説明

多孔性フィルム、電池用セパレータ及び電池

【課題】
本発明は、電気性能に寄与する優れた透気特性を有しながら、安全性の確保の点で重要なシャットダウン特性を具備した多孔性フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とする層を有しており、当該ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物が、ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体である成分と、軟質成分として、ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体である成分とを含む樹脂組成物であり、少なくとも1方向に延伸されてなることを特徴とする多孔性フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔性フィルムに関し、包装用品、衛生用品、畜産用品、農業用品、建築用品、医療用品、分離膜、電池用セパレータとして利用でき、特に非水電解液電池用セパレータとして好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
多数の微細連通孔を有する高分子多孔性フィルムは、超純水の製造、薬液の精製、水処理などに使用する分離膜、衣類・衛生材料などに使用する防水透湿性フィルム、あるいは電池などに使用する電池セパレータなど各種の分野で利用されている。
【0003】
二次電池はOA、FA、家庭用電器または通信機器等のポータブル機器用電源として幅広く使用されている。特に機器に装備した場合に容積効率が良く、機器の小型化及び軽量化につながることからリチウムイオン二次電池を使用したポータブル機器が増加している。
一方、大型の二次電池はロードレベリング、UPS、電器自動車をはじめ、エネルギー/環境問題に関連する多くの分野において研究開発が進められ、大容量、高出力、高電圧及び長期保存性に優れている点より非水電解液二次電池の一種であるリチウムイオン電池の用途が広がっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の使用電圧は、通常4.1Vから4.2Vを上限として設計されている。このような高電圧では水溶液は電気分解を起こすので電解液として使用することが出来ないためである。そのため高電圧でも耐えられる電解液として有機溶媒を使用したいわゆる非水電解液が用いられている。
非水電解液用の溶媒としては、より多くのリチウムイオンを存在させることができる高誘電率有機溶媒が用いられ、該高誘電率有機溶媒としてポリプロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の有機炭酸エステルが主にしようされている。溶媒中でリチウムイオン源となる支持電解質として、6フッ化リン酸リチウム等の反応性の高い電解質を溶媒に溶かして使用している。
【0005】
リチウムイオン二次電池には内部短絡の防止の点からセパレータが正極と負極の間に介在されている。当該セパレータにはその役割から当然絶縁性が要求される。また、リチウムイオンの通路となる通気性と電解液の拡散・保持機能を付与するために微細孔構造である必要がある。これらの要求を満たすためのセパレータとしては多孔性フィルムが使用されている。
【0006】
さらに、最近の電池の高容量化に伴い、電池の安全性に対する重要度が増してきている。電池用セパレータの安全に寄与する特性として、ブレイクダウン特性(以後、「BD特性」と略する場合がある)がある。このBD特性は、電池が以上を起こして熱暴走して160℃以上の高温状態となった場合でも、フィルムが破膜することなく、正極と負極を隔て続けるという機能である。BD特性を有すれば、160℃異常の高温になっても絶縁を保ち、電極間の広範囲な短絡を防止することができるため、電池の異常発熱による発火等の事故を防止できる。そのため、リチウムイオン電池用セパレータが破膜する最も低い温度を示すブレイクダウン温度はより高温であることが好ましい。
【0007】
この種の微細孔を有するフィルムを製膜する技術としては下記に示すような種々の技術が提案されており、例えば特許文献1ではポリエチレンとポリプロピレンの積層フィルムを一軸方向に温度を変えて2段階で延伸することにより多孔質化せしめることを特徴とする電池用セパレータの製造方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2や特許文献3には多孔フィルムの透過性を高めるために、結晶形態の一つであるβ晶を多く含むポリプロピレンシートを延伸して多孔性フィルムを得る方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献4には、ポリ4−メチル−1−ペンテン系共重合体(A)と主成分のα−オレフィンの含有量が40〜80重量%であるα−オレフィン共重合体(B)とからなり、前記(A)と前記(B)の割合が重量比で(A)/(B)=80/20〜30/70重量%であるポリオレフィン樹脂(C)を含有する樹脂組成物を膜状溶融物とし、該膜状溶融物を膜状成形物に成形した後、その膜状成形物を少なくとも1方向に延伸することにより、優れた通気性と高い耐熱性を有するポリオレフィン樹脂製多孔膜が提案されている。
【0010】
また、特許文献5には、少なくとも2層の多孔質層を積層した多孔性フィルムであって、前記多孔質層の1層がポリプロピレン系樹脂を含む層であって、他の1層が前記ポリプロピレン系樹脂を含む層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より高い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物からなる耐熱層であり、且つβ活性を有する多孔性フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許2883726号公報
【特許文献2】特許2509030号公報
【特許文献3】国際公開2002/066233号
【特許文献4】特開2005−145999号公報
【特許文献5】特開2009−39910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記特許文献1に記載の製造方法により製造されたセパレータは、従来のポリエチレン単層のセパレータに比べて結晶融解ピーク温度がより高いポリプロピレン層が積層されているため耐熱性を有し、BD特性の観点からは有利である。しかしながら、最近の電池の高エネルギー密度化に伴い、ポリプロピレンでは耐熱性が十分とは言い難くなってきており、より高い温度でもBD特性を発揮できることが求められている。更に、前記製造方法により製造されたセパレータは延伸方向と直角な方向の引き裂きに非常に弱く、延伸方向に裂け目が生じやすいという強度面からの問題点もある。また、前記製造方法は厳密な製造条件の制御を必要とし、且つ生産性も良くないという問題を有している。
また、前記特許文献2、3に記載の多孔性フィルムは、いずれも二次電池のセパレータとして用いた場合、前記と同様に最近の電池の高エネルギー密度化に伴い、ポリプロピレンでは耐熱性が十分とは言い難くなってきており、より高温でもBD特性を発揮できることが求められている。
また、前記特許文献4に記載のセパレータは、通気性と耐熱性を有するポリオレフィン樹脂製多孔膜が得られるが、厳密な製造条件の制御を必要とし、且つ生産性も良くないという問題を有している。
また、特許文献5に記載の積層多孔性フィルムは、電池用セパレータとして適した電気抵抗を有し、あわせて適度な強度も保持されており、さらにポリプロピレン単層多孔性フィルムよりも優れたブレイクダウン特性を有するが、前記ポリプロピレン系樹脂を含む層の樹脂組成物の結晶融解ピーク温度より高い結晶融解ピーク温度を持つ樹脂組成物としてポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッ素系樹脂及びポリメチルペンテン樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましく、更にフィラーを配合した層としていることが好ましいと示されており、具体的にはポリメチルペンテン樹脂として三井化学社製の商品名「TPX RT−18」(MFR=26g/10分、Tm=237℃)にフィラーとして硫酸バリウム、可塑剤として豊国精油社製の商品名「ハイカスターワックス HCOP」がポリメチルペンテン樹脂/フィラー/可塑剤=47.5/50.0/2.5質量%が実施例に示されており、フィラーを高充填するため得られる積層多孔性フィルムの厚み分布が悪く、且つ生産性も良くないという問題を有している。
本発明は、上の問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、電気性能に寄与する優れた透気特性を有しながら、安全性の確保の点で重要なブレイクダウン特性を具備した多孔性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するポリ4−メチル−1―ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とする層(A層)を有しており、当該ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物が、ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体である(a1)成分と、軟質成分として、ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体である(a2)成分とを含む樹脂組成物であり、少なくとも1方向に延伸されてなることを特徴とする多孔性フィルムである。
【0014】
また本発明は、前記(a2)成分が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体であり、スチレン含有量が1質量%〜50質量%であることが好ましい。
【0015】
また本発明は、前記(a1)成分と前記(a2)成分との割合が、質量比で(a1)/(a2)=55/45〜90/10であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする層(B層)を更に有し、かつβ活性を有する多孔性フィルムであることが好ましい。
【0017】
また本発明は、前記B層にβ晶核剤が含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好な透気特性を有しながら、前記ブレイクダウン特性を具備した多孔性フィルムを生産性よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の多孔性フィルムを電池用セパレータとして収容している非水電解液電池の一部破断斜視図である。
【図2】ブレイクダウン特性評価および広角X線回折測定における多孔性フィルムの固定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の多孔性フィルムの実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100質量%も含む)を占める意を包含するものである。
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。ここで、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特性する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。
【0021】
本発明の多孔性フィルムは、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とするA層を有することが重要である。
【0022】
以下に、本発明の多孔性フィルムを構成する各層の成分の詳細について説明する。
【0023】
[A層]
本発明におけるA層は、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とする。
【0024】
(ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物)
本発明におけるポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物は、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在することが重要である。なお、本発明における損失正接のピーク温度とは、損失正接(tanδ)がピーク値(極大値)を示す温度のことである。
ここで、損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在することにより、少なくとも1方向に延伸した際に破断することなく多孔化することが可能となるため好ましく、延伸加工の点では損失正接のピーク温度の下限としては−100℃以上であり、上限としては20℃以下である。また、損失正接のピーク温度が該温度範囲に少なくとも1つ存在することにより、少なくとも1方向に延伸した際に延伸性が良好となり、延伸時の破断トラブル等が生じることは無い。また、延伸時の多孔化のし易さが良好となると考えられ、少なくとも1方向に延伸した場合の延伸性と延伸による多孔化のし易さとの両立が可能となる。また本発明の主旨を超えない範囲であれば、動的粘弾性測定により測定した損失正接のピークは−100〜20℃の間に2つ以上存在しても構わない。なお、現実的な損失正接のピーク個数の上限は5つである。
【0025】
ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物は、前記した特性を満足すれば特に制限はない。例えば、動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するようにするには、ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物としてポリ4−メチル−1−ペンテン重合体やポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体と軟質成分とのブレンドなどを用いることができ、樹脂組成物の入手の利便性からポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体と軟質成分とのブレンドを用いることが好ましい。
【0026】
(ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体((a1)成分))
本発明のポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体((a1)成分)は、4−メチルペンテン−1の単独重合体または4−メチルペンテン−1と他のα−オレフィンとの共重合体である。炭素原子数が2〜20の4−メチルペンテン−1以外のα−オレフィンとしては、たとえばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−テトラデセン、1−オクタデセン、1−ヘキサデセン、1−ドデセン、1−テトラドデセン、1−エイコセン等が挙げられる。これらの他のαオレフィンは1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体が、α−オレフィンとの共重合体の場合、当該α−オレフィン重合単位の含有量は10質量%以下が好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。
【0027】
本発明において用いられるポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体は、高温GPC測定法により測定される重量平均分子量が10万〜300万、好ましくは30万〜100万のものが用いられる。
【0028】
また、示差走査型熱量計試験に基づいて測定される融点は、好ましくは200〜250℃、より好ましくは220〜250℃のものが用いられる。
【0029】
前記ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されるものではないが、製膜の安定性から0.03〜50g/10minの範囲のものが好ましく、0.3〜50g/10分のものがより好ましい。MFRが前記範囲内であれば成形加工時に押出機の背圧が高くなりすぎることが無く生産性に優れる。尚、本発明におけるMFRはJIS K 7210に準拠し、温度260℃、荷重2.16kgの条件下での測定値をさす。
【0030】
前記ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体の製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えば、チーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法が挙げられる。
【0031】
(軟質成分((a2)成分))
本発明における軟質成分((a2)成分)は、少なくとも1方向に延伸した場合の延伸性と延伸による多孔化のし易さ及び耐薬品性の観点から、ビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体、またはその水素添加誘導体を用いるのが特徴である。
【0032】
(ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体)
本発明におけるビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体について説明する。前記共重合体は、一般的にゴム弾性を有し、柔軟で破れにくい特性を有しており、またその水素添加誘導体は押出工程時の耐熱性に優れるので、黄変などの問題を起こすことが無い。なお、本発明におけるビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体のガラス転移温度は0℃以下が好ましく、−20℃以下がより好ましい。ガラス転移温度が0℃以下であることによって、延伸時の多孔性付与の効果をより得ることができる。
【0033】
ここでビニル芳香族化合物としては、スチレンが代表的なものであるが、α−メチルスチレンなどのスチレン同族体も用いることができる。また、共役ジエンとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ヘプタジエン等が挙げられる。また、第3成分として、ビニル芳香族化合物及び共役ジエン以外の成分を少量含んでもよい。ただし、共役ジエン部分のビニル結合を主とした二重結合が残った場合の熱安定性や耐候性や極めて悪いので、これを改良するため、二重結合の80%以上、好ましくは95%以上に水素を添加したものを用いることが好ましい。
【0034】
前記共重合体の製造方法は、特に限定されるものではなく、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法、また、ラジカル開始剤を用いた塊状重合法等が適用できる。
【0035】
前記共重合体としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体エラストマー(旭化成(株)、商品名「タフプレン」)、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体(旭化成(株)、商品名「タフテック」、(株)クラレ、商品名「セプトン」)、シェルシャパン(株)、商品名「クレイトンG」)、スチレンブタジエンランダム共重合体の水素添加誘導体(JSR(株)、商品名「ダイナロン」)、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体)((株)クラレ、商品名「セプトン」)、スチレン−ビニルイソプレン共重合エラストマー((株)クラレ、商品名「ハイブラー」)等として市販されており、これらの共重合体は各々単独に、または2種以上混合して使用することができる。
【0036】
これらのうちスチレン含有量は、好ましくは1質量%〜50質量%、より好ましくは1質量%〜40質量%、更に好ましくは5質量%〜35質量%、特に好ましくは10質量%〜35質量%である、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体が得られる成形体が柔軟になり過ぎず、後に詳細に説明する延伸時の多孔性が良好となるため好ましい。
【0037】
前記ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体のメルトフローレート(MFR)は、特に限定されるものではないが、製膜の安定性から0〜1g/10minの範囲のものが好ましく、0〜0.5g/10分であることが更に好ましく、特に好ましくは0〜0.3g/10分である。本発明におけるMFRはJIS K 7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件下での測定値をさす。MFRが前記範囲であれば、前記ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体((a1)成分)との混合樹脂中のビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体またはその水素添加誘導体が構成する分散粒子のアスペクト比(分散粒子の直径の長短軸比)が小さくなるため、後に詳細に説明する延伸時の多孔性が良好となるため好ましい。
【0038】
前記ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体の流動開始温度は、特に限定されるものでは無いが、250℃以上400℃以下であることが好ましい。本発明における流動開始温度はJIS K 7210に準拠し、40kgfの荷重下で測定対象の樹脂を3℃/分で昇温し、直径1mm、長さ20mmの細管から押出し、樹脂が細管から押出され始める温度をさす。流動開始温度が前記範囲内であれば、前記(a1)成分との混合樹脂中の(a2)成分の分散粒子のアスペクト比(分散粒子の直径の長短軸比)が小さくなるため、後に詳細に説明する延伸時の多孔性が良好となるため好ましい。
【0039】
またA層においては、前記の化合物以外に、必要に応じて触媒中和剤として金属石鹸や合成ハイドロタルサイト系化合物、酸化防止剤として一般に市販されているフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、帯電防止剤として多価アルコール脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、直鎖アルキルアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン系化合物などから選ばれた一種以上からなる化合物、ヒンダードアミン系光安定剤、耐候剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、他の透明核剤を添加することができる。
【0040】
またA層においては、多孔性フィルムの特性を損なわない範囲で他の添加剤または他の成分を含んでいてもよい。前記添加剤としては、特に制限を受けないが、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭化カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、帯電防止剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロック剤、スリップ剤、又は着色剤などの添加剤が挙げられる。
【0041】
ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物が、ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体である(a1)成分と、ビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体、またはその水素添加誘導体である(a2)成分との混合物樹脂組成物をポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物として用いる場合、前記(a1)成分と前記(a2)成分との割合が、質量比で(a1)/(a2)=55/45〜90/10が好ましい。かかる範囲内であれば、少なくとも1方向に延伸した場合の延伸性と延伸時の多孔性付与の効果が十分となる。少なくとも1方向に延伸した場合の延伸性と延伸時の多孔性付与の点からは、前記(a1)成分と前記(a2)成分との割合は質量比で(a1)/(a2)=55/45〜70/30がより好ましく、55/45〜65/35が更に好ましい。一方で、得られる多孔性フィルムの機械物性の点からは、前記(a1)成分と前記(a2)成分との割合は質量比で(a1)/(a2)=70/30〜90/10がより好ましく、80/20〜90/10が更に好ましい。
【0042】
[多孔性フィルムの積層構成]
本発明の多孔性フィルムは、単層、積層と特に限定されるものではないが、必要に応じてA層と、A層とは異なる機能を持つ層(B層)とが積層されていることが好ましい。
ここで、多孔性フィルムの積層構成について説明する。最も単純な構成がA層とB層との2層構造、次に単純な構成が両外層と中層との2種3層構成であり、これらがより好ましい構成である。2種3層の形態の場合、A層/B層/A層であってもB層/A層/B層であっても構わない。またB層/A層/B層/A層/B層のような、2種5層の積層構造とすることもできる。層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。
中でも、B層/A層/B層の2種3層構成は、得られる多孔性フィルムのカール度合いや表面平滑性が良好だけでなく、製造において延伸加工性が優れているため、更に好ましい。
【0043】
A層とB層との積層比は、用途、目的に応じて適宜調整することができ、特に制約を受けるわけではないが、B層(2層以上ある場合はその厚みの合計)/A層(2層以上ある場合はその厚みの合計)の値は1〜10が好ましく、1〜8がより好ましい。かかる範囲であれば、十分な透気特性を確保することが可能である。
【0044】
また必要に応じて、A層、B層とは他の機能を持つ層と組み合わせて3種3層の様な形態も可能である。A層、B層とは異なる他の層を積層して、適宜処理を施すなどしても良い。
A層及びB層以外の他の層が存在する場合、当該他の層はA層とB層との関係が前述した関係からはずれないように設ける必要がある。他の層の厚みの合計が全体の厚み1に対して0.1〜0.5、好ましくは0.1〜0.3となるようにすることが好ましい。
【0045】
[B層]
次に本発明におけるB層について説明する。本発明におけるB層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする層であることが好ましい。
【0046】
(ポリプロピレン系樹脂)
本発明におけるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどのα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、電池用セパレータに用いる場合には機械的強度の観点からホモポリプロピレンがより好適に使用される。
【0047】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率が80〜99%であることが好ましく、より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%であるものを使用する。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎると、多孔性フィルムの機械的強度が低下する恐れがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合においてはこの限りではない。
アイソタクチックペンタッド分率とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素―炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et at al.(Macromol.8,687(1975)に準拠している。
【0048】
また、ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが1.5〜10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0〜8.0、更に好ましくは2.0〜6.0であるものが使用される。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが1.5未満であると押出成形性が低下する等の問題が生じるほか、工業的に生産することも困難である場合が多い。一方Mw/Mnが10.0を超えた場合は低分子量成分が多くなり、得られる多孔性フィルムの機械強度が低下しやすい。Mw/MnはGPC(ゲルパーエミッションクロマトグラフィー)法によって得られる。
【0049】
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.5〜15g/10分であることが好ましく、1.0〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.5g/10分未満では、成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く生産性が低下する。一方、15g/10分を超えると得られる多孔性フィルムの強度が不足するなどの実用上の問題が生じやすい。なお、MFRはJIS K 7210に準拠して温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定している。
【0050】
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」、「HMS−PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「バーシファイ」「インスパイア」(ダウケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
【0051】
(β活性)
本発明のB層はβ活性を有することが好ましい。
β活性は、延伸前の膜状物にβ晶を生成したことを示す1指標として捉えることができる。延伸前の膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細孔が形成されるため、透気特性を有する多孔性フィルムを得ることができる。
【0052】
前記β活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、多孔性フィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断している。
具体的には、示差走査型熱量計で多孔性フィルムを25℃から240℃まで走査温度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで走査速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで走査速度10℃/分で再昇温させた際に、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β活性を有すると判断している。
【0053】
また、前記のβ活性度は、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で算出している。
β活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ホモポリプロピレンの場合は、主に145以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上175℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばエチレンが1〜4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合には、主に120℃以上140℃未満で検出されているβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
【0054】
前記のβ活性度は大きい方が好ましく、具体的にはβ活性度は20%以上であることが好ましく、40%以上であることが更に好ましく、特に好ましいのは60%以上である。β活性度が20%以上であれば、延伸前の膜状物中においてもポリプロピレン系樹脂組成物のβ晶が多く生成させることができることを示し、延伸により微細且つ均一な孔が多く形成され、結果として機械的強度が高く、透気特性に優れた多孔性フィルムとすることができる。
β活性度の上限値は特に限定されないが、β活性度が高いほど前記効果より有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
【0055】
前述のβ活性を得る方法としては、溶融状態のポリプロピレン系樹脂を高ドラフトで成形する方法や、ポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進される物質を添加しない方法や、特許3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレン系樹脂を添加する方法、及び樹脂組成物中にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。中でも、前記樹脂組成物中にβ晶核剤を添加してβ活性を得ることが好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進することができ、β活性を有する層を備えた多孔性フィルムを得ることができる。
【0056】
(β晶核剤)
次に本発明で用いるβ晶核剤について説明する。β晶核剤はポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成・成長を増加させるものであれば特に制限される訳ではなく、また2種類以上を混合して用いることもできる。
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンセンスルホン酸ナトリウムもしくはナフラレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分bとからなる二成分化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
【0057】
好ましいβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU−100」、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B−022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)−PP BE60−7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP−LN」などが挙げられる。そのほかの核剤の具体的な種類については、特開2003−306585号公報、特開平06−289566号公報、特開平09−194650号公報に記載されている。
【0058】
本発明において、β晶核剤は、ポリプロピレン系樹脂に配合していることが好ましい。前記ポリプロピレン系樹脂に添加するβ晶核剤の割合は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することが必要であるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対し、β晶核剤0.0001〜5.0質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜3質量部であり、更に好ましくは0.1〜3質量部である。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成・成長させることができ、延伸により所望の透気特性が得られる。また5.0質量部以下であれば、経済的にも有利になるほか、β晶核剤のブリードアウトによるトラブルが発生しにくいため好ましい。
【0059】
本実施形態に用いられるポリプロピレン系樹脂組成物には、本発明の主旨を超えない範囲で帯電防止性、耐熱性、滑り性、力学特性等の諸物性を更に調整、向上させる目的で必要に応じて各種添加剤を適宜配合することができる。
【0060】
ここで、各種添加剤としては、例えば通常のポリオレフィンに使用される酸化防止剤、中和剤、紫外線吸収剤、防曇剤や帯電防止等の界面活性剤、滑剤、アンチブロッキング剤、抗菌剤、顔料等が挙げられ、本発明の主旨を越えなければ特に限定されるものではない。
【0061】
[多孔性フィルムの形態及び物性]
本発明の多孔性フィルムの形態としては、平面状、チューブ状の何れであっても良いが、製品として数丁取りが可能であることが生産性の観点から好ましく、更に内面コードなどの処理を施すのに簡便なことから平面状がより好ましい。
本発明の多孔性フィルムの厚みは1〜500μmが好ましく、より好ましくは5〜300μm、更に好ましくは5〜100μm、特に好ましくは7〜50μm、最も好ましくは10〜40μmである。厚みが1μm以上であれば、実質的に十分な透気特性を得ることができ、機械強度の観点においても問題とならないため好ましい。また、厚みが500μm以下であれば、実質的に十分な機械強度を得ることができ、透気特性の観点においても問題とならないため好ましい。
【0062】
また、本発明の多孔性フィルムは厚み方向に連通性を有する微細孔が多数存在し、優れた透気特性を有することも特徴である。
その指標として、本発明の多孔性フィルムを電池用セパレータ用途に用いる場合には、25℃での透気度は5〜3000秒/100mlが好ましい。
前記透気度の上限については、3000秒/100ml以下が好ましく、2000秒/100ml以下がより好ましく、1000秒/100ml以下が更に好ましく、500秒/100ml以下が特に好ましい。すなわち、前記透気度が3000秒/100ml以下であれば、連通性を有し、十分な透気特性を有することが示唆されるので、電池用セパレータとして使用する場合、室温使用時においてイオン伝達性を確保し、十分な電池特性を得ることができる。
一方、前記透気度の下限については特に限定しないが、5秒/100ml以上が好ましく、より好ましくは20秒/100ml以上であり、更に好ましくは50秒/100ml以上である。前記透気度が5秒/100ml以上であれば、孔径が適度に小さく、機械強度を十分に高く維持でき、電池用セパレータとして使用する場合、内部短絡等のトラブルを回避することができる。
透気度は多孔性フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には、100mlの空気が当該多孔性フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜けやすく、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が多孔性フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が多孔性フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは多孔性フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。本発明の透気度が低いということは、電池用セパレータとして使用する場合、イオンの移動が容易であることを意味し、電気特性に優れるため好ましい。なお、透気度は実施例に記載の方法で測定している。
【0063】
本発明の多孔性フィルムにおいては空孔率が5〜80%であることが好ましく、より好ましくは20〜70%である。空孔率は多孔構造を規定するための重要なファクターである。空孔率が5%未満であれば実質的に連通性を得ることは困難である。また空孔率が80%よりも大きければ、フィルムの機械的強度が弱くなるなどの点からハンドリングが難しくなってしまうので好ましくない。なお、空孔率は実施例の方法で測定している。
【0064】
本発明の多孔性フィルムは、優れたブレイクダウン特性を有することも特徴である。本発明におけるブレイクダウンとは、例えば本発明の多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた電池が蓄熱はたま発熱し電池用セパレータが高温化に晒された際に、該電池用セパレータが破膜し、正極と負極が接触してしまう現象である。ブレイクダウン特性とは、高温(200℃以上)の状態となった場合でも、フィルムが破膜せず、正極と負極を隔てるという機能である。そのため電池用セパレータとして仕様する場合にはこのブレイクダウン特性を具備していることが好ましく、ブレイクダウン温度はより高い温度であることが好ましい。ここでブレイクダウン温度とは、実際に記載の方法で加熱したときに本発明の多孔性フィルムが破膜する温度のうち最も低い温度をいう。本発明の多孔性フィルムのブレイクダウン温度は200℃以上である。ブレイクダウン温度が200℃以上であれば、例えば本発明の多孔性フィルムを電池用セパレータとして用いた電池が蓄熱または発熱し、電池用セパレータが高温下に晒された場合でも該電池用セパレータは破膜せず、正極と負極の直接接触を防げるため、電池の爆発・炎上等が起こり難く、極めて安全性に優れる。より好ましくは220℃以上、更に好ましくは250℃以上である。ブレイクダウン温度の上限は特に制限されるものではないが、原材料の加工温度などの関係から400℃程度である。
【0065】
[多孔性フィルムの製造方法]
次に本発明の多孔性フィルムの製造方法について説明するが、本発明は係る製造方法により製造される多孔性フィルムのみに限定されるものではない。
本発明の多孔性フィルムの製造方法について、A層とB層とを積層させる場合は、多孔化と積層の順序によって次の3つに大別される。
(a)A層の多孔性フィルムとB層の多孔フィルムを作製し、ついで少なくともA層の多孔性フィルムとB層の多孔性フィルムを積層する方法。
(b)A層とB層の積層無孔膜状物を作成し、ついで該無孔膜状物を多孔化する方法。
(c)A層とB層の2層のうちいずれか1層を多孔化したのち、もう1層の無孔膜状物と積層し、多孔化する方法。
【0066】
前記(a)の方法としては、A層の多孔性フィルムとB層の多孔性フィルムを熱ラミネートする方法や接着剤等で積層化する方法が挙げられる。
前記(b)の方法としては、A層の無孔膜状物とB層の無孔膜状物をそれぞれ作製し、A層の無孔膜状物とB層の無孔膜状物を熱ラミネートや接着剤等で積層化した後に多孔化する方法、または共押出でA層とB層を少なくとも有する積層無孔膜状物を作製した後、多孔化する方法などが挙げられる。
前記(c)の方法としては、A層の多孔性フィルムとB層の無孔膜状物、またはA層の無孔膜状物とB層を熱ラミネート、接着剤、塗布等で積層化する方法が挙げられる。
本発明において、その工程の簡便さ、生産性の観点から(b)の方法が好ましく、共押出を用いる方法がより好ましい。
【0067】
本発明の多孔性フィルムの製造方法は、前記分類とは別にA層の多孔化方法により分類することができる。
すなわちB層にβ活性を有させる場合、延伸することによって微細孔を容易に形成することができる。一方、A層を多孔化する方法としては、例えば延伸法、相分離法、抽出法、化学処理法、照射エッチング法、発泡法またはこれらの技術の組み合わせなど公知の方法を用いることができる。中でも本発明においては延伸法を用いることが好ましい。
【0068】
本発明の多孔性フィルムの好ましい形態としては、ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とするA層と、β活性を有するポリプロピレン系樹脂を主成分とするB層とを有する積層無孔膜状物を作製する。続いて当該積層無孔膜状物を延伸することによって、厚み方向に連通性を有する微細孔を多数形成させることを特徴とする製造方法が挙げられる。
【0069】
前記積層無孔膜状物の作製方法は特に限定されず公知の方法を用いてよいが、例えば押出機を用いて前記樹脂組成物を溶融し、Tダイから押出し、キャストロールで冷却固化するという方法が挙げられる。またチューブラー法により製造したフィルムを切り開いて平面状とする方法も適用できる。
前記積層無孔膜状物の延伸方法については、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法、同時二軸延伸や逐次二軸延伸などの二軸延伸法などの手法があり、これらを単独あるいは2つ以上組み合わせて二軸延伸を行う。
【0070】
より好ましい態様としては、A層を形成するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物と、B層を形成するポリプロピレン系樹脂を用い、Tダイから共押出により2種3層構成の積層無孔膜状物を作製し、前記積層無孔膜状物を2軸延伸することによって、多孔化する製造方法が挙げられる。
【0071】
具体的には、まずA層、B層を構成するそれぞれの樹脂組成物をヘンシェルミキサー、スーパーヘンシェルミキサー、またはタンブラー型ミキサーなどを用いて混合した後、単軸押出機あるいは二軸押出機、ニーダー等で溶融混練後ペレット化する。A層を構成する樹脂組成物はポリ4−メチル−1―ペンテン重合体系樹脂組成物を含有し、B層を構成する樹脂組成物は少なくともポリプロピレン系樹脂を含有し、所望によりβ晶核剤を添加することが好ましい。
【0072】
次に、得られた樹脂組成物のペレットを押出機に投入し、共押出方式Tダイから溶融押出する。使用するTダイの種類としては、2種3層用マルチタイプや2種3層フィードブロックタイプが挙げられる。
使用するTダイのギャップは、最終的に必要な多孔性フィルムの膜厚、延伸条件、ドラフト率などの各種条件等から決定されるが、一般的には0.1〜3.0mm程度が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。ギャップが0.1mm以上とすることで、より十分な生産速度を確保することができる。一方、3.0mm以下とすることで、より十分な生産安定性を確保することができる。
【0073】
押出成形において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、概ね180〜300℃が好ましく、200〜280℃の範囲であることがより好ましい。押出加工温度が180℃以上の場合、溶融樹脂の粘度が十分に低く溶融押出時の背圧が高くなることがなく成形性に優れるため好ましい。一方300℃以下にすることにより、樹脂組成物の劣化ひいては多孔性フィルムの機械強度の低下を抑制できるため好ましい。
キャストロールの冷却固化温度は、好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。冷却固化温度を80℃以上とすることで冷却固化させたB層中のβ晶の比率を十分に増加させることができるため好ましい。また、150℃以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻きついてしまうなどのトラブルが起こり難く、効率よく製膜することが可能であるため好ましい。
【0074】
前記温度範囲にキャストロールを設定することで、延伸前のB層のβ晶比率は30〜100%に調節することが好ましく、40〜100%がより好ましく、50〜100%が更に好ましく、60〜100%が特に好ましい。延伸前のB層中のポリプロピレン系樹脂のβ晶比率を30%以上とすることで、その後の延伸操作により多孔化が行われやすく、透気特性の良い多孔性フィルムを得ることができる。
延伸前のB層中のβ晶比率は、示差走査型熱量計を用いて、当該B層を25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温させた際に、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式により算出される。
β晶比率(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
【0075】
続いて、得られた無孔膜状物を少なくとも1方向に延伸する。延伸方法は一軸延伸法であってもよいし、二軸延伸法であっても良い。一軸延伸法は縦一軸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸法は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。なかでも、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御しやすい逐次二軸延伸がより好ましい。なお、膜状物の引き取り(流れ)方向への延伸を「縦延伸」といい、その直角方向への延伸を「横延伸」という。
【0076】
一軸延伸法を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化温度などによって適宜選択する必要があるが、延伸温度は概ね10〜130℃が好ましく、より好ましくは15〜125℃である。また延伸倍率は好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜8倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで延伸時の破断を制御しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
【0077】
逐次二軸延伸法を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化温度等によって適宜選択する必要があるが、多孔構造の制御が比較的容易なことや、機械強度は収縮率などの他の諸物性とのバランスをとることが可能となるため好ましい。
縦延伸での延伸温度は概ね10〜130℃が好ましく、より好ましくは15〜125℃である。また、縦延伸倍率は好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜8倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を制御しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
横延伸での延伸温度は概ね90〜150℃が好ましく、より好ましくは95〜130℃、更に好ましくは100℃〜125℃である。また、横延伸倍率は好ましくは1.5〜3倍、より好ましくは1.8〜2.5倍、更に好ましくは1.8〜2.3倍である。前記範囲内で横延伸を行うことで、縦延伸により形成された空孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができる。
また、延伸工程の延伸速度としては、500〜12000%/分が好ましく、750〜10000%/分がより好ましく、1000〜80000%/分が更に好ましい。前記範囲内の延伸速度で延伸することによって、大きな欠陥構造のような空孔が形成されることなく、微細な多孔構造を発現させることができる。
【0078】
このようにして得られた多孔性フィルムは、寸法安定性の改良などを目的として好ましくは100〜150℃程度、より好ましくは110〜140℃程度の温度で熱処理を行うのが良い。なお、熱処理工程中には、必要に応じて1〜30%の弛緩処理を施しても良い。当該熱処理後は均一に冷却して巻き取ることによって、本発明の多孔性フィルムが得られる。
【0079】
[電池用セパレータ]
次に、本発明の前記多孔性フィルムを電池用セパレータとして収容している非水電解液電池について、図1に参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極は電池用セパレータ10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、電池用セパレータ10は厚みが5〜40μmであることがなかでも好ましく、5〜30μmであることが特に好ましい。厚みを5μm以上にすることにより電池用セパレータが破れにくくなり、40μm以下にすることにより所定の電池缶に捲回して収納する際電池面積を大きくとることができ、ひいては電池容量を大きくすることができる。
【0080】
前記正極板21、電池用セパレータ10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、前記電解質を電池缶内に注入し、電池用セパレータ10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池を作製している。
【0081】
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
【0082】
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
【0083】
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
【0084】
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
【0085】
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。すなわち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
【実施例】
【0086】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の多孔性フィルムについてさらに詳しく説明するが、本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、本明細書中に表示される多孔性フィルムについての種々の測定値および評価は次のようにして行った。ここで、多孔性フィルムの押出機からの引き取り(流れ)方向を縦方向、その直交方向を横方向とよぶ。
【0087】
(1)動的粘弾性測定
多孔化させる前の積層無孔膜状物から表裏面を剥離させ、実質A層のみのサンプルを作製し、JIS K−7198 A法に記載の動的粘弾性測定法により、岩本製作所(株)製粘弾性スペクトロメーター「VES−F3」を用い、振動周波数10Hz、歪み0.1%にて、昇温速度=3℃/分で、−100℃〜250℃まで測定し、得られた損失正接(tanδ)のピーク温度を測定した。
【0088】
(2)厚み
得られた多孔性フィルムを1/1000mmのダイヤルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0089】
(3)空孔率
得られた多孔性フィルムの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0−W1)/W0}×100
【0090】
(4)透気度(ガーレー値)
得られた多孔性フィルムから直径φ40mmの大きさでサンプルを切り出し、JIS P 8117に準拠して透気度(秒/100ml)を測定した。
【0091】
(5)ブレイクダウン特性
得られた多孔性フィルムを、縦60mm×横60mm角に切り出し、図2(A)に示すように、中央部に40mmφの円状の穴を空けたアルミ板(材質:JIS規格A5052、サイズ:縦40mm、横60mm、厚み1mm)2枚の間に挟み、図2(B)に示すように周囲をクリップ(KOKUYO社製、ダブルクリップ「クリーJ35」で拘束した。
アルミ板2枚で拘束した状態のフィルムを150℃以上の5℃刻みの各温度(150℃、155℃、160℃、165℃、・・・)に設定したオーブン(タバイエスペック社製、タバイギヤオーブン「GPH200」、ダンパー閉状態)に入れ、オーブン内温度を各温度に達してから、3分間保持した後、直ちに取り出し、フィルムの状態を確認して形状保持特性を観察し、破膜が認められた温度をブレイクダウン温度とした。
なお、フィルム片が60mm×60mm角に切り出せない場合は、中央部の400mmφの円状の穴にフィルムが設定されるように調整し、試料を作成しても構わない。
【0092】
更に、得られた多孔性フィルムについて次のようにしてβ活性の評価を行った。
(6)示差走査型熱量測定(DSC)
得られた多孔性フィルムをパーキンエルマー社製の示差走査型熱量計(DSC−7)をもちいて、25℃から240℃まで走査速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃〜25℃まで走査速度10℃/分で降温後1分間保持し、次に25℃から240℃まで走査速度10℃/分で再昇温させた。この再昇温時にポリプロピレンのβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)である145〜160℃にピークが検出されるか否かによりβ活性の有無をいかの基準にて評価した。
○:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出された場合(β活性あり)
×:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出されなかった場合(β活性なし)
なお、β活性の測定は、試料量10mgで、窒素雰囲気下にて行った。
【0093】
(7)広角X線回折測定(XRD)
前記シャットダウン特性の測定の場合と同様に、多孔性フィルムを縦60mm×横60mm角に切り出し、図2(A)(B)に示すように固定した。
アルミ板2枚に拘束した状態の多孔性フィルムを設定温度180℃、表示温度180℃である送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、型式:DKN602)に入れ3分間保持した後、設定温度を100℃に変更し、10分以上の時間をかけて100℃まで徐冷を行った。表示温度が100℃になった時点で多孔性フィルムを取り出し、アルミ板2枚に拘束した状態のまま25℃の雰囲気下で5分間冷却して得られた多孔性フィルムについて、以下の測定条件で、中央部の40mmφの円状の部分について広角X線回折測定を行った。
・広角X線回折測定装置:マックサイエンス社製、型番:XMP18A
・X線源:CuKα線、出力:40kV、200mA
・走査方法:2θ/θスキャン、2θ範囲:5°〜25°、走査間隔:0.05°、走査速度:5°/min
得られた回折プロファイルについて、ポリプロピレンのβ晶の(300)面に由来するピークより、β活性の有無を以下のように評価した。
○:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出された場合(β活性あり)
×:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出されなかった場合(β活性なし)
なお、多孔性フィルム片が60mm×60mm角に切り出せない場合は、中央部に40mmφの円状の穴に多孔性フィルムが設置されるように調整し、試料として作成しても構わない。
【0094】
(実施例1)
A層を構成するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物について、(a1)成分として、ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体(TPX)(三井化学社製、TPX RT18、MFR:21g/10分[260℃、5kg荷重])60質量部に、(a2)成分として、結晶性オレフィン−エチレン・ブテン−結晶性オレフィンブロック共重合体(CEBC)(JSR社製、DYNARON6200P、MFR=2.5[230℃、2.16kg荷重])40質量部、及びマイクロクリスタリンワックス(日本精蝋社製、Hi−Mic1080)10質量部を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて270℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物A1を得た。なお、A層における損失正接のピーク温度は、−46℃、42℃であった。
また、B層を構成する樹脂組成物について、ポリプロピレン系樹脂(プライムポリマー社製、プライムポリプロ F300SV、MFR:3g/10分)100質量部に対し、β晶核剤として、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン0.3質量部を加え、東芝機械株式会社製の同方向二軸押出機(口径φ40mm、L/D=32)を用いて280℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B1を得た。
樹脂組成物A1およびB1を別々の押出機にてA1側の押出機は200℃、B1側の押出機は255℃で押出し、2種3層のフィードブロックを通じて多層成型用のTダイより255℃で押出し、延伸後の層比がB1/A1/B1=3/1/3となるように積層させた後、125℃のキャスティングロールで冷却固化させて、厚さ110μmの積層無孔膜状物1を得た。
前記積層無孔状物1をロール延伸機にて10℃〜120℃で縦方向に3.8倍となるように延伸した後、テンター延伸機にて横方向に100℃で2.0倍に逐次二軸延伸をして多孔性フィルムを得た。
得られた多孔性フィルムの諸物性及び評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0095】
(実施例2)
A層を構成する(a2)成分をスチレン−ブタジエン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物(SEBS)(クラレ社製、SEPTON 8006、数平均分子量200,000、スチレン含有量33%、水素添加率95%以上)とした以外は、実施例1と同様の方法にて樹脂組成物A2を作製し、厚さ110μmの積層無孔膜状物2を得た。なお、A層における損失正接のピーク温度は、−54℃、42℃であった。
得られた積層無孔膜状物2をロール延伸機での縦方向の延伸倍率を2.6倍とした以外は実施例1と同様の条件で多孔性フィルムを得た。
得られた多孔性フィルムの諸物性及び評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0096】
(実施例3)
A層を構成する混合樹脂組成物について、前記TPXを70質量部、前記SEBSを30質量部とした以外は、実施例2と同様の方法にて樹脂組成物A3を作製し、厚さ110μmの積層無孔膜状物3を得た。なお、A層における損失正接のピーク温度は、−54℃、42℃であった。
得られた積層無孔膜状物3をロール延伸機での縦方向の延伸倍率を3.0倍とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの諸物性及び評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0097】
(実施例4)
実施例3と同様の方法にて厚さ110μmの積層無孔膜状物3を作製し、得られた積層無孔膜状物3をロール延伸機にて10℃〜120℃で縦方向に3.0倍となるように延伸した後、105℃に温調したφ200mmのロール2本で熱処理を施し、多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの諸物性及び評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0098】
(実施例5)
A層を構成する混合樹脂組成物について、前記TPXを75質量部、前記CEBCを25質量部とし、マイクロクリスタリンワックス(日本精蝋社製、Hi−Mic1080)を添加しない以外は実施例1と同様の方法にて樹脂組成物A4を作製し、厚さ105μmの積層無孔膜状物4を得た。なお、A層における損失正接のピーク温度は、−46℃、42℃であった。
得られた積層無孔膜状物4をロール延伸機での縦方向の延伸倍率2.6倍とし、テンター延伸機での横方向の延伸倍率を2.5倍とした以外は実施例1と同様の方法で多孔性フィルムを得た。得られた多孔性フィルムの諸物性及び評価を行い、その結果を表1にまとめた。
【0099】
(比較例1)
A層を構成する混合樹脂組成物について、前記TPXのみとした以外は実施例1と同様の方法にて、厚さ110μmの積層無孔膜状物5を得た。なお、A層における損失正接のピーク温度は存在しなかった。
得られた積層無孔膜状物5から実施例1と同様の条件で多孔性フィルムを得ようとした。しかし、積層無孔膜状物5を横方向に延伸する際に破断してしまい、多孔性フィルムを得ることができなかった。
【0100】
(比較例2)
実施例1にて、A層を構成する樹脂組成物を前記樹脂組成物B1とし、実質的に樹脂組成物B1単層となるように厚さ180μmの積層無孔膜状物7を得た。得られた積層無孔膜状物6をロール延伸機にて10℃〜85℃で縦方向に4.0倍となるように延伸した後、テンター延伸機にて横方向に140℃で5.0倍に逐次二軸延伸をして多孔性フィルムを得た。
【0101】
【表1】

【0102】
表1より、本発明で規定する多孔性フィルムは、透気特性が良好な多孔性フィルムであることがわかり、ブレイクダウン温度も200℃以上であることから、優れたブレイクダウン特性を有することがわかった。
これに対して、比較例1のようにA層を構成するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物が動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に存在しない場合には、延伸時にフィルムが破断してしまい、多孔性フィルムを得ることができなかった。
また比較例2のように、ポリ−4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とするA層を含まない場合には、透気特性が良好な多孔性フィルムとなるが、ブレイクダウン温度が190℃となり、十分なブレイクダウン特性を具備していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の多孔性フィルムは、優れた透気特性を有し、かつ十分なブレイクダウン特性を具備しているため、電池用セパレータとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0104】
10 電池用セパレータ
20 非水電解液電池
21 正極板
22 負極板
24 正極リード体
25 負極リード体
26 ガスケット
27 正極蓋
31 アルミ板
32 フィルム
33 クリップ
34 フィルム縦方向
35 フィルム横方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的粘弾性測定により周波数10Hzで測定した損失正接のピーク温度が−100〜20℃の間に少なくとも1つ存在するポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物を主成分とする層(A層)を有しており、
当該ポリ4−メチル−1−ペンテン重合体系樹脂組成物が、ポリ4−メチル−1−ペンテン系重合体である(a1)成分と、軟質成分として、ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体である(a2)成分とを含む樹脂組成物であり、
少なくとも1方向に延伸されてなることを特徴とする多孔性フィルム。
【請求項2】
前記(a2)成分が、スチレン−ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体であり、スチレン含有量が1質量%〜50質量%であることを特徴とする請求項1に記載の多孔性フィルム。
【請求項3】
前記(a1)成分と前記(a2)成分との割合が、質量比で(a1)/(a2)=55/45〜90/10であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔性フィルム。
【請求項4】
ポリプロピレン系樹脂を主成分とする層(B層)を更に有し、かつβ活性を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔性フィルム。
【請求項5】
前記B層に、β晶核剤が含まれていることを特徴とする請求項4に記載の多孔性フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔性フィルムからなることを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の電池用セパレータが組み込まれていることを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−92302(P2012−92302A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196848(P2011−196848)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】