説明

多孔質体

本発明は、40〜70%の密度を有し、Fe基合金から成り、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる一又は複数の金属の少なくとも1つの酸化物化合物とTi、Al及びCrからなる群から選ばれる一又は複数の金属の少なくとも1つの他の酸化物化合物とから成る0.01〜2重量%の混合酸化物を含む多孔質体に関する。この多孔質体は、900℃の使用温度においても後収縮を示さず、更に、並外れて高い耐食性を特徴としており、高温燃料電池で利用するための支持基体として特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理論密度の40〜70%の密度を有し、開放空孔構造が優勢であり、Fe基合金の焼結粒子を含有して成る、多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
このような多孔質体は、高温燃料電池(SOFC;固体酸化物電解質型燃料電池)において支持基体として使用される。これらの燃料電池は、約650〜900℃の温度において、作動される。というのは、このような温度において始めて効率的発電のための熱力学的条件が支配的になるからである。プレーナ形SOFCシステムでは、陰極と固体電解質と陽極とで構成される個々の電気化学電池が積重ねられてスタックとされ、金属要素、即ち、インターコネクタ、バイポーラプレート又は集電体によって結合される。これらの金属要素は、特殊な特性を有していなければならない。即ち、その熱膨張は、電池材料の熱膨張に極力良好に適合していなければならない。更に、陽極ガス及び陰極ガスに対して高い耐食性を有していなければならない。形成される腐食生成物が良好な電子伝導率を有しなければならない。インターコネクタは、陽極と陰極とを連絡させるので、両方のガス空間を分離する機能をも有し、それ故に完全に気密でなければならない。
【0003】
インターコネクタ要素による陽極側及び陰極側での接触が良好であれば良好であるほど、オーム抵抗は一層小さくなり、プレーナ形SOFCシステムの場合には、直列接続によって特別顕著となる。インターコネクタ要素の接触問題に一層良好に対処するために、セラミック系の、通常はペロブスカイトの、接触片の適用と共に、新たなプレーナ形SOFCデザインが開発され、最近ではいわゆるMSC(金属に支持された電池)コンセプトも開発された。例えば、圧密材料から成る従来のインターコネクタ要素の中に支持基体として多孔質体が挿入又は溶接され、この支持基体上に、例えば高速火炎溶射、プラズマ溶射、スラリー噴霧等の被覆法により、電池材料が、通常、陽極層から始めて、直接塗布される。このようにして実現された電極とインターコネクタ要素との直接的結合によって、マイクロ尺度で区分された非常に均一な接触が可能となり、また、電極に対する非常に均一なガス供給も可能となる。この後者は、従来のプレーナ形SOFC燃料電池では、稠密なインターコネクタ要素の表面に複雑な過程により切削された微視的ガス通路によって達成されることが多かった。更に、電池材料は、自己支持性要素ではないので、多孔質支持基体の使用によって著しく薄くすることができる。これにより、材料を節約できるばかりではなく、熱力学的理由から、SOFCシステムの作動温度を下げることができる。
【0004】
後者の良好なガス供給及び接触という利点は、同様に支持基体の高空孔率に帰すことのできる諸欠点と、直接向き合っている。SOFC特異性のガスと接触する支持基体の表面積は、高空孔率のせいで、極めて大きい。これは腐食の強まりをもたらすことがある。それに加えて、大きな表面積は、焼結プロセスにとって高い駆動力をも意味し、これにより作動中に多孔質支持板の収縮をもたらすことがある。表面積は、密度一定下に空孔径の減少に伴って、又は空孔率の増加に伴って、上昇する。
【0005】
MSC及びASC(陽極に支持されたセル)SOFCシステムで利用するうえで、多孔質金属支持材料を、これらはセラミック支持材料より安価で延性が大きく、それに加えて高い電子伝導率を有するので、従来のインターコネクタ要素と一緒に使用すると有利である。従来のインターコネクタに比べて、このような多孔質体を使用すると、多孔質体によってガス供給を行なうことができ、且つ、電池材料との接触が、著しく改善され、より均一化され、作動時間中、一定したレベルに保たれる、という利点がもたらされる。
【0006】
欧州特許第1455404号明細書、国際公開第02/101859A2号パンフレット、独国特許発明第10161538号明細書、欧州特許第1318560号明細書に記載されているような、不織布、織布、編布等の、市販の多孔質製品又はSOFC適用のために独自に開発された多孔質製品も、SOFCシステムの一般的な使用条件下で、即ち、腐食性雰囲気中、約650〜900℃の温度において、満足すべき耐食性を有し、セラミック電池材料に適合した熱膨張係数を有する。しかし、これらの多孔質支持基体上に、上記の被覆法により、電池材料又は他のセラミック保護層を塗布することは、十分に高い品質では、達成できないことが判明した。というのも、細い金属線材/金属繊維で構成される多孔質支持基体は均一な把持面を提供せず、それに加えて使用条件下で十分に高い機械的安定性が与えられていないからである。
【0007】
独国特許発明第10325862号明細書には最大クロム割合13%の金属支持基体が記載されている。文献(ヴェルナー・シャット(Werner Schatt)、「粉末冶金・焼結材料と複合材料(Pulvermetallurgie Sinter− und Verbundwerkstoffe)」、第3版、1988年、371頁)には、多孔質体の製造に関して、1,100〜1,250℃の焼結温度が報告されている。SOFCシステムにおける使用温度はFe−Cr材料の通常の焼結温度に達するので、圧縮され焼結された金属粉末から製造される市販の多孔質支持基体は、後焼結の傾向があり、このため、長い使用期間に亘って理論密度の70%以下の密度を有する多孔質材料を得ることはできない。望ましくない後焼結は、特にSOFCシステムの熱サイクル的作動様式の結果、析出された電池材料の不可逆的損傷に繋がる。空孔形成のために無機物質又は有機物質を添加しても、国際出願第01/49440号パンフレットで知られているように、上述の使用条件下で、Fe−Cr合金の後焼結を完全に防止することはできない。というのは、後焼結は、表面焼結メカニズム及び体積焼結メカニズムの双方によるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、Fe−Cr合金から成り、900℃までの使用温度で後焼結の傾向がなく、その上に、セラミック層及びサーメット層を良好に析出させることができ、さらに、高い耐食性と十分な機械的強度とを有する多孔質体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項記載の発明によって解決される。
請求項1:理論密度の40〜70%の密度を有し、開放空孔構造が優勢であり、50重量%を超えるFeを含有するFe基合金の焼結粒子を含有して成る、多孔質体であって、合金が、15〜35重量%のCr;0.01〜2重量%の、Ti、Zr、Hf、Mn、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる一又は複数の元素;0〜10重量%の、Mo及び/又はAl;0〜5重量%の、Ni、W、Nb及びTaからなる群から選ばれる一又は複数の金属;0.1〜1重量%のO;残部の、Fe及び不純物;から成り、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属と、Cr、Ti、Al及びMnからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属とが、混合酸化物を形成する多孔質体。
請求項15:多孔質体を製造するための方法であって、少なくとも下記の工程を有することを特徴とする方法。
・元素粉末又は予備合金化粉末を用いた粉末混合物の製造。
・粉末混合物のメカニカルアロイイング。
・粉末混合物と結合剤との混合。ここで、結合剤の体積含有率は、焼結体の空孔容積に概ね一致する。
・1250℃〜1470℃の温度における保護ガス下の焼結。
請求項16:SOFCシステムにおける、本発明の多孔質体の、使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多孔質体は、理論密度の40〜70%の密度を有し、開放空孔構造が優勢であり、互いに十分に焼結された粉末粒子で構成されている。十分な焼結とは、個々の粒子の間に、1/5×粒子直径を超える、好ましくは1/3×粒子直径を超える、直径を有する焼結ネックが生じることである。合金は15〜35重量%のCr、0.01〜2重量%の、Ti、Zr、Hf、Mn、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる一又は複数の元素、0〜10重量%の、Mo及び/又はAl、0〜5重量%の、Ni、W、Nb及びTaからなる群から選ばれる一又は複数の金属、0.1〜1重量%のO、並びに残部の、Fe及び鋼にとって典型的な不純物とから成る。各合金元素の下限値及び上限値の理由は、次掲の表1に明示されている。
【0011】
合金は、表面上、炭素を含まないが、製造技術上、約50〜1,000μg/gの炭素含有量を生じる。更に、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属とCr、Ti、Al、Mnからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属とが混合酸化物を形成する。好ましい混合酸化物含有率は、0.01〜2重量%である。それに加えて、多孔質体は、0.01〜1.5重量%の、Y、Sc、希土類金属、Ti及びAlからなる群から選ばれる金属の一又は複数の酸化物を含むことができる。発明上重要な混合酸化物は、メカニカルアロイイング粉末と1,250℃〜1,470℃の焼結温度とを採用したときに得られる。ところで、この混合酸化物の形成時に焼結能力が著しく低下することが、判明した。従って、フィッシャー法により求めた代表的平均粒径5〜50μmの比較的微粒な粉末を使用して0.98×TS(TS…固相線温度)までの相応する温度において多孔質構造体を製造することが可能である。焼結の際の体積収縮率は、5%以下である。このような多孔質構造体は、焼結温度と比較して相当低い使用温度において、実質的に、収縮しない。900℃/10hでは、収縮率は確実に1%未満である。
【0012】
【表1】

【0013】
更に、混合酸化物の作用は、焼結粒子表面の1〜95%が混合酸化物で覆われているときに、特別顕著であることが判明した。混合酸化物は、分離粒子として存在してもよく、粒子表面を覆う層として存在することもできる。好ましくは、多孔質体は、0.01〜2重量%の、Y−Ti、Y−Al及び/又はY−Al−Ti混合酸化物を含む。更に、合金が、0.01〜1.5重量%のY23、0.5〜5重量%のMo、及び0.1〜1重量%のTiを、含むと有利であることが見出された。好ましい実施態様において、空孔径は10〜30μmである。それに加えて、本発明に係る合金は、陰極ガス及び陽極ガスによる腐食に対する、並外れて高い耐久性で特徴付けられる。
【0014】
多孔質体の製造には、元素粉末又は予備合金粉末の、粉末混合物が使用される。好ましくは、粉末混合物がメカニカルアロイイングされる。メカニカルアロイイングは、高エネルギーミル内で、好ましくはアトライター内で、行なわれる。典型的粉砕時間は、10〜30hの範囲内を変動する。引き続き、結合剤体積含有率が焼結体の空孔容積に概ね一致するように、粉末混合物が有機結合剤と混合される。焼結は、1,250℃〜1,470℃において、保護ガスのもとで行なわれる。多孔質体は、200μm〜20mmの、好ましくは500〜3,000μmの、厚さを有する。幾何学的に複雑な構造体も使用することができる。この多孔質体上に、保護層及び活性セラミック層又はサーメット状層を、市販のワイヤ不織布、ワイヤ織布、ワイヤ編布と比較して、ごく良好に析出させることができる。それ故に、この多孔質体は、SOFCシステムにおいて支持基体として利用するのに特別良好に適している。
【実施例】
【0015】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明する。
(実施例1)
多孔質体に対して、26重量%のCr、0.5重量%のY23、2重量%のMo、0.3重量%のMn、0.3重量%のTi及び0.03重量%のAlの組成を有する粉末混合物が、揺動回転型混合機内で均一化され、それに続いてアトライター内で、12時間保護ガスのもとで、メカニカルアロイイングされた。こうして得られた粉末が、36μm未満の粒度分級物に分級された。有機結合剤の添加後、500×300×0.65mmの寸法を有するグリーン体が成形された。結合剤の体積含有率は、多孔質体の所望の空孔率に、概ね一致した。焼結は、1,450℃において、水素下に行なわれ、測定された横方向焼結収縮率は、1%未満であった。焼結体は、密度が4.2g/cm3、平均空孔径が10μmであった。Al−Ti−Y含有混合酸化物は、表面分析とバルク分析との比較(図2、図3)から明らかとなるように、粒子表面で検出された。焼結された粒子の表面の約5%が混合酸化物で被覆されていた。
【0016】
(実施例2)
多孔質体に対して、18重量%のCr、0.5重量%のLa23、3重量%のNb、0.3重量%のMn、0.3重量%のZr及び0.03重量%のAlの組成を有する粉末混合物が、揺動回転型混合機内で均一化され、それに続いてアトライター内で15時間保護ガスのもとでメカニカルアロイイングされた。その他の処理が実施例1に従って行なわれたが、100μm未満の粒度分級物が分級された。焼結された物体は、密度が4.4g/cm3、平均空孔径が30μmであった。Al−Zr−La含有混合酸化物が、粒子表面で検出された。焼結された粒子の表面の約7%が混合酸化物で被覆されていた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】多孔質体の粒子表面上の混合酸化物粒子を示す。
【図2】混合酸化物粒子の代表的エネルギー分散X線スペクトルを示す。
【図3】多孔質体の金属表面の代表的エネルギー分散X線スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
理論密度の40〜70%の密度を有し、開放空孔構造が優勢であり、50重量%を超えるFeを含有するFe基合金の焼結粒子を含有して成る、多孔質体であって、合金が、15〜35重量%のCr;0.01〜2重量%の、Ti、Zr、Hf、Mn、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる一又は複数の元素;0〜10重量%の、Mo及び/又はAl;0〜5重量%の、Ni、W、Nb及びTaからなる群から選ばれる一又は複数の金属;0.1〜1重量%のO;残部の、Fe及び不純物;から成り、Y、Sc及び希土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属と、Cr、Ti、Al及びMnからなる群から選ばれる少なくとも1つの金属とが、混合酸化物を形成する多孔質体。
【請求項2】
混合酸化物含有率が0.01〜2重量%であることを特徴とする請求項1記載の多孔質体。
【請求項3】
多孔質体が、0.01〜1.5重量%の、Y、Sc、希土類金属、Ti及びAlからなる群から選ばれる金属の一又は複数の酸化物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の多孔質体。
【請求項4】
焼結粒子表面の1〜95%が混合酸化物で覆われていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項5】
多孔質体が900℃/10hにおいて1%未満の体積収縮率を有することを特徴とする請求項1ないし4の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項6】
合金が0.01〜2重量%のY−Ti、Y−Al及び/又はY−Al−Ti混合酸化物を含むことを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項7】
合金が18〜28重量%のCrを含むことを特徴とする請求項1ないし6の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項8】
合金が0.5〜5重量%のMoを含むことを特徴とする請求項1ないし7の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項9】
合金が0.1〜1重量%のTiを含むことを特徴とする請求項1ないし8の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項10】
合金が0.01〜1.5重量%のY23を含むことを特徴とする請求項1ないし9の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項11】
平均空孔径が5〜100μm、好ましくは10〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし10の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項12】
平均粒径が20〜70μmであることを特徴とする請求項1ないし11の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項13】
焼結ネック直径が、1/5×粒径より、好ましくは1/3×粒径より、大きいことを特徴とする請求項1ないし12の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項14】
多孔質体が支持基体であることを特徴とする請求項1ないし13の何れか一項に記載の多孔質体。
【請求項15】
請求項1ないし14の何れか一項に記載の多孔質体を製造するための方法であって、少なくとも下記の工程を有することを特徴とする方法。
・元素粉末又は予備合金化粉末を用いた粉末混合物の製造。
・粉末混合物のメカニカルアロイイング。
・粉末混合物と結合剤との混合。ここで、結合剤の体積含有率は、焼結体の空孔容積に概ね一致する。
・1,250℃〜1,470℃の温度における保護ガス下の焼結。
【請求項16】
SOFCシステムにおける、請求項1ないし14の何れか一項に記載の多孔質体の、使用。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公表番号】特表2009−528443(P2009−528443A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555559(P2008−555559)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/AT2007/000092
【国際公開番号】WO2007/095658
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(390040486)プランゼー エスエー (25)
【Fターム(参考)】