説明

多層押出成形装置

【課題】フィードブロック方式の多層押出成形装置として、樹脂同士の流動特性の差や層同士の厚み差が大きい共押出しに適用した場合でも、各層の幅方向の厚みが均一な多層フィルムが得られるものを提供する。
【解決手段】フィードブロック2Aは、単層Tダイの押出流路に直線的に連通する偏平な主流路21の複数箇所に、同幅の偏平な副流路22…が斜めに合流する合流部C1〜C3を有する。1段目の合流部C1は、主流路21に対して副流路22側から出退して流路断面積を厚み方向に拡縮する主流路チョークバー3と、副流路22に対して出退動作して流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバー4とを備え、両チョークバー3,4が幅方向に3以上に分割構成されている。2段目以降の合流部C2,C3は、副流路22に対して出退して流路断面積を厚み方向に拡縮する、幅方向に3以上に分割構成された副流路チョークバー5を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3以上の溶融樹脂流をフィードブロックで合流させ、その合流溶融樹脂を単層Tダイから押し出して3層以上の多層フィルムを製出するフィードブロック方式の多層押出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、多層押出成形装置では、例えば図8(a)(b)に示すように、単層Tダイ1の上流側に連結用プレート24を介してフィードブロック2が連結されており、各々溶融押出機(図示省略)から供給される複数(図では3つ)の溶融樹脂流P1〜P3を各々導入口2aよりフィードブロック2内に導入し、該フィードブロック2内で各々偏平な流路25を通して合流させ、その合流溶融樹脂Pnを単層Tダイ1の押出流路(マニホールド)10へ送り込み、該単層Tダイ1で幅方向に展開して押出口11から所要幅の多層フィルムFとして押し出す。なお、図示を省略しているが、フィードブロック2の流路25や単層Tダイ1の押出流路10に厚さ調整用のチョークバーを設けることも多い。しかして、このような多層押出成形装置においては、単層Tダイ1とフィードブロック2の組合せを変えることにより、多層フィルムFの樹脂種、層数、フィルム幅、各層の厚み比率等の変更に対応できるという利点がある。
【0003】
ところで、共押出による多層押出成形では、溶融樹脂流がTダイによって幅方向に展開する行程で、幅方向の位置によって移動距離、流路抵抗、流速分布、温度分布、圧力分布、樹脂粘度等に違いを生じて層厚に影響するため、製出する多層フィルムFの各層の厚みを均一にすることが普遍的な課題である。この点、マルチマニホールド方式の多層押出成形装置では、Tダイ自体に設けた複数のマニホールドを各々通過した溶融樹脂をチョークバーによって厚み調整した上で合流させるのが一般的であるが、合流から押出口までの距離が短く、且つ合流部から押出口への幅方向の展開が比較的に小さいため、その移動過程での幅方向の変動因子による層厚への影響が少なくなる。そして、幅方向の厚みの均一化についても、一般的に各流路に介在するチョークバーを撓ませて幅方向の間隙調整を行うことで対応できる。また、マルチマニホールド方式において、合流前の流路壁に形成した薄肉部をボルトを介して幅方向複数箇所で押し引きして変位させ、もって幅方向の厚み調整を行う方法も知られている(特許文献1,2)。
【0004】
しかるに、フィードブロック方式では、図示のようにフィードブロック2の合流部Cから単層Tダイ1の押出口11までの距離が長い上、フィードブロック2の流路出口2bから押出口11へ幅方向に通常10倍前後と大きく展開するため、合流部Cの手前でチョークバーを介して各流路の厚み調整を行っても、押出口11までの移動過程で種々の変動因子による影響を受けて層厚が変わり易く、特に各層の幅方向の厚みを均一にすることが非常に難しくなる。しかも、フィードブロック2の各流路25の幅が狭く、それだけ介在させるチョークバーも短くなるため、これを撓ませて幅方向の間隙調整を行うことは困難である。また、前記マルチマニホールド方式における流路壁の薄肉部を変位させる構成をフィードブロック方式に適用しても、やはり流路幅が狭いため、薄肉部の変位度合及び変位パターンが制約され、幅方向の間隙を大きく複雑に調整できない上、押し引きするボルトに負荷がかかって折損し易くなるという問題もある。
【0005】
そこで、フィードブロック方式について、フィードブロックの合流域の各流路に幅方向に重なる複数のチョークバーを設け、各チョークバーを独立に移動調整することにより、流路断面形状を単層Tダイから押し出される複層フィルムの幅方向の厚み分布が均一になるように調整する手段が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−217310号公報
【特許文献2】特開平10−235710号公報
【特許文献3】特許第2818354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の提案手段は、流動特性が近似した樹脂同士をほぼ同じ厚みで共押出しする際には有用であるが、樹脂同士の流動特性の差や層同士の厚み差が大きく、且つ積層数が多くなる場合には、各層の幅方向の厚みが均一な高品質の多層フィルムを製出することは極めて困難であった。例えば、近年において需要が増大しているリサイクルフィルムでは、再生ペレットを原料とする主層の片面又は両面をバージン樹脂層で覆った形態であるが、再生樹脂とバージン樹脂との特性差が大きいため、前記提案手段においてフィードブロック内の合流域における各流路の断面形状を前記複数のチョークバーで様々に調整しても、その調整結果が単層Tダイから押し出される各層の断面形状にうまく反映せず、幅方向の厚み分布を設定するための充分な指標が得られない。また、食品包装フィルム等として、包装品の種類に応じてガス遮断性、臭気遮断性、防湿性、熱封着性、表面滑性等の様々な機能層を含めると共に、親和性に乏しい樹脂層間に接着性層を介在させたりすることで、4〜7層といった多層形態になったものも一般化しているが、それだけ樹脂種による流動特性の開きも大きくなるから、共押出では各層の幅方向の厚みを均一にすることがより困難になる。
【0008】
本発明者らは、上述の事情に鑑みて、フィードブロック方式の押出成形において、樹脂同士の流動特性の差や層同士の厚み差が大きく且つ積層数の多い共押出しに適用した場合でも、各層の幅方向の厚みが均一な高品質の多層フィルムを製出することが可能な多層押出成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題解決手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明は、単層Tダイ1の上流側に連結されるフィードブロック2A〜2C内で3以上の溶融樹脂流P1〜P7を合流させ、その合流溶融樹脂Pnを単層Tダイ1から押し出して多層フィルムFを製出する多層押出成形装置において、フィードブロック2A〜2Cは、単層Tダイ1の押出流路10に直線的に連通する偏平な主流路21を有すると共に、この主流路21の流れ方向に離間した複数箇所に、該主流路21に対して同幅の偏平な副流路22…が斜めに合流する合流部C1〜C3が設けられ、上流側から1段目の合流部C1は、主流路21に対して副流路22側から出退動作して当該主流路21の流路断面積を厚み方向に拡縮する主流路チョークバー3と、副流路22に対して出退動作して当該副流路22の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバー4とを備え、これら主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4が共に同一の分割パターンで幅方向に3以上に分割構成される一方、
2段目以降の合流部C2,C3は、副流路22に対して出退動作して当該副流路22の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバー5を備えると共に、その副流路チョークバー5が幅方向に3以上に分割構成され、1段目の合流部C1の主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4と2段目以降の合流部C2,C3の副流路チョークバー5の各々分割構成された各チョーク分割片31,41,51を個別に出退動作させるチョーク操作手段6を有することを特徴としている。
【0010】
請求項2の発明は、上記請求項1の多層押出成形装置において、1段目の合流部C1は、主流路チョークバー3が副流路22に沿って出退動作するように主流路21に対して傾斜配置すると共に、この主流路チョークバー3の外側側面3bが該副流路22の幅方向に沿う片側流路壁を構成してなる。
【0011】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2の多層押出成形装置において、1段目の合流部C1は、主流路21に対して厚み方向両側から合流する一対の副流路22,22を有し、各副流路22毎に主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4が配置してなる構成としている。
【0012】
請求項4の発明は、上記請求項1〜4の何れかの多層押出成形装置において、主流路21は2段目以降の各合流部C2,C3の下流側で流路断面積が厚み方向に拡大するように構成されてなる。
【0013】
請求項5の発明は、上記請求項1〜5の何れかの多層押出成形装置において、チョーク操作手段6は、各チョーク分割片31,41,51に内端を固着して外端側がフィードブロック2A〜2Cの外側へ突出した摺動ロッド61と、該摺動ロッド61の外端側ねじ部61bに螺合し、フィードブロック2A〜2Cに回転可能で且つ軸方向移動不能に保持された中性ねじ筒62とで構成され、該調整ねじ筒62の捻回操作によって摺動ロッド61が軸方向移動するように構成されてなる。
【発明の効果】
【0014】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。請求項1の発明に係る多層押出成形装置では、まずフィードブロック2A〜2C内で設定された1段目の合流部C1において、単層Tダイ1の押出流路10に直線的に連通する偏平な主流路21の溶融樹脂流P1に対し、同幅の偏平な副流路22,21より供給される溶融樹脂流P2,P3が斜めに合流するが、該主流路21及び副流路22を各々厚み方向に拡縮する主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4を備え、これらチョークバー3,4が同一の分割パターンで幅方向に3以上に分割構成され、その各チョーク分割片31,41を個別に出退動作できるから、合流する溶融樹脂流P1〜P3の厚みを各チョーク分割片31,41に対応する幅方向の区間毎に増減調整できる。しかして、主流路チョークバー3は主流路21に対して副流路22側から出退動作し、前記幅方向の区間単位で、副流路チョークバー4によって調整される副流路22側の溶融樹脂流P2,P3の増減に対応して、主流路21側の溶融樹脂流P1を副流路22側から狭めることができ、その狭めることで空いた合流部C1の空間領域に副流路22側からの溶融樹脂流P2,P3がそのままスムーズに入り込めるから、主流路21側からの溶融樹脂流P1を押し退ける形にはならず、しかも主流路21側からの溶融樹脂流P1は合流部C1で狭められても変化せずに一貫して単層Tダイ1の押出流路10へ向かう直線的な流れを維持するから、この溶融樹脂流P1に対して副流路22側からの溶融樹脂流P2,P3が順流として干渉し合うことなく合流し、以降は溶融樹脂流P1〜P3が乱れなく重層した状態で2段目以降の合流部C2,C3へ向かう。
【0015】
2段目以降の各合流部C2,C3では、それぞれ副流路22より供給される溶融樹脂流P4〜P7が主流路21の溶融樹脂流に対して斜めに合流するが、主流路21の溶融樹脂流が乱れのないベース流を形成しているため、溶融樹脂流P4〜P7の各々は該ベース流の外側へ付加する形で干渉することなく重層すると共に、これら溶融樹脂流P4〜P7の各々も副流路チョークバー5の各チョーク分割片51によって幅方向の区間毎に厚みを増減調整できる。従って、この多層押出成形装置によれば、合流部C1〜C3において幅方向の区間単位で調整した各流路の断面形状がTダイ1より押し出された多層フィルムFの各層の幅方向の厚みに確実に反映するから、該流路断面形状と多層フィルムFの各層の幅方向の厚みプロフィールとの相関より、得られる多層フィルムFの各層の幅方向の厚みが均一になる流路断面形状を容易に且つ確実に見出すことができる。もって、この多層押出成形装置は、樹脂同士の流動特性の差や層同士の厚み差が大きく且つ積層数の多い共押出しに適用した場合でも、幅方向の各層の厚みが均一な高品位の多層フィルムを安定的に製造できる。
【0016】
請求項2の発明によれば、1段目の合流部C1において、主流路チョークバー3が主流路21に対して傾斜配置し、その外側側面3bが副流路22の幅方向に沿う片側流路壁を構成するから、常に主流路チョークバー3の先端前方が合流点となり、該チョークバー3にて主流路21が断面調整された位置に副流路22側からの溶融樹脂流P2,P3がそのまま合流するから、合流部C1における流れの相互干渉がより効果的に抑えられると共に、主流路チョークバー3による主流路21の溶融樹脂流P1への抵抗が傾斜配置によって小さくなる。また、一般的にフィードブロック2A〜2Cは複数の金型部材を組み合わせて構成するが、副流路22に臨んで金型分離面を設定することにより、簡素で且つ機能的な部材構成に容易に設定できる。
【0017】
請求項3の発明によれば、1段目の合流部C1において、主流路21に対して厚み方向両側から合流する一対の副流路22,22を有し、各副流路22毎に主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4が配置するから、4層以上の多層フィルムFとして各層の幅方向の厚みが均一なものを確実に且つ安定的に製造できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、主流路21は2段目以降の各合流部C2,C3の下流側で流路断面積が厚み方向に拡大するから、これら2段目以降の各合流部C2,C3で供給される溶融樹脂流P4〜P7の各々が主流路21の溶融樹脂のベース流に対してより円滑に重層する。
【0019】
請求項5の発明によれば、チョーク操作手段6の構成が簡素で且つ機能的であるから、主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4,5の各チョーク分割片31,41,51の出退調整を容易に確実に行えると共に、フィードブロック2A〜2Cが構造簡単になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る多層押出成形装置のフィードブロックを示し、(a)は背面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図2】同フィードブロックの縦断側面図である。
【図3】図2の仮想線円A内の拡大図である。
【図4】図2のX−X線における上半部の断面矢視図である。
【図5】図2のY−Y線における上半部の断面矢視図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る多層押出成形装置のフィードブロックの縦断側面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る多層押出成形装置のフィードブロックの縦断側面図である。
【図8】フィードブロック方式の多層押出成形装置を概略的に示し、(a)は横断平面図、(b)は(a)のZ−Z線の縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る多層押出成形装置の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、この多層押出成形装置は、既述した図8で示す一般的なフィードブロック方式の多層押出成形装置と同様に単層Tダイの上流側にフィードブロックが連結された基本構造を有するから、図8での図示と共通する構成要素については同一符号を附してその説明を省略する。
【0022】
第一実施形態の多層押出成形装置におけるフィードブロック2Aは、図1及び図2に示すように、7層構造の多層フィルムの製造に適用するものであり、左右側板26,26間に、合流部C1〜C3の各々を構成する3つの合流部ユニット20A〜20Cが一体的に組み込まれており、これら合流部ユニット20A〜20Cを水平方向に貫通する形で、単層Tダイ1の押出流路10(図8参照)に直線的に連通する水平方向に偏平な主流路21が形成されている。また、合流部C1〜C3では、それぞれ主流路21に対して厚み方向両側から同位置で斜めに合流する一対の副流路22,22を備えており、これら副流路22…は主流路21と同幅の偏平な形状を有している。そして、主流路21には溶融樹脂流P1が、6つの副流路22…には溶融樹脂流P2〜P7の各々が、それぞれ図示省略した溶融押出機を介してフィードブロック2Aの外面側の導入口2aより前段展開部2cを経て供給される。
【0023】
そして、主流路21の上流側から1段目の合流部C1では、該主流路21と両側の各副流路22との合流位置にそれぞれ、主流路21に対して副流路22側から出退動作して当該主流路1の流路断面積を厚み方向に拡縮する主流路チョークバー3と、副流路22に対して出退動作して当該副流路22の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバー4とが設けられている。その主流路チョークバー3は、副流路22に沿うように主流路21に対して傾斜配置しており、主流路21に臨む先端面3aが流路方向と平行になると共に、図3で拡大して示すように後側面3bが副流路22の幅方向に沿う片側流路壁を構成している。一方、副流路チョークバー4は、主流路21に対して垂直な出退方向に配置しており、副流路22に臨む先端面4aが流路方向と平行になっている。
【0024】
この1段目の合流部C1における主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4は、図4に示すように、互いに同一の分割パターンで流路幅方向に5つに等分割されており、その各チョーク分割片31,41がチョーク操作手段6によって個別に出退動作できるようになっている。しかして、両チョークバー3,4における隣接するチョーク分割片31,31同士、ならびにチョーク分割片41,41同士は、相互の側面がメタルタッチで直接に接触している。
【0025】
一方、主流路21の上流側から2段目及び3段目の合流部C2,C3では、各副流路22に対して出退動作して当該副流路22の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバー5が設けられている。そして、この副流路チョークバー5は、1段目の合流部C1における副流路チョークバー4と同様構成であり,図5に示すように、流路幅方向に5つに等分割され、その各チョーク分割片51がチョーク操作手段6によって個別に出退動作できると共に、隣接するチョーク分割片51,51同士が相互の側面でメタルタッチで直接に接触している。
【0026】
ここで、合流部C1〜C3におけるチョークバー3〜5の各チョーク分割片31,41,51を出退動作させるチョーク操作手段6は、図2,図4及び図5で示すように、ブロック本体部20を軸方向移動自在に貫通し、内端側ねじ部61aを各チョーク分割片31,41,51に螺着した摺動ロッド61と、該摺動ロッド61の外端側ねじ部61bに螺合し、外形が略六角柱状をなす調整ねじ筒62と、フィードブロック2Aの外側に左右方向(流路幅方向)に沿って配置した帯板状の出退規制板27及び押さえバー28とで構成されている。なお、出退規制板27と押さえバー28は、各チョーク分割片31,41,51に対応した配設孔27a…,28a…を備え、前者を内側にして重なった状態で左右左右側板26,26にねじ止めされている。
【0027】
そして、各摺動ロッド61は、中間に設けたフランジ部61cを出退規制板27の配設孔27a内に配置すると共に、該外端側ねじ部61bを含む先端側が押さえバー28の配設孔28aを通して外側へ突出している。また、各調整ねじ筒62は、基端側に摺動ロッド61のフランジ部61cよりも径大の円形フランジ部62aを備えており、該出退規制板27と押さえバー28との間に該円形フランジ部62aが挟まれて抜け止めされた状態で、摺動ロッド61の外端側ねじ部61bに螺合した六角柱状の先端側が押さえバー28の配設孔28aを回転自在に挿通して外方突出している。従って、調整ねじ筒62の捻回操作により、摺動ロッド61がフランジ部61cを出退規制板27の配設孔27a内にチョーク分割片31,41,51と一体に軸方向移動する。なお、この軸方向移動は、摺動ロッド61のフランジ部61cが出退規制板27の配設孔27a内での移動可能な範囲に制限される。
【0028】
一方、2段目及び3段目の合流部C2,C3を構成する合流部ユニット20B,20Cは略同様のサイズ及び形態であるが、図2に示すように、合流部C2,C3の各々の主流路21の下流側の流路断面積が上流側に対して厚み方向に拡大している。
【0029】
しかして、上記構成のフィードブロック2Aは、前端の導出口2bの周囲が凸部29を形成しており、図8(a)(b)の如く、該凸部29を連結用プレート24の後面の凹陥部24bに嵌合すると共に、該連結用プレート24の前面の凸部24aを単層Tダイ1の後端の凹陥部1aに嵌合し、単層Tダイ1に該連結用プレート24を介して連結一体化することにより、該導出口2bを単層Tダイ1の押出流路10に連通接続する。
【0030】
上記第一実施形態の多層押出成形装置では、まず主流路21に導入された溶融樹脂流P1に対し、両側の合流部C1の両側の副流路22、22から溶融樹脂流P2,P3が斜めに合流する。このとき、合流部C1の各副流路22を挟む形で幅方向に同じ分割パターンで分割構成された主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4が設けてあるから、その各チョーク分割片31,41を個別に出退動作することにより、主流路21側及び副流路22側からそれぞれ合流する溶融樹脂流P1〜P3の厚みを、各チョーク分割片31,41に対応する幅方向の区間毎に増減調整できる。
【0031】
すなわち、合流部C1の各副流路22においては、主流路チョークバー3が主流路21に対して副流路22側から出退動作するから、前記幅方向の区間単位で、副流路チョークバー4によって調整される副流路22側の溶融樹脂流P2又はP3の増減に対応して、主流路21側の溶融樹脂流P1を副流路22側から狭めることができ、その狭めることで空いた空間領域に副流路22側からの溶融樹脂流P2又はP3がそのままスムーズに入り込めるので、主流路21側からの溶融樹脂流P1を押し退ける形にはならない。しかも、主流路21が単層Tダイ1の押出流路10に直線的に連通しており、主流路21側からの溶融樹脂流P1は合流部C1で狭められても変化せずに一貫して単層Tダイ1の押出流路10へ向かう直線的な流れを維持するから、この溶融樹脂流P1の流れに対して両副流路22,22側からの溶融樹脂流P2,P3が順流として干渉し合うことなく合流し、以降は合流した溶融樹脂流P1〜P3が乱れなく重層した状態で主流路21を通って2段目の合流部C2へ向かう。
【0032】
2段目の合流部C2では、それぞれ両側の副流路22,22より供給される溶融樹脂流P4,P5が主流路21の溶融樹脂流に対して斜めに合流するが、1段目の合流部C1から流れて来る主流路21の溶融樹脂流が乱れのないベース流を形成しているため、溶融樹脂流P4,P5の各々は該ベース流の両外側へ付加する形で干渉することなく重層する上、両溶融樹脂流P4,P5の各々も副流路チョークバー5の各チョーク分割片51によって幅方向の区間毎に厚みを増減調整できるから、以降は合流した溶融樹脂流P1〜P5が乱れなく重層した状態で主流路21を通って3段目の合流部C3へ向かう。
【0033】
そして、3段目の合流部C3においても、それぞれ両側の副流路22,22より供給される溶融樹脂流P6,P7が主流路21の溶融樹脂流に対して斜めに合流するが、やはり2段目の合流部C2から流れて来る主流路21の溶融樹脂流が乱れのないベース流を形成し、溶融樹脂流P6,P7の各々が該ベース流の両外側へ干渉することなく付加重層し、且つ両溶融樹脂流P6,P7の各々も副流路チョークバー5の各チョーク分割片51によって幅方向の区間毎に厚みを増減調整できる。
【0034】
なお、2段目及び3段目の合流部C2,C3では,それぞれ当該合流部C2,C3を境として主流路21の下流側の流路断面積が上流側よりも厚み方向に拡大しているから、両側の副流路22,22からの溶融樹脂流P4,P5ならびに溶融樹脂流P6,P7が主流路21のベース流に合流する際、その圧力で該ベース流を押しやるような作用が生じにくく、もって合流部C2,C3での乱れが確実に押さえられ、より安定した重層状態が得られる。
【0035】
かくして、合流部C3を経て主流路21を流れる合流溶融樹脂Pnは、溶融樹脂流P1〜P7が乱れなく7層に重層した状態を保持して導出口2bへ向かい、単層Tダイ1の押出流路10へ送り込まれ、該単層Tダイ1で幅方向に展開されて押出口11より所要幅の7層の多層フィルムFとして押し出される。
【0036】
このように、上記の多層押出成形装置では、フィードブロック2Aの1段目の合流部C1で溶融樹脂流P1〜P3が乱れなく重層した安定なベース流を形成し、2段目及び3段目の合流部C2,C3では該ベース流の外側に溶融樹脂流P4,P5ならびに溶融樹脂流P6,P7を円滑に付加する形で重層させることができ、合流部C1〜C3の各々において幅方向の区間単位で調整した各流路の断面形状がTダイ1より押し出された多層フィルムFの各層の幅方向の厚みに確実に反映することから、該流路断面形状と多層フィルムFの各層の幅方向の厚みプロフィールとの相関より、得られる多層フィルムFの各層の幅方向の厚みが均一になる流路断面形状を容易に且つ確実に見出すことができる。従って、この多層押出成形装置は、樹脂同士の流動特性の差や層同士の厚み差が大きく、且つ例示した7層のように積層数の多い共押出しに適用しても、幅方向の各層の厚みが均一な高品位の多層フィルムを安定的に製造できる。
【0037】
図4の仮想線は、1段目の合流部C1における流路断面形状の調整例を示している。この場合、主流路チョークバー3の各チョーク分割片31の突出量を流路幅方向の中央側のものほど大きくし、もって主流路21の流路断面形状を流路幅方向の中空側ほど狭める一方、副流路チョークバー4の各チョーク分割片41の突出量を流路幅方向の中央側のものほど小さくし、もって副流路22の流路断面形状を流路幅方向の中空側ほど拡げる形にしている。なお、主流路21と副流路22の流路幅方向の各位置における拡縮の関係は、図4の仮想線による例示の如く概してチョーク分割片31,41の幅単位で一方側を狭めて他方側を拡げる形になるが、相互の流路断面の拡縮量は必ずしも一致しない。これは、主流路21に導入する溶融樹脂流P1と副流路から供給される溶融樹脂流P2(P3)との流動特性及び供給圧力の違いや、両流路21,22間での流路幅方向の流路抵抗及び温度分布の差等により、製出する多層フィルムFの各層の幅方向の厚みが影響を受けることによる。
【0038】
図5の仮想線は、2段目の合流部C2又は3段目の合流部C3における流路断面形状の調整例を示している。これら2段目以降の合流部C2,C3では、得られる多層フィルムFの該当層の幅方向の厚みを均一にする上で、概して図示のように 副流路チョークバー5の各チョーク分割片51の突出量を流路幅方向の中央側のものほど小さくし、もって副流路22の流路断面形状を流路幅方向の中空側ほど拡げる形にするのが普通である。
【0039】
上記第一実施形態ではフィードブロック2A内の3箇所の合流部C1〜C3を介して7つの溶融樹脂流P1〜P7を合流させて共押出する構成を例示したが、本発明の多層押出成形装置はフィードブロック内の複数箇所の合流部によって3つ以上の溶融樹脂流を合流させて共押出する場合に広く適用できる。例えば、図6に示す第二実施形態のフィードブロック2Bは、5層構造の多層フィルムの製造に適用するものであり、前記第1実施形態のフィードブロック2Aにおける1段目及び2段目の合流部C1,C2を構成する2つの合流部ユニット20A,20Bが組み付けられ、5つの溶融樹脂流P1〜P5を合流させるようになっている。また、図7に示す第三実施形態のフィードブロック2Cは、6層構造の多層フィルムの製造に適用するものであり、前記第1実施形態のフィードブロック2Aにおける1段目及び2段目の合流部C1,C2を構成する2つの合流部ユニット20A,20Bに、3段目の合流部C3’を構成する合流部ユニット20Dを組み付けた構造であるが、3段目の合流部C3’では主流路21に対して片側のみに副流路22を有しており、5つの溶融樹脂流P1〜P5を合流させるようになっている。その他、4層の共押出用として合流部ユニット20Aと20Dを組合せたり、8層以上の共押出用として第一実施形態の合流部ユニット20A〜20Cに更に合流部ユニット20Dや一対の副流路を有する合流部ユニットを組み合わせることもできる。また、合流部ユニット20Dのように主流路21に対して片側のみに副流路22を有する合流部を、3段以上の合流部における中間部に組み入れるようにしてもよい。
【0040】
なお、1段目の合流部C1については、主流路21に対して片側のみに複流路22を有する構成(ただし、主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4を備える)も採用可能であるが、重層した溶融樹脂流を安定したベース流として2段目以降の合流部へ送る上で、主流路21に対して両側に複流路22,22を有する構成が推奨される。
【0041】
主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4,5は、第一実施形態では5つに等分割しているが、その分割数及び分割パターンは種々変更可能である。ただし、分割数については、副層フィルムの幅方向中央部と両側部との厚みプロフィールを設定する上で3分割以上にする必要がある。また、1段目の合流部C1における主流路チョークバー3と副流路チョークバー4の分割は、幅方向の分割区間単位で合流部C1の流路断面形状と多層フィルムの厚みプロフィールとの相関を検出する必要から、同一パターンに設定する必要がある。
【0042】
なお、第一〜第三実施形態のように、1段目の合流部C1において、主流路21に対して傾斜配置した主流路チョークバー3の片側側面3bが副流路22の片側流路壁をなす構造では、この主流路チョークバー3の先端前方が合流点となり、該チョークバー3にて主流路21が断面調整された位置に副流路22側からの溶融樹脂流P2又はP3がそのまま合流し、合流部C1における流れの相互干渉がより効果的に抑えられると共に、主流路チョークバー3による主流路21の溶融樹脂流P1への抵抗が傾斜配置によって小さくなるという利点がある。また、一般的にフィードブロックは複数の金型部材を組み合わせて構成するが、実施形態の構造では、副流路22に臨んで金型分離面を設定することにより、簡素で且つ機能的な部材構成に容易に設定できるという利点もある。
【0043】
一方、チョーク操作手段6については、実施形態で例示した以外の種々の構造を採用できるが、実施形態のように各チョーク分割片31,41,51に内端を固着して外端側がフィードブロック2A〜2Cの外側へ突出した摺動ロッド61と、該摺動ロッド61の外端側ねじ部61bに螺合した調整ねじ筒62とで構成すれば、主流路チョークバー3及び副流路チョークバー4,5の各チョーク分割片31,41,51の出退調整を容易に確実に行えると共に、フィードブロックが構造簡単になる。
【0044】
また、チョーク操作手段6として、その操作を機械的に制御してμm単位の微量調整を可能にする構成としてもよい。例えば、実施形態で例示した調整ねじ筒62の回転をギヤ機構等を介して機械的に精密に駆動制御したり、チョーク分割片31,41,51に連結した押し軸に伝熱するヒーターを設け、該ヒーターの加熱による押し軸の熱膨張の度合でチョーク分割片31,41,51の進退量を微量調整することも可能である。
【0045】
その他、本発明の多層押出成形装置では、フィードブロックと単層Tダイとの連結構造、フィードブロックにおける各流路の導入口の配置、フィードブロック及び単層Tダイの細部構成等について、実施形態以外に種々設計変更可能である。
【0046】
本発明の多層押出成形装置は、単一のフィードブロックにより、各層の厚み比率及び樹脂材料が異なる多層フィルムついて、いずれも各層の幅方向の厚みが均一な高品位なものを安定的に押出成形できるから、同じフィードブロックと単層Tダイの組合せでも複数種の多層フィルム製品の製造に利用可能であるが、その組合せを変えることで更にフィルムの幅と総厚、層数、各層の厚み等が種々異なる多品種の多層フィルム製品の製造に対応できる。また、単一品種で量産が必要な多層フィルムについては、本発明の多層押出成形装置をパイロット装置として利用し、これによって判明したフィードブロックの合流部における最適な流路断面形状から、チョーク分割片31,41,51の隣接部の段差を均す形で非分割形態の主流路チョークバー及び副流路チョークバーを設計製作し、これら非分割形態のチョークバーを合流部に同様に組み込んだフィードブロックを用いて工業規模の量産を行うこともできる。
【符号の説明】
【0047】
1 単層Tダイ
10 押出流路
11 押出口
2A〜2C フィードブロック
21 主流路
22 副流路
3 主流路チョークバー
3b 外側側面
31 チョーク分割片
4,5 副流路チョークバー
41,51 チョーク分割片
6 チョーク操作手段
61 摺動ロッド
62 調整ねじ筒
C1 1段目の合流部
C2 2段目の合流部
C3,C3’ 3段目の合流部
F 多層フィルム
P1〜P7 溶融樹脂流
Pn 合流溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層Tダイの上流側に連結されるフィードブロック内で3以上の溶融樹脂流を合流させ、その合流溶融樹脂を単層Tダイから押し出して多層フィルムを製出する多層押出成形装置において、
前記フィードブロックは、単層Tダイの押出流路に直線的に連通する偏平な主流路を有すると共に、この主流路の流れ方向に離間した複数箇所に、該主流路に対して同幅の偏平な副流路が斜めに合流する合流部が設けられ、
上流側から1段目の合流部は、主流路に対して副流路側から出退動作して当該主流路の流路断面積を厚み方向に拡縮する主流路チョークバーと、副流路に対して出退動作して当該副流路の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバーとを備え、これら主流路チョークバー及び副流路チョークバーが共に同一の分割パターンで幅方向に3以上に分割構成される一方、
2段目以降の合流部は、副流路に対して出退動作して当該副流路の流路断面積を厚み方向に拡縮する副流路チョークバーを備えると共に、その副流路チョークバーが幅方向に3以上に分割構成され、
前記1段目の合流部の主流路チョークバー及び副流路チョークバーと2段目以降の合流部の副流路チョークバーの各々分割構成された各チョーク分割片を個別に出退動作させるチョーク操作手段を有することを特徴とする多層押出成形装置。
【請求項2】
前記1段目の合流部は、主流路チョークバーが副流路に沿って出退動作するように主流路に対して傾斜配置すると共に、この主流路チョークバーの外側側面が該副流路の幅方向に沿う片側流路壁を構成してなる請求項1に記載の多層押出成形装置。
【請求項3】
前記1段目の合流部は、主流路に対して厚み方向両側から合流する一対の副流路を有し、各副流路毎に前記主流路チョークバー及び副流路チョークバーが配置してなる請求項1又は2に記載の多層押出成形装置。
【請求項4】
前記主流路は、前記2段目以降の各合流部の下流側で流路断面積が厚み方向に拡大するように構成されてなる請求項1〜3のいずれかに記載の多層押出成形装置。
【請求項5】
前記チョーク操作手段は、前記各チョーク分割片に内端を固着して外端側がフィードブロックの外側へ突出した摺動ロッドと、該摺動ロッドの外端側ねじ部に螺合し、フィードブロックに回転可能で且つ軸方向移動不能に保持された調整ねじ筒とで構成され、該調整ねじ筒の捻回操作によって前記摺動ロッドが軸方向移動するように構成されてなる請求項1〜4の何れかに記載の多層押出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43444(P2013−43444A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185241(P2011−185241)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(502025439)株式会社サン・エヌ・ティ (5)
【Fターム(参考)】