説明

多核錯体の担持方法

【課題】異種貴金属金属の配列をより精緻に制御することを可能とする異核錯体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】アセタト四白金錯体の酢酸(アセタト)配位子の少なくとも一つが、予めパラジウムに結合させたホスフィンを含む多座配位子と置換されている異核錯体、アセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つがアミジン配位子と置換され、他のアセタト配位子が予めパラジウムに結合させたホスフィンを含む多座配位子と置換されている異核錯体およびそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多核錯体の新規な担持方法に関し、さらに詳しくは特定の錯体のアミノ基を4級化することにより担体上に高分散に多核錯体を担持することを可能とする多核錯体の担持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の研究によれば、制御されたサイズを有する金属クラスターは、触媒活性等の化学的性質及び磁性等の物理的性質に関して、バルクの金属とは異なる性質を有することが明らかになっている。この金属クラスターとは複数の金属原子が直接あるいは架橋配位子を通して互いに結合して寄り集まった骨格構造を持つ金属錯体を示す用語として一般に使用される。
この金属クラスターの特異な性質を利用するために、サイズを制御した金属クラスター(以下、クラスターと略記することもある。)を簡便に且つ大量に合成する方法が必要とされている。
このサイズを制御したクラスターを得るために現在知られている方法としては、真空中において金属ターゲットを蒸散させて様々なサイズのクラスターを生成させ、このようにして得たクラスターから、マススペクトルの原理を用いてクラスターサイズを分離する方法(以下、金属蒸散―MS法と略記することもある。)がある。しかしながらこの方法では、サイズを制御したクラスターを簡便に且つ大量に合成することはできない。
【0003】
一方、貴金属による触媒性能を用いる例としては、自動車用エンジン等の内燃機関から排出される排ガスの浄化を挙げることができる。この排ガスの浄化では、排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NO)等を、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属を主成分とする触媒成分によって、二酸化炭素、窒素、水、酸素に転化させている。この排ガス浄化の用途では一般に、貴金属である触媒成分をアルミナ等の酸化物製多孔質担体に担持して、排ガスと触媒成分との大きい接触面積を与えるようにしている。
【0004】
この触媒成分である貴金属の酸化物製多孔質担体への担持は一般に、貴金属の硝酸塩又は単一の貴金属原子を有する貴金属錯体の溶液を担体に含浸させて、担体の表面に貴金属化合物を分散させて、次いで溶液を含浸させた担体を乾燥及び焼成することによって行っている。このような方法では、簡便に大量の触媒を調製することは出来るが、金属は単原子分散状態もしくは、適当な加熱・雰囲気制御により粒子成長させた状態であり、任意の構成原子数を有する貴金属クラスターを担持させることはできない。
【0005】
このため、排ガス浄化触媒においては、貴金属資源枯渇の問題への対応と環境改善に対する要求から排ガス浄化性能のさらなら向上への期待は強く、貴金属をクラスターの状態で担持させることが提案されている。しかし、従来の金属クラスターでは、任意のサイズ(金属原子数を示す。)に制御することができないため、サイズを制御した貴金属又は貴金属酸化物クラスターを簡便に且つ大量に合成することを可能にする複数錯体含有化合物や、そのような複数錯体含有化合物を用いる担持型触媒の製造方法について検討が始められた。
【0006】
例えば、特開2007−230924号公報には、1個以上の同じ種類の金属原子に配位子が配位してなる金属錯体を2つ以上有し、2つ以上の前記金属錯体が、その配位子の一部を置換している多座配位子を介して相互に結合されており、且つ全体で2〜1000の金属原子を有する複数金属錯体含有化合物、およびこの複数金属錯体含有化合物を多孔質担体に含浸させる担持方法、さらに乾燥および焼成する排ガス浄化触媒の製造方法が記載されている。そして、具体例としては化学式:[Pt(CHCOO)]で示されるアセタト四白金錯体を複数含む複数金属錯体含有化合物をアセトン溶液中で多孔質担体に吸着させる担持方法が示されている。
【0007】
また、特開2007−229642号公報には、触媒担体上に配位可能官能基を有する化合物を結合させ、1個以上の同じ種類の触媒金属原子を配位子が配位してなる金属錯体を含有する溶液を触媒担体に含浸させて、配位子の少なくとも一部を配位可能官能基で置換し、触媒担体を乾燥、焼成する担持型触媒の製造方法が記載されている。そして、具体例としては酸化物担体表面のOH基をコハク酸などのジカルボン酸で置換し、アセタト四白金錯体のアセタト配位子と担体に結合させたジカルボン酸のCOOH基とを配位子置換(交換)して担持させる錯体の担持方法、さらに乾燥および焼成する担持型触媒の製造方法が示されている。
【0008】
さらに、特開2008−13533号公報には、アミジン配位子とカルボン酸配位子とが1個以上の同じ種類の金属原子に配位してなるアミジン−カルボン酸錯体、その製造方法、およびこのアミジン−カルボン酸錯体を多孔質担体に含浸させる錯体の担持方法、さらに乾燥および焼成する排ガス浄化触媒の製造方法が記載されている。そして、アミジン−カルボン酸錯体の具体例としてアミジン配位子がN,N’ビス(p−メトキシフェニル)ホルムアミジン、N,N’ビス(p−アセチルフェニル)ホルムアミジンなどであり、カルボン酸配位子がオクタアセタト四白金錯体[Pt(CHCOO)]である一量体、2量体、3量体、4量体および5量体、これらの錯体をアセトン溶液中で多孔質担体に吸着させる錯体の担持方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−230924号公報
【特許文献2】特開2007−229642号公報
【特許文献3】特開2008−13533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これら各公報に記載されている錯体の担持方法によれば、複数金属錯体含有化合物の溶媒溶液中で多孔質担体に吸着させることによって、錯体を担体に担持させことができる。
しかし、前記の各公報に記載されている担持方法は複数金属錯体含有化合物の多孔質担体への吸着によるか、又は担体表面に結合させた官能基と複数金属錯体含有化合物の配位子との置換反応によるものであり、担体上に錯体を高分散で担持させることが不可能である。
さらに、前記各工法に記載の複数金属錯体含有化合物は複数の金属が同じ種類の金属、例えばPtが複数個含まれるものであって錯体中に異種の貴金属を含むものではなく、異種金属の配列をより精緻に制御することを可能とし得る錯体中に異種の金属を含む新規な異核錯体を担体上に高分散で担持させる担持方法が求められている。
【0011】
従って、本発明の目的は、担体上に多核錯体を高分散で担持させ得る多核錯体の担持方法を提供することである。
さらに、本発明の他の目的は、担体上に異種の金属を含む多核錯体を高分散で担持させ得る多核錯体の担持方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、アセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つを、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換し、次いでジメチルアミノ基を4級化してイオン性多核錯体を形成し、この多核錯体を担体に担持する、多核錯体の担持方法に関する。
また、第2の発明は、アセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つを、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換し、残りのアセタト配位子を白金以外の金属を含むカルボン酸配位子と置換し、次いでジメチルアミノ基を4級化してイオン性多核錯体を形成し、この多核錯体を担体に担持する、多核錯体の担持方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
前記第1の発明によれば、担体上に多核錯体を高分散で担持させることができる。
また、前記第2の発明によれば、担体上に異種の金属を含む多核錯体を高分散で担持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1における反応スキームを示す図である。
【図2】図2は、実施例2における反応スキームを示す図である。
【図3】図3は、実施例1における4級化されたイオン性多核錯体の担持方法のスキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前記第1の発明において、担体上に担持する多核錯体はアセタト四白金錯体のアセタト(酢酸)配位子の少なくとも一つが、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換され、次いでジメチルアミノ基を4級化して形成されたオン性多核錯体であり、この多核錯体を担持することによって担体上に多核錯体を高分散で担持させることが可能となる。
【0016】
また、前記第2の発明において、担体上に担持する多核錯体はアセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つが、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換され、残りのアセタト配位子の少なくとも一つを白金以外の金属を含むカルボン酸配位子と置換し、次いでジメチルアミノ基を4級化して形成されたイオン性多核錯体であり、この多核錯体を担持することによって担体上に異種の金属を含む多核錯体を高分散で担持させることが可能となる。
【0017】
前記のアセタト四白金錯体について、アセタト四白金錯体の1例である下記の式を有するオクタアセタト四白金錯体([Pt(CHCOO)])(以下、[Pt(OAc)]と略記することもある。)を用いて説明する。
【0018】
【化1】

【0019】
この式に示すように、オクタアセタト四白金錯体には正方形に配列した4つの白金原子が含まれ、この白金平面内および面外にそれぞれ4つのアセテートが架橋した構造をとっており、それらの架橋アセテートのうち、白金平面内架橋アセテートが高い置換活性を有することが知られている。
前記第1の発明におけるアセタト四白金錯体においては、前記のオクタアセタト四白金錯体のように錯体中に8つのアセタト配位子が含有されていてもよく、前記8つのアセタト配位子のいずれかが他の任意の配位子、例えばカルボン酸配位子、アミジン配位子によって置換されていてもよい。
前記第2の発明においては、前記オクタアセタト四白金錯体の8つのアセタト配位子のうちの少なくとも一つ、すなわち前記の4つの白金平面内架橋アセテートの少なくとも一つ、例えば一つ〜三つ、例えば一つ〜二つ、好適には二つがジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換されている。
【0020】
前記のカルボン酸配位子としては、下記の式を有する一価カルボン酸配位子が挙げられる。
【0021】
【化2】

【0022】
(Rは、水素、又は置換若しくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、脂環式基又はアラルキル基である。)
また、前記のアミジン配位子としては、下記の式を有する一価又は多価のアミジン配位子が挙げられる。
【0023】
【化3】

【0024】
(RおよびRはそれぞれ独立に、水素、又は置換若しくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、脂環式基若しくはアラルキル基であり、RおよびRはそれぞれ独立に、ジメチルアミノ基を有するアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、脂環式基若しくはアラルキル基であり、Rはアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基であり、且つnは0〜5の整数である。)
【0025】
前記のアミジン配位子の炭素上の置換基であるR及びRはそれぞれ独立に、水素、又は置換若しくは無置換のC〜C10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、脂環式基若しくはアラルキル基であってよく、特に水素又は置換若しくは無置換のフェニル基であってよい。
また、前記のアミジン配位子の窒素上の置換基であるR及びRはそれぞれ独立に、ジメチルアミノ基を有するアリール基又は脂環式基、特にC〜C30のアリール基又は脂環式基、その中でもフェニル基であってよい。
【0026】
前記のアミジン配位子においてアミジン配位子同士を結合しているRは、置換若しくは無置換のC〜C10のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、アラルキレン基又は二価の脂環式基、例えばC〜Cのアルキレン基、特にCのアルキレン基であってよい。
【0027】
前記第1および第2の発明において、前記のアセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つ、例えば一つ〜三つ、例えば一つ〜二つ、好適には二つがジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換され得る。
このアセタト配位子のジメチルアミノ基を有するアミジン配位子による置換は、アセタト四白金錯体とジメチルアミノ基を有するアミジン配位子源とを溶媒中で混合してアセタト配位子の少なくとも一つ、例えば一つ〜三つ、例えば一つ〜二つ、好適には二つをジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換することによって行われる。このアセタト配位子の少なくとも一つをジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換することによって、多核錯体(以下、アセタト−アミジン錯体ということもある)が得られる。
【0028】
前記のジメチルアミノ基を有するアミジン配位子源としては、例えば下記の式で示される化合物を挙げることができる。
【0029】
【化4】

【0030】
前記のジメチルアミノ基を有するアミジン配位子源は、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子によるアセタト四白金錯体のアセタト配位子の置換を促進するために、比較的多量用いることもできる。しかし、この方法において用いる前記ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子源の量はアセタト四白金錯体のアセタト配位子の全てを置換するのに必要な量よりも少ない量、例えばアセタト四白金錯体に配位しているアセタト配位子の全てを置換するのに必要な量の1/2以下、例えば1/4以下の量としてもよい。
【0031】
前記のアセタト−アミジン錯体としては、例えば下記の式を有する多核錯体を挙げることができる。
【0032】
【化5】

【0033】
前記第2の発明においては、前記のアセタト配位子のジメチルアミノ基を有するアミジン配位子による置換によって得られたアセタト−アミジン錯体を必要であれば溶媒から分離し、このアセタト−アミジン錯体のアセタト配位子の少なくとも一つ、例えば一つ〜三つ、例えば一つ〜二つ、特に二つを白金以外の金属を含むカルボン酸配位子と置換する。このアセタト−アミジン錯体のアセタト配位子の少なくとも一つを白金以外の金属を含むカルボン酸配位子と置換することによって白金と白金以外の金属とを含む異種金属含有の多角錯体が得られる。
前記の置換はアセタト−アミジン錯体と白金以外の金属を含むカルボン酸配位子源とを溶媒中で混合することによって行うことができる。
【0034】
この第2の発明の方法において用いる前記白金以外の金属を含むカルボン酸配位子源は、白金以外の金属を含むカルボン酸配位子源によるアセタト−アミジン錯体のアセタト配位子の置換を促進するために、比較的多量用いることもできる。例えば、この方法において用いる前記白金以外の金属を含むカルボン酸配位子源の量は、例えばアセタト−アミジン錯体の残りのアセタト配位子の全てを置換するのに必要な量の1/8倍以上、例えば1/4倍以上、特に1/3倍以上の量としてもよい。
前記の溶媒としては、本発明における錯体を安定に維持できる任意の溶媒、例えば水性溶媒、又はジクロロエタン等の有機溶媒を用いることができる。
【0035】
前記の白金以外の金属を含むカルボン酸配位子としては、次式:
(COO)M
(Rは、置換若しくは無置換のC〜C10のアリーレン基又はアラルキレン基であってよく、Mはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、銀、インジウム、スズ、テルル、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、タリウム又はビスマスである白金以外の金属であり、AはCO又はCNであり、xは1又は2で、yは2、3又は4である。)
で示される金属含有カルボン酸配位子を挙げることができる。
特に、前記の白金以外の金属を含むカルボン酸配位子として、前記式においてRがシクロペンタジエニルであり、Mがモリブデン、レニウム又はニオブであり、AがCOであり、xが1であり、yが3である金属含有カルボン酸配位子を挙げることができる。
【0036】
また、前記の白金以外の金属を含むカルボン酸配位子源としては、次式:
(COOH)M
(Rは、置換若しくは非置換のC〜C10のアリーレン基又はアラルキレン基であってよく、Mはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、銀、インジウム、スズ、テルル、ハフニウム、タリウム、タングステン、レニウム、タリウム又はビスマスである白金以外の金属であり、AはCO又はCNであり、xは1又は2で、yは2、3又は4である。)
で示される金属含有カルボン酸を挙げることができる。
特に、前記の白金以外の金属を含むカルボン酸として、前記式においてRがシクロペンタジエニルであり、Mがモリブデン、レニウム又はニオブであり、AがCOであり、xが1であり、yが3である金属含有カルボン酸を挙げることができる。
【0037】
前記第2の発明における前記のアセタト−アミジン錯体のアセタト配位子の少なくとも一つ、例えば一つ〜二つ、例えば二つを白金以外の金属を含むカルボン酸配位子で置換した錯体として、例えば下記の式を有する多核錯体を挙げることができる。
【0038】
【化6】

【0039】
前記第1および第2の発明においては、得られた多核錯体のジメチルアミノ基を4級化してイオン性多核錯体を形成し、この4級化したイオン性多核錯体を担体に担持することが必要である。
前記の4級化したイオン性多核錯体はジメチルアミノ基を有する多核錯体と4級化剤とを、好適には遮光条件で混合することによって行うことができる。
【0040】
前記の4級化に用いる4級化剤としては、炭素数1〜22のハロゲン化アルキル、ハロゲン化フッ素置換アルキル、ハロゲン化アラルキル、硫酸エステル、クロロ酢酸ナトリウムなどを挙げることができる。前記のハロゲン化アルキルとしては塩化メチル、ヨウ化メチル、臭化メチル、塩化エチル、ヨウ化エチル、臭化エチルなどを、ハロゲン化アラルキルとしてはベンジルクロライドなどを挙げることができる。
【0041】
前記第1の発明における4級化したイオン性多核錯体としては例えば、下記の式を有するイオン性多核錯体を挙げることができる。
【0042】
【化7】

【0043】
前記第2の発明における4級化したイオン性多核錯体としては例えば、下記の式を有するイオン性多核錯体を挙げることができる。
【0044】
【化8】

【0045】
特に、前記第2の発明におけるイオン性多核錯体によれば、前記のアセタト配位子にアミジン配位子が結合したアセタト−アミジン錯体のアセタト配位子と白金以外の金属原子を有する配位子を結合させるので、サイズを制御したクラスターであって、白金と白金以外の金属原子を精緻に配列させたクラスターを容易に得ることが可能となる。
【0046】
前記第1の発明および第2の発明のいずれの方法においても、前記イオン性多核錯体を担体に担持するために、多孔質金属酸化物担体、例えばアルミナ、セリア、ジルコニア、シリカ、チタニアを溶媒に分散させ、この担体分散溶液を撹拌しながら、前記のイオン性多核錯体の所定量を溶媒に溶かした又は分散させたイオン性多核錯体溶液又はイオン性錯体混合物を加えて撹拌して、担体に多核錯体を吸着させる方法により、多核錯体配位子のイオン性を利用することによって多核錯体を担体に高分散で担持し得る。
前記の担体としては、例えば、担体表面を官能基、例えばOH基によって変性した担体であってよい。
【0047】
本発明の方法によってイオン性多核錯体が担持された担体から、多核錯体の配位子を除去することによって、担持型触媒を得ることができる。
多核錯体の配位子の除去は、多核錯体を含有する溶液を乾燥及び焼成することによって達成できる。この乾燥及び焼成は例えば、金属酸化物クラスターを得るのに十分な温度及び時間で行うことができ、例えば120〜250℃の温度での1〜2時間にわたる焼成を行い、その後で400〜600℃での1〜3時間にわたる焼成を行うことができる。
【0048】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は単に説明のためのものであり、本発明を如何様にも限定するものではない。
【実施例】
【0049】
以下の各例において、分析は以下に示す測定機器および測定法で行った。
NMR(H、13C{H}、31P{H}NMR):VARIAN−MERCURY300−C/H(VARIAN社)を用いた。
NMR(195Pt{H}NMR):日本電子社のJEOL−lamada500(107.4MHzを用いた。
Hおよび13C NMRスペクトルのケミカルシフトはテトラメチルシランを基準としてppm(δ)で標記した。
195Pt{H}NMR)スペクトルはKPtCl(δ−1622)を基準とした。
IRスペクトルは日本分光社のJASCO FT/IR−230を用いた。
元素分析:Parkin−Elmer 2400(Parkin−Elmer社)
X線単結晶構造解析はRAXIS−RAPID(Rigaku社)を用いた。
MP(融点)測定はヤナコ社のYanaco MP−52982を用いた。
【0050】
全ての反応は、シュレンク管あるいは一般的な真空ラインにてアルゴン雰囲気下で行った。溶媒はアルゴン雰囲気下で脱水したものを用いた。NMR測定用重溶媒はCDClとCDClを用いた。オクタアセタト四白金錯体[Pt(OAc)]は社団法人日本化学会編、第4版実験化学講座17巻 無機錯体、452頁、1991年に従って合成した。
【0051】
参考例1
HDNMeF(1)の合成
ナスフラスコにN,N−ジメチル−p−フェニレンジアミン10.2g(75mmol)とオルトギ酸エチル12.5ml(75mmol)とを入れ、170℃で3時間還流させた。放冷後生成した黒色沈殿をろ過し、ヘキサン10mlで5度洗浄した。次いで、トルエンで再結晶することにより4.92gの図1に示す反応スキームの(1)で示されるHDNMeFを薄黄色粉末として得た(収率47%)。
【0052】
得られた固体についての測定結果を次に示す。
H NMR(300MHz、CDCl、308K、δ/ppm):2.91(s、12H、−NMe)、6.73(d、HH=9Hz、4H、ArH)、6.98(d、HH=9Hz、ArH)、8.00(s、1H、−NCHN−)
【0053】
実施例1
1.[Pt(OAc)(DNMeF)](2)の合成
シュレンクに[Pt(OAc)]1.26g(1.0mmol)を秤取し、CHCl(20ml)に溶解させた。CHCl(20ml)に溶解させたHDNMeF2.27g(8.0mmol、8eq)を加え、室温で3時間攪拌した。減圧下で溶媒を留去した後、EtO(20ml)で13度洗浄し、乾燥することにより1.40gの図1に示す反応スキームの(2)で示される錯体[trans−Pt(DNMeF)]を黒色粉末として得た(収率82%)。
【0054】
得られた固体についての測定結果を次に示す。
H NMR(300MHz、CDCl、308K、δ/ppm):1.82(s、6H、axOAc)、1.89(s、6H、axOAc)、2.19(s、6H、eqOAc)、2.92(s、24H、NMe)、6.76(d、HH=9Hz、8H、−CNMe)、6.82(s、2H、−NCHN−)、7.24(d、HH=9Hz、8H、−CNMe
【0055】
2.[trans−Pt(DNMeF)](I)(3)の合成
ナスフラスコに[trans−Pt(DNMeF)]500mg(0.29mmol)を秤取し、CHI(45.0ml)を加えて溶解させた後、室温、遮光条件で3時間攪拌した。減圧下でCHIを留去し、得られた茶色固体をEtO(20ml)で2度洗浄した。さらにCHCN(20ml)で遠心分離により5度抽出し、減圧下でCHCNを留去することにより、474mgの図1に示す反応スキームの(3)で示される4級化されたイオン性多核錯体である[trans−Pt(DNMeF)](I)を茶色固体として得た(収率72%)。
【0056】
得られた固体についての測定結果を次に示す。
H NMR(300MHz、DMSO−d、308K、δ/ppm):1.93(s、6H、axOAc)、1.99(s、6H、axOAc)、2.08(s、6H、eqOAc)、3.62(s、36H、NMe)、7.08(s、2H、−NCHN−)、7.55(d、HH=9Hz、8H、−CNMe)、7.88(d、HH=9Hz、8H、−CNMe
【0057】
以上の結果は、アセタト四白金錯体のアセタト配位子の二つが、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換され、さらにジメチルアミノ基が4級化したイオン性多核錯体が得られたことを示す。
【0058】
3.4級化されたイオン性多核錯体の担持
上記2.の工程によって得られた4級化されたイオン性多核錯体である[trans−Pt(DNMeF)](I)を用いて、図3に示すスキームによって、4級化されたイオン性多核錯体を担体に担持させることができる。
【0059】
実施例2
1.[trans−PtRe(DNMeF)](4)の合成
シュレンクに実施例1で合成した[trans−Pt(DNMeF)]25.6mg(0.015mmol)を秤取し、CHCl(1ml)に溶解させた。この溶液にMeOH(4ml)に溶解させた[(η−CCOOH)Re(CO)]11.9mg(0.031mmol、2eq)を加え、室温で0.5時間攪拌した。生じた茶色沈殿を遠心分離した後、得られた固体をMeOH(5ml)で洗浄し、減圧下で乾燥させることにより31.2mgの図2に示す反応スキームの(4)で示される錯体である[trans−PtRe(DNMeF)]を黒色粉末として得た(収率89%)。
【0060】
得られた固体についての測定結果を次に示す。
H NMR(300MHz、CDCl、308K、δ/ppm):1.85(s、6H、axOAc)、2.03(s、6H、axOAc)、2.94(s、24H、NMe)、5.19(t、HH=3Hz、4H、CpH)、5.89(t、HH=3Hz、4H、CpH)、6.75(s、2H、−NCHN−)、6.81(d、HH=9Hz、8H、−CNMe)、7.21(d、HH=9Hz、8H、−CNMe
EMI−MS(CHCN溶液、m/z):2336([M])
【0061】
2.[trans−PtRe(DNMeF)](I)(5)の合成
シュレンクに[trans−PtRe(DNMeF)]1.01g(0.019mmol)を秤取し、遮光下−50℃でCHI(60.0ml)を加えると濃赤色溶液となった。遮光下で室温まで昇温しながら17時間攪拌すると茶色の沈殿が生成した。減圧下でCHIを留去し、得られた茶色固体をEtO(20ml)で2度洗浄した。さらにCHCN(20ml)で遠心分離により5度抽出し、減圧下でCHCNを留去することにより、1.08gの図2に示す反応スキームの(5)で示される4級化されたイオン性多核錯体である[trans−PtRe(DNMeF)](I)を茶色固体として得た(収率86%)。
【0062】
得られた固体についての測定結果を次に示す。
H NMR(300MHz、DMSO−d、308K、δ/ppm):1.90(s、6H、axOAc)、2.03(s、6H、axOAc)、3.67(s、36H、NMe)、5.74(t、HH=3Hz、4H、CpH)、5.85(t、HH=3Hz、4H、CpH)、7.05(s、2H、−NCHN−)、7.56(d、HH=9Hz、8H、−CNMe)、7.84(d、HH=9Hz、8H、−CNMe
【0063】
以上の結果は、アセタト四白金錯体のアセタト配位子の二つが、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換され、残りのアセタト配位子二つが白金以外の金属であるレニウムを含むカルボン酸配位子と置換され、ジメチルアミノ基が4級化されたイオン性多核錯体が得られたことを示す。
【0064】
3.4級化されたイオン性多核錯体の担持
上記2.の工程によってで得られた4級化されたイオン性多核錯体である[trans−PtRe(DNMeF)](I)を図3における[trans−Pt(DNMeF)](I)の代わりに用いる他は図3に示すスキームと同様にして、4級化されたイオン性多核錯体を担体に担持させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の多核錯体の担持方法によって、イオン性多核錯体を利用することが可能となり担体上に高分散で多核錯体を担持することが可能となり高性能の担持型触媒を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つを、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換し、次いでジメチルアミノ基を4級化してイオン性多核錯体を形成し、この多核錯体を担体に担持する、多核錯体の担持方法。
【請求項2】
アセタト四白金錯体のアセタト配位子の少なくとも一つを、ジメチルアミノ基を有するアミジン配位子と置換し、残りのアセタト配位子の少なくとも一つを白金以外の金属を含むカルボン酸配位子と置換し、次いでジメチルアミノ基を4級化してイオン性多核錯体を形成し、この多核錯体を担体に担持する、多核錯体の担持方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−209021(P2010−209021A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58419(P2009−58419)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】