のシフト方向基準位置補正手段によるシフト方向移動量検出手段の基準位置も確実に補正することができる。
【0015】
また、本発明の請求項3の変速装置によれば、シフト部材の位置検出に誤差が生じても、少なくともシフト部材によって2つの押圧部を同時に押すことによるシフトラグの2重押し等の誤作動を防止することができる。
従って、手動変速装置のような、2つのシフトラグを同時にシフトさせることを防止するインタロック防止用プレートを用いることなく、シフトラグの2重押し等の誤作動を防止できるので、デュアルクラッチ式変速装置にも採用可能である。
【0016】
また、第2のシフト方向基準位置補正手段により、シフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正する際に、シフト部材が、シフトラグと干渉することなく、確実にシフト方向に移動できる。
また、本発明の請求項4の変速装置によれば、複数のシフト部材のうち1つのシフト部材が押圧部をシフト作動させるときに、他のシフト部材は他の押圧部に干渉しないので、シフト部材の位置検出に誤差が生じていても、少なくとも2つのシフト部材によって2つの押圧部を同時に押すことによるシフトラグの誤作動を防止することができる。
【0017】
従って、手動変速装置のような、2つのシフトラグを同時にシフトさせることを防止するインタロック防止用プレートを用いることなく、シフトラグの2重押し等の誤作動を防止できるので、デュアルクラッチ式変速装置にも採用可能である。
また、第2のシフト方向基準位置補正手段により、シフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正する際に、シフト部材が、シフトラグと干渉することなく、確実にシフト方向に移動できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態としてのデュアルクラッチ式変速装置の変速機部の模式図である。
【図2】本発明の変速装置の一実施形態に係るギヤシフト機構の構成を示す斜視図である。
【図3】同ギヤシフト機構の構成を示す斜視図である。
【図4】同ギヤシフト機構の構成を示す側面図である。
【図5】第1のシフト方向ストッパ及び第2のシフト方向ストッパの詳細形状を示す上面図である。
【図6】各柱部及び各シフトフィンガの配置を説明する説明図である。
【図7】ECUにおける第1のセンサ及び第2のセンサの基準位置の補正要領を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態としてのデュアルクラッチ式変速装置の変速機部1の模式図である。
図1に示すように、変速機部1は、2個のクラッチ2、3と、同軸上に配置された2個の主軸4、5と、3個の副軸6、7、8とを備えている。第1の主軸4は第1のクラッチ2を介して、エンジンの出力軸9から動力が伝達される一方、第2の主軸5は第2のクラッチ3を介して出力軸9から動力が伝達されるよう構成されている。
【0020】
第1の副軸6第2の副軸7及び第3の副軸8は、第1の主軸4及び第2の主軸5と軸線が平行になるように夫々離間して配置されているとともに、変速機部1の後段のデフ10に動力を伝達可能に構成されている。第1の主軸4には、1速用固定ギヤ11a、3速用固定ギヤ13a、5速用固定ギヤ15aが第1の主軸4と一体回転するように固定されている。第2の主軸5には、2速およびリバース用固定ギヤ12a、4速および6速用固定ギヤ14aが第2の主軸と一体回転するように固定されている。また、第1の副軸6には、1速用遊転ギヤ11b、2速用遊転ギヤ12b、4速用遊転速ギヤ14b、5速用遊転速ギヤ15bが第1の副軸6に対して相対回転可能に枢支されている。第2の副軸7には、3速用遊転ギヤ13b、6速用遊転ギヤ16b、リバース用中間遊転ギヤ18bが第2の副軸7に対して相対回転可能に枢支されている。第3の副軸8には、リバース用遊転ギヤ18cが第3の副軸8に対して相対回転可能に枢支されている。
【0021】
このようなギヤ配置により、1速用固定ギヤ11aと1速用遊転ギヤ11bとで1速ギヤ11を構成し、2速およびリバース用固定ギヤ12aと2速用遊転ギヤ12bとで2速ギヤ12を構成し、3速用固定ギヤ13aと3速用遊転ギヤ13bとで3速ギヤ13を構成し、4速および6速用固定ギヤ14aと4速用遊転ギヤ14bとで4速ギヤ14を構成し、5速用固定ギヤ15aと5速用遊転ギヤ15bとで5速ギヤ15を構成し、4速および6速用固定ギヤ14aと6速用遊転ギヤ16bとで6速ギヤ16を構成し、2速およびリバース用固定ギヤ12aとリバース用中間遊転ギヤ18bとリバース用遊転ギヤ18cとでリバースギヤ18を構成する。
【0022】
また、変速機部1には、シンクロスリーブ201、211、221、231、241とシフトフォーク20〜24が備えられており、シンクロスリーブ201、211、221、231、241は、シフトフォーク20〜24によってそれぞれの副軸の軸線に沿ってスライド移動させられる。このうち第1のシンクロスリーブ201及び第2のシンクロスリーブ211は、第1の副軸6の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク20及びシフトフォーク21によって、それぞれスライド移動させられる。第3のシンクロスリーブ221及び第4のシンクロスリーブ231は、第2の副軸7の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク22及びシフトフォーク23によって、それぞれスライド移動させられる。第5のシンクロスリーブ241は、第3の副軸8の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク24によってスライド移動させられる。
【0023】
これらのシンクロスリーブ201、211、221、231、241をスライド移動させることで、第1のシンクロスリーブ201により1速ギヤ11及び5速ギヤ15を、第2のシンクロスリーブ211により2速ギヤ12及び4速ギヤ14を、夫々選択的に副軸6に断接(シフト作動)可能となっているとともに、第3のシンクロスリーブ221により3速ギヤ13を、第4のシンクロスリーブ231により6速ギヤ16を、夫々選択的に副軸7に断接(シフト作動)可能となっている。更に、第5のシンクロスリーブ241によりリバースギヤ18を選択的に副軸8に断接(シフト作動)可能となっている。
【0024】
即ち、デュアルクラッチ式変速装置の変速機部1では、第1のクラッチ2を介して1速、3速及び5速に選択的に切り換え可能である一方、第2のクラッチ3を介して2速、4速、6速及びリバースに選択的に切り換え可能に構成されている。
次に、図2〜4を用いて、上記デュアルクラッチ式変速装置のシフトフォーク20〜24を駆動させるギヤシフト機構について説明する。
【0025】
図2、3は、本発明の変速装置の一実施形態に係るギヤシフト機構の構成を示す斜視図である。図4は、同ギヤシフト機構の構成を示す側面図である。
図2〜4に示すように、シフトフォーク20〜24は、シフト方向(図4における紙面前後方向)に移動可能に設けられたシフトレール30a〜30eに固定されている。また、シフトレレール30a〜30eには、シフトラグ40a〜40dが設けられている。
【0026】
シフトラグ40a〜40dは、夫々シフトレール30a〜30dから後述するシフトシャフト50に向けて垂直に延びる板状部材であって、その先端に柱部41a〜41d(押圧部)が夫々設けられている。尚、シフトレール30dとシフトレール30eとは一体的にシフト方向に移動するようにシフトラグ40dが設けられている。
シフトラグ40a〜40dは、各変速ギヤが非接続(ニュートラル)の状態にて、その柱部41a〜41dがシフト方向に垂直なセレクト方向(図4における上下方向)に延びる同一線上に間隔を持って配置されている。詳しくは、図4における下方から順番に、第1の柱部41a、第2の柱部41b、第3の柱部41c、第4の柱部41dが配置されている。
【0027】
シフトラグ40a〜40dの側方には、柱部41a〜41dの並びと平行にセレクト方向に延びるシフトシャフト50が設けられている。
シフトシャフト50は、ケーシング51に固定されたセレクト方向に延びる中心軸52と、円筒状のシフトスリーブ53及びセレクトスリーブ54とにより構成されている。シフトスリーブ53は、中心軸52が挿入されており、中心軸52に対して軸方向に移動可能かつ回転可能に支持されている。シフトスリーブ53には、扇状または円盤状のシフト駆動ギヤ55が固定されている。シフトスリーブ53の下端部には第1のシフトフィンガ56が、上端部には第2のシフトフィンガ57が固定されている。第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57は、シフトスリーブ53の外周壁から半径外方に所定角度の間隔を持って二股に突出したアーム状の部材であって、本発明のシフト部材に該当する。
【0028】
セレクトスリーブ54は、シフトスリーブ53の外周に配置され、シフトスリーブ53に相対回転可能に支持されているとともに、シフトスリーブ53に設けられた鍔部58と第2のシフトフィンガ57との間に配置され、シフトスリーブ53に対するセレクト方向(軸方向)への移動が規制されている。セレクトスリーブ53の側面には、セレクト方向に延びる長穴59が設けられ、この長穴59にはケーシング51に固定された回転規制用ピン60の先端が挿入されている。よって、セレクトスリーブ54は、ケーシング51に対して、セレクト方向への移動は許容されているものの、回転方向への移動が規制されている。
【0029】
セレクトスリーブ54の側面には、軸方向(セレクト方向)に延びてラック61が形成されている。そして、このラック61に噛み合うピニオン62は、減速機63を介してセレクト用モータ64によって回転駆動される。一方、シフトスリーブ53に固定されたシフト駆動ギヤ55は、減速機65を介してシフト用モータ66によって駆動され、中心軸52廻りを揺動可能となっている。シフト駆動ギヤ55に噛み合う減速機65の出力ギヤ67は、シフト駆動ギヤ55が出力ギヤ67から動力を伝達されつつセレクト方向に移動可能なように、セレクト方向に延びたスプライン軸となっている。
【0030】
したがって、セレクト用モータ64によってセレクトスリーブ54及びシフトスリーブ53が一体となってセレクト方向に移動可能であって、シフトスリーブ53の移動に伴い第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57がセレクト方向に移動する。また、シフト用モータ66によって、シフトスリーブ53が回転され、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57がシフト方向に揺動する。
【0031】
そして、第1のシフトフィンガ56によって第1の柱部41aあるいは第2の柱部41bを、また第2のシフトフィンガ57によって第3の柱部41c及び第4の柱部41dをシフト方向に押圧することで、シフトラグ40a〜40dを選択的にシフト方向に移動させ、シフトラグ40a〜40dに対応する変速段の変速ギヤを断接することで変速させる構造となっている。
【0032】
セレクト用モータ64及びシフト用モータ66はECU70により、シフトレバー71の操作及びエンジンの運転状態等に基づいて駆動制御される。本実施形態では、上記のようにダブルクラッチ式の変速装置であって、ECU70は、変速段を目標変速段に切り換える際にセレクト用モータ64及びシフト用モータ66を順次切り換えて駆動制御するとともに、クラッチ2、3の作動を制御する。詳しくは、ECU70は、変速段を切り換える際に、一方のクラッチ2または3が接続されている変速前の状態から、この変速段のシフト状態を維持したまま、他方のクラッチ3または2につながっている次の目標変速段の変速ギヤをシフト状態にして、予めシフト操作を完了し、その後、一方のクラッチ2または3を開放しつつ他方のクラッチ3または2を接続し、目標の変速段に変速する。つまり、目標変速段のシフト操作が完了した状態で、接続されている一方のクラッチ2または3を開放しつつ他方に繋ぎかえるので、ニュートラル状態を介することなく、継ぎ目のない変速を実現している。
【0033】
また、上記変速時に第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の現在位置を把握するために、第1のセンサ80(セレクト方向移動量検出手段)及び第2のセンサ81(シフト方向移動量検出手段)が設けられている。第1のセンサ80は、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57のセレクト位置(セレクト方向の位置)を検出するために用いられ、具体的には、セレクト用モータ64に内蔵された回転角センサである。第2のセンサ81は、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57のシフト位置(シフト方向の位置)を検出するために用いられ、具体的には、シフト用モータ66に内蔵された回転角センサである。これらの回転角センサは、電源投入時、または、ECU70内のRAMクリア操作時に設定される基準位置に対する相対角(移動量)を検出するような比較的安価な相対角センサであって、その出力値はECU70に入力され、セレクト用モータ64及びシフト用モータ66の駆動制御に用いられる。
【0034】
本実施形態では、特に第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57のセレクト方向の移動範囲を限定するセレクト方向ストッパ90(セレクト方向移動規制手段)と、シフト方向の移動範囲を限定する第1のシフト方向ストッパ91(第1のシフト方向移動規制手段)及び第2のシフト方向ストッパ92(第2のシフト方向移動規制手段)を備えている。
【0035】
セレクト方向ストッパ90は、第2のシフトフィンガ57が第4の柱部41dより上方に離間した所定のセレクト方向規制位置、即ち第2のシフトフィンガ57がシフト方向に移動しても第4の柱部41dに接触しないようなセレクト位置で、シフトスリーブ53の上端が接触するようにケーシング51に設けられた壁面であって、このセレクト方向規制位置から第2のシフトフィンガ57がそれ以上上方に移動しないように規制する。
【0036】
第1のシフト方向ストッパ91は、ケーシング51に設けられた壁面であって、上記セレクト方向規制位置で第2のシフトフィンガ57がシフト方向規制位置に基づく所定の回転範囲より外方に回転しないように規制する。
第2のシフト方向ストッパ92は、セレクトスリーブ54の上端に2箇所設けられた棒状部材であって、セレクト方向に延びて先端がセレクトスリーブ54の上端から上方に突出し、第2のシフトフィンガ57がシフト方向仮規制位置に基づく所定の回転範囲より外方に回転しないように規制する。
【0037】
ここで、基準位置についての説明をする。基準位置とは、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57のセレクト方向及びシフト方向の移動量を検出する際の基準となる位置であって、その位置は任意に設定すればよいが、本実施形態では、特に上記のセレクト方向規制位置をセレクト方向基準位置とし、図5において、第2のシフトフィンガ57の2つのアーム部57a、57bの間の中央に、ニュートラル位置にある各柱部41c〜41dが位置する際の第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の位置(実線)をシフト方向基準位置と設定する。
【0038】
図5は、第1のシフト方向ストッパ91及び第2のシフト方向ストッパ92の詳細形状を示す上面図である。
図5に示すように、第2のシフトフィンガ57の2つのアーム部57a、57bの開き角θaは、第2のシフトフィンガ57がシフト方向基準位置にあるときに、セレクト方向に移動してもシフト位置にある第3の柱部41c及び第4の柱部41dに干渉しないように設定されている。また、第1のシフトフィンガ56についても同様に第1の柱部41a及び第2の柱部41bに干渉しないように設定されている。
第1のシフト方向ストッパ91は、上記シフト方向基準位置から左右に同一角度θb以上の回転が規制されるように設定されている。この角度θbは、各柱部41a〜41dをシフト位置に移動させるのに必要な回転角度θcよりも大きい角度に設定されている。
【0039】
第2のシフト方向ストッパ92は、上記シフト方向基準位置から左右に同一角度θd以上の回転が規制されるように設定されている。この角度θdは、第1のシフト方向ストッパ91によって規制される角度θbよりも大きく設定されている。
図6は、各柱部41a〜41d及び各シフトフィンガ56、57の配置を説明する説明図である。なお、本図では、第3の柱部41cがシフト状態であることを示している。
【0040】
図6に示すように、本実施形態では更に、第1の柱部41aと第2の柱部41bとの間のセレクト方向の隙間b1が第1のシフトフィンガ56(56a、56b)の幅a1よりも大きく設定されている。また、第3の柱部41cと第4の柱部41dとの間のセレクト方向の隙間b2は、第2のシフトフィンガ57(57a、57b)の幅a2よりも大きく設定されている。更に、第2の柱部41bと第3の柱部41cとは、セレクト方向に隙間b1やb2よりも大きく離間しており、詳しくは第2のシフトフィンガ57a、57bが、シフト方向の移動により第3の柱部41cまたは第4の柱部41dに当接する可能性のあるセレクト位置の範囲である領域B内に位置するときに、第1のシフトフィンガ56a、56bが第1の柱部41aまたは第2の柱部41bに当接する可能性のあるセレクト位置の範囲である領域Aから外れ、領域Aと領域Bとの間に位置するように設定されている。
【0041】
次に、図7を用いて、第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準位置の補正制御について説明する。
図7は、ECU70における第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準位置の補正要領を示すフローチャートである。
本ルーチンは、電源ON時に実行される。
【0042】
ステップS10では、ギヤシフトが正常であるか否かを判定するギヤシフト状態判定を行う。具体的には、例えば電源OFF時に変速装置の終了処理が正確に行われたか否かを記憶しておき、この終了処理が正確に行われた場合にはギヤシフトが正常であると判定し、終了処理が正確に行われなかった場合には異常であると判定する。変速装置の終了処理は、例えば変速段を全てニュートラル状態にし、かつシフトフィンガ56、57を所定の初期位置(ニュートラル位置)に移動させる処理である。ギヤシフトが正常である場合には、ステップS20に進む。
【0043】
ステップS20では、セレクト用モータ64を作動制御し、セレクト方向ストッパ90に向かって第2のシフトフィンガ57を上方に移動させる。そして、ステップS30に進む。
ステップS30では、第2のシフトフィンガ57の上面が何らかに接触して、第2のシフトフィンガ57が上方への移動を規制された接触状態であるか否かを判定する。詳しくは、セレクト用モータ64を上方側に作動制御させても、第1のセンサ80の出力値、即ち第2のシフトフィンガ57のセレクト位置が変化しないか否かを判別する。第2のシフトフィンガ57が上方への移動を規制された接触状態であると判定された場合には、セレクト用モータ64の作動を停止させ、ステップS40に進む。接触状態でないと判定された場合には、ステップS30を繰り返す。
【0044】
ステップS40では、シフト用モータ66を作動制御し、第1のシフトフィンガ56をシフト方向に移動させる。そして、ステップS50に進む。
ステップS50では、第1のシフト方向ストッパ91によって第2のシフトフィンガ57a、57bの移動が規制された接触状態であるか否かを判定する。詳しくは、シフト用モータ66を左右いずれか一方に作動制御させても、第2のセンサ81の出力値、即ち第2のシフトフィンガ57a、57bのシフト位置が変化しないか否かを判別する。第2のシフトフィンガ57a、57bのシフト方向の移動が規制された接触状態であると判定された場合には、シフト用モータ66の作動を停止させる。接触状態でないと判定された場合には、ステップS50を繰り返す。なお、ステップS40及びS50における接触判定は、第2のシフトフィンガ57a、57bを左右両方に順番に揺動させて行い、左右夫々で移動が規制された位置での第2のセンサ81の出力値を記憶しておく。そしてステップS60に進む。
【0045】
ステップS60では、シフト用モータ66を作動制御して、ステップS50において記憶された左右夫々における第2のセンサ81の出力値の中間値となる位置に第2シフトフィンガ57a、57bをシフト方向に移動させる。そして、このときの第2シフトフィンガ57a、57bの位置を基準位置とし、第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準値を夫々補正する(基準位置補正制御)。そして、ステップS70に進む。
【0046】
ステップS70では、セレクト用モータ64を作動制御して第2のシフトフィンガ57をセレクト方向の初期位置に移動させる。そして、本ルーチンを終了する。
ステップS10において、ギヤシフトが異常である、即ち変速装置の終了処理が正確に行われていないと判定された場合には、ステップS80に進む。
ステップS80では、ステップS20と同様に、セレクト用モータ64を作動制御し、第2のシフトフィンガ57を上方に移動させる。そして、ステップS90に進む。
【0047】
ステップS90では、ステップS30と同様に、第2のシフトフィンガ57が接触状態であるか否かを判定する。第2のシフトフィンガ57が接触状態であると判定された場合には、セレクト用モータ64の作動を停止させ、ステップS100に進む。接触状態でないと判定された場合には、ステップS90を繰り返す。
ステップS100では、ステップS40と同様に、シフト用モータ66を作動制御し、第2のシフトシフトフィンガ57をシフト方向に移動させる。そして、ステップS110に進む。
【0048】
ステップS110では、ステップS50と同様に、第2のシフトフィンガ57が接触状態であるか否かを判定する。第2のシフトフィンガ57が接触状態であると判定された場合には、シフト用モータ66の作動を停止させる。接触状態でないと判定された場合には、ステップS110を繰り返す。なお、ステップS100及びS110における接触判定は、第2のシフトフィンガ57を左右両方に順番に揺動させて行い、左右夫々で移動が規制された位置での第2のセンサ81の出力値を記憶しておく。そしてステップS120に進む。
【0049】
ステップS120では、シフト用モータ66を作動制御して、ステップS110において記憶された左右夫々の第2のセンサ81の出力値の中間値となる位置に第2のシフトフィンガ57をシフト方向に移動させる。そして、このときの第2のシフトフィンガ57の位置を仮基準位置とし、第2のセンサ81の基準値を仮補正する(シフト位置仮補正制御)。そして、ステップS130に進む。
【0050】
ステップS130では、ステップS110において記憶した左右夫々の規制位置での第2のセンサ81の出力値の差を演算し、第2のシフトフィンガ57の接触対象物が第1のシフト方向ストッパ91であるか第2のシフト方向ストッパ92であるかを判別する。本実施形態では、第1のシフト方向ストッパ91によって規制される回転角θbと、第2のシフト方向ストッパ92によって規制される回転角θdとが異なるように設定されているので、上記第2のセンサ81の出力値の差の1/2の値が、このいずれの回転角θbまたはθdに該当するかによって、上記判別を行うことができる。この出力値の差の1/2の値が第1のシフト方向ストッパ91によって規制される回転角θbに該当する場合には、第2のシフトフィンガ57は第1のシフト方向ストッパ91に接触したのであり、ステップS190で、ステップS120において行った基準値仮補正を正式な第2のセンサ81の基準値補正として、第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準値を夫々補正する(基準位置補正制御)。そして、ステップS70に進む。ステップS100において記憶された第2のセンサ81の出力値の差の1/2の値が、回転可能角θaに該当せず、第2のシフト方向ストッパ92によって規制される回転可能角θdに該当する場合には、第2のシフトフィンガ57は第2のシフト方向ストッパ92に接触したのであって、ステップS140に進む。
【0051】
ステップS140では、ステップS20、S80と同様に、セレクト用モータ64を作動制御し、第2のシフトフィンガ57を上方に移動させる(例えば図6中、作動D)。そして、ステップS150に進む。
ステップS150では、ステップS30、S90と同様に、第2のシフトフィンガ57が接触状態であるか否かを判定する。第2のシフトフィンガ57が接触状態であると判定された場合には、セレクト用モータ64の作動を停止させ、ステップS160に進む。第2のシフトフィンガ57が接触状態でないと判定された場合には、ステップS150を繰り返す。
【0052】
ステップS160では、ステップS40、S100と同様に、シフト用モータ66を作動制御し、第2のシフトシフトフィンガ57をシフト方向に移動させる(例えば図6中、作動E)。そして、ステップS170に進む。
ステップS170では、ステップS50、S110と同様に、第2のシフトフィンガ57が接触状態であるか否かを判定する。接触状態であると判定された場合には、シフト用モータ66の作動を停止させる。接触状態でないと判定された場合には、ステップS170を繰り返す。なお、ステップS160及びS170における接触判定は、第2のシフトフィンガ57を左右両方に順番に揺動させて行い、左右夫々で移動が規制された位置での第2のセンサ81の出力値を記憶しておく。そしてステップS180に進む。
【0053】
ステップS180では、シフト用モータ66を作動制御して、ステップS170において記憶された左右夫々の第2のセンサ81の出力値の中間値となる位置に第2のシフトフィンガ57を移動させる。そして、このときの第2のシフトフィンガ57の位置を基準位置とし、第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準値を夫々補正する(基準位置補正制御)。そして、ステップS70に進む。
【0054】
なお、上記制御のステップS60、S180において、第1のセンサ80の基準値の補正が本発明のセレクト方向基準位置補正手段に該当し、第2のセンサ81の基準値の補正が本発明の第1のシフト方向基準位置補正手段に該当する。また、ステップ130において、第2のシフトフィンガ57が第2のシフト方向ストッパ92に接触したと判定されたときのステップS120における第2のセンサ81の基準値の仮補正は本発明の第2のシフト方向基準位置補正手段に該当する。
【0055】
なお、上記制御では、ステップS130における接触物判定を、回転可能角によって判定しているが、この代わりにセレクト用モータ64を作動させ、第2のシフトフィンガ57が上方に移動可能であるか否かによって判別してもよい。この場合、上方に移動可能である場合には、第1のシフトフィンガ56または第2のシフトフィンガ57が第2のシフト方向ストッパ92に接触したと判定され、ステップS140に進む一方、上方に移動不能である場合には、第2のシフトフィンガ57はセレクト方向ストッパ90に接触したと判定され、ステップS70に進むように制御すればよい。
【0056】
以上のような制御により、ギヤシフトに異常が発生していない場合には、セレクト方向ストッパ90を用いて第1のセンサ80の基準位置を設定するとともに、第1のシフト方向ストッパを用いて第2のセンサ81の基準位置を補正する。したがって、これらのセンサ80、81の基準位置に若干のずれが生じていたとしても上記補正によって解消させることができる。そして、この補正を電源ON毎に行うことで、第1のセンサ80及び第2のセンサ81の基準位置のずれの蓄積を防止することができ、シフトフィンガ56、57の正確な作動を可能とし、シフトラグ40a〜40dの誤作動を未然に防止することができる。
【0057】
また、ギヤシフトの異常発生時、即ち第1のセンサ80あるいは第2のセンサ81の基準位置のずれが大きく発生している場合には、第2のシフトフィンガ57を上方に移動させてその移動が規制されたときに、第2のシフトフィンガ57がいずれかの柱部41c、41dの下面に当接している虞がある。しかしながら、ステップS120において仮補正を行い第2のシフトフィンガ57のシフト位置をニュートラル位置近辺にすることで、第2のシフトフィンガ57を柱部41c、41dに当接させることなくセレクト方向に移動可能となる。したがって、その後に、第2のシフトフィンガ57を確実にセレクト方向ストッパ90に当接させて第1のセンサ80の基準位置の補正を確実に行うことができる。
【0058】
なお、ステップS120において仮補正を行った後、第2のシフトフィンガ57のシフト位置をニュートラル位置近辺に限ることなく、第2のシフトフィンガ57を柱部41c、41dに当接させることなくセレクト方向に移動可能な位置に移動させればよい。
なお、上記実施形態では、ギヤシフトが異常であるか否かを判定して、異常時にのみステップS80〜S120における第2のシフト方向ストッパ92を用いた第2のセンサ81の基準位置の仮補正を行うが、正常時でも常に第2のセンサ81の基準位置の仮補正を行ってもよい。詳しくは、電源投入時にステップS10における異常判定を行わず、ステップS80から開始すればよい。この場合、ステップS90において、第2のシフトフィンガ57の上方への移動が規制された状態では、シフトスリーブ53の上端がセレクト方向ストッパ90に当接しているか、または第2のシフトフィンガ57が柱部41a〜41dの下面に当接しているかは不明である。しかしながら、常に仮補正を行うことで、電源投入毎に確実に基準位置が補正される。
【0059】
このように、本実施形態では、セレクト方向ストッパ90、第1のシフト方向ストッパ91及び第2のシフト方向ストッパ92を設けることで、上記補正制御により容易かつ確実に第1のセンサ80及び第2のセンサ81のセレクト方向及びシフト方向の基準位置を設定することができる。したがって、電源ON時等、自動的に上記基準位置の設定を行うよう制御することで、第1のセンサ80及び第2のセンサ81による第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の位置検出を、高価な絶対位置検出センサを用いることなく、常に正確に行うことが可能となる。
【0060】
また、上記のように第3の柱部41cと第4の柱部41dとの間のセレクト方向の隙間が第2のシフトフィンガ57の幅よりも大きく設定されているので、上記補正制御において、第2のシフトフィンガ57をセレクト方向に移動させたときにいずれかの柱部41a〜41dに当接した場合には、次のステップにおいて隣の柱部41a〜41dに干渉することなく第2のシフトフィンガ57を確実にシフト方向に移動させることができる。
【0061】
また、上記のように第2の柱部41bと第3の柱部41cとがセレクト方向に大きく離間しているので、上記補正制御時に第2のシフトフィンガ57をシフト方向に移動させる際に第1のシフトフィンガ56が柱部41aまたは41bに当接することがなく、シフト方向の基準位置の設定を確実に行うことができる。
なお、上記実施形態では、第2のシフト方向ストッパ92をセレクトスリーブ54に設けているが、ケーシング51に設けてもよい。この場合には、変速時に第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57が移動する可能性のあるセレクト位置全てにおいて、シフト方向の基準位置の仮設定が可能となるように、第2のシフト方向ストッパ92をセレクト方向に延びて設ける必要がある。
【0062】
更に、本発明の変速装置は、手動変速装置のような2つのシフトラグを同時にシフト方向に移動させることを防止するインタロック防止用プレートを用いる必要がないので、本実施形態のようなデュアルクラッチ式変速装置に採用可能である。
また、本実施形態では、デュアルクラッチを備えた機械式の自動変速装置に本発明を採用しているが、シングルクラッチの機械式の自動変速装置にも採用可能である。この場合においても、セレクト方向及びシフト方向の基準位置の設定を確実かつ容易に行うことができる。また、本実施形態と異なる変速段を備える変速装置に対しても、本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 変速機部
20、21、22、23、24 シフトフォーク
40a、40b、40c、40d シフトラグ
57 第2のシフトフィンガ
70 ECU
80 第1のセンサ
81 第2のセンサ
90 セレクト方向ストッパ
91 第1のシフト方向ストッパ
92 第2のシフト方向ストッパ
201、211、221、231、241 シンクロスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータによりセレクト方向及びシフト方向に移動可能なシフト部材と、
前記シフト部材に押圧される押圧部を有し前記セレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、
シフトレールを介して前記シフトラグと連結され変速段のシフト作動を行うシフトフォークと、
基準位置に対する前記シフト部材の前記セレクト方向の移動量を検出するセレクト方向移動量検出手段と、
基準位置に対する前記シフト部材の前記シフト方向の移動量を検出するシフト方向移動量検出手段と、
前記セレクト方向移動量検出手段により検出した前記シフト部材の前記セレクト方向の移動量、及び前記シフト方向移動量検出手段により検出した前記シフト部材の前記シフト方向の移動量に基づいて前記アクチュエータを作動制御して、前記シフト部材を前記セレクト方向及びシフト方向に移動させ、前記押圧部を前記シフト方向に押圧することで前記シフトラグを選択的に前記シフト方向に移動させ、前記シフトレールを介して前記シフトフォークをシフト作動させて変速を行う変速装置において、
前記変速時に移動し得る前記シフト部材の前記セレクト方向の移動範囲より外方で、前記シフト部材の更なる外方への前記セレクト方向の移動を規制するセレクト方向移動規制手段と、
前記セレクト方向移動規制手段により移動が規制される前記セレクト方向の位置において、前記シフト部材の前記シフト方向の移動を規制する第1のシフト方向移動規制手段と、
前記セレクト方向移動規制手段により前記セレクト方向への移動が規制された位置に基づいて、前記セレクト方向移動量検出手段の基準位置を補正するセレクト方向基準位置補正手段と、
前記第1のシフト方向移動規制手段により前記シフト方向への移動が規制された位置に基づいて、前記シフト方向移動量検出手段の基準位置を補正する第1のシフト方向基準位置補正手段と、
を備えたことを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記変速時に移動し得る前記シフト部材の前記セレクト方向の移動範囲において、前記シフト部材の前記シフト方向の移動範囲より外方で、前記シフト部材の更なる外方への前記シフト方向の移動を規制する第2のシフト方向移動規制手段と、
前記変速時に移動し得る前記シフト部材の前記セレクト方向の移動範囲において、前記第2のシフト方向移動規制手段により前記シフト方向への移動が規制された位置に基づいて、前記シフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正する第2のシフト方向基準位置補正手段と、を更に備え、
前記第2のシフト方向基準位置補正手段により前記シフト方向移動量検出手段の基準位置を仮補正した後に、前記セレクト方向基準位置補正手段による前記セレクト方向移動量検出手段の基準位置の補正、及び第1のシフト方向基準位置補正手段による前記シフト方向移動量検出手段の基準位置の補正を行うことを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
隣り合う前記押圧部の前記セレクト方向の間隔は、前記シフト部材が前記シフト方向に通過可能に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記シフト部材は、前記セレクト方向及び前記シフト方向に同時に移動するように複数設けられ、
前記複数のシフト部材のうちいずれか一つのシフト部材が前記押圧部と前記セレクト方向の位置が一致しているときに、他のシフト部材がいずれの前記押圧部とも前記セレクト方向の位置が一致しないように、前記シフトラグが配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169365(P2011−169365A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32373(P2010−32373)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【出願人】(000176811)三菱自動車エンジニアリング株式会社 (402)
【Fターム(参考)】