説明

大梁架構

【課題】半導体製造工場などに利用される建物の大スパン化、多層階化を可能にし、床下に設備配管用スペース等として利用可能なスペースを確保し、さらに床の剛性を上げ振動性状も向上させた大梁架構を提供する。
【解決手段】所定間隔をおいて建て付けられた中柱1および外柱2と当該中柱1と外柱2間に架け渡された大梁3とから構成する。大梁3は第一構造体Aと第二構造体Bとから構成する。第一構造体Aは両端が柱1,2に接合された上弦材5と両端が斜材6を介して上弦材5と柱1,2との接合部に接合された下弦材7とから構成する。第二構造体Bは下弦材7と当該下弦材7の両端と上弦材5との間にそれぞれ設置された斜材8とから構成する。斜材6と斜材8は鉛直軸を軸に対称に設置する。また、斜材6と8は大梁3の端部から梁中央寄りの1/3L程度の範囲内に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大梁架構に関し、主として半導体製造工場などのような大スパン・多層階建物の建設に適用される。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造等、特に微細な加工が要求される製造工場の建物は、一般の建物とは異なり、特に製造ラインの床は振動レベルを微小に制御できる構造とする必要がある。
【0003】
また、半導体の製造を効率的に行なうには柱等のない広い作業空間とするのが望ましく、また床下には設備配管用スペース等として用いられるスペースを確保する必要がある。
【0004】
さらに、広い工場建設用地の確保が年々困難になってきている等の理由により、大スパン化・多層階化とする傾向にある。
【0005】
従来、このような建物には、例えば図3(a),(b),(c)に図示するような構造の大梁架構を用いることにより、大スパン化、多層階化が図られていた。
【0006】
図3(a)は、梁20の梁下に柱21を所定間隔おきに建て付けることにより床の振動を制御するようにしたものである。また、図3(b)は梁20に梁剛性の大きい平行弦トラス等のトラス梁を用いることにより床の振動を制御するようにしたものである。そして、図3(c)は、図3(b)に図示するようなトラス梁を梁20に用い、梁中央部分の斜材を無くすことにより床下に設備配管用スペース等として用いられるスペース22を確保したものである。
【0007】
【特許文献1】特開平4−93432号公報
【特許文献2】特開2000−328653号公報
【特許文献3】特開2000−328653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図3(a)に図示する大梁架構では、梁下の製造ラインに柱が林立するため、製造ラインの作業スペースが著しく制約されるという課題があった。また、図3(b)に図示する大梁架構では、トラス梁の斜材が障害になって床下に設備配管用のスペースを思うように確保できないという課題があった。そして、図3(c)に図示する大梁架構では、トラス梁の中央部分の斜材を無くしたことで床下に設備配管用のスペースは確保できるものの、梁中央部分の剛性が不足して床の振動性状が低下してしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、大スパン化と多層階化が可能で、また床下に設備配管用スペース等として利用可能なスペースを確保し、さらに床の剛性を上げ振動性状も向上させた大梁架構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の大梁架構は、所定間隔をおいて配置された柱と当該柱間に架け渡された大梁とからなり、前記大梁は両端が前記柱に接合された上弦材と両端が斜材を介して前記上弦材と柱との接合部に接合された下弦材とからなる第一構造体と前記下弦材と当該下弦材の両端と前記上弦材との間にそれぞれ前記斜材と対称に設置された斜材とからなる第二構造体とから構成され、前記斜材は前記大梁の端部に寄せてそれぞれ設置されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、構造力学的に二つの構造体の組み合わせによって大梁を構成することにより、大スパン化と多層階化を可能にし、また斜材を大梁の両端部に寄せて配置し、梁中央部分の斜材を無くすることにより、梁中央部分の床下に設備配管用スペース等として利用可能なスペースを構造的に無理なく確保し、さらに床の剛性を上げ振動性状も向上させたものである。
【0012】
第一構造体および第二構造体の各部材の構造は特に限定されないが、圧縮材として作用する上弦材と第二構造体の斜材は小断面で高い剛性を確保可能な鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)構造、コンクリート充填鋼管(CFT)構造または鉄骨コンクリート(SC)構造とし、引張り材として作用する下弦材と第一構造体の斜材は軽量な鉄骨構造とするのが最も合理的で経済的な構造といえる。
【0013】
なお、SC構造としては、例えばH形鋼の両側に当該形鋼の上下フランジとウェブとからなる凹溝部にコンクリートまたはモルタルを充填した構造のものでもよい。
【0014】
また、柱はSRC構造、CFT構造、SC構造、S構造、RC構造のいずれを採用してもよく、小屋組は軽量化が可能なS構造とするのが望ましい。また、斜材は大梁の両端部からそれぞれ梁中央側の1/3L程度の範囲内に設置することにより、構造力学的にも無理なく床下に必要なスペースを確保することができる。
【0015】
請求項2記載の大梁架構は、請求項1記載の大梁架構において、上弦材と下弦材との間に複数の束材が所定間隔おきに設置されていることを特徴とするものである。本発明は特に、上弦材と斜材のそれぞれに作用する荷重の相互伝達を図ったものであり、束材の間隔は、床下に設備用配管を設置する際の妨げにならない程度の間隔とするのがよい。
【0016】
請求項3記載の大梁架構は、請求項1または2記載の大梁架構において、下弦材の両端部と柱との間に繋ぎ材がそれぞれ設置されていることを特徴とするものである。当該繋ぎ材は主として床と束材の支持材として作用するものであり、その両端部はピン構造等、下弦材に比べ軽微な構造形式でよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、構造力学的に二つの構造体の組み合わせによって大梁が構成されていることにより大スパン化と多層階化が可能であり、また梁の両端部に寄せて斜材を設置し、梁中央の斜材を無くすることにより梁中央部分の床下に設備配管用スペース等として利用可能なスペースを確保することができる等の効果がある。さらに、床の剛性を上げ振動性状も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1と図2は、三階建て構造に構築された半導体製造工場の一例を示し、図において、符号1は工場の中央に建て付けられた中柱、2は中柱1の両側に当該中柱1から所定間隔をおいて建て付けられた外柱、3は中柱1と外柱2との間の各階に架け渡された大梁、そして符号4は小屋組である。
【0019】
大梁3は、特に構造力学的に図2(b)に図示するような第一構造体Aと、図2(c)に図示するような第二構造体Bとの組み合わせによって構成されている。
【0020】
第一構造体Aは両端が中柱1と外柱2に接合された上弦材5と両端が斜材6を介して上弦材5と柱1との接合部に接合された下弦材7とから構成されている。第二構造体Bは下弦材7と当該下弦材7の両端と前記上弦材5との間にそれぞれ斜材6と対称形に設置された斜材8とから構成されている。
【0021】
なお、ここでいう第一構造体Aと第二構造体Bは、大梁3を形成する構造力学的な構成概念であって、実際には第一構造体Aの上弦材5と第二構造体Bの上弦材5、および第一構造体Aの下弦材7と第二構造体Bの下弦材7は、それぞれ同一材によって構成されている。
【0022】
また、斜材6と斜材8は大梁3の端部から梁中央寄りの1/3L(L=梁スパン)程度の範囲内に設置され、その際、斜材6と斜材8が鉛直軸を対称軸に左右対称に設置されていることで、大梁3の両端部に構造的に有効な三角形トラスが構成されている。
【0023】
また、下弦材7の両端は水平繋ぎ材9を介して柱1,2に接合されている。さらに、上弦材5と下弦材7間には、複数の束材10が所定の間隔で設置されている。
【0024】
このような構成において、図2に図示するように、上弦材5と斜材8が圧縮材として作用し、下弦材7と斜材6が引張材として作用する。また、束材10は上弦材5と下弦材7のそれぞれに作用する荷重の相互伝達材として作用する。
【0025】
さらに、両端の繋ぎ材9は主として床と束材10の支持材として作用するものであり、したがって当該繋ぎ材9は両端をピン構造にする等、下弦材7に比べて軽微な構造でよい。
【0026】
これにより、大梁3の大スパン化と床の振動制御が可能になり、また床下に必要なスペースを容易に確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、主として半導体製造工場などのような大スパン・多層階建物の建設に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】半導体製造工場を示し、(a)はその全体を示す縦断面図、(b)は大梁架構の正面図である。
【図2】大梁の各部材に作用する応力を示し、(a)はその全体を示す正面図、(b)は第一構造体の正面図、(c)は第二構造体の正面図である。
【図3】大梁架構の従来例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 中柱
2 外柱
3 大梁
4 小屋組
5 上弦材
6 斜材
7 下弦材
8 斜材
9 水平繋ぎ材
10 束材
20 梁
21 柱
22 設備配管用スペース等として用いられるスペース
A 第一構造体
B 第二構造体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔をおいて配置された柱と当該柱間に架け渡された大梁とからなり、前記大梁は両端が前記柱に接合された上弦材と両端が斜材を介して前記上弦材と柱との接合部に接合された下弦材とからなる第一構造体と前記下弦材と当該下弦材の両端と前記上弦材との間にそれぞれ前記斜材と対称に設置された斜材とからなる第二構造体とから構成され、前記斜材は前記大梁の両端部に寄せてそれぞれ設置されてなることを特徴とする大梁架構。
【請求項2】
上弦材と下弦材との間に複数の束材が所定間隔おきに設置されていることを特徴とする請求項1記載の大梁架構。
【請求項3】
下弦材の端部と柱との間に繋ぎ材が設置されていることを特徴とする請求項1または2記載の大梁架構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−261102(P2008−261102A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102706(P2007−102706)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】