説明

多重通信装置の接続構造

【課題】電子制御ユニットの基板を変更することなく多重信号波形の歪み改善を図る。
【解決手段】多重通信で接続される3個以上の電子制御ユニット11〜16が車両に搭載され、2個の電子制御ユニット11、12は通信線19を構成する幹線17の両端末に接続されると共に、幹線17から分岐する支線18に他の電子制御ユニット13が接続され、電子制御ユニット13との接続位置側の支線18に多重信号波形の歪み発生防止用として、先端を開放した開放スタブ用電線20を中間接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重通信装置の接続構造に関し、詳しくは、ワイヤハーネスを伝送路として支線を介して多数の電子制御ユニットを接続する多重通信装置において、通信時に支線側に発生する信号波形の歪みを改善するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車では、IT技術の進歩による高機能化や環境対応等のために複数の電子制御ユニット(ECU)が連携して互いに制御する場合が増加してきている。このように複数の電子制御ユニットを接続する場合、ワイヤハーネスの電線を信号線として用い、幹線となる電線の両端に電子制御ユニットを接続すると共に該幹線の電線から分岐する支線端末にそれぞれ電子制御ユニットを接続している場合が多く、各電子制御ユニット間をツイストペア線等の信号線で接続して多重通信を行うことで電線本数の増加を抑制している(特開2002−368766号公報)。
【0003】
ところが、通信される情報量の増加と接続される電子制御ユニットの増加で、信号線上を送受される多重信号の波形が歪んでしまい通信エラーを生じる場合があり、特に支線上で信号波形に歪みが発生しやすい。
この信号歪みの解消のためには、通信速度を下げること、接続する電子制御ユニットの数を減らすこと、信号線の長さを短くすること等の手段が考えられる。しかし、通信速度を下げたり、電子制御ユニットの数を削減することは自動車の高機能化を維持する上で不可能であり、そのためにワイヤハーネスの回路配索が非常に難しくなってきている。
【0004】
一般的に、多重通信のインターフェース回路は仕様で規定されてしまうことが多く、電子制御ユニットの基板内に信号波形の改善手段を搭載することは困難である。また、電子制御ユニットの基板内で波形改善の対応が可能であったとしても、一旦、電子制御ユニットを作製した後に基板の設計変更を行うとすればいかにも無駄である。
【特許文献1】特開2002−368766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、電子制御ユニットの基板を変更することなく多重信号波形の歪み改善を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、多重通信で接続される3個以上の電子制御ユニットが車両に搭載され、そのうちの2個の電子制御ユニットは通信線を構成する幹線の両端末に接続されると共に、該幹線から分岐する支線に他の電子制御ユニットが接続され、該電子制御ユニットとの接続位置側の支線に多重信号波形の歪み発生防止用として、先端を開放した開放スタブ用電線が中間接続されていることを特徴とする多重通信装置の接続構造を提供している。
【0007】
前記構成とすると、開放スタブ用電線が通信線を構成する支線の中間に接続されて、該支線上のインピーダンスの整合が図られるので、信号反射に起因する信号波形の乱れを低減することができる。したがって、通信速度を下げたり、電子制御ユニット数を減らしたり、通信線の長さを短くしたりすることもなく、多重信号波形の歪み改善を図ることができる。
しかも、開放スタブ用電線は電子制御ユニットの基板に設けるのではなく、通信線に後付け接続するだけであるので、通信線側で波形改善が図れ、電子制御ユニット側に影響を及ぼさない。よって、全ての設計完了後に信号波形歪みにより受信不具合などが発生しても、必要な場所に開放スタブ用電線を後付け接続すればよいだけとなり、設計作業のフレキシビリティが向上する。
【0008】
前記幹線および支線はツイストペア電線からなり、該ツイストペア電線に中間接続する前記開放スタブ用電線もツイストペア電線からなると好ましい。
【0009】
前記開放スタブ用電線はインピーダンスを整合させる長さに設定していると好ましい。
前記構成とすると、信号反射が起きないようにインピーダンス整合を図る際に電線長さを調節するだけで足りるので、チューニング作業が簡単となる利点がある。
【0010】
あるいは、前記開放スタブ用電線には、インダクタンスやキャパシタンスを介設して電線長さによらずにインピーダンスを整合させても好ましい。
前記構成とすると、インダクタンスとキャパシタンスを調節するだけでインピーダンス整合を図ることができるので、開放スタブ用電線が長尺となるのを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、開放スタブ用電線によりインピーダンスの整合が図られるので、多重信号波形の歪み改善を図ることができる。その際、開放スタブ用電線は電子制御ユニットの基板に設けるのではなく、通信線に後付け接続するだけであるので、設計作業のフレキシビリティも向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は車両に搭載された多重通信システム10を示し、各種の電子制御ユニット(多重通信装置)11〜16が通信線19に接続されており、電子制御ユニット11、12は通信線19の幹線17の両端末にコネクタC1、C2を介して接続されていると共に、幹線17から分岐する支線18には他の電子制御ユニット13〜16がコネクタC3〜C6を介して接続されている。なお、通信線19の幹線17および支線18はツイストペア電線で構成されている。
【0013】
電子制御ユニット13への支線18の接続部分においてインピーダンスの不整合により信号反射が生じて信号波形の歪みがある場合に、電子制御ユニット13との接続位置側の支線18に、先端を開放した開放スタブ用電線20が中間接続されている。開放スタブ用電線20はツイストペア電線で構成されており、開放端を絶縁処理している。
開放スタブ用電線20は、図2(A)に示すように、一対の電線20の端部を通信線19の支線18を構成する一対の電線にそれぞれ半田H付けで接続している。
なお、図2(B)に示すように、変形例として開放スタブ用電線20’の端部を通信線19の支線18に巻き付けてスプライス部Sを形成するように接続してもよい。
また、専用の分岐コネクタを用いて電線を分岐させてもよい。
【0014】
開放スタブ用電線20の長さLは、図2(A)に示すように、電子制御ユニット13と支線18との間のインピーダンスが整合するような長さに設定している。この長さLはコンピュータシミュレーション等により別途算出している。
前記解放スタブ用電線20は、最終納品形態においては、開放スタブ用電線20は支線18に巻き込んでまとめてテープ巻きしており、搬送・配索時などにおいて邪魔にならないようにしている。
【0015】
以上の構成とすると、開放スタブ用電線20が通信線19の中間に接続されることで、インピーダンス整合が図られるので、信号反射に起因する信号波形の乱れを低減することができ、多重信号波形の歪み改善が図られる。しかも、開放スタブ用電線20は電子制御ユニット13に設けるのではなく、通信線19に後付け接続するだけであるので、波形改善のチューニング作業が電子制御ユニット13側に影響を及ぼさず、設計作業のフレキシビリティを向上させることができる。
【0016】
図3は第2実施形態を示す。
第1実施形態との相違点は、開放スタブ用電線30にインダクタンスやキャパシタンスを介設している点である。
【0017】
開放スタブ用電線30はストレートペア線で開放端が絶縁処理されている。開放スタブ用電線30の一対の電線端部は通信線19の支線18を構成する一対の電線にそれぞれ半田H付けで接続している。なお、第1実施形態と同様に、スプライス接続やコネクタ接続などにより互いを接続しても構わない。
開放スタブ用電線30には、インダクタンスとなるインダクタコイル31と、キャパシタンスとなるコンデンサ32を介設しており、これらの容量等を調節することで、電線長さによらずにインピーダンスを整合させている。
以上の構成とすると、インダクタンスとキャパシタンスを調節するだけでインピーダンス整合を図ることができるので、開放スタブ用電線30が長尺となるのを防止できる利点がある。なお、他の構成は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の多重通信装置の接続構造を示す全体図である。
【図2】(A)は要部拡大図、(B)は変形例の要部拡大図である。
【図3】第2実施形態を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0019】
11〜16 電子制御ユニット
17 幹線
18 支線
19 通信線
20、30 開放スタブ用電線
31 インダクタコイル
32 コンデンサ
C1〜C3 コネクタ
H 半田
S スプライス部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重通信で接続される3個以上の電子制御ユニットが車両に搭載され、そのうちの2個の電子制御ユニットは通信線を構成する幹線の両端末に接続されると共に、該幹線から分岐する支線に他の電子制御ユニットが接続され、該電子制御ユニットとの接続位置側の支線に多重信号波形の歪み発生防止用として、先端を開放した開放スタブ用電線が中間接続されていることを特徴とする多重通信装置の接続構造。
【請求項2】
前記幹線および支線はツイストペア電線からなり、該ツイストペア電線に中間接続する前記開放スタブ用電線もツイストペア電線からなる請求項1に記載の多重通信装置の接続構造。
【請求項3】
前記開放スタブ用電線はインピーダンスを整合させる長さに設定している請求項1または請求項2に記載の多重通信装置の接続構造。
【請求項4】
前記開放スタブ用電線には、インダクタンスやキャパシタンスを介設して電線長さによらずにインピーダンスを整合させている請求項1に記載の多重通信装置の接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−332973(P2006−332973A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−152557(P2005−152557)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】