説明

多相交流プラズマ発生方法と装置

【課題】比較的簡単な装置で、処理対象物に対する熱負荷が小さく、プラズマによる処理効率がよい多相交流プラズマ発生方法と装置を提供する。
【解決手段】内部でプラズマを発生させる真空チャンバ12と、真空チャンバ12内に収納されプラズマ発生空間18に対面して互いに平行に配置され固定された複数対の電極17を有する。電極17間に位置するとともに電極17を挟んで異なる極性に配置された複数の磁石20,21と、磁石20,21に対して互いに同じ磁極でプラズマ発生空間18を介して対向した他方の磁石21,20を備える。複数対の電極17間で位相をずらして放電しプラズマを発生させる電源装置を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放電によりプラズマを発生させるための装置であって、位相制御多電極型交流放電装置を利用して放電を行う多相交流プラズマ発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマを発生させる装置は、対向する一対の電極の間で放電を行い、プラズマを発生させるものが一般的であるが、近年、特許文献1及び2にあるように、位相制御された多相の多電極型交流放電装置から成るプラズマ発生装置が提案されている。特許文献1,2に開示された多相交流プラズマ発生装置は、各電極間で順次位相をずらして放電を行い、プラズマを発生させている。この構造は、例えば平行平板型の電極配置の場合、平行に配列された隣接する電極間に平行に磁石が配置され、各々対向する磁石及び隣接する磁石は、互いに極性が異なる配置になっている。これにより、対向電極間のプラズマ発生空間に生じるプラズマの密度を大きくしている。
【0003】
このプラズマの利用方法としては、半導体等の薄膜形成や各種イオンの発生、その他エッチング等の加工装置に利用される。さらに、プラズマには中性種と荷電種があり、このうち中性種には、殺菌作用のある酸素ラジカルが含まれる。この酸素ラジカルに接触した有機物が酸化分解されることから、これを利用した滅菌装置も提案されている。
【特許文献1】特開平10−125495号公報
【特許文献2】特開平10−134994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の多相交流プラズマ発生装置は、プラズマによる処理工程において、プラズマ発生空間の温度が高くなり、処理対象物に対する熱負荷が大きいという問題があった。また、プラズマ密度は真空チャンバの中心部で高くなり、プラズマ密度を極力一様に保つために、磁石の位置を調整する等の必要性があり、調整が面倒なものであった。しかも、プラズマ密度を下げれば温度も下がるが、エッチング等の処理効率が落ちるという問題がある。
【0005】
この発明は、上記従来技術の問題に鑑みて成されたもので、比較的簡単な装置で、処理対象物に対する熱負荷が小さく、プラズマによる処理効率がよい多相交流プラズマ発生方法と装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、真空チャンバ内に収納されプラズマ発生空間に対面して互いに平行に配置され固定された複数対の電極と、この複数対の電極間に位置するとともに前記電極を挟んで異なる極性に配置された複数の磁石と、この磁石に対して互いに同じ磁極で前記プラズマ発生空間を介して対向した他方の磁石を設け、前記複数対の電極間で位相をずらして順次放電しプラズマを発生させる多相交流プラズマ発生方法である。
【0007】
前記電極は、互いに隣接する電極間で放電を発生させるものである。また、前記電極は対向して複数配置され、隣接する電極間で放電を発生させるとともに、互いに対向する電極同士は同相で放電するものである。
【0008】
またこの発明は、内部でプラズマを発生させる真空チャンバと、この真空チャンバ内に収納されプラズマ発生空間に対面して互いに平行に配置され固定された複数対の電極と、この複数対の電極間に位置するとともに前記電極を挟んで異なる極性に配置された複数の磁石と、この磁石に対して互いに同じ磁極で前記プラズマ発生空間を介して対向した他方の磁石と、前記複数対の電極間で位相をずらして放電しプラズマを発生させる電源装置を備えた多相交流プラズマ発生装置である。
【0009】
前記磁石は、前記電極を取り付けた電極取付板の前記電極とは反対側の前記電極間に対応して固定されている。
【発明の効果】
【0010】
この発明の多相交流プラズマ発生方法と装置によれば、簡単な装置で低いプラズマ温度で安定した一様なプラズマを得ることができ、処理対象物に対する熱損傷を抑え、プラズマによる良好な処理が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の多相交流プラズマ発生装置の一実施形態について、図1、図2を基にして説明する。先ず、この実施形態の多相交流プラズマ発生装置により生成されるプラズマとは、気体分子が励起され、電離状態が発生し、荷電種であるイオンや電子、及び中性種であるラジカルなどの集団である。このプラズマは、表面改質、金属酸化物の除去、薄膜形成、有機物の分解や滅菌など種々の用途に使用されている。
【0012】
この実施形態の多相交流プラズマ発生装置10は、図1に示すように、真空チャンバ12と図示しない電源装置や真空ポンプ等を備えている。真空チャンバ12は、全体が直方体に形成され、その一方の側面板12aが着脱自在に形成され、コ字状のチャンバ本体12bの開口縁に気密状態で取付可能に設けられている。さらに、チャンバ本体12bの対向する両端開口部も、図示しない側面板により気密状態で密閉される。
【0013】
真空チャンバ12内には、非磁性体の一対の電極取付板14が所定の間隔を空けて互いに絶縁状態で、平行に位置して固定されている。電極取付板14の上下端部は、絶縁性の連結板15に固定され、連結板15の一端縁部が、チャンバ本体12bの内面にネジ止めされ、他端は固定板16にネジ止めされている。そして、固定板16が側面板12aにネジ止めされる。
【0014】
電極取付板14には、互いに平行に位置した複数枚の細長い長方形状の電極17が各々固定され、一対の電極取付板14間で、各電極17はプラズマ発生空間18を介して、互いに平行に対向して位置している。
【0015】
互いに平行に隣り合う各電極17間には、その隙間に沿って電極17と平行に磁石20,21が設けられている。磁石20,21は、互いに対向する面が同極性で、隣接する磁石20,21の極性は互いに異極性に配置されている。図面上では、矢印で極性を示している。これにより、真空チャンバ12内には、隣接する磁石20,21間で磁界が形成される。磁石20,21は、電極17を取り付けた電極取付板14の、電極17とは反対側の面に固定され、電極17間の隙間に対応して位置している。
【0016】
次に、この実施形態の多相交流プラズマ発生装置10のプラズマ発生方法について説明する。まず、この実施形態の多相交流プラズマ発生装置10の電源装置は、多電極型交流放電装置であり、その電源装置内の複数のインバータが、互いに放電させる一対の電極17毎に接続されている。例えば、互いに隣接する一対の電極17毎に、または対向する電極17毎に設けられる。各インバータは、その位相を制御する図示しない制御部に接続されている。そして、プラズマ発生時には、一対の電極17に対して隣り合う一対の電極の交流電力位相差を、例えば90°に設定する。ここでは、隣り合う一対の電極の位相差が90°で対向する電極間では位相差を0°にする。この場合が最も効率よくプラズマを発生させることができる。これにより、真空チャンバ12内の隣接する磁石20,21間に形成された磁界により、電極17の表面近傍で相対的に高密度にプラズマを閉じ込める。
【0017】
この実施形態の多相交流プラズマ発生装置10は、図示しない真空ポンプ等により、排気口から真空チャンバ12内の空気を抜き取り、真空チャンバ12内部を所定の低圧または真空状態し、この後プラズマを発生させる気体を所定の気圧になるように真空チャンバ12内に入れる。そして、電源装置から電力を供給することにより、各電極17間に放電を発生させ、真空チャンバ12内の気体によるプラズマを生成する。
【0018】
この実施形態のプラズマの生成方法は、インバータにより所定周波数の交流に変換された電力が、電極17に供給され、電源装置の制御部による位相制御により、互いに隣接または対向する一対の電極17間で放電が発生し、所定の位相、例えば90°ずれた状態で各対の電極17間で、順次放電が発生しプラズマが生成される。そして、この間に生成したプラズマにより、真空チャンバ12中の表面改質、金属酸化物の除去、有機物の分解や滅菌などの処理が行われる。
【0019】
この実施形態の多相交流プラズマ発生装置10によれば、磁石20,21の配置を互いに同極性の磁極が対向するように配置するだけで、相対的に低いプラズマ温度で安定した一様なプラズマを得ることができる。これにより、処理対象物に対する熱損傷を抑え、プラズマによる良好な処理が可能になる。
【0020】
なお、この発明の多相交流プラズマ発生装置は上記実施形態に限定されるものではなく、各電極対の位相差は90°以外に適宜の位相差に設定することができ、効率よくプラズマが発生可能な位相差を選択することができるものであればよい。また、隣接電極間で放電させる場合は、電極は互いに対向していなくても良い。その他、真空チャンバや電極の形状は適宜設定可能なものであり、複数対の電極は、例えばマイナス側を共通電極にして複数設けたものでも良く、多相交流放電可能な電極であればその形態は問わない。
【実施例1】
【0021】
次に、この発明の多相交流プラズマ発生装置の一実施例について説明する。図2に示したグラフは、上記実施形態の真空チャンバ12内の電極17間での放電形態(隣接電極間、又は対向電極間)、磁場の有無、磁場の極性、によって対象物の温度上昇がどうなるかを測定した結果である。ここで、グラフ中の「対向同極」は、対向電極間放電且つ対向磁石が同極を意味し、「隣接同極」は、隣接電極間放電且つ対向磁石が同極を意味する。同様に、「対向異極」は、対向電極間放電且つ対向磁石が異極、「隣接異極」は、隣接電極間放電且つ対向磁石が異極を意味する。また、「対向なし」、「隣接なし」は、対向電極放電磁石なし、隣接電極放電磁石なしを意味する。
【0022】
この実施例では、対向電極間放電では、向かい合う電極の位相差を180°にし、その電極と隣り合う電極の位相差を90°にして実験を行った。隣接電極間放電の場合は、隣り合う電極の位相差を90°にして、向かい合う電極の位相差を0°にして実験を行った。
【0023】
この結果より、放電形態よりも磁場によるプラズマの閉じ込め効果が大きく、温度にも影響が大きいものであった。また、対向磁石が同極の方が、異極よりもプラズマの温度上昇が低いものであった。
【0024】
次に、処理対象物のエッチング結果について示す。そこで、実験に用いた試料は、有機物試料としてカプトンを選択し、種々の実験条件に対して20分ずつプラズマの照射を行って削れた量を測定した。測定は、真空チャンバのプラズマ発生空間内の2箇所の各測定場所1,2に試料をセットし、各試料について5箇所をマイクロメータにより測定して比較した。その結果を、以下の表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1の結果で、最も削れている場所は、対向電極放電・磁場なし、隣接電極放電・同極対向磁場、隣接電極放電・異極対向磁場が同じ値を示した。
【0027】
以上の図2、表1の実験より、隣接電極間に磁石を取り付け、且つ隣接電極間に磁界を形成してプラズマを閉じ込めることにより、エッチング対象物への熱負荷を軽減することができることが確認された。さらに、放電形態は、隣接電極間で放電させる方が、温度が低くプラズマ密度が小さくなったにもかかわらず、エッチング効率が良いことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明の一実施形態の多相交流プラズマ発生装置の部分破断斜視図である。
【図2】この発明の実施例の多相交流プラズマの温度と時間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
10 多相交流プラズマ発生装置
12 真空チャンバ
14 電極取付板
17 電極
18 プラズマ発生空間
20,21 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に収納されプラズマ発生空間に対面して互いに平行に配置され固定された複数対の電極と、この複数対の電極間に位置するとともに前記電極を挟んで異なる極性に配置された複数の磁石と、この磁石に対して互いに同じ磁極で前記プラズマ発生空間を介して対向した他方の磁石を設け、前記複数対の電極間で位相をずらして順次放電しプラズマを発生させることを特徴とする多相交流プラズマ発生方法。
【請求項2】
前記電極は、互いに隣接する電極間で放電を発生させる請求項1記載の多相交流プラズマ発生方法。
【請求項3】
前記電極は対向して複数配置され、隣接する電極間で放電を発生させるとともに、互いに対向する電極同士は同相で放電する請求項1又は2記載の多相交流プラズマ発生方法。
【請求項4】
内部でプラズマを発生させる真空チャンバと、この真空チャンバ内に収納されプラズマ発生空間に対面して互いに平行に配置され固定された複数対の電極と、この複数対の電極間に位置するとともに前記電極を挟んで異なる極性に配置された複数の磁石と、この磁石に対して互いに同じ磁極で前記プラズマ発生空間を介して対向した他方の磁石と、前記複数対の電極間で位相をずらして放電しプラズマを発生させる電源装置を備えたことを特徴とする多相交流プラズマ発生装置。
【請求項5】
前記磁石は、前記電極を取り付けた電極取付板の前記電極とは反対側の前記電極間に対応して固定された請求項4記載の多相交流プラズマ発生装置。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−193996(P2007−193996A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9184(P2006−9184)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(591124721)立山マシン株式会社 (36)
【Fターム(参考)】