説明

外壁用タイル材および外壁構造

【課題】 外壁タイル材として、外壁の断熱性を向上させることができるとともに、外壁に浸入する水分の悪影響を受け難くする。
【解決手段】 建築物の外壁面50に並べて施工されるタイル材10であって、全体が概略矩形板状をなし、対向する側辺に配置されタイル材10同士を面方向に連結する合いじゃくり継手となる表側凸部24および裏側凸部34と、表側凸部24および裏側凸部34よりも内側でタイル材10の裏面側に配置された内設断熱材90とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁用タイル材および外壁構造に関し、詳しくは、住宅などの建築物の外壁仕上げに用いられる外壁用タイル材と、このような外壁用タイル材を用いて構築される外壁構造とを対象にしている。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁仕上げに、陶磁器などの焼成タイルやセメント硬化物などの不焼成タイルを使用する技術は、既に広く知られている。タイル仕上げ外壁は、外観意匠性が良好で耐候性などにも優れたものとして、広く普及している。
従来、一般的に採用されていたタイルによる外壁仕上げでは、合板などからなる外壁下地板の表面に、接着剤や接着モルタルを介してタイル片を貼り付けていく。タイル片同士の継目に生じる目地隙間には、モルタルなどからなる目地剤やゴムなどからなる目地材を埋め込んで、目地の防水性、水密性を確保する。
特許文献1には、セメント硬化物などからなり概略矩形板状をなすタイル材の側辺に、合いじゃくり継手を設けて、前後左右の面方向にタイル材を連結した状態で施工する技術が示されている。合いじゃくり継手を構成するタイル材の側辺に設けられた貫通孔にネジ釘を挿入し、ネジ釘を外壁下地材にねじ込んで、タイル材を外壁下地材に固定している。この技術では、外壁の上下で隣接して配置されたタイル材同士が、合いじゃくり継手の部分で表と裏とで重ね合わされて、継目における防水性や水密性を果たす。合いじゃくり継手の構造を工夫することで、水密性を向上させている。
【0003】
本件特許出願人の一部が先に特許出願した特願2003−405759号には、タイル材の側辺に設けられたネジ釘取付用の貫通孔の裏面側に、取付孔を囲む凹部を設けておき、この凹部にコーキング剤を充填しておくことで、取付孔の部分における水密性を向上させる技術が提案されている。
下地板にタイルを貼り付けただけでは、外壁の断熱性が不足することがある。そこで、下地板とタイルとの間に、グラスウールや発泡ポリスチレンボードなどによる断熱材層を設ける技術が提案されている。
特許文献2には、矩形板状のタイルの裏面全体に発泡スチロールなどの断熱材を貼り付けておく技術が示されている。断熱材は、タイルの周縁からわずかに突出させておき、隣接して配置されるタイル同士の隙間までを断熱材で確実に塞げるようにしている。
【特許文献1】特開2003−268946号公報
【特許文献2】特開2003−301585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のタイルによる外壁仕上げ構造では、様々な水密構造を適用しても、タイル同士の隙間から壁の内部に、水が浸入することを完全に防ぐことは困難である。
一旦、タイルの裏側に水が浸入すると、浸入した水は、今度は、容易に排出されないので、壁の内部に滞留したままになる。水分が、壁を構成する部材の腐食を進めたり、黴を発生させたりする。水密性の高い構造を採用しているほど、一旦浸入した水の排出が困難であり、却って、壁の耐久性を低下させてしまうことがある。
特許文献1の合いじゃくり継手構造は、タイルの裏側まで水が浸入することを防止するのに有効である。それでも、タイル同士の隙間を通って、水が浸入する可能性がある。
【0005】
タイルの材料が、セメント系材料など水を吸収する特性をある材料の場合、タイルの表面やタイル同士の隙間からタイルに吸収された水分が、タイル内に滞留したままになったり、滞留した水分の一部がタイルの裏面から壁の内部空間へと水分が移行したりする。
寒冷地において、タイル内に水分が滞留したままになると、水分が凍ったり溶けたりするときの膨張収縮でタイルが割れたりひびが入るという凍害問題が発生する。タイルの裏面から壁の内部空間に放出される水分は、壁の内部構造の劣化や耐久性低下を促進してしまう。
特許文献2に示すように、タイルの裏面に、発泡スチロール等の断熱材が貼り付けられている場合、タイルの裏面から壁の内部空間に直接に水分が放出されることは阻止される。しかし、断熱材に吸水性があると、断熱材が水を吸って劣化したり断熱性が低下したりする。断熱材に吸水性がないと、タイルの内部に水分がいつまでも滞留したままになる。前記した寒冷地における凍害が発生し易くなる。
【0006】
特許文献2の技術では、タイルの周縁よりも外側まで断熱材が設けられているため、タイル同士の隙間も断熱材で塞がれており、水分が壁の内部空間にそのまま放出されることは少ない。しかし、断熱材の一部がタイル同士の隙間で外部に露出しているため、断熱材が損傷したり劣化したりする問題がある。
本発明の課題は、前記した外壁仕上げに用いる外壁タイル材として、外壁の断熱性を向上させることができるとともに、外壁の内部に浸入する水分の悪影響を受け難くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる外壁用タイル材は、建築物の外壁面に並べて施工されるタイル材であって、全体が概略矩形板状をなし、対向する側辺に配置されタイル材同士を面方向に連結する合いじゃくり継手となる表側凸部および裏側凸部と、前記表側凸部および裏側凸部よりも内側でタイル材の裏面側に配置された内設断熱材とを備える。
〔建築物の外壁面〕
本発明が適用される建築物は、一般の住宅や集合住宅、オフィスビル、工場、その他の通常の各種建築物である。
建築物の外壁面は、側壁のほか、軒下の天井面や柱状構造の外周面など、建築物の外面に露出する構造部分の表面を含む。
【0008】
外壁面には、タイル材を固定するための外壁下地材を施工しておくことが好ましい。この場合、外壁下地材の表面が外壁面になる。
外壁下地材としては、合板、窯業系外壁下地材料など、通常の外壁施工に使用される下地材と同様の材料が使用される。タイル材の固定手段として釘打ちやネジ釘のねじ込みを採用する場合は、それが可能な材料が使用される。
外壁下地材の表面に縦横に格子状の下地桟を取り付け、この下地桟にタイル材を固定することもできる。下地桟は、外壁下地材に対して、接着や釘打ちなどの手段で固定することができる。下地桟の格子空間は、外壁の断熱性を高める機能や、タイル材から放出される水分を一時的に収容する空間としても機能する。
【0009】
外壁下地材を使用せずに、壁面の躯体構造であるコンクリートや鉄骨などの表面に直接にタイル材を施工することもできる。
〔外壁用タイル材〕
タイル材の材料としては、通常の外壁仕上げ用のタイルと同様の材料や製造技術が採用できる。
タイル材には、陶磁器材料などを成形して焼成した焼成タイルと、セメント系材料を成形して水和硬化させたりした非焼成タイルとがある。何れも使用できる。
セメント系材料からなるタイルで、比較的に面積の大きなものは、サイディング材と呼ばれることもある。セメント系材料として、漆喰や石膏も使用できる。セメントに繊維材料を混合して、強度などを向上させたものもある。タイル材料に、調湿機能を有する珪質頁岩などの調湿材を配合しておくことができる。タイル材料として通気性材料などの各種機能を有する材料も使用できる。
【0010】
セメント系材料として、比重が1.3以上の繊維配合セメント硬化物が使用できる。繊維配合セメント硬化物は、硬化材料に、セメントや骨材などに加えて、ガラス繊維や合成樹脂繊維などの繊維を混入しており、硬化物として耐久性に優れたものとなる。セメント硬化物の比重が大きいほど、吸水し難く、凍害に強くなる。
タイル材の表面に、ガラス質の釉薬をかけて焼成硬化させたものや、塗料や樹脂材料を塗工して焼付などで硬化させたものなど、タイル材の本体部分と表面の化粧層とからなるものも使用できる。表面化粧層として、防水性のある材料を使用することができる。表面化粧層として、通気性を有するものや透湿性を有するものも使用できる。
【0011】
タイル材の全体形状は、基本的には、通常の外壁タイルと同様の形状が採用できる。具体的には、全体が概略矩形板状をなす。正方形および長方形の何れでもよい。六角形などの多角形でもよい。外周辺の一部に凹凸を設けたり、一部を曲線状にしたりすることも可能である。全体の寸法としては、1辺が150〜900mmで、厚みが5〜25mmの範囲に設定することができる。
タイル材の表面に、凹凸模様や浮彫り図案などを形成しておけば、外観意匠性が高まる。タイル材の裏面に、通気空間を設けたり、排水空間を設けたりすることもできる。タイル材の裏面のうち、裏側凸部の存在する側辺を除く個所を凹ませておけば、内設断熱材の収容空間を広く取れ、前記した通気空間や排水空間として利用できるとともに、製造材料の節約、重量軽減などを図ることができる。
【0012】
〔側辺の継手構造〕
タイル材の側辺には、タイル材同士を前後左右の面方向に連結するための継手構造を備えておく。タイル材の対向する側辺に、互いに連結可能な一対の連結構造を設ける。連結構造として、合いじゃくり構造が採用される。
合いじゃくり構造は、建築技術において、柱材や板材の連結構造として知られている。連結する部材の側辺同士に、厚み方向の途中までの切り欠きを表裏で逆に加工して、表側凸部と裏側凸部とを配置する。連結する部材の表側凸部と裏側凸部とを重ね合わせて連結する。
【0013】
矩形状のタイル材の場合、隣接する2側辺に表側凸部が配置されると、残りの隣接する2側辺には裏側凸部が配置されることになる。表側凸部と裏側凸部とが、互いに対向する側辺に配置される。
合いじゃくり構造の細部形状や寸法などは、通常の合いじゃくり構造の場合と同様に、種々の変更が可能である。
通常の合いじゃくり構造では、対向する側辺の表側凸部と裏側凸部とは、完全な対称形状で寸法も同じに設定されることが多いが、表側凸部と裏側凸部との寸法を違えることもできる。
【0014】
表側凸部および裏側凸部の突出長さは、7〜50mm程度の範囲に設定できる。重ね合わせ距離を十分に確保することで、防水機能や連結強度を高めることができる。
裏側凸部の突出長L2を表側凸部の突出長L1よりも長くしておくと、敷設施工されたタイル材の表面に目地隙間を構成することができる。その結果、外観意匠性が高まるとともに、隣接タイル材間の不陸や傾き、ズレなどが目立ち難くなる。裏側凸部の突出長L2と表側凸部の突出長L1との差L2−L1=7〜50mmに設定することができる。
表側凸部と裏側凸部との厚みは、同じに設定しておくことができるが、違っていても構わない。但し、表側凸部および裏側凸部の何れもが十分な機械的強度を維持できる程度の厚みに設定しておく。具体的には、4〜20mmの厚みに設定できる。
【0015】
前記した特許文献1には、裏側凸部の端面を傾斜面にし、裏側凸部の傾斜端面が当接する相手側のタイル材の側辺も、裏側凸部の傾斜端面に対応する傾斜面にしておく技術が示されている。このような傾斜端面を採用することで、タイル材を連結配置したときに、当接面における接合性や防水機能を高めることができる。表側凸部の端面を傾斜面にすることもできる。
〔取付孔〕
タイル材を外壁下地材に取り付ける手段は、通常の外壁用タイルと同様に、モルタルや接着剤による接着も採用できるが、釘打ちやネジ釘などの固定具による締結も採用できる。
【0016】
固定具としては、通常の建築技術分野で利用されている釘やネジ釘、ボルトなどが使用できる。このような固定具による締結は、経時的な劣化や環境条件の変化による接合力低下が生じ難く、長期間にわたって強力な固定ができる。
固定具による締結を行ない易くするために、裏側凸部の表面から裏面へと貫通する取付孔を設けておくことができる。取付孔の内径は、固定具に合わせて設定されるが、通常、内径4〜6mmの範囲である。
取付孔の設置個数および位置は、タイル材の固定を確実に行なえるように設定する。設置個数としては、タイル材の大きさや施工条件などによっても異なるが、通常は1辺の裏側凸部に2〜4個の範囲で設置される。設置位置は、裏側凸部の表面で、施工後に別のタイル材の表側凸部で覆い隠される個所であれば、外観上の体裁が良く、取付孔における水密性の確保や、取付孔に取り付けられる固定具の腐食や劣化、脱落などを防ぐのにも有効である。
【0017】
<座ぐり部>
取付孔のうち裏側凸部の表面側に、固定具の頭が収容される座ぐり部を設けておくことができる。
座ぐり部があれば、固定具の頭が裏側凸部の表面から突き出すことがなく、裏側凸部の上に別のタイル材の表側凸部を密着させて配置することができる。表側凸部の裏面側に、対面する裏側凸部の固定具の頭に対応する凹みを設け、この凹みに固定具の頭を収容してもよい。
座ぐり部の形状や構造は、固定具の頭部構造に合わせて設定される。例えば、固定具の頭部が皿頭であれば、座ぐり部は円錐孔状になる。
【0018】
〔充填凹部〕
裏側凸部の裏面側で取付孔を囲んで配置され、裏側凸部の裏面よりも凹んでいて、コーキング剤が充填される。
コーキング剤は、通常の建築技術分野において、外壁部分のコーキング処理に利用されているコーキング剤が使用できる。コーキング剤は、液状あるいはペースト状で供給され、施工後に硬化して周囲の部材と緊密に接合され、施工個所の水密性を向上させる。コーキング剤として、アクリルシリコン系、ウレタン系、エポキシ系などのコーキング剤が用いられる。
【0019】
充填凹部は、取付孔の全周を囲むことができれば、その形状は特に限定されない。例えば、取付孔よりも一回り大きな相似形状が採用できる。円形の取付孔に対して、矩形の充填凹部を組み合わせるなど、取付穴とは異なる形状の充填凹部でも構わない。充填凹部の広さが、十分な量のコーキング剤が充填できるように設定しておく。コーキング剤が固定具と十分な範囲で接触できるようにしておくことも望ましい。
充填凹部の深さを1〜5mmに設定できる。充填凹部の幅と前記取付孔の外径との差を2〜6mmに設定できる。
充填凹部は、個々の取付孔毎に独立した充填凹部を設けてもよいし、複数の取付穴に対して一つの充填凹部で兼用することもできる。例えば、1辺の裏側凸部に配置された複数の取付孔をまとめて、1本の短冊状の充填凹部で囲むことができる。
【0020】
〔内設断熱材〕
タイル材の裏面側で表側凸部および裏側凸部よりも内側に配置される。
内設断熱材の材料は、通常の建築用の断熱材料が使用できる。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂の発泡体が挙げられる。グラスウールなどの繊維状断熱材も使用できる。複数の材料を組み合わせた複合断熱材も使用できる。
内設断熱材は、タイル材の裏面側のうち、表側凸部および裏側凸部よりも内側の全面に設けることもできるし、一部に設けることもできる。
内設断熱材の側端面とそれに対面する裏側凸部の内側端面との間、および、タイル材の施工時に内設断熱材の側端面と対面する別のタイル材における裏側凸部の内側端面との間に、3〜30mmの隙間Gを有することができる。これによって、施工状態で、内設断熱材の周囲に、タイル材の裏面が確実に露出する部分ができる。この露出部分が、タイル材からの水分放出作用を向上させる。
【0021】
内設断熱材をタイル材の裏面に断続的に設けたり、内設断熱材の一部に貫通部分を設けたりすることで、タイル材の裏面側が露出する部分を構成することもできる。
内設断熱材の厚さは、断熱性を向上するには厚いほうがよい。タイル材の全厚みによる制約もあるが、通常、7〜30mmの範囲に設定できる。内設断熱材の場所によって厚みが違う個所があっても構わない。後述する通気空間を設ける場合は、その分だけ、内設断熱材の厚みを薄くしておくことができる。
〔通気空間〕
タイル材の対向する側辺の間を、裏面側において面方向に貫通する。タイル材の裏面側に浸入したり、タイル材から放出された水分を通気とともに排除したりする機能を有する。
【0022】
通気空間は、タイル材の施工状態で、上下および左右の一方向あるいは両方向で貫通するように配置される。
タイル材の側辺のうち、裏側凸部が存在する個所では、裏側凸部の裏面側に凹溝や切り欠きを設けることで通気空間を構成できる。表側凸部が存在する個所では、もともと裏面側が解放されているので、特別な構造を設けなくても通気空間を構成できる。内設断熱材が存在する個所では、内設断熱材の裏面側に通気空間を配置することができる。内設断熱材に面方向に貫通する凹溝や孔、切り欠きなどを設けることもできる。通気空間は、タイル材の1方向に1本だけを設けてもよいし、1方向に複数本の通気空間を設けることもできる。
【0023】
通気空間の大きさは、目的とする機能が発揮できれば良い。通常は、比較的に狭いものでも充分である。例えば、内設断熱材の裏面側に通気空間を配置する場合、内設断熱材の厚みが薄くなって断熱性が低下しない程度に、通気空間の厚みを設定する。具体的には、通気空間の厚みを2〜10mmに設定できる。通気空間の幅、タイル材の幅によっても異なるが、通常、2〜20mmの範囲に設定できる。
〔外壁用タイル材の施工〕
基本的には、通常の合いじゃくり継手構造を備えたタイル材と同様の手順および機器類を用いて施工できる。
【0024】
<充填凹部を利用する場合>
施工前に、タイル材の充填凹部には取付孔を覆ってコーキング剤を充填しておく。タイル材の製造時点でコーキング剤を充填しておいてもよいし、タイル材を施工する直前にコーキング剤を充填してもよい。
タイル材を施工する外壁面は、壁面の躯体構造あるいは外壁下地材の表面である。
コーキング剤が充填されたタイル材を、裏側凸部が上辺側に配置される姿勢で、外壁面に当接して配置する。下辺側には表側凸部が配置されることになる。
裏側凸部の取付孔に固定具を挿入してタイル材を外壁面に固定する。固定具は、取付孔に充填されたコーキング剤を押し除けるようにして、取付孔から外壁面に到達する。コーキング剤が、固定具と取付穴の隙間を塞ぐ。コーキング剤は、座ぐり部と固定部の頭部との間の隙間を塞ぐ。コーキング剤の一部は、取付孔の裏側で、裏側凸部の裏面と外壁面との隙間や、外壁面に入り込んだ固定具の外周と外壁面との隙間をも塞ぐ。このようなコーキング剤の存在によって、固定具とその周囲の部材とにおける水密性が、各段に向上する。
【0025】
このようにして一つのタイル材が施工されたあと、次に施工するタイル材は、先に固定されたタイル材の上方側に配置する。次のタイル材は、その下辺側に向けた表側凸部を、先のタイル材の裏側凸部に重ね合わせるように配置する。勿論、タイル材の裏側凸部が上辺側に配置される姿勢になる。配置されたタイル材は、前記同様にして、固定具による固定作業を行う。
このような作業工程を繰り返すことで、外壁面の下から上へとタイル材が施工される。
なお、外壁面の水平方向においても、先に施工されたタイル材の裏側凸部に、次に施工されるタイル材の表側凸部を重ね合わせるようにして施工していく。タイル材が、面方向の全体に合いじゃくり継手によって連結されることになる。
【0026】
外壁下地材の表面に、縦横に格子状に配置された下地桟を施工したあと、この下地桟の表面にタイル材を取り付け固定することができる。外壁下地材とタイル材との間に間隔をあけることで、断熱性を高めることができる。外壁下地材とタイル材との間に生じる空間が、タイル材から放出される水分の収容空間となったり、通気空間と連通して水分を除去したりするのに有効となる。
<接着による取付施工>
外壁下地材の表面またはタイル材の裏面、あるいは、その両方に、接着剤を配置した状態で、外壁下地材の表面に、タイル材を並べて敷設する。このとき、前記同様に裏側凸部と表側凸部による合いじゃくり継手による連結を行えばよい。裏側凸部の表面と、表側凸部の裏面とを接着剤で接合することもできる。
【0027】
外壁下地材の表面に施工された下地桟の上に、タイル材を接着して取り付けることができる。この場合、外壁下地材から下地桟を介してタイル材までが、それぞれに広い面積で面接合されることになる。外壁下地材からタイル材までが一体化された剛体状になり、外壁の強度や耐変形性、耐久性を向上させることができる。
〔外壁構造〕
本発明のタイル材を用い、前記した施工方法を採用することで、建築物の外壁構造が構築できる。
外壁面にタイル材が並べて施工された外壁構造では、前記したような合いじゃくり継手構造によって、タイル材同士が上下左右の面方向に連結されている。
【0028】
外壁面を落下する雨水などは、外壁面の上下方向に連結されたタイル材同士における表側凸部と裏側凸部との当接個所の隙間までは浸入できても、その奥では、裏側凸部が垂直に立ち上がっているので、それ以上には浸入し難い。外壁面の左右方向に連結されたタイル同士でも、表側凸部と裏側凸部とによる連結構造で、水の浸入が良好に阻止される。但し、タイル材と雨水などが接触する個所では、タイル材に水が吸収されることがある。
タイル材は、裏側凸部の取付孔に挿入された固定具が、外壁面に止定されて、タイル材を外壁面に固定している。タイル材の裏面側では、充填凹部に取付孔を覆って充填されたコーキング剤を、固定具が押し除ける形で挿入されている。固定具と取付穴との間は、コーキング剤によって、緊密に封止され、極めて高い水密性を発揮する。前記した合いじゃくり構造を超えて水が浸入してきたとしても、コーキング剤の存在によって、それ以上の奥への水の浸入は確実に阻止できる。コーキング剤は、座ぐり部と固定部の頭部との隙間、裏側凸部の裏面と外壁面との隙間、外壁面に入り込んだ固定具の外周と外壁面との隙間などを塞いで、これらの個所における水密性をも向上させる。
【0029】
タイル材の裏面側に存在する内設断熱材が、外壁の断熱性を高める。しかも、内設断熱材は、裏側凸部と表側凸部からなる合いじゃくり継手の内側に配置されるので、タイル材の裏面には、内設断熱材で覆われず、タイル材自体が露出する個所を設けることができる。このタイル材の裏面側への露出個所からタイル材の裏面側に、タイル材に吸収された水分が放出されることによって、タイル材が水を吸収したままになり難い。
外壁構造のうち、タイル材が取り付けられる外壁下地材などよりも屋内側の構造については、特に限定されず、通常の建築物における外壁構造が採用できる。例えば、外装下地層の屋内側には、断熱材層や内装材層を備えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明にかかる外壁用タイル材は、裏側凸部と表側凸部による合いじゃくり継手構造で連結されるとともに、タイル材の裏面側で表側凸部および裏側凸部よりも内側に内設断熱材が配置されていることで、外壁用タイル材すなわち外壁の断熱性を向上できる。
しかも、内設断熱材は、タイル材の側端に露出していないので、輸送保管および施工の取扱い中に、内設断熱材の角が欠けたり削れたりして損傷することが起こり難い。タイル材同士の連結隙間から水が浸入してきても、直ちには内設断熱材と接触することがない。タイル材が吸水しても、内設断熱材で塞がれていないタイル材の裏面部分から水分を放出することができる。タイル材が高含水率になったままになり難い。寒冷地において、高含水状態で氷点下まで冷却されることによって生じる凍害が有効に防止できる。
【0031】
特に、施工状態でも、内設断熱材の周囲に一定量の隙間が設けられるようにしておけば、この隙間個所で、タイル材の裏面が確実に露出し、露出部分からの水分の放出が良好に行われる。この隙間は、内設断熱材の側端面からの水分放出も良好にする。その結果、前記した凍害をより確実に防止できる。
タイル材が、比較的に比重の大きな繊維配合セメント硬化物からなるものであれば、水分を吸収し難く、凍害が発生し難い。
タイル材の裏面側に通気空間を有していれば、タイル材の裏面および内設断熱材からの水分放出が良好に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
〔外壁用タイル材〕
図1に施工状態を示し、図2〜4に詳細構造を示す外壁用タイル材10は、セメント系材料の成形硬化物からなり、全体が概略矩形板状をなしている。
図2に示すように、外壁用タイル材10は、矩形板状をなす表面板部20と、L字形の枠状をなす裏面枠部30とで構成されている。表面板部20と裏面枠部30の厚みは同じに設定されている。
表面板部20の表面には、レンガ壁状の凹凸模様が形成されているとともに、塗装による表面化粧層28が設けられていて、外観意匠性を向上させている。表面化粧層28は、透水性がないので、タイル材10の表面から吸水したり、タイル材10を厚み方向に水分が通過したりすることが防止できる。表面化粧層28は、表面板部20の側端面や裏面枠部30の上面などには設けられていない。
【0033】
<合いじゃくり継手>
表面板部20の直交する2側辺は、裏面枠部30の外側に張り出していて、表側凸部22,24となっている。図2に示すように、長辺側の表側凸部24は、短辺側の裏側凸部32の端部よりも長さL1だけ突出している。短辺側の表側凸部22も、長辺側の裏側凸部34の端部よりも同じ長さL1だけ突出している。
表面板部20の残りの2側辺は、裏面枠部30の直交する外側辺よりも内側に凹んでいる。表面板部20よりも外側に張り出した裏面枠部30の外側辺が裏側凸部32、34となっている。図2に示すように、長辺側の裏側凸部34は、表面板部20の長辺よりも長さL2だけ突出している。短辺側の裏側凸部32も、表面板部20の短辺よりも長さL2だけ突出している。
【0034】
このような、互いに対向する側辺に配置された表側凸部22、24と裏側凸部32、34とによるタイル材10の連結構造が、「合いじゃくり」と呼ばれる継手構造である。
前記した突出長さL1とL2とは、L1≧L2の関係に設定されている。L1とL2の差が、タイル材10を施工したときに、隣接するタイル材10,10同士の目地間隔を決める。
<通気空間>
図3、4に示すように、裏側凸部32、34には、長さ方向の途中で、裏側凸部32、34の底面を断続的に切り欠いて、裏側凸部32、34を横断する矩形凹溝からなる通気空間39が配置されている。通気空間39は、長辺側の裏側凸部34には2本、短辺側の裏側凸部32には1本が設けられている。
【0035】
その結果、タイル材10の底面側で、面方向の縦横何れの方向にも通気可能になっている。
<取付孔と充填凹部>
裏側凸部32、34には、その長さ方向に間隔をあけて複数個所に円形状の取付穴36が貫通している。図3に詳しく示すように、取付孔36の上端には円錐状をなす座ぐり部37が設けられている。
裏側凸部32、34の裏面側には、裏面から凹入された充填凹部38を有する。図4に詳しく示すように、充填凹部38は、各裏側凸部32、34の長さ方向に沿って延びる矩形状をなし、複数個の取付孔36をそれぞれ、充填凹部38で囲んでいる。通気空間39が横断している個所には充填凹部38は設けられていない。充填凹部38の幅は、取付孔36の内径よりも少し大きい。充填凹部38の深さは、取付孔36のほぼ中間までである。
【0036】
充填凹部38には、コーキング剤40が充填される。コーキング剤40の充填は、タイル材10を外壁に施工する直前であってもよいし、タイル材10を工場などから出荷する段階で既にコーキング剤40を充填しておくこともできる。コーキング剤40は、充填凹部38の内部全体を埋めており、取付孔36の裏面側を覆っている。
<内設断熱材>
図3、4に示すように、表面板部20の裏側で、L形をなす裏面枠部30の内側に、矩形板状をなす内設断熱材90が配置されている。内設断熱材90は、発泡ポリスチレンボードからなり、タイル材10に接着されている。
【0037】
裏面枠部10を構成する各裏側凸部32、34の内側端面と、それと対面する内設断熱材90の側端面との間には、隙間Gがあいている。また、裏側凸部32、34の先端面と、それと平行で隣接する内設断熱材90の側端面との間にも、同様の隙間Gがあいている。タイル材10の裏側で、内設断熱材90の周囲に、表面板部20の背面が露出する部分が周溝状に存在することになる。
図3に示すように、内設断熱材90の厚みは、裏面枠部30の高さよりも小さく、内設断熱材90の下面が、通気空間39の上端面と、略同じ位置に配置されている。内設断熱材90が通気空間39の通気を阻害しないようになっている。
【0038】
<外壁用タイル材の具体例>
タイル材質:繊維配合セメント硬化板(ビニロン繊維配合、比重1.9)。
全体:外形330mm×480mm、厚み12mm。
表面板部20:外形300mm×450mm。
裏面枠部30:幅45mmのL字形。
表側凸部突出長L1=25mm、裏側凸部突出長L2=25mm。
取付孔36:内径5mm、座ぐり径7mm、φ4mmハイロウビス用。
設置数2個(短辺側)、設置数3個(長辺側)。
【0039】
充填凹部38:深さ3mm、幅12mm、長さ15〜25mm。
コーキング剤:エポキシ変性シリコンコーキング剤。
通気空間39:幅20mm、高さ5mm、長辺側2個所、短辺側1個所。
内設断熱材90:発泡ポリスチレン製、400mm×280mm、厚み10mm。
内設断熱材90と裏側凸部32、34との隙間G=5mm。
表面化粧層28:樹脂モルタル下地仕上げ+アクリルエマルジョン仕上げ、
合計膜厚0.11mm。
〔外壁用タイル材の施工〕
図1および図5〜7に示すように、外壁用タイル材10は、住宅などの建築物の壁面を構成する外壁下地材50の表面に並べて施工される。
【0040】
<外壁下地材と下地桟>
図1および図7に示すように、外壁下地材50は、合板などで構成されている。外壁下地材50の表面には、縦横に一定間隔で配置され格子状をなす下地桟52がとり付けられている。
図1に示すように、下地桟52は、ねじ釘60で外壁下地材50に固定されている。下地桟52の格子間隔は、タイル材10の寸法に合わせて設定されている。下地桟52の表面に、タイル材10を並べて取り付ける。下地桟52の幅は、タイル材10の裏側枠部30の幅と同じ程度に設定されている。下地桟52の厚さは、タイル材10を固定するねじ釘60を下地桟52にねじ込んで固定できる程度に設定されている。
【0041】
下地桟52の具体例として、幅20mm、厚さ9mmの木材が使用できる。
<タイル材の配置>
図5に示すように、タイル材10は、横長の矩形状で、上辺側に裏側凸部34が配置され、下辺側に表側凸部24が配置される姿勢で並べて配置される。その結果、図5の左辺側には裏側凸部32、右辺側には表側凸部22が配置される。隣接する上下および左右のタイル材10同士は、常に、表側凸部22、24と裏側凸部32、34とが表裏で対面する形になる。
図1に示すように、垂直方向に設置された外壁下地材50および下地桟52に対して、下側に配置されたタイル材10の裏側凸部34の表面側に、上側に配置されるタイル材10の表側凸部24が載る形で、互いに連結される。上側のタイル材10の下辺に配置された表側凸部24の下端面と、下側のタイル材10における表面板部20の上端面との間には、少し隙間があいている。これは、前記したタイル材10の上下辺における突出長さL1とL2との差によって生じ、目地隙間26が構成される。また、下側のタイル材10の裏側凸部34は、下地桟52の表面に当接している。
【0042】
このような連結構造が「合いじゃくり」と呼ばれる。
この合いじゃくり継手構造は、水密性に優れた継手構造である。例えば、タイル材10の表面に雨水などが降り注いで、表面板部20に沿って水が流れ、表側凸部24の下端から表面板部20と表面板部20との隙間に水が浸入したときに、表面板部20の裏側では、下方側のタイル材10に有する裏側凸部34が立ち上がっているので、裏側凸部34を超えて内部まで水が浸入することは困難である。雨の勢いが強かったり、壁面にホースで散水したりしても、裏側凸部34による堰を超えるほどの強さで水が浸入することは難しい。但し、合いじゃくり継手構造でも、裏側凸部34の表面まで水が浸入する可能性はある。
【0043】
<タイル材の固定>
図1に示すように、タイル材10の裏側凸部34には、上方側に次のタイル材10が連結される前に、取付孔36に、皿頭ネジ釘60が挿入される。皿頭ネジ釘60は、取付穴36から充填凹部38に突き進み、充填凹部38のコーキング剤40を押し除けるようにして、下地桟52にねじ込まれる。
皿頭ネジ釘60で押し除けられたコーキング剤40の一部は、裏側凸部34と下地桟52との間や、皿頭ネジ釘60のねじ山と下地桟52に形成されるねじ穴との隙間、取付穴36の内面と皿頭ネジ釘60の外形との間にも入り込む。これによって、皿頭ネジ釘60とその外周に存在する部材との間の隙間が確実にコーキング剤40で埋められ、水密性が向上する。
【0044】
皿頭ネジ釘60を十分にねじ込むと、皿頭ネジ釘60の皿状頭部が、座ぐり部37に納まり、皿頭ネジ釘60の上端は、裏側凹部34の上面とほぼ同一面になる。タイル材10の全ての取付孔37に皿頭ネジ釘60を取り付ければ、タイル材10は、外壁下地材50に強固に固定される。
1枚のタイル材10が外壁下地材50に固定されれば、その上方あるいは左方に、次の新たなタイル材10が配置され、前記同様にして、外壁下地材50に固定される。このような作業を順次繰り返すことで、外壁全体にタイル材10を施工することができる。
図1、図5に示すように、前後左右に施工されたタイル材10は、互いの間に目地隙間が構成される。表面板部20の表面に形成されたレンガ模様と前記目地隙間とによって、壁面全体がレンガ壁に類似した意匠性の高い外観を呈する。壁面の外観上からは、コーキング剤40や内設断熱材90の存在は全く判らない。
【0045】
上記した実施形態では、例えば、図1で、上方側のタイル材10の下辺に存在する表側凸部24の下端と、下方側のタイル材10に有する表面板部20の上端辺との間には、屋外からの雨水などが浸入する可能性がある。表側凸部24の裏側まで浸入した水は、下方側のタイル材10に有する裏側凸部34の表面から皿頭ネジ釘60と座ぐり部37との隙間を通って、内部へと浸入しようとする。しかし、皿頭ネジ釘60と周囲の部材とのあいだにコーキング剤40が存在していて、奥まで到達するような隙間が無くなっていれば、水の浸入は確実に遮断される。タイル剤10の裏面や壁下地材50にまで水が浸入することはない。単なる合いじゃくり継手構造だけを備えている場合に比べて、はるかに水密性の高い外壁構造を構築することができる。
【0046】
〔内設断熱材の機能〕
図1に示すように、施工されたタイル材10の裏面側に配置された内設断熱材90は、その上端面は、裏側凸部34との間に隙間Gがあいている。内設断熱材90の下端面は、下側のタイル材10における裏側凸部34の上端面との間に隙間Gをあけた状態で対面している。
図6に示すように、内設断熱材90の左右の側端面でも、内設断熱材90が取り付けられたタイル材10の裏側凸部34、および、隣接する別のタイル材10の裏側凸部34との間に隙間Gがあいている。内設断熱材90の全周に、裏側凸部32、34で囲まれた状態で、周溝状の隙間Gを有している。この隙間Gの部分では、表面板部20の背面が露出した状態になっている。
【0047】
図1に示すように、屋外からの強い日射や寒気によって、タイル材10が強く加熱あるいは冷却されたとしても、タイル材10の裏側に配置された内設断熱材90が、壁の内部側への伝熱を遮断し、壁の内部が過剰に加熱されたり冷却されたりし難くなる。
内設断熱材90は、タイル材10の裏面側に配置されているので、屋外環境に露出することはない。タイル材10の取扱いや施工作業時に、内設断熱材90が傷付いたり欠けたりする心配も解消される。
しかも、内設断熱材90の周囲には、隙間Gに対応して、表面板部20の背面が露出している個所が存在する。タイル材10が雨水や湿気を吸っても、表面板部20の背面の露出個所から裏側の空間に水分が蒸発されてタイル材10から取り除かれる。タイル材10の材料が吸水したまま高含水状態になることが防止できる。その結果、寒冷地における凍害問題が解消できる。
【0048】
内設断熱材90の周囲の空間は、通気空間39と連通しているので、タイル材10から放出された水分は、通気空間39へと送られる。
〔通気空間の機能〕
図1に示すように、通気空間39は、内設断熱材90の背面に露出した状態で、タイル材10を貫通する空間を構成している。
図6に詳しく示すように、外壁面にタイル材10が縦横に敷設された状態でも、各タイル材10の通気空間39が、外壁面の上下方向および水平方向の何れにも連通した状態である。
【0049】
外壁面に雨や散水がかかったりして、タイル材10同士の隙間からタイル材10の裏面側まで、水分が浸入してくることがある。タイル材10が水分を吸収し、吸収された水分がタイル材10の裏面側から内部空間に水分が放出されることも起こる。タイル材10の裏面側に密閉された空間があり、その空間が温まったり冷えたりすることで、結露を発生することがある。
このような場合でも、通気空間39によって、タイル材10の裏面側を空気が自由に流通する状態であれば、タイル材10の裏面側に侵入した水分を、通気によって運び去ることができる。タイル材10に吸収された水分も、タイル材10と接触して流通する空気が運び去る。タイル材10が吸水したままになり難いので、凍害の発生が防止できる。通気があれば結露も発生し難い。結露が発生しても、直ぐに通気とともに運び去ることができる。下地桟52や外壁下地材50が、木材などのように、吸湿し易く、吸湿によって劣化したり腐食したりし易い材料であっても、吸湿や腐食の問題が低減できる。
【0050】
特に、断熱性向上のために設けた内設断熱材90に、雨水などの水分が吸収されたり、内部で結露が発生したりしたとしても、通気空間39に隣接する内設断熱材90の表面を通気が接触しながら通過するので、内設断熱材90から水分や湿気を奪い取って、運び去ることができる。内設断熱材90が劣化したり、内部でカビが発生したりすることが防止できる。
屋外側からの強い加熱や冷却がタイル材10の裏面側まで伝達されたとしても、通気空間39を通じて流通する空気が、熱を奪い去ったり熱を供給したりすることになり、外壁下地材50から内側への伝熱を効率的に遮断することができる。
【0051】
なお、外壁面の上部および下部では、通気空間39は、屋外空間や床下空間に連通させている。上部では、屋根裏空間を介して軒下から屋外空間に連通させておく。その結果、通気空間39を含むタイル材10と外壁下地材50との間の通気空間には、屋外から雨水などが浸入することはない。
〔タイル材の接着取付〕
図8に示す実施形態は、タイル材10および下地桟52の取付固定に、ねじ釘60を使用しない。
外壁下地材50の表面と下地桟52の背面との間に、接着剤層58を設けて、下地桟52を外壁下地材50に接着している。具体的には、下地桟52の背面全体に接着剤を塗布した状態で、外壁下地材50の表面に格子状に配置して押し付けるようにすることで接着させる。
【0052】
格子状に配置された下地桟52の表面に接着剤を塗布したあと、タイル材10の裏側凸部32、34を下地桟52に押し付けるようにすれば、タイル材10が下地桟52に固定される。
このような取付構造を採用することで、面状の外壁下地材50と、格子状の下地桟52と、下地桟52の各格子を覆うタイル材10とが一体となって、壁面の面方向における強度や耐変形力を大幅に向上させることができる。
ねじ釘60による固定は、ねじ釘60の位置による点状の固定である。例えば、外壁下地材50に対して下地桟52、下地桟52に対してタイル材10がそれぞれ、固定点以外の部分では、ある程度まで、ずれたり回転したり変形したりすることができる可能性がある。
【0053】
これに対し、前記した接着による取付構造では、外壁下地材50、下地桟52およびタイル材10が、それぞれの当接面の全体を接着剤層58で緊密に固定接合されているので、互いにずれたり回転したり変形したりし難く、全体が1種の剛体構造を構成することになって、強度や耐変形力が向上するのである。
この構造の場合、タイル材10には、取付孔36、座ぐり部37および充填凹部38を設けなくてもよい。その結果、通気空間39を取付孔36の位置にまで拡げて、通気性を向上させることができる。
なお、タイル材10および下地桟52の取付固定を、ねじ釘60の接着剤層58との両方の手段で果たすこともできる。より強固な取り付けが可能になる。
【実施例】
【0054】
本発明の具体的実施例とその性能を評価した結果を示す。
〔タイル材の凍害試験〕
セメント硬化物からなるタイル材10の耐凍害性を評価した。
<タイル材の材料および製造工程>
前記<外壁用タイル材の具体例>の項で説明した材料および形状のタイル材を製造した。タイル材の材料には、セメント、骨材、細骨材、ビニロン繊維などを、通常の配合量で組み合わせた。タイル材料の配合を変えて、比重の異なるタイル材を製造した。
<基本特性の測定>
得られた試験体の比重、平面引張強度、吸水率を、常法により測定した。
【0055】
<凍害試験>
JIS−A1435「気中凍結水中融解試験」に準じて実施した。試験体を飽水する条件で試験を行った。300サイクル後の状態を観察し、評価した。
その結果を、表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
<評価>
(1) セメント硬化物からなるタイル材は、比重が増えるほど、平面引張強度が向上し、吸水率は低下し、耐凍害性は向上する傾向がある。
(2) 凍害の心配がある地域で使用するタイル材としては、比重1.3以上が必要とされ、好ましく比重1.5以上のものを使用すればよい。
(3) 凍害の心配がなければ、試験例1などでも、実用上、充分な強度は有している。
但し、吸水率が高いので、水分が壁の内部まで到達し易くなる。
(4) この試験は、タイル材を飽水させた状態で評価したが、実際の施工状態では、雨などのタイル材が吸収しても、直ぐに乾燥すれば、凍害は生じ難い。また、この試験では、タイル材の裏面や側端が解放された状態であったが、実際の施工状態では、タイル材の裏面側や側端が塞がれていることがある。次項で説明する透水性試験は、タイル材の施工条件に近い状態において評価する。
【0058】
〔透水性試験〕
外壁用タイル材の透水性と、吸水後の乾燥性を評価する試験を行なった。
<試験体の材料および製造工程>
前記<外壁用タイル材の具体例>の項で説明した材料から試験体を製造した。具体的には、セメント、骨材、細骨材、ビニロン繊維などを、通常の配合量で組み合わせた。但し、形状は簡略化している。
得られた試験体は、300mm×200mm×8mm(厚さ)の矩形板状であり、厚み80〜140μmの表面塗装膜を有する。
【0059】
<透水量測定>
表面塗装膜の透水性を測定する。試験体の表面塗装膜の表面に、150mm角の筒をシーラントで防水した状態で固定した。角筒に水位10cmまで水を入れ、24時間経過後に水を捨て、表面塗装膜の表面に残る水分を拭った。試験前後の重量増加量を測定し、下式で、透水量を求めた。
透水量(g/m)=(試験後重量−試験前重量)/0.15 …(1)
試験体の透水量は、100g/mであった。
<乾燥性評価試験>
試験体を24時間吸水させたあと、室内に静置した。3日後および6日後に、重量を測定し、下式で吸水率を求めた。
【0060】
含水率(%)=〔(経日後の重量−吸水前の重量)/吸水前の重量〕×100
… (2)
試験体の裏面に断熱材を配置したり、四辺の側端すなわち木口を目地隙間用のシーリング剤で塞いだりするなど、環境条件を違えたものについて、それぞれ測定を行った。
裏面断熱材:
発泡ポリスチレンからなり厚み10mmの断熱材を、試験体の裏面に接着した。
試験体の裏面全体を断熱材で覆ったもの(全面)と、試験体の裏面のうち、周辺から10mmを除く中央部分を断熱材で覆ったもの(周辺10mm隙間有り)とで、測定を行った。
【0061】
木口シール:
目地用のウレタン系シーリング剤を、試験体の四辺側端面に塗工したもの〔木口シール有り〕と、シーリング剤を塗工しないもの(木口シール無し)とで、測定を行った。
その結果を、表2、3に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
<評価>
(1) 経日後の含水率が小さいほど、タイル材に吸収された水分が迅速に蒸発して除去され、乾燥状態に戻る。タイル材に水分が吸収されたままにならなければ、前項の試験で評価した吸水率も低い状態が維持される。凍害による問題も生じ難い。カビの発生や性能低下も起こり難い。
(2) 裏面断熱材および木口シールの条件が同じであれば、比重が大きい試験体を使用するほど、経日後の含水率が下がり、タイル材に吸収された水分が迅速に蒸発して除去される。
【0065】
(2) 裏面断熱材は、周辺に隙間をあけて、タイル材の裏面側から水分が蒸発できるようにしたほうが、経日後の含水率が下がり、迅速に水分除去が行える。
(3) 木口シールを無くして、タイル材の木口からも水分が蒸発できるようにしたほうが、経日後の含水率が下がり、迅速に水分除去が行われる。
(4) 比重が大きい場合は、裏面断熱材および木口シールの構造にそれほど影響されず、常に、経日後の含水率は低く、迅速に水分除去が行われる。比重が、1.7以上であれば、裏面断熱材が全面に存在し、木口シールをしていても、凍害の心配はそれほど生じない。比重が小さくても、裏面断熱材に隙間を設けることなどで、凍害の問題を生じ難くすることができる。
【0066】
(5) 裏面断熱材に隙間を設け、木口シールは設けず、比重を高くすることが、迅速な水分放出、乾燥状態の維持、したがって凍害の防止に、最も有効である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の外壁用タイル材および外壁構造は、例えば、一般住宅における外側壁の外装仕上げ施工に適用でき、施工が容易で、断熱性が高く、屋外から水が浸入し難く、水が浸入してもタイル材が含水したままになり難く、水が容易に排出される外壁を構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態を表す外壁タイル材の施工状態の断面構造図
【図2】外壁用タイル材の平面図
【図3】同上の裏側凸部側からみた一部断面正面図
【図4】同上の背面図
【図5】外壁用タイル材の連結状態を示す正面図
【図6】同上の背面図
【図7】外壁用タイル材の外壁下地材への取付状態を示す正面図
【図8】別の実施形態を表す施工状態の断面構造図
【符号の説明】
【0069】
10 外壁用タイル材
20 表面板部
22、24 表側凸部
26 目地隙間
28 表面化粧層
30 裏面枠部
32、34 裏側凸部
36 取付孔
37 座ぐり部
38 充填凹部
39 通気空間
40 コーキング剤
50 外壁下地材
52 下地桟
58 接着剤層
60 皿頭ネジ釘
90 内設断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁面に並べて施工されるタイル材であって、
全体が概略矩形板状をなし、
対向する側辺に配置されタイル材同士を面方向に連結する合いじゃくり継手となる表側凸部および裏側凸部と、
前記表側凸部および裏側凸部よりも内側でタイル材の裏面側に配置された内設断熱材と
を備える外壁用タイル材。
【請求項2】
比重が1.3以上の繊維配合セメント硬化物からなる
請求項1に記載の外壁用タイル材。
【請求項3】
前記表側凸部および前記裏側凸部の突出長L1、L2がそれぞれ、7〜50mmの範囲であり、
前記裏側凸部の突出長L2が、前記表側凸部の突出長L1よりも、7〜50mm長い
請求項1または2に記載の外壁用タイル材。
【請求項4】
前記内設断熱材の側端面とそれに対面する前記裏側凸部の内側端面との間、および、タイル材の施工時に前記内設断熱材の側端面と対面する別のタイル材における前記裏側凸部の内側端面との間に、3〜30mmの隙間Gを有する
請求項1〜3の何れかに記載の外壁用タイル材。
【請求項5】
裏面側において対向する側辺の間を面方向に貫通する通気空間をさらに備える
請求項1〜4の何れかに記載の外壁用タイル材。
【請求項6】
前記裏側凸部の表面から裏面へと貫通し、前記外壁下地面への固定具が挿通される取付孔をさらに備える
請求項1〜5の何れかに記載の外壁用タイル材。
【請求項7】
前記裏側凸部の裏面側で取付孔を囲んで配置され、裏側凸部の裏面よりも凹んでいて、コーキング剤が充填される充填凹部をさらに備える
請求項6に記載の外壁用タイル材。
【請求項8】
前記取付孔が、タイル材を建築物の外壁面に並べて施工したときに、隣接して配置されるタイル材の前記表側凸部で塞がれる位置に配置されている
請求項6または7に記載の外壁用タイル材。
【請求項9】
請求項1〜8の何れかに記載の外壁用タイル材を用いる外壁構造であって、
屋内側に配置される内装材層と、
前記内層材層の外面側に配置される断熱材層と、
前記断熱材層の外面側に配置される外壁下地材と、
前記外壁下地材の外面側に配置される外壁用タイル材と
を備え、
前記外壁用タイル材は、前記内設断熱材を裏面側に向けて配置し、前記表側凸部を下辺側にした姿勢で、前記外壁下地材に先に固定されたタイル材の上辺側に有する裏側凸部の表面に、前記表側凸部を重ねて配置する
外壁構造。
【請求項10】
前記外壁下地材の表面に、縦横に格子状に配置され、外壁下地材の表面に接着された下地桟をさらに備え、
前記外壁用タイル材が、前記下地桟の表面に接着されている
請求項9に記載の外壁構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−29010(P2006−29010A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213218(P2004−213218)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【出願人】(000237053)富士スレート株式会社 (10)
【Fターム(参考)】