説明

多層シート及びそれよりなる電子部品搬送用容器

【課題】バリや毛羽を低減するために設備の改造に多大な費用をかける事無く、バリや毛羽の発生が無く打抜性に優れた多層シートを使用することで、バリや毛羽が無い電子部品搬送用容器を提供する。
【解決手段】PS系樹脂を主成分とする層の両面に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた、導電性PS系樹脂組成物からなる層を、積層した多層シートであって、PS系樹脂を主成分とする層に、両面に積層している層の導電性PS系樹脂が1〜10重量%含まれる事を特徴とする多層シート、及びそれからなる電子部品搬送用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打抜性に優れた多層シート、及びそれを成形してなる電子部品搬送用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、単層又は多層のシートに穴をあける際、バリや毛羽が発生するといった問題があった。特にキャリアテープ等の電子部品搬送用容器として使用する場合は、この発生したバリや毛羽の脱落物が内容物である電子部品等に付着し、絶緑されているべき箇所の間のショート(短絡)や、汚染の原因になるため、重大な問題となっている。またバリや毛羽の発生は外観的にも好ましくない。近年は、電子部品の微細化・高性能化により、バリや毛羽低減への要求がより強まってきている。そこで、バリや毛羽を低減するため手段として、穴をあける際に発生したバリや毛羽をプラズマ照射(特許文献1参照)や熱風(特許文献2参照)により除去する方法が取られているが、設備の改造には多大な費用が必要であった。設備の改造に多大な費用をかける事無く、バリや毛羽の発生が無く打抜性に優れた多層シートを使用することで、バリや毛羽の無い電子部品搬送用容器とすることが求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−321229号公報
【特許文献2】特開平10−129623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、バリや毛羽の発生が無く打抜性に優れた多層シート、及びそれからなる、バリや毛羽が無い電子部品搬送用容器を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)ポリスチレン(PSと記載する。)系樹脂を主成分とする層の両面に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた、導電性PS系樹脂組成物からなる層を積層した多層シートであって、PS系樹脂を主成分とする層に、両面に積層している層の導電性PS系樹脂が1〜10重量%含まれる事を特徴とする多層シート、
(2)前記導電性PS系樹脂に導電性フィラーが10〜30重量%含まれる(1)項記載の多層シート、
(3)前記多層シートの層構成及び層の厚み比率(%)が、導電性PS系樹脂組成物からなる層/PS系樹脂を主成分とする層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=3〜20/94〜60/3〜20である(1)又は(2)項記載の多層シート、
(4)(1)〜(3)項のいずれか記載の多層シートを成形してなる電子部品搬送用容器、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従うと、バリや毛羽を低減するために設備の改造に多大な費用をかける事無く、バリや毛羽の発生が無く打抜性に優れた多層シートを使用することで、バリや毛羽が無い電子部品搬送用容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、PS系樹脂を主成分とする層に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた、導電性PS系樹脂組成物を、1〜10重量%添加する点にある。この効果は少量の導電性PS系樹脂の添加で実現できることから、シート物性の変化を僅かに押えることが出来るため、打抜性の改善に非常に有効な方法である。また、PS系樹脂を主成分とする層に添加する導電性PS系樹脂組成物は、PS系樹脂を主成分とする層の両面に積層しているものを使用することにより、新たな樹脂等を調達する必要もなく、同じPS系の樹脂を配合するため、多種類の樹脂を添加する場合に比べ、リサイクルも容易であり、環境負荷も少ない。
【0008】
近年、PS系樹脂を主成分とする単層シートでは、静電気問題により、内容物である電子部品の静電気破壊や、実装不良の問題が起きており、導電処理をしたキャリアテープが求められている。一般に、導電性PS系樹脂組成物は高価であり、強度も弱いことから、安価で、強度も強いPS系樹脂を主成分とする層に積層して用いることで、コストを押えることが出来る。また、PS系樹脂を主成分とする単層シートでは打抜性が悪いため、PS系樹脂を主成分とする層の両面に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた導電性PS系樹脂組成物を、積層することでも、バリや毛羽の発生をある程度押えることが出来る。しかしながら、電子部品の微細化や高性能化により、近年は更にバリや毛羽に対する要求が更に高まっているので、その要求を満たすためには、高コストな導電性PS系樹脂組成物層を、厚くしたり、打抜機を改良したりと多大な費用がかかる。この本発明では、PS系樹脂を主成分とする層中に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた導電性PS系樹脂組成物を、1〜10重量%配合することで、コストの上昇を最小限に押えこの問題を解決した。
【0009】
PS系樹脂を主成分とする層とは、PSを主成分とするものであれば何でも良く、特には規定しないが、ABS、HIPS、等のPS系樹脂にゴム成分が配合されたものが好ましい。また、必要に応じて、PS、HIPS、AS、ABS、MS、MBS等のPS系樹脂を混合したり、これらのPS系樹脂とゴム成分を混合したりして用いても良い。ゴム成分は特に規定しないが、ブタジエン系のゴムが好ましい。耐熱性や、耐候性を向上させるために、ブタジエン系ゴムの二重結合部を、部分的に又は完全に水素添加したものを用いても良い。
【0010】
単層でシーティングした際に打抜性に優れた導電性PS樹脂組成物とは、PS系樹脂を主成分とする樹脂組成物に、導電性フィラーを分散したものである。導電性フィラーとしては、特に規定はしないが、色等の指定がない場合はカーボンブラックが分散性やコストの点から好ましい。中間層に用いるPS系樹脂を主成分とする層は一般に透明〜白色であるが、カーボンブラックが含まれる導電性PS系樹脂を用いることにより、PS系樹脂を黒色にすることが出来る。中間層が透明〜白色であると、延伸されたキャリアテープポケットが部分的に透けることがあるが、カーボンブラックを用いることにより、この現象を押えることも出来る。
【0011】
打抜性向上効果の発現は、導電性PS系樹脂組成物中に含まれる導電性フィラーが、PS系樹脂中に分散する点にある。導電性フィラーとPS系樹脂の界面は他の場所に比べ弱い力で接着している。そのため、シートを打抜く際に力がかかると、接着力の弱い界面が優先的に剥がれる。一般に、樹脂を打抜く際には、部分的に引き伸ばされたり、切れ残ったりしたPS系樹脂がバリや毛羽となって残る。しかし、接着力が弱い導電性フィラーとPS系樹脂の界面が剥がれ落ちるため、部分的に引き伸ばされたり、切れ残ったりすることがほとんどなく、打抜面はきれいなものとなる。これらの理由により、打抜性を飛躍的に向上することが出来る。
【0012】
PS系樹脂を主成分とする層に配合する、単層でシーティングした際に打抜性に優れた導電性PS系樹脂組成物の配合量は1〜10重量%である。導電性PS系樹脂組成物の配合量が下限値未満であると、PS系樹脂中に分散される導電性フィラーの量が不十分であり、打抜性向上にあまり効果なく、上限値を超えると、コストアップ、著しい物性の低下、シート側面からの導電性フィラーの脱落等の問題が起こる。
【0013】
導電性PS系樹脂組成物として、シート耳等の廃棄物を利用することもできる。この方法は、廃棄物が減るため、環境負荷が少なくなると共に、歩留まり向上にもつながりコスト的にも有利である。
【0014】
導電性PS系樹脂組成物中には10〜30重量%の導電性フィラーを含有していることが好ましい。導電性フィラーの含有量が下限値未満であると、PS系樹脂を主成分とする層の両面に積層した場合、十分な静電気防止効果が得られないと共に、PS系樹脂中に配合した際に、導電性フィラーの分散量が少ないため、打抜性の改善にあまり効果がない。また、上限値を超えると、表面抵抗値の低下にほとんど効果がないばかりでなく、導電性PS系樹脂の著しい物性の低下(ワレ等)や導電性フィラーの脱落、コストアップ等の問題が起こる。
【0015】
多層シートの層構成及び層厚み比率(%)は、導電性PS系樹脂組成物からなる層/PS系樹脂を主成分とする層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=3〜20/94〜60/3〜20の範囲内であることが好ましい。導電性PS系樹脂組成物からなる層の比率が下限値未満になると、深いポケットを成形した際に、導電層が引き伸ばされ、表面抵抗値が上昇してしまい、静電気防止の効果が少なくなり、静電気起因の問題が起こりやすくなる。また、上限値を超えると導電性PS系樹脂組成物は一般に高価で、強度が低いため、コストアップやポケット潰れ等の問題が起こる。
【0016】
本発明に用いられるPS系樹脂及び導電性PS系樹脂組成物は、数種類の樹脂等を配合して用いて良い。また、必要に応じて流動性や力学的特性を改善するために、滑剤、可塑剤、加工助剤、相容化剤及び補強剤等の各種添加剤や樹脂等を添加することが可能である。特に導電性PS系樹脂組成物には導電性フィラーを均一に分散させるために、加工助剤等を加える事ができる。
【0017】
電子部品搬送用容器として用いる場合には、発生した静電気を拡散させるため、シートの全体又は表面に導電処理を施すことが好ましく、その表面抵抗値は10〜1011Ω/□が望ましい。表面抵抗値が下限値未満であると、導電性が良すぎて、外部で発生した電気が流れ込んでしまい、内容物である電子部品を破壊する恐れがある。また上限値を超えると、静電気の拡散にあまり効果がなく、発生した静電気で内容物である電子部品等を破壊する恐れがある。また、打抜機内の打抜カスつまり、微細な打抜カス(粉)のシートや打抜機への付着も低減できるため導電処理を施すことができる。
【実施例】
【0018】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これは単なる例示であり、本発明はこれにより限定されるものではない。
<実施例1>
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックGT−10)に対して、導電性フィラーとしてカーボンブラックを含有した導電性PS系樹脂組成物(大日精化(株)製 ネオコンD443)を5重量%配合したものを中間層として用い、層比率(%)が導電性PS系樹脂組成物からなる層/ABS樹脂に導電性PS系樹脂組成物5重量%を配合したものからなる層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=10/80/10である厚み0.3mmのシートを得た。
<比較例1>
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックGT−10)の単層シートを得た。
<比較例2>
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックGT−10)、導電性PS系樹脂(大日精化(株)製 ネオコンD443)を用い、層比率(%)が導電性PS系樹脂組成物からなる層/ABS樹脂からなる層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=10/80/10である厚み0.3mmのシートを得た。
<比較例3>
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックGT−10)に対して、導電性PS系樹脂(大日精化(株)製 ネオコンD443)を0.2重量%配合したものを中間層として用い、層比率(%)が導電性PS系樹脂組成物からなる層/ABS樹脂に導電性PS系樹脂組成物0.2重量%を配合したものからなる層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=10/80/10である厚み0.3mmのシートを得た。
<比較例4>
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 サンタックGT−10)に対して、導電性PS系樹脂(大日精化(株)製 ネオコンD443)を20重量%配合したものを中間層として用い、層比率(%)が導電性PS系樹脂組成物からなる層/ABS樹脂に導電性PS系樹脂組成物20重量%を配合したものからなる層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=10/80/10である厚み0.3mmのシートを得た。
【0019】
表1に打抜性及びカーボン脱落に関して評価した結果を示した。
打抜性の評価としては、キャリアテープ成形機(住友ベークライト(株)製)で4mmピッチ・直径1.5mmφの穴を連続で1000個空け、打抜後の穴を観察し、バリや毛羽がほとんど目立たないものを○、目立つものを×とした。
カーボン脱落に関しては、シートをロール状に巻き、その端面を拭いた際に、カーボンブラックがほとんど付着しないものを○、著しく付着するものを×とした。
【0020】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明を用いることにより、バリや毛羽を低減するために設備の改造に多大な費用をかける事無く、バリや毛羽の発生が無く打抜性に優れた多層シートを使用することで、バリや毛羽が無い電子部品搬送用容器を好適に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PS系樹脂を主成分とする層の両面に、単層でシーティングした際に打抜性に優れた、導電性PS系樹脂組成物からなる層を積層した多層シートであって、PS系樹脂を主成分とする層に、両面に積層している層の導電性PS系樹脂が1〜10重量%含まれる事を特徴とする多層シート。
【請求項2】
前記導電性PS系樹脂に導電性フィラーが10〜30重量%含まれる請求項1記載の多層シート。
【請求項3】
前記多層シートの層構成及び層の厚み比率(%)が、導電性PS系樹脂組成物からなる層/PS系樹脂を主成分とする層/導電性PS系樹脂組成物からなる層=3〜20/94〜60/3〜20である請求項1又は2記載の多層シート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の多層シートを成形してなる電子部品搬送用容器。

【公開番号】特開2006−264043(P2006−264043A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−83887(P2005−83887)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】