説明

多層配線基板の製造方法および多層配線基板

【課題】 グリーンシートの面積に対して面積割合の高い配線パターンを有している積層体を適用しても、配線層の端部のクラックの発生を防止できるとともに、寸法精度の高い多層配線基板とその製造方法を提供する。
【解決手段】 該ビアホール導体を有する、前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートのうち少なくとも一方に、Agを主成分とする第1の導体パターンを形成するとともに、焼成収縮終了温度が前記第1のグリーンシートと前記第2のグリーンシートとの間にあり、Agを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体パターンを前記第1の導体パターンに隣接させて形成する工程と、前記第1の導体パターンおよび前記第2の導体パターンが形成された前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートを積層し、同時焼成する工程と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックスからなる絶縁基板を有する多層配線基板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を迎え、情報通信技術が急速に発達し、それに伴い、半導体素子等の高速化、大型化が図られ、配線層においても、信号の伝送損失を低減する上で配線層の低抵抗化と絶縁基板の低誘電率化が求められている。そこで、1000℃以下での焼成によって緻密化でき、銅、銀または金等の低抵抗金属を主成分とする配線層との同時焼成が可能で、かつ誘電率の低いガラスセラミックスを絶縁層とする多層配線基板が提案されている。また、多層配線基板に実装される半導体素子は、ゲート数の増加に伴い、フリップチップ実装が主流となっており、接続端子の増加と挟ピッチ化が進められている。このため、これを実装する多層配線基板の半導体素子の搭載面には、半導体素子の表面に形成された接続端子のピッチに適合する寸法精度(主面に形成された接続端子の間隔の精度)が要求されており、この寸法精度を高めるために焼成時の平面方向の収縮を抑制する多層配線基板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。
【0003】
例えば、ガラス粉末とセラミック粉末との混合物に有機バインダ、可塑剤、溶剤等を加えてスラリーとし、ドクターブレード等により成形された第1のグリーンシートと、第1のグリーンシートと同様の方法で成形され、第1のグリーンシートの焼成収縮終了温度よりも高い温度で焼成収縮を開始する第2のグリーンシートとを用意し、それぞれのグリーンシートに貫通孔を形成してビアホール導体用の導体ペーストを充填するとともに、少なくとも一方のグリーンシートの一方主面に配線パターン用の導体ペーストを塗布する。次いで、ビアホール導体および配線パターンを形成した第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを交互に積層して積層体を作製し、この積層体を第2のグリーンシートが焼成収縮する温度まで加熱して焼成するという方法である。なお、ここでは、第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを総称してグリーンシートということもある。
【0004】
即ち、特許文献1、2に開示された多層配線基板の製造方法によれば、第1のグリーンシートが焼成収縮する際、焼成収縮を開始していない状態の第2のグリーンシートによって、第1のグリーンシートの平面方向の収縮が抑制される。一方、第2のグリーンシートが焼成収縮する際、第1の絶縁層(すでに焼成収縮を終了した状態の第1のグリーンシート)によって、第2のグリーンシートの平面方向の収縮が抑制される。なお、平面方向の収縮が抑制される分、積層方向の収縮は大きくなる。以上のようなメカニズムにより、多層配線基板(ガラスセラミックグリーンシートを積層した積層体の焼成後の状態)の面内(X−Y方向)の寸法精度(主面に形成された接続端子の間隔の精度)を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−261443号公報
【特許文献2】特開2008−117815公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記の製造方法を適用する積層体が、例えば、内部に接地用のグランド層のように、グリーンシートの面積に対して面積割合の高い配線パターンを有するような積層体である場合、グリーンシートの焼成収縮挙動と配線パターンの焼成収縮挙動との違いに
より、焼成後の絶縁層(グリーンシートの焼成体)と配線層(配線パターンの焼成体)との界面の応力が増加し、場合によっては、グランド層の端部にクラックが発生し、多層配線基板が絶縁不良になるという問題があった。
【0007】
従って本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、グリーンシートの面積に対して面積割合の高い配線パターンを有している積層体を適用しても、配線層の端部のクラックの発生を抑制できるとともに、寸法精度の高い多層配線基板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層配線基板の製造方法は、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有する第1のグリーンシートを準備する工程と、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有し、前記第1のグリーンシートの焼成収縮終了温度よりも焼成収縮開始温度の低い第2のグリーンシートを準備する工程と、前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートのうち少なくとも一方に、Agを主成分とする第1の導体パターンを形成するとともに、焼成収縮終了温度が前記第1のグリーンシートと前記第2のグリーンシートとの間にあり、Agを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体パターンを前記第1の導体パターンに隣接させて形成する工程と、前記第1の導体パターンおよび前記第2の導体パターンが形成された前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートを積層し、同時焼成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0009】
また、上記多層配線基板の製造方法では、前記第2の導体パターンを前記第1の導体パターンに重なるように形成することが望ましい。
【0010】
本発明の多層配線基板は、複数のガラスセラミック絶縁層を積層してなり、少なくとも最外層に位置する2層のガラスセラミック絶縁層が、他のガラスセラミック絶縁層と異なる異種材料絶縁層であり、前記ガラスセラミック絶縁層の層間に導体層が設けられている多層配線基板において、前記導体層が、Agからなる第1の導体層と該第1の導体の周囲に隣接して設けられたAgを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体層を含んで構成されていることを特徴とする。
【0011】
また、上記多層配線基板では、前記第2の導体層が前記第1の導体層に重ねられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、グリーンシートの面積に対して面積割合の高い配線パターンを有している積層体を適用しても、配線層の端部のクラックの発生を抑制できるとともに、寸法精度の高い多層配線基板を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)はグリーンシート上に形成した第1の導体パターンが矩形状である場合に、その四隅に第2の導体パターンを形成する場合、(b)は同形状の第1の導体パターンの周囲を囲むように第2の導体パターンを形成する場合の平面図である。
【図2】本実施形態の多層配線基板の製造方法により作製された多層配線基板の断面図である。
【図3】(a)は多層配線基板の評価試料を作製するための最表層における第1の導体パターンを示す模式図であり、(b)は、2層目〜4層目における第1の導体パターンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施形態の多層配線基板の製造方法の一例を示す工程図である。
【0015】
第1の工程では、まず、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有する第1のグリーンシートを準備するとともに、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有し、第1のグリーンシートの焼成収縮終了温度よりも焼成収縮開始温度の低い第2のグリーンシートを準備する。
【0016】
第1のグリーンシートに含まれるガラス粉末の具体的な組成の例としては、必須成分として、SiOを40〜50質量%、CaOを25〜30質量%、MgOを15〜20質量%、Alを3〜10質量%およびCuOを0.05〜0.3質量%含む組成が挙げられる。
【0017】
第1のグリーンシートに含まれるセラミック粉末の具体例としては、Al、SiO(クオーツ)、MgTiO、CaZrO、CaTiO、MgSiO、BaTi、ZrTiO、SrTiO、BaTiO、TiOから選ばれる1種以上が挙げられる。この場合、第1のグリーンシートでは、ガラス粉末50〜70質量%とセラミック粉末30〜50質量%とからなることが望ましい。
【0018】
この場合、第1のグリーンシートに含まれる無機成分の成形体を熱機械分析(TMA)から求められる焼成収縮開始温度は700〜800℃であり、焼成収縮終了温度は850〜950℃であることが望ましい。
【0019】
第2のグリーンシートに含まれるガラス粉末の具体的な組成の例としては、必須成分として、SiOを5〜15質量%、MgOを40〜50質量%、Alを10〜20質量%、CuOを0.1〜1.0質量%、Bを15〜20質量%、BaOを5.0〜10質量%、Pを1〜3質量%およびSnOを1.0〜2.5質量%含む組成が挙げられる。
【0020】
第2のグリーンシートに含まれるセラミック粉末は、第1のグリーンシートに含まれるセラミック粉末として挙げた上記のセラミック粉末から選ばれる少なくとも1種のセラミック粉末を用いるのが良い。この場合、第2のグリーンシートでは、ガラス粉末60〜80質量%とセラミック粉末20〜40質量%とからなることが望ましい。
【0021】
また、第2のグリーンシートに含まれる無機成分の成形体を熱機械分析(TMA)から求められる焼成収縮開始温度は650〜730℃であり、焼成収縮終了温度は700〜800℃であることが望ましい。
【0022】
第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとを上記組成とすることにより、第2のグリーンシートの焼成収縮開始温度を第1のグリーンシートの焼成収縮開始温度よりも低いものとすることができる。
【0023】
また、上記組成のガラス粉末とセラミック粉末との組み合わせによれば、1000℃以下での低温焼結が可能になるとともに、配線層として、Agを主成分とする低抵抗導体を用いることが可能となり、また、誘電率を幅広い範囲で制御することも可能であり、高速伝送化や、内蔵素子の機能向上に適している。しかも、上記の範囲で種々組成を制御することによって、焼成収縮挙動を容易に制御、変更することができる。
【0024】
第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートは、上記したガラス粉末とセラミック粉末との混合物に、有機バインダと有機溶剤および必要に応じて可塑剤とを混合し、スラリー化する。このスラリーを用いてドクターブレード法などによりテープ成形を行い、
所定寸法に切断して作製する。
【0025】
第2の工程では、第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシート(第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートを総称してグリーンシートということもある)のそれぞれに、金型、パンチングおよびレーザー加工等のいずれかの加工法によって貫通孔を形成する。
【0026】
第3の工程では、貫通孔3に導体ペーストを充填してビアホール導体を形成する。
【0027】
ビアホール導体用の導体ペーストは、平均粒径が1〜5μm程度のAgを主成分とする金属粉末に、必要に応じてセラミック粉末を添加した無機成分に対して、エチルセルロース、アクリル樹脂などの樹脂を加え、さらにジブチルフタレート、αテルピネオール、ブチルカルビトール、2・2・4−トリメチル−3・3−ペンタジオールモノイソブチレートなどの適当な溶剤を混合し、3本ローラ又はボールミル等により均質に混練して調製されたものを用いる。
【0028】
第4の工程では、ビアホール導体を覆うように、グリーンシートの表面に配線用の導体パターンを形成する。本実施形態の多層配線基板の製造方法において形成する導体パターンは、Agを主成分とする第1の導体パターンとAgを主成分とし、RuO(酸化ルテニウム)またはRhO(酸化ロジウム)を含む第2の導体パターンとからなる。この場合、第2の導体パターンの焼成収縮終了温度は第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間にある。また、これら第1の導体パターンおよび第2の導体パターンは隣接して形成される。
【0029】
第1の導体パターンを形成するための導体ペーストは、ビアホール導体を形成するための導体ペーストと同じく平均粒径が1〜5μm程度のAgを主成分とする金属粉末に、必要に応じてセラミック材料を添加した無機成分に対して、エチルセルロース、アクリル樹脂などの樹脂を加え、さらにジブチルフタレート、αテルピネオール、ブチルカルビトール、2・2・4−トリメチル−3・3−ペンタジオールモノイソブチレートなどの適当な溶剤を混合し、3本ローラ又はボールミル等により均質に混練して調製されたものを用いる。表面配線導体パターン用の導体ペーストは、焼成後の表面の導体層の導体抵抗を低くするという理由からビアホール導体用の導体ペーストよりもセラミック材料の添加量を少なくしたものを用いるのがよい。
【0030】
第2の導体パターンを形成するための導体ペーストは、無機成分として、Ag粉末とともにRuO粉末またはRhO粉末を含んでいる。この場合、第2の導体パターン7bは、Ag粉末を92〜99質量%とRuO粉末またはRhO粉末を1〜8質量%とからなることが望ましい。この場合、導体抵抗を低くできるとともに、絶縁層への接着強度を高められるという点でRuO粉末を用いることが望ましい。
【0031】
Ag主成分とする金属粉末により形成される導体パターンは、一般に、ガラス粉末とセラミック粉末とを含むグリーンシートより焼成収縮開始温度が低いものとなっており、このようにグリーンシートが焼結を終了する温度においても焼成収縮が続いているような焼成収縮挙動を示すものである。このため焼成収縮開始温度の異なるグリーンシートの表面にAgを主成分とする金属粉末により形成される導体パターン(例えば、第1の導体パターン9aのみ)を形成した場合には、グリーンシートの焼成収縮挙動と第1の導体パターンの焼成収縮挙動との違いからグリーンシートが焼成されて得られる絶縁層(第1の絶縁層)と第1の導体パターンが焼成されて得られるRuOまたはRhOを含まない配線層(第1の配線層)との間に応力が発生しやくなり、場合によっては、応力により第1の絶縁層にクラックが発生するようになる。このようなクラックの発生は、絶縁層の面積に
対する配線層の面積割合が大きい場合に顕著となる。
【0032】
そこで、本発明では、グリーンシートの表面に形成するAgを主成分とする導体パターン(ここでは第1の導体パターン)とともに、この第1の導体パターンに隣接させて第1の導体パターンの焼成収縮を拘束するための第2の導体パターンを形成する。
【0033】
第2の導体パターンはRuO粉末またはRhOを含んでいることから第1の導体パターンよりも焼成収縮開始温度を高めることができる。この場合、第2の導体パターンの組成を、Ag粉末92〜99質量%、RuO粉末またはRhO1〜8質量%とすることにより、第2の導体パターンの焼成収縮終了温度を第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間にすることが可能になる。これにより第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシートのうち少なくとも一方のグリーンシート上において第2の導体パターンに隣接して形成される第1の導体パターンを焼成時に面内方向(X−Y方向)に拘束でき、これにより第1の導体パターンの焼成収縮に起因する応力を低減できる。その結果、第1の導体パターンが焼成されて形成される配線層(第1の配線層)の端部に発生するクラックを防止できる。この場合、本発明は、絶縁層(グリーンシート)の面積に対する配線層(第1の導体パターン)の面積割合が1%以上である場合に好適なものとなる。
【0034】
また、本実施形態の多層配線基板の製造方法では、第1の導体パターンへの拘束力を高められるという理由から、焼成時に面内方向(X−Y方向)に拘束第2の導体パターン7bを第1の導体パターンに重なるように形成することが望ましい。
【0035】
図1の(a)はグリーンシート上に形成した第1の導体パターンが矩形状である場合に、その四隅に第2の導体パターンを形成する場合、(b)は同形状の第1の導体パターンの周囲を囲むように第2の導体パターンを形成する場合の平面図である。
【0036】
図1(a)に示すように、第1の導体パターンが長方形または正方形などの矩形状である場合、第1の導体パターンの四隅、周囲または端部のうちいずれかの位置に第2の導体パターンを形成することによりグリーンシートに対して面積割合の高い第1の導体パターンへの拘束力を高めることができる。この場合、第1の導体パターンへの拘束力が高いという点で、第1の導体パターンの周囲の全周にわたって第2の導体パターンを形成するのがよい。
【0037】
また、第1の導体パターンとしてシグナル線のような長尺状の導体パターンが多数配置された場合には、第2の導体パターンを第1の導体パターン両端に隣接するように形成すると、シグナル線のように長尺状の導体パターンが多数形成された場合にも第1の導体パターンを拘束することが可能になる。
【0038】
なお、本実施形態の多層配線基板の製造方法では、焼成後に得られる多層配線基板において、電源からの電力の供給、電気信号の伝播および静電容量の発生に寄与する導体層となるように、導体抵抗の低い第1の導体パターンの面積が第2の導体パターンよりも大きいことが望ましい。
【0039】
第6の工程では、第1、第2の導体パターン7a、7bが形成された第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2を交互に積層して積層体を形成した後、焼成を行って多層配線基板を作製する。
【0040】
このようにして、第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2のうちの少なくとも一方のグリーンシート1、2の表面にAgを主成分とする第1の導体パターン7aとAgを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体パターン7bとが隣接し
て配置されている積層体を形成することができる。
【0041】
なお、焼成にあたっては、有機バインダの揮散、消失工程で、積層に含まれている樹脂を消失させ、焼成工程にて、大気中で、用いたガラス粉末、セラミック粉末および導体材料が十分に焼結する温度で焼成して、相対密度が95%以上になるように緻密化することが望ましい。
【0042】
本実施形態の多層配線基板の製造方法は、ガラス粉末およびセラミック粉末の組成を変更することにより焼成収縮開始温度および焼成収縮終了温度の異なる第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2を積層して、第2のグリーンシート2の焼成収縮がほぼ終了した温度よりも高い温度から第1のグリーンシート1の焼成収縮が開始するようにして、第2のグリーンシート2が焼成時に収縮するときには第2のグリーンシート2が第1のグリーンシート1を拘束し、一方、第1のグリーンシート1が収縮し始めたときには、第2のグリーンシート2の焼成収縮がほぼ完了している。このため、第2のグリーンシート2が焼成されて形成された絶縁層により第1のグリーンシート1が拘束されることにより第1のグリーンシート1の焼成収縮が抑えられる。その結果、第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2が積層された積層体のX−Y方向(長さの測定)の焼成収縮率を2%以下にすることができるとともに、同じX−Y方向(長さの測定)の測定から求められる寸法精度を±0.2%以内にすることができるのである。
【0043】
ここで、積層体についての焼成収縮開始温度とは、第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2であるグリーンシートが0.1%体積収縮したときのことをいい、積層体についての焼成収縮終了温度とは、グリーンシートが最終焼成体積収縮量の95%以上焼成収縮が進行している状態をいう。
【0044】
また。本実施形態の多層配線基板の製造方法では、第1のグリーンシート1および第2のグリーンシート2のうち少なくとも一方に、Agを主成分とする第1の導体パターン7aを形成するとともに、焼成収縮終了温度が第1のグリーンシート7aと第2のグリーンシート7bとの間にあり、Agを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体パターン7bを第1の導体パターン7aに隣接させて形成することにより、グリーンシート1、2の表面に形成されている第1の導体パターンのX−Y方向の焼成収縮を抑制することができる。
【0045】
図2は、本発明の多層配線基板の製造方法により作製された多層配線基板の断面図である。多層配線基板11は、第1のグリーンシート1の焼成体である絶縁層13と第2のグリーンシート2の焼成体である絶縁層(異種材料絶縁層)15とが交互に積層された絶縁基板の内部に貫通孔16が形成されており、この貫通孔16を覆うように、絶縁層13および絶縁層(異種材料絶縁層)15の表面に、導体層7が、Agからなる第1の導体層16aと該第1の導体16aの周囲に隣接して設けられたAgを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体層16bを含んで構成されている。
【0046】
本実施形態の多層配線基板11によれば、絶縁層13および異種材料絶縁層15のうちの少なくとも一方の表面に、第1の導体層16aと第2の導体層16bとが隣接して形成されていることから、多層配線基板11がハンダ実装工程や高温高湿負荷試験などにおいて加熱されても第1の導体層16aの熱膨張による絶縁層13、15からの剥離を防止でき、ハンダ実装工程にも好適であるとともに、高温高湿負荷寿命に優れた多層配線基板を得ることができる。
【0047】
なお、本実施形態の多層配線基板では、第1の導体層16aの面積が第2の導体層16bよりも大きいことが望ましく、これにより多層配線基板の電源からの電力の供給、電気
信号の伝播および静電容量の発生に寄与することが可能になる。
【0048】
また、本実施形態の多層配線基板では、第2の導体層16bが第1の導体層16aに重ねられた構造または第1の導体層16aが第2の導体層16bに重ねられた構造のいずれかであることがよく、これにより第1の導体層16aの熱膨張による絶縁層13、15からの剥離をさらに防止できる。この場合、導体抵抗が低く、電源からの電力の供給、電気信号の伝播および静電容量の発生に寄与する第1の導体層16aの特性を高められるという点で、第1の導体層16aの上面側に第2の導体層16bが重ねられていることが望ましい。
【0049】
また、本実施形態の多層配線基板では、第1の導体層16aと第2の導体層16bとが隣接しており、第2の導体層16bに含まれているRuOまたはRhOが第1の導体層16aへ拡散している。このため第1の導体層16aと第2の導体層16bとの界面にRuOまたはRhOの濃度勾配が形成されていることから、第1の導体層16aと第2の導体層16bとの間の熱膨張係数の違いを緩和でき、これにより第1の導体層16aおよび第2の導体層16bの剥離をさらに防止できる。
【実施例】
【0050】
まず、絶縁層を形成するためのグリーンシートを作製した。第1のグリーンシートとして、SiOが48.5質量%、CaOが27.5質量%、MgOが18.0質量%、Alが5.0質量%およびCuOが0.1質量%を含むガラス粉末と、Al粉末を準備した。これらをガラス粉末を60質量%、Al粉末を40質量%と秤量し、有機バインダーを添加して、第1のグリーンシート用のガラスセラミック組成物を作製した。
【0051】
また、SiOを9.5質量%、MgOを44.5質量%、Alを17.0質量%、CuOを0.4質量%、Bを17.0質量%、BaOを8.4質量%、Pを1.8質量%およびSnOを2.1質量%含むガラス粉末と、Al粉末を準備した。これらをガラス粉末を70質量%、Al粉末を30質量%と秤量し、有機バインダーを添加して、第2のグリーンシート用のガラスセラミック組成物を作製した。
【0052】
次に、上記第1のグリーンシート用および第2のグリーンシート用のそれぞれのガラスセラミック組成物に、有機バインダーとしてアクリル樹脂、可塑剤としてジオクチルフタレート、溶媒としてトルエンを加えて調製したスラリーを用いて、ドクターブレード法により成形し、面積が200mm×200mm、厚みが84μmの第1のグリーンシートを
作製した。
【0053】
次に、得られたグリーンシートに、パンチングにより直径200μmの貫通孔を形成した。
【0054】
次に、ビアホール導体用の導体ペーストを調製した。ビアホール導体用の導体ペーストは、平均粒径5μmのAg粉末100質量%に対して、ガラス粉末を10質量%割合にな
るように添加した無機成分に、有機バインダーとしてエチルセルロース樹脂を、溶媒としてテルピネオールとジブチルフタレートの混合溶液(質量比で80:20)を添加し、混練して調製した。ガラス粉末としては、SiOを18.5質量%、Bを31.9質量%、BaOを23.4質量%、CaOを20.7質量%およびLiOを5.5質量%を含むガラス粉末を用いた。
【0055】
次に、調製したビアホール導体用の導体ペーストを第1、第2のグリーンシートに形成した貫通孔にスクリーン印刷法により充填した。
【0056】
次に、表面の導体層となる第1の導体パターン用の導体ペーストを調製した。この場合、平均粒径2.5μmのAg粉末を用意し、このAg粉末に対して有機バインダーとして
エチルセルロース樹脂を、溶媒としてテルピネオールとジブチルフタレートの混合溶液(重量比で80:20)を添加し混練して調製した。
【0057】
次に、第2の導体パターン用の導体ペーストを調製した。この場合、平均粒径2.5μmのAg粉末を用意し、このAg粉末96質量%に対して、RuO粉末またはRhO
粉末を4質量%混合した無機粉末に有機バインダーとしてエチルセルロース樹脂を、溶媒としてテルピネオールとジブチルフタレートの混合溶液(重量比で80:20)を添加し混練して調製した。
【0058】
図3は、(a)は多層配線基板の評価試料を作製するための最表層における第1の導体パターンを示す模式図であり、(b)は、2層目〜4層目における第1の導体パターンを示す模式図である。
【0059】
第1の導体パターンは、焼成後にサイズの小さい導体パターンAが0.1mm×0.1mm、サイズの大きい導体パターンBが1.0mm×1.0mmになるようにした。多層配線基板のは、焼成後に平面の面積が10mm×10mmになるようにした。このときサイズの大きい導体パターンを有するグリーンシートを3層目に配置した。
【0060】
また、1層目となる第1のグリーンシートの上面に周囲には、焼成後の多層配線基板の寸法を測定するためのパッドCを形成した。
【0061】
次に、図1(a)、(b)に示す配置になるように、調製した第2の導体パターン用の導体ペーストを、ビアホール導体が形成された第1のグリーンシートの上面にスクリーン印刷し、第1の導体パターンを形成した。
【0062】
次に、ビアホール導体および導体パターンを形成した第1、第2のグリーンシートを積層した。このとき第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間に接着剤を均一に塗布し、45℃、10MPaの条件で加圧積層を行い、積層体を作製した。
【0063】
続いて、積層体を10mm×10mmのサイズに切断し、これらの積層体の個片をAlの台板上に載せて有機バインダー等の有機成分を分解除去するために、大気中、400℃で加熱処理した後、910℃で1時間保持して焼成した。得られた多層配線基板を20個抽出し、多層配線基板の四隅に形成したパッドの間隔を測定して、生の積層体に対するX−Y方向の焼成収縮率を測定したところ、辺の長さとしての収縮率が平均値で1.0%であり、寸法ばらつきが辺の長さの測定において±0.1%以内に入っており、高寸法制度の多層配線基板が得られた。
【0064】
次に、得られた多層配線基板を切断し、断観研磨して、導体層の端部におけるクラックの有無を実体顕微鏡を用いて倍率50〜100倍にて観察した。また、最高温度を250℃としたハンダリフロー炉を通過させた後に3層目のパターンBで作製した第1の導体層における剥離の有無を同様の方法で調べた。
【0065】
また、第1のグリーンシートおよび第2のグリーンシート、ならびに第1の導体パターン用の導体ペーストおよび第2の導体パターン用の導体ペーストを熱処理して有機成分を除去した粉末を用いて、加圧成型により直径10mm、高さ8mmの円柱状の圧粉体を形成した。成型条件は1×10kgf/cmとした。次に、この圧粉体に対して室温〜1000℃の温度範囲で熱機械分析(TMA)によりそれぞれの収縮開始温度および収縮
終了温度を測定した。このとき、昇温速度を10℃/minとした。第1のグリーンシートの焼成収縮開始温度は750℃、焼成収縮終了温度は900℃、第2のグリーンシートの焼成収縮開始温度は700℃、焼成収縮終了温度は750℃、第2の導体パターンの収縮開始温度は表1に示した。なお、第1の導体パターンは、焼成収縮開始温度が640℃、収縮終了温度は920℃であった。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果から明らかなように、本発明の試料No.2〜11では、作製した多層配線基板の破断面の観察から、第1の導体層の端部にクラックの発生した試料の割合は30個中1個以下であり、また、耐熱衝撃試験後においても30個中3個以下であった。また、作製した多層配線基板では、焼成後の試料において第1の導体層の剥離が見られなかった。
【0068】
これに対して、第1の導体層に隣接して第2の導体層を形成しなかった試料No.1では、作製した多層配線基板の破断面の観察から、第1の導体層の端部にクラックの発生した試料の割合が30個中5個であり、また、耐熱衝撃試験後においても30個中10個であった。
【符号の説明】
【0069】
1 第1のグリーンシート
2 第2のグリーンシート
3 貫通孔
5 ビアホール導体
7a 第1の導体パターン
7b 第2の導体パターン
11 多層配線基板
13 絶縁層
15 異種材料絶縁層
16 貫通孔
17 ビアホール導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末およびセラミック粉末を含有する第1のグリーンシートを準備する工程と、ガラス粉末およびセラミック粉末を含有し、前記第1のグリーンシートの焼成収縮終了温度よりも焼成収縮開始温度の低い第2のグリーンシートを準備する工程と、
前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートのうち少なくとも一方に、Agを主成分とする第1の導体パターンを形成するとともに、焼成収縮終了温度が前記第1のグリーンシートと前記第2のグリーンシートとの間にあり、Agを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体パターンを前記第1の導体パターンに隣接させて形成する工程と、
前記第1の導体パターンおよび前記第2の導体パターンが形成された前記第1のグリーンシートおよび前記第2のグリーンシートを積層し、同時焼成する工程と、を具備することを特徴とする多層配線基板の製造方法。
【請求項2】
前記第2の導体パターンを前記第1の導体パターンに重なるように形成することを特徴とする請求項1記載の多層配線基板の製造方法。
【請求項3】
複数のガラスセラミック絶縁層を積層してなり、少なくとも最外層に位置する2層のガラスセラミック絶縁層が、他のガラスセラミック絶縁層と異なる異種材料絶縁層であり、前記ガラスセラミック絶縁層の層間に導体層が設けられている多層配線基板において、前記導体層が、Agからなる第1の導体層と該第1の導体の周囲に隣接して設けられたAgを主成分とし、RuOまたはRhOを含む第2の導体層を含んで構成されていることを特徴とする多層配線基板。
【請求項4】
前記第2の導体層が前記第1の導体層に重ねられていることを特徴とする請求項3に記載の多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−233686(P2011−233686A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102124(P2010−102124)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】