説明

多孔性イオン交換体およびその製造方法

【課題】本発明は、無機担体とイオン交換性樹脂とからなり、イオン交換速度が速く、交換容量が高く、機械的強度にも優れた多孔性のイオン交換体およびそれを製造する方法を提供することを課題としている。
【解決手段】本発明の多孔性イオン交換体は、無機多孔質担体と、これに担持されたイオン交換性樹脂とからなり、平均体積が5×10-4mm3/個以上であり、水銀圧入法によ
り測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり、かつ、貫通孔を有することを
特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性イオン交換体およびその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、無機多孔質単体とイオン交換性樹脂とからなり、貫通孔を有する多孔性イオン交換体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換性樹脂は、従来より、吸着剤、分離剤、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラム充填剤などとして利用されている。しかしながらイオン交換性樹脂単独では、形状保持性や強度に劣る場合があり、用途が限られる。
【0003】
一方、シリカ等の無機酸化物粒子は、機械的強度に優れ、また化学的な安定性が高く、さらには安価に種々の形状や大きさのものが容易に入手可能な点で、液晶表示装置のスペーサー、半導体封止用樹脂や歯科用樹脂あるいは各種ゴム等の充填材、HPLCのカラム充填材、フィルムのアンチブロッキング剤、トナー用外添剤等の様々な用途に用いられている。
【0004】
無機酸化物粒子を使用する場合には、一般的には、用途や目的に応じ、無機酸化物シリカ系粒子の表面を様々な物質で被覆し、分散性や混和性を改良したり、あるいは機能性を付与したりすることが行われている。このような表面改質の代表的な手法としては、シランカップリング剤による表面処理がある。該シランカップリング剤としては、アルキル基、メルカプト基、アミノ基、第4級アンモニウム基、スルホン酸基、エポキシ基、メタアクリルオキシ基、ビニル基等の種々の官能基を持つものが提案されており(例えば、特許文献1、2参照)、多くのものが既に実用化されている。
【0005】
また、シランカップリング剤等のカップリング剤以外の処理により粒子に官能基を導入する方法も種々提案されている。例えば、無機酸化物粒子をSi−H基を有する環状シロキサンで被覆し、ついで、このSi−H基と、ビニル基を有する化合物とを白金触媒を用いて反応させることによって、ビニル基を有する化合物の持つ他の官能基が導入された粒子を得る方法が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0006】
さらに無機酸化物粒子に種々の機能性を付与するために、無機酸化物粒子をビニル系の重合体で被覆して、機能性を付与する方法が提案されている。無機酸化物粒子をビニル系の重合体で被覆する方法としては、ビニル系の重合性単量体で被覆した後、該単量体を重合させる方法と、ビニル系重合体で直接被覆する方法に大別される。
【0007】
例えば、ビニル系の重合性単量体を吸着させて粒子を被覆した後に、該単量体を重合させる方法としては、塗料等に用いる白色顔料用の粒子の製造方法として、コロイダルシリカ粒子を溶剤に分散させ、アクリル酸等のカルボン酸系のビニル系単量体で被覆、重合させ、さらにその上からメチルメタクリレート、スチレン等のビニル系単量体でさらに被覆、重合させた中空粒子が提案されている(例えば、特許文献5参照)。また、イオン交換液体クロマトグラフィー用の充填材粒子の製造方法として、溶液中に、マレイン酸等の不飽和カルボン酸と、該不飽和カルボン酸と共重合可能なポリビニル化合物(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジビニルベンゼン等)とシリカ粒子を加えて懸濁液を調整、濃縮、乾燥してシリカ表面に不飽和カルボン酸及びポリビニル化合物からなる皮膜を形成させ、さらに加熱により重合させて架橋型のイオン交換組成物を形成させる方法(例えば、特許文献6参照)、液晶表示装置のスペーサー用の被覆粒子の製造方法として、シリカ系粒子をビニル系のシランカップリング剤で処理し、ついで、これを極性溶剤中に分散させ、これに単官能ビニル系単量体を加え、これを重合させて非架橋型のビニル系重合体で被覆された粒子を得る方法(例えば、特許文献7参照)等が提案されている。
【0008】
また、重合体で直接被覆する方法としては、例えば、液晶表示装置のスペーサー用の被覆粒子の製造方法として、ビニル系の重合体を溶剤中に分散させ、これとシリカ系粒子とを混合して被覆する方法(例えば、特許文献8参照)、シリカ系粒子粉末と重合体粉末とをボールミル等で、湿式あるいは乾式で混合し、機械的応力により粒子表面に樹脂層を形成する方法(例えば、特許文献9)等が提案されている。
【0009】
しかしながら、シランカップリング剤は、その有するSi−X(Xはハロゲン原子、アルコキシ基等)が加水分解して生じるSi−OHが、無機酸化物粒子の表面に存在するM−OH基(Mは無機酸化物粒子を構成する金属元素)と反応することにより該粒子上に結合する。従って、シランカップリング剤の処理量は、被処理粒子の表面積及びM−OH基の量に大きく依存する。このため、無機酸化物粒子に種々の官能基を導入しようとしても、その量はさほど多くならないという問題がある。また、シランカップリング剤は無機酸化物粒子表面のM−OH基と完全に反応するわけではないため、過酷な条件下では加水分解等を起こしてしまう場合がある。またSi−H基を有する環状シロキサンで被覆した後、ビニル基を有する化合物と反応させる方法でも、導入可能な官能基の数に制限があり、さらには、該方法では用いた白金触媒の粒子からの除去が困難であるという問題を有する。
【0010】
また、シリカ系粒子等の無機酸化物を溶剤中に分散させ、この分散液中でビニル系単量体を吸着・重合させる方法は、形成された被覆層は比較的均一なものにでき、またその厚みの制御も比較的容易なため、多量の官能基を導入できるという利点がある。しかしながら、この方法では、粒子表面以外で重合するビニル系単量体も少なくない。従って、ビニル系単量体のロスが多く、さらには、粒子表面以外で重合したビニル系単量体の重合体粒子が生じて混入してしまう場合がある。また、重合は溶剤中で行われるため、ビニル系単量体が溶剤を取り込んだ状態で重合しやすく、得られる重合体の被覆層が粗なものとなりやすい。さらに、イオン性基を有するビニル重合体で被覆した場合は、イオン反発によりその官能基密度を高めることが困難である。そしてさらに、架橋型の重合体被覆を得るためには、架橋剤を配合するなど、複数種の重合性単量体を用いる場合、これら単量体の粒子表面と溶剤に対する分配係数が異なることが多いため得られる重合体の組成比が仕込み値と異なる場合が多く、その制御にも労力を要する。特に、第4級アンモニウム塩基、スルホン酸基等の極めて親水性の高い官能基を有する架橋型重合体を得るために、これら官能基を有する重合性単量体と、架橋剤とを併用しても、架橋剤となる単量体は通常疎水性の化合物であるため、分配傾向が全く異なり、事実上、このような官能基を有する架橋型の重合体で被覆された粒子を得ることはできなかった。
【0011】
さらに、予め重合させた重合体を被覆する方法では、重合体粒子の生成や仕込み値の問題が生じ難いが、溶剤へ溶解させるためには非架橋のものを用いる必要があり、架橋重合体を得るためには別途、複雑な操作が必要な場合が多く、さらには架橋度の調整もやはり困難である。他方、架橋型の重合体で直接被覆する方法では、強い機械的応力が必要であり、エネルギー的に不利であるのみならず、この応力付与の際に粒子が破砕する場合がある。またこのような溶剤を用いる方法では、後工程として、ろ過、洗浄、乾燥等の工程を必要とし工業的に煩雑なだけでなく、これらの工程で粒子同士が、解砕することが困難なほど強く凝集してしまう場合が多い。
【0012】
従って、厚みがあり、その密度も高い被覆層を容易に得られ、かつ、副生物も少なく、さらには、操作が簡単で工業的に製造の容易な方法の提供が求められていた。
このような状況において、本出願人は、核となる粒子粉体を攪拌しつつ、重合性単量体
を噴霧等により接触させて該核粒子に重合性単量体を吸着させ、ついで重合性単量体を重合させることにより、粒子上に重合体を好適に生成させることができること、重合性単量体として、スルホン酸基、アンモニウム基等の親水性の高い官能基を有する化合物を用いる場合には、表面処理等を行っていない粒子を、逆にスチレン等の疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には環状シロキサン処理等により疎水化された粒子を用いると効率的に吸着が起こること、さらに、原料とした重合性単量体が目的の官能基を有していない場合には、イオン交換樹脂の製造方法に準じて官能基導入を行うなどすれば良いことを見いたし、既に提案している(特許文献10参照)。この方法では、厚みがあり、密度も高い被覆層を、粒子表面全体に有する重合体被覆無機酸化物粒子が得られている。
【0013】
しかしながら、イオン交換性を有する樹脂で被覆した無機酸化物粒子としては、さらにイオン交換速度が速く、交換容量の高いものが望まれていた。
本発明者はこのような状況において鋭意研究したところ、無機担体とイオン交換樹脂とが複合体を形成した後も、貫通孔を有し、多孔性を保持したものが、イオン交換速度が速く、交換容量に優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【特許文献1】特開平6−199621号公報
【特許文献2】特開平9−48610号公報
【特許文献3】特開平10−267908号公報
【特許文献4】特開平8−105874号公報
【特許文献5】特開平3−281577号公報
【特許文献6】特開平5−96184号公報
【特許文献7】特開平10−226512号公報
【特許文献8】特開平5−181144号公報
【特許文献9】特開平9−80445号公報
【特許文献10】特開2005−60668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、無機担体とイオン交換性樹脂とからなり、イオン交換速度が速く、交換容量が高く、機械的強度にも優れた多孔性のイオン交換体およびそれを製造する方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の多孔性イオン交換体は、無機多孔質担体と、これに担持されたイオン交換性樹脂とからなり、平均体積が5×10-4mm3/個以上であり、水銀圧入法により測定した
総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり、かつ、貫通孔を有することを特徴として
いる。
【0016】
本発明の多孔性イオン交換体は、細孔直径が0.5〜15μmの範囲にある細孔(マクロ細孔に由来する貫通孔)の占める容積が、0.4〜1.5cm3/gであることが好ま
しい。
【0017】
本発明の多孔性イオン交換体は、イオン交換性樹脂が、カチオン交換性樹脂であることが好ましい。
本発明の多孔性イオン交換体の製造方法は、細孔直径が0.1〜30μmのマクロ細孔と、細孔直径が1〜50nmのメソ細孔とを有し、平均体積が5×10-4mm3/個以上
である無機多孔質担体(A)と、重合によりイオン交換性樹脂またはその前駆体を形成するモノマー(B)とを接触させる工程と、前記モノマー(B)を重合させる重合工程とを含み、水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり、かつ、
貫通孔を有する多孔性イオン交換体を得ることを特徴としている。
【0018】
本発明のイオン交換体の製造方法では、重合工程の後において、水銀圧入法により測定した細孔直径0.5〜15μmの範囲にある細孔の占める容積が、0.4〜1.5cm3
/gとなるように、前記モノマー(B)の接触量を調整することが好ましい。
【0019】
本発明の多孔性イオン交換体の製造方法では、無機多孔質担体(A)が、二元細孔シリカ粒子であることが好ましく、前記二元細孔シリカ粒子が、マクロ細孔の容積が0.6〜2.0cm3/gの範囲内にあり、メソ細孔の容積が0.4〜1.5cm3/gの範囲内にあることがより好ましい。本発明の多孔性イオン交換体の製造方法では、前記二元細孔シリカ粒子が、珪素原、水溶性高分子および酸触媒を含むゾル液を相分離の過渡構造においてゲル化させてゲル体を生成し、前記ゲル体を水熱処理して得られた粒子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、貫通孔を有することにより、特に初期のイオン交換速度が速く、イオン交換容量が大きく、機械的強度に優れ、耐熱性にも優れ、各種触媒、分離剤、吸着剤等として好適に使用できる多孔性イオン交換体、ならびにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
多孔性イオン交換体
本発明の多孔性イオン交換体は、無機多孔質担体と、これに担持されたイオン交換性樹脂とからなる。
【0022】
本発明において、無機多孔質担体は、貫通孔を有する無機多孔質であって、人工的に合成されたものでも天然鉱物であってもよい。たとえば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニアなどから形成されるものが挙げられる。
【0023】
本発明で用いられる無機多孔質担体は、貫通孔を有する多孔質構造であればその形状を特に限定されるものではなく、球形、立方体、円柱形、角柱形、楕球形、板状、不定形などどのような形状であってもよく、混合されていてもよい。これらのうちでは、球形もしくはこれに類似した形状であるのが好ましい。無機多孔質担体の平均体積は、5×10-4mm3/個以上、好ましくは平均体積は、1×10-3mm3/個以上であるのが望ましい。たとえば無機多孔質担体が粒子状である場合には、平均体積が、好ましくは5×10-4〜1000mm3/個、より好ましくは1×10-3〜150mm3/個程度であるのが望ましい。また、特に限定されるものではないが、無機多孔質担体の平均径(無機多孔質担体の最長径の平均値)は、100μm以上であるのが望ましく、たとえば無機多孔質担体が粒子状である場合には、平均粒子径(粒子の最長径の平均値)が100μm〜5mm程度であるのが望ましい。
【0024】
本発明に係る無機多孔質担体は、貫通孔を含む細孔を有する多孔質であればよいが、好ましくは、マイクロメートル領域の孔径のマクロ細孔と、オングストローム領域の孔径のメソ細孔との二種類のタイプの細孔を有している二元細孔粒子であることが好ましく、細孔直径が0.1〜30μmのマクロ細孔と、細孔直径が1〜50nmのメソ細孔とを有する二元細孔粒子であることがより好ましい。なかでも、本発明に係る無機多孔質担体は、二元細孔シリカ粒子であることが特に好ましい。
【0025】
本発明に係る無機多孔質担体が、二元細孔粒子である場合、好ましくは二元細孔シリカ粒子である場合には、細孔直径が0.1〜30μmのマクロ細孔の容積が、好ましくは0
.6〜2.0cm3/g、より好ましくは0.7〜1.5cm3/gの範囲内にあり、細孔直径が1〜50nmのメソ細孔の容積が、好ましくは0.4〜1.5cm3/g、より好
ましくは0.5〜1.2cm3/gの範囲内にあることが望ましい。
【0026】
本発明の多孔性イオン交換体を構成するイオン交換性樹脂は、イオン交換基を有する樹脂であれば特に限定されるものではなく、カチオン(陽イオン)交換性樹脂であっても、アニオン(陰イオン)交換性樹脂であってもよい。このうち本発明では、イオン交換性樹脂がカチオン交換性樹脂であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る多孔性イオン交換体は、前記無機多孔質担体上に、イオン交換性樹脂が担持されたものである。
無機多孔質担体上へのイオン交換性樹脂の担持は、どのような方法で行ってもよく、イオン交換性樹脂を直接無機多孔質担体に担持させる方法、イオン交換性を有さない樹脂を無機多孔質担体に担持させた後にイオン交換能を有する官能基を導入する方法、重合性モノマーを無機多孔質担体に担持させて重合し、必要に応じてイオン交換能を有する官能基を導入する方法、などの方法をいずれも採用することができるが、好ましくは、後述する本発明の多孔性イオン交換体の製造方法により行うことができる。
【0028】
本発明の多孔性イオン交換体は、上述した無機多孔質担体と、これに担持されたイオン交換性樹脂とからなり、平均体積は、5×10-4mm3/個以上、好ましくは5×10-4
〜1000mm3/個、より好ましくは1×10-3〜150mm3/個程度であるのが望ましい。また、平均径(最長径の平均値)が通常100μm以上、好ましくは100μm〜5mm程度であるのが望ましい。本発明の多孔性イオン交換体の大きさおよび形状は、通常無機多孔質担体の形状に大きく依存するものであるが、無機多孔質担体にイオン交換性樹脂が担持されたものの複数が結合して構造体となったものであってもよく、特に限定されるものではない。
【0029】
本発明の多孔性イオン交換体は、その水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/g、好ましくは0.7〜1.4cm3/gであるのが望ましい。
また、本発明の多孔性イオン交換体は、細孔直径が0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmの貫通孔を有するものであって、無機多孔質担体の細孔のすべてがイオン交換性樹脂で充填されたものではない。このような貫通孔は、たとえば本発明の多孔性イオン交換体を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のカラム充填剤として用いた場合など、液体もしくは気体と接触してイオン交換を行う用途に用いる場合には、接触する液体もしくは気体の流路として作用し、これによりイオン交換速度の向上が期待される。
【0030】
本発明の多孔性イオン交換体が貫通孔を有することは、電子顕微鏡写真により確認することができる。貫通孔の表面は、イオン交換性樹脂で被覆されていてもよく、被覆されていなくてもよい。また、貫通孔の細孔直径は水銀圧入法による細孔分布の測定結果から求めることができる。
【0031】
本発明の多孔性イオン交換体は、無機多孔質担体が二元細孔無機担体である場合、メソ細孔の少なくとも一部、好ましくはメソ細孔の細孔容積の50%以上がイオン交換性樹脂で充填されており、無機多孔質担体が有していた貫通孔であるマクロ細孔が貫通孔として保持されたものとなっていることが好ましい。この場合において貫通孔内表面は、イオン交換性樹脂で被覆されていてもよく、無機担体内壁が露出していてもよい。
【0032】
本発明の多孔性イオン交換体は、特に限定されるものではないが、N2吸着によるBE
T法により測定される比表面積が、好ましくは5m2/g以上、より好ましくは50〜3
00m2/gであるのが望ましい。
【0033】
さらに本発明の多孔性イオン交換体は、滴定法で求めたイオン交換容量が、好ましくは0.1〜2.0meq/g、より好ましくは0.5〜1.8meq/gであるのが望ましい。
【0034】
このような本発明の多孔性イオン交換体は、優れたイオン交換性能を有し、しかも高いイオン交換速度を示す。
多孔性イオン交換体の製造方法
本発明の多孔性イオン交換体の製造方法は、特定の無機多孔質担体(A)と、重合によりイオン交換性樹脂またはその前駆体を形成するモノマー(B)とを接触させる工程と、前記モノマー(B)を重合させる重合工程とを含む。
【0035】
無機多孔質担体(A)としては、細孔直径が0.1〜30μm、好ましくは0.5〜15μmのマクロ細孔と、細孔直径が1〜50nm、好ましくは2〜20nmのメソ細孔を有し、平均体積が5×10-4mm3/個以上、好ましくは1×10-3mm3/個以上のもの
を用いることができる。ここで、無機多孔質担体(A)のマクロ細孔の少なくとも一部は貫通孔である。無機多孔質担体(A)の平均体積は、たとえば無機多孔質担体が粒子状である場合には、好ましくは5×10-4〜1000mm3/個、より好ましくは1×10-3
〜150mm3/個程度であるものを好適に用いることができる。
【0036】
また、特に限定されるものではないが、無機多孔質担体の平均径(無機多孔質担体の最長径の平均値)は、100μm以上であるのが望ましく、たとえば無機多孔質担体が粒子状である場合には、平均粒子径(粒子の最長径の平均値)が100μm〜5mm程度であるのが望ましい。
【0037】
このような無機多孔質担体(A)としては、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニアなどから形成される二元細孔粒子が挙げられ、このうち二元細孔シリカ粒子が特に好ましく用いられる。本発明で用いる無機多孔質担体(A)は、マクロ細孔の容積が0.5〜2.5cm3/g、好ましくは0.6〜2.0cm3/g、より好ましくは0.7〜1.5cm3/gの範囲であるのが望ましい。
【0038】
特に無機多孔質担体(A)が二元細孔シリカ粒子である場合、マクロ細孔の容積が0.6〜2.0cm3/g、好ましくは0.7〜1.5cm3/gの範囲であり、かつ、メソ細孔の容積が0.4〜1.5cm3/g、好ましくは0.5〜1.2cm3/gの範囲であるのが望ましい。
【0039】
無機多孔質担体(A)として用いられる二元細孔粒子は、どのような方法で製造されたものであってもよいが、たとえば二元細孔シリカ粒子では、珪素原、水溶性高分子および酸触媒を含むゾル液を相分離の過渡構造においてゲル化させてゲル体を生成し、前記ゲル体を水熱処理して得られた粒子であることが好ましい。このような二元細孔シリカ粒子の製造においては、ゲル体を生成した後水熱処理の前に、ゲル体を乾燥および焼結することも好ましく、また、ゲル体の水熱処理を100〜150℃の範囲内で行うことも好ましい。本発明に係る無機多孔質担体(A)として好適に用いられる二元細孔シリカとしては、たとえば、特開2006−213588号公報、特開2006−104016号公報、国際公開WO2002/87585号パンフレットなどに記載のものを挙げることができる。
【0040】
本発明の製造方法では、上述した無機多孔質担体(A)と、重合によりイオン交換性樹脂またはその前駆体を形成するモノマー(B)とを接触させる工程を有する。無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触は、特に限定されることなくどのような方法で行っ
てもよく、モノマー(B)が液相あるいは気相のいずれの条件で接触されてもよい。液相での接触の方法としては、たとえば、液状のモノマー(B)を、無機多孔質担体(A)に噴霧する、無機多孔質担体(A)を液状のモノマー(B)中に浸漬するなどが挙げられる。ここで、液状のモノマー(B)は、必要に応じて溶媒に溶解または分散されていてもよい。
【0041】
本発明では、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触を、接触後の重合工程のあとにおいて、水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり
、かつ、貫通孔を有するように、前記モノマー(B)の接触量を調整することが好ましく、さらに、水銀圧入法により測定した細孔直径が0.5〜15μmの範囲にある細孔の占める容積が、好ましくは0.4〜1.5cm3/g、より好ましくは0.4〜1.2cm3/gとなるように、前記モノマー(B)の接触量を調整することが望ましい。ここで、細孔直径が0.5〜15μmの範囲にある細孔は、無機多孔質担体(A)のマクロ細孔に由来する貫通孔であるのが望ましい。
【0042】
すなわち、本発明では、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触により、無機多孔質担体(A)に担持されるモノマー(B)の量を、前記細孔容積および貫通孔の平均孔径を満たすように調整することが望ましい。このような方法としては、接触に用いるモノマー(B)の量を制御する、接触に用いるモノマー(B)の濃度を制御する、接触時間を制御する、接触後に遠心などの適宜の方法で過剰なモノマー(B)を除去するなどの方法が挙げられる。モノマー(B)が気相となる条件で無機多孔質担体(A)と接触させる方法は、比較的制御が困難であるため、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触は、モノマー(B)が液相となる条件を選択することがより好ましい。また、モノマー(B)と接触した後の無機多孔質担体(A)が、重合時において粒子同士が凝集せず粉体として取り扱える条件を選択することが好ましい。モノマー(B)の使用量は、特に限定されるものではないが、たとえば、無機多孔質担体(A)1gあたり、0.001〜0.4g程度とすることができる。
【0043】
本発明においては、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触に先立ち、無機多孔質担体(A)に表面処理を施してもよい。無機多孔質担体(A)への表面処理は、用いるモノマー(B)の種類に応じて行うことができ、これによっても無機多孔質担体(A)に担持されるモノマー(B)の量を制御することができる。表面処理としては、たとえば、公知の親水性を付与する処理、疎水性を付与する処理などが挙げられる。たとえば、モノマー(B)としてスルホン酸基、アンモニウム基等の親水性の高い官能基を有する化合物を用いる場合には、表面処理等を行っていない無機多孔質担体(A)を用いるのが好ましく、逆にスチレン等の疎水性の高いモノマー(B)を用いる場合には、環状シロキサン処理等により表面を疎水化した無機多孔質担体(A)を用いることが望ましい。
【0044】
本発明においては、モノマー(B)の種類は、目的とするイオン交換性樹脂に応じて選択すればよく、特に制限されるものではないが、重合性に優れる点で、(メタ)アクリル基、スチリル基等のラジカル重合性の不飽和二重結合を有する重合性単量体(以下、ビニル系単量体)であることが好ましい。
【0045】
モノマー(B)として用いられるビニル系単量体を具体的に例示すると、以下のものが挙げられる。
1.イオン解離可能な親水性基を有さないビニル系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、p−クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単官能の芳香族ビニル系の単量体類;ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の多官能の芳香族ビニル化合物類等の芳香族ビニル系の単量体類。(メタ)
アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリトリデシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、ジアセトンメタクリルアミド、メタクリロニトリル、メタクリロレイン等の単官能の非フッ素系(メタ)アクリル系の単量体類。エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンジ(メタ)アクリルアミド等の多官能の非フッ素系(メタ)アクリル系の単量体類。(メタ)アクリル酸トリフロロメチル、(メタ)アクリル酸ペンタフロロエチル、(メタ)アクリル酸パーフロロブチル、(メタ)アクリル酸パーフロロ2−エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸のパーフロロアルキルエステル類。酢酸ビニル、メチルビニルケトン、ビニルピロリドン、エチルビニルエーテル、ジビニルスルホン、フタル酸ジアリル等。
【0046】
2.イオン解離可能な親水性基を有するビニル系単量体;スチレンスルホン酸及びその塩類、ビニルナフタレンスルホン酸及びその塩類、ビニルベンジルトリメチルアミン、ビニルベンジルトリエチルアミン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の芳香族ビニル系の単量体類。(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類。(メタ)アクリル酸、マレイン酸、コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル及びその塩類、マレイン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル及びその塩類、フタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。(メタ)アクリルオキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル等のアミノ基を有する(メタ)アクリル系の単量体類。(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド塩等の第4級アンモニウム塩基を有する(メタ)アクリル系の単量体類。ビニルホスホン酸等のホスホン酸基を有するビニル単量体及びこれらの塩類等。
【0047】
本発明の製造方法において、モノマー(B)を構成するこれらの重合性単量体は、目的とする重合体被覆層に応じて単独で用いても、2種以上を併用してもよい。例えば、多官能の重合性単量体を、モノマー(B)全量中0.05〜100質量%用いることにより、溶剤に対して不溶な架橋型の重合体を得られる。またモノマー(B)の主成分とする重合性単量体が常温、常圧下で固体の場合などには、該重合性単量体と共重合する液状の重合性単量体に溶解することも好ましい。
【0048】
モノマー(B)として複数の重合性単量体を組み合わせて用いる方法としては、例えば次の(1)、(2)および(3)の方法が挙げられる。
(1)単官能の芳香族ビニル系の単量体、又は単官能の(メタ)アクリル系の単量体だけをモノマー(B)として用いる方法。これにより非架橋の重合体からなる被膜が生じる。(2)親水性基を有さない単官能の芳香族ビニル系の単量体を主とし、多官能の単量体(好ましくは多官能の芳香族ビニル系の単量体)をモノマー(B)全量100質量部に対し
て、0.05〜40質量部(好ましくは0.1〜10質量部)の範囲で配合した混合物をモノマー(B)として用いる方法。この方法では、(メタ)アクリル系の単量体を主として用いた場合よりも耐加水分解性などの化学的安定性に優れ、より過酷な条件でも、得られる重合体が無機多孔質担体(A)から剥離や分解を生じ難いものとなる。また、この方法で得られた重合体は、後述するような手法で芳香族基にイオン解離可能な基などを導入することが容易なため、優れた化学的安定性を有し、かつイオン交換性などの機能性に優れた多孔性イオン交換体を得ることができる。
(3)親水性基を有する単官能の(メタ)アクリル系の単量体類を主とし、多官能の単量体(好ましくは多官能の(メタ)アクリル系の単量体類)をモノマー(B)全量100質量部に対して、0.05〜40(好ましくは0.1〜10質量部)の範囲で配合した重合性単量体混合物をモノマー(B)として用いる方法。(メタ)アクリル系の単量体類は、種々の官能基を有する化合物が工業的に安価に提供されており、このような官能基を有する重合体被覆層を有する被覆粒子の製造がより容易である。またこれにより、異なる官能基を特定の比率で有する重合体被覆層を調整することが容易であるなど、重合体層の化学構造の制御が容易である。さらには、単量体の状態で精製可能であり、官能基を導入する際に不本意な副反応が起きて不純物が混入するなどしても、該精製によってその除去が容易ある。
【0049】
本発明の製造方法においては、このような一種以上の重合性単量体からなるモノマー(B)を、上述の無機多孔質担体(A)と接触させて吸着させる。モノマー(B)は単独で接触に用いてもよいが、後述する重合工程を効率よく行うために、重合開始剤を加えた状態の混合物で無機多孔質担体(A)と接触させてもよい。
【0050】
重合開始剤としては、用いるモノマー(B)の種類に応じて、公知の重合開始剤を適宜選択して用いればよく特に制限されることはないが、加熱により重合開始能を発現するものであることが操作がより簡便であり好ましい。例えば、重合性単量体としてビニル系単量体を採用した場合には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2,−アゾビスイソブチロニトリルや2,2,−アゾビス−(2,4,−ジメルバレロニトリル)等のアゾビス系重合開始剤等が好適な重合開始剤として挙げられる。これら重合開始剤は、モノマー(B)100質量部に対して、0.1〜20質量部、好適には0.5〜10質量部用いるのが一般的である。
【0051】
また、必要に応じて、重合禁止剤や重合抑制剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合したものを用いても良い。さらに、モノマー(B)が固体である場合には、少量の溶剤を用いて液状で用いてもよい。
【0052】
上述したように、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)及び必要に応じて配合される任意成分の混合物との接触は、特に制限されるものではないが、好ましくは、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、モノマー(B)またはその混合物を気体状もしくは液状で加える方法であり、より好ましくは、不活性雰囲気中で液状のモノマー(B)またはその混合物を噴霧して加える方法である。噴霧に際しては公知のスプレーノズル等が好適に使用できる。また添加速度も特に限定されず、他の種々の条件によって決定すれば良いが、一般的には、無機多孔質担体(A)100g当たり1〜20ml/minである。これらを加える際の温度条件も特に制限されず、冷却下でも、加熱下でも良いが、あまりに高い温度では担持前にモノマー(B)が重合してしまうため、一般には−10〜40℃程度が好ましい。
【0053】
無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触は、攪拌下に行うことが好ましく、さらに、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触操作後、無機多孔質担体(A)にモノマー(B)を分散させるため、たとえば30分〜3時間程度などの適当な時間、攪拌を継続することがより好ましい。
【0054】
このような本発明に係る接触工程では、モノマー(B)が、無機多孔質担体(A)のメソ細孔に優先的に吸着されるものと考えられる。
本発明においては、上述のように無機多孔質担体(A)とモノマー(B)とを接触させて、モノマー(B)が無機多孔質担体(A)に吸着した状態となった後、モノマー(B)を重合させる重合工程を行う。
【0055】
無機多孔質担体(A)に吸着した状態のモノマー(B)を重合させる方法としては、用いたモノマー(B)の重合方法として公知の方法を採用すればよく、特に制限されるものではないが、好適な方法としては、加熱により重合を開始させる方法が挙げられる。モノマー(B)体がビニル系単量体である場合には、前記したような熱重合開始剤を用いることにより、より効率的に重合させることができる。また、当該加熱温度は、用いたモノマー(B)及び重合開始剤の種類等により公知の条件を適宜設定すればよく、一般には40〜230℃、好ましくは50〜180℃程度である。
【0056】
また、用いたモノマー(B)がビニル系単量体である場合には、酸素による重合阻害を防止するため、重合工程を窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0057】
重合反応容器内の圧力は、特に制限されず、加圧でもよいし、常圧でもよいし、減圧でもよい。用いたモノマー(B)の種類にもよるが、それらの中でも加圧が好ましい。加圧する際の圧力としては、一般的には0.01〜0.6MPa程度である。重合時間も上記したような他の条件に合わせて適宜設定すればよく、一般的には、30〜180分程度である。
【0058】
本発明においては、無機多孔質担体(A)とモノマー(B)との接触を、溶媒を用いずに行った場合には、重合後の粒子を乾燥する工程は不要であり、溶媒を用いて行った場合には、必要に応じて重合の前あるいは後に適宜乾燥を行うことができる。
【0059】
このような重合工程の後において、得られた粒子は、水銀圧入法により測定した細孔容積が0.5〜1.5cm3/g、好ましくは0.7〜1.4cm3/gであり、かつ、貫通孔を有する。この貫通孔は、平均細孔直径が通常0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmであるのが望ましい。この貫通孔は、通常、無機多孔質担体のマクロ細孔に由来する。
【0060】
本発明では、モノマー(B)としてカルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アンモニウム基等を有する重合性単量体を用いた場合には、これら官能基に由来するイオン交換性を有する多孔性イオン交換体とすることができる。
【0061】
また、モノマー(B)としてイオン交換性を示す官能基を有さない単量体を用いた場合には、重合工程の後において、無機多孔質担体(A)にイオン交換性樹脂の前駆体が担持された粒子が生成している。本発明においては、この粒子に公知のイオン交換樹脂の製造方法に準じてイオン交換性を示す官能基を導入することにより、多孔性イオン交換体とすることができる。
【0062】
導入するイオン交換性を示す官能基は、目的に応じ適宜選択すればよく、特に限定され
るものではないが、たとえば、陽イオンを解離可能な基として、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基、チオール基、パーフルオロ3級アルコール性水酸基、ヒ酸基、セレン酸基及びこれらの塩等が挙げられ、陰イオンを解離可能な基としては、第4級又は第3級アンモニウム塩基、第3級アミン基、ピリジニウム塩基、イミダゾリウム塩基等が挙げられる。これらのなかでも、有用性が高く、また芳香族ビニル系の単量体の重合体への導入が簡単であるなど製造が容易な点で、スルホン酸基あるいはその塩、又は第4級あるいは第3級アンモニウム塩基であることが特に好ましい。
【0063】
このようなイオン交換性を示す官能基の導入は、公知のイオン交換樹脂の製造方法におけるイオン交換性基の導入手法に準じて行うことができる。
たとえば、モノマー(B)としてスチレン等を用い、重合体がその構造中にベンゼン環等の芳香族炭化水素環を有する場合には、発煙硫酸、クロルスルホン酸、三酸化硫黄等と反応させる公知の方法でスルホン化等を行えばよい。また、重合体がメタクリル酸メチルの重合体等の酸エステル構造を持つ場合には、該エステルの加水分解を行えば酸基を導入することができる。また重合体がアミノ基を有する場合には、ハロゲン化アルキルと反応させて、或いはハロゲン化アルキル基を有す場合には、アミン化合物と反応させていずれもアンモニウム基を導入できる。さらには、エポキシ基を有する場合には、スルファニル酸、亜硫酸ナトリウム等を用いることによりスルホン化させてスルホン酸基を導入したり、あるいはアミン化合物と反応させることで、アンモニウム塩基を導入することができる。また、その他公知の化学反応を応用して、種々のイオン交換性基を導入することが可能である。なおこれらの官能基導入の際には、無機多孔質担体(A)に担持された重合体が剥離等により喪失してしまわないよう、適宜その導入形態や反応条件を選択する必要がある。一般に、芳香族ビニル系の単量体の重合体は、エステル構造を有す(メタ)アクリレート系単量体に比べて化学的に安定であり、種々の官能基の導入が容易である
このような官能基の導入に際しては、特に限定されるものではないが、得られる多孔性イオン交換体の凝集を防止するため、溶剤を用いず、温度、圧力等の反応条件を適宜設定し、反応化剤をガス状で粒子と接触させる方法を採用することが好ましい。例えば、上記イオン交換性基の導入において、スルホン酸基を導入する場合には、三酸化硫黄のガスと接触させる方法が好適に採用できる。同様にアンモニウム塩基を導入する場合には、用いるアミン化合物又はハロゲン化アルキルがガス状で粒子と接触するよう、反応温度及び圧力等の条件を選択することが好ましい。
【0064】
なおその用途にもよるが、芳香族ビニル系の単量体類を主として用いた重合体の方が、(メタ)アクリレート系単量体類を主として用いた重合体より高い化学的安定性を得られる点で好ましい。また、形成されるイオン交換性樹脂が架橋を有する場合には、一般的に高い耐水性を得られるため好ましい。
【0065】
このようにして得られた多孔性イオン交換体は、水銀水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/g、好ましくは0.7〜1.4cm3/gであり、かつ、貫通孔を有する。この貫通孔の平均細孔直径は、0.5〜15μm、好ましくは1〜10μmの範囲であるのが望ましい。
【0066】
本発明に係る多孔性イオン交換体は、貫通孔を有することにより、イオン交換体として使用した場合に流体との接触がより円滑になり、イオン交換速度が速く、また、イオン交換性樹脂と無機多孔質担体との長所を持ち合わせるため、耐熱性や機械的強度にも優れる。このような本発明に係る多孔性イオン交換体は、イオン交換クロマトグラフィー用の充填材、各種酸または塩基触媒反応の固相触媒、酸化または脱水反応に用いる固体酸触媒、各種樹脂製品用の充填材、水処理剤、分離剤、金属吸着・回収剤、食品あるいは医薬品などの精製用途などに有用である。
【0067】
実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(細孔容積、平均細孔直径)
試料の細孔容積ならびに平均細孔直径は、細孔分布測定装置(PoreMaster−60、QUANTACHROME社製)を用いて、水銀圧入法により測定した。なお、測定は細孔直径換算で、3.7nm〜100μmの範囲で行い、総細孔容積は該範囲における全ての細孔の容積を表す。
【0069】
(比表面積)
試料の比表面積は、比表面積測定装置(SA−1000、柴田科学製)を用いて、N2
ガスを吸着ガスとしてBET法により求めた。
【0070】
(平均粒子径)
試料を水に超音波によって分散させ、光散乱回折式粒度分布測定装置(コールターLS230、ベックマンコールター社製)を用いて粒度分布を測定し、体積基準算術平均径D50の値を平均粒子径とした。
【0071】
(陽イオン交換容量測定)
試料を予め60℃で24時間以上乾燥し乾燥試料重量(WC/g)を測定した後、1m
ol/dm3のNaCl水溶液中に8時間以上撹拌してナトリウムイオン型に置換させた
。続いて、ろ過して得られた溶液を、0.2mol/dm3のNaOH水溶液により、フ
ェノールフタレインを指示薬として中和滴定し、ろ液に含まれる遊離した水素イオンの量(A/mmol)を求めた。
【0072】
上記測定値に基づいて、陽イオン交換容量を下記式
陽イオン交換容量(meq/g)=A/WC・・・(式1)
により求めた。
【0073】
(イオン交換速度の測定)
カチオン交換性イオン交換体のイオン交換速度の測定を行うため、カチオンとして鉄(II)イオンを用い測定を行った。測定方法は以下通り。
【0074】
硫酸アンモニウム鉄(II)・6水和物0.35gと6mol/dm3の塩酸1cm3に水を加え500cm3にし(溶液(1))、さらに、水で10倍希釈する(溶液(2))
。1,10−フェナントロリン塩酸塩0.24gを水を加え200cm3にする(溶液(
3))。酢酸ナトリウム0.42gに水50cm3を加え、さらに0.1mol/dm3の酢酸水溶液を50cm3加える(溶液(4))。塩化ヒドロキシアンモニウム10gを1
00cm3の水に溶かす(溶液(5))。
【0075】
ビーカーに溶液(2)5cm3を入れ、さらに水を15cm3加えた後、イオン交換体1.00gを加え、スターラー(20mmスターラーチップ、500rpm)によって所定時間撹拌した後、すぐに減圧ろ過を行い、ろ液を得る。該ろ液に、溶液(3)8cm3
溶液(4)8cm3、溶液(5)5cm3を加え、さらに水を加えて50cm3にする。該
溶液の波長517nmの吸光度を吸光光度計(UV−240、島津製作所製)によって測定した。
【0076】
また別に、溶液(1)5cm3、溶液(3)8cm3、溶液(4)8cm3、溶液(5)
5cm3を混ぜ、さらに水を加えて50cm3にした混合液(溶液A)、溶液(2)5cm
3、溶液(3)8cm3、溶液(4)8cm3、溶液(5)5cm3を混ぜ、さらに水を加えて50cm3にした混合液(溶液B)、溶液(2)0.5cm3、溶液(3)8cm3、溶
液(4)8cm3、溶液(5)5cm3を混ぜ、さらに水を加えて50cm3にした混合液
(溶液C)を用いて検量線を作成した。
【0077】
測定によって得られた吸光度と検量線より、溶液中の鉄(II)イオンの濃度を算出し、その値と初期濃度との差を単位時間当たりのイオン交換量とし、イオン交換速度の比較を行った。
【0078】
[実施例1]
平均分子量25,000のポリアクリル酸(以下HPAAという)共存下、水ガラス(3号珪曹)より、二元細孔シリカを作製した。仕込み組成は、重量比で水:濃硝酸:HPAA:水ガラス=97:37:6.5:55とし、室温で攪拌し均一なゾル液とした。
【0079】
撹拌後、ゾル液を、プラスチック容器に移し、35℃、1日間、静置しゲル化させた。その後、該湿潤ゲルを、ナトリウムを除去するために水洗し、続いて、0.1規定のアンモニアに浸漬し、50℃、1日間、熟成した。その後、50℃で乾燥し、600℃で2時間焼成を行った。焼成後の試料を、乳鉢により粉砕し、ふるい分けして、二元細孔シリカ粉体を得た。得られた二元細孔シリカの物性を表1に示す
得られた二元細孔シリカ50gをテフロン(登録商標)製フラスコに仕込み、スチレン13.019g、ジビニルベンゼン1.627g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2.7gを予め混合した重合性単量体混合溶液を、撹拌下で噴霧し、続いて容器内をN2ガスで置換し密閉して、さらに2時間室温中で撹拌した。撹拌後、容器を1
00℃で2時間加熱し、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体被覆二元細孔シリカを得た。
【0080】
得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体被覆二元細孔シリカ20gを、テフロン(登録商標)製耐圧容器に仕込み、60%発煙硫酸30gを入れた口の空いたガラス容器を、該容器内に入れ密閉した。その後8時間、80℃で加熱し、水洗、乾燥を行って多孔性イオン交換体を得た。
【0081】
得られたイオン交換体のイオン交換容量は1.5meq/gであった。また、その他物性を併せて表1に示す。また、水銀圧入法で測定した細孔分布を図1(A)に示し、電子顕微鏡写真を図2(A)に示す。また、前記「イオン交換速度の測定」により測定された結果を表2ならびに図3に示す。
【0082】
[実施例2]
実施例1において、用いた重合性単量体混合溶液の組成を、スチレン5.208g、ジビニルベンゼン0.651g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート1.08gとしたことの他は、実施例1と同様の操作を行って、多孔性イオン交換体を得た。
【0083】
得られたイオン交換体のイオン交換容量は0.44meq/gであった。また、その他物性を併せて表1に示す。また、水銀圧入法で測定した細孔分布を図1(B)に示し、電子顕微鏡写真を図2(B)に示す。また、前記「イオン交換速度の測定」により測定された結果を表2ならびに図3に示す。
[比較例1]
測定用試料として、市販のイオン交換樹脂(アンバーリスト15DRY、ロームアンドハース社製)を用いた。
【0084】
該イオン交換樹脂のイオン交換容量は4.0meq/gであった。また、その他物性を
併せて物性を表1に示す。また、前記「イオン交換速度の測定」により測定された結果を表2ならびに図3に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明に係る多孔性イオン交換体は、イオン交換クロマトグラフィー用の充填材、各種酸または塩基触媒反応の固相触媒、酸化または脱水反応に用いる固体酸触媒、各種樹脂製品用の充填材、水処理剤、分離剤、金属吸着・回収剤、食品あるいは医薬品などの精製用途などに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は、実施例1および2で得た多孔性イオン交換体の、水銀圧入法で測定した細孔分布を示す。
【図2】図2は、実施例1および2で得た多孔性イオン交換体の、電子顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は、実施例および比較例の、イオン交換速度の測定により測定された結果のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質担体と、これに担持されたイオン交換性樹脂とからなり、平均体積が5×10-4mm3/個以上であり、水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり、かつ、貫通孔を有することを特徴とする多孔性イオン交換体。
【請求項2】
細孔直径が0.5〜15μmの範囲にある細孔の占める容積が、0.4〜1.5cm3
/gである請求項1記載の多孔性イオン交換体。
【請求項3】
イオン交換性樹脂が、カチオン交換性樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔性イオン交換体。
【請求項4】
細孔直径が0.1〜30μmのマクロ細孔と、細孔直径が1〜50nmのメソ細孔とを有し、平均体積が5×10-4mm3/個以上である無機多孔質担体(A)と、重合により
イオン交換性樹脂またはその前駆体を形成するモノマー(B)とを接触させる工程と、前記モノマー(B)を重合させる重合工程とを含み、水銀圧入法により測定した総細孔容積が0.5〜1.5cm3/gであり、かつ、貫通孔を有する多孔性イオン交換体を得るこ
とを特徴とする多孔性イオン交換体の製造方法。
【請求項5】
重合工程の後において、水銀圧入法により測定した細孔直径0.5〜15μmの範囲にある細孔の占める容積が、0.4〜1.5cm3/gとなるように、前記モノマー(B)
の接触量を調整することを特徴とする請求項4に記載の多孔性イオン交換体の製造方法。
【請求項6】
無機多孔質担体(A)が、二元細孔シリカ粒子であることを特徴とする請求項4または5に記載の多孔性イオン交換体の製造方法。
【請求項7】
前記二元細孔シリカ粒子が、マクロ細孔の容積が0.6〜2.0cm3/gの範囲内に
あり、メソ細孔の容積が0.4〜1.5cm3/gの範囲内にあることを特徴とする請求
項6に記載の多孔性イオン交換体の製造方法。
【請求項8】
前記二元細孔シリカ粒子が、珪素原、水溶性高分子および酸触媒を含むゾル液を相分離の過渡構造においてゲル化させてゲル体を生成し、前記ゲル体を水熱処理して得られた粒子であることを特徴とする請求項6または7に記載の多孔性イオン交換体の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−264732(P2008−264732A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114248(P2007−114248)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】