説明

多層シートの製造装置および製造方法ならびに多層シート

【課題】 単層ダイとフィードブロックを組み合わせて多層シートを製膜する際、各層の厚みが不均一とならない多層シートの製造装置および押出方法を提供すること。
【解決手段】 単層ダイの上流側に設けたフィードブロックにより少なくとも2種類の溶融樹脂を5層以上合流させて単層ダイから押出して多層シートとする多層シートの製造装置において、単層ダイには溶融樹脂を供給部からダイ幅方向に広げてダイ端部に導くマニホールドが設けられており、マニホールドの供給部における断面積をS1、ダイ端部における断面積をS2とするとき、1.5<S1/S2<5であることを特徴とする多層シートの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層シートの製造装置および製造方法ならびに多層シートに関する。さらに詳しくは、単層ダイとフィードブロックを組み合わせて多層シートを製膜する際、単層ダイの幅方向の各位置で各層の厚みが不均一とならない多層シートの製造装置および製造方法ならびに多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の多層シートを製造する方法の1つに共押出法があり、この方式としてマルチマニホールド方式とフィードブロック方式がある。マルチマニホールド方式は複数の溶融樹脂の流れがそれぞれのマニホールドに入り別々に幅方向に展開されてダイの出口直前で合流するものである。他方フィードブロック方式は複数の溶融樹脂の流れをフィードブロック内で合流させてからダイのマニホールドで幅方向に展開するものである。
【0003】
しかし、マルチマニホールド方式のダイはダイの構造の複雑で1台当たりの価格が高く、また多種多様な銘柄を製造するには製品幅ごとに大きさや幅のことなるダイを保有しなければならず、汎用性がない。また、単層ダイを用いてフィードブロック方式により多層シートを共押出しする方法は、安価である反面、シート幅方向の各層厚みの分布を制御するのが非常に難しい。
【0004】
多層シートの共押出装置で各層間の幅方向の溶融樹脂量を制御し多層シートの各層の厚みを制御する方法が、特開平7−241897号公報に提案されている。すなわち、フィードブロック内に設けた層厚調整具の切り欠き形状を変化させることで樹脂が流れる流路幅を調整し、流量を局部的に変化させ多層シートの各層の幅方向の厚み分布を均一にしようとする押出装置である。しかし、この方法では樹脂の組み合わせや吐出量の条件に変更があった場合、銘柄に応じて層厚調整具の形状を変更する必要があり、従ってフィードブロックを交換するロスを生じる問題がある。また、2層や3層シートであればそれぞれの流路に層厚調整具を取り付け厚みを調整できるが、200層や300層の多層シートになると個別に層厚調整具を取り付けることは困難である。
【特許文献1】特開平7−241897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は多層シートの押出装置を開発するに当たり、従来のダイでは図6(b)に示すように、201層シートでも同じように各層の厚みの分布がフィード側の位置で変化してしまい、これによってシートの性能が満足できず幅歩留まりが悪い問題があることを知見した。
【0006】
本発明の課題は、単層ダイとフィードブロックを組み合わせて多層シートを製膜する際、各層の厚みが不均一とならない多層シートの製造方法および押出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、単層ダイの上流側に設けたフィードブロックにより少なくとも2種類の溶融樹脂を5層以上合流させて単層ダイから押出して多層シートとする多層シートの製造装置において、単層ダイには溶融樹脂を供給部からダイ幅方向に広げてダイ端部に導くマニホールドが設けられており、マニホールドの供給部における断面積をS1、ダイ端部における断面積をS2とするとき1.5<S1/S2<5の条件を満足することを特徴とする多層シートの製造装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、単層ダイとフィードブロックを組み合わせて多層シートを製膜する際、幅方向に各層の厚みが均一な多層シートおよび多層フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この製造装置においては、より均一な層厚分布を得るために、マニホールドの幅が一定でマニホールドの高さHが変化することによりマニホールドの断面積がダイ幅方向に変化していることが好ましく、その際マニホールドの高さは3〜200mmの範囲で変化していることが好ましく、単層ダイはサイドフィード式であることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、上記の製造装置を用いて少なくとも2種類の溶融樹脂を5層以上の多層に積層し、そのあと積層された溶融樹脂をダイからシート状に吐出して多層シートを得る多層シートの製造方法、およびこの製造方法により製造された多層シートが提供される。
【0011】
以下、図面を引用して本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の一つの実施形態の例示である。多層シートの押出装置のうち押出機からキャスティングドラムまでを示している。
【0012】
多層シートの押出装置は、多層シートの内層となる樹脂の流れ方向の上流側から順に押出機1、ギアポンプ2、フィルター3、ポリマーパイプ4a、同様に多層シートの表層となる樹脂の流れ方向の上流側から順に押出機5、ギアポンプ6、フィルター7、ポリマーパイプ4bとなっており、フィードブロック9の内部で2つの溶融樹脂を合流させ単層ダイ10からシート状に溶融樹脂11を多層シートとして押し出す構成となっている。
【0013】
樹脂として例えばポリエチレンテレフタレートを用いる場合には、さらにキャスティングドラム8で冷却して未延伸多層シートとし、図示しない延伸装置によって縦延伸および/または横延伸を施して多層フィルムとすることができる。
【0014】
図4は201層フィードブロック9の構造を示す斜視図であり、隔壁と隔壁の間の狭い流路16aおよび16bに表層の樹脂と内層の樹脂を交互に流し合流させるものを例示している。
【0015】
図2は本発明の一つの実施形態の例示である。フィードブロックと単層ダイの正面図、およびダイの側面図を示している。単層ダイ10はサイドフィード式であり、ダイの片側に樹脂の供給口12を有するものを例示している。また13は単層ダイのマニホールド、14はリップの樹脂吐出口である。マニホールドをダイ幅方向に流れる樹脂の流量のうち、ダイ供給口の断面B−Bの流量をQ1、ダイ端部の断面C−Cの流量をQ2とするとQ1>Q2となっている。Q1とQ2には大きな差がなことが好ましい。各断面おける平均流速に極端に差があると、吐出口14から押出されるシートの各層厚みが図6(b)のように単層ダイのフィード側で厚み方向に変化してしまう。
【0016】
図3にマニホールドの断面B−Bと断面C−Cの図を示す。S1とS2はマニホールドの断面積である。本発明においては、マニホールドの断面積の比S1/S2を1.5〜5とすることにより、図6(a)に例示したように201層シートの各層の厚みを幅方向に均一化できる。断面C−Cはダイ幅Lのうち供給口のフィード側から(3/4)Lの位置にあるものとする。吐出口14から流量が均一に吐出されている場合、Q2は(1/4)Q1となり、S1=4・S2であれば平均線速度が一定となる。各層を幅方向に均一にするためのマニホールドの断面積の比S1/S2は1.5〜5、好ましくは2〜4である。5より大きくても1.5より小さくても各層の厚みが幅方向に不均一になる。
【0017】
マニホールドの断面積は高さHを変化させることにより変化させることが好ましい。同時にマニホールドの幅を変えても良いが加工が複雑となる。高さHは3〜200mmの範囲で変化させることが好ましく、200mmを超えるとダイ内での樹脂の滞留時間が長くなり樹脂が劣化しやすくなる。
【0018】
本発明の効果は供給部12がダイの片側一方にあるサイドフィード式ダイで顕著に発現するため、サイドフィード式ダイを用いることが好ましい。この他、供給部がダイの中央にあるTダイであっても問題なく適応できる。この場合は、ダイの幅Lの幅方向中央の断面積をS1とし、ダイ両端から(1/8)・Lの位置の断面積をS2とする。
【0019】
本発明において、図6(a)のように各層の厚みが幅方向に均一な多層シートを製造でき、断面において樹脂の屈折率差と界面による多重干渉を利用して、ある特定の波長を反射したり、可視光のある波長を反射することで色付きシートを製造できる。図5は、図6(b)のように201層シートの幅方向に各層厚みに分布ができてしまう場合の反射率を測定したものであり、(a)はシート幅方向のセンター、(b)はシート幅方向のフィード側の反射率である。センター(a)では反射波長が約550nmでピークをもち緑色の波長を反射をできているが、フィード側では各層厚みの比率が図6(b)のように変化するため、反射率が低くピークもはっきりしないためシートに赤、緑、青の混在した色ムラがでてしまう問題があった。このような色ムラを本発明を適用することで解消できる。
【0020】
本発明において多層シートを構成する樹脂は、延伸可能なポリマーを主成分とする熱可塑性樹脂を用いることができ、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのような芳香族ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリスチレンのようなポリビニル、ナイロン6(ポリカプロラクタム)、ナイロン66(ポリ(ヘキサメチレンジアミン−co−アジピン酸))のようなポリアミド、ビスフェノールAポリカーボネートのような芳香族ポリカーボネート、ポリスルフォン等の単独重合体或いはこれらの共重合体を主成分とする樹脂を挙げることができる。共重合成分としては、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、2,6−ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートを例示できる。上記熱可塑性樹脂の中では、延伸による分子配向が可能な芳香族ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミドが好ましく、分子が二軸配向した際に光学的、機械的、熱的特性が優れたものになるポリエチレン−2,6−ナフタレートも好ましい。これらの樹脂には、必要に応じて対候材や滑材、帯電防止剤、顔料などの添加剤が配合されていても良い。
【0021】
本発明の多層シートは、従来から知られ用いられる方法で未延伸の多層シートを所定の温度で、縦および/または横方向に延伸し、所定の温度で熱処理し、必要によっては熱弛緩処理し、また必要によっては再縦および/または再横延伸し巻き取り、多層フィルムとすることができる。多層フィルムの製造工程中、または製造後にフィルムに塗液を塗布し乾燥する工程を設けても良い。
【実施例】
【0022】
以下、実施例によって本発明を更に説明する。尚、例中の物性値の測定は下記の方法とした。
(1)201層シートの反射率の測定
島津製作所製分光光度計MPC−3100を用い、各波長でのアルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を波長350〜2100nmの範囲で測定した。波長が450〜650nmのうち反射率の最大値を読みとった。
【0023】
[実施例1]
図1に示す構成の押出装置、図3に示す単層ダイ、図4に示す201層フィードブロックを用い製膜した。
【0024】
表層の原料樹脂として固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を、内層側の樹脂として固有粘度(オルトクロロフェノール、35℃)0.64dl/gのイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートで共重合成分が12モル%のものをそれぞれ準備した。
【0025】
内層の原料樹脂を押出機1に投入し、ギアポンプ2で80Kg/hrに計量、続くフィルター3で濾過しおよそ280℃の温度でフィードブロックに導いた。一方、表層側の原料は押出機5に投入し、ギアポンプ6で120Kg/hrに計量、続くフィルター7で濾過しおよそ280℃の温度でフィードブロックに導いた。
【0026】
次いで吐出幅が600mm、S1=1495mm2、S2=792mm2、S1/S2=1.89の単層ダイ10から押し出して多層シートとし、これを115℃、3.5倍で縦延伸した後、125℃、4倍で横延伸し、更に160℃で熱固定し、両端の耳を100mmずつ切り落とした後、製品部の2層フィルムを得た。
【0027】
得られた厚み16μmのフィルムの幅方向うちダイのフィード側の端から100mm、センター、もう一方の端から100mm(反フィード)の各3箇所で前述の反射率を測定し表1に示した。これは幅方向に反射率が均一な201層フィルムであった。
【0028】
[比較例1]
S1=1495mm2、S2=1112mm2、S1/S2=1.34の単層を用いた以外は実施例1と同様に製膜した。結果を表1に示した。得られた201層フィルムはフィード側の反射率が小さく、他の部分に比べて色も薄かった。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の製造措置および製造方法は多層フィルム、特に超多層フィルムの製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一つの実施形態を例示した多層シートの押出装置のうち押出機からキャスティングドラムまでを示している。
【図2】本発明の一つの実施形態を例示したフィードブロックと単層ダイの正面図、およびダイの側面図を示している。
【図3】本発明の一つの実施形態を例示したダイの断面図である。
【図4】201層フィードブロックの斜視図である。
【図5】各層厚みに分布がある場合の201層フィルムの可視光反射率を測定した結果の図であり、(a)はフィルムセンターの反射率、(b)はフィード側の反射率である。
【図6】図2のD−D断面における201層フィルムの図であり、(a)は層構成が正常な場合、(b)は各層厚みに分布がある場合である。
【符号の説明】
【0032】
1:内層側の押出機
2:内層側のギアポンプ
3:内層側のフィルター
4a:内層側のポリマーパイプ
4b:表層側のポリマーパイプ
5:表層側の押出機
6:表層側のギアポンプ
7:表層側のフィルター
8:キャスティングドラム
9:フィードブロック
10:単層ダイ
11:多層シート
12:ダイへの供給部
13:マニホールド
14:吐出口
16a:表層側の樹脂流路、または表層側の樹脂
16b:内層側の樹脂流路、または内層側の樹脂
A−A:フィードブロックの断面位置
B−B:ダイのフィード側の断面位置
C−C:ダイの反フィード側の断面位置
H:マニホールドの高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層ダイの上流側に設けたフィードブロックにより少なくとも2種類の溶融樹脂を5層以上合流させて単層ダイから押出して多層シートとする多層シートの製造装置において、単層ダイには溶融樹脂を供給部からダイ幅方向に広げてダイ端部に導くマニホールドが設けられており、マニホールドの供給部における断面積をS1、ダイ端部における断面積をS2とするとき1.5<S1/S2<5の条件を満足することを特徴とする多層シートの製造装置。
【請求項2】
マニホールドの幅が一定でマニホールドの高さHが変化することによりマニホールドの断面積がダイ幅方向に変化している、請求項1記載の多層シートの製造装置。
【請求項3】
マニホールドの高さが3〜200mmの範囲で変化している請求項2記載の多層シートの製造装置。
【請求項4】
単層ダイがサイドフィード式である、請求項1記載の多層シートの製造装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の製造装置を用いて少なくとも2種類の溶融樹脂を5層以上の多層に積層し、そのあと積層された溶融樹脂をダイからシート状に吐出して多層シートを得る多層シートの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の多層シートの製造方法により製造された多層シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−69139(P2006−69139A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−258112(P2004−258112)
【出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】