説明

多結晶磁性セラミック、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子

【課題】 異相の生成を抑制しつつ低温焼成可能であり、強磁性共鳴半値幅及び誘電損失が小さく、飽和磁化に関して永久磁石の温度特性を補償する温度係数を有する多結晶磁性セラミックを提供する。
【解決手段】 Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトからなる多結晶磁性セラミックであって、一般式:(Ya-bM1b)(Fe8-a-cM2c)O12(ただし、M1はBi及びCaであり、M2はIn,V,Cu及びZrであり、a,b及びcは原子比であり、2.94≦a<3.0、1.00≦b≦1.70、及び0.365≦c≦0.95を満たす。)で表される組成を有する多結晶磁性セラミック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材との同時焼成が可能で高周波回路用電子部品に使用し得る多結晶磁性セラミック、かかる多結晶磁性セラミックを用いたマイクロ波磁性体、及びかかるマイクロ波磁性体を具備する非可逆回路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、衛星放送等、マイクロ波領域の電磁波を利用する通信技術の進展とともに、機器の小型化が要求されている。このためには、機器を構成する個々の部品の小型化及び低背化が必要である。通信機器に用いられる代表的な高周波回路用電子部品には、サーキュレータ、アイソレータ等のマイクロ波非可逆回路素子がある。信号の伝送方向にほとんど減衰がないが逆方向に減衰が大きいアイソレータは、例えばマイクロ波帯及びUHF帯で使用される携帯電話等の移動体通信器の送受信回路に用いられている。
【0003】
非可逆回路素子は、互いに絶縁された状態で配置された複数の導電体ラインを有する中心導体にマイクロ波用磁性体が密接に配置された中心導体組立体と、中心導体組立体に直流磁界を印可する永久磁石とを備えている。中心導体は、マイクロ波用磁性体に巻付けた銅箔、又はマイクロ波用磁性体に印刷した銀ペーストからなる。
【0004】
マイクロ波用磁性体を形成するY-Fe系ガーネットフェライトの組成がY3Fe5O12の化学量論組成からずれた場合、Y2O3が少ないとガーネット相以外にFe2O3の異相が生成し、Y2O3が多いとYFeO3の異相が生成し、いずれも強磁性共鳴半値幅ΔHが大きくなることが知られている。このような異相の生成を抑制するために種々の提案がされている。
【0005】
特開昭53-115098号(特許文献1)は、YAFe8-AO12 (3.09≦A≦3.16)の組成のときに異相がなく、化学量論組成よりΔHが小さいY-Fe系ガーネットフェライトが得られることを開示している。
【0006】
特開平6-61708号(特許文献2)は、パラジウム又は白金を含有する導電ペーストからなる中心導体を、マイクロ波用磁性体とともに1300〜1600℃で一体焼成することを開示している。これ等の導体の融点は1300℃以上と高く、ほとんどのマイクロ波用磁性体との一体焼成が容易であり、例えば特許文献1に開示のY-Fe系ガーネットフェライトとともに用いることができる。しかし、パラジウム又は白金は比抵抗が高いため、アイソレータに使用した場合に挿入損失が大きいという欠点を有している。
【0007】
特開平8-288116号(特許文献3)は、800〜1000℃で焼結する非可逆回路素子用の多結晶セラミックス磁性材であって、イットリウム及び希土類元素の少なくとも1種と、ビスマスと、鉄と、酸素とを含有し、ガーネット型構造を有する主相を有する多結晶セラミックス磁性材を開示している。この磁性材の最終組成は、(Y2O3+Bi2O3):Fe2O3=3:5(モル比)という化学量論組成の条件を満たす。この多結晶セラミック磁性体はYの一部がBiで置換されているので、Ag、Cu等の低抵抗導体の融点以下で焼成可能である。しかし、Biの酸化物は他の構成元素の酸化物より低融点であるので、Biの置換量が多くなると化学量論組成でも結晶格子内に取り込まれないBiが異相(Bi又はBi化合物)として粒界に析出し、ΔHの増大を招くことがある。
【0008】
一般にガーネットのように単相領域が狭いマイクロ波用磁性体では、異相の生成や空孔量の増加が発生しやすい。異相が生成すると、強磁性共鳴半値幅ΔH及び誘電損失tanδが増大するとともに、ガーネットの外観が劣化する。これらに対するBiの影響は顕著であるが、特許文献3では何等認識されていない。
【0009】
また非可逆回路素子内でマイクロ波用磁性体は永久磁石と組み合わせるため、マイクロ波用磁性体の飽和磁化4πMsの温度特性が永久磁石の温度特性を補償するのが理想である。そのため、強磁性共鳴半値幅ΔHが小さく、使用周波数に適した飽和磁化4πMs及び飽和磁化温度係数αmを有し、誘電損失tanδが小さいことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭53-115098号
【特許文献2】特開平6-61708号
【特許文献3】特開平8-288116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の第一の目的は、Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトからなり、860℃以上950℃未満の低温で焼成でき、異相の生成が抑制され、強磁性共鳴半値幅ΔH及び誘電損失tanδが小さく、飽和磁化4πMsに関して永久磁石の温度特性を補償する温度係数αmを有する多結晶磁性セラミックを提供することである。
【0012】
本発明の第二の目的は、かかる多結晶磁性セラミックを用いたマイクロ波磁性体を提供することである。
【0013】
本発明の第三の目的は、かかるマイクロ波磁性体を具備する非可逆回路素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の多結晶磁性セラミックは、Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトからなり、下記一般式:
(Ya-bM1b)(Fe8-a-cM2c)O12(原子比)
(ただし、M1はBi及びCaであり、M2はIn,V,Cu及びZrであり、2.94≦a<3.0、1.00≦b≦1.70、及び0.365≦c≦0.95である。)で表される組成を有することを特徴とする。
【0015】
上記多結晶磁性セラミックの好ましい組成は、下記一般式:
(Ya-x-y-zBixCayGdz)(Fe8-a-α-β-γ-δ-εInαAlβVγCuδZrε)O12(原子比)
(ただし、2.94≦a<3.0、0.50≦x≦0.80、0.50≦y≦0.90、0≦z≦0.40、0.10≦α≦0.40、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45、0.01≦δ≦0.05、及び0.005≦ε≦0.05である。)で表される。
【0016】
上記組成を有する多結晶磁性セラミック焼結体を製造する本発明の方法は、Yサイトの各元素及びFeサイトの各元素(ただし、Cu及びZrを除く。)の酸化物を混合及び仮焼し、得られた仮焼粉にFe,Cu及びZrの酸化物を添加し、得られた混合物を成形した後、860℃以上950℃未満の温度で焼結することを特徴とする。
【0017】
本発明のマイクロ波磁性体は、上記多結晶磁性セラミックと、Ag又はCuを含む導体ペーストとを一体焼結してなり、その内部及び/又は表面に前記導体ペーストで形成された電極パターンを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の非可逆回路素子は、上記マイクロ波磁性体に形成された電極パターンを中心導体とし、前記中心導体に接続するコンデンサと、前記マイクロ波磁性体に直流磁界を与えるフェライト磁石とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、860℃以上950℃未満の低温で焼成することができ、銀や銅といった低抵抗の金属材料との同時焼成が可能で、Bi置換型においても異相の生成がなく、強磁性共鳴半値幅ΔH及び誘電損失tanδが小さい多結晶磁性セラミックと、マイクロ波磁性体及びこれを用いた非可逆回路素子を提供することができる。
【0020】
従って、磁性体材料の有する高いQ値と、内部電極の電気抵抗による損失を抑え、極めて損失の小さいマイクロ波磁性体を構成することができる。これにより、アイソレータ、サーキュレータ等のマイクロ波非可逆回路素子に応用して、優れたマイクロ波特性と低損失を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1(a)】本発明の一実施例によるマイクロ波磁性体(中心導体組立体)の第一の主面側の外観を示す斜視図である。
【図1(b)】図1(a) の中心導体組立体の第二の主面側の外観を示す斜視図である。
【図2】図1(a) の中心導体組立体の内部構造を示す分解図である。
【図3】本発明の一実施例による非可逆回路素子の内部構造を示す分解斜視図である。
【図4】従来の多結晶磁性セラミックに生じたBiの異相を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1] 多結晶磁性セラミック
Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトからなる本発明の多結晶磁性セラミックは、下記一般式:
(Ya-bM1b)(Fe8-a-cM2c)O12(原子比)
(ただし、M1はBi及びCaであり、M2はIn,V,Cu及びZrであり、2.94≦a<3.0、1.00≦b≦1.70、及び0.365≦c≦0.95である。)で表される組成を有する。Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトにおいて、Yサイトの割合を化学量論組成比より少なくすると、ΔHの増大を招くことなくBiによる異相の生成を低減できることが分かった。本発明の多結晶磁性セラミックはM2としてAlを含有しても良い。
【0023】
多結晶磁性セラミックの好ましい組成は、下記一般式:
(Ya-x-y-zBixCayGdz)(Fe8-a-α-β-γ-δ-εInαAlβVγCuδZrε)O12(原子比)
(ただし、2.94≦a<3.0、0.50≦x≦0.80、0.50≦y≦0.90、0≦z≦0.40、0.10≦α≦0.40、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45、0.01≦δ≦0.05、及び0.005≦ε≦0.05である。)で表される。
【0024】
(1) Bi
Biは多結晶磁性セラミックの低温焼結化に寄与する。Yサイトの一部を置換するBiの含有量xは原子比で0.50≦x≦0.80であるのが好ましい。x<0.50であると、Biに由来する異相の生成は抑制されるものの950℃未満での焼結が困難になる。またx>0.80であると、焼結体に生成される異相が多くなり、誘電損失tanδ及び強磁性共鳴半値幅ΔHが著しく大きくなる。xのより好ましい範囲は0.60≦x≦0.70である。
【0025】
(2) Ca
CaはVとともに加えられると、焼結時に低融点のVの蒸散を防ぐ。このため、Caの含有量yは原子比で0.50≦y≦0.90であるのが好ましい。yのより好ましい範囲は0.60≦y<0.85である。
【0026】
(3) Gd
飽和磁化4πMsの温度係数αmを調整する作用を有するGdの含有量zは原子比で0≦z≦0.40であるのが好ましい。z>0.40であると、飽和磁化4πMsの温度係数αm(−20℃〜+60℃の範囲内)が0.21%/℃未満となることがあり、永久磁石との温度特性差を低減できないだけでなく、誘電損失tanδ及び強磁性共鳴半値幅ΔHが著しく大きくなる。zのより好ましい範囲は0.10≦z≦0.25である。
【0027】
(4) M2
M2元素のうち、In,Al及びVは飽和磁化4πMsの温度係数αmを調整するとともに、低温焼結化に寄与する。In,Al及びVの含有量α、β及びγは原子比でそれぞれ0.10≦α≦0.40、0≦β≦0.45、及び0.25≦γ≦0.45であるのが好ましい。In及びVの各含有量が上記範囲の各下限より少ないと、950℃未満での焼結が困難になるだけでなく、飽和磁化4πMsが大きくなる。非可逆回路素子において好適な飽和磁化4πMsは永久磁石より与えられる動作磁界によるが、非可逆回路素子の外形寸法が例えば3.0 mm×3.0 mm×1.0 mmより小さくなると、飽和磁化4πMsが140 mTを超えるときに非可逆回路素子として動作させるに永久磁石の磁力が不足することがある。またIn及びVの各含有量が少なすぎると、誘電損失tanδ及び強磁性共鳴半値幅ΔHが大きくなる。一方、In,Al及びVの各含有量が上記範囲の各上限より多いと、飽和磁化4πMsが70 mT未満となり、多結晶磁性セラミックの温度特性が永久磁石の温度特性を補償できなくなる。より好ましいα、β及びγの範囲は、0.10≦α≦0.30、0≦β≦0.30、及び0.30≦γ≦0.45である。
【0028】
(5) Cu
M2元素のうち、Cuは低温焼結化に寄与するが、Cuの含有量δがδ>0.05であると、誘電損失tanδ及び強磁性共鳴半値幅ΔHが大きくなる。一方、δ<0.01であると、Biをx>0.70としなければ950℃未満での焼結が困難になる。このため、Cuの含有量δは0.01≦δ≦0.05の条件を満たすのが好ましい。δのより好ましい範囲は
0.01≦δ≦0.03である。
【0029】
(6) Zr
M2元素のうち、Zrは強磁性共鳴半値幅ΔHの低減に寄与するが、Zrの含有量εがε>0.05であると、焼結体にZrに由来する異相を生じやすく、強磁性共鳴半値幅ΔHが大きくなる。一方、ε<0.005であると強磁性共鳴半値幅ΔHの低減の効果が薄い。このため、Zrの含有量εは0.005≦ε≦0.05の条件を満たすのが好ましい。εのより好ましい範囲は0.005≦ε≦0.02である。
【0030】
なおいずれの元素でも所望の割合より多くすると、その元素に由来する異相やFe2O3等の第二相が生じ易くなる。
【0031】
(7) 磁気特性
上記組成により、本発明の多結晶磁性セラミックは860℃以上950℃未満の低温で焼結することができ、飽和磁化4πMsは70〜130 mTであり、その温度係数αmは−0.35%/℃〜−0.21%/℃であり、強磁性共鳴半値幅ΔHは8000 A/m以下である。
【0032】
[2] 多結晶磁性セラミック焼結体の製造方法
本発明の多結晶磁性セラミック焼結体は、まずY-Fe系ガーネットフェライトの主成分からなる仮焼粉を作製し、それに副成分を追加することにより作製することができる。好ましい主成分はY2O3、Bi2O3、CaCO3、Fe2O3、In2O3及びV2O5であり、好ましい副成分はCuO、ZrO2及びFe2O3である。副成分を仮焼後に添加すると最終組成の調整が比較的容易であるが、勿論全ての成分を含む仮焼粉を作製しても本発明の多結晶磁性セラミック焼結体を得ることができる。
【0033】
多結晶磁性セラミック焼結体の製造方法の一例を以下に示すが、本発明は勿論これに限定される訳ではない。まずY2O3粉、Bi2O3粉、CaCO3粉、Fe2O3粉、In2O3粉、Al2O3粉、V2O5粉、CuO粉及びZrO2粉を、最終組成が、一般式:(Y1.575Bi0.644Ca0.753)(Fe4.101In0.228Al0.297V0.376Cu0.020Zr0.006)O12となるように秤量し、その内、Y2O3粉、Bi2O3粉、CaCO3粉、Fe2O3粉、In2O3粉、Al2O3粉、V2O5粉をボールミルで湿式混合し、得られたスラリーを乾燥する。仮焼は焼結温度より40〜70℃低い温度(例えば800〜875℃)で1.5〜2時間行うのが好ましい。仮焼温度の一例は850℃である。
【0034】
得られた仮焼粉をボールミルで湿式粉砕し、これに残りの原料粉を配合し、スラリー濃度が40質量%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルで25時間湿式粉砕した後乾燥することにより、多結晶磁性セラミック粉末を得る。多結晶磁性セラミック粉末の平均粒径は、焼成時の反応性に影響するので、0.25〜1.5μm(例えば、1.0μm)に調整するのが好ましい。
【0035】
[3] マイクロ波磁性体
本発明のマイクロ波磁性体は、上記多結晶磁性セラミックからなるグリーンシートに、Ag又はCuを含む導電体ペーストで電極パターンを形成してなる。図1(a) は本発明のマイクロ波磁性体(中心導体組立体)の一例の第一の主面側の外観を示し、図1(b) はこの中心導体組立体の第二の主面側の外観を示し、図2はこの中心導体組立体の内部構造を示す。
【0036】
中心導体組立体4は、相対向する第一及び第二の主面43a、43fと両主面を連結する側面を備えた矩形状のマイクロ波磁性体内に、中心導体44a〜44cを有する多結晶磁性セラミック層43b〜43eを積層したものである。中心導体組立体4は以下の方法により製造することができる。まず多結晶磁性セラミック粉末を有機バインダー、可塑剤及び有機溶剤とボールミルで混合し、粘度を調整した後、ドクターブレード法で40〜150μmの厚さのグリーンシートを作製する。各セラミックグリーンシートに、直径0.1〜0.4 mmのビアホール(図中、黒丸で表示)をレーザにより形成した後、中心導体となる導電体(例えばAg)ペーストを印刷する。印刷済みグリーンシートを重ねて、例えば80℃の温度及び12 MPaの圧力で熱圧着し、積層体とする。積層体を所定のサイズに切断した後、例えば920℃で8時間焼成する。このようにして、中心導体44a〜44cが互いに絶縁を保って等角度で交差し、第二の主面43fにグランド電極GNDと入出力電極In、Out及び負荷電極LoadをLGA(Land Grid Array)として備える中心導体組立体4を得る。
【0037】
[4] 非可逆回路素子
図3はこの中心導体組立体を具備する本発明の非可逆回路素子の内部構造の一例を示す。この非可逆回路素子は、中心導体組立体4と、中心導体組立体4に直流磁界を印加する永久磁石3と、中央孔部に中心導体組立体4を組み込むコンデンサ積層体5と、コンデンサ積層体5に搭載するチップ又は抵抗膜で形成した抵抗体90と、中心導体組立体4とコンデンサ積層体5を接続する電極を備えているとともに、実装基板との接続端子を備えた樹脂ベース6と、これらの部品を挟む磁性ヨークを兼ねた金属製上下ケース1,2とを具備する。
【0038】
コンデンサ積層体5の上面及び内部には、整合容量を形成するための入力容量電極C1、出力容量電極C2、ロード容量電極C3、及び終端抵抗90が配置されるグランド電極Gndが形成されている。またコンデンサ積層体5の裏面には樹脂ベース6の電極に接続するための入出力電極In、Out、負荷電極Load、及びグランド電極Gndが設けられている。
【0039】
樹脂ベース6は、例えば0.1 mmの厚さの銅板と射出成形により一体成形した液晶ポリマーからなる。樹脂ベース6の上面(コンデンサ積層体5との接続面)に、電極In、Out、Load、GNDを形成するように銅板が露出している。電極In、Out、Load、GNDは樹脂部分と同一平面上にあるように形成されている。
【0040】
永久磁石3は、420 mT以上の残留磁束密度Brを有し、その温度係数が−0.1%/℃〜−0.25%/℃であるフェライト磁石からなるのが好ましい。より好ましくは、日立金属株式会社製のLa-Co置換フェライト磁石YBM-9BEからなり、430〜450 mTの残留磁束密度を有し、その温度係数は−0.20%/℃〜−0.18%/℃である。永久磁石3は正方形状であるが、円板状、六角形状等でも良い。これは中心導体組立体4の形状についても同様である。
【0041】
中心導体組立体4をコンデンサ積層体5の中央孔部内に配置した後、樹脂ベース6の接続電極に接続し、中心導体組立体4の上に永久磁石3を配置し、これらの部品を上下ケース1,2で覆う。本発明の非可逆回路素子は、挿入損失が最小となる周波数の温度に応じた変動が小さく、優れた温度特性を有する。
【0042】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
いずれも純度99.0%以上の酸化イットリウム(Y2O3)粉、酸化ビスマス(Bi2O3)粉、炭酸カルシウム(CaCO3)粉、酸化ガドリニウム(Gd2O3)粉、酸化鉄(Fe2O3)粉、酸化インジウム(In2O3)粉、酸化アルミニウム(Al2O3)粉、酸化バナジウム(V2O5)粉、酸化銅(CuO)粉及び酸化ジルコニウム(ZrO2)粉を、表1に示す最終組成となるように配合し、スラリー濃度40質量%となるようにイオン交換水を加え、ボールミルで25〜45時間均一に湿式粉砕した後、乾燥した。得られた乾燥粉末を850℃で2時間仮焼した。得られた各仮焼粉にスラリー濃度が40質量部となるようにイオン交換水を加え、ボールミルで20〜30時間湿式粉砕した後乾燥した。得られた粉末の平均粒径は約1.0μmであった。
【0044】
得られた各組成物にバインダー水溶液を添加混錬することにより得た造粒粉を、2 ton/cm2の圧力でプレスし、直径14 mm×長さ7 mmの円柱状成形体を得た。これらを大気中で表2に示す焼成温度で5時間焼結した。得られた焼結体の組成(原子比)を表1に示す。焼成温度は焼結体の密度が焼成温度に対して実質的に変化を示さなくなった温度である。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
各焼結体を用いて誘電体円柱共振器を作製し、ハッキ・コールマン法により誘電損失tanδを測定した。また各焼結体試料の飽和磁化Msを振動型磁力計を用いて測定した。さらに各焼結体を厚さ0.15 mmの円板状に加工し、短絡同軸線路法により強磁性共鳴半値幅ΔHを測定した。各試料における異相はSEM(Scanning Electron Microscope)及びTEM(Electron Microscope)を用いて観察した。結果を表3に示す。「異相の有無」の欄において、「無」とは実質的にガーネット単相であることを示し、「有(Bi)」及び「有(Fe)」はそれぞれの元素に由来する異相が生成されたことを示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表1及び表3から、Yの一部をBiで置換した実施例の多結晶磁性セラミックは、Yサイトの原子比が化学量論組成より少なくても、強磁性共鳴半値幅ΔHの増加がほとんどなく、Biに由来する異相の生成が抑制されていることが分かる。図4は従来の多結晶磁性セラミック(試料2)に生じたBiの異相を示す元素マッピング(SEM写真)である。このように従来の多結晶磁性セラミックでは、Biの偏析(白色で示された部分)が見られるが、本発明の結晶磁性セラミックでは、Biはもとより他の元素の偏析もなく、異相の生成が抑制されている。
【0050】
表1〜表3に示す通り、化学量論的最終組成を有する試料1は異相を有さないが、Biが少ないために950℃未満の焼成温度では緻密化しなかった。化学量論的最終組成を有するとともにCu及びZrを含まず、Biが多い試料2は4πMs及びΔHが劣り、Biに由来する異相も生じていた。化学量論的最終組成を有するとともにCuを含まない試料3は950℃未満での焼成温度では緻密化せず、Biに由来する異相が生じていた。化学量論的最終組成を有するとともにZrを含まない試料4はtanδ及びΔHに劣り、Biに由来する異相が生じていた。化学量論的最終組成を有するとともにCu及びZrを含む試料14はΔHに劣り、Biに由来する異相が生じていた。このように、YサイトとFeサイトとのモル比が3:5であると、Bi由来の異相が生成し、ΔHに劣る多結晶磁性セラミックしか得られなかった。
【0051】
試料9はFeサイトの最終組成が本発明の範囲を超えて化学量論組成より大きいので、ΔHに劣り、Feに由来する異相が生じていた。
【0052】
試料21はYサイトの最終組成が本発明の範囲を超えて化学量論組成より大きいので、ΔHに劣り、Biに由来する異相が生じていた。なお、Yサイト又はFeサイトが化学量論組成より少ない場合にも、Biに由来する異相が生じることも確認した。
【0053】
いずれの実施例でも、860℃以上950℃未満の焼成温度で緻密化され、YサイトのBiによる異相の生成が抑制され、誘電損失tanδが10×10-4以下であり、強磁性共鳴半値幅ΔHが8000 A/m未満であった。また−20℃〜+60℃における飽和磁化4πMsの温度係数αmは−0.35%/℃〜−0.21%/℃であった。これにより、飽和磁化4πMsに関して永久磁石との温度特性差を補償することができる。
【符号の説明】
【0054】
1・・・上ケース
2・・・下ケース
3・・・永久磁石
4・・・中心導体組立体
5・・・コンデンサ積層体
43a・・・第一の主面
43b〜43e・・・多結晶磁性セラミック層
43f・・・第二の主面
44a〜44c・・・中心導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yの一部をBiで置換してなるY-Fe系ガーネットフェライトからなる多結晶磁性セラミックであって、下記一般式:
(Ya-bM1b)(Fe8-a-cM2c)O12(原子比)
(ただし、M1はBi及びCaであり、M2はIn,V,Cu及びZrであり、2.94≦a<3.0、1.00≦b≦1.70、及び0.365≦c≦0.95である。)で表される組成を有することを特徴とする多結晶磁性セラミック。
【請求項2】
請求項1に記載の多結晶磁性セラミックにおいて、M2としてさらにAlを含有することを特徴とする多結晶磁性セラミック。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多結晶磁性セラミックにおいて、下記一般式:
(Ya-x-y-zBixCayGdz)(Fe8-a-α-β-γ-δ-εInαAlβVγCuδZrε)O12(原子比)
(ただし、2.94≦a<3.0、0.50≦x≦0.80、0.50≦y≦0.90、0≦z≦0.40、0.10≦α≦0.40、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45、0.01≦δ≦0.05、及び0.005≦ε≦0.05である。)で表される組成を有することを特徴とする多結晶磁性セラミック。
【請求項4】
下記一般式:
(Ya-x-y-zBixCayGdz)(Fe8-a-α-β-γ-δ-εInαAlβVγCuδZrε)O12(原子比)
(ただし、2.94≦a<3.0、0.50≦x≦0.80、0.50≦y≦0.90、0≦z≦0.40、0.10≦α≦0.40、0≦β≦0.45、0.25≦γ≦0.45、0.01≦δ≦0.05、及び0.005≦ε≦0.05である。)で表される組成を有する多結晶磁性セラミック焼結体を製造する方法であって、Yサイトの各元素及びFeサイトの各元素(ただし、Cu及びZrを除く。)の酸化物を混合及び仮焼し、得られた仮焼粉にFe,Cu及びZrの酸化物を添加し、得られた混合物を成形した後、860℃以上950℃未満の温度で焼結することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の多結晶磁性セラミックと、Ag又はCuを含む導体ペーストとを一体焼結してなるマイクロ波磁性体であって、前記マイクロ波磁性体の内部及び/又は表面に前記導体ペーストで形成された電極パターンを備えたことを特徴とするマイクロ波磁性体。
【請求項6】
請求項5に記載のマイクロ波磁性体に形成された電極パターンを中心導体とし、前記中心導体に接続するコンデンサと、前記マイクロ波磁性体に直流磁界を与えるフェライト磁石とを備えたことを特徴とする非可逆回路素子。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−73937(P2011−73937A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228398(P2009−228398)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】