説明

多層フィルムおよびその製造方法

【課題】光学機能および導電機能に優れた多層フィルムを作製し、供給する。
【解決手段】透明な樹脂基板11の少なくとも一方の面に該樹脂基板とは屈折率の異なる光学膜13、14を形成し、最外層15に透明導電膜15を有する多層フィルムにおいて、該多層フィルムの40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度を1.0g/m2・day以下とする。前記光学膜は透明な樹脂基板に近い層から順に、屈折率n1が1.50〜2.20で膜厚d1が1〜10nmである第1の薄膜層13と、屈折率n2が1.35〜1.50で膜厚d2が10〜40nmの第2の薄膜層14からなり、また、透明導電膜15は、屈折率n3が1.90〜2.20で膜厚d3が10〜30nmの第3の薄膜層からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水蒸気バリア機能、光学機能、導電機能を有する多層フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バリア機能、光学機能、導電機能のうち2つあるいは3つの機能を併せ持つ多層フィルムの例は特許文献1および特許文献2に挙げられるような光学膜、透明導電膜をそれぞれ積層したものが知られている。
また、特許文献3および特許文献4に挙げられるようなバリア膜、光学膜、透明導電膜をそれぞれ積層したもの、あるいは、特許文献5に挙げられるようなバリア機能、光学機能、導電機能のいずれかの機能を有するフィルムを粘着により貼り合わせることにより複数の機能を持たせることが知られている。また、バリア機能と反射防止機能を同時に満たす薄膜をフィルム上に形成する例は特許文献6のように光学膜の少なくとも1層にバリア機能を持たせる方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-286066
【特許文献2】特許第3626624
【特許文献3】特開2005-70616
【特許文献4】特開2006-4633
【特許文献5】特開2006-327098
【特許文献6】特開2004-291464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子デバイスに用いられるフィルムに要求される機能として、光学機能、導電機能が挙げられる。これらの機能を別々にフィルムに付与する場合、工程が増えてしまう問題があった。
【0005】
また、透明電極として最も一般的に用いられている酸化インジウムスズ(ITO)は、一般的なガラスやプラスチック基材に比べ、屈折率の高い、高屈折率材料に分類されることから、単純に基板上にITOを形成すると、透過率が低下(反射率が増大)してしまう。
また、短波長域での透過率が低下するため、透過色が黄色味を帯びてしまう問題があった。さらに、基材がプラスチックの場合、基材に含まれるH2Oに代表されるようなガス分子の影響により、ITO膜の特性が劣化する問題があった。
【0006】
本発明では、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、光学機能および導電機能に優れた多層フィルムを作製し、供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための手段として、
請求項1に記載の発明は、透明な樹脂基板の少なくとも一方の面に該樹脂基板とは屈折率の異なる光学膜を形成し、最外層に透明導電膜を有する多層フィルムであって、該多層フィルムの40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m2・day以下であることを特徴とする多層フィルムである。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記光学膜は、透明な樹脂基板に近い層から順に、屈折率n1が1.50〜2.20で膜厚d1が1〜10nmである第1の薄膜層と、屈折率n2が1.35〜1.50で膜厚d2が10〜40nmの第2の薄膜層からなり、また、透明導電膜は、屈折率n3が1.90〜2.20で膜厚d3が10〜30nmの第3の薄膜層からなることを特徴とする、請求項1に記載の多層フィルムである。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記第1の薄膜層の樹脂基板側に、金属の亜酸化物層が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の多層フィルムである。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記透明導電膜が、In、Zn、Snの少なくとも1つを主原料とする酸化物からなり、表面抵抗値が150〜800Ω/□の範囲であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の多層フィルムである。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記透明な樹脂基板の片面あるいは両面にハードコート、表面平滑層、オリゴマー析出防止層のうち、少なくとも1層が形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の多層フィルムである。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記透明な樹脂基板の透明導電膜が形成されている側とは反対側の面に可視光域の反射を低減させるように薄膜が積層され、透明導電膜が形成された面の反射を除外し測定した場合の波長380〜780nmの平均反射率が2%以下であることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の多層フィルムである。
【0013】
請求項7に記載の発明は、前記透明な樹脂基板の透明導電膜が形成された面とは反対側の面の最表面に防汚層が形成されていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の多層フィルムである。
【0014】
請求項8に記載の発明は、粘着剤、接着剤等の手段を用い、請求項1から7の何れかに記載の多層フィルムと他のフィルム、プラスチック基板、ガラス基板を貼り合わせたことを特徴とする積層体である。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1から8の何れかに記載の多層フィルムあるいは積層体を用いた電子デバイスである。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1から7の何れか1項の多層フィルムの製造方法であって、真空装置内に複数の材料のターゲットを配置し、透明な樹脂基板をロールから連続的に巻出し、装置内を大気に解放することなく光学膜および透明導電膜を形成し、最後にロールに巻き取ることを特徴とする、多層フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
透明な樹脂基板の少なくとも一方の面に光学膜および導電機能同時に持つ薄膜を形成することにより、光学機能、導電機能を別々に形成した多層フィルムよりも工程が減り、歩留まり向上が期待できる。
【0018】
さらに、この光学膜を透明基板に対し、高屈折率膜、低屈折率膜を複数用いた積層膜にすることにより、単層よりも高度な光学性能を付与することができる。例えば、可視光域での反射防止機能、高透過機能、透過あるいは反射色相調整機能などが可能となる。
【0019】
さらに、このような光学機能を樹脂基板の両面に形成することにより、例えば、光線透過率を片面に光学機能を形成した場合よりもさらに高めることが可能である。
【0020】
光学機能を形成する薄膜層の最も樹脂基板に近い薄膜層(第1の薄膜層)に金属の亜酸化物を形成することにより、樹脂基板と薄膜との密着性が向上し、デバイスの機械強度も向上する。
【0021】
真空成膜により形成される酸化インジウムスズ(ITO)や酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)に代表される透明導電膜は光学的には高屈折率材料に分類される。したがって、これらの透明導電膜を光学膜の一部として用いることにより、光学機能、導電機能を兼ね備えた多層フィルムを一回の工程で作製することが可能となる。
【0022】
透明導電膜は成膜時の雰囲気により、膜質が変化する傾向があるが、透明導電膜を成膜する前に、水蒸気バリア性を有する薄膜を形成することにより、プラスチック基材から放出されるガスによる影響が抑制される。また、該水蒸気バリア性を有する薄膜を光学膜として用いることにより、水蒸気バリア性を有する薄膜を別途形成した多層フィルムよりも工程が減り、歩留まり向上が期待できる。
【0023】
また、金属材料や有機物など水蒸気や酸素により劣化する可能性のある材料を封止する必要があるLCDや有機EL等のデバイスの封止電極材として用いることにより、材料の劣化を防ぐことが可能となる。
【0024】
ハードコート、表面平滑層、オリゴマー析出防止層、防汚層を形成することにより、多層フィルムにそれぞれの機能をさらに付与することが可能となる。
【0025】
さらに、該多層フィルムを他のフィルム、プラスチック基板、ガラス基板に貼り付けた積層体にすることにより、工程上のハンドリングや製品仕様を向上させることが可能となる。
【0026】
多層フィルムや積層体を電子デバイスに適用することにより、工程が少なく、より簡易な構成の電子デバイスが作製可能となる。
【0027】
該多層フィルムを製造するにあたり、複数の成膜源およびロールツーロールの機構を有する成膜装置を用いることにより、大気解放、真空排気の工程を繰り返すことなく、製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】透明な樹脂基板の一方の面に、ハードコート、反対の面に3層の光学膜および透明導電膜を形成した多層フィルムの断面図である。
【図2】透明な樹脂基板の一方の面に、ハードコート、反射防止光学膜、防汚層を形成し、他方の面に平滑層を介し、3層の光学膜および透明導電膜を形成した多層フィルムの断面図である。
【図3】透明な樹脂基板の一方の面に光学膜および透明導電膜を形成した多層フィルムと、別の透明な樹脂基板にハードコートを形成したフィルムを粘着層を用いて貼り付けた積層体の断面図である。
【図4】ロールから巻き出されたフィルム基材上にセラミック薄膜を形成し、ロールに巻き取る、いわゆるロールトゥロール搬送する巻取式成膜装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下本発明を実施するための最良の形態を図面を用いながら説明する。
【0030】
図1の概略図は、透明な樹脂基板11の一方の面にハードコート12を塗工し、反対の面に屈折率1.50〜2.20の第1の薄膜層13、屈折率1.35〜1.50の第2の薄膜層14、屈折率1.90〜2.20の透明導電膜の第3の薄膜層15までの光学膜を形成した多層フィルム10である。
【0031】
本発明で用いる透明な樹脂基板11として用いられるプラスチックフィルムとしては成膜工程および後工程において十分な強度があり、表面の平滑性が良好であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリアリレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリイミド等が挙げられる。特に表示装置前面板に適用する場合は、透明性と耐熱性に優れたポリカーボネートやポリエーテルサルホンが好適に用いられる。その厚さは部材の薄型化と基材の可撓性とを考慮し、10〜200μm程度のものが用いられる。これら基材の表面に周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤、易接着剤などが使用されてもよい。薄膜との密着性を改善するため、前処理としてコロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理などを施してもよい。
【0032】
光学膜13〜15としては、酸化物、硫化物、フッ化物、窒化物などの材料が使用可能である。上記無機化合物からなる薄膜は、その材料により屈折率が異なり、その屈折率の異なるセラミック薄膜を特定の膜厚で形成することにより、光学特性を調整することが可能となる。
【0033】
多層フィルムは、層間で干渉を起こすことにより、特定の波長領域の透過率あるいは反射率を増大させたり、低減したりすることができるが、そのためには、それらの層の屈折率および膜厚を特定の範囲内にする必要がある。
例えば、第2の薄膜層の屈折率1.50を超える材料を使用、あるいは膜厚40nmを超える膜厚を堆積させた場合、透過光が増大し、黄色味の強いフィルムとなる。逆に、1.35を下回る屈折率材料を使用、あるいは膜厚を10nm未満とすると、全光線透過率が低下し、第2の薄膜層の効果が得られないことから、範囲以外の屈折率および膜厚にすることは不適である。
第1の薄膜層に関しては、樹脂基板と薄膜層の密着性を高める観点から化学両論に満たない材料を用いることが多く、この場合、10nmを超える膜厚だと透過率が低下し、1nm未満だと、樹脂基板表面に堆積する面積が不十分で、密着性が低下する。
【0034】
屈折率の低い材料としては、酸化マグネシウム(1.6)、二酸化珪素(1.5)、フッ化マグネシウム(1.4)、フッ化カルシウム(1.3〜1.4)、フッ化セリウム(1.6)、フッ化アルミニウム(1.3)などが挙げられる。また、屈折率の高い材料としては、酸化チタン(2.4)、酸化ジルコニウム(2.4)、硫化亜鉛(2.3)、酸化タンタル(2.1)、酸化亜鉛(2.1)、酸化インジウム(2.0)、酸化ニオブ(2.3)、酸化タンタル(2.2)が挙げられる。但し、上記括弧内の数値は屈折率を表す。
【0035】
上記薄膜層の材料の中でバリア性能を有する材料としては、珪素やアルミニウムの酸化物、窒化物等、酸窒化物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。一方、薄膜層成膜中あるいは成膜後に熱やプラズマにより、薄膜を処理し、緻密な薄膜を形成する方法でもバリア性能を向上させることが可能である。プラズマ処理の際に、樹脂基板にバイアスを印加することにより、その効果を高めることも可能である。
【0036】
本発明における光学膜、透明導電膜の製造方法としては、膜厚の制御が可能であればいかなる成膜方法でも良く、なかでも薄膜の生成には乾式法が優れている。これには真空蒸着法、スパッタリング等の物理的気相析出法やCVD法のような化学的気相析出法を用いることができる。特に大面積に均一な膜質の薄膜を形成するために、プロセスが安定し、薄膜が緻密化するスパッタリング法が望ましい。
【0037】
透明導電膜15は、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズのいずれか、または、それらの2種類もしくは3種類の混合酸化物、さらには、その他添加物が加えられた物等が挙げられるが、目的・用途により種々の材料が使用でき、特に限定されるものではない。現在のところ、最も信頼性が高く、多くの実績のある材料は酸化インジウムスズ(ITO)である。
また、透明導電膜15の表面抵抗値は、透明導電膜の表面抵抗値に関して、光線透過率の観点から150Ω/□以上とすることが望ましく、膜の耐久性の観点から、800Ω/□以下であることが望ましい。
【0038】
最も一般的な透明導電膜である酸化インジウムスズ(ITO)を用いる場合、酸化インジウムにドープされる酸化スズの含有比はデバイスに求められる仕様に応じて、任意の割合を選択する。例えば、機械強度を高める目的で薄膜を結晶化させるために用いるスパッタリングターゲット材料は、酸化スズの含有比が10重量%未満が望ましく、薄膜をアモルファス化しフレキシブル性を持たせるためには、酸化スズの含有比は10重量%以上が望ましい。また、薄膜に低抵抗が求められる場合は、酸化スズの含有比は3重量%から20重量%の範囲が望ましい。
【0039】
透明導電膜は成膜時の雰囲気により、膜質が変化する傾向があるが、透明導電膜を成膜する前に、水蒸気バリア性を有する薄膜を形成することにより、プラスチック基材から放出されるガスによる影響が抑制される。また、該水蒸気バリア性を有する薄膜を光学膜として用いることにより、水蒸気バリア性を有する薄膜を別途形成した多層フィルムよりも工程が減り、歩留まり向上が期待できる。
水蒸気透過速度の測定方法はJIS-Z0208、JIS-Z7129に代表されるような方法で測定可能である。水蒸気透過速度としては、40℃90%Rhの環境下、最表面の透明導電膜形成前で、1.5g/m2・day以下程度、透明導電膜まで形成された状態で、1.0g/m2・day以下であることが望ましい。
水蒸気透過速度が1.0g/m2・dayを上回ると、高温多湿の劣悪な環境でデバイスが使用された場合、積層フィルムを通してデバイス内に水蒸気が透過し、結露によりデバイス内でショートによる誤動作、最悪の場合、デバイスの破壊につながる深刻な影響を及ぼす。
また、有機EL等、有機デバイスの電極として用いた場合、水分子により容易に腐食し、デバイスが早期に機能しなくなる。
したがって、デバイスに与える影響を考慮すると、水蒸気透過速度は低ければ、低い程、良いが、透明導電膜まで形成された状態で、1.0g/m2・day以下であれば、性能バラツキの少ない、再現性の良い透明導電膜を形成できる。
【0040】
ハードコート層12は、透明性と適度な硬度と機械的強度があれば、特に限定されるものではない。電離放射線や紫外線の照射による硬化樹脂や熱硬化性の樹脂が使用でき、特に紫外線照射硬化型のアクリルや有機珪素系の樹脂や、熱硬化型のポリシロキサン樹脂が好適である。第2の薄膜層が低屈折率材料のため、これらの樹脂は透明な樹脂基板21と屈折率が同等もしくは若干高目に設定することがより好ましい。膜厚は3μm以上あれば十分な強度となるが、透明性、塗工精度、取り扱いから3〜7μmの範囲が好ましい。
【0041】
図2の概略図は、透明な樹脂基板21の一方の面に、ハードコート22、反射防止光学膜(薄膜層23〜26)、防汚層27を形成し、他方の面に平滑層28を介し、光学膜(薄膜層29〜31、薄膜層31は透明導電膜)を順次形成した多層フィルム20である。
【0042】
反射防止光学膜は通常、屈折率の異なる薄膜を形成することにより、反射防止の機能が付与される。基板よりも屈折率の低い無機薄膜を真空成膜で形成したり、紫外線照射硬化型の樹脂を塗布したりして形成される1層のものから、屈折率1.90〜2.50の高屈折率薄膜と屈折率1.30〜1.50の低屈折率薄膜を用い、透明な樹脂基板上に複数の層を形成してなるものまで様々であるが、一般に、複数の薄膜構成を用いることにより、より広い波長領域に渡り、低反射の特性を実現できる。
形成された反射防止光学膜の、透明導電膜が形成された面の反射を除外し測定した場合の波長380〜780nmの平均反射率は、視認性を確保するため2%以下であることが望ましい。その理由は、
【0043】
平滑層28は、光学膜を成膜前に形成することにより、透明導電膜32の表面の平滑性を高める目的で施される。防汚層27は表面に汚れを付きにくくする目的で形成される。
【0044】
平滑層28を形成する材料としては、透明性、適度な硬度および機械的強度を有するものであれば良く、アクリル系樹脂、有機シリコーン系樹脂、ポリシロキサン等の樹脂材料が挙げられる。ウェットプロセスでは、マイクログラビア、スクリーン等の各種コーティング方法を用いて塗工することができる。また有機層を塗工する際に、塗工液に樹脂フィラーや無機のフィラーを混合させることにより高硬度化・易滑化も可能である。一方、有機蒸着法により保護層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、アクリレートもしくはメタクリレート、又はそれらの混合樹脂溶液を有機物蒸着装置で蒸発させ、コーティングドラム上のフィルム上に凝縮させる。その後、電子線照射装置にて硬化処理を行うことにより保護層を形成することができる。また、電子線硬化の替わりに紫外線硬化を用いてもよい。
【0045】
防汚層27は、撥水性および/または撥油性であることにより、表面を保護し、さらに防汚性を高めるものであり、要求性能を満たすものであれば、いかなる材料であっても制限されるものではない。代表的な例として、有機化合物、好ましくはフッ素含有有機化合物が適している。撥水性を示すものとして、例えば、疎水基を有する化合物がよく、フルオロカーボンやパーフルオロシラン等が、また、これらの高分子化合物等が適している。
【0046】
これらの材料は材料に応じて真空蒸着法、プラズマCVD法などの真空成膜プロセスや、マイクログラビア、スクリーン印刷等のウェットプロセスの各種コーティング方法を用いて形成することができる。膜厚は光学デバイスに用いる場合、光学機能を損なわないように設定しなければならず、50nm以下、さらには10nm以下にすることが好ましい。
【0047】
図3の概略図は、透明な樹脂基板41の一方の面に光学膜(薄膜層42〜44、薄膜層44は透明導電膜)を形成した多層フィルム40と、別の透明な基板46にハードコート47を形成したフィルムを粘着層45を用いて貼り付けた積層体48である。
【0048】
別の透明な基板46は、透明な樹脂基板41と同様の樹脂フィルム、プラスチック基板、ガラス基板から適宜選択できる。可とう性の樹脂フィルムを用いることにより、ロール状に巻かれた多層フィルム40と粘着剤45とラミネートした後にロールに巻き取ることが可能となる。
【0049】
図4の概略図は、ロールから巻き出されたフィルム基材上にセラミック薄膜を形成し、ロールに巻き取る、いわゆるロールトゥロール搬送する巻取式真空成膜装置50を示す。
【0050】
真空槽の中に薄膜の成膜が可能な成膜ユニット(55a〜55e)、成膜室(56a〜56e)を有し、プラスチック基材をロールトゥトールで搬送させながら各セラミック薄膜層を順次積層していく。成膜速度の遅い材料の成膜工程については2個以上の成膜ユニットを設け、他方の成膜速度の高い工程とマッチングをとることにより、複層のセラミック薄膜層をインラインで一度に成膜することも可能となる。インラインで複数の薄膜を一度に成膜する場合、各薄膜層で相互に不純物や成膜ガスが混合しないように、成膜室間のコンダクタンスをできる限り小さくし、また、必要に応じて成膜室間にポンプを取り付けた中間室を設けることにより、成膜室間の差圧が1:100以上を実現できることが好ましい。
【0051】
次に、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
【0052】
図1に示されるように、3μmの厚さのハードコートを片面に形成したポリエチレンテレフタレート(188μm・1000mm幅)基板のハードコート形成面とは反対の面上に、デュアルマグネトロンスパッタリング(DMS)法により、屈折率1.70のSiOx(1<x<2)薄膜を3nm、屈折率1.45のSiO2薄膜を18nm、屈折率1.98のITO薄膜を20nm形成した多層フィルムを作製した。成膜中に薄膜には高エネルギーイオンが入射するため、緻密な膜が形成された。
【0053】
作製した多層フィルムの水蒸気透過速度を測定したところ、0.5g/m2・dayだった。このフィルムの表面抵抗値は310Ω/□、全光線透過率は89.1%の多層フィルムが得られた。表面抵抗値のバラツキを確認したところ、標準偏差7.5の良好な膜が得られた。
【実施例2】
【0054】
188μm厚のポリエチレンテレフタレートの片面に3μmの厚さのハードコートが形成された樹脂基板のハードコート形成面とは反対の面に、真空成膜により、屈折率1.70のSiOx(1<x<2)薄膜を3nm、屈折率1.45のSiO2薄膜を30nm、屈折率1.98のITO薄膜を20nm形成した多層フィルムを作製した。この際、カソードの磁場のバランスを調整した装置を用い、薄膜に高エネルギーイオンを入射し、緻密な膜を形成した。
そして、ガラス基板上にITOを形成した下部電極にスペーサーを介し、この多層フィルムを上部電極とし、透明導電膜をガラス基板と対向させて配置させたタッチパネルを形成した。
【0055】
作製した多層フィルムの水蒸気透過速度を測定したところ、0.3g/m2・dayだった。このフィルムの表面抵抗値は250Ω/□、全光線透過率は88.5%の多層フィルムが得られた。作製したタッチパネルのリニアリティーを測定したところ、0.8%と良好な特性を示した。
また、タッチパネルを60℃90%RHの環境下に1000h放置した後も、タッチパネルの動作に問題は見られなかった。
【比較例1】
【0056】
3μmの厚さのハードコートを片面に形成したポリエチレンテレフタレート(188μm・1000mm幅)基板のハードコート形成面とは反対の面上に、真空蒸着法により、屈折率1.45のSiO2薄膜を30nm、屈折率1.98のITO薄膜を20nm形成した多層フィルムを作製した。
【0057】
作製した多層フィルムの水蒸気透過速度を測定したところ、3.0g/m2・dayだった。この多層フィルムの表面抵抗値は430Ω/□、全光線透過率は88.7%の多層フィルムが得られた。しかしながら、表面抵抗値のバラツキを確認したところ、標準偏差29.3の表面抵抗分布の大きい膜であった。
さらに作製された多層フィルムを用いてタッチパネルを作製し、60℃90%RHの環境下に1000h放置した後に、常温に取り出したところ、タッチパネル内部に結露が見られた。通常の打鍵加重(250gf)によりタッチパネルの動作を確認したところ、ON/OFFのスイッチング時間が通常よりも長い現象や、OFF信号が得られない(ショート)現象が確認された。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
10…多層フィルム
11…透明な樹脂基板
12…ハードコート
13…第1の薄膜層
14…第2の薄膜層
15…第3の薄膜層、透明導電膜
20…多層フィルム
21…透明な樹脂基板
22…ハードコート
23…光学薄膜
24…光学薄膜
25…光学薄膜
26…光学薄膜
27…防汚層
28…平滑層
29…第1の薄膜層
30…第2の薄膜層
31…第3の薄膜層、透明導電膜
40…多層フィルム
41…透明な樹脂基板
42…第1の薄膜層
43…第2の薄膜層
44…第3の薄膜層、透明導電膜
45…粘着層
46…他の透明な基板
47…ハードコート
48…積層体
50…巻取式真空成膜装置
51…巻出ロール
52…巻取ロール
53…フリーロール
54…透明な樹脂基板
55a〜e…成膜ユニット
56a〜e…成膜室
57…冷却ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な樹脂基板の少なくとも一方の面に該樹脂基板とは屈折率の異なる光学膜を形成し、最外層に透明導電膜を有する多層フィルムであって、該多層フィルムの40℃90%Rhにおける水蒸気透過速度が1.0g/m2・day以下であることを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
前記光学膜は、透明な樹脂基板に近い層から順に、屈折率n1が1.50〜2.20で膜厚d1が1〜10nmである第1の薄膜層と、屈折率n2が1.35〜1.50で膜厚d2が10〜40nmの第2の薄膜層からなり、
また、透明導電膜は、屈折率n3が1.90〜2.20で膜厚d3が10〜30nmの第3の薄膜層からなることを特徴とする、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記第1の薄膜層の樹脂基板側に、金属の亜酸化物層が形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記透明導電膜が、In、Zn、Snの少なくとも1つを主原料とする酸化物からなり、表面抵抗値が150〜800Ω/□の範囲であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記透明な樹脂基板の片面あるいは両面にハードコート、表面平滑層、オリゴマー析出防止層のうち、少なくとも1層が形成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記透明な樹脂基板の透明導電膜が形成されている側とは反対側の面に可視光域の反射を低減させるように薄膜が積層され、透明導電膜が形成された面の反射を除外し測定した場合の波長380〜780nmの平均反射率が2%以下であることを特徴とする、請求項1から5の何れかに記載の多層フィルム。
【請求項7】
前記透明な樹脂基板の透明導電膜が形成された面とは反対側の面の最表面に防汚層が形成されていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の多層フィルム。
【請求項8】
粘着剤、接着剤等の手段を用い、請求項1から7の何れかに記載の多層フィルムと他のフィルム、プラスチック基板、ガラス基板を貼り合わせたことを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項1から8の何れかに記載の多層フィルムあるいは積層体を用いた電子デバイス。
【請求項10】
請求項1から7の何れか1項の多層フィルムの製造方法であって、真空装置内に複数の材料のターゲットを配置し、透明な樹脂基板をロールから連続的に巻出し、装置内を大気に解放することなく光学膜および透明導電膜を形成し、最後にロールに巻き取ることを特徴とする、多層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184478(P2010−184478A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31784(P2009−31784)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】