多接合型太陽電池
【課題】
セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの構造を提供する。
【解決手段】
本発明は、Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成る多接合型太陽電池とした。
セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの構造を提供する。
【解決手段】
本発明は、Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成る多接合型太陽電池とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池デバイスに関し、より具体的にはIII-V族系化合物半導体を用いた多接合型太陽電池の構成材料および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工衛星等宇宙機の電源に使用される宇宙用太陽電池セルには、GaAsなどのIII-V族系化合物半導体を主材料に用いた多接合型の太陽電池セルを使用する例が増えている。これらのセルは、従来の宇宙用Si太陽電池セルに比べて高い光電変換効率が期待できるので、Siセルでは設計が困難であった大電力衛星や多機能衛星などへの使用に適している。また各種のレンズで太陽光を集光して太陽電池セルに照射することで高い出力を得ようとする集光システム用の太陽電池セルとしても、III-V族系多接合型太陽電池セルを使用する試みがなされている。
【0003】
この従来の多接合型太陽電池セルの基本的な構造は、光電変換領域(pn接合)を2つ有する2接合セルと3つ有する3接合セルがある(特許文献1および特許文献2参照)。まず2接合セルの構造を図13に示す。太陽光入射側の表面に形成される第1の太陽電池(トップセル)3の材料にGa1-xInxP、トップセルの下に形成される第2の太陽電池(ボトムセル)2の材料にGaAsが用いられ、両者はトンネル接合層4により接続されている。基板1にはGaAsまたはGe単結晶ウエーハが用いられている。トップセルのGa1-xInxPの組成比はx=0.49程度の値をとり、ボトムセルのGaAsと格子定数が一致するよう意図されている。また、これら材料の格子定数は基板であるGeの格子定数にもほぼ等しく、Ge基板上に比較的容易にエピタキシャル成長できるよう意図されている。このとき、トップセルの禁制帯幅(バンドギャップ)Egは約1.9eV、ボトムセルの禁制帯幅Egは約1.4eVである。この従来の2接合型セルは、宇宙空間での太陽スペクトルを模した光源(AM0)を用いた特性試験で、実験室レベルで約26%、工業製品レベルで約22%の変換効率を達成している。
【0004】
3接合セルは、図14に示すように、基板にGe単結晶ウエーハが用いられ、そのGe基板に第3の太陽電池(pn接合)が形成されている。全体としてはGaInP(トップセル)/GaAs(ミドルセル)/Ge(ボトムセル)の構成を成しており、各セル間はトンネル接合4および4aで接続されている。変換効率は上記と同様に実験室レベルで約29%、工業製品レベルで約27%が達成されている。
【0005】
さらにこれらのセルを改善した次世代の多接合型太陽電池セルが、非特許文献1に示されている。ここで著者のFriedmanらはボトムセル材料としてはGeのEgは小さすぎることを指摘し、ボトムのGeセルをEg:約1eVのGaInNAsセルに置き換えた次世代3接合セル、従来の3接合セルのGaAsミドルセルとGeボトムセル間に上記GaInNAsセルを挿入した4接合セルを提案している。これによって期待される変換効率は改良型3接合セルで38%、4接合セルで41%(ともにAM0)とされている。
【0006】
また、特許文献3には、基板にGaAsあるいはSiを用い、半導体基板、p型半導体層及びn型半導体層のうちの少なくとも1つをIII−V族混晶半導体に窒素(N)を含有せしめた半導体を用いて形成した太陽電池が開示されており、その例としてGaInNAs、GaInNP、AlInNP、GaNAsSb、GaNP、GaNPAsが挙げられている。
【特許文献1】米国特許5223043号
【特許文献2】米国特許5405453号
【特許文献3】特開平10−12905号公報
【非特許文献1】D.J. Friedman et al. , “1-eV GaInNAs Solar Cells for Ultrahigh-Efficiency Multijunction Devices”, Proceeding of The 2nd World Conference and Exhibition on Photovoltaic Solar Energy Conversion, 6-10 July 1998 Vieea, Austria.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1のような現状技術と展望にもかかわらず、III-V族系多接合型太陽電池セルの工業化は容易に進展していない。その工業化を阻害する最大の要因のひとつに、セル組成に有毒な元素であるAs(砒素)を含むことがあげられる。特許文献3においても、窒素を含むことによるバンドギャップ、格子定数の変化を利用して、高効率な太陽電池を作成することが目的であり、砒素を用いない太陽電池の作製が目的とはされていない。
【0008】
砒素およびその化合物が人体に極めて有害であることは古くから知られており、毒物劇物取締法や水質汚濁防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などにより、国内はもとより世界各国でその取扱いや処分に厳しい規制がある。さらにIII-V族系多接合型太陽電池セルの量産に最適な「有機金属を用いた気相成長法(MOCVD法)」でGaAs成長に使用するAsH3(アルシン)ガスは、有毒、可燃性・爆発性の極めて危険なガスであり、特殊高圧ガスに指定され厳しく規制されている。これらに対応するためには廃液処理装置や排ガス処理装置、検知警報システムなどに多額の投資が必要であり、これが製品単価をアップさせる。また万一事故が発生した場合はその企業に計り知れないダメージを与える。勿論、砒素に限らず一般に半導体産業で使用する多くの元素は環境上なんらかの影響が懸念されるが、量的制限や用途制限などで比較的容易にその影響を回避できる場合や、発生が懸念される疾患が急性であるか慢性であるか等でその社会的な影響度は大きく異なる。しかし砒素の場合は和歌山毒物カレー事件等によってその危険性の認識が一般市民のレベルにまで高まっており、その使用は工場誘致に際しての各種許認可の取得や地域住民の不安解消など,技術的な面以外でもさまざまな社会的問題を派生させる。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成る多接合型太陽電池とした。
【0011】
この構成によれば、Ge基板上にGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなる直上層を形成し、その後、成長層としてAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶を形成することにより、セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaInNPの組成からなる構造とした。
【0013】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaSbPの組成からなる構造とした。
【0014】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなる構造とした。
【0015】
また、本発明は、前記直上層及び成長層は前記Ge基板と格子整合することが望ましい。
また、本発明は、前記Ge基板にはpn接合が形成されていることが望ましい。
【0016】
また、本発明は、前記Ge基板の替わりに,Siウエーハ上にSi1-xGexの成長と成長層の連続的または段階的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による多接合型太陽電池は,すべて組成に砒素を含まないIII-V族系化合物半導体材料の組み合わせから成るため、従来工業化を阻害する要因のひとつになっていた砒素対策を必要としない。また、これらの材料はすべてGe基板とほぼ格子整合し、光学的にも従来のIII-V族系多接合型太陽電池と同等のエネルギーギャップの組み合わせであるため、従来と遜色ない変換効率38%以上が理論上期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
複数のpn接合から成る太陽電池セルの、期待される変換効率を理論計算して議論した文献は上記Friedmanら以外にもいくつかあるが、総じてそこで述べられているポイントをまとめると、
(1)入射光のスペクトル分布に適合したバンドギャップの組み合わせに対応する半導体材料を選択する必要があること、
(2)高変換効率を得るためには高い結晶性が必要であり,上記材料が単結晶基板上に格子整合してエピタキシャル成長した構造が望ましいこと、
である。
【0019】
太陽電池セルの自立した結晶系基板としては、価格や入手容易性、強度等を考慮すると、SiあるいはGeしか現状考えられない。このうちSi基板は、これと組み合わせ可能なバンドギャップ値を有しかつ格子整合するような適当な材料が見当たらず、現在の多接合型セルではもっぱらGe基板が使用されている。これを念頭に置いた場合、望ましいバンドギャップ値の組み合わせは、3接合セルでは、
トップセル(Eg:約1.9eV)/ミドルセル(Eg:約1.0eV)/ボトムセル(Eg:約0.67eV)
または
トップセル(Eg:約1.9eV)/ミドルセル(Eg:約1.4eV)/ボトムセル(Eg:約1.0eV),
4接合セルは、
トップセル(Eg:約1.9eV)/第1ミドルセル(Eg:約1.4eV)/第2ミドルセル(Eg:約1.0eV)/ボトムセル(Eg:約0.67eV)
となる。
【0020】
本発明のねらいは、従来GaAsやGaInAs,GaInNAsなど主に砒素を含むIII-V族混晶材料が担ってきた光電変換を、GaInNP、GaSbPという材料を利用することで、砒素フリーのIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルを得ることにある。
【0021】
発明者らは砒素を含まない各種のIII-V族系化合物半導体およびその混晶材料について太陽電池材料としての適用可能性の観点から鋭意検討を重ねてきたが、そのなかでDMHy(ジメチルヒドラジン)をN源とするMOCVD法でGaInPへのN添加を試みたところ、フォトルミネッセンスの発光ピーク波長のN添加に伴う長波長側へのシフトを観察することが出来た。これより、砒素を含まないGaInPにNを加えたGaInNPでも約1.0eVないしそれ以上のバンドギャップを実現できることがわかり、太陽電池材料への適用可能性を有するとの感触を得た。
【0022】
さらに、GaSbPの太陽電池への適用可能性について検討した。Sb(アンチモン)は、例えばわが国の水質環境基準の要監視項目などに指定されており、一般には毒性のある元素と認識されている。しかし、Sb化合物についてはGaSbやInSbなど一部の材料を除いて比較的データが少なく、よく知られていない。
【0023】
また最近その毒性評価について過剰評価ではないかとの指摘があり、再検討の動きが出ている。例えばEPA(米国環境保護庁)は優先試験リストからSbを除外したり、リスク管理審査の対象から外したりしており、近い将来Sbに関する基準は大幅に緩和される可能性がある。また砒素との比較の観点からは、毒性に著しい違いがあると言われており、社会的な関心も現状高くない。
【0024】
発明者らはこれらの状況も踏まえつつ、GaPとGaSbの混晶材料であるGaSbPに注目してきた。すなわち、GaSb1-XPXにおいては組成xをコントロールすることで、Eg:2.26eV (x=1)からEg:0.7eV (x=0)までの広い範囲でエネルギーギャップ値を制御することが出来るという特徴を有する。発明者らは、TMG(トリメチルガリウム)とTMSb(トリメチルアンチモニイ)、PH3(フォスフィン)ガスを主原料とするMOCVD法でGaSbへのP添加を試みており、X線回折による格子定数の精密測定によってP添加による格子定数の低下を観察した。この結果からGaSbPが太陽電池材料として適用可能であると判断した。
【0025】
本発明においては、光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなる構造とした。これらの組成の光電変換層を用いることにより、上述した最適なバンドギャップを実現することができ、砒素を使用することなく従来の構造の太陽電池と同等の変換効率を実現することができる。
【0026】
本発明におけるさらにもう一つのポイントは、Ge基板の直上の薄い成長層として、太陽電池セルの光電変換領域で使用する材料であるGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPを使うことにある。
【0027】
従来、Ge基板上で均一な核成長とそれに続く高品質なエピタキシャル成長を実現するためには、下地材料としてGaAsの薄い低温成長層をGe基板直上に形成することが不可欠であった。この部分はそれ以降の成長の基礎となるところであり、あえて組成不均一の可能性を有するGaInP等の混晶材料を用いる発想も、またその必要性もなかった。しかし、上記のように砒素フリーの太陽電池セルを実現するためには、この工程においてもGaAsの使用を避けねばならない。
【0028】
そこで発明者らは太陽電池セルの光電変換領域で使用するGaInP、GaSbP、GaInNPで代替を試みたところ、果たしてこれらの層の上にも高品質のエピタキシャル成長が可能であることが実験的に明らかになった。このことは新たな材料や新たな条件的制約を持ち込むことなく、Geと格子整合した高品質のエピ層を供給できる下地材料の供給が可能であることを意味し、これによってGe基板上に砒素をまったく含有しないIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの実現が可能となる。
【0029】
また、本発明において、Ge基板上に形成される直上層およびその上部に形成される成長層は、Ge基板と格子整合することが望ましい。Ge基板と格子整合することで、結晶欠陥の少ないより高品質な単結晶膜を形成することができ、太陽電池の変換効率を向上することが可能となる。
(実施の形態1)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの実施形態1の基本的な構造を図1に示す。光の入射方向を同図に示すが、以後各層の光入射側を各層の表面、対する側を裏面と記す(以下すべての図において入射方向は同じであるので以降表示を略す)。
【0030】
pn接合が形成されたGe基板の上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4d、GaInPセル3が順次積層された構造である。
【0031】
基板にはGe単結晶を用い、MOCVD成長時にPが拡散することでGe基板中にpn接合が形成され、Geセル1aとなる。Ge基板の替わりに、Siウエーハ上にSi1-xGexの成長層の連続的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いてもよい(これは以下すべての実施形態でも同様なので以降記述を略す)。Ge基板をSiに替えることで、宇宙用として使用する場合はセルの軽量化が期待でき、集光用として使用する場合はセルの放熱特性の改善を図ることが期待できる。
【0032】
Ge上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。この窓層や裏面電界層の具体例は後述の実施例に示す。
【0033】
GaInPセル3は、従来の3接合セルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0034】
トンネル接合層4e、4dはともに2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためにもう一対の層を挿入する等の公知の工夫をしてもよい。
【0035】
本実施例の具体的な断面構造を図2に示す。
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaInNPセル/ GaInNP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態2)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施形態2の基本的な構造を図3に示す。
【0036】
Ge基板1上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11、トンネル接合層4g、GaInPセル3が順次積層される。
【0037】
基板にはGe単結晶1を用い、Ge基板1の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0038】
GaSbPセル11はEg:約1.4eVを有しP組成が例えば約65%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。
【0039】
GaInPセル3は、従来のセルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0040】
トンネル接合層4e、4f、4gはいずれも上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0041】
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/ GaSbP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態3)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施形態3の基本的な構造を図4に示す。
【0042】
pn接合が形成されたGe基板1の上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11が順次積層される。
【0043】
Ge基板1上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。
GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%程度であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0044】
GaSbPセル11はEg:約1.9eVを有しP組成が例えば約80%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。
【0045】
トンネル接合層4e、4fはともに上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0046】
本実施形態の具体例として、GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態4)
本発明によるIII-V族系化合物半導体4接合型太陽電池セルの実施形態の基本的な構造を図5に示す。
【0047】
pn接合が形成されたGeセル1a上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11、トンネル接合層4g、GaInPセル3が順次積層される。
【0048】
Geセル1a上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。
GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0049】
GaSbPセル11はEg:約1.4eVを有しP組成が例えば約65%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。ここでもこのpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでトップセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよいことは言うまでもない。
【0050】
GaInPセル3は、従来のセルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0051】
トンネル接合層4e、4f、4gはいずれも上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0052】
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
【実施例】
【0053】
次に実施形態1に係る図2のセルを一例として、具体的な製造方法を図を基に説明する。図6〜12は実施形態1に係る太陽電池セルの製造工程を示す概略断面図である。
【0054】
エピタキシャル成長工程は、有機金属を用いた気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)が使用される。ここではMOCVD装置を使ったMOCVD成長を例に説明する。III族材料には例えばトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMIn)などの有機金属が水素をキャリアガスとして成長装置に供給される。V族材料には例えばアルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)、スチビン(SbH3)または有機金属であるトリメチルアンチモニイ(TMSb)、ジメチルヒドラジン(DMHy)またはアンモニア(NH3)などが使われる。ドーパントはp型化には例えばジエチルジンク(DEZ)、カーボンクロライド(CCl4)、n型化には例えばモノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、セレン化水素(H2Se)などが使われる。
【0055】
これらの材料ガスを例えば700℃に加熱された基板上に供給することで熱分解し、所望の化合物半導体材料の薄い層をエピタキシャル成長する。成長層の組成は導入するガスの量をコントロールすることで、基本的にGeと格子整合するよう調整される。各層の厚さはガスの導入時間でコントロールされる。
【0056】
基板として用いるのはp型Geであり、キャリア濃度は約1X1017〜1X1018/cm3である。ここで基板の低コスト化を意図して、Siウエーハを基板として別途、例えばSi2H6とGeH4を原料とするガスソースMBE法、SiCl2H2とGeH4を用いた常圧CVD法などの公知の成長法を用いてSi1-xGexの成長と連続的または段階的な組成変更を行い、表面の組成をGeとした基板を用いてもよい。この場合でもGe表面のキャリア濃度は約1X1017〜1X1018/cm3が適当である。
【0057】
まずこの基板上に直上層7としてGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの約0.05〜0.2μm程度の薄膜層を形成した後、トンネル接合層4eを、例えばn+ +型GaInP層4e1、p++ 型GaInP層4e2を積層することにより形成する。n+ +型GaInP層4e1およびp++ 型GaInP層4e2の層厚は約0.01〜0.02μm程度、キャリア濃度はともに約1×1020/cm3である。
【0058】
これらの成長の過程でPがp型Ge基板に拡散し、n型Ge層1a2が形成される(図6)。この拡散層の厚さは約0.1〜0.2μmであり,図6の1a1がもともとのp型Geの部分である。
【0059】
続いてGaInNPセル6を、p+型GaInNP裏面電解層61、p型GaInNP層62、n型GaInNP層63、n型GaInNP窓層64を積層することにより形成する(図7)。p+型GaInNP裏面電解層61の層厚は約0.1〜1μm、キャリア濃度は約1×1017〜1×1018/cm3程度である。p型GaInNP層62の層厚は約3〜0.5μm、キャリア濃度は約1×1016〜1×1017/cm3程度である。n型GaInNP層63の層厚は約0.2〜0.05μm、キャリア濃度は約1×1018〜1×1019/cm3程度である。n型GaInNP窓層64の層厚は約0.01〜0.05μm、キャリア濃度は約2×1018〜2×1019/cm3程度である。
【0060】
続いてトンネル接合層4dを、例えばn+ +型AlGaInP層4d1、p++ 型AlGaInP層4d2を積層することにより形成する(図8)。n+ +型AlGaInP層4d1、p++ 型AlGaInP層4d2の層厚は約0.01〜0.02μm程度、キャリア濃度はともに約1×1020/cm3である。
【0061】
続いてGaInPセル3を形成するp+型GaInP裏面電解層31、p型GaInP層32、n型GaInP層33、n型GaInP窓層34を形成する(図9)。p+型GaInP裏面電解層31の層厚は約0.01〜1μm、キャリア濃度は約2×1017〜2×1018/cm3程度である。p型GaInP層32の層厚は約1〜0.1μm、キャリア濃度は約1×1016〜1×1017/cm3程度である。n型GaInP層33の層厚は約0.2〜0.01μm、キャリア濃度は約1×1018〜1×1019/cm3程度である。n型GaInP窓層34の層厚は約0.01〜0.05μm、キャリア濃度は約2×1018〜2×1019/cm3程度である。
【0062】
その後、セルの受光面側にくし型の集電電極9が公知のフォトリソグラフィや真空蒸着法やスパッタリング法といった公知技術を用いて形成される(図10)。材料としては、例えばAu-Ge/Niなどが利用できる。
【0063】
続いてセルの表面に反射防止膜10が真空蒸着法やスパッタリング法で形成される(図11)。反射率を効果的に低減するために反射防止膜は2層であっても良い。例えばMgFx/ZnS、Al2Oy/TiOxなどが利用できる。
【0064】
最後にセル裏面に電極8が真空蒸着法やスパッタリング法で形成され、適切な熱処理が施されてセルが完成する(図12)。材料としては、例えばAg、Pd、In-Ga合金などが利用できる。
【0065】
以上は製造法の一例であって、必要に応じてこの構造に適宜新たな成長層を追加しても削除しても良い。例えば表面のn型GaInP窓層34と上述のくし型の集電電極9との間に、直列抵抗軽減のためのn+ +型層を設けるなどの工夫をしても良い。
【0066】
また、本実施形態では、3接合、4接合セルについて例を挙げたが、光電変換層のバンドギャップを調整することにより、5接合以上のセルを作製しても良い。
【0067】
本発明は光電変換に寄与する主材料がGaInNP系、GaSbP系、GaInP系の組み合わせであって、基板直上層がGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成であり、太陽電池のすべての層に砒素を含まない構成であればいかなるものでもよい。
【0068】
またここでは製造の一実施例として、実施の形態1に示した構造の太陽電池セルの製造法を詳述したが、これ以外の形態の実施例についてもエピ成長構造の詳細が異なるだけで基本的に同様である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態1に係るIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの概略断面図である。
【図2】図1に示すセルの具体的な断面構造の一例。
【図3】本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施例(その2)の基本的構造を示す断面図。
【図4】本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施例(その3)の基本的構造を示す断面図。
【図5】本発明によるIII-V族系化合物半導体4接合型太陽電池セルの実施例の基本的構造を示す断面図。
【図6】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図7】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図8】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図9】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図10】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図11】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図12】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図13】従来の2接合セルの基本構造を示す断面図。
【図14】従来の3接合セルの基本構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0070】
1 Ge基板
1a Geセル
3 GaInPセル
4d トンネル接合層
4e トンネル接合層
4f トンネル接合層
4g トンネル接合層
6 GaInNPセル
7 直上層
11 GaSbPセル
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池デバイスに関し、より具体的にはIII-V族系化合物半導体を用いた多接合型太陽電池の構成材料および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工衛星等宇宙機の電源に使用される宇宙用太陽電池セルには、GaAsなどのIII-V族系化合物半導体を主材料に用いた多接合型の太陽電池セルを使用する例が増えている。これらのセルは、従来の宇宙用Si太陽電池セルに比べて高い光電変換効率が期待できるので、Siセルでは設計が困難であった大電力衛星や多機能衛星などへの使用に適している。また各種のレンズで太陽光を集光して太陽電池セルに照射することで高い出力を得ようとする集光システム用の太陽電池セルとしても、III-V族系多接合型太陽電池セルを使用する試みがなされている。
【0003】
この従来の多接合型太陽電池セルの基本的な構造は、光電変換領域(pn接合)を2つ有する2接合セルと3つ有する3接合セルがある(特許文献1および特許文献2参照)。まず2接合セルの構造を図13に示す。太陽光入射側の表面に形成される第1の太陽電池(トップセル)3の材料にGa1-xInxP、トップセルの下に形成される第2の太陽電池(ボトムセル)2の材料にGaAsが用いられ、両者はトンネル接合層4により接続されている。基板1にはGaAsまたはGe単結晶ウエーハが用いられている。トップセルのGa1-xInxPの組成比はx=0.49程度の値をとり、ボトムセルのGaAsと格子定数が一致するよう意図されている。また、これら材料の格子定数は基板であるGeの格子定数にもほぼ等しく、Ge基板上に比較的容易にエピタキシャル成長できるよう意図されている。このとき、トップセルの禁制帯幅(バンドギャップ)Egは約1.9eV、ボトムセルの禁制帯幅Egは約1.4eVである。この従来の2接合型セルは、宇宙空間での太陽スペクトルを模した光源(AM0)を用いた特性試験で、実験室レベルで約26%、工業製品レベルで約22%の変換効率を達成している。
【0004】
3接合セルは、図14に示すように、基板にGe単結晶ウエーハが用いられ、そのGe基板に第3の太陽電池(pn接合)が形成されている。全体としてはGaInP(トップセル)/GaAs(ミドルセル)/Ge(ボトムセル)の構成を成しており、各セル間はトンネル接合4および4aで接続されている。変換効率は上記と同様に実験室レベルで約29%、工業製品レベルで約27%が達成されている。
【0005】
さらにこれらのセルを改善した次世代の多接合型太陽電池セルが、非特許文献1に示されている。ここで著者のFriedmanらはボトムセル材料としてはGeのEgは小さすぎることを指摘し、ボトムのGeセルをEg:約1eVのGaInNAsセルに置き換えた次世代3接合セル、従来の3接合セルのGaAsミドルセルとGeボトムセル間に上記GaInNAsセルを挿入した4接合セルを提案している。これによって期待される変換効率は改良型3接合セルで38%、4接合セルで41%(ともにAM0)とされている。
【0006】
また、特許文献3には、基板にGaAsあるいはSiを用い、半導体基板、p型半導体層及びn型半導体層のうちの少なくとも1つをIII−V族混晶半導体に窒素(N)を含有せしめた半導体を用いて形成した太陽電池が開示されており、その例としてGaInNAs、GaInNP、AlInNP、GaNAsSb、GaNP、GaNPAsが挙げられている。
【特許文献1】米国特許5223043号
【特許文献2】米国特許5405453号
【特許文献3】特開平10−12905号公報
【非特許文献1】D.J. Friedman et al. , “1-eV GaInNAs Solar Cells for Ultrahigh-Efficiency Multijunction Devices”, Proceeding of The 2nd World Conference and Exhibition on Photovoltaic Solar Energy Conversion, 6-10 July 1998 Vieea, Austria.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2および非特許文献1のような現状技術と展望にもかかわらず、III-V族系多接合型太陽電池セルの工業化は容易に進展していない。その工業化を阻害する最大の要因のひとつに、セル組成に有毒な元素であるAs(砒素)を含むことがあげられる。特許文献3においても、窒素を含むことによるバンドギャップ、格子定数の変化を利用して、高効率な太陽電池を作成することが目的であり、砒素を用いない太陽電池の作製が目的とはされていない。
【0008】
砒素およびその化合物が人体に極めて有害であることは古くから知られており、毒物劇物取締法や水質汚濁防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などにより、国内はもとより世界各国でその取扱いや処分に厳しい規制がある。さらにIII-V族系多接合型太陽電池セルの量産に最適な「有機金属を用いた気相成長法(MOCVD法)」でGaAs成長に使用するAsH3(アルシン)ガスは、有毒、可燃性・爆発性の極めて危険なガスであり、特殊高圧ガスに指定され厳しく規制されている。これらに対応するためには廃液処理装置や排ガス処理装置、検知警報システムなどに多額の投資が必要であり、これが製品単価をアップさせる。また万一事故が発生した場合はその企業に計り知れないダメージを与える。勿論、砒素に限らず一般に半導体産業で使用する多くの元素は環境上なんらかの影響が懸念されるが、量的制限や用途制限などで比較的容易にその影響を回避できる場合や、発生が懸念される疾患が急性であるか慢性であるか等でその社会的な影響度は大きく異なる。しかし砒素の場合は和歌山毒物カレー事件等によってその危険性の認識が一般市民のレベルにまで高まっており、その使用は工場誘致に際しての各種許認可の取得や地域住民の不安解消など,技術的な面以外でもさまざまな社会的問題を派生させる。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成る多接合型太陽電池とした。
【0011】
この構成によれば、Ge基板上にGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなる直上層を形成し、その後、成長層としてAl,Ga,Inと,N,P,Sbの元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶を形成することにより、セルの組成に砒素元素を含まず、かつ従来の組成のセルと同等の変換効率が期待できるIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaInNPの組成からなる構造とした。
【0013】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaSbPの組成からなる構造とした。
【0014】
また、本発明は、前記成長層中の光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなる構造とした。
【0015】
また、本発明は、前記直上層及び成長層は前記Ge基板と格子整合することが望ましい。
また、本発明は、前記Ge基板にはpn接合が形成されていることが望ましい。
【0016】
また、本発明は、前記Ge基板の替わりに,Siウエーハ上にSi1-xGexの成長と成長層の連続的または段階的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明による多接合型太陽電池は,すべて組成に砒素を含まないIII-V族系化合物半導体材料の組み合わせから成るため、従来工業化を阻害する要因のひとつになっていた砒素対策を必要としない。また、これらの材料はすべてGe基板とほぼ格子整合し、光学的にも従来のIII-V族系多接合型太陽電池と同等のエネルギーギャップの組み合わせであるため、従来と遜色ない変換効率38%以上が理論上期待出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
複数のpn接合から成る太陽電池セルの、期待される変換効率を理論計算して議論した文献は上記Friedmanら以外にもいくつかあるが、総じてそこで述べられているポイントをまとめると、
(1)入射光のスペクトル分布に適合したバンドギャップの組み合わせに対応する半導体材料を選択する必要があること、
(2)高変換効率を得るためには高い結晶性が必要であり,上記材料が単結晶基板上に格子整合してエピタキシャル成長した構造が望ましいこと、
である。
【0019】
太陽電池セルの自立した結晶系基板としては、価格や入手容易性、強度等を考慮すると、SiあるいはGeしか現状考えられない。このうちSi基板は、これと組み合わせ可能なバンドギャップ値を有しかつ格子整合するような適当な材料が見当たらず、現在の多接合型セルではもっぱらGe基板が使用されている。これを念頭に置いた場合、望ましいバンドギャップ値の組み合わせは、3接合セルでは、
トップセル(Eg:約1.9eV)/ミドルセル(Eg:約1.0eV)/ボトムセル(Eg:約0.67eV)
または
トップセル(Eg:約1.9eV)/ミドルセル(Eg:約1.4eV)/ボトムセル(Eg:約1.0eV),
4接合セルは、
トップセル(Eg:約1.9eV)/第1ミドルセル(Eg:約1.4eV)/第2ミドルセル(Eg:約1.0eV)/ボトムセル(Eg:約0.67eV)
となる。
【0020】
本発明のねらいは、従来GaAsやGaInAs,GaInNAsなど主に砒素を含むIII-V族混晶材料が担ってきた光電変換を、GaInNP、GaSbPという材料を利用することで、砒素フリーのIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルを得ることにある。
【0021】
発明者らは砒素を含まない各種のIII-V族系化合物半導体およびその混晶材料について太陽電池材料としての適用可能性の観点から鋭意検討を重ねてきたが、そのなかでDMHy(ジメチルヒドラジン)をN源とするMOCVD法でGaInPへのN添加を試みたところ、フォトルミネッセンスの発光ピーク波長のN添加に伴う長波長側へのシフトを観察することが出来た。これより、砒素を含まないGaInPにNを加えたGaInNPでも約1.0eVないしそれ以上のバンドギャップを実現できることがわかり、太陽電池材料への適用可能性を有するとの感触を得た。
【0022】
さらに、GaSbPの太陽電池への適用可能性について検討した。Sb(アンチモン)は、例えばわが国の水質環境基準の要監視項目などに指定されており、一般には毒性のある元素と認識されている。しかし、Sb化合物についてはGaSbやInSbなど一部の材料を除いて比較的データが少なく、よく知られていない。
【0023】
また最近その毒性評価について過剰評価ではないかとの指摘があり、再検討の動きが出ている。例えばEPA(米国環境保護庁)は優先試験リストからSbを除外したり、リスク管理審査の対象から外したりしており、近い将来Sbに関する基準は大幅に緩和される可能性がある。また砒素との比較の観点からは、毒性に著しい違いがあると言われており、社会的な関心も現状高くない。
【0024】
発明者らはこれらの状況も踏まえつつ、GaPとGaSbの混晶材料であるGaSbPに注目してきた。すなわち、GaSb1-XPXにおいては組成xをコントロールすることで、Eg:2.26eV (x=1)からEg:0.7eV (x=0)までの広い範囲でエネルギーギャップ値を制御することが出来るという特徴を有する。発明者らは、TMG(トリメチルガリウム)とTMSb(トリメチルアンチモニイ)、PH3(フォスフィン)ガスを主原料とするMOCVD法でGaSbへのP添加を試みており、X線回折による格子定数の精密測定によってP添加による格子定数の低下を観察した。この結果からGaSbPが太陽電池材料として適用可能であると判断した。
【0025】
本発明においては、光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなる構造とした。これらの組成の光電変換層を用いることにより、上述した最適なバンドギャップを実現することができ、砒素を使用することなく従来の構造の太陽電池と同等の変換効率を実現することができる。
【0026】
本発明におけるさらにもう一つのポイントは、Ge基板の直上の薄い成長層として、太陽電池セルの光電変換領域で使用する材料であるGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPを使うことにある。
【0027】
従来、Ge基板上で均一な核成長とそれに続く高品質なエピタキシャル成長を実現するためには、下地材料としてGaAsの薄い低温成長層をGe基板直上に形成することが不可欠であった。この部分はそれ以降の成長の基礎となるところであり、あえて組成不均一の可能性を有するGaInP等の混晶材料を用いる発想も、またその必要性もなかった。しかし、上記のように砒素フリーの太陽電池セルを実現するためには、この工程においてもGaAsの使用を避けねばならない。
【0028】
そこで発明者らは太陽電池セルの光電変換領域で使用するGaInP、GaSbP、GaInNPで代替を試みたところ、果たしてこれらの層の上にも高品質のエピタキシャル成長が可能であることが実験的に明らかになった。このことは新たな材料や新たな条件的制約を持ち込むことなく、Geと格子整合した高品質のエピ層を供給できる下地材料の供給が可能であることを意味し、これによってGe基板上に砒素をまったく含有しないIII-V族系化合物半導体多接合型太陽電池セルの実現が可能となる。
【0029】
また、本発明において、Ge基板上に形成される直上層およびその上部に形成される成長層は、Ge基板と格子整合することが望ましい。Ge基板と格子整合することで、結晶欠陥の少ないより高品質な単結晶膜を形成することができ、太陽電池の変換効率を向上することが可能となる。
(実施の形態1)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの実施形態1の基本的な構造を図1に示す。光の入射方向を同図に示すが、以後各層の光入射側を各層の表面、対する側を裏面と記す(以下すべての図において入射方向は同じであるので以降表示を略す)。
【0030】
pn接合が形成されたGe基板の上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4d、GaInPセル3が順次積層された構造である。
【0031】
基板にはGe単結晶を用い、MOCVD成長時にPが拡散することでGe基板中にpn接合が形成され、Geセル1aとなる。Ge基板の替わりに、Siウエーハ上にSi1-xGexの成長層の連続的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いてもよい(これは以下すべての実施形態でも同様なので以降記述を略す)。Ge基板をSiに替えることで、宇宙用として使用する場合はセルの軽量化が期待でき、集光用として使用する場合はセルの放熱特性の改善を図ることが期待できる。
【0032】
Ge上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。この窓層や裏面電界層の具体例は後述の実施例に示す。
【0033】
GaInPセル3は、従来の3接合セルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0034】
トンネル接合層4e、4dはともに2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためにもう一対の層を挿入する等の公知の工夫をしてもよい。
【0035】
本実施例の具体的な断面構造を図2に示す。
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaInNPセル/ GaInNP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態2)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施形態2の基本的な構造を図3に示す。
【0036】
Ge基板1上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11、トンネル接合層4g、GaInPセル3が順次積層される。
【0037】
基板にはGe単結晶1を用い、Ge基板1の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0038】
GaSbPセル11はEg:約1.4eVを有しP組成が例えば約65%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。
【0039】
GaInPセル3は、従来のセルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0040】
トンネル接合層4e、4f、4gはいずれも上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0041】
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/ GaSbP直上層/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態3)
本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施形態3の基本的な構造を図4に示す。
【0042】
pn接合が形成されたGe基板1の上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11が順次積層される。
【0043】
Ge基板1上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。
GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%程度であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0044】
GaSbPセル11はEg:約1.9eVを有しP組成が例えば約80%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。
【0045】
トンネル接合層4e、4fはともに上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0046】
本実施形態の具体例として、GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
(実施の形態4)
本発明によるIII-V族系化合物半導体4接合型太陽電池セルの実施形態の基本的な構造を図5に示す。
【0047】
pn接合が形成されたGeセル1a上に、直上層7、トンネル接合層4e、GaInNPセル6、トンネル接合層4f、GaSbPセル11、トンネル接合層4g、GaInPセル3が順次積層される。
【0048】
Geセル1a上の直上層7にはGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの薄膜層を用いる。
GaInNPセル6は、約1.0eVのEgを有しN組成は例えば10%未満であり、少なくともp層とn層の接合(pn接合)を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでボトムセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよい。また基板からの構成元素や不純物の拡散を防止するためのバッファ層を有してもよい。
【0049】
GaSbPセル11はEg:約1.4eVを有しP組成が例えば約65%であり、少なくともp層とn層の接合を含む。ここでもこのpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層や裏面側に公知の裏面電界層等を設けることでトップセルのキャリア収集効率を高める工夫を有してもよいことは言うまでもない。
【0050】
GaInPセル3は、従来のセルと同様In組成約49%の組成であり、少なくともp層とn層の接合を含む。このpn接合をはさんで、例えば表面側に公知の窓層、裏面側に公知の裏面電界層等を設けても良い。また、さらにバンドギャップを広めるためにAlを添加したAlGaInPセルを用いてもよい。
【0051】
トンネル接合層4e、4f、4gはいずれも上下2つのセルを電気的に接続するための公知の高濃度ドープpn接合であり、少なくとも一対のp+層とn+層を含む。このp+層、n+層をはさんで、この高濃度ドープ層からの不純物拡散を抑制するためのもう一対の層を挿入する等の公知の工夫を有してもよい。
【0052】
本実施形態の具体例として、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、GaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaSbP直上層/Geセル/Ge基板、AlGaInPセル/GaSbPセル/GaInNPセル/GaInNP直上層/Geセル/Ge基板の構造が挙げられる。
【実施例】
【0053】
次に実施形態1に係る図2のセルを一例として、具体的な製造方法を図を基に説明する。図6〜12は実施形態1に係る太陽電池セルの製造工程を示す概略断面図である。
【0054】
エピタキシャル成長工程は、有機金属を用いた気相成長法(MOCVD法)や分子線エピタキシー法(MBE法)が使用される。ここではMOCVD装置を使ったMOCVD成長を例に説明する。III族材料には例えばトリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMIn)などの有機金属が水素をキャリアガスとして成長装置に供給される。V族材料には例えばアルシン(AsH3)、ホスフィン(PH3)、スチビン(SbH3)または有機金属であるトリメチルアンチモニイ(TMSb)、ジメチルヒドラジン(DMHy)またはアンモニア(NH3)などが使われる。ドーパントはp型化には例えばジエチルジンク(DEZ)、カーボンクロライド(CCl4)、n型化には例えばモノシラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)、セレン化水素(H2Se)などが使われる。
【0055】
これらの材料ガスを例えば700℃に加熱された基板上に供給することで熱分解し、所望の化合物半導体材料の薄い層をエピタキシャル成長する。成長層の組成は導入するガスの量をコントロールすることで、基本的にGeと格子整合するよう調整される。各層の厚さはガスの導入時間でコントロールされる。
【0056】
基板として用いるのはp型Geであり、キャリア濃度は約1X1017〜1X1018/cm3である。ここで基板の低コスト化を意図して、Siウエーハを基板として別途、例えばSi2H6とGeH4を原料とするガスソースMBE法、SiCl2H2とGeH4を用いた常圧CVD法などの公知の成長法を用いてSi1-xGexの成長と連続的または段階的な組成変更を行い、表面の組成をGeとした基板を用いてもよい。この場合でもGe表面のキャリア濃度は約1X1017〜1X1018/cm3が適当である。
【0057】
まずこの基板上に直上層7としてGaInPまたはGaSbPまたはGaInNPの約0.05〜0.2μm程度の薄膜層を形成した後、トンネル接合層4eを、例えばn+ +型GaInP層4e1、p++ 型GaInP層4e2を積層することにより形成する。n+ +型GaInP層4e1およびp++ 型GaInP層4e2の層厚は約0.01〜0.02μm程度、キャリア濃度はともに約1×1020/cm3である。
【0058】
これらの成長の過程でPがp型Ge基板に拡散し、n型Ge層1a2が形成される(図6)。この拡散層の厚さは約0.1〜0.2μmであり,図6の1a1がもともとのp型Geの部分である。
【0059】
続いてGaInNPセル6を、p+型GaInNP裏面電解層61、p型GaInNP層62、n型GaInNP層63、n型GaInNP窓層64を積層することにより形成する(図7)。p+型GaInNP裏面電解層61の層厚は約0.1〜1μm、キャリア濃度は約1×1017〜1×1018/cm3程度である。p型GaInNP層62の層厚は約3〜0.5μm、キャリア濃度は約1×1016〜1×1017/cm3程度である。n型GaInNP層63の層厚は約0.2〜0.05μm、キャリア濃度は約1×1018〜1×1019/cm3程度である。n型GaInNP窓層64の層厚は約0.01〜0.05μm、キャリア濃度は約2×1018〜2×1019/cm3程度である。
【0060】
続いてトンネル接合層4dを、例えばn+ +型AlGaInP層4d1、p++ 型AlGaInP層4d2を積層することにより形成する(図8)。n+ +型AlGaInP層4d1、p++ 型AlGaInP層4d2の層厚は約0.01〜0.02μm程度、キャリア濃度はともに約1×1020/cm3である。
【0061】
続いてGaInPセル3を形成するp+型GaInP裏面電解層31、p型GaInP層32、n型GaInP層33、n型GaInP窓層34を形成する(図9)。p+型GaInP裏面電解層31の層厚は約0.01〜1μm、キャリア濃度は約2×1017〜2×1018/cm3程度である。p型GaInP層32の層厚は約1〜0.1μm、キャリア濃度は約1×1016〜1×1017/cm3程度である。n型GaInP層33の層厚は約0.2〜0.01μm、キャリア濃度は約1×1018〜1×1019/cm3程度である。n型GaInP窓層34の層厚は約0.01〜0.05μm、キャリア濃度は約2×1018〜2×1019/cm3程度である。
【0062】
その後、セルの受光面側にくし型の集電電極9が公知のフォトリソグラフィや真空蒸着法やスパッタリング法といった公知技術を用いて形成される(図10)。材料としては、例えばAu-Ge/Niなどが利用できる。
【0063】
続いてセルの表面に反射防止膜10が真空蒸着法やスパッタリング法で形成される(図11)。反射率を効果的に低減するために反射防止膜は2層であっても良い。例えばMgFx/ZnS、Al2Oy/TiOxなどが利用できる。
【0064】
最後にセル裏面に電極8が真空蒸着法やスパッタリング法で形成され、適切な熱処理が施されてセルが完成する(図12)。材料としては、例えばAg、Pd、In-Ga合金などが利用できる。
【0065】
以上は製造法の一例であって、必要に応じてこの構造に適宜新たな成長層を追加しても削除しても良い。例えば表面のn型GaInP窓層34と上述のくし型の集電電極9との間に、直列抵抗軽減のためのn+ +型層を設けるなどの工夫をしても良い。
【0066】
また、本実施形態では、3接合、4接合セルについて例を挙げたが、光電変換層のバンドギャップを調整することにより、5接合以上のセルを作製しても良い。
【0067】
本発明は光電変換に寄与する主材料がGaInNP系、GaSbP系、GaInP系の組み合わせであって、基板直上層がGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成であり、太陽電池のすべての層に砒素を含まない構成であればいかなるものでもよい。
【0068】
またここでは製造の一実施例として、実施の形態1に示した構造の太陽電池セルの製造法を詳述したが、これ以外の形態の実施例についてもエピ成長構造の詳細が異なるだけで基本的に同様である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態1に係るIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの概略断面図である。
【図2】図1に示すセルの具体的な断面構造の一例。
【図3】本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施例(その2)の基本的構造を示す断面図。
【図4】本発明によるIII-V族系化合物半導体3接合型太陽電池セルの他の実施例(その3)の基本的構造を示す断面図。
【図5】本発明によるIII-V族系化合物半導体4接合型太陽電池セルの実施例の基本的構造を示す断面図。
【図6】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図7】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図8】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図9】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図10】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図11】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図12】本発明による図2のセルの製造方法を示すための断面図。
【図13】従来の2接合セルの基本構造を示す断面図。
【図14】従来の3接合セルの基本構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0070】
1 Ge基板
1a Geセル
3 GaInPセル
4d トンネル接合層
4e トンネル接合層
4f トンネル接合層
4g トンネル接合層
6 GaInNPセル
7 直上層
11 GaSbPセル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inの1または複数元素と,N,P,Sbの1または複数の元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成ることを特徴とする多接合型太陽電池セル。
【請求項2】
前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaInNPの組成からなることを特徴とする請求項1に記載の多接合型太陽電池。
【請求項3】
前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaSbPの組成からなることを特徴とする請求項1または2の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項4】
前記成長層中の光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項5】
前記直上層及び成長層は前記Ge基板と格子整合することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項6】
前記Ge基板にはpn接合が形成されていることを特徴する請求項1から5の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項7】
前記Ge基板の替わりに,Siウエーハ上にSi1-xGexの成長と成長層の連続的または段階的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いたことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項1】
Ge基板上に形成された直上層と、前記直上層上に積層された複数の成長層を有する多接合型太陽電池であって、前記直上層はGaInP、GaSbP、GaInNPの何れかの組成からなり、前記成長層はAl,Ga,Inの1または複数元素と,N,P,Sbの1または複数の元素の組み合わせから成るIII-V族化合物半導体もしくはIII-V族化合物半導体混晶から成ることを特徴とする多接合型太陽電池セル。
【請求項2】
前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaInNPの組成からなることを特徴とする請求項1に記載の多接合型太陽電池。
【請求項3】
前記成長層中の光電変換層の少なくとも一つはGaSbPの組成からなることを特徴とする請求項1または2の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項4】
前記成長層中の光電変換層はGaInP、GaInNP、AlGaInP、GaInNP、GaSbPの何れかの組成の組み合わせからなることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項5】
前記直上層及び成長層は前記Ge基板と格子整合することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項6】
前記Ge基板にはpn接合が形成されていることを特徴する請求項1から5の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【請求項7】
前記Ge基板の替わりに,Siウエーハ上にSi1-xGexの成長と成長層の連続的または段階的な組成変更を行うことで表面をGeとした基板を用いたことを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の多接合型太陽電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−189025(P2007−189025A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5188(P2006−5188)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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