説明

大気圧イオン源

検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置は、大気圧チャンバを備え、この大気圧チャンバは、キャリアガスの吸気口と、前記チャンバの一端に設けられた第1電極と、他端に設けられキャリアガス中で放電を発生させることにより中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを有する。前記励起化学種と接触させて電子を発生させるために、グリッドが任意で設けられる。前記励起化学種またはこれから発生した電子を含むキャリアガスは、大気圧、略接地電位で検体に誘導され、検体イオンを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、準安定原子および分子による検体の大気イオン化に関する。
【背景技術】
【0002】
準安定原子および分子(M)は、寿命の長い励起状態の化学種である。準安定化学種は、コロナ放電またはグロー放電により生成される。励起状態の化学種を生成する他の方法としては、電子衝撃、光イオン化、および高エネルギー粒子と反応化学種とを制御によって相互作用させることなどが挙げられる。励起状態の化学種と基底状態の化学種とを衝突させることにより、基底状態の化学種がイオン化され、ペニングイオン化として知られるプロセスにより電子が放出される。例えば:
【0003】
+N−>N+M+e ・・・・・・式(1)
【0004】
特に、63Ni、241Am、Hなどの放射性物質の使用に関する法規面および安全面での問題から、イオン移動度分析計などの分析機器用の非放射性イオン源について研究がなされるようになった。(Turner他の米国特許第6,225,623号「分析機器用コロナ放電イオン源」およびDoringの米国特許出願第2002/0185593号公報「非放射性イオン源を用いたイオン移動度分析計」を参照のこと)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大気圧イオン化(API: Atmospheric Pressure Ionization)質量分析計、イオン移動度分析計(IMS: Ion Mobility Spectrometer)、または化学剤分析器(CAM: Chemical Agent Monitor)に用いられる特定のコロナ放電イオン源では、検体(溶剤、空気、および他の混入物を含む)が放電針を含む領域に投入される。このことが様々な問題を引き起こす。
【0006】
1.空気中に酸素や他の混入物が存在すると、電極が劣化する。
【0007】
2.混入物が存在する中では放電の維持が困難な場合もあり、高電位または高パルス電位が必要となる。
【0008】
3.空気中でのコロナ放電は、No、No、および関連するクラスタイオンなどの化学種の生成を引き起こす。これらのイオンは検体イオンの感度を損失させ(C.A.Hill、C.L.P.Thomas著、「分析器」、2003年、128、55〜60頁)、ニトロ爆発物などのニトロ官能基を含む検体から生成されるNoやNoの検出と干渉する場合があり、クロライドイオンの場合はクロレート推進剤やロケット推進剤の検出との干渉を、リン酸の場合は化学兵器関連の化合物の検出との干渉を引き起こし得る。
【0009】
4.空気と検体とを放電領域に導入するので、イオン生成作用を制御するための化学的背景による性質を検査するのが困難となる。
【0010】
Taylor他の米国特許第5,684,300号「コロナ放電イオン源」およびTurner他の米国特許第6,225,623 B1号「分析機器用コロナ放電イオン源」は、コロナ放電イオン源について記載するが、放電が発生する領域と検体が導入される領域とを離隔させる方法について記載しない。さらに、Zhao他の「大気圧直流グロー放電イオン化源を用いた液体サンプル注入」、Anal.Chem 64、1426〜1433頁、1992年を参照のこと。
【0011】
Bertrand他の米国特許第6,124,675号の「準安定原子衝撃源」は、質量分析計において、減圧下で稼働しイオンを生成する準安定原子源について開示する。これに記載される装置は、実質的な減圧状態を必要とし、大気圧イオン化質量分析計またはイオン移動度分析計用に準安定原子を使用する手段を開示しない。
【0012】
Tsuchiya他の米国特許第4,546,253号「サンプルイオン生成用装置」は、コロナ放電より下流のエミッタニードルの先端に導入されたサンプルからイオンを生成するための準安定原子の使用方法について記載する。この技術では、強電界エミッタニードルに接触または近接させてサンプルを置く必要がある。さらに、Otsuka他の「液体クロマトログラフ・液体イオン化質量分析計」、Analytical Sciences,第4巻、1988年10月を参照のこと。
本発明では、コロナ放電源の下流に配置される高電位のエミッタニードルの使用が回避される。さらに、本発明では、検体が付着した表面からの検体の移動に制限されることなく、中性の検体分子をサンプリングする手段が提供される。その表面をふき取ったり溶剤で洗い流したりすることなく、例えば、通貨からコカインを、および軍事関連のものの表面から化学・生物兵器を、その場で直接サンプリングできる。サンプルを移動させる度に、検体分子が(トレースレベル濃度で30〜100%)失われる。従って、常に表面からの直接的なサンプリングが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
簡潔に述べると、本発明の大気圧イオン化源またはインターフェースは、キャリアガスの吸気口と、第1電極と、前記キャリアガス中でコロナ放電またはグロー放電を生じさせて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備えた第1大気圧チャンバと、前記第1チャンバに連通するポートを有する第2大気圧チャンバと、前記第2チャンバと連通するポートを有する任意の第3大気圧チャンバと、を具備し、前記第2チャンバと第3チャンバとの間の前記ポートの周りにはレンズ電極が設けられ、前記第3チャンバはキャリアガス用の排気ポートと前記排気ポートに設けられた任意の電極とを有することを特徴とする。放電は、第1チャンバに限られる。前記第1電極と前記各ポートとは、略直線上に配置されていることが好ましい。選択された電位を維持するために、各電極には電源が設けられている。第2チャンバまたは第3チャンバの排気ポートに導電性のグリッドを設けてもよい。第3チャンバは、第2チャンバ内のソケットに抜き差し可能に挿入された細長いガラス管で構成されるとなお良い。
【0014】
前記大気圧源(訳注:大気圧イオン化源の誤記と推定)またはインターフェースは、正イオンモードまたは負イオンモードで稼働する分析器または他の測定器で用いられる、正イオンまたは負イオンの生成に使用することができる。通常、正イオンおよび負イオンは、いずれも検体を励起状態の化学種に接触させたときに生成される。検体には求電子性のものがあり、電子を捕獲して、これら検体の検出および特定を可能とする負に帯電した検体イオンを生成する傾向がある。一方で、検体には、プロトンや正イオンに対してより強い親和力を有するものがあり、例えば、プロトン[M+H]を捕獲することでイオン化される。これにより、正イオンモードまたは負イオンモードの測定器を選定することができる。
【0015】
第1電極および対電極の極性を切り換えることなく、レンズ電極および排気ポートに配置される電極の極性が、電源により切り換えられることが好ましい。これにより、イオン化源において、正イオンモードおよび負イオンモード間の迅速な選択が可能となる。第1電極と対電極とは、放電を生じさせるのに十分な電位で維持されなくてはならない。対電極は、イオン化された化学種をろ過する機能も果たす。放電の形成に必要な第1電極と対電極との間の電位差は、キャリアガスと第1電極の形状によって決まり、通常は数百ボルト(約400ボルトまたは1200ボルト)(訳注:400〜1200ボルトの誤記と推定)である。ただし、平面プラズマテレビなどで使用される小さい電子構造では、数ボルトで十分である。第1電極は、例えば、針電極であり、正電位か負電位のいずれかを有していればよい。対電極は、通常は接地されているか、または針電極とは反対の極性を有する。これは、正イオンモードまたは負イオンモードのいずれかで稼働している場合である。正イオンモードでは、レンズ電極はキャリアガス中の負イオンをろ過するために、接地電位およびプラス数百ボルト間に設定されていればよい。負イオンモードでは、レンズ電極はキャリアガス中の正イオンをろ過するために、接地電位およびマイナス数百ボルト間に設定されていればよい。
【0016】
本発明の第1実施形態において、前述の装置は、第3チャンバの排気ポートが、質量分析計、イオン移動度分光計または化学剤分析器のような、正イオンモードの荷電粒子検出器のエントランスに近接するよう配置される。電極は、正イオンモードに置かれる。励起状態の化学種を含んで第3チャンバの排気ポートから出てくるガスは、正イオンモードで稼働する検出器のエントランスの近くに置かれた検体を通るかまたはこの検体へ向けられる。キャリアガス中の準安定化学種は、検体と反応し、分析用の正イオンを生成する。検体分子は、イオン分子反応を経て[M+H]のような化学種を生成する。検体の形態としては、例えば、開放型のバイアルから出る蒸気、表面上の固体、吸引された液体などが挙げられる。
【0017】
本発明の第2実施形態において、前述の装置は第3チャンバの排気ポートが荷電粒子検出器のエントランスに近接するよう配置される。電極は、負イオンモードに置かれる。励起状態の化学種を含んで第3チャンバの排気ポートから出てくるガスは、負イオンモードで稼働する検出器のエントランスの近くに置かれた検体を通るかまたはこの検体へ向けられる。キャリアガス中の準安定化学種は、検体と反応し、分析用の負イオンを生成する。検体の形態としては、例えば、開放型のバイアルから出る蒸気、表面上の固体、吸引された物質などが挙げられる。
【0018】
本発明の第3実施形態において、前述の装置は、第3チャンバの排気ポートが荷電粒子検出器のエントランスに近接するように、「スニファ」モードで使用される。排気ポートに設けられた電極は、グリッドを備えていてもよく、接地電位、負電位、または直流電圧によりオフセットされた交流電位で維持され、反応化学種の乖離を誘発し、準安定化学種がグリッドと衝突する際の電子の供給源となる。得られた電子は、ガス分子との衝突により急冷(減速)され熱エネルギーとなる。電極は、負イオンモードに置かれる。電子を含んで第3チャンバの排気ポートから出てくるガスは、強電界ではなく、負イオンモードで稼働する質量分析計やイオン移動度分光計のような、荷電粒子検出器のエントランスの近くに置かれた大気圧の検体を通るかまたはこの検体へ向けられる。キャリアガス中の電子は検体により捕獲され、ガス衝突によって冷却される負イオンを生成する。検体の形態としては、例えば、開放型のバイアルから出る蒸気、表面上の固体、静止した液体または吸引された液体などが挙げられる。
【0019】
第4実施形態は、グリッド電極が正電位に維持され、排気ポートから出てくるガスが検体と反応して正イオンを生成し、正イオンモードで分析されること以外は、「スニファ」モードの第3実施形態と同様である。
【0020】
本発明の第5実施形態において、大気圧イオン化源またはインターフェースは、キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた電極と、前記キャリアガス中でコロナ放電またはグロー放電を発生させて準安定化学種、イオン、電子、熱原子および分子、基を生成させる対電極とを有する第1大気圧チャンバと;前記第1チャンバに接続されるポートと、冷却または反応ガス用の任意の吸気口および任意の排気口とを有し、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;前記第2チャンバに接続するポートと、検体ガス用の吸気口と、準安定化学種と検体ガスとの相互作用によるイオン化生成物用の排気ポートとを有し、前記第2チャンバに隣接する第3大気圧チャンバと、を備え、前記電極と各ポートとが略直線上に配置される。
【0021】
本発明の第6実施形態において、大気圧イオン化源またはインターフェースは、キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた電極と、前記キャリアガス中でコロナ放電またはグロー放電を発生させて準安定化学種を生成させる対電極とを有する第1チャンバと、電子および/または準安定化学種用の排気ポートを有し、前記第1チャンバに隣接する第2チャンバと、を備え、前記電極と前記ポートとが略直線上に配置される。
【0022】
本明細書および付随する請求項において、大気圧とは周囲圧力が約400〜1400トルの圧力をいう。これには、気圧が保たれた航空機や潜水中の潜水艦も含まれる。実験用としては、周囲圧力は700〜800トルの範囲内に収まる。
【0023】
検体の気化または表面からの気体相への検体の脱着を助長するために、キャリアガスは、インターフェースに導入される前もしくはインターフェースに導入されている間に加熱されてもよい。ガス流の中に含まれた電子は、ガス圧を変更することにより運ばれ、加速されるため、電子エネルギーをイオン化するスピードを制御するために、ガス圧を調節する調節可能なレギュレータを備えるのが好ましい。エネルギー分解スペクトルは、このようにして得られる。
【0024】
さらなる特徴および他の目的や効果は、図面を参照した以下の詳細な説明により明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1には、本発明の一般的な一実施形態が概略的に示されている。この装置は、例えば針電極である電極Nを備えており、当該電極には、キャリアガスがガス吸気口G1から送入され開閉式のガス排気口O1から排出される第1大気圧チャンバC1において、電位がかけられる。電極Nとしては、点電極、線電極、平面電極、湾曲電極が使用できる。点電極の例としては針電極が、線電極の例としてはトリムブレードが挙げられる。実際には、第1大気圧チャンバ内に同一の極性を有する複数の針電極や他の電極を設けても良く、特に化学剤分析器において有用な構成となる。複数の電極(N)が使用された場合は、その数に対応し検知感度の向上が見られる。対電極E0は、ガスおよび荷電粒子が通過できる孔を備えている。電極Nと対電極E0との間は、コロナ放電またはグロー放電を発生させる電位(例えば接地電位)に設定される。電極は、負電位を発生させる陰極であってもよく、または正電位を発生させる陽極であってもよい。放電中には、正イオン、電子、および準安定励起原子が生成される。追加電極E1は、開閉可能なガス吸気口G2および開閉可能なガス排気口O2を有する、任意の第2チャンバC2の出口付近に配置される。電極E1は、出口に最終電極E2が配置される第3チャンバC3への入口としての機能も果たす。
【0026】
本実施形態において、キャリアガスは、ガスシリンダからチャンバC1内に正圧で送入される。これにより、準安定励起原子がチャンバC2およびチャンバC3に流入する。本実施形態において、各チャンバは約1立方センチメートルの容積を有している。各チャンバ間のオリフィスの直径は約3mmであり、オリフィス内の流量はおよそ数ミリ/分である。
【0027】
出願人により使用されたキャリアガスは、ヘリウムと窒素である。P−10ガス(アルゴン90%+メタン10%)およびHe/Neの混合物がキャリアガスとなりうる。また、アルゴンおよびクリプトンも検討中である。実際、検体よりも高い状態にある準安定状態のガスまたはガスの混合物がキャリアガスとなりうる。
【0028】
コロナ放電またはグロー放電は、チャンバC1内で発生する。チャンバC2は、チャンバC1およびチャンバC3間で任意の緩衝領域を形成し、別途冷却ガスや反応ガスを送入させることができる。冷却ガスは、例えば、準安定原子によりイオン化され正イオンおよび電子を生成するガスを含む。この電子は、さらなる衝突により熱中性子化される。冷却ガスとしては、二酸化炭素、メタン、および空気が例示される。反応ガスは、イオン−分子反応によりイオンピークを顕著化させるものである。一般的には、アンモニア(アンモニウムイオンを正イオンに付着しやすくするため)または塩化物イオンを生成するガス(負イオンに対しては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素)などの少量の反応ガスを冷却ガスに添加できる。塩化物イオンの添加は、ポリニトロ爆発物の検出において数オーダー単位の劇的な向上を示した。検体はチャンバC3に導入され、検体のイオンは電極E2のポートを通って抽出され、質量分析計の大気圧インターフェースまたはイオン移動度分光計のドリフト領域に導入される。この装置またはそのいずれかの部分は、蒸気圧の低い化合物の分析を容易にするために、またサンプルの損失を減少させるために加熱されてもよい。
【0029】
図2は、大気圧イオン源の稼働比較例としての具体的な構成を示している。この構成においてキャリアガス(例えば窒素またはヘリウム)は第1チャンバC1に流入し、中間チャンバC2を通り、電極E2のポートを通って最終チャンバC3から出る。全てのガス排気口O1,O2,O3は閉じられ、かつ吸気口G3は隔壁で封止されており、気密性のあるシリンジでの検体蒸気の注入を可能にしている。イオンおよび準安定ガス分子は針電極Nから電極E0,E1,E2のポートを通る軸に沿って流れる。
【0030】
本発明の実施に際し出願人が使用したキャリアガスは、ヘリウムと窒素である。いずれも高い第1電子イオン化電位を有し、室温かつ室内圧力では他の要素や化合物と反応しない。アルゴン、クリプトン、クセノンなどの他の希ガスは、このような理由により適切なキャリアガスとなる。
【0031】
本発明において、放電は、コロナ放電またはグロー放電のいずれかである。放電においては、電子がキャリアガスの原子および分子に向け加速されて、さらなる電子の電離および加速をカスケード式に生じさせることが知られている。電子の電離および正イオンの生成に加え、衝突によりエネルギーが原子および分子に移動して、準安定の励起状態の化学種が作られる。グロー放電は、ガス中にスパークを発生させない発光放電である。コロナとは、高電圧の導体の表面に隣接する微光である。一般的に、グロー放電は開始時に高電位を必要とするが、「絶縁破壊」後に維持するには低電圧でよい。針電極用の電源の内部抵抗および他の要因により、放電の電流は制限される。スパッタリングやアーク放電を引き起こす高電流は、本発明には適さないであろう。
【0032】
図2において概略的に示されている装置は、JEOL AccuTOFTM 飛行時間型質量分析計の大気圧インターフェースのエントランスコーン(「オリフィス」)に配置された。このオリフィスは、接地電位で稼働される。窒素ガスが、吸気口G1から第1チャンバC1に導入され、電極E2に設けられた排気ポートから流出される。針電極Nはガス放電を開始するのに十分な値に設定され(一般的に900〜1500ボルト)、電極E0,E1,E2は接地電位に設定される。図9のスペクトルは、キャリアガス中のバックグラウンドイオンを表す。このイオンは、主にチャンバC1の放電領域内の不純物から生成される。これらの元素組成は、表1に示すように、公称質量測定により特定できる。
【0033】
【表1】

【0034】
本発明の効果は、図10および図11に示される。図10は、吸気口G1を流れる窒素流に3ccの室内空気を注入した結果を示す。NOおよびNOの高い存在量に注目されたい。反対に、G3を通して3ccの室内空気をチャンバC3に注入した場合、生成される主な化学種は、図11に示すように、O、HCO、CO、HO、およびHCOである。この場合、NO、またはNO、または関連するクラスタイオンの顕著な生成は見られない。
【0035】
求電子性の検体が吸気口G3に導入された場合には、特有のイオンが観察される。これらのイオンは、図12に示されるジエチルメチルホスホノチオラート[M−C]のように、検体の直接イオン化および分裂により生成されるか、図13に示されるヘキサフルオロベンゼンのようにチャンバC3内で検体が他の化学種と反応することにより生成される。この図は、 [M+N]、[M+0]、[M+N0]のような付加イオンを示す。(ドーピングまたは選択された検体キャリアガスや溶液を使用して)チャンバC3内の中性環境を制御することにより、イオン生成プロセスを管理することができる。
【0036】
負イオンモードでは、電極E1またはE2のいずれかをより高い正電位に上げれば、図13に示されるバックグラウンドイオンを質量スペクトルから除去することができる(負イオンが捕獲された空気のスペクトルを示す図14を参照)。しかし、検体を吸気口G3に注入してもなお、準安定原子が依然としてチャンバC3内に存在するため、大きな検体の信号が生成される。
【0037】
式(1)に示されるように、準安定原子はペニングイオン化により電子を生成し、生成された電子は、大気圧において数ナノ秒間にガス分子との衝突により急冷されて熱エネルギーとなる。これらの電子は求電子性の検体により捕獲され、検体イオンが生成される。この検体イオンは、質量スペクトルを作成するために、チャンバC3内の化学種とのさらなる反応を経ることができる。検体はポート(訳注:吸気口の誤記と推定)G3を通してチャンバC3に導入する必要はない。例えば、ドル札、農作物の葉、人間の指先、コンクリート、アスファルト、航空会社のチケットなどの検体の表面上にガス流を向けるだけで、離れた場所から検体をサンプリングすることができる。
【0038】
イオン源が、質量分析計のインターフェースのオリフィスよりもさらに負電位にバイアスされている場合、負イオンはオリフィスに付着し、その信号強度は10倍以上大きくなる。
【0039】
本発明の優れた選択性は、ニトロメタンの検出により説明される。先行技術によるイオン源のコロナ放電領域に空気を注入した場合、大量のNO、NO、および関連するクラスタイオンが生成される。このことは図10に示されており、ニトロメタンまたはニトロ爆発物のようなニトロ化合物から生成されるNOおよびNOの検出が望まれる場合、この結果は望ましくない。しかし、本発明のチャンバC3に空気を注入すると、NOおよびNOが顕著には観察されないが(図15)、吸気口G3を通してニトロベンゼンを注入した場合、NOおよびNOが主要な化学種(図16)となる。
【0040】
正イオンは、質量分析計の極性を切り換えることで観察できる。ニトロメタン(図17)およびニトロベンゼン(図18)の正イオン質量スペクトルは、分析において最も有用な[M+H]イオンを含む特有のイオンを示す。正電位の場合と同様に、負電位の電極Nでも準安定原子が生成されるため、針電極Nおよび対電極E0の電位を変更する必要がない。従って、イオン源は、消光後のガス放電を再開させる時間を必要とする高電圧切り換えをすることなく、正イオンモードおよび負イオンモード間の切り換えを素早く行うことができる。正イオンモードでは、電極E2の電位がオリフィスの電位よりも正電位になるように電極E1およびE2をバイアスすることが望ましく、これによりオリフィスにおけるイオン電流が増加する。
【0041】
他モードでの稼働は可能である。チャンバC1内の放電により生成された電子は、チャンバC2に導入され、冷却されて、チャンバC3内の検体分子による電子捕獲に要する熱エネルギーとなる。関連する実験として、準大気圧で稼働し従来の高真空質量分析計イオン源に接続された準安定原子イオン源についての報告が、Leymarieおよびその同僚らによりなされた(N.Leymarie、J.−C.Tabet、M.Bertrandにより、2000年米国質量分析学会の年次会議にて発表)。しかし、この報告では減圧源が必要であり、API質量分析計またはイオン移動度質量分析計と組合せるために、大気圧下でイオン源を使用することを説明するものではなかった。本発明は、大気圧の冷却チャンバC2の優れた電子冷却効率を利用する。ある実施において、準安定原子によりイオン化されるガス、例えばCO2は、放出された電子がさらに冷却されるチャンバC2に導入される。
【0042】
図3および図4は、準安定化学種41から電子を生成するために銅メッシュ板40が使用されている大気圧インターフェースを、概略的に示している。準安定原子およびリュードベリ原子は、導電性メッシュから電子を開放することが知られている。メッシュは、質量分析計のインターフェース42へのオリフィスに対して負となる電位で維持することができる。この負電位は電子をグリッドやメッシュから跳ね返し、これによって電子が検体をイオン化する。この場合、検体はチャンバC3には導入されず、インターフェースと質量分析計との間の開放スペースにおいて、イオン化により「スニファ」モードで分析される。このスペースは接地電位に近いか、または少なくとも強電界ではない。このセットアップは特に負イオン質量分析において有用であるが、正イオン質量分析においても有用である。メッシュもまた電極E2に対して正にバイアスすることができ、例えばポジトロンやプロトンなどの正に帯電された化学種に集中させることができる。
【0043】
「スニファ」モードでは、常に空気が存在している。図19に示されるスペクトルは、負イオンモードにおける空気のバックグラウンドスペクトルを表示する。エチルメチルホスホネートおよびジエチルメチルホスホネートのスペクトル(図20および図21)は、大気圧インターフェースからの排気ポートおよび質量分析計への吸気ポートの近くのスペースに、検体の開放型バイアルを配置することにより得られた。同様にして、ジエチルメチルホスホネートの正イオンモードスペクトル(図22に示す)も得られた。
【0044】
TNTの負イオンスペクトルは、図23に示される。さらなる研究において、700ナノグラムのTNTを溶解して航空搭乗券に塗布し、1週間乾燥させた。搭乗券は、負電位グリッドを有する「スニファ」モードの大気圧インターフェースの前に置かれた。質量スペクトル(図24B)およびIMSスペクトル(図24A)が観察された。
【0045】
ここで図5を参照すると、(図3に概略的に示す)本発明に係る大気圧イオン装置の物理的な実施形態においては、テフロン(訳注:登録商標)タイプのプラスティック(耐温度性に優れる)、セラミック材料、またはその他の非導電性材料から構成される管状の非導電性の筐体10を備えている。この筐体の一端からは、使い捨てのガラス管の挿入物11が延びており、ガラス管の挿入物11は、メッシュ電極またはグリッド電極14を定位置に保持するための非導電性端片13を備えている。メッシュ電極(訳注:グリッド電極の誤記と推定)14は、絶縁されたワイヤ15により筐体上のマイクロジャック17に接続される。筐体10の他端側は、キャリアガスの吸気口となっており、フレキシブルチューブスライドを保持するための波形表面のコネクタ18を備える。マイクロジャック21,22,23,24は、電源からの導線を筐体10内の各種電極に接続するため、筐体にネジ止めされている。
【0046】
ここで図6を参照すると、筐体の内部は第1チャンバと第2チャンバとに区画されている。各々の軸方向端部では、中空プラグが筐体に固定されている。吸気側端部において、プラグ26には吸気コネクタ18を受けるねじ山が形成されている。排気側端部には、バイトンのOリング38を受ける環状溝を内側に有するプラグ27が設けられ、このOリング38がガラス管の挿入物11の外面に対するシールを行う。非導電性スペーサ30は、マイクロジャック21に接続された針電極31を保持し、コロナ放電またはグロー放電が発生させられる第1チャンバを規定する。導電性スペーサかつ電極バッフル32は、針(訳注:針電極の誤記と推定)を支持する非導電性スペーサに隣接して筐体内部に配置される。導電性スペーサ32は、マイクロジャック23に接続される。非導電性スペーサ33は、導電性スペーサ32に隣接して筐体の内部に配置され、第2チャンバを規定する。別の導電性スペーサかつ電極バッフル34は、非導電性スペーサ33に隣接して配置され、第2チャンバの軸方向排気口を規定する。導電性スペーサ34は、ガラス管の挿入物11に当接する。この導電性スペーサは、マイクロジャック22に接続される。マイクロジャック24は、マイクロジャック17が接続される筐体の吸気側端部まで軸方向に伸びる電線用導管と連通する。
【0047】
図7には、非導電性端片13を有するガラス管の端部が、より詳細に示されている。非導電性端片13は、高電圧のグリッドと直接接触しずらくなるようグリッドと離隔している。この端片の孔から励起状態のガスが放出され、検体をイオン化する。銅ワッシャ39(図7参照)はガラス管の端部に当接し、リードワイヤ15にはんだ付けされる。グリッド電極14は、ワッシャに対して保持されている。中空のガラス管11およびグリッド電極14により、第3チャンバが規定される。
【0048】
図8には、大気圧イオン源用の電源の一例が概略的に示されている。交流電流が、スイッチSおよびヒューズFを通り、スイッチ電源SPSに流される。15ボルト直流出力は、フィルタコンデンサCを通り、電流レギュレータCRに流される。調整された電流は、フィルタコンデンサCを通り、高電圧直流コンバータDC−HVDC(訳注:DC−HVDCの誤記と推定)に流される。このデバイスの高電圧は、限流抵抗器Rを通り、コロナ放電またはグロー放電を発生させる電極に流される。15ボルト出力は、さらに複数の汎用大電流正電圧レギュレータVRに流される。電圧レギュレータの出力は、フィルタコンデンサCを通り、高電圧直流コンバータDC−HVDVCに流される。このコンバータの出力は電位差計Rに流され、レンズ電極の電位の調整を可能とする。電源設計についての当業者は、負出力電位の回路をどのように構成するかを理解するであろう。
【0049】
ここで説明された大気圧イオン源は、薬剤、爆発物、化学兵器、有害工業製品、およびその他同種類のものなどの、対象となる検体の検出および特定に用いられる質量分析計やイオン移動度分析計へイオンを導入する際に有用である。この大気圧イオン源は非放射性であり、ヘッドスペースサンプリングにおける迅速なガスおよび蒸気のサンプリングを提供する。また、この大気圧イオン源は、表面上の化学物質の迅速で直接的なサンプリングを可能とする。本特徴により、ここで説明されたイオン源が、IMS検出器の放射性源に対する有用な代替物となる。
【0050】
複数の上記イオン源または装置を同時に使用することは有用である。例えば、出願人は2つのイオン源を同時に用いてイオンを質量分析計に供給する実験を行った。ある場合において、2つのイオン源により正イオンモードでアセトンを分析した。両イオン源を使用したイオン電流は、いずれかのイオン源を使用した個々のイオン電流のほぼ合計値であった。別の実験では、負イオンモードにて酸素イオンが検出された。両イオン源を使用したイオン電流は、いずれかのイオン源を使用した個々にイオン電流のほぼ合計値であった。
【0051】
ここで使用される「大気圧イオン化源」は真空ポンプを必要としないものである。むろん、分析器(質量分析計)は真空ポンプを必要としてもよいが、イオンは大気圧に近い気圧で生成されるものである。
【0052】
特許法で要求されるとおり、詳細かつ特定的に我々の発明を説明したが、特許証により保護を望む範囲は、請求項に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係り直線上に配置されたチャンバC1,C2,C3を含む大気圧源を示す概略図。
【図2】質量分析計に関連付けられた前記大気圧源を示す概略図。
【図3】3つのチャンバとその下流の準安定化学種を電子に変換するためのグリッドとを含む大気圧源または大気圧装置を示す概略図。
【図4】2つのみのチャンバを有する簡素化した大気圧装置を示す概略図。
【図5】本発明に係る大気圧インターフェースまたは大気圧装置を示す縮尺2:1の斜視図。
【図6】図5の切り欠き斜視図。
【図7】図6の斜視図を詳細に表した図。
【図8】本発明に係る大気圧装置または大気圧源用の電源の回路図。
【図9】図2におけるチャンバC1の放電領域に導入された窒素キャリアガスの質量スペクトル。
【図10】図2におけるチャンバC1内の窒素キャリアガス流に室内空気が導入された際の質量スペクトル。
【図11】図2におけるチャンバC3に室内空気が導入された際の質量スペクトル。
【図12】チャンバC3内に導入されたジエチルメチルホスホノチオラートの質量スペクトルである。
【図13】チャンバC3内に導入されたヘキサフルオロベンゼンの質量スペクトル。
【図14】図9と同様にバックグラウンドイオンが排除された質量スペクトル。
【図15】空気がチャンバC3内に導入された際の質量スペクトル。
【図16】ニトロベンゼンがチャンバC3内に導入された際の質量スペクトル。
【図17】ニトロメタンの正イオン質量スペクトル。
【図18】ニトロベンゼンの正イオン質量スペクトル。
【図19】図3で概略的に示されるインターフェースを用いた空気の質量スペクトル。
【図20】図3で概略的に示されるインターフェースを用いたエチルメチルホスホネートの質量スペクトル。
【図21】図3で概略的に示されるインターフェースを用いたジエチルメチルホスホネート(DEMP)の質量スペクトル。
【図22】図3で概略的に示されるインターフェースを用いたDEMP(正イオン)の質量スペクトル。
【図23】図3で概略的に示されるインターフェースを用いたTNT(負イオン)の質量スペクトル。
【図24A】航空搭乗券に付着したTNTの質量スペクトル。基準線からの正変動は、源周辺に搭乗券を近づけた際に発生する。
【図24B】図24Aと同一の搭乗券からの質量スペクトル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって
キャリアガスの吸気口と、一端に設けられた第1電極と、他端に設けられ前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続されるポートと、他端に設けられた電極と、前記キャリアガスの排気ポートとを備え、前記各ポートは流れを制限するような寸法に設定され、前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置された、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
大気圧および略接地電位下で前記排気ポートから流出し励起化学種を含有するガスを検体に接触させるための手段と、を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項2】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた第1電極と、前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続されるポートと、他端に設けられた電極とを備え、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
前記第2チャンバに接続されるポートと、前記キャリアガスの排気ポートとを備え、前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置された、前記第2チャンバに隣接する第3大気圧チャンバと;
大気圧および略接地電位で排気ポートから流出し励起化学種を含有するガスを検体に接触させるための手段と、を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項3】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口と、一端に設けられた第1電極と、他端に設けられ前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続されるポートと、他端に設けられた電極と、前記キャリアガスの排気ポートとを備え、前記各ポートは流れを制限するような寸法に設定された、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
励起化学種と接触して荷電粒子を放出するために、前記排気ポートに設けられた接地または帯電グリッド電極と、を具備し、
前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置される
ことを特徴とするもの。
【請求項4】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口と、一端に設けられた第1電極と、他端に設けられキャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続されるポートと、他端に設けられた電極と、前記キャリアガスの排気ポートとを備え、前記各ポートは流れを制限するような寸法に設定された、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
励起化学種と接触して電子を放出するために、前記排気ポートに設けられた接地または負帯電グリッド電極と、を具備し、
前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置される
ことを特徴とするもの。
【請求項5】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた第1電極と、キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続されるポートと、他端に設けられた電極とを備え、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
前記第2チャンバに接続されるポートと、前記キャリアガスの排気ポートとを備え、前記第2チャンバに隣接する第3大気圧チャンバと;
励起化学種と接触して電子を放出するために、前記排気ポートに設けられた接地または負帯電グリッド電極と、を具備し、
前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置される
ことを特徴とするもの。
【請求項6】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口および排気口と、内部に設けられた第1電極と、キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
一端に設けられ前記第1チャンバに接続される流れ制限ポートと、他端に設けられた電極と、反応ガスの任意冷却用の吸気口および排気口とを備え、前記第1チャンバに隣接する第2大気圧チャンバと;
前記第2チャンバに接続される流れ制限ポートと、検体ガスまたは検体蒸気の吸気口および排気口とを備え、前記第2チャンバに隣接する第3大気圧チャンバと;
前記キャリアガスと前記検体ガスまたは前記検体蒸気との相互作用によるイオン化生成物の排気ポートと、を具備し、
前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置される
ことを特徴とするもの。
【請求項7】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた第1電極と、キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
少なくとも1つの中間大気圧チャンバであって、前記中間大気圧チャンバのうちの1つが前記第1チャンバに接続される流れ制限ポートと反応ガスの任意冷却用の吸気口とを備え、前記第1チャンバに隣接する中間大気圧チャンバと;
前記中間チャンバに接続されるポートと、検体ガスまたは検体蒸気の吸気口とを備え、前記中間チャンバの1つに隣接する最終チャンバと;
前記キャリアガスと前記検体ガスまたは検体蒸気との相互作用によるイオン化生成物の排気ポートと、を具備し、
前記第1電極と前記各ポートとが略直線上に配置される
ことを特徴とするもの。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の装置において、
前記第1チャンバで生成された前記励起化学種によるイオン化が可能なガスを前記第2チャンバに導入するための手段を具備し、電子がさらなる衝突により熱電子化されるよう正イオンおよび電子を生成する
ことを特徴とするもの。
【請求項9】
請求項1、請求項2、請求項6、または請求項7のいずれかに記載の装置において、
前記励起化学種と接触するように配置されたグリッドを具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装置において、
電子エネルギーのイオン化速度を制御するために前記各電極の電位を調節する手段を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項11】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装置において、
ガス流に含まれた電子がガス圧を変更することにより運ばれかつ加速されるため、電子エネルギーのイオン化速度を制御するようにキャリアガスの圧力を調節する手段を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項12】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装置において、
前記第2チャンバに設けられた電極はレンズ電極である
ことを特徴とするもの。
【請求項13】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装置において、
前記電極の電位は、正検体、フラグメントまたは付加イオンの生成が促進するように調節される
ことを特徴とするもの。
【請求項14】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装置において、
前記電極の電位は、負検体、フラグメントまたは付加イオンの生成が促進するように調節される
ことを特徴とするもの。
【請求項15】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装置において、
前記第2チャンバに設けられた前記電極は、正イオンを捕獲し自由電子を跳ね返すように負電位にバイアスされ、これによりイオン源を負イオンモードにする
ことを特徴とするもの。
【請求項16】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の装置において、
前記第2チャンバに設けられた前記電極は、負イオンおよび電子を捕獲し、正イオン種を跳ね返し、励起化学種を通過させるように正電位にバイアスされ、これによりイオン源を正イオンモードにする
ことを特徴とするもの。
【請求項17】
分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって、
一端に設けられた第1電極と、他端に設けられた対電極とを備える第1大気圧チャンバにキャリアガスを導入し、前記第1電極および前記対電極に電位を負荷することで前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる工程と;
前記キャリアガスと準安定化学種とを第2大気圧チャンバに導入して、前記キャリアガスと前記準安定化学種との相互作用により、正イオンおよび熱中性子化された電子を生成する工程と;
前記第2チャンバからの前記キャリアガスを大気圧および略接地電位に維持された検体と接触させるよう誘導し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオンを生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、
前記キャリアガスはヘリウムであり、前記第1電極は約マイナス400ボルト未満に維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項19】
請求項17に記載の方法において、
前記キャリアガスはヘリウムであり、前記第1電極は約プラス400ボルトより高く維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項20】
請求項17に記載の方法において、
前記キャリアガスは窒素であり、前記第1電極は約マイナス1200ボルト未満に維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項21】
請求項17に記載の方法において、
前記キャリアガスは窒素であり、前記第1電極は約プラス1200ボルトより高く維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項22】
分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって、
一端に設けられた第1電極と他端に設けられた対電極とを備える第1大気圧チャンバにキャリアガスを導入し、前記第1電極と前記対電極とに電位を負荷することで前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる工程と;
前記キャリアガスと準安定化学種とを第2大気圧チャンバに導入して、前記キャリアガスと前記準安定化学種との相互作用により、正イオンおよび熱中性子化された電子を生成する工程と;
前記キャリアガス、正イオンおよび/または熱中性子化された電子を第3大気圧チャンバに導入する工程と;
ガス状または蒸気状の検体を前記第3チャンバに導入し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオンを生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、
前記キャリアガスはヘリウムであり、前記第1電極は約マイナス400ボルト未満に維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、
前記キャリアガスはヘリウムであり、前記第1電極は約プラス400ボルトより高く維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、
前記キャリアガスは窒素であり、前記第1電極は約マイナス1200ボルト未満に維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項26】
請求項22に記載の方法において、
前記キャリアガスは窒素であり、前記第1電極は約プラス1200ボルトより高く維持され、前記対電極は略接地電位に維持される
ことを特徴とするもの。
【請求項27】
分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって
一端に設けられた第1電極と他端に設けられた対電極とを備える第1大気圧チャンバにキャリアガスを導入し、前記第1電極および前記対電極に電位を負荷することで前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる工程と;
前記キャリアガスと準安定化学種とを電子またはイオンを発生するようにバイアスされたグリッド電極に誘導する工程と;そして、
前記キャリアガスを大気圧の検体と接触するよう誘導し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオンを生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。
【請求項28】
略大気温度および接地電位での表面上の検体の分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって
一端に設けられた第1電極と他端に設けられた対電極とを備える第1大気圧チャンバにキャリアガスを導入し、前記第1電極と前記対電極とに電位を負荷することで前記キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる工程と;
準安定化学種と衝突することにより電子が放出されるよう、負電位にバイアスされたグリッド電極に前記キャリアガスと前記準安定化学種とを誘導する工程と;そして、
前記キャリアガスと放出された電子とを、大気圧および略接地電位の表面へ誘導し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオン生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。
【請求項29】
荷電粒子検出器内における放射性源の代替方法であって、
放射性源を取り除いて、検体をイオン化する非放射性大気圧装置と交換する工程からなり;前記装置が、
キャリアガスの吸気口と、内部に設けられた第1電極と、キャリアガス中で放電を発生させて中性の準安定励起化学種を生成させる対電極とを備える第1大気圧チャンバと;
前記第1チャンバと連通し、前記第1チャンバに接続される流れ制限ポートと、検体ガスまたは検体蒸気の吸気口と、前記荷電粒子検出器と連通する排気ポートとを有する少なくとも1つの中間大気圧チャンバと、を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項30】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の装置において、
前記第2チャンバの他端に設けられた前記電極は、前記第1電極および前記対電極の極性を変えることなく該電極の極性を切り換えることができる電源に接続され、これにより前記装置は、正イオンモードから負イオンモードへの切り換えおよび負イオンモードから正イオンモードへの切り換えを迅速に行うことができる
ことを特徴とするもの。
【請求項31】
略大気温度および接地電位での表面上の検体の分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって、
請求項1に記載の非放射性大気圧イオン化装置を2つ以上同時に使用する工程を備える
ことを特徴とするもの。
【請求項32】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガス用の吸気口を有する大気圧チャンバと、
前記キャリアガス中に中性の準安定励起化学種を生成させる手段と、
励起化学種を含有するガスを大気圧および略接地電位で検体と接触させるための手段と、を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項33】
検体のイオン化を行う非放射性大気圧装置であって、
キャリアガス用の吸気口を有する大気圧チャンバと、
前記キャリアガス中に中性の準安定励起化学種を生成させる手段と、
励起化学種と接触して荷電粒子を放出する接地または帯電グリッド電極と、
前記荷電粒子を含有するガスを大気圧および略接地電位で検体に接触させるための手段と、を具備する
ことを特徴とするもの。
【請求項34】
分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって
キャリアガスを大気圧チャンバに導入し、中性の準安定励起化学種を前記キャリアガス中に生成させる工程と;
前記チャンバからの前記キャリアガスを、大気圧および略接地電位に維持された検体と接触させるよう誘導し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオンを生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。
【請求項35】
分光分析において、検体、検体フラグメントおよび/または検体付加イオンを生成する方法であって
キャリアガスを大気圧チャンバに導入し、中性の準安定励起化学種を生成させる工程と;
前記キャリアガスと準安定化学種とを電子またはイオンを発生するようバイアスされたグリッド電極に誘導する工程と;そして、
前記キャリアガスを大気圧で検体と接触するよう誘導し、検体イオン、検体フラグメントイオンおよび/または検体付加イオンを生成する工程とを備える
ことを特徴とするもの。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24A】
image rotate

【図24B】
image rotate


【公表番号】特表2006−523367(P2006−523367A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−507162(P2006−507162)
【出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/007757
【国際公開番号】WO2004/098743
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(501241357)ジェー・イー・オー・エル・ユー・エス・エー,インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】