説明

外径測定方法および外径測定装置

【課題】心合わせ作業をせずとも円柱状被測定体の外径を高精度に測定できる方法および装置を提供する。
【解決手段】半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第1の測定ステップ(S2)と、第1の測定ステップで測定した測定値を、それぞれ第1、第2、および第3の測定値として記憶する第1の記憶ステップ(S3)と、半径が未知である円柱状被測定体の半径方向の変位を第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第2の測定ステップ(S4)と、第1の記憶ステップ(S3)で記憶された第1、第2、および第3の測定値と、第4、第5、および第6の測定値と、基準円柱状被測定体の半径とから、円柱状被測定体の半径を算出する演算ステップ(S6)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外径測定方法および外径測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
棒鋼や鋼管等の円柱ないし円筒形状をなす鋼材製品の製造では、断面形状が製品全長に亘って一定であることが求められる。そのために、棒鋼や鋼管等の加工工程は多数段階に亘る圧延工程および矯正工程を有し、これらの加工工程中および加工工程後に製品全長に亘る断面形状を高精度に測定することが非常に重要となっている。
【0003】
一方、円柱形状ないし円筒形状の被測定体(以降、外形のみを扱うので、これらの形状を区別せず円柱状被測定体という)の形状を測定するためには、円柱状被測定体の断面の仮中心位置と測定装置の中心位置とを合わせる作業(いわゆる心合わせ作業)が高精度測定に不可欠である。
【0004】
このための技術として、円柱状被測定体の外周に配置したセンサを円周方向に回転させて半径方向の変位を測定することによって円柱状被測定体の断面の中心を算出する技術(例えば特許文献1を参照)、あるいはセンサを回転させる代わりに、円周方向にセンサを多数配置する技術(例えば特許文献2を参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−183107号公報
【特許文献2】特開2002−98514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、センサを円周方向に回転(または円柱状被測定体を回転)させる方式を加工工程中に適用しようとすると、円柱状被測定体の軸方向の搬送を止めてから円柱状被測定体の断面の中心位置を算出するか、あるいは軸方向の搬送と円周方向の回転とが併存した螺旋状走査で近似的に円柱状被測定体の断面の中心位置を算出せざるを得ない。その結果、搬送の停止または低速化による加工工程の効率低下、または螺旋状にセンサを走査することによる測定精度の低下という問題点があった。しかも、搬送中の円柱状被測定体の揺動のため、ある断面における中心位置を算出したとしても、その中心位置を円柱状被測定体の全長に亘り使用することはできない。また、センサを回転させる代わりに、円周方向にセンサを多数配置する方法を採用する場合でも、同一平面上に高精度のセンサを多数配置するのは寸法上の制約が大きいなどの問題点がある。
【0007】
このため、加工工程中の測定でも円柱状被測定体の搬送を停止することなく、かつ全長に亘り断面形状を高精度に測定する方法として、心合わせ作業を必要としない測定方法が望まれている。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、心合わせ作業をせずとも、円柱状被測定体の外径を高精度に測定できる方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる外径測定方法は、円柱状被測定体の円周断面の属する平面上に第1、第2、および第3の変位センサを配置した外径測定装置を用いた外径測定方法であって、半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第1の測定ステップと、前記第1の測定ステップで測定した測定値を、それぞれ第1、第2、および第3の測定値として記憶する第1の記憶ステップと、半径が未知である前記円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ第4、第5、および第6の測定値として測定する第2の測定ステップと、前記第1の記憶ステップで記憶された前記第1、第2、および第3の測定値と、前記第4、第5、および第6の測定値と、前記基準円柱状被測定体の半径とから、前記円柱状被測定体の半径を算出する演算ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる外径測定装置は、円柱状被測定体の円周断面の属する平面上に配置した第1、第2、および第3の変位センサと、半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定した第1、第2、および第3の測定値を記憶する第1、第2、および第3の記憶手段と、半径が未知の前記円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定した第4、第5、および第6の測定値を記憶する第4、第5、および第6の記憶手段と、前記第1、第2、および第3の測定値と、前記第4、第5、および第6の測定値と、前記基準円柱状被測定体の半径とから、前記円柱状被測定体の半径を算出する演算手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる外径測定方法および外径測定装置は、心合わせ作業をせずとも、円柱状被測定体の外径を高精度に測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、3点法おける円柱状被測定体と透過光式変位センサの配置を説明する図である。
【図2】図2は、透過光式変位センサの測定値について説明する図である。
【図3】図3は、円柱状被測定体の中心と測定系の中心とが一致しない状態での測定について説明する図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態にかかる外径測定装置の構成を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態にかかる外径測定方法の手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の実施形態にかかる外径測定方法による測定例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
〔測定原理〕
まず、本発明の実施形態の説明の前に、本発明の測定原理について説明する。なお、以下の説明では、被測定物の断面形状が円柱ないし円筒であると仮定した場合の半径を算出するので、この値を等価半径とし、簡単のため区別せず半径と称する。
【0015】
図1は、透過光式変位センサを用いた3点法による円柱状被測定体の外径を測定するための透過光式変位センサと円柱状被測定体との配置を表す図である。また、図2は、図1における透過光式変位センサが測定する測定値について説明する図である。図2では、簡単のため、第1の変位センサ1のみを図示して説明するが、第2の変位センサ2および第3の変位センサ3についても同様の説明が成り立つ。
【0016】
図1に示されるように、透過光式変位センサを用いた3点法では、円柱状被測定体Aの円周断面の属する平面上に配置した第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3を利用する。第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3は、それぞれ投光部11,21,31と受光部12,22,32とを備え、
基準半径の方向(図1中ではx軸方向)からそれぞれ所定角度θ,θ,θの半径方向に関する円柱状被測定体Aの変位を測定するように配置されている。
【0017】
図2に示されるように、透過光式変位センサである第1の変位センサ1は、投光部11と受光部12を備え、投光部11から射出した平行光13を受光部内12の撮像素子14が検出する構成をしている。このとき、円柱状被測定体Aが平行光13の一部を遮った場合、受光部内12の撮像素子14は、円柱状被測定体Aによって生じた影15の大きさsを検出することにより、円柱状被測定体Aの半径方向の変位を測定する。
【0018】
したがって、撮像素子14により検出される影15の大きさsを第1の変位センサ1の測定値sとすると、円柱状被測定体Aの半径Rは、測定系の中心Oから平行光13までの距離であるオフセット量oを用いて、R=s+oと表現できる。
【0019】
同様に、図2を用いた説明が第2の変位センサ2および第3の変位センサ3についても成り立つので、円柱状被測定体Aの半径Rと第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3のそれぞれの測定値s,s,sとは、
【数1】

と表される。ただし、o,o,oは、各変位センサ1,2,3のオフセット量である。
【0020】
以上のように、3点法では、事前にオフセット量o,o,oを測定しておくと〔式1〕を用いて円柱状被測定体Aの半径Rを測定することができる。しかしながら、上記に説明した〔式1〕が成立するためには、円柱状被測定体Aの中心O’を測定系の中心Oに一致させることが前提であり、現実的には加工工程などの搬送中における円柱状被測定体Aの中心O’を測定系の中心Oに一致させることは難しい。
【0021】
その結果、搬送中の円柱状被測定体Aを測定する場合、図3に示されるように、円柱状被測定体Aの中心O’と測定系の中心Oとが一致しない状態で、円柱状被測定体Aの測定を行うことになる。すなわち、円柱状被測定体Aの中心O’と測定系の中心Oとのずれ量を(p,q)と表すと、円柱状被測定体Aの半径Rと第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値s,s,sとの関係は、〔式1〕の代わりに、
【数2】

となり、ずれ量(p,q)を含んだ量となってしまう。しかも、このずれ量(p,q)は、円柱状被測定体Aの搬送中に時々刻々と変化する量であり、一度このずれ量を測定したとしても、このずれ量を恒久的に使用することはできない。
【0022】
そこで、〔式2〕から、ずれ量(p,q)の影響を排除するために、以下のような式変形を考える。
【0023】
まず、
【数3】

を満たす(w,w)があれば、以下の〔式4〕のように、ずれ量(p,q)を消去することができることが解る。
【数4】

【0024】
さらに、〔式4〕を整理すると、円柱状被測定体Aの半径Rと第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値s,s,sとの関係は、以下のようになる。
【数5】

【0025】
ここで、〔式5〕の右辺は、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3のそれぞれのオフセット量o,o,oを含んでいる。ところが、これらのオフセット量o,o,oは、以下の方法により、半径Rが既知である基準円柱状被測定体の測定値によって消去することができる。
【0026】
まず、半径Rが既知である基準円柱状被測定体に対する、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値s,s,sを取得しておく。すなわち、この基準円柱状被測定体の半径Rと測定値s,s,sでは、下式が成り立つ。
【数6】

【0027】
一方、半径Rが未知である円柱状被測定体Aの測定を行う。この測定における第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値をm,m,mとすると、下式が成り立つ。
【数7】

【0028】
すると、〔式6〕と〔式7〕との差をとることにより、オフセット量o,o,oを消去することができ、下式を得る。
【数8】

【0029】
すなわち、〔式8〕からは、〔式3〕を満たす(w,w)があれば、未知であった円柱状被測定体Aの半径Rを算出する方法が得られることが解る。
【0030】
ところで、〔式3〕を満たす(w,w)は、係数行列の逆行列を求めることにより、
【数9】

というように、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3が測定する変位の半径方向の角度(θ123)により一意に求めることができることが解る。なお、上記説明ではθ123を図1におけるx軸を基準半径とした角度として説明したが、x軸以外を基準半径としてθ123を定めても、〔式9〕における(w,w)は不変である。
【0031】
したがって、どのように基準半径をとるかにかかわらず、〔式8〕は、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3が測定する変位方向の角度により一意に定まる関数であるといえる。
【0032】
しかも、この関数〔式8〕に基準円柱状被測定体に対する測定値s,s,sと基準円柱状被測定体の半径Rと円柱状被測定体Aに対する測定値m,m,mとを代入することにより、円柱状被測定体Aの半径Rを計算できることが導かれた。
【0033】
なお、上記測定原理は、変位センサとして透過光式変位センサの例を用いたが、透過光式変位センサに限らず、上記〔式2〕のようにずれ量(p,q)およびオフセットo,o,oを含む測定系で適切に適用できる。
【0034】
〔外径測定装置〕
次に、本発明の実施形態にかかる外径測定装置4について説明する。
【0035】
図4は、本発明の実施形態にかかる外径測定装置4の構成を示す模式図である。図4に示されるように、本発明の実施形態にかかる外径測定装置4は、センサユニット5、記憶部6、演算部7、表示部8、入力部9、およびA/D変換器16、26、36を備えている。
【0036】
センサユニット5は、内部に第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3を有し、それらの内部配置は、図1で説明した通りとする。すなわち、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3は、それぞれ投光部11,21,31と受光部12,22,32とを備え、基準半径の方向(図1中ではx軸方向)からそれぞれ所定角度θ,θ,θの半径方向に関する円柱状被測定体Aの変位を測定するように配置されている。
【0037】
また、センサユニット5の内部の第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3は、それぞれA/D変換器16、26、36を介して、演算部7と接続されている。さらに、記憶部6は、演算部7を介して入力された第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値を記憶するよう構成されている。
【0038】
記憶部6は、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の測定値を、半径Rが既知である基準円柱状被測定体および半径Rが未知である円柱状被測定体について、それぞれ独立に記憶することができるように構成されている。すなわち、記憶部6は、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3によって測定されたそれぞれ測定値s,s,s,m,m,mを記憶する第1、第2、第3、第4、第5、および第6の記憶手段として機能する。なお、これらの記憶手段は、物理的に分離した記憶手段である必要はなく、独立した変数として測定値を記憶部6に格納することにより実現すればよい。
【0039】
演算部7は、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3によって測定された測定値s,s,s,m,m,mを、記憶部6に読み書きする制御を行うことができる。さらに、演算部7は、記憶部6に記憶された測定値s,s,s,m,m,mおよび既知の半径Rから、〔式8〕に基づいて円柱状被測定体の半径を算出する演算を行う。例えば、演算部7は、ROMまたはPLDなどの演算素子、あるいはMPU上で実行するプログラムなどで構成することができる。
【0040】
表示部8は、演算部7に接続されており、演算部7によって算出された円柱状被測定体の半径、および外径測定装置4の操作に必要なその他の情報を表示する。
【0041】
入力部9は、演算部7に接続されたキーボードなどの一般的なユーザーインターフェースで構成することができ、オペレーターが基準円柱状被測定体の既知の半径Rを入力する際に操作される。さらに、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の取り付け位置をオペレーターが変更し得る構成では、各変位センサが測定する変位方向の角度(θ123)を入力部9によりオペレーターが入力するのに用いることもできる。なお、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の取り付け位置を変更しない構成では、各変位センサの取り付け角度(または、これから一意に定まるキャンセル係数(w,w))をプリセット値として記憶部6または演算部7に格納しておく構成も可能である。
【0042】
なお、上記外径測定装置4の例では、3つの変位センサからなる場合について説明したが、変位センサを円周方向の角度を変えて複数配置することにより、より細かな測定が可能となるのは当然である。
【0043】
〔外径測定方法〕
次に、先述の測定原理に従い円柱状被測定体Aの半径Rを測定する外径測定方法について説明する。なお、以下の説明では、上記外径測定装置4を用いた外径測定方法について説明を行うが、本発明は、外径測定装置4の構成に限定されるものではない。
【0044】
図5は、本発明の実施形態にかかる外径測定方法の手順を示すフローチャートである。図5に示されるように、本発明の実施形態にかかる外径測定方法は、開始直後に初期設定を行う(ステップS1)。
【0045】
初期設定(ステップS1)では、外径測定装置4のオペレーターが、基準円柱状被測定体の既知の半径Rを入力部9に入力する作業である。さらに、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3の取り付け角度を変更し得る構成においては、オペレーターが各変位センサ1,2,3の測定する変位の方向を入力することもできる。なお、この初期設定は、初期設定の値を記憶部6に保存しておくことにより、適宜、初期設定の実行を省略することが可能である。
【0046】
次に、基準円柱状被測定体を外径測定装置4にセットして、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3が、基準円柱状被測定体の測定を行う(ステップS2)。なお、ここでの測定とは、基準円柱状被測定体の半径そのものの測定ではなく、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3による測定値s,s,sを取得することをいう。そして、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3による測定値s,s,sを外径測定装置4の演算部7が記憶部6に記憶する(ステップS3)。
【0047】
なお、この基準円柱状被測定体の測定(ステップS2)およびその測定値の記憶(ステップS3)は、半径Rが未知の円柱状被測定体Aの測定ごとに実行してもよいが、測定値s,s,sを記憶部6に保存しておき、この測定値s,s,sを次回も利用することにより適度に実行頻度を省略することが可能である。
【0048】
次に、被測定物である円柱状被測定体Aを外径測定装置4にセットして、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3が、円柱状被測定体Aの測定を行う(ステップS4)。なお、ここでの測定とは、円柱状被測定体Aの半径そのものの測定ではなく、第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3による測定値m,m,mを取得することをいう。そして、この円柱状被測定体Aの第1の変位センサ1、第2の変位センサ2、および第3の変位センサ3による測定値m,m,mを演算部7が記憶部6に記憶する(ステップS5)。
【0049】
その後、演算部7が、記憶部6に記憶されている基準円柱状被測定体に対する測定値s,s,sとこの基準円柱状被測定体の半径Rと円柱状被測定体Aに対する測定値m,m,mとから、円柱状被測定体Aの半径Rを算出する(ステップS6)。この算出において、演算部7は、上述の〔式8〕を用いれば円柱状被測定体Aの半径Rを算出することができる。
【0050】
上記実施形態では、演算部7が測定値m,m,mを記憶部6に記憶した後に、記憶された測定値m,m,mを用いて円柱状被測定体Aの半径Rを算出する方法を説明した。しかしながら、演算部7が、測定値m,m,mを直接用いて円柱状被測定体Aの半径Rを算出する実施形態も可能である。
【0051】
なお、上記の外径測定方法により測定された円柱状被測定体Aの半径Rは、外径測定装置4の表示部8に表示される構成としてもよい。加工工程中に円柱状被測定体Aの半径Rを測定した場合は、測定された円柱状被測定体Aの半径Rの値を、圧延工程および矯正工程にフィードバックすることにより加工工程の調節に利用する構成としてもよい。
【0052】
以上より、本発明の実施形態にかかる外径測定方法は、半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第1の測定ステップと、第1の測定ステップで測定した測定値を、それぞれ第1、第2、および第3の測定値として記憶する第1の記憶ステップと、半径が未知である円柱状被測定体の半径方向の変位を第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第2の測定ステップと、第2の測定ステップで測定した測定値を、それぞれ第4、第5、および第6の測定値として記憶する第2の記憶ステップと、第1、第2、および第3の測定値と、第4、第5、および第6の測定値と、基準円柱状被測定体の半径とから、円柱状被測定体の半径を算出する演算ステップと、を含むことにより、心合わせ作業をせずとも、円柱状被測定体の外径を高精度に測定することができる。すなわち、本発明の実施形態にかかる外径測定方法は、心合わせ作業をする必要がないので、加工工程中に外径測定を行っても加工工程の障害となることはない。
【0053】
〔測定例〕
最後に、本発明の効果を実証するために、本発明の実施形態にかかる外径測定方法により測定を行った測定例について説明する。
【0054】
図6に示される表およびグラフは、本発明に従い、半径10.00mmのピンゲージで外径測定装置を校正し、その上で半径15.00mmのピンゲージを被測定物として測定したものである。本測定例の測定条件は、被測定物を静止状態で固定し、外径測定装置の測定系の中心(図3の例ではO)と、被測定物であるピンゲージの中心(図3の例ではO’)を1mm間隔でy軸方向に±4mmの範囲で移動させて、被測定物の半径を2回測定したものである。また、本測定における外径測定装置の第1の変位センサ、第2の変位センサ、および第3の変位センサの取り付け角度は、x軸を基準としてそれぞれθ=60°,θ=180°,θ=300°である。
【0055】
図6から判るように、被測定物の中心が基準位置に一致した場合での真値と測定値との測定誤差は0.2μm以内と小さく、また被測定物を基準位置から±4mmの範囲で移動させた場合も測定値の変動は±2.5μm以内である。このように、本発明にかかる外径測定方法によれば、簡単な測定方法によって高精度な外径測定が可能であり、かつ被測定物の遥動による影響が非常に小さい高精度な外径測定が可能である。なお、図6の測定例の結果のとおり、被測定物の遥動に対して非線形的な誤差がわずかに残存するが、測定器校正で一般的に利用される線形あるいは多項式回帰による補正法を併用することにより、この非線形的な誤差を除去してさらに精度を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 第1の変位センサ
2 第2の変位センサ
3 第3の変位センサ
4 外径測定装置
5 センサユニット
6 記憶部
7 演算部
8 表示部
9 入力部
11 投光部
12 受光部
21 投光部
22 受光部
31 投光部
32 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状被測定体の円周断面の属する平面上に第1、第2、および第3の変位センサを配置した外径測定装置を用いた外径測定方法であって、
半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定する第1の測定ステップと、
前記第1の測定ステップで測定した測定値を、それぞれ第1、第2、および第3の測定値として記憶する第1の記憶ステップと、
半径が未知である前記円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ第4、第5、および第6の測定値として測定する第2の測定ステップと、
前記第1の記憶ステップで記憶された前記第1、第2、および第3の測定値と、前記第4、第5、および第6の測定値と、前記基準円柱状被測定体の半径とから、前記円柱状被測定体の半径を算出する演算ステップと、
を含むことを特徴とする外径測定方法。
【請求項2】
前記第2の測定ステップで測定したそれぞれ前記第4、第5、および第6の測定値を記憶する第2の記憶ステップとを更に含み、
前記演算ステップは、前記第1の記憶ステップで記憶された前記第1、第2、および第3の測定値と、前記第4、第5、および第6の測定値と、前記基準円柱状被測定体の半径とから、前記円柱状被測定体の半径を算出することを特徴とする請求項1に記載の外径測定方法。
【請求項3】
前記演算ステップは、前記第1、第2、および第3の変位センサが測定する変位方向の角度によって定まる関数に、前記基準円柱状被測定体の半径と前記第1、第2、および第3の測定値と前記第4、第5、および第6の測定値とを代入することによって、前記円柱状被測定体の半径を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の外径測定方法。
【請求項4】
前記関数は以下の式で表されることを特徴とする請求項3に記載の外径測定方法。
【数1】

ただし、s,s,sは、それぞれ前記第1、第2、および第3の測定値であり、m,m,mは、それぞれ前記第4、第5、および第6の測定値であり、θ,θ,θは、前記第1、第2、および第3の変位センサが測定する変位方向の基準半径からの角度であり、Rは、前記基準円柱状被測定体の半径である。
【請求項5】
前記変位センサは、透過光式変位センサであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の外径測定方法。
【請求項6】
円柱状被測定体の円周断面の属する平面上に配置した第1、第2、および第3の変位センサと、
半径が既知である基準円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定した第1、第2、および第3の測定値を記憶する第1、第2、および第3の記憶手段と、
半径が未知の前記円柱状被測定体の半径方向の変位を前記第1、第2、および第3の変位センサによってそれぞれ測定した第4、第5、および第6の測定値を記憶する第4、第5、および第6の記憶手段と、
前記第1、第2、および第3の測定値と、前記第4、第5、および第6の測定値と、前記基準円柱状被測定体の半径とから、前記円柱状被測定体の半径を算出する演算手段と、
を備えることを特徴とする外径測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−107948(P2012−107948A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256146(P2010−256146)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】