説明

多核錯体

【課題】多核構造が比較的形成し易く、かつ発光性または触媒活性等の機能を有する多核錯体を提供する。
【解決手段】式(I)で表される配位子1個に対して2個以上の金属原子および/または金属イオンをもつ多核錯体。


(式中、Q1およびQ2は置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。R1およびR2は直接結合または置換されてもよい2価の炭化水素基を表し、Xは窒素原子またはリン原子を表し、R3は窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基、水素原子、または置換されてもよい炭化水素基を表し、2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多核錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
多核の金属錯体は単核のそれにない特異な機能の為に近年注目を集めている(例えば、非特許文献1参照)。このような機能としては、例えば発光性や触媒活性等が知られている。
【0003】
【非特許文献1】Chem. Rev. 96, 759 − 833 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多核構造は一般に単核構造に比べて構造形成が難しく設計した分子を実際に自在に合成できるとは必ずしもいえないという課題があった。すなわち多核構造が比較的形成し易く、かつ発光性または触媒活性等の機能を有する多核錯体が求められていた。
【0005】
そこで本発明者らは鋭意検討の結果、ある種の大環状配位子を有する多核錯体がこのような目的に合致することを見出し本発明に達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は一般式(I)で表される配位子1個に対して2個以上の金属原子および/または金属イオンをもつ多核錯体を提供するものである。


(式中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。R1およびR2はそれぞれ独立に直接結合または置換されてもよい2価の炭化水素基を表し、Xは窒素原子またはリン原子を表し、R3は窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基、水素原子、または置換されてもよい炭化水素基を表し、2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、複数個のQ1、Q2、R1、R2、R3およびXはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の多核錯体は、多核構造が比較的形成し易く、発光性または触媒活性等の機能を有し、特に発光材料として期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の多核錯体は、上記一般式(I)で表される配位子1個に対して2個以上の金属原子および/または金属イオンをもつ多核錯体である。
【0009】
一般式(I)において、Q1およびQ2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、複数のQ1およびQ2はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、
2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。
【0010】
ここに2価の複素環基とは、複素環化合物から水素原子を2つを取って成る基である。
【0011】
複素環化合物としては、環員数が3〜8で、環に、窒素原子、酸素原子、りん原子及び/又は硫黄原子等を含む環状化合物が好ましい。該複素環の環員数として、好ましくは4〜7、より好ましくは5または6であり、さらに好ましくは6である。該複素環には、窒素原子、酸素原子、りん原子及び/又は硫黄原子が含まれることが好ましく、窒素原子、酸素原子及び/又はりん原子を含むことがより好ましく、窒素原子及び/又はりん原子を含むことがさらに好ましく、窒素原子が特に好ましい。
複素環化合物の中では、芳香族性をもつ複素環化合物が好ましい。
【0012】
複素環化合物として具体的には、置換基を有していてもよいピロール、置換基を有していてもよいフラン、置換基を有していてもよいホスホール、置換基を有していてもよいチオフェン、置換基を有していてもよいピラゾール、置換基を有していてもよいイミダゾール、置換基を有していてもよいオキサゾール、置換基を有していてもよいチアゾール、置換基を有していてもよいトリアゾール、置換基を有していてもよいチアジアゾール、置換基を有していてもよいオキサジアゾール、置換基を有していてもよいピリジン、置換基を有していてもよいピラジン、置換基を有していてもよいピリミジン、置換基を有していてもよいトリアジンが挙げられる。好ましくは、置換基を有していてもよいピロール、置換基を有していてもよいフラン、置換基を有していてもよいホスホール、置換基を有していてもよいチオフェン、置換基を有していてもよいピリジンであり、より好ましくは置換基を有していてもよいピロール、置換基を有していてもよいピリジンであり、特に好ましくは置換基を有していてもよいピリジンである。
【0013】
2価の複素環基として、具体的にはピロール−2, 5−ジイル基、フラン−2, 5−ジイル基、ホスホール−2, 5−ジイル基、チオフェン−2, 5−ジイル基、ピラゾール−1,3−ジイル基、イミダゾール−2, 5−ジイル基、オキサゾール−2, 5−ジイル基、チアゾール−2, 5−ジイル基、トリアゾール−1, 3−ジイル基、チアジアゾール−2, 5−ジイル基、オキサジアゾール−2, 5−ジイル基、ピリジン−2, 6−ジイル基、ピラジン−2, 6−ジイル基、ピリミジン−2, 6−ジイル基、トリアジン−2, 6−ジイル基であり、好ましくはピロール−2, 5−ジイル基、フラン−2, 5−ジイル基、ホスホール−2, 5−ジイル基、チオフェン−2, 5−ジイル基、ピリジン−2, 6−ジイル基であり、より好ましくはピリジン−2, 6−ジイル基、ピロール−2, 5−ジイル基であり、特に好ましくはピリジン−2, 6−ジイル基である。
【0014】
2価の複素環基が置換基を有する場合、該置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、アミノ基、ホスフィノ基、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素アミノ基、炭化水素ホスフィノ基等が挙げられる。
【0015】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられ、好ましくはフッ素原子、塩素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
【0016】
炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基等の炭素数3〜20のシクロアルキル基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素数2〜20のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素数6〜20のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニレンエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、1−フェニル−3−プロピル基、1−フェニル−4−ブチル基、1−フェニル−5−ペンチル基、1−フェニル−6−ヘキシル基等の炭素数7〜20のアラルキル基が挙げられる。該炭化水素基として、アルキル基、アリール基、アラルキル基が好ましく、アルキル基、アリール基がより好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0017】
炭化水素オキシ基、炭化水素メルカプト基とはそれぞれ、水酸基、メルカプト基に上記の炭化水素基が置換された基である。
【0018】
炭化水素アミノ基、炭化水素ホスフィノ基とはそれぞれ、アミノ基、ホスフィノ基に上記の炭化水素基が一つまたは二つ置換された基である。
【0019】
2価の複素環基が置換基を有する場合、該置換基として好ましくはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素アミノ基、炭化水素ホスフィノ基であり、より好ましくはハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基である。
【0020】
1としては、


(式中、E1は窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を表し、Yは炭素原子または窒素原子を表す)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)が好ましく、



(式中、E1は前記と同じ意味を表す。Y2およびY6はそれぞれ独立に炭素原子または窒素原子を表し、Y3およびY5はそれぞれ独立にC(H)、窒素原子、N(H)、酸素原子または硫黄原子を表し、Y4は直接結合、C(H)、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表す)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)がより好ましく、

(式中、Rは、水素原子または置換基を表し、2個のRが一緒になって環を形成してもよい)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)または、

(式中、Z1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、R'およびR''は、水素原子または置換基を表し、2個のR'または2個のR'が一緒になって環を形成してもよい)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)がさらに好ましい。
【0021】
2としては、

(式中、E2は窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を表し、Yは炭素原子または窒素原子を表す)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)が好ましく、

(式中、E2は前記と同じ意味を表す。Y2およびY6はそれぞれ独立に炭素原子または窒素原子を表し、Y3およびY5はそれぞれ独立にC(H)、窒素原子、N(H)、酸素原子または硫黄原子を表し、Y4は直接結合、C(H)、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表す)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)がより好ましく、

(式中、Rは、水素原子または置換基を表し、2個のRが一緒になって環を形成してもよい)または、

(式中、Z1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、R'およびR''は、水素原子または置換基を表し、2個のR'または2個のR'が一緒になって環を形成してもよい)で表される2価の複素環基(該複素環基は置換基を有していてもよい)がさらに好ましい。
【0022】
上記一般式(I)におけるR1およびR2は、それぞれ独立に、直接結合または置換されてもよい2価の炭化水素基を表し、複数個のR1およびR2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0023】
2価の炭化水素基としては、メチレン基、エタン−1,1−ジイル基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ブタン−1,1−ジイル基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ブタン−2,2−ジイル基、ブタン−2,3−ジイル基、ペンタン−1,1−ジイル基、ペンタン−1,2−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,1−ジイル基、ヘキサン−1,2−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ノナン−1,1−ジイル基、ノナン−1,2−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、ドデカン−1,1−ジイル基、ドデカン−1,2−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基等の炭素数1〜20のアルキレン基;シクロプロパン−1,1−ジイル基、シクロプロパン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,1−ジイル基、シクロブタン−1,2−ジイル基、シクロブタン−1,3−ジイル基、シクロペンタン−1,1−ジイル基、シクロペンタン−1,2−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロノナン−1,1−ジイル基、シクロノナン−1,2−ジイル基、シクロノナン−1,3−ジイル基、シクロドデカン−1,1−ジイル基、シクロドデカン−1,2−ジイル基、シクロドデカン−1,3−ジイル基、等の炭素数3〜20のシクロアルキレン基;エテン−1,1−ジイル基、エテン−1,2−ジイル基、プロペン−1,1−ジイル基、プロペン−1,2−ジイル基、プロペン−1,3−ジイル基、プロペン−2,2−ジイル基、1−ブテン−1,1−ジイル基、1−ブテン−1,2−ジイル基、1−ブテン−1,3−ジイル基、1−ブテン−1,4−ジイル基、1−ブテン−2,2−ジイル基、1−ブテン−2,3−ジイル基、2−ブテン−1,1−ジイル基、2−ブテン−1,2−ジイル基、2−ブテン−1,3−ジイル基、2−ブテン−1,4−ジイル基、2−ブテン−2,3−ジイル基、1−ペンテン−1,1−ジイル基、1−ペンテン−1,2−ジイル基、1−ペンテン−1,5−ジイル基、1−ノネン−1,1−ジイル基、1−ノネン−1,2−ジイル基、1−ノネン−1,9−ジイル基、1−ドデセン−1,1−ジイル基、1−ドデセン−1,2−ジイル基、1−ドデセン−1,12−ジイル基等炭素数2〜20のアルケニレン基、エチン−1,2−ジイル基、プロピン−1,3−ジイル基、1−ブチン−1,3−ジイル基、1−ブチン−1,4−ジイル基、2−ブチン−1,4−ジイル基、1−ペンチン−1,3−ジイル基、1−ペンチン−1,4−ジイル基、1−ペンチン−1,5−ジイル基、2−ペンチン−1,4−ジイル基、2−ペンチン−1,5−ジイル基、1−ノニン−1,3−ジイル基、1−ノニン−1,9−ジイル基、1−ドデシン−1,3−ジイル基、1−ドデシン−1,12−ジイル基等の炭素数2〜20のアルキニレン基;1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,2−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、2,3−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、3−フェニルー1,2−フェニレン基、2,2’−ジフェニレン基等の炭素数6〜20のアリーレン基;1,2−フェニレンメチレン基、1,3−フェニレンメチレン基、1,4−フェニレンメチレン基、1,2−フェニレンー1,1−エチレン基、1,2−フェニレンー1,2−エチレン基、1,2−フェニレンー1,2−プロピレン基、1,2−フェニレンー1,3−プロピレン基、1,2−フェニレンー1,4−ブチレン基、1,2−フェニレンー1,2−ブチレン基、1,2−フェニレンー1,2−ヘキシレン基、メチレン―1,2−フェニレンメチレン基、メチレン―1,3−フェニレンメチレン基、メチレン―1,4−フェニレンメチレン基等の炭素数7〜20のアリーレン基とアルキレン基からなる二価の炭化水素基があげられる。
【0024】
2価の炭化水素基が置換基を有する場合、該置換基の、具体例及び好ましい例は、2価の複素環基が有していてもよい置換基の説明におけるそれらと同じである。
【0025】
1として、好ましくは直接結合、炭素原子数1〜8のアルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アリーレン基とアリーレンアルキレン基からなる二価の炭化水素基であり、より好ましくは直接結合、炭素原子数1〜6のアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基であり、さらに好ましくは直接結合、メチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、エテン−1,2−ジイル基、1,2−フェニレン基であり、特に好ましくは直接結合である。
【0026】
2として、好ましくは直接結合、炭素原子数1〜8のアルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、アリーレン基とアリーレンアルキレン基からなる二価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1〜6のアルキレン基、アリーレン基であり、さらに好ましくはメチレン基、エタン−1,2−ジイル基、プロパン−1,3−ジイル基、1,2−フェニレン基であり、特に好ましくはメチレン基である。
【0027】
一般式(I)において、2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。この場合、上記式(I)中の−Q1−R1−Q1−で示される2価の基、−Q2−R1−Q2−で示される2価の基の具体例としては、1,10−フェナントロリン− 2,9−ジイル基、1,10−フェナントロリン− 3,8−ジイル基, 4,5−ジアザフルオレン− 3,6−ジイル基、4,5−ジアザフルオレン− 2,7−ジイル基等が挙げられる。好ましくは1,10−フェナントロリン− 2,9−ジイル基、4,5−ジアザフルオレン− 3,6−ジイル基であり、より好ましくは1,10−フェナントロリン− 2,9−ジイル基である。
【0028】
上記一般式(I)におけるXは窒素原子またはリン原子を表し、2つのXは同一でも異なっていてもよい。
【0029】
Xとしては、窒素原子が好ましい。
【0030】
上記一般式(I)におけるR3は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、または窒素原子、酸素原子、リン原子、および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基を表し、2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのR3は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
3における炭化水素基としては、上記の炭化水素基と具体例及び好ましい例は同じであり、該炭化水素基が置換基を有する場合該置換基の、具体例及び好ましい例は、2価の複素環基が有していてもよい置換基の説明におけるそれらと同じである。
【0032】
3における窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基としては炭化水素アミノ基、炭化水素ホスフィノ基、炭化水素メルカプト基、および複素環化合物から水素を1個とって成る基に2価の有機基が結合したもの、または1価の複素環基(複素環化合物から水素を1個とって成る基)があげられる。
複素環化合物の具体例及び好ましい例は2価の複素環基の説明におけるそれらと同じである。
【0033】
3における窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基として、具体的にはジメチルアミノメチル基、ジエチルアミノメチル基、ジイソプロピルアミノメチル基、ジフェニルアミノメチル基、ジシクロヘキシルアミノメチル基、ジメチルアミノエチル基、ジエチルアミノエチル基、ジイソプロピルアミノエチル基、ジフェニルアミノエチル基、ジシクロヘキシルアミノエチル基、ジメチルアミノフェニル基、ジエチルアミノフェニル基、ジイソプロピルアミノフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジシクロヘキシルアミノフェニル基等の窒素原子を含む1価の有機基;ジメチルホスフィノメチル基、ジエチルホスフィノメチル基、ジイソプロピルホスフィノメチル基、ジフェニルホスフィノメチル基、ジシクロヘキシルホスフィノメチル基、ジメチルホスフィノエチル基、ジエチルホスフィノエチル基、ジイソプロピルホスフィノエチル基、ジフェニルホスフィノエチル基、ジシクロヘキシルホスフィノエチル基、ジメチルホスフィノフェニル基、ジエチルホスフィノフェニル基、ジイソプロピルホスフィノフェニル基、ジフェニルホスフィノフェニル基、ジシクロヘキシルホスフィノフェニル基等のリン原子を含む1価の有機基、メチルメルカプトメチル基、エチルメルカプトメチル基、イソプロピルメルカプトメチル基、フェニルメルカプトメチル基、シクロヘキシルメルカプトメチル基、メチルメルカプトエチル基、エチルメルカプトエチル基、イソプロピルメルカプトエチル基、フェニルメルカプトエチル基、シクロヘキシルメルカプトエチル基、メチルメルカプトフェニル基、エチルメルカプトフェニル基、イソプロピルメルカプトフェニル基、フェニルメルカプトフェニル基、シクロヘキシルメルカプトフェニル基等の硫黄原子を含む1価の有機基、2−ピリジルメチル基、2−ピロリルメチル基、2−ホスホリルメチル基、2−フリルメチル基、2−チエニルメチル基、2−ピリジルエチル基、2−ピロリルエチル基、2−ホスホリルエチル基、2−フリルエチル基、2−チエニルエチル基、2−ピロリルエチル基、2−ピリジル基、2−ピロリル基、2−ホスホリル基、2−フリル基、2−チエニル基、8−キノリル基、7−インドリル基、7−ベンゾフリル基、7−ベンゾチエニル基などの複素環を含む1価の有機基があげられる。窒素原子を含む1価の有機基、リン原子を含む1価の有機基、複素環を含む1価の有機基が好ましく、ジメチルホスフィノメチル基、ジエチルホスフィノメチル基、ジイソプロピルホスフィノメチル基、ジフェニルホスフィノメチル基、ジシクロヘキシルホスフィノメチル基、ジメチルホスフィノエチル基、ジエチルホスフィノエチル基、ジイソプロピルホスフィノエチル基、ジフェニルホスフィノエチル基、ジシクロヘキシルホスフィノエチル基、ジメチルホスフィノフェニル基、ジエチルホスフィノフェニル基、ジイソプロピルホスフィノフェニル基、ジフェニルホスフィノフェニル基、ジシクロヘキシルホスフィノフェニル基、2−ピリジルメチル基、2−ピロリルメチル基、8−キノリル基、7−インドリル基がより好ましく、ジフェニルホスフィノフェニル基、2−ピリジルメチル基がさらに好ましい。
【0034】
R3として、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基、窒素原子を含む1価の有機基、リン原子を含む1価の有機基、複素環を含む1価の有機基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、ジメチルホスフィノメチル基、ジエチルホスフィノメチル基、ジイソプロピルホスフィノメチル基、ジフェニルホスフィノメチル基、ジシクロヘキシルホスフィノメチル基、ジメチルホスフィノエチル基、ジエチルホスフィノエチル基、ジイソプロピルホスフィノエチル基、ジフェニルホスフィノエチル基、ジシクロヘキシルホスフィノエチル基、ジメチルホスフィノフェニル基、ジエチルホスフィノフェニル基、ジイソプロピルホスフィノフェニル基、ジフェニルホスフィノフェニル基、ジシクロヘキシルホスフィノフェニル基、2−ピリジルメチル基、2−ピロリルメチル基、8−キノリル基、7−インドリル基がより好ましく、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、ジフェニルホスフィノフェニル基、2−ピリジルメチル基がさらに好ましい。

【0035】
上記一般式(I)で表される配位子の中では、下記一般式(II)で表される配位子が好ましい。

(式中、R1、R2、R3およびXはそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。E1およびE2はそれぞれ独立に窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を表し、Yは炭素原子または窒素原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびYはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、



で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの


で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。)
【0036】
上記一般式(II)で表される配位子の中では、下記一般式(III)で表される配位子が好ましい。

(式中、E1、E2、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。Y2およびY6はそれぞれ独立に炭素原子または窒素原子を表し、Y3およびY5はそれぞれ独立にC(H)、窒素原子、N(H)、酸素原子または硫黄原子を表し、Y4は直接結合、C(H)、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびY3〜Y5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく


で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの




で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。
【0037】
下記一般式(III)で表される配位子の中では、下記一般式(IV)および(V)で表される配位子が好ましい。



(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
Rは、水素原子または置換基を表し、2個のRが一緒になって環を形成してもよい。複数個のRは同一でも異なっていてもよい)



(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、複数個のZ1は互いに同じでも異なってもよく、複数個のZ2は互いに同じでも異なってもよい。R'およびR''は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、2個のR'またはR''が一緒になって環を形成してもよい。)

1およびZ2として、Z1がC(R')であり、Z2が酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であることが好ましい。R'およびR''における置換基の定義、具体例及び好ましい例は、2価の複素環基が有していてもよい置換基の説明におけるそれらと同じである。
【0038】
本発明の多核錯体がもつ金属原子、金属イオンとしては金属元素の原子、イオンであれば特に制限はないが、第1〜12族の金属元素の原子、イオンが好ましく、第3族〜12族の金属元素の原子、イオンがより好ましく、さらに好ましくは第3族〜12族の第4周期の金属原子、イオンであり、特に好ましくは銅イオン、および銀イオンである。
【0039】
該金属原子および/または金属イオンの価数は自然界に通常存在するものを適宜選択して使用することができ、例えば銅の場合では1または2価の銅あるいはその両方が混在した混合原子価であってもよい。
【0040】
本発明の多核錯体において、該金属原子および/または金属イオンの個数は一般式(I)で表される配位子化合物1分子に対して2個以上である。該金属原子の個数は一般式(I)で表される配位子化合物1分子に対して1個の場合、機能性や触媒能が十分発現しない。
【0041】
該金属原子および/または金属イオンの個数は、一般式(I)で表される配位子化合物1分子に対して、2〜6個が好ましく、2〜4個がより好ましく、2または3個がさらに好ましく、2個が特に好ましい。
【0042】
金属原子および/または金属イオンはd電子が偶数であることが好ましく、d電子が6、8、又は10個であることがより好ましくd電子が10個であることがさらに好ましい。
中でも金属イオンが銅(I)イオンまたは銀(I)イオンであることが好ましく、銅(I)イオンが特に好ましい。
【0043】
本発明の多核錯体には電気的中性を保たせるようなカウンターイオンが必要な場合がある。カウンターアニオンとしては通常ブレンステッド酸の共役塩基が使用される。例えばフッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、酢酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン、これらのイオンの構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物等が挙げられる。好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、テトラフェニルボレートイオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオンである。またカウンターカチオンとしてはアルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属カチオンや、4級アンモニウムイオン、4級ホスフォニウムイオンこれらのイオンの構造を有する繰り返し単位を含む高分子化合物、などを用いることもでき、好ましくは4級アンモニウムイオン、4級ホスフォニウムイオンである。
【0044】
なお本発明の多核錯体において、上記の一般式(I)で表される配位子と金属原子以外の構造は特に限定されるものではなく、金属に補助配位子などが配位していてもよい。
補助配位子は、錯体の製造等に用いた、溶媒分子であってもよい。
補助配位子としては例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ピバロニトリルなどの脂肪族ニトリル類;ベンゾニトリル、2−ナフトニトリル、9−アントラセンカルボニトリルなどの芳香族ニトリル類;ピリジン、ピコリン、4−t―ブチルピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、キノリン、イソキノリンなどのピリジン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、トリシクロヘキシルアミンなどのアミン類;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどの脂肪族ホスフィン類;ジメチルフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィン、トリ(p−トリルホスフィン)、トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−ナフチル)ホスフィンなどの芳香族ホスフィン類;トリフェニルホスファイト、トリ(p−トリルホスファイト)、トリ(2−ナフチル)ホスファイトなどの芳香族ホスファイト類があげられる。好ましくは脂肪族ニトリル類、芳香族ニトリル類、脂肪族ホスフィン類、芳香族ホスフィン類および芳香族ホスファイト類であり、より好ましくは芳香族ニトリル類、芳香族ホスフィン類および芳香族ホスファイト類であり、さらに好ましくは芳香族ホスフィン類であり、特に好ましくはトリ(p−フルオロフェニル)ホスフィン)である。
【0045】
本発明の多核錯体として、具体的には以下のものがあげられる。
(L1)(M)x(L2)y(A)z
L1:一般式(I)、(II)、(III)または(IV)で表される配位子
M:それぞれ独立に上記に説明した金属原子、または金属イオン
L2:上記に説明した補助配位子
A:上記に説明したカウンターイオン
x、y、z:2〜6の整数
【0046】
より具体的には、本発明における好ましい多核錯体として、例えば、一般式(Ia)で表されるものがあげられる。



(式中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。R1およびR2はそれぞれ独立に直接結合または置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を表し、Xは窒素原子またはリン原子を表し、R3は水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基、または窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基を表し、2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、複数個のQ1、Q2、R1、R2、R3およびXはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。M1およびM2はそれぞれ独立に金属原子または金属イオンを表し、L1およびL2はそれぞれM1、M2に配位できる補助配位子を表し、mおよびnはそれぞれ独立に1〜4の整数であり、L1およびL2がそれぞれ複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよく、Aはカウンターイオンを表し、pは構造式(Ia)で表される化合物が電気的中性となるような数を表す。Aが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)
なお上記式(1a)のQ1とM1を結ぶ点線、Q2とM1を結ぶ点線およびQ1とM2を結ぶ点線、Q2とM2を結ぶ点線、はそれぞれ配位結合を表す。
【0047】
上記一般式(Ia)で表される多核錯体の中では、下記一般式(IIa)で表される多核錯体が好ましい。

(式中、R1、R2、R3、M1、M2、L1、L2、m、n、A、pおよびXはそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。E1およびE2はそれぞれ独立に窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を表し、Yは炭素原子または窒素原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびYはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。Aが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。)
【0048】
上記一般式(IIa)で表される多核錯体の中では、下記一般式(IIIa)で表される多核錯体が好ましい。

(式中、E1、E2、X、R1、R2、R3、A、M1、M2、L1、L2、m、nおよびpはそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。Y3およびY5はそれぞれ独立にC(H)、窒素原子、N(H)、酸素原子または硫黄原子を表し、Y4は直接結合、C(H)、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびY3〜Y5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。Aが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの



で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。)
なお上記式(IIa)、(IIIa)のE1とM1を結ぶ点線、E2とM1を結ぶ点線およびE1とM2を結ぶ点線、E2とM2を結ぶ点線、はそれぞれ配位結合を表す。
【0049】
上記一般式(IIIa)で表される多核錯体の中では、下記一般式(IVa)または(Va)で表される多核錯体が好ましい。発光性の観点からは、下記一般式(IVa)がより好ましい。



(式中、X、R1、R2、R3、R、A、M1、M2、L1、L2、m、nおよびpおよびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
Aが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)



(式中、X、R1、R2、R3、Z1、Z2、A、M1、M2、L1、L2、m、nおよびpおよびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
Aが複数個存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。)

なお上記式(IVa)および(Va)のNとM1の結合、NとM2の結合はそれぞれ配位結合を表す。
【0050】
本発明の多核錯体として、具体的には、下式の錯体があげられる。
(下式においてカウンターイオンは省略している。)



ここにRは、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい炭化水素オキシ基等の置換基を表す。
【0051】
本発明の多核錯体は例えば、以下のようにして合成できる。
一般式(I)で表される配位子化合物として、好ましい代表例は化合物(A)および化合物(B)であり、これらは、Helv. Chim. Acta., 67, 22642269 (1984)に記載されるようにして合成できる。この化合物(A)または(B)を適当な溶媒中で、中心金属となるべき金属の塩と反応させることによりその多核錯体が得られる。







【0052】
本発明の多核錯体は、りん光発光性及び/または蛍光発光性を有することが好ましく、発光効率の観点からは、りん光発光性を有するものが好ましい。
【0053】
本発明の多核錯体の用途は、適宣その構造を選択することにより多核錯体の公知の用途に使用することができる。具体的には、発光材料、光波長変換材料、光発電材料などの光電関連材料;酸化還元反応、有機合成反応、高分子合成反応などの触媒;磁性材料などを挙げることができる。好ましくは、発光材料、光波長変換材料、光発電材料などの光電関連材料である。
【0054】
本発明の配位子化合物は下記一般式(VI)で表される。


(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、複数個のZ1は互いに同じでも異なってもよく、複数個のZ2は互いに同じでも異なってもよい。R'およびR''は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)

【0055】
本発明の多核錯体を含む発光性膜は、発光素子の発光層等として用いることができる。該発光性膜の中では、本発明の多核錯体と高分子を含むものが好ましい。
該発光性膜に用いる高分子としては特に制限はなく、公知のものから適宜選択して用いることができ、溶媒に可溶でかつ安定なものが好ましい。
中でも、発光性膜のホスト材料として使用されている高分子は、安定性やキャリア輸送の点で好ましく用いられる。このような具体的な高分子としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラアルコキシフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリベンズフルオレン、ポリ酢酸ビニル、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリノルボルネン、ポリシロキサン、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシフェニレン、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(1,4−フェニレンフェニルイミノ−1,4−フェニレン)、およびこれらの共重合体や誘導体が挙げられる。キャリア輸送の点ではいわゆる共役系高分子が好ましく、たとえばポリフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリパラアルコキシフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリベンズフルオレン、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリピロール、等が挙げられる。
該発光性膜中の多核錯体の量は、通常、多核錯体と高分子との合計の重量に対して、通常0 . 001〜1 0 0 重量% であり、0.01〜98重量% が好ましく、0.1〜95重量%がより好ましい。
該発光性膜の厚みは通常100 nm〜100 μm程度であり、好ましくは、100 nm〜1 μmである。
該発光性膜においては、多核錯体が該膜中に均一に分散されていてもよく、多核錯体の一部が粒子として該膜中に存在していてもよい。
なお多核錯体の一部が粒子として該膜中に存在する場合は、粒子の大きさが大きすぎると発光性膜そのものが均一に形成できなかったり、表面の凹凸が顕著となる傾向がある。したがって粒子の大きさとしては発光性膜の厚みよりも小さいことが好ましい。さらに具体的にこのような大きさとして通常0.1μm〜10μmの範囲であり、好ましくは、0.1μm〜1μmの範囲であり、さらに好ましくは、0.1μm〜0.5μmの範囲を使用することができる。多核錯体粒子の形状は特に限定されないがすべての辺が同等の大きさである必要はなく、針状や板状であっても構わない。多核錯体粒子の形状が針状や板状の場合は、膜面垂直方向に発光するように、粒子が配向することが好ましい。粒子の大きさの測定方法としては適宣粒子の公知の測定方法を用いることができ、例えば電子顕微鏡観察等を用いることができる。
該発光性膜の製造方法としては、例えば、多核錯体、高分子、溶媒とを含む液を塗布する工程を含む方法が挙げられる。多核錯体は液中で溶解していても粒子(例えば、微粒子ないしコロイド等)として分散していてもよいが、高分子は分散ではなく溶解していることが好ましい。
溶媒の具体例として、アルコール類〔メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、等〕、ケトン類〔アセトン、メチルエチルケトン、等〕、有機塩素類〔クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、等〕、芳香族炭化水素類〔ベンゼン、トルエン、キシレン、等〕、脂肪族炭化水素類〔ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、等〕、アミド類〔ジメチルホルムアミド、等〕、スルホキシド類〔ジメチルスルホキシド、等〕、等が挙げられる。溶媒は単成分であっても複数の成分の混合物であっても良い。
塗布の方法は公知の方法を適宜選択して用いることができる。このような方法として例えば、キャスティング、スピンコート、ディップコート、グラビアコート、バーコート、ロールコート、スプレーコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、等を挙げることができる。塗布後に溶媒を除去することによって発光性膜は得られるが、溶媒の沸点によっては加熱して除去を早め残留溶媒を減らすことができる。
【0056】
本発明の発光素子は、本発明の多核錯体を含むものである。
本発明の発光素子としては、陽極と陰極からなる一対の電極間に少なくとも一層の発光層を有する発光素子において、該発光層が、本発明の多核錯体を含有するものがあげられる。
前記発光層中の本発明の多核錯体の含有量としては、発光層全体の質量に対し、通常0 . 001〜1 0 0 重量% であり、0.01〜98重量% が好ましく、0.1〜95重量%がより好ましい。本発明の発光素子は、前記発光層が、本発明の多核錯体を発光材料として含有するのが好ましい。
【0057】
本発明の発光素子として、単層型のもの(陽極/発光層/陰極)があげられ、この発光層が本発明の多核錯体を含有する。また、多層型の発光素子の層構成としては、
(a)陽極/正孔注入層/(正孔輸送層)/発光層/陰極
(b)陽極/発光層/ 電子注入層/( 電子輸送層)/陰極
(c)陽極/正孔注入層/( 正孔輸送層)/発光層/ 電子注入層/(電子輸送層)/陰極等が挙げられる。
上記(a)〜(c)において、(正孔輸送層)、(電子輸送層)は、その位置にこれらの層がそれぞれ存在してもしなくてもよいことを表す。
【0058】
本発明の発光素子の陽極は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層等に正孔を供給するものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。陽極の材料には、金属、合金、金属酸化物、電気伝導性化合物又はこれらの混合物等を用いることができる。具体的には、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO) 等の導電性金属酸化物、又は金、銀、クロム、ニッケル等の金属、さらにこれらの導電性金属酸化物と金属との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質、ポリアニリン類、ポリチオフェン類〔PEDOT、等〕、ポリピロール、等の有機導電性材料及びこれらとITOとの積層物等が挙げられる。
【0059】
本発明の発光素子の陰極は、電子注入層、電子輸送層、発光層等に電子を供給するものであり、陰極の材料としては、金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物、電気伝導性化合物又はこれらの混合物を用いることができる。陰極の材料の具体例としては、アルカリ金属(Li、Na、K、 等) 及びそのフッ化物もしくは酸化物、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba、Cs、等) 及びそのフッ化物もしくは酸化物、金、銀、鉛、アルミニウム、合金または混合金属類〔ナトリウム− カリウム合金、ナトリウム− カリウム混合金属、リチウム− アルミニウム合金、リチウム− アルミニウム混合金属、マグネシウム−銀合金もしくはマグネシウム−銀混合金属、等〕、希土類金属〔インジウム、イッテルビウム、等〕、等が挙げられる。
【0060】
本発明の発光素子の正孔注入層及び正孔輸送層は、陽極から正孔を注入する機能、正孔を輸送する機能、陰極から注入された電子を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。公知の材料を適宜選択して使用できるが、具体例としてはカルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ( N − ビニルカルバゾール) 誘導体、有機シラン誘導体、本発明の多核錯体等、およびこれらを含む重合体が挙げられる。また、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、も挙げることができる。前記材料は単成分であってもあるいは複数の成分からなる組成物であってもよい。また、前記正孔注入層及び前記正孔輸送層は、前記材料の1 種又は2 種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0061】
本発明の発光素子の電子注入層及び電子輸送層は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入された正孔を障壁する機能のいずれかを有しているものであればよい。公知の材料を適宜選択して使用できるが、具体例としてはトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8 − キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、有機シラン誘導体、本発明の多核錯体化合物等が挙げられる。また、前記電子注入層及び前記電子輸送層は、前記材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0062】
また、本発明の発光素子において、電子注入・輸送層を構成する物質として、絶縁体又は半導体の無機化合物も使用することもできる。電子注入・輸送層が絶縁体や半導体で構成されていれば、電流のリークを有効に防止して、電子注入性を向上させることができる。このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲニド、アルカリ土類金属カルコゲニド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用できる。具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲニドとしては、例えば、C a O 、B a O 、S r O 、B e O 、B a S 及びC a S eが挙げられる。また、電子注入・輸送層を構成する半導体として、B a 、C a 、S r 、Y b 、A l 、G a 、I n 、L i 、N a 、C d 、M g 、S i 、T a 、S b 及びZ n の少なくとも一つの元素を含む酸化物、窒化物又は酸化窒化物等の一種単独又は二種以上の組み合わせも挙げることができる。
【0063】
また、本発明においては、陰極と接する薄膜との界面領域に還元性ドーパントが添加されていても良い。好ましい還元性ドーパントとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属の酸化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、希土類金属の酸化物又は希土類金属のハロゲン化物、アルカリ金属錯体、アルカリ土類金属錯体、希土類金属錯体の群から選ばれる少なくとも一つの化合物である。
【0064】
本発明の発光素子の発光層は、電界印加時に陽極又は正孔注入層より正孔を注入することができ、陰極又は電子注入層より電子を注入することができる機能、注入した電荷( 電子と正孔) を電界の力で移動させる機能、電子と正孔の再結合の場を提供し、これを発光につなげる機能を有するものである。本発明の発光素子の発光層は、少なくとも本発明の多核錯体を含有すると好ましく、この多核錯体をゲスト材料とするホスト材料を含有させてもよい。前記ホスト材料としては、例えば、フルオレン骨格を有するもの、カルバゾール骨格を有するもの、ジアリールアミン骨格を有するもの、ピリジン骨格を有するもの、ピラジン骨格を有するもの、トリアジン骨格を有するもの及びアリールシラン骨格を有するもの等が挙げられる。前記ホスト材料のT1(最低三重項励起状態のエネルギーレベル) は、ゲスト材料のそれより大きいことが好ましく、その差が0.2eVよりも大きいことがさらに好ましい。前記ホスト材料は低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。また、前記ホスト材料と前記多核錯体等の発光材料とを混合して塗布する、あるいは共蒸着等することによって、前記発光材料が前記ホスト材料にドープされた発光層を形成することができる。
【0065】
本発明の発光素子では、前記各層の形成方法は特に限定されず公知の方法を使用できる。具体的には、真空蒸着法〔抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、等〕、スパッタリング法、L B 法、分子積層法、塗布法〔キャスティング法、スピンコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット法、等〕 、等が挙げられる。この中では製造プロセスを簡略化できる点で、塗布で成膜することが好ましい。前記塗布法では、本発明の多核錯体を溶媒と混合して塗布液を調製し、該塗布液を所望の層( あるいは電極) 上に、塗布・乾燥することによって形成することができる。塗布液中にはホスト材料または/及びバインダーとして樹脂を含有させてもよく、樹脂は溶媒に溶解状態とすることも、分散状態とすることもできる。前記樹脂としては、非系高分子( 例えば、ポリビニルカルバゾール) 、共役系高分子( 例えば、ポリオレフィン系高分子) を使用することができる。より具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ( N − ビニルカルバゾール) 、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、A B S 樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等から目的に応じて選択できる。溶液は目的に応じて副成分として、酸化防止剤、粘度調整剤、等を含有しても良い。
【0066】
溶液の溶媒は薄膜の成分を均一に溶解または分散し安定なものを公知の溶媒から適宜選択して使用できる。このような溶媒として、アルコール類〔メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、等〕、ケトン類〔アセトン、メチルエチルケトン、等〕、有機塩素類〔クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、等〕、芳香族炭化水素類〔ベンゼン、トルエン、キシレン、等〕、脂肪族炭化水素類〔ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、等〕、アミド類〔ジメチルホルムアミド、等〕、スルホキシド類〔ジメチルスルホキシド、等〕、等が挙げられる。溶媒は単成分であっても複数の成分の混合物であっても良い。
【0067】
インクジェット法においてはインクの吐出性ならびにその再現性のために公知の成分を用いることが出来る。たとえばノズルからの蒸発を押さえるために高沸点の溶媒〔アニソール、ビシクロヘキシルベンゼン、等〕を成分に用いることができる。また成分を選択して溶液の粘度を1〜100mPa・sとすることが好ましい。
【0068】
本発明の発光素子の各有機層の好ましい膜厚は材料の種類や層構成によって異なり特に制限されないが、一般的には膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nm から1μm の範囲が好ましい。
【0069】
本発明の発光膜および発光素子の用途は特に制限されないが、照明用光源、サイン用光源、バックライト用光源、ディスプレイ装置、プリンターヘッド、等に用いることが出来る。ディスプレイ装置としては公知の駆動技術、駆動回路、等を用い、セグンメント型、ドットマトリクス型、等の構成を選択することが出来る。なお本発明の発光膜はこれらに加えて、光波長変換材料等にも用いることが出来る。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない
尚、実施例における化合物1〜10の構造は以下のとおりである。


化合物1:L=アセトニトリル
化合物2:L=トリフェニルホスフィン
化合物3:L=ベンゾニトリル
化合物4:L=p−t−ブチルピリジン
化合物5:L=トリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン
化合物6:L=トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィン
化合物7:L=トリ(p−トリル)ホスフィン
化合物8:L=亜リン酸トリフェニル
【0071】

化合物9

【0072】
化合物10

【0073】
実施例1
<化合物1の合成>
まず化合物(A)をHelv. Chim. Acta., 67, 22642269 (1984)に従って合成した。
次に化合物(A) (0.0201 g, 0.051 mmol)をアセトニトリル(4 mL)に懸濁し、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)トリフルオロメタンスルホン酸塩(0.0401 g, 0.11 mmol)を加え室温で1時間攪拌した。溶媒を窒素気流下で除き、残渣をジクロロメタン(2 mL)で洗い、再度アセトニトリル(1 mL)に溶解し、濾過して得られた溶液をジエチルエーテル溶媒拡散法で再結晶して化合物1(0.0442g, 0.049 mmol, 96%)を得た。元素分析:化合物1(C30H28Cu2F6N8O6S2)計算値C(39.96%)、H(3.13%)、N(12.43%)/測定値C(40.17%)、H(3.19%)、N(12.67%)。



【0074】
実施例2
<化合物2の合成>
化合物(A)(0.0101 g, 0.026 mmol)とトリフェニルホスフィン(0.0148 g, 0.056 mmol)をクロロホルム(2 mL)に溶かし、テトラキス(アセトニトリル)銅(I)(トリフルオロメタンスルホン酸)塩(0.0205 g, 0.054 mmol)を加えた。次第に赤紫色を経て黄色の均一な溶液となり1時間攪拌を続けると乳白色の生成物が析出した。この生成物を濾取し、クロロホルム(2 mL)で洗い、さらにジエチルエーテル(2 mL×3回)で洗い乾燥させることで化合物2を得た。
【0075】
収量:0.0253 g, 0.019 mmol, 73%。
元素分析:化合物2のクロロホルム1分子付加物(C63H53Cl3Cu2F6N6O6P2S2)計算値C(51.70%)、H(3.65%)、N(5.74%)/測定値C(51.16%)、H(3.62%)、N(5.99%)。
【0076】
実施例3
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりにベンゾニトリル、クロロホルムのかわりにジクロロメタンを用いて、化合物3を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0077】
実施例4
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりにp−t−ブチルピリジン、クロロホルムのかわりにジクロロメタンを用いて、化合物4を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0078】
実施例5
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりにトリ(p−メトキシフェニル)ホスフィン、クロロホルムのかわりにジクロロメタンを用いて、化合物5を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0079】
実施例6
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりに、トリ(p−フルオロフェニル)ホスフィンを用いて、化合物6を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0080】
実施例7
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりに、トリ(p−トリル)ホスフィンを用いて、化合物7を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0081】
実施例8
化合物2と同様にしてトリフェニルホスフィンの代わりに、亜リン酸トリフェニルを用いて、化合物8を合成し、元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0082】
実施例9
<化合物9の合成>
化合物(A)(0.0199 g, 0.050 mmol)をクロロホルム(2 mL)に溶かしテトラキス(アセトニトリル)銅(I)(トリフルオロメタンスルホン酸)塩(0.0187 g, 0.050 mmol)を加えると濃い紫色溶液となった。ここに亜リン酸トリフェニル(0.035 g, 0.11 mmol)を加えてもほとんど変化は見られなかった。さらにトリフルオロメタンスルホン酸銀(I)(0.0128g, 0.050 mmol)を加えると、反応混合物はほぼ白色の不均一な懸濁液となった。2時間かき混ぜてからジエチルエーテル8 mLを加えて生成物を沈殿させて、この生成物を濾取し、さらにジエチルエーテル(2 mL×3回)で洗い乾燥させることで化合物9が得られた。収量:0.0485 g。元素分析で同定した。(元素分析の計算値及び実測値は、表1に示した。)
【0083】
実施例10
まず化合物(B)を合成した。アルゴン置換下、トシルアミド0.97g(5.6mmol)を脱水N,N−ジメチルホルムアミド200mlに溶解し、10℃に冷却して60%水素化ナトリウム0.23g(5.6mmol)を攪拌しながら加えた。この混合物を室温に昇温し、30分間撹拌した後、−65℃に冷却して4,4'-ビス(ブロモメチル)-2,2'-ビチアゾール(Helv. Chim. Acta., 75, 12211236 (1992)に従い合成)1.0g(2.8mmol)を徐々に加えた。その後、室温まで昇温し、さらに78〜80℃に加熱し、20時間反応を行った。反応終了後、反応混合物を氷水300mlに投入し、沈殿物をろ過し、水、エタノールおよびアセトンで洗浄し、乾燥した。シリカゲルカラム(展開溶剤:クロロホルム/メタノール=30/1)で精製し、下記の化合物(B')0.29gを得た。
続いて、化合物(B')0.28g(0.39mmol)を98%硫酸1.5mlに溶解し、110℃で2時間反応させた。反応混合物を氷水20mlに投入し、10%水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ性にした後、析出した沈殿をろ過、水洗、乾燥した。シリカゲルカラム(展開溶剤 クロロホルム/メタノール=5/1)で精製し、化合物(B)0.10g(0.23mmol)を得た。1H-NMR(CDCl3)にて、1.56ppm(N-H:H2Oと重なった)、4.06ppm(-CH2-)、7.25ppm(チアゾール環のC-H:CHCl3と重なった)にピークが観測された。
次に、化合物2と同様にして化合物(A)の代わりに化合物(B)を用いて、化合物10を合成し、元素分析で同定した。元素分析:化合物10(C54H44N6Cu2F6O6P2S2)計算値C(47.40%)、H(3.24%)、N(6.14%)/測定値C(46.84%)、H(3.48%)、N(6.26%)。





【0084】
[発光特性試験]
化合物1〜9について、それぞれ、0.8wt%のPMMA(ポリメチルメタクリレート)/トルエン溶液に、化合物の微粒子を分散させた分散液(分散液全体に対する化合物の量は2.0wt%)を作製した。これを石英板上で乾燥させて固定した試料を調製した。この薄膜の蛍光スペクトルを蛍光分光高度計(JOBINYVON−SPEX社製 Fluorolog)を用い、励起波長350nmで測定した。薄膜での相対的な発光強度を得るために、水のラマン線の強度を標準に、波数プロットした発光スペクトルをスペクトル測定範囲で積分して、分光光度計(Varian社製 Cary5E)を用いて測定した、励起波長での吸光度で割り付けた値を求めた。さらに化合物1での値を基準(=1)として化合物2〜8の発光強度の相対値を求めた(表1には相対強度として記載)。

表1に、化合物1〜9につき、元素分析(上段が測定値、下段の括弧内が計算値)と伴に、発光極大波長及び相対強度を表1に示した。
【0085】
【表1】

元素分析は、上段が測定値、下段の括弧内が計算値。
【0086】
[発光寿命特性]
化合物1と2について周波数変調法による発光寿命の測定を行った。Anal. Chem. 68, 9−17 (1996) に示された理論式にしたがって解析を行った。
【0087】
<化合物1の発光寿命測定>
発光が2つの成分(燐光発光および蛍光発光)を持ち、m = modulation、 τ1= 成分1の発光寿命、τ2=成分2の発光寿命、f=発光寿命τ1をもつ成分の割合(0≦f≦1、τ2を持つ成分の割合は1−fとなる)、ω=2π×周波数(すなわち角周波数)とするとき

m = [{fωτ1/(1+ω2τ12)+(1−f)ωτ2/(1+ω2τ22)}2+{f/(1+ω2τ12)+(1−f)/(1+ω2τ22)}2]1/2

で表されるmの理論式にmの実測値を最小自乗法でτ1=0.20(1)μs、τ2=0.002(7) μs、f=0.48(1)と決定した数値を基にプロットしたものが図1の計算値である。
これから48(1)%含まれる0.20(1)μsの成分が3重項発光由来
52(1)%含まれる0.002(7)μsの成分が1重項発光由来と考えられる。


解析によりりん光由来の0.20(1)μs (48(1)%)と蛍光由来の2(7) ns (52(1)%)の2成分の発光寿命が決定された。
【0088】
<化合物2の発光寿命測定>

発光が単一成分であり、m = modulation、 τ=発光寿命、ω=2π×周波数(すなわち角周波数)とするとき

m =(1+ω2τ2-1/2

で表されるmの理論式にmの実測値を最小自乗法でτ=5.04(7)μsと決定した数値を基にプロットしたものが図2の計算値である。
この単一の5.04(7)μsの発光寿命は3重項発光に由来すると考えられる。
【0089】
比較例1
配位子として化合物Aを用いた単核の銅(I)錯体である化合物11を合成し比較した

化合物11



化合物(A) (0.0209 g, 0.053 mmol)をアセトニトリル(2 mL)に懸濁し、アセトニトリル(3 mL)に溶かしたテトラキス(アセトニトリル)銅(I)トリフルオロメタンスルホン酸塩(0.0177 g, 0.047 mmol)を加え室温で1時間攪拌した。溶媒を窒素気流下で約半分に濃縮し、濾過して得られた溶液をジエチルエーテル溶媒拡散法で再結晶して化合物11を得た(13.2 mg, 0.022 mmol, 46%)。元素分析で同定した。
【0090】
元素分析:化合物11(C25H22CuF3N6O3S)計算値C(49.46%)、H(3.65%)、N(13.84%)/測定値C(49.42%)、H(3.62%)、N(13.67%)。
化合物11を化合物1〜9と同様にして発光特性試験を行ったところ発光極大507 nmに化合物1に対する相対強度0.025の発光が観測された。
【0091】
実施例1〜9と比較例1より、本発明の複素環が環状に連結された大環状配位子を含む新規な多核錯体は、単核錯体に比べて有意に大きい発光強度をもつりん光発光特性が発現された。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】化合物1について、励起光の変調周波数とmodulationとの関係を表示したグラフである。
【図2】化合物2について励起光の変調周波数とmodulationとの関係を表示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される配位子1個に対して2個以上の金属原子および/または金属イオンをもつ多核錯体。



(式中、Q1およびQ2はそれぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の複素環基を表し、2つのQ1が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、2つのQ2が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよい。R1およびR2はそれぞれ独立に直接結合または置換されてもよい2価の炭化水素基を表し、Xは窒素原子、リン原子を表し、R3は窒素原子、酸素原子、リン原子および硫黄原子から選ばれる原子を含む1価の有機基、水素原子、または置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、複数個のQ1、Q2、R1、R2、R3およびXはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項2】
上記一般式(I)で表される配位子が下記一般式(II)で表される配位子である請求項1記載の多核錯体。

(式中、R1、R2、R3およびXはそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。E1およびE2はそれぞれ独立に窒素原子、リン原子、酸素原子または硫黄原子を表し、Yは炭素原子または窒素原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびYはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、

2つの


で表される環は、直接または環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。)
【請求項3】
上記一般式(II)で表される配位子が下記一般式(III)で表される配位子である請求項2記載の多核錯体。

(式中、E1、E2、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。Y2およびY6はそれぞれ独立に炭素原子または窒素原子を表し、Y3およびY5はそれぞれ独立にC(H)、窒素原子、N(H)、酸素原子または硫黄原子を表し、Y4は直接結合、C(H)、窒素原子、酸素原子または硫黄原子を表し、複数個のE1、E2、R1、R2、R3、XおよびY3〜Y5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。2つのR3が、直接または間接に結合することによりさらに環を形成してもよく、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよく、
また、

で表される環は置換基を有していてもよく、
2つの

で表される環上の置換基が一緒になって環を形成してもよい。)
【請求項4】
上記一般式(III)で表される配位子が下記一般式(IV)または(V)で表される配位子である請求項3記載の多核錯体。



(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
Rは、水素原子または置換基を表し、2個のRが一緒になって環を形成してもよい。複数個のRは同一でも異なっていてもよい。)



(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、複数個のZ1は互いに同じでも異なってもよく、複数個のZ2は互いに同じでも異なってもよい。R'およびR''は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表し、2個のR'またはR''が一緒になって環を形成してもよい。)
【請求項5】
金属イオンおよび/または金属原子は、そのd電子が偶数である請求項1〜4のいずれかに記載の多核錯体。
【請求項6】
金属イオンおよび/または金属原子のd電子が6、8、または10個である請求項5記載の多核錯体。
【請求項7】
金属イオンおよび/または金属原子のd電子が10個である請求項6記載の多核錯体。
【請求項8】
金属イオンが銅(I)イオンまたは銀(I)イオンである請求項7記載の多核錯体。
【請求項9】
りん光発光性を有する請求項1〜8のいずれかに記載の多核錯体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の多核錯体を含む発光素子。
【請求項11】
下記一般式(VI)で表される配位子化合物。


(式中、X、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に前記と同じ意味を表す。
1およびZ2はどちらか一方はC(R')であり、もう一方は酸素原子、硫黄原子またはN(R'')であり、複数個のZ1は互いに同じでも異なってもよく、複数個のZ2は互いに同じでも異なってもよい。R'およびR''は、それぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−7324(P2009−7324A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305497(P2007−305497)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】