説明

多層フィルムおよび同フィルムを用いた包装用袋

【課題】ヒートシール強力およびガスバリア性の双方に優れた多層フィルムおよび同フィルムを用いた包装用袋を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂にて構成された基材層の少なくとも一方の面上に、無機層状化合物および水溶性高分子を含む分散液を塗工して形成されたガスバリア層と、カチオン性樹脂と水酸基を有する樹脂とを含むオーバーコート層と、接着剤層と、シーラント層とが順次積層されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層フィルムおよび同フィルムを用いた包装用袋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等の熱可塑性樹脂からなるフィルムは、その優れた力学的性質、耐熱性、透明性等により、食品分野、化粧品分野、農薬分野、医療分野等の多くの分野で、広く包装材料として用いられている。
【0003】
熱可塑性樹脂製フィルムを包装材料として用いる場合には、内容物が酸素により劣化することを防ぐため、フィルムにガスバリア性が求められることが多い。また、包装用袋として使用するために、これらの熱可塑性樹脂フィルムにはヒートシール強度が求められる。
【0004】
このようなガスバリア性を有する包装材料として、以下のような技術が検討されている。
特許文献1には、基材フィルムと、無機層状化合物および樹脂を含有したガスバリア層と、ポリウレタンおよびイソシアネート系化合物を含有した保護層と、シーラントフィルムとがこの順に積層された包装材料が開示されている。
【0005】
特許文献2には、基材フィルムの片面に、合成樹脂および無機層状化合物を含有したガスバリア層と、不飽和酸およびポリアミンを含有した硬化樹脂層と、ヒートシール層とがこの順に積層された包装体が開示されている。
【0006】
特許文献3には、基材フィルムの片面に、アンダーコート層と、無機層状化合物および水溶性高分子を含有したガスバリア層と、アクリル系樹脂およびイソシアネート化合物を含有したオーバーコート層とがこの順に積層された積層体が開示されている。
【0007】
特許文献4には、基材層の片面に、アスペクト比200〜3000の無機層状化合物およびポリビニルアルコールを含む分散液を塗工してなるガスバリア層を有し、このガスバリア層上に、イソシアネート化合物、活性水素化合物およびポリオキシカルボン酸を含む塗工液を塗工してなる層を有する多層フィルムが開示されている。
【0008】
特許文献5には、基材の少なくとも片面に、無機層状化合物と水溶性高分子と特定組成のアミン化合物とを含有したガスバリア層が設けられたガスバリアフィルムが開示されている。
【特許文献1】特開平11−171237号公報
【特許文献2】特開2000−355080号公報
【特許文献3】特開2001−80003号公報
【特許文献4】特開2005−220154号公報
【特許文献5】特開平10−166516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4のものでは、層状化合物を含むガスバリア層に架橋層(接着剤層)が直接積層されるため、フィルムに発生する応力を十分緩和することができず、袋として用いた場合にはヒートシール強力が不十分となる場合がある。
【0010】
また、特許文献5のものでは、アミノ基を有する樹脂を用いているが、やはりガスバリア層に架橋層(接着剤層)が直接積層されるため、フィルムに発生する応力を十分緩和することができず、袋として用いた場合にはヒートシール強力が不十分となる場合がある。また、本発明者らの検討によると、ガスバリア層として、水酸基を有する樹脂とアミノ基を有する樹脂を併用した場合、ガスバリア性が悪化することが確認されている。
【0011】
そこで本発明は、ヒートシール強力およびガスバリア性の双方に優れた多層フィルムおよび同フィルムを用いた包装用袋を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂にて構成された基材層の少なくとも一方の面上に、無機層状化合物および水溶性高分子を含む分散液を塗工して形成されたガスバリア層と、カチオン性樹脂と水酸基を有する樹脂とを含むオーバーコート層と、接着剤層と、シーラント層とが順次積層されたものであることを特徴とする多層フィルム。
【0013】
(2)オーバーコート層が、カチオン樹脂と反応する硬化剤を含有していないものであることを特徴とする(1)の多層フィルム。
【0014】
(3)オーバーコート層に含まれるカチオン性樹脂が1級アミンを含有したものであることを特徴とする(1)または(2)の多層フィルム。
【0015】
(4)オーバーコート層が、カチオン性樹脂100質量部に対して、水酸基を有する樹脂を5〜100質量部含有したものであることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの多層フィルム。
【0016】
(5)オーバーコート層に含まれる水酸基を有する樹脂が、ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする(1)から(4)までのいずれかの多層フィルム。
【0017】
(6)オーバーコート層に含まれるカチオン性樹脂が、ポリアリルアミンまたはキトサンであることを特徴とする(1)から(5)までのいずれかの多層フィルム。
【0018】
(7)基材層とガスバリア層との間にアンカーコート層が設けられていることを特徴とする(1)から(6)までのいずれかの多層フィルム。
【0019】
(8)ガスバリア層に含まれる水溶性高分子が、水酸基とカルボキシル基との少なくとも一つを含むものであることを特徴とする(1)から(7)までのいずれかの多層フィルム。
【0020】
(9)接着剤層が、イソシアネートを含むものであることを特徴とする(1)から(8)までのいずれかの多層フィルム。
【0021】
(10)20℃50%RHにおける酸素透過度が20ml/m・day・MPa以下であることを特徴とする(1)から(9)までのいずれかの多層フィルム。
【0022】
(11)上記(1)から(10)までのいずれかの多層フィルムにて構成されていることを特徴とする包装用袋。
【発明の効果】
【0023】
本発明の多層フィルムおよび同フィルムを用いた包装用袋は、ガスバリア層上にオーバーコート層を介して接着層を形成したものであるため、フィルムに発生する応力を十分緩和することができて、十分なヒートシール強力を達成することができるのみならず、ガスバリア性を低下させることがない。このため、ヒートシール強度およびガスバリア性に優れたものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の多層フィルムは、熱可塑性樹脂にて構成された基材層の少なくとも一方の面上に、無機層状化合物および水溶性高分子を含む分散液を塗工することにより形成されるガスバリア層と、オーバーコート層と、接着剤層と、シーラント層とをこの順で積層したフィルムである。基材層に用いる熱可塑性樹脂の種類によっては、基材層とガスバリア層との間にアンカーコート層を設けることが好ましい。
【0025】
本発明において基材層として用いられる熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂;それらの混合物が挙げられる。基材層は、前記樹脂よりなるフィルムまたはそれらのフィルムの積層体にて構成することができる。このフィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよい。
【0026】
フィルムを製造する際には、熱可塑性樹脂を押出機で加熱、溶融してTダイより押し出し、冷却ロールなどにより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、もしくは円形ダイより押し出して水冷あるいは空冷により固化させて未延伸フィルムを得る。延伸フィルムを製造する場合は、未延伸フィルムを一旦巻き取った後に、または未延伸フィルムの製造に連続して、同時2軸延伸法または逐次2軸延伸法により延伸する方法が好ましい。フィルムの機械的特性や厚み均一性などの性能面からは、Tダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法とを組み合わせることが好ましい。塗工性を高めるため、製膜後にコロナ処理やプラズマ処理などの公知の表面処理を行うことが好ましい。
【0027】
本発明の多層フィルムにおいて、ガスバリア層の被膜形成性や、基材層とガスバリア層との間の密着性を高めるために、上述のように基材層とガスバリア層との間にアンカーコート層を設けることができる。その場合に、アンカーコート層の材料は、基材層とガスバリア層との種類によって適宜選択すれば良く、特に限定されないが、ポリウレタン系、ポリエステル系、アクリルゴム系、そしてチタネート系アンカーコート剤などの、公知のアンカーコート剤を用いることができる。さらに、広範囲なプラスチック材料製の基材に適応するために、アンカーコート剤に濡れ剤を添加してもよい。
【0028】
ガスバリア層を形成する水溶性高分子としては、ガスバリア性を付与するために用いられる公知の水溶性高分子を用いることができる。通常、水酸基とカルボキシル基との少なくとも一つを含んでいる。
【0029】
水酸基を含む水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、糖類などが挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体や、カルボニル基、エーテル基、カルボン酸等で変性されたポリビニルアルコールなどが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0030】
変性ポリビニルアルコールを用いる場合には、ガスバリア性の観点からそのケン化度は80%以上であることが好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。また変性ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000の範囲内であることが好ましく、200〜3000の範囲内であることがより好ましい。
【0031】
カルボキシル基を含む水溶性高分子としては、ポリ(メタ)アクリル酸;エチレン−マレイン酸共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体、メチルビニルエーテル−マレイン酸共重合体などのマレイン酸共重合体;ポリイタコン酸などが挙げられる。これらのカルボキシル基を有する水溶性高分子を使用する場合は、上述の水酸基を有する樹脂を併用することが、ガスバリア性の点から好ましい。カルボキシル基を有する水溶性高分子と水酸基を有する水溶性高分子を用いる場合において、両者の好ましい質量比率は、(カルボキシル基を有する水溶性高分子)/(水酸基を有する水溶性高分子)=90/10〜10/90であり、より好ましくは70/30〜30/70であり、さらに好ましくは、70/30〜50/50である。また、カルボキシル基を水酸化ナトリウムや水酸化マグネシウムなどのアルカリ化合物やそれらの塩で部分的に中和しておくことが好ましい。具体的には、5〜50モル%のカルボキシル基を中和しておくことが好ましく、10〜30モル%のカルボキシル基を中和しておくことがより好ましい。
【0032】
これらの水溶性高分子は、本発明の目的を妨げない範囲で変性することができ、また公知の添加剤を加えても良い。特に、チタンキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物などのキレート化合物を加えると、耐熱水性を高めることができる。これらの添加剤の添加割合は、水溶性高分子100質量部に対して10質量部以下であることが好ましい。
【0033】
ガスバリア層を形成する無機層状化合物としては、溶媒への膨潤性および劈開性を有する粘土鉱物を特に好ましく用いることができる。そのような粘土鉱物としては、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等が挙げられる。なかでも、スメクタイト族、バーミキュライト族、マイカ族の粘土系鉱物が好ましく、スメクタイト族が特に好ましい。スメクタイト族としては、例えばモンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチブンサイト、ヘクトライトが挙げられる。しかし、特に限定されるものではない。また、これら粘土鉱物に有機物でイオン交換等の処理を施して分散性等を改良したものも、無機層状化合物として用いることができる。
【0034】
無機層状化合物のアスペクト比は、200〜3000であることが好ましい。無機層状化合物のアスペクト比が小さすぎる場合には、ガスバリア性が不十分となる傾向がある。反対にアスペクト比が大きすぎる場合には、膨潤かつ劈開させることが困難となり、ガスバリア性が不十分となる傾向がある。また無機層状化合物は、ガスバリア性、透明性、製膜性の点から、平均粒径が5μm以下であることが好ましい。特に透明性が求められる用途では、平均粒径が1μm以下であることが好ましい。
【0035】
無機層状化合物を膨潤かつ劈開させる分散媒としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。とりわけ、水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。
【0036】
ガスバリア層を形成するために、無機層状化合物と水溶性高分子との分散液を用いることが好ましい。この分散液における無機層状化合物および水溶性高分子の含有量は、特に指定されるものではないが、塗工性の観点から、分散液中の水溶性高分子と無機層状化合物との合計量は通常0.1〜70質量%であることが好ましく、1〜20%であることがより好ましい。またガスバリア性の観点から、無機層状化合物と水溶性高分子との合計量を100質量%としたときの無機層状化合物の質量比は、3〜70質量%であることが好ましい。
【0037】
無機層状化合物および水溶性高分子含む分散液は、ホモジナイザー等の公知の装置を用いて得ることができる。しかし、高圧分散装置を用いて高圧分散処理することが、無機層状化合物の分散性の観点から好ましい。
【0038】
オーバーコート層は、無機層状化合物および水溶性高分子を含むガスバリア層上に形成されるものであるが、カチオン性樹脂と水酸基を有する樹脂とを含むことが必要である。このようなオーバーコート層を設けてから接着剤層を介してシーラント層を設けることにより、ヒートシール強度に優れた多層フィルムを得ることができる。カチオン性樹脂を含むだけではフィルムがブロッキングし、また水酸基を有する樹脂を含むだけでは所要のヒートシール強力が得られない。
【0039】
オーバーコート層に含まれるカチオン性樹脂としては、メチルジアリルアミン重合体などの3級アミンを有する樹脂;ジアリルアミン重合体、ポリエチレンイミンなどの2級アミンを有する樹脂;ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、キトサンなどの1級アミンを有する樹脂などが挙げられる。なかでも、1級アミンを有する樹脂が、ガスバリア層との接着性の点で好ましく、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、キトサンがより好ましい。これらのカチオン性樹脂は、本発明の目的を妨げない範囲で変性することができ、アニオンの塩になっていてもよい。塩の種類は特に限定されない。しかし、本発明の多層フィルムの耐水性の点から、塩になっていない方が好ましい。
【0040】
オーバーコート層は、カチオン性樹脂100質量部に対して、水酸基を含む樹脂を5〜100質量部含有することが好ましく、10〜80質量部含有することがよりに好ましく、20〜60質量部含有することがさらに好ましい。水酸基を含む樹脂としては、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、糖類などが挙げられる。変性ポリビニルアルコールとしては、エチレン−ビニルアルコール共重合体や;カルボニル基、エーテル基、カルボン酸などで変性されたポリビニルアルコールが挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコールやエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0041】
オーバーコート層は、本発明の目的を損ねない範囲で、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどのブロッキング防止剤が添加されていても良い。
そしてオーバーコート層は、カチオン性樹脂と反応する硬化剤を実質的に含まないこと、すなわちカチオン性樹脂と反応する硬化剤を含有しない液をガスバリア層上に塗工して形成したものであることが好ましい。カチオン性樹脂と反応する硬化剤を含むと、ブロッキングは改善傾向にあるが、ヒートシール強力が低下する。
【0042】
なお、本発明において、カチオン性樹脂と反応する硬化剤を「含有しない」とは、まったく含まないことと、ヒートシール強力が低下しない程度に微量に含むこととの、両方の意味をもつ。
【0043】
実質的に含まないことが好ましいものであるところの、カチオン性樹脂と反応する硬化剤としては、イソシアネート、エポキシ、ポリカルボン酸などが挙げられる。上述のとおり、本発明においては、これらの化合物はオーバーコート層を形成する液に含まれていないことが好ましい。
【0044】
ガスバリア層の上にオーバーコート層を塗工するための溶媒としては、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン等が挙げられる。とりわけ、水、アルコール、水−アルコール混合物が好ましい。塗工液の調製方法は、特に限定されないが、オーバーコート層を形成するための樹脂を水に溶かした後、アルコールで希釈する方法が好ましい。
【0045】
接着剤層としては、アクリル系、ウレタン系、エステル系などの公知の接着剤を用いることができる。なかでも、ウレタン−イソシアネート2液系接着剤が接着性の点で好ましい。接着剤に用いる溶媒は、水であっても有機溶媒であってもよい。
【0046】
シーラント層を構成する樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂;ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0047】
本発明の多層フィルムを製造する際において、基材層の面上にアンカーコート層、ガスバリア層、オーバーコート層、接着剤層を設ける方法は、それぞれ特に限定されるものではなく、例えばダイレクトグラビア法、リバースグラビア法、マイクログラビア法等のグラビア法;2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本リバースコート法等のロールコーティング法;ドクターナイフ法;ダイコート法;バーコーティング法;あるいはこれらを組み合わせたコーティング法を用いることができる。
【0048】
本発明の多層フィルムにおいては、オーバーコート層上、あるいは基材におけるガスバリア層等を設けていない非塗布面上に、必要に応じて公知の方法で印刷を施すことができる。
【0049】
本発明の多層フィルムを製造する際には、基材層上に上述のような方法によってアンカーコート層を設けた後、ガスバリア層を形成する分散液を塗工して乾燥し、分散媒を揮発させた後、さらに上記のような方法でガスバリア層上をカチオン樹脂含む塗工液を塗工、乾燥して、オーバーコート層を形成する。印刷をする場合は、基材の非塗布面またはオーバーコート層上に印刷してから、接着剤を塗布した後、シーラント層を積層することにより、本発明の多層フィルムを得ることができる。印刷をしない場合は、オーバーコート層上に接着剤を塗布した後に、シーラント層を積層することにより、本発明の多層フィルムを得ることができる。
【0050】
接着剤層上にシーラント層を積層する方法は、特に限定されるものではなく、接着剤層上にシーラント層を構成する樹脂を押し出しラミネートする方法、接着剤層上にシーラント層を形成するフィルムをドライラミネートする方法等が挙げられる。シーラント層とオーバーコート層の界面は、コロナ処理、オゾン処理、電子線処理や、アンカーコート剤の塗布等の処理がされていてもよい。
【0051】
基材層とガスバリア層との間にアンカーコート層を有する場合は、その厚みは、0.01〜5μmであることが好ましい。乾燥後のガスバリア層の厚みは0.01μm〜10μm程度であることが好ましい。乾燥後のオーバーコート層の厚みは0.05〜5μmであることが好ましく、0.1〜1μmであることがより好ましい。接着剤層の厚みは0.1〜5μmであることが好ましい。シーラント層の乾燥後の厚みは、ヒートシール強度の点から0.001μm以上であることが好ましく、経済性の点から10μm以下であることが好ましい。
【0052】
多層フィルムを110℃以上220℃以下で熱処理することが、熱水処理後のガスバリア性向上の観点から好ましい。熱処理に用いる熱源は特に限定されるものではなく、熱ロール接触、熱媒接触(空気等)、赤外線加熱、マイクロ波加熱等、種々の方法を適用することができる。
【0053】
本発明の多層フィルムを構成する各層は、本発明の効果を損なわない程度に、必要に応じて、紫外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。また本発明の多層フィルムは、上述した層以外の層を有していてもよい。
【0054】
本発明の多層フィルムはヒートシール性およびガスバリア性に優れる。たとえばガスバリア性として、20℃50%RHにおける酸素透過度が20ml/m・day・MPa以下である性能を発揮することができる。
【0055】
このような本発明の多層フィルムは、食品分野、化粧品分野、農薬分野、医療分野等の多くの分野で、包装材料として好適に用いることができる。特に包装用袋として好ましく用いることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例、比較例における各種物性の測定方法、評価方法は、次の通りである。
【0057】
〔厚み〕
0.5μm以上の厚みは、市販のデジタル厚み計(日本光学社製接触式厚み計、商品名:超高精度デシマイクロヘッド MH−15M、)により測定した。一方、0.5μm未満の厚みは、IR法により実際の塗工膜厚とIR吸収との検量線を作成し、検量線より求めた。
【0058】
〔無機層状化合の粒径〕
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA910)を使用し、ポリビニルアルコール中に存在する無機層状化合物とみられる粒子の体積基準のメジアン径を粒径として測定した。なお、ポリビニルアルコールと無機層状化合物とを含む分散液原液の場合は、ペーストセルにて、光路長50μmで測定した。この分散液の希釈液の場合は、フローセル法にて光路長4mmで測定した。
【0059】
〔無機層状化合のアスペクト比〕
X線回折装置(島津製作所社製、XD−5A)を用い、無機層状化合物単独と、ポリビニルアルコールおよび無機層状化合物を含む塗工液を乾燥したものとについて、粉末法による回折測定により求めた。これにより無機層状化合物の単位厚さaを求めた。さらに、ガスバリア層を形成する塗工液を乾燥したものについての回折測定から、無機層状化合物の面間隔が広がっている部分があることを確認した。上述の方法で求めた粒径Lを用いて、アスペクト比Zを、
Z=L/a
の式により算出した。
【0060】
〔酸素透過度〕
JIS K7126に基づき、超高感度酸素透過度測定装置(MOCON社製、OX−TRANML)にて、23℃、50%RHの条件で測定を行った。
【0061】
〔ヒートシール強度〕
2枚の多層フィルムのシーラント層同士を重ね合わせて、ヒートプレス機にて、上部160℃、下部130℃の温度条件で、シール圧9.8N(1kg/cm)で1秒間プレスした。このサンプルを15mm幅で切り出し、1日後、引張り試験機(インテスコ社製、精密万能材料試験機2020型)を用い、チャック間距離1cm、引張り速度300mm/分でT型剥離試験を行い、ヒートシール強度を評価した。ヒートシール強度30N以上を良好と評価して○で表示し、30N未満を不良と評価して×で表示した。
【0062】
〔実施例1〕
分散釜(浅田鉄工社製、商品名:デスパMH−L)に、イオン交換水(比電気伝導率0.7μs/cm以下)1300gと、ポリビニルアルコール(クラレ社製、PVA117H、ケン化度99.6%、重合度1,700)130gとを混合し、低速撹拌(1500rpm、周速度4.1m/分)下で95℃に昇温した。その混合系を同温度で30分間撹拌してポリビニルアルコールを溶解させたのち、60℃に冷却し、ポリビニルアルコール水溶液を得た。
【0063】
このポリビニルアルコール水溶液(60℃)を上記と同様の条件で撹拌しながら、1−ブタノール122g、イソプロピルアルコール122gおよびイオン交換水520gを混合し、それによって得られたアルコール水溶液を、5分間かけて滴下した。滴下終了後、高速撹拌(3000rpm、周速度=8.2m/分)に切り替え、その撹拌系に高純度モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアG)65gを徐々に加え、添加終了後、60℃で60分間撹拌を続けた。その後、さらにイソプロパノール243gを15分間かけて加え、次いでその混合系を室温まで冷却し、無機層状化合物としてのモンモリロナイトとポリビニルアルコールとを含む分散液(1)を得た。この分散液(1)に対し、非イオン性界面活性剤(ポリジメチルシロキサン−ポリオキシエチレン共重合体;東レ・ダウコーニング社製、商品名:SH3746)0.1質量部(分散液(1)質量を基準として)を添加し、さらにこれを高圧分散装置(Microfluidics Corporation 製、商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H)を用いて、10.8kN/cm(1100kgf/cm)の条件で処理し、無機層状化合物としてのモンモリロナイトとポリビニルアルコールとを含む分散液(2)を得た。
【0064】
このとき劈開したモンモリロナイトの平均粒径は560nm、粉末X線回折から得られる単位長さすなわちa値は1.2156nmであり、アスペクト比は460であった。
【0065】
上記の無機層状化合物としてのモンモリロナイトとポリビニルアルコールとを含む分散液(2)2000gに、キレート化合物としてチタンアセチルアセトナート(松本製薬工業社製、商品名:TC100)5.33gを、低速撹拌(1500rpm、周速度4.1m/分)下において、系のpHが3以下となるように塩酸で調整しながら徐々に添加することにより、ポリビニルアルコール、無機層状化合物としてのモンモリロナイトおよびキレート化合物を含む分散液(3)を調製した。
【0066】
厚さ15μmの二軸延伸ナイロン(ON)フィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレムON−U)の両面コロナ処理したものを、基材層(基材フィルム)とした。そして、この基材フィルムの一方の面上に、アンカーコート剤(東洋モートン社製、EL510−1/CAT−RT87=5/1[質量比])を、テストコーター(康井精機社製)を用いて、マイクログラビア塗工法により、塗工速度3m/分、乾燥温度80℃でグラビア塗工し、アンカーコート層を形成した。このアンカーコート層の乾燥厚みは0.05μmであった。
【0067】
さらに前述のポリビニルアルコール、無機層状化合物としてのモンモリロナイト、キレート化合物を含む分散液(3)を、テストコーター(康井精機社製)を用いて、マイクログラビア塗工法により、塗工速度3m/分、乾燥温度100℃でグラビア塗工し、基材層上に、アンカーコート層を介して、上分散液(3)に基づくフィルム(ガスバリア層)が形成された塗工フィルムを得た。ガスバリア層の膜厚(乾燥厚み)は0.2μmであった。
【0068】
次に、前記塗工フィルムのガスバリア層上に塗工液を塗工して、オーバーコート層を形成した。塗工液には、ポリアリルアミン(日東紡社製、商品名:PAA−H−10C)/ポリビニルアルコール(上述のPVA117H)=100/40[質量比])、固形分10質量%を用いた。この塗工液を、テストコーター(康井精機社製)を用いたマイクログラビア塗工法により、塗工速度3m/分、乾燥温度100℃でグラビア塗工し、オーバーコート層を形成した。このオーバーコート層の乾燥厚みは、0.2μmであった。
【0069】
次に、オーバーコート層の上に、ウレタン系接着剤(東洋モートン社製、TM250/CAT−RT86−60L=15/2(質量比))を用いて、表面コロナ処理した直鎖状低密度ポリエチレン(東セロ社製、商品名:TUX−FCD、厚み70μm)をシーラント層としてドライラミネートし、多層フィルムを得た。
【0070】
この多層フィルムのガスバリア性およびヒートシール強度を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、この多層フィルムは、ガスバリア性およびヒートシール強度に優れていた。
【0071】
【表1】

【0072】
〔実施例2、3〕
実施例1のポリビニルアルコール、無機層状化合物としてのモンモリロナイト、キレート化合物を含む分散液(3)に代えて、ポリビニルアルコールおよび無機層状化合物としてのモンモリロナイトを含み、かつキレート化合物を含まない分散液(2)を用いた。そして、オーバーコート層におけるポリアリルアミンとポリビニルアルコールとの質量比を表1に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0073】
表1に示すように、これらの多層フィルムは、ガスバリア性およびヒートシール強度に優れていた。
【0074】
〔実施例4〕
実施例1の基材フィルムを、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(ユニチカ社製、商品名:エンブレットPET12)に代え、同アンカーコート剤を(大日本インキ社製、LX−747A/KX−75=7/1[質量比])に代え、オーバーコート剤のポリビニルアルコールの代わりにエチレン−ビニルアルコール共重合体(クラレ社製、商品名:AQ−4105)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0075】
表1に示すように、この多層フィルムは、ガスバリア性およびヒートシール強度に優れていた。
【0076】
〔実施例5〕
実施例1のオーバーコート剤におけるポリアリルアミンの代わりにキトサンを用い、同ポリビニルアルコールの代わりにエチレン−ビニルアルコール(AQ−4105)を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0077】
表1に示すように、この多層フィルムは、ガスバリア性およびヒートシール強度に優れていた。
【0078】
〔実施例6〕
ポリビニルアルコール(上述のPVA117H)を純水に溶解し、10質量%の水溶液を得た。エチレン−マレイン酸交互共重合体(ALDRICH社製、重量平均分子量100,000〜500,000)を、マレイン酸のカルボキシル基に対して5モル%の水酸化ナトリウムを含む水に溶解し、10質量%の水溶液とした。そして、ポリビニルアルコールとエチレン−マレイン酸共重合体との質量比が、(ポリビニルアルコール)/(エチレン−マレイン酸共重合体)=70/30となるように、両水溶液を混合した。続いて、ポリビニルアルコールとエチレン−マレイン酸共重合体との固形分の合計100質量部に対して、無機層状化合物(モンモリロナイト、クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)を10質量部になるように添加し、撹拌して分散液を調製した。さらにこれを上述の高圧分散装置(Microfluidics Corporation 製、商品名:超高圧ホモジナイザーM110−E/H)を用いて、10.8kN/cm(1100kgf/cm)の条件で処理し、無機層状化合物としてのモンモリロナイトとポリビニルアルコールとを含む分散液(4)を得た。
【0079】
実施例1の、ポリビニルアルコールと、無機層状化合物としてのモンモリロナイトと、キレート化合物を含む分散液(3)のかわりに、ポリビニルアルコールと、エチレン−マレイン酸共重合体と、無機層状化合物としてのモンモリロナイトとを含む分散液(4)を用いてガスバリア層を形成した。それ以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0080】
表1に示すように、この多層フィルムは、ガスバリア性およびヒートシール強度に優れていた。
【0081】
〔比較例1〕
実施例1に比べて、オーバーコート層を形成しなかった。それ以外は実施例1と同様にして多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0082】
表1に示すように、この多層フィルムは、ヒートシール性に劣るものであった。
【0083】
〔参考例1〕
実施例1に比べ、オーバーコート層の塗工液として、実施例1のポリアリルアミン/ポリビニルアルコールの代わりに、ポリアリルアミン/イソシアネート(BASF社製、商品名:HW−100)100/10(質量比)、固形分10質量%を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、多層フィルムを得た。得られた多層フィルムの評価の結果を表1に示す。
【0084】
表1に示すように、この多層フィルムは、オーバーコート層が、カチオン性樹脂と反応する硬化剤としてのイソシアネートを含むものであったため、ヒートシール性に劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂にて構成された基材層の少なくとも一方の面上に、無機層状化合物および水溶性高分子を含む分散液を塗工して形成されたガスバリア層と、カチオン性樹脂と水酸基を有する樹脂とを含むオーバーコート層と、接着剤層と、シーラント層とが順次積層されたものであることを特徴とする多層フィルム。
【請求項2】
オーバーコート層が、カチオン性樹脂と反応する硬化剤を含有していないものであることを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
オーバーコート層に含まれるカチオン性樹脂が1級アミンを含有したものであることを特徴とする請求項1または2記載の多層フィルム。
【請求項4】
オーバーコート層が、カチオン性樹脂100質量部に対して、水酸基を有する樹脂を5〜100質量部含有したものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項5】
オーバーコート層に含まれる水酸基を有する樹脂が、ポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項6】
オーバーコート層に含まれるカチオン性樹脂が、ポリアリルアミンまたはキトサンであることを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項7】
基材層とガスバリア層との間にアンカーコート層が設けられていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項8】
ガスバリア層に含まれる水溶性高分子が、水酸基とカルボキシル基との少なくとも一つを含むものであることを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項9】
接着剤層が、イソシアネートを含むものであることを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項10】
20℃50%RHにおける酸素透過度が20ml/m・day・MPa以下であることを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項記載の多層フィルム。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の多層フィルムにて構成されていることを特徴とする包装用袋。

【公開番号】特開2009−241359(P2009−241359A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89566(P2008−89566)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】