説明

多層セラミック基板

【課題】無収縮焼成を可能にするため、基材層と基材層の焼結温度では焼結しない拘束層とを交互に積層し、焼成工程において、基材層を焼結させながら、基材層の材料を拘束層に流動させて、拘束層を緻密化させる方法によって得られる、多層セラミック基板の強度を高める。
【解決手段】基材層2と拘束層3とは、いずれも、セルシアン(BaAlSi)を有しているが、セルシアンの存在量は、拘束層3よりも基材層2の方が少ない。基材層2の強度を高めるため、基材層2の焼結を阻害するAl成分の含有量を増やすのではなく、Ti成分を添加することで、フレスノイト(BaTiSi)を基材層2に析出させる。基材層2にフレスノイトが存在していると、基材層2での結晶粒界が増え、そのため、亀裂の進展を抑制することができ、その結果、多層セラミック基板1の強度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多層セラミック基板に関するもので、特に、いわゆる無収縮プロセスによって製造される多層セラミック基板の強度を向上させるための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件特許出願人は、特許第3601671号公報(特許文献1)において、第1の粉体を含む第1のシート層と第1の粉体の焼結温度では焼結しない第2の粉体を含む第2のシート層とを交互に積層し、焼成工程において、第1の粉体を焼結させるとともに、第1のシート層の材料を第2のシート層に流動させることによって、第2の粉体を固着させてなる、複合積層体の製造方法を提案した。この製造方法は、多層セラミック基板を製造するにあたり、その主面方向への収縮を抑制し得る技術として注目される。
【0003】
上述の製造方法を適用する場合、第2のシート層の厚みとしては、第1のシート層の収縮を抑制し得る力(拘束力)が十分に働く程度に厚くなければならず、同時に、第1のシート層の材料が流動することによって緻密化できる程度に薄くなければならない。
【0004】
この点に関して、本件特許出願人は、特開2002−94244号公報(特許文献2)において、拘束層(第2のシート層)に軟化流動性粉末(たとえばガラス)を含有させることによって、拘束層が厚い場合であっても、拘束層を緻密化できる技術を提案した。ここで、軟化流動性粉末としては、基材層(第1のシート層)中のセラミック原料粉末(第1の粉末)の収縮開始温度では実質的に軟化流動しないが、焼結完了時には軟化流動して拘束層を緻密化させ得るものが用いられる。
【0005】
ただし、特許文献2に記載の技術を用いた場合であっても、特許文献1に記載の技術の場合と同様、拘束層は基材層よりも薄く形成される。
【0006】
ところで、上記の基材層に用いるセラミック原料粉末としては、アルミナ粉末とホウケイ酸系ガラス粉末とを混合したガラス系低温焼結セラミック材料など、種々のガラスセラミックを用いることができるが、ガラス粉末は高価なため、コスト面をより考慮する場合には、たとえばBa−Al−Si系酸化物セラミック等の焼成中にガラス成分を生成する非ガラス系低温焼結セラミックが用いられる。
【0007】
一方、基材層の材料としてBa−Al−Si系酸化物セラミックを用いる場合、上述した軟化流動性粉末の要件を満たす必要があるため、拘束層材料としてはアルミナ粉末とBa−Al−Si系ガラス粉末とを混合したものが用いられる(たとえば、特開2009−170556号公報(特許文献3)を参照。)。なお、この特許文献3においても、拘束層が基材層よりも薄く形成された構造が開示されている。
【0008】
しかし、特許文献1〜3に記載されるような、拘束層が基材層よりも薄く形成される多層セラミック基板において、特許文献3に開示されるような材料、具体的には、基材層としてBa−Al−Si系酸化物セラミック、拘束層としてアルミナ粉末とBa−Al−Si系ガラス粉末とを用いた場合、望ましい基板強度が得られないという問題があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3601671号公報
【特許文献2】特開2002−94244号公報
【特許文献3】特開2009−170556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、すなわち強度がより高められた多層セラミック基板を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
望ましい基板強度が得られない要因を探るべく、本発明者らは、多層セラミック基板を得るための焼成工程の後に析出している結晶相に注目した。微細な結晶相が多いほど基板強度が向上するからである。その結果、基材層は、拘束層に比べて厚みが厚く、基板全体に占める厚み比率が高いにもかかわらず、焼成後に存在している結晶相に着目したとき、微細な結晶相であるセルシアン(BaAlSi)の存在量が拘束層よりも少ないことを見出した。
【0012】
拘束層に比べて基材層でのセルシアンの存在量が少ない原因は、拘束層に比べて基材層の方がAl成分が少ないことが原因であると考えられる。基材層は単独で焼結しなければならず、他方、拘束層は単独では焼結してはならない、という制約があるため、拘束層ではアルミナ粉末が比較的多くされるのに対し、基材層ではアルミナ粉末が比較的少なくされる。そのため、基材層は拘束層に比べてAl成分が少なくなり、その結果、セルシアンが析出しにくいと考えられる。ここで、セルシアンを多く析出させる目的で基材層においてAl成分を増やすと、基材層が焼結しなくなってしまう。
【0013】
そこで、この発明は、簡単に言えば、基材層にTi成分を添加することで、セルシアン以外の微細な結晶相であるフレスノイト(BaTiSi)を基材層に析出させ、それによって、基板強度を向上させようとするものである。
【0014】
より詳細には、この発明は、第1のセラミック層と、第1のセラミック層よりも厚みの薄い第2のセラミック層とが交互に積層されている部分を含む、多層セラミック基板に向けられる。この多層セラミック基板において、第1のセラミック層と第2のセラミック層とは、いずれも、セルシアンを有しており、セルシアンの存在量は、第2のセラミック層よりも第1のセラミック層の方が少ない。そして、前述した技術的課題を解決するため、この発明は、第1のセラミック層がフレスノイトをさらに有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
フレスノイトは、セルシアンと同等の結晶粒径を有するもので、結晶粒径約0.5μmの微粒結晶である。したがって、この発明によれば、第1のセラミック層がフレスノイトを有しているので、第1のセラミック層での結晶粒界が増え、そのため、亀裂の進展を抑制することができ、その結果、多層セラミック基板の強度を向上させることができる。
【0016】
この発明において、第2のセラミック層においてもフレスノイトをさらに有していると、多層セラミック基板の強度をさらに向上させることができる。
【0017】
上述のように、第2のセラミック層においてもフレスノイトをさらに有している場合、第2のセラミック層が最外層に配置されていると、多層セラミック基板の強度、破壊靭性および電極ピール強度の向上に効果的である。すなわち、最外層に位置する層の強度特性の方が、内層を構成する層の強度特性に比べて、基板強度や破壊靱性、電極ピール強度に対して、より支配的に影響を及ぼす。また、第1のセラミック層に比べて第2のセラミック層の方が薄いため、同じようにフレスノイトを析出させても、第2のセラミック層の方がフレスノイトの存在比率が高くなる。これらのことから、第2のセラミック層においてもフレスノイトを有している場合には、前述のように、第2のセラミック層を最外層に配置すると、強度、破壊靭性および電極ピール強度の向上に効果的である。
【0018】
なお、第1のセラミック層が基材層として機能し、第2のセラミック層が拘束層として機能する場合、第2のセラミック層は、焼結性の問題から、第1のセラミック層よりも十分に薄層である必要があるため、焼結体としての多層セラミック基板の強度は、第1のセラミック層の強度が支配的に影響すると考えられる。そのため、第2のセラミック層のみがフレスノイトを有していても、基板強度の向上はそれほど望めない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態による多層セラミック基板1を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、この発明の一実施形態による多層セラミック基板1について説明する。
【0021】
多層セラミック基板1は、複数の第1のセラミック層としての基材層2と複数の第2のセラミック層としての拘束層3とが交互に積層された構造を有している。拘束層3は、基材層2よりも厚みが薄い。また、この実施形態では、拘束層3が最外層に配置されている。なお、図1に示した多層セラミック基板1では、積層方向の全域にわたって、複数の基材層2と複数の拘束層3とが交互に積層された構造を有しているが、積層方向の一部において、このような交互積層構造となっていない部分が存在していてもよい。
【0022】
多層セラミック基板1には、基材層2および拘束層3の特定のものに関連して種々の導体パターンが設けられている。導体パターンとしては、多層セラミック基板1の上面上に形成されるいくつかの外部導体膜4、同じく下面上に形成されるいくつかの外部導体膜5、基材層2または拘束層3とこれに隣接する層との界面に沿って形成されるいくつかの内部導体膜6、ならびに基材層2および/または拘束層3の特定のものを貫通するように形成され、層間接続導体として機能するビアホール導体7がある。また、いくつかの端子導体8が、下面上に形成された外部導体膜5に接続されかつ側面に露出するように形成されている。端子導体8は、ビアホール導体の側面を露出させることにより形成されたものである。
【0023】
上面上に形成された外部導体膜4は、上面上に搭載されるべき電子部品9および10への接続のために用いられる。図1では、たとえば半導体デバイスのように、バンプ電極11を備える電子部品9、およびたとえばチップコンデンサのようにフラットな端子電極12を備える電子部品10が図示されている。また、下面上に形成された外部導体膜5は、この多層セラミック基板1を実装するマザーボード(図示せず。)への接続のために用いられる。
【0024】
このような多層セラミック基板1は、生の積層体を焼成することによって得られる。生の積層体は、基材層2となるべき基材グリーン層と、拘束層3となるべき拘束グリーン層と、導電性ペーストによって形成された内部導体膜6、ビアホール導体7および端子導体8とを備え、場合によっては、導電性ペーストによって形成された外部導体膜4および5をさらに備えている。
【0025】
上述した生の積層体に備える基材グリーン層は、セラミックスラリーを、たとえば、ポリエチレンテレフタレートのような有機樹脂からなるキャリアフィルム上で、ドクターブレード法を適用して成形して得られた基材層用グリーンシートによって与えられる。
【0026】
拘束グリーン層についても、セラミックスラリーを成形して得られた拘束層用グリーンシートによって与えられるが、拘束層用グリーンシートは、これを独立して成形した後、基材層用グリーンシートとともに積層工程に付されても、これを基材層用グリーンシート上で成形して、基材層用グリーンシートと拘束層用グリーンシートとが貼り合わされた複合シートの状態で積層工程に付されてもよい。
【0027】
基材層用グリーンシートを成形するために用いられるセラミックスラリーは、好ましくは、低温焼結セラミック材料に、ポリビニルブチラールのような有機バインダと、トルエンおよびイソプロピルアルコールのような溶剤と、ジ−n−ブチルフタレートのような可塑剤と、その他、必要に応じて、分散剤等の添加物とを加えてスラリー化することによって得ることができる。
【0028】
基材層用グリーンシートに含まれる上記低温焼結セラミック材料としては、BaをBaOに換算して20〜40重量%、AlをAlに換算して5〜20重量%、SiをSiOに換算して48〜75重量%含有する主成分セラミック材料と、主成分セラミック材料100重量部に対して、MnをMnOに換算して2〜10重量部、ならびにTiをTiOに換算して0.1〜10重量部含有する副成分セラミック材料とを含む、低温焼結セラミック材料が有利に用いられる。
【0029】
ここで、基材層用グリーンシートに含まれる低温焼結セラミック材料には、上記のように、Ti成分が添加されていることが重要である。これにより、セルシアン以外の微細な結晶相であるフレスノイトを基材層2に析出させることができる。
【0030】
他方、拘束層用グリーンシートを成形するために用いられるセラミックスラリーは、上述した低温焼結セラミック材料の焼結温度では実質的に焼結しないセラミック材料に、有機バインダと溶剤と可塑剤とを加えてスラリー化することによって、得ることができる。
【0031】
拘束層用グリーンシートに含まれるセラミック材料としては、Alを40〜75重量%と、ガラスを25〜60重量%とを含み、ガラスとしては、BaをBaOに換算して10〜30重量%、AlをAlに換算して2〜10重量%、SiをSiOに換算して40〜65重量%、BをBに換算して2〜15重量%、CaをCaOに換算して0〜15重量%、MgをMgOに換算して0〜10重量%、TiをTiOに換算して0〜10重量%含有するものが有利に用いられる。
【0032】
上記のように、拘束層用グリーンシートにおけるCa、MgおよびTiの含有量は0重量%である場合もあり得るが、Ti成分が添加されていると、セルシアン以外の微細な結晶相であるフレスノイトを拘束層3にも析出させることができる。
【0033】
内部導体膜6、ビアホール導体7および端子導体8は、積層前の基材層用セラミックグリーンシート、拘束層用グリーンシートまたは複合シートに設けられる。外部導体膜4および5についても、必要に応じて、積層前の基材層用セラミックグリーンシート、拘束層用グリーンシートまたは複合シートに設けられる。内部導体膜6ならびに外部導体膜4および5の形成には、導電性ペーストのスクリーン印刷が適用される。ビアホール導体7の形成にあたっては、貫通孔の形成および貫通孔への導電性ペーストの充填の各工程が実施される。端子導体8の形成にあたっては、貫通孔の形成、貫通孔への導電性ペーストの充填および貫通孔へ充填された導電性ペーストの分断の各工程が実施される。
【0034】
上述した導電性ペーストとしては、たとえば、金、銀または銅のような低融点金属材料を導電成分の主成分として含むものが用いられる。金、銀または銅の低融点金属材料のなかでも、特に銅を主成分とする導電性ペーストを用いることが同時焼結性の点で優れている。
【0035】
基材層用グリーンシートおよび拘束層用グリーンシートは、所定の順序で積層され、積層方向に、たとえば1000〜1500kgf/cm2の圧力をもって圧着されることによって、生の積層体が得られる。この生の積層体には、図示しないが、他の電子部品を収容するためのキャビティや、電子部品8および9等を覆うカバーを固定するための接合部分が設けられてもよい。
【0036】
生の積層体は、セラミックグリーン層に含まれるセラミック材料が焼結可能な温度以上、たとえば850℃以上であって、導体パターンに含まれる金属の融点以下、たとえば銅であれば、1050℃以下の温度域で焼成される。これによって、セラミックグリーン層が焼結するとともに導電性ペーストも焼結して、焼結した導体パターンを有する多層セラミック基板1が得られる。その後、電子部品9および10が実装される。
【0037】
上述した焼成工程において、拘束層用グリーンシートでは実質的な焼結が生じず、そのため、焼結による収縮が生じないので、基材層用グリーンシートの主面方向への収縮を抑制するように作用する。よって、得られた多層セラミック基板1の寸法精度が高められる。また、焼成後の多層セラミック基板1において、基材層2の材料の一部は拘束層3へと流動しており、これによって、拘束層3に含まれるセラミック粉末が固着された状態となり、拘束層3が緻密化される。
【0038】
得られた多層セラミック基板1において、基材層2および拘束層3は、いずれも、結晶相として、セルシアンを有している。ただし、セルシアンの存在量は、拘束層3よりも基材層2の方が少ない。これは、基材層2の方が、拘束層3に比べて、Al成分が少ないためであると推測される。
【0039】
また、基材層2にはTi成分が添加されているので、基材層2は、結晶相として、フレスノイトをさらに有している。基材層2は、結晶相として、上記セルシアンおよびフレスノイトの他に、アルミナ(Al)とクオーツ(SiO)とを有しており、残部は非晶質成分としてのガラスである。前述したように、基材層用グリーンシートは、出発成分としてガラスを含んでいないが、焼成工程において非晶質成分であるガラスが生成され、焼成後の基材層2にはガラスを含む。
【0040】
拘束層3は、結晶相として、上述のセルシアンの他、アルミナを有しており、残部は非晶質成分である。また、拘束層3がTi成分を含む場合には、拘束層3にもフレスノイトを有している。
【0041】
上述したフレスノイトは、セルシアンと同等の結晶粒径を有するもので、結晶粒径約0.5μmの微粒結晶である。したがって、フレスノイトの存在により、基材層2において、結晶粒界が増え、そのため、亀裂の進展を抑制することができ、その結果、多層セラミック基板1の強度を向上させることができる。また、拘束層3においてもフレスノイトを有していると、多層セラミック基板1の強度をさらに向上させることができる。
【0042】
また、拘束層3においてもフレスノイトを有している場合であって、この実施形態のように、拘束層3が最外層に配置されていると、多層セラミック基板1の強度、破壊靭性および電極ピール強度の向上に効果的である。
【0043】
なお、導体パターンに含まれる主成分金属に関して、これが銅である場合、焼成は、窒素雰囲気のような非酸化性雰囲気中で行なわれ、たとえば900℃以下の温度で脱バインダを完了させ、また、降温時には、酸素分圧を低くして、焼成完了時に銅が実質的に酸化しないようにされる。なお、焼成温度がたとえば980℃以上であるならば、導体パターンに含まれる金属として、銀を用いることが難しいが、たとえばパラジウムが20重量%以上のAg−Pd系合金であれば、用いることが可能である。この場合には、焼成を空気中で実施することができる。焼成温度がたとえば950℃以下であるならば、導体パターンに含まれる金属として、銀を用いることができる。
【0044】
[実験例]
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0045】
(1)基材層用グリーンシートの作製
出発原料として、いずれも粒径2.0μm以下のSiO、BaCO、Al、ZrO、CaCO、B、MnCO、TiOおよびMg(OH)の各粉末を準備した。次に、これら出発原料粉末を、表1に示す組成比となるように秤量し、湿式混合粉砕した後、乾燥し、得られた混合物を750〜1000℃で1〜3時間仮焼して基材層のための原料粉末を得た。上記BaCOは焼成後にBaOになり、上記CaCOは焼成後にCaOになり、上記MnCOは焼成後にMnOになり、上記Mg(OH)は焼成後にMgOになるものである。なお、表1において、各出発原料粉末は、重量%を単位として示されている。
【0046】
【表1】

【0047】
次に、上述の基材層用原料粉末に、適当量の有機バインダ、分散剤および可塑剤を加えて、セラミックスラリーを作製し、次いで、スラリー中の原料粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下となるように混合粉砕した。次に、セラミックスラリーをドクターブレード法によってシート状に成形し、乾燥させて、焼成後の厚みが15μmとなる基材層用グリーンシートS−1〜S−4を得た。
【0048】
(2)拘束層用グリーンシートの作製
出発原料として、いずれも粒径2.0μm以下のAlおよびTiOの各粉末を準備するとともに、表2に示す組成のガラス粉末G−1〜G−4を準備した。なお、表2において、ガラス粉末の組成は、重量%を単位として示されている。
【0049】
【表2】

【0050】
次に、これら出発原料粉末を、表3に示す組成比となるように秤量し、これに適当量の有機バインダ、分散剤および可塑剤を加えて、セラミックスラリーを作製し、次いで、スラリー中の原料粉末の平均粒径(D50)が1.5μm以下となるように混合粉砕した。次に、ドクターブレード法によってシート状に成形し、乾燥させて、焼成後の厚みが5μmとなる拘束層用グリーンシートR−1〜R−5を得た。なお、表3において、各出発原料粉末は、重量%を単位として示されている。
【0051】
【表3】

【0052】
(3)生の積層体試料の作製
(1)で作製した基材層用グリーンシートS−1〜S−4のいずれか、および(2)で作製した拘束層用グリーンシートR−1〜R−5のいずれかを、表4の「焼結前」の欄に示すように選び、各々選ばれた基材層用グリーンシートと拘束層用グリーンシートとが交互になるように積層した。この積層にあたっては、拘束層用グリーンシートが最外層に配置されるようにした。なお、表1ないし表3からも判断できることではあるが、より迅速な判断を可能にするため、表4の「焼結前」の欄における「基材層中のTi成分の有無」および「拘束層中のTi成分の有無」の各欄には、基材層用グリーンシートと拘束層用グリーンシートとの各々について、Ti成分の含有の有無が表示されている。
【0053】
次に、上記積層の後、温度60〜80℃および圧力1000〜1500kg/cmの条件で熱圧着し、生の積層体を得た。そして、焼成後のセラミック焼結体サイズが30.0mm×4.5mm×1.0mm(厚み)となるように、生の積層体をカットして、生の積層体試料を得た。
【0054】
(4)セラミック焼結体試料の作製
次に、上記生の積層体試料を、窒素−水素の非酸化性雰囲気中において最高温度980℃にて焼成し、板状のセラミック焼結体試料を得た。
【0055】
なお、得られたセラミック焼結体試料について、断面が露出するように研磨を施し、走査型顕微鏡を用いて、基材層および拘束層の厚みを測定したところ、基材層の厚みが15μmであり、拘束層の厚みが5μmであることが確認された。
【0056】
(5)評価
次に、得られたセラミック焼結体試料について、表4の「焼結後」の欄に示すように、破壊靭性値、基板強度および電極ピール強度を求めるとともに、フレスノイトの有無およびその存在量を評価した。より詳細な測定または評価方法は次のとおりである。
【0057】
・破壊靭性値
セラミック焼結体試料の表面にビッカース圧子による圧痕を500gf×15秒の条件で付し、その大きさと亀裂の長さから破壊靱性値KICを算出した。
【0058】
・基板強度
3点曲げ強度試験(JIS−R1061)によって、セラミック焼結体試料の基板強度を評価した。
【0059】
・電極ピール強度
セラミック焼結体試料の表面に1辺2mmの角型電極を形成し、この角型電極にL字状のリード線をはんだ付けし、試料表面に対して垂直方向の引っ張り試験により試料と電極の接合強度を測定し、これを電極ピール強度とした。
【0060】
・フレスノイトの有無
セラミック焼結体試料の断面が露出するように研磨を施し、拘束層および基材層の各々について、透過型顕微鏡のEDX点分析から結晶の構成元素を定量評価し、フレスノイトを同定した。
【0061】
・フレスノイトの存在量
セラミック焼結体試料の断面が露出するように研磨を施し、透過型顕微鏡を用いて、4.0μm×5.0μm面積あたりのフレスノイト結晶数を計数した。計数は、拘束層および基材層の各々について、5箇所ずつ行ない、平均化した値をフレスノイトの存在量とした。表4の「フレスノイトの存在量」の欄において、4.0μm×5.0μm面積あたりのフレスノイト結晶数が6個以上のときが「A」、同じく4個以上かつ6個未満のときが「B]、同じく2個以上かつ4個未満のときが「C」、同じく1個のときが「D」、同じく0個のときが「E」で表示されている。
【0062】
なお、セルシアンの有無およびセルシアンの存在量についても上述のフレスノイトと同様の評価方法により評価したところ、いずれの試料においても、基材層と拘束層とはセルシアンを有しており、かつ、セルシアンの存在量は拘束層より基材層の方が少なかった。
【0063】
【表4】

【0064】
表4の「焼結後」における「分類」の欄には、フレスノイトの有無に応じて、「F0」、「F1」および「F2」の記号が表示されている。「F0」はセラミック焼結体試料の基材層および拘束層の双方にフレスノイトを含まない場合を示し、「F1」は拘束層にフレスノイトを含まず基材層に含む場合を示し、「F2」は拘束層および基材層の双方にフレスノイトを含む場合を示している。
【0065】
試料1は「F0」であり、試料2〜4は「F1」であり、試料5〜9は「F2」である。
【0066】
(6)考察
・「F0」、「F1」および「F2」間での基板強度の比較
「F0」である試料1に比べて、「F1」または「F2」である試料2〜9の方が基板強度は高い。これは、焼結前の基材層用グリーンシートにTiO成分を添加したことで、焼結後の基材層にフレスノイトが析出したため、基板強度が向上したと考えられる。さらに、「F1」である試料2〜4に比べ、「F2」である試料5〜9の方が基板強度は高い。これは、試料5〜9は、焼結後の基材層だけでなく、拘束層にもフレスノイトを析出しているため、基板強度が向上したと考えられる。
【0067】
以上の結果から、基材層単独にフレスノイトを析出させることで基板強度が向上すること、また、基材層だけでなく拘束層にもフレスノイトを析出させると基板強度がさらに向上することが確認できる。
【0068】
・基材層組成とフレスノイト存在量および基板強度との関係
試料2〜4は、焼結前の基材層用グリーンシートにTiO成分を添加し、その添加量を試料2〜4間で変化させたものであり、焼結前の拘束層用グリーンシートの組成については、試料2〜4間で同一であり、TiO成分を含んでいない。
【0069】
試料2〜4間の比較からわかるように、焼結前の基材層用グリーンシートにおけるTiO添加量の増加に伴い、焼結後の基材層中のフレスノイト存在量が増加し、基板強度が向上している。
【0070】
・拘束層組成とフレスノイト存在量および基板強度との関係
試料5〜9は、焼結前の拘束層用グリーンシートにTiO成分を添加し、その添加量を試料5〜9間で変化させたものである。より特定的には、TiO成分は、試料5〜7および9ではTiO系ガラスとして、試料8ではTiO酸化物として添加している。
【0071】
試料5〜7および9間の比較からわかるように、焼結前の拘束層用グリーンシート中のガラスに含まれるTiO量の増加に伴い、焼結後の拘束層中のフレスノイト存在量が増加し、基板強度が向上している。
【0072】
また、試料8のように、焼結前の拘束層用グリーンシートにTiO酸化物を添加した場合でも、焼結前の拘束層用グリーンシートにTiO成分を含まない試料3に比べ、焼結後の拘束層中のフレスノイト存在量が増加し、基板強度が向上している。したがって、拘束層に添加されるTiO成分は、酸化物であってもフレスノイトの析出に効果があると言える。
【0073】
・破壊靭性および電極ピール強度
上述した基板強度と破壊靭性値および電極ピール強度とはほぼ相関していて、基板強度が向上すると、破壊靭性値および電極ピール強度についても向上している。
【符号の説明】
【0074】
1 多層セラミック基板
2 基材層
3 拘束層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のセラミック層と、前記第1のセラミック層よりも厚みの薄い第2のセラミック層とが交互に積層されている部分を含む、多層セラミック基板であって、
前記第1のセラミック層と前記第2のセラミック層とは、いずれも、セルシアン(BaAlSi)を有しており、セルシアンの存在量は、前記第2のセラミック層よりも前記第1のセラミック層の方が少なく、
前記第1のセラミック層は、フレスノイト(BaTiSi)をさらに有している、多層セラミック基板。
【請求項2】
前記第2のセラミック層は、フレスノイトをさらに有している、請求項1に記載のセラミック多層基板。
【請求項3】
前記第2のセラミック層が最外層に配置されている、請求項2に記載の多層セラミック基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−15433(P2012−15433A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152713(P2010−152713)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】