説明

多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法および光ディスク装置

【課題】3層以上の多層ディスクにおいて、層間ジャンプを失敗して目的層以外の層に入ったとしても、速やかに再移動を行うことができる光ディスク装置を提供する。
【解決手段】多層光ディスクに対して現在層から目的層に移動させる層間ジャンプの指示を受けるコントローラ111と、目的層に球面収差補正値を設定させた後、層間ジャンプを行わせる層間ジャンプ制御部146と、層間ジャンプが正常に実施されたかを判定する判定部146と、層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれた場合、他の記録層がどの記録層であるかを特定する層判別部146とを備え、層間ジャンプ制御部106は、他の記録層がどの記録層であるかの情報に基づいて他の記録層から目的層に再移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は3層以上に対応した片面積層型の多層光ディスクの層間ジャンプ方法及び記録及び/又は再生動作を行う光ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスクに記録されているデータは、比較的弱い一定の光量の光ビームを回転する光ディスクに照射し、光ディスクによって変調された反射光を検出することによって再生される。再生専用の光ディスクには、光ディスクの製造段階でピットによる情報が予めスパイラル状に記録されている。これに対して、書き換え可能な光ディスクでは、スパイラル状のランドまたはグルーブを有するトラックが形成された基材表面に、光学的にデータの記録/再生が可能な記録材料膜が蒸着等の方法によって堆積されている。書き換え可能な光ディスクにデータを記録する場合は、記録すべきデータに応じて光量を変調した光ビームを光ディスクに照射し、それによって記録材料膜の特性を局所的に変化させることによってデータの書き込みを行う。
【0003】
データが記録されている情報層および/またはデータが記録され得る層を「情報層」、または、単に「層」と称する。多層光ディスクは、複数の情報層が所定の間隔で積層された光ディスクである。多層光ディスクの光入射側表面から各情報層までの距離(情報層の深さ)は相互に異なる。光ディスクを対物レンズで収束された光ビームで照射するとき、球面収差が発生する。この球面収差は、情報層の深さによって異なり、小さいことが望ましい。従って、目的とする情報層に光ビームを集光するときは、その情報層で球面収差が最小化するように光ビームの集光状態を調整し、球面収差の大きさを補正する必要がある。
【0004】
多層ディスクにおいては、層間移動のための層間ジャンプ(フォーカスジャンプとも称す)と呼ばれるフォーカスアクチュエータの目標位置の速やかな移動技術は必須である。層間ジャンプ動作を開始した後、誤って目的層ではない情報層にフォーカスを引き込んでしまう場合がある。
【0005】
特許文献1には、BDの2層ディスクの層間ジャンプ後の層判別方法が開示されている。例えば、L0層からL1層へジャンプさせる場合、球面収差の補正値をコリメートレンズ駆動回路に設定して球面収差の補正を行う。その後、層間ジャンプを実行し、正しくL1層にジャンプしたときは、ジャンプ後のTE信号の振幅とジャンプ前の振幅とが略等しいものとなる。これに対し、ジャンプに失敗してL0層に合焦したときは、ジャンプ後のTE信号の振幅がジャンプ前の振幅に比して顕著に減少する。この特性を利用して、ジャンプ前のTE振幅と、ジャンプ後のTE振幅を比較することで、目的の層へ到達したかどうかの判定を行っている。
【0006】
特許文献2には、層間ジャンプの技術ではないが、多層ディスクのフォーカス引き込み時の層判別方法が開示されており、予め目的層でのTE振幅(あるいはRF振幅などの類似信号)を記憶しておき、その記憶していた振幅と、引き込まれた層で計測したTE振幅(あるいはRF振幅などの類似信号)を比較することで、目的の層へ到達したかどうかの判定を行っている。
【0007】
よって、特許文献1、2の技術を用いれば、多層ディスク(多層BD)においても、フォーカス引き込みや層間ジャンプによって移動し、引き込まれた層が目的の層であるか否かという判別は可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−230781号公報
【特許文献2】特開2007−095218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2の技術は、基本的にはBDの2層ディスクを対象とした技術であるため、その層判別によって判別して目的層でないと判別された後は、もう一度目的層に向けて層間ジャンプを再試行するか、一旦フォーカスを外して、目的層にフォーカスを引き込み直す処理を行うかのみの復帰処理が前提となる。
【0010】
よって例えばL0、L1、L2層を積層した3層ディスクにおいて、L0層からL1層に向け、層間ジャンプによって移動したとき、TE振幅が所定値あるいは移動前のL0層のTE振幅より下がっていれば、L1層でないということは判別できるが、i)行き過ぎてL2層に引き込んだのか、ii)L0層に逆走して戻って引き込んだのか、の何れであるかを判定できない。
【0011】
それゆえ一旦多層ディスクで層間ジャンプを失敗してしまうと、再度目的層へ移動するにも、元の層へ復帰するにも、現在の層から何れの方向に移動してよいか不明である。よって、目的層L1へ直接移動するのも、再度元のL0層に戻ることも非常に難しく、システムが破綻、あるいはその復旧に時間を要するという課題があった。
【0012】
本発明は上記課題に鑑み、3層以上の多層ディスクにおいて、任意の層で層間ジャンプを失敗しても、目的層以外の層に入ったとしても、速やかに再移動を行うことによって、常に安定かつ高速な層間移動することができる光ディスク装置および多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の層間ジャンプ方法は、複数の記録層を有する多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を現在位置する現在層から目的層に移動させる層間ジャンプの指示を受けるステップと、前記目的層に球面収差補正値を設定した後、層間ジャンプを行うステップと、前記層間ジャンプによって引込まれた前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップと、前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定した後、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップとを備えている。
【0014】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、前記異なる他の記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、予めメモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで実施する。
【0015】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、前記他の記録層でのフォーカス駆動値と、予めメモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで実施する。
【0016】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、球面収差補正値を再設定した後に、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスを読むことで実施する。
【0017】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読めるまで、球面収差補正値の設定を繰り返す。
【0018】
ある実施形態において、前記層間ジャンプが正常に実施されたかを判定するステップを有し、層間ジャンプ後のTE振幅が、所定値に満たない場合、前記層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定する。
【0019】
ある実施形態において、前記層間ジャンプが正常に実施されたかを判定するステップを有し、層間ジャンプ後のTE振幅が、所定値を満たすが、その層からアドレスリードができない、またはアドレスリードができるが目的層のアドレスでない場合、他層引込みエラーと判定する。
【0020】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップは、前記他の記録層上において前記光ビームのフォーカス位置を光ディスクの半径方向に移動させた後、前記他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行う。
【0021】
ある実施形態において、同じ半径位置において層間ジャンプが複数回正常に行われなかったとき、その半径位置を含む特定領域を記録媒体内に登録するステップを含む。
【0022】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップは、前記他の記録層上において前記光ビームのフォーカス位置を光ディスクの半径方向に移動させた後、前記登録された領域以外の領域で、前記他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行う。
【0023】
本発明の光ディスク装置は、複数の記録層を有する多層光ディスクに対して記録及び/又は再生動作を行う光ディスク装置であって、光ビームのフォーカス位置を前記複数の記録層の1つである目的層に移動させる指示を受けるコントローラと、前記目的層に球面収差補正値を設定させた後、前記光ビームのフォーカス位置の移動を行わせる制御部と、前記光ビームのフォーカス位置の移動がなされた前記目的層と異なる他の記録層を特定する層判別部とを備え、前記制御部は、前記異なる他の記録層がどの記録層であるかの情報に基づいて、前記他の記録層から前記目的層に光ビームのフォーカス位置の移動を行う。
【0024】
ある実施形態において、各層の球面収差補正値を格納するメモリを有し、前記判定部は、前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、前記メモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで前記他の記録層がどの記録層であるかを特定する。
【0025】
ある実施形態において、各層のフォーカス駆動値を格納するメモリを有し、前記判定部は、前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのフォーカス駆動値と、前記メモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで前記他の記録層がどの記録層であるかを特定する。
【0026】
本発明の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法は、複数の記録層を有する多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を目的層に移動させるフォーカス引き込みの指示を受けるステップと、前記目的層に球面収差補正値を設定した後、フォーカス引き込みを行うステップと、前記フォーカス引き込みがなされた前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップと、前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定した後、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップとを備えている。前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、前記他の記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、予めメモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで実施する。
【0027】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのフォーカス駆動値と、予めメモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで実施する。
【0028】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、球面収差補正値を再設定した後に、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読むことで実施する。
【0029】
ある実施形態において、前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読めるまで、球面収差補正値の設定を繰り返す。
【0030】
ある実施形態において、前記フォーカス引き込みが正常に実施されたかを判定するステップを有し、フォーカス引き込み後のTE振幅が、所定値に満たない場合、前記層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定する。
【0031】
ある実施形態において、前記フォーカス引き込みが正常に実施されたかを判定するステップを有し、フォーカス引き込み後のTE振幅が、所定値を満たすが、その層からアドレスリードができない、またはアドレスリードができるが目的層のアドレスでない場合、他層引込みエラーと判定する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の層間ジャンプ方法および光ディスク装置によれば、層間ジャンプを実行して誤って目的層以外の記録層で引き込みがなされた場合でも、その記録層が目的層に対して手前側か奥側かを正確に判別して、速やかに目的層に再移動することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態1〜3に係る光ディスク装置のブロック図
【図2】図1の光ピックアップ、サーボ制御回路とその周辺部分の詳細なブロック図
【図3】球面収差補正部128の内部構成図
【図4】層間ジャンプ動作を示すフローチャート
【図5】最遠層L1から最近層L4まで層間ジャンプ動作をしたときの対物レンズと、光スポットが多層BDディスクの各層を通過したときのS字信号を表した模式図
【図6】エラー検出と復帰方法を説明するためのS字信号を表した第1の模式図
【図7】エラー検出と復帰方法を説明するためのS字信号を表した第2の模式図
【図8】エラー検出と復帰方法を説明するためのS字信号を表した第3の模式図
【図9】実施形態1におけるエラー検出と復帰の動作を示すフローチャート
【図10】実施形態1のエラー検出と復帰方法を説明するためのTE信号を表した模式図
【図11】3層、4層ディスクにおける情報層深さと球面収差の関係を表した図
【図12】実施形態2に係る光ディスク装置のブロック図
【図13】実施形態2におけるエラー検出と復帰の動作を示すフローチャート
【図14】実施形態2のエラー検出と復帰方法を説明するためのフォーカス駆動信号を表した模式図
【図15】実施形態3における復帰の動作を示すフローチャート
【図16】より効果的に層間ジャンプを実施する時の駆動波形図
【図17】目標とする層にフォーカス引き込みを行う実施形態の動作を示すフローチャート
【図18】(a)、(b)、および(c)は、従来技術において、データの記録または再生中にフォーカスジャンプを行う動作例を示す図
【図19】光ディスクの内部に含まれる気泡30および欠陥40の位置とフォーカスジャンプとの位置関係の例を示す図
【図20】(a)および(b)は、本発明の実施形態において、データの記録または再生中にフォーカスジャンプを行う動作例を示す図
【図21】本発明の実施形態において4層ROMからのデータ再生中にフォーカスジャンプを行う動作の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
(各実施形態に共通の光ディスク装置の構成)
実施形態1〜3に共通に使用される、多層光ディスク対応の記録及び/又は再生動作を実施する光ディスク装置について説明する。
【0035】
図1は本実施形態に係る光ディスク装置のブロック図を示す。実施形態1〜3でサポートする多層光ディスクは、単層、2層及び3層以上の多層BDディスクおよびCD、DVDディスクであるが、説明をわかりやすくするため、4層BDディスクを例にとり説明する。後に説明する図5などにその4層BDの断面の概略図を示す。
【0036】
本光ディスク装置は、多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を複数の記録層の1つである目的層に移動させる指示を受けるコントローラ111と、目的層に球面収差補正値を設定させた後、光ビームのフォーカス位置の移動(ここでフォーカス位置の移動には、層間ジャンプとフォーカス引込みの両方の動作を含むことに注意のこと)を行わせる制御部(CPU)146と、前記フォーカス位置の移動の後、光ビームのフォーカス位置の移動がなされた目的層と異なる他の記録層を特定する層判別部(CPU)146と備え、制御部106は、前記異なる他の記録層がどの記録層であるかの情報に基づいて、他の記録層から目的層に光ビームのフォーカス位置の移動を行うものである。
【0037】
本光ディスク装置は、光ビームを光ディスク100上に集束させる光学系、光ディスク100からの反射光を検出する光検出器、および光源としてレーザダイオードを有する光ピックアップ103と、光ピックアップ103の動作を制御するサーボ制御回路106と、光ピックアップ103で検出した光ディスク100上の情報信号を再生する再生回路110と、記録する情報に基づいて所定の変調方式でレーザダイオードをレーザ駆動回路107によってパルス状に発光させることにより、前記情報を光ディスク100に書き込む記録回路123とを備えている。
【0038】
光ピックアップ103は、光ディスクモータ101上に装填された光ディスク100に対し、集束されたレーザ光を照射する。RFサーボアンプ104は、光ディスク100から反射された光に基づいて電気信号を生成する。サーボ制御回路106は、モータ駆動回路102及び光ピックアップ103を制御することにより、光ディスクモータ101に装填された光ディスク100にフォーカスおよびトラッキング制御を実施する。また、サーボ制御回路106は、光ディスク100に対して光源およびレンズを用いて光ビームを照射することによって光ディスク100がBDディスクであるかのディスク判別、単層もしくは2層か、あるいは2層より多い3層以上の情報記録層をもつ多層判別を行う機能を有する。
【0039】
再生回路110は、RFサーボアンプ104から出力された電気信号を波形等価回路などでイコライジングしてアナログ再生信号を生成する。生成された再生信号はデジタル化された後、PLLによってリードクロック(基準クロック)と同期し、データ抽出がなされる。その後、所定の復調、エラー訂正をなされた後、システムコントローラ111およびサーボ制御回路106に入力される。システムコントローラ111は、I/F回路112を介してホスト113へと転送される。
【0040】
記録回路123は、ヘッダやエラー訂正のための冗長ビットなどが付加されて、所定の変調パターン(変調方式)に変調した後、レーザ駆動回路107によって、ホスト113からI/F回路112を介して送られてくる情報を光ディスク100に記録するため、光ピックアップ103の中のレーザダイオードをパルス状に発光させる。光ディスク100に入射するレーザ光の強度変調に応じて、光ディスク100の記録材料(たとえば有機材料や相変化材料)の反射率を変えることで、「1」または「0」の情報の記録を行う。
【0041】
図2は、図1の光ピックアップ、サーボ制御回路とその周辺部分をより詳細に記載したブロック図である。図2は本実施形態の多層ディスクの層間ジャンプ動作に主に関わるブロック図である。図2を用いてさらに説明する。
【0042】
まず光ピックアップの構成を説明する。図示されている光ピックアップ103は、光源122と、カップリングレンズ124と、偏光ビームスプリッタ126と、球面収差補正装置128、対物レンズ130と、アクチュエータ131,132と、集光レンズ134と、光検出器136とを有している。
【0043】
光源122は、光ビームを放射する半導体レーザダイオードから構成される。簡単のため、図2には単一の光源122が示されているが、実際の光源は、異なる波長の光ビームを放射する例えば3つの半導体レーザから構成される。具体的には、1つの光ピックアップがCD、DVD、およびBD用に異なる波長の光ビームを放射する複数の半導体レーザを備えるが、図2では、簡単のため、1つの光源122として記載している。
【0044】
カップリングレンズ124は、光源122から放射された光ビームを平行光にする。偏光ビームスプリッタ126は、カップリングレンズ124からの平行光を反射する。光ディスクの種類に応じて光源122における半導体レーザの位置や、放射される光ビームの波長が異なるため、光ディスク100の種類に応じて最適な光学系の構成は異なる。このため、実際の光ピックアップ103の構成は、図示されているものに比べて複雑である。
【0045】
対物レンズ130は、偏光ビームスプリッタ126で反射された光ビームを集束する。対物レンズ130の位置は、アクチュエータ131,132がそれぞれTE信号およびFE信号に基づいて所定の位置に制御する。光ディスク100の情報記録層からデータを読み出し、あるいは情報記録層にデータを書き込むとき、対物レンズ130によって集束された光ビームの焦点は、情報記録層上に位置し、情報記録層上に光ビームのスポットが形成される。図2には、1つの対物レンズ130が記載されているが、現実には複数の対物レンズ130が備えられており、光ディスク100の種類に応じて異なる対物レンズ130が用いられることになる。データの記録/再生時は、光ビームの焦点が情報記録層における所望のトラックを追従するようにフォーカスサーボおよびトラッキングサーボが動作し、対物レンズ130の位置が高精度に制御される。
【0046】
本実施形態は、光ディスク100が特に青紫色のレーザダイオード122と高NAの対物レンズ130で記録再生を行う光ディスク装置であるので、説明をわかりやすくするため、光ピックアップは図2に示すような簡易な構成で記載している。
【0047】
BDディスク100が装填された後、多層の任意の層のデータの記録/再生動作を行なうために、対物レンズ130をアクチュエータ132の働きにより光軸方向に沿って層間を移動させる(この動作を層間ジャンプと称す)。
【0048】
球面収差補正素子128は、例えば図3のような光軸方向に位置を変化させることのできる収差補正用レンズ228を備え、収差補正用レンズ228の位置を調節することにより、球面収差の状態(補正量)を変化させることができる(ビームエキスパンダ方式)構成を備えている。球面収差補正部128の構成は、このようなビームエキスパンダ方式の構成を備えている必要は無く、液晶素子やヒンジなどによって収差を補正する構成を備えていても良い。
【0049】
BDディスク100の情報記録層で反射された光ビームは、対物レンズ130、球面収
差補正部128、および偏光ビームスプリッタ126を通過し、集光レンズ134に入射する。集光レンズ134は、対物レンズ130および偏光ビームスプリッタ126を通過してきた、光ディスク100からの反射光を光検出器136上に集束させる。光検出器136は、集光レンズ134を通過した光を受け、その光信号を各種の電気信号(電流信号)に変換する。光検出器136は、例えば4分割の受光領域を有している。
【0050】
図2のサーボ制御回路106は、フォーカス制御部140、トラッキング制御部141、球面収差制御部142を備えており、これらを介してCPU146が光ピックアップ130の各種動作を制御する。
【0051】
またRF/サーボアンプ104は、FE信号生成部150とTE信号生成部151及びRF信号生成部を備えている。
【0052】
さらにサーボ制御回路106は、FE信号生成部150の信号からS字を検出するS字検出部160と、TE信号生成部151からの信号からTE振幅を検出する振幅検出部161およびメモリ109を備えている。メモリ109は、上述する実施形態1,2において使用される。実施形態1ではメモリ109は光ディスクの各層に対応する球面収差補正値を格納し、実施形態2ではメモリ109は光ディスクの各層に対応するフォーカス駆動値を格納する。
【0053】
CPU146は、各種の動作を行う部材であり、層間ジャンプを行わせる層間ジャンプ制御部、層間ジャンプが正常に実施されたかを判定する判定部と、層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定された場合、目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定する層判別部の各種役割を果す。
【0054】
フォーカス制御部140は、CPU146の指示に従ってアクチュエータ132を駆動し、対物レンズ130を光軸方向に沿って任意の位置に移動し、光ビームの収束状態を制御する。
【0055】
トラッキング制御部141は、CPU146の指示に従ってアクチュエータ131を駆動し、対物レンズ130を光ディスクの半径方向に沿って任意の位置に移動し、光ビームが正しくトラックを走査するように制御する。
【0056】
球面収差制御部142は、CPU146の指示に従って球面収差補正部128を所定の設定状態に制御する。具体的には、図3に示すステッピングモータ8が球面収差制御部142からの制御信号に基づいて動作し、例えば2層ディスクの場合には、収差補正レンズ228を1層目、2層目の情報層深さに対応した所定の位置に移動させる。収差補正レンズ228の位置(光軸方向の位置)を変えることにより、光ビームの球面収差状態を調節することができる。これは3層から20層まで全て同じような動作、機能を有するものである。こうして目的とする情報層で球面収差を最小化することが可能になる。このように、目的とする情報層で球面収差を最小化するように球面収差を制御することを、「目的層に対応した球面収差値を設定する」または「目的層に対応した球面収差補正値」を設定すると称する場合がある。
【0057】
FE信号生成部150は、光検出部136に含まれる複数の受光領域から出力される電気信号に基づいてFE信号を生成する。FE信号の生成法は、特に限定されず、非点収差法を用いたものでもよいし、ナイフエッジ法を用いたものであってもよい。また、SSD(スポット・サイズド・ディテクション)法を用いたものであってもよい。FE信号生成部150から出力されるFE信号は、CPU146からの指令で所定の検出閾値が設定されるS字検出部160に入力される。
【0058】
S字検出部160は、層間ジャンプによって対物レンズ130が光軸方向に移動している間におけるFE信号が所定の閾値を越えたかどうかでS字の検出を行う。
【0059】
本実施形態では、サポートする多層ディスクのうち、目的層の深さ(光ディスクの光入射側表面から目的層までの距離)に対応した球面収差値を設定した後、トラッキング制御、フォーカス制御をOFFして、アクチュエータ132に加速パルスを印加して、目的の層に向けて対物レンズ130を駆動した後、前記S字検出部160によって目的層に接近したことを検出し、減速パルスを出力して、十分に移動速度を低下させて目的層に到達したときにフォーカス制御をONするので、安定に移動することができる。
【0060】
図4に層間ジャンプの動作を示すフローチャートを、図5にその時のFE信号、フォーカス駆動信号に印加する加速パルス、減速パルスの波形を示す。
【0061】
図4に示すステップST1では、最初にフォーカス位置が最遠層(L0層)にフォーカスして待機状態である場合に、ホスト113からのシークコマンドを受ける。そして、その目的アドレスが最近層(L3層)のトラックアドレスの場合に、L0層からL3層への移動という条件からブレーキを出す層(ブレーキ層)を層間ジャンプ先の層(L3層)の手前のL2層とする。すなわち、減速パルスP2を出すタイミングをL2層の手前から検出されるS字信号に決定する。
【0062】
その後、ステップST2では、球面収差制御部142に指令し、補正値を層間ジャンプ先のL3層の深さ(光ディスクの光入射側表面からL3層までの距離)に合致するように図3の収差補正レンズ228を駆動する。言い換えると、目的層に対応する球面収差補正値を設定する。
【0063】
図5には、L0〜L3層から得られるFE信号(S字信号)が模式的に示されている。この例では、目的層のL3層で球面収差が最も小さくなるように(理想的にはゼロになるように)球面収差補正が行われた状態でフォーカス位置を移動させている。このため、対物レンズが光軸方向に移動することに伴って光ビームのフォーカス位置が層間ジャンプ先のL3層に近づくほど、情報層通過時のS字信号はだんだん大きくなり、L3層で得られるS字信号の振幅が最も大きくなっている。
【0064】
球面収差補正レンズ228の駆動完了後、ステップST3では、まずS字信号の検出レベルを下げ(0に近づける)る。これにより、球面収差補正の合致していない情報層からのS字信号でも確実に検出し、その情報層の数をカウントできるS字カウントモードM1(S字信号粗検出モードM1とも称す)に設定する。その後、トラッキングをオフして、フォーカスアクチュエータ132に加速パルスP1を印加する(ステップST3,ステップST4)。加速パルスP1が印加されたフォーカスアクチュエータ132は、対物レンズ130を光軸方向に加速駆動する。こうして、フォーカス位置は層間ジャンプ先に向けて情報層を横切る方向に移動する。
【0065】
ステップST5では、L1層、L2層を通過する毎にS字信号が出力されるので、そのカウントにより、移動している間の現在のフォーカス位置が把握できる。ステップST6では、S字信号のカウント値に基づいて、ブレーキ層(L2層)の1層手前の層であるL1層を通過した時点(ステップST5)で、減速パルスP2を出力するため、L2層でのS字信号の検出をS字信号詳細検出モードM2で行う。
【0066】
ステップST7では、S字信号レベルの判定を行う。ブレーキの出力タイミングであるL2層の手前がS字信号の片側によって検出できたとき、ステップST8では、それまでの所要時間に応じた減速パルスP2の波高値を決定して出力する。ブレーキの出力を終了するタイミングは、さらにS字信号をカウントして、層間ジャンプ先の層に到達したときである。
【0067】
ステップST9では、層間ジャンプ先の層に到達したと判定された場合、ステップST10では、具体的にはL3層の手前片側のS字信号が検出できたときにブレーキの出力を完了する。そして、その後速やかにフォーカス制御をONする。フォーカス位置の移動は、十分に減速されているため、目的層におけるフォーカス引き込みを極めて安定して実現できる。
【0068】
ここで、3層以上の多層ディスクにおいては、2層ディスクではあり得なかった層間ジャンプ時でのエラーが発生する。2層ディスクのエラーモードとしては、目的層に到達できなかった場合は、完全にフォーカス制御が外れているか、もしくは元の層に戻ってしまうかの2種類であった。よってフォーカス制御が外れた場合は、TE信号やRF信号が全くでないので、従来技術のように情報層深さの差で発生する球面収差分のTE振幅低下を利用して、成功して目的層に到達したか、失敗して元の層に戻ったかを判別できていた。
【0069】
3層以上の多層ディスクになると、元の層に戻ってしまうエラーモードの他に層間ジャンプの途中の層でフォーカス制御を引き込んでしまう、あるいは目的層を行き過ぎて別の層でフォーカス制御を引き込んでしまうというエラーモードが新たに発生するため、従来技術でTEやRFの振幅比較で目的層に到達できていないことは判定できても、それがどこの層で、次にどちらの方向に再ジャンプすればよいかがわからない。
【0070】
よって次にこの課題を解決する本発明の多層層間ジャンプにおけるエラーの検出と復帰方法とそれを実現する構成について、各実施形態1〜3に沿って説明する。
【0071】
本発明の層間ジャンプの復帰方法は、複数の記録層を有する多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を現在位置する現在層から目的層に移動させる層間ジャンプの指示を受けるステップと、前記層間ジャンプの目的層に球面収差補正値を設定した後、層間ジャンプを行うステップと、前記層間ジャンプが正常に実施されたかを判定するステップと、前記層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定された場合、前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定するステップと、前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定した後、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップとを備えた、層間ジャンプの復帰方法である。
【0072】
上記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定するステップは、以下の1)〜3)の方法が使用できる。この1)〜3)の方法が以下の各実施形態1〜3において説明される。
1)前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、予めメモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較する、
2)前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのフォーカス駆動値と、予めメモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで実施する、
3)球面収差補正値を再設定した後に、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読むことで実施する。この際、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読めるまで、球面収差補正値の設定を繰り返すことが望ましい。
【0073】
(実施形態1)
(層間ジャンプエラーの検出・球面収差補正値による復帰)
図6〜図8は、4層BDディスクを例にとり、最遠層L0から隣接のL1層をまたぎ、目的層となるL2層まで層間ジャンプ動作をしたときの対物レンズと、光スポットが多層BDディスクの各層を通過したときのS字信号を表した模式図である。
【0074】
図6は正常に目的層L2に到達した場合、図7は目的層に届かず、手前のL1層にフォーカスを引き込んだ場合、図8は目的層L2を行き過ぎて、その奥のL3層にフォーカスを引き込んだ場合を示す。
【0075】
図9は層間ジャンプエラー検出とその復帰動作のフローチャートを示す。また図10は、4層BDにおいてL3層の情報層深さに球面収差を合わせた場合における各層での球面収差によるTE信号振幅を示し、図11には3層、4層BDの各層の深さ(光ディスクの光入射側表面から情報層までの距離)と、3層ではL1、4層ではL2に合わせたときに発生する球面収差の量を示したものである。
【0076】
図10において、例えば4層ディスクでは、L2層でTE振幅が最大となっており、この振幅を起動時の球面収差の補正値を決定する学習時に記憶しておき、その記憶していた値と比較することで、目的層のL2層に到達できたかどうかを判別できる。また目的層以外の層に引き込んで、トラッキング制御をONしても球面収差が5μm以上もあるのでアドレスを読むことができないので、それによって目的層のL2層に到達できたかどうかを判別することもできる。このように実施形態1は、層間ジャンプ後に目的層に到達できなかったことを球面収差の誤差を利用して判別するものである。
【0077】
以下に図9のフローに沿って層間ジャンプエラー検出とその復帰動作を詳細に説明する。
【0078】
システムコントローラ111が、多層光ディスク100に対して光ビームのフォーカス位置が現在位置する現在層から目的層に移動させる層間ジャンプの指示を受けると、まずステップST91では、目的層の球面収差をセットし、トラッキング制御をOFF(ステップST92)した後、ステップST93では上述の図4を用いて説明した層間ジャンプを実施する。
【0079】
ステップST94では、振幅検出部161で層間ジャンプ後のTE信号の振幅を測定し、TE信号の出力の有無およびTE振幅と所定値Mとの大小関係を調べる。層間ジャンプでフォーカス制御が完全に外れてしまうとTE信号は全く出力されないので、TE信号は全く出力されない場合は、フォーカス制御が外れていると判定し、フォーカス外れエラー(ステップST95)として後述するステップに進む。
【0080】
またステップST94においてTE振幅が所定値Mより振幅が低下していると判別した場合は、フォーカス制御が外れていないが、図7に示すように光ビームは途中のL1層にフォーカスを誤って引き込んでいる、もしくは図8に示すように行き過ぎたL3層でフォーカス制御を誤って引き込んでしまったかである。所定値Mは、起動時に球面収差の調整をしたときにTE振幅を測定して記憶した値でもよいし、規格値や工程のデータから決定した固定値でもよい。TE振幅がMより小さい場合は、CPU(判定部)146は、目的層以外の他層に引き込んでいると判定し、他層引き込みエラー(ステップST100)として後述するステップに進む。
【0081】
またステップST94において、CPU(判定部)146が、TE振幅が所定値Mより振幅が低下していないと判別した場合は、目的層に到達している可能性が高いので、トラッキング制御をON(ステップST96)して、その層のアドレスを取得する(ステップST97)。ステップST98においてアドレス情報が読め、目的層のアドレス(ステップST99)であれば、層間ジャンプは成功しているので、処理を正常に終了する。
【0082】
ステップST98においてアドレス情報が読めなければ、目的層以外の他層に引き込んでいると判別して、TE振幅が低下している場合と同様に他層引き込みエラー(ステップST100)として後述するステップに進む。
【0083】
次に他層引き込みエラーの場合から復帰する動作を説明する。
【0084】
まずステップST101では、TE振幅が低下した場合はトラッキングOFFのまま、アドレスが読めてなかった場合は、トラッキングOFF状態に戻し、その層でTE振幅が最大になるように球面収差の学習を行う。
【0085】
ここで、各層でTE振幅を最大になる球面収差の調整値は図2に示すメモリ109に起動時に記憶しておくことが望ましい。球面収差はBDなどの高密度の光ディスクにおいては、各層で安定にトラッキング制御をかけて、かつ、記録再生を行うために必要な起動プロセス(起動学習)であるので、特別な処理を追加することなく、球面収差学習の処理の一貫で記憶しておけばよい。
【0086】
次にステップST102では、CPU(層判別部)146はTE振幅が最大となる球面収差値を用いて層判別を行う。例えば4層のL2層で球面収差を合わせた場合は、隣接のL1、L3では図10に示すように情報層深さの差に相当した顕著な球面収差が発生する。よってCPU(層判別部)146がその再調整された球面収差値とメモリに格納された各層の球面収差値を比較すれば、光ビームが現在どの層にいるか、つまり、目的層と異なる他の記録層(現在層)がどの記録層であるかが容易に判別できる(ステップST103)。
【0087】
次に、上記球面収差の再調整によって、現在の層が手前のL1層である場合には、ステップST91において目的層L2の球面収差を再設定して+1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)。また現在の層が行き過ぎたL3層の場合は、ステップST91において目的層L2の球面収差を再設定して、―1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)。
【0088】
またフォーカス外れエラーの場合は、ステップST104においてフォーカス制御をOFFして、対物レンズを所定位置に戻し、ステップST105において最遠層のL0層に球面収差を合わせて、レンズを離間してディスクに接近させていき(ステップST106)、ステップST107においてL0層にフォーカスの引き込みをかける。その後、再度目的層のL2層に向けて層間ジャンプをリトライする。
【0089】
以上にように、4層ディスクにおけるどのようなパターンの層間ジャンプにおいても、万が一、他層に引き込んでしまっても、速やかにそれを検出して復帰することができる。
【0090】
また本実施形態は、情報層深さの違いで発生する引き込んだ層の球面収差でエラー検出を行う。従って、予め規格書で情報層深さが規定されているか、あるいは起動時に球面収差を各層で調整すれば対応可能であるので、4層ディスクに限らず3層以上の多層ディスクで同様に有効である。
【0091】
多層BDプレーヤなどでは、TE振幅の代わりにRF振幅が所定値以下であれば、目的層に到達できなかったことを判定するように構成してよい。
【0092】
(実施形態2)
(層間ジャンプエラーの検出・駆動値による復帰)
本実施形態においても、4層ディスクでL0からL2に層間ジャンプで移動する場合を例にとって説明する。実施形態2は実施形態1と同様に図1に示す光ディスク装置の構成を使用し、図2の構成を図12に示す構成に変更している。つまり、CPU146における層間ジャンプ制御の処理を変えている。
【0093】
図13は実施形態2におけるエラー検出と復帰の動作を示すフローチャートである。
【0094】
本実施形態は、図13のフローチャートに示すように層間ジャンプ後に目的層に到達できなかったことをフォーカス制御の駆動値の差を利用して判別するものである。
【0095】
ここで、各層でフォーカスを引き込んだときのフォーカス駆動信号の関係を図14に示す。図14中のVd0は、L0層にフォーカスを引き込んでいる場合の駆動電圧、Vd1は、L1層にフォーカスを引き込んでいる場合の駆動電圧、Vd2は、L2層にフォーカスを引き込んでいる場合の駆動電圧、Vd3は、L3層にフォーカスを引き込んでいる場合のフォーカス駆動電圧である。
【0096】
このようにそれぞれの記録層で微少ではあるが、対物レンズの高さ位置が変わるため、フォーカス駆動信号のDC成分が変動する。例えば、凡そピックアップのフォーカスのDC感度は、5〜10mm/Aで、コイル抵抗が6〜30Ωであるので、例えば5mm/A、6Ωのときに、L2のVd2を基準(0)にしたときに、L0の駆動値Vd0、L1の駆動値Vd1、L3の駆動値Vd3は、図11における高さ位置の差により、それぞれ Vd0=Id0×Rc=0.035/5×6Ω=0,042V=42mV
Vd1=Id1×Rc=0.017/5×6Ω=0,0204V=20mV(Vd2=0)
Vd3=Id3×Rc=0.0105/5×6Ω=0,0126V=13mV
となり、AD変換してデジタル信号で検出可能な大きさである。
【0097】
ここで、ディスクが装填され起動した時に、この各層のフォーカス駆動信号を、サーボ制御回路106に帰還させ、駆動検出部1201、LPF(ローパスフィルタ)1202を介してDC値を抽出し、その値をCPU146に入力し、メモリ109に予め記憶しておく。そして、層間ジャンプ後にも同様の信号パスでフォーカス駆動値を検出し、その値と起動時に記憶しておいた値を比較することによって、目標層のL2に到達したか、誤って光ビームは途中のL1層、もしくは行き過ぎたL3層でフォーカス制御を引き込んでしまったか、それともフォーカス制御が外れてしまったかを速やかに判別することが可能である。
【0098】
次に図13を用いて本実施形態におけるエラー検出と復帰の動作を示す。
【0099】
本実施形態では、実施形態1の図9の説明と同様、層間ジャンプを実行して、誤って目的層以外に引き込んだことを直接速やかにエラーとして検出することができる。
【0100】
つまり、CPU(判定部)146による他層引込エラー検出後においても、ステップST110において上述したようにCPU(層判別部)146は層間ジャンプ後にフォーカス駆動値を検出し、その値と起動時にメモリ109に記憶しておいたフォーカス駆動値とを比較する。ステップST111ではステップST110における結果に基づいて誤って引き込みを行った記録層がどこの記録層であるかを確定する。現在の層が手前の層L1である場合には、目的層L2の球面収差を設定した状態で+1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)。また現在の層が行き過ぎたL3の場合は、目的層L2の球面収差を設定した状態で、―1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)ことで、復帰シーケンスへの移行も早い。
【0101】
さらにフォーカスが外れている場合は、フォーカス駆動電圧が最大以上の異常値を示すので、その場合は、ステップST112において速やかにフォーカス制御をOFFして、球面収差を目的層のL2に設定した状態で、レンズを動かして(ステップST113)、直接フォーカスをL2層に引き込む。
【0102】
また起動シーケンスにしたがって、例えば最も奥の層のL0に再度フォーカスを引き込み直して、その後再度層間ジャンプを実行し、L2層へ移動してもよい。
【0103】
これによって4層ディスクのどのような層間ジャンプにおいて、万が一他層に引き込んでしまっても、速やかにそれを検出して復帰することができる。
【0104】
以上4層ディスクで説明を行ったが、本実施形態は、情報層深さの違いで発生する引き込んだ層のフォーカス駆動値でエラー検出を行うので、あらかじめ規格書で情報層深さが規定されているか、あるいは起動時に球面収差を各層で調整すれば対応可能であるので、3層以上の多層ディスクで同様に有効である。
【0105】
(実施形態3)
(層間ジャンプエラーの検出・アドレス値による復帰)
本実施形態においても、4層ディスクでL0からL2に層間ジャンプで移動する場合を例にとって説明する。実施形態1では、層間ジャンプ時に誤って目的層以外の層でフォーカス制御を引き込んでしまった場合に、その引き込んだ層で球面収差の再調整を行い、その調整値の値と起動時の各層の球面収差の調整値(補正値)を比較して、現在の層判別を行う方法について説明したが、本実施形態は、球面収差の再調整は行わず、予めわかっている層毎の球面収差の補正値を順次切り換えてみて、TEが最大になる補正値、あるいはトラッキング制御ONしてアドレスが取得できた補正値より誤って引き込んだ層を確定する方法である。
【0106】
図15に本実施形態の復帰の動作のフローチャートを示す。実施形態1、2と同様の部分は同じ符号を付し、説明を省略する。
【0107】
実施形態1、2と同様にステップST93にて層間ジャンプして、ステップST94にてTEの振幅が所定以上になっていることを確認し、ステップST96にてトラッキング制御を引き込む。その後ステップST97にてPLLをロックして、アドレスを取得し、取得したアドレスが目的層のアドレスであれば(ステップST98,99)、層間ジャンプは成功し、目的層に到達することができているので、記録あるいは再生を開始するシーク動作などその後の処理を実行する。
【0108】
ステップST98にてアドレスが取得できなければ、誤って目的層以外の層に引き込んでしまっているので、他層引込みエラーステップST100と判定する。
【0109】
次に他層引込みエラーステップST100と判定されると、球面収差補正値切換ステップST115では、まずは球面収差補正のシフト数カウンタであるP、Nを0に初期化し(ステップST125)、次にまずプラス側(情報層深さが厚くなる方向)のシフト数カウンタPを+1増加させる(ステップST126)。
【0110】
その後、ステップST117において球面収差補正を+側に補正値シフトする。つまり、目的層−1層の層、すなわちL1層の情報層深さである84.5±5μm相当の補正値に合わせる。その後、ステップST118ではアドレスをリードする。その層と球面収差の切り換え値が合致すれば、PLLがロックして、アドレスが読める(ステップST119)ので、その層はL1層であると確定できる。
【0111】
またステップST119においてアドレスが読めない場合は、ステップST127において、マイナス側(情報層深さが薄くなる方向)のシフト数カウンタNを−1減少させた後、ステップST121において球面収差補正を−側に補正値シフトする。つまり、目的層+1層の層、すなわちL3層の情報層深さである54.5±5μm相当の補正値に合わせる。その後、ステップST122ではアドレスをリードする。その層と球面収差の切り換え値が合致すれば、PLLがロックして、アドレスが読める(ステップST123)ので、その層はL3層であると確定できる。
【0112】
ここで、球面収差の補正値の切り換え中にトラッキング制御が不安定(NG)になって、トラッキング制御が外れる、あるいは波形上に外乱振動による大きなうねりなどが発生した場合(ステップST120,ステップST124)には、その球面収差の補正値は、現在引き込んでいる層ではないことは明らかであるので、ステップST127またはステップST126に分岐させる。つまり、ステップST127に分岐する場合は、球面収差の補正値を逆方向(極性)のマイナス側に切り換え、補正値をNステップ分シフトさせて設定する(ステップST121)。またステップST126に分岐する場合は、球面収差の補正値を正方向(極性)のプラス側に切り換え、補正値をPステップ分シフトさせて設定する(ステップST117)。ここでアドレスが読むことができたら(ステップST122〜ステップST124またはステップST118〜ステップST120)、ステップST116においてそのアドレス値を確認して現在層を特定する。ステップST123またはステップST119においてアドレスが読むことができない場合は、まだ他層でフォーカスがかかっているので、再度ステップST126またはステップST127に分岐し、ステップST126において球面収差の補正値をプラス側に切り換え、補正値をPステップ分シフトさせて設定するか、またはステップST127においてマイナス側に切り換え補正値をNステップ分シフトさせて設定する処理を繰り返す。
【0113】
このように本実施形態では、装填されたディスクの層数と目的層の位置に応じて、目的層±1、目的層±2というステップで順次球面収差を切り換えることで、現在の層が目的層に対して、どの方向のどの位置にいるかを判別することができる。
【0114】
上記説明では、最初に目的層に対して−側から球面収差補正値を切り換えるようにしているが、図16に示すように層間ジャンプの加速パルス、減速パルスのエネルギー積(パルス高さx時間幅)を調整して、若干量、加速パルス<減速パルスとして、失敗したら手前の層に引き込まれるようにしておけば、確率的に復帰の時間を早めることが可能となる。
【0115】
図16は、表面側のL3から奥側のL0に向けて層間ジャンプをしたときのレンズの位置と、FE、加速パルス、減速パルスを印加するフォーカス駆動信号である。
【0116】
図16(a)では、従来の技術の通り加速パルスP1と減速パルスP2は、極性は逆で大きさを等しくしているが、図16(b)では、加速パルスP1に比べて、減速パルスP2の波高値を大きくしている。このことは減速すなわちブレーキが加速に比べて大きいので、大きな面ふれや振動衝撃などで、層間ジャンプの速度が変動して失敗する場合には、高い確率で目的層より手前の層でフォーカスを引き込むことになり、これに合わせて球面収差の補正値を最初に切り換える方向を一致させればよい。
【0117】
特に層間ジャンプ時におけるレンズの衝突を考慮すると、奥側から表面側に向けてのジャンプは行き過ぎたほうが安全であるので、加速パルス>減速パルスとして、エラー時の球面収差補正値の切り換えを+側の層から行い、反対に表面側から奥側に向けてのジャンプは手前で止まったほうが安全であるので、加速パルス<減速パルスとして、エラー時の球面収差補正値の切り換えを−側の層から行うように方向によって切り換えて構成するのがより好ましい。
【0118】
(実施形態4)
図17を参照しながら、光ディスク装置に光ディスクが装填され、目的とする情報層にフォーカスするときの動作を説明する。図17は、フォーカス引き込みのエラー検出とその復帰動作のフローチャートを示す。本実施形態では、情報層上にフォーカス位置がない状態から目的層にフォーカス位置を移動させる。
【0119】
まず、システムコントローラ111が、多層光ディスク100に対して光ビームのフォーカス位置を目的層に移動させるフォーカス引き込みの指示を受ける。ステップST91では、目的層の球面収差をセットする。ステップST106では、対物レンズを多層光ディスク100に接近させる(対物レンズを上昇させる)ことにより、対物レンズによって収束された光ビームのフォーカス位置を目的層に向けて移動させる。
【0120】
光ビームが目的層と推定される層に達したとき、フォーカス制御を開始する。ステップST94において、振幅検出部161がTE信号の振幅を測定し、TE信号の出力の有無およびTE振幅と所定値Mとの大小関係を調べる。フォーカス制御が完全に外れてしまうと、TE信号は全く出力されない。このため、TE信号が全く出力されない場合は、フォーカス制御が外れていると判定し、フォーカス外れエラーとしてステップST95に進む。
【0121】
ステップST94において、TE振幅が所定値Mより振幅が低下していると判定した場合、光ビームのフォーカス位置は目的層以外の層の上にあり、その誤った層でフォーカス制御を行っている。TE振幅がMより小さい場合、CPU146は、目的層以外の他層に引き込んでいると判定し、他層引き込みエラーとして後述するステップST100に進む。
【0122】
ステップST94において、TE振幅が所定値Mより小さくないとCPU146が判別した場合は、目的層に到達している可能性が高い。その場合、ステップST96において、トラッキング制御をONし、その層のアドレスを取得する(ステップST97)。ステップST98でアドレス情報を読む。アドレスが読めれば、ステップST99において、目的層のアドレスか否かを判定する、目標層のアドレスであれば、処理を正常に終了する。
【0123】
ステップST98において、アドレス情報が読めなければ、目的層以外の他層にフォーカスしていると判定し、TE振幅が低下している場合と同様にステップST100に進む。
【0124】
次に、他層引き込みエラーの場合から復帰する動作を説明する。
【0125】
ステップST94においてTE振幅が所定値Mより低かった場合、ステップST101では、トラッキングOFFのまま、その層でTE振幅が最大になるように球面収差の学習を行う。また、ステップST98においてアドレスが読めなかった場合は、トラッキングOFF状態に戻し、その層でTE振幅が最大になるように球面収差の学習を行う。
【0126】
なお、本実施形態では、上記のフォーカス引き込みを開始する前に起動プロセス(起動学習)を行い、各層における球面収差補正値を決定している。そして、各層における球面収差補正値は、図2に示すメモリ109に記憶されている。
【0127】
次に、ステップST102において、CPU146はTE振幅が最大となる球面収差値を用いて層判別を行う。例えば4層のL2層を目標とするフォーカス引き込みを行ったとき、L2層に隣接するL1、L3層では、図10に示すように、情報層深さの差に相当した顕著な球面収差が発生する。TE振幅が最大となるように再調整された球面収差値とメモリに格納された各層の球面収差値をCPU146が比較し、光ビームが現在どの層にいるか、つまり、目的層と異なる他の記録層(現在層)がどの記録層であるかを判別する(ステップST103)。
【0128】
次に、上記球面収差の再調整により、現在の層が目標とするL1層の手前のL1層であると判定された場合には、ステップST91において、目的層L2の球面収差を再設定する。そして、+1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)。また、現在の層がL3層の場合は、ステップST91において目的層L2の球面収差を再設定して、−1層分の層間ジャンプを行う(ステップST93)。
【0129】
ステップST94でフォーカス外れエラーと判定された場合は、ステップST109において対物レンズを所定位置に戻し、再度、ステップST106以降のステップをリトライする。
【0130】
なお、目的とする層にフォーカスを引き込むとき、図13および図15を参照しながら説明した各ステップを本実施形態について説明したように改変して実行してもよい。
【0131】
本実施形態のフォーカス引き込み方法は、図2に示す構成を備え光ディスク装置によって実現され得る。
【0132】
フォーカスジャンプが光ディスク装置の起動時に行われる場合、通常、光ビームのフォーカスジャンプは、光ディスクの内周領域で行われる。具体的には、光ビームのフォーカス位置が光ディスクの内周領域において光ディスクの記録層に対して垂直な方向に移動させられる。
【0133】
一方、多層光ディスクに対する記録動作を行っている途中でフォーカスジャンプを行う場合がある。この場合のフォーカスジャンプの位置は、多層光ディスクのユーザデータ領域内である。
【0134】
以下、図18〜図21を参照しながら、データの記録または再生中のフォーカスジャンプについて、動作の例を説明する。
【0135】
4層ディスクにデータを記録するとき、記録データのL0層〜L3層へのデータ配置は、ファイルシステムによって決定される。5層以上の記録層を有する多層光ディスクでも同様である。このため、例えばL0層に所定ブロックのデータを記録した後、その位置で、L2層に対する層間ジャンプを行う場合がある。L2層に対する層間ジャンプが行われた後、続きのブロックのデータがL2層に書き込まれる。
【0136】
図1に示すホスト113から、あるブロックのデータ記録を行う指令が、IF回路112を通じて光ディスク装置のシステムコントローラ111に通知される。すると、システムコントローラ111は、その指令を論理アドレスから物理アドレスに変換する。また、システムコントローラ111は、シークコマンド、ライトコマンドをサーボ制御回路106に通知する。このとき、シークコマンドは、同一層内のトラック移動に関する部分と、フォーカスジャンプに関する部分とを含む。
【0137】
まず、図18(a)を参照して、光ディスクに気泡などの欠陥が含まれていない場合を説明する。この例では、上記のコマンドに従って、L0層の内周側から外周側に向かって順次記録を行っていく。光ビームのフォーカス位置がL0層の所定位置に到達した時点で、サーボ制御回路106は、L0層からL2層に対する層間ジャンプを開始する。具体的には、図9などを参照して説明した動作が実行される。光ビームのフォーカス位置がL2層に移動した後、L2層に対するフォーカス引き込みが行われ、トラッキング制御も実行される。その後、L2層からアドレスをリードして現在の位置が認識されることになる。L2層への層間ジャンプが正常に完了したときは、比較的短い距離のシークによって所望のトラックに移動し、所定の記録開始位置でデータ記録を再開する。
【0138】
所定ブロックのデータ記録がすべて終了したら、記録完了をホスト113に通知する。あるいは、コンピュータデータの記録のようにL0層の開始点に戻ってベリファイ動作を行ってもよい。
【0139】
次に、図18(b)を参照して、4層ディスクのL1層またはL2層に気泡が存在し、その気泡の位置とフォーカスジャンプの位置とが偶然に一致した場合を説明する。この場合、気泡の影響でフォーカスエラー信号のS字信号の小さくなるため、目標であるL2層にフォーカスを引き込むことができず、その先のL3層にフォーカスを引き込む場合がある。
【0140】
図19は、4層ディスクの上側の一部を除去して光ディスクのL2層及びL0層を部分的に見えるように表した模式図である。L0層の内周から外周に向けて所定領域20まで記録を行い、光ディスクのある半径位置でL0層からL2層にフォーカスジャンプを行う位置において、L2層の近傍に気泡30がある。この気泡30のために、フォーカスエラー信号のS字振幅が小さくなり、目的のL2層にフォーカスを引き込むことができず、L3層にフォーカスが引き込まれる場合を考える。
【0141】
このような場合、従来の光ディスク装置によれば、図18(c)に示すように、一旦フォーカスを外して対物レンズを光ディスクから下方に遠ざけ、面振れの少ない光ディスクの内周領域まで、対物レンズを移動させることになる。その後、その位置で対物レンズを最下点から上昇させ、光ディスクの最も奥に位置するL0層にフォーカスを引き込む。その後、L0層の記録終了トラックまでシークして、その位置でフォーカスジャンプのリトライを行うことになる。
【0142】
気泡がフォーカスジャンプの成否に影響を与える領域の大きさはφ1mm〜φ3mm程度である。このため、2回目のリトライでフォーカスジャンプに成功することがほとんどである。しかし、従来技術でリトライを行うと、フォーカス制御を一旦解除してから、光ディスクの内周に光ピックアップを移動させる時間と、L0層にフォーカス引き込みを行う時間と、L0層上の所定トラックまでシークする時間を要することになる。通常、エラー判定に1秒、フォーカスを外して光ディスクの内周領域に移動するために200ミリ秒、フォーカスの再引き込みに1秒、再シークに200ミリ秒、フォーカスジャンプの繰り返しに200ミリ秒を要する。これらの時間の合計は、2.6秒程度に達する。放送されている番組をリアルタイムで光ディスクに記録するとき、光ディスク装置が備えるバッファメモリの容量が不足し、番組の一部を記録できなくなる可能性がある。しかし、本発明の実施形態によれば、このような問題を回避することができる。
【0143】
本実施形態によれば、図20(a)に示すように、気泡に起因して光ビームのフォーカス位置が目標のL2層を通過して、L3層上にあることを認識した後、図20(b)に示すように、L3層から目的のL2層へのフォーカスジャンプを行う。これらの動作に要する時間は、上記の従来の復帰動作に要する時間に比べると非常に短い。例えば、光ビームのフォーカス位置がL3層にあることを検出するのに200ミリ秒、再フォーカスジャンプに200ミリ秒を要するため、合計0.5秒程度である。このため、バッファメモリの容量不足を避けることができ、放送データのリアルタイム記録が途切れる可能性が極めて小さくなる。
【0144】
次に、図21を参照する。4層ディスクにおいて、映画のような長い映像コンテンツを例えば4層にわたって記録したデータをプレーヤで再生する場合を考える。通常、図21(a)に示すように、最も奥のL0層の光ディスク内周側から外周側に向けて再生を行う。言い換えると、光ビームのフォーカス位置は、L0層上で内周側から外周側に移動する。光ビームのフォーカス位置がL0層の最外周領域に到達したら、その半径位置でL0層からL1層の最外周領域にフォーカスジャンプを行う。その後は、逆にL1層の最外周側から最内周側に向けて再生を行う。すなわち、光ビームのフォーカス位置は、L1層上で外周側から内周側に移動する。光ビームのフォーカス位置がL1層の最内周領域に到達したら、その位置でL1層からL2層へフォーカスジャンプが行われる。このような再生は、上述したように、光ディスクの特定の半径位置(最内周位置または最外周位置)でフォーカスジャンプが行われる。このため、光ディスクの特定の半径位置(最内周位置または最外周位置)に気泡などの欠陥が存在していると、フォーカスジャンプに失敗する可能性が著しく高くなる。同様の問題は、まだ実用化されていない4層のROMディスクでも生じ得ると予想できる。
【0145】
前述したように、光ディスク内の気泡が存在すると、その気泡の周辺ではフォーカスエラー(FE)信号のS字信号の波形が歪んだり小さくなったりする。このため、図21(b)に示すように、気泡が光ディスクの最外周位置で例えばL1層に近接して存在していると、L0層からL1層にフォーカスジャンプを試みるとき、L1層での引き込みに失敗し、例えばフォーカス位置がL3層まで行き過ぎる可能性がある。
【0146】
本実施形態では、フォーカスジャンプに失敗した半径位置ではリトライを行わず、図21(c)に示すように、その半径位置から気泡の影響が及ばない1mm程度(3000トラック)離れた半径位置まで光ビームを移動させる。そして、その半径位置でL3層から目標のL1層にフォーカスジャンプを行う。上記のように半径位置をずらしてフォーカスジャンプする理由は、半径位置をずらさずに同じ半径位置でL3層からL1層にフォーカスジャンプを試みると、この気泡の影響でフォーカスジャンプに再度失敗する可能性がある為である。
【0147】
そのような場合、この半径位置でフォーカスジャンプを繰り返す危険を避けるため、本実施形態では、L3層上において、フォーカス制御を外すことなく、光ビームのフォーカス位置を光ディスクの半径方向に移動させる。そして、気泡が存在しない位置でフォーカスジャンプを試みる。このため、フォーカス引き込みに必要な時間をカットして、フォーカスジャンプのリトライを行うまでの時間を短縮できる。従来技術では、フォーカスジャンプに失敗した場合、いったん、フォーカスを外して改めてフォーカス引き込みからやり直しを行う。そうすると、光ディスクに反りや面ぶれが大きいと、フォーカス引き込みそのものを失敗する可能性がある。しかし、本実施形態によれば、そのような失敗を避けることができる。
【0148】
なお、フォーカスの引き込み自体が失敗すると、光ピックアップの対物レンズが光ディスクに衝突して、ディスク表面に1周に渡って傷をつける可能性がある。そのような傷が光ディスクにつくと、反射光が傷によって散乱し、サーボが不安定になったり、データが読み出せなかったりする不具合につながってしまう。
【0149】
本実施形態は、フォーカスジャンプ後に光ビームのフォーカス位置が目標層とは異なる層に到達し、その層に引き込みが行われた場合、フォーカスをその層から外さず、半径位置を変えた後、目標層にフォーカスジャンプを行う。光ディスクの面振れの周期すなわちディスク1回転の時間に比べると、フォーカス引き込みに要する時間(数百ミリ秒)は充分に長い。そのため、フォーカス引き込みは、光ディスクの面ぶれによって悪影響を受けやすい。しかし、フォーカスジャンプに要する時間は数ミリ秒と短い。その結果、光ディスクの面ぶれが大きい場合でも、フォーカスジャンプは面ぶれの悪影響をほとんど受けない。また、光ディスク全体が反っていても、層間距離は影響されないため、フォーカスジャンプは反りの影響もほとんど受けない。
【0150】
なお、本発明の好ましい実施形態では、図19に示すように、フォーカスジャンプに失敗した記録層の所望トラックおよびセクタの範囲(または所定のトラックの全体)を「欠陥」として登録してもよい。図19では、参照符号「40」で示される領域を「欠陥」の領域として記録媒体に登録する。この記録媒体は、図2に示す光ディスク装置のメモリ109であってもよい。登録された欠陥40が位置する領域では、今後、フォーカスジャンプを行わないようにしたり、その領域に対するデータの記録を禁止するようしてもよい。特に3層以上の層を有する多層ディスクでは、全体として記録容量が大きいため、欠陥以外の領域でフォーカスジャンプを行うようにすることにより、フォーカスジャンプの失敗を抑制することができる。
【0151】
なお、上記の各実施形態では、最初に目的層に到達できなかったことを予め各層のTE振幅の有無、あるいはその振幅の比較で判定を行っているが、いずれかの情報層に対するフォーカス制御が実行されていれば、一旦トラッキングをONしてみてアドレスが読めるかどうかで判定することもできる。またアドレスを読まなくても、フォーカス制御およびトラッキング制御を開始した後、その層のスパイラル方向を検出すれば、目的層から行き過ぎたか、手前の情報層で止まったかを判定することもできる。このため、フォーカスが正常に実施されたか否かを判定するステップと、フォーカスが目的層とは異なる層に引き込まれたと判定された場合、その層がどの層かを特定するステップとを別々に行う必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上のように、本発明にかかる多層光ディスクにおけるフォーカスジャンプ方法は、外乱などにより失敗した誤引き込みしたとしても、速やかにエラーの状況を検出して、安定かつ高速に復帰することができるので、3層BD、4層BDでのランダムアクセス性を向上できる。また本発明は、将来の多層ディスクである、10層、16層、20層などの多層ディスク等の用途にも適用できる。
【0153】
また、本発明は、据え置きの多層BDプレーヤやレコーダのみならず、振動などで使用環境の厳しいノートPC用、ディスクムービ、ポータブルプレーヤあるいは車載プレーヤへも信頼性の高い多層ドライブ装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0154】
100 光ディスク
103 光ピックアップ
106 サーボ制御回路
109 メモリ
146 CPU(層間ジャンプ制御部、判定部、層判別部)
160 S字信号検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層を有する多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を現在位置する現在層から目的層に移動させる層間ジャンプの指示を受けるステップと、
前記目的層に球面収差補正値を設定した後、層間ジャンプを行うステップと、
前記層間ジャンプの後、前記層間ジャンプによって引込まれた前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップと、
前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定した後、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップと
を備えた、多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項2】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
前記異なる他の記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、予めメモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで実施する、請求項1記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項3】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
前記他の記録層でのフォーカス駆動値と、予めメモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで実施する、請求項1記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項4】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
球面収差補正値を再設定した後に、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読むことで実施する、請求項1記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項5】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読めるまで、球面収差補正値の設定を繰り返す、請求項4記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項6】
前記層間ジャンプが正常に実施されたかを判定するステップを有し、
層間ジャンプ後のTE振幅が、所定値に満たない場合、前記層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定する、請求項1記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項7】
前記層間ジャンプが正常に実施されたかを判定するステップを有し、
層間ジャンプ後のTE振幅が、所定値を満たすが、その層からアドレスリードができない、またはアドレスリードができるが目的層のアドレスでない場合、他層引込みエラーと判定する、請求項1記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項8】
前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップは、
前記他の記録層上において前記光ビームのフォーカス位置を光ディスクの半径方向に移動させた後、前記他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行う、請求項1に記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項9】
同じ半径位置において層間ジャンプが複数回正常に行われなかったとき、その半径位置を含む特定領域を記録媒体内に登録するステップを含む、請求項1に記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項10】
前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップは、
前記他の記録層上において前記光ビームのフォーカス位置を光ディスクの半径方向に移動させた後、前記登録された領域以外の領域で、前記他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行う、請求項8に記載の多層光ディスクにおける層間ジャンプ方法。
【請求項11】
複数の記録層を有する多層光ディスクに対して記録及び/又は再生動作を行う光ディスク装置であって、
光ビームのフォーカス位置を前記複数の記録層の1つである目的層に移動させる指示を受けるコントローラと、
前記目的層に球面収差補正値を設定させた後、前記光ビームのフォーカス位置の移動を行わせる制御部と、
前記フォーカス位置の移動の後、前記光ビームのフォーカス位置の移動がなされた前記目的層と異なる他の記録層を特定する層判別部と
を備え、
前記制御部は、前記異なる他の記録層がどの記録層であるかの情報に基づいて、前記他の記録層から前記目的層に光ビームのフォーカス位置の移動を行う、光ディスク装置。
【請求項12】
各層の球面収差補正値を格納するメモリを有し、
前記判定部は、前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、前記メモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで前記他の記録層がどの記録層であるかを特定する、請求項11記載の光ディスク装置。
【請求項13】
各層のフォーカス駆動値を格納するメモリを有し、
前記判定部は、前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのフォーカス駆動値と、前記メモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで前記他の記録層がどの記録層であるかを特定する、請求項11記載の光ディスク装置。
【請求項14】
複数の記録層を有する多層光ディスクに対して光ビームのフォーカス位置を目的層に移動させるフォーカス引き込みの指示を受けるステップと、
前記目的層に球面収差補正値を設定した後、フォーカス引き込みを行うステップと、
前記フォーカス引き込みの後、前記フォーカス引き込みがなされた前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップと、
前記目的層と異なる他の記録層がどの記録層であるかを特定した後、前記目的層と異なる他の記録層から前記目的層に層間ジャンプを行うステップと
を備えた、多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項15】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
前記他の記録層でのTE振幅を増加させる、球面収差学習で得られた球面収差補正値と、予めメモリに格納された各層の球面収差補正値とを比較することで実施する、請求項14記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項16】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
前記他の記録層に引込まれたと判定された記録層でのフォーカス駆動値と、予めメモリに格納された各層のフォーカス駆動値とを比較することで実施する、請求項14記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項17】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
球面収差補正値を再設定した後に、光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読むことで実施する、請求項14記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項18】
前記目的層と異なる他の記録層を特定するステップは、
光ビームのフォーカス位置が位置する記録層からアドレスが読めるまで、球面収差補正値の設定を繰り返す、請求項17記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項19】
前記フォーカス引き込みが正常に実施されたかを判定するステップを有し、
フォーカス引き込み後のTE振幅が、所定値に満たない場合、前記層間ジャンプが目的層と異なる他の記録層に引込まれたと判定する、請求項14記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。
【請求項20】
前記フォーカス引き込みが正常に実施されたかを判定するステップを有し、
フォーカス引き込み後のTE振幅が、所定値を満たすが、その層からアドレスリードができない、またはアドレスリードができるが目的層のアドレスでない場合、他層引込みエラーと判定する、請求項14記載の多層光ディスクにおけるフォーカス引き込み方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−18746(P2012−18746A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124110(P2011−124110)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】