説明

多孔質酸化チタン、水素検知体およびそれらの製造方法ならびに水素センサおよび光電変換素子

【課題】 多孔質酸化チタンとその製造方法を提供し、室温下で高感度の水素ガス検知体とその製造方法ならびに水素ガスセンサを提供し、さらに、多孔質酸化チタンを使用した光電変換素子を提供する。
【解決手段】 多孔質酸化チタンは、低結晶状態であって、内部に分散された第一の細孔と、第一の細孔に連続しつつ内部において連鎖する第二の細孔とが形成されている。水素ガス検知体は、細孔内に光吸着解離能を有する金属触媒を担持した多孔質酸化チタンを基部に積層されている。水素センサは、水素ガス検知体に対し光を照射する光源と、透過光または反射光を検出する光検出部とを備えている。光電変換素子は、透明導電性基板上に多孔質酸化チタンを積層し、細孔内に色素を担持させてなる。多孔質酸化チタンの製造方法は、チタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された温水中に浸漬することにより熱処理する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質酸化チタン、この酸化チタンを使用する水素検知体およびこれらの製造方法と、上記水素検知体を使用する水素センサと、上記多孔質酸化チタンを使用する光電変換素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、一般的に二酸化チタン(TiO:チタニアと称する場合がある)が光触媒反応による酸化・還元作用を有することから、工業分野において広く利用されている。そこで、光触媒能を効果的に発揮させる目的で多孔質化が図られ、その一例として、加熱によりルチル型酸化チタンになるチタン化合物を高温で加熱し、多孔質焼結体を形成する構造体があった(引用文献1参照)。これは、ルチル型酸化チタン粒子が、加熱によって種結晶として周囲のアナターゼ型酸化チタンを消費しつつ成長し、細孔を生じさせるものである。上記のほかに、酸化チタンの微粒子を集合して形成するマリモ状の多孔質酸化チタンがあった(引用文献2参照)。これは、酸化チタンの一次微粒子を集合させ、マリモ状の二次粒子を構成する際、一次粒子同士が粗な状態で集合することによって、多くの細孔(空隙)を有する多孔質状に形成したものである。
【0003】
他方、燃料電池に代表されるように、水素ガスをエネルギー源とするための技術が開発され普及されつつあり、これに伴って、可燃性のある水素ガスを検知するための水素検知材料または水素センサが重要視されているところである。この水素ガスを検知するための材料としても酸化チタンが利用されている。
【0004】
そこで、酸化チタンを利用する従来の水素検知材料としては、水素ガス検知材として、酸化チタンを酸化パラジウム水和物で被覆した構成のものがあった(引用文献3参照)。これは酸化パラジウムと水素ガスが反応してパラジウム黒が生成されることを利用して、水素ガスを検知するものである。
【0005】
さらに、酸化チタンによる多孔質薄膜にパラジウムまたはその合金を担持させたガス検出素子があった(引用文献4参照)。これは、ガラス基板等の絶縁基板の表面に、電気泳動法により平均粒径10〜100nmの酸化チタン粒子を積層薄膜化し、300°C〜700°Cの高温で熱処理した後、パラジウム等の金属塩を有機溶剤に溶解させた電着溶液に基板を浸漬して紫外線を照射して、パラジウム等を担持するものであった。上記酸化チタンによる薄膜の製造には、酸化チタン微粒子の分散スラリを泳動溶液とされ、上記分散スラリには、結晶相がアナターゼ相である粒径15〜25nmの粒子が使用されるものであり、これにより形成される酸化チタン薄膜は、積層された粒子の間隙により多孔質化されたものであった。
【0006】
光電変換素子に使用される酸化チタンは、電気泳動によって導電性基板上にチタンアルコキシド重縮合体を堆積し、その後400°C以上の温度で焼成してなる結晶性酸化チタン膜を形成していた(特許文献5参照)。また、色素増感剤の担持には、酸化チタン膜に色素増感剤の溶液を含浸させた後に乾燥させて担持させるものであった(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−128656号公報
【特許文献2】特開2006−89297号公報
【特許文献3】特開平8−253742号公報
【特許文献4】特開2010−71700号公報
【特許文献5】特開平11−310898号公報
【特許文献6】特開2002−93475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される発明は、加熱によってアナターゼ型酸化チタンをルチル型酸化チタンに転移させるものであることから、形成される多孔質酸化チタンはルチル型となるものであった。しかしながら、光触媒能を有効に機能させる酸化チタンはアナターゼ相の割合が大きい酸化チタンであり、ルチル型酸化チタンとする上記発明は光触媒能を十分に発揮させるものではなかった。さらに、チタン化合物を高温で加熱する構成であることから、酸化チタンを積層させる際に使用する基板は耐熱性を有するものに限定せざるを得なかった。
【0009】
また、特許文献2に開示される発明は、アナターゼ型酸化チタンによる一次粒子を集合させて多孔質の二次粒子を形成するものであることから、当該二次粒子は当然にアナターゼ型酸化チタンとなるものである。しかしながら、多孔質酸化チタンは二次粒子として粉状に構成され、層状または膜状の多孔質酸化チタンを構成するものではなかった。
【0010】
また、上記二つの発明は、いずれも隣接する結晶間に間隙を形成するように細孔が設けられているものであって、専ら酸化チタンの表面積を大きくすることによって、光触媒能を向上させることが目的であった。従って、この多孔質酸化チタンに金属触媒を担持させた場合であっても、酸化チタンが水素ガスと反応することによる光透過率、光反射率、色相または電気抵抗値の変化は、当該酸化チタンの結晶の表面においてのみ出現し、酸化チタンの内部に及ぶものではないことから、これらの変化を顕著に検知できるものではなかった。その結果、酸化チタンに金属触媒を担持させてなる水素検知体の実用化に至っていない。
【0011】
他方、水素検知材にかかる発明に関し、特許文献3に開示される発明は、酸化パラジウムと水素ガスが反応してパラジウム黒が生成されることを利用するものであり、専らパラジウムの色彩変化によるものであって、酸化チタンを使用することによる格別の効果を奏するものではなかった。
【0012】
また、特許文献4に開示される発明は、酸化チタン微粒子を電気泳動法により積層させた後、300°C〜700°Cの高温による熱処理を必要とするため、耐熱性を有しない素材を基板とすることができないという問題点があった。また、積層された酸化チタンの平均粒径は小さいものでも27.2nmとなるものであり、このときの粒子自体に3〜10nmの空隙と、粒子間に5〜100nmの間隙が形成されるものであるが、これらの空隙または間隙は、酸化チタン薄膜の表面積を大きくすることが目的であって、酸化チタン膜の内部に金属触媒を担持する構成ではなかった。従って、水素ガス等が酸化チタンと反応して、光透過率、光反射率、色相または電気抵抗値を変化する効果を期待できるものではなかった。
【0013】
なお、水素センサにかかる発明は、上述の水素ガス検知材を使用したものであって、当該水素ガス検知材が水素ガスを検知したとき、電気抵抗値または光透過率または光反射率の変化を計測する構造であったが、その計測精度は水素ガス検知材に委ねられるものであった。従って、水素ガス検知材の精度が向上しなければ水素ガスセンサとしての効果を向上させることはできなかった。また、半導体式または接触燃焼式の水素センサでは、通常では300°C以上に加熱された状態で使用されることから、可燃性ガスである水素ガスの検知においては、可燃または爆発の可能性という安全性の問題があった。
【0014】
さらに、光電変換素子にかかる特許文献5および6に開示される発明は、専ら光触媒能を効果的に利用するために、酸化チタン膜層を形成するものであり、色素増感剤の担持は当該酸化チタン膜層の表面に限定されており、酸化チタン膜層の内部に存在する細孔内に色素増感剤を担持させるものではなかった。そのため、色素増感剤により励起した電子は、酸化チタン膜層の表面から移動することとなるが、還元剤に接触することによる還元によって十分に電子を吸収することができていなかった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、内部に細孔を比較的均一に分散させた低結晶状態の多孔質酸化チタンおよびその製造方法を提供するとともに、当該多孔質酸化チタンを使用して室温下で高感度の水素ガスの検知体およびその製造方法ならびに当該検知体を使用する水素ガスセンサを提供し、さらに、上記多孔質酸化チタンを使用した光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、本発明者らは、多孔質酸化チタンに関する研究を重ねた結果、次のような発明を完成するに至った。
【0017】
請求項1に記載の多孔質酸化チタンは、結晶部分と非結晶部分とが混在してなる低結晶状態の酸化チタンであって、内部に分散された第一の細孔と、この第一の細孔よりも微細で、該第一の細孔に連続しつつ内部において連鎖する第二の細孔とが形成されているものである。
【0018】
ここで、低結晶状態とは、X線回折パターン解析において結晶化を示すピークが示されない程度の結晶状態を意味する。
【0019】
請求項2に記載の多孔質酸化チタンは、請求項1に記載の多孔質酸化チタンにおいて、 前記第一の細孔が、前記第二の細孔の連鎖によって表面に連通しているものである。
【0020】
請求項3に記載の多孔質酸化チタンは、請求項1に記載の多孔質酸化チタンにおいて、前記結晶部分が、アナターゼ相の単相であるものである。
【0021】
請求項4に記載の多孔質酸化チタンは、請求項1に記載の多孔質酸化チタンにおいて、前記結晶部分が、アナターゼ相およびルチル相またはブルッカイト相の複合相であるものである。
【0022】
請求項5に記載の低結晶性多孔質酸化チタンの製造方法は、請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンをチタニアゾルから製造する方法であって、前記チタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された気体中に曝露することにより熱処理する工程とを含むものである。
【0023】
請求項6に記載の低結晶性多孔質酸化チタンの製造方法は、請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンをチタニアゾルから製造する方法であって、前記チタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された温水中に浸漬することにより熱処理する工程とを含むものである。
【0024】
なお、上記のような熱処理は、焼成等の高温処理に比較して反応が緩やかであることから、100°以下の環境下に2時間程度放置することが望ましい。従って、温水中で処理する場合は、2時間程度温水に浸漬することになる。
【0025】
請求項7に記載の水素検知体は、請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンを使用する水素検知体であって、前記多孔質酸化チタンにより形成される酸化チタン領域と、この酸化チタン領域の内部に分散される少なくとも前記第一の細孔内に担持された水素吸着解離能を有する金属触媒とを備えるものである。
【0026】
請求項8に記載の水素検知体は、請求項6に記載の水素検知体において、前記金属触媒がパラジウム、白金、金、銀、ニッケル、ロジウム、もしくはオスミウムまたはこれらの合金であるものである。
【0027】
請求項9に記載の水素検知体は、請求項6または7に記載の水素検知体において、前記酸化チタン領域を、前記基材領域の表面に薄膜状に形成された多孔質酸化チタン薄膜としたものである。
【0028】
請求項10に記載の水素検知体は、請求項7ないし9のいずれかに記載の水素検知体において、前記酸化チタン領域が、光透過性を有する材料によって形成された基材領域に積層されているものである。
【0029】
請求項11に記載の水素検知体は、請求項7ないし10のいずれかに記載の水素検知体において、前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方には、光を反射する材料によって形成される光反射層が適宜配置されているものである。
【0030】
なお、光反射層を適宜配置するとは、酸化チタン領域または基材領域に積層する場合のほか、基材領域そのものが光を反射する材質で形成される場合も含み、さらに、これら酸化チタン領域および基材領域から離れた位置に設ける場合をも含むものである。
【0031】
請求項12に記載の水素検知体は、請求項7ないし11のいずれかに記載の水素検知体において、前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方には、導電性を有する材料によって形成される導電領域が適宜配置されているものである。
【0032】
なお、導電領域を適宜配置するとは、酸化チタン領域または、基材領域に導電領域を積層させた状態とする場合のほか、基材領域そのものを導電性材料で形成してなる場合も含み、さらに、酸化チタン領域および基材領域の双方に積層する場合をも含むものである。
【0033】
請求項13に記載の水素検知体は、請求項7ないし9のいずれかに記載の水素検知体において、前記酸化チタン領域が、光ファイバのコアまたはクラッドの表面に積層されているものである。
【0034】
請求項14に記載の水素検知体の製造方法は、基材領域の少なくとも一部にチタニアゾルを塗布する工程と、このチタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された気体中に曝露することにより熱処理する工程とを含み、多孔質酸化チタンを形成させる酸化チタン領域形成工程と、上記多孔質酸化チタンに水素吸着解離能を有する金属触媒の溶液を付着させる金属触媒付着工程と、上記金属触媒の溶液が付着した多孔質酸化チタンに対し紫外線を照射する紫外線照射工程とを含むものである。
【0035】
請求項15に記載の水素検知体の製造方法は、基材領域の少なくとも一部にチタニアゾルを塗布する工程と、このチタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された温水中に浸漬することにより熱処理する工程とを含み、多孔質酸化チタンを形成させる酸化チタン領域形成工程と、上記多孔質酸化チタンに水素吸着解離能を有する金属触媒の溶液を付着させる金属触媒付着工程と、上記金属触媒の溶液が付着した多孔質酸化チタンに対し紫外線を照射する紫外線照射工程とを含むものである。
【0036】
請求項16に記載の水素センサは、請求項10または11に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、前記水素検知体と、この水素検知体を構成する酸化チタン領域に対して光を照射する光源と、前記水素検知体を透過または反射した光を検出する光検出部とを備えたものである。
【0037】
請求項17に記載の水素センサは、請求項12に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、前記水素検知体と、この水素検知体を構成する酸化チタン領域に通電可能な電源と、前記酸化チタン領域を通電するときの電気的な抵抗値変化を検出する電気抵抗検出部とを備えたものである。
【0038】
請求項18に記載の水素センサは、請求項13に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、光ファイバと、この光ファイバに連続し、または、この光ファイバの一部に構成された前記水素検知体と、前記光ファイバ内に光を供給する光源と、前記光ファイバ内を通過した後の光を検出する光検出部とを備えたものである。
【0039】
請求項19に記載の光電変換素子は、請求項1ないし3のいずれかに記載の多孔質酸化チタンを使用する光電変換素子であって、透明導電性基板上に前記多孔質酸化チタンを積層し、この多孔質酸化チタンの内部に分散される細孔のうち少なくとも前記第一の細孔内に色素を担持させてなるものである。
【0040】
ここで、多孔質酸化チタンを積層する透明導電性基板としては、酸化インジウムスズ(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)などが例示される。
【発明の効果】
【0041】
請求項1に記載の多孔質酸化チタンによれば、この多孔質酸化チタンの内部には、第一の細孔と第二の細孔とが存在し、連鎖する第二の細孔は第一の細孔に連続することから、内部に分散して形成される第一の細孔に対し、第二の細孔の連鎖が物質の移動経路として機能させることができる。例えば、第一の細孔に対し、第二の細孔を介して金属触媒または色素等を供給することができ、第一の細孔に金属触媒または色素等を担持させることができる。この場合、一般的な酸化チタンの表面に対する金属触媒等の担持のみならず、内部においても担持させることによって、これらの担持量を増加させることができる。
【0042】
請求項2に記載の多孔質酸化チタンによれば、請求項1に記載の多孔質酸化チタンの効果に加え、第一の細孔が第二の細孔によって表面に連通していることから、多孔質酸化チタンの表面から第一の細孔に対して物質を供給することができる。例えば、多孔質酸化チタンの表面に対して金属触媒または色素等を担持させる場合には、第二の細孔を経由して第一の細孔にも金属触媒または色素等を担持させることができる。
【0043】
請求項3に記載の多孔質酸化チタンによれば、結晶化された部分がアナターゼ相であることから、請求項1および2に記載の多孔質酸化チタンの効果に加えて、光触媒能を発揮させることかできる。すなわち、酸化チタンの結晶構造がアナターゼである場合には、ルチルに比較して光触媒能が発揮されやすいことから、低結晶状態の多孔質酸化チタンにおいても結晶化部分がアナターゼ相であれば光触媒能による効果を得ることができる。従って、光触媒能は、多孔質酸化チタンの表面のみならず、内部に分散形成される第一の細孔内にも効果を発揮し得る。
【0044】
請求項4に記載の多孔質酸化チタンによれば、結晶化された部分がアナターゼ相およびルチル相またはブルッカイト相の混合物であることから、請求項2に記載の多孔質酸化チタンにおける光触媒能を有しつつ、結晶の安定性を向上、すなわち結晶部分の劣化を抑制させることができる。従って、例えば、当該酸化チタンを膜状または薄膜状に構成した場合であっても、当該膜状または薄膜状の表面の劣化を抑制できる効果を有している。
【0045】
請求項5に記載の多孔質酸化チタンの製造方法によれば、100°C以下の低温で処理されることから、結晶化を抑えた低結晶の酸化チタンを製造することができる。そして、結晶化した部分と非結晶の部分が混在することによって、非結晶部分に細孔を形成させることができる。ここで、低温による処理であることから、チタニアゾルの一部分が徐々に結晶化する過程において、当該結晶化部分を核にしてその周辺の非結晶化部分を取り込むことにより、当該非結晶部分の一部が空洞化して、結果的に細孔が形成されることとなる。その際、形成される細孔は第一の細孔と、これよりも微細な第二の細孔とを有するが、第一の細孔は微細な第二の細孔が集合した状態で形成されるものである。さらに、100°C以下の低温で処理されることから、耐熱性の乏しい材料の表面に酸化チタンを積層することができるという効果を有する。
【0046】
請求項6に記載の多孔質酸化チタンの製造方法によれば、チタニアゾルは100°C以下の温水中に浸漬して処理されることから、請求項4に記載の多孔質酸化チタンの効果に加えて、温水の温度管理(チタニアゾルの温度ではなく温水の温度を一定に管理すること)により、大気圧下において安定した低温処理を行うことができる。
【0047】
請求項7に記載の水素検知体によれば、前述の多孔質酸化チタンによる酸化チタン領域の内部に形成される細孔(少なくとも第一の細孔)内に水素吸着解離能を有する金属触媒が担持されていることから、酸化チタン領域の表面に存在する水素を当該細孔内の金属触媒が吸着・解離し、解離した原子状水素によって酸化チタン領域内の内部において酸化チタンが水素化することとなる。これにより、酸化チタン領域のほぼ全域が水素化し、当該全域に渡って水素化物を形成することとなる。これに伴って、酸化チタン領域の可視光から近赤外光の範囲に渡って吸光度が大きく変化することとなるから、これらの変化量を顕著なものとすることができる。従って、当該水素検知体に光を照射することにより、その光の透過率または反射率の変化量または応答速度が異なることを利用して、水素の存否および水素濃度を高感度に検知することが可能となるのである。また、上記のように、この水素検知体は、光触媒能を有する多孔質酸化チタンを使用することから、紫外線を照射することにより、セルフクリーニングが可能となる。従って、多孔質酸化チタンの表面に有機物質が吸着するなどによって、検知作用が低下するような場合には、紫外線照射によるセルフクリーニングにより、検知作用を回復させることができる効果をも有している。
【0048】
請求項8に記載の水素検知体によれば、パラジウム、白金、金、銀、ニッケル、ロジウムもしくはオスミウムまたはこれらの合金を酸化チタン領域の内部に形成された細孔に担持させたものであるから、請求項7に記載の水素検知体の効果に加えて、水素を吸着・解離する作用が効率的となる。従って、水素吸着量および吸着速度が向上することとなり、水素検知の高速応答化に資することができる。
【0049】
請求項9に記載の水素検知体によれば、酸化チタン領域を薄膜状にすることから、請求項7または8に記載の水素検知体の効果に加えて、例えば、水素検知体に光を照射し、その透過率の変化によって水素を検知する場合において、光が酸化チタンを透過する距離が極めて小さくなり、光の透過率が向上することとなる。
【0050】
請求項10に記載の水素検知体によれば、前記酸化チタン領域が光透過性を有する基材領域に積層されていることから、請求項7ないし9のいずれかに記載の水素検知体の効果に加えて、光の透過率の変化量または応答速度の変化によって水素の存否または濃度を測定する際に利用することができる。また、酸化チタン領域における光の反射率の変化量を測定する場合においても、水素の吸着・解離により、酸化チタン領域における反射率が変化することを利用し、その変化量または応答速度の変化によっても水素の存否や濃度を測定する際に利用できる。さらに、水素検知の際には、照射される光の透過率または反射率の変化によって水素の存否等が検知されることから、室温において水素検知が可能となる室温作動型の水素検知体として使用することができるものである。
【0051】
請求項11に記載の水素検知体によれば、前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方に光反射層が配置されていることから、酸化チタン領域に対して光を照射すると、酸化チタン領域を透過した光が、光反射層において反射し、再度酸化チタン領域を透過して光照射側に放出させることができる。従って、照射された光は、酸化チタン領域を2回通過することとなるから、光透過率の変化を顕著に測定することが可能となり、これらの測定感度を向上させることができる。また、例えば、酸化チタン領域の表裏両面に光反射層を積層する場合には、酸化チタン領域内において複数回の反射を繰り返させることができる。この場合、照射光が入射できる範囲および反射光を放出できる範囲については、光反射層を積層しない構成とすることによって、上記複数回の反射を繰り返した光を検出することも可能となり、この場合においても上記測定感度を向上させることができる。
【0052】
請求項12に記載の水素検知体によれば、前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方に導電領域が配置されていることから、請求項7ないし11のいずれかに記載の水素検知体の効果のほかに、酸化チタン領域における電気抵抗値の変化を検知することが可能となる。すなわち、酸化チタン領域を通電させることによって、当該通電状態における電気抵抗値を測定することにより、その抵抗値の変化によって水素を検知することができるのである。従って、例えば、明るい環境下において水素検知する必要がある場合において、光の透過率を測定することなく水素を検知することができるものである。また、このような水素検知体においても、室温における酸化チタン領域の抵抗値の変化によって水素検知が可能であるから、室温作動型の水素検知体として使用することができる。さらに、例えば、基材領域および導電領域が光透過性を有する場合には、光透過率と電気抵抗値の両者について、その変化量から水素検知を行うことも可能となる。
【0053】
請求項13に記載の水素検知体によれば、前記酸化チタン領域は、光ファイバのコアまたはクラッドの表面に積層する構成であるから、連続する長尺な光ファイバの一部を水素検知体として機能させることができる。従って、当該光ファイバを検知すべき気体内に配置しつつ、光ファイバの一端から光を入射し、他端で受光することにより、その受光した光の強度の変化によって水素の存否および濃度を検知することが可能となる。
【0054】
請求項14記載の水素検知体の製造方法によれば、基材領域の一部に細孔を有する多孔質酸化チタンを積層することができるとともに、上記細孔内に金属触媒を担持させた構成の水素検知体を製造することができる。このとき、基材領域の一部にはチタニアゾルを塗布し、これを処理して多孔質酸化チタンを積層する構成であるから、塗布すべき範囲としては、平面に限定されることなく曲面(例えば、光ファイバのコアまたはクラッドなどの表面)に多孔質酸化チタンを積層させることができる。また、酸化チタン層は100°C以下の環境下で処理されることから、基材領域として使用される基材の材質が耐熱性の乏しい有機高分子樹脂のようなものであっても積層させることが可能となる。
【0055】
請求項15に記載の水素検知体の製造方法によれば、チタニアゾルを基材領域の表面に塗布した後、100°C以下の温水中に浸漬することによるものであるから、請求項14に記載の多孔質酸化チタンの効果に加えて、温水の温度管理により、処理温度を容易に一定に維持させることができるとともに、大気圧下において安定した低温処理を行うことができる。
【0056】
請求項16に記載の水素センサによれば、酸化チタン領域に照射された光が、酸化チタン領域を透過または反射し、その光を検出する構成であることから、水素検知すべき領域に電源供給できない状況、または、水素検知すべき領域から配線することが許されない環境下において水素検知が可能となる。また、酸化チタン領域の内部には、細孔内に金属触媒が担持されていることから、金属触媒が水素を吸着・解離し、この解離された水素によって酸化チタン領域の内部を含む全体の酸化チタンが水素化されることとなり、透過率の変化が顕著となるため、水素検知に適したセンサを構成することができる。
【0057】
また、光反射層が配置された水素検知体を使用する場合には、酸化チタン領域から入射された光が反射し、この反射光を光検出部が検出する構成であることから、酸化チタン領域内を2回透過した光を検出することとなり、透過率の変化を一層顕著に検出することができる。従って、水素の存否および濃度等の検出感度が向上することとなる。また、例えば、酸化チタン領域の表裏両面に光反射層を部分的に積層する場合には、酸化チタン領域内において複数回の反射を繰り返させることができる。この場合、照射光が入射できる範囲および反射光を放出できる範囲については、光反射層を積層しない構成とすることによって、上記複数回の反射を繰り返した光を検出することも可能となり、この場合においても上記検出感度を向上させることができる。
【0058】
上記いずれの場合においても、照射された光の透過率または反射率の変化によって水素ガスを検知するものであるから、室温において作動させる室温作動型のセンサを提供することができる。
【0059】
請求項17に記載の水素センサによれば、酸化チタンが水素化することによる電気抵抗値の変化を利用して、水素のセンシングを可能にすることができる。そして、このセンサを使用すれば、明るい環境下において光透過率の検出ができない場合においても、電源からの電力供給が継続的である場合には、水素の存在を時間の経過とともに測定することが可能となる。従って、燃料電池に使用される水素の漏洩を検知する際には、燃料電池により発生した電源を利用することができ、燃料電池が稼働する間における水素ガスの漏洩を逐次検出させることも可能となる。この水素センサにおいても、室温状態における電気的抵抗値の変化によって水素ガスを検知することから、室温において作動する室温作動型のセンサを提供することができる。
【0060】
請求項18に記載の水素センサによれば、光ファイバのコアまたはクラッドに酸化チタン領域を積層した水素検知体を、光源に連続する光ファイバに連続し、光源に連続する光ファイバに対して当該光源の光を入射し、水素検知体を経由した後の光を受光する構成であるから、水素検知体を構成する酸化チタン領域において吸光度が変化することにより、受光した光の状態が変化することとなり、当該水素検知体を構成する光ファイバにおいて水素を検出することができる。このとき、光源の光を受光部まで伝播させる光ファイバの途中において一部にのみ酸化チタン領域を積層した光ファイバとする場合には、当該一部の配置された個所での水素検知を可能にすることができる。また、光源から受光部までの全ての光ファイバについて、水素検知体を構成する光ファイバとすることもできる。
【0061】
請求項19に記載の光電変換素子によれば、色素(色素増感剤)は、多孔質酸化チタンの内部に存在する細孔内に担持されることとなるから、多孔質酸化チタンの表面に設けられる還元剤(例えば、ヨウ素電解質溶液)による色素増感剤の還元作用を抑制させることができる。従って、色素増感剤により励起した電子を十分に吸収できることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)はチタニアゾルの製造工程を示すフロー図であり、(b)は多孔質酸化チタンの製造工程を示すフロー図である。
【図2】(a)は多孔質酸化チタンのモデル図、(b)はパラジウムを析出させた状態のモデル図、(c)は従来法による酸化チタンにパラジウムを析出させた状態のモデル図である。
【図3】(a)は水素検知体の第一の実施形態を示すモデル図、(b)は第二の実施形態を示すモデル図、(c)は第三の実施形態を示すモデル図である。
【図4】基部を光ファイバとした実施形態を示すモデル図である。
【図5】(a)はチタニアゾルの製造工程を示すフロー図であり、(b)は水素検知体の第一の実施形態の製造工程を示すフロー図である。
【図6】水素検知体の第二および第三の実施形態の製造工程を示すフロー図である。
【図7】水素検知体の第一の実施形態を光透過型として使用する水素センサの概略図である。
【図8】水素検知体の第二または第三の実施形態を光反射型として使用する水素センサの概略図である。
【図9】基部を光ファイバとした水素検知体を使用する水素センサの概略図である。
【図10】水素検知体の第一の実施形態を電気抵抗検知型として使用する水素センサの概略図である。
【図11】水素検知体の第一の実施形態を電気抵抗検知型として使用する水素センサの変更例の概略図である。
【図12】第二の水素センサの例を示す概略図である。
【図13】第三の水素センサの例を示す概略図である。
【図14】多孔質酸化チタン膜とパラジウムを担持した多孔質酸化チタン膜のX線回折パターンである。
【図15】(a)は、多孔質酸化チタン層のTEM像、(b)および(c)はパラジウムを担持させた多孔質酸化チタン層のTEM像である。
【図16】水素検知体の第一の実施形態について実験するための実験装置の概略図である。
【図17】水素検知体の第二の実施形態について実験するための実験装置の概略図である。
【図18】実験例1の実験結果を示すグラフである。
【図19】実験例2の実験結果を示すグラフである。
【図20】水素検知体の第一の実施形態について、水素ガスに対する応答性を実験した結果を示すグラフである。
【図21】水素検知体の第二の実施形態について、水素ガスに対する応答性を実験した結果を示すグラフである。
【図22】酸化チタンを熱処理した場合との比較実験の結果を示すグラフである。
【図23】プラスチック基板に酸化チタンを積層した場合の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0064】
〔多孔質酸化チタンの製造方法〕
まず、多孔質酸化チタンの製造方法にかかる実施形態について説明する。本実施形態では、ゾル−ゲル法により酸化チタンを製造する。図1(a)はチタニアゾルの製造工程を示すフロー図であり、図1(b)は多孔質酸化チタンの製造工程を示すフロー図である。
【0065】
図1(a)に示すように、チタニアゾルは、まず、テトラノルマルブトキシチタン(Ti(O−nBu))にエタノールを加えて攪拌し、さらに、希塩酸、エタノールおよびアセト酢酸エチルを加えて攪拌して生成する。これらの添加量としては、例えば、希塩酸は、3%前後に希釈したものを使用し、テトラノルマルブトキシチタン:エタノール:希塩酸:アセト酢酸エチル=1:20:1:1の重量割合で混合したものを一例として挙げることができる。なお、ポリエチレングリコール等の水に溶ける高分子材料を添加してもよい。次に、図1(b)に示すように、チタニアゾルを乾燥させ、その後100°C以下の環境下において熱処理(これを低温処理と称する場合がある)することによって酸化チタンを製造する。チタニアゾルは、一般的にガラス板等の基材にコーティングされるが、ここでは、多孔質酸化チタンを製造することに特化して説明するため、この種のコーティングについては説明を省略する。
【0066】
低温処理の方法としては、100°C以下の環境下に所定時間曝すことによって行うものであり、具体的には、100°C以下の気体中に曝露するか、または100°C以下の温水に浸漬する方法がある。いずれの場合においても常温(20°C程度)以上であればよく、長い処理時間により比較的低めの温度においても処理できるものである。本実施形態では、専ら温水に浸漬する方法を採用する。そして、このような工程により製造された酸化チタンは、内部に無数の細孔が分散された構造を有する多孔質である。さらに、このようにして製造された酸化チタンは低結晶状態である。低結晶状態とは、結晶部分と非結晶部分とが混在する状態を意味し、特に、X線回折パターン解析においては結晶化を示す明確な回折ピークを示さない程度の結晶状態である。なお、結晶部分の結晶相は、アナターゼ相の単相となるものである。ただし、作製条件により、アナターゼ相の他にルチル相やブルッカイト相を混在させることができる。このように、アナターゼ相を含む構成により、光触媒能を十分に発揮することができるのである。
【0067】
〔多孔質酸化チタン〕
次に、多孔質酸化チタンの実施形態について説明する。本実施形態は、上述の製造方法によって製造された多孔質酸化チタンである。図2(a)は、適宜面積を有する層状に形成した多孔質酸化チタン1の断面をモデル化した図である。本実施形態の多孔質酸化チタン1は、この図に示すように、多数の第一の細孔2が全体に存在し、また、この細孔2よりも微細な第二の細孔3が、さらに数多く存在している。なお、第一の細孔2としては、メソ孔が形成されることがあり、第二の細孔3としては、マイクロ孔が形成されることがある。メソ孔とは、最大寸法が2nm〜50nmの範囲の細孔のことを指し、マイクロ孔とは、最大寸法が2nm以下の細孔のことを指すものである。
【0068】
このように、大きさの異なる細孔2,3が形成される背景としては、低温の環境下で徐々に結晶化が進行する過程において、結晶化する部分を核にし、その周辺に不揃いな細孔が形成されることによるものであるが、微細な第二の細孔3が集合して第一の細孔が形成されるのである。なお、このような大きさの異なる細孔2,3は、メソ孔およびマイクロ孔のみによって形成されるものではなく、本発明が上記の組み合わせに限定されるものでもないが、以下、両細孔を明確に区別する便宜のため、第一の細孔2をメソ孔2と称し、第二の細孔3をマイクロ孔3と称する。
【0069】
本実施形態におけるメソ孔2は、多孔質酸化チタン1の表面1aおよび裏面1bに集中することなく、多孔質酸化チタン1の内部において、適度にかつ広範囲に渡って分散されている。また、マイクロ孔3は、多孔質酸化チタン1の内部において、やはり広範囲に分散されている。ここで、メソ孔2の一部は表面付近に形成されるが、他の大多数は、多孔質酸化チタン1の内部(すなわち、表面1aまたは裏面1bから離れた位置)に存在している。これらのメソ孔2の周辺には分散形成されたマイクロ孔3が存在している。このマイクロ孔3がメソ孔2に連続するように存在するとともに、さらに、このマイクロ孔3に他のマイクロ孔3が順次連なって連鎖し、この連鎖によって細道3aのような状態(以下、単に細道を記載する場合がある)が形成されるものである。図示のように、この細道3aによって、メソ孔2aが多孔質酸化チタン1の表面1a(または裏面1b)に連続することとなり、また近傍のメソ孔2bの間においても連続する状態となる。つまり、マイクロ孔3が多孔質酸化チタン1の外部とメソ孔2とを連通させ、またメソ孔2とその近傍のメソ孔2とを連通させる状態となるのである。さらに、近隣のメソ孔2b,2cが直接連続する場合もある。この場合には、両者2b,2cはマイクロ孔3を介さずに連続するものであるが、これらのメソ孔3b,3cにもマイクロ孔3による細道が連続することによって、表面1aまたは裏面1bに連続するものである。
【0070】
本実施形態の多孔質酸化チタンは上記のような構成であるから、上記多孔質酸化チタンに対し、水素吸着解離能を有する金属触媒を担持させた場合には、金属触媒はマイクロ孔3を経由してメソ孔2の内部に担持させることが可能となる。図2(b)は、多孔質酸化チタン1の片方表面1aから金属触媒4を担持させた状態の断面をモデル化した図である。この図に示すように、多孔質酸化チタン1の内部に分散して形成されるメソ孔2の内部に金属触媒4が担持されている。金属触媒4の担持には、酸化チタン1の光触媒能を利用した光電着法(光析出法とも呼ばれる)によって、金属触媒4を担持させる方法がある。このような方法による金属触媒4の担持を「析出」と呼ぶ(以下、この析出を代表例として説明する)。上記方法により、多孔質酸化チタンの表面1aにおいても当然に金属触媒4は析出されるが、メソ孔2の内部にも析出されるのである。これは、金属触媒4を構成する原子が多孔質酸化チタン1の表面から内部のマイクロ孔3を経由してメソ孔11に移動するからである。なお、金属触媒4の析出は、適度な表面積を有するメソ孔2において顕著であるが、マイクロ孔3の表面にも生じる場合がある。また、本実施形態の多孔質酸化チタン1は光触媒能を十分発揮し得るものであるから、紫外線照射によってセルフクリーニング効果を発揮させることもできる。
【0071】
このように、多孔質酸化チタン1の内部に分散して形成される多数のメソ孔2に、水素吸着解離能を有する金属触媒4が析出されることにより、当該多孔質酸化チタン1の表面1aに水素ガスが存在するとき、この水素ガスを多孔質酸化チタン1の内部において吸着・解離することができ、さらに、金属触媒と酸化チタンが接触している界面を通じて酸化チタン内に水素が拡散されることで、酸化チタンの水素化が起こるのである。なお、このように水素を吸着・解離することができる金属触媒としては、パラジウム、白金、金、銀、ニッケル、ロジウムおよびオスミウムなどがあり、これらの金属を一種類のみ使用する場合のほか、二種以上による合金を使用することができる。
【0072】
本実施形態との比較のために、従来法による酸化チタンについて金属触媒を析出させた状態を図2(c)に示す。この図に示すように、従来法による酸化チタン101では、酸化チタン1の内部に空孔が形成されていないことから、金属触媒104は、酸化チタン101の表面101aにのみ析出されることとなる。このような相違点は、水素を吸着・解離する場合に大きな差異を生じさせるものである。すなわち、従来法による酸化チタン101を使用する場合には、金属触媒104が酸化チタン101の表面101aで水素を吸着し、水素がそのまま金属触媒104に留まる(この状態を吸蔵という場合がある)こととなるが、本実施形態の多孔質酸化チタンの場合には、多孔質酸化チタン1の内部に存在するメソ孔2に析出された金属触媒4によって、当該金属触媒4が水素を吸着・解離した後、これを多孔質酸化チタン1に対して放出し、多孔質酸化チタン1を全体的に水素化することとなるのである。
【0073】
〔水素検知体〕
次に、上記多孔質酸化チタンを使用した水素検知体の実施形態について説明する。図3は、適宜面積を有する基部5に多孔質酸化チタン1を積層してなる水素検知体の実施形態の断面をモデル化した図である。この図に示すように、基部5は、所定の性質を備えた材料によって構成され、その材料の特性を発揮し得る領域(これを基材領域という)が形成されている。また、多孔質酸化チタン1は、上記基部5に積層されるとき、層状に形成されることとなるが、1mm未満で1μm以上の膜状、または、1μm以下の薄膜状に積層することができる。いずれも場合においても多孔質酸化チタン1が積層され、多孔質酸化チタンが存在する領域(これを酸化チタン領域という)が形成されている。なお、図3(a)は第一の実施形態、図3(b)は第二の実施形態、図3(c)は第三の実施形態を示している。
【0074】
水素検知体10にかかる第一の実施形態は、図3(a)に示すように、金属触媒4が析出された多孔質酸化チタン1が基部5の表面5aに積層されたものである。多孔質酸化チタン1は、上述したように、内部にメソ孔2が形成され、そのメソ孔2の内部に金属触媒4が析出されたもの(図2(b)参照)である。このような構成の水素検知体10は、基部5と多孔質酸化チタン1との二層構造であるが、基部5は、その素材によって異なる性質を有する基材領域によって形成され、多孔質酸化チタン1は、上述のように、水素を吸着・解離し酸化チタンを水素化することができる領域(酸化チタン領域)が形成される。
【0075】
ここで、基部5としては、光透過型または光反射型の水素検知体として構成する場合、透明なガラスまたはプラスチック等が使用され、また、電気抵抗型の水素検知体として構成する場合は、金属製基板または半導体基板等が使用される。さらに、光透過型としても電気抵抗型としても使用できるように、透明な導電性膜が積層されたガラスやプラスチック、または導電性プラスチックなどを基部として使用することができる。導電性膜としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)やフッ素ドープ酸化スズ(FTO)などを使用することができる。そして、このような導電性膜は、基部の表面全体に積層する場合のほか、部分的に積層する構成とすることもできる。少なくともに二個所に分かれて導電性膜を積層することにより、当該導電性膜を電気抵抗値を検出する際の電極として機能させることができる。
【0076】
なお、光透過型の水素検知体とは、多孔質酸化チタンに光を照射し、当該多孔質酸化チタンによる光透過率の変化を専ら検知するために使用される水素検知体であり、光反射型の水素検知体とは、多孔質酸化チタンに光を照射した後、光反射層等によって反射された光の強度の変化を専ら検知するために使用されるものであり、さらに、電気抵抗型の水素検知体とは、当該多孔質酸化チタンの電気的な抵抗値の変化を専ら検知するために使用される水素検知体である。
【0077】
また、基部5は、所定の肉厚により基材領域が形成されるものであれば、形状を限定するものではなく、平板状のみならず曲面状であってもよい。図3はいずれも断面を示しており、一瞥すると平板状を図示しているようであるが、この断面図に示すような形状に限定する趣旨ではない。また、多孔質酸化チタン1は上述したように低温の環境下によって熱処理されることから、基部5に耐熱性を要求されることはない。そこで、曲面であり耐熱性を有しないもの、例えば、光ファイバのコアまたはクラッド等を基部5として使用することが可能となる。
【0078】
本実施形態は、上記のような構成であるから、基部5を透明な材質で構成した場合には、光透過型の水素検知体となる。すなわち、多孔質酸化チタン1の表面1aまたは基部5の裏面5bのいずれか一方から光を照射することにより、当該光は、多孔質酸化チタン1および基部5を透過し、反対側に放出されることとなる。そこで、透過後の光量の変化を測定することにより水素の検知が可能となるのである。これは、水素化により酸化チタンの吸光度(光学密度)が変化することにより光透過率や光反射率が変化することから、その変化量に応じて水素の存否および濃度を検出することができるのである。
【0079】
他方、上記構成の基部5を金属製基板や半導体基板もしくは他の導電性材料で構成する場合、または、基部5の表面5aに導電性膜を積層する場合には、電気抵抗型の水素検知体として機能することとなる。すなわち、基部5または導電性膜と、多孔質酸化チタンとの間を通電させることにより、その際の抵抗値の変化を測定することができ、その抵抗値の変化によって水素を検知するのである。これは、酸化チタンが水素化することによって、電気抵抗値を増大させることから、その変化量に応じて水素の存否および濃度を検出することが可能となるのである。
【0080】
なお、前記導電性材料または導電性膜が透明であれば、電気抵抗値の変化を検知できるとともに、光を透過させて透過率の変化をも検知させることができるような併用型の水素検知体とすることができる。この場合、両変化量を同時に計測することもできるほか、いずれか一方の変化量を選択することも可能である。
【0081】
水素検知体にかかる第二の実施形態は、図3(b)に示すように、基部5の表面5aに多孔質酸化チタン1が層状に積層され、さらに、多孔質酸化チタン1の表面1aに光反射層6を積層したものである。多孔質酸化チタン1は、第一の実施形態の水素検知体10と同様に内部にはメソ孔11が分散して存在し、そのメソ孔11の内部に金属触媒4が析出されたものである。
【0082】
ここで、基部5を構成する基材領域として、光が透過する透明な材料を使用する場合には、光反射型の水素検知体となる。すなわち、光を基部5の裏面5bから照射すると、当該光は基部5および多孔質酸化チタン1を順次透過することができ、基部5および多孔質酸化チタン1を透過した光は、光反射層6によって反射することとなる。さらに、この反射光は、多孔質酸化チタン1および基部5を再度透過して、基部5の裏面5bから放出されることとなるのである。従って、当該反射光の光量の変化によって水素を検知することが可能となるのである。これは、上述した第一の実施形態の水素検知体10と同様に、多孔質酸化チタン1を光が透過する際の透過率の変化とともに、多孔質酸化チタン1に照射される光の反射率の変化により、最終的に放出される光の状態が変化することによるものである。
【0083】
また、上記構成の基部5を導電性材料で構成する(導電領域として基部5を使用する)場合、または、基部5の表面5aに導電性膜(導電領域)を積層する場合には、電気抵抗型の水素検知体として機能させることも可能である。この場合、光反射層6は導電性を有する金属材料を積層することとなる。そして、基部5または導電性膜と、光反射層6とを電極として通電させることによって、多孔質酸化チタン1の電気抵抗値を計測することができ、その電気抵抗値の変化によって水素検知を可能にする。
【0084】
さらに、上記金属製基板もしくは半導体基板または導電成膜が透明であれば、電気抵抗型および光反射型を併用する水素検知体として使用することができる。この場合、いずれかのタイプを選択してもよく、両者を同時に機能させてもよい。
【0085】
なお、上記水素検知体20における光反射層6は、多孔質酸化チタン1の表面1aの全面に積層されず、一部を露出させることで、水素を吸着・解離することができる範囲を設けることができる。そして、光を反射することができる範囲としては光反射層6が積層されている部分となることから、光を照射する際には、当該光反射層6が存在する範囲に限定されることとなる。
【0086】
水素検知体にかかる第三の実施形態は、図3(c)に示すように、第二の実施形態の水素検知体20とは異なり、基板5の裏面5bに光反射層6が積層されたものである。基部5を透明な材料で構成することにより、光反射型の水素検知体30となるものである。すなわち、多孔質酸化チタン1の表面1aから光を照射させることによって、多孔質酸化チタン1および基部5を透過した光が、光反射層6で反射し、基部5および多孔質酸化チタン1を再度透過して、多孔質酸化チタン1の表面1aに放出されることとなるのである。従って、上記反射光の状態の変化を測定することによって、水素検知を可能にするものである。
【0087】
なお、第三の実施形態の水素検知体30は、上述のとおり、光反射層6が基部5の裏面5bに積層されていることから、基部5と多孔質酸化チタン1との積層状態は第一の実施形態の水素検知体10と同様である。そこで、基部5が導電性を有する材料で構成される場合、または、基部5の表面5aに導電性膜を積層する場合には、電気抵抗型の水素検知体としても機能させることが可能である。
【0088】
上記第二および第三の実施形態の水素検知体20,30において使用される光反射層6としては、金属材料層を使用することができ、例えばアルミニウム薄膜や銀薄膜を積層することによって光反射層6とすることができる。また、光透過型の水素検知体として機能させる場合に照射する光は、可視光のほかに近赤外光も使用することができる。酸化チタンが水素化した際には、可視光および近赤外光の光透過率および光反射率を減少させる性質があるからである。
【0089】
さらに、第二および第三の実施形態の水素検知体20,30の構成を併用する構成とすることができる。この場合は、多孔質酸化チタン1の表面1aに光反射層6が積層されるとともに、基板5の裏面5bにも光反射層6が積層された形態となる。このような形態においては、例えば、多孔質酸化チタン1の表面1aに積層される光反射層6を部分的な範囲とし、光反射層6が積層されていない範囲から光を照射することによって、双方の光反射層6,6の中間で光を複数回の反射を繰り返させることができる。そして、光反射層6が積層されていない他の範囲から光を放出させることにより、複数回の反射を繰り返した光を測定し、水素の存否等を検出することが可能となる。
【0090】
次に、光ファイバに使用する状態を図4に示す。図4(a)はクラッド105を基部として、その外周面に多孔質酸化チタン1を積層したものであり、図4(b)はコア205を基部として、その表面に多孔質酸化チタン1を形成したものである。光ファイバは、周知のとおり、クラッドとコアとの屈折率の差異によって光をコアのみに伝播させるものであって、両者ともに光透過率の高い石英ガラスやプラスチック等の合成樹脂が使用される。これらの材料の中には耐熱性を有しないものもあるが、上述の多孔質酸化チタン1は、耐熱性を有しない材料にも積層が可能であるから、このような構成が可能となるものである。
【0091】
クラッド105の外周面に多孔質酸化チタン1を積層した場合(図4(a)参照)には、クラッド105に生じるエバネッセント光の吸収率または反射率の変化によって水素検知が可能となる。つまり、エバネッセント光は、クラッドとコアとの境界においてクラッドの側に滲み出るが、この領域に不純物などの粒子が存在するとき、散乱や屈折を起こすこととなり、普通の光となるものである。そこで、この光をクラッド105の外周に積層される多孔質酸化チタン1において吸収または反射するときの吸収率または反射率の変化によって、水素を検知することができるのである。従って、クラッドとコアとの境界付近におけるクラッドに、予め粒子を混入した状態の光ファイバを使用することによって、このクラッドの外周面に積層される多孔質酸化チタン1が触媒により吸着・解離された水素と反応する場合と、反応しない場合との間で、伝播される光の状態を比較することにより、水素検知が可能となる。なお、この場合、多孔質酸化チタンが水素ガスに接触できるように、多孔質酸化チタン1の外側表面は露出されている。
【0092】
また、コア205に多孔質酸化チタン1を積層した場合(図4(b)参照)には、多孔質酸化チタン1の層がクラッドとして機能することとなる。すなわち、コア205との光透過率の差異によって、コア205によって光が伝播されることとなる。そこで、クラッドとして機能する多孔質酸化チタン1は、水素化させることによって光吸収率または透過率が変化することから、水素化されない状態における光の伝播状態と、水素化されて光吸収率または透過率が変化した状態における光の伝播状態とは異なるものとなる。従って、コア205によって伝播される光の状態の変化を検出することにより水素検知が可能となるものである。
【0093】
このように、多孔質酸化チタン3を積層すべき基部5には様々な性質の材料が想定され、これらの種類に応じて、当該基部5の肉厚(基材領域の範囲)は必然的に異なるものとなる。他方、多孔質酸化チタン1は、上記基部5の形状や水素検知体の形態等に応じて適宜肉厚を変化させることができる。このときの多孔質酸化チタン1の肉厚(酸化チタン領域の範囲)としては、1μm以上1mm未満の膜状とする場合のほか、1μm未満の薄膜状とする場合があり得る。さらに、1mm以上の肉厚に積層する場合もある。
【0094】
なお、光透過型および電気抵抗型ならびにこれらの併用型の水素検知体、さらに光ファイバを利用する水素検知体のいずれの形態においても、加熱等により温度上昇することがないため、室温において水素検知が可能である。これは、後述の水素センサに利用する場合も同様である。
【0095】
〔水素検知体の製造方法〕
次に、上述した水素検知体の製造方法を説明する。まず、水素検知体の第一の実施形態(以下、第一形態の水素検知体という。図3(a)参照)の製造方法について説明する。製造工程は、大別して二つの工程からなり、第一の工程はチタニアゾルの製造工程であり、第二の工程はチタニアゾルの熱処理を含む水素検知体の製造工程である。そこで、図5(a)は、多孔質酸化チタンを形成するためのチタニアゾルの製造工程を示し、図5(b)は、チタニアゾルを使用した第一の実施形態の水素検知体10を製造する工程を示している。なお、第一の工程であるチタニアゾルの製造工程は、上述した多孔質酸化チタン1の製造方法と同様であるので、その説明を割愛することとする。
【0096】
チタニアゾルを使用して水素検知体10を製造するためには、図5(b)に示すように、チタニアゾルを基部の表面にコーティングし、乾燥および低温における熱処理の後、金属触媒を析出させるものである。ここで、基部の表面上にコーティング方法は、スピンコート法、スプレーコート法およびディップコート法などを採用することができる。また、キャスティング法、バーコード法またはロールコート法などの種々の塗布法によることが可能である。なお、チタニアゾルのコーティングは、後の工程である低温処理を行った後に形成される多孔質酸化チタン層の膜厚を想定して、適宜塗膜の膜厚を調整するものである。
【0097】
チタニアゾルのコーティング終了後、室温下で1時間程度乾燥させ、引き続き低温処理を行う。低温処理は、上述の多孔質酸化チタンの製造方法と同様に、100°C以下の比較的低温の環境下における熱処理である。そして、本実施形態では、90°Cの温水を使用し、この温水に2時間程度浸漬することによって低温処理を行うものである。このように、100°C以下の温水に浸漬する熱処理のことを以下において温水処理と呼ぶ場合がある。温水処理では、常温(20°C程度)以上の温度であれば、チタニアゾルを処理することができるものであるが、温水の温度が低くなれば、処理速度は遅くなるため、浸漬時間を長くすることが必要となる。
【0098】
このようにして、基部の表面上に多孔質酸化チタンが積層されることとなる。このときの多孔質酸化チタンは、上述の場合と同様に、メソ孔およびマイクロ孔が内部に分散された状態で存在し、また、非結晶部分が混在する低結晶状態である。さらに、このときの結晶部分の結晶相は、専らアナターゼ相であるが、ルチル相やブルッカイト相が混在する場合もあることも前述と同様である。なお、ルチル相やブルッカイト相が混在する場合においては、アナターゼ相の比率が高い場合、次の工程による金属触媒の析出において、光触媒能を効率よく発揮させることができることが想定されるが、いずれの結晶相であっても金属触媒の析出は可能である。
【0099】
引き続き、多孔質酸化チタンに対する金属触媒の析出を行う。金属触媒の析出には、金属触媒付着工程と、紫外線照射工程とにより行われる。金属触媒付着工程では、水素吸着解離能を有する金属触媒の溶液を多孔質酸化チタンに付着させるものである。金属触媒溶液の付着は、金属触媒の溶液内に浸漬する方法によるほかに、当該溶液を多孔質酸化チタンに対してスプレーまたは塗布してもよい。金属触媒としては、パラジウム、白金、金、銀、ニッケル、ロジウムもしくはオスミウムまたはこれらの合金を使用することができる。パラジウムを使用した場合を例示して説明すると、塩化パラジウム水溶液とメタノールまたはエタノールなどの酸化犠牲剤を混合した溶液に、上記工程で生成した基部と多孔質酸化チタンとの積層体を浸漬して、当該溶液を多孔質酸化チタンに付着させることができる。なお、金属触媒の溶液内に浸漬する場合には、上記温水処理と兼ねることも可能である。すなわち、金属触媒の溶液を適宜温度とすることにより、乾燥後のチタニアゾルが溶液内で温水処理されるのである。このときの適宜温度としては常温(20°程度)以上であれば、前述の温水処理に使用する温水と同様の効果を得ることができる。
【0100】
さらに、多孔質酸化チタンに対して紫外線を照射する工程(紫外線照射工程)により、金属触媒を析出させるのである。酸化チタンは光触媒能を有することから、紫外線の照射によって、パラジウムが結晶化しつつ多孔質酸化チタンの表面に光電着され、結果的に当該パラジウムが多孔質酸化チタンの表面に析出されるのである。なお、この紫外線照射工程は、例えば、金属触媒の溶液内に浸漬させると同時に行っても、金属触媒の溶液を多孔質酸化チタンに付着させた後に行ってもよい。
【0101】
ここで、本実施形態において基部に積層した多孔質酸化チタンは、上述のとおり、内部にメソ孔およびマイクロ孔が分散して存在し、マイクロ孔が多孔質酸化チタンの表面からメソ孔に至る細道を形成することとなることから、パラジウムは、マイクロ孔を経由してメソ孔の内部表面にも析出することとなるのである。
【0102】
以上により、基部の表面上に多孔質酸化チタンを積層し、さらに、当該多孔質酸化チタンの表面のみならず、内部のメソ孔にもパラジウムを析出させた第一形態の水素検知体10を製造することができる。このような工程によって基部の表面に多孔質酸化チタンを積層し、さらに金属触媒を析出させる方法は、光ファイバのコアまたはクラッドについても同様に適用可能である。
【0103】
次に、水素検知体の第二の実施形態(以下、第二形態の水素検知体という。図3(b)参照)および第三の実施形態(以下、第三形態の水素検知体という。図3(c)参照)の製造方法を説明する。第二形態および第三形態の水素検知体20,30は、第一形態の水素検知体10に対し、さらに光反射層6が積層されたものであることから、基部と多孔質酸化チタンの積層体の製造、および、金属触媒の析出工程までは、水素検知体の第一の実施形態10を製造する場合と同様である。図6は、上記製造方法のチタニアゾルのコーティング以降の工程を示す図である。
【0104】
この図に示されているように、チタニアゾルのコーティング、乾燥、熱処理(温水処理)、塩化パラジウム水溶液とメタノールまたはエタノールの混合溶液への浸漬および紫外照射(金属触媒の析出工程)までは、前述と同様である。
【0105】
上記工程の終了時において、基部の表面に積層された多孔質酸化チタンに金属触媒が析出された状態である。そこで、次の工程としては、多孔質酸化チタンの表面に光反射層となるべき金属膜を積層するのである。金属膜としては、予め金属薄膜を作製し、これを多孔質酸化チタンの表面に貼着させる方法がある。金属薄膜としては、例えばアルミニウム薄膜があり、貼着方法としては接着による方法がある。
【0106】
また、円滑面を有する透明なプラスチック等の板材を多孔質酸化チタンの表面に重ね合わせ、さらにその表面にアルミニウム薄膜を貼着して平滑な光反射層を積層させることができる。多孔質酸化チタンは、熱処理工程等において多孔質化するため、その表面に凹凸が生じる場合もある。このような場合には、光の乱反射を回避するため、平滑な表面を有する板材を使用することが好適である。なお、透明な板材の重ね合わせには、多孔質酸化チタンの表面に直接貼着することもできるが、基部と上記板材とを機械的に積層させてもよい。機械的な積層とは、基部と板材の端部等を連結して両者を一体的に保持させる状態を意味する。
【0107】
以上に例示した積層工程を行うことにより、第二形態の水素検知体20(図3(b)参照)を製造することができる。なお、多孔質酸化チタンの表面に金属膜を積層する際には、当該多孔質酸化チタンの表面全体を金属膜で覆うのではなく、光を反射させるべき範囲に限定する。これにより、多孔質酸化チタンが水素に接触できる範囲を確保するのである。
【0108】
他方、基部の裏面に光反射層を積層する場合は、金属膜として、アルミニウム薄膜を基部の裏面に貼着することによることができる。さらに、製造工程の順序を一部変更し、基部の表面上にチタニアゾルをコーティングする前に、予め基部の裏面に光反射層を積層することも可能である。この場合には、当該裏面にアルミニウム薄膜が既に貼着された基部を使用してチタニアゾルのコーティングが行われることとなる。そして、このような工程において、基部が耐熱性を有するものである場合には、金属材料を蒸着することによって光反射層を積層することによることも可能である。なお、蒸着方法としては、スパッタリング、真空蒸着法またはイオンプレーティングなどがある。上記に例示した工程により、基板の裏面に光反射層を積層した水素検知体(第三形態の実施形態30、図3(c)参照)を製造することができる。
【0109】
上記のような製造方法により製造された各種の水素検知体は、周辺に水素ガスが存在するとき、金属触媒(上記例ではパラジウム)が水素ガスを吸着・解離し、原子状水素を酸化チタンに供給し、酸化チタンが水素化することにより光の透過率または反射率を変化させることとなるのである。そして、この光の透過率または反射率の変化を利用することにより、すなわち、一定の照度(光の強度)で光を照射するとともに、酸化チタンを透過した後の光の状態を観察することにより、水素センサとして応用することができるのである。
【0110】
なお、上記において説明した水素検知体の製造方法は、一般的な基材領域を有する基部の表面にチタニアゾルをコーティングすることを前提とする場合を例示している。しかし、基材領域(基部)の表面が特別な構成である場合には、製造される水素検知体は異なる構成となる。すなわち、例えば、基材領域(基部)の表面に導電性膜が積層されている場合には、チタニアゾルは導電性膜の表面にコーティングされることとなるが、製造される水素検知体は、基部と多孔質酸化チタンとの中間に導電性膜が存在する構成となる。また、基材領域(基部)を絶縁材料で形成したうえで、その表面の少なくとも二個所に導電性膜が積層されている場合は、チタニアゾルは絶縁材料の基部表面と導電性膜の表面の双方に連続した多孔質酸化チタンを積層させる構成とすることができる。
【0111】
〔水素センサ〕
上記水素検知体を使用した水素センサの実施形態について説明する。まず、上述の水素検知体10,20,30を光透過型または光反射型の検知体として使用する場合について説明し、その後に、電気抵抗型の検知体をして使用する場合について説明することとする。図7は水素検知体の第一の実施形態10を使用する光透過型の水素センサの概略を示し、図8は、第二または第三の実施形態20,30を使用する光反射型の水素センサの概略を示している。
【0112】
図7に示すように、光透過型の水素検知体10を使用する場合の水素センサは、水素検知体10と、この水素検知体10に対して光を照射できる光源7と、水素検知体10を透過した光を検出する光検出部8とで構成される。光検出部8は、受光部81と、この受光部81から入射される光のスペクトルを測定する分光器82とで構成され、透過光について所定波長の光の強度を測定できるようになっている。なお、この分光器82による測定値は、さらに分析装置83に出力される。分析装置83は、透過光の単一または複数の特定波長の光の強度が比較され、水素検知体10の光の透過率または反射率の変化が解析され、水素ガスの存否および濃度が判定される。
【0113】
この解析装置83による解析方法は、水素ガスの存在しない環境下における水素検知体10に光を照射した際の透過光の強度を基準とし、当該基準強度と比較して透過光の強度が変化した場合に水素ガスの存在を判定するものである。比較される透過光は特定の波長の光を使用するが、当該特定波長により、透過率または反射率の変化は異なる。640nm付近の波長(市販されている赤色LEDの波長に相当)の光が最も著しい透過率の変化があり、波長1000nm付近の近赤外光についても比較可能な変化があることから、これらの光を利用して水素検知を可能にすることができる。
【0114】
ここで、水素検知体10は、明るい場所で使用される環境下では、光を透過させない材質によるシールド9の内部に設置されることが好ましい。光源7からの光の照射のみを透過させるためである。そして、光が照射される位置と放出される位置にのみ光が通過できる窓91,92が設けられ、光の照射側の窓91には、光源7の光を照射するための光ファイバ71の先端が配置され、その他端は光源7に連続している。光源7としては各種使用できるが、本実施形態では白色LEDまたはハロゲンランプを使用している。
【0115】
また、光が放出される側の窓92にも光ファイバ84の先端が配置され、その他端には光検出部7の受光部81が連続しており、シールド9の内部において水素検知体10を透過した光が受光部81まで伝播できるようになっている。
【0116】
なお、シールド9には、気体の供給部93および排出部94が設けられ、水素ガスの混入を検知すべき気体(水素ガスの混入のおそれのある気体、以下、被検出気体という)をシールド9の供給部93から強制的に流入させるとともに、排出部94からシールド9の外方に排出させることができるようになっている。そこで、継続的に被検出気体をシールド9に強制的に供給しつつ、水素検知体10を透過する光の強度を計測することにより、その強度の変化によって透過率または反射率の変化を比較すること、すなわち、水素ガスの検知をすることができる。このようにして、順次供給される気体から水素ガスの有無が継続的に検知されるのである。また、この解析手段83に警報装置を接続することによって、水素ガスを検知した際に警報音を発生させることも可能である。
【0117】
光反射型の水素検知体20,30を使用した水素センサでは、図8に示すように、光源7に連続する光ファイバ71と、光検出部8に連続する光ファイバ84の先端とが、水素検知体20,30の同じ面に向かって配置された構成である。このときの水素検知体20は、光ファイバ71を経由して照射される光源7の光が、多孔質酸化チタンを透過した後、光反射層によって反射されるように、多孔質酸化チタンを当該光ファイバ71の先端に近い側とし、光反射層を光ファイバ71の先端から遠い側となるように向けられる。また、光検出部8に連続する光ファイバ84の先端の位置は、光反射層によって反射された光を受光することができるように、光反射層の表面に対して照射される光の入射角に応じて調整されている。
【0118】
このような構成の水素センサは、照射された光が光反射層に到達する前に多孔質酸化チタンを通過し、光反射層により反射した後も多孔質酸化チタンを通過することとなる。従って、照射された光が多孔質酸化チタンを二度通過することから、多孔質酸化チタンの透過率または反射率の変化が顕著となり得る。特に、多孔質酸化チタンを薄膜状に積層した場合には、薄膜であるにもかかわらず光が透過する光路長を拡大させることとなり、透過光の強度の変化を十分に測定することができる。
【0119】
なお、光検出部8における光のスペクトル測定、その測定値の解析のための解析装置83への出力、および当該解析装置8における解析方法については、上述の光透過型の水素検知体10を使用する場合と同様である。
【0120】
また、光反射型の水素検知体20,30においても、水素センサを明るい環境下において使用する場合には、やはり、光を通さない材質によるシールド109の内部に設置される。このシールド109は光透過型の水素検知体を使用する場合とは異なる。すなわち、当該シールド109には、単一の窓191が開口されており、光照射および光放出の両方に供されている。
【0121】
さらに、第一形態の水素検知体10のうち、基部が光を反射できる材質で構成されている場合には、上述の第二形態および第三形態の水素検知体20,30と同様に光反射型として使用することができる。この場合、当然のことながら、多孔質酸化チタンは光源7に連続する光ファイバ71の先端に近い側とし、基部は当該光ファイバ71の先端から遠い側に向けられるものである。
【0122】
また、光ファイバのコアまたはクラッドを基部として多孔質酸化チタンを積層した水素検知体を使用する水素センサについて、図9に概略を示す。図9(a)はクラッドを基部としたものであり、図9(b)はコアを基部としてものである。これらの図に示すように、この水素センサでは、照射する光源7と、この光源を光検出部8との間において、部分的に水素検知体が形成されている。光源7に接続される光ファイバ71は、光検出部8に接続される光ファイバ84と共通しており、その中間において多孔質酸化チタン1が積層されることによって水素検知体として機能させている。この水素検知体は、光源7に接続される光ファイバ71および光検出部8に接続される光ファイバ84と分離して構成してもよく、この場合、光源7の光を連続して光検出部8までの間を伝播させることができるように接続してもよい。
【0123】
上記のような構成においては、上述のシールド9によって水素検知体を包囲する必要がなく、水素を検出させる必要のある場所に設置することによって、容易な測定が可能となる。また、光ファイバは湾曲させることも可能であるから、狭スペース内における設置も可能となる。
【0124】
次に、電気抵抗型の水素検知体として使用する場合の水素センサについて説明する。図10は、その概略を示す図である。この図に示すように、第一形態の水素検知体10のうち、多孔質酸化チタン1の表面上に適宜間隔で電極181,182を設け、この電極間の抵抗値を検出するものである。この電極181,182は、電気抵抗値測定器108に接続される。電気抵抗値測定器108は、所定電圧を印加できる電源を備え、両電極181,182の間における電気抵抗が測定できる(電気抵抗検出部として機能する)ものである。
【0125】
また、上記電気抵抗値測定器108により測定された測定値は、解析装置183に出力されて、電気抵抗値の変化を解析することができる。具体的には、水素ガスの存在しない環境下における両者1,5間の電気抵抗値を基準とし、水素検出時における電気抵抗値の増減を比較するのである。水素検知体10の周辺に水素ガスが存在しない場合の電気抵抗値は基準値と同じ値となるが、水素ガスが存在する場合には、触媒により吸着・解離された水素と酸化チタンが反応し、酸化チタンが水素化することによって電気抵抗値が変化することとなる。そこで、この電気抵抗値の変化によって水素の存在を判定するのである。
【0126】
上記水素センサの変形例を説明する。第一形態の水素検知体10のうち、基部が導電性材料である場合には、図11に示すように、基部5に片方の電極181を接続するとともに、多孔質酸化チタン1の表面に他方の電極182を接続し、この両電極181,182の間の電気抵抗値を電気抵抗値測定器108によって検出させる構成とすることができる。このような構成の場合には、多孔質酸化チタン1の電気抵抗値を含む全体の電気抵抗値を測定することができる。そして、この場合、基部5の電気抵抗値も同時に計測されることとなるが、基部5は水素の存否によって変化しないことから、実質的に多孔質酸化チタンの電気抵抗値の変化が解析されるのである。
【0127】
さらに、この水素センサについては、基部5と多孔質酸化チタン1との中間に導電性膜が積層された水素検知体において、導電性膜に電極181を接続する構成がある。この場合には、他方の電極182は多孔質酸化チタン1の表面に接続させることから、当該多孔質酸化チタンの電気抵抗値を検出することが可能となる。そして、このような構成とする場合には、基部5が導電性材料で構成する必要がないのである。
【0128】
次に、第二の水素センサの例を説明する。この水素センサは、図12に示すように、水素検知体としては、絶縁材料で構成された基部5の表面に導電性膜51,52が二個所積層されており、それを跨ぐように多孔質酸化チタン1が積層されているものが使用されている。そこで、これらの導電性膜51,52に電極181,182を接続することにより、多孔質酸化チタン1の電気抵抗値を検出することができるのである。
【0129】
さらに、上記水素センサの第三の例を説明する。これは、第二形態の水素検知体20を使用するものである。この水素センサを図13に示す。この図に示されているように、上記第二形態の水素検知体20は、多孔質酸化チタンが基部5と光反射層6との間に存在する構成であることから、基部5および光反射層6がともに導電性材料である場合には、電気抵抗値測定器108の電極を基部5および光反射層6に接続することにより、多孔質酸化チタンの電気抵抗値を測定することができるものである。この場合においても、当然に基部5および光反射層6の電気抵抗値が含まれて計測されることとなるが、水素ガスに反応して電気抵抗値が変化するのは多孔質酸化チタン1であるから、全体的な電気抵抗値の変化を検出することにより、水素検知を可能にするものである。
【0130】
〔光電変換素子〕
他方、光電変換素子を構成する場合は、透明導電膜上に上記多孔質酸化チタンを積層し、上記パラジウム等の金属触媒に代えて色素(色素増感剤)を上記多孔質酸化チタンのメソ孔内に担持させればよい。具体的には、太陽電池を構成する電極のうち、片方電極の電解質側に設置される透明導電膜にチタニアゾルをコーティングし、乾燥後に100°以下の温水内で熱処理することにより、当該透明導電膜上に多孔質酸化チタンを積層する。この多孔質酸化チタン層の内部に分散して存在するメソ孔に対して、色素を担持させるのである。色素としては、金属錯体色素、有機色素または無機色素の中から選択することができる。金属錯体色素としては、銅フタロシアニンなどの金属フタロシアニンのほかに、ヘミン、ルテニウム、オスミウムまたは鉄などの錯体から選択することができる。
【0131】
上記の光電変換素子によれば、色素(色素増感剤)は、多孔質酸化チタンの内部に分散して存在するメソ孔内に析出されることとなるから、多孔質酸化チタンの表面に設けられる還元剤(例えば、ヨウ素電解質溶液)によって色素増感剤の還元作用を抑制することができる。従って、色素増感剤により励起した電子を十分に吸収できることとなる。
【0132】
本発明の実施形態は、上記のとおりであるが、実施形態で説明した構成は一例であって、これに限定されるものではないことを付言する。
【実施例】
【0133】
次に、多孔質酸化チタンの実施例について説明する。上述の製造方法により多孔質酸化チタンを形成し、当該多孔質酸化チタンの状態を観察した。具体的には、図5に示した製造工程に従って多孔質酸化チタンを形成し、X線回折装置(XRD)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて解析した。さらに、パラジウムを析出させた状態(水素検知体)についても同様に解析した。
【0134】
チタニアゾルは、テトラノルマルブトキシチタン(Ti(O−nBu))にエタノールを加えて攪拌し、さらに、希塩酸、エタノールおよびアセト酢酸エチルを加えて攪拌して生成した。このときの添加量は、一例として上述したように、希塩酸は、3%前後に希釈し、テトラノルマルブトキシチタン:エタノール:希塩酸:アセト酢酸エチル=1:20:1:1の重量割合で混合した。ポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を上記ゾルに添加してもよいが、本実施例では添加しないこととした。上記チタニアゾルを透明なガラスによる板状の基部(以下、この種の基部を基板という)の表面上にスピンコート法によりコーティングし、室温下で1時間乾燥させ、さらに、90°C以下の温水に2時間浸漬した。
【0135】
上記多孔質酸化チタンにおけるX線回折パターンのグラフを図14に示し、TEM像を図15(a)に示す。このX線回折パターンから明らかなとおり、製造された酸化チタンには結晶化を示す明確な回折ピークを示していない。また、TEM像から酸化チタンが部分的に結晶化(白色部分)が存在していることが確認できる。また、酸化チタンの内部には分散されたメソ孔およびマイクロ孔(黒色部分)が存在していることも確認することができる。このように、低温の環境下で処理された酸化チタンは、X線回折パターンでは結晶の存在を確認できないが、透過型電子顕微鏡によって結晶が確認できる程度の結晶状態(これを低結晶状態という)である。そして、メソ孔およびマイクロ孔(両者を併せて細孔という場合がある)が内部に分散されて存在していることから、このような状態の酸化チタンのことを多孔質酸化チタンと称している。なお、上記のような結晶状態では、結晶部分がアナターゼを含む状態であれば、ルチルやブルッカイトを含むものであってもよい。アナターゼの他にルチルやブルッカイトが混在する場合でも、回折パターンにおいて結晶化を示すピークが現れない程度の低結晶状態であることから、酸化チタン内部の多孔質の状態に差異が生じるものではない。
【0136】
次に、上記多孔質酸化チタンにパラジウムを析出させた。パラジウムを析出させるためには、塩化パラジウム水溶液と、酸化犠牲剤としてのメタノールとを混合した溶液に、基板と多孔質酸化チタンとの積層物を浸漬しつつ、紫外線を1時間照射した。この状態の多孔質酸化チタンの状態をX線回折および透過型電子顕微鏡によって解析した。
【0137】
X線回折パターンのグラフを図14に示し、TEM像を図15(b)および(c)に示す。この回折パターンにはパラジウムの結晶(111)面を示すピークが表れているが、酸化チタンの結晶はやはり確認されない。また、チタン元素をマッピングしたTEM像(図15(b))では、チタン元素が存在しない部分(黒色部分)の存在が確認でき、パラジウムをマッピングしたTEM像(図15(c))では、酸化チタンの内部においてパラジウム(白色部分)が分散して存在していることが確認できた。
【0138】
〔実験例〕
次に、前記実施形態で説明した第一形態の水素検知体10および第二形態の水素検知体20に関する実験例について説明する。実験の趣旨は、本実施形態の構成によって水素ガスを検知できるか否かを検証するものである。
【0139】
〔実験方法〕
光透過型の水素検知体10および光反射型の水素検知体20を使用する場合の水素センサとして、既に実施形態において説明した構成と同様の実験装置を製造し、水素検知体10,20が光透過率または光反射率を変化させるか否かを実験する。光透過型の水素検知体10および光反射型の水素検知体20は、いずれも上記実施例における製造方法によりガラス基板上に酸化チタンを積層し、パラジウムを析出されたものを使用しているが、光反射型の水素検知体20は、ガラス基板の裏面にさらに金属薄膜(アルミニウム薄膜)を積層したものを使用している。実験装置としては、光透過型の水素検知体10については図16に示すものを使用し、光反射型の水素検知体20については図17に示すものを使用している。実施形態において説明した水素センサと異なる点は、気体の導入部93,193に対し、水素ガスと空気のいずれか一方または混合気体を供給できるようにしている。これらの気体の供給を切り換えるために、空気の供給管にはバルブ95,195が、水素の供給管にはバルブ96,196が備えられている。なお、光検出部8による測定値は、解析装置83に出力され、この解析装置83によって透過光または反射光の状態が解析される。実験用の解析装置83としてはパーソナルコンピュータを用いており、多数の波長の光を同時に解析している。いずれの実験も、特に加熱等することなく室温下で行った。比較実験では、パラジウムを析出する前の状態を試料として使用している。
【0140】
〔実験例1〕
まず、図16に示す実験装置により、水素ガスを供給した状態における可視光および近赤外光の透過率を波長について検出した。その結果を図18に示す。この結果から明らかなとおり、特定波長の光について透過率が大きく減少していることがわかる。この実験結果から判断されることは、640nm付近の波長(市販されている赤色LEDの波長に相当)の光について最も著しい透過率の変化があることである。また、波長1000nm付近の近赤外光においても光透過率の減少を確認することができた。
【0141】
〔実験例2〕
次に、図17に示す実験装置により、上記と同様の実験を行った。その結果を図19に示す。この実験結果からも特定波長の光については反射率が大きく減少している。この実験結果によれば、660nm付近の波長の光が最も大きく反射率を減少させているが、640nm付近の波長の光についても反射率が十分に減少している。さらに、近赤外光の領域である1000nm付近の波長についても反射率の減少を確認することができた。
【0142】
上記の両結果から、実験に使用した水素検知体A,Bについては、640nm付近の波長の光を使用すれば、水素ガスを高感度にて検知することができることが判明した。さらに、可視光のみならず、近赤外光を使用することによっても水素ガスの検知が可能であることが判明した。
【0143】
〔実験例3〕
次に、図16および図17に示す実験装置を使用して、導入部93,193からシールド9,109に対して、水素と空気を交互に供給し、そのときの640nm付近の波長の光の透過率および反射率を測定した。透過率についての結果を図20に示し、反射率についての結果を図21に示す。図中の「HON」とは、シールド内に水素ガスの供給を開始した時点を示し、「HOFF」とは水素の導入をやめて空気の供給を開始した時点である。
【0144】
この結果から、水素ガスの供給を開始した直後に光の透過率および反射率が大きく減少し、また、水素ガスから空気に切り換えると間もなく光の透過率および反射率は回復している。従って、水素ガスが水素検知体10,20の近傍に存在すれば、速やかに水素ガスの存在が検出できることが判明した。また、水素ガスが消失すれば、しばらく後には元の状態に復元していることが判明した。つまり、水素ガス検出後、水素ガスが消失することにより、水素ガスの不存在(安全性)をも検知することができるのである。
【0145】
〔比較実験〕
次に、100°C以下の温水で処理した多孔質酸化チタンにパラジウムを析出した水素検知体と、高温で処理した酸化チタンにパラジウムを析出したものとの比較実験を行った。高温で処理したものは、チタニアゾルを乾燥した後、400°Cで処理したことを除き、温水で処理の場合と同じ条件で作製した。この実験では、光の透過率の変化のみを測定するため、水素検知体は、光透過型の水素検知体20のみを使用した。
【0146】
上記実験の結果を図22に示す。この図に示すように、高温で処理した酸化チタン層を使用したものは、水素検知時における光透過率が増加している。これは、酸化チタンの表面にパラジウムが析出されていることから、水素を吸着しない状態での光透過率が低く、パラジウムが水素を吸蔵したことにより、金属水素化物が生成したことで、光透過率を向上させていると判断される。その一方で、パラジウムに吸着した水素の一部が酸化チタンを水素化するため、光透過率は減少することとなるが、両作用が相殺されることによって、僅かに光透過率が増加した状態となる。そのため、光透過率の変化量は極めて僅少となる。
【0147】
〔実験例4〕
最後に、透明なプラスチック基板上に多孔質酸化チタンを積層した構成の光検知体についても実験した。実験は、上述の実験方法において説明したガラス基板に代えてプラスチック基板を使用したものである。基板の変更以外は、上述の実験方法と同様である。なお、この実験では光の反射率を測定するため、光反射型の水素検知体20の構成のものを使用した。
【0148】
上記実験の結果を図23に示す。この実験の結果から、プラスチック基板を使用した水素検知体を使用した場合であっても、十分に光の反射率が低下したことが判明した。従って、耐熱性に劣るプラスチック樹脂を基板として使用した場合であっても同様に水素検知体として機能するものである。なお、ガラス基板を使用した際の光の反射率(図14参照)よりも僅かに光反射率の低下率が悪かったように見えるが、酸化チタンを高温で処理した場合の水素透過率の変化に比較して顕著な変化を把握することができることから、水素検知体として十分に実用的である。
【符号の説明】
【0149】
1 多孔質酸化チタン
2 メソ孔
3 マイクロ孔
4 金属触媒(パラジウム)
5 基部
6 光反射層(金属層)
7 光源
8 光検出部
9,109 シールド
10 第一形態の水素検知体
20 第二形態の水素検知体
30 第三形態の水素検知体
81 受光部
82 分光器
83,183 解析装置
93,193 導入部
105 クラッド
108 電気抵抗値測定器
181,182 電極
205 コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶部分と非結晶部分とが混在してなる低結晶状態の酸化チタンであって、内部に分散された第一の細孔と、この第一の細孔よりも微細で、該第一の細孔に連続しつつ内部において連鎖する第二の細孔とが形成されていることを特徴とする多孔質酸化チタン。
【請求項2】
前記第一の細孔は、前記第二の細孔の連鎖によって表面に連通していることを特徴とする請求項1に記載の多孔質酸化チタン。
【請求項3】
前記結晶部分が、アナターゼ相の単相であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質酸化チタン。
【請求項4】
前記結晶部分が、アナターゼ相およびルチル相またはブルッカイト相の混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔質酸化チタン。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンをチタニアゾルから製造する方法であって、前記チタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された気体中に曝露することにより熱処理する工程とを含むことを特徴とする多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンをチタニアゾルから製造する方法であって、前記チタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された温水中に浸漬することにより熱処理する工程とを含むことを特徴とする多孔質酸化チタンの製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の多孔質酸化チタンを使用する水素検知体であって、前記多孔質酸化チタンにより形成される酸化チタン領域と、この酸化チタン領域の内部に分散される少なくとも前記第一の細孔内に担持された水素吸着解離能を有する金属触媒とを備えることを特徴とする水素検知体。
【請求項8】
前記金属触媒が、パラジウム、白金、金、銀、ニッケル、ロジウム、もしくはオスミウムまたはこれらの合金であることを特徴とする請求項7に記載の水素検知体。
【請求項9】
前記酸化チタン領域は、薄膜状に形成された多孔質酸化チタン薄膜であることを特徴とする請求項7または8に記載の水素検知体。
【請求項10】
前記酸化チタン領域は、光透過性を有する材料によって形成された基材領域に積層されていることを特徴とする請求項7ないし9に記載の水素検知体。
【請求項11】
前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方には、光を反射する材料によって形成される光反射層が適宜配置されていることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の水素検知体。
【請求項12】
前記酸化チタン領域の表裏両面のうちの少なくともいずれか一方には、導電性を有する材料によって形成される導電領域が適宜配置されていることを特徴とする請求項7ないし11に記載の水素検知体。
【請求項13】
前記酸化チタン領域は、光ファイバのコアまたはクラッドの表面に積層されていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の水素検知体。
【請求項14】
基材領域の少なくとも一部にチタニアゾルを塗布する工程と、このチタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された気体中に曝露することにより熱処理する工程とを含み、多孔質酸化チタンを形成させる酸化チタン領域形成工程と、
上記多孔質酸化チタンに水素吸着解離能を有する金属触媒の溶液を付着させる金属触媒付着工程と、
上記金属触媒の溶液が付着した多孔質酸化チタンに対し紫外線を照射する紫外線照射工程と
を含むことを特徴とする水素検知体の製造方法。
【請求項15】
基材領域の少なくとも一部にチタニアゾルを塗布する工程と、このチタニアゾルを乾燥させる工程と、100°C以下の任意な温度に維持された温水中に浸漬することにより熱処理する工程とを含み、多孔質酸化チタンを形成させる酸化チタン領域形成工程と、
上記多孔質酸化チタンに水素吸着解離能を有する金属触媒の溶液を付着させる金属触媒付着工程と、
上記金属触媒の溶液が付着した多孔質酸化チタンに対し紫外線を照射する紫外線照射工程と
を含むことを特徴とする水素検知体の製造方法。
【請求項16】
請求項10または11に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、前記水素検知体と、この水素検知体を構成する酸化チタン領域に対して光を照射する光源と、前記水素検知体を透過または反射した光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【請求項17】
請求項12に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、前記水素検知体と、この水素検知体を構成する酸化チタン領域に通電可能な電源と、前記酸化チタン領域の電気的な抵抗値変化を検出する電気抵抗検出部とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【請求項18】
請求項13に記載の水素検知体を使用する水素センサであって、光ファイバと、この光ファイバに連続し、または、この光ファイバの一部に構成された前記水素検知体と、前記光ファイバ内に光を供給する光源と、前記光ファイバ内を通過した後の光を検出する光検出部とを備えたことを特徴とする水素センサ。
【請求項19】
請求項1ないし3のいずれかに記載の多孔質酸化チタンを使用する光電変換素子であって、透明導電性基板上に前記多孔質酸化チタンを積層し、この多孔質酸化チタンの内部に分散される細孔のうち少なくとも前記第一の細孔内に色素を担持させてなることを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−96965(P2012−96965A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246895(P2010−246895)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】