説明

多成分テルライトガラス組成物、光増幅器及びレーザ機器

第一のランタノイド、好ましくは、Tm(ツリウム)をドーパントとして、別の酸化ランタノイド、例えば、Ho(ホルミウム)を共添加物として添加したテルライトガラス組成物を提供する。このガラスは、4乃至12モル%のアルカリハロゲン化物XYを含み、このXは、Li(リチウム),Na(ナトリウム),K(カリウム),Rb(ルビジウム),Cs(セシウム),Fr(フランシウム)の元素グループから選択され、このYは、F(フッ素),Cl(塩素)、Br(臭素),I(ヨウ素)の元素グループから選択される。このガラスが、10モル%のアルカリハロゲン化物であるCsCl(塩化セシウム)を含有していることが好ましい。アルカリハロゲン化物XYを添加することで、第一のランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー遷移を強化することができ、その結果として、第一のランタノイドイオンのエネルギー下準位に反転分布が形成される。第一のランタノイドイオンのエネルギー上準位寿命と下準位寿命との間の比率を1以下の値に下げる。結果として、効率的な増幅ファイバが実現できることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバに関し、特に、光信号を増幅するための光ファイバとして使用可能なテルライトガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の通信ネットワークでは、信号伝達のために光ファイバが一般的に使用されている。光信号は1つまたは複数の光キャリアと長い通信路により長距離伝送がなされるが、その際に、光電力は分岐されるので、弱まった信号を増幅したり、再生したりする処理が必要となる。光増幅は、光信号から電気信号への変換という問題の多いプロセスを使用せずに、光を直接的に増幅できるので、光信号伝送には最適の方法である。
【0003】
光増幅器は、その典型例では、希土類元素または蛍光を発する物質をドープ(添加)した比較的短い増幅ファイバで構成されている。入力信号として、同じ波長を有する光が励起レーザにより増幅器のファイバに入射され、その際に吸収されたフォトンが希土類原子を一時的な励起状態に引き上げることなる。電子が崩壊するにつれて、フォトンが放出され、それが入力信号に加えられ、利得が高まることになる。
【0004】
帯域が従来のC帯の場合には、EDFA [エルビウム添加ファイバ増幅器(Erbium doped fiber amplifier)]を使用することが知られており、この研究もすでに十分になされている。WDM [波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing)] 光通信システムにおおけるバンド幅拡大への要求が強まり、そのことがC帯以外への伝送バンドの拡大の動きへと進展している。C帯以下の帯域では、いわゆる、S帯(1460乃至1520nm)があり、この場合には、TDFA [ツリウム添加ファイバ増幅器(Thulium Doped Fiber Amplifier)](発光バンドは波長1470nm)が適している。TDFAは、サポートする波長帯域が優れており、希土類元素の特質に由来する高いパワー変換効率も提供する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、TDFAは、将来において、伝送能力を大きく高めることのできる可能性を秘めている。ケイ酸塩、フッ化物を中心にいくつかのガラスが研究されており、特に最近、ツリウムイオン(Tm3+)をドープしたテルライトガラスが注目されている。しかし、このTm3+をドープした効率的な光増幅器ファイバを製作するためには、克服せねばならない問題がいくつかある。ツリウムをドープしたガラス系には4つのエネルギー準位があり、その中に、準位と準位が含まれる。これらのガラスには、下位の準位(下準位の寿命が上位の準位(上準位)の寿命より長いという限界があり、そのために、ツリウムファイバは、増幅器としては動作しない。従って、ツリウムをドーパント(添加物)として添加して機能性の高い光増幅器ファイバを作成するには、下準位に分布する粒子数を減らす(つまり、反転分布状態を作りだす)必要がある。ケイ酸塩ガラスとフッ化物ガラスにおけるエネルギー準位の反転分布の実現方法としては3方法があり、アップコンバージョン励起法、1.8μm帯レーザ発振法、ホルミウムイオン(Ho3+)共添加(co-doping)法である。波長1470nmでの遷移はシリカガラスには使用できない。その理由は、準位が、主に無放射メカニズムにより下準位に落ちてしまうからである。フッ化物ガラスには、これらの3つの方法がうまく適用できるが、このフッ化物ガラスは、化学的な耐久性が乏しいので、低損失光ファイバを作成するには大きな難点がある。
【0006】
従って、フッ化物ガラスの光学的特質とケイ酸塩ガラスの物理的特質を組み合わせたガラス系が非常に望ましく、この要求を満足させるものがテルライト(Te)ガラスである。テルライトガラスは、他のガラスに比べて広いツリウム発光スペクトルを示すことが分かっている。その結果、テルライトガラス光ファイバは、WDM通信用の波長光チャネル数を増加することが可能な広帯域光増幅器として使用できる。同時に、希土類元素の溶解度は比較的高いので、単位長さ当たりの利得が極めて高いものとなる。ドーピングレベルが高いので、テルライトガラスを含む増幅器ファイバでは、センチメータオーダの長さ足りる。
【0007】
効率的なテルライトTDFAを得るための鍵となる課題は、光増幅のための良好な反転分布を実現するために、信号遷移バンド( )での短い準位寿命を克服できるかどうかである。従来技術として、ツリウムをドープしたテルライトガラス組成物のものがいくつか提案されている。例えば、参考文献 [1]には、Tm3+イオンをドープしたTeO―ZnO−NaO (二酸化テルルー酸化亜鉛―酸化ナトリウム)系のテルライトガラスが開示されている。これらのガラスは、主に、Er3+(エルビウムイオン)をドープしたテルライトガラスと組み合わせて使用した場合に大きな長所が認められる。しかし、この著者は、下準位(この準位の寿命は常に準位の寿命よりも大きい)での粒子数を減少させる(つまり、反転分布を形成させる)作業をあえて試みていない。参考文献 [2]でも、TeO―ZnO−NaO系のガラスについて開示している。それによれば、Ho3+(ホロミウム)イオンまたはTb3+(テルビウム)イオンの共添加(コドーピング)を行っているが、下準位に反転分布を形成させることには失敗している。このガラスの場合、上準位の寿命が常に下準位の寿命よりも小さい。
【0008】
従って、光ファイバ増幅器ファイバのための希土類元素をドープしたテルライトガラスに伴う問題点は依然として残る。発明者の知る限りでは、満足のいく遷移寿命を有するテルライトガラスは、まだ従来技術には開示されていない。従って、ガラス組成物の改良が必要である。
【0009】
本発明の一般的な目的は、光ファイバ増幅器での使用に適した改良ガラス組成物を提供することである。特に、テルライト増幅器ガラスにおけるドーパント(添加物)と共添加物(共添加物)との間のエネルギー移動の強化を実現することが目的である。本発明のもう一つの目的は、Sバンドでの広帯域増幅に使えるテルライトガラスを提供することである。さらに別の目的は、機能性の高いTm添加光増幅器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的は特許請求の範囲に記載された発明に従って達成される。
【0011】
本発明は、酸化ランタノイドがドープされたテルライトガラスに関する。ランタノイドイオンのエネルギー準位間での増幅が望ましいのであるが、これを実現するためには、エネルギーの下準位での反転分布が必要である。そのために、エネルギーが移転される第二のランタノイドをガラスにドープする。簡単に言えば、本発明では、テルライトガラス組成物に、ある量のCsCl(塩化セシウム)のようなアルカリハロゲン化物を添加することで、光増幅器ファイバガラスの改善を実現しようとするものである。アルカリハロゲン化物を添加することでガラス構造が変化し、その結果、第一のランタノイドイオンから第2のランタノイドイオンへのエネルギー移動が強化されることになる。本発明では、第一ランタノイドイオンのエネルギー上準位寿命とエネルギー下準位寿命との間の比率を1以下に下げることができるので、効率的な増幅器ファイバを実現できる。
【0012】
このように、本発明では、光増幅器ファイバとして使用できるテルライトガラス組成物を提供する。まず、ガラスに第一のランタノイドが添加され、別の酸化ランタノイドが共添加されるが、ここでの光増幅の度合いは、第一のランタノイドイオンから第2のランタノイドイオンへのエネルギー移動に依存する。このガラスは、エネルギー移動を強化させるために、少なくとも、1つのアルカリハロゲン化物XY(XとYを結合したもの)を4乃至12モル%含む。ここでXは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)の元素グループから選択した元素である。Yは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)の元素グループから選択した元素である。このガラスが、アルカリハロゲン化物である塩化セシウムを約10モル%含むことが好ましい。
【0013】
好ましいガラス組成物としては、Tmが添加され、そのほかに、Ho(ホルミウム)が共添加されたものである。アルカリハロゲン化物成分を入れることでS帯での増幅特性を強化し、それにより広帯域光増幅器が可能となる。ここで開示したテルライトガラスのもうひとつの長所は、熱安定性に優れていることである。
【0014】
本発明の別の態様によれば、光増幅器ファイバ、光増幅器、レーザ装置、光増幅器ファイバの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、その目的、長所と共に、下記の記述と添付図面を参照することにより最もよく理解できる。
【0016】
下記の記述において、「ランタノイド類」とは、ランタン(La),セリウム(Ce),プラセオジウム(Pr),ネオジウム(Nd),プロメチウム(Pm),サマリウム(Sm),ユウロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),テルビウム(Tb),ジスプロシウム(Dy),ホルミウム(Ho),エルビウム(Er),ツリウム(Tm),イッテルビウム(Yb),ルテチウム(Lu)の各元素を含む希土類金属のグループを指す。「多成分ガラス」とは、少なくとも、3成分(ドーパントを除く)から構成されるガラスを指す。
【0017】
図1は、典型的な光ファイバケーブルの基本的な構造を示している。光ファイバ10はコア12とクラッド14から構成されていることが示されている。コア12は透明のガラスであり、その中を光ビームが通過する。コア12はクラッド14と呼ばれる別のガラスシートで覆われ、一般的にこのクラッド14の屈折率はコア12の屈折率より小さい。クラッドはミラーのように動作し、光をコアに反射させ、光ビームは内部反射により光ファイバ10内で伝送されることになる。光ファイバ10の外側は絶縁材料を含む保護コーティング材16で被覆されている。
【0018】
背景技術の項で説明したように、波長1470nmで動作させるための、Tm3+を添加したテルライトガラスの問題点は、下準位()の寿命が上準位()の寿命より長いことである。また、ランタノイド添加ガラスでは、上準位寿命に較べて下準位寿命が長すぎて所望の遷移が得られないという問題がある。本発明の目的はこの問題を克服することであり、つまり、満足のいく方法で、イオンの下準位の反転分布の形成を実現することである。特に、本発明の主目的は、下準位の寿命を短くして上準位の寿命以下の値を実現した、Tm3+イオン添加のテルライトガラスの光ファイバを作成することである。ケイ酸塩ガラスとフッ化物ガラスで主に採用された準位の反転分布を実現するためのいくつかの従来技術の方法が図2に示されている。アップコンバージョン励起法、1.8μm帯レーザ発振法、ホルミウムイオン(Ho3+)共添加(co-doping)法である。図2において、一番目(I)の図は、ツリウムエネルギー準位図であり、Tmがドープされたフッ化物ガラスを示しており、二番目(II)の図は、1060nm励起法を示したものであり、第3(III)の図は、Tmを添加してHoを共添加したガラスのエネルギー移動を示したものである。
【0019】
本発明によるテルライトガラス組成物では、ドーパントとして用いたランタノイドイオンの下準位での反転分布を形成させるためにエネルギー移動の現象を利用する。エネルギー移動というのは、イオン/原子/分子(ドナー)の励起状態にある電子が崩壊して、同時に、近傍に存在するイオン/原子/分子(アクセプタ)の電子を励起状態にさせて、低い準位に落ちていくメカニズムのことである。Tmをドーパントとして、Hoを共添加物として、波長1470での増幅に使用するガラス組成物では、Tm3+ 準位での電子が準位に落ち、Ho3+ 準位の電子が励起準位に上昇するということを意味する。このエネルギー移動の様子については、図2の(III)において、Tm3+ 準位とHo3+ 準位との間につけた矢印で示している。エネルギー移動の効果が出るためには、ドナー放出曲線とアクセプタ吸収曲線が重なることが必要であり、好ましくは、エネルギー状態を低下させることである。仮にアクセプタが、電子が急速に崩壊する低準位を有する場合には、エネルギー移動の平均的な流動はドナーからアクセプタに向かう方向で起こる。
【0020】
エネルギー移動の効果は、準位間の距離と、吸収曲線と放出曲線の重なりのほかに、イオン/原子を取り囲む周囲状況にも依存する。周囲状況の影響は希土類イオンでは極めて明白である。その理由は、同じ4f状態の間での光遷移は、選択規則により光学的には禁止されており、イオン/結晶場の相互作用により起こるだけである。エネルギー移動は、2つの隣り合うイオンの電子間での静電相互作用に依存する。この相互作用は、例えば、周囲の比誘電率により抑止される場合もあるが、むしろ、不平衡電荷と電気双極子による局所電磁場の存在により強まることも時々ある。
【0021】
本発明は、ガラス組成物に、希土類イオンを含むアルカリハロゲン化物類を加えることにより、種類の違う2つの希土類イオン間でのエネルギー移動メカニズムを強化させることである。アルカリハロゲン化物が各イオンを近距離位置に運び、結晶場を作り出すことで、このエネルギー移動の強化が可能となり、これにより、選択ルールの適用がなくなり、プロセスが効率的になる。
【0022】
特に、本発明では、S帯における優れた増幅特性を示すガラス組成物を提供する。CsCl(塩化セシウム),NaCl(塩化ナトリウム),KCL(塩化カリウム)などのアルカリハロゲン化物類を、Tmを添加し、例えば、Hoを共添加したテルライトガラス組成物に加えることで、エネルギー移動メカニズムがかなり向上することが判明した。エネルギー下準位の寿命とエネルギー上準位との比率が、本発明によれば、1以下の値に下がり、その結果、効率のよい光増幅が実現できる。この知見を基礎に得られた本発明のガラス組成物は、広帯域の光ファイバ増幅に非常に適している。本発明により得られた逆寿命比率の例を表1Aと表1B(従来技術)にまとめている。表1Aには、本発明のTeO―ZnO−LiO−Bi−CsCl(二酸化テルルー酸化亜鉛―酸化リチウム−三酸化ビスマスー塩化セシウム)ガラスに含まれるTm3+イオンの準位寿命を示してある。表1Bは、比較のためのもので、ベースの成分は、本発明の前記ガラスと同じであるが、CsClが含まれていないもので、TeO―ZnO−Li−Biガラスについてである。以下のガラス系が使用されている(表1A)。(99.8−y)(66TeO−15.5ZnO−5Li−4Bi−9.5CsCl)+(0.2−2)Tm3+yH(y=0.8−2)。これらのガラスを使ったシングルモード光ファイバ(コア直径が5μm)を、波長790nmで励起するTi(チタン)−サファイアレーザで測定した。表1Bに示した準位寿命を、65TeO−15ZnO−18Li−2Biについて測定した。
【0023】
【表1A】

【0024】
【表1B】

【0025】
Tm3+とHo3+の含有量は各ガラス毎に違う。表において、Tm3+とHo3+の濃度に関しては、違いがあるが、ベースのガラスでは違いはない。表1AのガラスAは、CsCl成分を含んでいない点を除いては、基本的に表1BのガラスAと同じである。このことは、表1AのガラスBと表1BのガラスBなどについても言える。
【0026】
増幅を実現するためには、下準位の寿命と上準位の寿命との比率である/が1以下の値であることが求められる。1以上の比率では増幅が起こらない。1以上ということは、下準位に存在する粒子数が上準位に存在する粒子数よりも常に大きいということであり、誘導放出を起こさせるためには、反転分布を形成する必要がある。この比率を1以下に下げることで、効率的な増幅が可能となるからである。
【0027】
表1Aと表1Bを比較することにより、本発明の効果が明白になる。表1Bで示された比率(/)はすべて6以上であって、光増幅を起こさせるには、あまりにも大きすぎる。しかし、表1Aのようなガラス組成物に、CsClのようなアルカリハロゲン化物を含ませることにより、Ho3+を共添加した場合には、Tm3+イオンのからへの遷移準位における寿命の逆数値が得られる。本発明により、Tm3+イオンのの反転分布が形成されて、下準位の寿命が上準位の寿命より短くなることは明白である。
【0028】
表1Aに示した、CsClを含み、TmとHoの両方が添加されているガラスEとガラスFでは、この下準位/上順位の寿命の比率が1以下である。表1Bに示した、CsClを含んでいないガラスEとガラスFの下準位と上順位の寿命比率が大きい(それぞれ6.5と6.6)。
【0029】
アルカリハロゲン化物を含むガラスにおいて、Hoの含有量が多いほど、この比率(/)は小さくなる。しかし、Hoの含有率を2%以上に上げると、今度は、ガラスの結晶化が発生してしまう。表1Aで示されたような優れた準位寿命を実現するためには、少なくとも、0.5モル%のHを含んでいるガラスが好ましい。表から分かるように、Tmの含有の場合よりも、Hの含有の場合のほうが長所が大きい。
【0030】
TeO―ZnO−Li−Bi−Tm―H(二酸化テルルー酸化亜鉛―酸化リチウム−三酸化ビスマス酸化ツリウムー酸化ホルミウム)ガラスに、CsClを加えることにより、Te−ClまたはTe−O−Cl結合を発生させる。それにより、結晶場における対称性にバラツキを起こさせ、行列状態の振動密度により、状態のエネルギーの反転分布のメカニズムをおこさせることになる。アルカリハロゲン化物成分は、主に、この準位寿命の短縮化に寄与する。
【0031】
本発明により得られる、改良された準位寿命比率がガラス構造の変化に関係している。つまり、このガラス構造は、ハロゲン元素であるF,Cl,Br,Iのような電気陰性度の高い元素のいずれかと、アルカリ金属元素であるLi,Na,K,Rb、Cs,Frのいずれかを結合させることにより得られるもので、本発明の長所である。電気陰性度の高いハロゲン元素の強度は高く、そのために、TeO内の酸素結合を置換させるのである。このことは、実験の結果から確認されている。以下の通りである。
【0032】
つまり、アルカリハロゲン化物(本発明の実施例ではCsCl)の正確な役割として、以下のようなメカニズムが考えられる。非常に反応性の高いハロゲン元素であるClは、希土類イオンの周りの電荷中心の生成に関与しており、この電荷中心の生成がイオンの周囲の結晶場を増加させることになる。この結晶場が、 から への遷移での準位寿命が短くなることを許さないとする選択律を無効にする。この結晶場は、遷移準位を同質的ではなくなるように変化させるので、CsClを含ませることにより、バンド幅が広げる効果がある。もうひとつの可能性は、ハロゲン元素が、 準位での電荷移動のための新しい無放射チャネルを作り出すことができるのでないかということである。
【0033】
さらに、本発明者は、本発明のガラスの中のClイオンが、Te−Cl結合を形成しているTeOの1つのO(酸素)を置換することを見出した。図3は、CsClを含んだテルライトガラス組成物(下のほうの曲線、Te:Cl)と、CsClを含まないガラス組成物(上のほうの曲線、Te−O)の赤外線スペクトルを示す。図中の矢印は、Te−Cl結合の振動である。Te−Cl結合のバンドは、CsCl−TeO−ガラスにだけ存在する。
【0034】
本発明のガラス組成物の主要な長所は、S帯に増幅域を拡大させるために使用できることである。もう一つの長所は、このガラスでは、準位寿命を希望通りに短縮できることだけでなく、光ファイバを引き出す際に必要な熱物理学的特性が改善できることである。さらに、本発明のガラス組成物は、化学的耐久性、(低)融解温度、利得線幅に優れている。
【0035】
本発明によれば、XYのアルカリハロゲン化物であれば、どんなアルカリハロゲン化物でもあっても、エネルギー移動の改善に使用することができる。ここで、Xは、Li,Na,K,Rb,Cs,Frのグループのうちのいずれかの元素である。Yは、F, Cl, Br,Iのグループのうちのいずれかの元素である。CsCl,NaCl,KClのようなClハロゲン化物を含むガラスが好ましい。特に、CsClを使用して、所要のエネルギー準位寿命を実現する実施例の場合に最も大きな長所が得られている(表1参照)。
【0036】
適切なエネルギー移動を実現し、所要の短縮準位寿命を得るためのアルカリハロゲン化物の量は、実験によれば、約10モル%以下で十分である。これが、5モル%程度では熱耐久性に急激な変化が起こり、12モル%以上になると、ガラス結晶の発生のようなガラス特性劣化が観察され、熱耐久性も急激に低下する。従って、本発明でのガラス組成物に含ませるアルカリハロゲン化物XYの量は、4−(乃至)12モル%である。好ましくは、少なくとも、8モル%であり、最も好ましいのは、約10モル%、つまり、9−11モル%ということになる。
【0037】
以下、本発明のガラス組成物の例について記載する。文献[3]に記載されている、すでに知られている多成分ガラスであるTeO―ZnO−Li−Bi(以下、TZNBiと呼ぶ)系が出発物質として使用される。主要な改良は、TeOの代わりに、最初のTZNBiに、アルカリハロゲン化物XYを加えることである。別の例は、テルライトガラスに、WO(三酸化タングステン、以下TWと呼ぶ)を含ませたものである(このTWガラスは文献[4]に記載されているガラス系を基礎にしている)。
【0038】
【表2】

【0039】
表2には、本発明による、TZNBiガラスに含まれる各成分をモル%で示したものである。この中で、ZnO、RO(R=Li,Na,K,Rb,Cs)および、Biの含有量として、最小値はゼロであるが、実際には正の数であり、ゼロ値を取ることはない。言い換えれば、このTZNBiガラスには、常に、これらの物質(ZnO、RO、Bi)のある量が含まれていることを意味する。前述したように、このガラスのXYの含有量は、9(または、少なくとも8)−11モル%である。好ましくは、このガラスには、0.2−2モル%のTm、0.2−2モル%のHが添加されている。
【0040】
好ましいTZNBiガラスでは、Li(R=Li)が含まれており、NaOを含有したガラスに較べて熱耐久性がさらに高い。Biは、ガラスの屈折率の制御に用いられる。通常の場合、コア部分とクラッド部分に使うBiの量はそれぞれ違う。
【0041】
【表3】

【0042】
表3には、本発明による、TWガラス(TW(I)−TW(III))に含まれる各成分を、モル%で示したものである。TW(I)には、酸化アルカリ金属が含まれ、Rは、Na,Li,K,Rb,Csの元素グループから選択され、TW(II)には、16モル%のZnOが含まれる。Nbは、適当な屈折率を与えるために用いられる。前述の通り、XY含有率は、好ましくは9(少なくとも8)−11モル%であり、0.2−2モル%のTmが添加され、0.2−2モル%のHが共添加されている。
【0043】
本発明は、前記のTZNBiグラスとTWグラス以外の別のテルライトガラスにも適用できることは注意すべきことである。
【0044】
すでに述べたように、本発明の増幅器ファイバガラスは、好ましくは、ドーパントとしてツリウムが、共添加物としてホルミウムが添加されている。波長1500nmでの増幅を実現するために、どのようなツリウムとホルミウムの組み合わせを選ぶについては、図4を見れば、理解できる。図では、ランタノイドイオンであるTb3+,Dy3+,Ho3+,Er3+,Tm3+,Yb3+のそれぞれのエネルギー準位は、下準位に焦点を当てて表現されている。
【0045】
重要な1500nm波長での増幅を実現するために、エルビウム(Er)の代替となる、あるいは、エルビウムの補足の役割をする適切な物質を探す場合には、周期系でのエルビウムに近い希土類金属を探索するのは当然のことである。図4において、矢印は、波長1550nmでのEr遷移を示している。図中のトレンド線は、周期表で右方向に増加する準位の傾向を示している。
【0046】
Tm3+ からへの遷移の高さは、波長1470nmのS帯に向かう得ネルギにおいて比較的大きくなる。Ho遷移は、波長(L帯)を長くする傾向があり、5I7からへの遷移では、すでに波長2000nm域であり、波長1500nmからは離れている。Ybの5/2から7/2への遷移もS帯からは離れている。従って、約1500nmでの増幅のためには、(Erのほかに)Tmを選択するのが適当であり、低いTmエネルギー準位を使用すべきである。Tmの からへの遷移の高さは大きすぎて興味がない。
【0047】
Tm3+ 準位からのエネルギー移動のための適当なアクセプタとしては、それに対してエネルギーが移動できる、Tm3+ 準位よりわずかにエネルギー準位が低い別のイオンか分子の準位が望ましい。この準位の不適合があまり大きいとエネルギー移動が効率的でなくなる。そのために、周期表上で近い物質を使用し、Hoが適当である。Tmから、Ho以外のランタノイドイオン準位にエネルギーを移動させる場合、準位よりも小さいエネルギーを有するDyイオン準位、および、Tbイオン準位を選択してもよい(図4の中の丸で囲んだ部分を参照)。Tbをエネルギー移動のアクセプタとして使用する理由は、Tbには、エネルギーを移動させることのできる、いくつかの準位が存在するからである。
【0048】
本発明では、波長1500nmでの光増幅を実現するために、ドーパントとしてTmを添加したテルライトガラスを、特に長所の多い例として挙げてきたが、別のランタノイドイオンをドーパントに使用したテルライトガラスでもよいことを強調しておく。上準位寿命が下準位寿命よりも短い場合には、光増幅をさせるためには、エネルギー移動の現象を起こさせる方法が有用である。あるエネルギー準位にある電子の寿命は、そのエネルギーを下げる際に崩壊する経路の数(チャネルの数)に依存する。電子は、エネルギー準位が下がる際に、放射崩壊または無放射崩壊を起こす。放射崩壊は、過剰のエネルギーを外部に放出するフォトン放出であり、無放射崩壊は、過剰のエネルギーを熱に変換するフォノン放出である。フォノンエネルギーは、ホスト特性である。フォノン放出の効率は、電子が下準位に到達するのに必要なフォノンの数に依存している。従って、上準位と下準位が十分に近接していることが必要である。各準位が、それぞれ、多少のフォノンエネルギー分だけ離れて存在している場合には、無放射崩壊が極めて効率的に起こり、無放射寿命が放射寿命に較べて極めて短いものとなる。一方、一番近接している下準位からは分離された準位については、唯一の現実的に起こる崩壊は放射崩壊であり、無放射崩壊に較べて、その崩壊速度は遅い。そのために、上準位での粒子数を増やすために、蛍光寿命の長い、分離した準位を探すことになる。理想的な状態は、下準位が常に空の状態で、その結果、上準位の粒子数が常に下準位の粒子数よりも多いことである。準位エネルギーの分離距離が約2000cm−1の場合に、無放射崩壊の速度は一般的には速く、下準位をそのまま空の状態に保つ。
【0049】
表4は、ドナーとアクセプタの多数の組み合わせを示したものであり、これにより、本発明による強化されたエネルギー移動メカニズムを、下準位の寿命を短くするために用いることができるものである。この組み合わせは、上下準位が最も近接している下準位から2000cm−1離れている場合の遷移に関するものである。
【0050】
【表4】

【0051】
従来技術として、ハロゲン化合物を含んだ、いくつかのテルライトガラスが開示されているが、これらのガラスは二成分ガラスであり、ハロゲン化物の役割が本発明とは全く異なる。本発明によれば、アルカリハロゲン化物(好ましくは、CsCl)の新しいメカニズムと使用法が提案されているのである。
【0052】
文献 [5]においては、アルカリハロゲン化物が、ガラス形成を目的にテルライトガラスに加えられている。この二成分ガラス(1−x)TeO―xLiCl(x=0.3、0.4、0.5、0.6、0.7)では、LiClがガラスの成形用として使用されている。これに対して、本発明による多成分ガラスTeO―ZnO−Li−Biは、ハロゲン化物が含有されていてもいなくても、それとは関係なく、ガラスの成形は可能である。従って、本発明では、ガラスを成形するために、ハロゲン化物を添加するのではなく、所望のエネルギー移動を強化して、反転分布を形成するために添加するのである。
【0053】
文献[6]のガラスでも、金属ハロゲン化物であるZnCl(塩化リチウム)を使用しているが、この場合には、増幅性能を上げるためにファイバ作成工程でヒドロキシル含有量を減らすためのものである。このような使い方をすれば、ハロゲン化物の濃度はヒドロキシル濃度に依存することなり、実際、文献[6]では、40モル%ものZnCl (塩化亜鉛)が使用されている。本発明では、ハロゲン化物の使用目的は、イオンを近距離に運ぶこと、または、エネルギー移動メカニズムを促進するイオンの周りの結晶場を取り除くことである。このことが、ハロゲン化物をどのように使用するかに関しての手法上の大きな相違点である。文献[6]のように、OH基(水酸基)を減らすためにハロゲン化物を使用する場合には、使用するハロゲン化物の濃度がOH濃度に依存することになる。しかし、本発明の発明者は、ハロゲン化物には、ガラス改良剤としての大きな役割があることを見出し、発明で用いたハロゲン化物は、この文献でのハロゲン化物とは、濃度範囲も別であり、含有させるガラス系も別であり、ハロゲン化物の種類も別のものである。
【0054】
本発明では、ドーパントおよび共添加物(コ・ドーパント)としてランタノイドを添加した多成分ガラスに含有させるアルカリハロゲン化物の量についても工夫を加えている。適切なアリカリハライドの含有率は4−12(好ましくは10)モル%である。文献[6][5]では、大量のアリカリハロゲン化物を使用しており、文献[6]の場合には、アリカリハロゲン化物として30−70モル%、または、文献]5]の場合には、Znハロゲン化物の形で40モル%もの量が使用されており、この量は、エネルギー移動に使える量ではない。
【0055】
本発明の光増幅器ファイバは、その基本構造自体が長所であり、図1を参照して、そのことを以下に記載する。図1は、本発明の光ファイバの概略断面図である。光ファイバ10は、コア12、クラッド14、好ましくは、保護コーティング材16から構成されている。コア部分は多成分テルライトガラスであり、ドーパントとして、第一の酸化ランタノイド(好ましくは、Tm)、共添加物として、第二の酸化ランタノイド(好ましくは、Ho)を添加してあり、第一のランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するために、アルカリハロゲン化物XY(X=Li,Na,K,Rb,Cs,Y=F,Cl,Br,I)のうちの、少なくとも1つを4乃至12モル%含有している。このアルカリハロゲン化物XYの含有量は、好ましくは、第一のランタノイドイオンの上準位の寿命と下準位の寿命との比率がゼロ以下になるような量を選択する。
【0056】
拡散係数に重大な不均衡が発生しないように、コア部分とクラッド部分のベースとなるガラス組成物が大体同じになるようにしている点は重要である。一般的には、コア部分とクラッド部分との間の最大許容誤差は、5%の範囲内である。好ましい実施例では、この光ファイバ10のコア12とクラッド14のガラスベース材として同種類のテルライトガラス組成物を使用している。その後、コア部分については、ドーパントと改良剤を添加して、屈折率の制御用の物質を多めに含有させている。
【0057】
この屈折率の制御のための物質は、好ましくは、BiまたはNbであり、コア部分の屈折率はクラッド部分の屈折率よりも約2%高くなるようにしている。適当な量のBiまたはNbを加えることで、この屈折率の差を、0.2%から6%までの範囲で、所望の率に容易に変えることが可能である。本発明によるテルライトガラス光ファイバでは、BiまたはNbを使って屈折率を変更できることが長所となっている。
【0058】
図1で示した光ファイバは、簡略化されて示されている点には注意が必要である。実際には、本発明による光ファイバの構造は、この図のものよりも複雑であり、対称構造ではなく、コアもグレーデッドインデックス型、つまり、屈折率が位置と共に変化する型のものであり、クラッド構造も複数である。
【0059】
すでに述べたように、本発明によるガラスは、所望の準位寿命の短縮化ができるだけでなく、高い熱安定性のような改良された熱物理学的特質を有している。このことは、光ファイバの敷設には好都合である。いわゆる、ロッドインチューブ(rod-in-tube)法と呼ばれる光ファイバの製造法を基礎にした、本発明による製造法の例について以下に記載する。まず、テルライトと4−12モル%のアリカリハライドXYを含有させた多成分ガラスを混合する。好ましくは、酸化物として、テルリウムとランタノイド成分を添加し、炭酸塩または硝酸塩として金属酸化物を添加する一方、CsCl,NaCl,KClなどの塩をアリカリハロゲン化物として直接に添加してもよい。このガラス混合物をガラス溶融物にするために加熱する。このガラス溶融物の温度を、引き上げ用の温度まで下げて、コアを引き出す。コアの屈折率を、好ましくは、BiまたはNbを使って制御する。コアガラスに、TmおよびHのような酸化ランタノイドを添加する。
【0060】
その後、クラッドガラス溶融物をシリカチューブに入れて、成形して、次ぎに、シリカチューブから抜いて、そのアグリゲート(凝集体)を冷却する。シリカガラスとテルライトガラスの拡散係数が互いにかなり違うので、この冷却工程で、クラッドチューブが分離される。コアロッドがクラッドチューブに挿入され、適当な引き上げ温度で、プリフォームから光ファイバが引き出される。好ましくは、この引き上げは、ヒートゾーン長さがプリフォームの直径と等しいグラファイト炉が備った引き上げ塔を使用する。こうすることで、最初の引き上げガラスが不安定になるのを防止できる。最初にガラス滴が落ちた後、引き上げ速度に従って光ファイバの直径を決める。本発明のガラス組成物は熱安定性が高いので、ファイバ引き上げが良好に進み、完成ファイバの成形誤差を最小にすることができる。
【0061】
図5は、本発明による光増幅器の実施例の概略ブロック図である。図中の光ファイバ20は、信号処理手段22、カップラ24、励起光源26、光増幅器ファイバ28を含む。まず、増幅を必要とするような弱い光信号を増幅器に入射させる。入力信号は最初に光信号処理手段22aに入り、ここで適当な方法で信号の修正がなされる。増幅器ファイバ28は、その両端から励起レーザまたは類似の励起光源26a、26bにより励起される。ミラーの形で提供されるカップラ24a、24bは、励起光源からの励起光と信号光を結合させる。増幅器ファイバ28の中では、この励起光により希土類イオン(例えば、Tm3+)が一時的に励起状態になる。電子が崩壊するにつれて、光が放射されて、光信号の利得が増加する。最後に、増幅された信号が、さらに光信号処理手段22bにより修正される。このようにして、比較的強い光信号が増幅器から出力されることになる。
【0062】
光増幅器20のファイバ28は、ランタノイドが添加されたガラスのコアを含む。コアとクラッドは4乃至12モル%のアルカリハロゲン化物XYを含有する。このファイバは、上述した多成分ガラスを含み、このことは本発明の長所である。この増幅器ファイバ28は、Tmを添加することにより、波長約1.5umで動作するようになる。次に波長980nmで励起光を発生する励起光源26を使う。
【0063】
この信号処理手段22は、好ましくは、アイソレータ(分離器)で構成されており、その目的は、不必要な反射を防ぎ、増幅器の振動を抑えることである。信号処理手段22は、さらに、変調、フィルタリング、偏光、吸収、減衰用の機器を含む。
【0064】
図5の光増幅器は、勿論、当業者には明白である種々の改良を加えることが可能である。一般的には、増幅効率を上げるために2個の励起光源を用いるが、単一の励起光源(および、単一のカップラ)を使ってもよい。光信号処理手段の数、取り付ける位置については多様であり、フィルタなども外付けでもかまわない。一つの増幅器に対して1つ以上のファイバを使用してもよい。増幅器ファイバの他に、増幅器には、一般的には、各構成品を接続するために、ドープしていない光ファイバも使用されている。
【0065】
上述した光増幅器ガラスはレーザ機器にも応用できる。図6は、本発明によるレーザ機器の実施例の概略ブロック図である。図6のレーザ機器の各構成部品のうち、図4の構成部品と同じものには、数字の10を加えた同じ参照番号を付してある(図4)。レーザ機器と光増幅器の大きな違いは、レーザ機器の場合は信号光を受けることはないが、信号生成のための帰還手段を備えている。従って、図6のレーザ機器30には、光増幅器ファイバ38の反対の両側に2つの反射器が取り付けられている。励起光源36からの光が、光増幅器の場合と同じように、ファイバ38の中にフォトン放出を発生させる。最初の反射器35aは、理想的には光を全反射させる高反射型の反射ミラーで構成され、二番目の反射器35bは、部分的に透明なミラーであることが好ましい。二番目の反射器を通過する光の比較的少量の部分は、レーザ機器30から出力したレーザビームである。レーザ機器の光信号処理手段32には、変調、フィルタリング、偏光、Q−スイッチング、吸収などのための機器が含まれ、これらを機器内に設置してもよいし、外付けでもよい。
【0066】
本発明によるレーザ機器の別の実施例(不図示)では、リング形の構造物を取り付けて信号のフィードバックを実現している。つまり、出力した信号の一部を基本的にカップラ34aに帰還させている。
【0067】
ランタノイドを添加したテルライトガラスを使用したレーザは、それが光ファイバの形であっても、ロッドの形でも、従来のレーザに較べれば、重要な長所を有する。第一は、バンド幅が広いので、モード・ロッキング・レーザ用の短パルスの発生が可能である。第二に、テルライトガラスレーザは、広いチューニング範囲を有しているので、cwレーザまたはパルスレーザを発生させることが可能で、そのために、分光分野に適用でき、または、WDM通信システムの信号源として応用できる。これらの長所は、本発明のレーザ用のガラスで実現可能である。
【0068】
本発明は特定の実施例を使って説明したが、この発明の精神と範囲に反することなく、種々に変更することができることは、この技術の当業者にとって明白であり、添付の特許請求の範囲で定義されている通りである。
【0069】
参考文献
[1] M. Naftaly, S. Shen and A. Jha, “Tm3+doped tellurite glass for broadband amplifier at 1.47μm”, Appl. Opt. 39 (27) 4979-84.
[2] S. Shen, A. Jha, E. Zhang and S. J. Wilson, Compt Rendu Chimie, 5, pp 921-938 (2002).
[3] 日本電信電話株式会社、ヨーロッパ特許出願:番号EP0858976
[4] Aitken et. al., US Patent 6,194, 334
[5] G. Ozen, B. Demirata, M.L. Ovecogulu, and A.Genc, “Themal and optical properties of Tm3+doped tellurite glasses”, Spectrochim, Acta. Part A 57 273-280 (2001).
[6] E. R. Taylor, L. N. Ng and N. P. Sessions, “Spectroscopy of Tm3+-doped tellurite glasses for 1470 nm fiber amplifier”, J. Appl. Phys. 92, 112-117 (2002)
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、本発明による光増幅器ファイバの実施例を示す概略断面図である。
【図2】図2は、順位を反転分布させるための方法を説明した3つのツリウムのエネルギー準位を示した図である。
【図3】図3は、従来技術のテルライトガラスと、本発明によるテルライトガラスの赤外線スペクトルを示した図である。
【図4】図4は、ランタノイドイオンであるTb3+,Dy3+,Ho3+,Er3+,Tm3+,Yb3+のエネルギー準位を、特にそれらのエネルギー下準位に焦点を当てて示した図である。
【図5】図5は、本発明による光増幅器の実施例の概略ブロック図である。
【図6】図6は、本発明によるレーザ機器の実施例の概略ブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ増幅器での使用に適している、第一のランタノイドイオンと第二のランタノイドイオンをドープした多成分テルライトガラス組成物であって、
前記第一のランタノイドイオンから前記第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するための、少なくとも1つのアルカリハロゲン化物XYを、4乃至12モル%含み、
前記Xは、Li(リチウム)、Na(ナトリウム),K(カリウム),Pb(ルビジウム),Cs(セシウム)、Fr(フランシウム)の元素グループから選択され、前記Yは、F(フッ素)、Cl(塩素)、Br(臭素),I(ヨウ素)の元素グループから選択される多成分テルライトガラス組成物。
【請求項2】
前記アルカリハロゲン化物XYは、第一のランタノイドイオンの、関連するエネルギー下準位の寿命とエネルギー上準位寿命との比率を1以下の値にまで下げる量であることを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項3】
少なくとも8モル%の前記アルカリハロゲン化物XYを含むことを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項4】
9乃至11モル%の前記アルカリハロゲン化物XYを含むことを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項5】
前記ハロゲン元素Yが塩素(Cl)であることを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項6】
前記アルカリハロゲン化物XYがCsCl(塩素セシウム)であることを特徴とする請求項5に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項7】
前記第一のランタノイドイオンがTm3+(ツリウムイオン)であり、前記第二のランタノイドイオンが、Nd3+(ネオジウムイオン)、Er3+(エルビウムイオン)、Dy3+(ジスプロシウムイオン)、Tb3+(テルビウムイオン)、Ho3+(ホルミウムイオン)のグループから選択されることを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項8】
前記第二のランタノイドイオンがHo3+(ホルミウムイオン)であることを特徴とする請求項7に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項9】
前記多成分テルライトガラス組成物が、
55乃至90モル%のTeO(二酸化テルル)と、
4乃至12モル%のXY(アルカリハロゲン化物)と、
0乃至35モル%のZnO(酸化亜鉛)と、
0乃至35モル%のRO と、
0乃至20モル%のBi(三酸化ビスマス)を含み、
前記Rは、Na(ナトリウム)、Li(リチウム),K(カリウム),Rb(ルビジウム),Cs(セシウム)の元素グループから選択された、少なくとも1つの元素であり、前記ZnO、RO 、Biのそれぞれの量が0(ゼロ)よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項10】
前記多成分テルライトガラス組成物が、
15乃至85モル%のTeO(二酸化テルル)と、
4乃至12モル%のXY(アルカリハロゲン化物)と、
0乃至35モル%のWO(三酸化タングステン)と、
0乃至20モル%のNb(五酸化ネオジウム)を含むことを特徴とする請求項1に記載の多成分テルライトガラス組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのクラッド(14)に囲まれたコア(12)を含む光増幅器ファイバ(10)であって、
前記コアは、少なくとも部分的に、第一のランタノイドイオンと第二のランタノイドイオンを添加している多成分テルライトガラス組成物を含み、前記多成分テルライトガラス組成物は、前記第一ランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するための、少なくとも1つのアルカリハロゲン化物XYを4乃至12モル%含み、前記Xは、Li,Na,K,Rb,Frの元素グループから選択されるものであり、Yは、F,Cl,Br,Iの元素グループから選択されるものであることを特徴とする光増幅器ファイバ。
【請求項12】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれる前記アルカリハロゲン化物XYは、前記第一のランタノイドイオンの、関連するエネルギー下準位の寿命とエネルギー上準位寿命との間の比率を1以下の値にまで下げる量であることを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項13】
前記多成分テルライトガラス組成物は、少なくとも8モル%のアリカリハロゲン化物XYを含むことを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項14】
前記多成分テルライトガラス組成物は、9乃至11モル%のアルカリハロゲン化物XYを含むことを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項15】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれるハロゲン元素YがClであることを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項16】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれるアルカリハロゲン化物XYがCsClであることを特徴とする請求項15に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項17】
前記多成分テルライトガラス組成物の第一のランタノイドイオンがTm3+であり、第二のランタノイドが、Nd3+、Er3+,Dy3+,Tb3+,Ho3+のグループから選択されることを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項18】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれる第二のランタノイドイオンがHo3+であることを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項19】
前記多成分テルライトガラス組成物が、
55乃至90モル%のTeOと、
4乃至12モル%のXYと、
0乃至35モル%のZnOと、
0乃至36モル%のR
0乃至20モル%のBiを含み、
前記Rが、Na,Li,K,Rb,Csの元素グループから選択された、少なくとも1つの元素であり、前記ZnO、RO、Biの量が0(ゼロ)よりも大きいことを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項20】
前記多成分テルライトガラス組成物が、
15乃至85モル%のTeOと、
4乃至12モル%のXYと、
0乃至35モル%のWOと、
0乃至20モル%のNbを含むことを特徴とする請求項11に記載の光増幅器ファイバ。
【請求項21】
少なくとも1つのクラッドに囲まれたコアを含む光増幅器ファイバ(28)を含む光増幅器であって、前記コアは、少なくとも部分的に、第一のランタノイドイオンと第二のランタノイドイオンを添加した多成分テルライトガラス組成物を含み、前記多成分テルライトガラス組成物は、前記第一ランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するための、少なくとも1つのアルカリハロゲン化物XYを4乃至12モル%含み、前記Xは、Li,Na,K,Rb,Cs、Frの元素グループから選択されるものであり、前記Yは、F,Cl,Br,Iの元素グループから選択されるものであることを特徴とする光増幅器(20)。
【請求項22】
前記多成分テルライトガラス組成物は、9乃至11モル%のアルカリハロゲン化物XYを含むことを特徴とする請求項21に記載の光増幅器。
【請求項23】
前記ガ多成分テルライトラス組成物に含まれるハロゲン元素がClであることを特徴とする請求項21に記載の光増幅器。
【請求項24】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれるアルカリハロゲン化物XYがCsClであることを特徴とする請求項23に記載の光増幅器。
【請求項25】
前記多成分テルライトガラス組成物の第一ランタノイドイオンがTm3+であり、第二のランタノイドが、Nd3+、Er3+,Dy3+,Tb3+,Ho3+のグループから選択されることを特徴とする請求項21に記載の光増幅器。
【請求項26】
前記多成分テルライトガラス組成物に含まれる第二のランタノイドイオンがHo3+であることを特徴とする請求項25に記載の光増幅器。
【請求項27】
光増幅器ファイバ(38)を含むレーザ機器(30)であって、前記光増幅器ファイバは、少なくとも部分的に、第一のランタノイドイオンと第二のランタノイドイオンを添加している多成分テルライトガラス組成物を含み、前記多成分テルライトガラス組成物は、前記第一ランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するための、少なくとも1つのアルカリハロゲン化物XYを4乃至12モル%含み、前記Xは,Li,Na,K,Rb,Frの元素グループから選択されるもので、前記Yは、F,Cl,Br,Iの元素グループから選択されるものであることを特徴とするレーザ機器。
【請求項28】
TeOを含み、第一ランタノイドイオンと第二のランタノイドイオンがドープされたガラス成形混合物から光増幅器ファイバを製造する方法であって、
4乃至12モル%のアリカリハロゲン化物XYを、前記第一ランタノイドイオンから第二のランタノイドイオンへのエネルギー移動を強化するための混合物に加えるステップと、
予め定められた引き上げ温度で、前記混合物から光ファイバを引き上げるステップを含み、前記Xは,Li,Na,K,Rb,Frの元素グループから選択されるものであり、前記Yは、F,Cl,Br,Iの元素グループから選択されるものであることを特徴とする光増幅器ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−527840(P2007−527840A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502157(P2007−502157)
【出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際出願番号】PCT/BR2004/000027
【国際公開番号】WO2005/087674
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(503448402)エリクソン テレコムニカソンイス ソシエダット アノニマ (6)
【氏名又は名称原語表記】ERICSSON TELECOMUNICACOES S.A.
【住所又は居所原語表記】Rua Maria Prestes Maia 300, Vila Guilherme, 02047−020 Sao Paulo SP Brasil
【Fターム(参考)】