多変量検出装置および多変量検出方法
【課題】コンデンサマイクロフォンの代わりにシリコンマイクロフォンを採用して、チャンバを不要化し、光を直接に検出できるようにする。
【解決手段】音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部1、および検出部1から出力された出力信号に基づいて物理変量の種類を判定する判定手段3を具備した多変量検出装置であって、検出部1をシリコンマイクロフォン5で構成した。また、金属酸化膜半導体素子(CMOS)として機能させ、光を電子的に検知する。シリコンマイクロフォンを収容する筐体に集光レンズ13を設ける。
【解決手段】音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部1、および検出部1から出力された出力信号に基づいて物理変量の種類を判定する判定手段3を具備した多変量検出装置であって、検出部1をシリコンマイクロフォン5で構成した。また、金属酸化膜半導体素子(CMOS)として機能させ、光を電子的に検知する。シリコンマイクロフォンを収容する筐体に集光レンズ13を設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音、圧力、加速度、温度、光など複数の物理量における多変量を単一のシリコンマイクロフォンを使用したセンサにより検知する多変量検出装置および多変量検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は非特許文献1にあるように、単体のコンデンサマイクロフォン(ECM)により複数の物理変量を検知・識別する技術に関する研究を行った者の指導を受けて、非特許文献1等に基づいて特許文献1記載の発明をした。すなわち、非特許文献1および特許文献1記載のものは、円筒状のアクリル樹脂で成る透光性を備えたチャンバにコンデンサマイクロフォンを装着する。コンデンサマイクロフォンで検知された信号は、増幅回路およびローパス回路を経て判定回路に入力されるように構成されている。非特許文献1および特許文献1に記載のものによれば、可聴音域(20Hz〜20kHz程度)の音声、ドア開閉時における室内の圧力変動や炎の揺らぎ(4Hz程度)における圧力、地震などの震動による加速度、ライターなどの炎による温度変化、灯類の点消灯時における光といった事象に応じた複数の物理変量がコンデンサマイクロフォンで検知される。検知された物理量は判別回路で識別され、また、識別された物理量が火災、不審者の浸入および地震のうち、どの物理現象により生じた物理量であるかを判別回路で判別できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−354199号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人計測自動制御学会論文集「コンデンサマイクロフォン型センサによる多機能センシングとセキュリティへの応用」(Vol.40, No.1, 1/9(2004))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1および特許文献1に記載のものにあっては、検出部の構成要素であるコンデンサマイクロフォンでは光を直接的に検出できず、検出した光の照射エネルギを一旦熱量に変換処理した後に圧力に換算して検出するようにしている。このため、光エネルギを間接的に検出するので検出精度がそれだけ低下する問題があった。
また、コンデンサマイクロフォンに装備されるチャンバは直径が10mm、奥行き長さ(コンデンサマイクロフォンに対する法線方向の出っ張り長さ)が20mmの寸法を有する。そのため、検出部を実装する場合、検出部の形状が大きくなり、コンデンサマイクロフォン実装部周辺のスペースが大きくなり、装置のコンパクト化に制約を受ける問題があった。
【0006】
また、コンデンサマイクロフォンは熱に弱いので、回路基板などに高温リフローはんだを行って実装する場合に、コンデンサマイクロフォンそのものの感度が低下し、手作業による実装を行わなければならず、自動実装による工数削減を図るのが困難になる問題もあった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであって、コンデンサマイクロフォンの代わりにシリコンマイクロフォンを採用することで、光エネルギを直接的に検出して精度を向上し、チャンバを不要化してシリコンマイクロフォン実装部のコンパクト化、省スペース化を図るとともに、高温リフローはんだ工程を可能にし、基板実装の自動化による実装効率の向上、工数削減を図る多変量検出装置および多変量検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部、および当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定する判定手段を具備した多変量検出装置であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで構成したことを特徴とする多変量検出装置である。
【0009】
本発明に係るシリコンマイクロフォンはドア開閉等の音響だけでなく、蛍光灯による天井照明、ハロゲンランプによる卓上電灯、豆球による懐中電灯、電子ライターによる炎のゆらぎといった異なる物理事象に対しても物理変量を検知できることが判明した。係る知見に基づき、上記非特許文献1および特許文献1のコンデンサマイクロフォンの代わりにシリコンマイクロフォンを検出部として構成する。これにより、本発明の多変量検出装置はシリコンマイクロフォンで検出した検知信号に基づき判定手段で複数の物理変量を識別できるようになる。
【0010】
(2)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンは、金属酸化膜半導体素子(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)として機能させ、前記光を電子的に検知することを特徴とする前記(1)記載の多変量検出装置である。
【0011】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンはシリコンウェーハ面に、酸化膜や窒化ケイ素などの導電性材料または半導電性材料が被覆されることによりCMOSあるいはCCDとしての機能を惹起する。係る機能によりシリコンマイクロフォンはあたかもCMOSとして光を電子的に検知することが可能となる。したがって、シリコンマイクロフォンが受光する照射エネルギに基づいて換算処理ルーチンを経ることなく直接的に物理量の判定(識別)が可能となり、識別精度を向上できるようになる。
【0012】
(3)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンを、長波長に対する利得特性を利用して、人感センサとして形成されることを特徴とする前記(1)または(2)記載の多変量検出装置である。
【0013】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンは遠赤外線に対しても反応しやすいので、人感センサとして適用できるようになる。
【0014】
(4)本発明はまた、前記検出部に、前記シリコンマイクロフォンを収容する筐体を設け、当該筐体に、前記シリコンマイクロフォンに対向して集光レンズを取り付けたことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多変量検出装置である。
【0015】
本発明によれば、筐体に集光レンズを設けることで、広範囲の、微光でも効率良く集光してシリコンマイクロフォンに入射させることができる。これにより、集光レンズを一体に設けたコンパクトな多変量検出装置を得ることができるようになる。
【0016】
(5)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンは、光に反応して信号を発し、且つドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多変量検出装置である。
【0017】
(6)本発明は、音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出部で検出し、当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定手段で判定することにより、物理変量の種類を検知する方法であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで形成し、該シリコンマイクロフォンで検出した出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定することを特徴とする多変量検出方法である。
【0018】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンを検出部に構成することで、ドア開閉、蛍光灯による天井照明、ハロゲンランプによる卓上電灯、豆球による懐中電灯、電子ライターによる炎のゆらぎといった異なる物理事象対する物理変量を検知し、判定(識別)できるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検出部にシリコンマイクロフォンを使用することで、光を直接的に検出できる。これにより物理量の識別精度を向上でき、火災、防犯(浸入、ピッキング)、地震等のセキュリティシステムに好適な多変量検出装置を得ることができる。また、チャンバを不要化でき、その結果、シリコンマイクロフォン実装部のコンパクト化および省スペース化を図れ、ひいてはコンデンサマイクロフォンの弱点であった高温リフローはんだ工程をシリコンマイクロフォンを使用することでそれが可能となり、基板実装の自動化による実装効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る回路構成図である。
【図2】同じく、(a)はシリコンマイクロフォンの概要構成を模式的に示す断面図、(b)はシリコンマイクロフォンの変形例における(a)と同様の断面図である。
【図3】同じく、判定手段における判定回路の機能的構成図である。
【図4】ドアを開閉(1回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図5】同じく、ドアを開閉(2回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図6】天井照明をON/OFF(1回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図7】同じく、天井照明をON/OFF(2回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図8】懐中電灯をON/OFFしたときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図9】太陽光について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図10】天井照明について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図11】白色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図12】赤色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図13】黄色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図14】懐中電灯について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図15】卓上照明(白熱球)について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図16】卓上照明(蛍光灯)について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図17】赤外線LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る多変量検出装置および多変量検出方法に係る実施形態を図に基づいて詳述する。図1は多変量検出装置の回路構成図、図2(a)はシリコンマイクロフォンの概要構成を模式的に示す断面図、図3は判定手段における判定回路の機能的構成図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の回路構成は、上記の非特許文献1記載における検出部のみが相違し、それ以外の構成要素は両者ほぼ共通するものである。すなわち、本実施形態の多変量検出装置は、検出部1と、該検出部1からの出力信号(電圧信号)を受ける増幅回路2と、増幅回路2からの出力信号(電圧信号)を印加されるローパス回路3aおよび判定回路3bより成る判定手段3とからなる。
〈検出部〉
【0023】
上記の検出部1は図2(a)に示すように、プリント基板4にシリコンマイクロフォン5およびCMOSによる駆動回路6の2チップが高温リフローはんだにより実装される。より具体的には、シリコンマイクロフォン5は薄膜状のダイヤフラム(振動膜)8と、ダイヤフラム8の上に微少間隙を存して対向配置して積層したバックプレート(背面電極)9とによりシリコンマイクロフォン5の主要部が形成される。プリント基板4に蓋12が装着され、プリント基板4とで筐体が形成され、内部のシリコンマイクロフォン5およびCMOS6が外部から保護される。また、蓋12又はプリント基板4には、音や光を通す孔部11が形成される。ここでは、蓋12におけるシリコンマイクロフォン5の上部に、孔部11が形成されることで、外部からの光がシリコンマイクロフォン5を直射するようになっている。
【0024】
なお、シリコンマイクロフォン5は上記構成に限定されるものでなく、種々の形態のものであってもよい。例えば、プリント基板4に駆動回路6を実装しないタイプのシリコンマイクロフォンとすることも可能である。
【0025】
特に本実施形態では、シリコンマイクロフォン5の特性として、CCD効果によって光に反応し、更にドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っている。
【0026】
こうして、シリコンマイクロフォン5で構成される検出部1において、検出部1周囲の音の圧力が孔部11から伝達してダイヤフラム8が振動すると、ダイヤフラム8とバックプレート9との間の静電容量が変化する。両者間に印加されている動作電圧により、静電容量の変化が電圧の変化に変換され増幅回路2へ電圧信号として出力される。また、外部から孔部11を通じて光がシリコンマイクロフォン5に入射すると、シリコンマイクロフォン5そのものがCMOSあるいはCCD(Charge Coupled Device)としても機能するため、電子的に反応して光量を検知し、検出された信号が電圧信号として増幅回路2へ出力されるようになっている。なお、シリコンマイクロフォン5が物理量を検出できる特性試験については後述する。
【0027】
なお、図2(b)に示すように、各シリコンマイクロフォン5を収納する検出部1の蓋12に集光レンズ13が設けられるようにすることも好ましい。集光レンズ13により、光がシリコンマイクロフォン5に効果的に集光されるようになる。さらに、蓋12の外周には遮光筒14が設けられ、計測する光源以外の光をできる限り遮断できるようにすることも好ましい。この場合、蓋12における集光レンズ13の周りに、音を通す為の孔部11が形成される。
【0028】
〈増幅回路〉
【0029】
検出部1から出力される電圧信号は、増幅回路2によって検出に適した信号レベルに増幅される。
【0030】
〈ローパス回路〉
【0031】
ローパス回路3aには、増幅回路2からの電圧信号が入力される。これにより、ローパス回路3aは入力される信号の高周波側を遮断し、低周波側を通過させるローパスフィルタとして機能するようになっている。
【0032】
〈判定回路〉
【0033】
図3に示す判定回路3bは検出部1からの出力に基づく信号にどの物理量に関わる成分が含まれているかを判別してどの物理現象が発生したかを判定するためのものである。すなわち、判定回路3bには、ローパス回路3aからの出力電圧信号eが入力されるフィルタ部FT、FL、FD、FP、FEと、これらのフィルタ部にそれぞれ接続される増幅器30と、各増幅器30からの出力が入力される判定部35とを有する。
【0034】
フィルタ部FT、FL、FD、FP、FEはそれぞれ、入力された信号eの特定の周波数帯を強調して出力するフィルタ回路である。
【0035】
フィルタ部FTは、遮断周波数0.1Hz程度の帯域の信号を通過させることで温度変化を分離して捉えることをを可能にする。フィルタ部FTからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号STとなる。
【0036】
フィルタ部FLは遮断周波数3〜6Hz程度の帯域の信号を通過させることでシリコンマイクロフォン5が捉えた光の部分を分離して捉え、光の存在を判定することができる。フィルタ部FLからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号SLとなる。
【0037】
フィルタ部FDは不審者の侵入時に機能するもので、周波数7〜10Hzの帯域の信号を通過させることにより、扉の開閉に伴う静圧変動成分を分離して捉え、扉の開閉を判定できる。フィルタ部FDからの出力信号は増幅器30により増幅されて信号SDとなる。
【0038】
フィルタ部FPは不審者の侵入に伴うピッキングに機能するもので、ピッキングによる音響の周波数特性の波形が約10〜15Hzの帯域の周波数を通過させることで、ピッキングに伴う音響成分を分離して捉え、ピッキングを判定する。フィルタ部FPからの出力信号は増幅器30により増幅されて信号SPとなる。
【0039】
フィルタ部FEは地震に伴う加速度に関して機能するもので、建物等の振動により生じる0.5〜10Hz程度の周波数帯域の信号を通過させることで、信号eから加速度成分を分離して識別する。フィルタ部FEからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号SEとなる。このようにシリコンマイクロフォン5を利用することで、低周波側から、光、静圧変動、音響の順に事象を振り分けることが可能となる。
【0040】
判定部35は入力される信号ST、SL、SD、SP、SEのいずれが変化したかという情報と、その変化の特徴とに基づいてどのような物理現象が発生したかを判定する。換言すると、判定回路5のフィルタ部を適宜に構成することで、例えば、火災、扉の開閉、ピッキング、地震等の物理事象の少なくともいずれか一つを判定できる。特に、火災に関して光を利用した検出が可能となり、熱が伝わらない状況でも火災を検知することが可能になる。また、盗難等において、部外者が室内で懐中電灯を利用した場合でも、同様に光を利用した検出が可能となる。複数の物理現象が重なった場合でも、各物理現象に関わる物理量を分離できるため、重なって発生した物理現象を判定できる。判定部35は判定結果を判定信号rgとして出力する。
【0041】
判定信号rgが出力されたときには、セキュリティに関わる物理現象が発生したことを意味しているのであるから、例えば、警報の発声、スプリンクラーの作動、ガス管路等の遮断操作等の処理を行わせる。
【0042】
〈シリコンマイクロフォンの特性試験1〉
【0043】
本発明者はシリコンマイクロフォン、およびコンデンサマイクロフォンを計測に用いて特性を試験した。この結果を図4〜図8に示す。
【0044】
試験条件は2タイプのマイクロフォンを同一回路において接続し、回路の電源電圧を3Vで行った。直流成分を除去するためコンデンサを用いているが、それ以外にフィルタ、増幅回路は用いず、そのままの波形を記録し比較した。
【0045】
計測は次のような状況下で行った。すなわち、扉の開閉については、実験室内にマイクロフォンを設置し、そこから約5m離れた扉の開閉を行い計測する。扉の開閉は2回行った(図4、図5参照)。
【0046】
天井照明については、実験室内の天井に設置された蛍光灯すべてを同時に消灯・点灯して行った。蛍光灯の消灯・点灯は2回行った(図6、図7参照)。
【0047】
懐中電灯については、懐中電灯(豆電球)をマイクロフォンから直線距離で約30cm離れた位置に設置し、点灯・消灯を行った(図8参照)。
【0048】
これら図4〜図8の計測グラフから、シリコンマイクロフォンはコンデンサマイクロフォンでは捉えられない光を捉えていることが確認できた。
【0049】
〈シリコンマイクロフォンの特性試験2〉
【0050】
上記の特性試験1の結果を踏まえて、どのような光源についてシリコンマイクロフォンが反応しているのかについて調べた。光源としては白熱球や蛍光灯、LEDなど、身の回りに存在する光源を計測対象として用いた。
【0051】
計測には2つの異なったシリコンマイクロフォン、タイプ1、タイプ2を用意した。
【0052】
さらに計測条件としては、これら2タイプのシリコンマイクロフォンからの信号を、O.16〜4.82Hzの周波数を通過帯域としたフィルタ部に通し、信号レベルに応じて増幅率を選択するようにした。この計測用回路に通し、データロガーを用いてPCに取り込み、グラフ表示を行った。
【0053】
計測は夜間にこの状態で光源の点灯、消灯を行い、その波形を計測した(太陽光は除く)。計測した結果、太陽光については直射日光を計測し、増幅率1倍で図9のグラフが、天井照明は照度639LX、増幅率100倍で図10のグラフが、自転車用白色ライトはマイクロフォンから20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率100倍で図11のグラフが、同じく赤色LEDライトの場合には照度1000LX、増幅率100倍で図12のグラフが、黄色(高輝度)LEDではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたときで図13のグラフが、豆電球の懐中電灯ではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたときで図14のグラフが、卓上用照明(白熱球)ではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率2倍で図15のグラフが、同じく卓上用照明(蛍光灯)では、マイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率2倍で図16のグラフが、および、赤外線LEDではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率10倍で図17のグラフが得られた。
【0054】
以上の特性試験2のうち、太陽光、卓上用照明(白熱球)および、赤外線LEDの結果から、上記のシリコンマイクロフォン5は光だけでなく熱源も効率的に検知することができる機能に優れている事が判明した。
【0055】
以上の特性試験1,2から、上記のシリコンマイクロフォン5は光及び熱源を効率的に検知することができる機能に優れている特性を有することが判明した。係る知見に基づき、多変量検出装置および多変量検出方法における検出部1をシリコンマイクロフォン5で構成した。これにより、一個のシリコンマイクロフォン5により多数の物理変量を効果的に検出し、識別することが可能となる。
【0056】
本実施形態に係る多変量検出装置および多変量検出方法によれば、検出部1にシリコンマイクロフォン5を設けるだけで、シリコンマイクロフォンで検出した検知信号に基づき判定手段で複数の物理変量を識別できる。このため、チャンバを使用することなく検出部1を構成したので装置全体をコンパクトにできる。シリコンマイクロフォン5はCMOSやCCDとしても機能するので、光を直接に電子的に検知して識別精度を向上できる。シリコンマイクロフォンは遠赤外線に対しても反応しやすいので、人感センサとしても利用できる。また、蓋12に集光レンズ13を設けることで、広範囲の、微光でも効率良く集光でき、かつ、集光レンズを一体に設けることで装置全体をコンパクトに形成できる。さらに、精度の向上を図れる。また、シリコンマイクロフォン5は耐熱性に優れるので、コンデンサマイクロフォンでは不可能であった高温リフローはんだを可能にし、その結果、多変量検出装置における基板実装の自動化による実装効率の向上を図ることもできる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【0058】
例えば、筐体に孔部を設ける位置は、適宜変更してもよいものである。
【0059】
また、シリコンマイクロフォン5としては上記で例に挙げたもの以外の形態を備えたものでもよいの勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は音、圧力、加速度、温度、光など複数の物理量における多変量を単一のシリコンマイクロフォンを使用して検知する多変量検出装置および多変量検出方法に利用される。
【符号の説明】
【0061】
1 検出部
2 増幅回路
3 判定手段
3a ローパス回路
3b 判定回路
4 プリント基板
5 シリコンマイクロフォン
6 CMOS
8 ダイヤフラム
9 バックプレート
10 シリコン基材
11 孔部
12 蓋
13 集光レンズ
14 遮光筒
【技術分野】
【0001】
本発明は、音、圧力、加速度、温度、光など複数の物理量における多変量を単一のシリコンマイクロフォンを使用したセンサにより検知する多変量検出装置および多変量検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は非特許文献1にあるように、単体のコンデンサマイクロフォン(ECM)により複数の物理変量を検知・識別する技術に関する研究を行った者の指導を受けて、非特許文献1等に基づいて特許文献1記載の発明をした。すなわち、非特許文献1および特許文献1記載のものは、円筒状のアクリル樹脂で成る透光性を備えたチャンバにコンデンサマイクロフォンを装着する。コンデンサマイクロフォンで検知された信号は、増幅回路およびローパス回路を経て判定回路に入力されるように構成されている。非特許文献1および特許文献1に記載のものによれば、可聴音域(20Hz〜20kHz程度)の音声、ドア開閉時における室内の圧力変動や炎の揺らぎ(4Hz程度)における圧力、地震などの震動による加速度、ライターなどの炎による温度変化、灯類の点消灯時における光といった事象に応じた複数の物理変量がコンデンサマイクロフォンで検知される。検知された物理量は判別回路で識別され、また、識別された物理量が火災、不審者の浸入および地震のうち、どの物理現象により生じた物理量であるかを判別回路で判別できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−354199号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人計測自動制御学会論文集「コンデンサマイクロフォン型センサによる多機能センシングとセキュリティへの応用」(Vol.40, No.1, 1/9(2004))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献1および特許文献1に記載のものにあっては、検出部の構成要素であるコンデンサマイクロフォンでは光を直接的に検出できず、検出した光の照射エネルギを一旦熱量に変換処理した後に圧力に換算して検出するようにしている。このため、光エネルギを間接的に検出するので検出精度がそれだけ低下する問題があった。
また、コンデンサマイクロフォンに装備されるチャンバは直径が10mm、奥行き長さ(コンデンサマイクロフォンに対する法線方向の出っ張り長さ)が20mmの寸法を有する。そのため、検出部を実装する場合、検出部の形状が大きくなり、コンデンサマイクロフォン実装部周辺のスペースが大きくなり、装置のコンパクト化に制約を受ける問題があった。
【0006】
また、コンデンサマイクロフォンは熱に弱いので、回路基板などに高温リフローはんだを行って実装する場合に、コンデンサマイクロフォンそのものの感度が低下し、手作業による実装を行わなければならず、自動実装による工数削減を図るのが困難になる問題もあった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点を解決するためになされたものであって、コンデンサマイクロフォンの代わりにシリコンマイクロフォンを採用することで、光エネルギを直接的に検出して精度を向上し、チャンバを不要化してシリコンマイクロフォン実装部のコンパクト化、省スペース化を図るとともに、高温リフローはんだ工程を可能にし、基板実装の自動化による実装効率の向上、工数削減を図る多変量検出装置および多変量検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部、および当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定する判定手段を具備した多変量検出装置であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで構成したことを特徴とする多変量検出装置である。
【0009】
本発明に係るシリコンマイクロフォンはドア開閉等の音響だけでなく、蛍光灯による天井照明、ハロゲンランプによる卓上電灯、豆球による懐中電灯、電子ライターによる炎のゆらぎといった異なる物理事象に対しても物理変量を検知できることが判明した。係る知見に基づき、上記非特許文献1および特許文献1のコンデンサマイクロフォンの代わりにシリコンマイクロフォンを検出部として構成する。これにより、本発明の多変量検出装置はシリコンマイクロフォンで検出した検知信号に基づき判定手段で複数の物理変量を識別できるようになる。
【0010】
(2)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンは、金属酸化膜半導体素子(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)として機能させ、前記光を電子的に検知することを特徴とする前記(1)記載の多変量検出装置である。
【0011】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンはシリコンウェーハ面に、酸化膜や窒化ケイ素などの導電性材料または半導電性材料が被覆されることによりCMOSあるいはCCDとしての機能を惹起する。係る機能によりシリコンマイクロフォンはあたかもCMOSとして光を電子的に検知することが可能となる。したがって、シリコンマイクロフォンが受光する照射エネルギに基づいて換算処理ルーチンを経ることなく直接的に物理量の判定(識別)が可能となり、識別精度を向上できるようになる。
【0012】
(3)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンを、長波長に対する利得特性を利用して、人感センサとして形成されることを特徴とする前記(1)または(2)記載の多変量検出装置である。
【0013】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンは遠赤外線に対しても反応しやすいので、人感センサとして適用できるようになる。
【0014】
(4)本発明はまた、前記検出部に、前記シリコンマイクロフォンを収容する筐体を設け、当該筐体に、前記シリコンマイクロフォンに対向して集光レンズを取り付けたことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の多変量検出装置である。
【0015】
本発明によれば、筐体に集光レンズを設けることで、広範囲の、微光でも効率良く集光してシリコンマイクロフォンに入射させることができる。これにより、集光レンズを一体に設けたコンパクトな多変量検出装置を得ることができるようになる。
【0016】
(5)本発明はまた、前記シリコンマイクロフォンは、光に反応して信号を発し、且つドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の多変量検出装置である。
【0017】
(6)本発明は、音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出部で検出し、当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定手段で判定することにより、物理変量の種類を検知する方法であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで形成し、該シリコンマイクロフォンで検出した出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定することを特徴とする多変量検出方法である。
【0018】
本発明によれば、シリコンマイクロフォンを検出部に構成することで、ドア開閉、蛍光灯による天井照明、ハロゲンランプによる卓上電灯、豆球による懐中電灯、電子ライターによる炎のゆらぎといった異なる物理事象対する物理変量を検知し、判定(識別)できるようになる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、検出部にシリコンマイクロフォンを使用することで、光を直接的に検出できる。これにより物理量の識別精度を向上でき、火災、防犯(浸入、ピッキング)、地震等のセキュリティシステムに好適な多変量検出装置を得ることができる。また、チャンバを不要化でき、その結果、シリコンマイクロフォン実装部のコンパクト化および省スペース化を図れ、ひいてはコンデンサマイクロフォンの弱点であった高温リフローはんだ工程をシリコンマイクロフォンを使用することでそれが可能となり、基板実装の自動化による実装効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る回路構成図である。
【図2】同じく、(a)はシリコンマイクロフォンの概要構成を模式的に示す断面図、(b)はシリコンマイクロフォンの変形例における(a)と同様の断面図である。
【図3】同じく、判定手段における判定回路の機能的構成図である。
【図4】ドアを開閉(1回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図5】同じく、ドアを開閉(2回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図6】天井照明をON/OFF(1回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図7】同じく、天井照明をON/OFF(2回目)したときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図8】懐中電灯をON/OFFしたときのシリコンマイクロフォンと比較用のコンデンサマイクロフォンの特性グラフである。
【図9】太陽光について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図10】天井照明について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図11】白色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図12】赤色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図13】黄色LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図14】懐中電灯について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図15】卓上照明(白熱球)について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図16】卓上照明(蛍光灯)について計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【図17】赤外線LEDについて計測した結果を示すシリコンマイクロフォンの特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る多変量検出装置および多変量検出方法に係る実施形態を図に基づいて詳述する。図1は多変量検出装置の回路構成図、図2(a)はシリコンマイクロフォンの概要構成を模式的に示す断面図、図3は判定手段における判定回路の機能的構成図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の回路構成は、上記の非特許文献1記載における検出部のみが相違し、それ以外の構成要素は両者ほぼ共通するものである。すなわち、本実施形態の多変量検出装置は、検出部1と、該検出部1からの出力信号(電圧信号)を受ける増幅回路2と、増幅回路2からの出力信号(電圧信号)を印加されるローパス回路3aおよび判定回路3bより成る判定手段3とからなる。
〈検出部〉
【0023】
上記の検出部1は図2(a)に示すように、プリント基板4にシリコンマイクロフォン5およびCMOSによる駆動回路6の2チップが高温リフローはんだにより実装される。より具体的には、シリコンマイクロフォン5は薄膜状のダイヤフラム(振動膜)8と、ダイヤフラム8の上に微少間隙を存して対向配置して積層したバックプレート(背面電極)9とによりシリコンマイクロフォン5の主要部が形成される。プリント基板4に蓋12が装着され、プリント基板4とで筐体が形成され、内部のシリコンマイクロフォン5およびCMOS6が外部から保護される。また、蓋12又はプリント基板4には、音や光を通す孔部11が形成される。ここでは、蓋12におけるシリコンマイクロフォン5の上部に、孔部11が形成されることで、外部からの光がシリコンマイクロフォン5を直射するようになっている。
【0024】
なお、シリコンマイクロフォン5は上記構成に限定されるものでなく、種々の形態のものであってもよい。例えば、プリント基板4に駆動回路6を実装しないタイプのシリコンマイクロフォンとすることも可能である。
【0025】
特に本実施形態では、シリコンマイクロフォン5の特性として、CCD効果によって光に反応し、更にドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っている。
【0026】
こうして、シリコンマイクロフォン5で構成される検出部1において、検出部1周囲の音の圧力が孔部11から伝達してダイヤフラム8が振動すると、ダイヤフラム8とバックプレート9との間の静電容量が変化する。両者間に印加されている動作電圧により、静電容量の変化が電圧の変化に変換され増幅回路2へ電圧信号として出力される。また、外部から孔部11を通じて光がシリコンマイクロフォン5に入射すると、シリコンマイクロフォン5そのものがCMOSあるいはCCD(Charge Coupled Device)としても機能するため、電子的に反応して光量を検知し、検出された信号が電圧信号として増幅回路2へ出力されるようになっている。なお、シリコンマイクロフォン5が物理量を検出できる特性試験については後述する。
【0027】
なお、図2(b)に示すように、各シリコンマイクロフォン5を収納する検出部1の蓋12に集光レンズ13が設けられるようにすることも好ましい。集光レンズ13により、光がシリコンマイクロフォン5に効果的に集光されるようになる。さらに、蓋12の外周には遮光筒14が設けられ、計測する光源以外の光をできる限り遮断できるようにすることも好ましい。この場合、蓋12における集光レンズ13の周りに、音を通す為の孔部11が形成される。
【0028】
〈増幅回路〉
【0029】
検出部1から出力される電圧信号は、増幅回路2によって検出に適した信号レベルに増幅される。
【0030】
〈ローパス回路〉
【0031】
ローパス回路3aには、増幅回路2からの電圧信号が入力される。これにより、ローパス回路3aは入力される信号の高周波側を遮断し、低周波側を通過させるローパスフィルタとして機能するようになっている。
【0032】
〈判定回路〉
【0033】
図3に示す判定回路3bは検出部1からの出力に基づく信号にどの物理量に関わる成分が含まれているかを判別してどの物理現象が発生したかを判定するためのものである。すなわち、判定回路3bには、ローパス回路3aからの出力電圧信号eが入力されるフィルタ部FT、FL、FD、FP、FEと、これらのフィルタ部にそれぞれ接続される増幅器30と、各増幅器30からの出力が入力される判定部35とを有する。
【0034】
フィルタ部FT、FL、FD、FP、FEはそれぞれ、入力された信号eの特定の周波数帯を強調して出力するフィルタ回路である。
【0035】
フィルタ部FTは、遮断周波数0.1Hz程度の帯域の信号を通過させることで温度変化を分離して捉えることをを可能にする。フィルタ部FTからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号STとなる。
【0036】
フィルタ部FLは遮断周波数3〜6Hz程度の帯域の信号を通過させることでシリコンマイクロフォン5が捉えた光の部分を分離して捉え、光の存在を判定することができる。フィルタ部FLからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号SLとなる。
【0037】
フィルタ部FDは不審者の侵入時に機能するもので、周波数7〜10Hzの帯域の信号を通過させることにより、扉の開閉に伴う静圧変動成分を分離して捉え、扉の開閉を判定できる。フィルタ部FDからの出力信号は増幅器30により増幅されて信号SDとなる。
【0038】
フィルタ部FPは不審者の侵入に伴うピッキングに機能するもので、ピッキングによる音響の周波数特性の波形が約10〜15Hzの帯域の周波数を通過させることで、ピッキングに伴う音響成分を分離して捉え、ピッキングを判定する。フィルタ部FPからの出力信号は増幅器30により増幅されて信号SPとなる。
【0039】
フィルタ部FEは地震に伴う加速度に関して機能するもので、建物等の振動により生じる0.5〜10Hz程度の周波数帯域の信号を通過させることで、信号eから加速度成分を分離して識別する。フィルタ部FEからの出力信号は増幅器30で増幅されて信号SEとなる。このようにシリコンマイクロフォン5を利用することで、低周波側から、光、静圧変動、音響の順に事象を振り分けることが可能となる。
【0040】
判定部35は入力される信号ST、SL、SD、SP、SEのいずれが変化したかという情報と、その変化の特徴とに基づいてどのような物理現象が発生したかを判定する。換言すると、判定回路5のフィルタ部を適宜に構成することで、例えば、火災、扉の開閉、ピッキング、地震等の物理事象の少なくともいずれか一つを判定できる。特に、火災に関して光を利用した検出が可能となり、熱が伝わらない状況でも火災を検知することが可能になる。また、盗難等において、部外者が室内で懐中電灯を利用した場合でも、同様に光を利用した検出が可能となる。複数の物理現象が重なった場合でも、各物理現象に関わる物理量を分離できるため、重なって発生した物理現象を判定できる。判定部35は判定結果を判定信号rgとして出力する。
【0041】
判定信号rgが出力されたときには、セキュリティに関わる物理現象が発生したことを意味しているのであるから、例えば、警報の発声、スプリンクラーの作動、ガス管路等の遮断操作等の処理を行わせる。
【0042】
〈シリコンマイクロフォンの特性試験1〉
【0043】
本発明者はシリコンマイクロフォン、およびコンデンサマイクロフォンを計測に用いて特性を試験した。この結果を図4〜図8に示す。
【0044】
試験条件は2タイプのマイクロフォンを同一回路において接続し、回路の電源電圧を3Vで行った。直流成分を除去するためコンデンサを用いているが、それ以外にフィルタ、増幅回路は用いず、そのままの波形を記録し比較した。
【0045】
計測は次のような状況下で行った。すなわち、扉の開閉については、実験室内にマイクロフォンを設置し、そこから約5m離れた扉の開閉を行い計測する。扉の開閉は2回行った(図4、図5参照)。
【0046】
天井照明については、実験室内の天井に設置された蛍光灯すべてを同時に消灯・点灯して行った。蛍光灯の消灯・点灯は2回行った(図6、図7参照)。
【0047】
懐中電灯については、懐中電灯(豆電球)をマイクロフォンから直線距離で約30cm離れた位置に設置し、点灯・消灯を行った(図8参照)。
【0048】
これら図4〜図8の計測グラフから、シリコンマイクロフォンはコンデンサマイクロフォンでは捉えられない光を捉えていることが確認できた。
【0049】
〈シリコンマイクロフォンの特性試験2〉
【0050】
上記の特性試験1の結果を踏まえて、どのような光源についてシリコンマイクロフォンが反応しているのかについて調べた。光源としては白熱球や蛍光灯、LEDなど、身の回りに存在する光源を計測対象として用いた。
【0051】
計測には2つの異なったシリコンマイクロフォン、タイプ1、タイプ2を用意した。
【0052】
さらに計測条件としては、これら2タイプのシリコンマイクロフォンからの信号を、O.16〜4.82Hzの周波数を通過帯域としたフィルタ部に通し、信号レベルに応じて増幅率を選択するようにした。この計測用回路に通し、データロガーを用いてPCに取り込み、グラフ表示を行った。
【0053】
計測は夜間にこの状態で光源の点灯、消灯を行い、その波形を計測した(太陽光は除く)。計測した結果、太陽光については直射日光を計測し、増幅率1倍で図9のグラフが、天井照明は照度639LX、増幅率100倍で図10のグラフが、自転車用白色ライトはマイクロフォンから20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率100倍で図11のグラフが、同じく赤色LEDライトの場合には照度1000LX、増幅率100倍で図12のグラフが、黄色(高輝度)LEDではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたときで図13のグラフが、豆電球の懐中電灯ではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたときで図14のグラフが、卓上用照明(白熱球)ではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率2倍で図15のグラフが、同じく卓上用照明(蛍光灯)では、マイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率2倍で図16のグラフが、および、赤外線LEDではマイクロフォンから約20cm離した状態でON/OFFしたとき、増幅率10倍で図17のグラフが得られた。
【0054】
以上の特性試験2のうち、太陽光、卓上用照明(白熱球)および、赤外線LEDの結果から、上記のシリコンマイクロフォン5は光だけでなく熱源も効率的に検知することができる機能に優れている事が判明した。
【0055】
以上の特性試験1,2から、上記のシリコンマイクロフォン5は光及び熱源を効率的に検知することができる機能に優れている特性を有することが判明した。係る知見に基づき、多変量検出装置および多変量検出方法における検出部1をシリコンマイクロフォン5で構成した。これにより、一個のシリコンマイクロフォン5により多数の物理変量を効果的に検出し、識別することが可能となる。
【0056】
本実施形態に係る多変量検出装置および多変量検出方法によれば、検出部1にシリコンマイクロフォン5を設けるだけで、シリコンマイクロフォンで検出した検知信号に基づき判定手段で複数の物理変量を識別できる。このため、チャンバを使用することなく検出部1を構成したので装置全体をコンパクトにできる。シリコンマイクロフォン5はCMOSやCCDとしても機能するので、光を直接に電子的に検知して識別精度を向上できる。シリコンマイクロフォンは遠赤外線に対しても反応しやすいので、人感センサとしても利用できる。また、蓋12に集光レンズ13を設けることで、広範囲の、微光でも効率良く集光でき、かつ、集光レンズを一体に設けることで装置全体をコンパクトに形成できる。さらに、精度の向上を図れる。また、シリコンマイクロフォン5は耐熱性に優れるので、コンデンサマイクロフォンでは不可能であった高温リフローはんだを可能にし、その結果、多変量検出装置における基板実装の自動化による実装効率の向上を図ることもできる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【0058】
例えば、筐体に孔部を設ける位置は、適宜変更してもよいものである。
【0059】
また、シリコンマイクロフォン5としては上記で例に挙げたもの以外の形態を備えたものでもよいの勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は音、圧力、加速度、温度、光など複数の物理量における多変量を単一のシリコンマイクロフォンを使用して検知する多変量検出装置および多変量検出方法に利用される。
【符号の説明】
【0061】
1 検出部
2 増幅回路
3 判定手段
3a ローパス回路
3b 判定回路
4 プリント基板
5 シリコンマイクロフォン
6 CMOS
8 ダイヤフラム
9 バックプレート
10 シリコン基材
11 孔部
12 蓋
13 集光レンズ
14 遮光筒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部、および当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定する判定手段を具備した多変量検出装置であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで構成したことを特徴とする多変量検出装置。
【請求項2】
前記シリコンマイクロフォンは、金属酸化膜半導体素子(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)として機能させ、前記光を電子的に検知することを特徴とする請求項1記載の多変量検出装置。
【請求項3】
前記シリコンマイクロフォンを、長波長に対する反応特性を利用して、人感センサとして形成されることを特徴とする請求項1または2記載の多変量検出装置。
【請求項4】
前記検出部に、前記シリコンマイクロフォンを収容する筐体を設け、当該筐体に、前記シリコンマイクロフォンに対向して集光レンズを取り付けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多変量検出装置。
【請求項5】
前記シリコンマイクロフォンは、光に反応して信号を発し、且つドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多変量検出装置。
【請求項6】
音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出部で検出し、当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定手段で判定することにより、物理変量の種類を検知する方法であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで形成し、該シリコンマイクロフォンで検出した出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定することを特徴とする多変量検出方法。
【請求項1】
音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出する検出部、および当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定する判定手段を具備した多変量検出装置であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで構成したことを特徴とする多変量検出装置。
【請求項2】
前記シリコンマイクロフォンは、金属酸化膜半導体素子(CMOS:Complementary Metal Oxide Semiconductor)として機能させ、前記光を電子的に検知することを特徴とする請求項1記載の多変量検出装置。
【請求項3】
前記シリコンマイクロフォンを、長波長に対する反応特性を利用して、人感センサとして形成されることを特徴とする請求項1または2記載の多変量検出装置。
【請求項4】
前記検出部に、前記シリコンマイクロフォンを収容する筐体を設け、当該筐体に、前記シリコンマイクロフォンに対向して集光レンズを取り付けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の多変量検出装置。
【請求項5】
前記シリコンマイクロフォンは、光に反応して信号を発し、且つドアの開閉を検知できる程度の低周波マイクロフォン特性を持っていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の多変量検出装置。
【請求項6】
音響、静圧変動、動圧変動、加速度、光の照射変化、および温度変化などの物理現象に関わる複数の物理変量を検出部で検出し、当該検出部から出力された出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定手段で判定することにより、物理変量の種類を検知する方法であって、前記検出部をシリコンマイクロフォンで形成し、該シリコンマイクロフォンで検出した出力信号に基づいて前記物理変量の種類を判定することを特徴とする多変量検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−256193(P2010−256193A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107242(P2009−107242)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(508281549)株式会社トランスバーチャル (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(508281549)株式会社トランスバーチャル (4)
【Fターム(参考)】
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