説明

多段式植物育成装置の育成棚各段への加湿空気流供給システム

【課題】育成棚各段に底面かん水装置を配置した多段式植物育成装置において、加湿空気流を必要に応じて迅速かつ効率よく育成棚各段へ供給することができるとともに、加湿空気流の供給用配管の設置も簡略化することができる加湿空気流供給システムを提供する。
【解決手段】閉鎖型構造物1内に加湿装置20を設置し;養液タンク10からポンプPにより養液を閉鎖型構造物内の育成棚3各段に配置した底面かん水装置の給水口13へ供給する養液供給管11を配設し;育成棚各段に配置した底面かん水装置の排水口14から排出される排液を集めて最下段育成棚の下方へ導く排液戻し管16およびこの排液戻し管下端に接続されて排液を養液タンクへ戻す排液戻し水平管17を配設し;養液タンク近傍の排液戻し水平管にU字型液溜部23を形成し;加湿装置から送出される加湿空気流を導く加湿空気流導管22をU字型液溜部上流の排液戻し水平管上流端17aに接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工照明装置、空調装置および炭酸ガス供給装置を装備した外部環境の影響を受けない閉鎖型構造物内に設置された多段式育成棚モジュールの育成棚各段へ、加湿空気流を効果的に効率よく供給することができるシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
閉鎖型構造物の内部空間に、多段式に植物育成棚を設置し、人工照明装置や空調装置さらには炭酸ガス供給装置を装備した多段式植物育成装置としては、特許文献1(WO2005/000005)や特許文献2(特開2002−291349号公報)等に記載されているような装置が知られている。この装置を、図7を参照して説明すると、遮光性断熱壁2で包囲された閉鎖型構造物1内に、上下方向に複数段の育成棚3を配した多段式育成棚モジュール4を設置し、前記育成棚3の各段の裏面にはその下方の段に載置された植物育成用培地を入れるセルトレイ(図示せず)に光を照射する人工照明装置5を設け、前記育成棚3の各段の背面には各段の前面から空気流を吸引して各段に空気流を生じさせるファン6を設け、前記閉鎖型構造物1内の雰囲気を調温調湿する空調装置7および前記雰囲気の炭酸ガス濃度を調整する炭酸ガス供給装置8を前記閉鎖型構造物1内に設置した構造を有している。
図示の例では、2つの多段式育成棚モジュール4がそれらの開放前面を向かい合わせにされて閉鎖型構造物1内に配置されており、育成棚各段に設けたファン6によって、矢印で示したような空気流が育成棚各段に生じるようにされている。2つの育成棚モジュール4の間の空間は作業空間として使用することができる。
【0003】
かような多段式植物育成装置においては、図7には図示されていないが、育成棚3各段に底面かん水装置が配設されている。底面かん水装置としては種々の形状や形式のものがあるが、一般的には、植物育成培地を入れた複数のセルトレイを載置できるかん水トレイを有し、かん水トレイに給水口と排水口を設けた構造とされている。排水口としてはかん水トレイ底面に形成した開口が使用されるが、給水口としては種々のタイプがある。例えば、(a)かん水トレイ底面に形成した開口から養液(肥料分を含む培養液)を供給するタイプ、(b)かん水トレイ内に延長させた給水管の先端開口から養液を供給するタイプ、(c)複数の小孔を形成した給水管をかん水トレイ底面に配設して小孔から養液を供給するタイプ、等が用いられている。本明細書中では、底面かん水装置の“給水口”という用語は、(a)のかん水トレイ底面に形成した“開口”だけでなく、(b)の“給水管先端開口”や(c)の“給水管の複数小孔”も総称する用語として使用している。
底面かん水装置を使用することにより、給水口からかん水トレイに供給された養液が所定水位とされ、セルトレイ底面からかん水がなされ、残余の養液は排液として排水口から排出される。こうしたかん水操作は、植物の育成期間中に必要に応じて間欠的に行われる。
【0004】
多段式育成棚モジュール4の育成棚3各段の底面かん水装置へ養液を供給・排出する給排システムの一例を図8を参照して説明する。図8は、図7において向かい合わせて配置された多段式育成棚モジュール4の1つを開放前面側から見た図であり、図7に図示されている育成棚3各段の人工照明装置5およびファン6は図示を省略してある。また、図7と同じ構成部材には同じ参照番号を付すことにより説明を省略する。養液は閉鎖型構造物1外部に設置された養液タンク10に貯留されており、ポンプPにより養液供給管11を介して育成棚3各段の底面かん水装置の給水口13へ供給される。養液供給管11と各段の給水口13とは、養液供給管11から分岐する分岐管12を介して接続されている。
【0005】
育成棚3各段の底面かん水装置に給水口13から供給された養液は、底面かん水装置に載置されたセルトレイ(図示せず)の底面からかん水されてセル内に植えられた植物の育成に供される。残余の養液は底面かん水装置の排水口14から排液管15を介して排液戻し管16へ排出され、各段の排水口14からの排液はこの排液戻し管16に集められて育成棚モジュール4最下段の育成棚3下方へ導かれる。この排液戻し管16の下端は、水平に配設された排液戻し水平管17に接続され、この排液戻し水平管17は養液タンク10へ接続される。かくして、育成棚3各段からの排液は排水口14、排液管15、排液戻し管16、排液戻し水平管17を介して養液タンク10へ戻され、成分調整した後に再利用される。
【0006】
特許文献1にも教示されているように、多段式植物育成装置は接ぎ木苗の育苗にも用いられる。接ぎ木苗の育苗においては、先ず育成棚で台木と穂木を別個に育苗した後、台木と穂木を切断して互いに接合し、接ぎ木苗を作る。得られた接ぎ木苗も育成棚に植えて育苗されるが、接ぎ木直後の接ぎ木苗の育苗には、接ぎ木の活着を促進するために、相対湿度100%近くの高湿度の環境で育苗する養生期間が必要となる。特許文献1においては、高湿度環境が必要となる接ぎ木苗の養生期間に、図9に示したような、例えば透明アクリル樹脂からなる底板のない箱形状を有し、複数の通気孔31を備えた透光性遮蔽物30を用いて、図10に示したようにして、多段式植物育成装置の育成棚3各段に配置した底面かん水装置のセルトレイ32に植えられた接ぎ木苗33を被覆している。これにより透光性遮蔽物30内部は、接ぎ木苗や培地から蒸発した水分によって高湿度環境とすることができる。一方、接ぎ木苗33の光合成に際しては炭酸ガスが必要となるが、透光性遮蔽物30内部の高湿度状態を損なわない程度の大きさの複数の通気孔31を通じて、ファン6による育苗棚3各段に生じている空気流によりガス交換がなされ、閉鎖型構造物1内の炭酸ガス含有雰囲気を透光性遮蔽物30内へ供給することができる。
【0007】
【特許文献1】国際公開 WO2005/000005公報
【特許文献2】特開2002−291349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10に示したように、育成棚各段で育苗している苗を透光性遮蔽物30で覆うことによって、苗や培地から蒸発した水分を透光性遮蔽物30内に閉じこめて高湿度環境をもたらすことができる。しかしながら、例えば接ぎ木苗の養生期間は、接ぎ木直後の数日間の短期間であり、接ぎ木苗や培地からの水分蒸発のみによって透光性遮蔽物30内を高湿度環境とするのでは、短期間に所望した環境調節が行い難い場合もあり、より迅速な高湿度環境の達成が望まれる。
【0009】
また、閉鎖型構造物1内に加湿器を設置し、閉鎖型構造物内の雰囲気全体を高湿度とし、これをファン6により空気流として育成棚3各段へ流通させ育成棚各段で高湿度環境をもたらすことも考えられる。しかし、閉鎖型構造物内の雰囲気全体を加湿器で加湿する場合、大型の加湿器あるいは多数の加湿器が必要となるため効率的でなく、さらには、閉鎖型構造物内に設置した温度センサーや湿度センサーの検知素子が高湿度環境により劣化しやくなるとともに、安価な家庭用空調装置の使用が不可能となり、高湿度環境に対応した業務用冷凍機の使用が必要となる。
【0010】
そこで本発明は、多段式植物育成装置の育成棚各段へ、加湿空気流を必要に応じて迅速かつ効率よく供給することができるとともに、加湿空気流の供給用配管の設置も簡略化することができる、新規かつ改良された加湿空気流供給システムを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明の多段式植物育成装置の育成棚各段への加湿空気流供給システムは、遮光性断熱壁で包囲された閉鎖型構造物内に、上下方向に複数段の育成棚を配した少なくとも1つの多段式育成棚モジュールと前記閉鎖型構造物内の雰囲気を調温調湿する空調装置と前記雰囲気の炭酸ガス濃度を調整する炭酸ガス供給装置とを設置し;前記多段式育成棚モジュールの育成棚各段に、植物育成用培地を入れた複数のセルトレイを載置でき前記セルトレイの底面から間欠的に潅水可能な給水口および排水口を備えた底面潅水装置を配設し;前記育成棚各段の裏面に、その下方の段に載置されたセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け;
前記育成棚各段の背面に、各段の前面から空気流を吸引して各段に空気流を生じさせるファンを設け;調温調湿され炭酸ガス濃度を調整された前記雰囲気を空気流として前記育成棚各段に供給できるようにした多段式植物育成装置において:前記閉鎖型構造物内の調温調湿され炭酸ガス濃度を調整された雰囲気を吸引して加湿空気流として送出する加湿装置を前記閉鎖型構造物内に設置し;前記閉鎖型構造物外部に設置した養液タンクからポンプにより養液を前記閉鎖型構造物内の前記育成棚各段に配置した底面かん水装置の給水口へ供給する養液供給管を配設し;前記育成棚各段に配置した底面かん水装置の排水口から排出される排液を集めて前記育成棚モジュールの最下段育成棚の下方へ導く排液戻し管およびこの排液戻し管下端に接続されて排液を前記養液タンクへ戻す排液戻し水平管を配設し;前記養液タンク近傍の前記排液戻し水平管にU字型液溜部を形成し;前記加湿装置から送出される加湿空気流を導く加湿空気流導管を前記U字型液溜部上流の排液戻し水平管上流端に接続したことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の好ましい実施形態においては、前記U字型液溜部の上流側の上端が下流側の上端より高い位置になるようにする。
さらに、前記加湿装置から送出される加湿空気流を導く前記加湿空気流導管の他に追加的加湿空気流導管を別途設け、前記育成棚モジュールの最上段育成棚の排液戻し管上端に接続するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加湿空気流供給システムによれば、加湿装置から送出される加湿空気
流を導く加湿空気流導管を、排液戻し水平管の上流端に接続するという極めて簡単な配管構成によって、かん水停止時に加湿装置から加湿空気流を送出すれば、排液の流れていない排液戻し水平管、排液戻し管、排液管を介して底面かん水装置の排水口から育成棚各段へ加湿空気流を分配供給することができる。換言すれば、育成棚各段に配置した底面かん水装置からの排液の排出系に使用されている排液戻し水平管、排液戻し管および排液管を、育成棚各段への加湿空気流の供給用配管として共用することができる。その結果、加湿装置からの加湿空気流を育成棚各段へ分配供給するための配管を別途設ける必要がない。
【0014】
また、排液戻し水平管途中に形成したU字型液溜部の上流側の上端が下流側の上端より高い位置になるようにすることによって、排液が排液戻し水平管の上流側からU字型液溜部を通って下流側の養液タンクへ流れやすくすることができる。
【0015】
さらに、加湿装置から送出される加湿空気流を導く加湿空気流導管の他に追加的加湿空気流導管を別途設けることによって、育成棚モジュールの育成棚各段へ追加的に加湿空気流を供給することができるため、育成棚各段での高湿度環境の達成をより一層迅速に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、多段式育成棚モジュール4の育成棚3各段への本発明による加湿空気流供給システムの基本概念を説明する説明図であり、従来の養液給排システムの説明図である図8と同じ構成要素には同じ参照番号を付すことにより、説明を省略する。
図1に示す本発明の加湿空気流供給システムにおいては、図8に示す従来の養液給排システムを利用するのであるが、閉鎖型構造物1内部に新たに加湿装置20が設けられている。この加湿装置20は、閉鎖型構造物1内の空調装置7により調温調湿され、炭酸ガス供給装置8により炭酸ガス濃度を調整された閉鎖型構造物内雰囲気を吸引して、加湿装置20内で加湿した後、加湿空気を送出する機能を備えている。加湿装置20から送出される加湿空気は、加湿空気流導管22に導かれる。加湿装置20からの加湿空気の送出・停止は、加湿装置20内に設けた送風ファン21の回転・停止により行うことができる。また、養液タンク10近傍の排液戻し水平管17には、排液戻し水平管をU字型に曲折したU字型液溜部23を形成し、このU字型液溜部23の上流の排液戻し水平管17の上流端17aに加湿空気流導管22を接続する。
【0017】
図1に図示した加湿空気流供給システムの動作を以下に説明する。
多段式育成棚モジュール4の育成棚3各段に配置した底面かん水装置への養液の供給・排出は、図8における動作と同様である。すなわち、ポンプPを起動して養液タンク10から汲み上げられた養液は養液供給管11に導かれ、育成棚3各段への分岐管12を介して給水口13から底面かん水装置へ供給される。養液は底面かん水装置に載置されたセルトレイ(図示せず)の底面からかん水され、残余の養液は底面かん水装置の排水口14から排液管15を介して排液戻し管16へ排出される。育成棚3各段の排水口14からの排液は排液戻し管16に集められて育成棚モジュール最下段の育成棚下方へ導かれ、さらに排液戻し水平管17を通り、U字型液溜部23を通過して養液タンク10へ戻される。
【0018】
かん水を停止する場合には、ポンプPを停止して養液タンク10から養液供給管11への養液の供給を停止し、底面かん水装置の排水口14から残余の養液をすべて排出させればよい。このとき、育成棚3各段の排液管15、排液戻し管16および排液戻し水平管17内には排液が実質的に残っていない状態となるが、U字型液溜部23には、図2の拡大図に示したように排液が溜まった状態となって残っている。なお、排液戻し水平管17は、排液が養液タンク10へ戻りやすくするために、養液タンク10側へ向けて若干傾斜させておくことが望ましい。
【0019】
図2に図示したように、好ましくは、U字型液溜部23の上流側(図面の左側)の上端23aが下流側(図面の右側)の上端23bより高い位置になるようにする。このようにすることによって、U字型液溜部23の上流側の水頭圧が、下流側の水頭圧より高くなるため、排液戻し水平管17の上流側からU字型液溜部23を通って下流側に排液が流れやすくなる。排液の流れが停止したときには、U字型液溜部23の上流側と下流側で水頭圧が等しくなる位置で液が溜まる状態となる。
【0020】
上述したかん水停止状態において、加湿装置20からの加湿空気を育成棚モジュール4の育成棚3各段へ供給するに際しては、加湿装置20の送風ファン21を起動させて閉鎖型構造物1内雰囲気の吸引と加湿空気の送出を行う。送出された加湿空気は加湿空気流導管22へ導かれ、排液の流れていない排液戻し水平管17へ導入されるが、U字型液溜部23に溜まっている排液(図2参照)により流通が阻止される。そのため、加湿空気流導管22内の加湿空気流(図1中に点線で示す)は排液戻し水平管17に接続された排液戻し管16へ導かれて上昇し、排液管15を介して育成棚3各段に配置した底面かん水装置の排水口14から育成棚各段へ流れ込む。かくして、加湿装置20からの加湿空気流は、育成棚3のすべての段に分散供給されて、育成棚各段のセルトレイで育成されている植物に高湿度環境を与えることができる。
【0021】
上述したごとき本発明の加湿空気流供給システムにおいては、加湿空気流を育成棚各段へ供給するための配管として、養液のかん水停止時の排液管15、排液戻し管16および排液戻し水平管17を利用するため、加湿空気流の育成棚各段への供給配管を別途配設する必要がない。
【0022】
本発明においては、加湿空気流の供給は養液のかん水停止時のみ行うため、かん水時に作動するポンプPとかん水停止時に作動する加湿装置20の送風ファン21とを、タイマー操作等により予め設定されたプログラムにより自動的に作動させるようにすることも可能である。
【0023】
なお、図1の実施例においては、加湿装置20には加湿空気流導管22とは別のもう1本の追加的加湿空気流導管25を必要に応じて設けることができ、この追加的加湿空気流導管25は育成棚モジュール4の最上段育成棚3の排液戻し管16の上端16aに接続されている。かような追加的加湿空気流導管25を配設することにより、加湿装置20から加湿空気流導管22を介して育成棚各段に供給される加湿空気流(点線で示す)に加えて、追加的加湿空気流導管25を介して加湿空気流(一点鎖線で示す)を追加的に育成棚各段へ供給させることができる。
【0024】
本発明の基本概念を示す図1においては、閉鎖型構造物1内に1つの多段式育成棚モジュール4を設置した場合を示しているが、図3には、複数の多段式育成棚モジュール4を設置する場合の実施例を示している。この図3においても、図1と同じ構成要素には同じ参照番号を付すことにより、説明を簡略化(省略)する。
【0025】
図3は、閉鎖型構造物1内に3つの多段式育成棚モジュール4を配置した例を示しており、養液タンク10からポンプPにより汲み上げられた養液は養液供給管11に導かれ、さらに各育成棚モジュール4ごとに分流させ、各育成棚モジュール4の育成棚3各段に配置した底面かん水装置の給水口13へ分岐管12を介して供給される。底面かん水に用いられた残余の養液は、底面かん水装置の排水口14から排液管15を介して各育成棚モジュール4ごとに排液戻し管16に集められて各育成棚モジュール4の育成棚最下段の下方へ導かれ、さらに排液戻し水平管17へ集められて、U字型液溜部23を通過して養液タンク10へ戻される。
【0026】
ポンプPを停止して養液の供給・排出を停止すると、各育成棚モジュール4の育成棚各段の排液管15、排液戻し管16および排液戻し水平管17内には排液が実質的に残っていない状態となるが、U字型液溜部23には、図2の拡大図に示したように排液が溜まった状態とされる。このかん水停止状態において、加湿装置20の送風ファン21を起動させて加湿空気の送出を行う。送出された加湿空気流(点線で示す)は、排液戻し水平管の下流端17aに接続された加湿空気流導管22へ導かれて排液戻し水平管17へ導入されるが、U字型液溜部23に溜まっている排液により流通が阻止される。そのため、排液戻し水平管17内に導入された加湿空気流は、排液戻し水平管17に接続された各育成棚モジュール4ごとの排液戻し管16へ導かれて上昇し、排液管15を介して育成棚3各段に配置した底面かん水装置の排水口14から育成棚各段へ供給される。
【0027】
図3の場合にも、加湿装置20には加湿空気流導管22とは別のもう1本の追加的加湿空気流導管25を必要に応じて設けることができ、この追加的加湿空気流導管25は各育成棚モジュール4の最上段の育成棚の排液戻し管16の上端16aにそれぞれ分岐接続される。かような追加的加湿空気流導管25により、加湿装置20から加湿空気流導管22を介して各育成棚モジュール4の育成棚3各段に供給される加湿空気流(点線で示す)に加えて、追加的加湿空気流導管25を介して加湿空気流(一点鎖線で示す)を追加的に各育成棚モジュール4の育成棚3各段へ供給することができる。
【0028】
例えば接ぎ木苗の養生に際しては100%に近い相対湿度が必要とされるが、閉鎖型構造物1内雰囲気全体を高湿度環境とするよりも、本発明のように相対湿度100%に近い加湿空気流を育成棚モジュール4の育成棚各段へ供給するシステムの方が、加湿能力の小さい加湿装置20を使用できるという利点がある。さらに、高湿度の空気流が育成棚各段を通過する際にセルトレイの培地や植物等と接触することにより相対湿度は低下するため、閉鎖型構造物1内雰囲気全体が100%に近い高湿度となることはなく、その結果、高湿度環境での使用が不可能な家庭用空調装置も使用でき、温度センサーや湿度センサーの高湿度環境での検知素子の劣化も生じにくくなる。
【0029】
本発明の加湿空気流供給システムのより好ましい実施形態においては、多段式植物育成装置の育成棚各段に、図9に示した透光性遮蔽物30あるいは図4に示した植物育成ユニット40を使用することによって、透光性遮蔽物30あるいは植物育成ユニット40内部に高湿度環境をより一層迅速かつ確実に生じさせることができる。
【0030】
すなわち、前述した特許文献1においては、高湿度環境が必要となる接ぎ木苗の養生期間中に、図9に示すような、例えば透明アクリル樹脂からなる底板のない箱形状を有し、複数の通気孔31を備えた透光性遮蔽物30を用いて、図10に示したようにして、多段式育成装置の育成棚3各段に配置した底面かん水装置のセルトレイ32に植えられた接ぎ木苗33を被覆している。これにより透光性遮蔽物30内部は、接ぎ木苗や培地から蒸発した水分によって高湿度環境とすることができる。本発明の加湿空気流供給システムは、育成棚各段に配置された底面かん水装置のセルトレイ32に植えられた接ぎ木苗33等の植物をかような透光性遮蔽物30で被覆して育苗する場合に、より一層効果的に適用できる。すなわち、底面かん水装置のかん水停止時に排水口14から加湿空気流を透光性遮蔽物30内に供給することにより、より一層迅速かつ確実に透光性遮蔽物30内に高湿度環境を生じさせることができるとともに、空調装置7や炭酸ガス供給装置8により温度や炭酸ガス濃度が調整された閉鎖型構造物1内雰囲気の空気流をより効率よく透光性遮蔽物30内に供給することができる。
【0031】
上記した透光性遮蔽物30と同様に、その内部に高湿度環境をもたらすことができる図4に示したような植物育成ユニット40が、本件出願と同じ出願人により特願2007−110051号で提案されている。この植物育成ユニット40は底面かん水装置を一体化して設けた構造を有している。すなわち、四辺形の底壁41と4つの側壁42a、42b、42c、42dと頂壁43とからなる箱形状を有し、前面となる側壁42aを開閉自在な扉44とし、扉44の両側の側壁42c、42dに複数の通気孔45を形成し、扉44近くの底壁41の両端近傍にそれぞれ給水口13と排水口14を設けてあり、少なくとも扉44と頂壁43とを透光性材料から構成してある。
【0032】
また、扉44に対向する背面側壁42bには、全開から全閉まで開口率を変化させる手段を備えた複数の背面スリット状開口46を形成してある。植物を植える培地を入れたセルトレイ(図示せず)を底壁41面上に載置して養液を給水口13から供給することにより底面かん水がなされ、残余の養液は排水口14から排出される。
【0033】
背面スリット状開口46の開口率を変化させる手段の一例としては図5に示したような開口率調整板47が使用できる。この開口率調整板47には、背面側壁42bに形成した複数の背面スリット状開口46と形状、寸法が略同じ複数のスリット状開口47が形成されており、背面側壁42b外面に固定した一組の案内枠49、49により背面側壁42bの外面にスライド自在に保持されている。この開口率調整板47を、背面側壁42b外面に対してスライドさせることにより、図6(A)に示したように、背面スリット状開口46と開口率調整板47のスリット状開口48とが全く重ならない位置では開口率0%(全閉)、図6(B)に示したように半分重なった位置では開口率50%(半開)、図6(C)に示したように完全に重なった位置では開口率100%(全開)の状態となり、全開から全閉までの間で任意の開口率に変化させることができる。
かような構造の植物育成ユニット40を使用することにより、前面の扉44とその背面側壁42bに設けた背面スリット状開口46を開閉することにより、高湿度環境をもたらす遮蔽状態だけでなく、開放状態の育成も行うことができる。
【0034】
本発明の加湿空気流供給システムは、育成棚3各段に図4の植物育成ユニット40を配置した場合にも、より一層効果的に適用できる。すなわち、植物育成に際して高湿度環境が必要となるときは、植物育成ユニット40の前面の扉44とその背面に設けた背面スリット状開口46を閉状態とすることによって植物育成ユニット40内部をセルトレイ内の培地や植物から蒸発した水分によって高湿度環境とすることができるが、本発明の加湿空気流供給システムを用いて底面かん水装置のかん水停止時に排水口14から加湿空気流を植物育成ユニット40内に供給することにより、より一層迅速かつ確実に植物育成ユニット40内に高湿度環境を生じさせることができるとともに、空調装置7や炭酸ガス供給装置8により温度や炭酸ガス濃度が調整された閉鎖型構造物1内雰囲気の空気流をより効率よく植物育成ユニット40内に供給することができる。図4に図示した植物育成ユニット40は、特に高湿度環境を必要としない植物育成期間には前面の扉44と背面スリット状開口46を開状態とすればよく、図9に図示した透光性遮蔽物30のように育成棚3各段から取り除く作業を必要としない利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の加湿空気流供給システムの基本概念を示す説明図である。
【図2】図1におけるU字型液溜部の拡大図である。
【図3】複数の多段式育成棚モジュールに本発明の加湿空気流供給システムを適用した実施例を示す説明図である。
【図4】育成棚各段に配置できる底面かん水装置一体型植物育成ユニットの例を示す斜視図である。
【図5】図4の植物育成ユニットにおける背面スリット状開口の開口率を変化させる手段の実施例を示す斜視図である。
【図6】図4の植物育成ユニットにおける背面スリット状開口の開口率を、(A)0%、(B)50%、(C)100%に変化させた状態を示す説明図である。
【図7】従来の多段式植物育成装置の例を示す説明図である。
【図8】従来の多段式植物育成装置における育成棚各段に配置した底面かん水装置への養液の給排システムの例を示す説明図である。
【図9】高湿度環境をもたらすために従来から使用されていた透光性遮蔽物の例を示す斜視図である。
【図10】図9の透光性遮蔽物の使用方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1:閉鎖型構造物
2:遮光性断熱壁
3:育成棚
4:多段式育成棚モジュール
5:人工照明装置
6:ファン
7:空調装置
8:炭酸ガス供給装置
10:養液タンク
11:養液供給管
13:給水口
14:排水口
16:排液戻し管
16a:排液戻し管上端
17:排液戻し水平管
17a:排液戻し水平管上流端
20:加湿装置
22:加湿空気流導管
23:U字型液溜部
25:追加的加湿空気流導管
32:セルトレイ
P:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遮光性断熱壁で包囲された閉鎖型構造物内に、上下方向に複数段の育成棚を配した少なくとも1つの多段式育成棚モジュールと前記閉鎖型構造物内の雰囲気を調温調湿する空調装置と前記雰囲気の炭酸ガス濃度を調整する炭酸ガス供給装置とを設置し;
前記多段式育成棚モジュールの育成棚各段に、植物育成用培地を入れた複数のセルトレイを載置でき前記セルトレイの底面から間欠的に潅水可能な給水口および排水口を備えた底面潅水装置を配設し;
前記育成棚各段の裏面に、その下方の段に載置されたセルトレイに光を照射する人工照明装置を設け;
前記育成棚各段の背面に、各段の前面から空気流を吸引して各段に空気流を生じさせるファンを設け;
調温調湿され炭酸ガス濃度を調整された前記雰囲気を空気流として前記育成棚各段に供給できるようにした多段式植物育成装置において、
前記閉鎖型構造物内の調温調湿され炭酸ガス濃度を調整された雰囲気を吸引して加湿空気流として送出する加湿装置を前記閉鎖型構造物内に設置し;
前記閉鎖型構造物外部に設置した養液タンクからポンプにより養液を前記閉鎖型構造物内の前記育成棚各段に配置した底面かん水装置の給水口へ供給する養液供給管を配設し;
前記育成棚各段に配置した底面かん水装置の排水口から排出される排液を集めて前記育成棚モジュールの最下段育成棚の下方へ導く排液戻し管およびこの排液戻し管下端に接続されて排液を前記養液タンクへ戻す排液戻し水平管を配設し;
前記養液タンク近傍の前記排液戻し水平管にU字型液溜部を形成し;
前記加湿装置から送出される加湿空気流を導く加湿空気流導管を前記U字型液溜部上流の排液戻し水平管上流端に接続したことを特徴とする、多段式植物育成装置の育成棚各段への加湿空気流供給システム。
【請求項2】
前記U字型液溜部の上流側の上端が下流側の上端より高い位置になるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の多段式植物育成装置の育成棚各段への加湿空気流供給システム。
【請求項3】
前記加湿装置から送出される加湿空気流を導く前記加湿空気流導管の他に追加的加湿空気流導管を別途設け、前記育成棚モジュールの最上段育成棚の排液戻し管上端に接続したことを特徴とする請求項1または2に記載の多段式植物育成装置の育成棚各段への加湿空気流供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−5634(P2009−5634A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170596(P2007−170596)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000204099)太洋興業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】