外殻フレームの製造方法およびその製造方法に用いる取付具
【課題】 倒立振子型移動体の外殻フレームを高精度に形成する製造方法を提供する。
【解決手段】 カーボン繊維強化プラスチック製の下部フレーム22と、下部フレームに設けられた走行ユニット3とを備えた倒立振子型移動体1の下部フレームの製造方法であって、カーボン繊維強化プラスチックを下型100および上型120上で硬化させ、成形体300を形成するステップと、成形体を下型または上型に嵌合させるステップと、固定部材145を用いて、成形体を下型または上型に対して固定するステップと、成形体が固定された下型または上型を数値制御工作機械600のワークテーブル601上に位置決めし、固定するステップと、成形体に走行ユニットの取付部38L,38Rを形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて成形体を機械加工するステップとを有することを特徴とする。
【解決手段】 カーボン繊維強化プラスチック製の下部フレーム22と、下部フレームに設けられた走行ユニット3とを備えた倒立振子型移動体1の下部フレームの製造方法であって、カーボン繊維強化プラスチックを下型100および上型120上で硬化させ、成形体300を形成するステップと、成形体を下型または上型に嵌合させるステップと、固定部材145を用いて、成形体を下型または上型に対して固定するステップと、成形体が固定された下型または上型を数値制御工作機械600のワークテーブル601上に位置決めし、固定するステップと、成形体に走行ユニットの取付部38L,38Rを形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて成形体を機械加工するステップとを有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振子型移動体の外殻フレームの製造方法に係り、詳しくは、繊維強化プラスチックを成形した成形体を高精度に機械加工して外殻フレームを製造する技術に関する。また、外殻フレームの製造方法において使用される装置であって、成形体を数値制御工作機械のワークテーブルに位置決めし、固定するための取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
別個の電動モータによってそれぞれ駆動される一対の駆動体と、これら一対の駆動体の間に挟持され、駆動体から摩擦力を受けて駆動される1つの主輪とから構成される走行ユニットを備えた倒立振子型移動体が公知になっている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る主輪は、無端円環状の環状体と、環状体の環方向に複数個配置され、各々自身の配置位置における環状体の接線方向と平行な回転軸回りに回転可能なドリブンローラとを備え、ドリブンローラが駆動体と接触して駆動される。ドリブンローラが、環状体の接線方向の回転軸回りに回転(自転)する場合には、倒立振子型移動体は左右方向に推力を得て、ドリブンローラが環状体の環方向に回転(公転)する場合には、倒立振子型移動体は前後方向に推力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第08/132779号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような倒立振子型移動体において、軽量化および高剛性化を図る目的で、骨格構造を、カーボン繊維等を含む繊維強化プラスチック樹脂製の外殻フレームとすることがある。この場合には、外殻フレームには走行ユニットや、搭乗者の荷重が加わる着座ユニットやステップ、バッテリ、走行ユニットを制御するための制御ユニット等が取り付けられることになる。このような構成では、搭乗者の荷重やバッテリ、制御ユニットの荷重等は、外殻フレームに加わり、外殻フレームから路面に接地した走行ユニットに加わることになる。そのため、外殻フレームの走行ユニットとの取付部の加工精度が悪いと、倒立振子型移動体の操縦性や乗り心地に影響を与えるとともに、走行ユニットとの取付部に偏荷重が加わり、外殻フレームの変形や破損、外殻フレームと走行ユニットとを連結する部材の破損等を招く虞がある。
【0005】
本発明は以上の問題を鑑みてなされたものであって、高精度に機械加工された外殻フレームを得ることができる倒立振子型移動体の外殻フレームの製造方法を提供することを目的とする。また、外殻フレームの製造方法において使用される装置であって、繊維強化プラスチックから成形した成形体を数値制御工作機械のワークテーブルに位置決めし、固定するための取付具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、繊維強化プラスチック製の外殻フレーム(22)と、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御に供される走行ユニット(3)とを備えた倒立振子型移動体(1)の前記外殻フレームの製造方法であって、繊維強化プラスチックを成形型(100,120)上で硬化させ、成形体(300)を形成するステップと、前記成形体を前記成形型に嵌合させるステップと、前記成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材(145)を用いて、前記成形体を当該成形型に対して固定するステップと、前記成形体が固定された前記成形型を数値制御工作機械(600)のワークテーブル(601)上に位置決めし、固定するステップと、前記成形体に前記走行ユニットの取付部(38L,38R)を形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて前記成形体を機械加工するステップとを有することを特徴とする。繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチック、ザイロン繊維強化プラスチック等であってよい。機械加工には、切削加工や研削加工、研磨加工、レーザ加工、ウォータジェット加工等を含む。なお、上記の各ステップは記載の順序に行う必要はなく、適宜変更が可能である。
【0007】
この構成によれば、繊維強化プラスチックを成形する際に使用した成形型と、その成形型によって成形された成形体とは、相補的形状を有するため成形体は成形型上に高精度に配置(位置決め)される。そのため、成形型をワークテーブル上に位置決めし、固定することによって、成形体はワークテーブル上に高精度に位置決めされる。そのため、成形体を高精度に機械加工することができる。また、成形体の位置決めに成形型を再利用したことよって、別途取付具を用意する必要がないため、製造費を削減することができる。
【0008】
第2の発明は、繊維強化プラスチック製の外殻フレーム(22)と、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御の用に供される走行ユニット(3)とを備えた倒立振子型移動体(1)の前記外殻フレームを製造するために、繊維強化プラスチックを硬化成形した成形体(300)を数値制御工作機械(600)のワークテーブル(601)上に位置決めし、固定するための取付具(650)であって、前記成形体を成形する際に使用した成形型(100,120)と、前記成形型に嵌合する前記成形体を当該成形型に固定すべく、当該成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材(145)と、前記成形型を前記テーブル上に位置決めし固定すべく、当該成形型と当該テーブルとの間に設けられる位置決め固定手段(108,109,128,129、651)とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、成形型を利用して、成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するための取付具が得られる。
【発明の効果】
【0010】
以上の構成によれば、倒立振子型移動体の繊維強化プラスチック製の外殻フレームを高精度に形成することができるともに、製造費を削減することができる外殻フレームの製造方法を提供することができる。また、成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に高精度に位置決めし、固定することができる取付具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】倒立振子型移動体の斜視図
【図2】倒立振子型移動体の分解斜視図
【図3】下部フレームの斜視図
【図4】下部フレームと上部フレームとの連結構造を一部破断して示す斜視図
【図5】図1のV−V断面図
【図6】下型を示す斜視図
【図7】上型を示す斜視図
【図8】真空バッグ成形法により下部フレームを成形する際のプリプレグおよびバッグの配置を示す説明図
【図9】下型に成形体を支持させた状態を示す斜視図
【図10】下型に支持させた成形体をワークテーブルに固定した状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を倒立振子型移動体の外殻フレームをなすカーボン繊維強化プラスチック製の下部フレームの製造方法および下部フレームの製造に用いる取付具に適用した一実施形態を詳細に説明する。
【0013】
<倒立振子型移動体の概略構成>
図1および図2に示されているように、倒立振子型移動体(以下、単に移動体と略称する)1は、概ね上下方向に延在する骨格構造としてのフレーム2と、フレーム2の下部に設けられた走行ユニット3と、フレーム2の上部に設けられた着座ユニット4と、フレーム2の内部に設けられた電装ユニット11と、フレーム2の上部に設けられ、各ユニットおよびセンサに電力を供給するバッテリユニット(図示しない)とを主要構成要素として有している。電装ユニット11は、倒立振子制御ユニット(倒立振子制御部。以下、単に制御ユニットと略称する)5と、上部荷重センサ6と、傾斜センサ(傾斜角検出手段)7とを備えている。制御ユニット5は、倒立振子制御に基づいて各種センサからの入力信号に応じて走行ユニット3を駆動制御し、移動体1を倒立姿勢に維持する。
【0014】
フレーム2は、中空の外殻構造をなし、前後方向の幅が左右方向の幅に比べて大きい扁平形状を呈するとともに、上下方向における中央に全周にわたってくびれ部2Aを有し、左右方向から見て略8の字状を呈する。フレーム2は、そのくびれ部2Aにおいて上下に分割されており、別体の上部フレーム21と下部フレーム22とから構成されている。上部フレーム21および下部フレーム22は、それぞれカーボンプリプレグシートを熱硬化させることによって形成されたドライカーボン(炭素繊維強化プラスチック:CFRP)で構成されている。下部フレーム22の製造方法については後述する。上部フレーム21と下部フレーム22とは、後述する上部荷重センサ6を介して連結されている(図4参照)。
【0015】
図2および図3に示されているように、下部フレーム22は、上部開口部31および下部開口部32を有して筒状に形成されている。下部フレーム22の左右の側壁33は概ね上下方向に延在し、かつ互いに平行となっている。下部フレーム22の前後の壁34は、上側から下側に進むにつれて前後方向に膨出し、左右方向から見て下部フレーム22の下部は半円状となっている。この下部フレーム22の半円状をなす下部は、走行ユニット3の上半部を収容する収容空間35を画成している。
【0016】
左右の側壁33には、下部開口部32に連続する略半円状の切欠部36L,36Rがそれぞれ形成されている。左右の切欠部36L,36Rは、左右方向の軸線をもって、互いに同軸に配置されている。切欠部36L,36Rと下部開口部32の境界部分には、切欠部36L,36Rの周縁を延長するように下方へと延出する突片37L,37Rが前後に1つずつ形成されている。切欠部36L,36Rの周縁部と1対の突片37L,37Rとは、面板が左右方向を向く同一平面上に連続して配置され、下方に向けて開口した馬蹄形状を呈するマウント支持部38L,38Rを構成している。このようにして形成された左右のマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rは、下部が切り欠かれた円形状を呈し、互いに同軸となっている。マウント支持部38L,38Rには、馬蹄形状の一端から他端へと概ね等間隔に貫通孔45L,45Rが7つ形成されている。
【0017】
前後の壁34の上部であってくびれ部2Aを形成する部分には、通気孔39がそれぞれ形成されている。通気孔39は、左右方向に延在する長孔状の貫通孔であって、上下方向に複数個が平行に列設されている。
【0018】
下部フレーム22の左右の側壁33における上部開口部31付近の内壁には、電装ユニット11を支持するための一対の金属製のブラケット53L,53Rがそれぞれ接着されている。各ブラケット53L,53Rは前後方向に延在し、その上面は水平面となっている。各ブラケット53L,53Rの前後端近傍には、上下方向に延在する雌ねじ孔54L,54R(図9参照)がそれぞれ形成されている。
【0019】
図1に示されているように、上部フレーム21は、中央部に左右方向に貫通するサドル格納部24を形成するように環状に形成され、その環状部分が中空に形成されている。上部フレーム21の下端部には、下方に向けて開口する下部開口部25が形成されており、環状部分の内部空間と外部とが連通している。また、図4に示されているように、サドル格納部24の下壁部分であって下部開口部25の上方に位置する部分には、サドル格納部24から下方に向けて凹設された接続凹部29が形成されており、接続凹部29の底部の中央部には、貫通孔である連結孔30が形成されている。また、サドル格納部24の上壁部分には、環状部分の内部空間とサドル格納部24とを連通するサドル取付孔(図示しない)が形成されている。
【0020】
上部フレーム21の上部には、着座ユニット4が設けられている。着座ユニット4は、環状部分の内部空間に固定されたベース本体(図示しない)と、基端がベース本体に回動自在に支持され、他端がサドル取付孔を通過して延出する左右一対のサドルアーム62L,62Rと、サドルアーム62L,62Rの先端に設けられた円盤状のサドル63L,63Rとを有している。サドルアーム62L,62Rは、左右方向に延在する使用位置(図1参照)と、上下方向に延在する格納位置(図2参照)との間で回動可能となっており、使用位置および格納位置において位置が保持されるようになっている。図1に示すように、サドルアーム62L,62Rが使用位置にある状態ではサドル63L,63Rの座面が上方を向き、搭乗者が着座可能となっている。図2に示すように、サドルアーム62L,62Rが格納位置にある状態ではサドル63L,63Rがサドル格納部24を閉塞している。
【0021】
図4に示されているように、下部フレーム22のブラケット53L,53R上には電装ユニット11の骨格となる電装マウントフレーム202が取り付けられる。電装マウントフレーム202は、中央部に空間を備えて略矩形状をなす。電装マウントフレーム202は、左右のブラケット53L,53R上に載置された状態において、左右のブラケット53L、53Rの各雌ねじ孔54L,54Rに対応する位置に上下方向に貫通する貫通孔203を備えている。電装マウントフレーム202は、各貫通孔203を貫通し、先端部において各ブラケット53L,53Rの雌ねじ孔54L,54Rに螺合するボルト272によって、左右のブラケット53L,53R上に固定されている。なお、各貫通孔203にはゴムブッシュ270が装着され、下部フレーム22の振動はゴムブッシュ270で減衰され、電装マウントフレーム202に伝達され難くなっている。
【0022】
上部荷重センサ6は、センサ基盤を内蔵するボディ部205と、このボディ部205から上方に突出する入力軸206とを有している。ボディ部201は、電装マウントフレーム202上に載置され、ねじ締結されている。入力軸206は、円柱状に形成され、検出する外力が入力される。入力軸206の外周には基端から先端にわたって雄ねじ溝が形成されており、その基端部には連結部材ベース210が螺着されている。電装マウントフレーム202の内部には、傾斜センサ7がねじによって締結されている。
【0023】
図4に示されているように、下部フレーム22と上部フレーム21との連結は、上部荷重センサ6を介して行われる。上部荷重センサ6の入力軸206は、上部フレーム21の連結孔30を下方から上方に向けて貫通し、その先端部にナット314が螺着される。これにより、入力軸206に連結された連結部材ベース210の上面とナット314との間に上部フレーム21の接続凹部29の底部が挟持される。このようにして、上部フレーム21と上部荷重センサ6の入力軸206とが連結される。
【0024】
図5に示されているように、走行ユニット3は、支持部材としての左右一対のマウント部材81L,81Rと、左右一対のマウント部材81L,81Rにそれぞれ取り付けられた左右一対の電動モータ82L,82Rと、電動モータ82L,82Rの出力を減速して伝達する減速装置としての波動歯車装置83L,83Rと、マウント部材81L,81Rにそれぞれ回転自在に支持されるとともに波動歯車装置83L,83Rを介して電動モータ82L,82Rにそれぞれ回転させられる駆動体84L,84Rと、左右の駆動体84L,84Rによって回転させられる主輪85とを備えている。マウント部材81L,81R、駆動体84L,84R、電動モータ82L,82Rは、それぞれ同軸上に配置されており、これらに共通する軸線を走行ユニット3の回転軸線Aとする。
【0025】
左右のマウント部材81L,81Rは、円筒状部材であって、左右方向における外端に径方向外側に延出するフランジ部92L,92Rを複数備えている。マウント部材81Lの円筒部の内部には、電動モータ82Lのハウジングが固定されている。
【0026】
駆動体84L,84Rは円盤状のドライブディスク71L,71Rと、ドライブディスク71L,71Rに支持された複数のドライブローラ72L,72Rとを備えている。主輪85は、角柱体により構成された無端円環状の環状体73と、環状体73の外周部に回転可能に支持された複数の筒状のドリブンローラ74とにより構成されている。走行ユニット3は、電動モータ82L,82Rによって駆動体84L,84Rを回転させることで、ドリブンローラ74を自身の中心軸線周りに回転(自転)させ、およびまたは主輪85の周方向に回転(公転)させ、前後左右を含む平面上を全方向に推力を発生させる。
【0027】
図2に示されているように、下部フレーム22の左右の切欠部36L,36Rの外方には、ステップベース180L、180Rが取り付けられる。ステップベース180L、180Rは、環状プレート182L,182Rと、環状プレート182L,182Rの内側面(下部フレーム22側を向く面)に突設された円筒部184L,184Rと、環状プレート182L,182Rの外側面の下部に突設され、左右方向に突出するとともに下方へと垂れ下がった舌片状の突出部181L,181Rとを備えている。突出部181L,181Rには、ステップ183L,183Rが回動可能に支持されている。各ステップ183L,183Rは、基端部において概ね前後方向に延在する回動軸をもって各突出部181L,181Rに支持されており、その先端部が基端部の概ね上方に位置し、下部フレーム22に概ね沿った状態となる格納位置と、その先端部が基端部の概ね左右方向に位置し、下部フレーム22から突出した状態となる使用位置との間で回動可能となっている。
【0028】
ステップベース180L、180Rの円筒部184L,184Rは、マウント支持部38L,38Rに嵌合可能な形状となっている。すなわち、円筒部184L,184Rの外周面と、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rとの形状は一致する形状に形成されている。ステップベース180L、180Rは、円筒部184L,184Rがマウント支持部38L,38Rに嵌合されることによって、下部フレーム22に支持されている。円筒部184L,184Rがマウント支持部38L,38Rに嵌合した状態で、環状プレート182L,182Rの内側面は、マウント支持部38L,38Rの外面に当接する。環状プレート182L,182Rには、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L,45Rに対応する位置に貫通孔187L,187Rが形成されている。
【0029】
図5に示されているように、走行ユニット3は、その回転軸が左右方向と平行になり、かつマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rの中心軸と一致するように下部フレーム22の収容空間35の内部にその上半部が配置される。この状態で、走行ユニット3の左右マウント部材81L,81Rのフランジ部92L、92Rは、下部フレーム22のマウント支持部38L,38Rの内面に当接する。フランジ部92L、92Rには、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L、45Rに対応する位置にボルト孔94L,94Rが形成されている。走行ユニット3は、ステップベース180L、180Rの貫通孔187L,187Rと、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L,45Rとを貫通し、マウント部材81L,81Rのボルト孔94L,94Rに螺合するボルト99L、99Rによって、下部フレーム22を挟むかたちでステップベース180L、180Rに締結されている。
【0030】
以上の構成により、下部フレーム22に加わる荷重は、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rから左右のステップベース180L、180Rに伝達され、左右のステップベース180L、180Rからボルト99L、99Rを介して走行ユニット3に伝達される。
【0031】
下部フレーム22の下端部には、走行ユニット3の下半部を路面との接地部位を除いて隠蔽するための下部カバー185が取り付けられる。また、下部フレーム22の左右の側壁33の外側面には、各突出部181L,181Rおよび各ステップ183L,183Rを除いて各ステップベース180L,180Rを隠蔽するためのサイドカバー186L,186Rが取り付けられる。
【0032】
<下部フレームの成形型の構成>
上述した移動体1の下部フレーム22の製造するために使用される成形型の構成について説明する。下部フレーム22は、炭素繊維の織物に熱硬化性樹脂を予め含浸させたシート状のカーボンプリプレグを原料とし、真空バッグ下、加熱硬化させるオートクレーブ法によって成形される。熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂であってよい。図6に下部フレーム22を成形する際に用いる下型100を示し、図7に上型120を示す。下型100および上型120は、互いに接合されて両型間に成型チャンバを画成するものであり、金属や石膏等から形成されている。カーボンプリプレグを下型100および上型120によって成形し、加熱硬化させたものを成形体300という。成形体300は、後述する機械加工によって所定の形状に切削され、下部フレーム22となる。
【0033】
下型100の上型120との接合面101には、下部フレーム22の左半部の形状に対応する成型凹部102が形成されている。成型凹部102には、図中の破線で示す位置に、カーボンプリプレグが敷設される。下型100の接合面101には、成型凹部102に成形体300の左側部分(下部フレーム22の左側となる部分)を嵌合させた際に、成形体300を下型100に固定するための固定部材145を位置決めするためのノック孔116が2箇所、固定部材145を固定するためのボルト孔106が2箇所、上型120との位置決めを行うためのノックピン(図示しない)の一端が嵌合するノック孔107が2箇所穿設されている。下型100の底面は平面に形成されており、側面の下部には水平方向に突出するフランジ部108が形成されている。フランジ部108には、上下方向に延在する貫通孔109が形成されている。フランジ部108および貫通孔109は、後述する数値制御工作機械600のワークテーブル601に下型100を位置決めし、固定する際に使用される。
【0034】
図7に示されているように、上型120の下型100との接合面121には、下部フレーム22の右半部の形状に対応する成型凹部122が形成されている。成型凹部122には、図中の破線で示す位置に、カーボンプリプレグが敷設される。上型120の接合面121には、下型100のノック孔107に嵌合するノックピンの他端が嵌合するノック孔123が2箇所穿設されている。上型120と下型100とは、ノックピンを介して互いの接合面101,121同士を当接させるように組み合わされ、成型凹部122は成型凹部102と連続して、一つの成型チャンバ155を画成する。また、上型120の接合面121には、成型凹部122に成形体300の右側部分(下部フレーム22の右側となる部分)を嵌合させた際に、成形体300を上型120に固定するための固定部材145を位置決めするためのノック孔136が2箇所、固定部材145を固定するためのボルト孔126が2箇所形成されている。本実施形態では、下部フレーム22が左右対称形であるため、固定部材145を下型100および上型120で共通のものとするが、下部フレーム22が左右対称形でない場合には、固定部材145は下型100および上型120に対して異なる形状のものを用意することが必要となる。上型120の底面(接合面121と相反する面)は平面に形成されており、側面の下部には水平方向に突出するフランジ部128が形成されている。フランジ部128には、上下方向に延在する貫通孔129が形成されている。フランジ部128および貫通孔129は、フランジ部108および貫通孔109と同様に数値制御工作機械600のワークテーブル601に下型100を位置決めし、固定する際に使用される。
【0035】
<取付具の構成>
【0036】
取付具650は、後述する数値制御工作機械600のワークテーブル601に成形体300を位置決めし、固定するために用いられるものである。取付具650は、上述した下型100または上型120と、成形体300を下型100または上型120に対して固定する固定部材145と、下型100または上型120をワークテーブル601に位置決めし、固定するための位置決めボルト651とによって構成されている。
【0037】
固定部材145は、上方に突出した門型をなし、下型100の成型凹部102に成形体300が嵌合した状態において、成形体300を跨ぐように配置される。固定部材145は、下型100または上型120のボルト孔106,126に対応する部分に貫通孔(図示しない)を有し、下型100または上型120のノック孔116,136に対応する部分にノック孔(図示しない)を備えている。固定部材145は、固定部材145のノック孔およびノック孔116,136にノックピン148が挿入されることによって下型100または上型120に対して位置決めされ、固定部材145の貫通孔を貫通してボルト孔106,126に螺合するボルト147によって下型100または上型120に着脱自在に固定される。固定部材145が下型100または上型120に固定されることによって、成形体300は下型100または上型120と固定部材145との間に挟持され、位置が固定される。
【0038】
<下部フレームの製造方法>
下部フレーム22の製造方法について説明する。最初に、下型100および上型120の成型凹部102,122のそれぞれにカーボンプリプレグ151,152を敷設する(図6および図6中の点線で示す部分を参照)。次に、ノックピンを介して下型100と上型120とを接合させ、成型チャンバ155を画成する。そして、図8に示されているように、各カーボンプリプレグ151,152の端部同士を連結させるように、内側(成型チャンバ155の中心側)より帯状のカーボンプリプレグからなる連結シート153を両カーボンプリプレグ151,152の端部に貼り付ける。
【0039】
次に、下型100および上型120をバキュームバッグとしての外袋171で覆うとともに、成型チャンバ155内(各カーボンプリプレグ151,152によって画成された空間内)にバキュームバッグとしての内袋172を配置する。そして、外袋171と内袋172との間の空間を減圧することによって、内袋172を成型凹部102,122側へと押し付け、各カーボンプリプレグ151,152および連結シート153を成型凹部102,122側へと押し付ける。この状態で、各カーボンプリプレグ151,152および連結シート153を加熱加圧硬化させることにより、ドライカーボンとしての成形体300が形成される。
【0040】
次に、数値制御工作機械(NC工作機械)600によって成形体300の機械加工を行う。数値制御工作機械600は、いわゆる門型マシニングセンタであって、図10に示されているように、基礎(図示しない)上に載置されたベッド602と、ベッド602上にX軸方向にスライド移動可能に支持されたワークテーブル601と、ベッド602の両側に立設された一対のコラム603と、一対のコラム603間に架け渡されたクロスレール604と、クロスレール604にY軸方向およびZ軸方向にスライド移動可能に支持された主軸ヘッド605と、主軸ヘッド605の主軸に取り付けられた工具606と、ワークテーブル601や主軸ヘッド605等の駆動制御を行う制御装置607とを備えている。数値制御工作機械600の適所には電動モータ(図示しない)が配置されている。制御装置607は、入力された加工情報に基づいて電動モータを制御し、ワークテーブル601をX軸方向に駆動し、主軸ヘッド605をY軸方向およびZ軸方向に駆動し、主軸ヘッド605の主軸を回転させて工具606を回転させ、加工物(ワーク)としての成形体300を機械加工する。工具606は、エンドミルや正面フライス、ドリル等であってよい。
【0041】
加工物としての成形体300は、取付具650によってワークテーブル601上に位置決めされ、固定される。最初に、成形体300の右側部分の機械加工方法について説明する。成形体300の左側部分を取付具650としての下型100の成型凹部102に嵌合させる。成形体300の左側部分は下型100の成型凹部102によって成形されたため、成形体300は成型凹部102に精度良く嵌合し、下型100に対して精度良く位置決めがなされる。
【0042】
次に、固定部材145をノックピン148によって下型100に対して位置決めし、ボルト147によって下型100に締結し、成形体300を下型100と固定部材145との間に挟持する。このようにして、図9に示されるように、成形体300は、下部フレーム22の右側部分となる部分を下型100より上方に露出させるかたちで下型100に対して固定される。
【0043】
次に、成形体300が固定された下型100をワークテーブル601上に載置し、各貫通孔109を挿通する位置決めボルト651によってワークテーブル601に締結する。ワークテーブル601には、予め位置決めボルト651が螺合するボルト孔(図示しない)が所定の位置に形成されており、位置決めボルト651を各貫通孔109を挿通させることによってワークテーブル601に対する下型100の位置決めがなされる。このようにして、成形体300は、取付具650によって、ワークテーブル601上の所定の位置に配置される。また、筒状をなす成形体300が、加工時に工具606に押圧されて撓むことを防止するための、成形体300の内部には工具受けブロック(図示しない)が挿入される。
【0044】
以上のようにしてワークテーブル601上に配置された成形体300を、エンドミルを用いて切削加工し、下部開口部32の右側部分、突片37R、マウント支持部38Rの内周部44R(切欠部36R)を形成する。そして、ドリルを用いた穿孔によって貫通孔45Rを形成する。
【0045】
次に、成形体300の左側の機械加工方法について説明する。最初に、成形体300の右側部分を取付具650としての上型120の成型凹部122に嵌合させる。成形体300の右側部分は上型120の成型凹部122によって成形されたため、成形体300は成型凹部122に精度良く嵌合し、上型120に対して精度良く位置決めがなされる。以下、上述した右側部分の機械加工方法と同様に、固定部材145をノックピン148によって上型120に対して位置決めし、ボルト147によって上型120に締結して、成形体300を上型120に固定し、上型120をワークテーブル上に位置決めボルト651を用いて固定する。そして、エンドミルやドリルを用いて、下部開口部32の左側部分、突片37L、マウント支持部38Lの内周部44L(切欠部36L)、貫通孔45Lを形成する。
【0046】
<実施形態の作用効果>
以上のように、本実施形態では、成形体300を成形する際に使用した下型100または上型120を用いて、成形体300をワークテーブル601上に位置決めし、固定したため、成形体300をワークテーブル601の所定の位置に精度良く配置することができる。そのため、カーボン繊維強化プラスチックである下部フレーム22の突片37L,37R、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44R(切欠部36L,36R)、貫通孔45L,45Rを精度良く形成することができる。
【0047】
下部フレーム22のマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rは、走行ユニット3とボルト99L,99Rによって締結された環状プレート182L,182Rの円筒部184L,184Rと嵌合する部分であり、ガタがないように高精度に加工されることが必要となる。本実施形態では、下型100または上型120を利用した取付具650を使用することによって、成形体300をワークテーブル601上に精度よく配置することができるため、数値制御工作機械600による機械加工の制度を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態では、成形体300を成形する際に使用した下型100または上型120を使用しているため、成形体300は常に取付具650に高精度に支持される。通常、成形体の形状は成形時に使用した成形型の形状に影響されるため、異なる成形型から成形された成形体の全てを1つの取付具で高精度に位置決めをすることは難しい。
【0049】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、実施形態では、炭素繊維強化プラスチックを用いて下部フレーム22を成形したが、炭素繊維強化プラスチックに代えてガラス繊維強化プラスチックやアラミド繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチック、ザイロン繊維強化プラスチック等を用いてもよい。また、本実施形態ではプリプレグを用いて下部フレーム22を成形したが、ウェットカーボンを用いてハンドレイアップ法により成形してもよい。また、本実施形態では真空バッグ法によって下部フレーム22を成形したが、加圧バッグ法によって内袋172内を加圧してカーボンプリプレグ151〜153を成型凹部102,122側に押さえつけるようにしてもよい。
【0050】
本実施形態では、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rに環状プレート182L,182Rの円筒部184L,184Rを嵌合させることによって、走行ユニット3の下部フレーム22に対する位置決めを行ったが、内周部44L,44Rに円筒部184L,184Rが遊嵌するようにし、ボルト99L,99Rと貫通孔45L,45Rとの係合により下部フレーム22と走行ユニット3とをガタがないように連結させてもよい。このような場合には、貫通孔45L,45Rの加工精度が問題となるが、成形体300は取付具350によってワークテーブル601上に高精度に位置決めおよび固定がなされるため、貫通孔45L,45Rも同様に高精度に形成される。
【0051】
また、実施形態では、下型100または上型120に成形体300を嵌合させ、固定した後に、下型100または上型120をワークテーブル601上に位置出しし、固定したが、下型100または上型120をワークテーブル601上に位置出しし、固定した後に下型100または上型120に成形体300を嵌合させ、固定してもよい。
【0052】
また、実施形態では、工具606にボールエンドミルやドリルを使用したが、レーザ加工装置やウォータジェット加工装置を用いて機械加工してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…倒立振子型移動体、2…フレーム(外殻フレーム)、3…走行ユニット、4…着座ユニット、21…上部フレーム、22…下部フレーム(外殻フレーム)、35…収容空間、36L,35R…切欠部、37L,37R…突片、38…マウント支持部、38L,38R…マウント支持部(取付部)、44L,44R…内周部、45L,45R…貫通孔、81L,81R…マウント部材、92L,92R…フランジ部、99L,99R…ボルト、100…下型(成形型)、102…成型凹部、108…フランジ部(位置決め固定手段)、109…貫通孔(位置決め固定手段)、120…上型(成形型)、122…成型凹部、128…フランジ部(位置決め固定手段)、129…貫通孔(位置決め固定手段)、145…固定部材、147…ボルト(位置決め固定手段)、182L…環状プレート、184L…円筒部、187L…貫通孔、600…数値制御工作機械、601…ワークテーブル、651…位置決めボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立振子型移動体の外殻フレームの製造方法に係り、詳しくは、繊維強化プラスチックを成形した成形体を高精度に機械加工して外殻フレームを製造する技術に関する。また、外殻フレームの製造方法において使用される装置であって、成形体を数値制御工作機械のワークテーブルに位置決めし、固定するための取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
別個の電動モータによってそれぞれ駆動される一対の駆動体と、これら一対の駆動体の間に挟持され、駆動体から摩擦力を受けて駆動される1つの主輪とから構成される走行ユニットを備えた倒立振子型移動体が公知になっている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る主輪は、無端円環状の環状体と、環状体の環方向に複数個配置され、各々自身の配置位置における環状体の接線方向と平行な回転軸回りに回転可能なドリブンローラとを備え、ドリブンローラが駆動体と接触して駆動される。ドリブンローラが、環状体の接線方向の回転軸回りに回転(自転)する場合には、倒立振子型移動体は左右方向に推力を得て、ドリブンローラが環状体の環方向に回転(公転)する場合には、倒立振子型移動体は前後方向に推力を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第08/132779号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような倒立振子型移動体において、軽量化および高剛性化を図る目的で、骨格構造を、カーボン繊維等を含む繊維強化プラスチック樹脂製の外殻フレームとすることがある。この場合には、外殻フレームには走行ユニットや、搭乗者の荷重が加わる着座ユニットやステップ、バッテリ、走行ユニットを制御するための制御ユニット等が取り付けられることになる。このような構成では、搭乗者の荷重やバッテリ、制御ユニットの荷重等は、外殻フレームに加わり、外殻フレームから路面に接地した走行ユニットに加わることになる。そのため、外殻フレームの走行ユニットとの取付部の加工精度が悪いと、倒立振子型移動体の操縦性や乗り心地に影響を与えるとともに、走行ユニットとの取付部に偏荷重が加わり、外殻フレームの変形や破損、外殻フレームと走行ユニットとを連結する部材の破損等を招く虞がある。
【0005】
本発明は以上の問題を鑑みてなされたものであって、高精度に機械加工された外殻フレームを得ることができる倒立振子型移動体の外殻フレームの製造方法を提供することを目的とする。また、外殻フレームの製造方法において使用される装置であって、繊維強化プラスチックから成形した成形体を数値制御工作機械のワークテーブルに位置決めし、固定するための取付具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、第1の発明は、繊維強化プラスチック製の外殻フレーム(22)と、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御に供される走行ユニット(3)とを備えた倒立振子型移動体(1)の前記外殻フレームの製造方法であって、繊維強化プラスチックを成形型(100,120)上で硬化させ、成形体(300)を形成するステップと、前記成形体を前記成形型に嵌合させるステップと、前記成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材(145)を用いて、前記成形体を当該成形型に対して固定するステップと、前記成形体が固定された前記成形型を数値制御工作機械(600)のワークテーブル(601)上に位置決めし、固定するステップと、前記成形体に前記走行ユニットの取付部(38L,38R)を形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて前記成形体を機械加工するステップとを有することを特徴とする。繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチック、ザイロン繊維強化プラスチック等であってよい。機械加工には、切削加工や研削加工、研磨加工、レーザ加工、ウォータジェット加工等を含む。なお、上記の各ステップは記載の順序に行う必要はなく、適宜変更が可能である。
【0007】
この構成によれば、繊維強化プラスチックを成形する際に使用した成形型と、その成形型によって成形された成形体とは、相補的形状を有するため成形体は成形型上に高精度に配置(位置決め)される。そのため、成形型をワークテーブル上に位置決めし、固定することによって、成形体はワークテーブル上に高精度に位置決めされる。そのため、成形体を高精度に機械加工することができる。また、成形体の位置決めに成形型を再利用したことよって、別途取付具を用意する必要がないため、製造費を削減することができる。
【0008】
第2の発明は、繊維強化プラスチック製の外殻フレーム(22)と、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御の用に供される走行ユニット(3)とを備えた倒立振子型移動体(1)の前記外殻フレームを製造するために、繊維強化プラスチックを硬化成形した成形体(300)を数値制御工作機械(600)のワークテーブル(601)上に位置決めし、固定するための取付具(650)であって、前記成形体を成形する際に使用した成形型(100,120)と、前記成形型に嵌合する前記成形体を当該成形型に固定すべく、当該成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材(145)と、前記成形型を前記テーブル上に位置決めし固定すべく、当該成形型と当該テーブルとの間に設けられる位置決め固定手段(108,109,128,129、651)とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、成形型を利用して、成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するための取付具が得られる。
【発明の効果】
【0010】
以上の構成によれば、倒立振子型移動体の繊維強化プラスチック製の外殻フレームを高精度に形成することができるともに、製造費を削減することができる外殻フレームの製造方法を提供することができる。また、成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に高精度に位置決めし、固定することができる取付具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】倒立振子型移動体の斜視図
【図2】倒立振子型移動体の分解斜視図
【図3】下部フレームの斜視図
【図4】下部フレームと上部フレームとの連結構造を一部破断して示す斜視図
【図5】図1のV−V断面図
【図6】下型を示す斜視図
【図7】上型を示す斜視図
【図8】真空バッグ成形法により下部フレームを成形する際のプリプレグおよびバッグの配置を示す説明図
【図9】下型に成形体を支持させた状態を示す斜視図
【図10】下型に支持させた成形体をワークテーブルに固定した状態を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明を倒立振子型移動体の外殻フレームをなすカーボン繊維強化プラスチック製の下部フレームの製造方法および下部フレームの製造に用いる取付具に適用した一実施形態を詳細に説明する。
【0013】
<倒立振子型移動体の概略構成>
図1および図2に示されているように、倒立振子型移動体(以下、単に移動体と略称する)1は、概ね上下方向に延在する骨格構造としてのフレーム2と、フレーム2の下部に設けられた走行ユニット3と、フレーム2の上部に設けられた着座ユニット4と、フレーム2の内部に設けられた電装ユニット11と、フレーム2の上部に設けられ、各ユニットおよびセンサに電力を供給するバッテリユニット(図示しない)とを主要構成要素として有している。電装ユニット11は、倒立振子制御ユニット(倒立振子制御部。以下、単に制御ユニットと略称する)5と、上部荷重センサ6と、傾斜センサ(傾斜角検出手段)7とを備えている。制御ユニット5は、倒立振子制御に基づいて各種センサからの入力信号に応じて走行ユニット3を駆動制御し、移動体1を倒立姿勢に維持する。
【0014】
フレーム2は、中空の外殻構造をなし、前後方向の幅が左右方向の幅に比べて大きい扁平形状を呈するとともに、上下方向における中央に全周にわたってくびれ部2Aを有し、左右方向から見て略8の字状を呈する。フレーム2は、そのくびれ部2Aにおいて上下に分割されており、別体の上部フレーム21と下部フレーム22とから構成されている。上部フレーム21および下部フレーム22は、それぞれカーボンプリプレグシートを熱硬化させることによって形成されたドライカーボン(炭素繊維強化プラスチック:CFRP)で構成されている。下部フレーム22の製造方法については後述する。上部フレーム21と下部フレーム22とは、後述する上部荷重センサ6を介して連結されている(図4参照)。
【0015】
図2および図3に示されているように、下部フレーム22は、上部開口部31および下部開口部32を有して筒状に形成されている。下部フレーム22の左右の側壁33は概ね上下方向に延在し、かつ互いに平行となっている。下部フレーム22の前後の壁34は、上側から下側に進むにつれて前後方向に膨出し、左右方向から見て下部フレーム22の下部は半円状となっている。この下部フレーム22の半円状をなす下部は、走行ユニット3の上半部を収容する収容空間35を画成している。
【0016】
左右の側壁33には、下部開口部32に連続する略半円状の切欠部36L,36Rがそれぞれ形成されている。左右の切欠部36L,36Rは、左右方向の軸線をもって、互いに同軸に配置されている。切欠部36L,36Rと下部開口部32の境界部分には、切欠部36L,36Rの周縁を延長するように下方へと延出する突片37L,37Rが前後に1つずつ形成されている。切欠部36L,36Rの周縁部と1対の突片37L,37Rとは、面板が左右方向を向く同一平面上に連続して配置され、下方に向けて開口した馬蹄形状を呈するマウント支持部38L,38Rを構成している。このようにして形成された左右のマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rは、下部が切り欠かれた円形状を呈し、互いに同軸となっている。マウント支持部38L,38Rには、馬蹄形状の一端から他端へと概ね等間隔に貫通孔45L,45Rが7つ形成されている。
【0017】
前後の壁34の上部であってくびれ部2Aを形成する部分には、通気孔39がそれぞれ形成されている。通気孔39は、左右方向に延在する長孔状の貫通孔であって、上下方向に複数個が平行に列設されている。
【0018】
下部フレーム22の左右の側壁33における上部開口部31付近の内壁には、電装ユニット11を支持するための一対の金属製のブラケット53L,53Rがそれぞれ接着されている。各ブラケット53L,53Rは前後方向に延在し、その上面は水平面となっている。各ブラケット53L,53Rの前後端近傍には、上下方向に延在する雌ねじ孔54L,54R(図9参照)がそれぞれ形成されている。
【0019】
図1に示されているように、上部フレーム21は、中央部に左右方向に貫通するサドル格納部24を形成するように環状に形成され、その環状部分が中空に形成されている。上部フレーム21の下端部には、下方に向けて開口する下部開口部25が形成されており、環状部分の内部空間と外部とが連通している。また、図4に示されているように、サドル格納部24の下壁部分であって下部開口部25の上方に位置する部分には、サドル格納部24から下方に向けて凹設された接続凹部29が形成されており、接続凹部29の底部の中央部には、貫通孔である連結孔30が形成されている。また、サドル格納部24の上壁部分には、環状部分の内部空間とサドル格納部24とを連通するサドル取付孔(図示しない)が形成されている。
【0020】
上部フレーム21の上部には、着座ユニット4が設けられている。着座ユニット4は、環状部分の内部空間に固定されたベース本体(図示しない)と、基端がベース本体に回動自在に支持され、他端がサドル取付孔を通過して延出する左右一対のサドルアーム62L,62Rと、サドルアーム62L,62Rの先端に設けられた円盤状のサドル63L,63Rとを有している。サドルアーム62L,62Rは、左右方向に延在する使用位置(図1参照)と、上下方向に延在する格納位置(図2参照)との間で回動可能となっており、使用位置および格納位置において位置が保持されるようになっている。図1に示すように、サドルアーム62L,62Rが使用位置にある状態ではサドル63L,63Rの座面が上方を向き、搭乗者が着座可能となっている。図2に示すように、サドルアーム62L,62Rが格納位置にある状態ではサドル63L,63Rがサドル格納部24を閉塞している。
【0021】
図4に示されているように、下部フレーム22のブラケット53L,53R上には電装ユニット11の骨格となる電装マウントフレーム202が取り付けられる。電装マウントフレーム202は、中央部に空間を備えて略矩形状をなす。電装マウントフレーム202は、左右のブラケット53L,53R上に載置された状態において、左右のブラケット53L、53Rの各雌ねじ孔54L,54Rに対応する位置に上下方向に貫通する貫通孔203を備えている。電装マウントフレーム202は、各貫通孔203を貫通し、先端部において各ブラケット53L,53Rの雌ねじ孔54L,54Rに螺合するボルト272によって、左右のブラケット53L,53R上に固定されている。なお、各貫通孔203にはゴムブッシュ270が装着され、下部フレーム22の振動はゴムブッシュ270で減衰され、電装マウントフレーム202に伝達され難くなっている。
【0022】
上部荷重センサ6は、センサ基盤を内蔵するボディ部205と、このボディ部205から上方に突出する入力軸206とを有している。ボディ部201は、電装マウントフレーム202上に載置され、ねじ締結されている。入力軸206は、円柱状に形成され、検出する外力が入力される。入力軸206の外周には基端から先端にわたって雄ねじ溝が形成されており、その基端部には連結部材ベース210が螺着されている。電装マウントフレーム202の内部には、傾斜センサ7がねじによって締結されている。
【0023】
図4に示されているように、下部フレーム22と上部フレーム21との連結は、上部荷重センサ6を介して行われる。上部荷重センサ6の入力軸206は、上部フレーム21の連結孔30を下方から上方に向けて貫通し、その先端部にナット314が螺着される。これにより、入力軸206に連結された連結部材ベース210の上面とナット314との間に上部フレーム21の接続凹部29の底部が挟持される。このようにして、上部フレーム21と上部荷重センサ6の入力軸206とが連結される。
【0024】
図5に示されているように、走行ユニット3は、支持部材としての左右一対のマウント部材81L,81Rと、左右一対のマウント部材81L,81Rにそれぞれ取り付けられた左右一対の電動モータ82L,82Rと、電動モータ82L,82Rの出力を減速して伝達する減速装置としての波動歯車装置83L,83Rと、マウント部材81L,81Rにそれぞれ回転自在に支持されるとともに波動歯車装置83L,83Rを介して電動モータ82L,82Rにそれぞれ回転させられる駆動体84L,84Rと、左右の駆動体84L,84Rによって回転させられる主輪85とを備えている。マウント部材81L,81R、駆動体84L,84R、電動モータ82L,82Rは、それぞれ同軸上に配置されており、これらに共通する軸線を走行ユニット3の回転軸線Aとする。
【0025】
左右のマウント部材81L,81Rは、円筒状部材であって、左右方向における外端に径方向外側に延出するフランジ部92L,92Rを複数備えている。マウント部材81Lの円筒部の内部には、電動モータ82Lのハウジングが固定されている。
【0026】
駆動体84L,84Rは円盤状のドライブディスク71L,71Rと、ドライブディスク71L,71Rに支持された複数のドライブローラ72L,72Rとを備えている。主輪85は、角柱体により構成された無端円環状の環状体73と、環状体73の外周部に回転可能に支持された複数の筒状のドリブンローラ74とにより構成されている。走行ユニット3は、電動モータ82L,82Rによって駆動体84L,84Rを回転させることで、ドリブンローラ74を自身の中心軸線周りに回転(自転)させ、およびまたは主輪85の周方向に回転(公転)させ、前後左右を含む平面上を全方向に推力を発生させる。
【0027】
図2に示されているように、下部フレーム22の左右の切欠部36L,36Rの外方には、ステップベース180L、180Rが取り付けられる。ステップベース180L、180Rは、環状プレート182L,182Rと、環状プレート182L,182Rの内側面(下部フレーム22側を向く面)に突設された円筒部184L,184Rと、環状プレート182L,182Rの外側面の下部に突設され、左右方向に突出するとともに下方へと垂れ下がった舌片状の突出部181L,181Rとを備えている。突出部181L,181Rには、ステップ183L,183Rが回動可能に支持されている。各ステップ183L,183Rは、基端部において概ね前後方向に延在する回動軸をもって各突出部181L,181Rに支持されており、その先端部が基端部の概ね上方に位置し、下部フレーム22に概ね沿った状態となる格納位置と、その先端部が基端部の概ね左右方向に位置し、下部フレーム22から突出した状態となる使用位置との間で回動可能となっている。
【0028】
ステップベース180L、180Rの円筒部184L,184Rは、マウント支持部38L,38Rに嵌合可能な形状となっている。すなわち、円筒部184L,184Rの外周面と、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rとの形状は一致する形状に形成されている。ステップベース180L、180Rは、円筒部184L,184Rがマウント支持部38L,38Rに嵌合されることによって、下部フレーム22に支持されている。円筒部184L,184Rがマウント支持部38L,38Rに嵌合した状態で、環状プレート182L,182Rの内側面は、マウント支持部38L,38Rの外面に当接する。環状プレート182L,182Rには、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L,45Rに対応する位置に貫通孔187L,187Rが形成されている。
【0029】
図5に示されているように、走行ユニット3は、その回転軸が左右方向と平行になり、かつマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rの中心軸と一致するように下部フレーム22の収容空間35の内部にその上半部が配置される。この状態で、走行ユニット3の左右マウント部材81L,81Rのフランジ部92L、92Rは、下部フレーム22のマウント支持部38L,38Rの内面に当接する。フランジ部92L、92Rには、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L、45Rに対応する位置にボルト孔94L,94Rが形成されている。走行ユニット3は、ステップベース180L、180Rの貫通孔187L,187Rと、マウント支持部38L,38Rの貫通孔45L,45Rとを貫通し、マウント部材81L,81Rのボルト孔94L,94Rに螺合するボルト99L、99Rによって、下部フレーム22を挟むかたちでステップベース180L、180Rに締結されている。
【0030】
以上の構成により、下部フレーム22に加わる荷重は、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rから左右のステップベース180L、180Rに伝達され、左右のステップベース180L、180Rからボルト99L、99Rを介して走行ユニット3に伝達される。
【0031】
下部フレーム22の下端部には、走行ユニット3の下半部を路面との接地部位を除いて隠蔽するための下部カバー185が取り付けられる。また、下部フレーム22の左右の側壁33の外側面には、各突出部181L,181Rおよび各ステップ183L,183Rを除いて各ステップベース180L,180Rを隠蔽するためのサイドカバー186L,186Rが取り付けられる。
【0032】
<下部フレームの成形型の構成>
上述した移動体1の下部フレーム22の製造するために使用される成形型の構成について説明する。下部フレーム22は、炭素繊維の織物に熱硬化性樹脂を予め含浸させたシート状のカーボンプリプレグを原料とし、真空バッグ下、加熱硬化させるオートクレーブ法によって成形される。熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂であってよい。図6に下部フレーム22を成形する際に用いる下型100を示し、図7に上型120を示す。下型100および上型120は、互いに接合されて両型間に成型チャンバを画成するものであり、金属や石膏等から形成されている。カーボンプリプレグを下型100および上型120によって成形し、加熱硬化させたものを成形体300という。成形体300は、後述する機械加工によって所定の形状に切削され、下部フレーム22となる。
【0033】
下型100の上型120との接合面101には、下部フレーム22の左半部の形状に対応する成型凹部102が形成されている。成型凹部102には、図中の破線で示す位置に、カーボンプリプレグが敷設される。下型100の接合面101には、成型凹部102に成形体300の左側部分(下部フレーム22の左側となる部分)を嵌合させた際に、成形体300を下型100に固定するための固定部材145を位置決めするためのノック孔116が2箇所、固定部材145を固定するためのボルト孔106が2箇所、上型120との位置決めを行うためのノックピン(図示しない)の一端が嵌合するノック孔107が2箇所穿設されている。下型100の底面は平面に形成されており、側面の下部には水平方向に突出するフランジ部108が形成されている。フランジ部108には、上下方向に延在する貫通孔109が形成されている。フランジ部108および貫通孔109は、後述する数値制御工作機械600のワークテーブル601に下型100を位置決めし、固定する際に使用される。
【0034】
図7に示されているように、上型120の下型100との接合面121には、下部フレーム22の右半部の形状に対応する成型凹部122が形成されている。成型凹部122には、図中の破線で示す位置に、カーボンプリプレグが敷設される。上型120の接合面121には、下型100のノック孔107に嵌合するノックピンの他端が嵌合するノック孔123が2箇所穿設されている。上型120と下型100とは、ノックピンを介して互いの接合面101,121同士を当接させるように組み合わされ、成型凹部122は成型凹部102と連続して、一つの成型チャンバ155を画成する。また、上型120の接合面121には、成型凹部122に成形体300の右側部分(下部フレーム22の右側となる部分)を嵌合させた際に、成形体300を上型120に固定するための固定部材145を位置決めするためのノック孔136が2箇所、固定部材145を固定するためのボルト孔126が2箇所形成されている。本実施形態では、下部フレーム22が左右対称形であるため、固定部材145を下型100および上型120で共通のものとするが、下部フレーム22が左右対称形でない場合には、固定部材145は下型100および上型120に対して異なる形状のものを用意することが必要となる。上型120の底面(接合面121と相反する面)は平面に形成されており、側面の下部には水平方向に突出するフランジ部128が形成されている。フランジ部128には、上下方向に延在する貫通孔129が形成されている。フランジ部128および貫通孔129は、フランジ部108および貫通孔109と同様に数値制御工作機械600のワークテーブル601に下型100を位置決めし、固定する際に使用される。
【0035】
<取付具の構成>
【0036】
取付具650は、後述する数値制御工作機械600のワークテーブル601に成形体300を位置決めし、固定するために用いられるものである。取付具650は、上述した下型100または上型120と、成形体300を下型100または上型120に対して固定する固定部材145と、下型100または上型120をワークテーブル601に位置決めし、固定するための位置決めボルト651とによって構成されている。
【0037】
固定部材145は、上方に突出した門型をなし、下型100の成型凹部102に成形体300が嵌合した状態において、成形体300を跨ぐように配置される。固定部材145は、下型100または上型120のボルト孔106,126に対応する部分に貫通孔(図示しない)を有し、下型100または上型120のノック孔116,136に対応する部分にノック孔(図示しない)を備えている。固定部材145は、固定部材145のノック孔およびノック孔116,136にノックピン148が挿入されることによって下型100または上型120に対して位置決めされ、固定部材145の貫通孔を貫通してボルト孔106,126に螺合するボルト147によって下型100または上型120に着脱自在に固定される。固定部材145が下型100または上型120に固定されることによって、成形体300は下型100または上型120と固定部材145との間に挟持され、位置が固定される。
【0038】
<下部フレームの製造方法>
下部フレーム22の製造方法について説明する。最初に、下型100および上型120の成型凹部102,122のそれぞれにカーボンプリプレグ151,152を敷設する(図6および図6中の点線で示す部分を参照)。次に、ノックピンを介して下型100と上型120とを接合させ、成型チャンバ155を画成する。そして、図8に示されているように、各カーボンプリプレグ151,152の端部同士を連結させるように、内側(成型チャンバ155の中心側)より帯状のカーボンプリプレグからなる連結シート153を両カーボンプリプレグ151,152の端部に貼り付ける。
【0039】
次に、下型100および上型120をバキュームバッグとしての外袋171で覆うとともに、成型チャンバ155内(各カーボンプリプレグ151,152によって画成された空間内)にバキュームバッグとしての内袋172を配置する。そして、外袋171と内袋172との間の空間を減圧することによって、内袋172を成型凹部102,122側へと押し付け、各カーボンプリプレグ151,152および連結シート153を成型凹部102,122側へと押し付ける。この状態で、各カーボンプリプレグ151,152および連結シート153を加熱加圧硬化させることにより、ドライカーボンとしての成形体300が形成される。
【0040】
次に、数値制御工作機械(NC工作機械)600によって成形体300の機械加工を行う。数値制御工作機械600は、いわゆる門型マシニングセンタであって、図10に示されているように、基礎(図示しない)上に載置されたベッド602と、ベッド602上にX軸方向にスライド移動可能に支持されたワークテーブル601と、ベッド602の両側に立設された一対のコラム603と、一対のコラム603間に架け渡されたクロスレール604と、クロスレール604にY軸方向およびZ軸方向にスライド移動可能に支持された主軸ヘッド605と、主軸ヘッド605の主軸に取り付けられた工具606と、ワークテーブル601や主軸ヘッド605等の駆動制御を行う制御装置607とを備えている。数値制御工作機械600の適所には電動モータ(図示しない)が配置されている。制御装置607は、入力された加工情報に基づいて電動モータを制御し、ワークテーブル601をX軸方向に駆動し、主軸ヘッド605をY軸方向およびZ軸方向に駆動し、主軸ヘッド605の主軸を回転させて工具606を回転させ、加工物(ワーク)としての成形体300を機械加工する。工具606は、エンドミルや正面フライス、ドリル等であってよい。
【0041】
加工物としての成形体300は、取付具650によってワークテーブル601上に位置決めされ、固定される。最初に、成形体300の右側部分の機械加工方法について説明する。成形体300の左側部分を取付具650としての下型100の成型凹部102に嵌合させる。成形体300の左側部分は下型100の成型凹部102によって成形されたため、成形体300は成型凹部102に精度良く嵌合し、下型100に対して精度良く位置決めがなされる。
【0042】
次に、固定部材145をノックピン148によって下型100に対して位置決めし、ボルト147によって下型100に締結し、成形体300を下型100と固定部材145との間に挟持する。このようにして、図9に示されるように、成形体300は、下部フレーム22の右側部分となる部分を下型100より上方に露出させるかたちで下型100に対して固定される。
【0043】
次に、成形体300が固定された下型100をワークテーブル601上に載置し、各貫通孔109を挿通する位置決めボルト651によってワークテーブル601に締結する。ワークテーブル601には、予め位置決めボルト651が螺合するボルト孔(図示しない)が所定の位置に形成されており、位置決めボルト651を各貫通孔109を挿通させることによってワークテーブル601に対する下型100の位置決めがなされる。このようにして、成形体300は、取付具650によって、ワークテーブル601上の所定の位置に配置される。また、筒状をなす成形体300が、加工時に工具606に押圧されて撓むことを防止するための、成形体300の内部には工具受けブロック(図示しない)が挿入される。
【0044】
以上のようにしてワークテーブル601上に配置された成形体300を、エンドミルを用いて切削加工し、下部開口部32の右側部分、突片37R、マウント支持部38Rの内周部44R(切欠部36R)を形成する。そして、ドリルを用いた穿孔によって貫通孔45Rを形成する。
【0045】
次に、成形体300の左側の機械加工方法について説明する。最初に、成形体300の右側部分を取付具650としての上型120の成型凹部122に嵌合させる。成形体300の右側部分は上型120の成型凹部122によって成形されたため、成形体300は成型凹部122に精度良く嵌合し、上型120に対して精度良く位置決めがなされる。以下、上述した右側部分の機械加工方法と同様に、固定部材145をノックピン148によって上型120に対して位置決めし、ボルト147によって上型120に締結して、成形体300を上型120に固定し、上型120をワークテーブル上に位置決めボルト651を用いて固定する。そして、エンドミルやドリルを用いて、下部開口部32の左側部分、突片37L、マウント支持部38Lの内周部44L(切欠部36L)、貫通孔45Lを形成する。
【0046】
<実施形態の作用効果>
以上のように、本実施形態では、成形体300を成形する際に使用した下型100または上型120を用いて、成形体300をワークテーブル601上に位置決めし、固定したため、成形体300をワークテーブル601の所定の位置に精度良く配置することができる。そのため、カーボン繊維強化プラスチックである下部フレーム22の突片37L,37R、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44R(切欠部36L,36R)、貫通孔45L,45Rを精度良く形成することができる。
【0047】
下部フレーム22のマウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rは、走行ユニット3とボルト99L,99Rによって締結された環状プレート182L,182Rの円筒部184L,184Rと嵌合する部分であり、ガタがないように高精度に加工されることが必要となる。本実施形態では、下型100または上型120を利用した取付具650を使用することによって、成形体300をワークテーブル601上に精度よく配置することができるため、数値制御工作機械600による機械加工の制度を高めることができる。
【0048】
また、本実施形態では、成形体300を成形する際に使用した下型100または上型120を使用しているため、成形体300は常に取付具650に高精度に支持される。通常、成形体の形状は成形時に使用した成形型の形状に影響されるため、異なる成形型から成形された成形体の全てを1つの取付具で高精度に位置決めをすることは難しい。
【0049】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、実施形態では、炭素繊維強化プラスチックを用いて下部フレーム22を成形したが、炭素繊維強化プラスチックに代えてガラス繊維強化プラスチックやアラミド繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチック、ザイロン繊維強化プラスチック等を用いてもよい。また、本実施形態ではプリプレグを用いて下部フレーム22を成形したが、ウェットカーボンを用いてハンドレイアップ法により成形してもよい。また、本実施形態では真空バッグ法によって下部フレーム22を成形したが、加圧バッグ法によって内袋172内を加圧してカーボンプリプレグ151〜153を成型凹部102,122側に押さえつけるようにしてもよい。
【0050】
本実施形態では、マウント支持部38L,38Rの内周部44L,44Rに環状プレート182L,182Rの円筒部184L,184Rを嵌合させることによって、走行ユニット3の下部フレーム22に対する位置決めを行ったが、内周部44L,44Rに円筒部184L,184Rが遊嵌するようにし、ボルト99L,99Rと貫通孔45L,45Rとの係合により下部フレーム22と走行ユニット3とをガタがないように連結させてもよい。このような場合には、貫通孔45L,45Rの加工精度が問題となるが、成形体300は取付具350によってワークテーブル601上に高精度に位置決めおよび固定がなされるため、貫通孔45L,45Rも同様に高精度に形成される。
【0051】
また、実施形態では、下型100または上型120に成形体300を嵌合させ、固定した後に、下型100または上型120をワークテーブル601上に位置出しし、固定したが、下型100または上型120をワークテーブル601上に位置出しし、固定した後に下型100または上型120に成形体300を嵌合させ、固定してもよい。
【0052】
また、実施形態では、工具606にボールエンドミルやドリルを使用したが、レーザ加工装置やウォータジェット加工装置を用いて機械加工してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…倒立振子型移動体、2…フレーム(外殻フレーム)、3…走行ユニット、4…着座ユニット、21…上部フレーム、22…下部フレーム(外殻フレーム)、35…収容空間、36L,35R…切欠部、37L,37R…突片、38…マウント支持部、38L,38R…マウント支持部(取付部)、44L,44R…内周部、45L,45R…貫通孔、81L,81R…マウント部材、92L,92R…フランジ部、99L,99R…ボルト、100…下型(成形型)、102…成型凹部、108…フランジ部(位置決め固定手段)、109…貫通孔(位置決め固定手段)、120…上型(成形型)、122…成型凹部、128…フランジ部(位置決め固定手段)、129…貫通孔(位置決め固定手段)、145…固定部材、147…ボルト(位置決め固定手段)、182L…環状プレート、184L…円筒部、187L…貫通孔、600…数値制御工作機械、601…ワークテーブル、651…位置決めボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック製の外殻フレームと、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御に供される走行ユニットとを備えた倒立振子型移動体の前記外殻フレームの製造方法であって、
繊維強化プラスチックを成形型上で硬化させ、成形体を形成するステップと、
前記成形体を前記成形型に嵌合させるステップと、
前記成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材を用いて、前記成形体を当該成形型に対して固定するステップと、
前記成形体が固定された前記成形型を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するステップと、
前記成形体に前記走行ユニットの取付部を形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて前記成形体を機械加工するステップと
を有することを特徴とする外殻フレームの製造方法。
【請求項2】
繊維強化プラスチック製の外殻フレームと、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御の用に供される走行ユニットとを備えた倒立振子型移動体の前記外殻フレームを製造するために、繊維強化プラスチックを硬化成形した成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するための取付具であって、
前記成形体を成形する際に使用した成形型と、
前記成形型に嵌合する前記成形体を当該成形型に固定すべく、当該成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材と、
前記成形型を前記テーブル上に位置決めし固定すべく、当該成形型と当該テーブルとの間に設けられる位置決め固定手段と
を有することを特徴とする取付具。
【請求項1】
繊維強化プラスチック製の外殻フレームと、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御に供される走行ユニットとを備えた倒立振子型移動体の前記外殻フレームの製造方法であって、
繊維強化プラスチックを成形型上で硬化させ、成形体を形成するステップと、
前記成形体を前記成形型に嵌合させるステップと、
前記成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材を用いて、前記成形体を当該成形型に対して固定するステップと、
前記成形体が固定された前記成形型を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するステップと、
前記成形体に前記走行ユニットの取付部を形成すべく、前記数値制御工作機械を用いて前記成形体を機械加工するステップと
を有することを特徴とする外殻フレームの製造方法。
【請求項2】
繊維強化プラスチック製の外殻フレームと、前記外殻フレームの下部に設けられ、床面に対する移動および姿勢制御の用に供される走行ユニットとを備えた倒立振子型移動体の前記外殻フレームを製造するために、繊維強化プラスチックを硬化成形した成形体を数値制御工作機械のワークテーブル上に位置決めし、固定するための取付具であって、
前記成形体を成形する際に使用した成形型と、
前記成形型に嵌合する前記成形体を当該成形型に固定すべく、当該成形型に着脱自在に取り付けられる固定部材と、
前記成形型を前記テーブル上に位置決めし固定すべく、当該成形型と当該テーブルとの間に設けられる位置決め固定手段と
を有することを特徴とする取付具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−63162(P2011−63162A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216940(P2009−216940)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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