説明

多層塗膜の補修方法およびそれから得られた被塗物

【課題】金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜および上記メタリックベース塗料含有の着色塗料と同一または近似色の着色顔料を含む着色塗膜を含有する多層塗膜の補修において、補修部の外観が被補修塗膜と同等となり、被補修部との十分な連続感が得られるような補修方法の提供。
【解決手段】被塗物上に、金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜、該メタリックベース塗膜の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有する着色塗膜および第2のクリアー塗膜を順に形成した多層塗膜の欠陥を補修する補修方法であって、被補修部分を研ぎだした後に、多層塗膜形成時のメタリックベース塗料の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有し金属製光輝材を含まない補修用水性ベース塗料を塗装し、その上に補修着色塗膜および補修クリアー塗膜を形成する多層塗膜の補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層塗膜の補修方法、特に光輝感の高い多層塗膜の補修方法およびそれから得られた被塗物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の塗膜外観に、ゴミ・ブツや微小へこみ等の塗膜異常が発生し、補修が必要となった場合は、その補修が必要な部分をサンドペーパー等で研磨し、補修塗料を用いて塗膜補修を行う。一般に、塗膜補修は熟練工が手吹きスプレー等の塗装機を駆使して行うが、補修された塗膜が、補修部以外の部分と同一の外観を得ることは難しい。
【0003】
自動車車体塗膜に塗膜異常がある場合は、パーツ毎の区切り、あるいは境界部で見切りを付けるブロック補修と言われる補修方法と、本発明が好適に用いられる部分補修方法(スポット補修)のいずれかにより行われる。
【0004】
スポット補修は、被補修塗膜を形成した塗料と同一の塗料あるいは専用の補修用塗料を設け(以下、「補修塗料」と記す。)、スプレー塗装等により必要部位にのみ塗装を行い実施されるが、画一化された方法はなく、熟練者をもってしても難しいものである。
【0005】
特開2001−9364号公報では、メタリック塗膜の補修方法において、上記メタリックベース塗料の塗装前および/または塗装後に、シリカ粒子を含有する補修用クリアー塗料を塗装して補修するメタリック塗膜の補修方法が開示されている。しかしながら、シリカ粒子を含有する塗料を塗装しても、新たな塗料ダスト部が周辺に発生し、更に周辺部をぼかすために、ぼかし用シンナーを塗装しても、周辺部に、補修作業に用いたメタリックベース塗料に含まれるアルミ粉およびシリカ粒子が奏でるキラキラした外観が発生するため、被補修部との十分な連続感が得られなかった。特にソリッド調の多層塗膜を対象にした場合には、違和感が残った。
【0006】
特開平10−202186号公報では、光輝性塗膜の補修方法において、酸化チタンあるいはホワイトマイカ粉を補修用メタリックベース塗料に添加し、アルミニウム顔料に起因する光輝感を低下させた補修用塗料を用いて光輝性塗膜を補修する方法が開示されている。しかしながら、ホワイトマイカ粉を追加含有させたメタリック塗料を塗装しても、基本的に補修周辺部に発生する塗料ダストには、光輝性塗料に含まれるアルミ粉が奏する外観が発生するため、補修周辺部に十分な連続感が得られなかった。特に、濃色の被補修塗膜を補修した場合には、キラキラした部分が残り、被補修部との十分な連続感が得られなかった。
【0007】
光輝材を含んだ多層塗膜の補修は、基本の多層塗膜の光輝感や風合いなどを同一にしなければならず、特により深い光輝感を要求される高級車等の塗膜の補修はまだ多くの部分が熟練者の技量に頼っている部分が多い。熟練者でなくても簡単に光輝材を含んだ多層塗膜の補修ができる方法は、常に模索されている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−9364号公報
【特許文献2】特開平10−202186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属製光輝材(例えば、アルミニウム顔料)および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜および上記メタリックベース塗料含有の着色塗料と同一または近似色の着色顔料を含む着色塗膜を含有する多層塗膜の補修において、補修部の外観、特にキラキラ感が、被補修塗膜と同等となり、被補修部との十分な連続感が得られるような補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、被塗物上に、金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜、第1のクリアー塗膜、該メタリックベース塗膜の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有する着色塗膜および第2のクリアー塗膜を順に形成した多層塗膜、または第1のクリアー塗膜が存在しない多層塗膜のいずれかの欠陥を補修する補修方法であって、該多層塗膜の補修対象部分を研ぎ出す工程(I)と、着色顔料として前記メタリックベース塗膜および前記着色塗膜に含まれる同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有するし金属製光輝材を含まない、補修用水性ベース塗料を塗装して補修メタリックベース塗膜を形成する工程(II)と、前記着色塗膜を形成した着色塗料と同じ水性着色塗料を塗装して補修着色塗膜を形成する工程(III)と、クリアー塗料を塗装して補修クリアー塗膜を形成する工程(IV)と、得られた補修塗膜を硬化させる工程(V)とを含有する多層塗膜の補修方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記補修方法により得られた被塗物も提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多層塗膜の補修方法によれば、深い光輝感を有する多層塗膜(即ち、被塗物上に、金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜、必要に応じて第1のクリアー塗膜、該メタリックベース塗膜の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有する着色塗膜および第2のクリアー塗膜を順に形成した多層塗膜)の補修が、簡便かつ容易に行われるだけでなく、補修後に得られる塗膜の外観において補修部分と被補修部分との差が小さいか、ほぼ同等になり十分な連続感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の複層塗膜の補修方法を図面を用いて説明する。
図1は、本発明の補修方法を行う前の多層塗膜の断面を模式的に表した図である。
図2は、本発明の多層塗膜の補修方法の工程(I)の研ぎ出した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図である。
図3は、本発明の多層塗膜の補修方法の工程(II)の補修メタリックベース塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図である。
図4は、本発明の多層塗膜の補修方法の工程(III)の補修着色塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図である。
図5は、本発明の多層塗膜の補修方法の工程(IV)の補修クリアー塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図である。
【0014】
上記図中、数字1は、複層塗膜(2、3、4および5)を形成する前の被塗物を表す。被塗物1は、後述するように、電着塗料や中塗り塗料を塗装して下地塗膜を形成したものである場合が多い。被塗物1上には、金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜2、第1のクリアー塗膜3、メタリックベース塗膜の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有する着色塗膜4および第2のクリアー塗膜5が順に形成されている。この塗膜(2、3、4および5)はまとめて多層塗膜10となる。尚、第1のクリアー塗膜3は、形成されなくても良いが、より高い意匠性を望む場合には第1のクリアー塗膜3が存在することが多い。
【0015】
本発明によれば、上記多層塗膜10は、欠陥がある場合には、その欠陥部をまずサンドペーパーなどによる研ぎ工程(I)で研ぎ出して、図2のようになる。図2の研ぎ出した部分に、補修メタリックベース塗膜を形成するための補修用水性ベース塗膜を塗装(工程II)して、図3のように補修メタリックベース塗膜6が形成される。この補修メタリックベース塗膜6の上に、補修用着色塗膜を形成するための補修着色塗料を塗布(工程III)して、図4のように補修着色塗膜7を形成する。ついで、補修着色塗膜7の上に、クリアー塗料を塗布(工程IV)して、図5のように補修クリアー塗膜8を形成する。これらの補修塗膜(6、7および8)は、硬化工程(V)を経て補修が終了する。
【0016】
本発明の補修方法は、多層塗膜10の形成と比較して説明すると、理解しやすいので多層塗膜10の形成方法をまず説明し、次に本発明の補修方法を具体的に説明する。また、多層塗膜の形成については、各塗膜を形成する塗料を説明し、その後に塗装方法についてまとめて説明する。
【0017】
多層塗膜(被補修塗膜)の形成方法
被塗物
多層塗膜の形成方法において用いられる被塗装物としては、カチオン電着塗装可能な金属成型品が好ましい。金属成型品としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金による板、成型物を挙げることができ、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体および部品を挙げることができる。これらの金属は予めリン酸塩、クロム酸塩等で化成処理されていることが好ましい。
【0018】
更に、被塗物上には、電着塗料および中塗り塗料を塗装して下地塗膜を形成したものを用いる。上記電着塗料としては、カチオン型およびアニオン型を使用できるが、カチオン型電着塗料組成物が防食性において優れた複合塗膜を与える。
【0019】
上記中塗り塗料は、下地の凹凸を隠蔽し、上塗塗装後の表面平滑性の確保と耐チッピング性等の塗膜物性を付与するために形成されるもので、有機系、無機系の各種着色顔料および体質顔料を含む。標準的には、カーボンブラックと二酸化チタンを主顔料としたグレー系中塗塗料が多用されるが、各種着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗塗料を用いることもできる。
【0020】
水性メタリックベース塗料
図1に示すように、被塗物1の上にはメタリックベース塗膜2が形成される。
【0021】
本発明の多層塗膜形成方法においてメタリックベース塗膜の形成に好適に用いられる水性メタリックベース塗料は、樹脂および硬化剤からなるバインダー成分、着色顔料、金属製光輝材および必要に応じて添加剤を含むものである。
【0022】
上記バインダー成分となる樹脂としては特に限定されず、例えば、乳化重合によって得られたエマルション樹脂や、カルボン酸基を有するアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等を塩基で中和して水性化した樹脂を挙げることができる。得られる多層塗膜の黄変性の観点から、塩基で中和して水性化した樹脂よりも、上記エマルション樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
また、上記エマルション樹脂は、得られる多層塗膜の外観の観点から、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルを65質量%以上含み、酸価3〜50mgKOH/gのα,β−エチレン性不飽和モノマー混合物を乳化重合して得られるものであることが好ましい。
【0024】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物に含まれる、エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルの量が65質量%未満である場合、得られる多層塗膜の外観が低下する。上記エステル部の炭素数が1または2の(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが挙げられる。
【0025】
また、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物の酸価は3〜50mgKOH/gであり、好ましくは7〜40mgKOH/gである。酸価が3mgKOH/g未満である場合、塗装作業性が不充分となり、50mgKOH/gを超える場合、得られる塗膜の諸性能が低下する。
【0026】
上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は、酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含むものである。上記酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては特に限定されず、公知のものを用いることができるが、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体であることが好ましい。
【0027】
また、上記α,β−エチレン性不飽和モノマー混合物は、水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーを含有することができる。上記水酸基価としては、10〜150であり、好ましくは20〜100である。上記水酸基価が10未満である場合、充分な硬化性が得られず、150を超える場合、得られる塗膜の諸性能が低下する。
【0028】
上記水酸基を有するα,β−エチレン性不飽和モノマーとしては特に限定されず、公知のものを用いることができるが、具体的には、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルのε−カプロラクトン付加物であることが好ましい。
【0029】
上記バインダー成分に含まれる硬化剤としては特に限定されず、上記樹脂の有する硬化性官能基と硬化可能な官能基を有するものを挙げることができ、例えば、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂やポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物はイソシアネート基をアルコール化合物によってブロック化されていてもよい。
【0030】
本発明の水性メタリックベース塗料は、着色顔料および金属製光輝材を含む。着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、ベンガラ等の無機系顔料、キナクリドン系、アゾ系、ペリレン系、フタロシアニン系、ジケトピロロピロール系、ベンズイミダゾロン系、アントラセン系等の有機系顔料を挙げることができる。また、着色顔料の一部として、体質顔料を配合しても良い。体質顔料としては、例えば、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0031】
上記メタリックベース塗料の着色顔料含有量は、特に限定されるものではないが、一般に、塗料内のPWC、すなわち固形分ベースの濃度で、1〜20重量%であり、より実用的には2〜18重量%である。着色顔料の含有量が少なすぎると、下地隠蔽性が低下し、色相感を十分に付与することができないことがあり、含有量が多すぎると、塗膜の光沢が低下する傾向にある。
【0032】
金属製光輝材としては特に限定されず、例えば、アルミニウム粉、ステンレス粉、ニッケル粉、銅粉等を挙げることができる。上記金属製光輝材に加えて、金属製でない光輝材を併用しても良い。併用できる光輝材としては、マイカ粉、干渉マイカ粉、着色マイカ粉、ガラスフレーク、アルミナフレーク、板状酸化鉄等を挙げることができる。
【0033】
上記メタリックベース塗料の光輝性顔料含有量は、特に限定されるものではないが、一般に、塗料内のPWC、すなわち固形分ベースの濃度で、1〜15重量%であり、より実用的には3〜14重量%である。光輝性顔料の含有量が少なすぎると、フリップフロップ性を有するメタリック感を十分に付与することができないことがあり、含有量が多すぎると、塗膜の光沢が低下する傾向にある。
【0034】
本発明においてメタリック塗料中に含有される光輝性顔料の平均粒径(D50)は、特に限定されるものではないが、一般には5〜35μm程度であり、さらに好適には7〜30μm程度である。
【0035】
水性着色塗料
上記メタリックベース塗膜2の上には、直接着色塗膜4を形成しても良いが、必要に応じて第1のクリアー塗膜3を形成した後、その上に着色塗膜4を形成しても良い。第1のクリアー塗膜3は、クリアー塗料から形成するが、着色塗料の説明の後にクリアー塗料として説明する。
【0036】
本発明の多層塗膜形成方法において着色塗膜の形成に好適に用いられる水性着色塗料は、樹脂および硬化剤からなるバインダー成分、顔料成分および添加剤を含むものであるが、顔料成分として、光輝材を含まないことが特徴である。
【0037】
上記水性着色塗料のバインダー成分に含まれる樹脂としては特に限定されず、例えば、上記水性メタリックベース塗料の記載で述べた樹脂を用いることが好ましい。また、上記バインダー成分に含まれる硬化剤としては特に限定されず、上記水性メタリックベース塗料の記載で述べた樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
上記顔料成分としては、例えば、着色顔料、体質顔料を挙げることができる。上記着色顔料としては、特に限定されず、例えば、水性メタリックベース塗料の記載で述べた顔料を用いることが好ましい。
【0039】
本発明の多層塗膜の補修方法において、上記水性着色塗料は、上記メタリックベース塗料含有の着色塗料と同一または近似色の着色顔料を含有する必要がある。上記水性着色塗料に含まれる着色顔料と同一または近似色とは、上記メタリックベース塗料に含まれる着色顔料が有する色相と、上記水性着色塗料に含まれる着色顔料が有する色相とが、同系色であるという意味であり、この同系色にあるとは、互いに含まれる着色顔料の奏でる色相が、マンセル表色系の色相環(10色相)の色配置において、同色あるいは近い関係の組合せにあることを意味し、少なくとも、色相環における隣あった色相であることを意味する。尚、着色顔料の色相は、上記顔料を含む塗料を用いて形成した塗膜層が奏でる色相が、例えば、それぞれの顔料濃度(PWC)が、10%になるように塗料化し、白黒隠蔽試験紙上に乾燥膜厚が15μmとなるように塗布、焼き付けた後、例えば「ミノルタCR−200」(商品名、ミノルタ社製)等の色差計により測色し、マンセル色相での色配置を求めたものを比較することで明らかにすることができる。上記白黒隠蔽試験紙とは、40mm間隔の白黒市松模様を焼き付けたものとし、その明度は白色部でL*値80以上、黒色部でL*値12以下のものである。
【0040】
また、この色相差は、同一もしくは隣の色でない場合、大きな差があると色相差によるムラ、明度差によるシェードでのムラがおきる恐れがある。そのため上記色相に、実質上の差が生じないものを用いることが更に好ましい。
【0041】
上記水性着色塗料の着色顔料含有量は、特に限定されるものではないが、一般に、塗料内のPWC、すなわち固形分ベースの濃度で、0.01〜10重量%であり、より実用的には0.1〜7重量%である。着色顔料の含有量が少なすぎると、下地塗膜の光輝材に起因する粒子感が隠蔽できず、多層塗膜としても彩度が低下し、鮮やかな色相感を十分に付与することができないことがあり、含有量が多すぎると、塗膜の光沢が低下する傾向にある。
【0042】
クリアー塗料
本発明の多層塗膜の形成において用いられるクリアー塗料は特に限定されず、バインダー成分等を含有するクリアー塗料を利用できる。クリアー塗料は、第1のクリアー塗膜3あるいは第2のクリアー塗膜5のいずれにも用いることができる。このクリアー塗料は、更に下地の意匠性を妨げない程度で有れば着色成分を含有することもできる。上記クリアー塗料の形態としては、溶剤型、水性型および粉体型のものを挙げることができる。
【0043】
上記クリアー塗料としては、透明性あるいは耐酸エッチング性等の点から、バインダー成分としてアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂等を挙げることができる。
【0044】
更に、上記クリアー塗料には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤を添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。また必要により、硬化触媒、表面調整剤等を含むことができる。
【0045】
なお、本発明の多層塗膜形成方法において用いられるクリアー塗料としては、有機溶剤の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリアー塗料固形分が50質量%以上であるクリアー塗料であることが好ましい。
【0046】
多層塗膜の形成方法
本発明の補修方法の対象となる被補修塗膜は、被塗物であるリン酸塩処理などの化成処理を施した鋼板の上に、電着塗装および中塗り塗装を施した後、多層からなる多層塗膜(上塗り塗膜)が形成されたものである。
【0047】
本発明では、電着塗料および中塗り塗料を塗装して下地塗膜を形成した被塗装物1上に、金属製光輝材および着色顔料を含有する水性メタリックベース塗料を塗装してメタリックベース塗膜2を形成する工程(a)、第1クリアー塗料を塗装して第1クリアー塗膜3を形成する工程(b)、上記メタリックベース塗膜および前記第1クリアー塗膜を含む塗膜を加熱硬化する工程(c)、更に、上記メタリックベース塗料含有の着色塗料と同一または近似色の着色顔料を含む水性着色塗料を塗装して着色塗膜4を形成する工程(d)、第2クリアー塗料を塗装して第2クリアー塗膜5を形成する工程(e)、上記着色塗膜および上記第2クリアー塗膜を含む塗膜を加熱硬化する工程(f)、を順次行うことにより形成された多層塗膜に対して好適に用いることができる。上記工程のうち、工程(b)と工程(c)は、必要に応じて設けられる工程であるので、第1のクリアー塗膜3は形成しない場合もある。また、メタリックベース塗膜2と第1のクリアー塗膜3を硬化する工程(c)を設けなくても良い。
【0048】
上記工程で多層塗膜を形成することにより、遠目で見た場合には、鮮やかな、単色に近い色相(ソリッドライク)を呈する塗膜を形成することができる。近くで見た場合には、金属製光輝材による深い光輝感が見られ、高級感の高い意匠性塗膜が形成されるのである。
【0049】
上記各塗装工程(即ち、工程(a)、(b)、(d)および/または(e))の後に、必要に応じて、形成された塗膜を、硬化させない程度に乾燥(プレヒートとも言う)したり、または硬化させた塗膜も対象とすることができる。尚、「プレヒート」とは形成された塗膜を40〜100℃で2〜10分間加熱することを意味する。
【0050】
上記多層塗膜を形成する塗料の塗装は、一般的に静電塗装によって行われ、例えば、エアー霧化型塗装機(オートREA)、回転遠心霧化型塗装機(ベル、マイクロベル、マイクロマイクロベル)等を利用して形成されたものが一般的である。
【0051】
上記多層塗膜は、一般に4コート2ベークと言われる塗装方法で、外観および意匠性に最も優れた積層塗膜を形成することができるため、塗膜補修を行う場合にも、最新の注意と技術が必要である。上記加熱硬化は、それぞれの補修塗料に用いられている樹脂種により異なるが、例えば、80〜160℃で10〜30分加熱することができる。
【0052】
本発明の対象となる多層塗膜の形成方法は、メタリックベース塗膜として、隠蔽性の高い塗膜(すなわち、顔料含有量が多く、しかも隠蔽性の高い顔料が多い)を用い、その上層に、上記メタリックベース塗膜と同一または実質上同系色の着色顔料を含有する、隠蔽性の低い(すなわち、顔料含有量が少なく、しかも透明性の高い顔料を多く使用した)高彩度の着色塗膜を重ねて塗装する。しかし、積層塗膜全体としては隠蔽性に優れた塗膜を形成することができる。上記多層塗膜は、メタリックベース塗膜と着色塗膜とを実質上同系色とすることで、積層塗膜の色相および色調を容易に調節でき高彩度化することが可能である。
【0053】
すなわち、上記多層塗膜において、下層となるメタリックベース塗膜層は、十分な隠蔽性を有し、所望の色彩が得られ、かつ隠蔽膜厚(下地の色を隠蔽するのに十分不可欠な膜厚)が50μm以下、好ましくは40μm以下であるように形成される。
【0054】
更に、上記着色塗膜層は、上記メタリックベース塗膜上に、隠蔽膜厚50μmを超え500μm以下の、半透明な高彩度の塗膜を形成する。この着色塗膜層は、メタリックベース塗膜層よりも低隠蔽性の(すなわち、薄い色相で彩度の高い)着色塗膜であり、多層塗膜としては、上記メタリックベース塗膜層と着色塗膜層とが相俟って奏でる色相が発現し、メタリックベース塗膜に含有される、光輝材に起因する粒子感が消え、遠目に見た場合に、単色に近い色相(ソリッドライク)を発現することができる。
【0055】
補修方法
上記のように形成された多層塗膜に欠陥があった場合に、本発明の補修方法が適用される。本発明の補修方法は、上記多層塗膜が3層(メタリックベース塗膜2、着色塗膜4および第2のクリアー塗膜5)であっても、4層(メタリックベース塗膜2、第1のクリアー塗膜3、着色塗膜4および第2のクリアー塗膜5)のいずれであっても、同じ方法で実施される。即ち、前記多層塗膜の補修対象部分を研ぎ出す工程(I)と、着色顔料として前記メタリックベース塗膜および前記着色塗膜に含まれる同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有し金属製光輝材を含まない、補修用水性ベース塗料を塗装して補修メタリックベース塗膜6を形成する工程(II)と、前記着色塗膜を形成した着色塗料と同じ水性着色塗料を塗装して補修着色塗膜7を形成する工程(III)と、クリアー塗料を塗装して補修クリアー塗膜8を形成する工程(IV)と、得られた補修塗膜を硬化させる工程(V)を包含する。
【0056】
工程(I)
本発明の補修方法では、まず上述のように形成された被補修塗膜の補修対象部分を研磨する。この研磨は、#600〜1200番程度のサンドペーパー等の研磨材を用い、いわゆる水研ぎにより行われ、補修対象部分の下地塗膜が露出する程度まで、緩やかに勾配をつけて行うことが好ましい。次いで、この下地塗膜を研ぎ出した補修対象部分に、補修塗料を用いて補修塗膜を形成していく。
【0057】
工程(II)
次の工程は、上記研ぎ出した部分に補修用水性ベース塗料を用いて塗膜を形成する。
【0058】
補修用水性ベース塗料
本発明の多層塗膜の補修方法において、補修用ベース塗膜の形成に好適に用いられる補修用水性ベース塗料は、着色顔料として前記メタリックベース塗膜および前記着色塗膜に含まれる同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有し金属製光輝材を含まないものである。また、バインダー成分は樹脂および硬化剤からなるバインダー成分、顔料成分および添加剤を含むものである。顔料成分としては、着色顔料として前記メタリックベース塗膜および前記着色塗膜に含まれる同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有する
【0059】
上記補修用水性ベース塗料の上記バインダー成分に含まれる樹脂としては特に限定されず、例えば、上述した水性メタリックベース塗料の記載で述べたものを用いることができる。特に上記エマルション樹脂を用いることが好ましい。
【0060】
また、上記バインダー成分に含まれる硬化剤としては特に限定されず、上記樹脂の有する硬化性官能基と硬化可能な官能基を有するものを挙げることができ、例えば、メラミン樹脂等のアミノ系樹脂やポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物はイソシアネート基を公知のアルコール化合物によってブロック化されていてもよい。
【0061】
上記着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、ベンガラ等の無機系顔料、キナクリドン系、アゾ系、ペリレン系、フタロシアニン系、ジケトピロロピロール系、ベンズイミダゾロン系、アントラセン系等の有機系顔料を挙げることができる。また、上記体質顔料としては、例えば、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0062】
また、上記干渉マイカ顔料としては、例えば、干渉マイカ粉および着色マイカ粉等を挙げることができる。これは、金属製光輝材に比べ、干渉マイカ粉、着色マイカ粉の反射強度が弱いためである。本発明の被補修塗膜は多層塗膜で単色に近い色相(ソリッドライク)であり、一般の金属製光輝材を含有したメタリック色に比べ粒子感が非常に弱いため、金属製光輝材を含有した補修ベース塗料で補修した場合、ダスト部のキラキラ感が強く違和感が出てしまう。
【0063】
本発明の補修方法では、研ぎ出した補修対象部分に、干渉マイカ顔料を含有した補修用水性ベース塗料(金属製光輝材を含有しない)を用いて塗装するため、この補修塗料の塗料ダスト部にキラキラ感が発生することが無く好ましい。一方、補修対象部分に、金属製光輝材を含有するメタリックベース塗料を塗装して補修すると、塗料ダスト部が形成され、ぼかし工程(塗膜の連続化および平滑化)を行っても、ソリッド調の色相を呈する被補修部や補修部の周辺に、金属製光輝材に起因する光輝感が点々と残り、補修部と補修周辺部との間で十分な連続感を得ることができず、見た目に違和感が残ってしまう。すなわち、被補修塗膜を形成した金属製の光輝材を含有する補修ベース塗料を過大希釈して薄めたり、添加剤を加えた塗料で補修塗装し、着色塗膜を形成しても、被補修部や補修部の周辺部(塗料ダスト部を含む)の金属製光輝材に起因する光輝感を十分に隠すことはできなかった。
【0064】
本発明の補修方法では、干渉マイカ顔料を含有する(金属製の光輝材を含有しない)補修ベース塗料を用いて補修するので、後に形成される着色塗膜層が干渉マイカの光輝感を抑えることができ、被補修部や補修部の周辺に塗装された光輝材に起因する光輝感が発現することも無く、補修部と補修周辺部との間で十分な連続感を得ることができる。
【0065】
上記ベース塗料の干渉マイカ顔料の含有量は、特に限定されるものではないが、一般に、塗料内のPWC、すなわち固形分ベースの濃度で、1〜15重量%であり、より実用的には3〜14重量%である。干渉マイカ顔料の含有量が少なすぎると、フリップフロップ性を有する光輝感を十分に付与することができないことがあり、含有量が多すぎると、塗膜の光沢が低下する傾向にある。
【0066】
上記干渉マイカ顔料の平均粒径(D50)は、特に限定されるものではないが、一般には5〜35μm程度であり、さらに好適には7〜30μm程度である。
【0067】
工程(III)
上記工程(II)で形成された補修メタリックベース塗膜6上に、前記着色塗膜4を形成した着色塗料と同じ水性着色塗料を塗装して補修着色塗膜7を形成する。ここで用いる着色塗料およびその形成方法等は、前記多層塗膜で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0068】
工程(IV)
つぎに、補修着色塗膜7の上に、クリアー塗料を塗装して、クリアー塗膜8を形成する。クリアー塗料も前記多層塗膜で説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0069】
上記工程(I)〜工程(V)は、工程(II)または工程(III)の後にまたは両方の後に、必要に応じて、形成された塗膜を硬化させない程度に乾燥する工程、または硬化する工程を追加することができる。
【0070】
また必要により、上記工程(II)〜(IV)で用いた補修用塗料のスプレー塗装により上記補修塗膜の周辺部に発生する、補修塗膜が断続的に成膜した部分から、塗料ダストのみが塗着した部分まで(以下、「塗料ダスト部」と記す。)に対して、ぼかし用シンナーを塗布し、補修塗膜の連続化および平滑化を行うことができ、更にその後、得られた補修塗膜を硬化させることができる。
【0071】
また更に、本発明の補修方法では、必要に応じて、塗料ダスト部にぼかしシンナーを塗布する場合でも、被補修部や補修部の周辺に、金属製光輝材に起因する光輝感が残らず、補修部と補修周辺部との間で十分な連続感を得ることができる。
【実施例】
【0072】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味する。
【0073】
製造例1 水性メタリックベース塗料の調製
予め下記表1に示す顔料配合(PWC表示)の着色顔料と日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂(不揮発分30.0%、固形分酸価40mgKOH/g、水酸基価50)の一部とを、ガラスビーズを分散媒体とする卓上ディスパーで、着色顔料の粒径が5μm以下になるまで分散し、顔料ペーストとして調製した。
尚、顔料の配合量としては、着色顔料であるデグサカーボンFW−200P(デグサ社製カーボンブラック顔料、商品名、PWC=0.2%相当量配合)0.22部およびシアニンブルーG−314(山陽色素社製シアニンブルー顔料、商品名、PWC=8.0%相当量配合)8.7部、光輝性顔料であるアルペースト91−0562(東洋アルミニウム社製アルミニウム金属製顔料、商品名、PWC=10.0%相当量配合)11.0部およびイリオジン7225WNT(メルク社製干渉マイカ顔料、商品名、PWC=1.0%相当量配合)1.1部である。
【0074】
その後、塗料内の上記水溶性アクリル樹脂が33部となるように残りの樹脂を配合し、更に、日本ペイント社製エマルション樹脂(コア・シェル型非架橋樹脂粒子、平均粒子径150nm、不揮発分20%、固形分酸価20mgKOH/g、水酸基価40)を250部、10質量%ジメチルエタノールアミン水溶液10部、プライムポールPX−1000(三洋化成工業社製ポリエーテルポリオール、商品名、数平均分子量1000、水酸基価278)10部、サイメル204(三井サイテック社製混合アルキル化型メラミン樹脂、商品名、不揮発分70%)を25部、エチレングリコールモノヘキシルエーテル25部を混合撹拌し、10質量%ジメチルアミノエタノール水溶液を加えてpH=8に調整し、均一に分散し、水性メタリックベース塗料を得た。更に、塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで45秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる水性メタリックベース塗料を調製した。
【0075】
製造例2 水性着色塗料の調製
上述した製造例1の水性メタリックベース塗料の調整例と同様に、予め下記表1に示す顔料配合(PWC表示)の着色顔料と上記日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂の一部とを、ガラスビーズを分散媒体とする卓上ディスパーで着色顔料の粒径が5μm以下になるまで分散し、顔料ペーストとして調製した後、製造例1の水性メタリックベース塗料の調整例と同様にバインダー成分を配合し、水性着色塗料を得た。尚、光輝材は含有しない。更に、塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで45秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる水性着色塗料を調製した。
【0076】
製造例3 補修用水性ベース塗料1の調製
上述した製造例1の水性メタリックベース塗料の調整例と同様に、予め下記表1に示す顔料配合(PWC表示)の着色顔料と上記日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂の一部とを、ガラスビーズを分散媒体とする卓上ディスパーで着色顔料の粒径が5μm以下になるまで分散し、顔料ペーストとして調製した後、製造例1の水性メタリックベース塗料の調整例と同様にバインダー成分を配合し、補修用水性ベース塗料1を得た。更に、塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで45秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる補修用水性ベース塗料1を調製した。
【0077】
製造例4 補修用水性ベース塗料2〜4の調製
上述した製造例3の補修用水性ベース塗料の調整例と同様に、予め下記表1に示す顔料配合表(PWC表示)の着色顔料と上記日本ペイント社製水溶性アクリル樹脂の一部とを、ガラスビーズを分散媒体とする卓上ディスパーで着色顔料の粒径が5μm以下になるまで分散し、顔料ペーストとして調製した後、製造例3の補修用水性ベース塗料の調整例と同様にバインダー成分を配合し、補修用水性ベース塗料2〜5を調製した。更に、塗料粘度が20℃、No.4フォードカップで45秒となるようにイオン交換水を加えて希釈し、塗装に用いる補修用水性ベース塗料2〜4を得た。尚、補修用水性ベース塗料に含有される着色顔料の配合量の微差は、目視評価を厳密にする為に、色相を合わせた時に生じたものである。補修の仕上がり外観には影響ないものと判断した。
【0078】
多層塗膜(被補修塗膜)の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、縦30cm、横40cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(パワートップU−50、日本ペイント社製)を、乾操膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた塗板に、22秒(No.4フォードカップを使用し、20℃で測定)に、予め希釈されたオルガP−30ダークグレー(日本ペイント社製溶剤型中塗り塗料)を、乾燥膜厚35μmとなるように回転遠心霧化型塗装機(ABBインダストリー社製)を用いて2ステージ塗装し、140℃で30分間加熱し、下地塗膜を形成した。
【0079】
冷却後、上記中塗り塗膜上に製造例1で得られた水性メタリックベース塗料を、室温25℃、湿度75%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるように水系塗料塗装用回転遠心霧化型塗装機(マイクロマイクロベルCOPES−IV型、ABBインダストリー社製)で2ステージ塗装した。塗布後、2分間のインターバルをとってセッティングを行った。その後、80℃で3分間のプレヒートを行った。
【0080】
上記プレヒート後、塗板を室温まで放冷し、第1クリアー塗料としてスーパーラック O−171クリアー(日本ペイント社製アクリル・メラミン硬化型クリアー塗料、商品名)を、乾燥膜厚30μmとなるように回転霧化型塗装機(ABBインダストリー社製)により塗装した。7分間セッティングした後、140℃で30分間加熱し上塗り塗膜の一部を作成した。
冷却後、更に、製造例2で得られた水性着色塗料を、室温25℃、湿度75%の条件下で、乾燥膜厚15μmとなるように水系塗料塗装用回転遠心霧化型塗装機(μμベルCOPES−IV型、ABBインダストリー社製)で塗装した。塗布後、2分間のインターバルをとってセッティングを行った。その後、80℃で3分間のプレヒートを行った。
【0081】
上記プレヒート後、塗板を室温まで放冷し、第2クリアー塗料としてマックフロー O−1810クリアー(日本ペイント社製酸・エポキシ硬化型クリアー塗料、商品名)を、乾燥膜厚40μmとなるように回転霧化型塗装機(ABBインダストリー社製)により塗装した。7分間セッティングした後、140℃で30分間加熱し、被補修塗膜となる多層塗膜(図1参照)を作成した。
【0082】
実施例1
補修塗膜の作成
補修性評価用の補修塗膜を以下に示す手順で作製した。
補修対象部分を、#800番のサンドペーパーを用いて、水研ぎにより、補修部分における中塗塗膜が研ぎ出されるまで、緩やかに勾配がつくように研ぎ出し、研ぎ出し部(図2参照)を形成した。すなわち、補修対象部分のメタリックベース塗膜より上層の積層塗膜を除去した。
【0083】
次に、研ぎ出し部を含む塗板をワイピングして研ぎかすを除去し、10分間放置した後、中塗り塗膜の研ぎ出し部の範囲より広い目に、補修用水性ベース塗料1を手吹きスプレー塗装機により塗装し、補修ベース塗膜(図3参照)を形成した。
【0084】
次に、補修用水性ベース塗料塗装部の周辺領域に発生した補修塗料に起因する塗料ダスト部まで覆うように、補修部分に補修水性着色塗料を塗装(図4参照)した。
【0085】
更に、上記補修水性着色塗料を塗装した範囲(図4参照)より広い目にクリアー塗料を塗装し、補修塗膜(図5参照)を形成した。次に、10分間セッティングし、その後140℃で20分間焼き付け、多層塗膜の補修を完了した。
得られた補修塗膜の補修成膜部と塗料ダスト飛散部の外観と補修の仕上がり具合を下記判断基準で評価した。
【0086】
〔補修塗膜の評価判断基準〕
以上のように作製した補修塗膜を、目視により以下の判断基準で評価した。
1:補修部および塗料ダスト部の外観が良好で、補修部、塗料ダスト部および非補修部の外観が等しく、違和感がない
2:補修部および塗料ダスト部の外観が良好で、補修部、塗料ダスト部および非補修部の外観が等しく、ほとんど違和感がない
3:補修部および塗料ダスト部の外観は良好であるが、補修部、塗料ダスト部および非補修部の外観が若干異なり、やや違和感がある
4:補修部および塗料ダスト部の外観は良好であるが、補修部、塗料ダスト部および非補修部の外観が若干異なり、違和感がある
5:補修部および塗料ダスト部の外観が悪く、補修部、塗料ダスト部および非補修部の外観がかなり異なり、明らかな違和感がある
評価結果を表1に示す。
【0087】
比較例1〜3
実施例1において用いた補修用水性ベース塗料1の代わりに、下記表1に示す補修用水性ベース塗料2〜4をそれぞれ用いる以外は、実施例1と同様に行って補修塗膜を形成し、仕上がり具合を同様に判断した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
アルペースト91−0562:東洋アルミニウム社製アルミニウム金属製顔料、商品名。
イリオジン7225WNT:メルク社製干渉マイカ顔料、商品名。
デグサカーボンFW−200P:デグサ社製カーボンブラック顔料、商品名。
シアニンブルーG−314:山陽色素社製シアニンブルー顔料、商品名。
SIPERNAT22LS:テグサ社製シリカ粒子、商品名。
【0090】
被補修部分の水性メタリックベース塗料と同じ塗料を用いた比較例1の場合、補修部周辺の多層塗膜部分に飛散したダスト中に金属製光輝材であるアルミペーストの輝度が強く、違和感が生じる。補修用水性ベース塗料にシリカ粒子を添加した場合(特開2001−9364号公報:比較例2)、補修部分の色調レベルが向上するものの、ダスト部はやはりアルミペーストの輝度が高く、違和感が強い。比較例3では、アルミニウム顔料の量を減らし、かつ干渉マイカを増量して被補修多層塗膜に色調を合わせた場合、ダストの輝度は小さくなるが、アルミに基づく輝度は基本的に存在し、違和感が生じる。本発明のように、アルミペーストを完全に除き、干渉マイカの量を増量した実施例1の場合、ダストの輝度は小さくなり違和感が殆どなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の補修方法を行う前の多層塗膜の断面を模式的に表した図。
【図2】本発明の多層塗膜の補修方法の工程(I)の研ぎ出した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図。
【図3】本発明の多層塗膜の補修方法の工程(II)の補修メタリックベース塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図。
【図4】本発明の多層塗膜の補修方法の工程(III)の補修着色塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図。
【図5】本発明の多層塗膜の補修方法の工程(IV)の補修クリアー塗膜を形成した後の多層塗膜の断面を模式的に表した図。
【符号の説明】
【0092】
1…被塗物、2…メタリックベース塗膜、3…第1のクリアー塗膜、4…着色塗膜、5…第2のクリアー塗膜、6…補修メタリックベース塗膜、7…補修着色塗膜、8…補修クリアー塗膜、10…多層塗膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、金属製光輝材および着色顔料を含有するメタリックベース塗膜、第1のクリアー塗膜、該メタリックベース塗膜の着色顔料と同一または近似色の着色顔料を含有する着色塗膜および第2のクリアー塗膜を順に形成した多層塗膜、または第1のクリアー塗膜が存在しない多層塗膜のいずれかの欠陥を補修する補修方法であって、該多層塗膜の補修対象部分を研ぎ出す工程(I)と、着色顔料として前記メタリックベース塗膜および前記着色塗膜に含まれる同一または近似色の着色顔料を含有し、かつ、光輝材として干渉マイカ顔料を含有し金属製光輝材を含まない、補修用水性ベース塗料を塗装して補修メタリックベース塗膜を形成する工程(II)と、前記着色塗膜を形成した着色塗料と同じ水性着色塗料を塗装して補修着色塗膜を形成する工程(III)と、クリアー塗料を塗装して補修クリアー塗膜を形成する工程(IV)と、得られた補修塗膜を硬化させる工程(V)とを含有する多層塗膜の補修方法。
【請求項2】
補修用水性ベース塗料が干渉マイカ顔料以外の光輝材を含まない請求項1記載の多層塗膜の補修方法。
【請求項3】
上記工程(II)または工程(III)の後に、または両方の後に、必要に応じて、形成された塗膜を硬化させない程度に乾燥または硬化する工程を追加する請求項1記載の多層塗膜の補修方法。
【請求項4】
前記請求項1記載の方法により形成された補修塗膜を含有する被塗物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−23464(P2008−23464A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199624(P2006−199624)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】