説明

多層式プラスチック焼結体及びその製造方法

【課題】所望の濾過精度及び消音効果は得られるが、圧力損失がそれほど大とならずに、使用寿命を向上させたプラスチック焼結体を提供する。
【解決手段】プラスチック粉末を金型内で焼結させて得た焼結体であって、該焼結体は、それぞれの層は粒度の異なるプラスチック粉末から焼結形成させて多層に形成されている。このようにして、空隙の大きさの異なる複数の層を積層できるので、プラスチック焼結体の使用寿命を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空隙の大きさの異なる焼結体が多層に積層された多層式プラスチック焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック焼結体(プラスチック焼結多孔体)は、所定の粒度を有するプラスチック粉末をプラスチック粉末金型に充填し、加熱して隣接しあう粒子間が融着しあったところで冷却して得られる、連続的空隙(気孔)を有し、3次元的網目構造を織り成す多孔質体である。
【0003】
この連続的空隙は、気体や液体が移動する機能を発揮するので、このプラスチック焼結体は、フィルター及び消音体等として使用されている。しかしながら従来は、単式プラスチック焼結体しか知られておらず、現在市販のプラスチック焼結体は、全て単式プラスチック焼結体であった。
【0004】
この単式プラスチック焼結体は、これをフィルター及び消音体等として使用する場合、所望の濾過精度及び消音効果を得るためには、空隙(孔)の小さい焼結体を使用する必要があったので、圧力損失が大となる欠点があった。そのため、このプラスチック焼結体は、あまり普及していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、このような点に着目してなされたものであり、所望の濾過精度及び消音効果は得られるが、圧力損失がそれほど大とならずに、使用寿命を向上させたプラスチック焼結体を提供することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究の結果、プラスチック焼結体を空隙の大きさの異なる多層とすることを想到し、この多層式プラスチック焼結体が、従来行われていなかった多段階焼結法により容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、プラスチック粉末を成型金型内で焼結させて得た焼結体であって、該焼結体は、それぞれの層は粒度の異なるプラスチック粉末から焼結形成させて多層に形成されていることを特徴とする。
【0008】
この多層式プラスチック焼結体は、プラスチック粉末を成型金型内で焼結させたて得た焼結体を、前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末と一緒に再度成型金型に入れて焼結することによって製造することができる。
【0009】
円筒形多層焼結体を製造するには、前記第1の焼結体を円筒形に形成し、その外周若しくは内周に第2の焼結体の円筒形空間を形成する成型金型に前記第1の焼結体を内装し、該第2の焼結体の円筒形空間に前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末を充填して焼結するのが好ましい(請求項3)。
【0010】
板状多層焼結体を製造するには、前記第1の焼結体を板状に形成し、その上面に第2の焼結体の板状空間を形成する成型金型に前記第1の焼結体を内装し、該板状空間に前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末を充填して焼結するのが好ましい(請求項4)。
【0011】
また本発明の多層プラスチック焼結体は、粒度の異なるプラスチック粉末をシート状若しくは板状仕切材を介して成型金型内で積層し、積層後該仕切材を除去して焼結することによって製造することもできる(請求項5)。このようにすることによって、一度の焼結で本発明の多層プラスチック焼結体が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、空隙の大きさの異なる多層プラスチック焼結体であるので、目詰まりとなる物質をフィルター全体に保持させることができる。その結果、所定の濾過精度で、圧力損失を増大させないことができるから、濾過寿命が著しく向上する。また、消音材として使用する場合でも、所定の消音効果を維持しつつ、圧力損失を従来のものほど上げずに済むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明の多層プラスチック焼結体を製造する第1工程は、通常のプラスチック焼結体の製造方法と同様にして行うことができる。
【0015】
例えば、図1(A)に示すように、中央に丸棒状中子1が立設した下型2と、図1(B)に示すように、中央に円筒状キャビテイ3が形成された上型4とから、図1(D)に示すように、キャビテイ3中央に中子1が位置した成型金型を組み立てる。それから、中子1と上型4との間の円筒形キャビテイ3に、プラスチック粉末を充填し、上型4上端に蓋(図示省略)をして、プラスチック粉末の融点前後に加熱した加熱炉に入れ、常法により20〜30分間加熱して焼結する。この焼結成形により、各粒子の間に連結した微細な空隙が形成される。
【0016】
それから加熱炉から成型金型を取り出し、上型4を取り外すと、図1(E)に示すように、中子1に嵌合した円筒状プラスチック焼結体5が得られる。この焼結体が常温にまで冷却する前に、この焼結体5に図1(C)に示す、図1(B)のキャビテイ3よりも大きい円筒形キャビテイ3´を有する上型4´を被せて図1(F)の状態とする。ついで、プラスチック焼結体5と上型4´との間の断面リング状キャビテイ3´に、前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末を充填する。それから前記第1工程と同様に蓋をして、プラスチック粉末の融点前後に加熱した加熱炉中で20〜30分間焼結する。このようにして、空隙の大きさの異なる2層が一体化したプラスチック焼結体が得られる。
【0017】
上記の工程を繰り返すことにより、3層、4層・・・等の所望の多層プラスチック焼結体が容易に得られる。2層とするか3層以上の多層とするかは、使用目的に応じて選択すればよい。
【0018】
本発明に使用するプラスチック粉末の材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等この種プラスチック焼結体の材質であれば、いずれを使用することもできる。また、多層を形成するそれぞれの層の材質は、同一であっても異なっていても良いが、加熱温度との関係で、一般的には同一材料を使用するのが好ましい。
【0019】
焼結温度及び時間についても、従来と同様に行えば良いが、焼結温度については、使用するプラスチック粉末の融点前後の温度で行うのが好ましい。
【0020】
プラスチック粉末の材料の粒度は、積層する層の数及び焼結体の使用目的に応じて広範囲に変化させることができるが、好ましくは20〜200メッシュ(1平方インチ当たりのふるい目の数)とするのが良い。これらは中心から外側に向かって、層を形成するプラスチック粉末の粒度を順次増加させるか、逆に減少させるようにする。
【0021】
上記は、第1工程で製造した円筒体の外周に、第2工程で円筒体を積層する例を示したが、逆に第1工程で製造した円筒体の内周に順次第2工程、第3工程で円筒体を多層に積層することもできる。その場合は、上金型の大きさは変わらないが、中子の太さが相違する金型を、形成する層の数だけ使用すればよい。
【0022】
本発明の多層焼結体は、円筒形に限らず、板状の多層焼結体とすることもできる。この場合は、1種類の金型を使用し、金型底面から所定の厚さに焼結した焼結体の上面に、第2のプラスチック粉末を充填し、プラスチック粉末上面には板状の蓋をして、第2工程の焼結を行えばよい。
【0023】
図2は、本発明の多層プラスチック焼結体の他の製法を示すものであり、図2(B)に示す中央に丸棒状中子1´が立設した下型2´に、断面円板状キャビテイ6を断面円板状の2室に仕切る図2(A)に示す円筒状仕切板7を、円板状蓋体8の下端に備えた治具を装着する。
【0024】
円板状蓋体8の上面には、円筒状仕切板7が突出し、上面外周には、短円筒体9が立設し、円筒状仕切板7内と、円筒状仕切板7と短円筒体9との間には、粒度の異なるプラスチック粉末10,11が充填されている。
【0025】
プラスチック粉末10及び11が収用された底面の円板状蓋体8には、それぞれ貫通孔(図示省略)が穿設され、該貫通孔を通ってプラスチック粉末10及び11が、キャビテイ6内に充填される。
【0026】
それから治具を上方に引き抜くと、図2(C)に示すように、下型2´のキャビテイ6内にプラスチック粉末10及び11が充填される。これを図1の実施例と同様に蓋をして、プラスチック粉末の融点前後に加熱した加熱炉中で焼結する。このようにして、空隙の大きさの異なる断面リング状内層10´と断面リング状外層11´とが一体化したプラスチック焼結体12が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のプラスチック多層焼結体の製造法の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明のプラスチック多層焼結体の製造法の他の例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1,1´・・・・・・中子
2,2´・・・・・・下型
3・・・・・・キャビテイ
4・・・・・・上型
5,12・・・・・・プラスチック焼結体
10,11・・・・・・プラスチック粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック粉末を成型金型内で焼結させて得た焼結体であって、該焼結体は、それぞれの層が粒度の異なるプラスチック粉末から焼結形成させた多層に形成されていることを特徴とする多層式プラスチック焼結体。
【請求項2】
プラスチック粉末を成型金型内で焼結させて得た焼結体を、前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末と一緒に再度成型金型に入れて焼結することを特徴とする多層式プラスチック焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の焼結体を円筒形に形成し、その外周若しくは内周に第2の焼結体の円筒形空間を形成する成型金型に前記第1の焼結体を内装し、該第2の焼結体の円筒形空間に前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末を充填して焼結する請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1の焼結体を板状に形成し、その上面に第2の焼結体の板状空間を形成する成型金型に前記第1の焼結体を内装し、該板状空間に前記プラスチック粉末とは粒度の異なるプラスチック粉末を充填して焼結する請求項2記載の製造方法。
【請求項5】
粒度の異なるプラスチック粉末を仕切材を介して成型金型内で積層し、積層後該仕切材を除去して焼結することを特徴とする多層式プラスチック焼結体の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−221611(P2008−221611A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63215(P2007−63215)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(507081500)
【Fターム(参考)】