説明

多気筒型内燃機関のシリンダブロック

【課題】多数のシリンダボア2を囲むようにウォータージャケット4が設けられ、このウォータージャケット4においてシリンダ配列方向の一端側に設けられる幅広部4aの底に冷却液の導入路6が連接される多気筒型内燃機関のシリンダブロック1において、シリンダボア2の下側領域の過冷却を抑制または防止する。
【解決手段】導入路6とウォータージャケット4との連接部分には、導入路6から導入される冷却液をウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4b(シリンダバレル3の外壁面とも言う)の下側領域から遠ざけて上側領域に導くための冷却液案内手段(7)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒型内燃機関のシリンダブロックに関する。特に、シリンダブロックに設けられるウォータージャケットの冷却液導入部分での冷却液の流れ方を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、多気筒型内燃機関のシリンダブロックには、燃焼室からの熱により加熱されたシリンダボアを冷却するために、ウォータージャケットが設けられる。このウォータージャケットは、シリンダボアを作る壁部(シリンダバレル)を囲むように設けられる。このウォータージャケットには、内燃機関に設置されるウォーターポンプにより圧送される冷却液が導入される。なお、冷却液は、一般的に公知のように、例えばLLC(Long Life Coolant)と呼ばれる不凍液等とされる。
【0003】
一般的に、内燃機関では燃焼室が最も高温となる関係より、シリンダボアにおいて燃焼室に近い領域が最も高温となる。そこで、シリンダボアの上側領域つまり燃焼室に近い領域を積極的に冷却するために、ウォータージャケット内に導入される冷却液を斜め上向きに流すように、冷却液の流れが設定される。なお、ウォータージャケット内で冷却液は、シリンダボアを横切る方向、つまりシリンダボアの中心軸線方向に対し直交する方向へ向けて流されるようになっている。
【0004】
ところで、冷却液の導入路は、例えばウォータージャケットにおいて内燃機関の前端下側に連接されることがある。これは、冷却液を送り出すためのウォーターポンプの設置場所に関係している。一般的に、ウォーターポンプは、内燃機関の前端下側に取り付けられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2002−276361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来例のようなウォータージャケットに対する冷却液の導入路の連接場所では、導入路からウォータージャケット内に冷却液が導入されると、この冷却液が、ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面(シリンダバレルの外壁面とも言う)の下側領域に衝突して、拡散されつつ斜め上向きに流れる状態になりやすい。
【0007】
そのような場合、多数のシリンダボアのうち、導入路寄りに位置するシリンダボアに関して、下側領域が過剰に冷却される傾向になる。そのため、シリンダボアの上下領域での温度ばらつきが発生することになり、シリンダボアの上下領域とピストンとの間のクリアランスのばらつきが大きくなる。このようなことから、シリンダボアやピストンの偏摩耗が発生したり、フリクションロスが増大して内燃機関の燃費が低下したり、することが懸念される。
【0008】
ところで、シリンダボアの上側領域(燃焼室寄り領域)を積極的に冷却させるために、例えばウォータージャケット内にスペーサと呼ばれるインサート部材を挿入することがある。このような場合には、前記導入路から導入される冷却液が、ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面の下側領域とインサート部材との対向間に流入することがあって、前記同様、シリンダボアの下側領域が過剰に冷却される傾向になる。
【0009】
このような事情に鑑み、本発明は、多数のシリンダボアを囲むようにウォータージャケットが設けられ、このウォータージャケットにおいてシリンダボア配列方向の一端側に設けられる幅広部の底に冷却液の導入路が連接される多気筒型内燃機関のシリンダブロックにおいて、シリンダボアの下側領域の過冷却を抑制または防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多数のシリンダボアを囲むようにウォータージャケットが設けられ、このウォータージャケットにおいてシリンダボア配列方向の一端側に設けられる幅広部の底に冷却液の導入路が連接される多気筒型内燃機関のシリンダブロックであって、前記ウォータージャケットに対する前記導入路の連接部分には、前記導入路から導入される冷却液を前記ウォータージャケットにおいてシリンダボア側の内壁面の下側領域から遠ざけて上側領域に導くための冷却液案内手段が設けられている、ことを特徴としている。
【0011】
この構成では、導入路からウォータージャケットに冷却液が導入されると、この冷却液がウォータージャケットの幅広部におけるシリンダボア側内壁面(シリンダバレルの外壁面とも言う)の下側領域に衝突しにくくなって、ウォータージャケット内を斜め上向きに流されるようになる。
【0012】
これにより、多数のシリンダボアのうち、特に導入路寄りのシリンダボアに関して、ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面において、比較的昇温しにくい下側領域(クランクシャフト寄り領域)が過剰に冷却されにくくなって、最も昇温しやすい上側領域(燃焼室寄り領域)が効率良く冷却されるようになる。
【0013】
このように、前記構成によれば、ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面において下側領域の過冷却を抑制または防止しながら上側領域を効率良く冷却することが可能になる。
【0014】
これにより、シリンダボアの上下領域での温度ばらつきを低減することが可能になるから、シリンダボアの上下領域とピストンとの間のクリアランスのばらつきを低減することが可能になる。その結果、シリンダボアやピストンの偏摩耗を抑制または防止することが可能になる他、フリクションロスを軽減することが可能になって内燃機関の燃費を向上するうえで有利になる。
【0015】
好ましくは、前記導入路の幅は、前記幅広部の底幅より小さく設定され、前記導入路は、前記ウォータージャケットの幅広部の底に対して反シリンダボア側に片寄った状態で連接されることによって、前記導入路においてシリンダボア側の内壁面が前記ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面より外側にオフセット配置され、前記導入路のシリンダボア側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部を丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径を前記オフセット寸法より小さく設定することによって、前記冷却液案内手段が構成される。
【0016】
ここでは、ウォータージャケットに対する導入路の連接部分や、冷却液案内手段の構成を特定している。この特定によれば、導入路からウォータージャケットに冷却液を導入して直ぐに、冷却液がウォータージャケットの幅広部におけるシリンダボア側内壁面の下側領域に衝突しにくくなって、ウォータージャケット内を斜め上向きに流される形態になることが明らかになる。
【0017】
好ましくは、前記導入路の幅は、前記幅広部の底幅より小さく設定され、前記導入路は、前記ウォータージャケットの幅広部の底に対して反シリンダボア側に片寄った状態で連接されることによって、前記導入路においてシリンダボア側の内壁面が前記ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面より外側にオフセット配置され、前記導入路のシリンダボア側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部を上向きに突出する凸形状とすることによって、前記冷却液案内手段が構成される。
【0018】
ここでは、ウォータージャケットに対する導入路の連接部分や、冷却液案内手段の構成を特定している。この特定によれば、導入路からウォータージャケットに冷却液を導入して直ぐに、冷却液がウォータージャケットの幅広部におけるシリンダボア側内壁面の下側領域に衝突しにくくなって、ウォータージャケット内を斜め上向きに流される形態になることが明らかになる。
【0019】
好ましくは、前記ウォータージャケット内には、インサート部材が、シリンダボア側内壁面において燃焼室寄り領域を除く領域を覆うように当該内壁面に寄せられた状態で挿入される。
【0020】
この構成では、インサート部材が、導入路からウォータージャケット内に導入される冷却液をシリンダボア側内壁面における上側領域に衝突させやすくして、シリンダボア側内壁面における中間領域から下側領域に衝突させにくくしている。これにより、シリンダボアにおいて最も昇温しやすい上側領域を効率良く冷却することが可能になって、シリンダボアの比較的昇温しにくい下側領域を過剰に冷却させにくくすることが可能になる。
【0021】
好ましくは、前記導入路におけるシリンダボア配列方向の奥に位置する奥側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部が、丸い形状とされ、この丸みの曲率半径が、前記オフセット寸法より小さく設定される。
【0022】
この構成では、導入路からウォータージャケット内に導入される冷却液が斜め上向きに流れるときの上昇角度が可及的に大きくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、多数のシリンダボアを囲むようにウォータージャケットが設けられ、このウォータージャケットにおいてシリンダボア配列方向の一端側に設けられる幅広部の底に冷却液の導入路が連接される多気筒型内燃機関のシリンダブロックにおいて、ウォータージャケットの冷却液導入部分での冷却液の流れ方を工夫しているから、シリンダボアの下側領域が過冷却されることを抑制または防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る多気筒型内燃機関のシリンダブロックの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のシリンダブロックのウォーターポンプとウォータージャケットとの配置関係を模式的に示す側面図である。
【図3】図1のシリンダブロックの上面図である。
【図4】図3の(4)−(4)線断面の矢視図である。
【図5】図1から図4に示すウォータージャケットのみの斜視図である。
【図6】図5において導入路を矢印(6)方向から見た図である。
【図7】図5において導入路を矢印(7)方向から見た図である。
【図8】本発明に係る多気筒型内燃機関のシリンダブロックの他実施形態で、図4に対応する図である。
【図9】本発明に係る多気筒型内燃機関のシリンダブロックの他実施形態で、図4に対応する図である。
【図10】本発明に係る多気筒型内燃機関のシリンダブロックの他実施形態で、図8に対応する図である。
【図11】本発明の比較例で、図4に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付している図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1から図7に、本発明の一実施形態を示している。この実施形態では、水冷式の直列4気筒型の内燃機関(エンジン)を例に挙げている。図に示すシリンダブロック1は、シリンダライナレスにした構造である。
【0027】
この実施形態で示すシリンダブロック1には、その長手方向に4つのシリンダボア2・・・が一列に並んで設けられている。各シリンダボア2には、図示していないが、ピストンがそれぞれ挿入される。各シリンダボア2を作る円筒形の壁部は、シリンダバレル3と呼ばれる。このシリンダバレル3は、サイアミーズタイプとされている。このサイアミーズタイプのシリンダバレル3とは、各シリンダボア2を作る円筒形の壁部それぞれを直列に連ねた形状になっている。
【0028】
そして、シリンダブロック1には、ウォータージャケット4が設けられている。このウォータージャケット4は、シリンダバレル3を囲むように設けられている。これにより、シリンダバレル3の外壁面は、ウォータージャケット4においてシリンダボア2側の内壁面4bと同じものとなる。
【0029】
次に、ウォータージャケット4を詳細に説明する。ウォータージャケット4は、図1および図3に示すように、デッキ面つまりシリンダヘッド(図示省略)が組み付けられる面に向けて開放されている。このようなウォータージャケット4を備えるシリンダブロック1は、いわゆるオープンデッキタイプと呼ばれる。
【0030】
ウォータージャケット4の幅つまりシリンダボア2の径方向に沿う幅は、この実施形態において図4に示すように、シリンダボア2の下側から上側へ向けて徐々に大きくされている。この幅の広がりは、シリンダブロック1を鋳造するときに用いる成形型の抜き勾配とされる。
【0031】
このウォータージャケット4の底壁面4cにおいてシリンダボア配列方向の一端側(シリンダブロック1の前端側)には、図2および図3に示すように、シリンダボア2の径方向に沿う幅が大きくされた幅広部4aが設けられ、この幅広部4aの底に対して冷却液の導入路6が連接されている。
【0032】
この導入路6には、内燃機関の冷却液を循環させるためのウォーターポンプ5から送り出される冷却液が導入される。この導入路6は、この実施形態において、シリンダブロック1において排気系設置側に設けられている。
【0033】
導入路6の幅は、図4および図5に示すように、ウォータージャケット4の幅広部4aの底幅より小さく設定されている。この導入路6は、図4および図5に示すように、ウォータージャケット4の幅広部4aの底壁面4cに対して反シリンダボア側(外側)に片寄った状態で連接されることによって、導入路6においてシリンダボア2側の内壁面6aがウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bより外側にオフセット配置されるようになっている。このオフセット量を図4にWで示している。さらに、図3に示すように、上から見ると、導入路6は、ウォータージャケット4の2つの長尺な波形通路部分4d,4eのうちの上流側波形通路部分4dに1直線に連なるように連接されており、これにより、上から見ると、導入路6からウォータージャケット4の長尺な上流側波形通路部分4dに冷却液が真っ直ぐに導入されるようになっている。
【0034】
そして、ウォータージャケット4に対する導入路6の連接部分には、導入路6から導入される冷却液をウォータージャケット4の幅広部4aにおけるシリンダボア側内壁面4bの下側領域から遠ざけて上側領域に導くための冷却液案内手段が設けられている。
【0035】
この冷却液案内手段は、例えば図4および図7に示すように、導入路6のシリンダボア側内壁面6aとウォータージャケット4の底壁面4cとが交差する部分の横側角部7を丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径R1をオフセット寸法Wより小さく設定することによって、構成されている。
【0036】
さらに冷却液案内手段は、例えば図6に示すように、導入路6におけるシリンダボア配列方向の奥に位置する奥側内壁面6bとウォータージャケット4の底壁面4cとが交差する部分の奥側角部8を丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径R2をオフセット寸法Wより小さく設定することによって、構成されている。
【0037】
次に、この実施形態における導入路6からウォータージャケット4へ導入される冷却液の流れを説明する。
【0038】
導入路6から冷却液がウォータージャケット4内に導入されると、ウォータージャケット4内において図2および図3の矢印で示すように、各シリンダボア2を順次横切る形態でシリンダバレル3の外周を一方向に流れることになる。
【0039】
ところで、導入路6からウォータージャケット4に対する冷却液の導入方向は、図3に示すように、上から見ると、導入路6とウォータージャケット4の長尺な上流側波形通路部分4dとが1直線に連なっているから、導入路6からウォータージャケット4に導入される冷却液がウォータージャケット4の長尺な上流側波形通路部分4dの長手方向一端側へ向けて真っ直ぐに流入するようになり、また、図2に示すように、横から見ると、導入路6からウォータージャケット4に導入される冷却液が、ウォータージャケット4の幅広部4aつまり長尺な上流側波形通路部分4dにおける前端側の下側から斜め上向きに流れるようになる。
【0040】
しかも、上述しているように、導入路6とウォータージャケット4との連接部分に冷却液案内手段(7,8)を設けるように工夫しているから、導入路6からウォータージャケット4の幅広部4aへ冷却液が導入された直後には、冷却液がウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bの下側から中間領域にかけて衝突しにくくなって、ウォータージャケット4内を斜め上向きに急上昇する形態で流されるようになる。
【0041】
これにより、多数のシリンダボア2のうち、特に前端寄りつまり導入路6寄りのシリンダボア2に関して、ウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bの下側領域(クランクシャフト寄り領域)が過剰に冷却されにくくなって、上側領域(燃焼室寄り領域)が効率良く冷却されるようになる。
【0042】
ちなみに、本願出願人は、本発明の開発過程においてシリンダボア2の上下全域の冷却性能を高めることを目的とし、導入路6からウォータージャケット4に導入された直後に、冷却液をウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bに沿わせて下から上へと流せるようにしようと考えた。
【0043】
そこで、具体的には、例えば図11に示すように、導入路6とウォータージャケット4とを可及的に滑らかに連接させるようにしている。より詳しくは、導入路6のシリンダボア側内壁面6aとウォータージャケット4の底壁面4cとが交差する部分の横側角部7を、丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径R3をオフセット寸法Wより大きく設定するようにしている。この構成を、この実施形態の比較例とする。
【0044】
この比較例によれば、前記したように、導入路6からウォータージャケット4に導入された直後に、冷却液をウォータージャケット4の幅広部4aにおけるシリンダボア側内壁面4bに沿わせて下から上へ流すことが可能になる。しかしながら、この比較例では、ウォータージャケット4の幅広部4aに導入された冷却液が直ぐにシリンダボア側内壁面4bの下側領域に衝突することになるために、シリンダボア2の下側領域が過剰に冷却されることになって、シリンダボア2の上下領域での温度ばらつきが大きくなってしまう。この知見に基づき、上記した実施形態を提案するに至ったのである。
【0045】
以上説明したように本発明を適用した実施形態では、ウォータージャケット4の冷却液導入部分での冷却液の流れ方を工夫しているから、多数のシリンダボア2のうち、特に導入路6寄りのシリンダボア2において、比較的昇温しにくい下側領域の過冷却を抑制または防止しながら、最も昇温しやすい上側領域を効率良く冷却することが可能になる。
【0046】
これにより、シリンダボア2の上下領域での温度ばらつきを低減することが可能になるから、シリンダボア2の上下領域とピストンとの間のクリアランスのばらつきを低減することが可能になる。その結果、シリンダボア2やピストンの偏摩耗を抑制または防止することが可能になる他、フリクションロスを軽減することが可能になって内燃機関の燃費を向上するうえで有利になる。
【0047】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲で包含されるすべての変形や応用が可能である。以下で例を挙げる。
【0048】
(1)本発明の他実施形態を図8に示す。この実施形態では、導入路6からウォータージャケット4へ冷却液を導入するときの冷却液案内手段として、導入路6のシリンダボア側内壁面6aとウォータージャケット4の底壁面4cとが交差する部分の横側角部7を上向きに突出する凸形状とする構成にしており、その他の構成は、上述した実施形態と同様にしている。
【0049】
この実施形態では、導入路6からウォータージャケット4の幅広部4aに冷却液が導入されて直ぐに、この冷却液がウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bの下側領域に衝突しにくくなって、ウォータージャケット4内を斜め上向きに急上昇する形態で流されるようになる。これにより、この実施形態でも、上記実施形態と同様の効果が得られることになる。
【0050】
(2)上記した各実施形態において、ウォータージャケット4内にスペーサと呼ばれるインサート部材9を挿入することが可能である。
【0051】
例えば図4に示す実施形態のウォータージャケット4にインサート部材9を挿入した状態を、図9に示している。また、図8に示す実施形態のウォータージャケット4内にインサート部材9を挿入した状態を、図10に示している。ここでのインサート部材9は、ウォータージャケット4の全周に配置されるような輪状のシートとされる。
【0052】
そして、図9および図10に示す実施形態では、共に、インサート部材9を、シリンダボア側内壁面4bの中間領域から下側領域を覆うように当該内壁面4bに寄せられた状態で挿入される。言い換えれば、インサート部材9は、シリンダボア側内壁面4bの上側、つまり燃焼室寄り領域を覆わずに露呈するように配置されている。
【0053】
この構成では、インサート部材9が、ウォータージャケット4のシリンダボア側内壁面4bにおける上側領域に冷却液を衝突させやすくして、中間領域から下側領域に衝突させにくくしている。これにより、シリンダボア2において最も昇温しやすい上側領域を効率良く冷却することが可能になって、シリンダボア2の比較的昇温しにくい下側領域を過剰に冷却させにくくすることが可能になる。
【0054】
(3)上記各実施形態では、奥側角部8を丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径R2をオフセット寸法Wより小さく設定した例を挙げているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばこの奥側角部8の丸みの曲率半径R2についてはオフセット寸法Wより大きく設定してもよく、その場合も本発明に含まれる。
【0055】
この場合には、導入路6からウォータージャケット4の幅広部4aに冷却液を導入して直ぐに、冷却液がウォータージャケット4内を斜め上向きに緩やかに上昇するように流れるようになる。このことによっても、前記したように、「シリンダボア2において最も昇温しやすい上側領域を効率良く冷却することが可能になって、シリンダボア2の比較的昇温しにくい下側領域を過剰に冷却させにくくすることが可能になる」という効果が得られることに変わりはない。
【符号の説明】
【0056】
1 シリンダブロック
2 シリンダボア
3 シリンダバレル
4 ウォータージャケット
4a ウォータージャケットの幅広部
4b ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面
4c ウォータージャケットの底壁面
5 ウォーターポンプ
6 導入路
6a 導入路のシリンダボア側内壁面
6b 導入路の奥側内壁面
7 横側の角部
8 奥側の角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のシリンダボアを囲むようにウォータージャケットが設けられ、このウォータージャケットにおいてシリンダボア配列方向の一端側に設けられる幅広部の底に冷却液の導入路が連接される多気筒型内燃機関のシリンダブロックであって、
前記ウォータージャケットに対する前記導入路の連接部分には、前記導入路から導入される冷却液を前記ウォータージャケットにおいてシリンダボア側の内壁面の下側領域から遠ざけて上側領域に導くための冷却液案内手段が設けられている、ことを特徴とする多気筒型内燃機関のシリンダブロック。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダブロックにおいて、
前記導入路の幅は、前記幅広部の底幅より小さく設定され、
前記導入路は、前記ウォータージャケットの幅広部の底に対して反シリンダボア側に片寄った状態で連接されることによって、前記導入路においてシリンダボア側の内壁面が前記ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面より外側にオフセット配置され、
前記導入路のシリンダボア側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部を丸い形状とするとともに、この丸みの曲率半径を前記オフセット寸法より小さく設定することによって、前記冷却液案内手段が構成される、ことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項3】
請求項1に記載のシリンダブロックにおいて、
前記導入路の幅は、前記幅広部の底幅より小さく設定され、
前記導入路は、前記ウォータージャケットの幅広部の底に対して反シリンダボア側に片寄った状態で連接されることによって、前記導入路においてシリンダボア側の内壁面が前記ウォータージャケットのシリンダボア側内壁面より外側にオフセット配置され、
前記導入路のシリンダボア側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部を上向きに突出する凸形状とすることによって、前記冷却液案内手段が構成される、ことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載のシリンダブロックにおいて、
前記ウォータージャケット内には、インサート部材が、シリンダボア側内壁面において燃焼室寄り領域を除く領域を覆うように当該内壁面に寄せられた状態で挿入される、ことを特徴とするシリンダブロック。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載のシリンダブロックにおいて、
前記導入路におけるシリンダボア配列方向の奥に位置する奥側内壁面と前記ウォータージャケットの底壁面とが交差する部分の角部が、丸い形状とされ、この丸みの曲率半径が、前記オフセット寸法より小さく設定される、ことを特徴とするシリンダブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−231704(P2011−231704A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103464(P2010−103464)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】