説明

多柱式橋脚における柱脚構造

【課題】複数本の鋼管柱より構成される多柱式橋脚において、フーチングを省略することにより、安価でかつ短期間で施工可能な鋼管柱脚構造を提供すること。また、従来のパイルベント式橋脚が抱えていた地震力に対して発生する、基礎部の大きな水平変位や回転変形を抑制する柱脚構造を提供すること。
【解決手段】複数本の鋼管柱鋼管柱を連結部材により連結して橋脚を構成する多柱式橋脚において、前記鋼管柱と同数の鋼管杭が地中に配置され、前記鋼管柱と前記鋼管杭とが各々上下方向に接続され、かつ前記鋼管杭には外面軸方向に渡って連結用継手が固着されており、隣り合う前記鋼管杭の間に、側面軸方向に渡って継手を有する鋼製地中壁が配置され、前記連結用継手と前記鋼製地中壁の継手とが嵌合されて、前記鋼管杭と前記鋼製地中壁とが連結されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や鉄道の橋梁構造において、複数本の鋼管柱を連結部材により連結して橋脚を構成する多柱式橋脚における柱脚構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋脚高さが高く、かつ橋桁の支間長が大きな橋脚では、高所作業での施工性の向上および重量の軽減による耐震性能の向上の観点から、複数本の鋼管柱を連結部材により連結して1つの橋脚を構成する多柱式橋脚が採用される。本構造の例として、特許文献1および特許文献2記載の発明がある。特許文献1記載の発明は、鋼管柱を上下方向に連結しながら施工し、ブレースを配置した連結鋼管で隣接する鋼管柱を連結することにより、高所での作業の安全性の改善および工期の短縮を目的とした発明である。また、特許文献2記載の発明は、鋼管柱同士を低降伏点鋼で構成されたつなぎ部材で連結した多柱式橋脚であり、耐震性能の向上を目的とした発明である。
前記の多柱式橋脚の基礎構造はいずれもフーチングを設けた構造であるが、多柱式橋脚の鋼管柱と地中部に施工された鋼管杭とを連結した橋脚構造がある。本構造の例として特許文献3記載の発明がある。特許文献3記載の発明は、鋼管柱を鋼管矢板基礎に直接連結した構造であり、フーチングの施工を省略し、施工期間の短縮を目的とした発明である。
【0003】
【特許文献1】特開平7―42114号公報
【特許文献2】特開2005−299080号公報
【特許文献3】特開2004−300914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2記載の発明は、いずれもフーチングを設けた基礎構造で構成されているが、フーチングの施工は、施工コストが高く、大きな施工用地を必要とすることが課題であった。また、フーチングを設けた基礎構造は、上部に接続される多柱式橋脚構造と比較して曲げ剛性が非常に大きくなる。したがって、地震力などの水平荷重が作用した場合には、フーチングは剛体として挙動するために、多柱式橋脚の鋼管柱基部に損傷が集中することが課題である。すなわち、橋脚部と基礎部の剛性差が大きくなるほど、橋脚構造の地震時の変形性能を確保することができないことが課題である。
【0005】
一方、多柱式橋脚の鋼管柱と地中に配置した鋼管杭とを連結したパイルベント式柱脚構造がある。パイルベント式柱脚構造は、フーチングが省略できるために、施工コストおよび施工用地を縮減することができる。また、パイルベント式柱脚構造に地震力などの水平荷重が作用した場合には、橋脚構造と基礎構造の剛性差が小さいために、基部に発生する曲げモーメントに対して、橋脚構造の基部から基礎構造の杭頭部を含めた軸方向に長い区間で変形を吸収するために、過大な損傷が集中して生じることは少ない。しかし、基礎構造の鋼管杭には曲げモーメントのほかに、押込み力、引抜き力および水平力が作用する。パイルベント式柱脚構造では鋼管杭の水平方向の地盤抵抗面積が小さいために水平力に対して、水平方向の変位が大きくなる。さらには、鋼管杭の引抜き抵抗は、押込み抵抗より小さいために、鋼管杭に引抜きが発生し、基礎部の回転変形が大きくなる。
【0006】
また、地震時において、基礎部に大きな水平変位や回転が発生すると、橋脚部にはより大きな水平変位が発生するために、特に、鋼管柱脚の上部に枕梁を設置し、その上部に橋桁を架設した支承形式の橋脚構造では、橋桁の落下の危険性があることが課題である。また、橋桁の落下を免れる場合においても、基礎部周囲の地盤に大きな変形を生じるために、地震後の残留変位が大きくなり、補修が困難になることが課題である。特に軟弱な地盤に建設される場合には地震時の水平変位が大きくなり地震時の性能を満足できなくなる。
【0007】
特許文献3記載の発明は、鋼管柱を鋼管矢板基礎の鋼管杭と直接連結した構造であるために、フーチングの施工を必要とせず、工期の短縮および施工用地の縮減を実現する工法である。しかし、鋼管矢板基礎は、多数の鋼管矢板が必要とされるために、施工コストが高くなることが課題である。また、橋脚部の曲げ剛性と比較して、鋼管矢板基礎部の曲げ剛性が非常に大きくなることから、地震力などの水平荷重が作用した場合には、橋脚基部に損傷が集中し、充分な変形性能を確保できないことが課題である。特に、鋼管矢板基礎頭部を頂版コンクリートで連結した基礎構造の場合には、前記フーチングを設けた基礎構造と同様に剛体として挙動することから、さらに基礎部の曲げ剛性が過大となり、橋脚基部への損傷の集中が増長される。
【0008】
本発明の目的は、複数本の鋼管柱を連結部材により連結して橋脚を構成する多柱式橋脚において、大きな施工用地を必要とせず、安価な施工コストでかつ耐震性に優れた柱脚構造を提供することにある。さらには、橋脚部と基礎部が等価な曲げ剛性を持つ構造とすることにより、地震時に作用する曲げモーメントに対して橋脚基部での過大な損傷を避けるとともに、基礎部に大きな水平抵抗力と引抜き抵抗力を確保することにより耐震性能に優れた柱脚構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明では次の構成を採用する。
第1の発明は、複数本の鋼管柱を連結部材により連結して構成される多柱式橋脚における柱脚構造であって、前記鋼管柱と同数の鋼管杭が地中に配置され、前記鋼管柱と前記鋼管杭とが各々上下方向に接続され、かつ前記鋼管杭には外面軸方向に沿った連結用継手が固着されており、隣り合う前記鋼管杭の間に、側面軸方向に沿った継手を有する鋼製地中壁が配置され、前記連結用継手と前記鋼製地中壁の継手とが嵌合されて、前記鋼管杭と前記鋼製地中壁とが連結されていることを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記鋼製地中壁が鋼矢板で構成されることを特徴とする。
第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記鋼製地中壁の上部にコンクリート梁が設けられ、当該コンクリート梁により隣り合う前記鋼管杭同士が連結されていることを特徴とする。
第4の発明は、第1〜第3の発明のいづれかの発明において、前記鋼管柱と前記鋼管杭の接続部において、前記鋼管杭内に前記鋼管柱が差し込まれていると共に、前記鋼管柱と前記鋼管杭との間隙にコンクリートが充填されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、複数本の鋼管柱を連結部材により連結して橋脚を構成した多柱式橋脚における柱脚構造であって、鋼管柱と鋼管杭が各々上下方向に接続され、かつ隣り合う鋼管杭の間が鋼製地中壁で連結された構造であるため、フーチングの施工を必要とせず、建設コストおよび施工用地を削減することができる。また、橋脚部と基礎部が等価な曲げ剛性を持つ構造であるために、地震時に作用する外力に対して、橋脚基部での過度の損傷を生じることが無く、橋脚と基礎が一体として外力に抵抗するために優れた変形性能を発揮することができる。さらには、鋼管杭と鋼製地中壁が一体として外力に抵抗するために、基礎部に作用する水平力に対しては、鋼管杭の地盤抵抗に加えて、鋼製地中壁が抵抗し水平変位が抑制されるとともに、基礎部に作用する曲げモーメントに対しては、鋼管杭の引抜き抵抗に加えて、鋼製地中壁の引抜き抵抗が作用するために基礎部の回転変形を抑制し、地震時の安全性をより高めることができる。
また、鋼製地中壁に鋼矢板を用いる場合には、鋼製地中壁を地上から地中部に打設することが可能となるために、堅実な鋼製地中壁を構成することが可能であり、確実な施工を実現することができる。さらに、鋼製地中壁の上部をコンクリート梁により連結することにより、鋼製地中壁間での荷重伝達を可能とし、鋼製地中壁から均等に水平荷重を地盤に伝達することができるため、地震時の安全性を飛躍的に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図を用いて本発明を実施するための最良の形態について述べる。
図1および図2は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る柱脚構造の正面図および側面図である。また、図3は、本発明の第1の実施形態に係る柱脚構造の断面図であり、図3(A)および図3(B)は、各々図1、図2における鋼管柱部の断面図(IIIA−IIIA矢視図)、鋼管杭部の断面図(IIIB−IIIB矢視図)である。本実施形態では、4本の鋼管柱1が地上に配置され、各々の鋼管柱は連結部材9により水平方向に連結され多柱式橋脚を構成している。さらに鋼管柱1の上部は橋桁5と接続されたラーメン形式の柱脚構造である。地中部には4本の鋼管杭2が配置され、鋼管柱1と鋼管杭2が上下方向に接続されている。鋼管杭2の外面軸方向にはあらかじめ連結用継手3が固着されており、連結用継手3を介して隣り合う鋼管杭2の間に複数の鋼矢板からなる鋼製地中壁4が連結されている。
このような鋼管柱1と鋼管杭2を直接接続した構造とすることにより、フーチングの施工を省略できるために、工期を短縮し、かつ施工用地を削減することができる。また、フーチングを配置しない構造であるために、地上部の柱脚部の曲げ剛性と地中部の基礎部の曲げ剛性がほぼ等価であるために、地震時に作用する曲げモーメントに対して橋脚基部での過度の損傷を避けることができる。
【0012】
図4および図5(A)は、それぞれ本発明の第1の実施形態に係る抵抗機構の模式図の正面図および平面図である。また、図5(B)は従来のパイルベント式柱脚構造に係る抵抗機構の模式図の平面図である。
橋梁構造に地震力などの水平力Pが作用すると、鋼管杭2の頭部には曲げモーメントに加えて、水平力が作用する。さらに、前面側の鋼管杭2aには鉛直方向の押込み力が作用し、背面側の鋼管杭2bには鉛直方向の引抜き力が作用する。
図5(B)に示す従来のパイルベント式柱脚構造では、地中部の鋼管杭2a、2bの水平力に対して、鋼管杭の水平地盤抵抗力10aで抵抗するために、水平方向の抵抗面積は鋼管杭径のみである。一方、本発明の柱脚構造では、図5(A)に示すように、鋼管杭2a、2bと鋼製地中壁4a、4bは連結用継手(図示せず)を介して連結されているために、鋼管杭2a、2bの水平力は連結用継手を介して鋼製地中壁4a、4bに伝達され、鋼管杭2a、2bの水平地盤抵抗力10aに加えて、前面側の鋼製地中壁4aおよび背面側の鋼製地中壁4bの水平地盤抵抗力10bで抵抗する。さらに、側面の鋼製地中壁4cにおいても、側面方向の地盤摩擦抵抗10cが抵抗することとなる。従って、本発明の構造では、従来構造より大幅に水平抵抗力が増加するために、同じ水平力が作用した場合には、地盤に発生する応力を小さくすることができ、また水平変位を小さくすることができる。
【0013】
一方、従来のパイルベント式柱脚構造では、前面側の鋼管杭2aに作用する鉛直方向の押込み力に対して、鋼管杭2aの周面押込み抵抗11と鋼管杭の先端抵抗11aにより抵抗し、背面側の鋼管杭2bに作用する引抜き力に対しては、鋼管杭2bの周面引抜き抵抗12により抵抗する。一般的に、鋼管杭の周面抵抗は先端抵抗よりも小さいために、過大な地震力が作用すると、鋼管杭に引抜きが発生し、橋脚の倒壊もしくは橋脚基部に過大な回転変形が生じることが課題であった。本発明の構造では、前面および背面に配置した鋼製地中壁4aおよび4bの周面も抵抗するために、特に背面側の引抜き抵抗力を向上させることにより、橋脚の回転変形を抑制することができる。
ここで、鋼管杭2の外径が1m、中心間隔が4mで配置されており、鋼管杭の間が鋼矢板からなる鋼製地中壁4で連結されている場合を考えると、抵抗する地盤の幅は従来の鋼管杭のみの場合の約2.5倍となる。ただし、深度方向の抵抗面積は、鋼管杭2と鋼矢板の曲げ剛性が影響するために、地盤抵抗の抵抗面積で比較した場合には、従来の鋼管杭のみと比較して約1.5倍となる。すなわち、地震力が作用した場合の鋼管杭の杭頭部に発生する水平変位は、従来の構造と比較して約1.5分の1に低減することができる。
【0014】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る柱脚構造の正面図である。また、図7は、本発明の第2の実施形態に係る柱脚構造の断面図を示し、図7(A),(B),(C)は、各々図4における鋼管柱部の断面図(VIIA−VIIA矢視図)、鋼管杭頭部の断面図(VIIB−VIIB矢視図)、鋼管杭部の断面図(VIIC−VIIC矢視図)を示す。本実施形態では、地上部には4本の鋼管柱1が配置され、各々の鋼管柱は連結部材9により水平方向に連結され多柱式橋脚を構成している。さらに鋼管柱1の上部に枕梁7が配置されて鋼管柱1に連結されており、枕梁7の上部に支承8を介して橋桁5が架設されている。従来のパイルベント式柱脚構造を用いた支承形式の橋梁構造では、地震時の水平変位が大きいために橋桁の落下の危険性があるが、本発明では地震時の水平変位を改善できるために、支承形式の高架構造も実現可能である。地中部には4本の鋼管杭2が配置され、鋼管柱1と鋼管杭2が上下方向に接続されている。鋼管杭2の外面軸方向にはあらかじめ連結用継手3が固着されており、連結用継手3を介して隣り合う鋼管杭2の間に鋼製地中壁4が連結されている。さらに、鋼製地中壁4の上部はコンクリート梁6が配置されている。
【0015】
また、鋼管杭2は支持力を確保するために、強固な支持層15に貫入されているが、鋼製地中壁4は支持層にまで配置する必要はなく、水平方向の地盤抵抗が有効な範囲以上に配置されていれば良い。たとえば、鋼製地中壁の長さは、1/β(m)の長さであれば良い。ここで、βは鋼製地中壁4の特性値であり、地盤の水平反力係数kh、鋼製地中壁4の幅B、鋼製地中壁のヤング係数E、鋼製地中壁の断面2次モーメントIを用いて、式(1)により算定される。鋼製地中壁4を必要最低限の長さに設置することにより、施工コストを削減することができる。これは、支承形式を用いない他の実施形態においても同様である。
【0016】
β={(kh・B)/(4・E・I)}0.25 (1/m) …(1)
【0017】
図8は、本発明の第3の実施形態に係る柱脚構造の正面図である。本実施形態では、地上部には各々矩形状に隣り合う4本の鋼管柱1を連結部材9aで連結して1組としたものを、一対(2組)として構成した多柱式橋脚が配置されている。さらに一対の多柱式橋脚の上部に枕梁7が配置されて各組の鋼管柱1に連結されており、枕梁7の上部に支承8を介して橋桁5が架設されている。
ここで特に、橋桁の幅員が広い場合には、複数の多柱式橋脚を橋軸直角方向に複数配置した橋脚構造となる場合がある。図1、2および図6の実施形態では、連結部材9が水平に配置された例を示しているが、図8では、連結部材9aを斜め方向に延びるブレース材とした例を示す。地中部においては、各々の鋼管柱1と鋼管杭2が上下方向に接続されている。本発明のように橋軸直角方向に複数の多柱式柱脚が配置された構造の場合には、橋軸方向と橋軸直角方向の抵抗力が異なるために、特に、橋軸方向の水平抵抗が不足する場合があることから、本発明の構造とすることにより、水平抵抗を飛躍的に改善し、耐震性能を向上させることができる。
【0018】
図9は、従来の鋼管矢板基礎における基礎壁部の平面図である。鋼管杭2には連結用継手3があらかじめ固着されており、連結用継手3を介して、複数本(4本)の鋼管杭2が連結された構造である。連結用継手3には、1対のスリット付きの鋼管同士を組み合わせたP−P継手や、一方の連結用継手がスリット付きの鋼管であり、他方の連結用継手がT字継手であり、スリット付きの鋼管とT字継手を組み合わせたP−T継手などが一般に用いられる。
【0019】
また、図10は本発明の柱脚構造の地中部における基礎壁部の平面図である。図10(A)において、鋼管杭2の外面には軸方向に沿って連結用継手3が固着されている。一方、鋼製地中壁4では、1枚の鋼板の両側面軸方向に沿って継手16が固着されている。そして、図10(A)における基礎壁部は、連結用継手3と鋼製地中壁4の継手16が嵌合されて鋼管杭2と鋼製地中壁4が連結された構造である。また、図10(B)〜(D)は鋼製地中壁4に鋼矢板17a、17bを用いた例である。図10(B)ではハット形状の鋼矢板17aを用いた例であり、鋼管杭2の外面軸方向には、ハット型鋼矢板17aの継手16と嵌合する連結用継手3が予め固着されている。連結用継手3がハット型鋼矢板17aと嵌合する継手であるために、継手間の隙間を少なくすることができ、鋼管杭と鋼矢板を強固に連結することができる。
【0020】
図10(C)には、別な連結継手を用いた例が示されている。鋼管杭2の外面軸方向に沿って軸方向にスリットを設けた小径の鋼管継手3が予め固着されている。このスリット幅は鋼製地中壁4の鋼矢板17aの板厚よりも大きく、鋼製地中壁4の継手16よりも小さい寸法に設定されている。鋼管杭2の施工後に、連結用継手3のスリットを介して、鋼矢板17aの継手16が嵌合されて連結された構造である。スリットを有する小径の鋼管継手3を用いることにより、施工誤差の吸収が可能となる。この連結構造において、継手での嵌合余裕が過大となる場合には、小径の鋼管継手3内にセメントなどを充填することにより、強固に連結することができる。また、図10(D)は、鋼製地中壁4にU型鋼矢板17bを用いた例を示す。
【0021】
ところで、図10(B)において、鋼管杭2の断面の中立軸と鋼矢板17aの断面の中立軸が一致していない場合には、連結用継手3でのせん断力の伝達が不十分であるために、鋼矢板17aの断面性能が充分に発揮されない。そこで、図10(B)では、鋼管杭2の中立軸13と鋼矢板17aの中立軸13が一致するように連結用継手3を配置した構造とすれば、連結用継手3と鋼矢板の継手16の間にせん断力が発生しないために、鋼管杭2と鋼矢板17aの断面性能を充分に発揮させ、効率的に水平力に抵抗することができる。
【0022】
また、フーチングを設けた基礎構造の上部に多柱式柱脚が構築された橋脚構造においては、一般に対して、地震力などの水平荷重が作用した場合には、フーチングは剛体として挙動するために、多柱式橋脚の鋼管柱基部に損傷が集中する。すなわち、橋脚部と基礎部の剛性差が大きくなるほど、橋脚構造の地震時の変形性能を確保することができなくなる。それに対して、本発明の構造では、橋脚部と基礎部が等価な曲げ剛性を持つために、地震時に作用する外力に対して、橋脚基部での過度の損傷を生じることが無く、橋脚と基礎が一体として外力に抵抗するために優れた変形性能を発揮することができる。
【0023】
ここで、橋脚部の鋼管柱の外径が1m、板厚が19mmの条件において、基礎部が図9に示す従来技術の鋼管矢板基礎の場合と、図10(B)に示す本発明の鋼管杭2本の間をハット型鋼矢板3枚で連結した基礎部構造の場合との曲げ剛性の比較を行う。
ここで、橋脚部の鋼管柱2本の断面二次モーメントは、1410000cm4である。図9に示す従来技術の鋼管矢板基礎の場合には、鋼管矢板4本の断面二次モーメントが、3520000 cm4となるのに対して、本発明の図10(B)に示す構造のの断面二次モーメントは、1410000cm4となる。
すなわち、従来の鋼管矢板基礎の曲げ剛性は橋脚部の2.5倍になるのに対して、本発明の基礎部の曲げ剛性は橋脚部とほぼ等価である。したがって、本発明の構造では、橋脚部と基礎部が等価な曲げ剛性を持つために、地震時に作用する外力に対して、橋脚基部での過度の損傷を生じることが無く、橋脚と基礎が一体として外力に抵抗するために優れた変形性能を発揮することができる。
【0024】
図11は本発明の第4の実施形態に係る柱脚構造の基礎部における平面図であり、多柱式橋脚の鋼管柱が6本配置されている。上部構造の条件や施工条件により、橋軸方向と橋軸直角方向の性能が異なる場合がある。図11(A)の基礎構造では、地中部に6本の鋼管杭2が配置されており、隣り合う鋼管杭2の全ての間に鋼製地中壁4が連結されている。一方、図11(B)の基礎構造では、3本の鋼管杭の間のみを鋼製地中壁4で連結した構造である。すなわち、荷重条件や地盤条件においては、隣り合う鋼管杭の全ての間に鋼製地中壁を配置する必要はなく、基礎部の水平抵抗や引抜き抵抗が必要な区間にのみ鋼製地中壁を配置することにより建設コストを縮減した合理的な構造を提供することができる。
【0025】
次に、鋼管柱1と鋼管杭2の接続構造について説明する。鋼管柱1と鋼管杭2の外径が等しい場合には、現場で溶接により接続することができる。しかし、鋼管杭2は地上から地中に打設するために施工誤差が生じる場合がある。この施工誤差を吸収するためにも、鋼管杭2の外径が鋼管柱1の外径より大きいことが望ましい。
図12は鋼管柱1よりも大きな外径を有する鋼管杭2の接続構造の詳細図である。鋼管杭2の上部空間に鋼管柱1の下端部を所定の長さ挿入し、接続空間にコンクリート14を充填して連結した構造である。
この場合に、接続区間における鋼管柱1の外周面および鋼管杭2の内周面にスタッドジベル溶接や縞鋼管処理のようなずれ止め(図示せず)が配置されていれば、鋼管柱1から鋼管杭2への荷重伝達が確実となるので、なお望ましい。
また、鋼管杭2の外径が鋼管柱1の外径より大きい場合には、地震力が作用した時の鋼管杭2の地盤抵抗面積が大きくなるので、柱脚構造の水平変位を抑制する効果を奏する。さらには、高架橋構造に地震力が作用した場合に発生する曲げモーメントは、柱部材よりも杭部材の方が大きくなる。従って、杭部材の外径を大きくすることにより、柱部材の曲げ耐力よりも杭部材の曲げ耐力を大きくした構造であり、耐震性からも望ましい構造である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る柱脚構造の正面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る柱脚構造の側面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る柱脚構造の断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る抵抗機構の模式図の正面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る抵抗機構の模式図の平面図および従来のパイルベント式柱脚構造における抵抗機構の模式図の平面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る柱脚構造の正面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る柱脚構造の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る柱脚構造の正面図である。
【図9】従来の鋼管矢板基礎に係る基礎壁部の平面図である。
【図10】本発明の基礎壁部の平面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る柱脚構造の平面図である。
【図12】本発明の鋼管柱と鋼管杭の接続構造の側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 鋼管柱
2 鋼管杭
2a 前面側の鋼管杭
2b 背面側の鋼管杭
3 連結用継手
4 鋼製地中壁
4a 前面側の鋼製地中壁
4b 背面側の鋼製地中壁
4c 側面の鋼製地中壁
5 橋桁
6 コンクリート梁
7 枕梁
8 支承
9 連結部材
9a 連結部材
10a 水平地盤抵抗力
10b 水平地盤抵抗力
10c 地盤摩擦抵抗力
11 押込み抵抗
11a 先端抵抗
12 引抜き抵抗
13 中立軸
14 コンクリート
15 支持層
16 継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の鋼管柱を連結部材により連結して構成される多柱式橋脚における柱脚構造であって、
前記鋼管柱と同数の鋼管杭が地中に配置され、前記鋼管柱と前記鋼管杭とが各々上下方向に接続され、かつ前記鋼管杭には外面軸方向に沿った連結用継手が固着されており、隣り合う前記鋼管杭の間に、側面軸方向に沿った継手を有する鋼製地中壁が配置され、前記連結用継手と前記鋼製地中壁の継手とが嵌合されて、前記鋼管杭と前記鋼製地中壁とが連結されていることを特徴とする多柱式橋脚における柱脚構造。
【請求項2】
前記鋼製地中壁が鋼矢板で構成されることを特徴とする請求項1記載の多柱式橋脚における柱脚構造。
【請求項3】
前記鋼製地中壁の上部にコンクリート梁が設けられ、当該コンクリート梁により隣り合う前記鋼管杭同士が連結されていることを特徴とする請求項1又は2記載の多柱式橋脚における柱脚構造。
【請求項4】
前記鋼管柱と前記鋼管杭の接続部において、前記鋼管杭内に前記鋼管柱が差し込まれていると共に、前記鋼管柱と前記鋼管杭との間隙にコンクリートが充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多柱式橋脚における柱脚構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate