説明

多層樹脂シート及び電子部品用容器

【課題】部分的に高延伸度にて延伸しても、各部分での表面抵抗値のバラツキが小さい電子部品用容器を得ることができる多層樹脂シートと、この多層樹脂シートを熱成形してなる電子部品用容器とを提供する。
【解決手段】導電性フィラーを含む熱可塑性樹脂よりなる導電層(A)と、導電性フィラーを含む熱可塑性よりなり、該導電層(A)を覆っている厚さ1〜20μmの表面層(B)との少なくとも2層を有し、体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、表面層(B)側の表面抵抗値が10〜1010Ωである多層樹脂シート。この多層樹脂シートを熱成形した電子部品用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層樹脂シート及び電子部品用容器に関する。詳しくは、本発明は、導電性を有する多層樹脂シートと、この多層樹脂シートを熱成形してなり、特にIC等の静電気破壊を受けやすい電子部品に好適な容器とに関する。
【背景技術】
【0002】
ICやICを用いた電子部品の包装、輸送用途にインジェクショントレイ、真空成形トレイ、マガジン、キャリアテープなどが利用されている。
【0003】
静電気によるIC等の電子部品の破壊を防止するための容器として、導電性フィラーを含む樹脂製の容器が知られている。
【0004】
例えば、熱可塑性樹脂よりなる基材層上に、導電性フィラーを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を設けた多層樹脂シートが特許第397216号、特許第3512132号、特許第3756049号、特開2002−67209、特開2004−87370に記載されている。
【0005】
導電性フィラーを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる基材層の表面に導電性フィラーを含まない熱可塑性樹脂層を形成した多層樹脂シートが特開2002−225168に記載されている。
【0006】
基材層及び表面層をそれぞれ導電性フィラー配合熱可塑性樹脂組成物にて構成した多層樹脂シートが特開2002−193323及びWO2003/106165に記載されている。
【特許文献1】特許第397216号
【特許文献2】特許第3512132号
【特許文献3】特許第3756049号
【特許文献4】特開2002−67209
【特許文献5】特開2004−87370
【特許文献6】特開2002−225168
【特許文献7】特開2002−193323
【特許文献8】WO2003/106165
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜5では、シート表裏間での導電性がないだけでなく、高延伸倍率部では表面層のみでも導電性がないため部分的に帯電防止性能が失われる。
【0008】
上記特許文献6では、表面層の導電性がないため多層シートの表面抵抗値が高すぎ、帯電防止性が不十分となる。
【0009】
上記特許文献7,8では、部分的に高延伸度にて延伸させる熱成形を行うと、この高延伸部分が他の低延伸部分または無延伸部分と表面抵抗値が著しく相違するようになる。なお、一般に、カーボンブラック含有樹脂シートは、延伸されると導電性が悪化する。これは、カーボンブラック特有の連鎖状分散状態が、延伸によって分断されるためであると考えられている。
【0010】
本発明は、部分的に高延伸度にて延伸しても、各部分での表面抵抗値のバラツキが小さい電子部品用容器を得ることができる多層樹脂シートと、この多層樹脂シートを熱成形してなる電子部品用容器とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の多層樹脂シートは、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる導電層(A)と、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなり、該導電層(A)を覆っている厚さ1〜20μmの表面層(B)との少なくとも2層を有する多層樹脂シートであって、該多層樹脂シートの体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、表面層(B)側の表面抵抗値が10〜1010Ωであるものである。
【0012】
請求項2の多層樹脂シートは、請求項1において、導電層(A)が、熱可塑性樹脂95〜50重量部と導電性フィラー5〜50重量部(合計で100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の多層樹脂シートは、請求項1又は2において、導電層(A)に含有される導電性フィラーが、DBP吸油量400cm/100g以下のカーボンブラックであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項4の多層樹脂シートは、請求項1ないし3のいずれか1項において、表面層(B)が、熱可塑性樹脂99.9〜90重量部と導電性フィラー0.1〜10重量部(合計で100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0015】
請求項5の多層樹脂シートは、請求項1ないし4のいずれか1項において、表面層(B)に含有される導電性フィラーが、微細炭素繊維またはDBP吸油量が350cm/100g以上のカーボンブラックであることを特徴とするものである。
【0016】
請求項6の多層樹脂シートは、請求項1ないし5のいずれか1項において、表面層(B)に含有される導電性フィラーが、平均直径が200nm以下の微細炭素繊維であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項7の多層樹脂シートは、請求項1ないし6のいずれか1項において、導電層(A)および表面層(B)の熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂又はポリスチレン系樹脂もしくはこれらから選ばれる少なくとも二種を含む樹脂混合物からなることを特徴とするものである。
【0018】
請求項8の多層樹脂シートは、請求項1ないし7のいずれか1項において、導電層(A)および表面層(B)の熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを、ポリエステル系樹脂100重量部に対してポリカーボネート系樹脂10〜50重量部の割合で含むことを特徴とするものである。
【0019】
請求項9の多層樹脂シートは、請求項1ないし8のいずれか1項において、導電層(A)及び表面層(B)の熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度の測定において明確な融点ピークを発現しないものであることを特徴とするものである。
【0020】
請求項10の多層樹脂シートは、請求項1ないし9のいずれか1項において、導電層(A)の体積抵抗率が表面層(B)の体積抵抗率よりも低いことを特徴とするものである。
【0021】
請求項11の電子部品用容器は、請求項1ないし10のいずれか1項の多層樹脂シートを熱成形した電子部品用容器であって、前記表面層(B)側が電子部品と接することを特徴とするものである。
【0022】
請求項12の電子部品用容器は、請求項11において、ハードディスクヘッド用トレイであることを特徴とするものである。
【0023】
請求項13の電子部品用容器は、請求項11又は12において、熱成形が、多層樹脂シートの一部を他の部分よりも高延伸度にて延伸させる成形法によるものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の多層樹脂シートは、それぞれ熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる導電層(A)と、該導電層(A)を覆う表面層(B)とを有し、体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、表面層(B)側の表面抵抗値が10〜1010Ωである。
ここで、体積抵抗率とは、多層樹脂シートを図1の形状に切り出したときの、切断面間の電気抵抗を示す。
【0025】
この多層樹脂シートの無延伸又は低延伸部分における表面抵抗値は、主として表面層によって定まる。従って、この多層樹脂シートを成形して得られる電子部品用容器のうち、無延伸又は低延伸部分の表面抵抗値は、表面層(B)の表面抵抗値である10〜1010Ωの範囲にほぼ納まる。
【0026】
この多層樹脂シートを部分的に高延伸すると、延伸に伴って表面層の肉厚が小さくなり、この高延伸部分の表面抵抗値は表面層だけでなく、その下側の導電層(A)の抵抗値にも影響されるようになる。
【0027】
一般に熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる表面層を延伸すると、恐らくは導電性フィラーの分散状態が変化することに起因して、表面層の導電性は低下する(抵抗値が増大する)現象が生じる。
【0028】
本発明でも、このような現象により、高延伸部分の表面層(B)それ自体の電気抵抗値は増大すると考えられる。しかしながら、高延伸されることにより表面層(B)の厚さが小さくなり、電気抵抗値の測定に際し、表面層(B)だけでなく、表面層(B)直下の導電層(A)にも電流が流れるようになり、この結果として高延伸部分での表面抵抗値が無延伸部分や低延伸部分の表面抵抗値と大差ないものとなる。
【0029】
即ち、本発明では、高延伸による表面層(B)の抵抗値増大が、その下層である導電層(A)によって補償され、高延伸部分でも表面抵抗値が概ね10〜1010Ωの範囲となる。
【0030】
このようなことから、本発明の多層樹脂シートを用いて製造した電子部品用容器は、その表面層(B)側の表面の全域において、表面抵抗値がほぼ均一で且つほぼ10〜1010Ωの範囲のものとなる。
【0031】
なお、多層樹脂シートの体積抵抗率が10Ω・cmよりも低いと、導電性フィラーの添加量を多くする必要があるため、成形時の真空成形性や成形品の機械的強度が悪化する。体積抵抗率が10Ω・cmよりも高いと、真空成形等により高延伸を受けた場合に導電性が低下しすぎるため、十分な帯電防止性能が得られない。
【0032】
多層樹脂シートの表面層(B)側の表面抵抗値が10Ωよりも低いと、導電性が高すぎるために急激な放電が発生し、電子部品が破壊される恐れがある。多層樹脂シートの表面層(B)側の表面抵抗値が1010Ωよりも高いと、真空成形等により高延伸を受けた場合に導電性が低下しすぎるため、十分な放電性能が得られない。
【0033】
表面層(B)の厚みが1μmよりも小さいと、導電層の影響により未延伸部の導電性が高くなるため、電子デバイスを破壊する恐れがある。表面層(B)の厚みが20μmよりも大きいと、延伸しても導電層(A)が表面層(B)の表面抵抗値に寄与せず、高延伸部での導電性が低くなり、帯電防止性能が十分でなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
[多層樹脂シートの層構成]
本発明の多層樹脂シートは、導電層(A)および表面層(B)を有している。表面層(B)は導電層(A)に直接積層されていることが好ましい。表面層(B)及び導電層(A)のみからなる場合、その具体的な構成は、表面層/導電層(この場合、表面層が電子部品と接する面を構成する。)、表面層/導電層/表面層のいずれでもよい。
【0035】
本発明の多層樹脂シートは、さらに、導電性フィラーを含まない、もしくは導電性フィラーの配合量が導電層(A)と異なる熱可塑性樹脂よりなる基材層を有していてもよい。この場合の層構成としては、表面層/導電層/基材層、表面層/導電層/基材層/導電層/表面層が例示される。
【0036】
また、本発明では、表面層(B)と導電層(A)の間に、抵抗値が両者の中間となる層を設けても良い。
【0037】
多層樹脂シートのシート全体の肉厚は0.1〜5mmが好ましい。肉厚が0.1mm未満では包装容器としての強度が乏しく、肉厚が5.0mm以上では二次成形時の偏肉が大きく成形が困難となる。
【0038】
[多層樹脂シートの体積抵抗率及び表面抵抗値]
多層樹脂シートの体積抵抗率は10〜10Ω・cm、好ましくは10〜10Ω・cmであり、表面層(B)側の表面抵抗値は10〜1010Ωであり、特にハードディスク用磁気ヘッド用トレイ等のように、高度な静電気特性が要求される場合には10〜10Ωが好ましい。この理由は上記効果の欄の通りである。
【0039】
[導電層]
本発明の多層樹脂シートの導電層(A)は、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる。
【0040】
熱可塑性樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリサルホン系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、およびこれらから選ばれる少なくとも二種を含む樹脂混合物を用いることができる。
【0041】
熱可塑性樹脂として好ましく用いられるものは、芳香族ポリエステル系樹脂である。芳香族ポリエステル系樹脂とはテレフタル酸またはそのジアルキルエステルト脂肪族グリコールとの重縮合によって得られるポリアルキレンテレフタレートまたはこれを主体とする共重合体であり、代表的なものとしてポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等があげられる。上述のテレフタル酸またはそのジアルキルエステルと共に他の二塩基酸、他塩基酸またはそのアルキルエステル、例えばテレフタル酸またはそのジアルキルエステルに対してフタル酸、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメシン酸、トリメリット酸、それらのアルキルエステルなどを混合して用いても良い。また、脂肪族グリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどがあげられるが、これらの脂肪族グリコール類と共に他のジオール類または多価アルコール類、例えば脂肪族グリコールに対してシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシリレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどを混合して用いてもよい。
【0042】
芳香族ポリエステル系樹脂としては、明確な融点を持たない、即ち、示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度の測定において明確な融点ピークを発現しないものが特に好ましい。明確な結晶融解ピークを有する芳香族ポリエステル系樹脂では、熱成形時の予熱過程において結晶化が促進されるためシートの靭性が低下したり、金型形状転写性が困難になる等の成形性悪化が問題となることがある。
【0043】
導電層(A)の熱可塑性樹脂としては、芳香族ポリエステル系樹脂100重量部に対してポリカーボネート系樹脂を10〜50重量部含む熱可塑性樹脂混合物も、成形性及び導電性の観点から好適である。
【0044】
導電性フィラーとしては炭素繊維、金属繊維、金属粒子、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック)、微細炭素繊維、イオン導電性ポリマー、帯電防止剤を使用することができるが、機械的強度や衝撃強度等の力学特性、真空成形、圧空成形、熱板成形等の2次成形性、表面平滑性等の良概観を得るためには、カーボンブラック、微細炭素繊維が好ましい。
【0045】
導電性フィラーとしては、DBP吸油量が400cm/100g以下、より好ましくは350cm/100g以下のカーボンブラックが特に好ましい。なお、DBP吸油量が400cm/100gよりも大きいと、真空成形時に受ける延伸により導電性が失われて十分な放電性能が得られないことがある。
【0046】
カーボンブラックの添加量は5〜30wt%が好ましい。5wt%以下では導電性が低いため帯電防止機能が不足する。30wt%以上では樹脂の流動性が悪化するためシート成形性や真空成形性が損なわれることがある。なお、導電層(A)の体積抵抗率は表面層(B)の体積抵抗率よりも低いことが好ましく、そのような体積抵抗率となるように導電性フィラーの配合量を決定するのが好ましい。
【0047】
樹脂組成物中には必要に応じて滑剤、可塑剤、加工助剤などの添加剤を添加してもよい。
【0048】
導電層の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.1mm〜5mmの範囲であり、さらに好ましくは0.3mm〜3mmの範囲である。0.1mm未満では十分な強度が得られないことがある。また、5mm超では真空成形が困難になることがある。
【0049】
[表面層]
本発明の多層樹脂シートの表面層は、熱可塑性樹脂と導電性フィラーを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる。
【0050】
熱可塑性樹脂としてナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、およびこれらから選ばれる少なくとも二種を含む樹脂混合物を用いることができる。
【0051】
これらの中でも好ましく用いられるものは、芳香族ポリエステル系樹脂である。用いることができる芳香族ポリエステル系樹脂の具体例としては、[導電層]の項で列記したものが、特に制限なく使用できる。
【0052】
また、芳香族ポリエステル系樹脂としては、明確な融点を持たない、即ち、示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度の測定において明確な融点ピークを発現しないものが特に好ましい。明確な結晶融解ピークを有する芳香族ポリエステル系樹脂では、熱成形時の予熱過程において結晶化が促進されるため金型形状転写性が困難になる等の成形性悪化が問題となることがある。
表面層(B)に用いる熱可塑性樹脂としても、芳香族ポリエステル系樹脂100重量部に対してポリカーボネート系樹脂を10〜50重量部含む熱可塑性樹脂混合物が、成形性・導電性の点で好適に用いられる。
【0053】
導電性フィラーとしては、炭素繊維、金属繊維、金属粒子、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック)、微細炭素繊維、イオン導電性ポリマー、帯電防止剤を使用することができるが、機械的強度や衝撃強度等の力学特性、真空成形、圧空成形、熱板成形等の2次成形性を得るためには、特にカーボンブラック、微細炭素繊維が好ましい。
【0054】
本発明に用いるカーボンブラックのDBP吸油量は、好ましくは350cm/100g以上であり、さらに好ましくは350〜700cm/100gのカーボンブラックである。DBP吸油量が350cm/100g未満のカーボンブラックでは所望の抵抗値を確保するためにカーボンブラックの添加量を多くする必要があり、真空成形性が悪化することがある。
また、本発明に用いる微細炭素繊維の平均直径は200nm以下、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。微細炭素繊維の平均直径が200nmより大きいと、マトリックス樹脂中での微細炭素繊維相互間の接触が不十分となり、導電性を発現させるために多量の添加が必要となったり、また安定な導電性が得にくくなったりすることがある。
【0055】
また、カーボンブラックおよび微細炭素繊維の添加量は、0.1〜10wt%特に0.5〜8wt%が好ましい。0.1wt%未満ではカーボン種によらず所望の導電性を確保すことが困難であり、10wt%超では表面抵抗値が低くなりすぎるだけでなく、電子部品との摩擦による磨耗粉が発生してしまうことがある。
【0056】
樹脂組成物中には必要に応じて滑剤、可塑剤、加工助剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0057】
表面層の厚みは1〜20μm好ましくは5〜15μmの範囲である。1μm未満では導電層の影響のために低電気抵抗となり静電破壊につながる恐れがある。20μm超ではシート表面の導電性が表面層のみで決まるため高延伸部での導電性確保が困難となる。
【0058】
[基材層]
基材層は熱可塑性樹脂からなる、あるいはそれを主成分とするものが好ましい。例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリスチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレート(PBT)の様な芳香族ポリエステル樹脂またはこれらの混合物が使用できる。好ましくは、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂である。これらの樹脂に1〜50重量%の範囲で上述のポリカーボネート(PC)系樹脂を添加することも可能である。ポリカーボネート系樹脂を添加することにより機械的強度の向上が可能となる。
【0059】
基材層を構成する熱可塑性樹脂に上記の導電性フィラーを配合してもよいが、多層樹脂シートの導電性は表面層及び導電層により確保されるので、特に必要がない限り配合するには及ばない。
【0060】
[製造方法]
本発明の多層樹脂シートを製造するには、まず、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとの配合物を2軸押出機、連続混練機などの各種混練機によって混練してペレット化する。次いで、次のa),b)又はc)の方法により多層樹脂シートを成形する。
a) 複数台の押出機を使用し、これらに導電層、表面層の樹脂を各々供給し、フィードブロック法やマルチマニホールド法などの多層共押出成形法にて多層樹脂シートを成形する。
b) 押出機を使用して成形した基材層へ導電層、表面層を順次コーティング又はラミネートして多層樹脂シートを成形する。
c) 押出機を使用して成形した導電層のシートへ表面層をコーティング又はラミネートする方法にて多層樹脂シートを成形する。
【0061】
[電子部品用容器]
電子部品用容器とは、電子部品を包装したり搬送したりするための容器であり、真空成形トレイ、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)等がある。
【0062】
この電子部品用容器は、上記の多層樹脂シートを真空成形、圧空成形、熱板成形等によって少なくとも部分的に延伸加工することにより製造することができる。電子部品としてはハードディスクヘッド、IC、LED、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
[抵抗値測定方法]
<体積抵抗率測定>
図1の如く、シートを切断して銀ペーストなどの導電性塗料を両端に塗布して電極とする。両端の電極間の電気抵抗値を測定し、後述の(1)式に基づいて体積抵抗率を求める。
【0064】
<表面抵抗値測定>
帯電防止部品中の電子部品と接触する部位については、例えば先端に導電ゴムを導電性接着剤等により取り付けられた2探針プローブにより測定する。
【0065】
被測定面と接触するプローブ先端の電極の直径は、1〜5mmφ程度とする。
【0066】
特にプローブに導電性ゴムを取り付ける事により、成形品表面の粗さやうねりに起因する接触面積の変動が少なくなるため、抵抗値を正確かつ安定して測定できる。
【0067】
同様の理由で、銀ペーストなどの導電性塗料を、成形品表面に1〜5mmφ程度の大きさで塗布してこれを電極として測定しても良い。
電極間距離は、1mm〜20mm程度とする。
【実施例】
【0068】
実施例1〜5
(1) 表1に示す原材料を用い、表2に示す配合組成比にて導電層および表面層の熱可塑性樹脂組成物の製造を行った。
なお、用いたポリエステル樹脂及びポリカーボネート樹脂はいずれも示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度の測定において明確な融点ピークを発現しないものである。
2軸押出機(池貝鉄工社製,PCM−45,L/D=32(L:スクリュー長さ,D:スクリュー直径))を使用して、バレル温度260℃、スクリュー回転数240rpmにて溶融混練、冷却、切断して熱可塑性樹脂組成物のペレットを製造した。なお、配合−混練は、予めポリエステル樹脂に微細炭素繊維を15重量%添加したマスターバッチを用い、これを他の成分に加えて所定の配合量として実施した。得られた熱可塑性樹脂組成物は、示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度での測定において明確な融点ピークを持たないことを確認した。
【0069】
(2) 上記の導電層および表面層のペレットを除湿乾燥機で120℃、3時間乾燥した。
【0070】
(3) 次いで、上記のペレットを用いて、表3の各層の厚みを有した表面層/導電層/表面層の3層構造となるように、各々独立した2台の押出機およびこれに連結したフィードブロックダイを用いて溶融3層共押出した後、冷却ロールで冷却し、厚さ800μm[導電層=790μm、表面層=5μm]の3層構成の多層樹脂シートを得た。図2はこの多層樹脂シート1の断面の模式図である。
【0071】
(4) 得られた導電性多層シートを真空成形機(Formech社製,Formech450)を用いて、ヒーターによってシートを加熱し、表面温度が140℃に達したところで真空成形を行った。図3に示すように横30mm、縦30mm、深さ20mm、4箇所のコーナーの曲率半径R=4mmの凹形状の容器を成形した。なお、この容器では、Cで示すコーナー部の延伸倍率が約13倍、Bで示す底面部の延伸倍率が約6倍、Aで示す縦壁部の延伸倍率が約2倍である。Dで示すフランジ部分は実質的に延伸されていない。各部位A〜Cの厚みを表3に示す。
【0072】
(5) 成形した容器の体積抵抗率及び表面抵抗値を下記の要領で測定した。結果を表4に示す。
【0073】
比較例1,2
表3に示す配合の導電層のみからなる多層樹脂シートを上記実施例に準じて製造し、同様にして抵抗特性及び各部の厚み測定を行った。結果を表4に示す。
【0074】
比較例3〜6
表3に示す配合により上記実施例と同様の3層構造で、表4に示す各層の厚みを有した多層樹脂シートを上記実施例に準じて製造し、同様にして抵抗特性及び各部の厚み測定を行った。結果を表4に示す。
【0075】
[体積抵抗率測定]
厚みt[mm]の多層シートを長さ50mm、幅10mmに切断し、図1のように両端に銀ペースト(ドータイトD−500藤倉化成製)塗布して電極とした。両端を電極間の電気抵抗値R[Ω]をハイレスタIP(ダイヤインスツルメンツ社製)にて測定し、(1)式にて体積抵抗率Rを求めた。
=R・10・t/50 …(1)
【0076】
なお、導電層用ペレットと表面層用のペレットからそれぞれ単独で厚さ800μmのシートを押出成形し、体積抵抗率を測定し、結果を表2,3に示した。
【0077】
[表面抵抗値測定]
抵抗測定装置として抵抗値が1×10Ω以上であればダイヤインスツルメンツ社製ハイレスタUPを使用し、また抵抗値が1×10Ω未満であれば日置電機(株)製ミリオームハイテスタ3540を使用した。
【0078】
ハイレスタUPのプローブとしてはUAプローブ(2探針プローブ、プローブ間距離10mm、プローブ直径2mm)を用いた。印加電圧は、抵抗値1×10以上、1×10未満であれば10V、抵抗値1×10以上であれば100Vとした。コンタクトピン先端に導電ゴム(体積抵抗率:5Ω・cm)を導電性接着剤で取り付けて、サンプル表面との接触を安定させた。
また、ミリオームハイテスタ3540のプローブとしては、クリップ型リード9287−10を用いた。このプローブの先端にも上記同様の導電ゴムを取り付けた。本発明における表面抵抗値(Ω)は、厚み等の形状因子を含まない値である。
なお、容器の表面抵抗値の測定においては、プローブ位置を図3に示すように、部位A及び部位Bは深さ及び幅方向の中央部、部位Cは片側のプローブがコーナー部中央、部位Dは絞り部の近傍とした。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
[考察]
表4の通り、実施例1〜5の容器は、いずれも体積抵抗率が10〜10Ω・cmの範囲にあり、また、A,B,Cのいずれの部位も表面抵抗値が10〜1010Ωの範囲内の1×10〜5×10Ωの間にあり、電子部品用容器として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】体積抵抗率測定用サンプルの平面図である。
【図2】多層樹脂シートの断面図である。
【図3】実施例で成形した容器の断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 多層樹脂シート
2 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなる導電層(A)と、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物よりなり、該導電層(A)を覆っている厚さ1〜20μmの表面層(B)との少なくとも2層を有する多層樹脂シートであって、
該多層樹脂シートの体積抵抗率が10〜10Ω・cmであり、表面層(B)側の表面抵抗値が10〜1010Ωである多層樹脂シート。
【請求項2】
請求項1において、導電層(A)が、熱可塑性樹脂95〜50重量部と導電性フィラー5〜50重量部(合計で100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項3】
請求項1又は2において、導電層(A)に含有される導電性フィラーが、DBP吸油量400cm/100g以下のカーボンブラックであることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、表面層(B)が、熱可塑性樹脂99.9〜90重量部と導電性フィラー0.1〜10重量部(合計で100重量部)を含む熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、表面層(B)に含有される導電性フィラーが、微細炭素繊維またはDBP吸油量が350cm/100g以上のカーボンブラックであることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、表面層(B)に含有される導電性フィラーが、平均直径が200nm以下の微細炭素繊維であることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、導電層(A)および表面層(B)の熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂又はポリスチレン系樹脂もしくはこれらから選ばれる少なくとも二種を含む樹脂混合物からなることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、導電層(A)および表面層(B)の熱可塑性樹脂が、ポリエステル系樹脂とポリカーボネート系樹脂とを、ポリエステル系樹脂100重量部に対してポリカーボネート系樹脂10〜50重量部の割合で含むことを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、導電層(A)及び表面層(B)の熱可塑性樹脂が、示差走査熱量計による10℃/minの昇温速度の測定において明確な融点ピークを発現しないものであることを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、導電層(A)の体積抵抗率が表面層(B)の体積抵抗率よりも低いことを特徴とする多層樹脂シート。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項の多層樹脂シートを熱成形した電子部品用容器であって、前記表面層(B)側が電子部品と接することを特徴とする電子部品用容器。
【請求項12】
請求項11において、ハードディスクヘッド用トレイであることを特徴とする電子部品用容器。
【請求項13】
請求項11又は12において、熱成形が、多層樹脂シートの一部を他の部分よりも高延伸度にて延伸させる成形法によるものであることを特徴とする電子部品用容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−184681(P2009−184681A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24021(P2008−24021)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(393032125)油化電子株式会社 (36)
【Fターム(参考)】