説明

多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器並びに多孔質シリカ板体及びその製造方法

【課題】 シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を抑制し、かつ、離型性に優れるとともに、きわめて低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供する。
【解決手段】 シリコン融液を凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体を組み合わせて構成されたものであり、前記多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低い多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン融液を凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形(角槽型)シリカ容器に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(ソーラー発電デバイス)は近年、急速に需要が増加しており、より低コストで高い変換効率を有する太陽電池が求められている。
【0003】
太陽電池の光起電部を構成する材料の一つとして多結晶シリコンがある。多結晶シリコンは、シリコン融液を冷却して凝固させることにより、多結晶シリコンのインゴット(塊)として製造されることが多い。シリコン融液を凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための容器として、シリカ(二酸化珪素)製容器や黒鉛製容器が用いられている。
【0004】
容器内で凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器においては、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着(付着)することを防止するため、その内表面に予め離型層を形成することが知られている。離型層を形成するための離型剤としては、様々な材料が使用されている。例えば、特許文献1には、石英ガラスからなるシリコン溶融用容器の内層に、Si、Si、Si+SiO又はSi+Si+SiOを含む離型剤スラリーから、離型層を形成することが記載されている。また、特許文献2には、内面に窒化珪素を含有する離型材層を形成した、二酸化珪素よりなるシリコン鋳造用鋳型が記載されている。
【0005】
シリカ原料粉の一体成形、焼成によるシリカ角形容器(例えば、特許文献3〜5参照)では、特に容器の一辺の寸法が30cmを超える大型シリカ角形容器では、成形工程や焼成工程における熱変形、熱収縮が大きいため寸法精度の悪いものしか得られなかった。また電気炉等による焼成工程がバッチ式のためコストが高くなる問題があった。
【0006】
また、炭化ケイ素SiC、チッ化ケイ素Si4、炭素C等、シリカ以外の原料粉の成形、焼成による角形容器(例えば、特許文献6、7参照)では、容器中にLi、Na、K等のアルカリ金属元素、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Au等の遷移金属元素が高濃度に含有されており、その後角形容器の中でシリコンSi金属を溶融、固化処理した場合、これらの不純物金属元素がシリコン金属に拡散、汚染してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−271058号公報
【特許文献2】特開2005−125380号公報
【特許文献3】特開2002−362932号公報
【特許文献4】特開2004−131380号公報
【特許文献5】特開2009−269792号公報
【特許文献6】特開平10−19718号公報
【特許文献7】特開2009−274905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、容器内でシリコン融液を凝固させて多結晶シリコンインゴットを製造するための容器には、その内表面に予め離型層を形成することが一般的である。しかしながら、離型剤として、多結晶シリコンインゴットに不純物となるような材料を用いた場合には、離型層が剥離してシリコン融液に取り込まれる等の理由により、多結晶シリコンインゴットへの不純物混入が不可避であるという問題があった。
【0009】
その一方で、離型剤を使用しないとすると、シリコン融液が凝固した際に多結晶シリコンインゴットが該容器と融着し、冷却時、取り外し時等に多結晶シリコンインゴットの表面部分が破損するという問題があった。この結果として、例えば、多結晶シリコンインゴットから太陽電池を製造するような場合には、製造する太陽電池の品質の劣化や、歩留まりの低下により、製造する太陽電池のコスト高につながってしまう。
【0010】
また、より多くの受光面積を得るため、太陽電池も大型化させる必要があり、より大きな多結晶シリコンインゴットを得るためには、シリコン融液を収容するシリカ容器も大型化しなければならない。このような大きなシリカ容器の製造には、大型の装置が必要となり、容器製造コストの著しい増大をもたらす。
【0011】
本発明はこれらのような問題に鑑みてなされたもので、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を抑制し、かつ、離型性に優れるとともに、きわめて低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、このような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を構成する多孔質シリカ板体及びその製造方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シリコン融液を凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体を組み合わせて構成されたものであり、前記多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いことを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を提供する。
【0014】
このような角形シリカ容器であれば、多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いことにより、製造された多結晶シリコンインゴットが入っている角形シリカ容器から該多結晶シリコンインゴットを破損することなく取り外しやすいものである。また、シリカからなる容器の他に離型剤を用いないため、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物汚染を抑制することができる。また、このようなシリカ容器は、板体を組み合わせたものなので、一体物に比べ容器製造コストを著しく低減できる。
【0015】
この場合、前記多孔質シリカ板体のかさ密度が1.60〜2.10g/cmであり、前記多孔質シリカ板体の両平行平面の表面から深さ3mm厚さ部分のかさ密度が、中心部分厚さ3mmのかさ密度よりも大であり、かつ0.05g/cm以上の差を有することが好ましい。
【0016】
このような多孔質シリカ板体のかさ密度及び表面部分及び中心部分のかさ密度とすれば、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の強度を保つとともに離型性をより高くすることができる。
【0017】
また、前記角形シリカ容器は、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、かつOH基濃度が5〜500wt.ppmであることが好ましい。
【0018】
このような濃度でAl及びOH基を含有する角形シリカ容器とすれば、ややシリカ純度の低い、安価なシリカ原料を用いた場合でも、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に防止することができる。
【0019】
また、前記角形シリカ容器に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が1〜100wt.ppmであり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01〜1.0wt.ppmであることが好ましい。
【0020】
このように、Li、Na、Kの各々の濃度が100wt.ppm以下、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が1.0wt.ppm以下であれば、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を抑制することができる。また、Li、Na、Kの各々の濃度が1wt.ppm以上、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01wt.ppm以上のように、それほど高純度でなくともよく、製造コストを抑えることができる。
【0021】
また、本発明は、多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体であって、かさ密度が1.60〜2.10g/cmであり、両平行平面の表面から深さ3mm厚さ部分のかさ密度が、中心部分厚さ3mmのかさ密度よりも大であり、かつ0.05g/cm以上の密度差を有することを特徴とする多孔質シリカ板体を提供する。
【0022】
このような多孔質シリカ板体であれば、組み合わせて角形シリカ容器を構成することができる。その角形シリカ容器は、収容するシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物汚染を抑制し、かつ、離型性に優れるとともに、きわめて低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。
【0023】
この場合、前記多孔質シリカ板体は、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、かつOH基濃度が5〜500wt.ppmであることが好ましい。
【0024】
このような濃度でAl及びOH基を含有する多孔質シリカ板体であれば、組み合わせて角形シリカ容器としたときに、ややシリカ純度の低い、安価なシリカ原料を用いた場合でも、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に防止することができる。
【0025】
また、前記多孔質シリカ板体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が1〜100wt.ppmであり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01〜1.0wt.ppmであることが好ましい。
【0026】
このような不純物濃度の多孔質シリカ板体であれば、製造コストを抑制しながらも、組み合わせて角形シリカ容器としたときに、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に抑制することができる。
【0027】
また、本発明は、多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体を製造する方法であって、原料粉としてシリカ粉を作製する工程と、電気加熱炉内に配置した溶融容器内を窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガス雰囲気に置換する工程と、前記溶融容器内を前記不活性ガス雰囲気に保ちつつ、前記原料粉を前記溶融容器の中に供給する工程と、前記溶融容器内の前記不活性ガス雰囲気の圧力を大気圧以上に保持しつつ該溶融容器の温度を1700℃以上に加熱することにより前記原料粉を溶融、軟化させる工程と、前記溶融、軟化させたシリカガラスを前記溶融容器の下部から形状成形工具を通して平行平板状に成形しつつ連続して引き出す工程とを含むことを特徴とする多孔質シリカ板体の製造方法を提供する。
【0028】
このような製造方法によれば、製造した多孔質シリカ板体のかさ密度を、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いものとすることができる。すなわち、窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガス雰囲気下で原料粉の溶融、軟化を行うことにより、溶融状態のシリカガラス内に気泡を含ませることができる。これを形状成形工具を通して平行平板状に成形することにより、板体の表面部分の気泡が中心部分よりも少ないものとした多孔質シリカ板体を製造することができる。また、このようにして製造した多孔質シリカ板体は、低コストであり、組み合わせて角形シリカ容器を構成することができる。そのような角形シリカ容器は、収容するシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物汚染を抑制し、かつ、離型性に優れるとともに、きわめて低コストの多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器とすることができる。
【0029】
この場合、前記原料粉を作製する工程において、粒径0.003〜3.0mmのシリカ粉からなる第一の原料粉と、質量基準累積分布の50%における粒子径値で比較した平均粒径が前記第一の原料粉よりも小さいシリカ粉からなる第二の原料粉を作製し、前記原料粉を前記溶融容器の中に供給する工程において、前記第一の原料粉の供給位置を前記溶融容器内の中央側として供給するとともに、前記第二の原料粉を前記溶融容器内の前記第一の原料粉の供給位置よりも外側に供給することができる。
【0030】
このように、平均粒径の異なる二種類の原料粉を作製し、溶融容器への供給位置を上記のようにすることにより、より確実に板体の表面部分の気泡が中心部分よりも少ないものとした多孔質シリカ板体を製造することができる。
【0031】
また、前記原料粉が含有するLi、Na、Kの各々の濃度を1〜100wt.ppmとし、前記原料粉が含有するTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.01〜1.0wt.ppmとすることが好ましい。
【0032】
原料粉が含有する不純物金属元素濃度をこのようにすれば、製造コストを抑制しながらも、製造した板体を組み合わせて角形シリカ容器としたときに、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物の拡散を十分に抑制することができる。
【0033】
また、前記溶融容器の中の雰囲気ガスを窒素80vol.%以上とすることが好ましい。
【0034】
このような雰囲気ガスとすれば、より確実に多孔質シリカ板体のかさ密度を、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いものとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器は、多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いことにより、製造された多結晶シリコンインゴットが入っている角形シリカ容器から該多結晶シリコンインゴットを破損することなく取り外しやすいものである。また、シリカからなる容器の他に離型剤を用いないため、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への不純物汚染を抑制することができる。また、このようなシリカ容器は、板体を組み合わせたものなので、一体物に比べ容器製造コストを著しく低減できる。
【0036】
また、本発明に係る多孔質シリカ板体であれば、そのような多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を構成するための多孔質シリカ板体とすることができる。
また、本発明に係る多孔質シリカ板体の製造方法に従えば、そのようなシリカ板体を安価に製造することができる。
【0037】
こうして、本発明により、高品質で低コストの角形の多結晶シリコンインゴットを製造することができ、これは特に太陽電池用としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る角形シリカ容器の一例を示す図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図2】本発明に係る角形シリカ容器の他の一例を示す図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図3】本発明に係る角形シリカ容器の他の一例を示す図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図4】本発明に係る角形シリカ容器の他の一例を示す図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図5】本発明に係る角形シリカ容器の設置例を示す図であり、(a)は概略上面図であり、(b)は概略断面図である。
【図6】本発明に係る多孔質シリカ板体の製造に用いる装置の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る多孔質シリカ板体の製造に用いる装置の一例を別の角度から示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る多孔質シリカ板体の製造に用いる装置の別の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では、例えば太陽電池用として好適な角形の多結晶シリコンインゴットを得ることができる、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器について、以下のようなことを課題とした。
【0040】
第一に、優れた離型性を有する角形シリカ容器とすることである(離型性の向上)。これはすなわち、角形シリカ容器内に収容したシリコン融液の凝固により多結晶シリコンインゴットを製造した後、多結晶シリコンインゴットを角形シリカ容器から取り外しやすいものとすることである。
【0041】
第二に、不純物汚染を防止できる角形シリカ容器とすることである。これはすなわち、角形シリカ容器に含有されている各種不純物金属元素が、多結晶シリコン製造時の高温度下においても、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット等)へ移動、拡散することを抑制することであり、その結果、シリコン融液及び多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することである。特に、離型剤そのものによる不純物汚染を防止する必要がある。
【0042】
第三に、上記の優れた離型性、不純物汚染の防止を低コストで実現することである。これはすなわち、角形シリカ容器の製造のために、部品コストを低減し、また、安価なシリカ原料を使用することができるようにし、シリカ原料の溶融、成形を比較的短時間で連続的に行い、エネルギー消費を少なくすることである。
【0043】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
図1に本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の一例の概略を示した。図1(a)は概略上面図であり、図1(b)は概略断面図である。
【0045】
図1(a)及び図1(b)に図示したように、本発明に係るシリカ容器10の形状は角形(角槽型とも呼ばれる)である。角形シリカ容器10は、側部(側壁部)11と底部21とからなる。また、本発明に係る角形シリカ容器10は、平行平板状の多孔質シリカ板体を組み合わされて構成される。具体的には、図1(a)及び図1(b)に示したように、4つの側部11及び1つの底部21がそれぞれ平行平板状の多孔質シリカ板体からなり、本発明に係る角形シリカ容器10は、これらを組み合わせて構成される。
【0046】
本発明に係る角形シリカ容器10を構成する多孔質シリカ板体の組み合わせ方法は特に限定されないが、組み合わせた際に内側に倒れてこないようにすることが好ましい。例えば、図1に示したように、平行平板状の多孔質シリカ板体の各々の組み合わせ部分を斜面として、該斜面同士を向かい合わせるようにして組み合わせることができる(すり合わせ(すりガラス接合)タイプ)。
【0047】
図2には、本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の別の一例の概略を示した。図2(a)は概略上面図であり、図2(b)は概略断面図である。図2に示したように、平行平板状の多孔質シリカ板体の各々の組み合わせ部分を嵌合可能に形成し、組み合わせることもできる(嵌め合わせタイプ)。
【0048】
また、角形の各側部及び底部はそれぞれ1枚の多孔質シリカ板体で組み立てることに限らず、図3、4に示したように、複数枚の多孔質シリカ板体で各側部及び底部を構成することができる。なお、図3(a)は概略上面図であり、図3(b)は概略断面図であり、図4(a)は概略上面図であり、図4(b)は概略断面図である。この場合、角形の容器が、8つの側部11a、11b及び2つの底部21a、21bがそれぞれ平行平板状の多孔質シリカ板体からなる。
【0049】
上記のように、本発明に係る多孔質シリカ板体は平行平板状であるが、本発明の説明において、平行平板状とは平板状の形状の表面のうち、面積の大きい2つの平らな表面が略平行であることを意味する。ただし、図1〜4に図示したように、平板状の形状の周縁部において組み合わせのための形状が作り込まれていてもよい。
【0050】
また、図5に本発明に係る角形シリカ容器10の設置例を示した。図5(a)は概略上面図であり、図5(b)は概略断面図である。図5には、図1のようにすり合わせタイプの組み合わせにより角形シリカ容器10を構成する例を代表として示したが、他の組み合わせの形態、例えば、図2〜4のような構成であってもよい。
図5に示したように、角形シリカ容器10を構成する多孔質シリカ板体は、カーボン製等のサセプタ80により固定することができる。
【0051】
このように、多孔質シリカ板体が組み合わされて構成された、本発明に係る角形シリカ容器10は、シリコン融液を凝固して角形の多結晶シリコンインゴットを製造するための容器である。したがって、容器全体を一体的に製造する場合に比べ、著しく製造コストを低減できる。また、製造される多結晶シリコンインゴットが角形であれば、これをスライスして角形の多結晶シリコンウエーハを得ることができ、円柱状の多結晶シリコンインゴットをスライスしたウエーハを太陽電池とする場合に比較して受光面積の無駄がなく、きわめて好適である。
【0052】
本発明に係る角形シリカ容器10は、さらに、多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低い。すなわち、図1〜4を参照して説明すると、側部を構成する多孔質シリカ板体11、11a、11bは、側部内表面12、12a、12b及び側部外表面13、13a、13bの部分よりも、板体内部の部分の方がかさ密度が低い。また、底部を構成する多孔質シリカ板体21、21a、21bは、底部内表面22、22a、22b及び底部外表面23、23a、23bの部分よりも、板体内部の部分の方がかさ密度が低い。
【0053】
このように、本発明は、多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分(より具体的には、表面から約3mmより深部の部分)において低くすること(すなわち、気泡量が多いこと)により、多孔質シリカ板体の中心部分の強度を低く設定する。このような角形シリカ容器の中でシリコン融液を凝固させて、多結晶シリコンインゴットを製造する場合、容器自体の強度は適切に保たれているため、角形シリカ容器の形状に応じた、所定形状の多結晶シリコンインゴットを製造することが可能となる。また多結晶シリコンインゴットを容器から剥がすときは、多孔質シリカ板体の内部の部分の強度が弱いため、多結晶シリコンインゴットの表面部分を欠損させたり、表面にマイクロクラックを生ずることなく容易に多結晶シリコンインゴットを取り出すことが可能となる。また、必要とあらば、容易に角形シリカ容器を破壊して多結晶シリコンインゴットを容器から取り外すことができる。
【0054】
また、本発明に係る角形シリカ容器10は、シリカからなる容器の他に、他の材料(例えば、炭化ケイ素SiC、窒化ケイ素Si4、炭素C等)からなる離型剤を用いないため、収容したシリコン(シリコン融液及び多結晶シリコンインゴット)への離型剤そのものによる不純物汚染を抑制することができる。また、このようなシリカ容器は、板体を組み合わせたものなので、一体物に比べ容器製造コストを著しく低減できる。
【0055】
さらに、角形シリカ容器10を構成する各多孔質シリカ板体のかさ密度が1.60〜2.10g/cm(これは、多孔質シリカ板体の全体においてかさ密度がこの範囲にあること、すなわち、かさ密度の下限が1.60g/cm以上であり、上限が2.10g/cm以下であることを意味する)であり、多孔質シリカ板体の両平行平面の表面から深さ3mm厚さ部分のかさ密度が、中心部分厚さ3mmのかさ密度よりも大であり、かつ0.05g/cm以上の差を有することが好ましい。このようにすれば、多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器の強度を保つとともに離型性をより高くすることができる。なお、多孔質シリカ板体のかさ密度は1.70〜2.00g/cmの範囲とすることがさらに好ましい。また、表面部分と中心部分とのかさ密度の差は、0.1g/cm以上とすることがさらに好ましい。
【0056】
角形シリカ容器10を構成する各多孔質シリカ板体の、容器として内側にあたる表面(すなわち、図1〜4の12、12a、12b、22、22a、22b)の部分のかさ密度が2.10g/cm以下の値であれば、多結晶シリコンインゴットと角形シリカ容器10の融着が強くなりすぎることがなく、離型性を十分に持たせることができる。
【0057】
一方、角形シリカ容器10を構成する各多孔質シリカ板体の中心部分のかさ密度が1.60g/cm以上の値であれば、離型性をより向上させることができ、容器の強度が低下しすぎることもない。また、多孔質シリカ板体の中心部分のかさ密度が1.90g/cm以下であれば、角形シリカ容器内で製造した多結晶シリコンインゴットとシリカ容器との融着が弱くなり、また容器の強度が適度に低下するため、離型性がより向上する。従って、多孔質シリカ板体の中心部分厚さ3mmのかさ密度は、1.60〜1.90g/cm(すなわち、多孔質シリカ板体の中心部分厚さ3mmの部分において、下限が1.60g/cm以上、かさ密度の上限が1.90g/cm以下)とすることが好ましく、1.70〜1.85g/cmの範囲とすることがさらに好ましい。
【0058】
また、角形シリカ容器10は、そのAl濃度(Al元素濃度)が5〜500wt.ppmであり、OH基濃度が5〜500wt.ppmであることが好ましい。不純物汚染防止のため、角形シリカ容器10にAl元素と同時にOH基を含有させることが好ましい。Al濃度は10〜100wt.ppmとすることがさらに好ましく、OH基濃度は30〜300wt.ppmとすることがさらに好ましい。
【0059】
これらAl、OH基が、多孔質シリカ板体中の不純物金属元素、特に、光照射下における多結晶シリコンのキャリアライフタイムを低下させたり、多結晶シリコンインゴットを太陽電池材料とした場合に、変換効率を低下させると考えられるLi、Na、K等のアルカリ金属元素やTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Mo、Au等の遷移金属元素のシリカ中の移動、拡散を防止する。そのメカニズムの詳細は不明であるが、Al原子はSi原子と置換することにより、その配位数の違いから、不純物金属元素の陽イオン(カチオン)を取り込み、シリカガラスネットワーク中の電荷バランスを保つという作用から、吸着、拡散防止するものと推定される。また、OH基は、水素イオンと不純物金属イオンが置換することにより、これら不純物金属元素を吸着ないし拡散防止する効果が生ずるものと推定される。
【0060】
Alの濃度が5wt.ppm以上であれば、十分な不純物汚染防止効果が認められる。一方、Alの濃度が500wt.ppm以下であれば、AlやAl自体による、製造する多結晶シリコンインゴットへの汚染を抑制することができる。
【0061】
また、OH基の濃度が5wt.ppm以上であれば、十分な不純物汚染防止効果が認められる。一方、OH基の濃度が500wt.ppm以下であれば、多孔質シリカ板体の高温度下での粘性度が低下しすぎることもない。OH基は、SiとOのシリカガラス網目構造すなわちガラスネットワークの終端部(ネットワークターミネーター)となるものである。この理由により、OH基の高濃度の含有は、高温度下における多孔質シリカ板体の変形を引き起こしやすくするものと考えられる。
【0062】
上記AlとOH基の不純物汚染防止効果はAl又はOH基のいずれか1種でもある程度は認められるが、この2種の組み合わせによって大幅に効果が向上する。このことにより、角形シリカ容器10を構成する多孔質シリカ板体の原料となるシリカ粉の純度が、SiO99.9〜99.999wt.%と比較的低純度であっても、本発明の目的により合致する角形シリカ容器10を製造することが可能となる。より具体的には、例えばシリカ原料粉の純度(SiOの純度)が99.99wt.%以上であり、Li、Na、Kの各々の濃度が1〜100wt.ppmであり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01〜1.0wt.ppmである場合、多孔質シリカ板体の製造の際にAlとOH基を同時に適量含有させることにより、本発明の角形シリカ容器により、多結晶シリコンインゴットを、工程汚染を十分に防止して製造することが可能となる。このように工程汚染が十分に防止された多結晶シリコンインゴットであれば、ソーラー発電デバイス(太陽電池)を製造した場合に、その光電変換効率を大幅に高めることが可能となる。
【0063】
以上説明したような多孔質シリカ板体を製造する方法を、図面を参照しながら説明する。
【0064】
(第1の態様)
まず、本発明の第1の態様に係る多孔質シリカ板体の製造方法について述べる。
【0065】
(1) 原料粉(シリカ粉)の調製、準備
まず、原料粉としてシリカ粉を作製する。製造時の低コスト化のため、従来のような高純度シリカ原料粉(高純度水晶粉、高純度天然石英粉、超高純度合成シリカガラス粉)は必ずしも使用する必要はなく、上記のように、シリカ(SiO)純度が99.9〜99.999wt.%の比較的低純度のシリカ原料粉を使用することが好ましい。
【0066】
シリカ原料粉は低コストの結晶質天然石英粉を用いることが好ましいが、必ずしも結晶質天然石英粉のみを用いる場合に限定されるわけでない。例えば、結晶質天然石英粉を主原料(例えば重量比で50%以上)とし、非晶質シリカ粉(溶融天然石英ガラス粉、合成シリカガラス粉)等を混合して原料粉としても良い。また、シリカ原料粉の粒径は、例えば、粒径0.01〜3mm(より好ましくは0.1〜1mm)の比較的大粒径の原料粉を用いることが好ましいが、必ずしもそれだけを用いる場合に限定されるわけではない。例えば、粒径0.01〜3mmの比較的大粒径の原料粉に、高活性である粒径0.1〜10μm程度の微小粒径の合成シリカガラス粉を混合したもの、あるいはそれ以上の種類のシリカ粉を混合して原料粉としても良い。
【0067】
また、シリカ容器の使用目的によって、あるいは溶融温度を低下させる目的によって、原料粉として非晶質溶融天然石英ガラス粉、合成シリカガラス粉等を結晶質シリカ粉に代えて使用してもよい。ただし、これらを主原料として用いる場合は、粒径を上記のように0.01〜3mmの比較的大粒径とすることが好ましく、0.1〜1mmとすることがより好ましい。
【0068】
原料粉のシリカ(SiO)純度は99.9wt.%以上とすることが好ましく、99.99wt.%以上とすることがより好ましい。特に、Li、Na、Kの各々の濃度を100wt.ppm以下とし、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を1.0wt.ppm以下とすることが好ましい。また、本発明に係る角形シリカ容器の製造方法であれば、原料粉のシリカ純度を99.999wt.%以下と比較的低純度のものとしても、製造される角形シリカ容器は、シリコン融液や多結晶シリコンインゴットへの不純物汚染を十分に防止することができる。そのため、従来よりも低コストで多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を製造することができることになる。
【0069】
粒径0.01〜3mmの比較的大粒径原料の作製は、例えば以下のようにして珪石塊を粉砕、整粒することにより作製することができるが、これに限定されない。
まず、直径10〜100mm程度の天然珪石塊(天然に産出する水晶、石英、珪石、珪質岩石、オパール石等)を大気雰囲気下、600〜1000℃の温度域にて1〜10時間程度加熱する。次いで該天然珪石塊を水中に投入し、急冷却後取出し、乾燥させる。この処理により、次のクラッシャー等による粉砕、整粒の処理を行いやすくできるが、この加熱急冷処理は行わずに粉砕処理へ進んでもよい。
【0070】
次いで、該天然珪石塊をクラッシャー等により粉砕、整粒し、粒径を0.03〜3mm、好ましくは0.1〜1mmに調整して天然珪石粉を得る。
【0071】
次いで、この天然珪石粉を、傾斜角度を有するシリカガラス製チューブから成るロータリーキルンの中に投入し、キルン内部を塩化水素(HCl)又は、塩素(Cl)ガス含有雰囲気とし、700〜1100℃にて1〜100時間程度加熱することにより高純度化処理を行う。ただし高純度を必要としない多結晶シリコンインゴット製造用途では、この高純度化処理を行わずに次処理へ進んでもよい。
【0072】
以上のような工程後に得られる原料粉は結晶質のシリカ粉である。コストの点からも、このような天然結晶質シリカ粉を、主な原料粉として用いることが好ましい。
【0073】
また、多孔質シリカ板体の耐熱変形性を向上させるために、原料粉にAl(Al元素)を含有させることが好ましい。原料粉へのAlの添加方法は特に限定されないが、例えば、金属Al又はその塩(硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム等)をそのまま原料粉に混合し、又は、水又はアルコールに溶解混合させた後、原料粉に混合することができる。添加するAlの量は、前述のように、製造する多孔質シリカ板体のAl濃度が5〜500wt.ppmとなるようにすることが好ましく、10〜100wt.ppmとなるようにすることがさらに好ましい。
【0074】
(2) 原料粉の加熱処理用電気炉
次に、原料粉を投入し、熱処理する電気加熱炉について説明する。電気加熱炉の概略断面図を図6、7に示した。図7は図6とは垂直の方向から見た場合の断面図である。
この電気加熱炉200は、原料粉の供給口203、原料粉を投入し、溶融、軟化するための溶融容器(モリブデン、タングステン等の高融点金属ルツボが好ましいが、これに限定されない)208、溶融容器208を加熱するための加熱手段(電気抵抗加熱、高周波誘導加熱等が利用可能な方法である)207、加熱手段207により生ずる熱の外側への放出を遮断する断熱材209、原料粉が加熱され、溶融、軟化した溶融シリカ体の流れを整えるための整流治具210、整流治具210の位置を調整する整流治具位置調整棒201、溶融シリカ体の形状成形工具(モリブデン、タングステン等の高溶融点金属製工具が好ましいが、これに限定されない)212、溶融容器208内の雰囲気ガスを調整するための溶融容器内雰囲気ガス給気、排気口202、電気加熱炉内のうち溶融容器208の外側の雰囲気ガスを調整するための溶融容器外雰囲気ガス給気、排気口204、加熱手段雰囲気ガス給気、排気口205等から成る。整流治具210と形状成形工具212との間は、図示したように間隙211が形成可能であり、また、整流治具210と形状成形工具212は密着させることもできる。
【0075】
電気加熱炉の下部には、多孔質シリカ板体取出し室213が配置され、多孔質シリカ板体取出し室内雰囲気ガス給気、排気口214、多孔質シリカ板体引き出しローラ216等が配置されている。
【0076】
この電気加熱炉の基本構造や運転条件は、特開平1−320234号公報、特開平2−296740号公報、特開平6−24785号公報等の文献に示されている。ただし、これらの文献に記載されたような従来の電気加熱炉は、気泡を含まない透明な棒状あるいは管状シリカガラスを製造するために設計されたものであり、本発明のように気泡を含む平行平板状の多孔質シリカ板体を製造するための電気加熱炉構造とは異なっている。第一の相違点は、電気加熱炉の形状及び溶融容器の形状である。本発明で用いることができる電気加熱炉は、平行平板状の多孔質シリカ板体を製造するために、溶融容器208とともに、略円柱形状ないし略楕円柱形状であることが好ましい。第二の相違点は、シリカ原料粉加熱時の雰囲気ガスの種類、圧力である。本発明では多孔質シリカ板体に気泡を含有させるために、窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガスを大気圧以上の圧力とする。第三の相違点は、溶融シリカ体を成形する形状成形工具の形状である。本発明では溶融シリカ体を平行平板状に成形するために、形状成形工具212の開口部の形状が略長方形である(図6、7の形状成形工具212参照)。
【0077】
(3) 原料粉の溶融、成形
図6、7に示した電気加熱炉を用いて、本発明の多孔質シリカ板体を製造する。具体的には以下のようにして行う。
【0078】
(a)溶融容器内の雰囲気ガス調整
まず、電気加熱炉内に配置した溶融容器208内を窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガス雰囲気に置換する。コストの点から主成分を窒素ガス80vol.%以上とすることが好ましい。また高温度下における容器の寿命を延ばすために、水素ガスを1〜4vol.%混合して使用する場合もある。
【0079】
(b)電気加熱炉内(溶融容器の外側)の雰囲気ガス調整
なお、電気加熱炉内のうち、溶融容器208の外側も窒素、ネオン、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスと置換することが好ましい。コストの点から主成分を窒素ガス80vol.%以上とするのが好ましい。また高温度下における溶融容器208や加熱手段207の寿命を延ばすために、水素ガスを1〜4vol.%混合して使用する場合もある。
【0080】
(c)原料粉の電気加熱炉内の溶融容器への供給
溶融容器208内を上記の不活性ガス雰囲気に保ちつつ、原料粉を溶融容器208の中に供給する。図6、7に電気加熱炉の上部に配置されている原料粉供給口203から、上記のように所定の粒径、所定の純度に調整された原料粉206を供給することができる。
【0081】
(d)原料粉への加熱による溶融、軟化
次に、溶融容器208内の不活性ガス雰囲気の圧力を大気圧以上に保持しつつ溶融容器208の温度を1700℃以上に加熱することにより原料粉206を溶融、軟化させる。電気抵抗加熱法又は高周波誘導加熱法等による加熱手段207、原料粉の構造、例えば結晶質シリカ又は非結晶質シリカであるかにもより若干異なるが、この温度範囲は1700℃〜2300℃とすることが好ましく、1800℃〜2100℃とすることがより好ましい。
【0082】
(e)溶融、軟化したシリカガラス体の成形
次に、溶融、軟化させたシリカガラスを溶融容器208の下部から形状成形工具212を通して平行平板状に成形しつつ連続して引き出す。
上記のように、溶融容器208の底部には、溶融されたシリカ体であるシリカガラスを整流する整流治具210と形状成形工具212が配置されている。原料粉206の供給及び溶融、軟化の当初は、整流治具210が形状成形工具212に栓をするように密着させる。原料粉206が十分に加熱され軟化し、気泡を含むシリカガラス体となった時点で、整流治具210を上部へ引き上げる。この時、整流治具210と形状成形工具212との間隙211の寸法や溶融容器208内のガス圧力を制御することにより、所定寸法の平行平板状の多孔質シリカ板体215を多孔質シリカ板体引き出し方向217に引き出すことが可能となる。多孔質シリカ板体の寸法精度は溶融容器の温度、雰囲気ガス圧力、整流治具210と形状成形工具212との間隙211の寸法、多孔質シリカ板体215の引き出し速度、等を制御することにより高めることができる。連続して引き出される多孔質シリカ板体215の断面寸法は、例えば、幅100〜1000mm、厚さ10〜30mmとすることができる。
【0083】
このようにすることにより、多孔質シリカ板体215のかさ密度を、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いものとすることができる。すなわち、溶融容器208の下部から多孔質シリカ板体215を形状成形工具212を通して引き出した時、多孔質シリカ板体の内部より表面部分の方の温度が高く、シリカガラスとして軟化(粘性度が低下)しており、表面部分の気泡含有量が相対的に少なくなる。また、冷却する間に、気泡の外方拡散により、多孔質シリカ板体215の表面付近では気泡が減少する一方で、内部の部分では気泡がほとんど減少しないため、表面付近のかさ密度を相対的に高く、内部のかさ密度を相対的に低くすることができる。多孔質シリカ板体215のかさ密度(g/cm)は、原料粉の粒径や溶融容器208内のガス種類、圧力等を調整することにより所定の値に制御することができる。
【0084】
(f)多孔質シリカ板体の仕上げ加工
電気加熱炉の下部から連続的に製造されている平行平板状の多孔質シリカ板体215が所定の長さに到達した時点で切断する。次いで必要に応じて、多孔質シリカ板体の端部の切断、研削、研磨を行い、多結晶シリコンインゴット製造用組立式角形シリカ容器に使用可能な形状、寸法の多孔質シリカ板体を得る。
【0085】
多結晶シリカ板体に含まれるOH基濃度の調整は、原料粉の種類の選定、原料粉の乾燥工程や、溶融工程の雰囲気、温度、時間条件を変化させることによって行うことができる。これにより、多孔質シリカ板体に5〜500wt.ppmの濃度で含有されるようにすることが好ましく、30〜300wt.ppmの範囲とすることがさらに好ましい。
【0086】
以上のようにして製造した平行平板状の多孔質シリカ板体を、例えば、図5に示したように、カーボン製等のサセプタ80内で組み合わせて角形シリカ容器10とする。このような配置で全体を加熱すると、多孔質シリカ板体同士が溶着し、簡単に角形シリカ容器10を一体化させることができる。
【0087】
さらに、特表2008−511527号公報に記載されているような、SiO含有接合体を単独又は補助的に用いて、各多孔質シリカ板体同士を接合してもよい。
【0088】
(第2の態様)
以下では、本発明の第2の態様に係る多孔質シリカ板体の製造方法について述べる。上述の第1の態様と基本的な工程順は同じであるので、同一工程についての再度の説明は省略し、相違点を中心に説明する。
【0089】
(1) 原料粉(シリカ粉)の調製、準備
まず、原料粉としてシリカ粉を作製する。このとき、平均粒径の異なる二種類の原料粉を作製する。
第一の原料粉としては、粒径0.003〜3.0mmのシリカ粉を作製する。これは、第一の原料粉のシリカ粉のうち、0.003〜3.0mmの粒径範囲の中に99wt.%以上のシリカ粉が含まれることを意味する。
また、第二の原料粉としては、質量基準累積分布の50%における粒子径値(D50)で比較した平均粒径が前記第一の原料粉よりも小さいシリカ粉を作製する。
【0090】
質量基準累積分布の50%における粒子径値(D50)(本明細書では、単に「平均粒径」とも呼ぶ)は、粒子径分布測定により決定される。粒子径分布測定は、例えば、JIS R 1639−1(ファインセラミックス−か(顆)粒特性の測定方法−第1部:か粒径分布)に従ったふるい分け法またはレーザー回折・散乱法によって行われる。
【0091】
例えば、第一の原料粉は、粒径範囲を0.1〜3.0mm、平均粒径を0.2mm(200μm)とすることができ、第二の原料粉は、粒径範囲を0.01〜0.3mm、平均粒径を0.04mm(40μm)とすることができる。
【0092】
また、第一の原料粉及び第二の原料粉のシリカ純度及び不純物濃度は、ともに、上述した第1の態様と同じような範囲とすることが好ましい。
【0093】
第一の原料粉及び第二の原料粉の作製方法は、第1の態様と同じく、例えば珪石塊を粉砕、整粒することにより作製することができるが、これに限定されない。
また、多孔質シリカ板体の耐熱変形性を向上させるために、第一の原料粉及び第二の原料粉にAl(Al元素)を含有させることが好ましいことも第1の態様と同様である。
【0094】
(2) 原料粉の加熱処理用電気炉
次に、第一の原料粉及び第二の原料粉を投入し、熱処理する電気加熱炉について説明する。電気加熱炉の概略断面図を図8に示した。この電気加熱炉300は、原料粉を溶融容器の中に供給する際に、第一の原料粉と第二の原料粉のそれぞれの供給位置を所定の位置にするために必要な構造を備える必要がある。
【0095】
この電気加熱炉は、第一の原料粉の供給口303a、第二の原料粉の供給口303b、両原料粉を投入し、溶融、軟化するための溶融容器(モリブデン、タングステン等の高融点金属ルツボが好ましいが、これに限定されない)308、溶融容器308を加熱するための加熱手段(電気抵抗加熱、高周波誘導加熱等が利用可能な方法である)307、加熱手段307により生ずる熱の外側への放出を遮断する断熱材309、溶融シリカ体の形状成形工具(モリブデン、タングステン等の高溶融点金属製工具が好ましいが、これに限定されない)312、溶融容器308内の雰囲気ガスを調整するための溶融容器内雰囲気ガス給気、排気口302、電気加熱炉内のうち溶融容器308の外側の雰囲気ガスを調整するための溶融容器外雰囲気ガス給気、排気口305等からなる。図8に示したように、第二の原料粉の供給口303bは、第一の原料粉の供給口303aを取り囲むように構成されている。
【0096】
図8では、図6、7で図示した整流治具を備えていない場合を示している。本発明では、原料粉が加熱され、溶融、軟化した溶融シリカ体の流れを整えるための整流治具は備えていてもよいが、図8のように、備えていなくてもよい。第1の態様と同様に、形状成形工具312の開口部の形状を略長方形とする。また、形状成形工具312の下方に、矢印323の方向に移動可能な溶融容器底部の開閉板322が具備されている。
【0097】
電気加熱炉300の下部には、多孔質シリカ板体取出し室313が配置され、多孔質シリカ板体取出し室内雰囲気ガス給気、排気口314、多孔質シリカ板体引き出しローラ316等が配置されている。
【0098】
(3) 原料粉の溶融、成形
図8に示した電気加熱炉を用いて、本発明の多孔質シリカ板体を製造する。具体的には以下のようにして行う。
【0099】
(a)溶融容器内の雰囲気ガス調整
まず、電気加熱炉内に配置した溶融容器308内を窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガス雰囲気に置換する。コストの点から主成分を窒素ガス80vol.%以上とすることが好ましい。また高温度下における容器の寿命を延ばすために、水素ガスを1〜4vol.%混合して使用する場合もある。
【0100】
(b)電気加熱炉内(溶融容器の外側)の雰囲気ガス調整
なお、電気加熱炉内のうち、溶融容器308の外側も窒素、ネオン、アルゴン、クリプトン等の不活性ガスと置換することが好ましい。コストの点から主成分を窒素ガス80vol.%以上とするのが好ましい。また高温度下における溶融容器308や加熱手段307の寿命を延ばすために、水素ガスを1〜4vol.%混合して使用する場合もある。
【0101】
(c)第一の原料粉及び第二の原料粉の電気加熱炉内の溶融容器への供給
溶融容器308内を上記の不活性ガス雰囲気に保ちつつ、原料粉を溶融容器308の中に供給する。
このとき、第一の原料粉306aの供給位置を溶融容器308内の中央側として供給するとともに、第二の原料粉306bを溶融容器308内の第一の原料粉306aの供給位置よりも外側に供給する。このような原料粉の供給は、図8に示した電気加熱炉300の上部に配置されている第一の原料粉供給口303a及び第二の原料粉303bから、上記のように所定の粒径範囲及び平均粒径、並びに所定の純度に調整された第一の原料粉306a及び第二の原料粉306bをそれぞれ供給することにより、行うことができる。
【0102】
(d)原料粉への加熱による溶融、軟化
次に、溶融容器308内の不活性ガス雰囲気の圧力を大気圧以上に保持しつつ溶融容器308の温度を1700℃以上に加熱することにより第一の原料粉306a及び第二の原料粉306bを溶融、軟化させる。これにより、原料粉は溶融シリカガラス体321a、321bとなる。溶融容器308内の中心側のシリカガラス体321aは粒径が比較的粗い第一の原料粉306aに由来するシリカ成分が多く、溶融容器308内の周辺側のシリカガラス体321bは、粒径が比較的細かい第二の原料粉306bに由来するシリカ成分が多くなる。
【0103】
(e)溶融、軟化したシリカガラス体の成形
次に、溶融、軟化させたシリカガラスを溶融容器308の下部から形状成形工具312を通して平行平板状に成形しつつ連続して下方(矢印317の向き)に引き出す。
上記のように、溶融容器308の底部には、溶融されたシリカ体であるシリカガラスの形状成形工具312と開閉板322が配置されており、当初は開閉板322が形状成形工具312に栓をするように密着している。原料粉が十分に加熱され軟化した多孔質シリカガラス体となった時点で、開閉板322を横方向へ移動させる。この時、開閉板322の横方向への移動量、形状成形工具312の間隙寸法や溶融容器308内のガス圧力を制御することにより、所定寸法の平行平板状の多孔質シリカ板体315を取り出すことが可能となる。多孔質シリカ板体315の寸法精度は溶融容器308の温度、雰囲気ガス圧力、開閉板322の位置調整、形状成形工具312の間隙寸法、多孔質シリカ板体315の引き出し速度、等を制御することにより高めることができる。また多孔質シリカ板体315のかさ密度(g/cm)は、第一の原料粉及び第二の原料粉の平均粒径、粒径範囲及び粒径分布設定や、溶融容器308内のガス種類、ガス圧力等を調整することにより所定の値に制御することができる。
【0104】
このようにすることにより、多孔質シリカ板体315のかさ密度を、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いものとすることができる。特に、この態様では、二種類の平均粒径を有する原料粉を用いるために、多孔質シリカ板体315の両平行平面の表面部分と内部の部分との密度差をより大きくしやすくできる。特に、表面部分と中心部分とのかさ密度の差を0.1g/cm以上とすることをより容易に実現できる。
【0105】
また、多孔質シリカ板体のかさ密度は、上記のように1.60〜2.10g/cmとすることが好ましいが、場合によっては、1.40〜2.20g/cmとすることもできる。このような多孔質シリカ板体は、二種類の平均粒径を有する原料粉を用いる第2の態様によれば、より容易に実現することができる。
【0106】
(f)多孔質シリカ板体の仕上げ加工
第1の態様と同じく、電気加熱炉の下部から連続的に製造されている平行平板状の多孔質シリカ板体315が所定の長さに到達した時点で切断する。次いで必要に応じて、多孔質シリカ板体の端部の切断、研削、研磨を行い、多結晶シリコンインゴット製造用組立式角形シリカ容器に使用可能な形状、寸法の多孔質シリカ板体を得る。
【0107】
本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を用いて多結晶シリコンインゴットの製造を行う方法の一例を説明する。
まず、本発明に係る角形シリカ容器に原料である溶融シリコンを投入する。次に、溶融シリコンを加熱保温し所定温度の融液とする。
【0108】
シリコン融液を冷却することで凝固して多結晶シリコンインゴットを製造した後、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットを取り出す。本発明では、角形シリカ容器のかさ密度の制御により、該容器の強度を適度に低く設定することにより、多結晶シリコンインゴットを取り出し易く、また、多結晶シリコンインゴットの破損を防止することができる。
その後、取り出した多結晶シリコンインゴットを所定の厚さにスライス、研磨して、多結晶シリコン基板とする。
【実施例】
【0109】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
本発明に係る多孔質シリカ板体の製造方法(第1の態様)に従い、以下のように多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。
【0110】
まず、原料粉を以下のように作製した。
天然珪石を50kg準備し、大気雰囲気下で、1000℃、10時間の条件で加熱後、純水の入った水槽へ投入し、急冷却した。これを乾燥後、クラッシャーを用いて粉砕し、粒径100〜1000μm、シリカ純度99.99wt.%、総重量40kgのシリカ粉(天然石英粉)とした。
【0111】
次に、この原料粉に硝酸アルミニウムを水溶液として添加し乾燥させ、Alを含有させた。
【0112】
次に、この原料粉を用いて、図6、7に示した電気加熱炉(高周波誘導加熱)により、多孔質シリカ板体を製造した。雰囲気ガスは水素3%を含む窒素雰囲気(窒素97%)とした。
【0113】
なお、多孔質シリカ板体の寸法は、縦250mm×横390mm×厚さ10mm(側部用)、縦400mm×横400mm×厚さ10mm(底部用)とした。
となるようにした。
【0114】
このようにして製造した平行平板状の多孔質シリカ板体の周辺部を加工し、図5のように5枚を組み合わせて角形シリカ容器10とした。組み合わせ後の角形シリカ容器の寸法は400×400×高さ260mmとなった。
【0115】
(実施例2)
実施例1とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
原料粉の粒径を粗くし、200〜2000μmとした。これにより、多孔質シリカ板体に気泡が入りやすくなり、かさ密度が低下した。
また、原料粉に含有させるAl濃度を10倍とした。
【0116】
(実施例3)
実施例2とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
原料粉の粒径をさらに粗くし、300〜3000μmとした。これにより、多孔質シリカ板体に気泡が入りやすくなり、かさ密度が低下した。
【0117】
(実施例4)
実施例2とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
原料粉のシリカ純度を高純度とし、99.999wt.%とした。
また、原料粉にAlを添加しなかった。
【0118】
(実施例5)
実施例2とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
原料粉のシリカ純度を低純度とし、99.9wt.%とした。
また、原料粉に含有させるAl濃度を5倍(実施例1と比べて50倍)とした。
【0119】
(実施例6)
実施例2とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、原料粉の溶融ガス雰囲気をAr100%の雰囲気とした。
【0120】
(実施例7)
本発明に係る多孔質シリカ板体の製造方法(第2の態様)に従い、以下のように多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。
【0121】
まず、第一の原料粉を作製した。天然珪石を50kg準備し、大気雰囲気下で、1000℃、10時間の条件で加熱後、純水の入った水槽へ投入し、急冷却した。これを乾燥後、クラッシャーを用いて粉砕し、粒径範囲100〜1000μm、シリカ純度99.99wt.%、総重量40kgのシリカ粉(天然石英粉)とした。平均粒径(質量基準累積分布の50%における粒子径値、D50)が530μmであった。
第二の原料粉も第一の原料粉と同様の工程により作製したが、粒径範囲10〜500μm、平均粒径100μmになるようにした。
【0122】
次に、この第一の原料粉及び第二の原料粉に硝酸アルミニウムを水溶液として添加し乾燥させ、Alを含有させた。
【0123】
次に、この第一の原料粉及び第二の原料粉を用いて、図8に示した電気加熱炉(高周波誘導加熱)により、多孔質シリカ板体を製造した。雰囲気ガスは水素3%を含む窒素雰囲気(窒素97%)とした。
【0124】
なお、多孔質シリカ板体の寸法は、縦200mm×横400mm×厚さ10mmとした。
【0125】
このようにして製造した平行平板状の多孔質シリカ板体の周辺部を加工し、図3のように10枚を組み合わせて角形シリカ容器10とした。組み合わせ後の角形シリカ容器の寸法は400×400×高さ400mmとなった。
【0126】
(実施例8)
実施例7とほぼ同様にして多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
第一の原料粉及び第二の原料粉の粒径を粗くした。具体的には、第一の原料粉を粒径範囲200〜2000μm、平均粒径700μm、第二の原料粉を粒径範囲10〜600μm、平均粒径150μmとした。
また、第一の原料粉及び第二の原料粉に含有させるAl濃度を10倍とした。
【0127】
(実施例9)
実施例8と同様に、ただし、第一の原料粉及び第二の原料粉をさらに粗くして(第一の原料粉を粒径範囲300〜3000μm、平均粒径910μm、第二の原料粉を粒径範囲10〜700μm、平均粒径220μmとした。)、多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。
【0128】
(実施例10)
実施例8とほぼ同様の工程により、多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
第一の原料粉及び第二の原料粉のシリカ純度を99.999wt.%とした。
また、第一の原料粉及び第二の原料粉にAlを含有させる工程を行わなかった。
【0129】
(実施例11)
実施例7とほぼ同様の工程により、多孔質シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。ただし、以下の条件を変更した。
第一の原料粉のシリカ純度を低純度(99.9wt.%)とし、粒径を粗くした(粒径範囲200〜2000μm、平均粒径680μm)。その一方、第二の原料粉は実施例7と同様とした。
また、シリカ純度を低純度としたため、第一の原料粉及び第二の原料粉に含有させるAl濃度を実施例7と比べて30倍程度とした。
【0130】
(比較例1)
実施例1と比べて、以下の条件を変更し、シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。
原料粉を高純度化し(シリカ純度99.9999wt.%)、粒径を50〜500μmとした。また、溶融ガス雰囲気をH80%、He20%とした。これにより、多孔質シリカ板体にほとんど気泡が入らず、シリカ板体は透明であった。
また、原料粉にAlを添加しなかった。
【0131】
(比較例2)
比較例1と比べて、以下の条件を変更し、シリカ板体を製造し、さらに角形シリカ容器を製造した。
原料粉のシリカ純度を実施例1〜3、6と同じく99.99wt.%とした。
【0132】
[実施例及び比較例における評価方法]
各実施例及び比較例において用いた原料粉、並びに、製造した多孔質シリカ板体及び角形シリカ容器の物性、特性評価を以下のようにして行った。
【0133】
かさ密度の測定方法:
多孔質シリカ板体の表面部分及び中心部分から、それぞれ、50mm×50mm×3mmの板状サンプルを切り出し、該サンプルの重量(g)を測定した。次いで、表面部分及び中心部分それぞれのサンプルの寸法からサンプルの体積(cm)を求めた。これらの重量及び体積の数値から、表面部分及び中心部分それぞれサンプルのかさ密度(g/cm)を計算した。
【0134】
各原料粉の粒径範囲測定:
光学顕微鏡又は電子顕微鏡で各原料粉の二次元的形状観察及び面積測定を行った。次いで、粒子の形状を真円と仮定し、その面積値から直径を計算して求めた。この手法を統計的に繰り返し行い、粒径の範囲の値とした(この範囲の中に99wt.%以上の原料粉が含まれる)。
【0135】
各原料粉の平均粒径測定:
粉体用ふるいを複数用いて、ふるい分け法(JIS R 1639−1)に従って粒子径分布測定を行った。ふるいはJIS Z 8801の標準ふるいを使用した。
また、上記ふるい分け法とともに、レーザー回折、散乱法(同様にJIS R 1639−1)に従って粒子径分布測定を行った。この2種のデータから粒子径(μm)と質量基準累積分布(wt.%)との相関関係を求めた。最終的には各原料粉の50wt.%累積質量値における粒子径(D50)を平均粒径として示した。
【0136】
金属元素濃度分析:
多孔質シリカ板体の肉厚の中心の位置からシリカサンプル片を切り出し、フッ化水素酸水溶液で溶解させることにより、サンプルの調製を行った。含有金属元素濃度が比較的低い場合は、プラズマ発光分析法(ICP−AES、Inductively Coupled Plasma − Atomic Emission Spectroscopy)又はプラズマ質量分析法(ICP−MS、Inductively Coupled Plasma − Mass Spectroscopy)で行い、含有金属元素濃度が比較的高い場合は、原子吸光光度法(AAS、Atomic Absorption Spectroscopy)で行った。
【0137】
OH基濃度測定:
角形シリカ容器を構成するシリカ板体の肉厚の中心部分から粒径10〜100μmの粉状サンプルを作製し、赤外線拡散反射分光光度法で行った。OH基濃度への換算は、以下文献に従う。
Dodd,D.M. and Fraser,D.B.(1966) Optical determination of OH in fused silica. Journal of Applied Physics, vol.37, P.3911.
【0138】
角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果:
角形シリカ容器の中へSi純度99.99999999wt.%の高純度シリコン溶融体を投入し、室温まで冷却して寸法380mm×380mm×240mmの多結晶シリコンインゴットを作製した。次いで、該インゴットの表面から3mmの深さの位置でシリコン片のサンプリングを行い、これを酸性溶液処理することにより溶液状サンプルとした後、ICP−AESにて、Na濃度分析を行った。Na濃度値によって、角形シリカ容器から多結晶シリコンインゴットへの不純物拡散防止効果を評価した。
不純物拡散防止効果大 ○(Naの濃度が10wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果中 △(Naの濃度が10wt.ppb以上100wt.ppb未満)
不純物拡散防止効果小 ×(Naの濃度が100wt.ppb以上)
【0139】
離型性評価:
前記と同様に多結晶シリコンインゴットを作製し、次いで角形シリカ容器の4カ所の側壁角部及び4カ所の側壁と底部の角部の溶着している部分をカッターにて切断し、該インゴットから角形シリカ容器の4つの側壁及び底板を剥がし取った。次いで該多結晶インゴットの表面に付着しているシリカ片をフッ化水素酸水溶液で溶解、除去した。該インゴット表面に残存する凹凸やクラック等が、角形シリカ容器の内表面と接触した位置から内部方向にどのくらいの深さまであるのかをスケールにより測定することで離型性の評価を行った。
離型性良好 ○(深さ2mm未満)
離型性中程度 △(深さ2mm以上5mm未満)
離型性悪い ×(深さ5mm以上)
【0140】
製造コスト(相対的)評価:
角形シリカ容器の製造コストを調べた。
基準を比較例1とし、製造工程全体の合計のコストを相対的に評価した。
コストが非常に低い ◎(30%以下)
コストが低い ○(30〜50%程度)
コストが中程度 △(50〜90%程度)
コストが大きい ×(比較例1を100%とする)
【0141】
実施例1〜11、比較例1〜2で製造したそれぞれの多孔質シリカ板体及び角形シリカ容器の製造条件と、測定した物性値、評価結果をまとめ、下記の表1〜5に示す。
【0142】
【表1】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】

【0145】
【表4】

【0146】
【表5】

【0147】
表1〜5からわかるように、本発明に係るシリカ容器の製造方法に従った実施例1〜11では、離型性に優れ、かつ不純物汚染の少ない多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器を、低コストで製造することができた。
【0148】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0149】
10…本発明に係る多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器、
11、11a、11b…側部、
12、12a、12b…側部内表面、 13、13a、13b…側部外表面、
21、21a、21b…底部、
22、22a、22b…底部内表面、 23、23a、23b…底部外表面、
80…サセプタ、
200…電気加熱炉、
201…整流治具位置調整棒、
202…溶融容器内雰囲気ガス給気、排気口、
203…原料粉供給口、
204…溶融容器外雰囲気ガス給気、排気口、
205…加熱手段雰囲気ガス給気、排気口、
206…原料粉、
207…加熱手段(誘導コイル、抵抗加熱体等)、
208…溶融容器、
209…断熱材、
210…整流治具、
211…整流治具と形状成形工具との間隙、
212…形状成形工具、
213…多孔質シリカ板体取出し室、
214…多孔質シリカ板体取出し室内雰囲気ガス給気、排気口、
215…多孔質シリカ板体、
216…多孔質シリカ板体引き出しローラ、
217…多孔質シリカ板体引き出し方向、
300…電気加熱炉、
302…溶融容器内雰囲気ガス給気、排気口、
303a…第一の原料粉の供給口、 303b…第二の原料粉の供給口、
305…溶融容器外雰囲気ガス給気、排気口、
306a…第一の原料粉、 306b…第二の原料粉、
307…加熱手段(誘導コイル、抵抗加熱体等)、
308…溶融容器、
309…断熱材、
312…形状成形工具、
313…多孔質シリカ板体取出し室、
314…多孔質シリカ板体取出し室内雰囲気ガス給気、排気口、
315…多孔質シリカ板体、
316…多孔質シリカ板体引き出しローラ、
317…多孔質シリカ板体引き出し方向、
321a、321b…溶融シリカガラス体、
322…開閉板、 323…開閉板移動方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン融液を凝固して多結晶シリコンインゴットを製造するための角形シリカ容器であって、
多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体を組み合わせて構成されたものであり、前記多孔質シリカ板体のかさ密度が、両平行平面の表面部分よりも内部の部分において低いことを特徴とする多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項2】
前記多孔質シリカ板体のかさ密度が1.60〜2.10g/cmであり、前記多孔質シリカ板体の両平行平面の表面から深さ3mm厚さ部分のかさ密度が、中心部分厚さ3mmのかさ密度よりも大であり、かつ0.05g/cm以上の差を有することを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項3】
前記角形シリカ容器は、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、かつOH基濃度が5〜500wt.ppmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項4】
前記角形シリカ容器に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が1〜100wt.ppmであり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01〜1.0wt.ppmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の多結晶シリコンインゴット製造用角形シリカ容器。
【請求項5】
多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体であって、かさ密度が1.60〜2.10g/cmであり、両平行平面の表面から深さ3mm厚さ部分のかさ密度が、中心部分厚さ3mmのかさ密度よりも大であり、かつ0.05g/cm以上の密度差を有することを特徴とする多孔質シリカ板体。
【請求項6】
前記多孔質シリカ板体は、Al濃度が5〜500wt.ppmであり、かつOH基濃度が5〜500wt.ppmであることを特徴とする請求項5に記載の多孔質シリカ板体。
【請求項7】
前記多孔質シリカ板体に含有されているLi、Na、Kの各々の濃度が1〜100wt.ppmであり、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度が0.01〜1.0wt.ppmであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の多孔質シリカ板体。
【請求項8】
多孔質シリカからなる平行平板状の多孔質シリカ板体を製造する方法であって、
原料粉としてシリカ粉を作製する工程と、
電気加熱炉内に配置した溶融容器内を窒素、ネオン、アルゴン、クリプトンのいずれか1種を含む不活性ガス雰囲気に置換する工程と、
前記溶融容器内を前記不活性ガス雰囲気に保ちつつ、前記原料粉を前記溶融容器の中に供給する工程と、
前記溶融容器内の前記不活性ガス雰囲気の圧力を大気圧以上に保持しつつ該溶融容器の温度を1700℃以上に加熱することにより前記原料粉を溶融、軟化させる工程と、
前記溶融、軟化させたシリカガラスを前記溶融容器の下部から形状成形工具を通して平行平板状に成形しつつ連続して引き出す工程と
を含むことを特徴とする多孔質シリカ板体の製造方法。
【請求項9】
前記原料粉を作製する工程において、粒径0.003〜3.0mmのシリカ粉からなる第一の原料粉と、質量基準累積分布の50%における粒子径値で比較した平均粒径が前記第一の原料粉よりも小さいシリカ粉からなる第二の原料粉を作製し、
前記原料粉を前記溶融容器の中に供給する工程において、前記第一の原料粉の供給位置を前記溶融容器内の中央側として供給するとともに、前記第二の原料粉を前記溶融容器内の前記第一の原料粉の供給位置よりも外側に供給することを特徴とする請求項8に記載の多孔質シリカ板体の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉が含有するLi、Na、Kの各々の濃度を1〜100wt.ppmとし、前記原料粉が含有するTi、Cr、Fe、Ni、Cu、Zn、Auの各々の濃度を0.01〜1.0wt.ppmとすることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の多孔質シリカ板体の製造方法。
【請求項11】
前記溶融容器の中の雰囲気ガスを窒素80vol.%以上とすることを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか一項に記載の多孔質シリカ板体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−176871(P2012−176871A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49356(P2011−49356)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】