説明

多層構造液晶光学素子および液晶レンズの製造方法

【課題】液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を向上することができ、かつ効率的に大量生産することができる多層構造液晶光学素子および液晶レンズの製造方法を提供する。
【解決手段】液晶レンズ100は、多層構造液晶光学素子100aと100bから構成されている。多層構造液晶光学素子100a,100bの製造方法において、リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅を有するリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、多層構造体に液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、多層構造体を2つの外側基板の間に配置してセルを形成するセル組立工程と、セルに液晶を充填し、磁場を印加し、液晶分子をセパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液晶層を有する多層構造液晶光学素子および液晶レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極を形成した基板の間に液晶を挟んで構成される、様々な液晶光学素子が知られている。例えば、情報記録媒体としてCD、DVD等の各種光ディスク装置があるが、これらの光ディスク装置は、回転することによる厚さずれや反り等によって、収差(集光スポットの歪)を生ずるため、この収差を補正して記録・再生の精度を確保する必要がある。そのため、同心円のリング状に電極を形成した基板で、液晶を挟み込んだ液晶収差補正素子が用いられ、これにより、光束の中央部と外縁部とで、異なる位相制御を行っている(特許文献1)。
【0003】
従来の液晶光学素子では、液晶の分子配列状態を電気的に制御し、それによって、光に対する屈折率などの性質を変化させている。二次元的あるいは三次元的に屈折率の分布を変化制御することによって、各光路における位相遅れ量や光路の屈折状態を制御できるので、電子的に焦点を可変できるレンズや液晶収差補正素子などの、光学素子として有益な機能素子である。しかし、実応用に有用な光の屈折効果を最大限に引き出すためには、液晶光学セルの対応する両配向膜の間に、光路に沿って十分な量の液晶を保持する必要があり、このために液晶層の厚さ(両配向膜の間)は、通常の液晶表示セルが数μm程度であるのに対して、30〜100μm程度と極めて厚くする必要がある。
【0004】
また、液晶の応答速度は、液晶層の厚さ(両配向膜の間)の2乗に逆比例することが知られており、このように厚い液晶光学セルの場合には、応答時間は数100ms〜数分になる。即ち、従来の多くの液晶光学素子は、応答速度が遅いという問題点があった。
【0005】
機器を制御する際に応答速度が遅いことは、液晶光学素子を利用する焦点可変レンズ機能や収差補正機能にとって大きな制約であり、実用化への課題であった。
【0006】
近年、液晶レンズパワーの増大、応答速度の改善ができる2層の液晶層を有する光学素子が提案された(特許文献2)。
【0007】
特許文献2に記載の光学素子は、2層の液晶層を有する2つの液晶セルを重ねて2重構造に構成したものである。各液晶セルにおいて、液晶層は透明ガラス層(絶縁層)により2層に分割されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−237077号公報
【特許文献2】特開2006−91826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の液晶光学素子は、上述したように、応用上必要な屈折率変化を得るためには、厚い液晶層を透過させて十分な光学的距離Lを確保する必要がある。
【0010】
一般的に、液晶層が厚くなると応答時間は液晶層の厚さ(両配向膜の間)の二乗に比例して遅くなることが知られている。そのため、液晶層の厚さを厚くすると応答速度が低下する問題点があり、実用化に課題があった。
【0011】
また、特許文献2は、液晶レンズパワーの増大、応答速度の改善が限定的であり、レンズパワーをより大きく、さらに応答速度を速くすることが困難である。例えば、多層の液晶層にする場合、透明ガラス層が厚いため、液晶素子が厚くなる。そのため、応答速度が低下し、高い印加電圧が必要となる。
【0012】
また、多層の液晶層にする場合、透明ガラス層を薄くする必要である。しかし、透明ガラス層を薄くすると、製造工程において、ハンドリング、洗浄、加工、焼成などが困難である。そのため、一枚の基板に複数の素子を形成することができず、大量生産が困難である。
【0013】
そこで、本発明は、薄いリボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と薄いリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合して多層構造体を形成し、かつ多層構造体に液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した後、電極が形成された基板の間に配置して複数のセルを構成し磁気配向処理を行うことによって、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を向上することができ、かつ効率的に大量生産することができる多層構造液晶光学素子および液晶レンズの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る多層構造液晶光学素子の製造方法は、リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間に配置してセルを形成するセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
例えば、前記多層構造液晶光学素子の製造方法において、前記スペーサ基板は、リール巻きのリボン状ガラスを繰り出しながら前記切り抜き部を加工し、所定長さに切断して形成される。
【0016】
上記課題を解決するため、本発明に係る多層構造液晶光学素子の製造方法は、リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、電極が形成されていない基板とコモン電極が形成された基板との間に配置しセルを組み立てるセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明に係る液晶レンズの製造方法は、リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間に配置してセルを形成するセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える多層構造液晶光学素子の製造方法で得られた第1の多層構造液晶光学素子と、リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、電極が形成されていない基板とコモン電極が形成された基板との間に配置しセルを組み立てるセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える多層構造液晶光学素子の製造方法で得られた第2の多層構造液晶光学素子とを用い、前記第1の多層構造液晶光学素子のセグメント電極が形成された基板と前記第2の多層構造液晶光学素子の電極が形成されていない基板とを接着して2重構造にすると共に、前記第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子の液晶の配向方向は互いに直交するように配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る多層構造液晶光学素子の製造方法によれば、薄いリボン状ガラスからなるスペーサ基板とセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合して多層構造体を形成し、かつ多層構造体に液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した後、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間、または電極が形成されていない基板とコモン電極が形成された基板との間に配置して複数のセルを構成し磁気配向処理を行うことで、加工が容易になり、効率的に大量生産することができる。
【0019】
本発明に係る液晶レンズの製造方法によれば、上記の複数の液晶層を有する第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子とを接着して2重構造とすることで、液晶の充填量および十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を向上することができ、かつ効率的に大量生産することができる。
【0020】
また、多層構造体を形成した後、液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成することで、加工が容易になると共に、加工精度および効率を向上することができる。
【0021】
また、セパレート基板の表面に配向膜を形成しないで、磁場配向法を用いて複数の液晶層の液晶分子をセパレート基板の表面に水平に配向させることで、安定した配向ができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施の形態の液晶レンズ100の構成を示す図である。
【図2】液晶レンズ100の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】スペーサ基板とセパレート基板の構成を示す図である。
【図4】多層構造体12の構成を示す図である。
【図5】液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体12を示す図である。
【図6】シート状ガラスに液晶充填孔と電極端子用スルーホールを加工した状態を示す図である。
【図7】多層構造液晶光学素子100a用セルの組立状態を示す側面図である。
【図8】多層構造液晶光学素子100b用セルの組立状態を示す側面図である。
【図9】多層構造液晶光学素子100aの液晶注入後の状態を示す図である。
【図10】多層構造液晶光学素子100bの液晶注入後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る多層構造液晶光学素子および液晶レンズの製造方法を実施するための最良の形態を、図を参照して説明する。
【0024】
図1は、実施の形態の液晶レンズ100の構成を示す図である。図1に示すように、液晶レンズ100は、第1の多層構造液晶光学素子100aと、第2の多層構造液晶光学素子100bとから構成されている。ここで、第1の多層構造液晶光学素子100aと、第2の多層構造液晶光学素子100bとを接着して2重構造にすると共に、第1の多層構造液晶光学素子100aと第2の多層構造液晶光学素子100bの液晶の配向方向は互いに直交するように配置される(図1中の矢印参照)。
【0025】
第1の多層構造液晶光学素子100aは、コモン電極20aが形成された基板10aと、セグメント電極としての第一の駆動電極21aおよび第二の駆動電極22aが形成された基板11aと、複数の薄いガラス基板からなる多層構造体12aと、液晶40aとから構成されている。多層構造体12aにより複数の液晶層が形成されている(後述する図9(b)に示す断面図参照)。
【0026】
第2の多層構造液晶光学素子100bは、コモン電極20bが形成された基板10bと、電極が形成されていない基板11bと、複数の薄いガラス基板からなる多層構造体12bと、液晶40bとから構成されている。多層構造体12bにより複数の液晶層が形成されている(後述する図10(b)に示す断面図参照)。この場合、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bは、第一の駆動電極21aおよび第二の駆動電極22aを共用する。
【0027】
多層構造体12a,12bは、それぞれ複数の薄いリボン状ガラスからなるスペーサ基板とセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合して構成される。また、多層構造体12a,12bの1つの角部に液晶を充填するための液晶充填孔13a,13bが形成され、該液晶充填孔13a,13bと対向する側の角部に液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14a,14bが形成されている。図1において、液晶充填孔13a,13bは、封止材33により封止されている状態を示している。
【0028】
ここで、コモン電極20a,20b、第一の駆動電極21aおよび第二の駆動電極22bと液晶40a,40bとの間に、一般的に設けられる配向膜、透明絶縁層や、基板10a,10b、11a,11b上に設けられる反射防止膜等は図示を省略している。
【0029】
基板10aの厚さ方向に穴が穿たれ、この穴にはコモン電極20aへ接続するためのアース端子Vが設けられている。また、基板11aに第一の駆動端子V、第二の駆動端子Vが設けられている。
【0030】
また、基板10aと11aの間に液晶を注入するための注入口32aが基板11aに形成され、また基板10bと11bの間に液晶を注入するための注入口32bが基板11bに形成されている。液晶を注入した後に封止材33により適宜封止される。また、注入口32a,32bは、多層構造体12a,12bの液晶充填孔13a,13bに対応する位置に設けられる。これにより、液晶の注入がスムーズになり、液晶が各層へ均等に流入することが可能となる。
【0031】
また、基板11aの中心部に円形の第二の駆動電極22aが配置され、その周辺に第一の駆動電極21aが配置されている。第二の駆動電極22aは、第二の駆動端子Vに接続されている。また、第一の駆動電極21aは、第一の駆動端子Vに接続されている。また、基板10a,10bの中央部に円形のコモン電極20a,20bが配置されている。コモン電極20a,20bは、アース端子Vに接続されている。また、第一の駆動電極21aおよび第二の駆動電極22aに異なる電圧を印加することでレンズとして機能することができる。
【0032】
また、基板10a,10b,11a,11bの内側の面には、配向膜が形成されている。そのため、基板10a,10b,11a,11bの内側の液晶は、一定の方向に配向される。
【0033】
液晶を充填する際に、液晶が液晶充填孔13a,13bから各層に流入し、各層の空気がセパレート基板の圧力バランス孔14a,14bを通して分散することにより各層間の圧力を均一に保つことができる。
【0034】
以下、図2〜図10を参照して、本発明の多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bおよびこれらを用いた液晶レンズ100の製造方法を説明する。
【0035】
図2に示すように、液晶レンズ100の製造する際に、まず、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bを作成する。そして、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bを組み合わせて液晶レンズ100を作成する。
【0036】
まず、A基板(スペーサ基板)用のリボン状ガラスを繰り出す(S11)。次に、リボン状ガラスを繰り出しながら切り抜き部を形成する(S12)。ここで、図3(a)に示すように、レーザー加工により繰り出したリボン状ガラスの長さ方向に所定間隔に液晶を充填するための切り抜き部51を形成する。切り抜き部51は、後述する液晶充填孔13および圧力バランス孔14に対応する部分を含む液晶を充填するためのものである。同時に、図3(b)に示すように、B基板(セパレート基板)用のリボン状ガラスを繰り出す(S13)。この例において、リボン状ガラスは、リール巻きの状態となっており、厚さ30μm、幅7mmである。
【0037】
次に、図4に示すように、複数枚(例えば、3枚)のA基板と複数枚(例えば、4枚)のB基板とを交互に重ね合わせて接合し、かつ所定の長さに切断して多層構造体12を形成する(S14)。次に、レーザー加工により多層構造体12に貫通孔を加工する(S15)。即ち、図5に示すように、液晶充填孔13と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14とを形成する。図5(a)は、多層構造体12の平面図であり、図5(b)は、多層構造体12のP−P断面図である。ここで、素子ごとに液晶充填孔13と圧力バランス孔14を1個ずつ形成する。A基板とB基板を積層した後に貫通孔を加工することで、生産効率および加工精度を向上することができる。
【0038】
また、C基板(レンズの外側基板)用のシート状ガラスを所定寸法に加工する(S21)。例えば、厚さ200μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、開孔加工を行う(S22)。図6に示すように、シート状ガラスに電極端子用スルーホール31と液晶を注入するための注入口32を加工する。ここで、素子ごとに電極端子用スルーホール31と注入口32を1個ずつ形成する。次に、シート状ガラスの内側(液晶を充填する側)の表面に電極を形成する(S23)。ここで、エッチング等によるパターンニング処理を行って素子ごとにコモン電極を形成する。なお、この工程において、電極端子用スルーホール31に端子を形成する加工も行い、基板にアース端子Vを設ける。次に、シート状ガラスの外側の表面に反射防止用AR膜を形成し、そしてシート状ガラスの内側の表面に配向膜を形成する(S24)。次に、基板を短冊状に切断する(S25)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S26)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材を印刷する。
【0039】
また、D−1基板(中間基板)用のシート状ガラスを所定寸法に加工する(S31)。例えば、厚さ200μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、シート状ガラスの外側の表面に電極を形成する(S32)。ここで、エッチング等によるパターンニング処理を行って素子ごとに第一の駆動電極21aと第二の駆動電極22aを形成する。次に、シート状ガラスの内側(液晶を充填する側)の表面に高抵抗膜を付け、さらに配向膜を形成する(S33)。次に、シート状ガラスを短冊状に切断する(S34)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S35)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材を印刷する。
【0040】
また、D−2基板(中間基板)用のシート状ガラスを所定寸法に加工する(S41)。例えば、厚さ200μmのシート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する。次に、シート状ガラスの内側(液晶を充填する側)の表面に高抵抗膜を付け、さらに配向膜を形成する(S42)。次に、シート状ガラスを短冊状に切断する(S43)。次に、ギャップ材を混入したシール材を印刷する(S44)。ここで、素子ごとにそれぞれ液晶を封入するためのシール材を印刷する。
【0041】
A基板とB基板から多層構造体12を形成し、さらにC基板、D−1基板、およびD−2基板を加工した後、セル組立工程において、多層構造液晶光学素子100a用セルを組み立てる(S51)。そして、多層構造液晶光学素子100b用セルを組み立てる(S52)。ここで、多層構造体12を、第一の駆動電極21a、第二の駆動電極22aが形成された基板(D−1基板)とコモン電極20aが形成された基板(C基板)との間に配置して多層構造液晶光学素子100a用セルを形成する。また、多層構造体12を、電極が形成されていない基板(D−2基板)とコモン電極20bが形成された基板(C基板)との間に配置して多層構造液晶光学素子100b用セルを形成する。図7は、多層構造液晶光学素子100a用セルの組立状態を示す側面図である。図8は、多層構造液晶光学素子100b用セルの組立状態を示す側面図である。図7、図8において、多層構造液晶光学素子100a,100bを模式的に表示している。
【0042】
次に、多層構造液晶光学素子100a用セルに液晶を注入して封止し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子をセパレート基板(B基板)の表面に対して水平に配向させる(S53)。図9は、多層構造液晶光学素子100a用セルに液晶を注入した状態を示している。図9(a)は、下から見た図であり、図9(b)は、M−M断面図である。また、多層構造液晶光学素子100b用セルに液晶を注入して封止し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子をセパレート基板(B基板)の表面に対して水平に配向させる(S53)。図10は、多層構造液晶光学素子100b用セルに液晶を注入した状態を示している。図10(a)は、上から見た図であり、図10(b)は、N−N断面図である。
【0043】
配向処理工程において、注入口32から液晶セル内に等方相状態の液晶を注入し、封止材33で封止して、配向処理を行う。ここで、液晶注入、配向処理を行う際に、まず、形成した液晶セルを加熱する。次に、等方相状態にある液晶材料を液晶セルに注入する。次に、N磁極とS磁極からなる磁場内に設置して、磁場を印加する。このとき、磁場強度は20kGとし、磁場方向を基板と平行するように設置する。そして、液晶セルを磁場中に保持しながら徐々に冷却する。これにより、液晶セル内の液晶が磁場方向に配向される。即ち、液晶はセパレート基板(B基板)に対して水平方向に配向され、かつ安定した配向ができる。
【0044】
上記の工程により多層構造液晶光学素子100a,100bが得られる。次に、第1の多層構造液晶光学素子としての多層構造液晶光学素子100aと第2の多層構造液晶光学素子としての多層構造液晶光学素子100bを用いて重ねて2重構造体を組み立てる(S55)。ここで、多層構造液晶光学素子100aの第一の駆動電極21a、第二の駆動電極22aが形成された基板と多層構造液晶光学素子100bの電極が形成されていない基板とを接着して2重構造にすると共に、多層構造液晶光学素子100aと多層構造液晶光学素子100bの液晶の配向方向は互いに直交するように配置される。これにより、複数の液晶レンズを含む短冊状の2重構造体が得られる。
【0045】
次に、得られた短冊状の2重構造体を切断する(S56)。この工程において、スライサー等を用いて短冊状の2重構造体を切断することで、複数の単個の液晶レンズが得られる(図1参照)。そして、検査工程を経て完了する。
【0046】
この例において、シート状ガラスを200×200mmの寸法に加工する場合を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
以上のような製造方法によれば、液晶レンズ100の組立時に予めリボン状ガラスを用いて多層構造体12を形成して、得られた多層構造体12を基板10aと11aの間、および基板10bと11bの間に配置する。そして、液晶セル内の複数の液晶層に対して磁場を印加し配向処理を行う。
【0048】
液晶レンズ100に所定の電圧を印加する際に、セパレート基板の表面に対して、水平方向に配向していた液晶は電界方向に力を受けて傾斜し、電界が強くなると電極面に対して垂直状態になる。これにより、光に対する屈折率を電気的に制御することができ、焦点可変レンズや収差補正素子として有益な機能素子となる。
【0049】
このように本実施の形態においては、多重構造液晶光学素子100a,100bの製造方法において、所定幅を有するリボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部51が形成されたスペーサ基板(A基板)と、同幅を有するリボン状ガラスからなるセパレート基板(B基板)とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体12を形成する多層構造体形成工程と、多層構造体12に液晶充填孔13と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔14とを形成する孔形成工程と、液晶充填孔13と圧力バランス孔14とを形成した多層構造体12を2つの外側基板の間に配置してセルを形成するセル組立工程と、セル組立工程で得られたセルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子をセパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える。
【0050】
液晶レンズ100は、多層構造液晶光学素子100aと、多層構造液晶光学素子100bとから構成されている。多層構造液晶光学素子100aの基板11aと、多層構造液晶光学素子100bの基板11bを光学接着剤により接着して2重構造としている。また、多層構造液晶光学素子100aの液晶の配向方向と多層構造液晶光学素子100bの液晶の配向方向が互いに直交するように配置されている。
【0051】
多重構造液晶光学素子100a,100bは、複数の薄いガラス基板、即ち、スペーサ基板とセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合してからなる多層構造体12a,12bを備える。多層構造体12a,12bには、複数層の液晶を充填する空間が形成されている。また、多層構造体12a,12bには、液晶充填孔13と、圧力バランス孔14とが設けられる。さらに、各セパレート基板の表面に配向膜を形成しないで、複数の液晶層に対して一定強度の磁場を印加し、液晶分子をセパレート基板の表面に対して水平に配向させる。
【0052】
これにより、十分な光学的距離Lを確保することができると共に、応答速度を大幅に向上することができ、かつ液晶の充填量を確保することができる。また、リボン状ガラスを用いて多層構造体を形成することで、積層加工が容易であり、大量生産できる。また、スペーサ基板とセパレート基板とを積層してから貫通孔加工を行うことで、生産効率および加工精度を向上することができる。
【0053】
また、複数のセパレート基板にそれぞれ液晶充填孔13と、圧力バランス孔14とが設けられることで、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つことができ、液晶注入による各層の透明基板の変形を防止することができ、均一な光学特性が得られる。
【0054】
また、セパレート基板の表面に配向膜を形成しないで、磁場配向法を用いて複数の液晶層の液晶分子をセパレート基板の表面に水平に配向させることで、液晶の充填量を確保し、かつ安定した配向ができる。
【0055】
なお、上述した実施の形態においては、液晶レンズ100の多層構造体12a,12bが3枚のスペーサ基板と4枚のセパレート基板から構成されるものについて説明したが、これに限定されるものではない。
【0056】
また、上述した実施の形態においては、スペーサ基板にレーザー加工を用いて切り抜き部を加工する例について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、エッジング法、サンドブラスト法を用いて切り抜き部を加工するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明は、携帯電話機、携帯情報端末機(PDA)、デジタル機器等における超小型カメラに内蔵される、オートフォーカス機能やマクロ−ミクロ切替機能をもつ液晶光学素子、または、光ディスク装置において、光ピックアップでの記録・再生時に生ずる収差を補正するために用いる液晶光学素子など、広く利用することが期待できる。
【符号の説明】
【0058】
10a,10b,11a,11b 基板
12,12a,12b 多層構造体
13,13a,13b 液晶充填孔
14,14a,14b 圧力バランス孔
20a,20b コモン電極
21a 第一の駆動電極(セグメント電極)
22a 第二の駆動電極(セグメント電極)
31 電極端子用スルーホール
32 注入口
33 封止材
40a,40b 液晶
50 シール材
51 切り抜き部
100 液晶レンズ
100a,100b 多層構造液晶光学素子
A スペーサ基板(A基板)
B セパレート基板(B基板)
アース端子
第一の駆動端子
第二の駆動端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、
前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、
前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間に配置してセルを形成するセル組立工程と、
前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備えることを特徴とする多層構造液晶光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記スペーサ基板は、リール巻きのリボン状ガラスを繰り出しながら前記切り抜き部を加工し、所定の長さに切断して形成されることを特徴とする請求項1に記載の多層構造液晶光学素子の製造方法。
【請求項3】
リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、
前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、
前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、電極が形成されていない基板とコモン電極が形成された基板との間に配置しセルを組み立てるセル組立工程と、
前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備えることを特徴とする多層構造液晶光学素子の製造方法。
【請求項4】
リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、セグメント電極が形成された基板とコモン電極が形成された基板との間に配置してセルを形成するセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える多層構造液晶光学素子の製造方法で得られた第1の多層構造液晶光学素子と、
リボン状ガラスの長さ方向に所定間隔で液晶を充填するための複数の切り抜き部が形成されたスペーサ基板と、同幅のリボン状ガラスからなるセパレート基板とを交互に重ね合わせて接合した多層構造体を形成する多層構造体形成工程と、前記多層構造体に液晶充填孔と、液晶を充填する際に各層間の圧力を均一に保つための圧力バランス孔とを形成する孔形成工程と、前記液晶充填孔と圧力バランス孔とを形成した多層構造体を、電極が形成されていない基板とコモン電極が形成された基板との間に配置しセルを組み立てるセル組立工程と、前記セルに液晶を充填し、一定強度の磁場を印加し、液晶分子を前記セパレート基板の表面に対して水平に配向させる配向処理工程とを備える多層構造液晶光学素子の製造方法で得られた第2の多層構造液晶光学素子とを用い、
前記第1の多層構造液晶光学素子のセグメント電極が形成された基板と前記第2の多層構造液晶光学素子の電極が形成されていない基板とを接着して2重構造にすると共に、前記第1の多層構造液晶光学素子と第2の多層構造液晶光学素子の液晶の配向方向は互いに直交するように配置されることを特徴とする液晶レンズの製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−175104(P2011−175104A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39281(P2010−39281)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(503376596)株式会社びにっと (13)
【Fターム(参考)】